(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】医薬組成物中の凝集体の量を低減するための方法
(51)【国際特許分類】
A61M 5/31 20060101AFI20220318BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20220318BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
A61M5/31 530
A61L31/06
A61L31/10
(21)【出願番号】P 2019500789
(86)(22)【出願日】2017-07-11
(86)【国際出願番号】 EP2017067368
(87)【国際公開番号】W WO2018011190
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-04-17
(32)【優先日】2016-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】310021434
【氏名又は名称】ベクトン ディキンソン フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ツヴェテリーナ シェヴォロー
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ フレモン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ベルナール アメル
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン ジュフレ
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-280177(JP,A)
【文献】特表2014-530059(JP,A)
【文献】国際公開第2016/102068(WO,A1)
【文献】特開2002-143300(JP,A)
【文献】特表2015-523422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療注射デバイス内に含まれる医薬組成物内の凝集体の量を低減するための方法であって、前記医薬組成物と接触する潤滑剤コーティング(2)によって潤滑されるバレル(10)を含む容器(1)と、前記バレル(10)内で摺動係合するストッパ(14)とを備え、前記容器は、前記ストッパがアクセスできない、前記バレルの遠位端部(100)から遠位に延びる領域(130、121、123)を含む、方法において、
前記バレルの内壁に前記潤滑剤コーティング(2)を形成する間、
前記潤滑剤は、前記容器の近位端を通してノズルによって前記バレルの内壁に噴霧され、前記噴霧は、前記バレルの前記内壁に前記潤滑剤を選択的に堆積することによって、前記バレルの遠位端(100)から遠位に延びる領域(130、121、123)への前記潤滑剤の堆積を制限するように構成されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
医療注射デバイス内に含まれる医薬組成物内の凝集体の量を低減するための方法であって、前記医薬組成物と接触する潤滑剤コーティング(2)によって潤滑されるバレル(10)を含む容器(1)と、前記バレル(10)内で摺動係合するストッパ(14)とを備え、前記容器は、前記ストッパがアクセスできない、前記バレルの遠位端部(100)から遠位に延びる領域(130、121、123)を含む、方法において、
前記潤滑剤コーティングは、ベクトルガスによって運ばれる潤滑剤の化学前駆体を前記バレルの内壁に吸着させ、前記化学前駆体をプラズマで架橋することによって形成され、前記潤滑剤コーティング(2)の形成中に、前記バレルの前記内壁に前記潤滑剤を選択的に堆積することによって、前記化学前駆体が前記バレルの遠位端(100)から遠位に伸びる前記領域(130、121、123)に堆積されないよう制限することを含むことを特徴とする、方法。
【請求項3】
前記ノズル(3)は、前記容器(1)に対して固定される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ノズル(3)は、前記バレル(10)内に動きながら挿入される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記潤滑剤の堆積後、前記潤滑剤コーティングを焼きなますステップをさらに含む請求項1、3、または4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記潤滑剤の堆積後、前記潤滑剤コーティングをプラズマで処理するステップをさらに含む請求項1、3、または4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記バレルの前記遠位端部から遠位に延びる前記領域(130、121、123)内に堆積された潤滑剤の総量は、25μg未満である、請求項1、3、または6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記潤滑剤の総量が20μg未満である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記潤滑剤は、ポリ-(ジメチルポリシロキサン)またはポリ-(ジメチルポリシロキサン)の乳剤を含む請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記容器は、注入チャネル(121)を備える先端部(120)と、前記注入チャネル(121)内に挿入された中空針(122)とをさらに 備え、前記方法は、前記注入チャネル(121)および前記中空針の内側空間(123)内に潤滑剤の堆積するのを制限するステップを含む請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療注射デバイス内に含まれる医薬組成物中の凝集体を低減するための方法に関する。
【0002】
本出願では、構成要素または装置の遠位端部は、この構成要素または装置で使用するよう意図された注射システムに関して、ユーザの手から最も離れた端部を意味するものと理解されなければならず、近位端部は、ユーザの手に最も近い端部を意味するものとして理解されなければならない。したがって、本出願では、遠位方向は、注射システムに関して注射の方向であるものとして理解されなければならず、近位端部は、その反対方向、すなわちユーザの手に向かう方向である。
【背景技術】
【0003】
シリンジなどの医療注射デバイスは、医薬組成物を含むよう意図された容器を備える。
【0004】
容器は、円形断面を有する円筒状であるバレルと、ユーザが操作中容器をそれによって取り扱うことができる近位端部と、たとえば容器の先端部に連結される針または静脈内(IV)ラインを通り抜ける医薬組成物の出口を備える遠位端部とを備える。容器の先端部は、そのような針または静脈内ライン用の注入チャネルを備える。
【0005】
一般的にエラストマー材料で作製されたストッパが、バレル内で摺動係合するように配置される。
【0006】
医薬組成物を患者の体に注射する間、ストッパは、医薬組成物を先端部から押し出すためにバレルの近位端部から遠端部に摺動する。
【0007】
容器の先端部はバレルより小さい直径を有するので、バレルの遠位端部と容器の先端部との間に、ストッパがアクセスできない領域が含まれる。したがって、ストッパがバレルに沿って完全に摺動した後、ストッパと先端部の近位端部との間には医薬組成物の液量が含まれたままとなる。容器のこの領域は、「デッドスペース」と呼ばれる。医薬組成物の液量は、注入チャネル内にも含まれ、中空針が注入チャネル内に挿入される場合、医薬組成物の液量は、この中空針の内側空間内にも含まれる。
【0008】
バレル内のストッパの摺動を改良するために、バレルは、通常、たとえばシリコーンで作製された潤滑剤コーティングで潤滑される。コーティングは、噴霧、浸し塗りによってバレルの内壁上に堆積させることができる。
【0009】
医薬組成物と接触すると、潤滑剤コーティングは、(人の目に見るものから見えないものまで、したがって「凝集体(sub visible particles)」と呼ばれる)さまざまなサイズの潤滑剤液滴の形で充填溶液内に移動し得る。
【0010】
そのような粒子は、薬物品質および/または薬物安定性にとって有害となり得るため、凝集体量の上限は、USP<788>および他のガイダンスによって規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第6,296,893号明細書
【文献】国際公開第2013/045571号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
潤滑剤コーティングの堆積プロセスにおける変化は、極めて高い粒子レベルを生成する可能性があり、本出願人は、本明細書の上記で言及した理由により、そのような状況を改善する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目標は、凝集体レベルが、規制ガイダンスによって提供された限界を下回り続けることを確実にするように潤滑剤コーティングの堆積プロセスを最適化することである。
【0014】
したがって、本発明は、医薬組成物と接触する潤滑剤コーティングで潤滑されたバレルを含む容器と、バレル内で摺動係合するストッパとを備える医療注射デバイス内に含まれる医薬組成物中の凝集体の量を低減するための方法であって、容器は、ストッパがアクセスできない、バレルの遠位端部から遠位に延びる領域を含む、方法において、
バレルの内壁上の前記潤滑剤コーティングの形成中、方法は、バレルの遠位端部から遠位に延びる前記領域内に潤滑剤の堆積するのを制限するステップを含むことを特徴とする、方法を提供する。
【0015】
一実施形態によれば、潤滑剤は、容器の近位端部を通ってバレルの内壁上にノズルによって噴霧され、この噴霧は、バレルの遠位端部から遠位に延びる領域内への潤滑剤の堆積を制限するように構成される。
【0016】
一実施形態によれば、ノズルは、容器に対して固定される。
【0017】
別の実施形態によれば、ノズルは、バレル内に動きながら挿入される。
【0018】
方法は、潤滑剤の堆積後、潤滑剤コーティングを焼きなますステップを含むことができる。
【0019】
あるいは、方法は、潤滑剤の堆積後、潤滑剤コーティングをプラズマで処理するステップを含むことができる。
【0020】
一実施形態によれば、潤滑剤コーティングの形成は、バレルの内壁上にベクトルガスによって運ばれた潤滑剤の化学的前駆体を吸着するステップと、この化学的前駆体をプラズマで架橋するステップとを含む。
【0021】
バレルの遠位端部から遠位に延びる領域内に堆積された潤滑剤の総量は、有利には、25μg未満であり、好ましくは20μg未満である。
【0022】
潤滑剤は、ポリ-(ジメチルポリシロキサン)またはポリ-(ジメチルポリシロキサン)の乳剤を含むことができる。
【0023】
一実施形態によれば、容器は、注入チャネルを備える先端部と、前記注入チャネル内に挿入された中空針とをさらに備え、方法は、前記注入チャネルおよび中空針の内側空間内に潤滑剤の堆積するのを制限するステップを含む。
【0024】
上記の方法の結果、医療注射デバイスは、有利には、
-医薬組成物を含むよう意図された容器であって、医薬組成物と接触するよう意図された潤滑剤コーティングで潤滑されたバレルを含む、容器と、
-バレル内で摺動係合するストッパと
を備え、
容器は、ストッパがアクセスできない、バレルの遠端部から遠位に延びる領域を含み、
バレルの遠位端部から遠位に延びる前記領域は、制限された量の潤滑剤を含み、前記制限された量は、25μg未満であり、好ましくは20μg未満である。
【0025】
医療注射デバイスは、バレル内の潤滑剤コーティングと接触する医薬組成物をさらに含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図に基づいて、後続の詳細な説明から明らかになるであろう。
【
図1】本発明の一実施形態による医療注射デバイスの容器の断面図である。
【
図2】バレルの近位開口部にある噴霧ノズルを示す概略図である。
【
図3】医薬組成物中に生成された凝集体に対する、医療注射デバイスのデッドスペース、注入チャネル、および針の内側空間内で発生する乱流の影響を示す図である。
【
図4】フラッシング後の10μmを上回る粒子の1mlあたりの数(縦座標)およびデッドスペース、注入チャネルおよび/または針内側空間内のシリコーン量(μg単位)(横座標)を相関付けるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の一実施形態による医療注射デバイスの容器の断面図である。
【0028】
容器1は、円形断面を有する円筒形状を有するバレル10を備える。
【0029】
容器の近位端部11は、医療注射デバイスの操作中、ユーザが容器を取り扱うことを可能にするフランジ110を備える。
【0030】
ストッパ14は、この近位端部11の開口部111を通ってバレルに挿入される。
【0031】
容器の遠位端部12は、先端部120を含む。
【0032】
先端部120は、針ハブ、キャップまたはカテーテルと静脈(IV)ラインを介して連結するためにルアータイプのものであってよく、または固定針(staked needle)を備えることができる。
図1の非制限的な実施形態では、先端部は、医薬組成物が出入りすることを可能にする内側空間123を有する中空針122が挿入される注入チャネル121を含む。
【0033】
先端部120はバレル10より小さい直径を有するので、これは、先細にされた壁13によってバレルに連結される。したがって、バレル10は、ストッパ4の摺動動作に適合された一定の直径を有する容器の部分として規定される。バレルの遠位端部100は、バレル10内側の円筒状壁と先細にされた壁13との間の接合部によってこうして規定される。バレルのこの遠位端部100から遠位に延びる容器の領域には、ストッパはアクセスできない。
【0034】
先細にされた壁13によって取り囲まれた領域は、デッドスペース130である。注入チャネル121は、先端部120の遠位端部とデッドスペース130との間を延びる。
【0035】
図1に示す実施形態では、バレルの遠位端部100から延びる領域は、デッドスペース130と、注入チャネル121と、針の内側空間123とを含む。医療注射デバイスがどのような針も備えず、先端部を通って延びるチャネルのみを備える場合では、バレルの遠位端部から延びる領域は、デッドスペースと、このチャネルとを含む。
【0036】
容器は、意図する医療用途に適したガラスまたはプラスチック材料から形成され得る。
【0037】
潤滑剤コーティング2が、バレルに沿ったストッパの摺動を改善するためにバレル10の内壁に施与される。
【0038】
潤滑剤コーティングは、したがって、容器が医薬組成物で充填されたときにこの医薬組成物と接触することになる。
【0039】
潤滑剤は、容器を潤滑するために医療分野で現在使用されている任意の潤滑剤であってよい。たとえば、潤滑剤はシリコーンを含むことができる。特に、ただし限定的ではないが、シリコーンは、ポリ-(ジメチルポリシロキサン)(PDМS)を含むことができる。別の例では、潤滑剤は、ポリ-(ジメチルポリシロキサン)の乳剤を含むことができ、これは、その後、いわゆる「焼いたシリコーン」を形成するように焼きなまされてよい。
【0040】
この潤滑剤コーティングの施与中、バレルの遠位端部から遠位に延びる容器の領域、すなわち
図1に示す実施形態では、(
図1の円形点線の内側の領域に対応する)デッドスペース130、注入チャネル121、および針122の内側空間内に潤滑剤を施与しないように注意が払われる。
【0041】
以下の説明は、潤滑剤コーティングの施与が、容器の内側に潤滑剤をノズルによって噴霧することによって行われる実施形態を対象としている。しかし、本発明は、潤滑剤コーティングを施与する任意の他の方法にも適用されることに留意されたい。たとえば、潤滑剤コーティングの施与は、プラズマ強化化学蒸着(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)(PECVD)によって行われてよく、この蒸着は、バレルの内壁上にベクトルガスによって運ばれた潤滑剤の化学的前駆体を吸着するステップと、次いで、電極によって誘発されたプラズマによって化学的前駆体を架橋して潤滑剤層を生み出すステップとを含む。この場合、化学的前駆体の堆積は、前駆体をバレル内に堆積するが、バレルの遠位端部から遠位に延びる領域には堆積しないように制御される。
【0042】
図2に示すように、ノズル3が容器の近位端部の開口部111に置かれ、潤滑剤、たとえばシリコーン油が供給され、それによって複数の潤滑剤液滴から形成された噴霧30がバレル内に施与される。
【0043】
噴霧技術によっては、ノズルは、バレルに対して固定される場合があり(いわゆる「固定されたノズル」)、またはバレル内側で遠位方向に軸方向に動かされる場合もある(いわゆる「ダイビングノズル」)。
【0044】
噴霧の形態(すなわち噴霧の形状および潤滑剤滴のサイズ)は、潤滑剤の粘性に影響を及ぼす潤滑剤の圧力および温度を含む、いくつかのプロセスパラメータに応じて決まり得る。噴霧の形状は、特に(バレルの軸方向の)噴霧の長さによって、および噴霧の(径方向の)幅によって規定される。
【0045】
ノズルの寸法パラメータもまた、噴霧の形態に影響を及ぼし得る。特に、ノズルのサイズおよび形状は、潤滑剤のせん断ひずみを規定し、これは次いで、潤滑剤液滴のサイズおよび形状に影響を与える。
【0046】
いずれの場合も、ノズルは、バレルの遠端部から遠位に延びる領域に潤滑剤噴霧が接触しないように容器に対して置かれる。故に、潤滑剤コーティングは、バレルを先端部に連結する先細にされた壁、より全体的にはバレルの遠位端部から遠位に延びるいずれの空間も排除して、バレルの内壁上に選択的に堆積される。しかし、噴霧中に直接、または容器の壁に沿った移動によって、わずかな量の潤滑剤がデッドスペース、注入チャネル、および/または針の内側空間に入ることは排除できないため、本出願人は、フラッシングによって生成される凝集体のレベルに害を及ぼすことなく、バレルの遠位端部から遠位に延びる領域内に導入することができる潤滑剤の最大量を規定した(
図4および対応する以下の説明を参照)。
【0047】
特許文献1では、バレルの内壁の遠位端部セクションAは、ピストンが容器の内部に戻ることを防止するためにコーティングされないままである。この目的のために、このコーティングされないセクションの軸方向寸法は、少なくとも5mmまたは6mmである。これとは対照的に、本発明では、潤滑剤は、デッドスペースとの接合部までバレルの内壁上に堆積される。
【0048】
所与のノズルおよび所与のプロセス状態に関して、当業者は、噴霧の形態、したがってノズルで実施される適切な操作を決定して、バレルの遠位端部から遠位に延びる領域内に潤滑剤を施与することを回避することができる。
【0049】
必要であれば、潤滑剤ステップを実施した後、当業者は、医療容器をバレルと先細にされた壁との間の接合部において、この接合部と先端部との間に含まれた部分を保つように切断し、容器のこの部分内に存在する潤滑剤をすべて抽出することによって、排除された領域内に潤滑剤が全く、または適切な少量の潤滑剤しか堆積されていないことを確認することができる。いくらかの潤滑剤が抽出された場合、当業者は、次いで、容器のこの部分内で潤滑剤が全く、または所与の閾値を下回る量しか見出されなくなるまでプロセスパラメータを調整することができる。
【0050】
潤滑剤の抽出手順は、以下の通りに実施することができる。この例では、シリコーンでコーティングされた1mlL長さ(mlL)シリンジおよび2.25mLシリンジを考える。
【0051】
各シリンジにMIBKを充填する。1mlLシリンジに1.6mlのMIBK(メチルイソブチルケトン)、2.25mlシリンジに3.1mlのMIBKを充填する。シリコーンを15分間40°Cで超音波浴によって抽出する。MIBKを収集し、1mlLシリンジに1.4mlのMIBKを加えることによって試料の総量を3mlに仕上げ、シリコーン油をF-AAS(原子吸光分光法、フレーム(flame)モード)によって以下に説明するように直接滴定する。
【0052】
原子吸光分光法(AAS)は、元素分析技術である。これは、試料内に含まれる対象の元素を定量化することを可能にする。元素の濃度は、適切な光源によって照明されたときの基底状態への元素の残余原子による光吸収の測定値から推定される。光強度の測定は、分析される元素の特有の波長において実施される。得られた信号から検量線を引き出し、信号強度と濃度を相関付けることができる。この場合、検査される元素はシリコーン(Si)であり、これによって試料内に含むシリコーン油の量を決定する。
【0053】
使用されるAAS分析器は、少量の元素を定量化するための黒鉛炉モード(Graphite Furnace mode)(GF-AAS)と、より多くの量を定量化するためのフレームモード(F-AAS)とを有するPerkin Elmer AA800である。
【0054】
他の方法、たとえば赤外分光法、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GCMS)、または水素炎イオン化型検出(GC-FID)を使用することができる。
【0055】
GCに加えて、他の技術を使用してシリコーンポリマー内に存在する最少分子量の種を同定および/または定量化することができる。他の技術としては、たとえばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)または超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)がある。
【0056】
先行文献、たとえば特許文献2がRapIDによって測定される潤滑剤コーティングの範囲割合を言及するとき、この範囲は、バレルに対してのみ測定されるものであり、従来技術の対象として全く考えられなかったバレルの遠位端部から遠位に延びる領域を考慮しないことに留意されたい。
【0057】
容器は、事前充填された容器、すなわち患者に注入する前の特定の時間の間保管するよう意図された医薬組成物で充填された容器であってよい。
【0058】
別の形では、医療注射デバイスは、使用前に空で保管されてよい。そのような場合、医療注射デバイスは、たとえば、リザーバから医薬組成物を排出し、その後、これを患者に注射するか、またはこれを別のリザーバに移送するために使用されてよい。
【0059】
いずれの場合もストッパの作動によってバレルの遠位端部から遠位に延びる領域、たとえばデッドスペース、注入チャネルおよび/または針内側空間内に乱流が起こり得るため、本発明はいずれの状況にも適用され得る。
【0060】
潤滑剤コーティングをバレル内に堆積した後、コーティングは、この分野で現在使用されている任意の処理、たとえば、特に潤滑剤を網目状にするよう意図された焼きなましおよび/またはプラズマ処理にかけられ得る。
【0061】
図3は、使用されるノズルおよび実施される方法に応じて、10μmを上回る凝集体(左手バー)および25μmを上回る凝集体(右手バー)のレベルの実験結果(粒子数/ml)を示す。この場合、潤滑剤はシリコーン(PDMS)である。
【0062】
すべてのシリンジに、ポリリン酸緩衝液中にその0.02%のポリソルベートを含むものを充填し、栓をして48時間かき混ぜた。各技術(ピペット抜き取りまたはフラッシング)に対して、充填含有量は、左から右に1mlから0.5mlに減少していき、各々の連続する対(ペア)N1、N2は同じ充填含有物を有する(N2は、先端部/デッドスペース領域内に制限されたシリコーン含有量(たとえば20μg未満)を有する本発明によるシリンジに対応し、N1は、先端部/デッドスペース領域内に高いシリコーン含有量(たとえば60μgを上回る)を有する欠陥のあるシリンジに対応する)。
【0063】
ストッパを取り外し、溶液をピペットで抜き取り、マイクロフローイメージング(Micro Flow Imaging)による個々のシリンジの分析の後、ピペット抜き取り結果を測定した(グラフの左部分)。2つのタイプのシリンジの間に大きな相違は観察できない。
【0064】
フラッシング結果は、ストッパ上に圧縮をかけることによって針から含有物が排出されるシリンジから得て、シリンジ含有物を光オブスキュレーション(Light Obscuration)によって分析した。N1シリンジは、10μmを上回る粒子カウントがN2のリファレンスシリンジよりかなり多いことを示している。
【0065】
凝集体の場合、最も適切なカウント方法は、光学技術に基づくものである。第1の方法は、光オブスキュレーション(LO)であり、第2の方法はマイクロフローイメージング(MFI)である。
【0066】
光オブスキュレーション法では、(たとえば680nmの波長を有するレーザダイオードなどの光源によって生成される)光学ビームと検出器との間に溶液が置かれる。したがって、粒子が測定ゾーンを通過するとき、これは、光学ビームを妨害し、影を作り出し、その結果が検出器における信号強度の変化となる。
【0067】
次いでこの信号変化を、知られているサイズのポリスチレン球を用いて作りだされた検量線に基づく粒子の球相当径(equivalent spherical diameter)と一致させる(equated)。
【0068】
この技術に基づくデバイスは、たとえばHach Langeによってブランド名HIACの下で販売されている。
【0069】
良好な精度を与えるために、本方法は、(単一の1mlシリンジの容積を上回る、3mlを超える)多量の溶液を用いて実施される必要があり、これは、容器を1つずつ分析できないことを示唆している。
【0070】
したがって、いくつかの容器を中間のより大きい容器(たとえばビーカ)内にフラッシングする必要があり、その後、この中間容器の含有物を光オブスキュレーションデバイスによって分析する。
【0071】
粒子レベル測定を実施するために使用される流体は、ポリリン酸緩衝液(PBS)中に溶解した0.02%ポリソルベート80である。
【0072】
手順(プロトコル)は以下の通りである
最初にHIAC装置をWFIおよびイソプロパノールアルコールの混合物(50/50の割合)で洗浄し、その後WFIのみで洗浄する。
【0073】
ガラス製品すべて(試験する必要がある容器の含有物をフラッシングするための中間容器)もWFIで洗浄して、10μmのサイズを有する粒子の数を1粒子/ml未満にする。
【0074】
各実験間で、セルプローブおよびガラス製品の清浄性を確認するように、WFIを有するブランクが設置される。
【0075】
次いで、容器からフラッシングされた0.02%ポリソルベート80-PBS溶液上で薬局方基準が実施される。これは、ストッパを遠位方向に動かして充填溶液を容器の先端部から中間容器内に押し出すことを意味する。
【0076】
プログラムは3mlの4実験からなり、最初の実験は破棄され、気泡を避けるためにさらに3mlを用いる。
【0077】
1ml注射デバイスの場合、15個のデバイスを共通の中間容器にフラッシングして必要とされる分析量を得る。
【0078】
他方、MFIは、流れるストリーム内の懸濁した粒子の画像を捉えることによって作動するフローマイクロスコピック(flow microscopic)技術である。
【0079】
さまざまな拡大設定点が、所望のサイズ範囲および画像品質に適合させるために利用可能である。
【0080】
画像は、カウント、サイズ、透明度および形状のパラメータを含む粒子データベースを構築するために使用される。
【0081】
このデータベースに問い合わせて、任意の測定されたパラメータを使用して粒子サイズ分布を生み出し、部分集団を分離することができる。
【0082】
適切なさまざまな装置は、たとえば、Brightwell Technologiesによって販売されている(たとえばMFI DPA4200)。
【0083】
容器の先端部から溶液を圧送して、フローセルを通過させる。
【0084】
カメラは、知られているフレームレートでフローセルの小ゾーンのいくつかの写真を撮る。各写真上において、較正された背景に対するピクセルコントラストの相違が、粒子が存在することを意味する。次いで粒子をデジタル式に撮像する。
【0085】
粒子撮像により、この方法の利点は、これが、気泡とシリコーン油液滴との間に相違を作りだすことを可能にすることである。
【0086】
手順(プロトコル)は以下の通りである。
【0087】
最初に、フローセル一貫性を確認して測定が正確であることを確実にする。
【0088】
次いで、フローセルおよびチュービングの清浄性を、WFIを有するブランクによって制御する(粒子数は100粒子/mlを下回る必要がある)。
【0089】
(たとえば5μmまたは10μmのサイズおよび3000粒子/mlの濃度を有する)公認のビードによる実験を実施することができる。
【0090】
測定プログラムは通常、0.2mlパージによって分離された0.5ml実験からなる。
【0091】
この場合、光オブスキュレーション法に使用される分析手順とは異なり、いくつかのシリンジを共通の中間容器にフラシングすることはない。
【0092】
その代わりに、分析する各医療注射デバイスのストッパを取り外し、溶液の0.5mlを容器から装置にピペットで抜き取る。
【0093】
図3は、この方法が溶液による(すなわち上記で説明した光オブスキュレーション法での)容器のフラッシングを含む場合、凝集体の数が大幅に増大することを示している。
【0094】
この影響は、ストッパが作動されるとき、バレルの直径と先端部の直径との間の相違によって圧力損失が生成され、それによってバレルの遠位端部から遠位に延びる領域内に乱流を作りだすという事実に由来すると考えられる。この乱流は、濃縮した潤滑剤を先端部に押し込み、および/または粒子の形で先端部に堆積された潤滑剤を抽出してこれらを溶液に放出する傾向がある。
【0095】
潤滑剤コーティングの堆積プロセスにおける変化が凝集体レベルの大きな増加を生成する上記で言及した場合では、変更されたプロセスは、これまでのものより多くの潤滑剤をバレルの遠位端部から遠位に延びる領域内に堆積する傾向があるように考えられる。
【0096】
バレルの遠位端部から遠位に延びる領域内に発生する乱流による凝集体の生成を回避するか、または少なくとも最小限に抑えるために、本発明の実施形態は、バレル内の潤滑剤の堆積の制御をもたらし、それによって、バレルの遠位端部から遠位に延びる領域、特に医療注射デバイスのデッドスペース、注入チャネルおよび/または針内側空間内に潤滑剤の堆積するのを防止しながら、バレルの内壁のみに潤滑油コーティングを生み出す。
【0097】
上記で説明した観察に基づき、本出願人は、フラッシング後の10μmを上回る粒子の数と、バレルの遠位端部から遠位に延びる領域内のシリコーンの量との間の相関付けを決定した。
【0098】
【0099】
このグラフを構築するために、シリンジ先端部/デッドスペース領域を、ダイヤモンドソーによってガラスを切断することによってシリンジから分離した。先端部セクション上のシリコーン含有物をメチルエチルブチルケトンによって抽出し、原子吸光分光法によって定量化した。
図4は、先端部内/デッドスペースセクション内のシリコーン(含有)量と、
図3を参照して説明した手順に従った光オブスキュレーションによるフラッシングおよび定量化後に測定された、10μmを上回る凝集体の量との間の相関付けを提示する。先端部内/デッドスペースセクション内に存在するシリコーン量は、フラッシング後に観察される凝集体の増加に結び付けられる。
【0100】
図4に基づき、バレルの遠位端部から遠位に延びる領域、たとえばデッドスペース、注入チャネルおよび適用される場合、針内側空間、内のシリコーン総量の上限は、10から25μgの間、より好ましくは約20μgが受け入れられると考えられる。そのような上限により、10μmを上回る粒子の量は、
図3の最悪の場合の約4分の1となる。