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特許7042740金属/樹脂複合構造体、金属部材および金属部材の製造方法
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  • 特許-金属/樹脂複合構造体、金属部材および金属部材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】金属/樹脂複合構造体、金属部材および金属部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/30 20060101AFI20220318BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220318BHJP
   B32B 27/06 20060101ALI20220318BHJP
   C23F 1/16 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B15/08 M
B32B27/06
C23F1/16
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018520876
(86)(22)【出願日】2017-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2017019770
(87)【国際公開番号】W WO2017209011
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2018-10-09
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2016109286
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】木村 和樹
(72)【発明者】
【氏名】杉田 遥
(72)【発明者】
【氏名】富田 嘉彦
【合議体】
【審判長】一ノ瀬 覚
【審判官】内田 博之
【審判官】八木 誠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/008847(WO,A1)
【文献】特開2014-136366(JP,A)
【文献】特開平10-270629(JP,A)
【文献】特開2012-193448(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087720(WO,A1)
【文献】特開2016-74116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00 , B32B 45/00-45/24 , B32B 45/46-45/63 , B32B 45/70-45/72 , B32B 45/74-45/84 , C23F 1/00- 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と、樹脂組成物からなる樹脂部材とが接合してなる金属/樹脂複合構造体であって、
前記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たし、
下記平均長さ(RSm)の標準偏差(σ)がμm以下である金属/樹脂複合構造体。
(1)評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)の平均値が20μm未満である
(2)評価長さ4mmにおける粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の平均値が20μm以上77μm未満の範囲にある
【請求項2】
請求項1に記載の金属/樹脂複合構造体において、
前記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(3)をさらに満たす金属/樹脂複合構造体。
(3)評価長さ4mmにおける算術平均粗さ(Ra)の平均値が5μm未満である
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属/樹脂複合構造体において、
前記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1A)をさらに満たす金属/樹脂複合構造体。
(1A)評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)の平均値が1μm以上15μm以下である
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の金属/樹脂複合構造体において、
前記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(3A)をさらに満たす金属/樹脂複合構造体。
(3A)評価長さ4mmにおける算術平均粗さ(Ra)の平均値が3μm未満である
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の金属/樹脂複合構造体において、
前記金属部材は鉄、鉄鋼材、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、亜鉛、亜鉛合金、スズ、スズ合金、チタンおよびチタン合金から選択される一種または二種以上の金属を含む金属材料からなるものである金属/樹脂複合構造体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の金属/樹脂複合構造体において、
前記樹脂組成物が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂およびポリアミド系樹脂から選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂を含む金属/樹脂複合構造体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の金属/樹脂複合構造体において、
前記樹脂組成物が、140℃以上のガラス転移温度を有する、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、およびポリエーテルスルホン樹脂から選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂を含む金属/樹脂複合構造体。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の金属/樹脂複合構造体において、
前記樹脂組成物が、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、およびポリカーボネート樹脂から選択される一種または二種以上の非晶性熱可塑性樹脂を含む金属/樹脂複合構造体。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の金属/樹脂複合構造体において、
前記樹脂組成物が、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーから選択される一種または二種以上の熱可塑性エラストマーを含む金属/樹脂複合構造体。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の金属/樹脂複合構造体において、
前記樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含む金属/樹脂複合構造体。
【請求項11】
請求項10に記載の金属/樹脂複合構造体において、
前記熱硬化性樹脂を含む前記樹脂組成物が、長繊維強化複合体および連続繊維強化複合体から選択される少なくとも一種を含む金属/樹脂複合構造体。
【請求項12】
樹脂組成物からなる樹脂部材との接合のために用いられる金属部材であって、
当該金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たし、
下記平均長さ(RSm)の標準偏差(σ)がμm以下である金属部材。
(1)評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)の平均値が20μm未満である
(2)評価長さ4mmにおける粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の平均値が20μm以上77μm未満の範囲にある
【請求項13】
請求項12に記載の金属部材において、
前記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(3)をさらに満たす金属部材。
(3)評価長さ4mmにおける算術平均粗さ(Ra)の平均値が5μm未満である
【請求項14】
請求項12または13に記載の金属部材を製造するための製造方法であって、
前記金属部材の表面を無電解処理により粗化する工程を含み、
前記金属部材の表面を粗化する工程では、酸系エッチング剤により前記金属部材の表面を粗化処理し、
前記酸系エッチング剤が下記式(1)で表される金属塩(Q)を含む水溶液または水分散体を含み、
MX (1)
(前記式(1)中、Mは周期律表第IA、IIA、IIIBまたはIVA族の金属元素を示し、Xはフッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子である)
前記エッチング剤中の前記金属塩(Q)の含有量は、10質量%以上35質量%以下である、金属部材の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の金属部材の製造方法において、
前記酸系エッチング剤が、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの少なくとも一方と、前記式(1)で表される金属塩(Q)を含む水溶液または水分散体を含む金属部材の製造方法。
【請求項16】
請求項14または15に記載の金属部材の製造方法において、
前記式(1)における金属元素(M)が、Li、Na、K、Mg、Ca、Ba、Alから選ばれる1種以上である金属部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属/樹脂複合構造体、金属部材および金属部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の産業用部品の軽量化を目的として、様々な分野で金属の代替品として樹脂の使用が始まっている。金属部品を樹脂で完全に代替できないケースでは、金属成形体と樹脂成形体を接合一体化することで得られる複合部品を用いる方法が有望である。
【0003】
近年、金属成形体と樹脂成形体を接合一体化する技術として、金属部材の表面に微細な凹凸を形成させたものに、その金属部材と親和性を有する極性基を持つエンジニアリングプラスチックを接合させる方法が検討されている(例えば、特許文献1~5等)。
【0004】
例えば、特許文献1~3には、アルミニウム合金をヒドラジン水溶液で浸漬処理することによって、その表面に30~300nm径の凹部を形成した後、該処理面にポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂や、ポリフェニレンスルファイド(PPS)樹脂を接合させる技術が開示されている。
【0005】
特許文献4には、アルミニウム素材を燐酸または水酸化ナトリウムの電解浴で陽極酸化処理することにより、アルミニウム素材の表面に直径が25nm以上である凹部を有する陽極酸化皮膜を形成した後、該処理面にエンジニアリングプラスチックを接合させる技術が開示されている。
【0006】
特許文献5には、アルミニウム合金に対し、特定のエッチング剤により微細な凹凸もしくは孔を形成し、その孔にポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、PPSを射出接合させる技術が開示されている。
【0007】
特許文献1~5では、樹脂部材として極性基を持つエンジニアリングプラスチックが用いられている。その一方で、金属部材と親和性を有しない非極性のポリオレフィン系樹脂に関して、上記の技術を適用した事例としては、ポリオレフィン系樹脂に極性基を導入した酸変性ポリオレフィン樹脂を用いるもの(特許文献6)、あるいは粗化面に特定の形状パラメーターを満たす凹凸構造を付与することによってポリオレフィンの接合を可能にする方法が開示されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-216425号公報
【文献】特開2009-6721号公報
【文献】国際公開第2003/064150号パンフレット
【文献】国際公開第2004/055248号パンフレット
【文献】特開2013-52671号公報
【文献】特開2002-3805号公報
【文献】国際公開第2015/008847号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献6に記載の方法では、溶融樹脂を、高圧下で長時間金属に接触させる必要があり、通常はラミネート法、プレス法等で成形されるため成形体の形状の自由度が制限されるという問題があった。また、特許文献7に記載の方法を含めた薬液エッチング方法全体については、ポリオレフィン等樹脂との高い接合強度を維持したまま、粗化される金属量をできるだけ少なくした合理的なプロセスの提供が強く求められている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、金属部材と、樹脂組成物からなる樹脂部材とを、樹脂の変性等を伴うことなく、直接接合することができ、かつ金属部材と樹脂部材との接合強度に優れた金属/樹脂複合構造体を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、既存の薬液エッチング方法において、薬液側に溶解して消失される金属量が極小化された粗化金属表面に、樹脂が強固に接合した金属/樹脂複合構造体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、金属部材と、樹脂組成物からなる樹脂部材との接合強度を向上させるために、金属部材の表面の十点平均粗さ(Rz)を調整することを検討した。
しかし、金属部材の表面の十点平均粗さ(Rz)を単に調整するだけでは金属部材と樹脂部材との接合強度を十分に向上させることができないことが明らかとなった。
そこで、本発明者らは、金属部材と、樹脂組成物からなる樹脂部材との接合強度を向上させるための設計指針についてさらに鋭意検討した。その結果、金属部材表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)がこうした設計指針として有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明によれば、以下に示す金属/樹脂複合構造体、金属部材および金属部材の製造方法が提供される。
【0014】
[1]
金属部材と、樹脂組成物からなる樹脂部材とが接合してなる金属/樹脂複合構造体であって、
上記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たす金属/樹脂複合構造体。
(1)評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)の平均値が20μm未満である
(2)評価長さ4mmにおける粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の平均値が20μm以上77μm未満の範囲にある
[2]
上記[1]に記載の金属/樹脂複合構造体において、
上記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(3)をさらに満たす金属/樹脂複合構造体。
(3)評価長さ4mmにおける算術平均粗さ(Ra)の平均値が5μm未満である
[3]
上記[1]または[2]に記載の金属/樹脂複合構造体において、
上記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1A)をさらに満たす金属/樹脂複合構造体。
(1A)評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)の平均値が1μm以上15μm以下である
[4]
上記[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の金属/樹脂複合構造体において、
上記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(3A)をさらに満たす金属/樹脂複合構造体。
(3A)評価長さ4mmにおける算術平均粗さ(Ra)の平均値が3μm未満である
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の金属/樹脂複合構造体において、
上記金属部材は鉄、鉄鋼材、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、亜鉛、亜鉛合金、スズ、スズ合金、チタンおよびチタン合金から選択される一種または二種以上の金属を含む金属材料からなるものである金属/樹脂複合構造体。
[6]
上記[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の金属/樹脂複合構造体において、
上記樹脂組成物が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂およびポリアミド系樹脂から選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂を含む金属/樹脂複合構造体。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の金属/樹脂複合構造体において、
上記樹脂組成物が、140℃以上のガラス転移温度を有する、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、およびポリエーテルスルホン樹脂から選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂を含む金属/樹脂複合構造体。
[8]
上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の金属/樹脂複合構造体において、
上記樹脂組成物が、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、およびポリカーボネート樹脂から選択される一種または二種以上の非晶性熱可塑性樹脂を含む金属/樹脂複合構造体。
[9]
上記[1]乃至[8]のいずれか一つに記載の金属/樹脂複合構造体において、
上記樹脂組成物が、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーから選択される一種または二種以上の熱可塑性エラストマーを含む金属/樹脂複合構造体。
[10]
上記[1]乃至[9]のいずれか一つに記載の金属/樹脂複合構造体において、
上記樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含む金属/樹脂複合構造体。
[11]
上記[10]に記載の金属/樹脂複合構造体において、
上記熱硬化性樹脂を含む上記樹脂組成物が、長繊維強化複合体および連続繊維強化複合体から選択される少なくとも一種を含む金属/樹脂複合構造体。
[12]
樹脂組成物からなる樹脂部材との接合のために用いられる金属部材であって、
当該金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たす金属部材。
(1)評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)の平均値が20μm未満である
(2)評価長さ4mmにおける粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の平均値が20μm以上77μm未満の範囲にある
[13]
上記[12]に記載の金属部材において、
上記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(3)をさらに満たす金属部材。
(3)評価長さ4mmにおける算術平均粗さ(Ra)の平均値が5μm未満である
[14]
上記[12]または[13]に記載の金属部材を製造するための製造方法であって、
上記金属部材の表面を無電解処理により粗化する工程を含む金属部材の製造方法。
[15]
上記[14]に記載の金属部材の製造方法において、
上記金属部材の表面を粗化する工程では、酸系エッチング剤により上記金属部材の表面を粗化処理し、
上記酸系エッチング剤が下記式(1)で表される金属塩(Q)を含む水溶液または水分散体を含む金属部材の製造方法。
MX (1)
(上記式(1)中、Mは周期律表第IA、IIA、IIIBまたはIVA族の金属元素を示し、Xはフッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子である)
[16]
上記[15]に記載の金属部材の製造方法において、
上記酸系エッチング剤が、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの少なくとも一方と、上記式(1)で表される金属塩(Q)を含む水溶液または水分散体を含む金属部材の製造方法。
[17]
上記[15]または[16]に記載の金属部材の製造方法において、
上記式(1)における金属元素(M)が、Li、Na、K、Mg、Ca、Ba、Alから選ばれる1種以上である金属部材の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属部材と、樹脂組成物からなる樹脂部材との接合強度に優れた金属/樹脂複合構造体を提供することができる。また、本発明で開示された粗化方法によれば公知の薬液を用いた粗化技術を採用した場合に比べてエッチング時に消失する金属量の低減化が可能である。さらに、粗化された金属表面上の任意の6点のいずれの点においても、ほぼ同一の粗さパラメーターを再現することができる。すなわち金属表面の均一粗化が達成できる。この結果、複合構造体とした場合の接合強度のバラツキを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0017】
図1】本発明に係る実施形態の金属/樹脂複合構造体の構造の一例を模式的に示した外観図である。
図2】本発明に係る実施形態の金属/樹脂複合構造体を製造する過程の一例を模式的に示した構成図である。
図3】本実施形態に係る金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部の測定箇所を説明するための模式図である。
図4】各調製例で得られたアルミニウム板の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部の測定箇所を説明するための模式図である。
図5】充填材の最大長さの定義を模式的に示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。なお、文中の数字の間にある「~」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
【0019】
[金属/樹脂複合構造体]
まず、本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106について説明する。
図1は、本発明に係る実施形態の金属/樹脂複合構造体106の構造の一例を示す外観図である。金属/樹脂複合構造体106は、金属部材103と、樹脂組成物(P)からなる樹脂部材105とが接合されており、金属部材103と樹脂部材105とを接合することにより得られる。
【0020】
金属部材の表面110上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たし、好ましい態様では要件(3)をさらに満たしている。
(1)評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)の平均値が20μm未満である
(2)評価長さ4mmにおける粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の平均値が20μm以上77μm未満の範囲にある
(3)評価長さ4mmにおける算術平均粗さ(Ra)の平均値が5μm未満である
樹脂部材105は、樹脂組成物(P)からなる。
なお、十点平均粗さ(Rz)、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)および算術平均粗さ(Ra)の平均値は、前述の任意の6直線部の十点平均粗さ(Rz)、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)および算術平均粗さ(Ra)をそれぞれ平均したものをそれぞれ採用することができる。
【0021】
本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106は、樹脂部材105を構成する樹脂組成物(P)が、金属部材の表面110に形成された凹凸形状に侵入して金属と樹脂が接合し、金属―樹脂界面を形成することにより得られる。
【0022】
金属部材103の表面110には、金属部材103と樹脂部材105との間の接合強度向上に適した凹凸形状が形成されているため、接着剤を使用せずに金属部材103と樹脂部材105との間の接合性確保が可能となる。
具体的には上記要件(1)および(2)、好ましくは要件(1)、(2)および(3)を同時に満たす金属部材の表面110の凹凸形状の中に樹脂組成物(P)が侵入することによって、金属部材103と樹脂部材105との間に物理的な抵抗力(アンカー効果)が効果的に発現し、通常では接合が困難な金属部材103と樹脂組成物(P)からなる樹脂部材105とを強固に接合することが可能になったものと考えられる。
【0023】
このようにして得られた金属/樹脂複合構造体106は、金属部材103と樹脂部材105の界面への水分や湿気の浸入を防ぐこともできる。つまり、金属/樹脂複合構造体106の付着界面における気密性や水密性を向上させることもできる。
以下、金属/樹脂複合構造体106を構成する各部材について説明する。
【0024】
<金属部材>
以下、本実施形態に係る金属部材103について説明する。
金属部材の表面110上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たし、好ましくは要件(3)をさらに満たす。
(1)評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)の平均値が20μm未満である
(2)評価長さ4mmにおける粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の平均値が20μm以上77μm未満の範囲にある
(3)評価長さ4mmにおける算術平均粗さ(Ra)の平均値が5μm未満である
【0025】
図3は、金属部材の表面110上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部を説明するための模式図である。
上記6直線部は、例えば、図3に示すような6直線部B1~B6を選択することができる。まず、基準線として、金属部材103の接合部表面104の中心部Aを通る中心線B1を選択する。次いで、中心線B1と平行関係にある直線B2およびB3を選択する。次いで、中心線B1と直交する中心線B4を選択し、中心線B1と直交し、中心線B4と並行関係にある直線B5およびB6を選択する。ここで、各直線間の垂直距離D1~D4は、例えば、2~5mmである。
なお、通常、金属部材の表面110中の接合部表面104だけでなく、金属部材の表面110全体に対し、表面粗化処理が施されているため、例えば、図4に示すように、金属部材103の接合部表面104と同一面で、接合部表面104以外の箇所から6直線部を選択してもよい。
【0026】
上記要件(1)および(2)を同時に満たす、好ましくは要件(1)、(2)および(3)を同時に満たすと、接合強度に優れた金属/樹脂複合構造体106が得られる理由は必ずしも明らかではないが、金属部材103の接合部表面104が、金属部材103と樹脂部材105との間のアンカー効果が効果的に発現できる構造になっているためと考えられる。
本発明者らは、金属部材と、樹脂組成物からなる樹脂部材との接合強度を向上させるために、金属部材の表面の十点平均粗さ(Rz)を調整することを検討した。
しかし、金属部材の表面の十点平均粗さ(Rz)を単に調整するだけでは金属部材と樹脂部材との接合強度を十分に向上させることができないことが明らかとなった。
ここで、本発明者らは、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)という尺度が金属部材表面と樹脂部材間の接合強度、および金属エッチング量の過多を表す指標として有効であると考え、鋭意検討を重ねた。その結果、金属部材表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)および十点平均粗さ(Rz)を特定範囲に調整し、好ましい態様においては、さらに算術平均粗さ(Ra)を特定値以下とすることにより、金属部材103と樹脂部材105との間にアンカー効果が効果的に発現すると同時にエッチングで失われる金属量を低減できることを見出し、その結果、接合強度に優れた金属/樹脂複合構造体106が経済的に実現できることを見出して本発明を完成するに至った。
【0027】
金属部材103と樹脂部材105との接合強度をより一層向上させる観点から、金属部材の表面110上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1A)および(1B)のうち1つ以上の要件をさらに満たすことが好ましい。
(1A)評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)の平均値が1~15μmが好ましく、2~15μmがより好ましく、2~13μmがさらに好ましく、2~10μmがさらにより好ましく、2.5~10μmが特に好ましい。
(1B)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)が好ましくは20μm未満、より好ましくは1~15μm、さらに好ましくは2~15μm、さらに好ましくは2~13μm、さらにより好ましくは2~10μm、特に好ましくは2.5~10μmである。
また、金属部材103と樹脂部材105との接合強度のバラツキを抑制する観点から、評価長さ4mmにおける上記十点平均粗さ(Rz)の標準偏差(σ)が、好ましくは1.0μm以下であり、より好ましくは0.8μm以下であり、特に好ましくは0.5μm以下である。
【0028】
金属部材103と樹脂部材105との接合強度を高いレベルで維持しつつ、金属部材の表面110上に、上記の十点平均粗さ(Rz)を付与するために行われる粗化処理において金属のエッチング量をより低減させるためには、金属部材の表面110上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(2A)~(2D)のうち1つ以上の要件をさらに満たすことが好ましい。
(2A)評価長さ4mmにおける粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の平均値が好ましくは30μm以上77μm未満の範囲を満たし、より好ましくは40μm以上77μm未満の範囲である。
(2B)評価長さ4mmにおける粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が20μm以上85μm以下である直線部を好ましくは5直線部以上、より好ましくは6直線部含む。
(2C)評価長さ4mmにおける粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が20μm以上77μm未満である直線部を好ましくは5直線部以上、より好ましくは6直線部含む。
(2D)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が好ましくは20μm以上85μm以下、より好ましくは20μm以上77μm未満、さらに好ましくは30μm以上77μm未満、特に好ましくは40μm以上77μm未満である。
また、金属部材103と樹脂部材105との接合強度のバラツキを抑制する観点から、評価長さ4mmにおける上記粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の標準偏差(σ)が、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは8μm以下であり、特に好ましくは6μm以下である。
なお、本実施形態に係る金属部材の表面110には、好ましくはナノメーターサイズの超微細凹凸構造は形成されておらず、より好ましくは5~500nm周期の超微細凹凸構造が形成されていない。
【0029】
金属部材103と樹脂部材105との接合強度を高いレベルで維持しつつ、粗化処理時の金属のエッチング量をさらに低減させる視点から、金属部材の表面110上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(3A)をさらに満たすことが好ましい。
(3A)評価長さ4mmにおける算術平均粗さ(Ra)の平均値は3μm未満が好ましく、2μm以下が特に好ましい。評価長さ4mmにおける算術平均粗さ(Ra)の平均値の下限値は特に限定されないが、例えば、0.001μm以上である。
また、金属部材103と樹脂部材105との接合強度のバラツキを抑制する観点から、評価長さ4mmにおける上記算術平均粗さ(Ra)の標準偏差(σ)が、好ましくは0.3μm以下であり、より好ましくは0.2μm以下であり、特に好ましくは0.1μm以下である。
【0030】
本実施形態に係る金属部材の表面110の十点平均粗さ(Rz)、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)および算術平均粗さ(Ra)は、金属部材の表面110に対する粗化処理は無電解処理、すなわち電気を用いない方法で行うことが好ましく、具体的には薬液エッチングによって行われる。本実施形態においては、電解処理に比べ、薬液を用いるエッチング処理の方が、電極を用いない分、低コストかつ大量生産を実現できる。上記Rz、RSmおよびRaを上記した特定範囲に収めるためには、薬液の組成や薬液処理の際の処理条件、例えば温度や時間の因子を適宜調整することによって制御される。
【0031】
金属部材103を構成する金属材料は特に限定されないが、例えば、鉄、鉄鋼材、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、亜鉛、亜鉛合金、スズ、スズ合金、チタンおよびチタン合金等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、軽量かつ高強度の点から、アルミニウム(アルミニウム単体)およびアルミニウム合金が好ましく、アルミニウム合金がより好ましい。
アルミニウム合金としては、JIS H4000に規定された合金番号1050、1100、2014、2024、3003、5052、6063、7075等が好ましく用いられる。
【0032】
金属部材103の形状は、樹脂部材105と接合できる形状であれば特に限定されず、例えば、平板状、曲板状、棒状、筒状、塊状等とすることができる。また、これらの組み合わせからなる構造体であってもよい。
また、樹脂部材105と接合する接合部表面104の形状は、特に限定されないが、平面、曲面等が挙げられる。
【0033】
金属部材103は、金属材料を切断、プレス等による塑性加工、打ち抜き加工、切削、研磨、放電加工等の除肉加工によって上述した所定の形状に加工された後に、後述する粗化処理がなされたものが好ましい。要するに、種々の加工法により、必要な形状に加工されたものを用いることが好ましい。
【0034】
(金属部材表面の粗化処理方法)
次に、金属部材103の表面の粗化処理方法について説明する。
本実施形態に係る金属部材103の表面は、例えば、エッチング剤を用いて粗化処理することにより形成することができる。
ここで、エッチング剤を用いて金属部材の表面を粗化処理すること自体は従来技術においても行われてきた。しかし、本実施形態では、エッチング剤の種類および濃度、粗化処理の温度および時間、エッチング処理のタイミング、等の因子を高度に制御している。本実施形態に係る金属部材103の接合部表面104を得るためには、これらの因子を高度に制御することが重要となる。
以下、本実施形態に係る金属部材表面の粗化処理方法の一例を示す。ただし、本実施形態に係る金属部材表面の粗化処理方法は、以下の例に限定されない。
【0035】
(1)前処理工程
まず、金属部材103は、樹脂部材105との接合側の表面に酸化膜や水酸化物等からなる厚い被膜がないことが望ましい。このような厚い被膜を除去するため、次のエッチング剤で処理する工程の前に、サンドブラスト加工、ショットブラスト加工、研削加工、バレル加工等の機械研磨や、化学研磨により表面層を研磨してもよい。また、樹脂部材105との接合側の表面に機械油等の著しい汚染がある場合は、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性水溶液による処理や、脱脂を行なうことが好ましい。
【0036】
(2)表面粗化処理工程
本実施形態において金属部材の表面粗化処理方法としては、後述する酸系エッチング剤による処理を特定のタイミングで行うことが好ましい。具体的には、該酸系エッチング剤による処理を表面粗化処理工程の最終段階で行うことが好ましい。
また、金属部材の表面粗化処理は無電解処理、すなわち電気を用いない方法で行うことが好ましく、具体的には薬液エッチングによって行われる。本実施形態においては、電解処理に比べ、薬液を用いるエッチング処理の方が、電極を用いない分、低コストかつ大量生産を実現できる。上記Rz、RSmおよびRaを上記した特定範囲に収めるためには、薬液の組成や薬液処理の際の処理条件、例えば温度や時間の因子を適宜調整することによって制御される。
【0037】
なお、上述した特許文献5には、アルミニウムを含む金属材料からなる金属部材の表面粗化処理に用いるエッチング剤として、アルカリ系エッチング剤を用いる態様、アルカリ系エッチング剤と酸系エッチング剤を併用する態様、酸系エッチング剤で処理した後アルカリ系溶液で洗浄する態様が開示されている。
当該アルカリ系エッチング剤は、金属部材との反応が穏やかなため、作業性の観点からは好ましく用いられる。しかし、本発明者らの検討によれば、このようなアルカリ系エッチング剤は反応性が穏やかであるため、金属部材表面の粗化処理の度合いが弱く、深い凹凸形状を形成するのが困難であることが明らかになった。また、酸系エッチング剤処理を行った後アルカリ系エッチング剤やアルカリ系溶液を併用する場合には、酸系エッチング剤によって形成した深い凹凸形状を後のアルカリ系エッチング剤やアルカリ系溶液での処理により該凹凸形状を幾分か滑らかにしてしまうことが明らかになった。
よって、当該アルカリ系エッチング剤を用いて処理した金属部材や、エッチング処理の最終工程でアルカリ系エッチング剤やアルカリ系溶液を使用して得られた金属部材では、樹脂組成物からなる樹脂部材との間で高い接合強度を保持することは難しいと考えられる。
【0038】
上記酸系エッチング剤を用いて粗化処理する方法としては、浸漬、スプレー等による処理方法が挙げられる。処理温度は20~40℃が好ましく、処理時間は5~1000秒程度が好ましく、金属部材表面をより均一に粗化できる観点から、20~850秒がより好ましく、50~700秒が特に好ましい。
【0039】
上記酸系エッチング剤を用いた粗化処理によって、金属部材103の表面が凹凸形状に粗化される。上記酸系エッチング剤を用いた際の金属部材103の深さ方向のエッチング量(溶解量)は、溶解した金属部材103の質量、比重および表面積から算出した場合、300μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。エッチング量を増やすと、接合強度の観点からはよいが、エッチング量を上記上限値以下にすることで、溶解する金属量を抑えることができ、コスト低減が可能であり、さらには、金属部材の寸法変化も抑えることができ、より精度の高い部品設計が可能となる。つまり、いかにして金属溶解量を減らしつつも、接合強度を保つかが非常に重要である。エッチング量は、処理温度や処理時間等により調整できる。
また、溶解する金属量を抑えることができ、コスト低減が可能である観点から、エッチング剤による粗化処理(エッチング処理)前後の金属部材103の質量(各々、WおよびW、単位[g])の測定値を下記式(2)に代入することにより求められるエッチングによる金属損失量ΔW(mg/cm)は、好ましくは2.0mg/cm以下、より好ましくは1.8mg/cm以下、特に好ましくは1.6mg/cm以下である。
ΔW=(W-W)×1000/S (2)
ここでSは金属部材103の表面積[cm]を示す。
【0040】
なお、本実施形態では、上記酸系エッチング剤を用いて金属部材を粗化処理する際、金属部材表面の全面を粗化処理してもよく、樹脂部材105が接合される面だけを部分的に粗化処理してもよい。
【0041】
(3)後処理工程
本実施形態では、上記表面粗化処理工程の後、通常、水洗および乾燥を行うことが好ましい。水洗の方法については特に制限はないが浸漬または流水にて所定時間洗浄することが好ましい。
【0042】
さらに、後処理工程としては、上記酸系エッチング剤を用いた処理により生じたスマット等を除去するため、超音波洗浄を施すことが好ましい。超音波洗浄の条件は、生じたスマット等を除去することができる条件であれば特に限定されないが、用いる溶媒としては水が好ましく、また、処理時間としては、好ましくは1~20分間である。
【0043】
さらに、洗浄工程として、酸、アルカリ系の薬液を用いて、スマット等を除去してもよい。用いる酸、アルカリ系薬液は特に限定されないが、硝酸、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウムが好ましく、処理時間としては30秒~500秒が好ましい。
【0044】
(酸系エッチング剤)
本実施形態において、金属部材表面の粗化処理に用いられるエッチング剤としては、後述する特定の酸系エッチング剤が好ましい。上記特定のエッチング剤で処理することにより、金属部材の表面に、樹脂組成物(P)を含む樹脂部材との間の密着性向上に適した凹凸形状が形成され、そのアンカー効果により金属部材103と樹脂部材105との間の接合強度が向上するものと考えられる。
【0045】
特に、通常の処理では金属部材と接合させることが難しいポリオレフィン系樹脂、ガラス転移温度が140℃以上の熱可塑性樹脂、または非晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂部材との接合強度を向上させるという観点、または通常の処理では金属部材と接合させることが難しい水性塗料から形成される塗膜との密着強度を向上させるという観点からも、金属部材表面により深い凹凸形状を形成できる酸系エッチング剤を用いることが好ましい。
【0046】
以下、本実施形態で使用できる酸系エッチング剤の成分について説明する。
【0047】
上記酸系エッチング剤は、酸と、下記式(1)で表される金属塩(Q)を含み、必要に応じて、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの少なくとも一方、マンガンイオン、各種添加剤等を含む水溶液または水分散体である。なお、本実施形態において、水溶液とは溶質が水溶媒に溶解しその外観が透明である形態として定義され、水分散体とは水溶媒に分散している溶質粒子径が10nm以上である外観が半透明ないし濁状の形態として定義される。水分散体には、溶質が飽和状態で沈殿している態様も含まれる。
MX (1)
上記式(1)中、Mは周期律表第IA、IIA、IIIBまたはIVA族の金属元素を示し、Xはフッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子である。ここで、Xの数はMの価数に同一である。
なお、本実施形態では、周期表の族名は旧IUPAC式で示している。
【0048】
本実施形態においては、上記式(1)で表される金属元素(M)が、粗化金属面と樹脂部材との接合で得られる複合体の接合強度の視点、入手容易性および安全性の視点から、Li、Na、K、Mg、Ca、BaおよびAlから選ばれる1種以上であることが好ましく、Na、K、MgおよびAlから選ばれる1種以上であることがより好ましい。好ましい金属塩(Q)としては、NaCl、MgCl、AlCl・6HOを例示できる。
【0049】
また、上記酸系エッチング剤が、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの少なくとも一方と、酸と、上記式(1)で表される金属塩(Q)とを含み、必要に応じて、マンガンイオン、各種添加剤等を含む水溶液または水分散体であってもよい。
【0050】
・第二鉄イオン
上記第二鉄イオンは、金属部材を酸化する成分であり、第二鉄イオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に該第二鉄イオンを含有させることができる。上記第二鉄イオン源としては、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄等が挙げられる。上記第二鉄イオン源のうちでは、塩化第二鉄が溶解性に優れ、安価であるという点から好ましい。
【0051】
本実施形態において、酸系エッチング剤中の上記第二鉄イオンの含有量は、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.1~12質量%、さらに好ましくは0.5~7質量%である。上記第二鉄イオンの含有量が上記下限値以上であれば、金属部材の粗化速度(溶解速度)の低下を防ぐことができる。一方、上記第二鉄イオンの含有量が上記上限値以下であれば、粗化速度を適正に維持することができるため、金属部材103と樹脂部材105との間の接合強度向上により適した均一な粗化が可能になる。
【0052】
・第二銅イオン
上記第二銅イオンは金属部材を酸化する成分であり、第二銅イオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に該第二銅イオン含有させることができる。上記第二銅イオン源としては、硫酸第二銅、塩化第二銅、硝酸第二銅、水酸化第二銅等が挙げられる。上記第二銅イオン源のうちでは、硫酸第二銅、塩化第二銅が安価であるという点から好ましい。
【0053】
本実施形態において、酸系エッチング剤中の上記第二銅イオンの含有量は、0.001~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01~7質量%、さらに好ましくは0.05~1質量%、である。上記第二銅イオンの含有量が上記下限値以上であれば、金属部材の粗化速度(溶解速度)の低下を防ぐことができる。一方、上記第二銅イオンの含有量が上記上限値以下であれば、粗化速度を適正に維持することができるため、金属部材103と樹脂部材105との間の接合強度向上により適した均一な粗化が可能になる。
【0054】
上記酸系エッチング剤は、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの一方を含むものであってもよく、両方を含むものであってもよいが、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの両方を含むことが好ましい。酸系エッチング剤が第二鉄イオンおよび第二銅イオンの両方を含むことで、金属部材103と樹脂部材105との間の接合強度向上により適した良好な粗化形状が容易に得られる。
【0055】
上記酸系エッチング剤が、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの両方を含む場合、第二鉄イオンおよび第二銅イオンのそれぞれの含有量が、上記範囲であることが好ましい。また、酸系エッチング剤中の第二鉄イオンと第二銅イオンの含有量の合計は、0.011~20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~15質量%、さらに好ましくは0.5~10質量%、特に好ましくは1~5質量%である。
【0056】
上記酸系エッチング剤は、上記式(1)で表される金属塩(Q)を含み、その含有量は5~40質量%であることが好ましく、10~35質量%がより好ましい。酸系エッチング剤を調製する際に用いられる金属塩(Q)は含水塩の形態であってもよい。なお、含水塩の形態の場合は、結晶水を除いた成分量が金属塩(Q)の含有量となる。本実施形態において、金属塩(Q)は酸液エッチング剤に完全溶解した水溶液の形態であってもよいし、一部金属塩(Q)が飽和状態にあり沈殿していてもよい。また本実施形態においては上記金属塩(Q)の濃度である質量%は、溶解分と未溶解分(沈殿分)の合計量が酸系エッチング剤に占める濃度として定義される。
【0057】
・マンガンイオン
上記酸系エッチング剤には、金属部材表面をむらなく一様に粗化するために、マンガンイオンが含まれていてもよい。マンガンイオンは、マンガンイオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に該マンガンイオンを含有させることができる。上記マンガンイオン源としては、硫酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン、フッ化マンガン、硝酸マンガン等が挙げられる。上記マンガンイオン源のうちでは、硫酸マンガン、塩化マンガンが安価である等の点から好ましい。
【0058】
本実施形態において、酸系エッチング剤中の上記マンガンイオンの含有量は、0~1質量%であることが好ましく、より好ましくは0~0.5質量%である。上記マンガンイオンの含有量は、樹脂部材105を構成する樹脂組成物(P)がポリオレフィン系樹脂の場合は0質量%であっても十分な接合強度を発現することを本発明者らは確認している。すなわち、樹脂組成物(P)としてポリオレフィン系樹脂を用いる場合は上記マンガンイオン含有量は0質量%であることが好ましく、一方、ポリオレフィン系樹脂以外の熱可塑性樹脂を用いる場合は上記上限値以下のマンガンイオンが適宜使用される。
【0059】
・酸
上記酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸や、スルホン酸、カルボン酸等の有機酸が挙げられる。上記カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸等が挙げられる。上記酸系エッチング剤には、これらの酸を一種または二種以上配合することができる。上記無機酸のうちでは、安価である点から硫酸または塩酸が好ましい。また、上記有機酸のうちでは、粗化形状の均一性の観点から、カルボン酸が好ましい。
【0060】
本実施形態において、酸系エッチング剤中の上記酸の含有量は、0.1~50質量%であることが好ましく、0.5~50質量%であることがより好ましく、1~50質量%であることがさらに好ましく、1~30質量%であることがさらにより好ましく、1~25質量%であることがさらにより好ましく、2~18質量%であることがさらにより好ましい。上記酸の含有量が上記下限値以上であれば、金属の粗化速度(溶解速度)の低下を防止できる。一方、上記酸の含有量が上記上限値以下であれば、粗化速度を適正に制御できる。
【0061】
・他の成分
本実施形態において使用できる酸系エッチング剤には、指紋等の表面汚染物による粗化のむらを防ぐために界面活性剤を添加してもよく、必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。他の添加剤としては、深い凹凸を形成するために添加されるハロゲン化物イオン源、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等を例示できる。あるいは、粗化処理速度を上げるために添加されるチオ硫酸イオン、チオ尿素等のチオ化合物や、より均一な粗化形状を得るために添加されるイミダゾール、トリアゾール、テトラゾール等のアゾール類や、粗化反応を制御するために添加されるpH調整剤等も例示できる。これら他の成分を添加する場合、その合計含有量は、酸系エッチング剤中に0.01~10質量%程度であることが好ましい。
【0062】
本実施形態の酸系エッチング剤は、上記の各成分をイオン交換水等に溶解させることにより容易に調製することができる。
【0063】
<樹脂部材>
以下、本実施形態に係る樹脂部材105について説明する。
樹脂部材105は樹脂組成物(P)からなる。樹脂組成物(P)は、樹脂成分とし樹脂(A)と、必要に応じて充填材(B)と、含む。さらに、樹脂組成物(P)は必要に応じてその他の配合剤を含む。なお、便宜上、樹脂部材105が樹脂(A)のみからなる場合であっても、樹脂部材105は樹脂組成物(P)からなると記載する。
【0064】
(樹脂(A))
樹脂(A)としては特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂等のポリメタクリル系樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂等のポリアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール-ポリ塩化ビニル共重合体樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、無水マレイン酸-スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等の芳香族ポリエーテルケトン、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アイオノマー、アミノポリアクリルアミド樹脂、イソブチレン無水マレイン酸コポリマー、ABS、ACS、AES、AS、ASA、MBS、エチレン-塩化ビニルコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニルグラフトポリマー、エチレン-ビニルアルコールコポリマー、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、カルボキシビニルポリマー、ケトン樹脂、非晶性コポリエステル樹脂、ノルボルネン樹脂、フッ素プラスチック、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フッ素化エチレンポリプロピレン樹脂、PFA、ポリクロロフルオロエチレン樹脂、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリパラメチルスチレン樹脂、ポリアリルアミン樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、オリゴエステルアクリレート、キシレン樹脂、マレイン酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリグルタミン酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は一種単独で使用してもよいし、二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0065】
これらの中でも、樹脂(A)としては、金属部材103と樹脂部材105との接合強度向上効果がより効果的に得ることができる観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂およびポリアミド系樹脂から選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
【0066】
上記ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンを重合して得られる重合体を特に限定なく使用することができる。
上記ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィンとしては、例えば、エチレン、α-オレフィン、環状オレフィン等が挙げられる。
【0067】
上記α-オレフィンとしては、炭素原子数3~30、好ましくは炭素原子数3~20の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが挙げられる。より具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。
【0068】
上記環状オレフィンとしては、炭素原子数3~30の環状オレフィンが挙げられ、好ましくは炭素原子数3~20である。より具体的には、シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、テトラシクロドデセン、2-メチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン等が挙げられる。
【0069】
上記ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィンとして好ましくは、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。これらのうち、より好ましくは、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンであり、さらに好ましくはエチレンまたはプロピレンである。
【0070】
上記ポリオレフィン系樹脂は、上述したオレフィンを一種単独で重合して得られたもの、または二種以上を組み合わせてランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合して得られたものであってもよい。
【0071】
また、上記ポリオレフィン系樹脂としては、直鎖状のものであっても、分岐構造を導入したものであってもよい。
【0072】
上記ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)等が挙げられる。
【0073】
上記ポリアミド系樹脂としては、例えば、PA6、PA12等の開環重合系脂肪族ポリアミド;PA66、PA46、PA610、PA612、PA11等の重縮合系ポリアミド;MXD6、PA6T、PA9T、PA6T/66、PA6T/6I、PA6I/66、PA6T/DT、PA6T/6、アモルファスPA等の半芳香族ポリアミド;ポリ(p-フェニレンテレフタルアミド)、ポリ(m-フェニレンテレフタルアミド)、ポリ(m-フェニレンイソフタルアミド)等の全芳香族ポリアミド、アミド系エラストマー等が挙げられる。
【0074】
また、樹脂(A)としては、金属部材103と樹脂部材105との接合強度向上効果がより効果的に得ることができる観点から、ガラス転移温度が140℃以上の熱可塑性樹脂および非晶性熱可塑性樹脂から選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
【0075】
上記ガラス転移温度が140℃以上の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等の芳香族ポリエーテルケトン、ポリイミド樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、およびポリエーテルスルホン樹脂から選択される一種または二種以上が挙げられる。
【0076】
上記非晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ポリメタクリル酸メチル樹脂、およびポリカーボネート樹脂から選択される一種または二種以上が挙げられる。
【0077】
樹脂(A)としては熱可塑性エラストマーを用いてもよい。
上記熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーから選択される一種または二種以上が挙げられる。
【0078】
また、樹脂(A)は熱硬化性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物として、ガラスやカーボンから成る長繊維、連続繊維を熱硬化性樹脂で固めた長繊維強化複合体や連続繊維強化複合体等が挙げられ、例えば、SMC(繊維シート・モールディング・コンパウンド)やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)、GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)も含まれる。熱硬化性樹脂としては、特に限定はされないが、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。
【0079】
(充填材(B))
金属部材103と樹脂部材105との線膨張係数差の調整や樹脂部材105の機械的強度を向上させる観点から、充填材(B)をさらに含んでもよい。
【0080】
充填材(B)としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維等の有機繊維、炭素粒子、粘土、タルク、シリカ、ミネラル、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、セルロース繊維からなる群から一種または二種以上を選ぶことができる。これらのうち、好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、ミネラルから選択される一種または二種以上である。
【0081】
充填材(B)の形状は特に限定されず、繊維状、粒子状、板状等どのような形状であってもよい。
【0082】
充填材(B)は、最大長さが10nm以上600μm以下の範囲にある充填材を数分率で5~100%有することが好ましい。当該最大長さは、より好ましくは、30nm以上550μm以下、さらに好ましくは50nm以上500μm以下である。また、該最大長さの範囲にある充填材(B)の数分率は、好ましくは10~100%であり、より好ましくは20~100%である。
【0083】
充填材(B)の最大長さが上記範囲にあると、樹脂組成物(P)の成形時に溶融した樹脂組成物(P)中を充填材(B)が容易に動くことができるので、後述する金属/樹脂複合構造体106の製造時において、金属部材表面付近にも一定程度の割合で充填材(B)を存在させることが可能となる。そのため、上述したように充填材(B)と相互作用をする樹脂が金属部材表面の凹凸形状に入り込むことで、より強固な接合強度を持つことが可能となる。
【0084】
また、充填材(B)の数分率が上記範囲にあると、金属部材103表面の凹凸形状と作用するのに十分な数の充填材(B)が樹脂組成物(P)中に存在することになる。
【0085】
なお、充填材(B)の長さは、得られる金属/樹脂複合構造体106から樹脂組成物(P)からなる部材を外したのち、該樹脂組成物(P)をオーブン中で加熱することにより、完全に炭化させ、その後、炭化させた樹脂を取り除き、残った充填材(B)を走査型電子顕微鏡で測定することにより求められる。ここで、充填材(B)の最大長さとは、図5の模式図中でL~Lで示すように、長方形であれば、3辺の内で最大の長さL、円筒形であれば、円の長軸側の直径長さと円筒の高さとで長い方の長さL、球または回転楕円体であれば、あらゆる断面の長軸側の直径長さをとった時のもっとも長い直径の長さLのことである。
【0086】
充填材(B)の数分率は、上記充填材(B)の長さ測定を行う際に用いた電子顕微鏡写真に写るすべての充填材(B)の数を数え、そのうち、上記範囲に含まれる充填材(B)の数を算出することにより求められる。
【0087】
充填材(B)は1種類であっても2種類以上でもよく、2種類以上用いる場合は、全ての種類の充填材(B)をまとめて前述したような方法で最大長さを求める。
【0088】
なお、充填材(B)は、樹脂組成物(P)と混練する前の段階では最大長さが600μmを超える充填材であってもよく、混練中および成形中に切断、粉砕されることで、最大長さが上記範囲に入ったものであってもよい。
【0089】
なお、樹脂組成物(P)が充填材(B)を含む場合、その含有量は、樹脂組成物(P)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは5質量部以上90質量部以下であり、特に好ましくは10質量部以上80質量部以下である。
【0090】
充填材(B)は、樹脂部材105の剛性を高める効果の他、樹脂部材105の線膨張係数を制御できる効果がある。特に、本実施形態の金属部材103と樹脂部材105との複合体の場合は、金属部材103と樹脂部材105との形状安定性の温度依存性が大きく異なることが多いので、大きな温度変化が起こると複合体に歪みが掛かりやすい。樹脂部材105が上記充填材(B)を含有することにより、この歪みを低減することができる。また、上記充填材(B)の含有量が上記範囲内であることにより、靱性の低減を抑制することができる。
【0091】
(その他の配合剤)
樹脂組成物(P)には、個々の機能を付与する目的でその他の配合剤を含んでもよい。
【0092】
上記配合剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃性改質剤等が挙げられる。
【0093】
(樹脂組成物(P)の製造方法)
樹脂組成物(P)の製造方法は特に限定されず、一般的に公知の方法により製造することができる。例えば、以下の方法が挙げられる。まず、樹脂(A)、必要に応じて上記充填材(B)、さらに必要に応じて上記その他の配合剤とを、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機、高速2軸押出機等の混合装置を用いて、混合または溶融混合することにより、樹脂組成物(P)が得られる。
【0094】
[金属/樹脂複合構造体の製造方法]
つづいて、本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106の製造方法について説明する。
金属/樹脂複合構造体106の製造方法は特に限定されず、上記表面粗化処理を行った金属部材103に対して、上記樹脂組成物(P)を所望の樹脂部材105の形状になるように成形しながら接合させることにより得られる。
【0095】
樹脂部材105の成形方法としては、射出成形、押出成形、加熱プレス成形、圧縮成形、トランスファーモールド成形、注型成形、レーザー溶着成形、反応射出成形(RIM成形)、リム成形(LIM成形)、溶射成形等の樹脂成形方法を採用できる。
【0096】
これらの中でも、金属/樹脂複合構造体106の製造方法としては、射出成形法が好ましく、具体的には、金属部材103を射出成形金型のキャビティ部にインサートし、樹脂組成物(P)を金型に射出する射出成形法により製造することが好ましい。具体的には、以下の(i)~(ii)の工程を含む方法が好ましい。
(i)金属部材103を射出成形用の金型内に設置する工程
(ii)樹脂組成物(P)を、金属部材103の少なくとも一部と接するように、上記金型内に射出成形し、樹脂部材105を形成する工程
以下、(i)、(ii)の工程による射出成形方法について説明する。
【0097】
まず、射出成形用の金型を用意し、その金型を開いてその一部に金属部材103を設置する。その後、金型を閉じ、樹脂組成物(P)の少なくとも一部が金属部材103の表面に凹部形状を形成した面と接するように、上記金型内に樹脂組成物(P)を射出して固化する。その後、金型を開き離型することにより、金属/樹脂複合構造体106を得ることができる。
【0098】
また、上記(i)~(ii)の工程による射出成形にあわせて、射出発泡成形や、金型を急速に加熱冷却する高速ヒートサイクル成形(RHCM、ヒート&クール成形)を併用してもよい。
射出発泡成形の方法として、化学発泡剤を樹脂に添加する方法や、射出成形機のシリンダー部に直接、窒素ガスや炭酸ガスを注入する方法、あるいは、窒素ガスや炭酸ガスを超臨界状態で射出成形機のシリンダー部に注入するMuCell射出発泡成形法があるが、いずれの方法でも樹脂部材が発泡体である金属/樹脂複合構造体を得ることができる。また、いずれの方法でも、金型の制御方法として、カウンタープレッシャーを使用したり、成形品の形状によってはコアバックを利用したりすることも可能である。
高速ヒートサイクル成形は、急速加熱冷却装置を金型に接続することにより、実施することができる。急速加熱冷却装置は、一般的に使用されている方式で構わない。加熱方法として、蒸気式、加圧熱水式、熱水式、熱油式、電気ヒータ式、電磁誘導過熱式のいずれか1方式またはそれらを複数組み合わせた方式でよい。冷却方法としては、冷水式、冷油式のいずれか1方式またはそれらを組み合わせた方式でよい。高速ヒートサイクル成形法の条件としては、例えば、射出成形金型を100℃以上280℃以下の温度に加熱し、樹脂組成物(P)の射出が完了した後、上記射出成形金型を冷却することが望ましい。金型を加熱する温度は、樹脂組成物(P)によって好ましい範囲が異なり、結晶性樹脂で融点が200℃未満の樹脂であれば、100℃以上150℃以下が好ましく、結晶性樹脂で融点が200℃以上の樹脂であれば、140℃以上250℃以下が望ましい。非晶性樹脂については、50℃以上270℃以下が望ましく、100℃以上250℃以下がより望ましい。
【0099】
[金属/樹脂複合構造体の用途]
本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106は、生産性が高く、形状制御の自由度も高いので、様々な用途に展開することが可能である。
さらに、本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106は、高い気密性、水密性が発現するので、これらの特性に応じた用途に好適に用いられる。
【0100】
例えば、車両用構造部品、車両搭載用品、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品、種々の自動車用部品、電子機器用部品、家具、台所用品等の家財向け用途、医療機器、建築資材の部品、その他の構造用部品や外装用部品等が挙げられる。
【0101】
より具体的には、樹脂だけでは強度が足りない部分を金属がサポートする様にデザインされた次のような部品である。車両関係では、インスツルメントパネル、コンソールボックス、ドアノブ、ドアトリム、シフトレバー、ペダル類、グローブボックス、バンパー、ボンネット、フェンダー、トランク、ドア、ルーフ、ピラー、座席シート、ラジエータ、オイルパン、ステアリングホイール、ECUボックス、電装部品等が挙げられる。また、建材や家具類として、ガラス窓枠、手すり、カーテンレール、たんす、引き出し、クローゼット、書棚、机、椅子等が挙げられる。また、精密電子部品類として、コネクタ、リレー、ギヤ等が挙げられる。また、輸送容器として、輸送コンテナ、スーツケース、トランク等が挙げられる。
【0102】
また、金属部材103の高い熱伝導率と、樹脂組成物(P)の断熱的性質とを組み合わせ、ヒートマネージメントを最適に設計する機器に使用される部品用途、例えば、各種家電にも用いることができる。具体的には、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、電子レンジ、エアコン、照明機器、電気湯沸かし器、テレビ、時計、換気扇、プロジェクター、スピーカー等の家電製品類、パソコン、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、タブレット型PC、携帯音楽プレーヤー、携帯ゲーム機、充電器、電池等電子情報機器等が挙げられる。
【0103】
これらについては、金属部材103の表面を粗化することによって表面積が増加するため、金属部材103と樹脂部材105との間の接触面積が増加し、接触界面の熱抵抗を低減させることができることに由来する。
【0104】
その他の用途として、玩具、スポーツ用具、靴、サンダル、鞄、フォークやナイフ、スプーン、皿等の食器類、ボールペンやシャープペン、ファイル、バインダー等の文具類、フライパンや鍋、やかん、フライ返し、おたま、穴杓子、泡だて器、トング等の調理器具、リチウムイオン2次電池用部品、ロボット等が挙げられる。
【0105】
以上、本発明の金属/樹脂複合構造体の用途について述べたが、これらは本発明の用途の例示であり、上記以外の様々な用途に用いることもできる。
【0106】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0107】
以下、本実施形態を、実施例・比較例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0108】
なお、図1、2は各実施例の共通の図として使用する。
図1は、金属部材103と樹脂部材105との金属/樹脂複合構造体106の構造の一例を模式的に示した外観図である。
図2は、金属部材103と樹脂部材105との金属/樹脂複合構造体106を製造する過程の一例を模式的に示した構成図である。具体的には所定形状に加工され、表面に微細凹凸面を有する接合部表面(表面処理領域)104が形成された金属部材103を射出成形用の金型102内に設置し、射出成形機101により、樹脂組成物(P)をゲート/ランナー107を通して射出し、微細凹凸面が形成された金属部材103と一体化された金属/樹脂複合構造体106を製造する過程を模式的に示している。
【0109】
(金属部材表面の、十点平均粗さ(Rz)、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)、および算術平均粗さ(Ra)の測定)
表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」を使用し、JIS B0601(対応ISO4287)に準拠して測定される表面粗さのうち、十点平均粗さ(Rz)、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)および算術平均粗さ(Ra)を測定した。なお、測定条件は以下のとおりである。
・触針先端半径:5μm
・基準長さ:0.8mm
・評価長さ:4mm
・測定速度:0.06mm/sec
測定は、金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部についておこなった(図4参照)。
また、粗化の均一性については本実施例で用いた、合計6点の測定値の統計学上の変動係数からの判断以外に、粗化面の光学顕微鏡観察から判断することも可能である。
なお、本実施例・比較例では、金属部材103の全面について粗化処理をおこなっているため、金属/樹脂複合構造体106の接合部表面104について十点平均粗さ(Rz)、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)および算術平均粗さ(Ra)の測定をおこなっても、図4に示す測定箇所と同様の評価結果が得られることが理解される。
【0110】
(接合強度の評価方法)
引っ張り試験機「モデル1323(アイコーエンジニヤリング社製)」を使用し、引張試験機に専用の治具を取り付け、室温(23℃)にて、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件にて測定をおこなった。破断荷重(N)を金属/樹脂接合部分の面積で除することにより接合強度(MPa)を得た。
【0111】
(破壊形態観察)
引張試験後のアルミ側を観察し、金属/樹脂接合部分の界面に樹脂が残っていれば材料破壊とした。界面の一部のみに樹脂が残っている場合は、一部材料破壊とし、接合強度が不足していることを示す。
【0112】
(金属部材の表面粗化処理A)
[調製例1](酸系エッチング剤1による表面粗化処理)
JIS H4000に規定された合金番号6063のアルミニウム板(厚み:2.0mm)を、長さ45mm、幅18mmに切断した。このアルミニウム板を表1に示す組成の酸系エッチング剤1(30℃)中に600秒間浸漬し、揺動させることによってエッチングした。次いで、流水で超音波洗浄(水中、1分)を行い、乾燥させることにより表面処理済みの金属部材を得た。
得られた表面処理済みの金属部材の表面粗さを、表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」を使用して測定し、6直線部について、十点平均粗さ(Rz)、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)、および算術平均粗さ(Ra)を求めた。結果を表2に示す。なお、表中には、エッチング処理前後の金属部材の質量(各々、WおよびW、単位[g])の測定値を下記式(2)に代入することにより求められるエッチングによる金属損失量ΔW(mg/cm)も併記した。
ΔW=(W-W)×1000/S (2)
ここでSは金属部材103の表面積[cm]を示す。
【0113】
[調製例2](酸系エッチング剤2による表面粗化処理)
調製例1で、酸系エッチング剤1を表1に示す酸系エッチング剤2に変えて300秒間エッチングしたこと以外は同様の処理を行い、表面処理済みの金属部材を得た。
得られた表面処理済み金属部材のRz、RSm、Raおよび金属損失量を表2に示す。
【0114】
[調製例3](酸系エッチング剤3による表面粗化処理)
調製例1で、酸系エッチング剤1を表1に示す酸系エッチング剤3に変えて400秒間エッチングしたこと以外は同様の処理を行い、表面処理済みの金属部材を得た。
得られた表面処理済み金属部材のRz、RSm、Raおよび金属損失量を表2に示す。
【0115】
[調製例4](陽極酸化による表面粗化処理)
特許4541153号の実施例に記載された方法に準じて粗化処理した。すなわち、調製例1で用いたアルミニウム板を、液温約25℃、濃度30質量%の燐酸水溶液からなる燐酸浴の陽極側とし、電圧50V程度、電流密度0.5~1A/dm程度で直流法により電気分解を20分行うことにより陽極酸化皮膜を形成させた。得られた表面処理済み金属部材のRz、RSm、Raおよび金属損失量を表2に示す。
【0116】
[調製例5](NMT法による表面粗化処理)
特開2005-119005号公報の実施例1に記載の処理法に準じて粗化処理した。すなわち、市販のアルミニウム脱脂剤「NE-6(メルテックス社製)」を15%濃度で水に溶かし75℃とした。この水溶液が入ったアルミニウム脱脂槽に、調製例1で用いたアルミニウム板を5分間浸漬し水洗し、40℃の1%塩酸水溶液が入った槽に1分浸漬し水洗した。つづいて、40℃の1%水酸化ナトリウム水溶液が入った槽に1分浸漬し水洗した。次いで40℃の1%塩酸水溶液を入れた槽に1分浸漬し水洗し、60℃の2.5%濃度の1水和ヒドラジン水溶液を入れた第1ビドラジン処理槽に1分浸漬し、40℃の0.5%濃度の1水和ヒドラジン水溶液を入れた第2ヒドラジン処理槽に0.5分浸漬し水洗した。これを40℃で15分間、60℃で5分程度温風乾燥させることにより、表面処理済みの金属部材を得た。得られた表面処理済み金属部材のRz、RSm、Raおよび金属損失量を表2に示す。
【0117】
[調製例6](酸系エッチング剤4による表面粗化処理)
調製例1で、酸系エッチング剤1を表1に示す酸系エッチング剤4に変えて250秒間エッチングしたこと以外は同様の処理を行い、表面処理済みの金属部材を得た。
得られた表面処理済み金属部材のRz、RSm、Raおよび金属損失量を表2に示す。
【0118】
[調製例7](酸系エッチング剤5による表面粗化処理)
調製例1で、酸系エッチング剤1を表1に示す酸系エッチング剤5に変えて200秒間エッチングしたこと以外は同様の処理を行い、表面処理済みの金属部材を得た。
得られた表面処理済み金属部材のRz、RSm、Raおよび金属損失量を表3に示す。
【0119】
[調製例8](酸系エッチング剤6による表面粗化処理)
調製例1で、酸系エッチング剤1を表1に示す酸系エッチング剤6に変えて150秒間エッチングしたこと以外は同様の処理を行い、表面処理済みの金属部材を得た。
得られた表面処理済み金属部材のRz、RSm、Raおよび金属損失量を表3に示す。
【0120】
[調製例9](酸系エッチング剤7による表面粗化処理)
調製例1で、酸系エッチング剤1を表1に示す酸系エッチング剤7に変えて100秒間エッチングしたこと以外は同様の処理を行い、表面処理済みの金属部材を得た。
得られた表面処理済み金属部材のRz、RSm、Raおよび金属損失量を表3に示す。
【0121】
[調製例10](酸系エッチング剤8による表面粗化処理)
調製例1で、酸系エッチング剤1を表1に示す酸系エッチング剤8に変えて250秒間エッチングしたこと以外は同様の処理を行い、表面処理済みの金属部材を得た。
得られた表面処理済み金属部材のRz、RSm、Raおよび金属損失量を表3に示す。
【0122】
[調製例11](酸系エッチング剤9による表面粗化処理)
調製例1で、酸系エッチング剤1を表1に示す酸系エッチング剤9に変えて600秒間エッチングしたこと以外は同様の処理を行い、表面処理済みの金属部材を得た。
得られた表面処理済み金属部材のRz、RSm、Raおよび金属損失量を表3に示す。
【0123】
[調製例12](酸系エッチング剤10による表面粗化処理)
調製例1で、酸系エッチング剤1を表1に示す酸系エッチング剤10に変えて250秒間エッチングしたこと以外は同様の処理を行い、表面処理済みの金属部材を得た。
得られた表面処理済み金属部材のRz、RSm、Raおよび金属損失量を表3に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
【表3】
【0127】
上記の表2、3から明らかなように、酸系エッチング剤中に式(1)で表される金属塩(Q)を含有させることによって、粗化金属表面の任意の6直線部について表面粗さ測定装置で測定対象とした項目である十点平均粗さ(Rz)、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)および算術平均粗さ(Ra)の各測定値は、本実施形態で規定した特定範囲に収束すると同時に、6点の測定値の変動係数は有意に減少傾向を示している。すなわち、金属表面の粗さパラメーターであるRzとRSm、好ましくはさらにRaが本実施形態で規定した特定範囲に収まることによって、粗化金属と各種の樹脂組成物とが優れた接合強度を発現し、粗化形状パターンが粗化面全体に渡って均一である。そのため、複合体における樹脂/金属間の接合力のバラツキ低下にも資することが期待される。さらにはエッチングによって消失する金属量も低減することができることから、より効率的かつ低環境負荷プロセスにより高強度・安定接合を得ることができる。
【0128】
[実施例1~6]
日本製鋼所社製のJ85AD110Hに小型ダンベル金属インサート金型102を装着し、金型102内に表4に示すアルミニウム板(金属部材103)をそれぞれ設置した。次いで、その金型102内に樹脂組成物(P)として、ポリプラスチックス社製PBT樹脂(ジュラネックス930HL)を、シリンダー温度280℃、金型温度150℃、射出速度25mm/sec、保圧80MPa、保圧時間10秒の条件にて射出成形をそれぞれ行い、金属/樹脂複合構造体106をそれぞれ得た。接合強度の評価結果を表4にそれぞれ示す。
【0129】
[実施例7、8]
アルミニウム板を表4に示すアルミニウム板にそれぞれ変更し、樹脂組成物(P)をプライムポリマー社製PP樹脂(V7100)に変更し、射出成形条件をシリンダー温度250℃、金型温度120℃に変更した以外は実施例1-6と同様にして金属/樹脂複合構造体106をそれぞれ得た。接合強度の評価結果を表4にそれぞれ示す。
【0130】
[実施例9、10]
日本製鋼所社製のJ85AD110Hに小型ダンベル金属インサート金型102を装着し、金型102内に表4に示すアルミニウム板(金属部材103)を設置した。次いで、高速ヒートサイクル成形用金型温調装置(Single社製ATT H2)を接続した金型102の表面温度を、加熱媒体である加圧熱水を用いて155℃まで加熱した。次いで、その金型102内に、樹脂組成物(P)としてPC樹脂(帝人社製パンライトL1225L)を、シリンダー温度320℃、射出速度25mm/sec、保圧100MPa、保圧時間15秒の条件にて射出成形をそれぞれ行い、次いで、冷却媒体である水にて金型102の表面温度を60℃まで急冷し、金属/樹脂複合構造体106をそれぞれ得た。接合強度の評価結果を表4にそれぞれ示す。
【0131】
[実施例11,12]
アルミニウム板を表4に示すアルミニウム板にそれぞれ変更し、樹脂組成物(P)をSolvey社製PEEK樹脂(AV651GS30)に変更し、射出成形条件をシリンダー温度410℃、金型温度195℃、保圧130MPa、保圧時間8秒に変更した以外は実施例1-6と同様にして金属/樹脂複合構造体106をそれぞれ得た。接合強度の評価結果を表4にそれぞれ示す。
【0132】
[実施例13]
アルミニウム板を表4に示すアルミニウム板に変更し、樹脂組成物(P)をDIC Bayer社製TPU樹脂(T8190N)に変更し、射出成形条件をシリンダー温度210℃、金型温度100℃、保圧100MPa、保圧時間15秒に変更した以外は実施例1-6と同様にして金属/樹脂複合構造体106を得た。接合強度の評価結果を表4に示す。
【0133】
[実施例14]
アルミニウム板を表4に示すアルミニウム板に変更し、実施例1と同様の方法にて金属/樹脂複合構造体106を得た。接合強度の評価結果を表4に示す。
【0134】
[比較例1~5]
アルミニウム板を表4に示すアルミニウム板にそれぞれ変更し、実施例1~6と同様の方法にて金属/樹脂複合構造体106をそれぞれ得た。接合強度の評価結果を表4にそれぞれ示す。
【0135】
【表4】
【0136】
表4に示す通り、本実施形態で規定した特定範囲に収束する表面構造を有するアルミニウム板を用いて成形した金属/樹脂複合構造体は、材料破壊レベルかつ、従来にない高強度接合が得られている。一方で、比較例1~4においては材料破壊レベルの強度は得られているものの、実施例に比べ強度は劣り、かつ用いた金属は均一な粗化形状パターンを得られていない為、大面積接合においては強度がバラつくことが予想される。比較例5においては、均一な粗化形状パターンは得られているが、強度が不足し、一部材料破壊レベルにとどまっている。よって、本実施形態で規定した特定範囲に収束する表面構造を有するアルミニウム板は、粗化均一性、低金属損失量(低コスト、低環境負荷)、高強度接合のすべての点で優れていると言える。
【産業上の利用可能性】
【0137】
以上詳述したように、本発明の金属/樹脂複合構造体106は、金属部材103と樹脂部材105とが容易に剥がれることなく一体化されたものであり、高い接合強度を得ることができる。
本発明の金属/樹脂複合構造体106は、様々な形状を比較的簡便な方法で実現することができる。そのため、本発明の産業の発展への寄与は大きい。
【0138】
この出願は、2016年5月31日に出願された日本出願特願2016-109286号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2
図3
図4
図5