(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】赤外線ガス検出器を用いたワイドレンジのガス検出法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3504 20140101AFI20220318BHJP
【FI】
G01N21/3504
(21)【出願番号】P 2018536389
(86)(22)【出願日】2017-01-06
(86)【国際出願番号】 EP2017050268
(87)【国際公開番号】W WO2017121688
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2019-12-24
(32)【優先日】2016-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520330386
【氏名又は名称】インフィコン・ホールディング・アーゲー
【氏名又は名称原語表記】INFICON HOLDING AG
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】ヘルグレン・ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】エンクイスト・フレドリク
(72)【発明者】
【氏名】ヴェナーベルグ・ヘンリク
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-226097(JP,A)
【文献】特開2015-127679(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0000285(US,A1)
【文献】特表2014-527172(JP,A)
【文献】特開2004-205272(JP,A)
【文献】特表2004-515777(JP,A)
【文献】特開平07-159323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガス入口(12)、基準ガス入口(14)、ガス変調バルブ(16)
、および
分析対象のガスと赤外線照射光が相互作用する光路を有する赤外線ガス分析計(24)を備えるガス検出システムを用いた、広範囲なガス検出方法であって、
前記ガス変調バルブ(16)は、サンプリング時間では前記試料ガス入口(12)を前記ガス分析計(24)へと、基準時間では前記基準ガス入口(14)を前記ガス分析計(24)へと
、ガス変調周波数で交互に接続する、方法において、
前記
赤外線ガス分析計(24)
の前記光路内での試料ガス濃度が低下するように、前記サンプリング時間が前記基準時間よりも短いものとされることを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記試料ガス入口(12)と前記基準ガス入口(14)との前記ガス変調バルブ(16)の切換えによる前記
赤外線ガス分析計(24)内での
試料ガスパルス(40)の数が
、1よりも大きい、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記
試料ガスパルス(40)の数が5よりも大きい、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法において、前記
赤外線ガス分析計(24)の測定信号は、前記ガス変調バルブ(16)が前記試料ガス入口(12)と前記基準ガス入口(14)との切換えを行う
前記ガス変調周波
数の整数倍である周波数(検出周波数)で分析される、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記
赤外線ガス分析計(24)により生成された前記信号が、さらに、前記ガス変調周波数の整数倍である追加の周波数又は複数の追加の周波数でも分析される、方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法において、前記
赤外線ガス分析計(24)は、分析対象のガスを通過するようにして放射される赤外線照射光を生成する赤外線光源(34)および前記赤外線照射光を検出する赤外線検出器(36)を有する赤外線吸収式ガス分析計である、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記
赤外線ガス分析計(24)の前記赤外線光源(34)の給電が前記ガス変調周波数よりも低いランプ変調周波数で変調されて、前記
赤外線ガス分析計(24)の測定信号が前記ランプ変調周波数の整数倍で分析される、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記
赤外線ガス分析計(24)の前記信号が、さらに、前記ランプ変調周波数の整数倍である追加の周波数又は複数の追加の周波数でも分析される、方法。
【請求項9】
請求項
7または8に記載の方法において、前記ガス変調周波数が前記ランプ変調周波数の整数倍である、方法。
【請求項10】
請求項6から9のいずれか一項に記載の方法において、ガス変調とランプ変調とが組み合わせて行われる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析計、および基準ガス入口と試料ガス入口とを交互にガス分析計に接続するガス変調バルブを用いて、ガス試料中の低濃度の標的ガス及び高濃度の標的ガスの両方を検出する、ワイドレンジのガス検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、このようなガス変調バルブおよびそれぞれのガス変調方法が記載されており、その内容は、参照をもって本明細書に取り入れるものとする。特許文献1に記載のガス検出器は、検出対象のガス(標的ガス)が吸い込まれる試料ガス入口、および周囲の空気からのガスが基準ガスとして吸い込まれる基準ガス入口を備え得るものである。ガス変調バルブが、試料ガス入口と基準ガス入口とを赤外線ガスセンサなどのガスセンサの入口に接続する。赤外線ガスセンサは、例えば、分析対象ガスの入口及びそれぞれの出口を含むキュベット、赤外光源、ならびに赤外線検出器を有し得る。ガス変調バルブからガスセンサ入口へのガス流路は、ガス変調バルブにより試料ガス入口と基準ガス入口とに交互に接続される。好ましくは、ガス変調バルブによる試料ガス入口と基準ガス入口との切換えは、特許文献1に記載されているように周期的頻度(周波数)で周期的に行われる。
【0003】
欧州特許出願第15192115.2号にも、基準ガス入口と試料ガス入口との切換えを行うガス変調バルブを用いたガス変調を利用するガス検出方法が記載されており、同文献の内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【0004】
特許文献1の主な目的は、サンプリング箇所での標的ガスの濃度と周囲の空気中の標的ガスの濃度との濃度差を表す出力信号を提供することにより、ガス検出器を取り囲む周囲の空気中の標的ガスのレベルが大きくなった場合にも、それを選別除去又は補償することである。その他にも、ガス変調を利用する結果として、ガス変調が分析対象の実際のパラメータ(すなわち、ガスの濃度)を変調することで、信号対ノイズ比が大きく向上する。この信号は、光強度の絶対値ではなく、ガスを透過した光と基準ガスを透過した光との強度差である。ガス変調周波数(頻度)でこの検出器信号を分析することにより、周波数の異なる各種のノイズ信号を大きく抑えることができる。
【0005】
赤外線ガス分析計は、ガス試料を通過した赤外線照射光を検出する。典型的には、赤外線ガス分析計は、赤外線源、ガス入口及びガス出口を含むキュベットなどの測定部、ならびに赤外線センサを有する。赤外線光源は、測定部を通過する形で赤外線照射光を測定部に照射し、測定部ではこの照射光が、測定部内に含まれるガス試料を通過する。赤外線センサは、ガス試料を通過した赤外線照射光を受光して検出する。この種の検出器にしばしば使用される典型的な赤外線センサは、非分散形赤外線吸収式検出器(NDIRセンサ)である。NDIRセンサは赤外線照射光の量を、分析対象ガスを通過した照射光の1つ又は複数の波長範囲で測定する。NDIRセンサの選択性は、各測定対象ガス特有の吸収線に適合する適切な波長範囲を選択することによって決まる。その測定原理は、特定のガス成分が特定の波長の赤外線照射光を吸収することに基づいている。このような吸収範囲が、赤外線ガス分析計によって検出される。
【0006】
赤外線センサは、入射した赤外線照射光エネルギーの変化の大きさを電気的な信号に変換する。一部の赤外線センサはピエゾ材料を利用するものであり、焦電センサとして知られている。ピエゾ材料は、入射した照射光を吸収して温度シフトを引き起こし、これが材料内に一時的な電気ポテンシャルを惹起させる。この電気ポテンシャルは、入射した照射光強度の変化の測定値として利用できる。
【0007】
ガス試料中の100万分の1単位(ppm)範囲での低濃度の標的ガスの濃度検出には、長い光路が必要であり、すなわち、赤外線照射光がガス中の分子と相互作用できるだけの長い経路が必要となる。典型的に、手頃な価格帯の照射光源、光学フィルタおよび赤外線照射光検出器を用いた場合、メタンに関して1~10ppmの感度を実現するための光路長は、おおよそ50~150mmとなる。通常、光路長が150mmを超えると、ガスを運び赤外線ガス検出器のキュベットを形成するガス管内での反射損失が原因となり、顕著な性能の向上はなくなる。
【0008】
ガス検出器で「長い光路」を用いる理由は、清浄な空気と低濃度試料との間の信号の差を、系におけるノイズよりも有意に大きくするためである。ノイズ源は、主に、検出器自体とその信号を増幅したり扱い易いデジタル又はアナログ信号に変換したりするために用いられる回路とを含む検出器側に存在する。
【0009】
ガスの吸光は、ベールの法則に従う。この法則は、(非発散光であると仮定して)光路を伝わる光の強度に関して下記のように記述できる:
【0010】
【0011】
(式中、Iは長さLのガス試料を通過した後の光の強度であり、I0はガス試料の光路に入射する光の強度であり、εは(ガスの種類に応じた)モル吸光係数であり、Lは光路長であり、cは光を吸収するガスの濃度である。)
【0012】
これは、所定の長さΔxにつき、信号が一定の相対的減衰を生じることを意味する。この様子は、
図1に描かれている。
【0013】
同図から見て取れるように、差感度は、濃度および光路長が増えるにつれて低下する。光路は、低ppm感度に関して最適化されるように長く設定する必要がある。そのため、標的ガスの例えば90%と95%との違いを判断することは極めて困難になる。
【0014】
このような「飽和」現象が発生するほどに長い光路のことを「長い光路」と称する。環境中の含有量を測定する際のこのような光路のことを「分厚い雰囲気」と称する。
【0015】
この現象は、同一のキュベットで低濃度の分析と高濃度の分析を行うことを困難なものとしている。
【0016】
飽和現象は、数多くの他の種類のセンサ、特には化学式のセンサや電気化学式のセンサにおいても起こる。他の種類のセンサでの飽和現象の理由は、赤外線ガス分析計とは異なり得る。しかしながら、本発明の解決技術は、化学式ガス分析計、電気化学式ガス分析計などの他の種類のセンサにも適用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、ガス変調を利用した低濃度用に最適化されたガス分析計において、高濃度ガスを分析する能力を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の主題は、独立請求項1により定まる。
【0020】
そこで、ガス変調バルブが試料ガス入口をガス分析計に接続するサンプリング時間が、該ガス変調バルブが基準ガス入口を該ガス分析計に接続する基準時間よりも短く設定される。基準ガス入口と試料ガス入口とのガス変調バルブの交互の切換えが、ガス変調周波数(頻度)でのガス変調を生じさせる。サンプリング時間が基準時間よりも短くなるほど、ガス分析計内での試料ガス濃度、したがって、分析可能な標的ガスの濃度が低くなる。サンプリング時間が基準時間よりも長くなるほど、ガス分析計内での試料ガスの量、したがって、分析可能な標的ガスが多くなる。サンプリング時間とガス変調時間全体との長さの比は、デューティサイクルと称される。つまり、デューティサイクルが、キュベット(赤外線ガス分析計の測定体積空間)内での試料ガスの量を決定する。
【0021】
本発明にかかる方法は、低いガス濃度に関して最適化された様々な種類のガス分析計について、それらの分析計で高いガス濃度も分析する能力を向上させるために適用できる。これは、試料ガス/標的ガスの濃度とガス分析計の測定信号との間に線形性が存在しなくなる飽和現象を生じるガス分析計の場合に極めて有利である。この飽和現象は、赤外線ガス分析計においても、電気化学式ガス分析計などの別の種類の化学式ガス分析計においても起こる。
【0022】
ガス分析計内のガスセンサの応答は、ガス変調バルブのサイクル時間に合わせて調整されるのが望ましい。センサは、単一の試料ガスパルスで飽和することがないように高速過ぎてはいけない。飽和しないようにすることで、1つ又は複数のガス変調サイクルにおける信号の時間重み付き平均を算出することにより、ガスセンサからのより正確な読取りを得ることができる。
【0023】
飽和とは、センサの信号を評価するのに用いられる装置および/またはアルゴリズムが飽和していることも意味し得る。これは、増幅器やAD変換器がレンジ外になっている場合であり得る。この種の飽和も、本発明によって回避できる。
【0024】
好ましくは、赤外線ガス分析計は、赤外線光源(赤外線ランプ)、およびガス変調バルブに連結されたガス入口とガス出口とを含む吸光キュベットを有し、赤外線センサが、赤外線光源により生成されて吸光キュベットを通過した赤外線照射光を検出する。つまり、該赤外線センサは、赤外線光源により生成されて吸光キュベット内の試料ガスとこれに含まれ得る標的ガスを通過した赤外線照射光を検出する。
【0025】
好ましくは、赤外線ガス分析計内を流れる又は通過するガス流は、ポンプによって生成される。このポンプは、ガス変調バルブと赤外線ガス分析計とを連結するガス流路内に配置できる。
【0026】
ガス変調周波数とポンプにより生成される赤外線ガス分析計内のガス流とは、ガス分析時のあらゆる時点において該ガス分析計(キュベット)内に少なくとも1つ、好ましくは5を超える数の完全な試料ガスパルスが存在するように選択される。
【0027】
ガス分析計により生成される測定信号は、ガス変調周波数に合致するかまたはその整数倍となる検出周波数(頻度)で分析される。これに加えて、測定信号は同時に、ガス変調周波数の整数倍となる一の又は複数の別の周波数(頻度)でも分析できる。
【0028】
赤外線光源は、(好ましくはガス変調周波数よりも低い)ランプ変調周波数(頻度)で繰り返し点灯・消灯される。赤外線ガス分析計の測定信号は、ランプ変調周波数に合致するか又はランプ変調周波数の整数倍となる検出周波数(頻度)で分析できる。赤外線ガス分析計の測定信号は同時に、ランプ変調周波数の整数倍となる一又は複数の他の周波数(頻度)でも分析できる。
【0029】
ガス変調周波数は、ランプ変調周波数の整数倍であることが望ましい。ここで整数倍とは、同一の周波数、2倍の周波数、3倍の周波数、それ以上の倍数の周波数等であり得る。
【0030】
この問題に対する自明な解決策は、高濃度検出の場合により短い第2の経路を使用することであるが、これには、追加のキュベット及び追加の検出器のための追加のコストを伴う。他の可能性として、長いキュベットの開始部分に追加の検出器を配置することで、第2の短い経路を形成することも考えられる。後者の解決策は、第2のキュベットのためのコストを節約できるが、2個目の検出器までの開口空間内において散乱光による迷光損失を引き起こすので、信号に悪影響を与えることになる。
【0031】
本発明では、上記に替えて、キュベットの一部のみが標的ガスを含む試料で充填されるようにガス変調バルブのデューティサイクルを調節することにより、ガス変調バルブを用いて仮想的な短い経路を形成する。
【0032】
(低濃度を検出する)通常の高感度モードでは、最良の性能のためにガス変調バルブ、典型的に50%のデューティサイクル(50%の試料ガスおよび50%の基準ガス)で切り換えられる。さらに、それら2種類のサンプリングフェーズのそれぞれよりも短時間で、キュベット全体を試料ガス又は空気で充填するように、ポンプ速度が選択される。
【0033】
【0034】
(式中、Φpumpはポンプの平均流量であり、Vcuvetteはキュベット内部の体積であり、fvalveはガス変調周波数である。)
【0035】
流量を多くし過ぎても、信号への寄与は全く又は少ししかなく、エネルギーが無駄になり且つ試料を消耗することになる。1回の変調周期のあいだキュベットをちょうど2回充填するのに十分な流量とすることにより、後述のようにサンプリング時間(sampling time)を基準時間(reference time)よりも短くすることで、試料を希釈することが可能となる。キュベット内でのこの状態は、別の見方をすると、光路が短くなっていると言える。ガス試料を光が通過する長さは、該ガス試料の長さと同一になるので、キュベットの全長よりも短くなる。キュベットが、仮想的に短くなる。
【0036】
このデューティサイクル変化法は、ポータブル型のガス検出機器で典型的に使用されるメンブレンポンプと併用することが困難となり得る。その理由は2つある。第一に、流量は、摩耗やパーティクル汚染により、経時的に極めて安定ではないので、電圧の調整又はタコメータの制御では、十分に予測したり制御することができない。第二に、ポンプからの流量が、ポンピングサイクルの相異なるフェーズ間で大きく変化する。ポンプは、通常、一回転毎(ポンピングサイクル毎)の50%未満の時間しかガス流を供給しない。
【0037】
デューティサイクルによる希薄化を用いた場合、この流れの不確かさは、キュベット内の平均ガス濃度の変動を生じさせる。これは、先のパルスがカラムを脱出し始めたときに新たなガスパルスがカラムに進入し始めることを正確に制御できないからである。そのため、ポンプの速度の小さな変化が、大きな誤差を発生させることになり得る。基本的にこの誤差はポンプの流量の変動と同じぐらい大きくなり、較正ドリフトや貧弱な精度を引き起こす。
【0038】
この現象を抑える手法の一つとして、同じデューティサイクルでもガス変調周波数をより高くすることにより、キュベット内において短いガスパルスを多数生成することが挙げられる。この場合の誤差は、パルスの数をキュベット内のパルスの平均数で除算して得られる数値の変動にまで抑えられる。例えば、変調周波数をおおよそ以下の式の値とすることにより、この誤差は1/nにまで抑えられることができる。
【0039】
【0040】
nはキュベット内のパルスの平均数であり、流量の変動は1/n未満であるとする。本例においてこれは、ポンプの流量の変動が±10%以下である場合に1/10=10%に合致する。
【0041】
赤外線ガス分析計は通常、ガス試料が通過するキュベットを有するのに対し、化学式ガス分析計、電気化学式ガス分析計などの他の種類のガス分析計は、分析対象のガスがセンサ(化学式の又は電気化学式のセンサ)を横断するか又は通過するように設計されている。ガス変調バルブの各切換えによって基準ガスパルスを試料ガスパルス間に導入すれば、試料ガス自体よりも低い平均ガス濃度を実現できる。ガス試料中のガス濃度が飽和し得るのに対し、その低くなった平均ガス濃度は飽和せずに測定信号の強度とガス濃度との間に線形性が成立し得る。これにより、広範囲の濃度にわたるガス検出が可能となる。
【0042】
バルブ変調時間(バルブ変調周波数)をガスセンサの応答時間よりも高速とすることで、ガスセンサをどの時点においても飽和に達しないようにでき、希薄化された平均ガス濃度が測定信号の平均値として評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】所定の長さΔxにつき、信号が一定の相対的減衰を生じる様子を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下では、本発明の例について、
図2~
図4を参照しながら説明する。
試料ガス入口12および基準ガス入口14は、それぞれ試料ガス導管18および基準ガス導管20を介して、ガス変調バルブ16に接続される。ガス変調バルブ16は試料ガス導管18と基準ガス導管20とを交互に、ガス変調バルブ16とガス分析計24とを連結するガス流路22に接続する。
図2に示す第1の実施形態のガス分析計24は、吸光キュベット30を有する非分散形赤外線(NDIR)センサである。
図3及び
図4に示す第2の実施形態のガス分析計24は、電気化学式のガスセンサを用いた電気化学式ガス分析計である。ガス流路22は、ガス変調バルブ16とガス分析計24との間に配置された試料真空ポンプ26を含む。試料ガス入口12と基準ガス入口14とは、手持ち式のガスディテクタープローブの一部であってもよい。この概念は、特許文献1、欧州特許出願第15192135.0号および欧州特許出願第15192115.2号に記載されており、これらの文献の内容は、参照をもって本明細書に取り入れるものとする。
【0045】
従って、ガス変調バルブ16は、基準ガス入口12からの基準ガス導管18と試料ガス入口12からの試料ガス導管20との切換えを行う。ガス変調バルブ16は、導管18及び導管20のいずれかをガス流路(ガス主導管)22に接続する。分析対象のガスは、ガス流路22を通ってガス分析計24へと運ばれる。
【0046】
図2のガス分析計24の吸光キュベット30は入口28を含み、これを通って試料ポンプ26によりポンピングされたガスが該吸光キュベット30内へと案内される。このガスは、出口32を通って該キュベットを脱出する。赤外線光源34は、キュベット30の一方の端部に配置されている。赤外線光源34は、図示しない光学窓により、ガスが通過するキュベット30の体積空間から隔てられている。キュベット30の反対側の端部には、光学フィルタ39および赤外線センサ36が配置されている。光学フィルタ39および赤外線センサ36は、図示しないさらなる光学窓により、ガス試料が通過するキュベット30の体積空間から隔てられている。これらの光学窓は、Si、Ge又はCaF
2からなるものであってもよく、光源34から発生した赤外線照射光を透過させる。このようにして、これらの窓は、赤外線光源34、センサ36および光学フィルタ39を、キュベット30内のガス流路から隔てている。
【0047】
好ましくは、光学フィルタ39は、イクロイックフィルタ又は干渉フィルタであることが好ましい。これらは、光学窓を通過して赤外線センサ36により検出される波長範囲を、例えばメタン等の検出対象のガス(標的ガス)の特性波長に制限する。一般的に、フィルタ39は赤外線照射光の波長範囲を、標的ガスの吸収波長を含むがそれ以外の特徴的ガスの吸収波長を含まない波長範囲に制限するものとすべきである。
【0048】
赤外線光源34から発生した赤外線照射光は、図示しない光学窓を通ってキュベット30の体積空間内へと放射されて、ガス試料を通過してキュベット30を通り抜けた後、図示しないさらなる光学窓及び光学フィルタ39を通って赤外線センサ36により受光される。
【0049】
ガス変調バルブ16は、ノイズ低減及び信号増幅のための信号変調を生成するために用いられる。これによって、バルブ16は、実際の対象箇所におけるガスを試料ガス入口12から、バックグラウンド空気からのガスを基準ガス入口14から、交互のサイクルで取り込む。ガス分析計24の出力信号は、感度を向上させ、バックグラウンドノイズを低減させるため変調バルブ16の切換え周波数(ガス変調周波数)との関連で及び場合によっては位相との関連で分析される。
【0050】
図示しない制御装置が、ガス変調バルブ16の切換え及びガス変調周波数を制御する。高濃度を分析する際には、試料ガス入口12が赤外線分析計24に接続されるサンプリング時間が、基準ガス入口14が該ガス分析計24に接続される基準時間よりも短くなるように切換えが制御される。これにより、キュベット30内に短い試料ガスパルス40が生成される。キュベット30では、隣接する試料ガスパルス40間に基準ガス入口14からの基準ガスが充填される。これにより、キュベット30内での試料ガスの濃度が低下し、該キュベット30において高い標的ガス濃度も分析することが可能となる。キュベット30は十分に長く、すなわち、2つの光学窓間の距離が、1~10ppmの範囲内の低い標的ガス濃度も分析するのに十分に大きいものとされている。このような経路長(2つの光学窓間の距離)は、高い濃度の分厚い雰囲気を分析することが
図1に関して前述した飽和現象により典型的に困難となる、おおよそ50mm~150mmである。
【0051】
ガス分析計24は電気的な検出器信号を生成し、これは図示しない評価装置により分析される。ガス分析計24からのこの測定信号を評価する該評価装置とガス変調バルブ16を制御する制御装置は、単一のプロセッサを共有する単一の構成品とされてもよいし、互いに電気的に接続されてデータを共有及びやり取りし得る別体の構成品とされてもよい。
【0052】
評価装置はセンサ36からの測定信号を、制御装置により制御され得る検出周波数(頻度)で分析及び評価する。該検出周波数は、制御装置によりガス変調周波数に応じて制御される。該検出周波数は、ガス変調周波数の整数倍(1倍、2倍、3倍…)であることが望ましい。評価装置はガス分析を実行するために、センサ36からの測定信号を該検出周波数で取得する。
【0053】
制御装置は、さらに、赤外線光源34への給電が変調されるランプ変調周波数(頻度)を制御する。検出周波数は該ランプ変調周波数に合致するが、該ランプ変調周波数は切換えバルブ16のガス変調周波数よりも低いものとすべきである。これは、センサ36からの電気的な測定信号が評価装置によってランプ変調周波数で分析されることを意味する。ガス変調周波数は、ランプ変調周波数の整数倍(1倍、2倍など)である。
【0054】
図3及び
図4に、電気化学式ガス分析計24を用いた代替的な一実施形態を示す。この第2の実施形態のガス試料は、該ガス試料が赤外線ガス分析計内を案内される第1の実施形態と異なり、電気化学式ガス分析計24の測定面25を通り過ぎる(横断する)ようにして案内される。このようにして、分析対象のガスは、電気的な測定信号を生成する電気化学反応が起こるように測定面25に接触する。測定信号は、ガス変調バルブ16が試料ガス入口12と基準ガス入口14との切換えを行うガス変調周波数の整数倍となる検出周波数で分析される。
【0055】
いずれの実施形態においても、変形例として、試料真空ポンプ26がガス分析計24の下流側に、すなわち、出口32の後に配置されてもよい。ガス入口12とガス分析計24との間のガス主導管22内にポンプ26を配置する利点として、サンプリングプローブの制約条件の変動に起因するキュベット30内での圧力減少が避けられることが挙げられる。
【0056】
さらに、本発明の一般的概念は、試料ガス入口12からの試料ガスを50%と基準ガス入口14からの基準ガスを50%とではなく、試料ガスを基準ガスよりも少ない量で供給するようにガス変調バルブ16を切り換えることである。これは、サンプリング時間及び基準時間を制御する制御装置によって制御される。
【0057】
ガス変調バルブ16により、サンプリング時間では試料ガス入口12がガス分析計24へと接続されて、基準時間では基準ガス入口14が該ガス分析計24へと接続される。制御装置がガス変調バルブ16の切換えを、サンプリング時間が基準時間よりも短くなるように、好ましくは5倍短くなるように、より好ましくは約10倍短くなるように制御する。言い換えれば、サンプリング時間と基準時間との比は、1未満となるべきであり、好ましくは1:5よりも小さく、より好ましくは約1:10よりも小さいものとされる。
なお本発明は、実施の態様として以下の内容を含む。
〔態様1〕
試料ガス入口(12)、基準ガス入口(14)、ガス変調バルブ(16)およびガス分析計(24)を備えるガス検出システムを用いた、広範囲なガス検出方法であって、
前記ガス変調バルブ(16)は、サンプリング時間では前記試料ガス入口(12)を前記ガス分析計(24)へと、基準時間では前記基準ガス入口(14)を前記ガス分析計(24)へと交互に接続する、方法において、
前記ガス分析計(24)内での試料ガス濃度が低下するように、前記サンプリング時間が前記基準時間よりも短いものとされることを特徴とする、方法。
〔態様2〕
態様1に記載の方法において、前記試料ガス入口(12)と前記基準ガス入口(14)との前記ガス変調バルブ(16)の切換えによる前記ガス分析計(24)内でのガスパルス(40)の数が、ガス分析のあらゆる時点において1よりも大きい、方法。
〔態様3〕
態様2に記載の方法において、前記ガスパルス(40)の数が5よりも大きい、方法。
〔態様4〕
態様1から3のいずれか一態様に記載の方法において、前記ガス分析計(24)の測定信号は、前記ガス変調バルブ(16)が前記試料ガス入口(12)と前記基準ガス入口(14)との切換えを行う周波数(ガス変調周波数)の整数倍である周波数(検出周波数)で分析される、方法。
〔態様5〕
態様4に記載の方法において、前記ガス分析計(24)により生成された前記信号が、さらに、前記ガス変調周波数の整数倍である追加の周波数又は複数の追加の周波数でも分析される、方法。
〔態様6〕
態様1から5のいずれか一態様に記載の方法において、前記ガス分析計(24)は、分析対象のガスを通過するようにして放射される赤外線照射光を生成する赤外線光源(34)および前記赤外線照射光を検出する赤外線検出器(36)を有する赤外線吸収式ガス分析計である、方法。
〔態様7〕
態様6に記載の方法において、前記ガス分析計(24)の前記赤外線光源(34)の給電が前記ガス変調周波数よりも低いランプ変調周波数で変調されて、前記ガス分析計(24)の測定信号が前記ランプ変調周波数の整数倍で分析される、方法。
〔態様8〕
態様7に記載の方法において、前記ガス分析計(24)の前記信号が、さらに、前記ランプ変調周波数の整数倍である追加の周波数又は複数の追加の周波数でも分析される、方法。
〔態様9〕
態様6から8のいずれか一態様に記載の方法において、前記ガス変調周波数が前記ランプ変調周波数の整数倍である、方法。
〔態様10〕
態様6から9のいずれか一態様に記載の方法において、ガス変調とランプ変調とが組み合わせて行われる、方法。
〔態様11〕
態様1から5のいずれか一態様に記載の方法において、前記ガス分析計(24)が化学式のセンサ、特には電気化学式のセンサである、方法。
【符号の説明】
【0058】
12 試料ガス入口
14 基準ガス入口
16 ガス変調バルブ
18 試料ガス導管
20 基準ガス導管
22 ガス流路
24 ガス分析計
28 入口
30 吸光キュベット
32 出口
34 赤外線源
36 赤外線検出器