(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】ウェイトバランス水浸工法
(51)【国際特許分類】
E02D 31/12 20060101AFI20220318BHJP
E02D 3/10 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
E02D31/12
E02D3/10 101
(21)【出願番号】P 2018095463
(22)【出願日】2018-05-17
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宏治
(72)【発明者】
【氏名】藤丸 啓一
(72)【発明者】
【氏名】西 博康
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-079567(JP,A)
【文献】特開平05-331865(JP,A)
【文献】特開平06-185089(JP,A)
【文献】特開平04-102632(JP,A)
【文献】特開2014-129690(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107794952(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 31/12
E02D 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下躯体を構築する際に、地下水の浮力による地下躯体の浮き上がりを防止する水浸工法であって、
地下躯体を構築する領域の下側の地下水を外部に排水するための排水設備を地中に設置するステップと、その後、排水設備を稼働しながら地下躯体を構築する一方で、地下水の浮力に対抗させるためのバランス用のウェイト水を地下躯体に付加するステップと、その後、ウェイト水を付加した地下躯体の重量が地下水の浮力を上回った場合に、排水設備の機能を停止するステップとを備えることを特徴とするウェイトバランス水浸工法。
【請求項2】
地下躯体の構築の進捗により地下躯体の重量が増加するにしたがって、地下躯体に付加されたウェイト水を外部に排水するステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のウェイトバランス水浸工法。
【請求項3】
ウェイト水として、消毒または殺菌作用を有する薬剤を含む水を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のウェイトバランス水浸工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下工事に適用されるウェイトバランス水浸工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地下工事において地下水位低下のためにディープウェル(深井戸)を使用する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。ポンプを稼働しているディープウェルでは、新設する地下躯体の浮力による浮き上がりを防止するため「躯体重量>地下水による浮力」の条件を満たした後、ポンプ稼働停止とウェル閉塞を行っている。
【0003】
図2は、従来の地下工事における排水設備(ディープウェル)の閉塞・撤去手順の一例を示したものである。この手順では、まず、
図2(1)に示すように、地下躯体1を新設する領域Aの周囲の地盤Gに止水壁2を構築するとともに、止水壁2の内外にディープウェル3(揚水井戸)とリチャージウェル4(注水井戸)とを設ける。そして、これらを配管5で接続することによって領域A直下の地盤Gから止水壁2の外側に揚水(排水)する排水設備を構築し、各ウェル3,4内のポンプを稼働し、根切り・床付けを行う。続いて、
図2(2)に示すように、領域Aに地下躯体1を打設し、「躯体重量>地下水による浮力(揚圧力)」の条件を満たすことを確認した後、領域A直下の地盤Gからの揚水を停止する。最後に、
図2(3)に示すように、ディープウェル3とリチャージウェル4を閉塞して配管5を撤去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記条件を満たすまでの期間は通常、数ヶ月を要し、この間、(1)ディープウェル・リチャージウェル・配管等の仮設設備の撤去と閉塞ができない、(2)汲み上げた地下水を下水放流している場合には莫大な放流費用がかかる、などの問題があることから、現場コストの増大や工期の長期化を招くおそれがある。
【0006】
新設の地下躯体を打設した後に、できる限り早期に地下水の揚水を停止できれば、その分だけ現場コスト・工期に対して有利となるので好ましい。このため、新設の地下躯体を構築した後に、早期に地下水の揚水を停止することのできる技術が求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、地下躯体を構築した後に、早期に地下水の揚水を停止することのできるウェイトバランス水浸工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るウェイトバランス水浸工法は、地下躯体を構築する際に、地下水の浮力による地下躯体の浮き上がりを防止する水浸工法であって、地下躯体を構築する領域の下側の地下水を外部に排水するための排水設備を地中に設置するステップと、その後、排水設備を稼働しながら地下躯体を構築する一方で、地下水の浮力に対抗させるためのバランス用のウェイト水を地下躯体に付加するステップと、その後、ウェイト水を付加した地下躯体の重量が地下水の浮力を上回った場合に、排水設備の機能を停止するステップとを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他のウェイトバランス水浸工法は、上述した発明において、地下躯体の構築の進捗により地下躯体の重量が増加するにしたがって、地下躯体に付加されたウェイト水を外部に排水するステップをさらに備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他のウェイトバランス水浸工法は、上述した発明において、ウェイト水として、消毒または殺菌作用を有する薬剤を含む水を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るウェイトバランス水浸工法によれば、地下躯体を構築する際に、地下水の浮力による地下躯体の浮き上がりを防止する水浸工法であって、地下躯体を構築する領域の下側の地下水を外部に排水するための排水設備を地中に設置するステップと、その後、排水設備を稼働しながら地下躯体を構築する一方で、地下水の浮力に対抗させるためのバランス用のウェイト水を地下躯体に付加するステップと、その後、ウェイト水を付加した地下躯体の重量が地下水の浮力を上回った場合に、排水設備の機能を停止するステップとを備えるので、ウェイト水によって地下躯体の重量を増すことができ、従来の方法に比べて早期に地下水の排水(揚水)を停止することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る他のウェイトバランス水浸工法によれば、地下躯体の構築の進捗により地下躯体の重量が増加するにしたがって、地下躯体に付加されたウェイト水を外部に排水するステップをさらに備えるので、地下工事の施工効率を向上することができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係る他のウェイトバランス水浸工法によれば、ウェイト水として、消毒または殺菌作用を有する薬剤を含む水を用いるので、構築後の地下躯体の衛生的環境を良好にすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係るウェイトバランス水浸工法の実施の形態を示す施工手順図であり、(1)は根切り・床付け、(2)は地下躯体打設、ウェイト水注水、揚水停止、(3)は排水設備の閉塞・撤去、(4)は躯体立上げとウェイト水コントロールである。
【
図2】
図2は、従来の排水設備の閉塞・撤去手順を示す図であり、(1)は根切り・床付け、(2)は地下躯体打設、揚水停止、(3)は排水設備の閉塞・撤去の例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係るウェイトバランス水浸工法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
本実施の形態は、地下躯体を構築する際に、地下水の浮力による地下躯体の浮き上がりを防止するために用いる排水設備を早期に撤去するための地下工法である。
【0017】
図1(1)に示すように、まず、従来の方法と同様に、予め領域Aの周囲の地盤Gに止水壁10を構築するとともに、止水壁10で囲まれた内側にディープウェル12(揚水井戸)を設けるとともに、止水壁10の外側にリチャージウェル14(注水井戸)を設ける。そして、ディープウェル12とリチャージウェル14を配管16で接続することによって排水設備18を構築する。その後、各ウェル12、14内のポンプを稼働して排水設備18を稼働し、領域A直下の地盤Gから止水壁10の外側に向けて地下水Wを揚水(排水)して地下水位WLを制御しながら、領域Aについて根切り・床付けを行う。
【0018】
次に、
図1(2)に示すように、排水設備18を稼働しながら、領域Aにコンクリートを打設して地下躯体20を構築する。これにより、地下躯体20の内部に排水ピット22が形成されるとともに、外壁24の内部に空間26が形成される。この排水ピット22や内部空間26にバランス用のウェイト水28を注入する。
【0019】
ウェイト水28には、例えば水道水や地下水を用いることができる。また、必要に応じて次亜塩素酸などの消毒および殺菌作用を有する酸化剤等の薬剤を混合した水をウェイト水として用いてもよい。このようにすれば、後工程でウェイト水28を排水した後の地下躯体20の内部空間26等の衛生環境を、良好な状態に保持することができる。
【0020】
ウェイト水28を注入した分だけ地下躯体20の重量が増し、地下水の浮力に対抗する力が増大する。その後、ウェイト水28を含めた地下躯体20の重量が地下水の浮力(揚圧力)を上回ることが確認されたら、排水設備18の稼働を停止して揚水を停止する。
【0021】
次に、
図1(3)に示すように、ディープウェル12、リチャージウェル14を閉塞して配管16等の排水設備18を撤去する。このように、本実施の形態によれば、ウェイト水28の注入によって地下躯体20の重量を増すことができるため、従来の方法と比べて早い段階で排水設備18を撤去可能である。
【0022】
次に、
図1(4)に示すように、工事の進捗により地下躯体20が立ち上がり地下躯体20の重量が増加するにしたがって、地下水の浮力とのバランスを取りながら、ウェイト水28をポンプPで外部に排水し、清掃やその他の躯体工事を実施する。これにより、地下工事の施工効率を向上することができる。
【0023】
このように、本実施の形態によれば、従来の方法に比べて早期に地下水の揚水を停止可能である。これにより、早期に排水設備18を撤去することができるため、現場コストを従来の方法よりも低減して、施工期間を短縮化することが可能となる。
【0024】
なお、上記の実施の形態では、ディープウェル12から揚水した地下水をリチャージウェル14に復水するリチャージ工法に適用した場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではなく、領域Aの直下地盤の地下水を低下させる工事であればいかなる地下工事にも適用可能である。例えばディープウェルから揚水した地下水を復水せずに外部に排水する工事に適用してもよい。このように、本発明はリチャージウェルを用いない工事にも適用することができる。
【0025】
以上説明したように、本発明に係るウェイトバランス水浸工法によれば、地下躯体を構築する際に、地下水の浮力による地下躯体の浮き上がりを防止する水浸工法であって、地下躯体を構築する領域の下側の地下水を外部に排水するための排水設備を地中に設置するステップと、その後、排水設備を稼働しながら地下躯体を構築する一方で、地下水の浮力に対抗させるためのバランス用のウェイト水を地下躯体に付加するステップと、その後、ウェイト水を付加した地下躯体の重量が地下水の浮力を上回った場合に、排水設備の機能を停止するステップとを備えるので、ウェイト水によって地下躯体の重量を増すことができ、従来の方法に比べて早期に地下水の排水(揚水)を停止することができる。
【0026】
また、本発明に係る他のウェイトバランス水浸工法によれば、地下躯体の構築の進捗により地下躯体の重量が増加するにしたがって、地下躯体に付加されたウェイト水を外部に排水するステップをさらに備えるので、地下工事の施工効率を向上することができる。
【0027】
また、本発明に係る他のウェイトバランス水浸工法によれば、ウェイト水として、消毒または殺菌作用を有する薬剤を含む水を用いるので、構築後の地下躯体の衛生的環境を良好にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上のように、本発明に係るウェイトバランス水浸工法は、地下水位低下のためにディープウェル等の排水設備を使用する地下工事に有用であり、特に、早期に排水設備を撤去するのに適している。
【符号の説明】
【0029】
10 止水壁
12 ディープウェル
14 リチャージウェル
16 配管
18 排水設備
20 地下躯体
22 排水ピット
24 外壁
26 内部空間
28 ウェイト水
A 領域
G 地盤
P ポンプ
W 地下水
WL 地下水位