(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】患者の頭部に配置されて当該患者の脳の皮質組織の脈動を測定するためのトランスデューサを含むシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20220318BHJP
A61B 5/03 20060101ALI20220318BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
A61B5/11 100
A61B5/03
A61B10/00 H
(21)【出願番号】P 2019522645
(86)(22)【出願日】2017-11-01
(86)【国際出願番号】 US2017059583
(87)【国際公開番号】W WO2018085439
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-09-30
(32)【優先日】2016-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビーチ カーク ワトソン
(72)【発明者】
【氏名】大浦 光宏
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0359448(US,A1)
【文献】特開2006-000161(JP,A)
【文献】特表2015-519970(JP,A)
【文献】特開2002-010986(JP,A)
【文献】特表2008-534071(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0180046(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/0538
A61B 5/06-5/398
A61B 8/08
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の頭部に配置されて当該患者の脳の皮質組織の脈動を測定するためのトランスデューサと、
前記患者の頭蓋に加わる加速度を測定するための加速度計と、
を備えており、
前記皮質組織の脈動に基づいて前記脳を取り囲むクモ膜腔の厚さの脈動を検出し、前記加速度に基づいて前記脳の前記頭蓋に対する動きを検出し、当該厚さの脈動と当該動きに基づいて前記脳の膨張を検出する、
システム。
【請求項2】
各々が患者の頭部に配置されて当該患者の脳の皮質組織の脈動を測定するための複数のトランスデューサと、
ディスプレイと、
を備えており、
前記複数のトランスデューサにより検出された前記皮質組織の脈動に基づいて前記脳を取り囲むクモ膜腔の厚さの脈動
波形を
複数の部位で検出し、
当該複数の部位
における当該脈動波形の到達の遅延を検出し、当該
到達の遅延についての情報が前記ディスプレイを通じて提供される、
システム。
【請求項3】
前記脳の皮質組織の脈動を測定するためのトランデューサとは異なるトランスデューサを備えており、
当該トランスデューサは、加速度計、
頸動脈分岐血管音検査マイクロフォン、
耳光電脈波トランスデューサのいずれかである、
請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記検出された脳の膨張に基づいて、頭蓋内圧(ICP)、脳膨張、水頭症、スペースフィリング頭蓋内腫瘍、スペースフィリング血腫、または他の頭蓋内異常についての情報を提供するディスプレイを備えている、
請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
米国では、毎年170万人が頭部外傷を負い、27万5千人が頭部外傷のために入院し、100万人が水頭症を患い、50万人が脳腫瘍を患い、約100万人が他の理由のために脳浮腫を患う。これらの患者は全て、頭蓋内圧(ICP)の評価から利益を得る可能性があるが、標準の侵襲的測定法は、神経外科的穿孔術を必要とする。潜在的合併症は、感染(7.4%)と大量出血を含む。したがって、侵襲的ICP測定法は、最も危機的な症例でのみ行なわれる。
【0002】
侵襲的ICP測定法の大きい障害の一つは、そのような測定法が専門的な神経外科施設でしか行なわれないことである。神経外科施設から遠く離れた多数の救命救急施設と急患診療施設では、ICPが高くなる頭蓋内の脳腫脹または膨張質量の評価から恩恵を受ける事例がある。本開示に係る非侵襲的方法は、患者のトリアージおよび管理を最適化するために緊急測定と長期測定の双方に重要な情報を提供できる。
【0003】
米国では毎年、10万人が予期しない脳出血を患い、推定25万人が予期しない原発性アテローム塞栓性脳卒中を患い、推定25万人が予期しない原発性血栓塞栓性脳卒中を患う。アテローム塞栓性脳卒中は、そのような脳卒中を引き起こす破裂しやすいアテロームを識別し処置することによって防止されうる。代替の側副動脈路が動脈閉塞を補償するので、頚動脈内の深刻な流量減少狭窄は良性の可能性が高く、そのような解剖学的狭窄には非常に強い血流力はない。これと対照的に、減圧狭窄は、大脳末端器の領域に強制的な流れを提供する付帯的代替がなく、非常に強い力を受けて突発的噴出物およびアテローム塞栓性脳卒中をもたらす可能性が高い。
【0004】
ほとんどの出版物はアテローム斑に言及しているが、ここでは、プロセスをより正確に理解するために、「アテローム」という語が使用される。アテローム硬化性狭窄は、動脈壁の中間層内の単クローン性腫瘍によって引き起こされる。そのような腫瘍の成長は、拡散によって1.5mmの最大厚に制限され、これは、疫学研究に基づく一般に受け入れられる媒体の最大厚(IMT;内膜中膜厚)である。癌腫瘍と同様に、アテロームは、さらなる成長のためにホルモン性血管新生因子を分泌し始めることを要する。小動脈によって供給され、動脈外膜鞘から来る栄養血管から小静脈によって排出されるこの新生血管網の存在は、アテローム膨張および破裂のための液圧メカニズムを提供する。
【0005】
深刻な狭窄は、「圧力または流量の減少」を引き起こす場合に、しばしば「血行動態に影響を及ぼす」と言われる。しかしながら、圧力の減少は流量の減少と大きく異なる。流量減少は、末端器によって必要とされる強制的流量を供給する代替側副路がある場合のみ可能である。その場合、狭窄を通る流量は、近位から遠位までの圧力が極度に低下しない程度まで減少される。これと対照的に、減圧狭窄には、末端器に供給する代替側副路がなく、必要な流量を維持するために、末端器は血管を拡張して流れ抵抗を低下させ、狭窄前後の近位から遠位の圧力降下を引き起こす。狭窄の近位の120/80の「正常」収縮期・拡張期血圧は、狭窄の遠位の60/50まで低下されうる。流れエネルギーは、狭窄の遠位の非流線形領域内の乱れによって放散される。さらに、狭窄内の速度が毎秒3.5mを超える場合、狭窄内のベルヌーイおよびコアンダ圧力降下は、血液をアテロームの新生血管コアに流し込む働きをする。これは、しばしばプラーク内出血と称され、「不安定プラーク」の解剖学的マーカとみなされる。
【0006】
現在、頸動脈血管内膜切除術は、深刻な頚動脈狭窄と診断された全ての患者に推薦されている。その結果、1年あたりの頸動脈血管内膜切除術またはステントは、14万件になった。治療がなかった場合に脳卒中を患ったであろう患者は、これらの1/17だけである。すなわち、米国では、この方法により予防されている脳卒中の数は、毎年推定8400件のみである。現在、脳卒中を防ぐ動脈狭窄のスクリーニングは推奨されていない。研究と臨床のいずれにおいても、脆弱アテロームによって引き起こされる脳卒中を、良性アテロームによって引き起こされる脳卒中と区別できないからである。さらに、唯一の現在利用可能なスクリーニング方法は超音波頚動脈二重ドプラ検査であるが、この方法は高価である。本発明は、アテローム塞栓性脳卒中を引き起こす破裂を受けやすい狭窄のある患者だけを識別することを意図する。
【0007】
50歳以上の人々の約1/500にアテローム塞栓性脳卒中のリスクがある。そのような人々のためのスクリーニングプログラムが採算をとるためには、スクリーニングのコストが、血圧測定または診断心電図波形取得のコストに近くなければならない。
【0008】
究極の目標は、脳卒中を防ぐことである。最も実現が難しい目標は、原発性(最初の予期されない)脳卒中の防止である。これは、母集団のスクリーニングを必要とし、潜在的に最大リスクでの選択を必要とする。米国予防医学専門委員会(USPSTF)と英国国立医療技術評価機構(NICE)の双方によれば、スクリーニングは、現在のところ血栓塞栓性脳卒中、アテローム塞栓性脳卒中、または出血性脳卒中の防止には推薦されていないが、50歳を超える人々の腹部大動脈瘤(AAA)破裂の防止には推薦されている。
【0009】
【0010】
脳卒中の問題は、あらゆる点でAAAよりはるかに大きいが、現在のところ低コストで有効なスクリーニング検査はない。
【0011】
現在、脳卒中のリスクに関するスクリーニングは推奨されていない。現在の用途で、この推薦を行なうときに検討されるスクリーニング方法は、1)超音波二重ドプラ走査による頚動脈狭窄のスクリーニング、2)フレイミンガム研究ならびに、喫煙歴、コレステロールやトリグリセリドなどのリポタンパク質、年齢、糖尿病の履歴または診断、ダイエットおよび運動の評価などのその他の疫学的研究による推奨に従う心血管危険因子のスクリーニング、3)超音波Bモードイメージングを使用する頚動脈の厚さの「内膜中膜厚」(IMTまたは松果の二重線)の測定、4)心房粗動と心房細動のECGスクリーニング、および5)心臓からまたは「逆説的には」卵円孔開存(PFO)を介した静脈系からの塞栓を監視する経頭蓋超音波ドプラ法(TCD)の五つがある。
【0012】
これらの方法のどれにも、効果的スクリーニングプログラムの利益/コスト要件を満たす感度または特殊性がない。実行可能なスクリーニングプログラムは、総コストが目標条件コストより低いことを要し、総コストが削減されつつも目標事象の数が減少していることを要する。検討される各スクリーニング方法は、その規格に照らして試験される。
【0013】
1)深刻な頸動脈狭窄は、患者をアテローム塞栓性脳卒中のリスクにさらす。70%超の径減少狭窄を患う人の脳卒中のリスクは、5年間の追跡調査で約12%である。その狭窄が、動脈内膜切除術またはステント留置によって処理される場合、処置の併発症発生率は約1%、脳卒中の5年間リスクは約6%であり、したがって、1回の脳卒中を防ぐには17回の深刻な頚動脈狭窄を処理しなければならない。現在、破裂させ脳卒中を引き起こす1/17の狭窄を識別するために利用できる方法はない。脳卒中を患う患者の残り6%は、頸動脈血管再建術をして頚動脈狭窄が頸部尾よく処置されたとしても、未診断の頭蓋内狭窄を有することによって、脳卒中を引き起こす可能性が高い。頸動脈狭窄症の予測値は不十分なので、破裂しやすいアテロームが引き起こされる狭窄の識別が求められる。
【0014】
2)フラミンガムリスクカリキュレータは、10個の実験的に決定された履歴因子の組み合わせ(55歳以上の年齢、年齢調整された収縮期血圧、糖尿病、喫煙、以前の心疾患、心房細動、左室肥大、高血圧薬剤の使用)を使用して、3%から84%の10年間の脳卒中可能性を予測する30ポイントスケールに沿ったスコアを作成する。これは、助言および保険危険率の計算に役立つ可能性があるが、決定的介入につながらない。この方法の一つの問題は、アテローム塞栓性、血栓塞栓性および出血性脳卒中を区別できないことである。
【0015】
3)厚さが1.7mmを越えるIMT(内膜中膜厚)測定は、高い心筋梗塞リスクの経験指標である。これは、説得力のある脳卒中リスク因子ではない。この測定法は、コストはまずまずであるが特定の介入につながらず、スタチンおよび高血圧薬剤を含む一般的な抗アテローム塞栓性動脈硬化症治療につながる。
【0016】
4)心房性不整脈のECG評価は、血栓塞栓性脳卒中の別の問題に対応する。急速な心房調律(心房細動または心房粗動;AF)は、脳卒中リスクと考えられ、脳卒中予防のために抗凝血剤で治療される。心房壁側血栓が原因であることは確実であるものの、文献に示されているような報告は少ない。AFがない状態の脳卒中リスクは、AFがある状態で数パーセント(約1%~2%)しか増えないが、調査数が多いときは統計的有意性が増す。これらの調査における一つの複雑な因子は、AF、心房中隔動脈瘤、心房付属器、および卵円孔開存(PFO)の重なりである。この重なりにより、原因の識別が容易に行なわれない。
【0017】
5)経頭蓋ドプラは、心臓内の壁側血栓またはシャントによって右心から左心まで横切る脚の血管からの特発性血栓塞栓に関して、気門室または心室内血管または肺シャントの間の卵円孔開存(PFO)を監視する。PFO(胎児期の痕跡器官)が大人の約20%に存在し、閉鎖が重要とも有効とも考えられないので、手術または介入閉鎖でPFOを処理することに医師たちはほとんど関心がない。
【0018】
頸動脈狭窄の評価の不在は、ウィリス動脈輪(coW)の随伴評価である。人口の5%に不完全なcoWが存在する。血液供給の分離を生じる不完全なcoWが存在すると、血液供給がアテロームによって損なわれて深刻な動脈狭窄を引き起こす。その場合、狭窄を通じての圧力低下がアテロームを膨張させる血流力と組み合わされ、アテロームが破裂しやすくなる。
【発明の概要】
【0019】
脳腫脹(浮腫)、脳室の膨張(水頭症)、硬膜外もしくは硬膜下腔内への出血(血腫)、および脳腫瘍は全て、血液が頭蓋から出るクモ膜血管を圧縮する症状であり、この流出障害が頭蓋内圧(ICP)を高める。従来のICP測定は、穿孔術(頭蓋に穴を空ける)と脳内へのカテーテルの配置を必要とする。一定頭蓋内容積のモンロー・ケリー仮説は、頭蓋からの静脈および脳脊髄液(CSF)流出量と動脈流入量とが平均して等しいこと、脳幹の振動と大後頭孔を通るCSFとが心周期内で動脈供給量の脈動変化を補償することを必要とする。本発明は、クモ膜血管(心収縮期および心拡張期の流れに対応する)を含むクモ膜腔の厚さの固有脈動と、頭蓋加速による脳の運動とを非侵襲的に測定し、脳の膨張を検出する。脳の膨張は、クモ膜血管を圧縮してICPの亢進とこれに関連する後遺症を引き起こす。
【0020】
脳腫脹に起因するクモ膜厚の減少は、ICPの亢進に先立って生じるので、治療可能な症状の発現の示唆をより早く提供する。
【0021】
大脳動脈の供給を受ける脳の六つの領域の少なくとも一つにおける低血圧症状のない人をスクリーニングする方法および装置が開示されている。当該低血圧は、切迫したアテローム塞栓性脳卒中の高いリスクを示す。脳卒中の三つの主な原因は、出血、血栓塞栓症およびアテローム塞栓症であり、アテローム塞栓症が、脳卒中の40%を占めると推定される。アテローム塞栓性脳卒中は、薬物療法、直接手術、またはカテーテル血管再生による解剖学的介入を適時に適用することによって防ぎうる。
【0022】
アテローム塞栓性脳卒中は、心臓から脳までの動脈路に沿った脆弱なアテロームの破壊によって引き起こされる。脆弱なアテロームは、動脈によって供給される末端器の一部分にパルス遅延および狭窄の遠位の雑音を特徴とする減圧狭窄を引き起こす。狭窄は、末端器の一部分に供給する側副路がない場合だけ圧力降下をもたらす。毎秒350cmを超える高い速度で狭窄内を通る血液は、50mmHgを超える合成ベルヌーイおよびコアンダ圧力をアテロームに加え、噴出物につながる新生血管膨張を促進する。正常サイズの内腔への下流膨張が円滑化され、流れ分離が回避され、層流が得られる場合には、そのような高速においても圧力降下が生じない。他方、突然の膨張により流れ分離が生じる場合は、この遠位領域内の乱れがエネルギーを放散する結果として圧力が低下する。狭窄圧力低下は、アテロームに剪断応力を及ぼし、先端部での破壊を促進する。これらの二つの影響(圧力印加と圧力低下)が組み合わさることでアテロームからアテローム塞栓が放出される。アテローム塞栓は脳まで移動して脳卒中を引き起こし、潰瘍化したクレータを残す。
【0023】
本開示に係る非侵襲的方法においては、クモ膜血管が心収縮期および心拡張期の流れに対応するときに脳を取り囲むクモ膜腔の固有脈動を測定し、局所的な大脳パルス遅延検出し、各供給動脈内の減圧狭窄の存在を推測する。頭蓋内のクモ膜血管内の脈動は、一定頭蓋内容積のモンロー・ケリー仮説に基づき、供給動脈の動脈脈動と同期する。領域固有のクモ膜脈動のタイミングは、パルス遅延に影響を与える。対応する特定の分岐大脳動脈が供給を妨げると、局所的低血圧を引き起こす。
【0024】
本開示は、頭蓋内圧の非侵襲的測定と脳血管狭窄の非侵襲的スクリーニングの双方のための方法および装置と関連する。当該装置は、頭蓋内圧と脳血管狭窄の少なくとも一つ一方を測定またはスクリーニングするために、本明細書に記載された方式で機能するように構成されたコントローラを備えうる。当該装置は、患者の頭蓋の上部分に第一のトランスデューサを配置するように構成され、患者の頭蓋の下側部分に第二のトランスデューサを配置するように構成されたヘッドバンドを備えうる。頭蓋内圧を非侵襲的に測定しかつ脳血管狭窄を非侵襲的にスクリーニングするための方法もまた、ここに開示される。
【0025】
装置と方法の実施形態例を参照しつつ、例証を通じて本開示の内容をより詳細に説明する。参照される添付の図面は、以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】頭蓋と脳の解剖学的構造を矢状断面で示している。
【
図2】人から測定された三心周期分の波形を示している。
【
図3】頭蓋内の脳容積のコンプライアンス曲線を示している。
【
図4】軽い頭部衝撃を受けた人の脳の動きの測定値を示している。
【
図6】本開示の実施形態に係るトランスデューサの構成を示している。
【
図7】頭蓋の加速度と脳の運動を示すリサージュ図である。
【
図8】トランスデューサと皮膚に接触するゲルパッドを示している。
【
図9】トランスデューサ、および頭髪と頭皮に接触する接着ゲルとゲルパッドを示している。
【
図10A】人の頭蓋内における血流循環を示している。
【
図10B】人の頭蓋内における不完全なウィリス動脈輪を示している。
【
図11】本開示の別実施形態に係るトランスデューサの構成を示している。
【
図12】パルス遅延に係る正常な検査結果の報告を示している。
【
図14】減圧狭窄に係る異常な検査結果の報告を示している。
【
図15】パルス遅延に係る異常な検査結果の報告を示している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
開示される実施形態の幾つかの創意に富む態様が、様々な図に関連して以下に詳細に説明される。典型的な実施形態は、請求項によって定義された開示内容を例示するために示され、その範囲を限定するものではない。当業者は、以下の説明で提供される様々な特徴の幾つかの等価的改変を理解可能であろう。
【0028】
図1は、人間の頭蓋と脳の解剖学的構造を矢状断面で示す。頭蓋1は、脳幹が通過する大後頭孔2、上矢状静脈洞3、脳の表面を覆うクモ膜静脈網4、およびCSF脈動5を収容する。CSF脈動5は、頭蓋1を出入りする。
【0029】
図2は、人から測定された三心周期分の波形を示すグラフである。
【0030】
図2の領域6は、心収縮中に頭蓋から離れる脳の動きを示す。
図2の領域7は、脳に流入する血液の速度波形を示す中大脳動脈速度スペクトル波形を示す。
図2の領域8は、頸部内を上昇する血液の速度を示す頚動脈速度スペクトル波形を示す。
図2の領域9は、QRSタイミングの心電図を示す。
図2の領域10は、QRSタイミングを表す垂直線を示す。
【0031】
モンロー・ケリー仮説によれば、
図1に示される定容量頭蓋冠に流入出する物質の流れは、各瞬間で等しいことを要する。内頚動脈と脳底動脈を経由する脈動動脈流入量と、頸静脈孔を通る静脈流出量とは、等しいことを要する。
図2の領域7に示される心周期の前半では10mlの血液が供給され、周期の残り半分で5mlが供給される。拍入を補うように、脳脊髄液(CSF)と脳幹が、大後頭孔(断面0.76cm
2)を通じて脈動する。心収縮期において0.2mlのCSFが流出するとともに脳幹が0.1mm下降する。これらは、心拡張期に元へ戻る。
【0032】
心収縮期の血液過剰の一部は、脳の皮質表面を取り囲むクモ膜血管の網内に一時的に蓄えられ、これにより脳が頭蓋の内面から離れる。これらの弛緩血管は膨張し、断面がより円形になり、
図2の領域6に示されるように、600cm
2のクモ膜腔の厚さが、心収縮期に約5μm拡張する。クモ膜血管の脈動に伴うクモ膜腔の波形挙動は、自由に拡張できる身体の一部に見られる小動脈の波形挙動と類似する。この効果は大脳領域に対して局所的であるので、対応する分岐大脳動脈の波形挙動を分析する方法として機能する。パルス遅延とモルフォロジーを含む波形の特徴が分析されうる。
【0033】
図3は、頭蓋内の脳容積のコンプライアンス曲線を示している。大後頭孔を通じて脈動するCSFおよび脳幹の一部を除く頭蓋内の脳と血液の体積の増大(ΔVOLUME)に対する頭蓋内圧(ICP)の変化がグラフ化されている。
図3の領域11は、心周期を有する正常なICP圧力の脈動を示す。領域12は、過度のICP圧力の脈動を示す。領域13は、低い血液流出抵抗を有する部分的に膨張したクモ膜血管の断面を示す。領域14は、血液流出抵抗を高める圧縮されたクモ膜血管の断面を示す。
図3の領域15は、クモ膜血管容積の正常な脈動を示す。領域16は、高ICPと低コンプライアンスを有するクモ膜血管の衰弱脈動を示す。領域17は、脳幹とCSFが弾力的に自由に頭蓋に出入り可能である正常な脳と脳幹の位置を示す。領域18は、頭蓋内の膨張し詰まった脳組織を示しており、脳幹が大後頭孔内に係留されて脳幹とCSFの動きを制限している。領域19は、ICPの変化を流入量の変化とともに示すコンプライアンス曲線を示す。
【0034】
正常な脳に血液が潅流されない場合、
図3に示されるように、頭蓋内圧力(ICP)は軸原点でほぼゼロである。この容積が、頭蓋組織膨張(浮腫)、腫瘍、血腫、脳の四つの脳室腔、および脳の周りのクモ膜腔内に閉じ込められたCSFを含む脳容積に追加されるので、コンプライアンス曲線19は、増大傾斜で原点から伸びる。脳容積が膨張すると、1)クモ膜腔の厚さが減少してクモ膜流出血管が平坦になり、2)大後頭孔から移動性脳幹と移動性CSFが排出される。これらのメカニズムは制限され、クモ膜腔は限られた容積の静脈血と移動性CSFを含み(200cc)、脳幹は限られた弾性移動度を有する。末端頭蓋内の大きい静脈洞が頭蓋から出る頚静脈孔に繋がっているので、頭蓋内圧を最終的に決定する断面14の圧縮度によってクモ膜血管の流出抵抗が上下し、大気圧下で心臓の右心房より上方においては、次式が成り立つ。
ICP = (脳流量)×(流出抵抗)
クモ膜腔の正常な厚さは3mmである。クモ膜血管の抵抗は、空間が1mmに圧縮された場合に5倍になり、空間が0.5mmに圧縮された場合に12倍になり、0.25mmに圧縮されたときに90倍になる。したがって、ICP亢進の徴候は、脳容積膨張によって定まるクモ膜腔厚の影響を非常に受けやすい。
【0035】
クモ膜腔の正常な3mm厚は、加齢および認知症に伴い、100歳で約10mmまで増大する。したがって、年齢の高い脳ほど一時的な脳容積膨張に対する許容が大きくなる。
【0036】
図4は、左側からの軽い頭部衝撃を受けた人の脳の動きの測定値を示す。
【0037】
図4において、領域6aは、心収縮期の頭蓋から遠ざかる脳の動きと、右加速中の頭蓋に近づく(右方向への)動きを示す。領域6bは、心収縮期の頭蓋から遠ざかる脳の動きと、右加速中の頭蓋から遠ざかる(右方向への)動きを示す。右側頭骨トランスデューサ20R、左側頭骨トランスデューサ20L、および加速度計21が、
図4に示されるように頭部に取り付けられうる。領域22は、頭部を右に押す衝撃を含む頭蓋の加速を示す。
【0038】
図4に示されるように頭蓋が右に加速されたときに、脳が右へ移動することは予想されない。周りのクモ膜流体中の脳の浮力のためである。脳密度は1.03gm/ccであり、CSF密度は1.01gm/ccであり、血液密度は1.05gm/ccである。血液は、上矢状静脈洞(
図5の符号3)および他の導管を経由して左右間を直接に流通する。他方、CSFの横方向の動きは、左大脳半球と右大脳半球の間の隔壁を提供する大脳鎌24によって妨げられる。したがって、脳力学は、CSF内の沈下よりも静脈血内の「浮動」による影響を主に受ける。
【0039】
また、クモ膜血管の挙動はICPの亢進を支配する。高い流れ抵抗を有する圧縮されたクモ膜血管は、脳内の正常な潅流量に対応するために高い供給圧力(高ICP)を必要とする。楕円導管(圧縮されたクモ膜血管のような)内の層流に関するポアズイユの法則の近似により、圧力降下は、(楕円軸比2に対応する)1mm未満の楕円短軸寸法に関してクモ膜厚の逆3乗だけ大きくなる。したがって、クモ膜厚パルス振幅の減少は、クモ膜血管流出障害によりICPの非線形亢進を示す。
【0040】
クモ膜血管が皮質の一部を局所的に排出するので、流れ妨害は、大域的というより局所的である。クモ膜厚の脈動振幅および波形は、ICPおよび大脳皮質潅流に対して局所指数を提供する。
【0041】
図5は、人の頭蓋1の前額断面を示し、脳幹通路を有する大後頭孔2、右側クモ膜静脈網と左側クモ膜静脈網を直接的に接続する上矢状静脈洞3、脳の左半球の表面を覆う左側クモ膜静脈網4L、脳の右半球の表面を覆う右側クモ膜静脈網4R、およびCSFを収容する脳室23を描写している。
【0042】
一実施形態に係るシステムは、クモ膜腔と他の頭蓋構造の厚さの脈動を測定することにより亢進したICPの特性波形を識別する装置を含みうる。
図6は、三つの脳運動トランスデューサ20R、20L、26の配置を示している。側方のトランスデューサは、隣接する皮質組織の脈動を測定する。上方のトランスデューサは、脳幹の動きとCSFの流れの少なくとも一方を測定する。頭部に固定された加速度計21Hは、皮質の動きに影響を及ぼす頭蓋加速を監視する。頭部加速度計21H、およびこれに関連付けられた胸骨加速度計21Sが、心臓の右心房と頭蓋冠の間の高度差を評価する情報を提供する。
【0043】
一実施形態に係るシステムは、左側トランスデューサ20Lおよび右側トランスデューサ20Rからのクモ膜厚運動測定値を、頭部加速度計21Hからの横運動の測定値とともに使用し、脳の横運動を示すクモ膜厚測定間の差異を取得する。当該システムは、
図7に示されるように、この運動を加速度と関連付け、固有振動周波数、運動の振幅、振動減衰などの脳の動的特性を決定する。
【0044】
一実施形態においては、再使用可能なトランスデューサが、測定中のトランスデューサと頭蓋の間の動きを最小にするように頭部の頭皮に取り付けられる。これにより、トランスデューサ、頭蓋、および脳の間で信号交換が可能になるだけでなく、衛生状態が提供され、弱い皮膚からの容易で安全な取り外しも可能になる。
図8に示されるような使い捨てゲルパッドによってこれが実現される。ゲルパッドは、粘着性ゲルの薄層を収容する袋体31、除去可能な保護材で覆われた表面接着剤32、および除去可能な保護材で覆われた生体適合性接着剤33を備えている。保護材の除去により露出した表面接着剤32は、トランスデューサ面の形状に沿って付着し、ガスまたは空気を排除する。保護材の除去により露出した生体適合性接着剤33は、患者の皮膚の起伏形状に沿って付着する。使用後に弱い皮膚からの除去を容易にするために、袋体31の露出縁上のジップ式裂き部35が除去される。これによって空気が袋体に進入し、皮膚側の面がトランスデューサ側の面から独立して変形可能となる。よって、ゲルパッドが容易かつ安全に除去されうる。
【0045】
図8のトランスデューサ装置は、トランスデューサ30、粘性流体が充填されて薄層をなす平坦な袋体31、トランスデューサを取り付けるための接着面32、皮膚34と接触する接着面33、およびジップ式真空解除部35を備えうる。
【0046】
別実施形態においては、再使用可能なトランスデューサが、測定中のトランスデューサと頭蓋の間の動きを最小にするように、頭部の頭皮の上の頭髪に取り付けられる。これにより、トランスデューサ、頭蓋、および脳の間で信号交換が可能になるだけでなく、衛生状態が提供され、弱い皮膚からの容易で安全な取り外しも可能になる。頭髪を介する取り付けは、粘着性ゲルの薄層を収容する袋体31、除去可能な保護材で覆われた表面接着剤32、および除去可能な保護材で覆われた生体適合性接着ゲル36を備えた使い捨てゲルパッド(
図9)。により実現される。保護材の除去により露出した表面接着剤32は、トランスデューサ面の形状に沿って付着し、ガスまたは空気を排除する。保護材の除去により露出した接着ゲル36は、頭髪の間を縫って広がり、頭髪と頭皮の形状に沿って付着する。使用後に弱い皮膚からの除去を容易にするために、袋体31の露出縁上のジップ式裂き部35が除去される。これによって空気が袋体に進入し、皮膚側の面がトランスデューサ側の面から独立して変形可能となる。よって、ゲルパッドが容易かつ安全に除去されうる。
【0047】
全ての実施形態において、患者または医療関係者向けの表示部は、少なくとも一つの信号の欠落を示すバイナリ表示部を備える。超音波検査における信号欠落の一因は、超音波ビームの進路内の空気による超音波ビームの妨害である。当該空気は、超音波トランスデューサと患者組織の間の接触領域に存在しうる。当該空気は、頭蓋の前頭骨内の空気で満たされた腔などの内部空所に存在しうる。一実施形態においては、患者または医療関係者向けの表示部は、測定値が正常ICPまたは亢進ICPと一致することを示すバイナリ表示部を備える。別実施形態においては、1)クモ膜腔厚パルス振幅の数値、2)頭蓋加速度と脳変位の間の勾配関係を示す数値、3)頭蓋加速度と脳変位の間の位相関係を示す数値またはグラフ表示、4)脳脈動の波形またはタイミングを示す数値またはグラフ値、および5)クモ膜腔厚脈動の振幅および波形を脳幹脈動の振幅および波形と比較する数値またはグラフ値、の少なくとも一つが示される。表示情報を向上するために、胸骨加速度計と頭蓋加速度計の測定値から確認された右心房からの頭蓋冠の相対的高度に関するデータが、表示結果または表示結果を得るための計算に含まれる。
【0048】
心収縮中に頭蓋に入る血液の体積が一定である仮定すると、動脈血圧は頭蓋内圧(ICP)よりも十分に高いので、脳幹の脈動(コンプライアンス)は、ICPが正常である間は大きくなり、ICPが亢進している間は小さくなる。脳幹の解剖学的構造を調べることによってその理由が説明される。脳幹は、頭に向かって直径が大きくなる円錐構造である。ICPが低い期間中は脳幹が頭蓋内に引き込まれているが、ICPが亢進している期間中は脳幹が大後頭孔に進入し、径大部が動きを制限する。
【0049】
脳幹の脈動は、組織ドプラ法によって、頸部の後ろに配置されて超音波ビームが大後頭孔を通過する超音波トランスデューサ、あるいは頭蓋の上部に配置されて超音波ビームが下方の大後頭孔に向けられた超音波トランスデューサによって監視されうる。いずれの場合も、トランスデューサのレンジゲートは、10または12cmに設定されるべきである。二つの位置のうち最も安定しているのは上方の位置である。位置合わせが、頸部を曲げる頭部の動きによる影響を受けないからである。関連付けられた加速度計は、頭部の動きの方向を提供するとともに、胸骨上の加速度計と組み合わされ、頸部の長さが一定であるとの仮定に基づいて頭蓋の心臓からの高さに関する完全情報が利用可能である。
【0050】
脳が膨張すると、空間が埋まり、頭蓋内の空き領域がなくなる。超音波システムは、心拍数における脈動ならびに調波および振動情報の双方を検出するように構成されるべきである。CSFと静脈血が双方とも狭い通路を通って乱れを引き起こすので、頭蓋内圧が高い期間に組織振動が起こりうる。そのような乱れは、前立腺肥大症による尿道狭窄がある状態での排尿中、動脈流がアテローム硬化性狭窄内を流れている間、血液が狭窄性弁膜症中を流れている間に観察される。
【0051】
塞栓性脳卒中は、脳の一部に供給する動脈が閉塞された(血流がない)ときに起こる。ほとんどの場合、閉塞は、栓子が頭蓋内の分岐動脈に詰まるときに起こる。正常な動脈の内腔断面は分岐のたびに小さくなるので、栓子のサイズが遠位内腔よりも大きくなると閉塞が起こる。正常な分岐の動脈樹では、内腔径は最高心収縮流量に比例する。正常な発達の動脈は、最高流量でも乱れを回避するのに十分な大きさまで直径が大きくなる。各分岐点で、子動脈の径は親動脈より小さい。したがって、固形の栓子は、栓子が内腔サイズと一致し閉塞栓になるまで、分岐動脈樹に沿って断面が減少する末端器に向けて移動する。
【0052】
血栓塞栓は、大動脈弁に対して近位の幾つかの発生源、すなわち、心臓の梗塞左心室、心臓の細動左心房、または「逆説的に」血栓静脈から心臓内の右左シャントによって発生する。そのような血栓塞栓は、身体内のどの末端器までも移動でき、約10%は、脳に進んで脳卒中を引き起こす可能性が高い。そのようなフィブリンリッチな血栓塞栓は、組織プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)によって溶解しやすい。狭窄アテロームの噴出から生じるアテローム塞栓は、心臓と末端器の間の動脈から生じ、アテローム性動脈硬化位置を示す動脈壁に潰瘍を残す。そのようなアテロームは、十分に大きいとき、動脈内に狭窄を引き起こし、側副バイパス経路がない場合は、三つの液圧力がアテロームを破壊する働きをする。すなわち、1)ベルヌーイ効果、および2)コアンダ効果がアテロームで圧力を降下させてアテロームとアテローム膨潤内の内出血を促進する。これにより、狭窄の深刻度が高まり、3)圧力低下がアテロームの基部で剪断を引き起こして病変の近位縁を分裂させる。噴出物は、含有脂質および細胞残屑からなるアテローム塞栓を放出する。アテローム塞栓は、栓子が内腔サイズと一致し閉塞栓になるまで、分岐動脈樹に沿って小さい断面を有する末端器へ進む。アテローム塞栓は、tPAによって溶解しにくい。全体として、大脳塞栓性閉塞の約半分は、tPAによって少なくとも部分的に溶解される。この事実は、塞栓の半分がフィブリンリッチな血栓塞栓であり、他方の半分がアテローム塞栓であることを示す。最初のアテローム噴出の後、残留潰瘍は、後の血栓塞栓症事象を引き起こしうる血小板リッチな血栓の形成に寄与すると考えられるが、アテローム性動脈硬化潰瘍から生じるそのような血小板リッチな血栓は、tPAによって溶解しにくい。そのような血栓は、減圧動脈狭窄を引き越す可能性が低いので、本発明は、そのような二次的な潰瘍発生源の血栓塞栓を検出することを意図するものではない。本発明は、破裂の危険性があるアテロームによって引き起こされる原発性減圧狭窄だけを検出することを意図するものである。
【0053】
本開示は、米国における毎年25万件の脳卒中が、大動脈弁と脳の間の減圧狭窄から生じる原発性アテローム塞栓性脳卒中であるとの結論、スクリーニングで検出されれば、その大部分は内科的に治療できるという結論、当該治療を監視すれば外科的介入なしに治療障害を容易に選別し、脳卒中の原因としての脳血管性のアテローム性動脈硬化を排除できるという結論に基づく。
【0054】
深刻な頭蓋外および頭蓋内アテローム性動脈硬化狭窄が予想されるのは、50歳以上の人の1/500だけなので(50歳未満ではより少ない)、スクリーニング法は、心電図検査のコストよりも少なく、かつ血圧測定コストに近くなるように設定される。
【0055】
防止される脳卒中によるコスト削減は4万米国ドルと推定される。500人のスクリーニングコストは、5000米国ドルと推定される。
【0056】
減圧狭窄から遠位の動脈内のパルス波形は、パルス遅延に特徴がある。狭窄が内頸動脈の最初にあり、さらに患者にcoWによる側副供給がない場合、パルス遅延は、同側眼にあり、また皮質の関連領域にもある。眼内のパルス遅延は、そのような事例で実証されており、眼パルス遅延が、利用可能な他の方法と等価な感度と限定性を有する脳卒中の予測であったことを示す。しかしながら、この技術は、内頚動脈(ICA)と眼動脈(OA)の減圧狭窄に左右されやすく、これと対照的に、脳内のパルス遅延は、破裂しやすいアテロームによって引き起こされるICA、MCA、ACA、PCA内の減圧狭窄を識別する見込みを提供する。
【0057】
頸動脈狭窄の症例で付帯的補償血流を提供できる完全なcoWを有するのは50%の人々だけである。さらに45%が、側副血流も提供する後交通動脈(PcomA)17などのcoW欠落の一つの部分を有する。残りの5%は、多くの場合前交通動脈(AcomA)16とPcomAの二つの部分欠落を有する。この後者の状態は、不完全なウィリス動脈輪(coW)と呼ばれる。不完全なcoWによって同側頚動脈が減圧狭窄を有する場合、眼ならびに脳の同側部分および前部分が、パルス遅延と局所低血圧を呈する。眼パルス遅延の測定(OPG試験)は、補償されない頚動脈狭窄を示しうるが、眼動脈の狭窄は、目のパルス遅延も引き起こすことがあり、試験が偽陽性となりうる。OPGを頸部内の頸動脈雑音検出と組み合わせることによって、動脈内膜切除術、ステントまたは薬物療法で治療されうる破裂しやすいアテロームによる頸動脈狭窄から、脳卒中の従来の頚動脈超音波二重ドプラ走査の予測値を整合させうる。
【0058】
減圧狭窄が、coW上の分岐動脈内にある場合、患者は、coW近くの大脳パルス遅延および雑音によってマークされた大脳局所低血圧を呈する。現在、この状態に適用される診断方法はない。
【0059】
クモ膜血管が大脳皮質の局所的部分を排出するので、クモ膜厚の脈動振幅および波形は、各供給動脈のパルスに局所的指数を提供する。動脈脈動の到達の遅延は、大脳部分上の局所的クモ膜厚波形に遅延をもたらす。したがって、クモ膜厚波形の局所的遅延は、動脈供給経路に沿ったどこかの減圧狭窄を示す。減圧狭窄の位置は、マイクロフォンまたは超音波ビームを利用して減圧狭窄を示す振動を探すことによって識別されうる。
【0060】
本開示の一実施形態に係るシステムは、脳の六つの潅流部分のそれぞれに対応するクモ膜腔の厚さの脈動を測定して、心臓と脳の対応部分との間の経路に減圧狭窄があることを示す局所脳低血圧のパルス遅延特徴を識別する装置を含む。
図11は、七つの脳運動トランスデューサ(20R、20L、30R、34R、26、および無表示が二つ)の構成を示している。複数の周囲トランスデューサは、それぞれ隣接する皮質組織の脈動を測定する。上部トランスデューサ26は、脳幹の動きと大後頭孔内のCSFの流れの少なくとも一方を測定する。頭部に固定された加速度計21Hが、皮質運動に影響を及ぼす頭蓋加速度を監視する。
【0061】
頚動脈分岐血管音検査マイクロフォン37は、付加的な診断情報を提供する。減圧狭窄によって供給された末端器内のパルス遅延の発生に加えて、減圧狭窄は、狭窄後の乱れ部分から出る雑音によっても特徴付けられる。MCA分布32を含む局所的大脳パルス遅延がある状態では、同側頸動脈雑音が近位ICA内の減圧狭窄の存在を確認する。アテローム上の高い血流力(ベルヌーイ効果、コアンダ効果、および圧力降下剪断)があるので、アテロームは、低血圧症領域のどこかで破裂しアテローム塞栓性脳卒中を引き起こす可能性が高い。現在の医療は、頸動脈血管内膜切除術、頚動脈ステント留置、または積極的な抗アテローム硬化性薬物療などの治療を推奨している。大脳パルス遅延があるが頸動脈雑音がない場合は、coW近くの頭蓋内に減圧狭窄がある可能性が高い。その場合、その狭窄後の乱れから雑音が出される。そのような雑音は、頭蓋トランスデューサ20、26、30、34によって幾つかのプロセスを実行することによって検出されうる。
【0062】
現在、頭蓋内狭窄の介入療法は実験段階にあるが、積極的薬物療法は有効である。局所的な大脳低血圧および雑音がある患者が内科的治療を受けた場合、大脳潅流圧の治療が狭窄をなくすのに有効であったことを確認できる。
【0063】
耳光電脈波トランスデューサ36は、付加的な診断情報を提供する。KartchneとMcRaeは、耳パルス遅延が同側外頸動脈またはその分岐内の狭窄を表すことを示した。耳パルス波形は、パルス遅延を規定するために各大脳領域の信号処理に使用できる患者固有の波形モデルを提供する。外頸動脈狭窄が一方の耳に耳パルス遅延を引き起こす可能性があるので、双方の耳からの波形を収集しなければならず、また以前の波形を分析に使用しなければならない。両側外頸動脈狭窄症の可能性がわずかな場合、両側外部頚動脈狭窄を除外するために、耳パルスを心電
図QRS波のタイミングと比較しなければならない。
【0064】
二重光波長耳光電脈波信号を使用して耳パルス酸素測定を実行できる。検査に耳酸素測定を含めることによって、血栓塞栓性脳卒中の原因と思われる心臓の卵円孔開存を有する患者を識別するための重要な付加的診断ツールが提供される。バルサルバ手技後の耳酸素飽和減少の測定値は、85%の感度と100%の特定性を有する。PFOの介入閉鎖は論争の的であるが、PFOを有する患者は、旅行中、妊娠中、特定の処方薬使用中、または入院中などに、鬱血または高度凝結による静脈血栓症の可能性が高くなる状況で予防法を使用するように助言されうる。予防法は、静脈圧縮ストッキング着用または血液凝固阻止剤処方を含む。
【0065】
減圧脳血管狭窄の存在と位置を識別するための重要な診断情報は、表示例の一形式に含まれる。
【0066】
図12は、正常な患者の報告表示例を示している。背景の脳の動脈分布マップ上に各動脈で測定されたパルス遅延を表す楕円(0ミリ秒、100ミリ秒、200ミリ秒、および300ミリ秒)が重ねられている。中心点は、心電
図QRS波の後の400ミリ秒パルスオンセット遅延を表している。患者固有の遅延プロットは、6本の放射状直線と交差している。各直線は、分岐動脈固有のパルス遅延に対応している。各円アイコンは、対応するトランスデューサからの値を表している。別の円アイコンは、正常な耳パルス遅延を表している。正常な遅延は、全て100ミリ秒未満である。左側と右側の頸部に近い頸動脈雑音を示すアイコンは、雑音が検出されていないことを表している。
【0067】
図13は、右側ICAに流量減少狭窄を有する一般的な患者の脳血管動脈回路図を示す。ウィリス動脈輪は人々の50%で完全である。ECA(眼動脈を通る)、BA、および対側ICAを経由する潜在的側副路が示されている。心臓からの血液は、四つの経路、すなわち左右の頸動脈と左右の椎骨動脈を経由して頸部に入る。一般に、ウィリス動脈輪の上方には六つの分岐動脈に対応する脳の六つの皮質領域への側副路はない。分岐動脈網は、脳の表面(
図10に示されていない特徴)を取り囲んだ後、分岐を通って小動脈(図示せず)を構成して毛細血管(図示せず)に至る。毛細血管からの合流点が集まって静脈網を形成する小静脈と血管を形成する。静脈網は、皮質表面に戻ってクモ膜腔内に静脈網を形成し、最終的に頭蓋の内側面で静脈洞に繋がり、各側で静脈孔から出る。
【0068】
動脈系および静脈系は、環境によっては、新しい経路を作り出すことによって虚血に対応できる。したがって、血管造影法により組織との間に別の動脈経路および静脈経路が見つかることがある。そのような別経路は、従来の解剖学的説明に含まれないことが多いが、しばしば組織虚血から守る働きをする重要な患者固有の特徴である。特定の患者においては、そのような側副路が脳に十分な潅流を提供する。したがって、アテローム塞栓性脳卒中のリスクを回避することを意図する本発明に係る生理学的診断方法は、解剖学的異常が存在する場合でも患者に脳卒中のリスクがあることを示さない。
【0069】
本明細書において、虚血は、組織への不十分な血流を意味する。局所的低血圧は、十分な血流を保証する末端器血管抵抗の局所的減少によって補償される組織に対する低血圧を意味する。血管予備力(脳血管予備力)は、動脈低血圧が存在するときに組織が流れ抵抗を減らして血流を維持可能なことを意味する。
【0070】
図14は、原発性(最初)の塞栓性脳卒中を患った者の報告表示例を示している。この患者からの大脳パルス遅延データは、本発明に含まれる類の超音波組織ドプラシステムから得られた。研究は100人超の検査を含んでおり、残りには正常なパルス遅延が見られた。栓子の組成に関するデータはないが、アテローム性動脈硬化デブリである可能性が高い。頚動脈または頸動脈雑音のドプラ検査に関して利用できる情報はなく、同図の情報は、類似の臨床症状を有する別の患者から取得された。
【0071】
この患者においては、右側および両側前大脳脈動には200ミリ秒を超える病的な遅延(Xで示される)が見られるが、左側脈動は、100ミリ秒未満の正常な遅延範囲内にある。この情報から、同図の右側領域に示されるように、右PcomAと左a1ACAにおいてcowが途切れていることが推測される。この場合、同領域に示されるような血管造影図が表示される。また、理論的な眼パルス波形が、推定血流方向とともに表示される。同図の右下領域に示される近位ICAからのスペクトル波形は、心収縮期血管雑音の特徴を示す。この特徴は、ドプラパルス繰返し周波数の低下時に双方向調波ベッセル関数の特徴を示す高振幅低周波数の両側心収縮期信号である。
【0072】
同図左側領域において頸部の右内頸動脈にあるアイコンは、350ミリ秒から700ミリ秒の間続く高周波(500Hz)雑音を示しており、右近位ICA減圧狭窄の診断を支援する。
【0073】
図15は、実行機能(意志決定)と右内側運動を制御する脳の右前頭葉、および左脚と足に繋がる知覚皮質に影響を及ぼす右前大脳動脈(ACA)の領域において原発性(最初)塞栓性脳卒中を患う可能性のある想定患者の報告表示例を示している。脳の中心近くの雑音アイコンは、350ミリ秒から450ミリ秒の間続く低周波数雑音(150Hz)を表しており、coWに対して遠位の前大脳動脈狭窄を示している。現在のところ、そのような病変の識別に使用できる非侵襲的方法はない。
【0074】
本開示に係る別の態様においては、二つのタイプの患者(不完全coWと内頸動脈の狭窄)の識別を目的としている。これらの事例では、脳の一部に遅延脈動があり、その遅延を検出する。一つのトランスデューサが、脳内の各動脈を見て遅延を探索する(二番目の探索対象)。coW上に分岐動脈の狭窄また閉塞がある場合、脳卒中も引き起こしうる。閉塞は、次の二つの現象を引き起こす。
1.脳組織が呈するパルス遅延
2.超音波または聴診器で検出可能な振動
【0075】
振動については脳の中心にある深い組織を観察し、脈動遅延については浅い組織を観察する。また、眼球の直径を測定し、小脳における振動とパルス遅延を測定する(この箇所における脳卒中は平衡を失わせる)。トランスデューサは、撮像を行なわない。トランスデューサは、組織がセンサ(ドプラトランスデューサ)に近づくか遠ざかるかのみを伝える。その動きにより、振動または運動が存在するかを判断できる。圧力降下の測定は、動脈に剪断が起きているかを示しうる。したがって、COANDAで振動を探索する。流れが方向を変えるので、表面が存在する。振動測定を通じて確認されうる乱流とパルス遅延とによる圧力低下の証拠を探索する。乱流が確認されると、X線と染料を使用するステント留置を行って狭窄を処理できる。
【0076】
評価は自動的に行なわれうる。実行手順はEKGのように容易である。胸に電極を付け、EKGがプロットを行ない、コンピュータアルゴリズムが分析する。複数のトランスデューサを備えたヘッドバンドを人に取り付けて(頭髪を避ける必要がある)データ収集にかかる時間は、1分未満である。
【0077】
CortiFlowは、機能的脳イメージングのためのBOLD(血中酸素濃度依存型)MRI法と同じ基本生理学により、局所的血流ダイナミクスをリアルタイムに測定する超音波ドプラシステムである。頭部外傷のダイナミクスに関しては、下記の事項が正しいと言える。
1.スポーツでは100Gを伴う頭部衝突はしばしば起こるが、発症しない。
2.ボクシングやランニング時には200Gを伴う頭部衝突が起こりやすいが、持続時間は0.5ミリ秒から5ミリ秒である。
3.これらの状態は、音ルミネセンスと化学反応を生成する液圧キャビテーションを引き起こすものと類似である。
【0078】
キャビテーション気泡の崩壊は、50ピコ秒の「白色」光の放射と、マイクロフォンで検出可能な音響パルスの放射によって特定される。キャビテーションが対側衝撃の脳震盪傷害を引き起こす原発性メカニズムの場合、その事象は、傷害時において、音響パルスを検出するマイクロフォンと光音ルミネセンス光インパルスを検出する光検出器とによって検出されうる。光は頭蓋を貫通し得ないが、頭蓋を介して光学酸素測定が行なわれ、光インパルスを検出できるはずである。
【0079】
局所的流量の測定方法に関し、静脈血のクモ膜腔厚の脈動性もまた、経頭蓋パルス酸素測定の測定値に影響を及ぼす。この静脈血の酸素飽和度は、45%から75%まで変化する。クモ膜静脈血の酸素化は、機能的磁気共鳴イメージング(fMRI)の測定パラメータでもある。クモ膜腔の厚さは、約2.5mmである。血管が空間を覆う比率は、約20%である。厚さ脈動性は、約0.025mmまたは約1%である。したがって、静脈血の体積変化は約5%である。
【0080】
経頭蓋パルス酸素計が、末梢脈拍酸素測定法のように処理される場合、測定値は、クモ膜静脈血内のこの脈動の影響を受けるが、波形は小動脈血液のように見える。X線コンピュータ断層画像は、解剖学的構造の一部分の一連の像を取得し、当該一連の像の取得中に組織の運動が起こらないという仮定に基づいて当該一連の像を単一画像に投影することによって取得される。しかしながら、画像と画像の間、および単一画像の露出時間中においても、血管脈動による組織運動、呼吸運動、および筋肉運動が、組織を移動させ画像解像度を大きく低下させる可能性がある。したがって、画像がぼやけ、解像度が限定される。類似の問題がMRイメージングに存在する。超音波組織ドプラ法または光学的方法のような他の独立した方法によって実際の運動を測定することにより、運動の影響を計算でき、影響を補償または除去できる。
【0081】
補償方法の一つは、画像露出を同じ組織位置で行わせることである。これは、組織運動が周期的なとき(脈動など)に行なうことができる。したがって、連続露出は、周期内の同じ時点に「ゲーティング」される。現在、ゲーティングは、時間基準として心電
図QRS波を使用することにより行なわれる。この場合、タイミング基準が間接的に提供される。タイミング基準として画像化された組織の変位を使用することは、より直接的であり、したがって優れている。
【0082】
本開示の対象を実施形態の例を参照しつつ説明してきたが、本発明の範囲から逸脱しない限りにおいて様々な変更がなされうること、均等物が用いられうることは、当業者にとって明らかである。関連技術の説明において参照された技術内容は、本開示の一部として援用される。