(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】インプラントとしての使用のための、鼓膜穿孔の治療のための、また細胞培養のための構造化コーティングを有するデバイス
(51)【国際特許分類】
A61F 2/18 20060101AFI20220318BHJP
A61F 11/06 20060101ALI20220318BHJP
A61F 11/00 20220101ALI20220318BHJP
A61F 11/20 20220101ALI20220318BHJP
【FI】
A61F2/18
A61F11/00 350
(21)【出願番号】P 2019503529
(86)(22)【出願日】2017-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2017068872
(87)【国際公開番号】W WO2018019879
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】102016113956.4
(32)【優先日】2016-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500449008
【氏名又は名称】ライプニッツ-インスティトゥート フィア ノイエ マテリアーリエン ゲマインニュッツィゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクタ ハフトゥンク
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アールツト エドゥアルト
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー ザラ
(72)【発明者】
【氏名】クルトヴィヒ クラウス
(72)【発明者】
【氏名】ヘンゼル レネー
(72)【発明者】
【氏名】シック ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンツェル ゲンティアナ
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0028875(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0005362(US,A1)
【文献】特表2012-520687(JP,A)
【文献】特表2009-539532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/18
A61F 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造化コーティングを有する
鼓膜穿孔治療用デバイスであって、該デバイスがキャリア層を備え、複数の突出部が該キャリア層上に配置され、該突出部が各々、少なくとも表面の反対を向く端面を有する軸を含み、更なる層が少なくとも前記端面上に配置され、該層が該突出部とは異なる弾性率を有することを特徴とする、デバイス。
【請求項2】
前記端面上に配置される前記更なる層が、それぞれの突出部よりも低い弾性率を有することを特徴とする、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
構造化コーティングを有する
細胞培養用デバイスであって、該デバイスがキャリア層を備え、複数の突出部が該キャリア層上に配置され、該突出部が各々、少なくとも表面の反対を向く端面を有する軸を含み、更なる層が少なくとも前記端面上に配置され、該層が該突出部とは異なる弾性率を有
し、該層がそれぞれの突出部よりも低い弾性率を有することを特徴とする、デバイス。
【請求項4】
前記突出部が1を超えるアスペクト比を有することを特徴とする、請求項1
~3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記突出部が少なくとも3のアスペクト比を有することを特徴とする、請求項1~
4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記更なる層が付加的に、前記突出部の中間にある空間を満たすことを特徴とする、請求項1~
5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記更なる層が前記突出部を接続するフィルムの一部分であることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
柔らかい基板に接着するように構成されていることを特徴とする、請求項1~
7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
生体組織に接着するように構成されていることを特徴とする、請求項1~
8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載のデバイスを備える
鼓膜穿孔治療用インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造化コーティングを有するデバイス、特に粗い表面、特に、例えば鼓膜等の生体表面に接着させるための構造化コーティングを有するデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
粗い表面への接着は問題があることが多い。生物学の分野では特に、多くの接着剤は不十分な特性しか示さない。一方で、接着剤の表面が創傷治癒等の生物学的過程に不十分にしか適合しないという問題がある。
【0003】
例えば、接着剤を介さずに粗い表面への接着を示すこともできるヤモリ構造等の乾燥接着物質によって代替案が提供される。しかしながら、これらの物質は相当頻繁に作製しなければならず、限られた範囲にしか応用することができない。
【0004】
鼓膜穿孔は頻繁に生じる問題であり、難聴又はしばしば再発性感染症につながる可能性がある。鼓膜穿孔の一般的な原因は中耳の感染症、外傷及び術後合併症であり得る。原則として、急性の(より小さな)穿孔(大抵の場合、自然に塞がる)と、より大きな、すなわち慢性の穿孔とを区別することができる。これらのより大きな穿孔は、鼓膜形成術又は鼓室形成術によって外科的に治療しなければならず、これらの手順は高い成功率を有するが、手術リスクに加えて残存穿孔のリスクもある。さらに、鼓室形成術では自己組織が移植されるが、これを付加的に除去する必要がある。鼓膜損傷の再生における主な問題の1つは、上皮細胞の移動及び3層膜の形成のためのキャリア層がないことである。概して、移植された組織又はポリマーのいずれかを「支持プラットホーム」として使用することができ、この場合、その機能は生体分子の使用によって改善することができる。この目的で使用することができるポリマーとしては、ゼラチン、絹フィブロイン、キトサン、アルギネート又はポリ(グリセロールセバケート)が挙げられる。これらのポリマー及び様々な成長因子の使用における現在の調査結果は、Hong et alによる概説に見ることができる。使用されたポリマーの多くが穿孔の閉鎖に関して目覚ましい結果をもたらすが、問題の組織の形態に著しい違いが見られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、粗い表面、特に生体表面に対する接着を特に示し、従来技術の欠点を回避する、構造化コーティングを有するデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、独立請求項の特徴を有する発明により達成される。本発明の有利な改善は従属請求項に記載される。全ての請求項の文言が引用することにより本明細書の一部をなす。本発明は独立請求項及び/又は従属請求項の全ての合理的な組合せ、特に全ての言及される組合せも含む。
【0007】
上記目的は、構造化コーティングを有するデバイスであって、該デバイスがキャリア層を備え、複数の突出部(柱)が該キャリア層上に配置され、該突出部が各々、少なくとも表面の反対を向く端面を有する軸を含み、更なる層が少なくとも端面上に配置され、該層が問題の突出部とは異なる弾性率を有することを特徴とする、デバイスによって達成される。
【0008】
この更なる層は、表面への接着に用いられるデバイスの上面も形成する。
【0009】
したがって、デバイスは垂直方向に、突出部の位置で、弾性率が異なるキャリア層から出発する少なくとも2つの層、具体的には少なくとも突出部とその上に配置される更なる層とを備える。この更なる層及び突出部の端面が、弾性率が異なる2つの領域間の界面を形成する。作製方法に応じて、界面は結合助剤の薄層を含んでいてもよい。
【0010】
弾性率は、好ましくは特定の領域内で一定であるものとする。
【0011】
突出部自体が、弾性率が異なる更なる領域を有していてもよい。
【0012】
更なる層は、該層が上に配置される突出部よりも低い弾性率を有するのが好ましい。この構造のために、突出部の軸は更なる層よりも弾性が低い。したがって、柱の軸は荷重の有無に関わらず、より低い凝集の傾向を示す。一方、突出部の上部はより弾性が高く、粗い及び/又は柔らかい表面により良好に適合させることができる。
【0013】
本発明の更なる実施の形態では、更なる層と端面との間の界面は、それぞれの突出部に関して更なる層の表面に平行ではない。
【0014】
本発明の一実施の形態では、突出部の端面は湾曲している。端面は突出部内にピークを有するのが好ましい。特に、端面は放物線状又は半球状の形状を有する。このようにして、更なる層との界面も対応する形状を有する。ここで、端面が突出部の端でしか曲率を示さなくてもよく、突出部の中央で平坦な軌道を有する。かかる配置では、端面より上の更なる層の厚さは一定ではない。端面が突出部の中央でピークを形成し、更なる層の表面が平坦な形状を有する場合、突出部より上の更なる層の厚さは突出部の中央に向かって減少する。
【0015】
このような界面の形状の結果として、異なる弾性又は曲げ剛性を有する材料が存在し、互いに係合する。かかる配置により、かかる突出部の接着力が増大し、また崩壊する傾向が減少することが見出されている。
【0016】
本発明の一実施の形態では、突出部より上の更なる層の最小垂直厚さと突出部の高さとの比率は3未満、好ましくは1未満、特に0.5未満、特に0.2未満である。このようにして、例えば突出部の幾可学的形状による湾曲した相界面の場合の更なる層の厚さの変化は、接着に対して特に強い影響を与える。最適比は、弾性率の比率及び界面の幾可学的形状にも左右され得る。
【0017】
本発明の一実施の形態では、端面の曲率は更なる層の方向に凸状であり、すなわち相界面がピークを有する。曲率は、特に突出部の直径の2倍まで、特に少なくとも突出部の直径の半径を有する球面曲率であるのが好ましい。
【0018】
本発明の更なる実施の形態では、表面からの剥離時に、突出部は中央で剥離し始める。界面、特に凸状界面の弾性率、サイズ比及び幾可学的形状の有利なパラメーターは、シミュレーション及び測定によって決定することができる。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態では、キャリア層上の突出部は柱として構成される。これは、これらの突出部が好ましくは軸及び端面を有するキャリア層に垂直に構成される突出部であり、軸及び端面が任意の所望の断面(例えば円形、楕円形、長方形、正方形、ダイヤモンド形、六角形、五角形等)を有し得ることを意味する。
【0020】
突出部は、突出部のベース面への端面の垂直投影がベース面と重複面を形成するように構成され、重複面及び重複面の端面への投影が、完全に突出部内にある端面上の要素を形成するのが好ましい。本発明の好ましい実施の形態では、重複面はベース面の少なくとも50%、好ましくはベース面の少なくとも70%を含み、特に好ましくは、重複面はベース面全体を含む。したがって、突出部は傾斜していないのが好ましいが、傾斜していてもよい。
【0021】
好ましい実施の形態では、端面はベース面及び上面に平行に配向している。端面が上面に平行に配向せず、したがって異なる垂直高さを有する場合、端面の平均垂直高さは突出部の垂直高さと考えられる。
【0022】
本発明の好ましい実施の形態では、突出部の軸は、その平均直径に関して1~100、好ましくは1~10、特に好ましくは2~5の高さ対直径のアスペクト比を有する。
【0023】
一実施の形態では、アスペクト比は1超、好ましくは少なくとも3、特に少なくとも7、好ましくは3~15、特に好ましくは3~10である。
【0024】
この場合、平均直径は、突出部の高さ全体にわたって平均された、突出部の対応する断面と同じ面積を有する円の直径を指すものと理解される。
【0025】
本発明の更なる実施の形態では、突出部の高さ全体にわたる突出部の高さと指定の高さでのその直径との比率は常に1~100、好ましくは1~10、特に好ましくは2~5である。一実施の形態では、このアスペクト比は少なくとも3、特に少なくとも7、好ましくは3~15、特に好ましくは3~10である。この場合、直径は指定の高さでの突出部の対応する断面と同じ面積を有する円の直径を指すものと理解される。
【0026】
突出部は広がった端面、いわゆる「キノコ形の」構造を有していてもよい。更なる層が端面を超えて延びることで、「キノコ形の」構造を形成することも可能である。
【0027】
好ましい実施の形態では、突出部は広がった端面を有しない。
【0028】
更なる層の表面自体が、その表面積が増大するように構造化されていてもよい。この場合、更なる層の平均垂直高さは更なる層の垂直厚さとみなされる。
【0029】
好ましい実施の形態では、全ての突出部の垂直高さは1μm~10mm、好ましくは1μm~5mm、特に1μm~2mmの範囲、好ましくは10μm~2mmの範囲である。
【0030】
好ましい実施の形態では、端面より上の更なる層の垂直厚さは1μm~1mm、好ましくは1μm~500μm、特に1μm~300μm、好ましくは1μm~200μmの範囲、特に10μm~200μmの範囲、最も好ましくは5μm~100μmの範囲である。
【0031】
更なる層は、更なる層の表面への突出部のベース面の投影の少なくとも50%に関して、上記の範囲又は好ましい範囲の1つの垂直厚さを有するのが好ましい。
【0032】
突出部より上の更なる層の最小厚さは、常に突出部の最大垂直高さよりも小さいのが好ましい。
【0033】
好ましい実施の形態では、キャリア層の垂直厚さは1μm~2mm、好ましくは1μm~500μm、特に1μm~300μmの範囲である。
【0034】
好ましい実施の形態では、ベース面は、その面積に関して0.1μm~5mm、好ましくは0.1μm~2mm、特に好ましくは1μm~500μm、特に好ましくは1μm~100μmの直径を有する円に相当する。一実施の形態では、ベース面は0.3μm~2mm、好ましくは1μm~100μmの直径を有する円である。
【0035】
軸の平均直径は好ましくは0.1μm~5mm、好ましくは0.1μm~2mm、特に好ましくは1μm~100μmである。高さ及び平均直径を好ましいアスペクト比に従って適合させるのが好ましい。
【0036】
広がった端面を有する好ましい実施の形態では、突出部の端面の表面又は更なる層の表面は、突出部のベース面の面積の少なくとも1.01倍、好ましくは少なくとも1.5倍大きい。例えば、これは1.01倍~20倍大きくすることができる。
【0037】
更なる実施の形態では、広がった端面はベース面より5%~100%大きく、特に好ましくはベース面より10%~50%大きい。
【0038】
好ましい実施の形態では、2つの突出部間の距離は2mm未満、特に1mm未満、最も好ましくは500μm未満又は100μm未満である。
【0039】
突出部は、周期的な間隔で規則的に配置されるのが好ましい。
【0040】
本発明の好ましい実施の形態では、突出部は5μm~50μm、好ましくは最大25μmの高さを有する。更なる層は、端面より上の垂直厚さが3μm~70μmである。柱状の突出部の間の平均距離は、5μm~50μmである。キャリア層の厚さは、5μm~100μmである。突出部間の距離に応じて、直径は5μm~40μmである。突出部は六角形に配置されるのが好ましい。特に好ましくは、突出部の密度は1cm2当たり10000個~1000000個の突出部というものである。
【0041】
更なる層と、突出部と、キャリア層とを備えるデバイスの総厚は、50μm~300μmであるのが好ましい。
【0042】
突出部及び更なる層の全ての領域の弾性率は、好ましくは50kPa~3GPaである。柔らかい領域、すなわち特に更なる層の弾性率は50kPa~20MPa、好ましくは100kPa~10MPaであるのが好ましい。これとは独立して、高い弾性率を有する領域、例えば突出部及び例えばキャリア層の弾性率は、好ましくは1MPa~3GPa、より好ましくは2MPa~1GPaである。全てのより柔らかい及びより硬い領域の弾性率は上記の範囲であるのが好ましい。
【0043】
最低の弾性率と最高の弾性率を有する領域との弾性率の比率は好ましくは1:2000未満、特に1:1500未満、好ましくは1:1200未満、これとは独立して少なくとも1:1.1、好ましくは少なくとも1:1.5、特に少なくとも1:2である。この場合、最大1:1000の比率が有利であり得る。更なる層が最低の弾性率を有するのが好ましい。特に、比率は1:1.1~1:500、好ましくは1:2~1:500である。
【0044】
本発明の更なる実施の形態では、最低の弾性率を有するデバイスの領域と最高の弾性率を有する領域との弾性率の比率は、好ましくは1:2~1:200(柔らかい対硬い)、特に1:2~1:100である。
【0045】
更なる実施の形態では、上記に示した比率は、更なる層(柔らかい)の弾性率と突出部(硬い)の弾性率との比率を表す。
【0046】
本発明の特に好ましい実施の形態では、更なる層は付加的に、突出部の中間にある空間を満たす。
【0047】
この実施の形態では、デバイスは少なくとも2つの成分から構成されるコーティングとみなすことができ、これらの2つの成分は、この場合コーティング中に埋め込まれている突出部のために、それら成分の間に構造化界面を有する。更なる層の上側は好ましくは平面形状を有し、キャリア層の下側も好ましくはそのような形状を有する。更なる層の厚さについて与えられる指示は、端面より上に配置される更なる層の一部分を指している。
【0048】
突出部は、中間にある空間を満たすことによって付加的に安定化される。驚くべきことに、かかる層も接着性の増大を示すことが見出された。囲まれた突出部もその周囲の材料によって安定化される。このことから、デバイスの接触面に平行な引張力は突出部の崩壊を引き起こさず、かかる引張力の場合であっても接着力が存在し続ける。これは例えば、接着に加えて、デバイスが接触面に平行な引張力に耐えることも意図される場合に重要である。この一例は、縫合すべき傷口又は鼓膜の損傷への適用である。
【0049】
さらに、いかなる汚染も中間にある空間に蓄積し得ないために、この層を容易に清浄又は無菌に保つことができる。
【0050】
付加的に、満たされた構造により、表面からの剥離時に自立した突出部の場合に生じ得る応力ピークを低減することが可能である。
【0051】
加えて、かかるデバイスは、単に、突出部を有するキャリア層を更なる層の材料でコーティングすればよいことから、より容易に作製することができる。複雑な構造化工程は必要とされない。
【0052】
この実施の形態におけるデバイスの表面は閉鎖し、均一に見える。このため、特定の用途に適合させるために、表面をより容易に修飾することができる。この場合、表面の処理はコーティング内部の構造化に影響を及ぼさない。
【0053】
このため、既知の方法を用いて表面を機能化又は処理することができる。
【0054】
本発明の更なる実施の形態では、更なる層の部分は突出部を接続するフィルムである。この場合、突出部の中間にある空間は満たされない。
【0055】
フィルムは、架橋された突出部の垂直高さの100%未満、好ましくは50%未満、特に好ましくは30%未満の厚さを有するのが好ましい。この場合、フィルムは高さの計算に含まれない。
【0056】
フィルムは2mm未満、好ましくは1mm未満、特に好ましくは800μm未満の厚さを有するのが好ましい。
【0057】
突出部は多くの異なる材料から構成することができ、好ましくはエラストマー、特に好ましくは架橋性エラストマーである。より高い弾性率を有する領域は、デュロプラスト(duroplasts)を含んでいてもよい。
【0058】
突起部及び更なる層はそれゆえ以下の材料を含み得る:
エポキシ及び/又はシリコーンをベースとするエラストマー、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリレート系、メタクリレート系、ホモポリマー及びコポリマーとしてのポリアクリレート、ホモポリマー及びコポリマーとしてのポリメタクリレート(PMMA、AMMAメタクリル酸アクリロニトリル/メチル)、ポリウレタン(メタ)アクリレート、シリコーン、シリコーン樹脂、Rゴム(NR天然ゴム、IRポリイソプレンゴム、BRブタジエンゴム、SBRスチレンーブタジエンゴム、CRクロロプレンゴム、NBRニトリルゴム)、Mゴム(EPMエチレンプロピレンゴム、EPDMエチレンプロピレンゴム)等のゴム、不飽和ポリエステル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、ビニルエステル樹脂、ホモポリマー又はコポリマーとしてのポリエチレン、並びに上述の材料の混合物及びコポリマー。EU(2011年1月15日公開の2011年1月14日付のEU規則第10/2011号による)若しくはFDAにより包装、医薬品及び食品の分野での使用が認可されているエラストマー、又はPVD及びCVDプロセス工学によるシリコーンを含まないUV硬化型樹脂も好ましい。この場合、ポリウレタン(メタ)アクリレートはポリウレタンメタクリレート、ポリウレタンアクリレート、並びにその混合物及び/又はコポリマーを表す。
【0059】
ヒドロゲル、例えばポリウレタン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)、シリコーン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシ化ポリメタクリレート又はデンプンをベースとするものも使用され得る。
【0060】
エポキシ及び/又はシリコーンをベースとするエラストマー、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリウレタン、シリコーン、シリコーン樹脂(例えばUV硬化PDMS)、ポリウレタン(メタ)アクリレート、並びにゴム(例えばEPM、EPDM)が好ましい。
【0061】
例えばビニル末端シリコーンをベースとするポリマー等の架橋性シリコーンが特に好ましい。
【0062】
上述の物質の中で、エポキシ及び/又はシリコーンをベースとするエラストマー、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリウレタン、シリコーン、シリコーン樹脂(例えばUV硬化PDMS)、ポリウレタン(メタ)クリレート、並びにゴム(例えばEPM、EPDM)、特に架橋可能なシリコーン、例えばビニル末端シリコーンをベースとするポリマーが、表面に接する更なる層に対して特に好ましい。
【0063】
上述のヒドロゲル又は粘着剤を更なる層に使用することもできる。
【0064】
更なる実施の形態では、更なる層の表面が処理される。これにより表面の特性に影響を与えることが可能となる。これは、好ましくはAr/O2プラズマによるプラズマ処理等の物理的処理によって行うことができる。
【0065】
例えば細胞との或る特定の適合性を達成するために、表面上の添加剤への共有結合又は非共有結合を形成することもできる。例えばポリ-L-リジン、ポリ-L-オルニチン、コラーゲン又はフィブロネクチン等の細胞接着を支持する添加剤が好ましい。かかる添加剤は、細胞培養の分野から知られている。
【0066】
特に医療分野での用途においては、物質をデバイスの一部に保管し、その後ゆっくりと放出させることが有利である場合がある。例えば、これらの物質は抗生物質等の薬物、又は細胞接着若しくは細胞成長を支持する補助剤であり得る。
【0067】
更なる実施の形態では、突出部及びキャリア層は一体成形で構成され、同じ材料から構成される。
【0068】
更なる実施の形態では、デバイスは、任意に取り外し可能であってもよい更なる層も含む。このように、表面を使用前に取り外し可能なフィルムによって保護することができる。更なる安定化層がキャリア層上に配置されていてもよい。
【0069】
キャリア層は、その上に配置される突出部の最大高さよりも小さい厚さを有するのが好ましい。
【0070】
キャリア層は、突出部と同じ材料から構成される場合、より高い弾性率を有する材料を含むため、キャリア層の厚さをデバイス全体の弾性に影響を及ぼすように用いることもできる。
【0071】
本発明によるデバイスは、柔らかい基板に接着するように構成されるのが好ましい。
【0072】
本発明によるデバイスは、特に生体組織に接着させるために構成される。この目的で、デバイスを例えばフィルムとして構成することができる。デバイスを、適所に固定されるデバイスと組み合わせて構成することもできる。例えば、これらのデバイスは装飾材料だけでなく、電極、又はインプラント、特に骨に固定されないインプラント、若しくは柔らかいインプラント等の他の医療デバイスとすることもできる。例えば、これらのデバイスは虹彩インプラントであってもよい。したがって、本発明は、例えばインプラントの表面の少なくとも一部の上に本発明によるデバイスを備えるインプラントにも関する。
【0073】
本発明は、生体組織に接着させるための上述のデバイスの使用に更に関する。これらの組織は皮膚等の任意の所望の組織だけでなく、臓器表面、創傷表面又は鼓膜等の内部組織であってもよい。デバイスにより、良好な耐容性を示す表面と生体組織への同時接着との組合せが可能となる。したがって、デバイスは細胞培養又は形成される新たな組織の増殖基質としても役立つ。
【0074】
鼓膜穿孔の治療
デバイスは、その接着性のために鼓膜の表面に極めて有利に接着し、応力下でそれを適用することも可能とする。デバイスは、その構造のために鼓膜だけでなく周囲組織に接着する。任意に、このようにして構成されたデバイスは、異なる接着性を有する異なる領域を含んでいてもよい。これは材料、又は更なる層の層厚だけでなく、単にデバイス内での突出部の分布によっても生じ得る。
【0075】
したがって、フィルムとして有利に構成されるデバイスは、少なくとも突出部を有するキャリア層を含み、中間にある空間が満たされるように、更なる層がこれらの突出部に適用される。フィルムとしての実施の形態によって、デバイスを容易に所望のサイズに切ることができる。これは治療を行う人、例えば医師が個人的に行うこともできる。
【0076】
デバイスは、その構造化のために、それが適用される組織に有利に接着する。鼓膜に加えて、これは周囲組織であってもよい。耳に流れ込む可能性がある液体成分は、デバイスの適用に必要とされない。
【0077】
使用される材料に応じて、例えばデバイスを取り外すことなく治癒を確認するためにデバイスの下の組織の状態を観察することができるように、デバイスは透明であってもよい。デバイスは透明であるのが好ましい。
【0078】
デバイスは、その乾燥接着性(dry adhesiveness)のために容易に再び取り外すことができる。
【0079】
驚くべきことに、本発明によるデバイス、特に更なる層が中間にある空間を満たすデバイスは、細胞培養に有利な特性、すなわち生体外での細胞の培養を示すことも見出された。デバイスはサイズに合わせて容易に切ることができる。その上で細胞を培養する2つの層、特に更なる層のE弾性率のために、デバイスを培養される細胞に適合させることができる(E弾性率(脳細胞):およそ0.1kPa~1kPa;E弾性率(筋細胞):およそ8kPa~17kPa;E弾性率(骨細胞):およそ25kPa~40kPa)。
【0080】
特に、同じ細胞培養物に基づいて様々な試験を行うことができるように、デバイスを細胞の培養後に容易に分割することができる。デバイスを透明にすることができるため、このようにして得られる培養物は顕微鏡試験にも適している。例えば、これらをカミソリの刃又はメスを用いて切断することができる。デバイスは通常のガラス支持体、例えば円形スライドガラスにも適用することができる。代替的には、デバイスを対応する培養容器での培養に直接使用することができる。
【0081】
デバイスの表面を培養のために物理的又は化学的に処理することもできる。これは例えば、例えば50℃~200℃、特に100℃~150℃、1バール~5バールの圧力で5分間~3時間の蒸気滅菌によるオートクレーブ処理によって行うことができる。かかるオートクレーブ処理(121℃、2バール、20分間)では、接着応力の顕著な変化は観察されなかった。
【0082】
例えば、表面をポリ-L-リジン、ポリ-L-オルニチン、コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ラミニン、ケラチン、テネイシン又はパールカン(perlecan)で処理することができる。かかる添加剤は、細胞培養の分野から知られている。
【0083】
本発明は、本発明によるデバイスの実施の形態を作製する方法にも関する。
【0084】
個々の方法工程を以下に更に詳細に記載する。工程は必ずしも指定の順序で行う必要はなく、記載される方法は、本明細書に言及されない更なる工程を有していてもよい。
【0085】
この目的で、第1の工程では、複数の突出部の成形のために鋳型を準備する。
【0086】
突出部の材料を、好ましくは液体としてこの鋳型に導入する。任意に、材料は既に少なくとも部分的に硬化されていてもよい。
【0087】
その後、キャリア層、すなわち突出部が上に配置される表面の材料を鋳型に適用し、硬化させる。特に好ましくは、例えばより多量の材料を直接導入することによって、キャリア層及び軸を一工程でも作製することができるように、これは突出部の軸と同じ材料である。
【0088】
次の工程では、キャリア層及び突出部を鋳型から取り外す。
【0089】
その後、更なる層の材料を、突出部が完全に覆われるような量で突出部を有する表面に適用する。これは例えばドクタリング(doctoring)又はスピンコーティングによって行うことができる。
【0090】
次の工程では、更なる層を硬化させる。
【0091】
更なる詳細及び特徴は、従属請求項に関連した以下の好ましい実施例の説明に見られる。この場合、それぞれの特徴は個別に、又は互いに組み合わせた複数の特徴として実現することができる。目的を達成する可能性は実施例に限定されない。例えば、いずれの場合にも、与えられる範囲には、不特定の中間値及び全ての考え得る部分区間が含まれる。
【0092】
実施例は図面に概略的に示される。個々の図面の同じ参照番号は同一であるか、機能的に同一であるか、又はそれらの機能に関して互いに対応する要素を表す。より具体的には、図面は以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図2】SSA 50:50を微細構造PDMS層上に6000rpmでスピンコーティングすることによって作製した本発明による層のSEM画像を示す図である。PDMS層は、重り(100g)を用いて作製した。
【
図3】スピンコーティング速度に対する微細構造PDMS層上の層厚の依存性を示す図である。全てのPDMS層は、重り(100g)を用いて作製した。
【
図4】重りの使用に応じた得られる層厚の統計学的評価を示す図である。
【
図5】スピンコーティングによってガラス基板に適用されたSSA 50:50の層を通る断面のSEM画像を示す図である。
【
図6】スピンコーティング速度に対するガラス表面上のSSA 50:50の層厚の依存性を示す図である。
【
図7】様々な用途における滑らかな基板(SMOOTH)に対する様々な比率のSSA及びPDMSの接着力を示す図である(A:引っ張り応力対速度;B:引っ張り応力対層厚;C:最大ひずみ対層厚;D:接着エネルギー対層厚)。層厚はSEMによって決定した。
【
図8】PDMS(A、C、E、G)又はSSA 50:50(B、D、F)上へのプレーティングの4時間後のL929細胞の顕微鏡写真を示す図である。修飾なし(A及びB);ポリ-L-リジンで修飾(C及びD);ポリ-L-オルニチン及びその後のフィブロネクチンとのインキュベーション(E及びF);G 組織培養処理(TC処理)ポリスチレン上で培養した細胞。
【
図9】PDMS(A)、SSA 50:50(B)上、及びO
2/Arプラズマ処理PDMS(C)又はSSA 50:50(D)でそれぞれ処理した24時間後のL929細胞の顕微鏡写真を示す図である。
【
図10】3×10
5個の生活細胞から開始した
図9による表面上の24時間後の細胞数を示す図である(スチューデントt検定、
*p<0.05
**p<0.0005)。
【
図11】
図9及び対照による表面上での24時間の培養後の乳酸脱水素酵素(LDH)の活性(細胞毒性のパーセント)を示す図である。
【
図12】構造化コーティング(PDMS/SSA 50:50;突出部上の20μm層厚のSSA 50:50)と非構造化コーティングPDMS/SSA 50:50との接着力の比較を示す図である。
【
図13】Vitro-Skin(商標)の非構造化コーティング(Aに示す構造)を用いた引張力試験を示す図である。BはPDMS(参照)、及びSSAを40:60~52:48の様々な混合比で適用したPDMSについて測定された引張力を示す。
【
図14】PDMS(A)、SSA 50:50(B)、PLLを有するPDMS(C)、PLLを有するSSA 50:50(D)上で48時間後のL929細胞の顕微鏡写真を示す図である。画像A1、B1、C1及びD1は60秒間の振盪後のサンプルを示す。
【
図15】プラズマ処理の前後の様々な表面についての接触角を示す図である(左から右にPDMS;PDMSプラズマ;SSA 40:60;SSA 40:60プラズマ;SSA 50:50;SSA 50:50プラズマ)。
【
図16】SSA 40:60及びSSA 50:50の複素弾性率を0.1Hz~100Hzの周波数でのレオメトリー(rheometry)によって決定したことを示す図である。測定振幅は0.1%であった。
【
図17】粗い基板と滑らかな基板との様々な接着パラメーターの比較を示す図である。(A)基板をおよそ40mNの力でプレパラート(preparations)に押し付けた後の保持時間に応じた引っ張り応力の決定。粗い基板を用いて試験したプレパラートの厚さは、130μm~170μmであった。(B)粗い基板及び滑らかな基板を用いた引っ張り応力の比較。(C)粗い基板及び滑らかな基板を用いた最大ひずみの決定。(D)粗い基板及び滑らかな基板を用いた接着エネルギーの決定。
【
図18】接着値の決定に使用した測定装置の概略構造を示す図である(A)。測定に使用したガラス基板の粗さの決定。滑らかな基板についての曲線(距離対高さ)は、粗い基板とは対照的に実質的に偏差を示さない。
【
図20】本発明の更なる実施形態の断面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0094】
Dow CorningのSoft Skin Adhesive(SSA)を試験に使用した。これらはビニル末端シリコーンである。2つの溶液A及びBを混合することによって、ポリマーの硬化を触媒し、Ptを開始する。試験はMG 7-9800を用いて行った。用いた組成はSSA A:Bで示す。
【0095】
図1に本発明の一実施形態の断面の概略図を示す。デバイスは、複数の突出部110が上に配置されるキャリア層100を備える。更なる層120がそれぞれの突出部の端面140上に配置される。この場合、この層は突出部の中間にある空間130も満たす。更なる層の表面150は、接着に用いられる表面である。突出部自体が好ましくは円形断面を有し、したがって柱を構成する。
【0096】
図2に、微細構造PDMS表面上のSSA層の作製における遠心加速度の増加の影響を示すSEM画像(SEM:走査型電子顕微鏡)を示す。回転速度の増加に伴う層厚の減少を明らかに認めることができる。
【0097】
図3に種々の速度(それぞれ90秒間)でSEMによって決定される層厚を示す。この場合、層厚は微細構造PDMS表面上の層の厚さとされる。
【0098】
図4に、作製されるPDMSキャリア層の層厚に対する重りの影響を示す(
図19の上の方法も参照されたい)。重りを層の上に置くことによって、より薄い層を得ることができる。これにより、よりフレキシブルなデバイスを得ることが可能となる。
【0099】
図5にガラス上のSSA 50:50層のSEM画像を示す。この場合にも、スピンコーティング中の条件によって層厚を設定することができる。得られる対応する層厚を
図6に示す。いずれの場合にも時間を90秒とした。しかしながら、より低い速度及びより長い期間でも同様の層を得ることができる。
【0100】
図7に、適用した様々な層における
図18による測定の値を示す。PDMS(Slygard 184)を使用した。比率はPDMS及び架橋剤の割合を示す。
【0101】
様々な層厚(50μm~250μm)をドクタリング法によってガラス表面に適用した。層厚の減少と共に接着性の増大が測定された。全ての材料について、引っ張り速度の増加がより高い接着応力をもたらすことが分かる(
図A)。SSA混合物の全てについてフィルムの厚さと試験した全てのパラメーターとの間に明白な依存性が見られる。これらのパラメーターには、引っ張り応力(
図B)、最大ひずみ(
図C)及び接着エネルギー(
図D)が含まれる。PDMSの大幅に大きなE弾性率のために、この場合にフィルム厚さに対する引っ張り応力の実質的に低い依存性が見られる。特に引っ張り応力が材料のE弾性率に依存することが
図Bから分かる。材料が硬いほど観察される応力が高くなる。最大ひずみ(
図C)の観察時に、SSA 50:50の最大ひずみが試験した他の全ての材料よりも顕著に大きいことが確認される。
【0102】
図8に、L929細胞(線維芽細胞、マウス種)の接着に対する表面修飾の影響を示す。この目的で、かかる細胞を4時間のプレーティング時間の後にそれぞれの表面上において顕微鏡で検査した。PDMS及びSSA 50:50について、表面を修飾しない場合に最小の細胞接着が見られる(A及びB)。表面へのポリ-L-リジンの吸着は、PDMS(C)及びSSA 50:50(D)について接着挙動及び細胞伸長の形成の明らかな増大をもたらした。
【0103】
PDMS(E)及びSSA 50:50(F)について、この接着挙動をポリ-L-オルニチンでのポリマー表面の処理及びその後のフィブロネクチンとのインキュベーションによって顕著に改善することが可能であった。この場合、扁平な細胞形態は細胞培養処理ポリスチレンと同等である。SSA 50:50の接着特性は表面修飾後も保持された。
【0104】
ポリ-L-オルニチン及びポリ-L-リジン溶液を、ポリマー表面上において37℃で20分間インキュベートした。次いで、これらをリン酸緩衝液(PBS)ですすいだ。ウシフィブロネクチンを37℃で60分間インキュベートした。濃度はPBS 1ml当たり10μgであった。その後、PBS洗浄及び風乾を行った。
【0105】
24時間の培養時間後のPDMS及びSSA 50:50上のL929細胞の接着挙動も調査した。この目的で、3×10
5個の生活細胞をPDMS(A)、SSA 50:50(B)、プラズマ処理PDMS(C)及びSSA 50:50(D)(
図9)上で24時間培養した。この期間後に、細胞を表面から酵素的に除去し、細胞数を決定した(
図10)。PDMS又はSSA 50:50上での培養の細胞毒性の影響について試験するために、24時間の培養後の乳酸脱水素酵素(LDH)活性を調査した(
図11)。いずれの条件下でも細胞毒性の影響は観察されなかった。表面の接触角に対するプラズマ処理の影響を
図15に示す。
【0106】
図12に構造化の影響を示す。SSA 50:50でコーティングした微細構造表面は接着力に影響を及ぼす。SSA 50:50をスピンコーティングによって柱の高さが20μmの微細構造PDMS層に適用した。コーティングされた柱構造の接着力は、突出部が存在しない領域で顕著に高い。構造化領域及び非構造化領域を有する同じサンプルについて測定を行った。
【0107】
図13に、Vitro-Skin(商標)に対する非構造化2層複合材を用いた引張力試験のための構造を示す。この目的で、SSAが40:60~52:48の混合比で適用されたPDMS層から構成される2層複合材を作製した。PDMSから構成されるプレパラートを参照として使用した。
図13Aに試験構造の一例を示す。Vitro-Skin(商標)は、ヒト皮膚(粗さR
a=12μm~15μm)の表面特性を模倣する合成材料である。40:60の混合比のPDMS及びSSAは全く接着を示さなかった。最大接着は、50:50及び52:48の混合比のSSAで得られた(
図13B)。
【0108】
表面に対するL929細胞の接着力も試験した。
図14に対応する光学顕微鏡写真を示す。L929細胞をPDMS(A)及びSSA 50:50(B)上に48時間プレーティングした。平均層厚は130μm~200μmであり、光学系を用いて決定された。
【0109】
加えて、0.01%ポリ-L-リジン(PLL)を適用することによってポリマーの表面を機能化した(PDMS(C)及びSSA 50:50(D))。細胞は個々の細胞としてプレーティングした。概して言えば、細胞が両方の材料の上で伸長を形成することから(画像上の矢印)、PDMSとSSAとの間にいかなる定量的な細胞接着の差異も顕微鏡で観察することはできない。SSA上では、細胞は概して、より扁平でより伸長して見える。同じ印象をPLLでコーティングした表面上で得ることができる(C、D)。細胞が機械的応力下でどのように挙動するかを調査するために、全てのサンプルをおよそ60秒間にわたって同じ力で振盪した。これによりPDMS表面からの細胞の顕著な剥離がもたらされる(A1)。この画像の凝集物は、もはやポリマー表面と接触していない(A1中の矢印)。これと比較すると、SSA表面上ではAと比べて細胞伸長の急激な低減が見られるが、表面の剥離は生じない(B1)。PLLによる機能化は、明らかにPDMS表面上の細胞の剥離を防ぎ(C1)、SSA上の細胞伸長の低減を防ぐ(D1)。それにもかかわらず、細胞は
図D中よりも「球状」に見える。この形態は、表面への接着接触が少ない細胞に典型的なようである。まとめると、ここでSSA表面上の細胞は機械的応力に影響されにくいと言える。D1に示されるように、細胞接着は表面修飾によって顕著に改善することができる。
【0110】
SSA 50:50-PDMS複合構造を作製し、死んだマウスの無傷鼓膜に適用した。複合構造を所要の寸法に切り出した後、無傷鼓膜の接着面に適用した。剥離及び再配置の繰り返しは、鼓膜の断裂を引き起こさなかった。更なる工程では、断裂を模倣するために鼓膜の一部分を切開した。複合構造を傷の端に固定し、横方向の張力をかけることが可能であった。
【0111】
SSA 40:60及びSSA 50:50の複素弾性率は、0.1Hz~100Hzの周波数でのレオメトリーによって決定した(
図16)。測定振幅は0.1%であった。結果からSSA 50:50がSSA 40:60よりも低いE弾性率を有することが示される。おおよその比率は、PDMS 10:1とSSA 40:60とで約6の比率及びPDMS 10:1とSSA 50:50とで約65の比率であった。
【0112】
2つの基板の比較から、粗い基板(ガラスR
a=0.271μm)を用いたSSAの引っ張り応力がPDMSよりも高いことが示される(
図17)。SSA 50:50は、粗い又は滑らかな基板(R
a=0.006μm)を使用する場合に同等の引っ張り応力を示す(A、B)。SSA 50:50の最大ひずみは、PDMSよりもSSA 50:50で実質的に高い(C)。PDMSの接着エネルギーは、粗い基板を用いた場合にSSA 40:60及びSSA 50:50の接着エネルギーよりも実質的に低い(D)。
【0113】
これにより、本発明による構造化コーティングが粗い表面、すなわち0.2μmを超える粗さを有する表面により良好に適していることが示される。マウス鼓膜については、薄い金フィルムの蒸着後におよそRa=1μmの粗さが測定された。
【0114】
図18Aに、測定値の決定のための測定装置の概略図を示す。構造化コーティング(ポリマーフィルム)を、可動(旋回可能な)テーブルを用いて基板(ガラス基板)に押し付ける。構造化コーティングを離した場合の基板に対する押付力及び接着力の両方を、ロードセルを用いて測定することができる。Bに、測定に使用したガラス基板の粗さの測定を示す(粗さはいずれの場合にも白色光干渉法によって測定した)。
【0115】
図19に作製プロセスを示す。(1)で構造化表面を初めに作製し、これを次いで(2)で更なる層を有する構造化コーティングに更に加工する。左から右に、(1)はスライドガラス、又はスライドガラス上にある微細構造MD40マスター(六角形に配置される直径7μm、高さ18μm及び中心間距離14μmの柱状の突出部)のいずれかへの第1のポリマー(プレポリマー1)の適用を示す。新たなPDMSをMD40マスターに適用し、真空中で空気を抜き、プラズマで活性化されたスライドガラスを表面に適用する。重りをこれに適用するが(例えば10g/cm
2)、これにより突出部のためのキャリア層を構成するPDMS層の厚さ(例えば、40±9μm)に影響を与えることが可能である。95℃~100℃で1時間の重合後に、MD40型を取り外すことができる。(2)第2のポリマー(プレポリマー2、例えばSSA)を、ここでスピンコーティング法によって微細構造PDMS層に適用することができ、これもプラズマで処理される。このようにして作製される複合構造を95℃~100℃で重合させる。その後、表面を生物学的用途のために機能化してもよい。この方法を用いて、構造化コーティング及び非構造化コーティングの両方を比較サンプルとして作製した。パラメーターtは突出部より上の更なる層の厚さを表し、bはキャリア層の厚さを表す。
【0116】
図20に本発明の更なる実施形態の断面を示す。突出部は縦断面が長方形である必要はない。突出部の端面が湾曲している、特に更なる層に関して凸状であることも可能である(
図20上)。
【0117】
本発明の更なる実施形態を
図20の下に示す。ここで、突出部と更なる層との間の界面は波線である。したがって、突出部は3次元形状の回転放物面を有する。
【0118】
全ての変形について、更なる層の垂直厚さが該領域での突出部の高さに関して本発明による比率に従う更なる層の十分に大きな領域が存在することが重要である。より薄い更なる層を有するこれらの領域では有利な接着特性が生じる。突出部の形状において、特にそれらの端面でエッジを回避することにより、表面からのデバイスの剥離時の応力のピークを回避することができ、接着が改善される。
【符号の説明】
【0119】
100 キャリア層
110 突出部
120 更なる層
130 満たされた中間にある空間
140 端面
150 基板の表面に向く表面