(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】ガスの分析方法及びガスの分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/00 20060101AFI20220318BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20220318BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
G01N1/00 101R
G01N1/22 L
G01N37/00 101
(21)【出願番号】P 2019517543
(86)(22)【出願日】2018-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2018016339
(87)【国際公開番号】W WO2018207592
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】P 2017094759
(32)【優先日】2017-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「超高感度有害低分子センシングシステムの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】花井 陽介
(72)【発明者】
【氏名】中尾 厚夫
(72)【発明者】
【氏名】柳田 剛
(72)【発明者】
【氏名】長島 一樹
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-013120(JP,A)
【文献】特開2002-022694(JP,A)
【文献】特開平11-218512(JP,A)
【文献】特開平11-352088(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103561(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047041(WO,A1)
【文献】特開2001-305088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00
G01N 1/22
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる組成を有する複数の吸着材のそれぞれに試料ガスを吸着させることと、
前記複数の吸着材から前記試料ガスを個別に脱離させつつ、前記複数の吸着材のそれぞれから脱離した前記試料ガスを個別に検出することによって、前記複数の吸着材のそれぞれに固有の前記試料ガスの脱離プロファイルを取得することと、
前記脱離プロファイルの群を用いて前記試料ガスを識別することと、
を含
み、
前記試料ガスを識別することには、前記脱離プロファイルの群に対して主成分分析を行うことが含まれる、ガスの分析方法。
【請求項2】
前記脱離プロファイルを取得することは、前記複数の吸着材のそれぞれから脱離した前記試料ガスを個別かつ経時的に検出することによって行われ、
前記脱離プロファイルは、前記試料ガスの量を反映した検出信号から作成された経時データである、請求項1に記載のガスの分析方法。
【請求項3】
前記脱離プロファイルを取得することは、前記複数の吸着材のそれぞれを加熱することにより、前記複数の吸着材から前記試料ガスを個別に脱離させることによって行われ、
前記脱離プロファイルは、前記試料ガスの量を反映した検出信号と、前記複数の吸着材のそれぞれの温度変化とが対応付けられたデータである、請求項1に記載のガスの分析方法。
【請求項4】
前記複数の吸着材のそれぞれを加熱することは、ヒータによって行われる、請求項3に記載のガスの分析方法。
【請求項5】
前記複数の吸着材のそれぞれから脱離した前記試料ガスを検出する検出器が前記複数の吸着材に共用されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のガスの分析方法。
【請求項6】
前記複数の吸着材が第1吸着材及び第2吸着材を含み、
前記複数の吸着材において、前記第1吸着材の次に前記試料ガスを脱離させるべき吸着材が前記第2吸着材であり、
第1の期間において前記第1吸着材から脱離した前記試料ガスが前記検出器に導入され、第2の期間において前記第2吸着材から脱離した前記試料ガスが前記検出器に導入され、
前記第1の期間と前記第2の期間とが互いにずれている、請求項5に記載のガスの分析方法。
【請求項7】
前記試料ガスを識別することには、前記試料ガスに含まれた成分を特定することが含まれる、請求項1~
6のいずれか1項に記載のガスの分析方法。
【請求項8】
互いに異なる組成を有する複数の吸着材と、
前記複数の吸着材を個別に収容している複数の収容部と、
分析されるべき試料ガスを前記複数の収容部のそれぞれに導く複数のガス導入流路と、
前記複数の吸着材のそれぞれから脱離した前記試料ガスを検出する検出器と、
前記複数の収容部と前記検出器とを接続している複数の脱離ガス流路と、
前記検出器から検出信号を取得して、前記複数の吸着材のそれぞれに固有の前記試料ガスの脱離プロファイルを生成するとともに、前記脱離プロファイルの群
に対して主成分分析を行って前記試料ガスを識別する識別器と、
を備える、ガスの分析装置。
【請求項9】
前記複数の収容部のそれぞれに配置され、前記複数の吸着材を加熱して前記複数の吸着材のそれぞれから前記試料ガスを脱離させる複数のヒータをさらに備え、
前記複数のヒータは、個別に通電可能である、請求項
8に記載のガスの分析装置。
【請求項10】
前記複数のヒータへの電力供給を制御する制御器をさらに備え、
前記複数の吸着材が第1吸着材及び第2吸着材を含み、
前記複数のヒータは、前記第1吸着材を加熱する第1ヒータと、前記第2吸着材を加熱する第2ヒータとを含み、
前記複数の吸着材において、前記第1吸着材の次に前記試料ガスを脱離させるべき吸着材が前記第2吸着材であるとき、
第1の期間において前記第1吸着材から前記試料ガスが脱離して前記検出器に導入され、第2の期間において前記第2吸着材から前記試料ガスが脱離して前記検出器に導入されるように、前記制御器は、前記第1ヒータ及び前記第2ヒータへの電力供給を制御し、
前記第1の期間と前記第2の期間とが互いにずれている、請求項
9に記載のガスの分析装置。
【請求項11】
前記複数の吸着材のそれぞれは、無機酸化物を含む、請求項
8~
10のいずれか1項に記載のガスの分析装置。
【請求項12】
前記無機酸化物は、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化銅、酸化亜鉛及び酸化ニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項
11に記載のガスの分析装置。
【請求項13】
前記複数の吸着材のそれぞれは、無機酸化膜で被覆されたナノワイヤを含み、
前記無機酸化膜が前記無機酸化物でできている、請求項
11又は
12に記載のガスの分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスの分析方法及びガスの分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスの分析方法及びガスの分析装置は、様々な分野で利用される可能性がある。例えば、人の息又は人の体臭を分析することによって、人の状態を診断できる可能性がある。
【0003】
特許文献1には、ガスのにおいの識別装置が記載されている。識別装置は、応答特性が互いに異なる複数のガスセンサを備えている。サンプルを測定したとき、複数のガスセンサのそれぞれから信号ピークが得られる。識別装置は、得られた信号ピークに基づいて、サンプルの臭気強度及びにおいの質に関する値を算出する。
【0004】
特許文献2には、トラップと検出器とを備えた分析装置が記載されている。トラップは、吸着材を有する。特許文献3には、サンプルチャンバーとセンサー列とを備えた装置が記載されている。サンプルチャンバーは、吸収剤物質を有する。特許文献2又は3の装置を使用することによって、次のようにガスを検出することができる。ガスをトラップ又はサンプルチャンバーに供給する。ガスが、トラップの吸着材又はサンプルチャンバーの吸収剤物質に吸着される。吸着材又は吸収剤物質に吸着されたガスを脱離させる。吸着材又は吸収剤物質から脱離したガスは、検出器又はセンサー列に供給され、検出器又はセンサー列で検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-305088号公報
【文献】特開2001-296218号公報
【文献】特表2002-518668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
簡易な構成によってガスを分析するための技術が求められている。
【0007】
本開示は、簡易な構成によってガスを分析するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本開示は、
互いに異なる組成を有する複数の吸着材のそれぞれに試料ガスを吸着させることと、
前記複数の吸着材から前記試料ガスを個別に脱離させつつ、前記複数の吸着材のそれぞれから脱離した前記試料ガスを個別に検出することによって、前記複数の吸着材のそれぞれに固有の前記試料ガスの脱離プロファイルを取得することと、
前記脱離プロファイルの群を用いて前記試料ガスを識別することと、
を含む、ガスの分析方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の分析方法によれば、簡易な構成によってガスを分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態にかかる分析装置の平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す分析装置の複数の収容部のうちの1つの分解斜視図である。
【
図4】
図4は、第1の期間及び第2の期間を説明するための図である。
【
図5】
図5は、測定例1~7で用いた吸着材1の透過型電子顕微鏡画像である。
【
図6】
図6は、測定例1において得られた脱離プロファイルの群である。
【
図7】
図7は、測定例2において得られた脱離プロファイルの群である。
【
図8】
図8は、測定例3において得られた脱離プロファイルの群である。
【
図9】
図9は、測定例1~3において得られた複数の脱離プロファイルの群のそれぞれについて主成分分析を行った結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、測定例4において得られた脱離プロファイルの群である。
【
図11】
図11は、測定例5において得られた脱離プロファイルの群である。
【
図12】
図12は、測定例6において得られた脱離プロファイルの群である。
【
図13】
図13は、測定例7において得られた脱離プロファイルの群である。
【
図14】
図14は、測定例4~7において得られた複数の脱離プロファイルの群のそれぞれについて主成分分析を行った結果を示すグラフである。
【
図15】
図15は、測定例1~7において得られた複数の脱離プロファイルの群のそれぞれについて主成分分析を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の第1態様にかかるガスの分析方法は、
互いに異なる組成を有する複数の吸着材のそれぞれに試料ガスを吸着させることと、
前記複数の吸着材から前記試料ガスを個別に脱離させつつ、前記複数の吸着材のそれぞれから脱離した前記試料ガスを個別に検出することによって、前記複数の吸着材のそれぞれに固有の前記試料ガスの脱離プロファイルを取得することと、
前記脱離プロファイルの群を用いて前記試料ガスを識別することと、
を含むものである。
【0012】
第1態様によれば、複数の吸着材のそれぞれに固有の試料ガスの脱離プロファイルの群を用いて試料ガスを識別できる。そのため、用いられた検出器の数が少ない場合であっても、信頼性の高い分析結果が得られる。すなわち、簡易な構成によって、試料ガスを分析することができる。
【0013】
本開示の第2態様では、例えば、第1態様にかかるガスの分析方法において、前記脱離プロファイルを取得することは、前記複数の吸着材のそれぞれから脱離した前記試料ガスを個別かつ経時的に検出することによって行われ、前記脱離プロファイルは、前記試料ガスの量を反映した検出信号から作成された経時データである。第2態様によれば、脱離プロファイルの群を用いて試料ガスを容易に識別できる。
【0014】
本開示の第3態様では、例えば、第1態様にかかるガスの分析方法において、前記脱離プロファイルを取得することは、前記複数の吸着材のそれぞれを加熱することにより、前記複数の吸着材から前記試料ガスを個別に脱離させることによって行われ、前記脱離プロファイルは、前記試料ガスの量を反映した検出信号と、前記複数の吸着材のそれぞれの温度変化とが対応付けられたデータである。第3態様によれば、複数の吸着材のそれぞれを加熱することによって、複数の吸着材のそれぞれから試料ガスを容易に脱離させることができる。さらに、脱離プロファイルの群を用いて試料ガスを容易に識別できる。
【0015】
本開示の第4態様では、例えば、第3態様にかかるガスの分析方法において、前記複数の吸着材のそれぞれを加熱することは、ヒータによって行われる。第4態様によれば、複数の吸着材のそれぞれから試料ガスを容易に脱離させることができる。
【0016】
本開示の第5態様では、例えば、第1~第4態様のいずれか1つにかかるガスの分析方法において、前記複数の吸着材のそれぞれから脱離した前記試料ガスを検出する検出器が前記複数の吸着材に共用されている。第5態様によれば、簡易な構成によって、試料ガスを分析することができる。
【0017】
本開示の第6態様では、例えば、第5態様にかかるガスの分析方法において、前記複数の吸着材が第1吸着材及び第2吸着材を含み、前記複数の吸着材において、前記第1吸着材の次に前記試料ガスを脱離させるべき吸着材が前記第2吸着材であり、第1の期間において前記第1吸着材から脱離した前記試料ガスが前記検出器に導入され、第2の期間において前記第2吸着材から脱離した前記試料ガスが前記検出器に導入され、前記第1の期間と前記第2の期間とが互いにずれている。第6態様によれば、第1の期間と第2の期間とが互いにずれている。そのため、検出器は、第1吸着材及び第2吸着材のそれぞれから脱離した試料ガスを個別に検出できる。すなわち、1つの検出器を用いた場合であっても、脱離プロファイルの群を取得できる。これにより、簡易な構成によって、試料ガスを分析することができる。
【0018】
本開示の第7態様では、例えば、第1~第6態様のいずれか1つにかかるガスの分析方法において、前記試料ガスを識別することには、前記脱離プロファイルの群に対して主成分分析を行うことが含まれる。第7態様によれば、試料ガスを容易に識別できる。
【0019】
本開示の第8態様では、例えば、第1~第7態様のいずれか1つにかかるガスの分析方法において、前記試料ガスを識別することには、前記試料ガスに含まれた成分を特定することが含まれる。第8態様によれば、簡易な構成によって、試料ガスを分析することができる。
【0020】
本開示の第9態様にかかるガスの分析装置は、
互いに異なる組成を有する複数の吸着材と、
前記複数の吸着材を個別に収容している複数の収容部と、
分析されるべき試料ガスを前記複数の収容部のそれぞれに導く複数のガス導入流路と、
前記複数の吸着材のそれぞれから脱離した前記試料ガスを検出する検出器と、
前記複数の収容部と前記検出器とを接続している複数の脱離ガス流路と、
前記検出器から検出信号を取得して、前記複数の吸着材のそれぞれに固有の前記試料ガスの脱離プロファイルを生成するとともに、前記脱離プロファイルの群を用いて前記試料ガスを識別する識別器と、
を備えるものである。
【0021】
第9態様によれば、複数の吸着材のそれぞれに固有の試料ガスの脱離プロファイルの群を用いて試料ガスを識別できる。そのため、用いられた検出器の数が少ない場合であっても、信頼性の高い分析結果が得られる。すなわち、簡易な構成によって、試料ガスを分析することができる。
【0022】
本開示の第10態様において、例えば、第9態様にかかるガスの分析装置は、前記複数の収容部のそれぞれに配置され、前記複数の吸着材を加熱して前記複数の吸着材のそれぞれから前記試料ガスを脱離させる複数のヒータをさらに備え、前記複数のヒータは、個別に通電可能である。第10態様によれば、複数の吸着材のそれぞれから試料ガスを容易に脱離させることができる。
【0023】
本開示の第11態様において、例えば、第10態様にかかるガスの分析装置は、前記複数のヒータへの電力供給を制御する制御器をさらに備え、前記複数の吸着材が第1吸着材及び第2吸着材を含み、前記複数のヒータは、前記第1吸着材を加熱する第1ヒータと、前記第2吸着材を加熱する第2ヒータとを含み、前記複数の吸着材において、前記第1吸着材の次に前記試料ガスを脱離させるべき吸着材が前記第2吸着材であるとき、第1の期間において前記第1吸着材から前記試料ガスが脱離して前記検出器に導入され、第2の期間において前記第2吸着材から前記試料ガスが脱離して前記検出器に導入されるように、前記制御器は、前記第1ヒータ及び前記第2ヒータへの電力供給を制御し、前記第1の期間と前記第2の期間とが互いにずれている。第11態様によれば、第1の期間と第2の期間とが互いにずれている。そのため、検出器は、第1吸着材及び第2吸着材のそれぞれから脱離した試料ガスを個別に検出できる。すなわち、1つの検出器を用いた場合であっても、脱離プロファイルの群を取得できる。これにより、簡易な構成によって、試料ガスを分析することができる。
【0024】
本開示の第12態様において、例えば、第9~第11態様のいずれか1つにかかるガスの分析装置では、前記複数の吸着材のそれぞれは、無機酸化物を含む。第12態様によれば、複数の吸着材のそれぞれは、熱に対する安定性を有する。そのため、複数の吸着材のそれぞれを繰り返して使用することができる。
【0025】
本開示の第13態様において、例えば、第12態様にかかるガスの分析装置では、前記無機酸化物は、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化銅、酸化亜鉛及び酸化ニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。第13態様によれば、複数の吸着材のそれぞれを繰り返して使用することができる。
【0026】
本開示の第14態様において、例えば、第12又は第13態様にかかるガスの分析装置では、前記複数の吸着材のそれぞれは、無機酸化膜で被覆されたナノワイヤを含み、前記無機酸化膜が前記無機酸化物でできている。第14態様によれば、複数の吸着材のそれぞれは、大きい表面積を有する。そのため、複数の吸着材のそれぞれは、十分な量の試料ガスを容易に吸着することができる。
【0027】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0028】
図1に示すように、本開示の一実施形態にかかるガスの分析装置100は、基板10及びカバー11を備えている。基板10及びカバー11のそれぞれは、例えば、平面視で矩形の形状を有する。基板10は、互いに向かい合う1対の端面を2組有する。基板10には、複数の凹部が形成されている。複数の凹部は、分析装置100の内部において、試料ガスの流路を形成する。試料ガスの流路は、複数の収容部20、複数のガス導入流路30及び複数の脱離ガス流路40を含む。基板10の複数の凹部に蓋をする形にて、基板10にカバー11が組み合わされている。カバー11には、開口部12が形成されている。開口部12を通じて、試料ガスが分析装置100の内部に供給される。開口部12は、例えば、平面視で円の形状を有する。
【0029】
複数の収容部20のそれぞれは、平面視で直線の形状を有する。複数の収容部20は、互いに平行に配列されている。複数の収容部20の数は、特に限定されない。複数の収容部20の数は、2~64の範囲であってもよく、2~32の範囲にあってもよい。分析されるべき試料ガスによっては、収容部20は、1つのみであってもよい。
【0030】
複数の収容部20は、複数の吸着材を個別に収容している。複数の吸着材は、互いに異なる組成を有する。複数の吸着材のそれぞれに試料ガスを接触させたとき、複数の吸着材のそれぞれは試料ガスを吸着する。複数の吸着材から試料ガスを個別に脱離させつつ、複数の吸着材のそれぞれから脱離した試料ガスを個別に検出することによって、複数の吸着材のそれぞれに固有の試料ガスの脱離プロファイルを取得することができる。複数の吸着材の種類の数は、典型的には、複数の収容部20の数と同じである。複数の吸着材は、n種類の吸着材を含む。nは、2以上の整数である。nは、2~64の範囲にあってもよく、2~32の範囲にあってもよい。分析されるべき試料ガスによっては、吸着材は、1種類のみであってもよい。
【0031】
複数のガス導入流路30は、それぞれ、開口部12と複数の収容部20のガス入口とを接続している。複数のガス導入流路30は、分析されるべき試料ガスを複数の収容部20のそれぞれに導くための流路である。複数のガス導入流路30の数は、典型的には、複数の収容部20の数と同じである。
【0032】
分析装置100は、さらに、検出器50を備えている。検出器50は、複数の吸着材のそれぞれから脱離した試料ガスを検出することができる。
図1では、検出器50は、基板10の凹部に配置されている。本実施形態において、分析装置100は、1つの検出器50を備えている。すなわち、検出器50が複数の吸着材に共用されている。ただし、分析装置100は、検出器50を2つ以上備えていてもよい。複数の検出器50の数は、複数の収容部20の数と同じであってもよい。
【0033】
検出器50は、試料ガスを検出できるものであれば特に限定されない。検出器50は、例えば、ガスセンサである。ガスセンサとしては、例えば、半導体式ガスセンサ又は赤外線式ガスセンサが挙げられる。検出器50は、複数のガスセンサの集合体であってもよい。詳細には、検出器50は、16個のガスセンサの集合体であってもよい。検出器50は、ガスクロマトグラフ質量分析計、赤外分光光度計などであってもよい。
【0034】
複数の脱離ガス流路40は、それぞれ、複数の収容部20のガス出口と検出器50のガス入口とを接続している。複数の脱離ガス流路40は、複数の収容部20のそれぞれから検出器50に試料ガスを導くための流路である。分析装置100が複数の検出器50を備えているとき、複数の脱離ガス流路40は、複数の収容部20と複数の検出器50とをそれぞれ接続していてもよい。検出器50が複数のガスセンサの集合体であるとき、複数の脱離ガス流路40は、複数の収容部20と複数のガスセンサとをそれぞれ接続していてもよい。複数の脱離ガス流路40の数は、典型的には、複数の収容部20の数と同じである。
【0035】
分析装置100は、さらに、複数のヒータを備えている。複数のヒータは、複数の収容部20のそれぞれに配置されている。複数のヒータは、それぞれ、複数の吸着材を加熱することができる。複数の吸着材のそれぞれが複数のヒータによって加熱されたとき、複数の吸着材のそれぞれから試料ガスが脱離する。複数のヒータのそれぞれは、電源回路に接続されている。電源回路によって、複数のヒータに個別に通電することができる。そのため、複数の吸着材から試料ガスを個別に脱離させることができる。
【0036】
図2に示すように、ヒータ60は、収容部20を規定している基板10の上に配置されている。ヒータ60の下面は、基板10に接している。ヒータ60の上には、吸着材70が配置されている。ヒータ60の上面は、吸着材70に接している。ヒータ60は、カバー11に取り付けられていてもよい。
【0037】
ヒータ60は、例えば、マイクロヒータである。マイクロヒータは、例えば、白金でできている。ヒータ60がマイクロヒータであるとき、分析装置100の消費電力を低減できる。ただし、ヒータ60は、赤外線ヒータ、抵抗加熱方式のヒータ、誘導加熱方式のヒータなどであってもよい。
【0038】
分析装置100は、さらに、制御器80を備えている。制御器80は、例えば、A/D変換回路、入出力回路、演算回路、記憶装置などを含むDSP(Digital Signal Processor)である。制御器80には、分析装置100を適切に運転するためのプログラムが格納されている。制御器80は、複数のヒータ60への電力供給を制御する。具体的には、制御器80は、各ヒータ60に接続されたスイッチのオンオフを制御する。制御器80によれば、各ヒータ60に個別に電力を供給できる。
【0039】
制御器80は、さらに、識別器として機能する。制御器80には、試料ガスを識別するためのプログラムが格納されている。検出器50は、制御器80に接続されている。制御器80は、検出器50から出力された検出信号を取得する。取得した検出信号に基づき、制御器80は、複数の吸着材70のそれぞれに固有の試料の脱離プロファイルを生成する。制御器80は、脱離プロファイルの群を用いて試料ガスを識別する。
【0040】
分析装置100は、さらに、電源回路90を備えている。電源回路90は、各ヒータ60に電力を供給するための回路である。電源回路90は、各ヒータ60に接続されている。電源回路90には、各ヒータ60をオンオフするためのスイッチが含まれる。
【0041】
分析装置100は、さらに、制御器80に対して指令を与えるための入力機器を備える。入力機器としては、マウス、キーボード、タッチパッド、タッチパネルなどが挙げられる。分析装置100は、さらに、制御器80で作成された画像、分析結果などの情報を出力するための出力機器を含む。出力機器としては、モニタ(ディスプレイ)、タッチパネル、プリンタなどが挙げられる。
【0042】
基板10及びカバー11のそれぞれの材料は、特に限定されない。基板10及びカバー11のそれぞれは、例えば、シリコン基板、金属板、ガラス板又は高分子フィルムである。
【0043】
複数の吸着材70のそれぞれの材料は、試料ガスを吸着することができる限り、特に限定されない。複数の吸着材70のそれぞれの材料は、例えば、無機酸化物、有機材料及び炭素材料からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。複数の吸着材70のそれぞれは、典型的には、無機酸化物を含む。複数の吸着材70のそれぞれが無機酸化物を含むとき、複数の吸着材70のそれぞれは、熱に対する安定性を有する。そのため、複数の吸着材70のそれぞれを繰り返して使用することができる。
【0044】
無機酸化物は、例えば、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化銅、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、酸化マンガン、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素及び酸化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。無機酸化物は、典型的には、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化銅、酸化亜鉛及び酸化ニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。
【0045】
有機材料は、例えば、ポリアルキレングリコール類、ポリエステル類、シリコーン類、グリセロール類、ニトリル類、ジカルボン酸類及び脂肪族アミン類からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。有機材料は、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール及びポリアセチレンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。炭素材料は、例えば、活性炭を含む。
【0046】
複数の吸着材70のそれぞれの形状は、特に限定されない。複数の吸着材70のそれぞれは、例えば、粒子の形状又は繊維の形状を有する。複数の吸着材70のそれぞれは、膜の形状を有していてもよい。複数の吸着材70のそれぞれは、無機酸化物でできた無機酸化膜であってもよい。無機酸化物としては、上述したものを使用できる。
【0047】
図3に示すように、複数の吸着材70のそれぞれは、無機酸化膜72で被覆されたナノワイヤ71を含んでいてもよい。
図3は、ナノワイヤ71の断面を示している。
図3において、吸着材70は、無機酸化膜72で被覆されたナノワイヤ71で構成されている。無機酸化膜72は、無機酸化物でできている。ナノワイヤ71は、ヒータ60からカバー11に向かって延びている。無機酸化膜72は、ナノワイヤ71の表面全体を被覆している。無機酸化膜72は、ナノワイヤ71の表面を部分的に被覆しているだけでもよい。ナノワイヤ71を被覆することによって、無機酸化膜72の表面積が増加する。これにより、吸着材70は大きい表面積を有する。そのため、吸着材70は、十分な量の試料ガスを容易に吸着することができる。ナノワイヤ71が試料ガスを吸着できる材料でできているとき、ナノワイヤ71は、無機酸化膜72で被覆されていなくてもよい。
【0048】
ナノワイヤ71は、例えば、無機酸化物及び金属材料からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。無機酸化物としては、上述したものを使用できる。金属材料は、例えば、銀、金及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。ナノワイヤ71の材料は、無機酸化膜72の材料と異なる。ナノワイヤ71は、典型的には、酸化亜鉛を含む。
【0049】
ナノワイヤ71の平均直径は、10~1000nmの範囲にあってもよい。ナノワイヤ71の平均長さは、1~150μmの範囲にあってもよい。「平均直径」は、次の方法で測定することができる。吸着材70の表面又は断面を電子顕微鏡(例えば透過型電子顕微鏡)で観察する。観察された複数のナノワイヤ71(例えば任意の50個のナノワイヤ71)の直径を測定する。得られた測定値を用いて算出された平均値により、平均直径が定められる。「平均長さ」は、次の方法で測定することができる。ナノワイヤ71が延びている方向に沿った吸着材70の断面を電子顕微鏡で観察する。電子顕微鏡で観察された特定のナノワイヤ71の面積を当該ナノワイヤ71の直径で除することによって、ナノワイヤ71の長さを算出する。同様に、任意の数のナノワイヤ71(例えば50個)の長さを算出する。得られた算出値を用いて算出された平均値により、平均長さが定められる。
【0050】
ナノワイヤ71が無機酸化膜72によって被覆されていることは、吸着材70の表面又は断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することによって確認できる。ナノワイヤ71が無機酸化膜72によって被覆されていることは、吸着材70の表面又は断面について元素分析を行うことによっても確認できる。元素分析は、例えば、エネルギー分散型X線分析(EDS)により行うことができる。
【0051】
ナノワイヤ71を作製する方法は、特に限定されない。ナノワイヤ71を作製する方法としては、液相成長法、気相成長法などが挙げられる。ナノワイヤ71の具体的な作製方法は、例えば、特表2009-505358号公報、特開2006-233252号公報、特開2002-266007号公報、特開2004-149871号公報、Adv. Mater.2002,14,P833-837、Chem. Mater.2002,14,P4736-4745又はMaterials Chemistry and Physics 2009,vol.114,p333-338に記載されている。
図3では、ナノワイヤ71をヒータ60の上に作製している。
【0052】
ナノワイヤ71を無機酸化膜72で被覆する方法は、特に限定されない。例えば、ナノワイヤ71に無機酸化物を堆積させることによって、ナノワイヤ71を無機酸化膜72で被覆することができる。無機酸化物を堆積する方法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、化学蒸着法、化学気相法などが挙げられる。
【0053】
本実施形態において、試料ガスは、例えば、揮発性の有機化合物を含む。揮発性の有機化合物は、例えば、ケトン類、アミン類、アルコール類、炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルデヒド類及びエステル類からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。揮発性の有機化合物は、例えば、プロパン、ブタン、トルエン、キシレン、エタノール、2-プロパノール、1-ノナノール、アセトン、酢酸エチル、ホルムアルデヒド、ヘキサナール、ノナナール、ベンズアルデヒド、ピロール及び塩化メチルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。
【0054】
次に、分析装置100を用いたガスの分析方法を説明する。
【0055】
まず、互いに異なる組成を有する複数の吸着材70のそれぞれに試料ガスを吸着させる。詳細には、分析されるべき試料ガスが含まれた雰囲気下に分析装置100を置く。試料ガスは、カバー11の開口部12から分析装置100の内部に供給される。試料ガスは、複数のガス導入流路30のそれぞれを移動し、複数の収容部20のそれぞれのガス入口に導入される。複数の収容部20のそれぞれにおいて、試料ガスが複数の吸着材70のそれぞれに接触する。これにより、複数の吸着材70のそれぞれが試料ガスを吸着する。
【0056】
次に、複数の吸着材70から試料ガスを個別に脱離させる。本実施形態では、複数の吸着材70は、n種類の吸着材を含む。そのため、n種類の吸着材について順番に試料ガスを脱離させる。例えば、n種類の吸着材から選ばれる任意の2つの吸着材を第1吸着材及び第2吸着材と定義する。第1吸着材の次に試料ガスを脱離させるべき吸着材が第2吸着材である。
図4に示すように、第1の期間Xにおいて第1吸着材から脱離した試料ガスが検出器50に導入される。検出器50は、例えば、第1吸着材から脱離した試料ガスを経時的に検出する。これにより、第1吸着材に固有の試料ガスの脱離プロファイルが得られる。
図4のグラフの横軸は、測定時間を示している。
図4のグラフの縦軸は、検出信号の強度を示している。第2の期間Yにおいて第2吸着材から脱離した試料ガスが検出器50に導入される。検出器50は、例えば、第2吸着材から脱離した試料ガスを経時的に検出する。これにより、第2吸着材に固有の試料ガスの脱離プロファイルが得られる。このとき、第1の期間Xと第2の期間Yとは互いにずれている(重複していない)。第1の期間Xと第2の期間Yとの間に準備期間Zが存在してもよい。第1の期間Xと第2の期間Yとが互いにずれているため、検出器50は、第1吸着材及び第2吸着材のそれぞれから脱離した試料ガスを個別に検出できる。すなわち、1つの検出器50によって、2つの脱離プロファイルを取得できる。ただし、分析装置100が複数の検出器を備え、かつ、第1吸着材から脱離した試料ガスと第2吸着材から脱離した試料ガスとが互いに異なる検出器によって検出されるとき、第1の期間Xは、第2の期間Yと重複していてもよい。
【0057】
試料ガスを脱離させる方法は、特に限定されない。複数の吸着材70のそれぞれを加熱することによって、試料ガスを脱離させてもよい。このとき、複数の吸着材70のそれぞれから試料ガスを容易に脱離させることができる。複数の吸着材70のそれぞれの加熱は、例えば、複数のヒータ60によって行うことができる。制御器80が各ヒータ60への電力供給を制御することによって、複数の吸着材70から試料ガスを個別に脱離させることができる。例えば、第1吸着材を加熱するヒータ60を第1ヒータと定義する。第2吸着材を加熱するヒータ60を第2ヒータと定義する。制御器80は、第1の期間Xにおいて、第1ヒータに電力を供給する。第1ヒータの温度が上昇し、第1吸着材が加熱される。これにより、第1の期間Xにおいて第1吸着材から試料ガスが脱離して検出器50に導入される。制御器80は、第2の期間Yにおいて、第2ヒータに電力を供給する。第2ヒータの温度が上昇し、第2吸着材が加熱される。これにより、第2の期間Yにおいて第2吸着材から試料ガスが脱離して検出器50に導入される。制御器80は、第1ヒータ及び第2ヒータのそれぞれの温度を一定の速度で昇温させてもよい。このとき、第1吸着材に固有の試料ガスの脱離プロファイルと、第2吸着材に固有の試料ガスの脱離プロファイルとの相違が明確になる。
【0058】
脱離プロファイルは、検出器50から出力された検出信号に基づき、制御器80によって生成される。脱離プロファイルは、例えば、試料ガスの量を反映した検出信号から作成された経時データである。経時データは、検出信号の強度と測定時間とを対応付けることによって得られる。脱離プロファイルは、検出信号の強度と複数の吸着材70のそれぞれの温度変化とが対応付けられたデータであってもよい。すなわち、脱離プロファイルは、複数の吸着材70から選ばれる1つの吸着材70の温度変化を横軸に示し、その吸着材から脱離した試料ガスに基づく検出信号の強度を縦軸に示したグラフによって表されてもよい。制御器80によって、脱離プロファイルの画像が作成される。制御器80は、吸着材70と脱離プロファイルとを対応付けて内部メモリに記憶させる。分析装置100では、複数の吸着材70は、互いに異なる組成を有する。そのため、複数の吸着材70のそれぞれについて得られた脱離プロファイルが互いに異なる。
【0059】
次に、得られた脱離プロファイルの群を用いて試料ガスを識別する。試料ガスを識別する方法は、特に限定されない。例えば、脱離プロファイルの群に対してデータマイニングを行うことによって、試料ガスを識別することができる。データマイニングとは、大量のデータから有用な情報、又は、データ間の関連性を見出すための分析方法を意味する。データマイニングは、例えば、主成分分析及び判別分析からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。判別分析は、例えば、クラスタ解析、機械学習、遺伝的アルゴリズム及びk-means法からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。機械学習は、例えば、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン及び自己組織化マップからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。
【0060】
データマイニングによれば、複数の吸着材70のそれぞれについて得られた脱離プロファイル同士の一致点及び相違点に基づいて、試料ガスを識別できる。例えば、脱離プロファイルの群について主成分分析を行うことによって、固有値が得られる。固有値は、例えば、2又は3の合成変数によって構成される。固有値は、複数の脱離プロファイル同士の一致点及び相違点に応じて一定の範囲に定まる。言い換えると、固有値は、試料ガスに含まれた成分の種類及び成分の濃度に応じて一定の範囲に定まる。すなわち、固有値は、試料ガスに応じて一定の範囲に定まる。固有値と試料ガスとを対応させたデータに照らし合わせて、試料ガスを識別できる。固有値と試料ガスとを対応させたデータは、既知の組成を有する試料ガスについて本実施形態の分析方法を行うことによって得られる。上記のデータは、制御器80のメモリに予め記憶されていてもよい。上記の固有値によれば、例えば、試料ガスの臭気強度及びにおいの質に関する評価を行うこともできる。
【0061】
脱離プロファイルの群について判別分析を行えば、試料ガスに含まれた成分を特定することができる。試料ガスに含まれた成分の特定は、例えば、機械学習によって行うことができる。判別分析によれば、試料ガスに特定成分が含まれているか否かを判断することもできる。
【0062】
試料ガスに含まれた成分によっては、データマイニングを行わずに、脱離プロファイルの群から試料ガスに含まれた成分を直接的に特定できることがある。例えば、試料ガスが成分Pを含むと仮定する。成分Pと第2吸着材との相互作用は、成分Pと第1吸着材との相互作用よりも大きい。このとき、
図4に示すように、第1吸着材から得られた試料ガスの脱離プロファイルによって規定されたピークの形状は、第2吸着材から得られた試料ガスの脱離プロファイルによって規定されたピークの形状と大きく異なることがある。詳細には、第1吸着材及び第2吸着材のそれぞれから得られた脱離プロファイルにおいて、成分Pに起因するピークの位置が時間軸方向に互いに大きくずれることがある。この結果から、試料ガスに成分Pが含まれることを特定することができる。
図4において、第1吸着材から得られた脱離プロファイルは、第1の期間Xに位置する。第2吸着材から得られた脱離プロファイルは、第2の期間Yに位置する。
【0063】
なお、分析装置100が出力機器としてモニタ(ディスプレイ)を備えているとき、脱離プロファイルの画像をモニタに表示させることができる。本実施形態の分析方法によって得られた試料ガスの評価結果をモニタに表示させることもできる。分析装置100が出力機器としてプリンタを備えているとき、モニタへの表示に代えて、又は、モニタへの表示とともに脱離プロファイルなどをプリンタに印字出力させることができる。
【0064】
以上のとおり、本実施形態の分析方法は、用いられた検出器の数が少ない場合であっても、信頼性の高い分析結果が得られる。すなわち、簡易な構成によって、試料ガスを分析することができる。
【実施例】
【0065】
本開示を実施例に基づき、具体的に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0066】
(吸着材の作製)
まず、7つの平板を用意した。平板は、酸化膜を有するシリコンウェハであった。ウェハの直径は、4インチであった。酸化膜の厚さは、300Åであった。複数の平板のそれぞれの表面に、酸化亜鉛でできたナノワイヤを作製した。ナノワイヤは、水熱合成法により作製した。詳細には、以下の方法により、ナノワイヤを作製した。まず、1Lのイオン交換水に、25mmolのヘキサメチレンテトラミンを溶解させることによって、水溶液を調製した。次に、得られた水溶液に、25mmolの硝酸亜鉛・六水和物を添加した。次に、得られた水溶液に、ポリエチレンイミン水溶液を添加した。ポリエチレンイミン水溶液は、50wt%の濃度を有していた。添加されたポリエチレンイミン水溶液には、2.5mmolのポリエチレンイミンが含まれていた。ポリエチレンイミンの平均分子量は、1800であった。全ての試薬が溶解するまで水溶液を撹拌することによって、反応液を調製した。次に、平板をガラス容器に配置した。このとき、平板の主面は、ガラス容器の底面に対して垂直であった。次に、平板の全体が反応液に接触するように、ガラス容器内に反応液を加えた。ガラス容器を恒温槽に配置した。恒温槽の温度は、95℃であった。ガラス容器を恒温槽に配置した時点から12時間後に、ガラス容器から反応液を取り出した。その後、ガラス容器に新たな反応液を加え、再度、ガラス容器を恒温槽に配置した。50μmの平均長さを有するナノワイヤが平板の主面に形成されるまで、ガラス容器内の反応液を交換することと、ガラス容器を恒温槽に配置することとを繰り返した。以上の方法により、ナノワイヤを作製した。得られたナノワイヤの平均直径は、400nmであった。ナノワイヤの平均長さは、50μmであった。
【0067】
次に、複数の平板のそれぞれについて、互いに異なる組成を有する無機酸化物を堆積させた。無機酸化物の堆積には、高周波(RF)スパッタ装置を用いた。無機酸化物の堆積は、ナノワイヤを有さない平板を用いた場合に、200nmの厚さを有する無機酸化膜が平板の主面に形成される条件にて行った。これにより、ナノワイヤが無機酸化膜によって被覆された。このようにして、吸着材1~7が得られた。吸着材1は、酸化タングステンで被覆されたナノワイヤを含んでいた。吸着材2は、酸化タンタルで被覆されたナノワイヤを含んでいた。吸着材3は、酸化チタンで被覆されたナノワイヤを含んでいた。吸着材4は、酸化スズで被覆されたナノワイヤを含んでいた。吸着材5は、酸化銅で被覆されたナノワイヤを含んでいた。吸着材6は、酸化亜鉛で被覆されたナノワイヤを含んでいた。吸着材7は、酸化ニッケルで被覆されたナノワイヤを含んでいた。
【0068】
図5は、吸着材1に含まれた1本のナノワイヤの表面の透過型電子顕微鏡画像である。
図5に示すように、ナノワイヤが無機酸化膜(酸化タングステン)で被覆されていた。無機酸化膜の厚さは、10nmであった。無機酸化膜は、ナノワイヤの先端から10μmの範囲のナノワイヤの表面を被覆していた。
【0069】
(測定例1)
密閉可能な容器に液体のピロールを2μL加えた。その後、吸着材1を容器にさらに加えた。吸着材1は、液体のピロールと直接接触しないように配置した。容器を密閉し、室温下で1分間放置した。液体のピロールは、一部が揮発することによって気体に変化した。吸着材1は、気体のピロールを吸着した。同じ方法によって、吸着材2~7に気体のピロールを吸着させた。
【0070】
次に、ガスクロマトグラフ質量分析計の注入口に吸着材1をセットした。注入口には、島津製作所製のOPTIC-4を用いた。注入口内の温度を1℃/分の速度で35℃から300℃まで昇温した。吸着材1から脱離したピロールをガスクロマトグラフ質量分析計によって経時的に検出した。これにより、吸着材1について、ピロールの脱離プロファイルが得られた。同じ方法によって、吸着材2~7のそれぞれについて、ピロールの脱離プロファイルを得た。
【0071】
図6のグラフは、吸着材1~7のそれぞれについて得られたピロールの脱離プロファイルの群を示している。グラフの横軸は、測定時間を示している。グラフの縦軸は、検出信号の強度を示している。検出信号は、ピロールの量を反映している。
図6では、吸着材1~7のそれぞれについて得られた脱離プロファイルを縦軸に沿って重ねて表示している。
図6に示すように、試料ガスの成分が同じであっても、吸着材の組成に応じて脱離プロファイルが異なる。例えば、脱離プロファイルによって規定されたピークの形状、ピークの位置などが吸着材の組成に応じて異なる。
【0072】
次に、脱離プロファイルの群に対して主成分分析を行った。まず、得られた脱離プロファイルのそれぞれについて、検出信号の強度(縦軸)をそろえた。その後、時間軸(横軸)に沿って脱離プロファイルを並べることによって、複数の脱離プロファイルが連続する1つのデータを得た。得られたデータに対して主成分分析を行った。主成分分析には、R言語に含まれたprcomp関数を利用した。詳細には、相関係数行列によってデータを標準化した。これにより、第1主成分(PC1)、第2主成分(PC2)及び第3主成分(PC3)からなる固有値が得られた。
【0073】
吸着材1~7のそれぞれについて、再度、ピロールを吸着させ、脱離プロファイルの群を得る操作を2回繰り返した。これにより、脱離プロファイルの群が2つ得られた。2つの脱離プロファイルの群について主成分分析を行うことにより、2つの固有値が得られた。
図9に示すように、測定例1によって得られた3つの固有値は、いずれも範囲Aに含まれていた。
【0074】
(測定例2)
ピロールの代わりに液体のベンズアルデヒドを容器に加えたことを除き、測定例1と同じ方法によって、吸着材1~7のそれぞれについてベンズアルデヒドの脱離プロファイルを得た。
図7のグラフは、吸着材1~7のそれぞれについて得られたベンズアルデヒドの脱離プロファイルを示している。次に、脱離プロファイルの群に対して主成分分析を行うことによって、固有値が得られた。ベンズアルデヒドに関する固有値を得るための操作を2回繰り返した。
図9に示すように、測定例2によって得られた3つの固有値は、いずれも範囲Bに含まれていた。
【0075】
(測定例3)
ピロールの代わりに液体のノナナールを容器に加えたことを除き、測定例1と同じ方法によって、吸着材1~7のそれぞれについてノナナールの脱離プロファイルを得た。
図8のグラフは、吸着材1~7のそれぞれについて得られたノナナールの脱離プロファイルを示している。次に、脱離プロファイルの群に対して主成分分析を行うことによって、固有値が得られた。ノナナールに関する固有値を得るための操作を2回繰り返した。
図9に示すように、測定例3によって得られた3つの固有値は、いずれも範囲Cに含まれていた。
【0076】
図9に示すように、範囲A~Cは、互いに重ならない。そのため、本実施形態の分析方法によれば、固有値を用いて、未知の試料ガスを識別できる。例えば、未知の試料ガスについて固有値を取得する。未知の試料ガスがピロールであるとき、得られた固有値は範囲Aに含まれる。
【0077】
(測定例4)
ピロールの代わりにピロール、ベンズアルデヒド及びノナナールの混合液を容器に加えたことを除き、測定例1と同じ方法によって、吸着材1~7のそれぞれについて混合成分の脱離プロファイルを得た。混合液において、ピロール、ベンズアルデヒド及びノナナールの体積比は、1:1:1であった。得られた脱離プロファイルのそれぞれについて、検出信号の強度(縦軸)をそろえた。その後、時間軸(横軸)に沿って脱離プロファイルを並べることによって、複数の脱離プロファイルが連続する1つのデータを得た。次に、混合成分の脱離プロファイルの群を得るための操作を2回繰り返した。得られた脱離プロファイルの群ごとに、複数の脱離プロファイルが連続する1つのデータを得た。
図10のグラフは、得られた3つのデータを重ねて示している。グラフの横軸は、測定時間を示している。グラフの縦軸は、検出信号の強度を示している。
【0078】
3つの脱離プロファイルの群に対して主成分分析を行うことにより、3つの固有値が得られた。
図14に示すように、測定例4によって得られた3つの固有値は、いずれも範囲Dに含まれていた。
【0079】
(測定例5)
混合液として、ピロール及びベンズアルデヒドの混合液を容器に加えたことを除き、測定例4と同じ方法によって、吸着材1~7のそれぞれについて混合成分の脱離プロファイルを得た。混合液において、ピロール及びベンズアルデヒドの体積比は、1:1であった。得られた脱離プロファイルのそれぞれについて、検出信号の強度(縦軸)をそろえた。その後、時間軸(横軸)に沿って脱離プロファイルを並べることによって、複数の脱離プロファイルが連続する1つのデータを得た。次に、混合成分の脱離プロファイルの群を得るための操作を2回繰り返した。得られた脱離プロファイルの群ごとに、複数の脱離プロファイルが連続する1つのデータを得た。
図11のグラフは、得られた3つのデータを重ねて示している。3つの脱離プロファイルの群に対して主成分分析を行うことにより、3つの固有値が得られた。
図14に示すように、測定例5によって得られた3つの固有値は、いずれも範囲Eに含まれていた。
【0080】
(測定例6)
混合液として、ピロール及びノナナールの混合液を容器に加えたことを除き、測定例4と同じ方法によって、吸着材1~7のそれぞれについて混合成分の脱離プロファイルを得た。混合液において、ピロール及びノナナールの体積比は、1:1であった。得られた脱離プロファイルのそれぞれについて、検出信号の強度(縦軸)をそろえた。その後、時間軸(横軸)に沿って脱離プロファイルを並べることによって、複数の脱離プロファイルが連続する1つのデータを得た。次に、混合成分の脱離プロファイルの群を得るための操作を2回繰り返した。得られた脱離プロファイルの群ごとに、複数の脱離プロファイルが連続する1つのデータを得た。
図12のグラフは、得られた3つのデータを重ねて示している。3つの脱離プロファイルの群に対して主成分分析を行うことにより、3つの固有値が得られた。
図14に示すように、測定例6によって得られた3つの固有値は、いずれも範囲Fに含まれていた。
【0081】
(測定例7)
混合液として、ベンズアルデヒド及びノナナールの混合液を容器に加えたことを除き、測定例4と同じ方法によって、吸着材1~7のそれぞれについて混合成分の脱離プロファイルを得た。混合液において、ベンズアルデヒド及びノナナールの体積比は、1:1であった。得られた脱離プロファイルのそれぞれについて、検出信号の強度(縦軸)をそろえた。その後、時間軸(横軸)に沿って脱離プロファイルを並べることによって、複数の脱離プロファイルが連続する1つのデータを得た。次に、混合成分の脱離プロファイルの群を得るための操作を2回繰り返した。得られた脱離プロファイルの群ごとに、複数の脱離プロファイルが連続する1つのデータを得た。
図13のグラフは、得られた3つのデータを重ねて示している。3つの脱離プロファイルの群に対して主成分分析を行うことにより、3つの固有値が得られた。
図14に示すように、測定例7によって得られた3つの固有値は、いずれも範囲Gに含まれていた。
【0082】
図14に示すように、範囲D~Gは、互いに重ならない。さらに、
図15に示すように、範囲A~Gは、互いに重ならない。このように、本実施形態の分析方法によれば、未知の試料ガスが複数の成分を含んでいても、固有値を用いて未知の試料ガスを識別できる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本明細書に開示された技術は、ガスの分析などに有用である。