(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】逆波長を有する光学補償フィルム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220318BHJP
C08L 25/18 20060101ALI20220318BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20220318BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20220318BHJP
C07D 493/04 20060101ALN20220318BHJP
C07D 307/89 20060101ALN20220318BHJP
C07D 493/06 20060101ALN20220318BHJP
【FI】
G02B5/30
C08L25/18
C08L79/08 Z
C08G73/10
C07D493/04 101B
C07D307/89 Z
C07D493/06
(21)【出願番号】P 2019507752
(86)(22)【出願日】2017-08-11
(86)【国際出願番号】 US2017046432
(87)【国際公開番号】W WO2018031853
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-08-06
(32)【優先日】2016-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513071182
【氏名又は名称】アクロン ポリマー システムズ,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】ツェン、シャオリアン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス、アラン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ビン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ペイヤオ
(72)【発明者】
【氏名】フー、ラン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ウェンタオ
(72)【発明者】
【氏名】デン、リウ
(72)【発明者】
【氏名】クオ、サウミン
(72)【発明者】
【氏名】ツァン、ドン
(72)【発明者】
【氏名】ハリス、フランク
(72)【発明者】
【氏名】ゲルムロス、テッド
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/118873(WO,A1)
【文献】特表2013-539076(JP,A)
【文献】特表2010-522901(JP,A)
【文献】特表2010-522902(JP,A)
【文献】特表2016-511839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
C08L 25/18
C08L 79/08
C08G 73/10
C07D 493/04
C07D 307/89
C07D 493/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ニトロ化スチレンフルオロポリマーと、
(b)ポリイミドと
を含み
、
0.7<R(450)/R(550)<1及び1<R(650)/R(550)<1.25の関係を満たすポジティブ面外位相差を有し、R(450)、R(550)及びR(650)は、それぞれ、450nm、550nm及び650nmの光波長での面外位相差であり、前記ニトロ化スチレンフルオロポリマーは、以下のスチレン基を有する、
光学補償フィルム。
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、置換アルキル基又はハロゲンであり、R
1、R
2及びR
3のうち少なくとも1つはフッ素原子であり、nは前記スチレン環上のニトロ基の数を表す1~5の整数である)
【請求項2】
前記ポジティブ面外位相差は、0.8<R(450)/R(550)<0.9及び1.01<R(650)/R(550)<1.2の関係を満たす、
請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項3】
(a)と(b)の総重量を基準にして、前記ニトロ化スチレンフルオロポリマー(a
)60%
~90%
と、前記ポリイミド(b
)10%
~40%
とを含む、
請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項4】
前記ニトロ化スチレンフルオロポリマーは、前記スチレン環の前記ニトロ基について
、0.5
~0.9の平均置換度を有する、
請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項5】
前記ニトロ化スチレンフルオロポリマーは、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)である、
請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項6】
前記ポリイミドは、芳香族二無水物及び芳香族ジアミンを含む成分の反応生成物である、
請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項7】
前記芳香族二無水物は、以下に示す、ピロメリット酸二無水物(PMDA)(2)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)(3)、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)(4)、4,4'-(エチン-1、2-ジイル)ジフタル酸無水物(EDDPA)(5)、4,4'-ビナフチル-1,1',8,8'-テトラカルボン酸二無水物(BNDA)(6)、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NDA)(7)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、
請求項6に記載の光学補償フィルム。
【化2】
【請求項8】
前記芳香族ジアミンは、以下に示す、2,4-ジアミノメシチレン(DAM)(8)、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(PFMB)(9)、1,5-ナフタレンジアミン(DAN)(10)、[1,1'-ビナフタレン]-5,5'-ジアミン(DABN)(11)、3,5-ジエチル-トルエン-2,6-ジアミン(2,6-DETDA)(12)、3,5-ジエチル-トルエン-2,4-ジアミン(2,4-DETDA)(13)及び4,4'-(9-フルオレニリデン)ジアニリン)(FRDA)(14)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、
請求項6に記載の光学補償フィルム。
【化3】
【請求項9】
前記芳香族二無水物は、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)(4)、4,4'-(エチン-1、2-ジイル)ジフタル酸無水物(EDDPA)(5)、4,4'-ビナフチル-1,1',8,8'-テトラカルボン酸二無水物(BNDA)(6)及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、
請求項6に記載の光学補償フィルム。
【請求項10】
前記芳香族ジアミンは、2,4-ジアミノメシチレン(DAM)(8)、3,5-ジエチル-トルエン-2,6-ジアミン(2,6-DETDA)(12)3,5-ジエチル-トルエン-2,4-ジアミン(2,4-DETDA)(13)、4,4'-(9-フルオレニリデン)ジアニリン)(FRDA)(14)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、
請求項6に記載の光学補償フィルム。
【請求項11】
前記芳香族二無水物は、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)(4)、4,4'-(エチン-1、2-ジイル)ジフタル酸無水物(EDDPA)(5)、4,4'-ビナフチル-1,1',8,8'-テトラカルボン酸二無水物(BNDA)(6)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記芳香族ジアミンは、2,4-ジアミノメシチレン(DAM)(8)、3,5-ジエチル-トルエン-2,6-ジアミン(2,6-DETDA)(12)、3,5-ジエチル-トルエン-2,4-ジアミン(2,4-DETDA)(13)、4,4'-(9-フルオレニリデン)ジアニリン)(FRDA)(14)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、
請求項6に記載の光学補償フィルム。
【請求項12】
前記ニトロ化スチレンフルオロポリマー(a)は、前記スチレン環の前記ニトロ基について
、0.6
~0.8の平均置換度を有し、
前記ポリイミド(b)は、
i.(i)及び(ii)の合計モルを基準にして
、40
~60モルパーセントの量の4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、
ii.(i)及び(ii)の合計モルを基準にして
、40
~60モルパーセントの量の4,4'-ビナフチル-1,1',8,8'-テトラカルボン酸二無水物(BNDA)、
iii.(iii)及び(iv)の合計モルを基準にして
、60
~80モルパーセントの量の2,4-ジアミノメシチレン(DAM)、及び
iv.(iii)及び(iv)の合計モルを基準にして
、20
~40モルパーセントの量の4,4'-(9-フルオレニリデン)ジアニリン(FRDA)
を含む成分の反応生成物である、
請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項13】
前記ニトロ化スチレンフルオロポリマー(a)は、前記スチレン環の前記ニトロ基について
、0.6
~0.8の平均置換度を有し、
前記ポリイミド(b)は、
i.(i)及び(ii)の合計モルを基準にして
、40
~60モルパーセントの量の4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、
ii.(i)及び(ii)の合計モルを基準にして
、40
~60モルパーセントの量の4,4'-ビナフチル-1,1',8,8'-テトラカルボン酸二無水物(BNDA)及び
iii.2,4-ジアミノメシチレン(DAM)
を含む成分の反応生成物である、
請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項14】
前記ニトロ化スチレンフルオロポリマー(a)は、前記スチレン環の前記ニトロ基について
、0.6
~0.8の平均置換度を有し、
前記ポリイミド(b)は、
i.(i)及び(ii)の合計モルを基準にして
、20
~40モルパーセントの量の4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、
ii.(i)及び(ii)の合計モルを基準にして
、60
~80モルパーセントの量の4,4'-(エチン-1,2-ジイル)ジフタル酸無水物(EDDPA)、及び
iii.3,5-ジエチル-トルエン-2,6-ジアミン(2,6-DETDA)と3,5-ジエチル-トルエン-2,4-ジアミン(2,4-DETDA)の混合物
を含む成分の反応生成物である、
請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項15】
前記フィルムは、波長(λ)550nm
で100nm
~150nmのポジティブ面外位相差及
び5ミクロン(μm)
~20ミクロン(μm)の膜厚を有する、
請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項16】
請求項1に記載の前記光学補償フィルムと、屈折率プロファイルnx>ny=nz(nx及びnyは面内屈折率を表し、nzは厚さ屈折率を表す)を有するAプレートとを含む、
多層光学フィルム。
【請求項17】
請求項1に記載の前記光学補償フィルムと、屈折率プロファイルnx>ny≠nz(nx及びnyは面内屈折率を表し、nzは厚さ屈折率を表す)を有するBプレートとを含む、
多層光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願を相互参照
本出願は、2017年3月27日出願の米国仮出願第62/476,959号及び2016年8月12日出願の米国仮出願第62/374,247号の優先権を主張するものであり、内容を参照することにより組み込まれる。
【0002】
本発明は、ポジティブ面外位相差を有する広視野光学補償フィルムに関する。特に、本発明は、アクロマティック(又はブロードバンド)位相差補償を提供することのできる逆波長分散を有するポジティブCプレートに関する。本発明の光学フィルムは、制御された光管理が望ましい、液晶表示装置(LCD)、有機発光ダイオード表示装置(OLED)、3D表示装置、光スイッチ又は導波路等の光学装置に使用してよい。
【背景技術】
【0003】
光学補償の技術分野では、波長に応じて光の位相差が変化し、色ずれを引き起こすことが知られている。色ずれが低減されるように光学素子を設計する際に、補償フィルムのこの波長依存(又は分散)性を考慮することができる。波長分散曲線は、ポジティブ又はネガティブ位相差(又は遅延)を有する補償フィルムに関して「正常」(又は「適切」又は「反転」と定義される。ポジティブ位相差を有する補償フィルム(ポジティブA又はCプレート)は、位相遅延の値がより短い波長に向かって正へと増大する正規曲線又は位相遅延の値がより短い波長に向かって正へと減少する反転曲線を有することができる。ネガティブ位相差を有する補償フィルム(ネガティブA又はCプレート)は、位相遅延の値がより短い波長に向かって負へと増大する正規曲線と、位相遅延の値がより短い波長に向かって負へと減少する反転曲線を有することができる。これらの曲線の例示的な形状を
図1に示す。
【0004】
波長板は、それらの屈折率プロファイルに従って、通常、以下のように命名される。
ポジティブCプレート:nx=ny<nz、ネガティブCプレート:nx=ny>nz
ポジティブAプレート:nx>ny=nz、ネガティブAプレート:nx<ny=nz
式中、nx及びnyは面内屈折率を表し、nzは厚さ屈折率を表す。
Cプレート及びAプレート波長板は一軸複屈折板である。波長板は、二軸複屈折であってもよく、nx、ny及びnzはすべて等しくなく、このようなプレートは、通常、2軸フィルムと呼ばれる。
【0005】
波長の1/4(λ/4)に等しい面内位相差(Re)を有するAプレートを、1/4波長板(QWP)と呼ぶ。同様に、波長の半分(λ/2)に等しいReを有するAプレートを1/2波長板(HWP)と呼ぶ。理想的なアクロマティックQWPは、波長毎にλ/4だけ入射偏光を遅延させることができる。この理想的なアクロマティックQWPを達成するために、QWPの波長分散を反転しなければならず、以下の式を満たさなければならない。
Re(450)/Re(550)=0.818及びRe(650)/Re(550)=1.182
式中、Re(450)、Re(550)及びRe(650)は、それぞれ、450nm、550nm及び650nmの光波長における面内位相差である。アクロマティック(又はブロードバンド)波長板は、波長毎に同じように光を導くことができ、最適な視野品質を得ることができるので、非常に望ましい。しかし、通常の波長板は、ブロードバンド波長板用途に適していない正規分散曲線を示す。
【0006】
ポジティブAプレートと同様に、逆波長分散曲線を有するポジティブCプレートは、ブロードバンド用途にも望ましい。このようなCプレートは、以下の式を満たす。
Rth(450)/Rth(550)=0.818及びRth(650)/Rth(550)=1.182
式中、Rth(450)、Rth(550)、Rth(650)は、波長450nm、550nm、650nmの光波長における面外位相差である。面外位相差に関して、逆波長分散性を有するポジティブCプレートが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第5344916号明細書
【文献】米国特許第580964号明細書
【文献】米国特許第5580950号明細書
【文献】米国特許第7820253号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
補償フィルムとしての液晶表示装置(LCD)には、視野角を改善するために、Aプレートが一般に使用されている。OLED(有機発光ダイオード)表示装置においても使用することができる。例えば、QWPは、OLED装置に直線偏光子を提供するために、直線偏光子と共に使用して、OLEDによって反射された周囲光を低減して視認性を向上することができる。こうした適用では、典型的には、面内位相変位補償のためにAプレートによって提供される面内位相差を利用する。例えば、C-プレートとAプレートを組み合わせると、斜め視角での交差偏光子の光漏れを低減するのに特に有用である。しかしながら、Aプレートは、ネガティブ面外位相差Rthも示し、これは、式Rth=[nz-(nx+ny)/2]×dで定義され、|Re/2|の値はその配向から生じる。この特性は、光学装置においてネガティブRthが望ましい場合に有益である。例えば、垂直方向に整列した(VA)モードLCDにおいて、LCセル内の液晶分子をホメオトロピック配向させることにより、ポジティブ位相差が生じる。このように、VA-LCDにおける面内補償に加えて、面外補償を提供することができる。しかしながら、面内スイッチ(IPS)モードLCD及びOLED表示装置のような他の装置では、軸外光に位相シフトを生じさせて光漏れを引き起こすおそれがあるので、Aプレートに示されるRthは好ましくない。したがって、当該分野において、表示装置の視野角及びコントラスト比を改善するために、面外位相差が低減された、ポジティブ面内位相差を提供することが必要とされている。面外位相差の低減は、Aプレートと組み合わせてポジティブCプレートを用いることによって達成することができる。さらに、アクロマティック補償を実現するためには、ポジティブCプレートが逆波長分散特性を有することが最も望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示された実施形態は、ポリマーブレンドの溶液キャスティングにより製造される光学補償フィルムであって、
(a)ニトロ化スチレンフルオロポリマーと、
(b)ポリイミドと
を含み、該光学補償フィルムは、0.7<R(450)/R(550)<1及び1<R(650)/R(550)<1.25の関係を満たすポジティブ面外位相差を有し、R(450)、R(550)及びR(650)は、それぞれ、450nm、550nm及び650nmの光波長での面外位相差であり、該ニトロ化スチレンフルオロポリマーは、
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、置換アルキル基又はハロゲンであり、R
1、R
2及びR
3のうち少なくとも1つはフッ素原子であり、nは前記スチレン環上のニトロ基の数を表す1~5の整数である)のスチレン基を有する、光学補償フィルムに係る。
【0010】
他の実施形態において、(a)と(b)の総重量を基準にして、ニトロ化スチレンフルオロポリマー(a)は、約60%~約90%又は約70%~約80%であり、ポリイミド(b)は、約10%~約40%又は約20%~約30%である。
【0011】
さらなる実施形態において、本発明は、本発明の光学補償フィルムと、屈折率プロファイルnx>ny=nz(nx及びnyは面内屈折率を表し、nzは厚さ屈折率を表す)を有するAプレートとを含む多層光学フィルムを提供する。
【0012】
特定の他の実施形態において、ポリマー樹脂が提供される。樹脂は、以下の基を有する。
【0013】
【化2】
式中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、置換アルキル基又はハロゲンであり、R
1、R
2及びR
3のうち少なくとも1つはフッ素原子であり、nは前記スチレン環上のニトロ基の数を表す1~5の整数である。特定の実施形態において、ポリマー樹脂は、スチレンフルオロポリマー(上記)とポリイミドの混合物又はコポリマーを含む。
【0014】
本発明の他の実施形態において、ポリマー溶液が提供される。ポリマー溶液は、溶媒と、以下のスチレン基を有するポリマーとを含む。
【化3】
式中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、置換アルキル基又はハロゲンであり、R
1、R
2及びR
3のうちの少なくとも1つは、フッ素原子であり、nはスチレン環上のニトロ基の数を表す1~5の整数である。特定の実施形態において、ポリマー溶液中のポリマーは、スチレンフルオロポリマー(上記)とポリイミドの混合物又はコポリマーを含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)ポジティブ位相差のための反転曲線、(b)ポジティブ位相差のための正規曲線、(c)ネガティブ位相差のための正規曲線及び(d)ネガティブ位相差のための反転曲線を含についての、例示的な波長分散曲線の形状を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
波長板の位相差(R)は、式R=Δn×dにより定義され、式中、Δnは複屈折であり、dは波長板の厚みである。複屈折は、面内複屈折Δnin=nx-nyと面外複屈折Δnth=nz-(nx+ny)/2に分類される。面内位相差は、式Re=(nx-ny)×dで表され、面外位相差は、Rth=[nz-(nx+ny)/2]×dで表される。
【0017】
波長板の複屈折(Δn)は、異なる増分で約400nm~約800nmの波長範囲にわたって波長板の複屈折を求めることにより、測定することができる。あるいは、特定の光波長で複屈折を測定してもよい。本明細書では、波長を特定することなく、複屈折又は位相差の関係が与えられる場合、約400nm~約800nmの波長範囲にわたるものが当てはまる。
【0018】
本発明の一実施形態において、ポリマーブレンドの溶液キャスティングにより製造される光学補償フィルムであって、
(a)ニトロ化スチレンフルオロポリマーと、
(b)ポリイミドと
を含み、光学補償フィルムは、0.7<R(450)/R(550)<1及び1<R(650)/R(550)<1.25の関係を満たすポジティブ面外位相差を有し、R(450)、R(550)及びR(650)は、それぞれ、450nm、550nm及び650nmの光波長での面外位相差であり、前記ニトロ化スチレンフルオロポリマーは、以下のスチレン基を有する、光学補償フィルムが提供される。
【化4】
【0019】
他の実施形態において、(a)及び(b)の総重量を基準にして、ニトロ化スチレンフルオロポリマー(a)は、約60%~約90%又は約70%~約80%であり、ポリイミド(b)は、約10%~約40%又は約20%~約30%である。
【0020】
本発明による光学補償フィルムは、ポジティブ面外位相差(Rth)及び反転面外波長分散特性を有し、波長が短くなっていくにつれ、フェーズ位相差の値が減少してポジティブとなる。この分散特性は、450nm、550nm及び650nmの波長で測定された位相差の比で表され、R(450)/R(550)<1及びR(650)/R(550)>1の関係を満たす。R(450)/R(550)の比は、0.71~0.99、0.72~0.98、0.74~0.97、0.76~0.96、0.78~0.95、0.8~0.9又は0.81~0.85とすることができる。R(650)/R(550)の比は、1.01~1.24、1.02~1.23、1.03~1.22、1.04~1.21、1.05~1.2又は1.1~1.19とすることができる。一実施形態において、ポジティブ面外位相差は、0.8<R(450)/R(550)<0.9及び1.01<R(650)/R(550)<1.2の関係を満たす。
【0021】
本明細書に開示された実施形態において、光学補償フィルムの面外位相差(Rth)は、波長(λ)550nmで約50nm~約200nm、最も好ましくは、約100nm~約150nmである。好ましくは、膜厚は、約5~約30ミクロン(μm)であり、最も好ましくは約5ミクロン~約20ミクロンである。
【0022】
特定の実施形態において、本発明に適したニトロ化スチレンフルオロポリマー(a)は、ポリマー主鎖中に、以下に示す、スチレン基を含む。
【化5】
式中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基又はハロゲンであり、式中、R
1、R
2及びR
3の少なくとも1つはフッ素原子であり、nは、スチレン環上のニトロ基の数を表す1~5の整数である。
【0023】
ニトロ化スチレンフルオロポリマー(a)では、各スチレン基は置換されていてもよいし、置換されていなくてもよいが(少なくとも1つは置換されている)、スチレンフルオロポリマー中のスチレン基のニトロ基の平均数は、約0.2~約1の範囲とすることができ、ここでは、ポリマー中のニトロ基の置換度(DS)と称す。好ましくは、ニトロ基のDSは約0.5~約0.9、0.6~0.8又は0.65~0.75の範囲である。
【0024】
ニトロ化スチレンフルオロポリマー(a)は、ホモポリマー又はコポリマーであってもよい、スチレンフルオロポリマーのニトロ化によって製造することができる。ホモポリマーの例としては、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)、ポリ(α,β-ジフルオロスチレン)、ポリ(β,β-ジフルオロスチレン)、ポリ(α-フルオロスチレン)又はポリ(β-フルオロスチレン)が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、スチレンフルオロポリマーは、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)である。コポリマーは、1つ以上の含フッ素モノマーと、1つ以上のエチレン性不飽和モノマーの共重合により製造される。このような含フッ素モノマーの例としては、α,β,β-トリフルオロスチレン、α,β-ジフルオロスチレン、β,β-ジフルオロスチレン、α-フルオロスチレン、β-フルオロスチレン及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
一実施形態において、スチレンフルオロポリマーは、α,β,β-トリフルオロスチレンと、スチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸、メタクリル酸、α-メチルスチレン、4-メチルスチレン、ビニルビフェニル、アクリロニトリル、イソプレン及びこれらの組み合わせを含む群から選択される1つ以上のエチレン化不飽和モノマーとのコポリマーである。
【0026】
本明細書に開示された特定の実施形態において、ポリイミド(b)は、基板上への溶液キャストの際に面内配向を形成することができる剛性棒状基を含む。このようにして作製されたポリマーフィルムは、ネガティブ面外複屈折を示し、光学的位相差補償のためのネガティブCプレートとして一般に知られている。ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)等の未置換スチレンフルオロポリマーとは異なり、ニトロ化スチレンフルオロポリマーは、溶媒中でポリイミドと混和性があり、混合物は、光学品質の透明なフィルムとすることができる。ニトロ化スチレンフルオロポリマーをポリイミドとブレンドすることにより、スチレンフルオロポリマーフィルムの波長分散曲線を法線から逆に変化させることが可能となり、アクロマティックブロードバンド用途にとって非常に望ましい。
【0027】
本明細書に開示された実施形態において、ポリイミドは、芳香族二無水物と芳香族ジアミンとを反応させることによって調製される。芳香族二無水物は、ベンゼン(下式2-5)又はナフタレン(下式6-7)をベースとすることができ、芳香族ジアミンは、ベンゼン(下式8および9)かナフタレン(下式10及び11)のいずれかをベースとすることもできる。本発明に適したポリイミドは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる特許文献1~4に開示されている。好ましくは、ポリイミドは、1つ以上の二無水物、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)(2)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)(3)、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)(4)、4,4'-(エチン-1、2-ジイル)ジフタル酸無水物(EDDPA)(5)、4,4'-ビナフチル-1、1',8、8'-テトラカルボン酸二無水物(BNDA)(6)及び(1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NDA)(7)と、1つ以上のジアミン、例えば、2,4-ジアミノメシチレン(DAM)(8)、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(PFMB)(9)、1,5-ナフタレンジアミン(DAN)(10)、[1,1'-ビナフタレン]-5,5'-ジアミン(DABN)(11)、3,5-ジエチル-トルエン-2,6-ジアミン(2,6-ジアミン))(12)、3,5-ジエチル-トルエン-2,4-ジアミン(2,4-DETDA))(13)及び4,4'-(9-フルオレニリデン))(FRDA)(14)を反応させることにより製造される。最も望ましい二無水物は、6FDA(4)、EDDPA(5)及びBNDA(6)であり、最も望ましいジアミンは、DAM(8)、2,6-DETDA(12)、2,4-DETDA(13)及びFRDA(14)である。一実施形態において、芳香族二無水物は、6FDA(4)、EDDPA(5)、BNDA(6)及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上であり、芳香族ジアミンは、DAM(8)、2,6-devid(12)、2,4-DETDA(13)、FRDA(14)及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上である。二無水物及び芳香族ジアミンの様々な化学組成を以下に示す。
【化6】
【化7】
【0028】
ここで使用されるポリイミドを形成するのに適した他の二無水物又はジアミンは、下式15(5,5'-[1,4-フェニレンビス(1,3,4-オキサジアゾール-5,2-ジイル)]ビス-1,3-イソベンゾフランジオン)、16(5,5'-(1,3,4-オキサジアゾール-2,5-ジイル)ビス-1,3-イソベンゾフランジオン)、17(4,4'-(1,4-フェニレン)-ビス(1,3,4-オキサジアゾール-2,5-ジイル))ジ(o-トルイジン))、18(4,4'-メチレンビス(2,6-ジエチル-アニリン))、19(4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジアニリン)及び20(4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)-ビス(p-フェニレンオキシ)ジアニリン)が挙げられる。これらの付加的な二無水物及びジアミンは、以下に示す通りである。
【化8】
【0029】
さらなる実施形態において、ニトロ化スチレンフルオロポリマー(a)は、スチレン環のニトロ基について、約0.6~約0.8の平均置換度を有し、ポリイミド(b)は、
i.(i)及び(ii)の合計モルを基準にして、約40~約60モルパーセントの量の4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、
ii.(i)及び(ii)の合計モルを基準にして、約40~約60モルパーセントの量の4,4'-ビナフチル-1,1',8,8'-テトラカルボン酸二無水物(BNDA)、
iii.(iii)及び(iv)の合計モルを基準にして、約60~約80モルパーセントの量の2,4-ジアミノメシチレン(DAM)及び
iv.(iii)及び(iv)の合計モルを基準にして、約20~約40モルパーセントの量の4,4'-(9-フルオレニリデン)ジアニリン)(FRDA)を含む成分の反応生成物である。
【0030】
他の実施形態において、ニトロ化スチレンフルオロポリマー(a)は、スチレン環のニトロ基について、約0.6~約0.8の平均置換度を有し、ポリイミド(b)は、
i.(i)及び(ii)の合計モルを基準にして、約40~約60モルパーセントの量の4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、
ii.(i)及び(ii)の合計モルを基準にして、約40~約60モルパーセントの量の4,4'-ビナフチル-1,1',8,8'-テトラカルボン酸二無水物(BNDA)及び
iii.2,4-ジアミノメシチレン(DAM)を含む成分の反応生成物である。
【0031】
さらに他の実施形態において、ニトロ化スチレンフルオロポリマー(a)は、スチレン環のニトロ基について、約0.6~約0.8の平均置換度を有し、ポリイミド(b)は、
i.(i)及び(ii)の合計モルを基準にして、約20~約40モルパーセントの量の4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、
ii.(i)及び(ii)の合計モルを基準にして、約60~約80モルパーセントの量の4,4'-(エチン-1,2-ジイル)ジフタル無水物(EDDPA)及び
iii.3,5-ジエチル-トルエン-2,6-ジアミン(2,6-DETDA)と3,5-ジエチル-トルエン-2,4-ジアミン(2,4-DETDA)の混合物を含む成分の反応生成物である。
【0032】
本明細書に開示された特定の実施形態において、光学補償フィルムは、1種類以上のニトロ化スチレンフルオロポリマーと1種類以上のポリイミドとを含む溶液ブレンドからキャスティングによって製造される。溶液ブレンドは、フルオロポリマー溶液とポリイミド溶液とを混合することによって調製することができる、又は、粉末状のフルオロポリマーとポリイミドとの混合物を溶媒に溶解させて調製してもよい。好適な溶媒としては、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、トルエン、メチルイソブチルケトン、塩化メチレン、クロロホルム、1、2-ジクロロエタン、メチルアミルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソアミルケトン、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート及びこれらの混合物が挙げられる。他の実施形態において、溶液ブレンドは、本発明の光学補償フィルムのポジティブ面外位相差を増大し、及び/又はポリマーブレンド及び関連するフィルムに対して、個別に、かつ相対的に、R(450)/R(550)及びR(650)/R(550)の関係の調整又は制御のし易さを促すことによって、0.7<R(450)/R(550)<1及び1<R(650)/R(550)<1.25の所望の関係を改善することのできる11種以上の添加剤をさらに含む。
添加剤としては、IR吸収剤、紫外線吸収剤、ジイミド化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらは二無水物とモノアミンとを反応させてもよいし、ジアミンと無水物とを反応させることにより製造される。
【0033】
一実施形態において、本発明の光学補償フィルムは、基板上に溶液キャストされることによって製造される。基板上へのポリマー溶液のキャスティングは、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、カーテンコーティング又は浸漬コーティング等の当該技術分野で公知の方法によって実施することができる。基板は当該技術分野で公知のトリアセチルセルロース(TAC)、環状オレフィンポリマー(COP)、ポリエステル、ポリビニルアルコール、セルロースエステル、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、ガラス、LCD装置に一般的に使用される他の材料及びOLED表示装置に一般に使用される他の材料が挙げられる。
【0034】
好ましくは、ニトロ化されたスチレンフルオロポリマー成分は、フィルムにキャスティングされると、Δnth>0.02又は>0.025又は>0.03又は>0.035の式を満たす面外複屈折(Δnth)を有する。より高い複屈折材料は、薄膜として、十分なポジティブ面内位相差(Rth)を提供し、ポリイミドフィルム中に発生するネガティブRthを低減又は排除することができるという利点を有する。
【0035】
Aプレートと組み合わせた場合、本発明の光学補償フィルムは、Aプレートに存在する望ましくないネガティブ面外位相差を排除することができる。さらに、その逆分散特性のために、本発明の光学フィルムは、観察品質の最適な改善のためにアクロマティックの補償を与えることができる。
【0036】
さらなる実施形態は、本明細書の実施形態に記載された光学補償フィルムと、nx>ny=nzの屈折率プロファイルを有するAプレートとを含み、nx及びnyは面内屈折率を表し、nzは厚さ屈折率を表す。一実施形態において、該Aプレートは、1/4波長板(QWP)である。一実施形態において、線形偏光子と組み合わせたQWPは円偏光子として機能する。このような円偏光子は、周囲光を低減するためにOLED表示装置に使用することができ、したがって、観察品質を向上させることができる。
【0037】
本発明の多層フィルムは、積層、溶液キャスティング又はポリマーフィルムを製造するための任意の他の適切な手段によって製造することができる。一実施形態において、ニトロ化スチレンフルオロポリマーのポリマーブレンド(a)とポリイミド(b)の溶液を、Aプレート上にキャストして多層膜を得る。
【0038】
同様に、ニトロ化スチレンフルオロポリマー(a)とポリイミド(b)とのポリマーブレンドのフィルムを含む本明細書に開示された実施形態はまた、屈折率プロファイルがnx>ny≠nzのBプレートと組み合わせることも可能である。一態様において、該Bプレートは、二軸の四分の一波長板(QWP)である。他の実施形態において、直線偏光子と組み合わせた二軸QWPが円偏光子として機能する。このような円偏光子は、OLED表示装置に使用することができ、周囲光を低減し、したがって、視野品質を向上させることができる。
【0039】
本発明の光学補償フィルムは、面内スイッチング液晶表示装置を含む液晶表示装置、OLED表示装置、3D表示装置、円偏光子又は3Dメガネに用いることができる。該表示装置は、テレビ、コンピュータ、携帯電話、カメラ及び他の用途に使用することができる。
【0040】
本発明のさらなる実施形態において、ポリマー樹脂が提供される。本発明のポリマー樹脂は、以下の基を有する。
【化9】
【0041】
式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基又はハロゲンであり、R1、R2及びR3のうちの少なくとも1つは、フッ素原子であり、nはスチレン環上のニトロ基の数を表す1~5の整数である。
【0042】
特定の実施形態において、ポリマー樹脂は、スチレンフルオロポリマー(上記)とポリイミドとの混合物又はコポリマーを含む。
【0043】
特定の実施形態において、ニトロ基のDSは、0.25よりも大きい。特定の実施形態において、ニトロ基のDSは0.4よりも大きい。ポリマー樹脂の特定の実施形態において、ニトロ基の0.6よりも大きい。特定の実施形態において、ニトロ基のDSは0.8よりも大きい。
【0044】
本発明の一実施形態において、ポリマー溶液が提供される。ポリマー溶液は、溶媒と、以下のスチレン基を有するポリマーとを含む。
【化10】
【0045】
式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、置換アルキル基又はハロゲンであり、R1、R2及びR3のうちの少なくとも1つは、フッ素原子であり、nはスチレン環上のニトロ基の数を表す1~5の整数である。
【0046】
特定の実施形態において、ポリマー溶液中のポリマーは、スチレンフルオロポリマー(上記)とポリイミドの混合物又はコポリマーを含む。
【0047】
ポリマー溶液の特定の実施形態において、溶媒は、トルエン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、メチルアミルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン及びこれらの混合物からなる群から選択される。ポリマー溶液の特定の実施形態において、溶媒は、メチルエチルケトン、塩化メチレン、シクロペンタノン及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0048】
ポリマー溶液の特定の実施形態において、ニトロ基のDSは0.25よりも大きい。ポリマー溶液の特定の実施形態において、ニトロ基のDSは0.4より大きい。ポリマー溶液の特定の実施形態において、ニトロ基のDSは0.6より大きい。ポリマー溶液の特定の実施形態において、ニトロ基のDSは0.8より大きい。
【0049】
本明細書に記載の樹脂のいずれかを本明細書に記載の溶媒と組み合わせて溶液を形成し、次いでフィルムとして溶液キャストすると、樹脂から形成されたフィルムは、本明細書に開示された他の実施形態に従った特性を示す。
【実施例】
【0050】
以下の実施例は、本明細書に記載されたポリマー、ポリマー溶液、ポリマーフィルム及び方法の例示的な実施形態を説明及び実証する。例示的な実施形態は、例示の目的のためにのみ提供され、本開示を限定するものとは解釈されず、本開示の技術思想及び範囲から逸脱することなく、その多くの変形が可能である。
【0051】
実施例1:DS=0.68のニトロ化ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(N-PTFS1)の合成
材料:固有(IV)が1.10dL/gであるポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(PTFS)は、未処理で用いられた内部生成物であった。ジクロロメタン(DCM)は、SiO2に通して精製されたアクロス製であった。HNO3は、アクロス製のもの(68%~70%)をそのまま用いた。H2SO4は、シグマアルドリッチ製のもの(95.0%~98.0%)をそのまま用いた。
【0052】
窒素インレット/アウトレット及びメカニカルスターラーを備えた1リットル三口丸底フラスコに、ジクロロメタン(DCM)中PTFS(IV、1.10dL/g)溶液(200g、5重量%)を入れた。別途、濃硫酸(31.18g)を硝酸(11.75g)に添加して混合酸溶液を調製した。フラスコを室温で水浴中に入れた。フラスコ中の攪拌されたPTFS溶液に、混合酸を10分間かけて添加した。反応混合物を室温で23時間反応させた後、脱イオン水/氷(500ml)を添加することにより急冷した。上部の水相をデカントし、有機相を脱イオン水で繰り返し洗浄して酸を除去した。得られた有機層をメタノール(約1リットル)に沈殿させ、高速ブレンダー中で粉砕して粉末懸濁液を得た。次いで、粉末を濾過し、水及びメタノールで繰り返し洗浄した。得られた生成物を減圧下で80℃で一晩乾燥させた。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶剤として用い、30℃で、キャノン(登録商標)自動毛管粘度計により測定されたポリマーの固有粘度(IV)は1.20dL/gであった。生成物中のニトロ基の置換度(DS)は、元素分析(EA)により0.68と求められた。
【0053】
実施例2:DS=0.86のニトロ化ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(N-PTFS2)の合成
窒素インレット/アウトレット及びメカニカルスターラーを備えた1リットル三口丸底フラスコに、ジクロロメタン(DCM)中PTFS(IV、1.10dL/g)溶液(200g、5重量%)を入れた。別途、濃硫酸(70.60g)を硝酸(27.81g)に添加して混合酸溶液を調製した。フラスコを室温で水浴中に入れた。フラスコ中の攪拌されたPTFS溶液に、混合酸を10分間かけて添加した。反応混合物を室温で21時間反応させた後、脱イオン水/氷(800ml)を添加することにより急冷した。上部の水相をデカントし、有機相を脱イオン水で繰り返し洗浄して酸を除去した。得られた有機層をメタノール(約1.5リットル)に沈殿させ、高速ブレンダー中で粉砕して粉末懸濁液を得た。次いで、粉末を濾過し、水及びメタノールで繰り返し洗浄した。得られた生成物を減圧下で80℃で一晩乾燥させた。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶剤として用い、30℃で、キャノン(登録商標)自動毛管粘度計により測定されたポリマーの固有粘度(IV)は1.20dL/gであった。生成物中のニトロ基の置換度(DS)は、元素分析(EA)により0.86と求められた。
【0054】
実施例3:ポリイミド1(6FDA/BNDA/DAM、50/50/100)の合成
m-クレゾール中、180℃で18時間、4,4'-ビナフチル-1,1',8,8'-テトラカルボン酸二無水物(BNDA)を過剰の2,4-ジアミノメシチレン(DAM)と(モル比DAM/BNDA>(2.5)反応させることによりDAM-BNDA-DAMジアミンを調製した。反応溶液は、過剰のメタノールに沈殿させて粉末生成物を得た。次いで、生成物を濾過し、メタノールで繰り返し洗浄した。得られた生成物を、減圧下で80℃で一晩乾燥させ、次の工程の重合のために準備した。
【0055】
窒素インレット/アウトレット及びメカニカルスターラーを備えた1リットル三口丸底フラスコに、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)(22ml)、DAM-BNDA-DAM(3.2945g、5.00mmol)及び4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル無水物(6FDA)(2.1790g、4.91mmol)を入れた。反応混合物を室温で18時間反応させ、次いでピリジン(1.0ml)及び無水酢酸(2.5ml)を添加した。反応を120℃で2時間継続させた。冷却後、得られた溶液をメタノール(約100ml)に沈殿させたて、繊維状生成物を得た。次いで、生成物を濾過し、メタノールで繰り返し洗浄した。得られた生成物を減圧下で80℃で一晩乾燥させた。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶剤として用い、30℃で、キャノン(登録商標)自動毛管粘度計により測定されたポリマーの固有粘度(IV)は1.07dL/gであった。
【0056】
実施例4:N-PTFSとポリイミド1(6FDA/BNDA/DAM、50/50/100)とのブレンドからキャストされたポリマーフィルムの製造
N-PTFS1及びN-PTFS2それぞれと、ポリイミド1(6FDA/BNDA/DAM、50/50/10)100)を様々な割合で用いることにより、ポリマーフィルムを製造した。N-PTFS固体をシクロペンタノンに溶解させることにより、N-PTFSの10重量%溶液を調製した。別途、ポリイミド1の10重量%溶液をシクロペンタノン中で調製した。次に、以下の表1に示すように、2種類の溶液を様々な重量比で混合することにより、ポリマーブレンド溶液を調製した。調製された均一で透明な混合溶液を、ブレードキャスティング法を用いて平坦なガラス基板に塗布した。コーティングフィルムを空気中で一晩乾燥させ、続いて80℃~150℃の真空オーブンに2時間入れた。乾燥後、フィルムを剥離した。フィルムは透明であった。
【0057】
実施例5:N-PTFSとポリイミド1(6FDA/BNDA/DAM、50/50/100)のブレンドからキャストされたポリマーフィルムの特性
自立ポリマーフィルムの複屈折及び厚さを、633nmの波長における単一フィルムモードを使用するメトリコンモデル2010/Mプリズムカプラーによって測定した。位相差及び分散は、J.A.Woollam M-2000又はRC2エリプソメトリーによって求められた。633nmでの複屈折、厚さ及び分散係数R(450)/R(550)及びR(650)/R(550)を表1に示す。
【表1】
【0058】
実施例6:ポリイミド2(6FDA/EDDPA/DAM、50/50/100)の合成
窒素インレット/アウトレット及びメカニカルスターラーを備えた1リットル三口丸底フラスコに、DAM(1.5037g、10.01mmol)、4,4'-(エチン-1,2-ジイル)ジフタル無水物(EDDPA)(1.5926g、5.00mmol)及び6FDA(2.2285g、5.02mmol)を入れた。反応混合物を室温で18時間反応させ、次いでピリジン(2.0ml)及び無水酢酸(5.0ml)を添加した。冷却後、得られた溶液をメタノール(約100ml)に沈殿させたて、繊維状生成物を得た。次いで、生成物を濾過し、メタノールで繰り返し洗浄した。得られた生成物を減圧下で80℃で一晩乾燥させた。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶剤として用い、30℃で、キャノン(登録商標)自動毛管粘度計により測定されたポリマーの固有粘度(IV)は1.35dL/gであった。
【0059】
実施例7:N-PTFSとポリイミド2(6FDA/EDDPA/DAM)のブレンドからキャストされたポリマーフィルムの製造
N-PTFS1及びN-PTFS2それぞれと、ポリイミド2(6FDA/EDDPA/DAM、50/50/10)100)を様々な割合で用いることにより、ポリマーフィルムを製造した。N-PTFS固体をシクロペンタノンに溶解させることにより、N-PTFSの10重量%溶液を調製した。別途、ポリイミド2の10重量%溶液をシクロペンタノン中で調製した。次に、以下の表2に示すように、2種類の溶液を様々な割合で混合することにより、ポリマーブレンド溶液を調製した。調製された均一で透明な混合溶液を、ブレードキャスティング法を用いて平坦なガラス基板に塗布した。コーティングフィルムを空気中で一晩乾燥させ、続いて80℃~150℃の真空オーブンに2時間入れた。乾燥後、フィルムを剥離した。フィルムは透明であった。
【0060】
実施例8:N-PTFSとポリイミド2(6FDA/EDDPA/DAM、50/50/100)のブレンドからキャストされたポリマーフィルムの特性
自立ポリマーフィルムの複屈折及び厚さを、633nmの波長における単一フィルムモードを使用するメトリコンモデル2010/Mプリズムカプラーによって測定した。位相差及び分散は、J.A.Woollam M-2000又はRC2エリプソメトリーによって求められた。633nmでの複屈折、厚さ及び分散係数R(450)/R(550)及びR(650)/R(550)を表2に示す。
【表2】
【0061】
実施例9:DS=0.72のニトロ化ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(N-PTFS3)の合成
19Lのリアクターで、窒素雰囲気下、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(PTFS、IV、1.10dL/g)(1.2kg)を、1,2-ジクロロエタン(13.8kg)と混合した。混合物を攪拌しながら50℃に加熱した。全ての固体が溶解すると、混合物をさらに55℃に加熱した、硫酸(98%、2.89kg)と硝酸(69%、1.12kg)の予備混合物を2.5時間添加した。次いで、混合物を60℃に加熱し、4時間保持した。プロピオン酸(13)を加え、混合物を室温まで冷却しながら生成物を沈殿させた。得られた懸濁液を濾過し、粗粉体を、まず、プロピオン酸で2回洗浄した後、メタノールで繰り返し洗浄した。得られた生成物を減圧下で60℃で乾燥させて、1.3kgの粉末生成物を得た。生成物中のニトロ基の置換度(DS)は、元素分析(EA)により0.72と求められた。
【0062】
実施例10:ポリイミド3(6FDA/BNDA/DAM/FRDA、50/50/70/30))の合成
m-クレゾール中、180℃で18時間、4,4'-ビナフチル-1,1',8,8'-テトラカルボン酸二無水物(BNDA)を過剰の2,4-ジアミノメシチレン(DAM)と(モル比DAM/BNDA>2.5)反応させることによりDAM-BNDA-DAMジアミンを調製した。反応溶液は、過剰のメタノールに沈殿させて粉末生成物を得た。次いで、生成物を濾過し、メタノールで繰り返し洗浄した。得られた生成物を、減圧下で80℃で一晩乾燥させ、次の工程の重合のために準備した。
【0063】
m-クレゾール中、180℃で18時間、4,4'-ビナフチル-1,1',8,8'-テトラカルボン酸二無水物(BNDA)を過剰の4,4-(9-フルオレニリデン)ジアニリン)(FRDA)と(モル比FRDA/BNDA>2.5)反応させることによりFRDA-BNDA-FRDAジアミンを調製した。反応溶液は、過剰のメタノールに沈殿させて粉末生成物を得た。次いで、生成物を濾過し、メタノールで繰り返し洗浄した。得られた生成物を、減圧下で80℃で一晩乾燥させ、次の工程の重合のために準備した。
【0064】
窒素インレット/アウトレット及びメカニカルスターラーを備えた100ml三口丸底フラスコに、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)(20ml)、DAM-BNDA-DAM(1.845g、2.80mmol)、FRDA-BNDA-FRDA(1.266g、12.0mmol)及び4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル無水物(6FDA)(1.777g、4.00mmol)を入れた。反応混合物を室温で18時間反応させ、次いでピリジン(1.0ml)及び無水酢酸(2.5ml)を添加した。反応を120℃で2時間継続させた。冷却後、得られた溶液をメタノール(約100ml)に沈殿させたて、繊維状生成物を得た。次いで、生成物を濾過し、メタノールで繰り返し洗浄した。得られた生成物を減圧下で80℃で一晩乾燥させた。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶剤として用い、30℃で、キャノン(登録商標)自動毛管粘度計により測定されたポリマーの固有粘度(IV)は0.49dL/gであった。
【0065】
実施例11:N-PTFSとポリイミド3(6FDA/BNDA/DAM/FRDA、50/50/70/30)のブレンドからキャストされたポリマーフィルムの製造
N-PTFS3(DS=0.72)及びポリイミド3(6FDA/BNDA/DAM/FRDA、50/50/70/30)を様々な割合で用いることにより、ポリマーフィルムを製造した。N-PTFS固体をシクロペンタノンに溶解させることにより、N-PTFSの10重量%溶液を調製した。別途、ポリイミド3の10重量%溶液をシクロペンタノン中で調製した。次に、以下の表3に示すように、2種類の溶液を様々な割合で混合することにより、ポリマーブレンド溶液を調製した。調製された均一で透明な混合溶液を、ブレードキャスティング法を用いて平坦なガラス基板に塗布した。コーティングフィルムを空気中で一晩乾燥させ、続いて80℃~150℃の真空オーブンに2時間入れた。乾燥後、フィルムを剥離した。フィルムは透明であった。
【0066】
実施例12:N-PTFSとポリイミド3(6FDA/BNDA/DAM/FRDA、50/50/70/30)のブレンドからキャストされたポリマーフィルムの特性
自立ポリマーフィルムの複屈折及び厚さを、633nmの波長における単一フィルムモードを使用するメトリコンモデル2010/Mプリズムカプラーによって測定した。位相差及び分散は、J.A.Woollam M-2000又はRC2エリプソメトリーによって求められた。633nmでの複屈折、厚さ及び分散係数R(450)/R(550)及びR(650)/R(550)を表3に示す。
【表3】
【0067】
実施例13:ポリイミド4(6FDA/EDDPA/DETDA、30/70/100)の合成
窒素インレット/アウトレット及びメカニカルスターラーを備えた5000ml三口丸底フラスコに、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)(1524g)、DETDA(1.69.1g、950mmol)、EDDPA(211.3g、655mmol)及び4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル無水物(6FDA)(126.4g、285mmol)を入れた。反応混合物を室温で18時間反応させ、次いでピリジン及び無水酢酸を添加した。反応を120℃で2時間継続させた。冷却後、得られた溶液をメタノール(5倍容積)とブレンドして、ポリマー生成物を得た。生成物を濾過し、メタノールで繰り返し洗浄した。得られた生成物を減圧下で80℃で一晩乾燥させた。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶剤として用い、30℃で、キャノン(登録商標)自動毛管粘度計により測定されたポリマーの固有粘度(IV)は0.88dL/gであった。
【0068】
実施例14:N-PTFSとポリイミド4(6FDA/EDDPA/DETDA、30/70/100)のブレンドからキャストされたポリマーフィルムの製造。
N-PTFS3(DS=0.72)及びポリイミド4(6FDA/EDDPA/DETDA、30/70/100)を様々な割合で用いることにより、ポリマーフィルムを製造した。N-PTFS固体をシクロペンタノンに溶解させることにより、N-PTFSの10重量%溶液を調製した。別途、ポリイミド4の10重量%溶液をシクロペンタノン中で調製した。次に、以下の表4に示すように、2種類の溶液を様々な割合で混合することにより、ポリマーブレンド溶液を調製した。調製された均一で透明な混合溶液を、ブレードキャスティング法を用いて平坦なガラス基板に塗布した。コーティングフィルムを空気中で一晩乾燥させ、続いて80℃~150℃の真空オーブンに2時間入れた。乾燥後、フィルムを剥離した。フィルムは透明であった。
【0069】
実施例15:N-PTFSとポリイミド4(6FDA/EDDPA/DETDA、30/70/100)のブレンドからキャストされたポリマーフィルムの特性
自立ポリマーフィルムの複屈折及び厚さを、633nmの波長における単一フィルムモードを使用するメトリコンモデル2010/Mプリズムカプラーによって測定した。位相差及び分散は、J.A.Woollam M-2000又はRC2エリプソメトリーによって求められた。633nmでの複屈折、厚さ及び分散係数R(450)/R(550)及びR(650)/R(550)を表4に示す。
【表4】