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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】信号補正装置および位相誤差解析装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/7093 20110101AFI20220318BHJP
   H04L 7/04 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
H04B1/7093
H04L7/04 300
H04L7/04 200
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019171420
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021048550
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000204424
【氏名又は名称】大井電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沢田 拓磨
【審査官】吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-353859(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0232051(US,A1)
【文献】特開2018-174490(JP,A)
【文献】特開平10-028076(JP,A)
【文献】特開2000-232393(JP,A)
【文献】米国特許第06614834(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/7093
H04L 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間軸上で時間ずれを持たせて順次配列された複数のマッチトフィルタ係数群のそれぞれと、入力信号との間で相関演算を行うマッチトフィルタ部と、
複数のマッチトフィルタ係数群による複数の相関値が得られた各タイミングに基づいて、複数の相関タイミングを求める相関タイミング決定部と、
複数の前記相関タイミングのそれぞれにおける前記相関値を用いて、前記入力信号の位相および周波数を補正する信号補正部と、
を備えることを特徴とする信号補正装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号補正装置において、
前記入力信号は、PN符号によってスペクトラム拡散されたPN信号であり、
前記マッチトフィルタ係数群は、前記PN符号に基づくフィルタ係数群であり、
前記時間ずれは、前記PN符号のチップ時間の自然数倍であることを特徴とする信号補正装置。
【請求項3】
時間軸上で時間ずれを持たせて順次配列された複数のマッチトフィルタ係数群のそれぞれと、入力信号との間で相関演算を行うマッチトフィルタ部と、
複数のマッチトフィルタ係数群による複数の相関値が得られた各タイミングに基づいて、複数の相関タイミングを求める相関タイミング決定部と、
複数の前記相関タイミングのそれぞれにおける前記相関値を用いて、前記入力信号の位相誤差を求める位相誤差決定部と、
を備えることを特徴とする位相誤差解析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の位相誤差解析装置において、
前記位相誤差決定部は、
時間軸上で隣接する前記相関タイミングに対して得られた2つの前記相関値に基づいて隣接位相差を求め、
時間軸上で隣接する2つの前記相関タイミングの組のそれぞれに対して得られた前記隣接位相差に対する統計処理によって、前記入力信号の位相誤差を求めることを特徴とする位相誤差解析装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の位相誤差解析装置において、
前記入力信号は、PN符号によってスペクトラム拡散されたPN信号であり、
前記マッチトフィルタ係数群は、前記PN符号に基づくフィルタ係数群であり、
前記時間ずれは、前記PN符号のチップ時間の自然数倍であることを特徴とする位相誤差解析装置。
【請求項6】
請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の位相誤差解析装置と、
前記位相誤差を用いて、前記入力信号の位相および周波数を補正する信号補正部と、
を備えることを特徴とする信号補正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号補正装置および位相誤差解析装置に関し、特に、信号の周波数および位相を補正するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディジタル変調信号を用いた無線通信システムが広く用いられている。ディジタル変調信号は、シンボル符号をシンボル周期ごとに、信号の位相または信号の位相の時間変化に対応付けたものである。ディジタル変調信号の方式には、BPSK、QPSK、π/4シフトQPSK等がある。例えば、QPSKでは、(0,0)、(0,1)、(1,0)、および(1,1)の4種類のシンボル符号が、π/2間隔の4つの位相値に対応付けられている。
【0003】
送信装置は、ディジタル変調信号を搬送波によって無線信号に変換し無線送信する。無線信号の位相は、シンボル周期が経過するごとに、シンボル符号に対応する位相値だけ搬送波の位相から遷移する。受信装置は無線信号を受信し、直交検波して同相ベースバンド信号および直交ベースバンド信号を生成する。横軸が同相ベースバンド信号Iを示し、縦軸が直交ベースバンド信号Qを示すIQ平面において、各シンボル符号は、原点を基準とするシンボルベクトルで表される。受信装置は、同相ベースバンド信号Iおよび直交ベースバンド信号Qからシンボル符号を順次抽出し、ディジタル信号を再生する。
【0004】
送信装置と受信装置との間における無線信号の伝搬環境によっては、無線信号の周波数が変動する。これに伴って、シンボルベクトルの位相角に誤差が生じ、復調によって得られるディジタル信号の誤り率が増加することがある。そこで、以下の特許文献1および2に示されているように、受信信号の周波数を補正する技術が考え出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-83442号公報
【文献】特開平9-307525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2に記載されている周波数補正処理では、複数のシンボル周期に亘る信号が用いられ、1シンボル周期ごとに周波数が補正される。したがって、周波数補正がされる時間間隔が長くなってしまい、周波数補正の効果が十分に得られない場合がある。例えば、シンボル周期の逆数であるシンボルレートが搬送波の周波数に対して低い程、搬送波の周波数の変動に対してシンボルベクトルの位相誤差が大きくなってしまい、上記の問題点が顕著となることがある。そこで、受信信号の周波数誤差、または周波数誤差に伴って生じる位相誤差を迅速に求めること、あるいは受信信号の周波数または位相を迅速に補正することが期待されている。
【0007】
本発明は、信号の位相誤差を迅速に求めること、あるいは信号の周波数および位相を迅速に補正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、時間軸上で時間ずれを持たせて順次配列された複数のマッチトフィルタ係数群のそれぞれと、入力信号との間で相関演算を行うマッチトフィルタ部と、複数のマッチトフィルタ係数群による複数の相関値が得られた各タイミングに基づいて、複数の相関タイミングを求める相関タイミング決定部と、複数の前記相関タイミングのそれぞれにおける前記相関値を用いて、前記入力信号の位相および周波数を補正する信号補正部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
望ましくは、前記入力信号は、PN符号によってスペクトラム拡散されたPN信号であり、前記マッチトフィルタ係数群は、前記PN符号に基づくフィルタ係数群であり、
前記時間ずれは、前記PN符号のチップ時間の自然数倍である。
【0010】
また、本発明は、時間軸上で時間ずれを持たせて順次配列された複数のマッチトフィルタ係数群のそれぞれと、入力信号との間で相関演算を行うマッチトフィルタ部と、 複数のマッチトフィルタ係数群による複数の相関値が得られた各タイミングに基づいて、複数の相関タイミングを求める相関タイミング決定部と、複数の前記相関タイミングのそれぞれにおける前記相関値を用いて、前記入力信号の位相誤差を求める位相誤差決定部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
望ましくは、前記位相誤差決定部は、時間軸上で隣接する前記相関タイミングに対して得られた2つの前記相関値に基づいて隣接位相差を求め、時間軸上で隣接する2つの前記相関タイミングの組のそれぞれに対して得られた前記隣接位相差に対する統計処理によって、前記入力信号の位相誤差を求める。
【0012】
望ましくは、前記入力信号は、PN符号によってスペクトラム拡散されたPN信号であり、前記マッチトフィルタ係数群は、前記PN符号に基づくフィルタ係数群であり、前記時間ずれは、前記PN符号のチップ時間の自然数倍である。
【0013】
望ましくは、信号補正装置は、前記位相誤差解析装置と、前記位相誤差を用いて、前記入力信号の位相および周波数を補正する信号補正部と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、信号の位相誤差を迅速に求めることができ、あるいは信号の周波数および位相を迅速に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】受信装置の構成を示す図である。
図2】スペクトラム拡散無線信号が生成される過程を概念的に示す図である。
図3】復調部の構成を示す図である。
図4】相関フィルタの構成を示す図である。
図5】各マッチトフィルタで求められる同相相関値の時間波形を概念的に示す図である。
図6】信号補正部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態につき、図面を参照しながら以下に説明する。複数の図面に示された同一の事項については同一の符号を付して説明の重複を避ける。図1には、本発明の実施形態に係る受信装置1の構成が示されている。受信装置1は、受信部10および復調部12を備えている。受信部10は、送信装置から送信されたスペクトラム拡散無線信号を受信する。受信部10は、スペクトラム拡散無線信号を増幅し、中間周波数帯の信号に変換する。受信部10は中間周波数帯の受信信号を復調部12に出力する。なお、受信部10は、受信信号の中間周波数帯への変換を行わず、無線周波数帯の受信信号を復調部12に出力するものであってもよい。
【0017】
図2(a)~図2(d)には、スペクトラム拡散無線信号が生成される過程が概念的に示されている。図2(a)には、送信装置から受信装置1に送信される対象となるディジタル信号が示されている。ディジタル信号は、時間経過と共に値が10110・・・・・となるディジタルデータを示す。図2(b)にはPN信号が示されている。PN信号は、時間軸上に配列された値がPN(Pseudo Noise)符号を示す信号である。PN符号は、1および-1が時系列で連なった符号である。PN信号の値が変化する周波数であるチップレートは、ディジタル信号の値が変化する周波数であるビットレートよりも大きい。すなわち、1チップの時間長であるチップ時間Tcは、1ビットの時間長であるビット時間Tbよりも短い。
【0018】
図2(c)には搬送波が示されている。図2(d)にはBPSK変調信号が示されている。BPSK変調信号は、図2(a)に示されているディジタル信号によって、搬送波に対してBPSK変調が施された信号である。BPSK変調は、ディジタル信号の値が1であるときと、ディジタル信号の値が0であるときとで、搬送波にπの位相差を持たせる変調方式である。図2(e)には、図2(d)に示されたBPSK変調信号に図2(b)に示されたPN信号が乗ぜられたスペクトラム拡散信号が示されている。BPSK変調信号にPN信号が乗ぜられることで、周波数領域におけるスペクトラムが拡散される。すなわち、BPSK変調信号はPN信号によってスペクトラム拡散される。送信装置は、スペクトラム拡散信号を無線信号に変換し、スペクトラム拡散無線信号を受信装置1に向けて送信する。
【0019】
ここでは、BPSK変調信号にPN信号が乗ぜられることでスペクトラム拡散信号が得られる例が示されたが、PN信号が乗ぜられるディジタル変調信号は、その他の変調方式によるものであってもよい。例えば、QPSK変調では、(0,0)、(0,1)、(1,0)、および(1,1)の4種類のシンボル符号がディジタル信号に応じて生成され、これらのシンボル符号に対応して、搬送波の位相がπ/2の整数倍の間隔で遷移する。
【0020】
図1に示された復調部12は、受信信号の位相誤差を求める位相誤差解析装置として動作し、受信信号の位相誤差を補正する信号補正装置として動作する。復調部12は、位相誤差が補正された信号からディジタル信号を復調する。
【0021】
図3には、復調部12の構成が示されている。復調部12は、直交検波部34、第1メモリ32、マッチトフィルタ部40、相関タイミング決定部42、第2メモリ44、信号補正部46および判定回路48を備えている。直交検波部34のうちディジタル信号を処理する部分、マッチトフィルタ部40、相関タイミング決定部42、信号補正部46および判定回路48は、プログラムを実行することでそれぞれの機能を実現するプロセッサで構成されてよい。
【0022】
直交検波部34は、局部発振器20、同相成分ミキサ22、π/2移相器24、直交成分ミキサ26、同相成分ローパスフィルタ(ILPF)28および直交成分ローパスフィルタ(QLPF)30を備えている。局部発振器20は、受信信号の搬送波の周波数と同一の周波数を有するローカル信号を同相成分ミキサ22およびπ/2移相器24に出力する。π/2移相器24は、ローカル信号の移相をπ/2だけ遅らせた直交ローカル信号を、直交成分ミキサ26に出力する。
【0023】
受信信号(入力信号)は、同相成分ミキサ22および直交成分ミキサ26に入力される。同相成分ミキサ22は、受信信号とローカル信号とを掛け合わせた同相乗算信号を同相成分ローパスフィルタ28に出力する。同相成分ローパスフィルタ28は、同相乗算信号における高調波成分を減衰させ、または除去して同相ベースバンド信号を第1メモリ32に出力する。直交成分ミキサ26は、受信信号と直交ローカル信号とを掛け合わせた直交乗算信号を直交成分ローパスフィルタ30に出力する。直交成分ローパスフィルタ30は、直交乗算信号における高調波成分を減衰させ、または除去して直交ベースバンド信号を第1メモリ32に出力する。
【0024】
なお、同相成分ローパスフィルタ28および直交成分ローパスフィルタ30は、A/D変換器を備えている。同相成分ローパスフィルタ28および直交成分ローパスフィルタ30は、アナログ信号をディジタル信号に変換し、ディジタル信号に対してローパスフィルタ処理を施し出力する。
【0025】
第1メモリ32は、PN符号のチップ数をAとして、チップ数A+n-1(チップ長A+n-1)の同相ベースバンド信号および直交ベースバンド信号を記憶する。ここで、nは正の整数であり、マッチトフィルタ部40に含まれているマッチトフィルタの数に相当する。第1メモリ32は、新たな1チップの同相ベースバンド信号が入力されると、新たな1チップの同相ベースバンド信号を記憶し、最も先に記憶された1チップの同相ベースバンド信号をマッチトフィルタ部40に出力する。同様に、第1メモリ32は、新たな1チップの直交ベースバンド信号が入力されると、新たな1チップの直交ベースバンド信号を記憶し、最も先に記憶された1チップの直交ベースバンド信号をマッチトフィルタ部40に出力する。
【0026】
マッチトフィルタ部40は、n個のマッチトフィルタ40-1~40-nを備えている。各マッチトフィルタ40-1~40-nは、A個のフィルタ係数から構成されるマッチトフィルタ係数群と、第1メモリ32に記憶された同相ベースバンド信号との相関演算を行い、同相相関値を相関タイミング決定部42に出力する。また、各マッチトフィルタ40-1~40-nは、A個のフィルタ係数から構成されるマッチトフィルタ係数群と、第1メモリ32に記憶された直交ベースバンド信号との相関演算を行い、直交相関値を相関タイミング決定部42に出力する。
【0027】
マッチトフィルタ部40-1~40-nは、以下に説明するように、時間軸上で1チップ時間Tcの時間ずれを持たせて順次配列された複数のマッチトフィルタ係数群のそれぞれと、入力信号としての同相ベースバンド信号および直交ベースバンド信号との間で相関演算を行う。
【0028】
マッチトフィルタ40-1は、時間軸上で連なる2つのPN符号「p、p、・・・・p、pA+1、pA+2、・・・・・p2A-1、p2A」のうち、p~pをマッチトフィルタ係数群として用いて相関演算を実行する。マッチトフィルタ40-2は、p~pA+1をマッチトフィルタ係数群として用いて相関演算を実行する。・・・・・・マッチトフィルタ40-nは、p~pA+n-1をマッチトフィルタ係数群として用いて相関演算を実行する。すなわち、マッチトフィルタ40-jは、p~pA+j-1をマッチトフィルタ係数群として用いて相関演算を実行する。ただし、jは1~nのうちのいずれかの整数である。また、p、p、・・・・pA-1、pと、pA+1、pA+2、・・・・・p2A-1、p2Aとは同一である。
【0029】
このように、マッチトフィルタ40-2は、マッチトフィルタ40-1が用いるマッチトフィルタ係数群に対して、時間軸上で1チップだけずれたマッチトフィルタ係数群を用いて相関演算を行う。マッチトフィルタ40-3は、マッチトフィルタ40-2が用いるマッチトフィルタ係数群に対して、時間軸上で1チップだけずれたマッチトフィルタ係数群を用いて相関演算を行う。・・・・・マッチトフィルタ40-nは、マッチトフィルタ40-(n-1)が用いるマッチトフィルタ係数群に対して、時間軸上で1チップだけずれたマッチトフィルタ係数群を用いて相関演算を行う。すなわち、マッチトフィルタ40-jは、マッチトフィルタ40-(j-1)が用いるマッチトフィルタ係数群に対して、時間軸上で1チップだけずれたマッチトフィルタ係数群を用いて相関演算を行う。
【0030】
図4には、マッチトフィルタ40-jの構成要素のうち、同相ベースバンド信号および直交ベースバンド信号のうちの一方に対する相関フィルタ50-jが示されている。マッチトフィルタ40-jは、同相ベースバンド信号および直交ベースバンド信号のそれぞれに対し、図4に示されている相関フィルタ50-jを備えている。
【0031】
相関フィルタ50-jは、遅延器D-1~D-A、乗算器M-1~M-Aおよび加算合計器52を備えている。遅延器D-1~D-Aは縦続接続されており、最終段の遅延器D-Aを除き、自らに入力された信号値を1チップ時間Tcだけ遅延させて次段の遅延器に出力する。最終段の遅延器D-Aは、自らに入力された信号値を1チップ時間Tcだけ遅延させて加算合計器52に出力する。乗算器M-1~M-Aは、それぞれ、遅延器D-1~D-Aから出力された信号値に、それぞれ、マッチトフィルタ係数p~pA+j-1を掛け合わせて、加算合計器52に出力する。加算合計器52は、乗算器M-1~M-Aから出力された信号値を加算合計した値を相関値として出力する。
【0032】
相関フィルタ50-jから出力される相関値は、遅延器D-1~D-Aから出力されている各信号値に送信側で乗ぜられたPN符号が、マッチトフィルタ係数p~pA+j-1に一致する相関タイミングで、正の極大値または負の極小値となる。遅延器D-1~D-Aから出力されている各信号値にPN符号が乗ぜられる前のディジタル信号の値が1であるときは、相関値は正の極大値(正のピーク値)となる。遅延器D-1~D-Aから出力されている各信号値にPN符号が乗ぜられる前のディジタル信号の値が-1であるときは、相関値は負の極小値(負のピーク値)となる。ただし、ここではディジタル信号において、1および0の代わりに1および-1が用いられているものとする。
【0033】
マッチトフィルタ40-jは、第1メモリ32から読み出された同相ベースバンド信号とマッチトフィルタ係数p~pA+j-1との同相相関値を求め相関タイミング決定部42に出力する。この相関演算は同相ベースバンド信号用にマッチトフィルタ40-jに備えられた相関フィルタ50-jが実行する。
【0034】
マッチトフィルタ40-jは、1チップ時間が経過するごとに1チップの新たな同相ベースバンド信号を第1メモリ32から読み込み、新たなチップ長Aの同相ベースバンド信号とマッチトフィルタ係数p~pA+j-1との同相相関値を求め、相関タイミング決定部42に出力する。相関タイミング決定部42は、同相相関値がピーク値となる相関タイミングで、その同相相関値を同相リサンプル値として第2メモリ44に記憶させる。
【0035】
マッチトフィルタ40-jは、第1メモリ32から読み出された直交ベースバンド信号とマッチトフィルタ係数p~pA+j-1との直交相関値を求め相関タイミング決定部42に出力する。この相関演算は直交ベースバンド信号用にマッチトフィルタ40-jが備える相関フィルタ50-jが実行する。
【0036】
マッチトフィルタ40-jは、1チップ時間が経過するごとに1チップの新たな直交ベースバンド信号を第1メモリ32から読み込み、新たなチップ長Aの直交ベースバンド信号とマッチトフィルタ係数p~pA+j-1との直交相関値を求め、相関タイミング決定部42に出力する。相関タイミング決定部42は、直交相関値がピーク値となる相関タイミングで、その直交相関値を直交リサンプル値として第2メモリ44に記憶させる。
【0037】
図5(a)~図5(c)には、マッチトフィルタ40-1~40-3で求められる同相相関値の時間波形が概念的に示されている。横軸は時間を示し、縦軸は同相相関値を示す。マッチトフィルタ40-1で求められた同相相関値がピーク値となってから1チップ時間Tcが経過した時に、マッチトフィルタ40-2で求められた同相相関値がピーク値になる。マッチトフィルタ40-2で求められた同相相関値がピーク値になってから1チップ時間Tcが経過した時に、マッチトフィルタ40-3で求められた同相相関値がピーク値になる。・・・・・そして、マッチトフィルタ40-(n-1)で求められた同相相関値がピーク値になってから1チップ時間Tcが経過した時に、マッチトフィルタ40-nで求められた同相相関値がピーク値になる。
【0038】
各マッチトフィルタ40-1~40-nによって求められた同相相関値がピーク値となる相関タイミングで、その同相相関値が同相リサンプル値として第2メモリ44に記憶される。同様に、各マッチトフィルタ40-1~40-nによって求められた直交相関値がピーク値となる相関タイミングで、その直交相関値が直交リサンプル値として第2メモリ44に記憶される。
【0039】
第2メモリ44は、マッチトフィルタ40-1~40-nのそれぞれが求めた同相リサンプル値および直交リサンプル値を時系列順に記憶する。信号補正部46は、以下に説明する構成および処理によって、第2メモリ44に記憶されたn組の同相リサンプル値および直交リサンプル値に基づいて、位相誤差が補正された同相ベースバンド信号および直交ベースバンド信号を求める。
【0040】
図6には、信号補正部46の構成が示されている。信号補正部46は、時間軸上で隣接する相関タイミングに対して得られた2つの相関値に基づいて隣接位相差を求める。 そして、時間軸上で隣接する2つの相関タイミングの組のそれぞれに対して得られた隣接位相差に対する統計処理によって、同相ベースバンド信号および直交ベースバンド信号の位相誤差を求め、その位相誤差に基づいて同相ベースバンド信号および直交ベースバンド信号の位相を補正する。
【0041】
信号補正部46は1チップ遅延部60、位相差算出部62、位相誤差演算部64、複素化部66、バッファメモリ68、および複素乗算部70を備えている。1チップ遅延部60は、第2メモリ44から同相リサンプル値I(j)および直交リサンプル値Q(j)をj=1、2・・・・・nの順に順次読み込み、1チップ時間Tcだけ順次遅延させて位相差算出部62に出力する。ここで、jは離散的な時間変数に相当する。位相差算出部62は、第2メモリ44から同相リサンプル値I(j)および直交リサンプル値Q(j)をj=1、2・・・・・nの順に順次読み込む。
【0042】
位相差算出部62は、同相リサンプル値I(k)および直交リサンプル値Q(k)の位相角θ(k)から、同相リサンプル値I(k-1)および直交リサンプル値Q(k-1)の位相角θ(k-1)を減算して隣接位相差Δ(k)=θ(k)-θ(k-1)を求める。
【0043】
ただし、位相差算出部62は、隣接位相差Δ(k)=θ(k)-θ(k-1)の絶対値がπ/2を超えるときは、θ(k)-θ(k-1)をディジタル変調信号の位相遷移単位で割ったときの余りを最終的な隣接位相差Δ(k)とする。すなわち、受信信号がQPSK変調方式のディジタル変調信号であるときは、位相差算出部62は、θ(k)-θ(k-1)をπ/2で割ったときの余りを最終的な隣接位相差Δ(k)とする。他の変調方式を採用した場合には、π/2に代えて、その採用された変調方式における位相遷移単位が用いられる。
【0044】
位相差算出部62は、隣接位相差Δ(k)をk=2からk=nについて順次求め、位相誤差演算部64に出力する。位相誤差演算部64は、隣接位相差Δ(2)~Δ(n)に基づいて位相誤差δを求める。位相誤差演算部64は、平均値、中央値、自乗平均根等、θ(2)~θ(n)の値が反映される統計値によって位相誤差δを求めてよい。なお、自乗平均根は、θ(2)~θ(n)の極性が同一であることが前提として用いられ、位相誤差δの極性は、θ(2)~θ(n)の極性と同一の極性とされる。
【0045】
位相誤差演算部64は、位相誤差δを複素化部66に出力する。複素化部66は、複素回転量exp(-i・L・δ)を求め、複素乗算部70に出力する。ここで、Lは1~nのうちのいずれかの整数であり、iは虚数単位である。
【0046】
バッファメモリ68は、第2メモリ44から同相リサンプル値I(L)および直交リサンプル値Q(L)を読み込む。バッファメモリ68は、複素化部66が複素回転量exp(-i・L・δ)を複素乗算部70に出力しているときに、同相リサンプル値I(L)および直交リサンプル値Q(L)を複素乗算部70に出力する。
【0047】
複素乗算部70は、(数1)に従い、同相リサンプル値I(L)を実数部とし、直交リサンプル値Q(L)を虚数部とした複素数I(L)+i・Q(L)に、複素回転量exp(-i・L・δ)を掛け合わせた複素信号Ic(L)+i・Qc(L)を求める。
【0048】
(数1)Ic(L)+i・Qc(L)
=[I(L)+i・Q(L)]・exp(-i・L・δ)
【0049】
複素乗算部70は、複素信号Ic(L)+i・Qc(L)の実数部および虚数部を、それぞれ、同相成分値Ic(L)および直交成分値Qc(L)として出力する。同相成分値Ic(L)および直交成分値Qc(L)は、位相誤差δが補正された同相ベースバンド信号および直交ベースバンド信号のサンプル値に相当する。
【0050】
信号補正部46は、同相成分値Ic(L)および直交成分値Qc(L)を、図3に示された判定回路48に出力する。判定回路48は、IQ平面上の座標点(Ic(L),Qc(L))が、IQ平面に規定された複数の領域のうちいずれに属するかを判定する。判定回路48は、IQ平面上の座標点(Ic(L),Qc(L))が属する領域に対応付けられたシンボル符号を出力する。
【0051】
例えば、IQ平面上の第1象限~第4象限に対して、シンボル符号(0,0)、(0,1)、(1,0)、および(1,1)がそれぞれ対応付けられているものとする。座標点(Ic(L),Qc(L))が第1象限に属するときは、判定回路48はシンボル符号(0,0)を出力する。座標点(Ic(L),Qc(L))が第2象限に属するときは、判定回路48はシンボル符号(0,1)を出力する。座標点(Ic(L),Qc(L))が第3象限に属するときは、判定回路48はシンボル符号(1,0)を出力する。座標点(Ic(L),Qc(L))が第4象限に属するときは、判定回路48はシンボル符号(1,1)を出力する。
【0052】
複素化部66、バッファメモリ68、および複素乗算部70は、L=1~nのいずれか1つについて、同相成分値Ic(L)および直交成分値Qc(L)を求めてもよい。また、複素化部66、バッファメモリ68、および複素乗算部70は、L=1~nについて、時間経過と共に順次、同相成分値Ic(L)および直交成分値Qc(L)を求めてもよい。
【0053】
なお、信号補正部46は、n個の同相リサンプル値I(j)(j=1~n)の平均値、中央値等、n個の同相リサンプル値の値が反映される統計値によって1つの同相成分値を求めてよい。同様に、信号補正部46は、n個の直交リサンプル値Q(j)(j=1~n)の平均値、中央値等、n個の直交リサンプル値の値が反映される統計値によって1つの直交成分値を求めてよい。このようにして求められた同相成分値および直交成分値の組は、位相誤差δが補正された同相ベースバンド信号および直交ベースバンド信号のサンプル値に相当する。
【0054】
信号補正部46が実行する処理によれば、n個の相関タイミングで得られたn組の同相リサンプル値および直交リサンプル値に基づいて、位相誤差δが求められる。そして、位相誤差δによって位相が補正された同相成分値および直交成分値が求められる。位相誤差が補正されることに伴って、同相成分値および直交成分値については、周波数も補正されることとなる。n個の相関タイミングが得られる時間は、シンボル周期よりも短い。したがって、本実施形態によればシンボル周期よりも短い時間で、迅速に位相誤差が求められ、迅速に位相誤差が補正された同相成分値および直交成分値が求められる。
【0055】
上記では、マッチトフィルタ40-1~40-nが、時間軸上で順次1チップずつずれたマッチトフィルタ係数群を用いて相関演算を行う実施形態(マッチトフィルタ40-1~40-nが、時間軸上で1チップ時間Tcの時間ずれを持たせて配列された複数のマッチトフィルタ係数群のそれぞれと、入力信号としての同相ベースバンド信号および直交ベースバンド信号との間で相関演算を行う実施形態)について説明した。マッチトフィルタ40-jは、マッチトフィルタ40-(j-1)が用いるマッチトフィルタ係数群に対して、時間軸上で任意のチップ数Hだけずれたマッチトフィルタ係数群を用いて相関演算を行ってもよい。この場合、信号補正部46における1チップ遅延部60は、チップ時間TcのH倍の時間H・Tcだけ同相リサンプル値および直交リサンプル値を遅延させるHチップ遅延部に置き換えられる。位相差算出部62および位相誤差演算部64は、時間H・Tcの時間間隔で求められた同相リサンプル値および直交リサンプル値に基づく隣接位相差を求めた後、位相誤差δを求める。
【符号の説明】
【0056】
1 受信装置、10 受信部、12 復調部、20 局部発振器、22 同相成分ミキサ、24 π/2移相器、26 直交成分ミキサ、28 同相成分ローパスフィルタ、30 直交成分ローパスフィルタ、32 第1メモリ、34 直交検波部、40 マッチトフィルタ部、40-1~40-n マッチトフィルタ、42 相関タイミング決定部、44 第2メモリ、46 信号補正部、48 判定回路、52 加算合計器、60 1チップ遅延部、62 位相差算出部、64 位相誤差演算部、66 複素化部、68 バッファメモリ、70 複素乗算部、D-1~D-10 遅延器、M-1~M-A 乗算器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6