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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】眼科用染料組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/00 20060101AFI20220318BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 31/136 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 31/185 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 31/498 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 31/5415 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20220318BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220318BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
A61K49/00
A61K9/08
A61K31/136
A61K31/185
A61K31/498
A61K31/5415
A61K33/24
A61K47/10
A61P27/02
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018554760
(86)(22)【出願日】2017-04-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2017059501
(87)【国際公開番号】W WO2017182620
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-04-17
(31)【優先権主張番号】16166602.9
(32)【優先日】2016-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518365536
【氏名又は名称】ヴィトレック ビー.ヴィー.
【氏名又は名称原語表記】VITREQ B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】ガベル デトレフ
(72)【発明者】
【氏名】モール アンドレアス マティーアス
(72)【発明者】
【氏名】ルースラー フランク
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-275280(JP,A)
【文献】国際公開第2011/108491(WO,A1)
【文献】特開2013-060391(JP,A)
【文献】国際公開第2011/132695(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第19804794(DE,A1)
【文献】Acta Ophthalmol.,2014年,Vol.92,pp.339-344
【文献】Investigative Ophthalmology & Visual Science,2011年,Vol.52, No.7,pp.4085-4090
【文献】BADARO E; NOVAIS E A; PENHA F M; ET AL,VITAL DYES IN OPHTHALMOLOGY: A CHEMICAL PERSPECTIVE,CURRENT EYE RESEARCH,2014年07月,VOL:39, NR:7,PAGE(S):649 - 658,http://dx.doi.org/10.3109/02713683.2013.865759
【文献】SEBASTIAN THALER; JOHANNA HOFMANN; KARL-ULRICH BARTZ-SCHMIDT; ET AL,METHYL BLUE AND ANILINE BLUE VERSUS PATENT BLUE AND TRYPAN BLUE AS VITAL DYES IN CATARACT 以下備考,JOURNAL CATARACT AND REFRACTIVE SURGERY,米国,2010年12月16日,VOL:37, NR:6,PAGE(S):1147 - 1153,http://dx.doi.org/10.1016/j.jcrs.2010.12.051,SURGERY: CAPSULE STAINING PROPERTIES AND CYTOTOXICITY TO HUMAN CULTURED CORNEAL ENDOTHELIAL CELLS
【文献】FABRIZIO GIANSANTI; NICOLA SCHIAVONE; LAURA PAPUCCI; ET AL,SAFETY TESTING OF BLUE VITAL DYES USING CELL CULTURE MODELS,JOURNAL OF OCULAR PHARMACOLOGY AND THERAPEUTICS,米国,2014年06月,VOL:30, NR:5,PAGE(S):406 - 412,http://dx.doi.org/10.1089/jop.2013.0213
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼の構造体を染色するための滅菌された組成物であって、少なくとも1種の染料を含み、前記組成物の密度及び粘度を増大させるための薬剤として、ジグリセロール又はトリグリセロールをさらに含む、前記組成物。
【請求項2】
染料が、トリパンブルー、ヤーヌスグリーン、メチルグリーン、メチレンブルー、クリスタルバイオレット、メチルバイオレット、エチルバイオレット、エバンスブルー、メチルブルー、並びにこれらそれぞれの薬学的に許容されるその塩及び水和物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ジグリセロール及びトリグリセロールの合計濃度が、0.1%~25%(v/v)の範囲内である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
ジグリセロール及びトリグリセロールの合計濃度が、2%~20%(v/v)の範囲内である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ジグリセロール及びトリグリセロールの合計濃度が、3%~6%(v/v)の範囲内である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
トリパンブルーとメチルブルー、トリパンブルーとメチレンブルー、又はトリパンブルーとヤーヌスグリーンを含む、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
メチルブルーが存在する場合、メチルブルーは、0.001%(w/v)~0.4%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
メチレンブルーが存在する場合、メチレンブルーは、0.001%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
ヤーヌスグリーンが存在する場合、ヤーヌスグリーンは、0.001%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
メチルグリーンが存在する場合、メチルグリーンは、0.001%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
クリスタルバイオレットが存在する場合、クリスタルバイオレットは、0.001%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
メチルバイオレットが存在する場合、メチルバイオレットは、0.001%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
エチルバイオレットが存在する場合、エチルバイオレットは、0.001%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
エバンスブルーが存在する場合、エバンスブルーは、0.001%(w/v)~0.4%(w/v)の範囲内の濃度を有し、及
トリパンブルーが存在する場合、トリパンブルーは、0.001%(w/v)~0.25%(w/v)の範囲内の濃度を有する、
請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
メチルブルーが存在する場合、メチルブルーは、0.01%(w/v)~0.1%の範囲内の濃度を有し、
メチレンブルーが存在する場合、メチレンブルーは、0.01%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
ヤーヌスグリーンが存在する場合、ヤーヌスグリーンは、0.005%(w/v)~0.01%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
メチルグリーンが存在する場合、メチルグリーンは、0.01%(w/v)~0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
クリスタルバイオレットが存在する場合、クリスタルバイオレットは、0.01%(w/v)~0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
メチルバイオレットが存在する場合、メチルバイオレットは、0.01%(w/v)~0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
エチルバイオレットが存在する場合、エチルバイオレットは、0.01%(w/v)~0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
エバンスブルーが存在する場合、エバンスブルーは、0.025%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、及
トリパンブルーが存在する場合、トリパンブルーは、0.01%(w/v)~0.25%(w/v)の範囲内の濃度を有する、
請求項に記載の組成物。
【請求項9】
0.001%(w/v)~0.4%(w/v)の範囲内の濃度のインドシアニングリーンをさらに含む、請求項1~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
インドシアニングリーンが、0.025%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
求項1~10のいずれかに記載の組成物を含む、眼の構造体を染色するための部品キット。
【請求項12】
医薬として使用するための、請求項1~10のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
眼科手術の方法において使用するための、請求項1~10のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
眼科手術が、眼の構造体の染色を含む、請求項12又は13に記載の使用するための組成物。
【請求項15】
眼の構造体が、内境界膜(ILM)、網膜上膜(ERM)又は前眼房である、請求項12~14のいずれかに記載の使用するための組成物。
【請求項16】
医薬として使用するための、請求項11に記載の部品キット。
【請求項17】
眼科手術の方法において使用するための、請求項11に記載の部品キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の分野、具体的には、眼科手術、より具体的には、毒性が低く染色効率が高められている、眼科手術用の改良された染色組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科学的処置においては、所望の組織を染色するのに染料が頻繁に使用される。前眼部手術については、トリパンブルー(TB,trypan blue)(CAS番号72-57-1)が、前嚢、深層表層角膜移植切開、角膜移植、デスメ膜、白内障手術、結膜の手術、及び前部硝子体手術に最もよく使用される染料である(Jhanji V, Chan E, Das S, Zhang H, Vajpayee RB (2011) Trypan blue dye for anterior segment surgeries. Eye (Lond) 25: 1113-1120)。
【0003】
硝子体網膜の手術では、ある特定の病理学的状況において、視力を回復させるために、異なる2つの構造体、すなわち、網膜上膜(ERM,epiretinal membrane)(例えば、患者が慢性の糖尿病に罹患しているときに生じた異常な構造体)、及び硝子体を網膜から隔て、後者にしっかりと付着している内境界膜(ILM,internal limiting membrane)を除去する必要がある。
【0004】
手術のために、網膜からERM及びILMを除去する準備において、硝子体は取り出され、眼は、気体又は塩溶液のいずれかで満たされる。従来技術は、構造体を染料で染色することにより可視化し、次いでそれを除去することである。
【0005】
ILM染色において使用された最初の染料は、インドシアニングリーン(ICG,indocyanine green)(CAS番号3599-32-4)であった。吸収極大が目に見える範囲外にあるそのスペクトル特性のために、その有用性は限られた(Semeraro F, Morescalchi F, Duse S, Gambicorti E, Russo A, Costagliola C (2015) Current Trends about Inner Limiting Membrane Peeling in Surgery for Epiretinal Membranes. J Ophthalmol 2015: Article ID 671905)。ERMの染色は、TBで行われることが多い。しかし、TBによって、ILMは力強く染色されない(Semeraro F, Morescalchi F, Duse S, Gambicorti E, Russo A, Costagliola C (2015) Current Trends about Inner Limiting Membrane Peeling in Surgery for Epiretinal Membranes. J Ophthalmol 2015: Article ID 671905、Yamamoto N, Ozaki N, Murakami K (2004) Double Visualization Using Triamcinolone Acetonide and Trypan Blue during Stage 3 Macular Hole Surgery. Ophthalmologica 218: 297-305)。したがって、ILMも可視化するために、ブリリアントブルーG(BBG,Brilliant Blue G)(CAS番号6104-58-1)がTBに加えられており(Veckeneer M, Mohr A, Alharthi E, Azad R, Bashshur ZF, Bertelli E, Bejjani RA, Bouassida B, Bourla D, Crespo IC, Fahed C, Fayyad F, Mura M, Nawrocki J, Rivett K, Scharioth GB, Shkvorchenko DO, Szurman P, Van Wijck H, Wong IY, Wong DS, Frank J, Oellerich S, Bruinsma M, Melles GR (2013) Novel 'heavy' dyes for retinal membrane staining during macular surgery: multicenter clinical assessment. Acta Ophthalmol 10.1111/aos.12208)、ブリリアントブルーGは、単独でも使用される。TB及びBBGで実現することのできる染色は、比較すると、同等であり、ICGには劣ると報告されている(Henrich PB, Priglinger SG, Haritoglou C, Schumann RG, Strauss RW, Schneider U, Josifova T, Cattin PC (2013) Quantification of contrast recognizability in sequential epiretinal membrane removal and internal limiting membrane peeling in Trypan Blue-assisted macular surgery. Retina 33: 818-824)。最近では、ブリリアントブルーG(BBG)(CAS番号6104-58-1)がブロモフェニルブルー(BP,Bromophenyl Blue)(CAS番号115-39-9)と組み合わせられている。同じく最近導入されたアシッドバイオレット17(CAS番号4129-84-4)は、毒性があると報告されている。したがって、こうした染料及び染料の組合せはすべて、欠点を有し、リスクを伴うように思われる。染料の濃度は、適切な染色を可能にするのに十分な高さにしなければならず、濃度が低下すると、染色は、外科医にとってほとんど価値のないような低いレベルに弱まるのが普通である。
【0006】
染料に代わるものとして、又は染料と組み合わせて、高度に不溶性であるトリアムシノロンアセトニド(TA,Triamcinolone Acetonide)が、ILMの位置を突き止める際、外科医を手助けするのに使用されている(Yamamoto N, Ozaki N, Murakami K (2004) Double Visualization Using Triamcinolone Acetonide and Trypan Blue during Stage 3 Macular Hole Surgery. Ophthalmologica 218: 297-305)。この無色の物質の不透明な結晶質の薄片は、膜に堆積し、除去されている範囲を、白色の薄片がないことによって識別することができる。
【0007】
眼が塩溶液で満たされているとき、染料溶液は、塩溶液に注入され、次いで、重力によって、網膜へと沈むはずである。密度及び粘度を増大させるのに、種々の添加剤が使用される。一添加剤は、ポリエチレングリコール(PEG,polyethylene glycol)などのポリマーである。PEGは、染色を弱め、それによって、ILMの可視性を低下させるという短所を有する。他の添加剤は、糖又は糖アルコールである。これらは、他の浸透圧活性物質を減らすことによりバランスが取られなければ、浸透圧、したがって細胞死の一因になるという短所を有する。したがって、これらの最大濃度、結果として、安全に適用することのできる溶液の密度は、制限される。染料の染色効果が、こうした添加剤、特に高分子添加剤の一部によってひどく低下する場合があることは、より重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Jhanji V, Chan E, Das S, Zhang H, Vajpayee RB (2011) Trypan blue dye for anterior segment surgeries. Eye (Lond) 25: 1113-1120
【文献】Semeraro F, Morescalchi F, Duse S, Gambicorti E, Russo A, Costagliola C (2015) Current Trends about Inner Limiting Membrane Peeling in Surgery for Epiretinal Membranes. J Ophthalmol 2015: Article ID 671905
【文献】Yamamoto N, Ozaki N, Murakami K (2004) Double Visualization Using Triamcinolone Acetonide and Trypan Blue during Stage 3 Macular Hole Surgery. Ophthalmologica 218: 297-305
【文献】Veckeneer M, Mohr A, Alharthi E, Azad R, Bashshur ZF, Bertelli E, Bejjani RA, Bouassida B, Bourla D, Crespo IC, Fahed C, Fayyad F, Mura M, Nawrocki J, Rivett K, Scharioth GB, Shkvorchenko DO, Szurman P, Van Wijck H, Wong IY, Wong DS, Frank J, Oellerich S, Bruinsma M, Melles GR (2013) Novel 'heavy' dyes for retinal membrane staining during macular surgery: multicenter clinical assessment. Acta Ophthalmol 10.1111/aos.12208
【文献】Henrich PB, Priglinger SG, Haritoglou C, Schumann RG, Strauss RW, Schneider U, Josifova T, Cattin PC (2013) Quantification of contrast recognizability in sequential epiretinal membrane removal and internal limiting membrane peeling in Trypan Blue-assisted macular surgery. Retina 33: 818-824
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、良好な添加剤は、染色を弱めるべきでない。理想的には、密度を高めるための添加剤は、染色の効果をむしろ高めるべきである。最後に、ILM及びERMの染色に使用されるいかなる溶液も、手術の結果を危うくしないように、低い毒性しか示すべきでない。したがって、毒性が低く染色効率が高められている、改良された染色組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では、本発明は、トリパンブルー又は薬学的に許容されるその塩若しくは水和物を含み、メチルブルー、メチレンブルー、ヤーヌスグリーン、メチルグリーン、クリスタルバイオレット、メチルバイオレット、エチルバイオレット、エバンスブルー、並びにこれらそれぞれの薬学的に許容されるその塩及び水和物からなる群から選択される染料をさらに含む、眼の構造体を染色するのに適する組成物を提供する。
【0011】
本発明はさらに、このような組成物であって、
- メチルブルーが、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.4%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.0025%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチレンブルーが、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.01%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- ヤーヌスグリーンが、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.005%(w/v)~約0.01%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチルグリーンが、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.01%(w/v)~約0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- クリスタルバイオレットが、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.01%(w/v)~約0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチルバイオレットが、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.01%(w/v)~約0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- エチルバイオレットが、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.01%(w/v)~約0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- エバンスブルーが、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.4%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.0025%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- インドシアニングリーンが、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.4%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.0025%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、及び、
- トリパンブルーが、約0.001%(w/v)~約0.25%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.01%(w/v)~約0.15%(w/v)の範囲内の濃度を有する、
組成物を提供する。
【0012】
本発明はさらに、眼の構造体を染色するのに適する組成物であって、少なくとも1種の染料を含み、組成物の密度及び粘度を増大させるための薬剤として、ジグリセロール及び/又はトリグリセロールをさらに含む組成物を提供する。
【0013】
本発明はさらに、組成物の密度及び粘度を増大させるための薬剤として、ジグリセロール及び/又はトリグリセロールをさらに含む、本発明による組成物を提供する。
【0014】
本発明はさらに、ジグリセロール及び/又はトリグリセロールの合計濃度が、約0.1%~約25%(v/v)の範囲内、好ましくは、約2%~約20%(v/v)の範囲内、より好ましくは、約3%~約6%(v/v)の範囲内である、本発明による組成物を提供する。
【0015】
本発明はさらに、眼の構造体を染色するのに適する組成物であって、少なくとも1種の染料を含み、密度を高め、眼の構造体の染色を増強するためのガドリニウム錯体をさらに含む組成物を提供する。
【0016】
本発明はさらに、密度を高め、眼の構造体の染色を増強するためのガドリニウム錯体をさらに含む、本発明による組成物を提供する。
【0017】
本発明はさらに、ガドリニウム錯体の濃度が、約0.01M~約0.1Mの範囲内、好ましくは、約0.01M~約0.05Mの範囲内、より好ましくは、約0.02M~約0.04Mの範囲にある、本発明による組成物を提供する。
【0018】
本発明はさらに、単一組成物内に化合物を含む、又は多数の組成物中に化合物を含む、本発明による組成物を含む部品キットを提供する。
【0019】
本発明はさらに、医薬として使用するため、好ましくは、眼科手術の方法において使用するための、本発明による組成物又は本発明による部品キットを提供する。
【0020】
本発明はさらに、眼科手術が、眼の構造体の染色を含む、本発明に従って医薬として使用するための組成物を提供する。
【0021】
本発明はさらに、眼の構造体が、内境界膜(ILM)及び/又は網膜上膜(ERM)及び/又は前眼房(anterior cavity)である、本発明に従って医薬として使用するための組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
驚いたことに、今回、トリパンブルー(TB)の別の染料との組合せを使用することにより、各染料単独での染色に比べて、また先行技術における染料の組合せのいずれかで実現される染色に比べて、ILMの染色を大いに強化できることが示された。TBのメチルグリーン(MG,Methyl Green)(添加剤に応じたCAS番号:ZnCl:7114-03-6、なし:14855-76-6)、クリスタルバイオレット(CV,Crystal Violet)(CAS番号548-62-9)、メチルバイオレット(MV,Methyl Violet)(CAS番号8004-87-3)、エチルバイオレット(EV,Ethyl Violet)CAS番号2390-59-2)、エバンスブルー(EB,Evans Blue)(CAS番号314-13-6)、ヤーヌスグリーンB(JG,Janus Green)(CAS番号2869-83-2)、メチルブルー(MeB,Methyl Blue)(CAS番号28983-56-4)、及びメチレンブルー(MB,Methylene Blue)(CAS番号61-73-4)との組合せは、ILMの染色を向上させる優れた組合せであることがわかった。これらは、思いがけなく、TBのみ、又は二次的な染料のみで実現しうるより良好に、ILMを染色する。
【0023】
したがって、第一の態様では、本発明は、トリパンブルー又は薬学的に許容されるその塩若しくは水和物を含み、メチルブルー、メチレンブルー、ヤーヌスグリーン、メチルグリーン、クリスタルバイオレット、メチルバイオレット、エチルバイオレット、エバンスブルー、並びにこれらそれぞれの薬学的に許容されるその塩及び水和物からなる群から選択される染料をさらに含む、眼の構造体を染色するのに適する組成物を提供する。このような組成物を、本明細書では、本発明による組成物と呼ぶ。好ましい本発明による組成物は、トリパンブルーとメチルブルー、トリパンブルーとメチレンブルー、又はトリパンブルーとヤーヌスグリーンを含む。本明細書における染料は、市販品として入手可能であるので、購入することができ、当業者の一般知識を使用して製造することもできる。染料の純度は、可能な限り高いことが好ましく、医薬品グレードであることが好ましいが、本明細書における染料は、必ずしもそれに限定されない。本明細書における染料の純度は、好ましくは、少なくとも70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は最も好ましくは、少なくとも純度99%である。薬学的に許容される塩の例としては、限定はしないが、有機塩基(例えば、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、メグルミン、トリメチルアミン、コリン、プロカイン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン)、無機塩基(例えば、アンモニア、アルカリ金属、アルカリ土類金属)、有機酸(例えば、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、マレイン酸)、無機酸(例えば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸)、塩基性アミノ酸(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン)、ハロゲンイオン(例えば、F及びClイオン)に対して形成される塩、及び分子内塩が挙げられる。
【0024】
本発明による組成物は、眼科手術などの、対象に対する眼科処置において、好ましくは眼科用補助剤として、好都合に使用することができる。眼科手術などの眼科処置が必要となる眼の疾患及び状態の例は、限定はしないが、硝子体網膜疾患、例えば、黄斑円孔、ヒモヨパシック(hymoyopathic)黄斑円孔による網膜剥離、網膜上膜、増殖性糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、増殖性硝子体網膜症、特定の白内障、例えば、過熟白内障、先天性白内障、及び分層角膜移植である。対象は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。
【0025】
本発明による組成物は、固体と液体の混合物、好ましくは、水性の液体など、いかなる形態にしてもよい。すべての成分が単一組成物中に存在する場合もあれば、使用前に混合される異なる組成物中に存在する場合もあり、すべての(染料)成分が、使用前に溶解される固体混合物中に存在してよく、調製については、眼内清掃溶液、眼内すすぎ溶液、生理食塩液、又は平衡塩類溶液に好都合に溶解させることができる。本発明による組成物は、当業者に知られている薬学的に許容される賦形剤及び/又は担体及び/又は薬物を含んでもよく、又はこれらと混合してもよい。調製後、本発明による組成物を、例えば、濾過又は高圧蒸気滅菌法によって滅菌してもよい。
【0026】
溶液のpHは、pH7.0~pH7.6の範囲内、より好ましくは、pH7.1~pH7.5の範囲、より好ましくは、pH7.2~pH7.5の範囲、より好ましくは、pH7.3~pH7.5の範囲にあることが好ましく、pHは、生理的である、すなわち中性、すなわちpH約7.4であることがさらにより好ましく、pHが7.4であることが最も好ましい。
【0027】
好ましくは、本発明による組成物において、
- メチルブルーは、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.4%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.0025%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチレンブルーは、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.01%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- ヤーヌスグリーンは、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.005%(w/v)~約0.01%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチルグリーンは、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.01%(w/v)~約0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- クリスタルバイオレットは、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.01%(w/v)~約0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチルバイオレットは、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.01%(w/v)~約0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- エチルバイオレットは、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.01%(w/v)~約0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- エバンスブルーは、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.4%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.0025%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- インドシアニングリーンは、存在する場合、約0.001%(w/v)~約0.4%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.0025%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- トリパンブルーは、約0.001%(w/v)~約0.25%(w/v)の範囲内、好ましくは、約0.01%(w/v)~約0.15%(w/v)の範囲内の濃度を有する。
【0028】
より好ましくは、本発明による組成物において、
- メチルブルーは、存在する場合、0.001%(w/v)~0.4%(w/v)の範囲内、好ましくは、0.0025%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチレンブルーは、存在する場合、0.001%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、0.01%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- ヤーヌスグリーンは、存在する場合、0.001%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、0.005%(w/v)~0.01%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチルグリーンは、存在する場合、0.001%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、0.01%(w/v)~0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- クリスタルバイオレットは、存在する場合、0.001%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、0.01%(w/v)~0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチルバイオレットは、存在する場合、0.001%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、0.01%(w/v)~0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- エチルバイオレットは、存在する場合、0.001%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内、好ましくは、0.01%(w/v)~0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- エバンスブルーは、存在する場合、0.001%(w/v)~0.4%(w/v)の範囲内、好ましくは、0.0025%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- インドシアニングリーンは、存在する場合、0.001%(w/v)~0.4%(w/v)の範囲内、好ましくは、0.0025%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- トリパンブルーは、0.001%(w/v)~0.25%(w/v)の範囲内、好ましくは、0.01%(w/v)~0.15%(w/v)の範囲内の濃度を有する。
【0029】
さらにより好ましくは、本発明による組成物において、
- メチルブルーは、存在する場合、約0.025%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチレンブルーは、存在する場合、約0.01%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- ヤーヌスグリーンは、存在する場合、約0.005%(w/v)~約0.01%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチルグリーンは、存在する場合、約0.01%(w/v)~約0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- クリスタルバイオレットは、存在する場合、約0.01%(w/v)~約0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチルバイオレットは、存在する場合、約0.01%(w/v)~約0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- エチルバイオレットは、存在する場合、約0.01%(w/v)~約0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- エバンスブルーは、存在する場合、約0.025%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- インドシアニングリーンは、存在する場合、約0.025%(w/v)~約0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、及び、
- トリパンブルーは、約0.01%(w/v)~約0.25%(w/v)の範囲内の濃度を有する。
【0030】
さらにより好ましくは、本発明による組成物において、
- メチルブルーは、存在する場合、0.025%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチレンブルーは、存在する場合、0.01%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- ヤーヌスグリーンは、存在する場合、0.005%(w/v)~0.01%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチルグリーンは、存在する場合、0.01%(w/v)~0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- クリスタルバイオレットは、存在する場合、0.01%(w/v)~0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- メチルバイオレットは、存在する場合、0.01%(w/v)~0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- エチルバイオレットは、存在する場合、0.01%(w/v)~0.05%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- エバンスブルーは、存在する場合、0.025%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、
- インドシアニングリーンは、存在する場合、0.025%(w/v)~0.1%(w/v)の範囲内の濃度を有し、及び、
- トリパンブルーは、0.01%(w/v)~0.25%(w/v)の範囲内の濃度を有する。
【0031】
当業者には、本発明による組成物が、2種の染料を含む組成物に限定されず、組成物は、TBと本明細書で列挙する他の染料の1種とに加えて、本明細書で列挙する染料又は他の染料から選択されるさらなる染料を含んでもよいことが理解される。
【0032】
また、驚いたことに、糖、糖アルコール、ポリエチレングリコール(PEG)などの、当業界で密度を増大させることが知られており、そのために使用されている薬剤は、浸透圧を増大させるのに対し、ジグリセロール(DG,diglycerol)(CAS番号627-82-7)及びトリグリセロール(TG,triglycerol)(CAS番号20411-31-8)は、浸透圧を実質的に増大させずに、本発明による組成物、又は眼の構造体を染色するのに適する別の組成物の密度を好都合に増大させると共に、粘度をわずかに増大させることが示されている。
【0033】
粘度の増大は、沈降する過程の際の希釈の軽減に有益である。DGは、浸透圧活性をもってさえおらず、本発明による組成物、又は眼の構造体を染色するのに適する別の組成物の密度を調整するのに気兼ねなく使用することができる。加えて、DGは、PEGのような、密度を増大させる先行技術薬剤のようには、染色効率を低下させない。
【0034】
したがって、本発明はさらに、眼の構造体を染色するのに適する組成物であって、少なくとも1種の染料を含み、組成物の密度及び粘度を増大させるための薬剤として、ジグリセロール及び/又はトリグリセロールをさらに含む組成物を提供する。ジグリセロール及び/又はトリグリセロールを含む組成物の密度は、ジグリセロール及び/又はトリグリセロールを含まない同一組成物に比べて増大しており、約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、又は好ましくは、少なくとも約10%増大していることが好ましい。
【0035】
加えて、本発明はさらに、組成物の密度及び粘度を増大させるための薬剤として、ジグリセロール及び/又はトリグリセロールをさらに含む、本発明による組成物を提供する。好ましい本発明による組成物は、トリパンブルーとメチルブルー、トリパンブルーとメチレンブルー、又はトリパンブルーとヤーヌスグリーンを含む。このような組成物において、ジグリセロール及び/又はトリグリセロールの合計濃度は、約0.1%~約25%(v/v)の範囲内、好ましくは、約2%~約20%(v/v)の範囲内、より好ましくは、約3%~約6%(v/v)の範囲内であることが好ましい。このような組成物において、ジグリセロール及び/又はトリグリセロールの合計濃度は、0.1%~25%(v/v)の範囲内、好ましくは、2%~20%(v/v)の範囲内、より好ましくは、3%~6%(v/v)の範囲内であることがより好ましい。
【0036】
生理的に正常な浸透圧は、300ミリオスモル/kg前後であり、正常値からの約±50ミリオスモル/kgを上回る逸脱は、最終的に細胞の損傷につながる場合もある。したがって、本発明による組成物の浸透圧は、好ましくは、約250ミリオスモル/kg~約350ミリオスモル/kgの範囲内、より好ましくは、約275ミリオスモル/kg~約325ミリオスモル/kg、より好ましくは、約285ミリオスモル/kg~約315ミリオスモル/kg、より好ましくは、約290ミリオスモル/kg~約310ミリオスモル/kg、より好ましくは、約295ミリオスモル/kg~約305ミリオスモル/kgであり、最も好ましくは、約300ミリオスモル/kgである。より好ましくは、本発明による組成物の浸透圧は、好ましくは、250ミリオスモル/kg~350ミリオスモル/kgの範囲内、より好ましくは、275ミリオスモル/kg~325ミリオスモル/kg、より好ましくは、285ミリオスモル/kg~315ミリオスモル/kg、より好ましくは、290ミリオスモル/kg~310ミリオスモル/kg、より好ましくは、295ミリオスモル/kg~305ミリオスモル/kgであり、最も好ましくは、300ミリオスモル/kgである。
【0037】
また、驚いたことに、磁気共鳴映像法(MRI,magnetic resonance imaging)において使用されるものなどのガドリニウム錯体によって、眼染色における染料の染色が、ほとんど識別不能から明白かつ強烈へと実質的に増強されることも示されている。この現象によって、患者のリスクの軽減と関連付けられる、染料濃度の低減が可能になる。加えて、MRIで使用されるものなどのガドリニウム錯体によって、眼の構造体を染色するのに適する組成物の密度が増大する結果、優れた沈降が認められることも示された。同じ密度増加の割に、ガドリニウム錯体は、当業界でごく普通に使用される糖、糖アルコール、及びPEGに比べて浸透圧に寄与しない。
【0038】
したがって、本発明はさらに、眼の構造体を染色するのに適する組成物であって、少なくとも1種の染料を含み、密度を高め、眼の構造体の染色を増強するためのガドリニウム錯体をさらに含む組成物を提供する。
【0039】
加えて、本発明はさらに、密度を高め、眼の構造体の染色を増強するためのガドリニウム錯体をさらに含む、本発明による組成物を提供する。好ましい本発明による組成物は、トリパンブルーとメチルブルー、トリパンブルーとメチレンブルー、又はトリパンブルーとヤーヌスグリーンを含む。ガドリニウム錯体を含む組成物の密度は、ガドリニウム錯体を含まない同一組成物に比べて増大しており、約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、又は好ましくは、少なくとも約10%増大していることが好ましい。このような組成物において、ガドリニウム錯体の濃度は、約0.01M~約0.1Mの範囲内、好ましくは、約0.01M~約0.05Mの範囲内、より好ましくは、約0.02M~約0.04Mの範囲にあることが好ましい。
【0040】
このような組成物において、ガドリニウム錯体の濃度は、0.01M~0.1Mの範囲内、好ましくは、0.01M~0.05Mの範囲内、より好ましくは、0.02M~0.04Mの範囲にあることがより好ましい。
【0041】
好ましくは、ガドリニウム錯体は、ガドペンテテート(gadopentetate)(CAS番号80529-93-7)、ガドテレート(gadoterate)(CAS番号72573-82-1)、ガドジアミド(gadodiamide)(CAS番号122795-43-1)、ガドテリドール(gadoteridol)(CAS番号120066-54-8)、ガドベルセタミド(gadoversetamide)(CAS番号131069-91-5)、ガドベネート(gadobenate)(CAS番号113662-23-0)、ガドブトロール(gadobutrol)(CAS番号138071-82-6)、ガドキセテート(gadobutrol)(CAS番号135326-11-3)、ガドホスベセト(gadofosveset)(CAS番号193901-90-5)などの、毒性が限られているかゼロである錯体、好ましくは、ガドペンテテート、ガドブトロール、ガドテレート、より好ましくは、ガドペンテテートである。
【0042】
本発明の種々の態様に従う組成物は、キットにして好都合に提供することができる。
【0043】
したがって、本発明は、単一組成物内に化合物を含む、又は多数の組成物中に化合物を含む、本発明による組成物を含む部品キットを提供する。キットは、容器、使用説明書などをさらに含んでもよい。
【0044】
本発明による組成物は、本明細書で先に述べたとおり、本明細書において予め規定した眼科手術において、好ましくは外科用補助剤として、好都合に使用することができる。
【0045】
したがって、本発明による組成物又はキットを使用して眼の構造体を染色するステップを含む、眼科手術を含む治療方法が提供される。
【0046】
加えて、医薬、好ましくは、眼の構造体の染色を含むことが好ましい眼科手術用の医薬を調製するための、本発明による組成物又はキットの使用が提供される。
【0047】
加えて、医薬として使用するため、好ましくは、眼の構造体の染色を含むことが好ましい眼科手術の方法において使用するための、本発明による組成物又はキットの使用が提供される。
【0048】
加えて、本発明による組成物又はキットを使用して、眼の構造体、好ましくは、眼の膜を染色する方法が提供される。
【0049】
本明細書において、眼の構造体は、眼の膜、より好ましくは、内境界膜(ILM)及び/又は網膜上膜(ERM)及び/又は前眼房であることが好ましい。他の好ましい眼の構造体及び手術は、前嚢、前眼部、深層表層角膜移植、角膜移植、デスメ膜、白内障手術、結膜の手術、及び前部硝子体からなる群から選択される。
【0050】
本文書及びその請求項において、動詞「to comprise」及びその活用形は、その非限定的な意味で使用されて、この単語に続く項目が含まれるが、具体的に言及されていない項目が除外されないことを意味する。加えて、不定冠詞「a」又は「an」による要素への言及は、要素を唯一のものとする必要が文脈から明白とならない限り、1つより多い要素が存在する可能性を除外しない。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は、通常は「少なくとも1つ」を意味する。
【0051】
単語「約」又は「およそ」は、数値と関連して使用するとき(例えば約10)、その値が、(10という)所与の値の約10%多い又は少ない値(9~11の範囲)になりうることを意味することが好ましい。
【0052】
本明細書において引用するすべての特許及び文献参考資料は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】種々の染料組成物で染色した網膜を示す図である(さらなる細目については実施例を参照されたい)。1A:0.1%TB及び5%DG1B:0.1%TB、0.025%CV、及び5%DG1C:0.1%TB、0.025%MG、及び5%DG1D:0.1%TB、0.025%MV、及び5%DG1E:0.1%TB、0.025%EV、及び5%DG1F:0.1%TB、0.025%EB、及び5%DG1G:0.1%TB、0.025%JG、及び5%DG1H:0.1%TB及び0.025Mのガドペンテテート1I:0.1%TB及び0.05Mのガドブトロール1J:0.1%TB及び0.025Mのガドテレート[実施例]
【0054】
本発明について、以下の実施例によってさらに説明するが、実施例は、本発明の範囲を限定すると解釈すべきものでない。
【0055】
染色剤溶液の調製
染料溶液の調製の一例として、典型的な一組成物では、10mgのTB及び2.5mgのMGを、9.5mLの生理的緩衝液(0.15MのNaCl及び10mMのNaHPOをNaOH溶液でpH=7.2に調整したものからなる、リン酸緩衝溶液(PBS,phosphate-buffered saline))に溶解させ、次いで、500mgのジグリセロールを加える。
【0056】
別の典型的な組成物では、10mgのTBを、8.5mLの生理的緩衝液(0.15MのNaCl及び10mMのNaHPOをNaOH溶液でpH=7.2に調整したものからなる)に溶解させ、次いで、7.5mgのJGを上述の緩衝液に溶かした溶液1mL、及び0.5Mのガドブトロールの蒸留水溶液500μLを加える。
【0057】
他の典型的な組成物も同様にして調製する。
【0058】
染料調製物での染色
染色の強度を実証するための典型的な一手順として、地域の屠殺場から入手したブタの眼を、摘出後の最初の6時間以内に使用した。眼は、使用するまで氷上に置いておいた。
【0059】
角膜、虹彩、及び水晶体を含む眼の上部を、眼窩切開によって除去した。硝子体を除去して、網膜への接触を可能にした。網膜をリン酸緩衝溶液(PBS)で3回すすいだ。染料溶液を網膜に30秒間適用し、次いで、網膜をPBSで3回洗浄した。
【0060】
染色の結果の写真記録
染色された網膜の視覚的な印象の一例として、写真を撮影した。染色の結果を写真に記録するために、直径10mmのガラス管を適用することにより、染色を限定した。染料が網膜の細胞層に到達することがないよう気を付けた。洗浄及び染色後、染色された範囲の部分と染色されていない範囲の部分とを含む網膜の10mmの円形区画を取り出し、カバーガラスに載せ、撮影した。図1A~Jに、従来技術及び本発明による染色の典型的な染色結果を示す。すべての写真において、染色された範囲は、左側に向けられている。臨床的な状況が模擬されるように、すべての溶液が5%DGを含有したため、密度を増大させる薬剤が必要となる。
【0061】
当業者には、本発明による染色の向上が明白である。
【0062】
染色結果の数量化
数量化の一例として、図1A~Jの写真を、網膜の染色された部分内の長方形面積及びバックグラウンドとしての染色された部分の外側の長方形面積(長方形面積に血管が存在しないことを確実にした)の(0(黒)~255(白)のスケール上のグレー値として示される)光学密度を測定し、バックグラウンドのグレー値の染色部のグレー値に対する比を計算することにより数量化した。この方法では、より大きい数字が、より強い対比を意味する。毒性をARPE細胞において測定した。細胞を染料混合物に15分間曝し、次いで、PBSで3回洗浄した。次いで、細胞を(生細胞には存在するが、死滅した細胞には存在しないミトコンドリアのデヒドロゲナーゼ活性を測定する)WST-1試薬と共にインキュベートし、以前に記載されているとおりに37℃でインキュベートした(Awad D, Schrader I, Bartok M, Mohr A, Gabel D (2011) Comparative toxicology of trypan blue, brilliant blue G, and their combination together with polyethylene glycol on human pigment epithelial cells. Invest Ophthalmol Vis Sci 52: 4085-4090)。毒性は、染料溶液の代わりにPBSと共にインキュベートした対照と比較した、細胞生存率の低下パーセントとして示される。結果は、これ以下の表に示す。TBとJG、TBとMB、TBとMG、TBとCV、TBとMV、及びTBとEBを含む組合せでは、先行技術におけるTBとBBGの組合せと比べて、対比が有意に増大していた。
【0063】
【表1】
【0064】
密度及び粘度
密度及び粘度は、ジグリセロール若しくはガドリニウム錯体又は両方の組合せを加えることにより、変化させることができる。染料溶液を眼の底に沈めるためには、密度が粘度より重要であるが、しかし、後者は、ゆっくりと沈む溶液が混合される可能性を低減する。染料溶液の密度は、(25℃で)1ミリリットルあたり1.003グラムから、10体積%の0.5Mガドペンテテート溶液を加えてガドペンテテートの最終濃度を0.05Mとすると、1.028に、20体積%の0.5Mガドペンテテート溶液を加えて最終濃度を0.10Mとすると、1.048に増大しうる。結果として生じる粘度は、それぞれ、1.125mPa・s及び1.258mPa・sである。指定されたガドペンテテート溶液の5%の追加については、1ミリリットルあたり1.016グラムの密度、及び1.117mPa・sの粘度が得られる。
【0065】
5重量パーセントのジグリセロールの追加については、1ミリリットルあたり1.020グラムの密度、及び1.191mPa・sの粘度が得られる。
【0066】
これらのデータは、1ミリリットルあたり1.013グラムの密度及び1.870mPa・sの粘度を示す、PBS中4重量パーセントのPEG3350溶液のデータと比較されるはずである。
【0067】
当業者なら、適切な密度及び粘度をもたらす、請求項に係る薬剤の濃度及び組合せを選択することは難しくない。当業者なら、生理的に適合するモル浸透圧濃度が実現されるように、溶液のイオン含有量を調整することも難しくない。
【0068】
参考文献一覧
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図1A
図1B
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図1D
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図1I
図1J