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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】ねじりばね特徴を有する薬剤送達装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/20 20060101AFI20220318BHJP
   A61M 5/315 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
A61M5/20 510
A61M5/315 550J
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019529600
(86)(22)【出願日】2017-12-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2017081107
(87)【国際公開番号】W WO2018100126
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-11-16
(31)【優先権主張番号】16201782.6
(32)【優先日】2016-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】596113096
【氏名又は名称】ノボ・ノルデイスク・エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】クリトモーセ, ラーシュ ペータル
(72)【発明者】
【氏名】イェンセン, ニコライ ミカエル
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0151053(US,A1)
【文献】特開平01-108430(JP,A)
【文献】特表2016-533219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/20
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤が充填されたカートリッジを備える、または収容するように適合された、薬剤送達装置(1)であって、
ハウジング(50、470)と、
装填されたカートリッジ(20)内のピストン(22)と係合して前記ピストン(22)を軸方向について遠位方向に変位させ、よって前記カートリッジから一定用量の薬剤を吐出させるように適合されたピストンロッド(410)と、
基準軸を画定する伝達部材(210、211)と、
前記伝達部材および前記ハウジングに結合され、前記基準軸と同軸に配置されたばね軸を画定する、螺旋ねじり駆動ばね(240)とを備え、
前記伝達部材は、初期位置と、設定されている最大用量に対応する完全回転位置との間で回転するように配置され、それにより前記駆動ばねは初期ひずみ状態から完全ひずみ状態にひずみ、更に、
前記ピストンロッドと係合し、前記伝達部材によって回転することにより吐出中に前記ピストンロッドを遠位側に移動させるように適合された、駆動部材(420、421)と、
前記伝達部材の回転によって、吐出すべき所望の用量を設定すること、およびそれに対応して前記駆動ばねをひずませることをユーザに同時に可能にする用量設定手段(110、160)であって、用量設定中に前記伝達部材と回転可能に結合し、第1の方向に回転して用量を設定するように適合された用量設定部材(110)を備える、用量設定手段(100、160)と、
前記用量設定部材を前記第1の方向に設定回転位置まで回転させることを可能にする解放可能ラチェット機構(162、222、168、179)と、
用量設定モードと吐出モードとの間で作動可能な解放手段(161、191、254、444)であって、前記解放手段が前記用量設定モードから前記吐出モードに作動されたときに前記ラチェット機構は解放される、解放手段と、を備え、
前記駆動ばね(240、1240)は複数のワイヤ巻線を備え、
前記駆動ばねは矩形断面(1243)を有するワイヤから少なくとも部分的に形成され、前記ワイヤは、高さが厚さよりも大きくなるように巻かれ、前記矩形ワイヤの各部分は、前記ばね軸の法線に対して初期の非ひずみ状態の傾斜角を有し、
前記駆動ばねを前記初期ひずみ状態から前記完全ひずみ状態にひずませた場合に、前記矩形ワイヤの少なくとも一部の前記傾斜角が増加し、この結果、対応する非線形ばね特性が得られる、
薬剤送達装置。
【請求項2】
前記初期ひずみ状態の前記ばねは、前記ばねを初期非ひずみ状態から前記初期ひずみ状態にひずませたときに傾斜したワイヤの少なくとも一部を備える、請求項1に記載の薬剤送達装置。
【請求項3】
非ひずみ状態にある前記ばねは、ゼロでない傾斜角を有する傾斜したワイヤの少なくとも一部を備える、請求項1または2に記載の薬剤送達装置。
【請求項4】
前記ばねの少なくとも一部について、前記ばねを前記初期ひずみ状態から前記完全ひずみ状態にひずませた場合にワイヤの非傾斜部分が傾斜するように、前記ばねが構成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項5】
前記ばねは、その初期状態において、その軸方向長さの少なくとも一部について、軸方向に間隔を空けたワイヤ巻線を備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項6】
駆動アセンブリであって、
第1の部材(220)と、
第2の部材(210、211)とを備え、前記第1の部材と前記第2の部材は回転軸に対応して各々に対して回転可能に配置されており、更に、
ばね軸と内部空間を画定する螺旋ねじりばね(240、1240)を備え、前記ばねは、前記ばね軸が前記回転軸に対応するように配置されて前記第1の部材および前記第2の部材に取り付けられ、前記ばねは複数のワイヤ巻線を備え、
前記第1の部材と前記第2の部材とが前記回転軸に対応して各々に対して回転するときに、前記ばねはひずみ状態にあり、
前記ばねは矩形断面を有するワイヤから少なくとも部分的に形成され、前記ワイヤは、高さが厚さよりも大きくなるように巻かれ、前記矩形ワイヤの各部分は、前記ばね軸の法線に対して初期傾斜角を有し、
前記ばねは、前記矩形ワイヤの少なくとも一部の前記傾斜角が増加する、回転ひずみ状態の動作範囲を有するように配置され、この結果、対応する非線形ばね特性が得られる、
駆動アセンブリ。
【請求項7】
前記第1の部材は回転しないように静止しており、
前記第2の部材は初期位置と、完全回転位置との間で回転されるように配置され、
それにより前記ばねが初期ひずみ状態から完全ひずみ状態にひずむようになっている、
請求項6に記載の駆動アセンブリ。
【請求項8】
前記ばねは、前記完全ひずみ状態の方向に回転させた場合に、直径がより小さくなる、請求項6または7に記載の駆動アセンブリ。
【請求項9】
非ひずみ状態にある前記ばねは、ゼロでない傾斜角を有する傾斜したワイヤの少なくとも一部を備える、請求項6から8のいずれか一項に記載の駆動アセンブリ。
【請求項10】
前記初期ひずみ状態にある前記ばねは、前記ばねを初期非ひずみ状態から前記初期ひずみ状態にひずませたときに傾斜したワイヤの少なくとも一部を備える、請求項6から9のいずれか一項に記載の駆動アセンブリ。
【請求項11】
前記ばねの少なくとも一部について、前記ばねを前記初期ひずみ状態から前記完全ひずみ状態にひずませた場合にワイヤの非傾斜部分が傾斜するように、前記ばねが構成されている、請求項10に記載の駆動アセンブリ。
【請求項12】
前記ばねは、その初期状態において、その軸方向長さの少なくとも一部について、軸方向に間隔を空けたワイヤ巻線を備える、請求項6から11のいずれか一項に記載の駆動アセンブリ。
【請求項13】
前記ばねは、その初期状態において、その軸方向長さの少なくとも一部について周囲の構造と接触しておらず、従って前記ばねをひずませるにつれて直径を変えることが可能である、請求項6から12のいずれか一項に記載の駆動アセンブリ。
【請求項14】
支持面を有する支持部材であって、前記ばねの前記内部空間内の少なくとも一部の中に配置されている、支持部材を更に備え、
前記ばねを前記完全ひずみ状態の方向に回転させた場合、前記ばねの少なくとも一部は前記支持面に係合する、
請求項13に記載の駆動アセンブリ。
【請求項15】
可動ピストン(22)を有する薬剤充填カートリッジ(20)を備える、またはそれを収容するように適合された、カートリッジホルダ(310、320)と、
前記ピストンと係合して前記ピストンを遠位方向に移動させ、それにより前記カートリッジから一定量の薬剤を吐出させるように適合されたピストンロッド(410)と、
回転可能な用量設定部材(110)と、
請求項6から14のいずれか一項に記載の駆動アセンブリであって、前記第1の部材はハウジング部材(220)の形態であり、前記第2の部材は伝達部材(210、211)の形態であり、前記第2の部材は、前記用量設定部材によって第1の方向に回転して用量を設定し前記ばねをひずませるように、かつ、前記ひずみ状態のばねによって反対の第2の方向に回転して、それにより直接的にまたは間接的に前記ピストンロッドを遠位方向に駆動するように適合されている、駆動アセンブリと、
を備える、薬剤送達装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には、ひずみ状態のねじりばねが解放された場合の所望のねじり伝達プロファイルを設計するための改善された選択肢を提供する、ばね駆動の駆動アセンブリに関する。特定の態様では、本発明は、薬剤を充填したカートリッジを収容するように適合され、または薬剤を充填したカートリッジを備え、ねじりばねを備える薬剤吐出機構によってカートリッジから用量を吐出するように適合された薬剤送達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の開示では、ほとんどの場合は糖尿病の治療について言及しているが、これは本発明の例示的な用途に過ぎない。
【0003】
薬剤送達装置は、薬剤および生物学的製剤を自己投与しなければならない患者の生活を大幅に改善した。薬剤送達装置は注射手段を有するアンプルに過ぎない単純な使い捨て装置から、ばね駆動でさえあり得る比較的複雑な充填済みの使い捨て装置を含む多くの形態を取ってもよく、または充填済みのカートリッジと共に使用するのに適合された耐久性のある装置であってもよい。それらの形態および種類に関わらず、それらは患者が注射薬および生物学的製剤を自己投与するのを手助けするのに大いに役立つことが立証されている。それらはまた、自己注射を行うことができない人々に注射剤を投与する際に介護者を大いに手助けしている。
【0004】
所与の薬剤送達装置については、所与の用量の薬剤が、ある程度一定の流量で吐出されることが望ましい。用量の吐出が速すぎると患者が不快に感じる場合があり、用量の吐出が遅すぎると患者はそれを不便と考える場合があり、これは、流量が低いと、例えば部分的につまったニードルに起因する実際の流動抵抗に打ち勝つには十分ではない場合があるからである。吐出機構がユーザによって駆動される手動装置の場合、ユーザは一定の投与力を保証しなければならないであろう。ばね駆動式装置の場合、機構の設計およびばねの特性が吐出流量を決める要因となり、例えば、予めひずませたばねが小用量に対して一定の最小流量を保証することになる。小用量を安全かつ確実に患者に送達することも重要なので、所与のばね駆動の吐出機構が小用量に対してかなり高い流量を送達するように設計され、この結果、典型的には、より大きな用量に対して初期的に(過大に)高い流量がもたらされる。
【0005】
適切な時間に適切な量で必要なインスリン注射を行うことは、糖尿病を管理するために不可欠である。すなわち、特定のインスリン投与法の順守は重要である。処方された投薬パターンの有効性を医療従事者が判断できるように、糖尿病患者は各注射の用量および時間のログを取ることが奨励されている。しかし、そのようなログは通常、手書きのノートに記載されているため、記載された情報をデータ処理のためにコンピュータにアップロードすることは簡単ではない場合がある。その上、患者が気付いたイベントのみが記録されるので、記録された情報が、患者の病気の治療において何らかの価値をもたらすためには、患者が各々の注射を記録することを忘れないことがノートシステムでは要求される。ログ内に記録の欠落または間違った記録があると、注射履歴を誤って認識することにつながり、従って今後の投薬に関する医療従事者の意思決定の基礎を誤認識させることになる。従って、薬物送達システムからの注射情報のロギングを自動化することが望ましい場合がある。
【0006】
これに対応して、用量の監視/取得機能を有する多数の薬剤送達装置が提供されており、例えば、米国特許出願公開第2009/0318865号、国際公開第2010/052275号、および米国特許第7,008,399号を参照されたい。しかし現在、大部分の装置にはそれらがない。近位側に配置されたロギングモジュールを有する耐久性のあるばね駆動式薬剤送達装置が、国際公開第2014/187814号に開示されている。
【0007】
所与の吐出された用量を確実に検出するためには、薬剤送達装置がそれ自体で所与の設定用量を正確かつ確実に吐出できることが重要である。最新の使い捨てのばね駆動式薬剤送達装置の一例は国際公開第2014/161952号に開示されており、対応する耐久性のあるばね駆動式薬剤送達装置は米国特許出願公開第2011/0054412号に開示されている。
【発明の概要】
【0008】
上記に鑑み、本発明の目的は、ねじり駆動ばねを備え、所与の設定用量を一定流量でコスト効率よく吐出することによって高いレベルの使いやすさと信頼性を保証するように適合された、薬剤送達装置を提供することである。
【0009】
本発明の更なる全般的な目的は、ひずみ状態のねじりばねが解放された場合の所望のねじり伝達プロファイルを設計するための、改善された選択肢を提供するばね駆動の駆動アセンブリを提供することである。
【0010】
本発明の開示では、上記目的のうちの1つまたは複数に対処することになる、または以下の開示ならびに例示的実施形態の記載から明らかな目的に対処することになる、実施形態および態様が説明される。
【0011】
従って、本発明の第1の態様では、薬剤充填カートリッジを備えるかまたは収容するように適合された薬剤送達装置が提供され、この装置は、ハウジングと、装填されたカートリッジ内のピストンと係合して遠位方向に軸方向に変位させることによってカートリッジから一定用量の薬剤を吐出させるように適合されたピストンロッドと、基準軸を画定する伝達部材と、伝達部材およびハウジングに結合され基準軸と同軸に配置されたばね軸を画定する螺旋ねじり駆動ばねとを備え、伝達部材は、初期位置と、最大用量が設定されることに対応する完全回転位置との間で回転するように配置され、それにより駆動ばねは初期ひずみ状態から完全ひずみ状態にひずみ、更に、ピストンロッドと係合し、伝達部材によって回転されることにより吐出中にピストンロッドを遠位側に移動させるように適合された、駆動部材、を備える。装置は更に、伝達部材の回転によって、ユーザが同時に、吐出すべき所望の用量を設定すること、およびそれに対応して駆動ばねをひずませることを可能にする用量設定手段を備え、用量設定手段は、用量設定中に伝達部材と回転可能に結合し、第1の方向に回転して用量を設定するように適合された、用量設定部材と、用量設定部材を第1の方向に設定回転位置まで回転させることを可能にする解放可能ラチェット機構と、用量設定モードと吐出モードとの間で作動可能な解放手段であって、解放手段が用量設定モードから吐出モードに作動されたときにラチェット機構は解放される、解放手段と、を備える。駆動ばねは複数のワイヤ巻線を備え、矩形断面を有するワイヤから少なくとも部分的に形成され、ワイヤは、高さが厚さよりも大きい高さ寸法および厚さ寸法を有してエッジ上(on edge)に巻かれ、矩形ワイヤの各部分は、ばね軸の法線に対して初期の非ひずみ状態の傾斜角を有し、駆動ばねを初期ひずみ状態から完全ひずみ状態にひずませた場合に、矩形ワイヤの少なくとも一部の傾斜角が増加し、この結果、対応する非線形ばね特性が得られる。
【0012】
少なくとも部分的に矩形断面を有するワイヤから形成されたばねを組み込むことにより、ばねを最適化し、それにより薬剤送達装置の吐出特性を最適化することが可能になる。更に、所与のワイヤ長に対する、より大きい断面積が、より小型の設計を可能にする。例示的な実施形態では、矩形ワイヤのアスペクト比(高さ/厚さ)は1.5より大きく、2より大きく、または3より大きい。
【0013】
用語「エッジ上」は、矩形の2つの寸法のうちの小さい方がばねの軸に面して矩形ワイヤが巻かれることを示す。傾斜角は、ばね軸の法線に対する角度偏差を示す。「初期非ひずみ」という用語は、例えば装置に装着される前のばねそれ自体を指し、一方「初期ひずみ」という用語は、装置に装着されているが用量が設定される前のひずみ状態のばねを指す。
【0014】
例示的な実施形態では、ばねは初期ひずみ状態において、ばねを初期非ひずみ状態から初期ひずみ状態にひずませたときに傾斜したワイヤの少なくとも一部を備える。ばねを予めひずみ状態にすることにより、ばねが略線形の特性を示すひずみ範囲、すなわちワイヤが傾斜し始める前のひずみ範囲、の外側でばねを動作させることができる。より早期の状態でワイヤが傾斜することを「助ける」ために、更に傾斜の方向を制御するために、駆動ばねを、矩形ワイヤの少なくとも一部を初期非ひずみ状態において予め傾斜させて製造してもよい。
【0015】
例示的な実施形態では、ばねは、初期ひずみ状態と完全ひずみ状態との間で動作させた場合に、ほぼ一定のトルク特性を有するように構成され、例えば得られるトルクは、±10%、±20%、または±30%の範囲内で一定であり得る。
【0016】
例示的な実施形態では、ばねの少なくとも一部について、ばねを初期ひずみ状態から完全ひずみ状態にひずませた場合にワイヤの非傾斜部分が傾斜するように、ばねが構成されている。
【0017】
ばねは、その初期状態において、その軸方向長さの少なくとも一部について、軸方向に間隔を空けたワイヤ巻線を備えるように、ばねを製造することができる。
【0018】
吐出された薬剤の量を判定するように適合された用量ロギング回路を備える薬剤送達装置について、判定は、ある量の薬剤を吐出する間のハウジングに対する伝達部材の回転量を直接的にまたは間接的に判定することを備え、回転速度が低下したことに起因して大用量が吐出された場合には、流速がより一定であることによって回路が初期にも回転を安全に検出することを手助けする。
【0019】
本発明の、より全般的な態様では汎用の駆動アセンブリが提供され、駆動アセンブリは、第1の部材と、第2の部材とを備え、第1の部材と第2の部材は回転軸に対応して各々に対して回転可能に配置されており、更に、ばね軸と内部空間を画定する螺旋ねじりばねを備える。ばねは、第1の部材および第2の部材に取り付けられ、ばね軸は回転軸に対応するように配置され、ばねは複数のワイヤ巻線を備え、第1の部材および第2の部材が回転軸に対応して互いに対して回転した場合、ばねはひずみ状態にある。ばねは矩形断面を有するワイヤから少なくとも部分的に形成され、ワイヤは、高さが厚さよりも大きい高さ寸法および厚さ寸法を有してエッジ上に巻かれ、矩形ワイヤの各部分は、ばね軸の法線に対して初期の傾斜角を有し、ばねは、矩形ワイヤの少なくとも一部に対する傾斜角が増加するような回転ひずみ状態の動作範囲を有するように配置され、この結果、対応する非線形ばね特性が得られる。ワイヤの所与の部分に対する初期傾斜角はゼロであってもよい。
【0020】
少なくとも部分的に矩形断面を有するワイヤから形成されたばねを組み込むことにより、ばねを最適化し、それにより所与のばね駆動装置の駆動特性を最適化することが可能になる。更に、所与のワイヤ長に対する、より大きい断面積が、より小型の設計を可能にする。例示的な実施形態では、高さ/厚さの比は1.5より大きく、2より大きく、または3より大きい。
【0021】
例示的な実施形態では、ばねは、所与の初期ひずみ状態と完全ひずみ状態との間で動作させた場合に、ほぼ一定のトルク特性を有するように構成され、例えば得られるトルクは、±10%、±20%、または±30%の範囲内で一定であり得る。
【0022】
例示的な実施形態では、第1の部材は回転しないように静止しており、第2の部材は初期位置と完全回転位置との間で回転するように配置され、それにより、ばねを初期ひずみ状態から完全ひずみ状態までひずませる。代替として、初期の略線形のばね特性が望ましい場合は、ばねを完全非ひずみ状態からひずませてもよい。
【0023】
ばねは、完全ひずみ状態に向かって回転させた場合に、直径がより小さくなるように配置されてもよい。非ひずみ状態において、ばねは傾斜した、すなわちゼロでない傾斜角を有するワイヤの少なくとも一部を備えてもよい。ばねは初期ひずみ状態において、ばねを初期非ひずみ状態から初期ひずみ状態にひずませたときに傾斜したワイヤの少なくとも一部を備えるように配置されてもよい。代替としてまたは加えて、ばねの少なくとも一部について、ばねを初期ひずみ状態から完全ひずみ状態にひずませた場合にワイヤの非傾斜部分が傾斜するように、ばねが構成されていてもよい。
【0024】
ばねは、その初期状態において、その軸方向長さの少なくとも一部について、軸方向に間隔を空けたワイヤ巻線を備えてもよい。それに対応して、ばねは、その長さに沿って変動する直径を有してもよい。例示的な実施形態では、ばねはその初期状態において、その軸方向長さの少なくとも一部について周囲の構造と接触しておらず、従ってばねをひずませるにつれて直径を変えることが可能である。駆動アセンブリは更に、支持面を有する支持部材を備えてもよく、支持部材はばねの内部空間の少なくとも一部の中に配置され、それにより、ばねを完全ひずみ状態に向かって回転させた場合に、ばねの少なくとも一部が支持面と係合する。
【0025】
汎用駆動アセンブリのねじりばね用の追加の設計選択肢を、対応する効果を伴って、本発明の初期に開示された薬剤送達装置の態様に組み込んでもよい。
【0026】
特定の実施形態では、可動ピストンを有する薬剤充填カートリッジを備えるか、またはそれを収容するように適合されたカートリッジホルダと、ピストンと係合してピストンを遠位方向に移動させ、それによりカートリッジから一定量の薬剤を吐出させるように適合されたピストンロッドと、回転可能な用量設定部材と、を備える薬剤送達装置が提供される。装置は更に上述の駆動アセンブリを備え、第1の部材はハウジング部材の形態であり、第2の部材は伝達部材の形態であり、第2の部材は、用量設定部材によって第1の方向に回転されて用量を設定しばねをひずませ、ひずみ状態のばねによって反対の第2の方向に回転されて、それにより直接的にまたは間接的にピストンロッドを遠位方向に駆動するように適合されている。
【0027】
本明細書で使用する場合、用語「薬剤」は、液体、溶液、ゲルまたは微細懸濁液など、制御された形態でカニューレまたは中空針などの送達手段を通過可能で、かつ1つまたは複数の薬剤を含有する任意の流動性医薬製剤を包含することを意味する。薬剤は、単一の薬剤化合物の薬剤製剤、または単一のリザーバからの予め混合されたあるいは共製剤化された多薬剤化合物の薬剤製剤であってもよい。代表的な薬剤としては、ペプチド(例えば、インスリン、インスリン含有薬剤、GLP-1含有薬剤、ならびにそれらの誘導体)、タンパク質、ホルモン、生物由来薬剤または活性薬剤、ホルモンおよび遺伝子ベースの薬剤、栄養製剤、ならびに固体(調剤された)または液体の両方の形態の他の物質が挙げられる。例示的な実施形態の説明では、インスリンおよびGLP-1含有薬剤の使用が言及されるが、これには、その類似体、ならびに1つまたは複数の他の薬剤との組み合わせが含まれる。
【0028】
以下では、図面を参照して本発明を更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】薬物カートリッジが装着された前面装填式の薬剤送達装置を示す。
図2図1の薬剤送達装置の構成要素を分解図で示す。
図3A図2の装置の構成要素の第1のグループを前面等角図で示す。
図3B図3Aの構成要素の第1のグループを背面等角図で示す。
図4A図2の装置の構成要素の第2のグループを前面等角図で示す。
図4B図4Aの構成要素の第2のグループを背面等角図で示す。
図5A図2の装置の構成要素の第3のグループを前面等角図で示す。
図5B図5Aの構成要素の第3のグループを背面等角図で示す。
図6A図1の装置を断面前面等角図で示す。
図6B図1の装置を断面背面等角図で示す。
図7A図6Aに示すような装置の近位部分を示す。
図7B図6Bに示すような装置の近位部分を示す。
図8A】用量設定モードにおける吐出機構の一部を第1の部分切欠図で示す。
図8B】用量吐出モードにおける図8Aの吐出機構を示す。
図9A】用量設定モードにおける吐出機構の一部を第2の部分切欠図で示す。
図9B】用量吐出モードにおける図9Aの吐出機構を示す。
図10A図6に示すタイプの螺旋ばねを前面等角図で示す。
図10B図10Aの螺旋ばねを断面図で示す。
図11A】矩形断面を有するワイヤから巻かれた螺旋コイルのコンピュータによる有限要素解析のスクリーンショットを示す。
図11B】矩形断面を有するワイヤから巻かれた螺旋コイルのコンピュータによる有限要素解析のスクリーンショットを示す。
図11C】矩形断面を有するワイヤから巻かれた螺旋コイルのコンピュータによる有限要素解析のスクリーンショットを示す。
図12】得られたトルクを、モデルばねをねじった回転数の関数として、理想化されたダイアグラムで示す。
図13】ばねワイヤの二次慣性モーメントを計算するためのパラメータを示す。
図14】ばねワイヤをその初期状態から傾斜させたときの、ばねワイヤの二次慣性モーメントの変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図面では、類似の構造は、類似の参照番号によって主に識別される。
【0031】
以下の用語、例えば「上方(upper)」および「下方(lower)」、「右(right)」および「左(left)」、「水平(horizontal)」および「垂直(vertical)」、または同様の相対表現が使用される場合、これらは添付の図面のみを言及し、必ずしも実際の使用状況を言及しない。示されている図は概略図であり、それゆえ、異なる構造の構成、およびそれらの相対寸法は、例示目的の役割を担うことのみを意図している。部材または要素という用語が所与の構成要素に使用される場合は、概して、記載される実施形態では構成要素が単一構成要素であることを示すが、代替として、同じ部材または要素が、記載された構成要素のうちの2つ以上が例えば単一の射出成形部品として製造されたものなど、一体となった構成要素として提供されることが可能であるので、複数の副構成要素を備えてもよい。部材が互いに軸方向自在に装着されていると規定される場合は、概して、部材が典型的には規定された停止位置の間で互いに対して移動できることを示し、これに対して、部材が互いに回転自在に装着されていると規定される場合は、概して、部材が自由にまたは規定された停止位置の間のいずれかで、互いに対して回転できることを示す。用語「アセンブリ」および「サブアセンブリ」は、所与の組み立て手順中に、記載された構成要素が、一体となったまたは機能的な、アセンブリまたはサブアセンブリを提供するように組み立てられ得ることを必ずしも意味せず、機能的により密接に関連して一緒にグループ化された構成要素について説明するためにのみ使用される。
【0032】
図1を参照して、ペン形状薬剤送達装置1を説明する。より具体的には、図1のペン装置1は、キャップ部分2(図6A参照)、および一体型ハウジング50を有するメイン部分を備える。薬剤送達装置は、ハウジングの近位部分に配置された吐出アセンブリと、ハウジングの遠位部分に配置されたカートリッジホルダアセンブリとを備える。最近位の回転可能な複合型用量設定および解放部材(または「ボタン」)10は、表示窓52に示される所望の用量の薬剤を手動で設定する役割を担い、次に、ユーザが最近位ボタン表面12上に力を加えたとき、複合型用量設定および解放ボタンが遠位側に移動することにより作動された場合に、薬剤は吐出される。ボタンは、電子回路を完全にまたは部分的に収容して、設定されたおよび/または吐出された薬剤の用量を決定することを可能にするように適合されていてもよい。決定された用量に関するデータは、外部の受信機に送信されてもよく、かつ/または、例えば透明なボタン端部カバー12を通して視認可能なディスプレイ上に表示されてもよい。カートリッジホルダアセンブリは、遠位のニードル貫通可能なセプタムと、ニードルアセンブリ用の結合手段21とを備える薬剤充填透明カートリッジ20を収容し保持するように適合されており、ハウジングは開口部51を備え、カートリッジの内容物を検査できるようになっている。カートリッジは、例えば、インスリン、GLP-1、または成長ホルモン製剤を含有してもよい。装置は、カートリッジホルダアセンブリの遠位収容開口部を通して、ユーザによって新しいカートリッジが装填されるように設計されており、カートリッジはピストン22を備え(図6A参照)、吐出機構の一部を形成するピストンロッドによって駆動される。遠位開口部は遠位リング部材30の回転によって開放および閉鎖され、遠位リング部材30は開口部31を備え、カートリッジの最遠位部分の内容物を検査することを可能にしている。図1は前面装填式の薬剤送達装置を開示しているが、本発明の態様はまた、従来の取り外し可能な背面装填式のカートリッジホルダを備える薬剤送達装置に組み込むことができる。
【0033】
図2は、図1に示すペン形状薬剤送達装置1を分解図で示す。本発明の態様は、そのようなペンの作動原理に関連するので、完全なペン機構およびその特徴の例示的な実施形態について説明するが、それらのほとんどは、本発明の態様と共に機能し、本発明の態様を支持するように適合された特徴および設計の例示的な例に過ぎない。ペンは、用量設定およびロギングアセンブリ100(または単に用量設定アセンブリ)と、エンジンアセンブリ200と、カートリッジホルダサブアセンブリおよび駆動ホルダサブアセンブリ400を有するカートリッジホルダおよび駆動アセンブリ300である3つの主要アセンブリ、ならびに外側ハウジングアセンブリ500およびキャップアセンブリ600を備えるように説明される。アセンブリは機能ユニットとして説明されているが、いくつかの機能は、アセンブリが互いに装着されてペン形状薬剤送達装置を形成するときにのみ実現される。図3A図3B図4A図4B図5Aおよび図5Bを参照して、様々な構成要素、およびそれらの構造的ならびに機能的な関係について更に詳細に説明する。
【0034】
より具体的には、図3Aおよび図3Bを参照すると、用量設定アセンブリ100は、ハウジング部分、電子ロギングモジュールアセンブリ、およびラチェットサブアセンブリを備える。ハウジング部分は、近位端部が透明窓112で閉じられた近位管状用量設定および解放ボタン部材110(または略して用量ボタン)と、近位端部の近傍に内側周囲フランジ121を有する遠位管状スカート部材120とから形成される。スカート部材は、軸方向に向き遠位側に面するスプライン128の内側アレイ、ならびに軸方向に向いた一対の対向するガイドスロット122を備える。遠位周囲縁部には、遠位側に面する歯125のアレイが配置され、投与終了制御部材と係合するように適合されている(下記参照)。組み立てられたとき、2つのハウジング部材は、円周フランジ121の近位側にロギング区画を形成し、円周フランジの遠位側にラチェット区画を形成する。
【0035】
ロギングモジュールアセンブリは、中央開口部132を有する遠位装着面131を有するハウジング部材130と、多層スタックに折り畳まれた可撓性PCB140と、バッテリ145およびバッテリクリップ146と、ハウジング蓋138と、LCDフレーム139とを備える。PCB上には電子回路構成要素が、例えばマイクロコントローラ、LCD149、ディスプレイドライバ、メモリ、および無線通信手段が装着されている。PCBは、例えば接着手段によって、ハウジングの遠位装着面131上に装着するように適合された円盤状のセンサ部分142を備え、センサ部分は複数の円弧状の目立たない接触領域を備え、接触領域は、用量放出中に伝達部材の回転量を決定するように適合された回転センサの静止した第1の部分を形成する(下記参照)。PCBは更に、用量設定モード、中間モード、および吐出モードを有する横方向に面するモードスイッチアレイ143を備え、これは欧州特許第16157986.7号[NN 150094]に更に詳細に記載されている。図示した実施形態では、ハウジング部材130、ハウジング蓋138、およびLCDフレーム139はスナップ接続によって組み立てられる。センサ部分142とは別に、PCB140およびその上に装着された電子部品はハウジングの内部に配置され、それによりロギングモジュールを形成する。
【0036】
回転センサの第2の可動部分は、センサ接触領域と回転摺動係合するように適合された複数の可撓性接触アームを備える、可撓性接触ディスク155によって形成される。接触ディスク155は、円盤状のキャリア部材150の近位面に取り付けられるように適合されており、キャリア部材は、スカート部材120の円周フランジ121上に配置されるように適合された円周遠位側に向いた縁部151、ハウジング中央開口部132内に収容されるように適合された近位管状延長部152、ならびに解放部材190(以下参照)および伝達チューブ210(以下参照)の近位端部に係合し移動不能にロックされるように適合された遠位コネクタチューブ部分153を備える。
【0037】
回転センサに加えて、可撓性接触ディスク155およびPCBセンサ部分142もまた、投与終了トリガ部材270によって作動される投与終了スイッチを形成する(下記参照)。
【0038】
ラチェットサブアセンブリは、管状ラチェット部材160と、リング状の駆動リフト制御部材170と、モードスイッチアーム180と、管状解放部材190と、螺旋状ラチェットばね185とを備える。
【0039】
ラチェット部材160は内面を有する管状本体部分を有し、内面には、駆動チューブ解放部材上の対応するスプラインと摺動係合するように適合された複数の長手方向に配置されたスプライン161を備える。ラチェット部材は遠位側に向いた面を備え、その面上には、中央開口部の周囲にラチェット歯構造162の内側円周アレイ(ここでは24個)が配置され、各歯は、傾いたラチェット面と、ハウジング部材の断面に垂直に向いた停止面とを有する三角形構成を有し、ラチェット歯は、エンジンハウジング部材上の対応するラチェット歯とインタフェースするように構成され(下記参照)、それにより一方向ラチェットを提供する。ラチェット部材160は更に、遠位側に面するラチェット歯構造168の第2のアレイ(ここでは24個)を有する外側円周フランジ169を備え、各歯は、「傾きがより大きい」リフト面、および「傾きがより小さい」駆動面を有する構成を有する。
【0040】
駆動リフト制御部材170は、用量設定部材スプライン128とインタフェースするように適合された複数の長手方向に配置されたスプライン178を有する外側円周面を有するリング状部材として、ならびに、近位円周端部上に配置され近位側に面する複数のドライブリフト歯179として構成され、各歯は、傾きがより小さい駆動面と、ラチェット部材160の対応する駆動リフト面と係合するように適合された傾きがより大きいリフト面とを有する三角形の形状を有する。制御部材は更に、スカートガイドスロット122内に収容されるように適合された一対の対向するガイド突起部172、ならびにモードスイッチアーム180の遠位端181に係合し、遠位端部181を装着するように適合された周辺接続構造171を備える。
【0041】
管状解放部材190は、ラチェット部材160上の対応するスプライン161と摺動係合するように適合された外側スプライン191の外側アレイを備える。解放部材は更に、解放部材をキャリア部材150の遠位コネクタチューブ部分153に固定して(すなわち、軸方向に、および回転しないようにロックして)装着することを可能にする(スナップ)ロック手段を備える。モードスイッチアーム180は、制御部材に取り付けられるように適合された遠位端部181と、PCBモードスイッチアレイ143と摺動係合してスイッチを異なるモード間でシフトさせるように適合された一対の接点を有する近位端部183とを備える。スカート部材内に装着された場合、モードスイッチアームはスカートフランジ内の切欠き内にガイドされる。ラチェットばね185は、スカートフランジ121とラチェット部材の外周フランジ169との間に配置されてそれらと係合し、それにより軸方向に移動可能なラチェット部材を付勢して制御部材と係合させるように適合されている。設定用量を放出するために用量ボタンを遠位側に動かすとき、ラチェットばね185は用量ボタン戻しばねとしても機能する。
【0042】
エンジンハウジング部材と組み立てられ、エンジンハウジング部材と組み合わされた場合(下記参照)、ラチェット構成は解放可能な一方向ラチェットと見なすことができるものを提供し、駆動構成は、用量ボタンを第1の方向に回転させることによって、ラチェット歯に対応する増分で用量を設定することを可能にし、リフト構成により、用量ボタンを反対の第2の方向に回転させた場合に、設定用量を減少させる(または「ダイヤルダウンさせる(dialled down)」)ことが可能なようになっている。そのようなラチェット構成は、欧州特許出願公開第2016/053965号に、より詳細に記載されている。ラチェット駆動面にわずかな傾きを設けることにより、最大用量が設定されたときにラチェットが持ち上げられ、これにより、欧州特許出願第16186501.9号に記載されるような過大トルク安全機構がもたらされる。
【0043】
組み立て中、ラチェットサブアセンブリ部材は最初にスカート部材内に装着され、これら部材は、スカートガイドスロット122と係合する制御部材170を介して所定位置に保持され、モードスイッチアームは近位側に延びスカートの外に出る。次に、装着された接触ディスク155を有するキャリア部材が、解放部材170とスナップ嵌合して係合することにより装着され、これにより両方の部材がスカートフランジ121の各々の側に固定される。次に、予め組み立てられたロギングモジュールは、接触ディスクまたはモードスイッチアームのそれぞれに係合するように配置される。最後のステップとして、ボタン部材110はスカート部材120に装着され、例えば溶接によってスカート部材120に取り付けられる。このようにして、電子ロギングモジュールおよびラチェットサブアセンブリを備える内蔵型の用量設定アセンブリ100が提供される。
【0044】
代替的な実施形態では、ロギングモジュールを省いて「ダミー」モジュールを装着することができ、これにより、同じ機能を有するがロギング機能は持たないペン装置が提供される。
【0045】
図4Aおよび図4Bに示すように、エンジンアセンブリ200は、二部分からなる管状伝達部材210、211、管状エンジンハウジング部材220、伝達部材とエンジンハウジング部材との間に配置される管状スケールドラム230、駆動ばね240、リング状クラッチロック部材250、および投与終了トリガアセンブリを備える。
【0046】
伝達部材は機能的には単一部材であるが、図示した実施形態では、伝達部材は、内側部材および外側部材のそれぞれに付いている結合手段212、213を介して互いに結合された、より長い内側管状部材210およびより短い外側管状スカート部材211を備え、これにより、回転方向および軸方向にロックされた接続が提供されるが、2つの部材が「揺動する」ことが可能になり、それにより組み立てられたペン装置での公差に、より良好に適応する。
【0047】
スカート部材211は、遠位端部に、結合部材上の対応するスプライン構造444と係合するように適合された軸方向に向き遠位側に面するスプライン214の内側アレイ(下記参照)、ならびに外側円周フランジ215を備える。管状部材は、内容物終了部材用の一対の長手方向に延びる対向する内側駆動スロット216E(下記参照)、スケールドラム230用の長手方向に延在する複数の外側駆動フランジ216、ならびにキャリア部材150を固定して係合させるように適合されたスナップ結合手段217を備える。管状部材は、より広い遠位部分およびより狭い近位部分を有する段付き構成を有し、これが近位側に面する円周方向停止面218を提供する。管状部材は更に、駆動ばねの遠位端部のための取り付け構造、ならびに投与終了トリガ部材のための一対の対向する長手方向ガイド溝219(下記参照)を備える。
【0048】
エンジンハウジング部材220は、スケールドラムのねじ山構造232と係合するように適合された内側螺旋ねじ221(下記参照)、およびユーザがスケールドラム上に印刷された数字を観察することを可能にする横方向窓開口部229を備える。近位端部では、エンジンハウジング部材は近位側に面する小径延長部を備え、その上にラチェット歯構造222(ここでは24個)の円周方向アレイが中央開口部の周りに配置されており、各歯は、傾いたラチェット面と、ハウジング部材の断面に垂直に向いた停止面とを有する三角形構成を有し、ラチェット歯は、ラチェット部材160上の対応するラチェット歯とインタフェースするように構成され(下記参照)、それにより一方向ラチェットを提供する。小径延長部は、用量設定部材スプライン128とインタフェースするように適合された複数の長手方向に配置されたスプライン228を有する外側円周面を有する。小径延長部は更に、投与終了制御部材を収容するように適合された一対の対向するガイドスロット構造225を備える(以下参照)。概して小径延長部に対応して、管状内側ハウジング部分が遠位側に延びてハウジングの中に入り、内側ハウジング部分は、遠位端部に、伝達部材停止面218に対する軸方向停止面と、トリガばね275用の支持との両方として機能する内側円周フランジを備える(下記参照)。
【0049】
スケールドラム230は、伝達部材210とエンジンハウジング部材220との間の円周空間内に配置され、スケールドラムは、長手方向スプライン231を介して伝達部材に回転可能に固定され、協働するねじ山構造232を介してエンジンハウジング部材の内側螺旋ねじ山221と回転ねじ係合しており、それにより、ドラムが伝達部材210によってハウジングに対して回転する場合、螺旋状の数字列がエンジンハウジング部材220内の窓開口部229を通る。スケールドラムの近位端部は停止面234を備え、停止面234はエンジンハウジング部材220内の対応する停止面と係合し、それにより初期(または終了)回転位置用の回転停止部を提供するように適合され、スケールドラムの遠位端部は更なる停止面233を備え、更なる停止面233は、用量設定中に最大用量、例えば100単位のインスリン(IU)に達した場合に、エンジンハウジング部材の内側表面上の対応する停止面と係合するように適合されている。停止面234はまた、投与終了トリガ制御部材260を解放する役割を担う(下記参照)。
【0050】
駆動ばね240は螺旋状の開放巻きねじりばねの形態であり、伝達部材に取り付けるための遠位フック部分(図10A参照)と、エンジンハウジング部材に取り付けるための近位フック部分とを有する。組み立てられた状態では、駆動ばねは所望の初期トルクを提供するように予め巻かれている。図示した実施形態では、ばねは矩形ワイヤから形成され、寸法の長い方が横断面に対応するように配置されている。矩形断面を有するワイヤから巻かれたねじりばね内のワイヤは、ひずみ状態では負荷下で傾斜する(回転する)傾向があり、これは断面のアスペクト比(高さを厚さで除したもの)が高いほど、より顕著である。矩形ワイヤが傾斜している場合、その形状はばねの中心軸に対して角度変位することになり、従って、二次慣性モーメントは減少する。ばねに負荷が与えられている間、二次慣性モーメントが減少すると共に、ばねの剛性は漸進的に低下し、これが減衰する勾配を有する非線形のばね特性をもたらす。ある時点で、減少する剛性と増加する負荷とが同じ大きさを有するとき、ばねのトルクは、ばねの角度たわみに対してほぼ一定となる。矩形ワイヤから形成されたばねに関するこれらの態様は、以下に、より詳細に説明される。
【0051】
この傾向を利用することにより、円形断面を有するワイヤから巻かれた典型的なねじりばねにおいては、ばねのたわみに比例してトルクが漸増し、その結果、ばねの負荷下の力が初期の予め負荷を加えた状態での力よりも大きくなるのとは対照的に、ほぼ一定のトルクをピストンロッドに伝達するように駆動ばねを設計して、ほぼ一定の投与力を実現することができる。ねじりばね240の代替構成が図10Aおよび図10Bに示され、以下に説明する。矩形ワイヤから巻かれたねじりばねの特性は、図11から図14を参照して以下に、より詳細に説明される。
【0052】
リング状クラッチロック部材250は、クラッチ部材440上の対応する外側スプライン444と摺動係合するように適合された複数の長手方向に配置されたスプライン254を備える内側表面(下記参照)と、駆動ハウジング内の対応する溝475に非回転だが軸方向自在に係合するように適合された一対の対向するロック突出部255(下記参照)とを備える。各ロック突出部255は、対応する溝475内に突出部が遊び無しで収容されることを可能にする可撓性アームを備える。クラッチロック部材は、伝達部材の外側円周フランジ215に、軸方向にはロックされているが回転自在に装着されることを可能にする(スナップ)結合手段を備える。
【0053】
投与終了トリガアセンブリは、リング状制御部材260、トリガ部材270、およびトリガばね275を備える。制御部材260は、エンジンハウジング部材ガイドスロット構造225と係合するように適合された一対の対向する横方向に突出した制御アーム261を備え、制御アームはそれぞれ、スカート部材120上の遠位側に面する歯アレイ125と係合するように適合された複数の近位側に面する歯265を備える。トリガ部材270は、遠位リング部分271と、一対の対向した近位トリガアーム272とを備え、リング部分はトリガ部材に(スナップ)接続されるように適合され、この接続によりトリガ部材は回転することが可能である。2つのトリガアームは、伝達部材ガイド溝219内をガイドされ、作動時にキャリア部材150の一対の対応する開口部を通って近位側に移動するように適合されている。トリガばね275は、エンジンハウジング部材220の管状内側ハウジング部分内に配置され、遠位側で内側円周フランジに係合し、近位側でトリガ制御部材260に係合する。
【0054】
組み立てられた状態では、トリガ制御部材260、エンジンハウジング部材ガイドスロット225、およびスカート部材歯アレイ125は相互作用し、その結果、スケールドラムをそのゼロ初期位置から離れる方向に回転させたときは、用量ボタン110をトリガばね275の付勢力に抗して遠位側に移動させた場合、トリガ制御部材を付勢された遠位位置に「留める(parked)」ことができ、トリガばね275は次に、トリガ制御部材260を介して二次的な用量ボタン戻しばねとしても機能し、スケールドラムがその初期のゼロ位置に戻された場合は、留められた制御部材は解放され近位側に移動され、これによりトリガ部材は近位側に移動され、それにより投与終了スイッチが作動される。同時に、トリガアーム272の近位端部を(スイッチを介在させて)ハウジング部材に強制的に係合させると、投与終了「クリック」が発生する。トリガ構成は、欧州特許出願公開第2016/065807号に更に詳細に記載されている。
【0055】
カートリッジホルダおよび駆動アセンブリ300は図5Aおよび図5Bに示すように、カートリッジホルダサブアセンブリおよび駆動サブアセンブリ400を備え、これらは、両方のアセンブリのための「プラットフォーム」として機能する遠位ハウジング部材470を介して構造的に一体化されている。カートリッジホルダは、カートリッジを収容し保持するように適合され、カートリッジホルダは、カートリッジを遠位開口部を通して近位方向に挿入および収容することができる収容状態と、挿入されたカートリッジを動作位置で保持する保持状態との間で作動可能であり、それにより前面装填式のカートリッジホルダアセンブリが提供される。カートリッジが挿入されカートリッジホルダが閉じられた場合、ドライバサブアセンブリの構成要素は、解放された伝達部材の回転運動を、ピストンロッドの遠位方向の軸方向運動に変換する役割をする。カートリッジホルダが開かれると、(組み立てられたペンの中で)駆動サブアセンブリも解放され、それによりピストンロッドを近位位置に戻すことが可能である。
【0056】
駆動サブアセンブリは、二部分からなる管状駆動部材420との第1のねじ係合の状態と、管状ナット部材430との第2のねじ係合の状態にある、二条ねじ付きピストンロッド410を備える。ドライバサブアセンブリは更に、管状クラッチ部材440と、駆動部材上でねじ係合の状態で配置された内容物終了部材450と、環状ブレーキ部材460、ならびに上述の遠位ハウジング部材470を備える。
【0057】
駆動部材420は機能的には単一部材であるが、図示した実施形態では、成形および装着目的のために、主管状部材420と、例えばスナップ結合手段を介して互いに固定的に結合される遠位の短い外側管状部材421とを備える。(組み合わせた)駆動部材は、内容物終了部材450上の対応する内ねじ452と係合するように適合された外ねじ部分422と、ピストンロッド上の対応する「駆動ねじ」と係合するように適合された内ねじ423と、遠位部分においてクラッチ部材440上の対応する内側スプライン445と摺動係合するように適合された外側スプライン425のアレイとを備える。遠位端部は更に、円周(スナップ)接続手段426を備え、駆動部材がナット部材430の近位フランジ436に接続されることを可能にしている(下記参照)。
【0058】
管状クラッチ部材440は管状部分を備え、管状部材は、駆動部材420、421上の対応する外側スプライン425と摺動係合するように適合された近位内側スプラインアレイ445と、伝達部材210、211上の対応する内側スプライン214ならびにクラッチロック部材250上の内側スプライン254と摺動係合するように適合された近位外側スプラインアレイ444とを有する。このようにして、クラッチ部材は、異なる部材を係合させ係合解除させることにより、これらの部材の回転運動を制御するためプラットフォームとして機能する。クラッチ部材440は更に、ブレーキ要素460上のガイド突出部461のための一対の対向するガイド溝441を有する遠位表面を有する遠位円周フランジを備える。円周方向に延びる一対の対向する可撓性ラチェットアーム442がフランジ上で円周方向に設けられ、それぞれが自由端にラチェット歯443を有し、遠位ハウジング部材470上のラチェット歯の対応する円周アレイと係合するように適合され、これが一方向のラチェット機構を提供し、用量放出中にカチッという音を発生させる。
【0059】
内容物終了部材450は、駆動部材410上の外ねじ部分422と係合するように適合された内ねじ452と、伝達部材210上の内側駆動スロット216Eと係合するように適合された一対の対向する長手方向駆動フランジ456とを備える。
【0060】
リング状ブレーキ要素460は一対の対向する横方向に延びるガイド突出部461を有し、その各々は、クラッチ部材440内のガイド溝441、ならびに遠位ハウジング部材470の内側表面上に配置され円周方向にギザギザの付いたブレーキ面と係合するように適合された横方向に面する尖った歯構造442と摺動係合するように適合された近位側に面する面を有し、これによりクラッチ部材が遠位ハウジング部材に対して回転する場合にブレーキ要素がガイド溝内を前後に移動するようになり、これが制動効果をもたらす。そのようなブレーキ構成は、国際公開第2015/055642号に、より詳細に記載されている。
【0061】
遠位ハウジング部材470は、ナット部材430を収容し軸方向にガイドするための中央開口部471を有する内側遠位フランジ部分を有する管状部分を備える。内側管状面は、クラッチ部材上のラチェット歯443と係合するように適合されたラチェット歯473の円周アレイと、ブレーキ部材上の歯構造462と係合するように適合された円周鋸歯状ブレーキ面472とを備える。クラッチ部材440は、一対の対向するスナップ突起474を用いて、遠位ハウジング部材470内に軸方向にロックされて装着されており(図8A参照)、それにより可撓性ラチェットアーム442が組み立て中にスナップ突起474の遠位側で軸方向に所定位置でスナップすることが可能になっている。以下に更に詳細に説明するように、遠位ハウジング部材は更に、カートリッジホルダアセンブリの対応する構造と協働するように適合された、いくつかの制御構造を外側管状表面上に備える。
【0062】
管状ナット部材430は、遠位カップ状部分と小径近位管状部分435とを備える。管状部分は内側「推進ねじ」431を備え、これはピストンロッド410上の対応する推進ねじ411と係合するように適合されている。外側表面上に管状部分435は、遠位ハウジング部材の中央開口部471内に軸方向に収容されガイドされるように適合された一対の対向する長手方向フランジ432、およびナット部材が遠位ハウジング部材470との係合から外れるように遠位側に移動し得ることを防止する複数の停止突出部433、ならびに駆動部材上の円周(スナップ)接続手段426と係合し、2つの部材が互いに対して回転することを可能にするように適合された円周近位(スナップ)フランジ436を備える。カップ状部分の近位面は、カートリッジホルダアセンブリのばね(またはばねアセンブリ)と係合するように適合され(下記参照)、カップ部分の遠位円周縁部439は、充填されたカートリッジの背面円周縁部と係合するように適合されている。
【0063】
二条ねじ付きピストンロッド410は、駆動部材420上の駆動ねじ423と係合するように適合された第1の「駆動ねじ」413と、ナット部材430内の推進ねじ431と係合するように適合された第2の「推進ねじ」411とを備え、2つのねじ山はピストンロッドの長さに沿って互いに組み込まれている。駆動ねじの目的は、駆動部材420が回転するにつれてピストンロッドを回転させることであり、一方で推進ねじの目的は、(用量放出中に)静止しているナット部材430を通してピストンロッドを軸方向に移動させることである。用量放出中にドライバによって回転されるピストンロッドを有する最も普通の薬剤送達装置では、「駆動ねじ」は、1つまたは複数の軸方向に向いた溝の形態であり、これによりドライバとピストンロッドは1:1で一緒に回転するようになっている。駆動ねじ山に傾きを与えることにより、例えば2:1の伝動装置が提供され、これはドライバが2回転するとピストンロッドが1回転することを意味する。遠位端部において、ピストンロッドはピストンワッシャ419用の結合構造415を備え、例えば玉継手のスナップ結合を提供する。
【0064】
組み立てられた動作状態では、駆動サブアセンブリは伝達部材210、211と係合し、伝達部材はクラッチ部材440を介して駆動部材420を、よってピストンロッド410を回転させ、次いでピストンロッドはナット部材430を通して遠位方向に軸方向に移動する。
【0065】
カートリッジホルダサブアセンブリ300は、略管状のカートリッジホルダ320と、管状ベース部材330と、ばねアセンブリ340と、上述の遠位ハウジング部材470とを収容するように適合されたユーザ操作用の略管状の作動スリーブ310を備える。カートリッジホルダは略円筒形の薬剤充填カートリッジ20(図6A参照)を収容して保持するように適合され、薬剤充填カートリッジ20は以下により詳細に説明するように、カートリッジホルダアセンブリのための結合手段として機能する遠位側に面する複数の尖った突出部を有する円周フランジを有するニードルハブマウントを備える。示されたタイプのハブマウントは、米国特許第5,693,027号に記載されている。
【0066】
カートリッジホルダ320は、リング部分323から遠位側に延びる一対の対向する可撓性アーム321を備え、各アームは、円周方向に間隔を空け、カートリッジ上で遠位側に面する上述の尖った突出部と係合する、複数の近位に面する把持歯324を有する遠位把持部または「顎部」325を備える。顎部の間には、カートリッジホルダアセンブリが収容状態にあるときにカートリッジを収容するように適合された遠位開口部が形成されている。2つの対向する楕円形の開口部(または窓)322が各アームに1つずつカートリッジホルダ内に形成され、各窓は管状作動スリーブ内に形成された対応する楕円形の窓312と位置合わせされ、2対の窓は回転しないように位置合わせされて一緒に移動する。各把持部325は、対応して湾曲した、スリーブ部材310の遠位円周縁部317と係合するように適合された外側の近位側に面する傾いた湾曲面327、ならびに、作動スリーブ310の内側表面上に配置された、対応して傾いて近位側に面する一対の作動面316と係合するように適合された、傾いた遠位側に面する一対の作動面326とを備える。カートリッジホルダは更に、リング部323から近位側に延び円周方向に湾曲した一対の対向する駆動アーム328を備え、各アームは、遠位ハウジング部材470上の対応する制御トラック479と係合するように適合された内側把持フランジ329を有する、傾いた近位縁部を備える。図5では、カートリッジホルダ320は、カートリッジホルダ全体が作動スリーブ310に対して90度ずれているのと全く同様に、駆動アーム328がカートリッジホルダの残部に対して90度ずれているという描画の誤りを含むことに留意すべきである。図5Bではカートリッジホルダ320は正しく描かれている。
【0067】
管状作動スリーブ310はユーザが作動スリーブを把持し回転させることを可能にする遠位円周把持部311を備え、把持部は、上述の円周縁部317および作動面316、ならびに装着されたカートリッジのネック部分をユーザが観察することを可能にする一対の対向する開口部を備える。2つの対向する窓322が作動スリーブ内に形成され、各窓はカートリッジホルダ310内に形成された対応する窓312と位置合わせされている。作動スリーブの近位部分は、ベース部材のためのスナップ結合手段として機能する一対の対向する開口部317(下記参照)、ならびにカートリッジホルダ駆動アーム328を摺動可能に、かつ回転しないように収容し、それにより2つの部材が一緒に回転するように適合された一対の対向するガイドスロット318を備える。
【0068】
カップ状ベース部材330は、ナット部材430およびばねアセンブリ340を収容するように適合された管状遠位部分を備え、管状部分は作動スリーブ内の開口部317とスナップ係合するように適合された一対の対向する突起337を外側表面上に備える。ベース部材は、ナット部材430の近位管状部分435を収容するように適合された、中央開口部335を有する近位円周内側フランジを備える。ベース部材は更に、遠位ハウジング部材470内の対応する切欠き476と回転可能かつ摺動可能に係合し、それにより回転ロックを提供するように適合された複数のロック突出部336を近位周辺部上に備える。図示した実施形態では、作動スリーブの1回転の作動に対応して90度ずらした4つの突起が設けられている。ベース部材330と遠位ハウジング部材470とが、ばねアセンブリ340によって付勢されて係合状態になると、突起は、回転中に突起が移動して係合するとき、および係合から外れるときに回転ロックとして機能する。
【0069】
ばねアセンブリ340は、複数の積み重ねた円盤ばねを備えるが、単一の螺旋ばねの形態でもあり得る。ばねアセンブリは、ベース部材330のカップ部分内に配置され、ナット部材430のカップ部分に遠位側に向いた付勢力を提供する。
【0070】
遠位ハウジング部材470は、カートリッジホルダ駆動アーム328上の把持フランジ329と係合するように適合された、対向する一対の部分螺旋ガイドトラック479を外面上に備え、これにより、作動スリーブ310を開状態と閉状態との間で前後に回転させたときに、カートリッジホルダは軸方向に前後に移動するようになっている。遠位ハウジング部材は更に、カートリッジホルダ駆動アーム328(???)および/または作動スリーブ310上の対応する停止面と係合するように適合された回転停止面478を備える。
【0071】
組み立てられた状態では、ユーザが作動スリーブをその2つの回転停止部の間で回転させるにつれて、把持顎部325が出入りし、軸方向の移動は上述のようにガイドトラック479によって制御されている。より具体的には、作動面326が遠位側に移動して、スリーブ作動面316と滑り接触するにつれて、傾いた作動面316は把持顎部を、それらが開放位置になるように外側に押し付ける。それに対応して、アームが近位側に移動すると、外側湾曲面327が作動スリーブ上の作動縁部317と係合し、それにより内側に押されて把持位置に入る。しかし、新しいカートリッジが挿入される場合、ピストンロッドを近位側に移動させることが必要である。この目的のために、一体型カートリッジホルダおよび駆動アセンブリにより、駆動サブアセンブリは、ピストンロッドが近位側に移動できる装填状態と、ピストンロッドが近位側に移動できないが遠位側に回転することだけができる投与状態との間で動作するようになっている。
【0072】
より具体的には、カートリッジホルダが開かれると、カートリッジはナット部材端部439に近位側に向いた力をもはや及ぼさず、ナット部材430と、よってそれに取り付けられた駆動部材420、421は、ばねアセンブリ340によって遠位側に移動し、それにより、駆動部材外側スプライン425はクラッチ部材440上の内側のスプライン445の係合を解除し、これにより駆動部材410、421、よってピストンロッド410が回転し、それによりピストンロッドは近位側に移動することが可能になる。同時に、完全に充填されたカートリッジが装填された場合、回転駆動部材により、内容物終了部材450は近位側に、例えば、その初期最近位位置に移動するようになっている。カートリッジの遠位縁部がナット部材430と係合する場合、ナット部材とピストンロッドは近位側に一緒に移動し、これによりピストンロッドとカートリッジピストンとの間の空隙が本質的になくなる。新しいカートリッジの挿入中にユーザがばねアセンブリ340からの抵抗を感じ始めた場合、ほとんどのユーザは作動スリーブを回転させてカートリッジホルダを閉じ、それにより把持アーム部分325を操作してカートリッジをその近位動作位置に移動させるであろう。同時に、駆動部材外側スプライン425はクラッチ部材440上の内側スプライン445と再係合し、それにより駆動部材420、421、よってピストンロッドを回転しないようにロックする。この状態では、駆動部材の回転は、回転ロックされたクラッチロック部材250によって防止されたクラッチ部材440を介して行われる。
【0073】
装着された薬物カートリッジを有する薬剤送達装置を低温で保管して流体製剤を凍結させ、従って膨張させた場合、膨張によりナット部材430と把持アーム部325のそれぞれに反対に向いた力が加わり、それによりカートリッジホルダ320全体に力が加わる。ガイドトラック479との螺旋係合に起因して、カートリッジホルダの遠位側に向かう力は回転力をもたらすことになり、それは所与の閾値に対して回転ロック336、476のロック力に打ち勝つ回転力をもたらすことになり、次いでカートリッジホルダが「急に開き(pop open)」、これがペン機構を機械的損傷から保護する。
【0074】
外側ハウジングアセンブリ500は図4Aおよび図4Bに示すように、本質的に管状のハウジング部材510、および透明窓部材520を備える。2つの対向する楕円形窓512が遠位部分に形成され、作動スリーブがその閉位置にある場合に、管状作動スリーブ内に形成された対応する楕円形窓312は楕円形窓512と回転しないように位置合わせされている。ハウジング部材510は更に、窓部材520を収容するように適合された窓開口部519を備え、エンジンハウジング部材220内の対応する窓開口部229は、装置の組み立てられているときに、窓開口部519と軸方向に、および回転しないように位置合わせされ、外側窓部材519、よって窓部材520は、内側窓開口部229よりも大きい。外側ハウジングは、例えば金属またはプラスチックから形成することができ、装着されるときに、例えば、遠位ハウジング部材470上の制御トラック479内に係合された駆動アーム把持フランジ329を保持すること、および、カートリッジホルダ部分と、それらの間の回転インタフェースに対応する内側ハウジングとの間の曲がりを防止することによって、装置の保護および安定化の両方のための役割を担う。図示した実施形態では、遠位把持部311および透明窓部材520は、組み立てられた状態では、ハウジング部材の外側表面と本質的に同一平面上にあるように設計されている。
【0075】
キャップアセンブリ600は図3Aおよび図3Bに示すように、管状キャップハウジング部材610と、クリップ部材620と、内側キャップ部材630とを備え、キャップハウジング部材の内径は外側ハウジング部材500をぴたりと収容するように寸法決めされている。キャップハウジング部材610は、その遠位端部に、クリップベース部分を収容するように適合された切欠き611、ならびにスカート部材630と係合するように適合された(スナップ)開口部612を備える。クリップ部材620は、閉じた遠位端部を有する略管状のスカート部622を備え、スカート部は、可撓性クリップ部623がそこから近位方向に延びるクリップ基部621、ならびに、内側キャップ部材630上の対応する(スナップ)結合構造と係合するように適合された複数の(スナップ)構造624を備える。内側キャップ部材630は、キャップが装着されたときに遠位把持部311と解放可能に係合するように適合された近位把持縁部631を有する近位側に延びる可撓性アーム632を有する略管状の構成を有し、可撓性アームはまた、キャップハウジング部材開口部612とスナップ係合するように適合されている。内側キャップ部材は更に、クリップ部材上の対応する(スナップ)構造624と係合するように適合された複数の(スナップ)構造634を備える。組み立て中、内側キャップ部材630はキャップハウジング部材610内に挿入されて所定位置にスナップし、クリップ部材620は内側キャップ部材630の中に挿入されてスナップ係合する。
【0076】
最終組み立て中、カートリッジホルダおよび駆動アセンブリ300が最初にエンジンアセンブリ200に取り付けられる。より具体的には、近位側に突出するピストンロッド410、および内容物終了部材450が装着された駆動部材420が伝達部材の中に挿入され、それにより内容物終了部材駆動フランジ456が伝達部材210上の内側駆動スロット216Eと係合する。この動作中、ピストンロッドと内容物終了部材が、装置の初期ゼロ状態に対応する軸方向に確実に位置決めされるべきである。エンジンハウジング部材220と遠位ハウジング部材470とが、例えば溶接によって互いに接続された場合に、2つのアセンブリは結合され、それにより軸方向の公差を補償することが可能になる。次に、ハウジング窓開口部511がエンジンハウジング部材220の窓開口部229と整列するように、外側ハウジング部材510が近位端部からエンジンハウジング部材に滑って入り、それ以降、透明窓部材520は外側ハウジング窓開口部内に装着され、窓開口部229を囲むエンジンハウジング外側表面と係合している。続いて、窓部材520は、例えば溶接または接着剤によって、エンジンハウジング部材220に固定され、これにより、外側ハウジング部材は内側ハウジングに軸方向に、および回転しないように固定される。この時点で、伝達チューブ210の近位端部は、ハウジングからわずかに外へ延びている。最後に、用量設定およびロギングアセンブリ100をペン外側ハウジングの近位端部の中に挿入して、キャリア部材コネクタチューブ部分153を近位伝達チューブ結合手段217にスナップ係合させ、それにより、用量設定およびロギングアセンブリ100をペン装置の残りの部分に回転方向および軸方向に固定する。最後の仕上げとして、キャップ600が装着される。
【0077】
上記のように組み立てられた薬剤送達装置の断面図を図6Aおよび図6Bに示す。個々の構成要素とそれらの関係をよりよく示すために、図7Aおよび図7Bは装置の近位部分を断面図で示す。
【0078】
用量を設定するときの動作において、用量設定部材110をその近位位置に時計方向に回転させると、キャリア部材150が伝達チューブに回転しないように装着されているため、用量設定およびロギングアセンブリ100全体が伝達チューブと共に回転する。これにより駆動ばね240はひずみ状態になり、内容物終了部材450は設定用量の大きさに対応して駆動部材420上を遠位側に移動させる。駆動リフト制御部材170の駆動面はラチェット部材160上の対応する駆動面と係合しているので、ラチェット部材は用量設定部材110と共に所望の回転位置まで回転させられ、これによりラチェット部材ラチェット歯162がエンジンハウジングのラチェット歯222を乗り越え、その間、傾いたラチェット歯、ラチェットばね185、およびスプライン接続部161、191により、ラチェット部材160は解放部材190と共に前後に移動する。用量はラチェット歯1個に対応する増分で設定することができ、これは、例えば所与のインスリン送達装置については、典型的にはインスリン製剤の1単位(IU)に対応することになる。最大用量が設定された場合、すなわちスケールドラムの最大停止位置がエンジンハウジングの最大停止位置と係合した場合、または内容物終了部材450がその遠位停止位置に達した場合、用量ボタンを更に回転させると、その結果、制御部材170上またはラチェット部材160上のそれぞれの協働する駆動面のわずかな傾きゆえに、駆動リフト制御部材170上の駆動面がカムオーバ(cam over)し、ラチェット部材160はラチェットばねの付勢に抗して前後に移動する。用量設定中、モードスイッチアーム180は用量設定モードに対応するモードスイッチアレイ143上に配置される。
【0079】
設定用量を減少させる場合、用量設定部材を反時計回りに回転させ、それによりラチェット部材160上の対応するリフト面と係合する駆動リフト制御部材170上の傾いたリフト面は、ラチェット部材ラチェット歯162がハウジング部材ラチェット歯222との係合を解除するまで、後者をラチェットスプリングに抗して近位側に移動させ、この時点で、ひずみ状態の駆動ばね240からの力が伝達部材210を、よってラチェット部材160をも反時計回りに回転させ、この結果、傾いたリフト面は互いに係合が解除される。その結果、ラチェット部材160をラチェットばねによって遠位側に移動させることができ、それによりラチェット歯は再係合され、これは以前に設定された用量を1増分だけ減少させることに対応する。ユーザが用量設定部材110を反時計方向に回転させ続けると、設定用量はラチェット部材の前後の動きごとに1増分ずつ減少し続ける。同時に、内容物終了部材450およびスケールドラム230も反時計回りに回転され、表示窓229内に示される用量のサイズがそれに対応して減る。その設計により、ラチェット機構にはリセット方向への過負荷に対する保護が組み込まれている。ユーザがダイヤルをゼロより下に設定しようとする場合、ラチェットはダイヤルに接続された持上げ歯によって軸方向に変位され、ラチェットはハウジング内の一方向歯車から係合が外れるが、ラチェットをリセット方向に移動させる駆動ばね力がないので、持上げ歯が次の係合位置に移動しラチェットが初期の軸方向位置に戻るまで、ラチェットは更に軸方向に移動するだけである。
【0080】
設定用量の薬剤を吐出させるには、複合型用量設定および解放ボタン部材110を、ラチェットスプリング185の付勢力に抗して遠位側に最近位位置から最遠位位置に移動させ、その間に、上記の構成要素間の一連の係合および係合解除が行われる。上述のように、用量ボタンアセンブリ100は、伝達部材210、211に軸方向に結合している。図8A図8B、および図9A図9Bは、それぞれ、用量設定モードおよび用量吐出モードにおける遠位結合構成を示す。
【0081】
第1に、用量ボタンスカートスプライン128がエンジンハウジングのスプライン228と係合して設定用量の更なる回転調整を防止する。同時に、スカート部材歯アレイ125がトリガ部材制御アームの歯265と係合してトリガ制御部材を作動させる。
【0082】
第2に、伝達部材210、211の遠位端部の内側スプライン214がクラッチ部材外側スプライン444と係合し始めて、2つの部材を回転しないようにロックする。同時に、伝達部材遠位フランジ215に軸方向に結合しているクラッチロック部材250の内側スプライン254は、クラッチ部材外側スプライン444との係合を解除し始め、それにより、クラッチ部材250を介してエンジンハウジングと回転ロック状態にあるクラッチ部材440は解放される。クラッチ部材440とクラッチロック部材250との間のスプライン係合により、回転ロック状態にあるクラッチ部材は、「増分位置」に確実に留められ保持され、よって伝達部材210、211との容易な係合がもたらされる。この動作状態では、静止したスイッチアーム180によって制御され、スイッチアレイ143は移動して中間モードにある。図8A図8B、および図9A図9Bは、それぞれ、用量設定モードおよび用量吐出モードにおける遠位結合構成を示す。
【0083】
第3に、用量ボタンおよび伝達チューブに軸方向に結合している、解放部材190上の外側スプライン191のアレイは、ラチェット部材スプライン161との係合を解除し、それにより、ひずみ状態の駆動ばね240が伝達チューブを回転させることを可能にし、伝達チューブは、クラッチ部材440を介して駆動部材420、421を回転させ、駆動部材は再び、ねじ式駆動係合部423、413を介してピストンロッド410を回転させ、それにより、ピストンロッドはねじ式推進係合部411、431を介してナット部材430と共に軸方向に遠位側に移動する。同時に、スケールドラム230はその初期ゼロ位置に向かって逆に回転され、吐出されるべき現在残っている薬剤の量が窓229に表示される。解放部材と伝達部材との間の係合解除の間に、しかし完全な係合解除が行われる前に、静止したスイッチアーム180によって制御され、スイッチアレイ143は移動されて用量吐出モードに入っている。
【0084】
クラッチ部材440の回転中、ブレーキ部材460は遠位ハウジング470との係合に起因して横断面内で前後に移動する。通常の動作中は、ほんの少量のエネルギーしか散逸されないが、ピストンロッドがカートリッジピストンと係合していない状態で、設定された吐出機構が解放されると、ピストンロッドが抵抗無しで遠位側に移動するため、はるかに多くのエネルギーが散逸される可能性があり、これが必須な量のブレーキを提供し、機構への損傷が防止される。
【0085】
更に、伝達部材210の回転中に、それに固定的に取り付けられたキャリア部材150が回転し、これによりPCBセンサ部分142に対して接触ディスク155が回転し、これにより電子機器が吐出イベント中の回転量、従って対応する吐出された用量の大きさを決定することが可能になる。
【0086】
吐出イベントの終了時には、スケールドラム停止面234はエンジンハウジング停止面と係合し、それにより伝達部材の回転も停止し、よって用量放出も停止する。同時に、スケールドラムはトリガ制御部材260を回転させてエンジンハウジングとの留められた係合を外し、それによりトリガばねがトリガ部材アーム272を近位側に移動させることにより、投与終了スイッチを作動させる。同時に、トリガアーム272の近位端部を(スイッチを介在させて)ハウジング部材130に強制的に係合させると、投与終了「クリック」が発生する。このようにして、ロギング電子機器は、所与の設定用量が完全に吐出されたことを判定することができ、これはユーザが用量放出イベントを一時停止させた状況とは対照的である。
【0087】
ユーザが、加えた力を用量ボタン110から取り除くと、上述のクラッチおよびスイッチ構成要素は逆の順序で係合および係合解除される。吐出された用量が判定され、スイッチアレイ143が用量設定モードに戻ると、ちょうど吐出された用量がディスプレイ149に数秒間表示される。用量が設定されておらず、用量ボタンが作動され、続いて解放された場合、検出された移動を使用してディスプレイを制御し、例えば、最後に吐出された用量の大きさと、その後の経過時間を表示することができる。
【0088】
図4Aを参照して上述したようなねじり駆動ばね240に戻り、代替構成を説明する。より具体的には、図10Aおよび図10Bは螺旋状の部分開放巻きねじりばねの形態の駆動ばね1240を示し、伝達部材に取り付けるための遠位フック部分1241と、エンジンハウジング部材に取り付けるための近位フック部分とを有する。ばねは、コイルが互いに接触して巻かれた、すなわち閉構成にある近位部分と遠位部分、ならびに個々のコイルがその間に軸方向距離を置いて巻かれた開構成を有する中央部分1243を備える。図10Bの断面図では、ばねワイヤの矩形断面1243を見ることができる。図示した実施形態では、ワイヤの高さ寸法は厚さ寸法よりも大きい。この構成により、閉部分は軸方向に小型なばね設計を提供し、一方開部分は軸方向の可撓性を提供し、装着および動作中にばねを軸方向に圧縮することが可能である。
【0089】
矩形ワイヤから巻かれたばねの分野では、矩形の2つの寸法のうちの大きい方がばね軸に面する場合は、ワイヤは「フラット上」に巻かれていると称し、矩形の2つの寸法のうちの小さい方がばね軸に面する場合は、ワイヤは「エッジ上」に巻かれていると称する。図10Bに示されて明らかなように、本明細書に記載の駆動ばねの特定の実施形態では、矩形ワイヤは「エッジ」上に、すなわち図13に示すように高さhが厚さtよりも大きい状態で巻かれている。
【0090】
ばねの所与の断面に対して、矩形ワイヤは、矩形の短辺がばね軸と平行に配置された理想的な傾斜していない配置を有してもよく、傾斜角αは、この傾斜していない配置からの、すなわち図13に示すようなばね軸の法線に対しての偏差として定義される。
【0091】
ばねの数学モデルでは、通常は完全な矩形が使用され、「実際の」ばねはほとんどの場合、例えば縁部が丸みを帯びていたり、対向する面が完全な平行ではないことにより、そのようなモデルからは逸脱している。後者に関しては、正方形または矩形ワイヤが巻かれる場合、ワイヤの断面はわずかに変形してキーストーン(keystone)形状または台形形状になり、すなわちワイヤが引っ張られ、よってワイヤの外側部分に関しては「細く」なることに留意されたい。この問題は、ばね巻きまたはコイル巻きの間の変形によって、断面がほぼ矩形になるように特別に処理された「キーストーン化された(keystoned)」ワイヤを利用することによって対処することができる。従って、本出願の文脈では、「矩形」は、寸法hおよびtを有し、hがtよりも大きい所与の矩形に内接できる任意の「矩形に類似した」ワイヤ断面形状、例えば楕円形または台形の断面を広く包含する。
【0092】
図3Aを参照して上述したように、コイルワイヤの矩形断面を使用して、減衰する勾配を有する非線形ばね特性を有するねじりばねを提供することができる。そのようなばねの特徴は、図11から図14を参照して、より詳細に説明される。
【0093】
図11Aから図11Cは、矩形断面を有するワイヤから巻かれた螺旋コイルのコンピュータによる有限要素解析のスクリーンショットを示す。より具体的には、図の右側のグラフ部分には縦軸に、ばねをねじり、続いて緩めた際に、ばねによってもたらされるトルクを時間の関数として示す。動的効果によるシミュレーションのノイズを最小限に抑えるために、単位時間当たりの角度の変形は一定ではなく、シミュレーションの開始時および終了時に、それぞれ加速および減速されている。
【0094】
グラフ部分は3つの図で同じである。図の左側は、ばねがひずむにつれて、ばねがどのようにねじれおよび傾斜するかのシミュレーション結果を示す。図11Aはトルクが加えられていない初期状態のばねを示し、図11Bは、9Nmmのトルクを加えた際に、ばねがどのようにねじれて傾斜し始めたかを示し、これがグラフ上に「肩」をもたらし、図11Cは、10Nmmのトルクを加えたときに、ばねコイルがどのようにほぼ均一に傾斜したかを示す。グラフ上の対応する点が各グラフに示されている。ばねの長さに沿ったワイヤが初期的に同じ方向に確実に傾斜するようにするために、ばねは完全にまたは部分的に「予め傾斜させた」ワイヤを備えてもよく、これによりワイヤはその後、確実に所望の方向に(更に)傾斜するようになる。更に、予め傾斜させることにより、初期の傾斜が容易になり、従って「よりなだらかな」肩をもたらし得る。矩形ワイヤを螺旋ばねに形成する際に、プロセス用装置によって傾斜を予め導入することができる。
【0095】
上記の発見に基づいて、図12は、ばねがねじられた回転数の関数として、生成されたトルクを理想化されたダイアグラムで示す。ばねパラメータ、例えば巻数、直径および断面寸法は、図2から図10を参照して上述した種類の薬剤送達装置における用途に対応して選択されている。明らかなように、7回転と10.3回転の間で、モデルばねは7~7.5Nmmのほぼ一定のトルクを生成し、7回転は薬剤送達装置の初期ゼロ状態における予めひずませたばねに対応し、10.3回転は最大設定用量、例えば100IU/mLのインスリン製剤に対して80単位のインスリンに対応する。より具体的には、ばね巻数が3回転であるA点に至るまでは、ばね特性は本質的に線形である。ばねワイヤの断面(またはワイヤ面)は図11Aに対応するばねの中心軸に対して依然として本質的に垂直である。7回転であるB点では、ばねワイヤの断面は傾斜し始め、従って線形トルク特性の傾向が減少し始めている。10.3回転のC点では、ばねワイヤの断面は図11Cに示すように更に傾斜しており、トルク特性は今やほぼ一定である。
【0096】
上記のシミュレーションが基づく式を参照すると、ばね特性(度数で見た角度変形の関数としてのトルク)は、次のように表すことができる。
(1) k=(π×E)/(180×n×D)、
ここで、E=ヤング率、n=緩んだ状態のばねコイルの数、D=緩んだ状態のばねコイルの直径、であり、これらは全て定数であり、ならびに、I=二次慣性モーメントであり、これは変数である。Iは、ワイヤの断面が傾斜するのに伴う、ばね特性の変数値である。二次慣性モーメントは次のように表すことができる。
(2) I=(t×h)/12×(h×cos(a)+t×(sin(a)))、であり、t、hおよびαは図13に示す通りである。
【0097】
図13から明らかなように、αは、初期に画定されたワイヤ面とばね基準面との間の傾斜角に対応する。
【0098】
t=0.15mm、h=0.7mmの場合、二次慣性モーメントIをαの関数として図14に示す。明らかなように、例示的な矩形ワイヤに対する二次慣性モーメントIは小さな角度においてさえ著しく変動し、この結果、上述したタイプの薬剤送達装置内に配置されたねじり駆動ばねに対する特定の動作範囲において、上述のほぼ一定のトルク特性がもたらされる。
【0099】
矩形ワイヤを備えるねじりばねの様々な実施形態に関する上記説明において、ばねトルク特性に影響を及ぼす複数のパラメータに言及してきた。明らかなように、所与のねじりばねに対して多数の設計上の選択肢があり、例えば、ばねは完全にまたは部分的に矩形ワイヤから製造してもよく、ワイヤは予めひずませた状態から操作してもよく、ワイヤはワイヤの少なくとも一部を傾斜させた予めひずませた状態から操作してもよく(すなわちひずみ状態で予め傾斜させて)、ワイヤはワイヤの少なくとも一部を予め傾斜させて巻かれてもよく(すなわち、非ひずみ状態で予め傾斜)、ワイヤは1つまたは複数の開口領域を有して巻かれてもよく、ワイヤは一定でない直径を有して巻かれてもよく、ワイヤは、例えば1.5より大きく、2より大きく、または3より大きい所与のアスペクト比を有してもよく、ワイヤはばねの直径がひずみ状態の間に減少するにつれて少なくとも部分的に内側支持面に係合するように配置されていてもよい。これら設計パラメータの全てを利用して、所与のひずみ動作範囲内で、所与の装置に対して所望のトルク特性を有するねじりばねを実現することができる。
【0100】
例示的な実施形態の上記の説明において、様々な構成要素について説明した機能を提供する様々な構造および手段が、本発明の概念が当業者に自明である程度まで説明された。様々な構成要素のための詳細な構築および仕様は、本明細書の記載に沿って当業者により実施される通常の設計手順の対象と見なされる。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図14