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特許7042819塩素含有ポリマーと、酸化炭化水素からなる画分及び非酸化炭化水素からなる画分を含むワックスとを含む塩素含有ポリマー組成物、該ポリマー組成物の加工方法ならびにポリマー加工の間の外部潤滑剤としての前記ワックスの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】塩素含有ポリマーと、酸化炭化水素からなる画分及び非酸化炭化水素からなる画分を含むワックスとを含む塩素含有ポリマー組成物、該ポリマー組成物の加工方法ならびにポリマー加工の間の外部潤滑剤としての前記ワックスの使用
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/04 20060101AFI20220318BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20220318BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20220318BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20220318BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
C08L27/04
C08K3/10
C08K5/01
C08K5/098
C08L91/06
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019524130
(86)(22)【出願日】2017-07-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-08
(86)【国際出願番号】 US2017043022
(87)【国際公開番号】W WO2018017804
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】62/364,436
(32)【優先日】2016-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519019849
【氏名又は名称】サソール・サウス・アフリカ(ピーティーワイ)リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シピュマ,ルフノ
(72)【発明者】
【氏名】バン・レンスブルグ,バーノン・ジャンセン
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-507067(JP,A)
【文献】特表2005-523948(JP,A)
【文献】特開平07-102184(JP,A)
【文献】特開平10-330561(JP,A)
【文献】特表2007-529606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/04
C08K 3/10
C08K 5/01
C08K 5/098
C08L 91/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-塩素含有ポリマーと、
-酸化炭化水素からなる画分;及び
-非酸化炭化水素からなる画分
を含む、ワックスと
を含む塩素含有ポリマー組成物であって、
ここで両画分は、Fischer-Tropschワックスであり、
ここで両画分は
-40~100個の炭素原子の分子当たりの炭素原子の平均数(数平均);及び
-75重量%より多い炭素鎖が直線状である分子の量
を有する、塩素含有ポリマー組成物。
【請求項2】
前記酸化炭化水素からなる画分が、50~70mg KOH/gのASTM 1386/7に従う酸価を有する、請求項1に記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項3】
前記酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分の分子当たりの炭素原子の平均数(数平均)が、45~80個の炭素原子である、前記請求項のいずれかに記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項4】
前記酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分の平均分子量が、1000g/モル未満である、前記請求項のいずれかに記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項5】
前記酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分が、30~80個の炭素原子の範囲内の分子の分布を有する、前記請求項のいずれかに記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項6】
前記酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分が、45重量%より多い奇数の炭素原子を有する分子を有する、前記請求項に記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項7】
前記酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分の分枝鎖状分子が、10重量%より多いメチル分枝を有する、及び/又は第4級炭素原子を含有しない、前記請求項のいずれかに記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項8】
前記酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分が、モノマー構成単位としてのメチルからなる、前記請求項のいずれかに記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項9】
前記酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分が、80重量%より多い量の炭素鎖が直線状である分子を有する、前記請求項のいずれかに記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項10】
前記酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分が、140℃において20cpsより低いASTM D445-11に従う粘度を有する、前記請求項のいずれかに記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項11】
前記酸化炭化水素からなる画分の各分子が、1個以上のヒドロキシル、カルボニル、カルボキシレート又はラクトン原子団を有する、前記請求項のいずれかに記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項12】
前記組成物中に存在する酸化炭化水素からなる画分と非酸化炭化水素からなる画分を含むワックスの合計に対して、2~15重量%の酸化炭化水素からなる画分を含む、前記請求項のいずれかに記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項13】
前記酸化炭化水素からなる画分及び非酸化炭化水素からなる画分を含むワックスが、2~14mg KOH/gのASTM 1386/7に従う酸価により定義される、前記請求項のいずれかに記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項14】
前記酸化炭化水素からなる画分及び非酸化炭化水素からなる画分を含むワックスのASTM D 938に従う凝固点が、90~110℃である、前記請求項のいずれかに記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項15】
0.1~1phrの前記酸化炭化水素からなる画分及び非酸化炭化水素からなる画分を含むワックスを含む、前記請求項のいずれかに記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項16】
前記塩素含有ポリマーがポリ塩化ビニルである、前記請求項のいずれかに記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項17】
ステアリン酸カルシウム、ポリエチレンワックス、二酸化チタン、錫、カルシウム/亜鉛、鉛又は有機に基づく安定剤、又はそれらの組み合わせの群から選ばれる0.1~5phrの他の添加剤を含む、前記請求項のいずれかに記載の塩素含有ポリマー組成物。
【請求項18】
前記塩素含有ポリマーを請求項1~12のいずれかに記載の酸化炭化水素からなる画分及び非酸化炭化水素からなる画分を含むワックスと混合し;そして混合物を押出す段階を含む、塩素含有ポリマー組成物の加工方法。
【請求項19】
塩素含有ポリマー組成物の加工を助けるための外部潤滑剤としての酸化炭化水素からなる画分及び非酸化炭化水素からなる画分を含む0.1~2.5phrのワックスの塩素含有ポリマー組成物中における使用であって、ここで前記酸化炭化水素からなる画分及び非酸化炭化水素からなる画分は請求項1~12のいずれかに記載の通りである、使用。
【請求項20】
2.0~4.0のASTM D 2538に従う溶融時間対溶融トルクの比を有する塩素含有ポリマー組成物を得るため、及び/又は、同じ外部潤滑剤の濃度でのkg/時におけるPVC生産量を増加させるため、及び/又は、kg/時における同じPVC生産量での外部潤滑剤の濃度を低下させるための、請求項1~12のいずれかに記載の酸化炭化水素からなる画分及び非酸化炭化水素からなる画分を含むワックスの塩素含有ポリマー組成物中における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素含有ポリマーと、酸化炭化水素からなる画分及び非酸化炭化水素からなる画分を含むワックスとを含む塩素含有ポリマー組成物に関し、ここで前記ポリマー組成物は向上した加工性を有する。前記ポリマー組成物中に含有されるワックス画分は、それらの酸価、凝固点、分子当たりの炭素原子の平均数及び化学構造により特徴付けられる。
【背景技術】
【0002】
本出願は2016年7月20日に出願された米国特許出願第62/364,436号明細書への優先権を主張し、その開示は引用によりすべての目的のために本明細書に取り込まれる。
【0003】
塩素含有ポリマーには、塩化ビニルのポリマー、主鎖中のモノマー単位として塩化ビニルを含有するビニル樹脂、塩化ビニルを含むコポリマー、後塩素化ポリマー、塩化ビニリデンのポリマー、クロロ酢酸ビニル及びジクロロジビニルエーテルのポリマー、酢酸ビニルの塩素化ポリマー、塩素化高分子エステル、塩素化スチレンのポリマー、塩素化ゴム、エチレンの塩素化ポリマー、ポリ塩化ビニルのグラフトポリマー、それらの組み合わせ及びこれらのポリマーと他の熱可塑性及び/又は弾性ポリマーとの混合物が含まれる。
【0004】
最も広く用いられる塩素含有ポリマーはポリ塩化ビニル(PVC)である。PVCは多様な用途に用いられる熱可塑性ポリマーであり、多様な用途の中のいくつかの周知の用途は剛性管、パイプ、窓及びドア枠、床材(floor covering)及びケーブルコーティングである。
【0005】
PVCは硬くて脆い場合があり、押出し機、射出成形機のような標準的な製造装置を用いて加工するのが多くの場合に困難であるが、プリラー(prillers)、フレーカー(flakers)及びパスチレーター(pastillators)のようなPVC又はPVCコンパウンドの加工に用いられる他の装置を用いても加工するのが困難である。さらに、多くの製造法はせん断力を適用し、それにより摩擦熱と熱分解の可能性とを生ずる。
【0006】
PVCの融解は、ミクロドメイン粒子(micro-domain particles)(10-100nm)、一次粒子(primary particles)(1-5μm)及び最終粒子(final grain)(100-150μm)に分類される種々の寸法の粒子を有する溶融粉末の不均一な融解物を生ずる。PVCの加工の間に、この粒子状構造を破壊して均一化する必要がある。これは長い加工時間ならびに高い温度を必要とし、熱分解を引き起こす危険を負う。
【0007】
これらの理由で、PVCに基づくプラスチックの加工を容易にするために押出し助剤として潤滑剤を用いることが当該技術分野において既知である。
【0008】
潤滑剤は、溶融粘度を下げ、PVCの加工の間の摩擦熱ならびに機械壁からの金属放出を抑制する材料である。そのような潤滑剤は内部又は外部の場合がある。外部及び内部潤滑剤を混合して両方の効果を与えることもできる。
【0009】
内部潤滑剤はPVCと部分的に相溶性であり、混合物中の2.5phr(ゴム/ポリマ
ーに基づいて100部当たりの重量部)より小さい通常のレベルで外部効果を有していない。それらは粒子間の分子拡散を増すことにより融解PVCの溶融時間を短縮するが、溶融後の加工において役割を果たさない。内部潤滑剤として、脂肪酸、脂肪酸エステル又は脂肪酸の金属エステルのような極性分子が通常用いられてきた。それらは溶融粘度を下げ、内部摩擦を低下させ、溶融を促進する。例えばビン及び透明シートのような高度の溶融が必要であるPVC用途において内部潤滑剤は広く用いられる。内部潤滑剤がより多量に用いられると、それらはPVCと非相溶性になり、外部潤滑剤として働き始める場合がある。
【0010】
外部潤滑剤は0.1-1.5phrの通常のレベルでPVCと非相溶性であり、かくして溶融状態においてPVC塊の表面に移動し、金属及び融解物界面上のPVC粒子の摩擦を低下させる。外部潤滑剤は、優れた溶融制御を保証する適切な融点又は融点範囲(melting range)を有する必要がある。それらは見掛け粘度及び融解物と加工機械の間の滑りを低下させる。それはスクリュートルク及び電力消費を低下させる。従って外部潤滑剤と得られるPVC組成物との粘度は重要な役割を果たす。外部潤滑剤は通常アルカンのような非極性分子であり、通常は、パラフィンワックス、鉱油又はポリエチレンである。それらは主に透明性が決定的な因子でない用途において、剛性PVCの加工のために用いられる。外部潤滑剤は、一般的に(prevailingly)ワックスであり、最も普通なのはパラフィンワックス、微結晶性ワックス又はポリエチレンワックスである。
【0011】
一般にワックスは、概ね40℃より高い滴点(drop melting point)を有し、わずかな圧力下でつや出しでき(polishable)、混練可能であるか又は砕け難く、20℃において透明から不透明であり、40℃より高温で分解せずに融解し、典型的に50~90℃で、例外的な例では最高で200℃で融解し、ペースト又はゲルを形成し、熱及び電気の劣った伝導体である、化学組成物として定義される。
【0012】
ワックスを、それらの起源のような種々の基準に従って分類することができる。この場合、ワックスは、2つの主なグループ:天然及び合成ワックスに分けることができる。天然ワックスを、さらに化石ワックス(例えば石油ワックス)及び非化石ワックス(例えば動物及び植物ワックス)に分けることができる。石油ワックスは、マクロ結晶性(macrocrystalline)ワックス(パラフィンワックス)及び微結晶性ワックス(ミクロワックス(microwaxes))に分けられる。合成ワックスは、部分的合成ワックス(例えばアミドワックス)及び完全合成ワックス(例えばポリオレフィンワックス及びFischer-Tropschワックス)に分けられ得る。
【0013】
パラフィンワックスは石油源に由来する。それらは透明であり、臭いがなく、食物接触用に精製され得る。それらはある範囲の(主に)n-アルカン及びイソ-アルカンならびにいくつかのシクロアルカンを含有する。原(raw)又は粗パラフィンワックス(スラックワックス)は多数の短鎖アルカン(「油」)を有し、それらはさらに精製される時に除去される。種々の分布及び質のパラフィンワックスを得ることができる。精製は脱油、蒸留及び水素処理を含む場合がある。
【0014】
アルカンへの合成ガス(CO及びH)の触媒Fischer-Tropsch合成に由来する合成Fischer-Tropsch(FT)ワックス又は炭化水素は、主にn-アルカン、少数のイソ-アルカンを含有し、基本的に、シクロアルカンも例えば硫黄若しくは窒素のような不純物も含有しない。引き換えに(in return)、オレフィンの数は石油に基づくワックスより多く、異なる場合がある。従って石油に基づくパラフィンワックスとFischer-Tropschワックスとの間にはいくつかの大きな相違があり、それは例えば結晶化行動及び物性論的挙動のような性質の変動を生ずる。ワッ
クス/炭化水素のための別の源は、オレフィン性モノマーのオリゴマー化/重合と、おそらくこれに続く水素処理とから得られる生成物である。
【0015】
さらに、すべての炭化水素ワックスを種々の方法により酸化することができ、最も容易な方法は、好ましくは触媒の存在下でワックスを酸素又は空気と反応させる方法である。酸化は、分子の分枝又は炭素鎖長を変えずに種々の官能基(ヒドロキシル、カルボニルなど)を導入する。酸化の間に形成される官能基の典型的な比率は、1.5部のケトン対1部の酸対1部のエステル対1部のヒドロキシルである。形成される内部エステル(例えばラクトン)を、金属石鹸を用いるけん化により開環することができ、それは酸化ワックス分子中の他のカルボキシル部位もけん化する。例えば酸化ワックスの酸価により反映される酸化の程度を、酸化法により調整することができる。従って酸化炭化水素からなるワックスの割合を調整することができる。
【0016】
一般にポリエチレン(PE)ワックスはパラフィン又はFischer-Tropschワックスより高い分子量を有し、より高い粘度及び異なる化学構造を生ずる。ポリエチレンワックスの製造の故に、それらは例えば分子当たりに2つの炭素原子の差を有する多量の分子を有する。ほとんどのその酸化誘導体に関して同じことが当てはまる。ポリエチレンワックスは、側鎖におけるヘキシル分枝(hexyl-branches)まで種々の分枝のパターンも有する。
【0017】
特許文献1は、市販のモンタン酸に基づく合成エステルワックスか、石油パラフィン、合成パラフィン及びポリエチレンワックスのような炭化水素ワックスか、それらの酸化生成物かを含む、ポリ塩化ビニルのための潤滑剤組成物に言及する。20-80重量%の金属石鹸、及び/又は、金属石鹸と80-20重量%の炭化水素ワックスとを含有するワックスからなる組成物が用いられる場合のPVC生産率(output rate)に関する向上した性質が記載されている。特許文献1に従う金属石鹸は、アルカリ土類金属、亜鉛、カドミウム、錫又は鉛の脂肪酸又はワックス状酸との塩、例えばステアリン酸カルシウム、モンタン酸カルシウムである。金属石鹸を含有する合成エステルワックス(Hoechst-Wachs(登録商標) OP)及び101-103℃の融点を有するFTワックスの0.8:1.2の比率における組み合わせの使用は、PVCの最高の生産量を示した。
【0018】
特許文献2は、酸化された低粘度副生成物ワックス成分の導入を記載しており、それは溶融粘度を下げ、より高いレベルの金属ステアリン酸塩の導入を可能にし、それにより改良された低粘度潤滑剤組成物を与える。特に特許文献2は、少なくとも1種の酸化された低粘度ワックスと少なくとも1種の金属塩とを含む多成分潤滑剤組成物を提供し、前記金属塩は潤滑剤組成物の少なくとも約30重量%を構成する。酸化された低粘度副生成物ワックスは、140℃において約100センチポアズ以下の溶融粘度、約7~約24mg KOH/gの酸価を有する。金属塩成分と一緒になって、潤滑剤組成物は140℃において約450cps未満の粘度を有する。副生成物ワックスは高密度ポリエチレンの重合に由来し、例えばHoneywellからのA-C(登録商標) 629と呼ばれる。Fischer-Tropschワックスは可能なさらなるワックス成分として言及されるが、酸化ワックス成分としては言及されていない。
【0019】
特許文献3は、PVCのための潤滑剤としての酸化された分子副生成物ポリエチレンの金属塩に関する。
【0020】
特許文献4は、FT-ワックスと酸化ポリエチレンワックスの組み合わせを含む高い衝撃強度を有するPVC組成物を説明する。開示の目的は、生態学的理由のために危険になった鉛、バリウム、錫又はカドミウム化合物のような既存の安定剤に取って代わる、PV
Cのための適切かつ有効な安定剤を見出すことである。より低い粘度の故に溶融時間を延長することにより通常、衝撃強度を下げるFT-ワックス(Sasolwax H1のような)と、通常衝撃強度を向上させるが生産量を減少させる酸化PE-ワックス(例えばBASFからのLuwax OA2)との組み合わせは、より高い生産量及び衝撃強度を有する改良されたPVC-組成物を生ずることが見出された。
【0021】
特許文献5は、塩素化PVC-生成物のための適した潤滑剤として、FT-ワックス及び酸化PEワックスの組み合わせを教示している。特許文献5は、優れた物理的及び化学的抵抗性ならびに加工性を有する塩素化PVC組成物をもたらす、例えば0.75部のAC 629-A(酸化PE-ワックス)及び0.5部のFT-ワックスの使用を開示する。
【0022】
上記で引用したすべての文献は、引用によりその記載事項がすべての目的のために本明細書に取り込まれる。
【0023】
要するに、外部PVC潤滑剤の目的は、特に押出し又は融解又は両方に関して加工を容易にすること及び経済的なコストでこれを行うことである。高度に有効な潤滑剤組成物は、一般に炭化水素ワックス(例えばアルファオレフィンワックス及びポリエチレンワックス)のような少なくとも1種のワックス成分と、少なくとも1種の脂肪酸成分又は少なくとも1種の脂肪酸の金属塩との組み合わせからなることが見出された。しかしながら、ワックスと、脂肪酸又は脂肪酸の金属塩とを配合した既知の潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の粘度を不必要に上昇させ、潤滑剤を製造装置上で加工して仕上げるのを困難にすることも見出された。従ってもっと低い粘度の代替品が望まれる。
【0024】
ポリマーの加工への外部潤滑剤の影響を評価するために、ASTM D 2538に従う溶融時間及び溶融トルクを決定することができる。標準的なパラフィンワックスは、PVC中における0.8phrの濃度において約40秒の溶融時間及び50~60Nmの溶融トルクを有する。ポリエチレンワックスは同じ濃度で60~80秒の溶融時間及び約40Nmの溶融トルクを示す。Fischer-Tropschワックスは80~100秒の溶融時間及び30~40Nmの溶融トルクを与える。すべてのこれらの値は単に同じ標準に対する相対的な値である。
【0025】
それぞれ溶融時間と、溶融トルク又は外部及び内部潤滑との間の優れた妥協を達成するのが望ましい。外部潤滑から生ずるより低い溶融トルクは、より少ないエネルギー消費及びサージングを生ずるが、摩擦熱の減少の故により長い溶融時間及びゲル化の遅延も生ずる。溶融時間が長くなりすぎると、PVC顆粒の適切な溶融を達成できず、最終的な生成物の機械的性質(例えば衝撃強度及び引張強さ)は悪くなるであろう。そうするとより多くの内部潤滑が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【文献】米国特許第3,640,828号明細書
【文献】国際公開第2008/055091 A2号パンフレット
【文献】国際公開第2010/126813 A2号パンフレット
【文献】国際公開第2013/120792 A1号パンフレット
【文献】欧州特許第0 808 851 A2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明の目的は、上記の粘度、溶融時間及び溶融トルクならびに最終的な生成物の機械
的性質における利点を併せ持つ外部潤滑剤を含む、改良された塩素含有ポリマー組成物を提供することである。他の潤滑剤成分に取って代わり、それにより必要な全体的な濃度を低下させ、溶融時間と溶融トルクの間の関係を調整することにより潤滑剤組成物の効率を向上させることもできるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
-塩素含有ポリマーと、
-酸化炭化水素からなる画分;及び
-非酸化炭化水素からなる画分
を含む、ワックスと
を含む塩素含有ポリマー組成物であって、ここで両画分は
-40~100個の炭素原子の分子当たりの炭素原子の平均数(数平均);及び
-75重量%より多い炭素鎖が直線状である分子の量
を有する、塩素含有ポリマー組成物が、組成物の潤滑の向上により、及び溶融時間と溶融トルクの間の関係の調整により向上した加工性を示すことが驚くべきことに、見出された。
【0029】
塩素含有ポリマーは、好ましくはポリ塩化ビニルである。
【0030】
本発明に従う炭化水素は、アルカンのように炭素及び水素のみからなる分子である。酸化炭化水素は、好ましくは触媒の存在下で酸素又は空気と反応した炭化水素分子であり、各分子は、ヒドロキシル、カルボニル、カルボキシレート又はラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1つ以上の原子団で修飾される。
【0031】
好ましい態様において、酸化炭化水素からなる画分は、50~70mg KOH/g、より好ましくは52~64mg KOH/g、そして最も好ましくは56~60mg KOH/gのASTM 1386/7に従う酸価を有する。
【0032】
酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分の分子当たりの炭素原子の平均数(数平均)は、好ましくは45~80個の炭素原子、より好ましくは50~60個の炭素原子である。
【0033】
酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分の平均分子量は、好ましくは1000g/モル未満、より好ましくは650~1000g/モルの範囲内そして最も好ましくは700~900g/モルである。
【0034】
さらなる好ましい態様において、塩素含有ポリマー組成物中に含まれる両画分は30~80個の炭素原子の範囲内の分子の分布を有し、ここで分子の数は分子当たり少なくとも2つの連続する数の追加の炭素原子に及んで増加しているか又は減少している。
【0035】
さらに好ましいのは、炭素原子の少なくとも3つ、好ましくは5つの連続する数の列に及ぶ30~80個の炭素原子の範囲内での炭素原子の数当たりの分子の数における増加又は減少である。
【0036】
それは、分子当たりの炭素原子の数が、偶数個又は奇数個の炭素原子が優勢であることなく規則的に分布していることあるいは偶数個の炭素原子を有する分子の数と奇数個の炭素原子を有する分子の数が偏らない(equitable)であることも意味する。
【0037】
本発明に従う炭素原子の数当たりの分子の数は、直鎖状主鎖に沿ったすべての炭素原子と、主鎖上の分枝部分を形成する炭素原子とを含む炭素原子数のそれぞれについて、不飽
和及び飽和炭化水素を含む酸化及び非酸化炭化水素の分子数の合計を意味する。しかしながらラクトン原子団以外の環式分子はこの計算から排除される。
【0038】
さらなる好ましい態様において、塩素含有ポリマー組成物中に含まれる酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分は、30重量%より多い、好ましくは45重量%より多い、そして最も好ましくは48重量%より多い、奇数の炭素原子を有する分子を有する。
【0039】
さらなる好ましい態様において、酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分は、Fischer-Tropschワックスである。
【0040】
本発明に従う組成物中で用いられるFischer-Tropschワックスは、アルカンへの合成ガス(CO及びH)のコバルト触媒又は鉄触媒Fischer-Tropsch合成に由来するワックスとして定義される。この合成の粗生成物は、蒸留により液体及び種々の固体画分に分離される。ワックスは、主にn-アルカンを含有し、少数のイソ-アルカンを含有し、基本的にシクロアルカン又は例えば硫黄若しくは窒素のような不純物を含有しない。Fischer-Tropschワックスはメチルモノマー構成単位からなるので、それらは各炭素原子鎖長において均一に増加又は減少する分子の数が優勢である分子パターンを有する。これをワックス成分のGC分析において見ることができる。
【0041】
平均分子量は欧州ワックス連合(European Wax Federation)のEWF Method 001/03に従って得られるワックスのガスクロマトグラムから計算され得るか、あるいはゲル浸透クロマトグラフィー又は13C-NMRにより決定され得る。
【0042】
驚くべきことに、酸化炭化水素からなる画分の酸価、分子当たりの炭素原子の平均数(数平均)、分子当たりの炭素原子の数の分布ならびに分枝の型及び量(n-アルカン含有率及び分枝の構造により反映される)は、塩素含有ポリマー組成物の加工の間の優れた性能の達成のために非常に重要であることが見出された。
【0043】
酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分は、鎖が直線状である分子の好ましくは80重量%より多い、より好ましくは90重量%より多い、量を有する。
【0044】
酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分の分枝鎖状分子は、好ましくは10重量%より多い、より好ましくは25重量%より多いメチル分枝及び/又はモノマー構成単位としてのメチルを含有する、及び/又は、第4級炭素原子を含有しない。
【0045】
n-アルカン含有率及び分子当たりの炭素原子の平均数(数平均)は、ガスクロマトグラフィー(欧州ワックス連合のEWF Method 001/03)により決定され得る。分枝の型は、13C-核磁気共鳴分光法により決定される場合がある。
【0046】
低粘度もPVCの加工のために重要である。従って酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分は、好ましい態様において、140℃において20cpsより低いASTM D445-11aに従う粘度を有する。
【0047】
さらなる好ましい態様において、塩素含有ポリマー組成物は、酸化炭化水素からなる画分及び非酸化炭化水素からなる画分を含むワックスを含み、ここで該ワックスは、2~1
4mg KOH/g、好ましくは3~8mg KOH/g、そしてより好ましくは4~7mg KOH/gのASTM 1386/7に従う酸価により定義される。
【0048】
ワックスのASTM D 938に従う凝固点は、好ましくは90~110℃、より好ましくは95~105℃、そして最も好ましくは98~102℃である。
【0049】
好ましい態様において、酸化炭化水素からなる画分及び非酸化炭化水素からなる画分は、一緒になって、0.1~1phr、より好ましくは0.2~0.9phr、そして最も好ましくは0.6~0.85phrの濃度で塩素含有ポリマー組成物中に存在する。
【0050】
さらなる好ましい態様において、塩素含有ポリマー組成物は、組成物中に存在する酸化炭化水素からなる画分と非酸化炭化水素からなる画分との合計に対して2~15重量%の酸化炭化水素からなる画分、好ましくは5~12重量%、そしてより好ましくは10重量%の酸化炭化水素からなる画分を含む。
【0051】
本発明の1つの態様に従うと、塩素含有ポリマー組成物中の酸化炭化水素からなる画分及び/又は非酸化炭化水素からなる画分は粒子からなり、ここで粒子の90%は106μm~2000μmのASTM D185に従う粒度を有する。
【0052】
さらに、塩素含有ポリマー組成物は、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、二酸化チタン、錫、カルシウム/亜鉛、鉛又は有機に基づく安定剤、好ましくは錫又は鉛安定剤又はそれらの組み合わせの群から選ばれる、0.1~5phrの他の添加剤を含む場合がある。
【0053】
塩素含有ポリマー組成物は、好ましくは合計で2phrより少ない全潤滑剤を含む。
【0054】
本発明は、押出しによる塩素含有ポリマー組成物の加工方法も含み、ここで該塩素含有ポリマー組成物は、少なくとも上記で定義した酸化炭化水素からなる画分及び非酸化炭化水素からなる画分を含む。
【0055】
さらに、塩素含有ポリマー組成物中における外部潤滑剤としての、好ましくは2.0~4.0、より好ましくは2.5~3.5のASTM D 2538に従う溶融時間対溶融トルクの比を得るため、及び/又は、同じ外部潤滑剤の濃度でのkg/時におけるPVC生産量を増加させるため、及び/又は、kg/時における同じPVC生産量での外部潤滑剤の濃度を低下させるため、及び/又は、両方のための、上記で定義した0.1~2.5phrの酸化炭化水素からなる画分及び非酸化炭化水素からなる画分の使用が、特許請求の範囲に記載される。
【実施例
【0056】
種々のワックス及びワックス混合物(表1+2)をBlabender Plasticorder Labステーションにおいて試験し、PVC加工性を評価した。3つすべての加熱区域1、2、3を180℃に設定した。ミキサー熱速度(mixer heat
speed)は70rpmであり、圧力ラム(pressure ram)の圧力は2バールであった。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、ガスクロマトグラフィー法(GC)と比較してより長い分子を測定し得るので、より高い分子量データを生ずる場合がある。
【0060】
試験のために用いられるPVC調製物は以下のとおりであった:
【0061】
【表3】
【0062】
材料を120℃に加熱しながらHenschel高速ミキサーにおいて予備混合した。室温に冷ましたら、ASTM D 2538に従うBrabender上での溶融時間/トルク測定のために試料を採取した(表4における結果を参照されたい)。
【0063】
【表4】
【0064】
本発明のポリビニル組成物は、最高水準の製品と比較してそれより低い溶融トルク及び妥当な溶融時間を示し、それは組成物のより速く且つ向上した加工性を生ずる。
【0065】
さらなる実験において、表5に従う潤滑剤を含むPVC調製物を混合し、1.700rpmのモーター速度を有する平行二軸スクリュー押出し機における押出しによりASTM
D2466の圧力スケジュール40に従って白色1インチパイプを製造するのに用いた(結果は表6)。
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
実験は優れた質及び外観を有するパイプを与え、(通常1.5phrのパラフィンワックスから、パイプ1において1.12phrの本発明に従うワックス、ならびに、パイプ
2及び3において0.6phr及び0.85phrのワックスに)潤滑剤の必要量を有意に減少させることを可能にした。さらに、好ましいワックス組成物Cは、先行技術において用いられた酸化ポリエチレンワックスなしでパイプ押出しを可能にした。
【0069】
押出法の間のパイプの生産量を増加させることができたか、潤滑剤の量を減少させることができたか、又は両方かであり、それはPVC組成物中の潤滑剤の向上した効率を指す。