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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】トラクタ
(51)【国際特許分類】
   A01B 63/10 20060101AFI20220318BHJP
【FI】
A01B63/10 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019058773
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020156388
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】三輪 敏之
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-000022(JP,A)
【文献】特開2007-289131(JP,A)
【文献】特開2019-009600(JP,A)
【文献】特開2002-034422(JP,A)
【文献】特開2004-089012(JP,A)
【文献】特開2017-135986(JP,A)
【文献】特開2012-070657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機を取付可能な車体と、
前記車体に配置され、前記車体のロール方向の傾斜角度を検出するトラクタ側傾斜センサと、
前記作業機に配置された作業機側傾斜センサが検出した当該作業機のロール方向の傾斜角度を前記作業機から受信する通信部と、
前記作業機が非作業状態から作業状態への変更中又は変更後において、前記トラクタ側傾斜センサの検出値と前記作業機側傾斜センサの検出値とを比較して差異量を算出し、前記差異量から補正量を算出する補正量算出部と、
前記作業機を用いた作業中において、前記トラクタ側傾斜センサの検出値前記補正量に基づいて補正し補正した前記トラクタ側傾斜センサの検出値に基づいて前記作業機が水平に近づくように当該作業機の傾斜角度を変更する水平制御を行う水平制御部と、
を備えることを特徴とするトラクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のトラクタであって、
前記作業機は代掻き用のハローであり、
前記非作業状態は、耕耘部の一部が格納された格納状態であり、
前記作業状態は、前記格納状態で格納された耕耘部が使用可能となる使用状態であり、
補正量算出部は、前記ハローが前記格納状態から前記使用状態に移行したと判定した後に、前記補正量を算出することを特徴とするトラクタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のトラクタであって、
前記補正量算出部は、オペレータが操作可能な操作部が操作されることで生成される信号を受信可能であり、
前記補正量算出部は、前記作業機の傾斜状態が基準状態であることを示す信号であって前記操作部が操作されることで生成される信号を受信した後に、前記補正量を算出することを特徴とするトラクタ。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載のトラクタであって、
前記作業機を識別する識別番号と、前記補正量と、を対応付けて記憶する処理を行う記憶処理部を備え、
前記通信部は、前記作業機から当該作業機の前記識別番号を受信し、
前記水平制御部は、前記通信部が受信した前記作業機の前記識別番号に対応付けた前記補正量が存在する場合は、当該補正量に基づいて、前記水平制御を行うことを特徴とするトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、作業機を取付可能なトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、トップリンクと、左右一対で設けられたロワリンクと、で構成される3点リンク機構を用いて作業機を取付可能なトラクタを開示する。また、このトラクタには、左右水平シリンダが設けられている。左右水平シリンダは、左右の何れかのロワリンクを上下に移動させることで、作業機の傾斜角度を変更することができる。また、作業機には、作業機の傾斜角度を検出するセンサが取り付けられている。トラクタは、このセンサの検出値を用いて作業機が水平状態となるように維持する制御(水平制御)を行う。
【0003】
特許文献2は、傾斜角度を検出するセンサを作業機に設け、その検出結果を表示装置に表示するシステムを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-289131号公報
【文献】特開2019-9600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、作業機側の傾斜センサは応答遅れが大きいため、水平制御にも遅れが発生する可能性がある。また、トラクタ側の傾斜センサを用いる場合、作業機とトラクタの間の角度ズレ等により作業機とトラクタの傾斜角度に誤差が含まれるため、正確な水平制御を行うことができない可能性がある。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、精度が高い水平制御を実行可能なトラクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の観点によれば、以下の構成のトラクタが提供される。即ち、このトラクタは、車体と、トラクタ側傾斜センサと、通信部と、補正量算出部と、水平制御部と、を備える。前記車体には、作業機を取付可能である。前記トラクタ側傾斜センサは、前記車体に配置され、前記車体のロール方向の傾斜角度を検出する。前記通信部は、前記作業機に配置された作業機側傾斜センサが検出した当該作業機のロール方向の傾斜角度を前記作業機から受信する。前記補正量算出部は、前記作業機が非作業状態から作業状態への変更中又は変更後において、前記トラクタ側傾斜センサの検出値と前記作業機側傾斜センサの検出値とを比較して差異量を算出し、前記差異量から補正量を算出する。前記水平制御部は、前記作業機を用いた作業中において、前記トラクタ側傾斜センサの検出値前記補正量に基づいて補正し補正した前記トラクタ側傾斜センサの検出値に基づいて前記作業機が水平に近づくように当該作業機の傾斜角度を変更する水平制御を行う。
【0009】
これにより、トラクタ側傾斜センサの検出値を作業機側傾斜センサの検出値で補正することで、トラクタと作業機の間の角度ズレの影響を考慮して水平制御を行うことができる。特に、この補正を、非作業状態から作業状態への変更中又は変更後に行うことで、適切な補正量を算出できる。
【0010】
前記のトラクタにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記作業機は代掻き用のハローである。前記非作業状態は、耕耘部の一部が格納された格納状態である。前記作業状態は、前記格納状態で格納された耕耘部が使用可能となる使用状態である。補正量算出部は、前記ハローが前記格納状態から前記使用状態に移行したと判定した後に、前記補正量を算出する。
【0011】
これにより、ハローの可動部分が広げられて使用状態に移行した後に補正量が算出されるので、作業中と同じ条件で検出された傾斜角度に基づいて補正を行うことができる。
【0012】
前記のトラクタにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記補正量算出部は、オペレータが操作可能な操作部が操作されることで生成される信号を受信可能である。前記補正量算出部は、前記作業機の傾斜状態が基準状態であることを示す信号であって前記操作部が操作されることで生成される信号を受信した後に、前記補正量を算出する。
【0013】
これにより、オペレータが基準状態であることを確認した状態で補正量が算出されるので、例えば作業機が水平となった状態で補正量を算出できる。
【0014】
前記のトラクタにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、このトラクタは、前記作業機を識別する識別番号と、前記補正量と、を対応付けて記憶する処理を行う記憶処理部を備える。前記通信部は、前記作業機から当該作業機の前記識別番号を受信する。前記水平制御部は、前記通信部が受信した前記作業機の前記識別番号に対応付けた前記補正量が存在する場合は、当該補正量に基づいて、前記水平制御を行う。
【0015】
これにより、補正量を算出した作業機を再び装着した場合において、補正量を算出する処理を省略又は簡略化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るトラクタと作業機を示す側面図。
図2】作業機の格納状態と使用状態を示す背面図。
図3】作業機の水平制御に係る構成を示すブロック図。
図4】補正量の算出を行うか省略するかを判断する処理を示すフローチャート。
図5】水平制御のための補正量を算出して記憶する処理を示すフローチャート。
図6】サブディスプレイに表示される作業機の設定に関する画面を示す図。
図7】記憶部に記憶される補正量とその関連情報を示す表。
図8】作業機の水平制御を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図面を参照して発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るトラクタ10と作業機3を示す側面図である。
【0018】
図1に示すトラクタ10は、ロータリ、ハロー、ローダ、プラウ、ボックススクレーパー等の各種の作業機3を必要に応じて車体11に装着し、車体11に支持された作業機3により各種の作業を行うことができる。図1では、作業機3として代掻き用のハローを用いた例が示されている。なお、以下の説明では、単に「左側」「右側」等というときは、トラクタ10が前進する方向に向かって左側及び右側を意味するものとする。
【0019】
図1に示すように、トラクタ10は、車体11と、左右1対の前輪12と、左右1対の後輪13と、を備える。車体11の前部にはボンネット14が配置されており、当該ボンネット14の内部にはエンジン15が配置されている。
【0020】
左右1対の後輪13の間には、ミッションケース16が配置されている。エンジン15の出力は、このミッションケース16内に配置された油圧-機械式変速装置によって変速されて、前輪12及び後輪13へ伝達される。
【0021】
ミッションケース16の後部には、ロワーリンク18が左右1対で配置されるとともに、1つのトップリンク19が配置されている。更に、ミッションケース16の後部からPTO軸20が突出して配置されている。作業機3は、ロワーリンク18及びトップリンク19に連結され、PTO軸20によって駆動される。
【0022】
車体11の後部には、作業機昇降機構25と、作業機角度変更機構26と、連結部材28と、が設けられている。
【0023】
作業機昇降機構25は、左右1対のリフトアーム21と、油圧シリンダとして構成されるリフトシリンダ22と、を備える。左右一方のリフトアーム21の先端部は、リンク部材23を介して一方のロワーリンク18に連結され、他方のリフトアーム21の先端部は、後述のローリングシリンダ24を介して他方のロワーリンク18に連結されている。この構成で、リフトシリンダ22を駆動することにより、作業機3が車体11に支持される高さを変更することができる。
【0024】
作業機角度変更機構26は、油圧シリンダとして構成されるローリングシリンダ24を備える。ローリングシリンダ24は、左右1対のうち右側のリフトアーム21と、右側のロワーリンク18と、を連結するように配置される。この構成で、ローリングシリンダ24を駆動することにより、作業機3が車体11に対して支持される左右方向の傾斜姿勢を変更することができる。なお、ローリングシリンダ24のシリンダロッドの位置(ローリングシリンダ24の長さ)は、後述のストロークセンサ43によって検出されている。
【0025】
連結部材28は、ロワーリンク18及びトップリンク19と、作業機3と、を連結するための部材である。
【0026】
ミッションケース16の上方であってボンネット14の後方には、オペレータが搭乗するためのキャビン31が配置されている。キャビン31内には、走行速度、エンジン回転速度、作業機の状態、警告灯等を表示可能なメータパネル35が設けられている。なお、これらの情報は、キャビン31に配置されるサブディスプレイ36に表示してもよい。
【0027】
また、キャビン31の内部には運転座席32が設けられており、運転座席32の近傍には各種の操作具が設けられている。具体的に説明すると、運転座席32の近傍には、ステアリングハンドル33と、副変速レバー(副変速操作具)34と、が配置されている。ステアリングハンドル33は、オペレータが操舵を行うための操作具である。副変速レバー34は、例えば2段階(低速側と高速側)の何れかを指示するための操作具である。オペレータは、副変速レバー34で大まかな速度を指定した後に、図略の主変速レバーを用いて細かい速度を指定する。なお、副変速は3段階以上に切替可能であってもよい。この場合、3以上の副変速段は、圃場作業用の変速段(低速側)と、路上(圃場外)の走行用の変速段(高速側)と、の何れかに区分されることが好ましい(例えば3段の場合、低速1段、高速1段、及び高速2段等)。
【0028】
ミッションケース16の上側には、傾斜センサ(トラクタ側傾斜センサ)41及び角速度センサ42が配置されている。
【0029】
傾斜センサ41は、ミッションケース16の適宜の位置に取り付けられている。傾斜センサ41は、トラクタ10のロール方向(前後方向を回転軸とした回転方向)の傾斜角度を検出する。この傾斜センサ41は公知の構成であるので詳細な説明は省略するが、傾斜センサ41は、固定電極と、カンチレバーに取り付けられた可動電極と、を備え、素子を傾けることに伴って重力により可動電極が移動するのを静電容量の変化として検知することにより、車体11の左右方向の傾斜を検出する構成となっている。ただし、傾斜センサは上記に限定されず、例えば、液体が封入されたチャンバを備え、傾きによる液面の変化を静電容量の変化として検知する構成とすることもできる。更には、公知の重錘式の傾斜センサを用いても良い。
【0030】
角速度センサ42は、キャビン31の内部において運転座席32の下方(トラクタ10の重心位置の近傍)に配置されている。この角速度センサ42は、公知の振動ジャイロセンサとして構成されており、振動する素子が回転されたときに発生するコリオリ力の大きさを検知することにより、車体11の左右方向の傾斜の変化(角速度)を検出することができる。
【0031】
作業機3は、代掻き用のハローである。代掻きとは、田(圃場)に水を入れた後に、土を砕くとともに田面を平らにする作業である。
【0032】
図1に示すように、作業機3は、車体11の後部に設けれらた連結部材28と作業機3を連結するための連結部71を備える。連結部71は、連結部材28を介さずに、ロワーリンク18及びトップリンク19と直接接続できる構成であってもよい。
【0033】
連結部材28の後方には、耕耘カバー72が設けられている。耕耘カバー72には、耕耘回転軸73が回転可能に取り付けられている。耕耘回転軸73は、図略の動力伝達機構により、PTO軸20から伝達された動力によって左右方向を回転軸として回転する。また、耕耘回転軸73には、左右方向に並べて複数の耕耘爪74が接続されている。この構成により、耕耘回転軸73ととも耕耘爪74が回転することで、田の土を砕くことができる。
【0034】
耕耘カバー72の後方には、整地板75が配置されている。整地板75は、耕耘カバー72に対して、左右方向を回転軸として回転できるように取り付けられている。また、整地板75は、図略の付勢部材により下方に付勢されている。この構成により、田面を平らにすることができる。なお、整地板75の左右方向の外側には、整地幅を広げるための延長整地板76が設けられている。
【0035】
また、図2に示すように、作業機3は開閉可能に構成されている。具体的に説明すると、作業機3は、3分割構造であり、中央耕耘部3aと、左右の側方耕耘部3bと、を備える。中央耕耘部3a及び側方耕耘部3bのそれぞれに、耕耘カバー72、耕耘回転軸73、耕耘爪74、及び整地板75が設けられている。側方耕耘部3bは、図略の回動軸部材を介して中央耕耘部3aに対して回動可能に接続されている。また、中央耕耘部3aと側方耕耘部3bは、開閉シリンダ77によって接続されている。開閉シリンダ77を伸縮させることで、作業機3は、格納状態(図3の上側、非作業状態)と、使用状態(図3の下側、作業状態)と、の間で状態を切替可能である。格納状態とは、2つの側方耕耘部3bを中央耕耘部3aの上方に位置させた状態、即ち2つの側方耕耘部3bを折り畳んで格納させた状態である。使用状態とは、2つの側方耕耘部3bを中央耕耘部3aの左右方向外側に位置させて作業幅を広げた状態である。また、使用状態において、リフトシリンダ22を動作させて作業機3を下げた後に(図3の下側の2点鎖線の位置で)、圃場に対して作業機3による作業が行われる。
【0036】
非作業状態とは、少なくとも一部において作業機3を用いた作業を行うことができない状態(言い換えれば、運搬等の作業以外を目的とした状態)である。図2の上側の状態では、側方耕耘部3bを用いて耕耘作業を行うことができないので、非作業状態である。そして、図2の上側は、側方耕耘部3bが格納されているため、更に格納状態でもある。一方、作業状態とは、非作業状態で作業を行うことができなかった部分(側方耕耘部3b)で作業を行うことができる状態である。また、図2の下側の状態では、側方耕耘部3bが使用可能であるため、更に使用状態でもある。なお、これらの状態は作業機3自体の状態であり、トラクタ10により作業機3がどの高さにされているかは考慮しない。
【0037】
図2に示すように、作業機3には、状態検出センサ81と、作業機側傾斜センサ82と、整地板回転角センサ83と、が設けられている。
【0038】
状態検出センサ81は、作業機3が格納状態にあるか使用状態にあるか否か(言い換えれ側方耕耘部3bが広げられているか否か)を検出するセンサである。状態検出センサ81は、リミットスイッチであり、側方耕耘部3bが格納状態になったときに何れかの部分と接触して通電する構成である。状態検出センサ81は、左右一対で配置されているため、左右の側方耕耘部3bの両方の状態を個別に検出できる。
【0039】
作業機側傾斜センサ82は、作業機3のロール方向(前後方向を回転軸とした回転方向)の傾斜角度を検出する。作業機側傾斜センサ82は、傾斜センサ41と同様の構成であるが、上述したように他の構成であってもよい。
【0040】
整地板回転角センサ83は、整地板75の回転角度(言い換えれば、整地時に上下にどの程度動いたか)を検出する。整地板回転角センサ83は、例えば整地板75又はその回転軸に取り付けられたリンクの回転角を検出するポテンショメータである。整地板回転角センサ83の検出結果に基づいて、例えば耕耘後の圃場内の土塊の大きさの程度を検出できる。即ち、耕耘後に残っている土塊が大きい場合、整地板回転角センサ83は、大きく上下に回動する。一方、耕耘後に残っている土塊が小さい場合、整地板回転角センサ83は小さく上下に回動する。従って、整地板回転角センサ83の回動の大きさ及びその頻度に基づいて、耕耘後の圃場に残っている土塊の大きさについての情報を取得できる。
【0041】
上記の3つのセンサの構造は一例であり、別の構造であってもよい。例えば、状態検出センサ81は、側方耕耘部3bの回動軸の回転角度を検出する構成であってもよいし、開閉シリンダ77の伸縮長さを検出する構成であってもよい。
【0042】
次に、図3を参照して、水平制御を行うための電気的な構成について説明する。図3に示すように、トラクタ10は、作業機3を制御するための制御装置50を備える。制御装置50は、作業機3の動作、高さ及び姿勢等を制御する。制御装置50は、CPU等の演算装置と、ROMやRAM等からなる記憶装置と、を備えている。これらのハードウェアと、上記記憶装置に記憶された作業機制御プログラムと、が協働することにより、制御装置50を、通信部51、補正量算出部52、記憶処理部53、及び水平制御部54等として機能させることができる。
【0043】
通信部51は、作業機3に設けられた作業機側制御装置80と通信する処理を行う。通信部51は、有線通信を行う構成であってもよいし、無線通信を行う構成であってもよい。これにより、制御装置50は、作業機側制御装置80から情報を受信できる。制御装置50が受信する情報としては、例えば、作業機3の種類(ロータリ、ハロー等)、作業機3が有する特別な機能(例えば格納機能の有無等)、作業機3の識別番号(作業機3毎に設定された固有の番号)、状態検出センサ81の検出値、作業機側傾斜センサ82の検出値、整地板回転角センサ83の検出値等である。なお、例えば状態検出センサ81の検出値をそのまま制御装置50に送信せずに、作業機3が格納状態か使用状態か作業機側制御装置80が判断し、その判断結果を制御装置50へ送信してもよい。
【0044】
補正量算出部52は、後述の図5に示す処理を行って、傾斜センサ41の検出値を補正するための補正量を算出する。この補正量は、傾斜センサ41の検出値と作業機側傾斜センサ82の検出値とを所定のタイミングで比較することによって算出される。
【0045】
記憶処理部53は、補正量算出部52が算出した補正量を記憶する処理を行う。記憶処理部53は、制御装置50が備える記憶装置に補正量を記憶してもよいし、外部との無線通信が可能であれば外部のサーバに補正量を記憶してもよい。
【0046】
水平制御部54は、後述の図8に示す処理を行って、作業機3の左右の傾斜を修正して作業機3を水平に近づける制御(水平制御)を行う。
【0047】
また、上述した傾斜センサ41、角速度センサ42、及びストロークセンサ43の検出値は制御装置50へ出力されている。また、制御装置50は、サブディスプレイ36と電気的に接続されており、サブディスプレイ36に情報を表示する処理、及び、サブディスプレイ36に対して行われた操作を検出する処理等を行うこともできる。
【0048】
また、制御装置50には、ローリング制御弁61が電気的に接続されている。ローリング制御弁61は、ローリングシリンダ24と、油圧ポンプとの間に配置されている。このローリング制御弁61は電磁弁として構成されている。水平制御部54は、ローリング制御弁61を制御することで水平制御を行う。
【0049】
次に、図4及び図5のフローチャートを参照して、水平制御のための補正量を算出して記憶する処理について説明する。以下の説明では、ロール方向の傾斜角度を単に傾斜角度と称する。
【0050】
ここで算出する補正量は、傾斜センサ41の検出値を補正するためのものである。傾斜センサ41は、トラクタ10の傾斜角度を検出する。ここで、ロワーリンク18及びトップリンク19と連結部材28の取付箇所では取付向きに若干のズレが含まれる。また、連結部材28と連結部71の取付箇所においても取付向きに若干のズレが含まれる。そのため、トラクタ10と作業機3の傾斜角度は厳密には一致しない。従って、トラクタ10の傾斜角度に基づいて水平制御を行っても、作業機を正確に水平に保つことができない可能性がある。特に、本実施形態のような代掻き用のハローは、図2に示すように左右方向の長さが長い。そのため、傾斜角度が水平から僅かにズレているだけでも、左右方向の端部においては、このズレの影響が大きくなる。
【0051】
一方、作業機側傾斜センサ82の検出値を使っても水平制御を適切に行うことはできない。即ち、水平制御部54がローリング制御弁61を制御してから、ローリングシリンダ24が伸縮して作業機3の傾きが実際に変化するまでに比較的長い時間が掛かる(即ち、応答遅れが大きい)。そのため、作業機側傾斜センサ82の検出値を用いて、作業機側傾斜センサ82の検出値が水平を示すように制御することは困難である。
【0052】
以上を考慮し、本実施形態では、傾斜センサ41の検出値と作業機側傾斜センサ82の検出値とを比較して、傾斜センサ41の検出値を補正するための補正量を算出する。補正量を算出する処理は、作業機3による作業を開始する前に行われる。
【0053】
初めに、制御装置50の通信部51は、例えば作業機3の装着の直後に作業機側制御装置80と通信を行い、作業機3が代掻き用のハローであること(作業機の種類)、作業機3が格納機能を有していること(格納機能の有無)、作業機3の識別番号等を受信する(S101)。
【0054】
次に、制御装置50は、受信した作業機3の識別番号に対応する補正量があるか否かを判定する(S102)。後述の図7に示すように、補正量は作業機3の識別番号に対応付けて記憶されている。制御装置50は、この情報にアクセスすることで、ステップS102の判定を行う。
【0055】
受信した識別番号に対応する補正量がない場合、制御装置50は、図5に示す処理を行って補正量を算出する(S104)。受信した識別番号に対応する補正量がある場合、制御装置50は、新たな補正量の算出を省略する旨の指示があるか否かを判定する(S103)。つまり、過去の補正量を用いる場合、補正量の算出処理を省略できるメリットはある。しかし、作業機3の取付箇所の角度ズレは、取付けを行う毎に異なることがあるため、同じ作業機3を用いる場合であっても補正量を再度算出した方がよい場合もある。従って、作業機側制御装置80は事前にオペレータ又はメンテナンス作業者等が設定した設定を参照する等して、ステップS103の判定を行う。
【0056】
新たな補正量の算出を省略できる旨の指示がある場合、制御装置50は、補正量の算出を省略する(S105)。この場合、制御装置50の水平制御部54は、以前に算出した補正量を用いて水平制御を行う。なお、ステップS103の処理は、オペレータ又はメンテナンス作業者等の設定を参照する処理であるが、予め定められた判定基準に基づいて制御装置50が判定してもよい。判定基準としては、例えば、過去の補正量の算出時期が閾値以上古い場合は補正量を新たに算出する、正確な水平制御が要求される作業機については毎回補正量を算出する等を挙げることができる。
【0057】
補正量を算出することが決定した場合、制御装置50の通信部51は、作業機側制御装置80から作業機3の開閉状態を取得する(S201)。開閉状態とは、作業機3が格納状態と使用状態の何れであるか、言い換えれば側方耕耘部3bが格納されているか否かである。制御装置50が取得する情報は、状態検出センサ81の検出値又は当該検出値から得られる情報である。
【0058】
次に、制御装置50は、ステップS201で取得した情報に基づいて、作業機3が格納状態から使用状態に変更になったか否かを判定する(S202)。本実施形態では、格納状態から使用状態になった後に、傾斜センサ41の検出値と、作業機側傾斜センサ82の検出値と、を比較して補正量を算出する。ここで、作業機3を格納状態から使用状態に変更する処理は、通常は、トラクタ10を安定した位置で停止させる。また、この状態を変更する間は、リフトシリンダ22及びローリングシリンダ24を動作させることもない。そのため、2つの傾斜センサの検出値の比較に好適なタイミングである。なお、本実施形態では、格納状態から使用状態に完全に移行したか否かを判定するが、格納状態から使用状態への移行が開始したか否かを判定してもよい。この場合、使用状態への移行の完了前に2つの傾斜センサの検出値の比較が行われてもよい。
【0059】
制御装置50は、作業機3が格納状態から使用状態に変更になったと判定した場合、作業機3の傾斜について基準設定が行われたか否かを判定する(S203)。この基準設定について簡単に説明する。サブディスプレイ36の表示部36aには、図6に示すような作業機の状態を表示することができる。図6には、トラクタ及び作業機を示す表示物91と、傾斜メータ92と、基準設定ボタン93と、が表示されている。
【0060】
傾斜メータ92は、作業機3が左右の何れに傾斜しているかを示す。作業機側傾斜センサ82の検出結果に基づいて、例えば作業機3が左側に傾斜していると判定された場合は、傾斜メータ92のバーが左側に移動する。また、基準設定ボタン93が操作されることで、操作された時点での作業機3の傾斜が基準状態(水平状態)として表示されるように、傾斜メータ92が変更される。また、後述の水平制御においても、作業機3の傾斜が基準状態として維持されるように作業機3の傾斜角度が調整される。オペレータは、作業機3を使用状態に変更した後に、必要に応じて作業機3が水平となるように作業機3の左右の傾斜を調整し、基準設定ボタン93を操作する。基準設定ボタン93が操作されることで、例えばサブディスプレイ36から制御装置50へ所定の信号が送信される。この信号は、基準設定ボタン93が操作されたことを含むため、作業機3の傾斜状態が基準状態であることを示す信号と捉えることができる。
【0061】
サブディスプレイ36がタッチパネル装置(操作部)を含む場合は、画面上の基準設定ボタン93に触れることで、基準状態が設定される。そうでない場合は、サブディスプレイ36に設けられた操作キー(操作部)36bを操作して基準設定ボタン93を選択することで、基準状態が設定される。
【0062】
なお、表示部36aには、作業機3の左右方向の傾斜だけでなく、深さ方向についても同様に、深さメータ94と基準設定ボタン95とが表示されている。
【0063】
本実施形態では、これらはサブディスプレイ36に表示されるが、別の装置に表示されてもよい。別の装置としては、例えば、オペレータが所持する携帯端末、メータパネル35、作業機3に開閉指示等を行うためのリモコン等がある。この場合、制御装置50は、これらの装置と通信可能に構成される。
【0064】
制御装置50は、ステップS202とS203を満たすと判定した場合、制御装置50の通信部51は、作業機側制御装置80から作業機側傾斜センサ82の検出値を取得する(S204)。なお、作業機側傾斜センサ82の検出値の取得は、作業機3を用いた作業が開始される前(作業機3が下降されて圃場に接触する前)に行われることが好ましい。
【0065】
次に、制御装置50の補正量算出部52は、傾斜センサ41の検出値と、作業機側制御装置80から取得した作業機側傾斜センサ82の検出値と、を比較して差異量を算出する(S205)。補正量算出部52は、この差異量に基づいて補正量を算出する(S206)。ここで検出される差異量は、トラクタ10と作業機3の角度ズレを示すため、差異量をそのまま補正量として用いてもよい。あるいは、検出値の比較を複数回行って、差異量の平均値を補正量としてもよい。
【0066】
次に、制御装置50の記憶処理部53は、ステップS206で算出した補正量を作業機3の識別番号と対応付けて記憶する(S207)。なお、補正量及び識別番号に加え、更に算出日等の他の情報が付加されてもよい。これにより、図7に示すように、作業機識別番号、補正量、算出日等が対応付けて記憶される。
【0067】
次に、図8を参照して、水平制御部54が行う水平制御について説明する。
【0068】
作業機3を用いて圃場に対して作業を行う際に、制御装置50の水平制御部54は、傾斜センサ41の検出値に補正量を適用することで、検出値を補正する(S301)。補正後の検出値は、トラクタ10と作業機3の間の角度ズレを加味した作業機3の傾斜角度を示す。
【0069】
次に、水平制御部54は、補正後の検出値が左下がりを示すか否か判定し(S302)、左下がりである場合は、作業機3の左側が高くなるようにローリング制御弁61を制御する(S303)。また、水平制御部54は、補正後の検出値が右下がりを示すか否か判定し(S304)、右下がりである場合は、作業機3の右側が高くなるようにローリング制御弁61を制御する(S305)。以上の処理を繰り返すことで、作業機3が常に水平となるように(水平に近づくように)作業機3が制御される。なお、ローリング制御弁61を制御する際には、検出した傾斜角度だけでなく、角速度センサ42の検出値を考慮して制御値を決定してもよい。
【0070】
以上に説明したように、本実施形態のトラクタ10は、車体11と、傾斜センサ41と、通信部51と、補正量算出部52と、水平制御部54と、を備える。車体11には、作業機3を取付可能である。傾斜センサ41は、車体11に配置され、車体11のロール方向の傾斜角度を検出する。通信部51は、作業機3に配置された作業機側傾斜センサ82が検出した当該作業機3のロール方向の傾斜角度を作業機3から受信する。補正量算出部52は、作業機3が非作業状態から作業状態への変更中又は変更後において、傾斜センサ41の検出値と作業機側傾斜センサ82の検出値とを比較して補正量を算出する。水平制御部54は、作業機3を用いた作業中において、傾斜センサ41の検出値と補正量とに基づいて、作業機3が水平に近づくように当該作業機3の傾斜角度を変更する水平制御を行う。
【0071】
これにより、傾斜センサ41の検出値を作業機側傾斜センサ82の検出値で補正することで、トラクタ10と作業機3の間の角度ズレの影響を考慮して水平制御を行うことができる。特に、この補正を、非作業状態から作業状態への変更中又は変更後に行うことで、適切な補正量を算出できる。
【0072】
また、本実施形態のトラクタ10において、作業機3は代掻き用のハローである。非作業状態は、耕耘部の一部(側方耕耘部3b)が格納された格納状態である。作業状態は、側方耕耘部3bが使用可能となる使用状態である。補正量算出部52は、ハローが格納状態から使用状態に移行したと判定した後に、補正量を算出する。
【0073】
これにより、ハローの可動部分が広げられて使用状態に移行した後に補正量が算出されるので、作業中と同じ条件で検出された傾斜角度に基づいて補正を行うことができる。
【0074】
また、本実施形態のトラクタ10において、補正量算出部52は、オペレータが操作可能な操作キー36b又はタッチパネルが操作されることで生成される信号を受信可能である。補正量算出部52は、作業機3の傾斜状態が基準状態であることを示す信号であって、操作キー36b又はタッチパネルが操作されることで生成される信号を受信した後に、補正量を算出する。
【0075】
これにより、オペレータが基準状態であることを確認した状態で補正量が算出されるので、例えば作業機3が水平となった状態で補正量を算出できる。
【0076】
また、本実施形態のトラクタ10は、作業機3を識別する識別番号と、補正量と、を対応付けて記憶する処理を行う記憶処理部53を備える。通信部51は、作業機3から当該作業機3の識別番号を受信する。水平制御部54は、通信部51が受信した作業機3の識別番号に対応付けた補正量が存在する場合は、当該補正量に基づいて、水平制御を行う。
【0077】
これにより、補正量を算出した作業機3を再び装着した場合において、補正量を算出する処理を省略又は簡略化できる。
【0078】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0079】
上記実施形態で示したフローチャートは一例であり、一部の処理を省略したり、一部の処理の内容を変更したり、新たな処理を追加したりしてもよい。例えば、本実施形態ではステップS202とS203の両方を満たした後にステップS204の処理を行うが、ステップS202とS203の何れか一方を省略してもよいし、何れか一方が行われた後にステップS204の処理を行う構成であってもよい。
【0080】
上記実施形態では、作業機3として代掻き用のハローを用いる例を説明したが、非作業状態と作業状態とを切替可能な作業機であり、水平制御が必要な作業機であれば、ハロー以外の作業機に対しても本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0081】
3 作業機
10 トラクタ
41 傾斜センサ(トラクタ側傾斜センサ)
50 制御装置
51 通信部
52 補正量算出部
53 記憶処理部
54 水平制御部
80 作業機側制御装置
81 状態検出センサ
82 作業機側傾斜センサ
83 整地板回転角センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8