(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】潤滑媒体において作動する摩擦部品
(51)【国際特許分類】
F16C 33/12 20060101AFI20220318BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
F16C33/12 A
C23C14/06 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019007046
(22)【出願日】2019-01-18
(62)【分割の表示】P 2016223047の分割
【原出願日】2012-10-03
【審査請求日】2019-01-21
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-11
(32)【優先日】2011-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】506126266
【氏名又は名称】イドロメカニーク・エ・フロットマン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・モーラン-ペリエ
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・オー
【合議体】
【審判長】間中 耕治
【審判官】田村 嘉章
【審判官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-98495(JP,A)
【文献】特開2001-335878(JP,A)
【文献】特開2007-100133(JP,A)
【文献】特開2006-144848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/12
C23C 14/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の摩擦部品を製造及び作動させる方法であって、
前記複数の摩擦部品のうち少なくとも一つにコーティングを適用することと、次いで、
摩擦調整剤を含む潤滑環境において前記複数の摩擦部品を作動させることとを備え、
前記摩擦調整剤がMoDTCを備え、
コーティングを有している各摩擦部品についてのコーティングがDLCとは異なり、
前記複数の摩擦部品のうち少なくとも一つについてのコーティングが、アルゴン/窒素混合物におけるCrターゲットのスパッタリングによって堆積させた窒化クロムを備え、堆積させたコーティングが40±5原子%の窒素を含むことによって、窒化クロムがNaCl型結晶及び1800±200HVの微小硬さを示す、方法。
【請求項2】
前記複数の摩擦部品が自動車分野用である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記自動車分野がエンジン領域である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記自動車分野がギアボックス領域である、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑環境における摩擦学の技術分野に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、例えば自動車部品などの、摩擦調整剤を組み込んだ潤滑環境において作動する摩擦部品に関する。
【背景技術】
【0003】
潤滑環境において作動する機械部品の摩擦を低下させるためにDLCなどの薄いコーティングを使用することは、専門家にとって周知である。
【0004】
DLCコーティングはまた、そのコーティングを摩耗から保護するという第2の機能を満たすと知られている。
【0005】
さらに摩擦係数を顕著に低下させることを可能にするために、摩擦調整剤である添加物を加えることが提案されてきた。このような添加物は、有利にはMoDTCであり、それは高温摩擦接触(hot friction contact)時に化学的に反応してMoS2などの化合物を生じさせるが、それは固体潤滑剤としての機能を果たすことが専門家には完全に知られている。
【0006】
この技術水準に基づくと、摩擦係数をさらに低下させるために、DLCとMoDTCとの効果を組み合わせてそれら2つのシナジー効果から利益を得ることが有利であると思われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、試験を実施すると、このような組み合わせでは十分な結果が得られないと判明する。特に、水素を含むDLCコーティングがMoDTCの存在下で高速に摩耗することが観察された。DLCコーティングが水素化されていない場合、摩耗現象の発生は低下したが、この場合、その応用は複雑でかつコストのかかる技術である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきかつ予期しない方法で、MoDTC摩擦調整剤を組み込んだ潤滑環境において、DLCコーティングを窒化クロムコーティングで置き換えることで摩擦の低下及び対象部品の摩耗からの保護の両方に関して特に十分な結果が得られるという事実が、試験によって示された。
【0009】
言い換えると、摩耗現象が生じるMoDTC摩擦調整剤を組み込んだ潤滑環境において使用されるDLCとは対照的に、このような現象は窒化クロムでは起こらない。
【0010】
従って本発明は、硬さを低下させることなく摩擦係数の顕著な低下を可能にする、窒化クロムとMoDTCとの効果の組み合わせにある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
この窒化クロムの選択は、窒化クロムの代わりに現在摩擦調整剤を有さない潤滑環境において実用的に専らDLCを使用している専門家の常識に反する。
【0013】
摩擦試験が、MoDTC摩擦調整剤、DLCコーティング、及び窒化クロムコーティングを組み込んだ潤滑環境における挙動を評価するために実施されている。尚、完全に既知の方法では、DLCコーティングの場合、その機械強度を強くするために例えば窒化クロムなどの副層を堆積できることに留意しておく。以下の表1は、4つのコーティング、つまりDCX-0、DCX-1、DCX-2及びDCX-3(ここでDCX-3コーティングが本発明によるものである)で実施された試験を示す。
【0014】
【0015】
層のセットは、反応性マグネトロンスパッタリングによって形成された窒化クロムコーティングを組み込む。全てのコーティングに対して、初めにスチール試験片が洗浄され、次いでそれらは真空堆積チャンバ内に配置された台に置かれる。チャンバのポンピング(pumping)及び排気の間、装置の内部及びコーティングされる部品は2時間にわたって150℃の温度に加熱されるが、それはその部品及び堆積装置を脱気するためである。その部品は次いでアルゴン雰囲気においてイオン洗浄(ionic scrubbing)にさらされるが、その目的は、自然酸化物の薄層を除去し、それによってコーティングの強接着を可能にすることである。窒化クロムの堆積は、アルゴン/窒素混合物におけるCrターゲットの反応性マグネトロンスパッタリングによって得られる。窒素流は、その堆積物が40+/-5原子%の窒素を含むように、プラズマにおけるCr発生の光学的測定によってサーボ制御される。従って、その微小硬さが1800+/-200HvであるNaCl型CFC結晶を有するCrNの堆積物が得られる。DCX-0、DCX-1及びDCX-2コーティングでは、プラズマにおいて炭化水素(今回の場合はアセチレン)を分解するPACVD技術を用いて、a-C:HタイプのDLCのコーティングを堆積させる。DCX-1の場合、グラファイトターゲットのマグネトロンスパッタリングによって、a-Cタイプの層の最終堆積物が適用される。DCX-2の場合、純水素のプラズマを生成し、そのプラズマからのイオンを堆積物に10分間衝突させ、堆積物の表面化学的性質を変更させる。
【0016】
これらの試験は、ボールベアリング・オン・サーフィス(ballbearing-on-surface)構成の交互摩擦計(alternating tribometer)で実施される。これらの試験のために、その表面は、0.02μmのRaレベルまで研磨されたスチール試験片で構成される。ボールは100Cr6スチールで作られ、10mmの直径を有する。全ての試験に対して、コーティングがボールベアリングに適用される。
【0017】
ボールベアリングに加えられる負荷は10Nであり、それは、140μmのヘルツの接触直径(Hertzian diameter of contact)及び0.68GPaの平均圧力を与える。
【0018】
ボールベアリングは交互運動で移動し(animated with an alternating movement)、その移動距離は10mmである。スライド速度は凹型(sinus type)のプロファイルをたどり、その平均値は3.5cm/秒である。
【0019】
試験は、110℃の温度で15000サイクル実施される。スライド速度、圧力及び温度条件は、摩擦低下添加物が反応してその役割を果たすようにされる。その試験の最後には、ボールベアリングが観察され、摩擦路又は摩耗路の直径が測定され、それから摩耗体積が計算される。添付のグラフ(
図1)では、平均摩耗速度(摩擦サイクル数に対する削られた(rounded-of)摩耗体積)がまとめられている。各コーティングに対して3回の試験が実施され、平均摩耗が計算される。エラーバーは、エラーを示すのではなく、3回の試験における最小値と最大値を表す。
【0020】
各試験に対して、かつ異なるコーティングに対して、MoDTC摩擦調整剤を含む市販の自動車オイルの存在下で測定が実施される。
【0021】
このグラフに関して、以下の観測に到達できる:
-DCX-0コーティングでは、摩耗が特に強く、それは、MoDTC摩擦調整剤を組み込んでいない潤滑環境における同一のタイプのコーティングに対するよりも強い。
-DCX-1コーティングにおいて、DLC上部への水素化されていないアモルファスカーボン層の追加は、摩耗速度を略2.9倍低下させる傾向がある。
-DCX-2コーティングにおいて、酸素プラズマによるDLC表面の変更は、DLCの摩耗速度に顕著な影響を与えないが、一方で表面エネルギーは完全に変更されると見受けられる。
-本発明によるDCX-3コーティングでは、試験の最後においても摩耗は存在しない;摩擦直径は初期の接触直径よりほんの僅かに大きい。窒化クロムは略1800Hvの硬さを有する。
【0022】
以下の表2は、添付のグラフでフィーチャされた平均摩耗速度の値をまとめたものである。
【0023】
【0024】
以下の表3は、試験最後の摩擦係数を示す。
【0025】
【0026】
これらの表により、コーティングを組み込んだ溶液は同様の平均摩擦係数を示すことが表面化する。
【0027】
DCX-0の場合の強い分散は、摩耗によるものである。最も摩耗した堆積物で最も低い摩擦係数が得られることに留意する。
【0028】
低い摩擦係数は本質的に、摩擦低下添加物:MoDTCによるものである。
【0029】
一例として、かつ表の最終行に示すように、コーティングされていない表面にさらされたコーティングされていないボールベアリングでの試験では、0.040+/-0.005の摩擦係数となる。平均摩耗速度は0.45である。この溶液は、オイルにおける耐摩耗添加物により摩耗に耐えるが、それにもかかわらず、それは30%高い摩擦係数となる。
【0030】
対照的に、SAE5W30オイル(摩擦調整剤を有さない)を用いた、スチール表面にさらされたDLC(DLC-0)でコーティングされたボールベアリングの摩擦は、0.3+/-0.05μm3/サイクルの摩耗速度となる;しかしながら、摩擦係数は0.12で安定化する。脂肪酸型の摩擦低下添加物を有するSAE5W30オイルでは、摩耗速度は0.32+/-0.05μm3/サイクルであり、摩擦係数は0.08である。
【0031】
それは、DCX-0型のDLCコーティングがMoDTCを有さないオイルにおいて摩耗によく耐えることに由来するが、これらのオイルではMoDTCを含むタイプと同程度に低い摩擦係数を達成できないことが観察される。
【0032】
言い換えると、スチールにおける摩擦拮抗剤(antagonist)-MoDTC-の存在下でのDLCの組み合わせは、2つの機能、つまり一方は耐摩耗性であり、他方は可能な限り低い摩擦係数の獲得である機能を満たすのに適合しないが、一方で特許請求の範囲の組み合わせ-つまり窒化クロム及びMoDTC-は、有利にはこれらの2つの機能を満たす。
【0033】
本発明はまた、こうしてコーティングされ、かつ、自動車分野、特にエンジン及びギアボックスで、MoDTCを含む潤滑環境において作動する部品の使用に関する。