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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】導電性ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20220318BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20220318BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20220318BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20220318BHJP
   H05B 3/03 20060101ALI20220318BHJP
   H05B 3/10 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
B01J35/04 301F
B01J35/02 G ZAB
F01N3/20 K
F01N3/28 301P
H05B3/03
H05B3/10 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018065700
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019171344
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】生駒 和
(72)【発明者】
【氏名】笠井 義幸
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-006120(JP,U)
【文献】特開2014-198296(JP,A)
【文献】特開2016-193401(JP,A)
【文献】特開平06-050135(JP,A)
【文献】特開平07-185264(JP,A)
【文献】特開平03-295184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
F01N 3/10 - 3/38
B01D 53/73 - 53/96
C04B 38/00 - 38/10
H05B 3/03
H05B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周側壁と、外周側壁の内側に配設され、流体が一方の底面から入り、他方の底面から出ることのできる貫通流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有する柱状の導電性ハニカム構造部を備えた導電性ハニカム構造体であって、
外周側壁の外面の一部はハニカム構造部の中心軸を挟んでセルの流路方向に延設された一対の電極層で構成されており、
ハニカム構造体をセルの流路方向に四等分して、前記一方の底面に近い側からA、B、C及びDの四つの領域に分けたとき、セルの流路方向に垂直な断面において一対の電極層間の距離が最も遠くなる二点間、但し、当該断面に一対の電極層が存在しないときは当該断面において距離が最も遠くなる二点間で測定した電気抵抗の前記各領域における平均値を前記一方の底面に近い側からRA、RB、RC及びRDとすると、RA≦RB≦RC≦RD(ただしRA=RB=RC=RDを除く)の関係式が成立する、
導電性ハニカム構造体。
【請求項2】
A、RB、RC及びRDについてRA<RB<RC<RDの関係式が成立する請求項1に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項3】
電極層をセルの流路方向に四等分して、前記一方の底面に近い側からA、B、C及びDの四つの領域に分けたとき、セルの流路方向に垂直な断面において一対の電極層間の距離が最も近くなる二点間の距離の前記各領域における平均値を前記一方の底面に近い側からDA、DB、DC及びDDとすると、DA≦DB≦DC≦DD(ただしDA=DB=DC Dを除く)の関係式が成立する請求項1又は2に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項4】
A、DB、DC及びDDについてDA<DB<DC<DDの関係式が成立する請求項3に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項5】
各電極層は、ハニカム構造部の前記一方の底面から前記他方の底面までのセルの流路方向の長さに対して、前記一方の底面に近い側から0~5%の領域に一端を有し、前記一方の底面に近い側から0~75%の領域に他端を有し、一端から他端までセルの流路方向に延設されている請求項1~4の何れか一項に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項6】
各電極層は、ハニカム構造部の前記一方の底面から前記他方の底面までのセルの流路方向の長さに対して、前記一方の底面に近い側から0~5%の領域に一端を有し、前記一方の底面に近い側から0~50%の領域に他端を有し、一端から他端までセルの流路方向に延設されている請求項5に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項7】
各電極層は、セルの流路方向に垂直な何れの断面で観察しても、各電極層の周方向中心点同士を結ぶ直線を対称軸として線対称に形成されている請求項1~6の何れか一項に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項8】
流体を流す方向がハニカム構造体上にマーキングされている請求項1~7の何れか一項に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項9】
電極層を除去した後のハニカム構造体をセルの流路方向に四等分し、等分された四つの部分について、以下の(1)~(9)の電気抵抗:
(1)前記一方の底面の重心と前記他方の底面の重心の間のセルの流路方向の電気抵抗
(2)前記一方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の任意の一方向の電気抵抗
(3)前記一方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(2)で規定する方向と90°異なる方向の電気抵抗
(4)前記一方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(2)で規定する方向と180°異なる方向の電気抵抗
(5)前記一方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(2)で規定する方向と270°異なる方向の電気抵抗
(6)前記他方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の任意の一方向の電気抵抗
(7)前記他方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(6)で規定する方向と90°異なる方向の電気抵抗
(8)前記他方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(6)で規定する方向と180°異なる方向の電気抵抗
(9)前記他方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(6)で規定する方向と270°異なる方向の電気抵抗
をそれぞれ測定し、各方向における当該四つの部分の電気抵抗の平均値を求めると、
各部分の上記九つの方向の電気抵抗は、対応する方向の電気抵抗の平均値に対して何れも±10%以内に収まる請求項1~8の何れか一項に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項10】
電極層をセルの流路方向に四等分して、前記一方の底面に近い側からA、B、C及びDの四つの領域に分けたとき、各領域における電極層を構成する材料の電気抵抗率の平均値を前記一方の底面に近い側からrA、rB、rC及びrDとすると、rA≦rB≦rC≦rD(ただしrA=rB=rC=rDを除く)の関係式が成立する請求項1~9の何れか一項に記載の導電性ハニカム構造体。
【請求項11】
一対の電極層が外面を構成する外周側壁部分の間の外周側壁の一部がセルの流路方向に延びた電気絶縁性のスリットを有する請求項1~10の何れか一項に記載の導電性ハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ハニカム構造体に関する。とりわけ、排ガス浄化用の触媒を担持し、触媒の活性温度まで早期に昇温させる用途に好適なハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等のエンジンから排出される排ガス中に含まれるHC、CO、NOx等の有害物質の浄化処理のため、一方の底面から他方の底面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する複数の隔壁を有する柱状のハニカム構造体に触媒を担持したものが使用されている。このように、ハニカム構造体に担持した触媒によって排ガスを処理する場合、触媒をその活性温度まで昇温する必要があるが、エンジン始動時には、触媒が活性温度に達していないため、排ガスが十分に浄化されないという問題があった。特に、プラグインハイブリッド車(PHEV)やハイブリッド車(HV)は、その走行に、モーターのみによる走行を含むことから、エンジン始動頻度が少なく、エンジン始動時の触媒温度が低いため、エンジン始動直後の排ガス浄化性能が悪化し易い。
【0003】
この問題を解決するため、触媒が担持されたハニカム構造体の上流側にハニカム構造をもつヒーターを設置して、排ガスを昇温させる技術が提案されている(例:特許第2931362号公報)。また、導電性セラミックスからなる柱状のハニカム構造体の側面に一対の電極部及び電極端子突起部(端子接続部)を配設し、通電によりハニカム構造体自体を発熱させることで、触媒とヒーターを一体化した電気加熱触媒(EHC)が提案されている(例:WO2011/043434号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2931362号公報
【文献】WO2011/043434号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、触媒が担持されたハニカム構造体の上流側にヒーターを設置するため、特にエンジン始動時のように排ガスの流量が少なくヒーターからの熱伝達が少ない場合、触媒の昇温がヒーターから遠ざかるほど遅れる。すなわち、触媒担体であるハニカム構造体の内部において、排ガスの流れ方向に温度分布が生じるため効率的に全触媒を機能させることができない。
【0006】
特許文献2に記載のEHCは、高電圧HEV(400V程度の蓄電池搭載HEV)に搭載し、エンジン始動前にEHCへの通電を行い触媒暖気に用いる制御(プレ通電方式)においては触媒全体を均一に加熱する性能に長けており、排ガス浄化性能の向上に寄与することができる。
【0007】
しかしながら、近年では低電圧HEV(48V蓄電池積載HEV)の生産が欧州で主に盛んになってきており、EHCにはエンジン始動と同時に通電をはじめ、触媒暖気を行う制御(同時通電方式)における排ガス浄化性能が求められるようになっている。本発明者の検討結果によれば、特許文献2に記載のEHCはプレ通電方式においては優れた性能を発揮するものの、同時通電方式の場合に対するハニカム構造体内での温度分布の均一性が低く、効率的に全触媒を活性化温度に到達させることができないという問題があることが分かった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、同時通電方式において、導電性ハニカム構造体を流体が通過する際の該構造体内部の温度分布の均一性を改善することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
特許文献2に記載のEHCも含め、従来のEHCではガスの流れが無い状態でEHCを加熱したときにEHC内部の温度分布を均一化する性能は高い(図1(a)参照)。しかしながら、同時通電方式においてはEHCの加熱と同時にガスが流入するため、エンジン始動時には排ガスの入口側の底面付近が比較的低温の排ガスによって冷却されて触媒温度が上がりにくくなってしまう(図1(b)参照)。このため、ハニカム構造体に担持された全触媒を効率的に活性化温度まで到達させることができない。
【0010】
本発明者は上記検討結果に基づき、入口側の底面に近い側を優先的に発熱させることが有用であると考えた。当該構成によれば、ガスの流れが無い状態でEHCを加熱すると入口付近の温度上昇が速くなるため、温度分布の均一性は低い(図1(c)参照)。しかしながら、同時通電方式においては入口付近の温度が上昇しにくいため、当該構成を採用することにより、エンジン始動時のEHC内部の温度分布の均一性が有意に改善できることが分かった(図1(d)参照)。
【0011】
本発明は上記知見に基づき完成したものであり、一側面において、
外周側壁と、外周側壁の内側に配設され、流体が一方の底面から入り、他方の底面から出ることのできる貫通流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有する柱状の導電性ハニカム構造部を備えた導電性ハニカム構造体であって、
外周側壁の外面の一部はハニカム構造部の中心軸を挟んでセルの流路方向に延設された一対の電極層で構成されており、
ハニカム構造体をセルの流路方向に四等分して、一方の底面に近い側からA、B、C及びDの四つの領域に分けたとき、セルの流路方向に垂直な断面において一対の電極層間の距離が最も遠くなる二点間、但し、当該断面に一対の電極層が存在しないときは当該断面において距離が最も遠くなる二点間で測定した電気抵抗の前記各領域における平均値を一方の底面に近い側からRA、RB、RC及びRDとすると、RA≦RB≦RC≦RD(ただしRA=RB=RC=RDを除く)の関係式が成立する、
導電性ハニカム構造体である。
【0012】
本発明に係る導電性ハニカム構造体の一実施形態においては、RA、RB、RC及びRDについてRA<RB<RC<RDの関係式が成立する。
【0013】
本発明に係る導電性ハニカム構造体の別の一実施形態においては、電極層をセルの流路方向に四等分して、一方の底面に近い側からA、B、C及びDの四つの領域に分けたとき、セルの流路方向に垂直な断面において一対の電極層間の距離が最も近くなる二点間の距離の前記各領域における平均値を一方の底面に近い側からDA、DB、DC及びDDとすると、DA≦DB≦DC≦DD(ただしDA=DB=DC Dを除く)の関係式が成立する。
【0014】
本発明に係る導電性ハニカム構造体の更に別の一実施形態においては、DA、DB、DC及びDDについてDA<DB<DC<DDの関係式が成立する。
【0015】
本発明に係る導電性ハニカム構造体の更に別の一実施形態においては、各電極層は、ハニカム構造部の一方の底面から他方の底面までのセルの流路方向の長さに対して、一方の底面に近い側から0~5%の領域に一端を有し、一方の底面に近い側から0~75%の領域に他端を有し、一端から他端までセルの流路方向に延設されている。
【0016】
本発明に係る導電性ハニカム構造体の更に別の一実施形態においては、各電極層は、ハニカム構造部の一方の底面から他方の底面までのセルの流路方向の長さに対して、一方の底面に近い側から0~5%の領域に一端を有し、一方の底面に近い側から0~50%の領域に他端を有し、一端から他端までセルの流路方向に延設されている。
【0017】
本発明に係る導電性ハニカム構造体の更に別の一実施形態においては、各電極層は、セルの流路方向に垂直な何れの断面で観察しても、各電極層の周方向中心点同士を結ぶ直線を対称軸として線対称に形成されている。
【0018】
本発明に係る導電性ハニカム構造体の更に別の一実施形態においては、流体を流す方向がハニカム構造体上にマーキングされている。
【0019】
本発明に係る導電性ハニカム構造体の更に別の一実施形態においては、電極層を除去した後のハニカム構造体をセルの流路方向に四等分し、等分された四つの部分について、以下の(1)~(9)の電気抵抗:
(1)一方の底面の重心と他方の底面の重心の間のセルの流路方向の電気抵抗
(2)一方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の任意の一方向の電気抵抗
(3)一方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(2)で規定する方向と90°異なる方向の電気抵抗
(4)一方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(2)で規定する方向と180°異なる方向の電気抵抗
(5)一方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(2)で規定する方向と270°異なる方向の電気抵抗
(6)他方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の任意の一方向の電気抵抗
(7)他方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(6)で規定する方向と90°異なる方向の電気抵抗
(8)他方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(6)で規定する方向と180°異なる方向の電気抵抗
(9)他方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(6)で規定する方向と270°異なる方向の電気抵抗
をそれぞれ測定し、各方向における当該四つの部分の電気抵抗の平均値を求めると、
各部分の上記九つの方向の電気抵抗は、対応する方向の電気抵抗の平均値に対して何れも±10%以内に収まる。
【0020】
本発明に係る導電性ハニカム構造体の更に別の一実施形態においては、電極層をセルの流路方向に四等分して、一方の底面に近い側からA、B、C及びDの四つの領域に分けたとき、各領域における電極層を構成する材料の電気抵抗率の平均値を一方の底面に近い側からrA、rB、rC及びrDとすると、rA≦rB≦rC≦rD(ただしrA=rB=rC=rDを除く)の関係式が成立する。
【0021】
本発明に係る導電性ハニカム構造体の更に別の一実施形態においては、一対の電極層が外面を構成する外周側壁部分の間の外周側壁の一部がセルの流路方向に延びた電気絶縁性のスリットを有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、導電性ハニカム構造体を流体が通過する際の該構造体内部の温度分布の均一性を改善することが可能となる。例えば、本発明に係る導電性ハニカム構造体に触媒を担持し、当該構造体を通過する低温の排ガスを浄化しようとする場合、温度が低下しやすい入口部分がより強く発熱可能である。このため、該構造体内部の温度分布の均一性が高まり、入口部分における触媒利用率の向上が期待される。とりわけ、本発明に係る導電性ハニカム構造体は、エンジン始動と同時に導電性ハニカム構造体への通電が開始されて触媒暖気が行われる同時通電制御の自動車排ガス浄化システムに好適に適用され、浄化性能の向上に貢献することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のコンセプトを説明するための概念図である。
図2-1】本発明の一実施形態に係るハニカム構造体の模式的な斜視図である。
図2-2】本発明の一実施形態に係るハニカム構造体に端子接続部を設けた場合の模式的な斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係るハニカム構造体をセルの流路方向に垂直な断面で観察した時の模式図である。
図4】本発明に係るハニカム構造体の各種変形例を示す概念図である。
図5】導電性ハニカム構造体の各種電気抵抗を測定する試験手順を説明する図である。
図6】比較例1及び実施例1のハニカム構造体内部(Fr、Mid、Rr)の昇温曲線である。
図7】本発明の別の一実施形態に係るハニカム構造体の模式的な斜視図である。
図8】本発明の別の一実施形態に係るハニカム構造体をセルの流路方向に垂直な断面で観察した時の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0025】
<1.導電性ハニカム構造体>
図2-1を参照すると、導電性ハニカム構造体100は、外周側壁102と、外周側壁102の内側に配設され、流体が一方の底面104から入り、他方の底面106から出ることのできる貫通流路を形成する複数のセル108を区画形成する隔壁110とを有する柱状のハニカム構造部101を備える。また、導電性ハニカム構造体100の外周側壁102は、ハニカム構造部101の中心軸を挟んでセルの流路方向に延設された一対の電極層112を備える。
【0026】
導電性ハニカム構造体100は、一対の電極層112に各端子を接続して電圧を印加すると、通電してジュール熱により発熱することが可能である。端子を接続しやすいように、端子を接続する一対の電極層112のそれぞれの電極層112に接触させた、端子接続部103を設けてもよい(図2-2)。ハニカム構造体100はヒーターとして好適に用いることができる。また、ハニカム構造体100に触媒を担持することにより、ハニカム構造体100を触媒体として使用することも可能である。複数のセル108の流路には、例えば、自動車排ガス等の流体を流すことができる。印加する電圧は適宜変更可能であり、特に制限はないが、12~900Vとすることができ、低電圧HEVにおける同時通電制御の自動車排ガス浄化システムへ適用する場合には12~100Vとすることができ、例えば20~60Vとすることができる。
【0027】
導電性ハニカム構造体100には、流体の入口となる一方の底面104と流体の出口となる他方の底面106の取り違えを防止するために、流体を流す方向をハニカム構造体上にマーキングしてもよい。流体を流す方向が理解できる限り、マーキングの方法には特に制限はないが、導電性ハニカム構造体100の外周側壁102にインク等で矢印を描く方法が挙げられる。
【0028】
(1-1 電極層)
【0029】
図3を参照すると、導電性ハニカム構造体100の外周側壁102は、ハニカム構造部101の中心軸Oを挟んでセルの流路方向に延設された一対の電極層112を備える。この場合、電極層112は外周側壁102の外面の一部を構成することになる。電極層112は電流を周方向及びセルの流路方向に広げて均一発熱性を高める役割を果たすことができる。ハニカム構造体100の周方向における均一発熱性を高めるという観点からは、電極層112は、セルの流路方向に垂直な何れの断面で観察しても、電極層112の周方向中心点同士を結ぶ中心線Mを対称軸として線対称に形成されていることが好ましい(図3)。
【0030】
セル108の流路方向に垂直な断面において、一対の電極層112のそれぞれの周方向中心からハニカム構造部101の中心軸Oまで延ばした二つの線分のなす角度θ(0°≦θ≦180°)は、150°≦θ≦180°であることが好ましく、160°≦θ≦180°であることがより好ましく、170°≦θ≦180°であることが更により好ましく、180°であることが最も好ましい(図3)。
【0031】
導電性ハニカム構造体100の外周側壁102が電極層112を備える場合、二箇所以上の端子接続部103は各電極層112に接触させて少なくとも一箇所ずつ配置されることがハニカム構造体100の温度分布の均一性を高める上で好ましく、各電極層上に配置される端子接続部103の個数は同一であることがより好ましい。典型的な実施形態においては、電極層112の周方向中心に配置された一対の端子接続部103がハニカム構造部101の中心軸を挟んで対向配置される。
【0032】
導電性ハニカム構造体100の一実施形態においては、ハニカム構造体100をセルの流路方向に四等分して、一方の底面(流体の入口)に近い側からA、B、C及びDの四つの領域に分けたとき、セルの流路方向に垂直な断面において一対の電極層間の距離が最も遠くなる二点間、但し、当該断面に一対の電極層が存在しないときは当該断面において距離が最も遠くなる二点間で測定した電気抵抗(図3中のP1とP2の間の電気抵抗)の前記各領域における平均値を一方の底面に近い側からRA、RB、RC及びRDとすると、RA≦RB≦RC≦RD(ただしRA=RB=RC=RDを除く)の関係式が成立する。これにより、ハニカム構造体100の流体の出口から入口に向かって段階的に通電抵抗が小さくなるので、入口に近づくほど発熱しやすくなるという効果が得られる。本発明において、電極層112の上記電極層間の電気抵抗は、4端子法により25℃で測定した値とする。
【0033】
ハニカム構造体100の入口付近を優先的に発熱可能とするために、RA、RB、RC及びRDについてRA≦RB≦RC≦RD(ただしRA=RB=RC=RDを除く)の関係式が成立することが好ましく、RA<RB<RC<RDの関係式が成立することが好ましく、RA<0.7RB<0.6RC<0.5RDの関係式が成立することが更により好ましい。
【0034】
セルの流路方向に垂直な断面において一対の電極層間の距離が最も遠くなる点の間で測定した電気抵抗は、例えば、(1)セルの流路方向に垂直な断面において一対の電極層間の距離が最も近くなる点同士の距離、(2)電極層を構成する材料の電気抵抗率、及び(3)電極層の厚みの一つ又は二つ以上を変化させることにより調整可能である。一対の電極層間の距離が最も近くなる点の間の距離が短くなると、上記の電気抵抗は小さくなり、逆に、一対の電極層間の距離が最も近くなる点の間の距離が長くなると、上記の電気抵抗は大きくなる。電極層を構成する材料の電気抵抗率が小さくなると、上記の電気抵抗は小さくなり、逆に、電極層を構成する材料の電気抵抗率が大きくなると、上記の電気抵抗は大きくなる。また、電極層の厚みを大きくすると、上記の電気抵抗は小さくなり、逆に、電極層の厚みを小さくすると、上記の電気抵抗は大きくなる。
【0035】
導電性ハニカム構造体100は一実施形態において、電極層112をセルの流路方向に四等分して、一方の底面に近い側からA、B、C及びDの四つの領域に分けたとき、セルの流路方向に垂直な断面において一対の電極層間の距離が最も近くなる二点間の距離(図3中のQ1とQ2の間の距離D)の前記各領域における平均値を一方の底面に近い側からDA、DB、DC及びDDとすると、DA≦DB≦DC≦DD(ただしDA=DB=DC=DDを除く)の関係式が成立する。
【0036】
ハニカム構造体100の入口付近をより優先的に発熱可能とするために、DA、DB、DC及びDDについてDA≦DB≦DC≦DD(ただしDA=DB=DC=DDを除く)の関係式が成立することが好ましく、DA<DB<DC<DDの関係式が成立することが好ましく、DA<0.83DB<0.73DC<0.68DDの関係式が成立することがより好ましく、の関係式が成立することが更により好ましい。
【0037】
上記四つの領域における何れの領域にある電極層112についても、セルの流路方向に垂直な断面において、各電極層112の周方向の両側端と中心軸Oとを結ぶ2本の線分が作る中心角αは、電流を周方向に広げて均一発熱性を高めるという観点から、30°以上であることが好ましく、40°以上であることがより好ましく、60°以上であることが更により好ましい(図3)。但し、中心角αを大きくし過ぎると、ハニカム構造部101の内部を通過する電流が少なくなり、外周側壁102付近を通過する電流が多くなる。そこで、当該中心角αは、ハニカム構造部101の均一発熱性の観点から、140°以下であることが好ましく、130°以下であることがより好ましく、120°以下であることが更により好ましい。
【0038】
ハニカム構造体100の入口付近を優先的に発熱可能とするために、各電極層112は、ハニカム構造部101の一方の底面104から他方の底面106までのセルの流路方向の長さに対して、一方の底面104に近い側から0~5%の領域に一端を有することが好ましい。また、ハニカム構造体100のセルの流路方向における温度分布の均一性を高めるという観点から、各電極層112は、ハニカム構造部101の一方の底面104から他方の底面106までのセルの流路方向の長さに対して、一方の底面104に近い側から0~75%の領域に他端を有することが好ましく、一方の底面104に近い側から0~50%の領域に他端を有することが更により好ましい。
【0039】
導電性ハニカム構造体100は一実施形態において、電極層112をセルの流路方向に四等分して、一方の底面に近い側からA、B、C及びDの四つの領域に分けたとき、各領域における電極層を構成する材料の電気抵抗率の平均値を一方の底面に近い側からrA、rB、rC及びrDとすると、rA≦rB≦rC≦rD(ただしrA=rB=rC=rDを除く)の関係式が成立する。
【0040】
ハニカム構造体100の入口付近をより優先的に発熱可能とするために、rA、rB、rC及びrDについてrA≦rB≦rC≦rD(ただしrA=rB=rC=rDを除く)の関係式が成立することが好ましく、rA<rB<rC<rDの関係式が成立することがより好ましく、rA<0.25rB<0.125rC<0.1rDの関係式が成立することが更により好ましい。
【0041】
上記四つの領域における何れの領域にある電極層112についても、その電気抵抗率を電極層112よりも内側のハニカム構造部101の部分(電極層よりも内側の外周側壁部分及び隔壁)の電気抵抗率より低くすることにより、電極層に優先的に電気が流れやすくなり、通電時に電気がセルの流路方向及び周方向に広がりやすくなる。電極層112の電気抵抗率は、ハニカム構造部101の電気抵抗率の1/10以下であることが好ましく、1/20以下であることがより好ましく、1/30以下であることが更により好ましい。但し、両者の電気抵抗率の差が大きくなりすぎると対向する電極層の端部間に電流が集中してハニカム構造部の発熱が偏ることから、電極層112の電気抵抗率は、ハニカム構造部101の電気抵抗率の1/200以上であることが好ましく、1/150以上であることがより好ましく、1/100以上であることが更により好ましい。本発明において、電極層112の電気抵抗率は、四端子法により25℃で測定した値とする。
【0042】
導電性ハニカム構造体100は一実施形態において、電極層112をセルの流路方向に四等分して、一方の底面に近い側からA、B、C及びDの四つの領域に分けたとき、各領域における電極層の厚みの平均値を一方の底面に近い側からUA、UB、UC及びUDとすると、UA≧UB≧UC≧UD(ただしUA=UB=UC=UDを除く)の関係式が成立する。
【0043】
ハニカム構造体100の入口付近をより優先的に発熱可能とするために、UA、UB、UC及びUDについてUA≧UB≧UC≧UD(ただしUA=UB=UC=UDを除く)の関係式が成立することが好ましく、UA>UB>UC>UDの関係式が成立することがより好ましく、UA>10UDの関係式が成立することが更により好ましい。
【0044】
上記四つの領域における何れの領域にある電極層112についても、厚みは0.01~5mmであることが好ましく、0.01~3mmであることが更に好ましい。電極層112の厚みが0.01mmより薄いと、電気抵抗が高くなり温度分布を制御できないことがある。5mmより厚いと、キャニング時に破損することがある。電極層112の厚みは、厚みを測定しようとする電極層の箇所をセルの流路方向に垂直な断面で観察したときに、電極層112の外面の当該測定箇所における接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0045】
図4には、本発明に係る導電性ハニカム構造体の各種変形例について、これまで述べてきた実施形態も含め、概念図が示されている。
図4(a)に示す実施形態では、電極層112がセルの流路の全長にわたって延びている。また、電極層112の周方向への幅が下流に行くほど狭くなっており、DA<DB<DC<DD(定義は上述した通り)である。
図4(b)に示す実施形態では、電極層112がセルの流路の全長にわたって延びている。また、入口側から段階的に電気抵抗率が上昇するように電極層112が形成されており、rA<rB<rC<rD(定義は上述した通り)である。
図4(c)に示す実施形態では、電極層112の一端がセルの流路の全長に対して一方の底面104に近い側から0~5%の領域に一端を有し、一方の底面104に近い側から20~50%の領域に他端を有する。
図4(d)に示す実施形態では、電極層112の一端がセルの流路の全長に対して一方の底面104に近い側から0~5%の領域に一端を有し、一方の底面104に近い側から20~50%の領域に他端を有する。また、電極層112の周方向への幅が下流に行くほど狭くなっており、DA<DB<DC<DD(定義は上述した通り)である。
また、比較例として図4(e)を提示する。図4(d)においては、電極層112がセルの流路の全長にわたって延びている。また、電極層の周方向への幅が一定となっており、DA=DB=DC=DD(定義は上述した通り)である。このため、入口付近が優先的に発熱する工夫が施されておらず、流入するガスの温度が低い場合、ハニカム構造部の入口付近の温度が低下しやすい。
【0046】
電極層112の材質は、金属及び導電性セラミックスを使用可能である。金属としては、例えばAg、Cu、Ni、Au、Pd、Cr、Fe、Co、Ni、Si又はTiの単体金属又はこれらの金属よりなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する合金が挙げられる。導電性セラミックスとしては、限定的ではないが、炭化珪素(SiC)が挙げられ、珪化タンタル(TaSi2)及び珪化クロム(CrSi2)等の金属珪化物等の金属化合物が挙げられ、更には、上記導電性セラミックスの一種以上と上記金属の一種以上の組み合わせからなる複合材(サーメット)を挙げることができる。サーメットの具体例としては、金属珪素と炭化珪素の複合材、珪化タンタルや珪化クロム等の金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材、更には上記の一種又は二種以上の金属に熱膨張低減の観点から、アルミナ、ムライト、ジルコニア、コージェライト、窒化珪素及び窒化アルミ等の絶縁性セラミックスを一種又は二種以上添加した複合材が挙げられる。電極層112の材質としては、上記の各種金属及び導電性セラミックスの中でも、珪化タンタルや珪化クロム等の金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材との組合せとすることが、ハニカム構造部と同時に焼成できるので製造工程の簡素化に資するという理由により好ましい。
【0047】
(1-2 ハニカム構造部)
これまで説明してきたように、導電性ハニカム構造体100は、通電時にはハニカム構造体100の入口付近が優先的に発熱可能となるように、電極層の構成が工夫されている。一方で、電極層よりも内側のハニカム構造部101の部分(電極層よりも内側の外周側壁部分及び隔壁)については、押出成形によって工業的に生産することを考慮すると、セルの流路方向に材質が変化しないことが生産性や製造コストの観点から好ましい。
【0048】
従って、一実施形態において、電極層112を除去した後の導電性ハニカム構造体100(図5の(b)参照)をセルの流路方向に四等分し(図5の(c)参照)、等分された四つの部分について、以下の(1)~(9)の電気抵抗:
(1)一方の底面の重心と他方の底面の重心の間のセルの流路方向の電気抵抗
(2)一方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の任意の一方向の電気抵抗
(3)一方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(2)で規定する方向と90°異なる方向の電気抵抗
(4)一方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(2)で規定する方向と180°異なる方向の電気抵抗
(5)一方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(2)で規定する方向と270°異なる方向の電気抵抗
(6)他方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の任意の一方向の電気抵抗
(7)他方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(6)で規定する方向と90°異なる方向の電気抵抗
(8)他方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(6)で規定する方向と180°異なる方向の電気抵抗
(9)他方の底面の重心とハニカム構造部の外周縁との間の該底面の面内方向の電気抵抗であって、(6)で規定する方向と270°異なる方向の電気抵抗
をそれぞれ測定し、各方向における当該四つの部分の電気抵抗の平均値を求めると、
各部分の上記九つの方向の電気抵抗は、対応する方向の電気抵抗の平均値に対して何れも±10%以内に収まり、好ましくは±5%以内に収まり、より好ましくは±2%以内に収まる。このような特性を有するハニカム構造体は一体成形品として提供可能である。
本発明においては、これらの電気抵抗は25℃で4端子法により測定する。
【0049】
ハニカム構造部101の外形は柱状である限り特に限定されず、例えば、底面が円形の柱状(円柱形状)、底面がオーバル形状の柱状、底面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。また、ハニカム構造部101の大きさは、耐熱性を高める(外周側壁の周方向に入るクラックを防止する)という理由により、底面の面積が2000~20000mm2であることが好ましく、5000~15000mm2であることが更に好ましい。
【0050】
図3を参照すると、外周側壁102は、ハニカム構造部101の中心軸を挟んで、セルの流路方向に延設された一対の突出部116を有することができる。ハニカム構造体100に端子を接続するときは、突出部116が形成されている箇所に接続することが好ましい。一対の突出部116を有する外周側壁102の部分は厚さが相対的に大きくなるので、セルの流路方向(軸方向)の電気抵抗が下がり、端子接続部103に流入した電流がセルの流路方向に広がりやすくなる。これにより、ハニカム構造部101の軸方向の温度分布の均一性を高めることができる。
【0051】
ハニカム構造部110は導電性を有する限り特に材質に制限はなく、金属やセラミックス等を使用可能である。ハニカム構造体100が通電してジュール熱により発熱可能である限り、ハニカム構造部110の電気抵抗率については特に制限はないが、0.1~200Ωcmであることが好ましく、0.2~100Ωcmであることが更に好ましい。本発明において、ハニカム構造部101の電気抵抗率は、四端子法により25℃で測定した値とする。
【0052】
ハニカム構造部101をセラミックスで構成する場合は、限定的ではないが、耐熱性と導電性の両立の観点から、ハニカム構造部110の材質は、珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とするものであることが好ましく、珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素であることが更に好ましい。ハニカム構造部101の材質が、珪素-炭化珪素複合材を主成分とするものであるというときは、ハニカム構造部101が、珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。ハニカム構造部101の材質が、炭化珪素を主成分とするものであるというときは、ハニカム構造部101が、炭化珪素(合計質量)を、全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0053】
ハニカム構造部101の材質が、珪素-炭化珪素複合材である場合、ハニカム構造部101に含有される「骨材としての炭化珪素粒子の質量」と、ハニカム構造部101に含有される「結合材としての珪素の質量」との合計に対する、ハニカム構造部101に含有される「結合材としての珪素の質量」の比率が、10~40質量%であることが好ましく、15~35質量%であることが更に好ましい。10質量%より低いと、ハニカム構造部101の強度が低下することがある。40質量%より高いと、焼成時に形状を保持できないことがある。
【0054】
セルの流路方向に垂直な断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これ等のなかでも、四角形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、ハニカム構造体に排ガスを流したときの圧力損失が小さくなり、触媒の浄化性能が優れたものとなる。構造強度及びハニカム構造体内部の温度分布の均一性を両立させやすいという観点からは、長方形が特に好ましい。
【0055】
セル108を区画形成する隔壁110の厚みは、0.1~0.3mmであることが好ましく、0.15~0.25mmであることがより好ましい。隔壁110の厚みが0.1mm以上であることで、ハニカム構造体の強度が低下するのを抑制可能である。隔壁110の厚みが0.3mm以下であることで、ハニカム構造体を触媒担体として用いて、触媒を担持した場合に、排ガスを流したときの圧力損失が大きくなるのを抑制できる。本発明において、隔壁110の厚みは、セル108の流路方向に垂直な断面において、隣接するセル108の重心同士を結ぶ線分のうち、隔壁110を通過する部分の長さとして定義される。
【0056】
ハニカム構造体100は、セル108の流路方向に垂直な断面において、セル密度が40~150セル/cm2であることが好ましく、70~100セル/cm2であることが更に好ましい。セル密度をこのような範囲にすることにより、排ガスを流したときの圧力損失を小さくした状態で、触媒の浄化性能を高くすることができる。セル密度が40セル/cm2より低いと、触媒担持面積が少なくなることがある。セル密度が150セル/cm2より高いと、ハニカム構造体100を触媒担体として用いて、触媒を担持した場合に、排ガスを流したときの圧力損失が大きくなることがある。セル密度は、外側壁102部分を除くハニカム構造部101の一つの底面部分の面積でセル数を除して得られる値である。
【0057】
ハニカム構造体100の外周側壁102を設けることは、ハニカム構造体100の構造強度を確保し、また、セル108を流れる流体が外周側壁102から漏洩するのを防止する観点で有用である。具体的には、外周側壁102の厚みTは好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは0.15mm以上、更により好ましくは0.2mm以上である。但し、外周側壁102を厚くしすぎると高強度になりすぎてしまい、隔壁110との強度バランスが崩れて耐熱衝撃性が低下することから、外周側壁102の厚みTは好ましくは1.0mm以下であり、より好ましくは0.7mm以下であり、更により好ましくは0.5mm以下である。ここで、外周側壁102の厚みTは、厚みを測定しようとする外周側壁102の箇所をセルの流路方向に垂直な断面で観察したときに、当該測定箇所における外周側壁102の接線に対する法線方向の厚みとして定義される。図3に外周側壁102の厚みTの測定箇所を例示的に示す。
【0058】
隔壁110は多孔質とすることができる。隔壁110の気孔率は、35~60%であることが好ましく、35~45%であることが更に好ましい。気孔率が35%未満であると、焼成時の変形が大きくなってしまうことがある。気孔率が60%を超えるとハニカム構造体の強度が低下することがある。気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0059】
ハニカム構造部101の隔壁110の平均細孔径は、2~15μmであることが好ましく、4~8μmであることが更に好ましい。平均細孔径が2μmより小さいと、電気抵抗率が大きくなりすぎることがある。平均細孔径が15μmより大きいと、電気抵抗率が小さくなりすぎることがある。平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0060】
(1-3 端子接続部)
端子接続部を電極層に接触させて形成する場合、端子が接続できる限りその形状には特に制限はないが、例えば、電極層112の外面領域に凸設することができる。この場合、例えば端子接続部をクリップ式端子で挟んだり、電極層で被覆された端子接続部に凹型端子を差し込んだりすることで、端子接続部と端子を接続可能である。また、端子接続部は電極層112の外面領域に凹設することもできる。この場合、例えば凸型端子を端子接続部に差し込むことで端子接続部と端子を接続可能である。なお、端子接続部の少なくとも一部を電極層112で被覆してもよい。
【0061】
ハニカム構造体100の入口付近をより優先的に発熱可能とするために、端子接続部103はセルの流路の全長に対して、一方の底面104からセルの流路方向に50%以内の長さのところにある外周側壁102の外面領域のみに配置されることが好ましく、30%以内の長さのところにある外周側壁102の外面領域のみに配置されることがより好ましく、20%以内の長さのところにある外周側壁102の外面領域のみに配置されることが更により好ましい。但し、端子接続部103が入口側に近寄りすぎると、導電性ハニカム構造体100の上流側に連結する部材と端子接続部103が干渉して連結させにくくなることから、端子接続部103は、セルの流路の全長に対して、一方の底面104からセルの流路方向に5%以内の長さのところにある外周側壁102の外面領域には配置されないことが好ましく、10%以内の長さのところにある外周側壁102の外面領域には配置されないことがより好ましい。
【0062】
端子接続部は、排ガス雰囲気に曝されることから耐食性を有することが好ましい。そこで、例えば、端子接続部の材質はSi、Cr、Fe、Co、Ni及びTiよりなる群から選択される少なくとも一種を含む合金又はSiCを含むセラミックスとすることが可能である。
【0063】
ハニカム構造部の主成分が珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素である場合、端子接続部の主成分も珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素であることが好ましい。このように、端子接続部が珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とすることにより、ハニカム構造部の成分と端子接続部の成分とが同じ(又は近い)成分となる。そのため、ハニカム構造部と端子接続の熱膨張係数が同じ(又は近い)値になる。また、ハニカム構造部の材質と端子接続部の材質とが、同じ(又は近く)になるため、ハニカム構造部と端子接続部との接合強度も高くなる。そのため、ハニカム構造部に熱応力がかかっても、端子接続部がハニカム構造部から剥れたり、端子接続部とハニカム構造部との接合部分が破損したりするのを防ぐことができる。ここで、珪素-炭化珪素複合材を主成分とするというのは、端子接続部が珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、端子接続部全体の90質量%以上含有していることを意味する。また、端子接続部が炭化珪素を主成分とするというのは、端子接続部が炭化珪素(合計質量)を、端子接続部全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0064】
(1-4 スリット)
図7には、本発明の別の一実施形態に係るハニカム構造体200の模式的な斜視図が示されている。図8には、導電性ハニカム構造体200をセルの流路方向に垂直な断面で観察した時の模式図が示されている。先述したのと同一の符号は同一の構成要素を表すため、説明を省略する。ハニカム構造体200は、一対の電極層112が外面109を構成する外周側壁部分の間に挟まれた外周側壁102の一部に、セルの流路方向に延びた電気絶縁性のスリット118を一本以上有する点で、ハニカム構造体100と異なる。外周側壁102の一部にスリットを形成することで、ハニカム構造体の耐熱衝撃性を高めることができる。
【0065】
スリット118は、外周側壁102の外面109上に開口を有すると共に、一方の底面104及び他方の底面106の一方又は両方まで延びてこれらに開口を有することができる。電気絶縁性のスリット118というのはスリットが開口している場合(空気により絶縁される)の他、絶縁性の充填材によりスリットの内部空間の少なくとも一部が充填されている場合を指す。電気絶縁性のスリット118とすることにより、ハニカム構造体200の電極層112間の外周側壁102を流れる電流を阻害することができるため電極層112間のショートを防ぐことができる。スリット118内に充填材を充填することで、ハニカム構造体200の耐熱衝撃性及びアイソスタティック強度を向上することができると共に、セル108の流路内を流れる流体がスリット118を通じてハニカム構造体200から抜け出て行くのを防止することができる。
【0066】
ハニカム構造体200において、スリット118の深さは、ハニカム構造部101のセルの流路方向に垂直な断面における半径(以下、「ハニカム構造部の半径」と称することがある。)の1~80%であることが好ましい。そして、スリット118の深さは、ハニカム構造部の半径の1~60%であることが更に好ましく、1~30%であることが特に好ましい。スリット118の深さが、ハニカム構造体200の半径の1%より小さいと、スリット118による耐熱衝撃性の向上効果が得られ難くなることがある。スリット118の深さが、ハニカム構造部101の半径の80%より大きいと、一対の電極層間を流れる電流の流れがスリット118によって大きく妨げられ、均一な発熱が阻害され、不均一な発熱となることがある。各スリット118の深さは、スリット118の外周側壁102の外面109における開口部から、スリット118の最も深い位置までの距離のことである。スリットが複数本存在する場合には、スリット118の深さは、スリットによって異なっていてもよく、全て同じでもよい。
【0067】
ハニカム構造体200において、スリット118の開口幅は、ハニカム構造部101のセル108の流路方向に垂直な断面における外周の長さ(以下、「ハニカム構造部の外周長」と称することがある。)の0.1~5%であることが好ましい。そして、スリット118の開口幅は、ハニカム構造部の外周長の0.1~3%であることが更に好ましく、0.1~1%であることが特に好ましい。スリット118の開口幅が、ハニカム構造部の外周長の0.1%より小さいと、ハニカム構造体200の耐熱衝撃性を低減する効果が低下することがある。スリット118の開口幅が、ハニカム構造部の外周長の5%より大きいと、ハニカム構造体200の機械的強度が低下することがある。スリット118の開口幅は、ハニカム構造部の周方向におけるスリット118の長さのことである。ハニカム構造部の周方向とは、ハニカム構造部101のセル108の流路方向に垂直な断面における、外周に沿う方向のことである。スリットが複数本存在する場合には、スリット118の開口幅は、スリットによって異なっていてもよく、全て同じでもよい。
また、スリットが複数本存在する場合には、中心線Mを対称軸とする線対称に設けることが均質性の観点から好ましい。
【0068】
ハニカム構造体200において、スリット118の本数は、1~20本が好ましく、1~15本が更に好ましく、1~10本が特に好ましい。スリット118の本数が20本を超えると、ハニカム構造体200の機械的強度が低下することがある。図7及び図8に示されるハニカム構造体200においては、6本のスリットが形成されている。
【0069】
電極層112の耐熱衝撃性を高めてクラックを防止する上では各電極層112にスリット118を一本又は複数本設けてもよい。
【0070】
充填材は骨材とネック材とを含有することができる。「ネック材」とは、骨材粒子の粒間に入って粒子同士を結合・固定化するもののことである。ネック材の材質については、特に制限はない。例えば、ネック材は、酸化ケイ素、金属酸化物、及び金属化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含むものであることが好ましい。ネック材の態様として、以下のような例を挙げることができる。ネック材は、酸化ケイ素及び金属酸化物のうちの少なくとも一方を含むものであってもよいし、ネック材は、酸化ケイ素及び金属酸化物のうちの少なくとも一方からなるものであってもよい。ネック材を構成する金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウムを挙げることができる。
【0071】
充填材は、ネック材を2~90質量%を含むことが好ましく、ネック材を3~50質量%を含むことが更に好ましく、ネック材を5~25質量%を含むことが特に好ましい。ネック材が2質量%未満であると、充填材の強度が低下することがある。ネック材が90質量%超であると、充填材の熱膨張係数α2が上昇することがある。また、ネック材が過剰量であると、充填材の強度が低下することがある。
【0072】
また、骨材の材質についても特に制限はないが、骨材に含まれる好ましい成分としては、炭化珪素、コージェライト、酸化ケイ素、アルミニウムチタネート、タルク、マイカ、及びリチウムアルミニウムチタネート、モンモリロナイト、タルク、ベーマイト、フォルステライト、カオリン、ムライトからなる群から選択される少なくとも1種の成分を挙げることができる。骨材は、上述した群から選択される少なくとも1種の成分を、合計で10~100質量%含むことが好ましく、合計で50~97質量%含むことが更に好ましく、合計で75~95質量%含むことが特に好ましい。複数種類の骨材を混合して使用してもよい。
【0073】
<2.導電性ハニカム構造体の製造方法>
次に、本発明に係る導電性ハニカム構造体を製造する方法について例示的に説明する。本発明のハニカム構造体の製造方法は一実施形態において、ハニカム成形体を得るA1工程と、ハニカム成形体を焼成して焼成ハニカム構造部を得るA2工程と、焼成ハニカム構造部に電極層を形成する工程A3とを含む。
【0074】
A1工程は、ハニカム構造部の前駆体であるハニカム成形体を作製し、必要に応じてハニカム成形体の側面に端子接続部を形成して、未焼成ハニカム構造部を得る工程である。ハニカム構造部は、図2に示すような、一方の底面104から他方の底面106まで延びる複数のセル108を区画形成する隔壁110と、最外周に位置する外周側壁102とを有する。
【0075】
ハニカム成形体の作製は、公知のハニカム構造体の製造方法におけるハニカム成形体の作製方法に準じて行うことができる。例えば、まず、炭化珪素粉末(炭化珪素)に、金属珪素粉末(金属珪素)、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を添加して成形原料を作製する。炭化珪素粉末の質量と金属珪素の質量との合計に対して、金属珪素の質量が10~40質量%となるようにすることが好ましい。炭化珪素粉末における炭化珪素粒子の平均粒子径は、3~50μmが好ましく、3~40μmが更に好ましい。金属珪素(金属珪素粉末)の平均粒子径は、2~35μmであることが好ましい。炭化珪素粒子及び金属珪素(金属珪素粒子)の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。炭化珪素粒子は、炭化珪素粉末を構成する炭化珪素の微粒子であり、金属珪素粒子は、金属珪素粉末を構成する金属珪素の微粒子である。尚、これは、ハニカム構造部の材質を、珪素-炭化珪素系複合材とする場合の成形原料の配合であり、ハニカム構造部の材質を炭化珪素とする場合には、金属珪素は添加しない。
【0076】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、2.0~10.0質量部であることが好ましい。
【0077】
水の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、20~60質量部であることが好ましい。
【0078】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.1~2.0質量部であることが好ましい。
【0079】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.5~10.0質量部であることが好ましい。造孔材の平均粒子径は、10~30μmであることが好ましい。10μmより小さいと、気孔を十分形成できないことがある。30μmより大きいと、成形時に口金に詰まることがある。造孔材の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。造孔材が吸水性樹脂の場合には、造孔材の平均粒子径は吸水後の平均粒子径のことである。
【0080】
次に、得られた成形原料を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形してハニカム成形体を作製する。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。次に、得られたハニカム成形体について、乾燥を行うことが好ましい。ハニカム成形体の中心軸方向長さが、所望の長さではない場合は、ハニカム成形体の両底部を切断して所望の長さとすることができる。乾燥後のハニカム成形体をハニカム乾燥体と呼ぶ。必要に応じて、ハニカム乾燥体の側面に開口する一本以上のスリットを形成してもよい。スリットは、リューター等を使用して形成することができる。
【0081】
次に、凸状の端子接続部103を形成する場合、端子接続部形成用の坏土、例えばハニカム成形体と同じ原料を用いた坏土を所望の形状に成形し、一対の端子接続部を作製する。一対の端子接続部103をハニカム乾燥体の中心軸を挟んで対向する外周側壁111の外面に貼り付ける。別法として、ハニカム乾燥体の中心軸を挟んで対向する外周側壁111をくり抜いて凹状の端子接続部を穿設することもできる。この場合、凹状の端子接続部の材質はハニカム構造部と同一となる。凹状の端子接続部には更に端子接続部形成原料を塗布してもよい。
【0082】
A2工程では、未焼成ハニカム構造部を焼成して焼成ハニカム構造部を得る。焼成の前に、バインダ等を除去するため、脱脂を行ってもよい。焼成条件としては、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気において、1400~1500℃で、1~20時間加熱することが好ましい。また、焼成後、耐久性向上のために、1200~1350℃で、1~10時間、酸化処理を行うことが好ましい。脱脂及び焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。
【0083】
工程A3では焼成ハニカム構造部に電極層112を形成する。電極層形成原料を調合する方法、及び電極層形成原料を焼成ハニカム構造部に付着させる方法については、公知のハニカム構造体の製造方法に準じて行うことができる。電極層をハニカム構造部に比べて低い電気抵抗率にするために、及び/又は、電極層形成領域によって電気抵抗率を低くするために、電極層の材料を変えたり、金属珪素の含有比率を高めたり、金属珪素粒子の粒径を小さくしたりすることができる。電極層形成原料を調合した後は、電極層112が、先述した電気抵抗及び電極層形成領域に関する条件を満たすように、電極層形成原料の組成、電極層厚さ、電極層形成領域を決定する。電極層形成原料に応じて、溶射及び塗布などの適切な方法で、電極層形成原料をハニカム構造部の外周側壁102に付着させることができる。電極層付着部は必要に応じて焼成してもよい。このような手順により、ハニカム構造部の中心軸を挟んで、外周側壁の外面に接触する状態で設けられた一対の電極層が形成される。
【0084】
その後、必要に応じて、スリットに充填材用原料をシリンジ等を用いて充填してもよい。例えば、充填材用原料は、骨材、ネック材、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を混合して得られた混合物を混練して得ることができる。充填材用原料は、スラリー状のものであることが好ましい。充填剤をスリットに充填後、熱処理を行うことで充填材を均一化することができる。熱処理条件は例えば、大気雰囲気にて、50~100℃の温度で2~12時間とすることができる。
【実施例
【0085】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0086】
<実施例1>
(1.円柱状の坏土の作製)
炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末とを80:20の質量割合で混合してセラミック原料を調製した。そして、セラミック原料に、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材として吸水性樹脂を添加すると共に、水を添加して成形原料とした。そして、成形原料を真空土練機により混練し、円柱状の坏土を作製した。バインダの含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに7質量部とした。造孔材の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに3質量部とした。水の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに42質量部とした。炭化珪素粉末の平均粒子径は20μmであり、金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。また、造孔材の平均粒子径は20μmであった。炭化珪素粉末、金属珪素粉末及び造孔材の平均粒子径は、レーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0087】
(2.ハニカム乾燥体の作製)
得られた円柱状の坏土を碁盤目状の口金構造を有する押出成形機を用いて成形し、セルの流路方向に垂直な断面における各セル形状が正方形である円柱状ハニカム成形体を得た。このハニカム成形体を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥し、両底面を所定量切断して、ハニカム乾燥体を作製した。
【0088】
(3.端子接続部の形成)
次に、ハニカム成形体と同じ組成の坏土を使用して、一対の円柱状の端子接続部(底面の直径12mm)を成形した。一対の円柱状の端子接続部の底面をハニカム乾燥体の中心軸を挟んで対向する外周側壁の外面に貼り付け、端子接続部付き未焼成ハニカム構造部を得た。この際、各端子接続部はハニカム乾燥体の一方の底面からセルの流路方向に28.5mm離れたところ(セルの流路の全長100%に対して一方の底面からセルの流路方向に25%の箇所)に端子接続部の底面の中心が位置するように、外周側壁の外面領域に配置した。
【0089】
(4.焼成)
得られた端子接続部付き未焼成ハニカム構造部を、脱脂し、焼成し、更に酸化処理して端子接続部付き焼成ハニカム構造部を得た。脱脂の条件は、550℃で3時間とした。焼成の条件は、アルゴン雰囲気下で、1450℃、2時間とした。酸化処理の条件は、1300℃で1時間とした。
【0090】
(5.電極層形成ペーストの塗布)
電極層形成ペーストとして市販の銀ペーストを上記焼成ハニカム構造部の外周側壁の外面上に中心軸を挟んで対向するように、且つ、各塗布部の周方向中心に各端子接続部が位置するように均一な厚みとなるように二箇所塗布した(図3のθ=0°とした。)。この際、円柱状の各端子接続部の側面を銀ペーストで被覆した。また、各塗布部は、一方の底面から他方の底面に近づくにつれて周方向の幅が狭くなるように(セルの流路方向に垂直な断面において中心角αが次第に小さくなるように)して、帯状に形成した。次いで、銀ペーストを塗布後の焼成ハニカム構造部を120℃で乾燥して、製品であるハニカム構造体を得た。
【0091】
(6.ハニカム構造体の仕様)
上記の手順で得られたハニカム構造体は、底面が直径118mmの円形であり、高さ(セルの流路方向における長さ)が114mmであった。セル密度は93セル/cm2であり、隔壁の厚みは101.6μmであり、隔壁の気孔率は45%であり、隔壁の平均細孔径は8.6μmであった。電極層の厚みは75μmであった。各電極層は、セルの流路方向に垂直な何れの断面で観察しても、各電極層の周方向中心点同士を結ぶ直線を対称軸として線対称になるように形成されていた。ハニカム構造部及び電極層と同一材質の試験片を用いて25℃における電気抵抗率を四端子法により測定したところ、それぞれ1.5Ωcm、0.007Ωcmであった。
【0092】
上記の手順で得られたハニカム構造体の各電極層は、ハニカム構造部の一方の底面から他方の底面までのセルの流路方向の長さ(100%)に対して、一方の底面に近い側から0%の箇所に一端を有し、一方の底面に近い側から41%の箇所に他端を有し、一端から他端までセルの流路方向に延設されていた。
【0093】
上記の手順で得られたハニカム構造体をセルの流路方向に四等分して、一方の底面に近い側からA、B、C及びDの四つの領域に分け、セルの流路方向に垂直な断面において一対の電極層間の距離が最も遠くなる二点間(但し、当該断面に一対の電極層が存在しないときは当該断面において距離が最も遠くなる二点間)で測定した電気抵抗の前記各領域における平均値(RA、RB、RC及びRD)を求めた。各領域における当該電気抵抗の平均値はセルの流路方向の両端を含む5箇所を等間隔で測定したときの平均値とした。その結果、RA:RB:RC:RD=1:1.6:2:2であった。
【0094】
上記の手順で得られたハニカム構造体の電極層をセルの流路方向に四等分して、一方の底面に近い側からA、B、C及びDの四つの領域に分け、セルの流路方向に垂直な断面において一対の電極層間の距離が最も近くなる二点間の距離の前記各領域における平均値(DA、DB、DC及びDD)を幾何学的に求めた。その結果、DA:DB:DC:DD=1:1.15:1.38:1.50であった。
【0095】
上記の手順で得られたハニカム構造体の電極層をセルの流路方向に四等分して、一方の底面に近い側からA、B、C及びDの四つの領域に分け、各領域における電極層を構成する材料の電気抵抗率の平均値を一方の底面に近い側からrA、rB、rC及びrDとすると、本実施例では各領域に同一の電極層形成ペーストを使用しているため、rA=rB=rC=rDの関係式が成立する。
【0096】
上記の手順で得られたハニカム構造体の端子接続部及び電極層を切削除去した後のハニカム構造体をセルの流路方向に四等分し、等分された四つの部分について、上述した(1)~(9)の九つの方向の電気抵抗をそれぞれ測定し、各方向における当該四つの部分の電気抵抗の平均値を求めた。その結果、各部分の上記九つの方向の電気抵抗は、対応する方向の電気抵抗の平均値に対して何れも±10%以内に収まっていた。
【0097】
(7.同時通電試験の温度分布測定)
上記の手順で得られたハニカム構造体の一対の端子接続部に一対のケーブルをクリップで留めて接続し、2kWを印加すると同時に、ハニカム構造体へ1Nm3/minの流速で室温の空気の通風を開始した。このとき、一方の底面(入口側)からセルの流路の方向に10mm、38mm、76mm及び104mm離れた箇所におけるハニカム構造体の中心軸の温度変化を熱電対による温度測定でモニタリングした。結果を図6(a)に示す。図6(a)中、黒色実線は10mm、灰色実線は38mm、黒色点線は76mm、灰色点線は104mmの地点の温度測定値を示す。
【0098】
<比較例1、実施例2~7>
実施例1と同様の手順で端子接続部付き焼成ハニカム構造部を作製した。その後、試験番号に応じて表1の記載の電極層条件に変更した他は、実施例1と同様の手順でハニカム構造体を製造した。表1中、「デザイン種別」は図4に示す(a)~(d)のどの電極層デザインに対応するかを示す。表1中、「セルの流路方向における一端の位置」及び「セルの流路方向における他端の位置」はセルの流路の全長(100%)に対する、一方の底面からの電極層の一端及び他端の相対的位置を指す。端子接続部の位置についても同様に、同一の端部からの相対位置(%)を示す。
【0099】
得られた各試験例のハニカム構造体に対して実施例1と同様の条件で通電試験を行い、実施例1と同様に、入口側から10mm、38mm、76mm及び104mmにおけるハニカム構造体の中心軸の温度をモニタリングした。実施例1も含めて、実施例2~7及び比較例1について、通電開始から1分後の四つの温度測定個所における最高温度と最低温度の差が小さいものから順に、A,B,C,Dと順位付けした結果を表1に示す。参考用に、比較例1の結果を図6(b)に示す。図6(b)中、黒色実線は10mm、灰色実線は38mm、黒色点線は76mm、灰色点線は104mmの地点の温度測定値を示す。
【0100】
【表1】
【符号の説明】
【0101】
100 導電性ハニカム構造体
101 ハニカム構造部
102 外周側壁
103 端子接続部
104 一方の底面
106 他方の底面
108 セル
109 外面
110 隔壁
112 電極層
116 突出部
118 スリット
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8