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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】超音波により媒介される薬物送達
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/10 20060101AFI20220318BHJP
   A61K 49/22 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220318BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 41/13 20200101ALI20220318BHJP
【FI】
A61K9/10
A61K49/22
A61K47/04
A61K47/06
A61K47/24
A61K47/42
A61K47/10
A61K47/12
A61K41/13
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020054358
(22)【出願日】2020-03-25
(62)【分割の表示】P 2016545714の分割
【原出願日】2014-09-26
(65)【公開番号】P2020114846
(43)【公開日】2020-07-30
【審査請求日】2020-04-22
(31)【優先権主張番号】20131293
(32)【優先日】2013-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(73)【特許権者】
【識別番号】516089533
【氏名又は名称】イグザクト・セラピューティクス・アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ヨン・ヒーレイ
(72)【発明者】
【氏名】ペル・クリスティアン・ソンタム
(72)【発明者】
【氏名】スヴェイン・クヴォーレ
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-512206(JP,A)
【文献】特表2007-515471(JP,A)
【文献】特表2002-502829(JP,A)
【文献】特開2005-168312(JP,A)
【文献】特表2008-526785(JP,A)
【文献】特開2007-197403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 41/00
A61K 47/00-47/69
A61K 49/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)生体適合性水性媒体中のクラスターの懸濁液を含むクラスター組成物であって、前記クラスターが、1から10μmの範囲の直径及び0.9未満の円形度を有し、
(i)気体微小気泡及び前記微小気泡を安定化するための第1の安定剤を含む第1の成分と、
(ii)油相を含む微小液滴及び前記微小液滴を安定化するための第2の安定剤を含み、油が、前記気体微小気泡中に拡散してそのサイズを少なくとも一過性に増大させることが可能な拡散性成分を含む、第2の成分とを含み、
前記第1及び第2の成分の微小気泡及び微小液滴が、反対の表面電荷を有し、静電引力相互作用によって前記クラスターを形成し、直径5~10μmのサイズのクラスターを、0.6百万/mL以上の濃度で含む、クラスター組成物と、
(II)(I)とは別個の組成物として提供される治療剤とを含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記第1の成分の気体微小気泡の気体が、六フッ化硫黄、C3~6ペルフルオロカーボン、窒素、空気、又はそれらの混合物を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記第1の安定剤及び前記第2の安定剤がそれぞれ、他方の正味静電荷と反対の正味静電荷を有する、請求項1又は請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記第1の安定剤及び第2の安定剤がそれぞれ独立して、リン脂質、タンパク質、ポリマー、ポリエチレングリコール、脂肪酸、正荷電界面活性剤、負荷電界面活性剤、又はそれらの混合物を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記第2の成分の微小液滴の油相が、部分的に若しくは完全にハロゲン化された炭化水素又はそれらの混合物を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記治療剤が、薬物分子、ナノ粒子及びナノ粒子送達系、遺伝子、並びに放射性同位体の群から独立して選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物を含む、超音波造影剤。
【請求項8】
少なくとも1種の治療剤を哺乳動物対象に送達する方法に使用するための請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物であって、
(i)前記医薬組成物を哺乳動物対象に投与する工程と、
(ii)任意選択で、超音波画像化を使用して前記医薬組成物の微小気泡を画像化して、前記対象内の治療のための目的領域を特定する工程と、
(iii)前記対象内の目的領域の超音波照射によって、工程(i)からのクラスター組成物の第2の成分の拡散性成分の相シフトを活性化して、
(a)前記クラスターの微小気泡が、工程(iii)の前記拡散性成分によって拡大されて、拡大した気泡を生じ、前記拡大した気泡が、前記拡大した気泡による前記目的領域における微小循環の一時的遮断に起因して、前記目的領域に局在するようにし、
(b)工程(iii)の前記活性化が、工程(i)において投与された治療剤の溢出を促進するようにする
工程と、
(iv)任意選択で、更なる超音波照射によって、工程(i)において投与された治療剤の更なる溢出を促進する工程と
を含む、医薬組成物。
【請求項9】
工程(iv)において適用される前記超音波が、0.05から2MHzの範囲の周波数を有する、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
工程(iii)において適用される前記超音波が、0.7未満のメカニカルインデックスを有する、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
工程(iii)(a)の前記拡大した気泡によって生成される音響シグネチャーを分析することによって、放出される治療剤の量を数値化する工程を更に含む、請求項8から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
哺乳動物対象に医薬組成物を投与する工程と、高密度焦点式超音波(HIFU)を目的領域に適用する工程とを含む、哺乳動物対象の治療方法に使用するための、請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
超音波造影剤又は医薬としての使用するための、請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項7に記載の超音波造影剤を事前に投与された哺乳動物対象を画像化する工程を含む、超音波画像化方法。
【請求項15】
組成物の総質量に対して0.5質量%以上の前記治療剤を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体微小気泡、エマルション微小液滴、及びそれらのクラスターを含む二相性微粒子系を使用した、超音波(US)により媒介される治療剤送達、例えば、薬物、遺伝子、ナノ粒子、又は放射性同位体の送達に関する。従って、本発明は、クラスター組成物及び医薬組成物、並びに治療剤を送達するための及び超音波画像化用の造影剤としてのそれらの使用に関する。本発明は更に、そのような治療剤を送達するための方法及び前記組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物療法の成功のための必要条件は、薬物がその標的病変に到達すること、及び健康な組織に対する毒性が限られていることである。しかしながら、いくつかの薬物は、それらの臨床的有用性を著しく限定する低い治療指数を示す。過去数十年間にわたって、製薬業界は、例えば、ナノ粒子、微小気泡、又はリポソームプラットフォームを適用した、標的化/局在化された薬物送達のための様々な手法を用いてこのジレンマを解決しようと、相当な資源を費やしている。問題となっている病変又は臓器への局在化された薬物送達によって、全身曝露が最小化され(毒性を低減)、局所濃度、ひいては有効性が増加する。
【0003】
かなりの努力にもかかわらず、制御された薬物送達は、臨床医学において本質的に未解決のままである。近年、研究開発は、外部から活性化される薬物送達系に特に注目している。熱、光、超音波、電場、及び磁場は、体内の標的位置において薬物の放出及び送達のために薬物製剤系をインビボで活性化するための外部エネルギー源として使用されている。最近の総説については、Timko等[B.P. Timko等、Remotely triggerable drug delivery systems、Adv. Mater. 22 (2010) 4925~4943頁]を参照されたい。
【0004】
過去20年間にわたって、超音波を使用した薬物送達への関心が高まっている。最近の総説については、Castle等[Castle等、Am J Physiol Heart Circ Physiol、2013年2月1日、304:H350~H357頁]を参照されたい。多くの手法は、組み込まれた若しくは付着した薬物の放出のため及び/又は全身(共)投与された薬物の取り込みの向上のための、医療用画像化用途の超音波造影剤として使用されるものに類似した微小気泡の使用に基づいている。
【0005】
微小気泡は、ソノポレーションなどの機構によって組織及び細胞膜の構造を変性させ、従って、放出又は共投与された薬物の標的組織への溢出を向上させる潜在性を有する。超音波の適用は、微小循環中に存在する微小気泡を振動させ、血管系の局所透過性を増加させる十分に確立された機構を誘導して、薬物をより速い速度で組織空間中に拡散させる[O'Neill, BE及びLi, KC、Int. J. Hyperthermia、2008年9月; 24(6): 506~520頁]。細胞内送達のためのソノポレーション及びエンドサイトーシス、内皮の破壊及び/若しくは開窓孔(fenestration pore)の開口/(可逆的)修飾の増加若しくは血管内皮の変性、又は輸送及び拡散の向上の他の機構、例えば、放射力及びマイクロストリーミングを含むいくつかの機構は、そのような生物学的作用を誘導することが知られている。機構の相対的重要性及び厳密な性質並びに超音波照射量測定(dosimetry)との関係は、更なる研究及び解明を必要とする。最近の検討はまた、血液脳関門を介した薬物送達及び固形腫瘍への送達の問題に対処しようとしている。血液脳関門は、大型分子の組織空間への通過を阻害する血管内皮の密着接合を特徴とする。腫瘍血管系は、一般的に、より「漏洩性」であるが、間質液圧及び膠質浸透圧がより高く、それが腫瘍容積全体にわたる薬物の通過を妨害する可能性がある。確立された化学療法薬の取り込みは、腫瘍のタイプに応じて大きく変動する可能性があり、そのような取り込みの差は、治療効果の変動性の一因となりうる。微小気泡により媒介される送達機構はインビボで明らかに実証されているが、この手法の安全性の問題を惹起する関連した生物学的作用が存在する。全ての可能性には、微小気泡のキャビテーション機構が関与しており、特に、微小出血及び不可逆的な血管損傷が観察されている。血液脳関門への適用に対処する技法については、特に上を覆う頭蓋骨が無傷のままであり除去されない場合、十分な超音波エネルギーを目的病変エリアに送達することに関する問題も存在する。
【0006】
超音波/微小気泡により媒介される薬物送達の最も基本的な形態は、微小気泡製剤を全身投与される薬物とともに投与すること、例えば、標的病変への取り込みの向上である。そのような手法の一例は最近臨床試験に入っており[Kotopoulis等、Med Phys.、40(7) (2013)]、ここでは、膵臓がんの治療のために、市販のUS造影剤であるSonovue(Bracco社)がゲムシタビンと共投与され、続いてUS照射が行われる。
【0007】
共投与手法に加えて、以下の3つの一般的なクラスの微小気泡技術が薬物送達のために検討されている[Geers等、Journal of Controlled Release 164 (2012) 248~255頁]:(1)薬物をロードした微小気泡、(2)ナノ液滴由来のインサイチュで形成される微小気泡、及び(3)標的化された微小気泡(例えば、細胞表面レセプターに対して標的化するためにリガンドを付着させた微小気泡)。しかしながら、長年にわたって、全てのこれらの手法は根本的な制約を有することが認識されており、それにより、臨床実施への移行が事実上阻まれている。恐らく、最も限定的なのは、微小気泡系に組み込むことができる薬物の量である。薄い安定化シェル又は膜は、薬物ローディングに利用可能な体積が限られており、一般的な化学療法薬の治療用量を得るために、数リットルの通常のUS造影剤が必要となると推定されている[Geers等、Journal of Controlled Release 164 (2012) 248~255頁]。加えて、微小気泡系への薬物ロードの付着及び/又は組み込みには、薬物の化学修飾が必要となる場合があり、生物活性に対する潜在的変化を伴う。
【0008】
微小気泡はまた、自由流動血液トレーサーであり、誘発されてそのペイロードを放出するとすぐに、薬物が血流によって直ちに流出し始める。記したように、より基本的な微小気泡手法は、通常の薬物製剤との同時注射を含む。そのような概念は低い薬物ロードの制約を有さないが、微小気泡はミクロンサイズであるため、血管腔内に留まり、その結果、取り込みの向上を促進するためのソノポレーションなどの生物学的作用が血管内皮に制限される。加えて、微小気泡は小型であり、普通は血管壁と接触しておらず、薬物取り込みの向上のための生物学的作用の規模及び範囲が限定される。
【0009】
異なる手法は、ナノエマルション技術を利用している。音響微小液滴気化(acoustic microdroplet vaporisation、ADV)技法は、薬物送達及び動脈塞栓療法を含むいくつかの用途について記載されている[Stanley, S.等、Microcirculation 19: 501~509頁(2012)、Reznik, N.、Phys. Med. Biol. 57 (2012) 7205~7217頁]。これらの微小液滴は、血管透過性-滞留性亢進(EPR)効果によって(腫瘍)血管から溢出するのに十分に小型であり(典型的には200nm未満)、薬物をロードした微小気泡の短い循環時間を克服するという利点を有する。これらは、超音波照射の適用によって、インビボで蒸発(液体から気体への相転移、即ち、相シフト)するよう誘導されうる。しかしながら、これらのナノ微小液滴は、ナノ微小液滴中の油の気相への相シフトを促進して、気体微小気泡を得るために非常に高い音響出力を必要とするという欠点を有する。医療用US内において、音響出力は普通、「メカニカルインデックス」(MI)によって表される。このパラメーターは、0.3dB/cm/MHzによってディレートした超音波場のピーク負圧(PNP)を、MHz単位の超音波場の中心周波数(Fc)の平方根で除したものとして定義される[American Institute of Ultrasound in Medicine. Acoustic Output Measurement Standard for Diagnostic Ultrasound Equipment.第1版 第2版 Laurel、MD: American Institute of Ultrasound in Medicine; 1998、2003]。
【0010】
【数1】
【0011】
医療用US画像化中の規制要件は、1.9未満のMIを使用することである。微小気泡造影剤を用いたUS画像化中には、有害な生物学的作用、例えば、微小出血及び不可逆的な血管損傷を回避するために、0.7未満のMIが推奨され、0.4未満のMIを使用することが「ベストプラクティス」であると考えられている[Miller等、J Ultrasound Med 2008; 27:611~632頁、AIUM Consensus Report on Potential Bioeffects of Diagnostic Ultrasound]。
【0012】
ADVの場合、典型的には、油の効果的な相シフトを促進するために3.5MHzでMI>4を適用することが必要であり、これは医療用超音波画像化に対する規制要件(MI<1.9)を優に上回り、且つ推奨MIである0.7未満をはるかに上回る出力であり、この手法の安全性の問題を惹起する重大な関連した生物学的作用、特に、微小出血及び不可逆的な血管損傷を有する。加えて、これらは、相シフト事象のほぼ直後に再凝縮して微小液滴となる傾向があり、従って、薬物のバイオアベイラビリティを改良するための潜在的なソノポレーション機構が限られている。
【0013】
ある程度、標的化された微小気泡は、標的病変への薬物送達に対する特異性及び/又はソノポレーション生物学的作用の程度を改良しうるが、技術が複雑であり、やはり、これらの努力からは限られた成功及び臨床使用への移行しか生まれていない。
【0014】
本発明の先行技術として認識される、上記に概説した手法の代替法もまた提唱されている。下記に示す先行技術の簡単な概説では、これらの特許中で使用された専門用語をそのまま使用することに留意されたい。これは、本発明において使用され、6から7頁に詳述された定義から、わずかに外れる場合がある。
【0015】
WO98/17324、「Improvements in or relating to contrast agents」は、1)微小気泡組成物と、2)インビボで微小気泡組成物中に拡散してそのサイズを一過性に増大させることが可能な、例えば水中油型エマルションの形態の「拡散性組成物」とを含む、組合せ調製物を提案している。簡単に言えば、この特許は、これらの2つの組成物を共投与した後の超音波の適用が、二相性(気体/液体)の系を活性化し、拡散性成分の液体から気体への相シフトと微小血管系内に一過性に捕捉される大型の相シフト気泡の発生とが続いて起こり、従って、蓄積トレーサーUS造影剤として使用できることを教示している。拡散性組成物については、この特許は、水に本質的に不溶性及び非混和性であり、体温で気体として存在するか又は実質的な蒸気圧を示す油の使用を教示している。WO98/17324は、微小気泡組成物に治療成分を付着させることによって、提案された系を薬物送達に使用する可能性を記している。この特許はまた、同時投与の前に2つの組成物を混合する可能性を記しているが、投与の前の微小気泡の自発的成長を回避するために、次いで混合物を高圧又は低温で保存することが典型的には必要であると記述している。
【0016】
WO98/51284、「Novel acoustically active drug delivery systems」は、微小気泡を含み、気泡が油と、界面活性剤と、油層に溶解した治療剤とを含む、治療剤送達系を提案している。簡単に言えば、この特許は、投与の後の超音波の適用が、微小気泡を破壊し、その薬物ロードの局在化された放出を誘導することを教示している。これはまた、-20から42℃の間の融点を有する油の好ましい使用を教示している。油成分は、治療剤のための、当該融点範囲を有する担体(溶媒)として提示されており、これらの油は、WO98/17324において教示された「拡散性成分」として働くものではない。
【0017】
WO99/53963、「Improvements in or relating to contrast agents」は、WO98/17324に詳述された発明を基に更に発展させている。簡単に言えば、この特許は、WO98/17324に開示されたタイプの調製物の有効性は、例えば静電引力の結果として、微小気泡及び拡散性成分が互いに親和性を有するように2つの成分を配合した場合、実質的に向上しうることを教示している。WO99/53963もまた、微小気泡組成物に治療成分を付着させることによって、提案された系を薬物送達に使用する可能性を記している。WO98/17324と同様に、この特許は、同時投与の前に2つの組成物を混合する可能性を記しているが、投与の前の微小気泡の自発的成長を回避するために、次いで混合物を高圧又は低温で保存することが典型的には必要であると記述している。
【0018】
WO98/17324及びWO99/53963はいずれも、2つの別々の組成物:分散気体(微小気泡)組成物及び拡散性組成物(微小液滴エマルション)の投与(同時の、別個の、又は逐次の)について一貫して記載している。
【0019】
WO98/17324及びWO99/53963のいずれも、拡散性(微小液滴エマルション)組成物に治療剤をロードすることについては記載していない。
【0020】
WO98/17324及びWO99/53963のいずれも、血管区画から標的組織への薬物の溢出を促進するための、相シフト事象の活性化後のUSインソネーションの使用については記載していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】WO98/17324
【文献】WO98/51284
【文献】WO99/53963
【文献】WO-A-9416379
【文献】EP-A-0727225
【文献】WO-A-9639197
【非特許文献】
【0022】
【文献】B.P. Timko等、Remotely triggerable drug delivery systems、Adv. Mater. 22 (2010) 4925~4943頁
【文献】Castle等、Am J Physiol Heart Circ Physiol、2013年2月1日、304:H350~H357頁
【文献】O'Neill, BE及びLi, KC、Int. J. Hyperthermia、2008年9月; 24(6): 506~520頁
【文献】Kotopoulis等、Med Phys.、40(7) (2013)
【文献】Geers等、Journal of Controlled Release 164 (2012) 248~255頁
【文献】Stanley, S.等、Microcirculation 19: 501~509頁(2012)
【文献】Reznik, N.、Phys. Med. Biol. 57 (2012) 7205~7217頁
【文献】American Institute of Ultrasound in Medicine. Acoustic Output Measurement Standard for Diagnostic Ultrasound Equipment.第1版 第2版 Laurel、MD: American Institute of Ultrasound in Medicine; 1998、2003
【文献】Miller等、J Ultrasound Med 2008; 27:611~632頁、AIUM Consensus Report on Potential Bioeffects of Diagnostic Ultrasound
【文献】Wojnar, L.等、Practical Guide to Image Analysis、ASM International、2000、157~160頁
【文献】Lukka, H.等、Clinical Oncology 23 (2011) 117~127頁
【文献】Sontum, PC.及びChristiansen, C.、J. Pharm. Biomed. Anal.第12巻、第10号、1233~1241頁(1994)
【文献】Sontum, PC.及びMartinsen, E.、Abstracts of Eur. Conf. Drug Deliv. Pharm. Tech.、Seville(スペイン)、47頁、第25号(2004)
【文献】Phys. Rev. B、第67巻、107~119頁、1945
【文献】J. Acoust. Soc. Am 85、732~746頁、1989
【文献】J Acoust. Soc. Am. 89 592~597頁、1991
【文献】「Solving least squares problems」、Prentice Hall、第23章、161頁、1974
【文献】IEEE J. of Oceanic Engineering、第23巻、第3号、1998
【文献】Acoustic Characterisation of Contrast Agents for Medical Ultrasound Imaging、Kluwer Academic Publishers、2001、第8章
【文献】Bohmer等、J Controlled Release、148、第1号、2010、18~24頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上記に列挙した先行技術は、微小気泡それ自体を利用する現在検討されている技術に対する潜在的改良を示すが、臨床実施への移行がなされておらず、超音波により媒介される薬物送達のための改良された方法に対する強い必要性がなお存在する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
驚くべきことに、本発明者らは、投与の前に第1の成分中の微小気泡を静電引力によって第2の成分中のミクロンサイズのエマルション微小液滴に物理的に付着させた、2成分の二相性微小気泡/微小液滴製剤系の使用によって、薬物送達を達成できることを見出した。WO99/53963における教示に反して、本発明者らは、投与の前に第1の成分を第2の成分と混合することが、そのような微小気泡/微小液滴クラスターの効率的な形成のための必要条件であること、及びクラスター組成物が周囲条件において安定でありうることを見出した。クラスターは、拡散性成分の液体から気体への転移(相シフト)を誘導する低出力超音波によって(即ち、1.9未満、好ましくは0.7未満、最も好ましくは0.4未満のMIで)、インビボで容易に活性化される。治療剤は、微小液滴の油相に添加及び/又は通常の薬物製剤として共投与されうる。大型の活性化気泡は、微小血管系内に一時的に保持され、超音波の更なる適用によって標的組織への薬物取り込みを促進するために利用されうる。
【0025】
本発明の薬物送達技術は、既存の超音波により媒介される薬物送達技術及び上記に概要を述べた先行技術とは顕著に異なる。標準的な微小気泡手法に対する主な改良点/新規性要素は以下である:
- 先行技術の手法の場合の微小気泡成分の薄い安定化膜のみに対し、大型の(ミクロンサイズの)エマルション微小液滴の全体積を薬物ペイロードに利用でき、薬物ローディング容量が顕著に増加すること。
- 活性化した相シフト気泡のサイズが典型的な微小気泡よりもおおよそ10倍大きく、活性化気泡が微小血管系内に捕捉され、血流を一過性に止めることにより薬物の急速な流出が回避され、活性化気泡と内皮とが密接に接触しており、活性化後のUS処置中の数桁大きい生物学的作用によりキャビテーション機構が回避されること。
【0026】
音響微小液滴気化(ADV)手法に対する主な改良点/新規性要素は以下である:
- 相シフト事象を生じさせるのに必要とする音響出力が有意に低いこと、本発明の場合、典型的には0.2から0.4のMIを必要とするのに対し、ADVの場合、典型的には4超を必要とする。
- 活性化気泡の寿命が有意に長く、急速に再凝縮しないこと、
- 組織における活性化に対し、血管区画における活性化。
- 活性化した相シフト気泡のサイズがADVによる典型的な微小気泡よりもおおよそ10倍大きく、活性化気泡が捕捉されることにより薬物の急速な流出が回避され、活性化気泡と内皮とが密接に接触しており、活性化後のUS処置中の数桁大きい生物学的作用によりキャビテーション機構が回避されること。
【0027】
WO98/17324及びWO99/53963に記載された相シフト手法に対する主な改良点/新規性要素は以下である:
- 投与の前に単一の組合せクラスター組成物中に安定な微小気泡/微小液滴クラスターが形成し、蓄積容量の約10倍の増加が続いて起こること。
- 微小気泡成分の薄い安定化膜のみに対し、大型の(ミクロンサイズの)エマルション微小液滴の全体積を薬物ペイロードに利用でき、薬物ローディング容量が顕著に増加すること。
- 活性化の後、音響エネルギーを連続的に印加して、薬物送達を促進すること。
【0028】
クラスター組成物、薬物送達のための医薬組成物、及び送達のための方法が今回特定され、これは、本発明の相シフト技術を使用して微小気泡/微小液滴クラスターを含有する投与された組成物からインビボで大型の相シフト気泡を発生させるものであり、また会合した並びに/又は事前投与及び/若しくは共投与及び/若しくは事後投与された治療剤の送達を促進するものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
「微小気泡」又は「通常のコントラスト微小気泡」という用語は、本文書において、0.2から10ミクロンの範囲の直径を有する、典型的には2から3μmの間の平均直径を有する微小気泡を表すのに使用される。「通常のコントラスト微小気泡」には、Sonazoid(GE Healthcare社)、Optison(GE Healthcare社)、Sonovue(Bracco社)、Definity(Lantheus Medical Imagin社)、Micromarker(VisualSonics社)、及びPolyson L(Miltenyi Biotec社)などの市販の薬剤が含まれる。
【0030】
HEPS/PFB微小気泡という用語は、本文書において、第1の成分(実施例1を参照されたい)を2mLの水で再構成することによって形成された微小気泡を表すのに使用される。
【0031】
「相シフト気泡」、「大型の相シフト気泡」、「大型の活性化気泡」、及び「活性化気泡」という用語は、本文書において、クラスター組成物のUSにより誘導される活性化の後に形成する大型(10μm超)の気泡を表すのに使用される。
【0032】
「微小液滴」という用語は、本文書において、0.2から10ミクロンの範囲の直径を有するエマルション微小液滴を表すのに使用される。
【0033】
「エマルション」という用語は、本文書において、微小気泡の水性懸濁液又は分散体を表すのに使用される。
【0034】
「界面活性剤」という用語は、本文書において、2液間の表面張力を低下させる、例えば、微小液滴の分散体中で安定剤として使用される化合物、又は気液間の表面張力を低下させる、例えば、微小気泡の分散体中で安定剤として使用される化合物に対して使用される。
【0035】
「ナノ粒子」という用語は、本文書において、200nm未満の長さ寸法を有する粒子を表すのに使用される。
【0036】
「インソネーション」又は「US照射」は、超音波への曝露又は超音波による処置を表すのに使用される用語である。
【0037】
「蓄積トレーサー」という用語は、本文書において、活性化した相シフト気泡に関して、微小循環内への大型気泡の一時的な機械的捕捉は、組織における相シフト気泡の局部的蓄積が、活性化気泡の蓄積時に組織の微小循環中を流れた血液の量を反映することを示唆するという意味で使用される。従って、捕捉された「蓄積した」相シフト気泡の数は、蓄積時の組織灌流に線形従属する。
【0038】
「相シフト(過程)」という用語は、本文書において、物体の液体から気体状態への相転移を表すのに使用される。具体的には、クラスター組成物の微小液滴の油成分の液体から気体への転移(状態変化の過程)である。
【0039】
「二相性」という用語は、状態の2つの相、具体的には液体及び気体状態から構成される系、例えば、クラスター組成物の微小気泡(気体)及び微小液滴(液体)成分を指す。
【0040】
本文書において、「療法送達/治療剤」及び「薬物送達/薬物」という用語はいずれも、薬物分子、ナノ粒子及びナノ粒子送達系、遺伝子、並びに放射性同位体の送達を含むと理解される。
【0041】
「第1の成分」という用語は、本文書において、分散した気体(微小気泡)成分を表すのに使用される。
【0042】
「第2の成分」という用語は、本文書において、拡散性成分を含む分散した油相(微小液滴)成分を表すのに使用される。
【0043】
「クラスター組成物」という用語は、本文書において、第1の(微小気泡)成分及び第2の(微小液滴)成分の組合せにより得られる組成物を表すのに使用される。
【0044】
「拡散性成分」という用語は、本文書において、インビボで第1の成分中の微小気泡中に拡散してそのサイズを一過性に増大させることが可能である、第2の成分の油相の化学成分を表すのに使用される。
【0045】
「ローディング容量」という用語は、本文書において、薬物送達ビヒクルに組み込むことができる薬物の量(容量)を表すのに使用される。
【0046】
本文書において使用される「医薬組成物」という用語は、その従来の意味を有し、特に、哺乳動物への、とりわけ非経口注射による投与に好適な形態である。「哺乳動物への投与に好適な形態で」という句は、滅菌され、パイロジェンフリーであり、過度の毒性又は副作用を生じさせる化合物を含まず、生体適合性のpH(おおよそpH4.0から10.5)で配合された、組成物を意味する。そのような組成物は、生体液(例えば、血液)と接触した際に沈殿が起こらないように配合され、生体適合性の添加剤のみを含有し、好ましくは等張性である。
【0047】
「ソノメトリー(系)」という用語は、本文書において、音響技法を使用して、活性化した相シフト気泡を動的にサイズ決定及び計数するための測定系を指す。
【0048】
「反応性」という用語は、本文書において、第1の成分中の微小気泡及び第2の成分中の微小液滴が、混合の際に微小気泡/微小液滴クラスターを形成する能力を表すのに使用される。
【0049】
「微小気泡/微小液滴クラスター」又は「クラスター」という用語は、本文書において、単一粒子の凝集体(agglomerated entity)中の、静電引力によって恒久的に結び付いた微小気泡及び微小液滴の群を指す。
【0050】
「クラスター化」という用語は、本文書において、第1の成分中の微小気泡及び第2の成分の微小液滴がクラスターを形成する過程を指す。
【0051】
「活性化」という用語は、本文書において、US照射による微小気泡/微小液滴クラスターの相シフトの誘導を指す。
【0052】
略語
Hd:ハンセン距離
ADV:音響微小液滴気化
ANOVA:分散分析
a.u.:任意単位
b.p.:沸点
b.w.:体重
C:円形度
C1:第1の成分
C2:第2の成分
dCldFEt:ジクロロジフルオロエタン
CltFPr:クロロトリフルオロプロパン
COO:連続心拍出量
CV:交差検証
dB:デシベル
dClMe:ジクロロメタン
DiR:近赤外蛍光色素
DP:クラスター組成物又は医薬組成物
DSPC:1,2ジステアロイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン
e.g.:例えば
FPIA:フロー式粒子像分析
HEPS:水素化卵ナトリウム-ホスファチジルセリン
HIFU:高密度焦点式超音波
i.v:静脈内
LogP:(オクタノール/水)分配係数の対数(10を底とする)、親油性の尺度
LogS:グラム/100mL単位の水溶解度の対数(10を底とする)
M:モル
MI:メカニカルインデックス
NA:該当なし
NR:ナイルレッド蛍光色素
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
PCA:主成分分析
PFB:ペルフルオロブタン
pFMCP:ペルフルオロメチル-シクロペンタン
PLSR:部分最小二乗回帰
QC:品質管理
R:クラスター組成物の反応性
SA:ステアリルアミン
tClMe:トリクロロメタン
TIC:時間強度曲線
TRIS:2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-プロパン-1,3-ジオール
US:超音波
v.p.:蒸気圧
v/v:体積当たりの体積
~:約
【0053】
第1の態様では、本発明は、生体適合性水性媒体中のクラスターの懸濁液を含むクラスター組成物であって、前記クラスターが、1から10μmの範囲の直径及び0.9未満の円形度を有し、
(i)気体微小気泡及び前記微小気泡を安定化するための第1の安定剤を含む第1の成分と、
(ii)油相を含む微小液滴及び前記微小液滴を安定化するための第2の安定剤を含み、任意選択で第1の治療剤を更に含む第2の成分であり、油が、前記気体微小気泡中に拡散してそのサイズを少なくとも一過性に増大させることが可能な拡散性成分を含む、第2の成分と
を含み、前記第1及び第2の成分の微小気泡及び微小液滴が、反対の表面電荷を有し、静電引力相互作用によって前記クラスターを形成する、クラスター組成物を提供する。
【0054】
クラスター組成物、即ち、第1及び第2の成分の組合せは、気体微小気泡及び油微小液滴のクラスターを含む、即ち、安定な微小気泡/微小液滴クラスターを伴う個々の微小気泡及び微小液滴の懸濁液又は分散体である。クラスター組成物は、哺乳動物対象への投与(例えば、静脈内)用のものである。前記クラスターの定量的検出及び特性決定のための分析方法は、実施例1に記載されている。
【0055】
本文書において、「クラスター」という用語は、単一粒子の凝集体中の、静電引力によって恒久的に結び付いた微小気泡及び微小液滴の群を指す。クラスター組成物中のクラスターの含量及びサイズは、インビトロで第1及び第2の成分を合わせた後、しばらくの間(例えば、1時間超)本質的に安定である、即ち、自発的に崩壊したり、より大型の集合体を形成したり、自発的に活性化(相シフト)したりせず、希釈の後、連続的なかき混ぜの間であっても、しばらくの間本質的に安定である。従って、希釈及び/又はかき混ぜを必要とする様々な分析技法を用いて、クラスター組成物中のクラスターを検出し特性決定することが可能である。
【0056】
クラスターは、典型的には、少なくとも1個の微小気泡及び1個の微小液滴、典型的には2~50個の個々の微小気泡/微小液滴を含有し、典型的には直径1から10μmであり、従って、血管系において自由に流動することができる。これらは、円形度パラメーターによって、更に特性決定され、個々の微小気泡及び微小液滴から分離される。2次元形態(例えば、微小気泡、微小液滴、又は微小気泡/微小液滴クラスターの投影)の円形度は、その形態と同じ面積を有する円周長をその形態の実際の周長で除した比率である。円形度の計算及び報告のためのいくつかの数学的アルゴリズムが使用されている。普通は、完全な円形からの小さなずれに対して感度の高い応答を得るために、二乗円形度(「高感度円形度」とも称される)が計算され、報告される。この用語(C)は、画像解析の分野におけるその従来の意味[Wojnar, L.等、Practical Guide to Image Analysis、ASM International、2000、157~160頁]を有し、
C = 4πA/P2
[式中、Aは、その形態の2次元の投影面積であり、Pは、その形態の2次元の投影周長である]
として表される2次元の丸さの数学的定義である。従って、完全な円(即ち、球状の微小気泡又は微小液滴の2次元投影)は、理論円形度値1を有し、他の任意の幾何学的形態(例えば、クラスターの投影)は、1未満の円形度を有する。本文書においては、上記に定義された円形度(C)が使用される。
【0057】
記したように、WO99/53963における教示に反して、本発明者らは、投与の前に第1の成分を第2の成分と混合することが、そのような微小気泡/微小液滴クラスターの効率的な形成のための必要条件であること、及びクラスター組成物が周囲条件において安定でありうることを見出した。加えて、本発明者らは、血管系におけるインビボでの効果的な活性化(相シフト)及び活性化気泡の蓄積を可能にするのは、クラスター組成物中の微小気泡及び微小液滴のクラスター化形態であることを見出した。実施例1及び2に詳述したように、本発明者らはまた、本発明のクラスターの様々な態様、特に、その濃度及びサイズを設計すると、2つの別個の微小気泡及び微小液滴成分の同時の共投与と比較して、蓄積及び薬物送達容量の約10倍の増加を達成できることを見出した。
【0058】
本発明によれば、実施例2及び5-1において実証されるように、0.9未満の円形度によって定義される1~10μmのサイズ範囲のクラスターが特に有用であると考えられる。このサイズ範囲のクラスターは、活性化の前に血管系において自由流動性であり、US照射によって容易に活性化され、微小血管系内に一時的に蓄積し滞留するのに十分に大型である活性化気泡を生成する。
【0059】
クラスター中の微小気泡の存在は、診断用周波数範囲(1~10MHz)の超音波エネルギーの効率的なエネルギー伝達、即ち、活性化を実現し、低MI(1.9を下回る、好ましくは0.7を下回る、より好ましくは0.4を下回る)でのエマルション微小液滴の気化(相シフト)並びに気化した液体の微小気泡中への拡散及び/又は蒸気泡と微小気泡との間の融合を可能にすることが見出された。次いで、活性化気泡は、マトリックスガス(例えば、血液ガス)の内向き拡散により更に膨張して、10μm超、好ましくは20μm超の直径に到達する。クラスターの活性化及び相シフト気泡の発生中に関与する厳密な機構は、更なる研究及び解明を必要とする。
【0060】
これらのクラスターの形成は、効率的な相シフト事象のための必要条件であること、並びにその数及びサイズ特性は、組成物の有効性、即ち、インビボで大型の活性化した(即ち、相シフトした)気泡を形成するその能力に強く関連することが更に見出された。数及びサイズ特性は、第1の成分中の微小気泡及び第2の成分中の微小液滴の間の引力の強さ(例えば、微小気泡及び微小液滴の間の表面電荷の差)、微小気泡及び微小液滴のサイズ分布、微小気泡と微小液滴の比、並びに水性マトリックスの組成(例えば、緩衝液濃度、イオン強度)などであるがこれらに限定されない様々な配合パラメーターによって制御することができる(実施例1及び2を参照されたい)。
【0061】
活性化気泡のサイズは、エマルション中の微小液滴のサイズ分布及びクラスターのサイズ特性を変動させることによって設計することができる(実施例1を参照されたい)。クラスターは、画像化制御下で、臨床用超音波画像化システムなどからの外部超音波エネルギーの印加によって活性化されて、大型気泡を生成する。生成された大型の相シフト気泡は、典型的には、10μm以上の直径である(実施例1、2、3、及び4を参照されたい)。十分に診断用画像化の曝露限度(MI<1.9)内である低MIのエネルギーレベルが、クラスターを活性化するのに十分であり、これにより、本技術はその他の利用可能な相転移技術(例えば、ADV)とは大きく異なるものとなる。
【0062】
活性化気泡の大型サイズに起因して、それらは微小血管系内に一時的に滞留し、クラスターを活性化する超音波エネルギーの空間的に局在化された蓄積によって、目的の組織又は臓器に空間的に局在させることができる(実施例4及び7を参照されたい)。生成された大型の活性化気泡(直径10μm以上)は、低超音波周波数(1MHz以下)の音響共振を有する。大型の活性化気泡の共振周波数に近い低周波数超音波(即ち、0.05から2MHzの範囲、好ましくは0.1から1.5MHzの範囲、最も好ましくは0.2から1MHzの範囲の周波数成分)の適用を使用して、血管系の局所透過性を増加させる機械的及び/若しくは熱的な生物学的作用機構並びに/又はソノポレーション並びに/又はエンドサイトーシスを生じさせ、従って、薬物の送達及び保持を増加させることができることが見出された(実施例8を参照されたい)。
【0063】
このUS照射中の送達機構は、US画像化用の造影剤などの通常の自由流動性の微小気泡にUSを適用した場合に誘導されるものとは実質的に異なることが理解されよう。大型の相シフト微小気泡は血管のセグメント内に捕捉され、微小気泡表面が内皮と密接に接触しているのに対し、ミクロンサイズの微小気泡は自由流動性であり、血管壁から(平均して)相対的に離れている(実施例4を参照されたい)。加えて、本発明による活性化気泡の体積は、典型的には、通常の微小気泡の体積の1000倍である。等しいMIにおいて、両方の気泡タイプの共振に近い周波数(相シフト微小気泡については0.5MHz、通常の造影剤微小気泡については5MHz)でインソネートすると、振動中の絶対体積変位は、相シフト気泡では、通常のコントラスト微小気泡よりもほぼ3桁大きいことが示された。従って、相シフト気泡のインソネーションは、通常のコントラスト微小気泡のインソネーション中よりも有意に大きい効果量及び浸透深さを有する、完全に異なるレベルの生体力学的作用を生じさせる。自由流動性の通常のコントラスト微小気泡で観察される生物学的作用は、キャビテーション機構に依存し、安全性の懸念、例えば、微小出血及び不可逆的な血管損傷が結果として生じる可能性がある。大型の相シフト気泡は、より穏やかな様式(より低いMI、例えば、0.4未満)で振動させることができ、キャビテーション機構が回避されつつも、血管系からの及び標的組織への薬物の取り込みを向上させる十分な機械的作用が誘導される(実施例8を参照されたい)。
【0064】
大型の相シフト気泡の捕捉はまた、蓄積トレーサーとして作用する。これは更に、活性化したクラスターの数及び組織の灌流の数値化を可能にし、治療すべき病変の空間的広がりを特定するための組織血管系の造影剤画像化を可能にする(実施例7を参照されたい)。
【0065】
クラスター組成物、即ち、第1及び第2の成分の組合せを含むものは、制御された様式でクラスター化及び相シフトするように設計された二相性微粒子系から構成される。例えば正荷電のリン脂質膜で安定化された、第2の成分の低沸点のミクロンサイズの油微小液滴に、薬物を組み込んでもよい。投与の前に、第2の成分の薬物をロードした油微小液滴を、第1の成分中のミクロンサイズの気体微小気泡と混合する。そのような気体微小気泡は、例えば、負荷電のリン脂質膜で安定化された低溶解度のペルフルオロカーボンの気体コアからなりうるがこれらに限定されない。
【0066】
標的病変において超音波(標準的な医療用画像化の周波数及び強度)に曝露されると、微小気泡は、音響エネルギーを付着した油微小液滴に伝達し、油が液体から気体への相シフト(気化)を経るための「種」として作用する。この過程の間に、薬物ロードが、油相から放出されるか又は活性化気泡の表面に発現される。得られた気泡は、油の気化に起因する急速な初期膨張、続いて、血液ガスの内向き拡散に起因するゆっくりとした膨張を経て、少なくとも直径10μm以上、好ましくは少なくとも直径20μm以上となり、微小循環(メタ細動脈及び毛細血管網)を一時的に遮断して、血流をおおよそ1分以上、好ましくは2~3分以上、最も好ましくは3~6分以上の間一過性に止めて、放出又は発現された薬物を高濃度で且つ標的病変に近接して保つ(実施例4及び7を参照されたい)。
【0067】
或いは、治療剤をエマルション微小液滴の油相に組み込まない場合、治療剤は、クラスター組成物と、別個に投与する、例えば、共投与する又は事前投与する又は事後投与することができる。この場合、治療剤は、注射用又は経口形態、例えば通常の薬物製剤、例えば、Taxol、Gemzar、又は他の市販されている化学療法薬としてを含むがこれらに限定されない任意の好都合な形態で投与することができる。或いは、治療剤は、油相中に含まれ、且つ別個の組成物として投与されてもよい。相シフト技術による活性化は、目的部位に捕捉されて、別個に投与された治療剤を含有する血流を一時的に止める、大型の相シフト気泡を生成する。捕捉後の超音波の更なる適用は、薬物の標的組織への溢出を促進する。
【0068】
本発明の第1の成分は、市販されておりいくつかの臨床用途への使用が承認されている従来の超音波造影剤、例えば、Sonazoid、Optison、Definity、若しくはSonovue、又は前臨床用途に使用される類似の薬剤、例えば、Micromarker及びPolyson Lに類似した微小気泡を含有する。第1の成分は、分散した気体及び前記気体を安定化するための材料を含む注射用水性媒体である。任意の生体適合性気体が気体分散体中に存在することができ、本明細書で使用される「気体」という用語には、正常なヒト体温である37℃で少なくとも部分的に、例えば実質的に又は完全に、気体状の(蒸気を含む)形態の任意の物質(混合物を含む)が含まれる。従って、気体は、例えば、空気;窒素;酸素;二酸化炭素;水素;不活性気体、例えば、ヘリウム、アルゴン、キセノン、又はクリプトン;フッ化硫黄、例えば、六フッ化硫黄、十フッ化二硫黄、又は五フッ化トリフルオロメチル硫黄;六フッ化セレン;任意選択でハロゲン化されていてもよいシラン、例えば、メチルシラン又はジメチルシラン;低分子量炭化水素(例えば、最大7個の炭素原子を含有する)、例えば、アルカン、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、若しくはペンタン、シクロアルカン、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、若しくはシクロペンタン、アルケン、例えば、エチレン、プロペン、プロパジエン、若しくはブテン、又はアルキン、例えば、アセチレン若しくはプロピン;エーテル、例えば、ジメチルエーテル;ケトン;エステル;低分子量ハロゲン化炭化水素(例えば、最大7個の炭素原子を含有する);或いは前述のいずれかの混合物を含みうる。有利には、ハロゲン化ガス中のハロゲン原子のうちの少なくとも一部はフッ素原子であり、従って、生体適合性のハロゲン化炭化水素ガスは、例えば、ブロモクロロジフルオロメタン、クロロジフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタン、クロロトリフルオロメタン、クロロペンタフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロエチレン、フッ化エチル、1,1-ジフルオロエタン、及びペルフルオロカーボンから選択されうる。代表的なペルフルオロカーボンには、ペルフルオロアルカン、例えば、ペルフルオロメタン、ペルフルオロエタン、ペル
フルオロプロパン、ペルフルオロブタン(例えば、ペルフルオロ-n-ブタン、任意選択で他の異性体、例えば、ペルフルオロ-イソブタンとの混和物であってもよい)、ペルフルオロペンタン、ペルフルオロヘキサン、又はペルフルオロヘプタン;ペルフルオロアルケン、例えば、ペルフルオロプロペン、ペルフルオロブテン(例えば、ペルフルオロブタ-2-エン)、ペルフルオロブタジエン、ペルフルオロペンテン(例えば、ペルフルオロペンタ-1-エン)、又はペルフルオロ-4-メチルペンタ-2-エン;ペルフルオロアルキン、例えば、ペルフルオロブタ-2-イン;及びペルフルオロシクロアルカン、例えば、ペルフルオロシクロブタン、ペルフルオロメチルシクロブタン、ペルフルオロジメチルシクロブタン、ペルフルオロトリメチル-シクロブタン、ペルフルオロシクロペンタン、ペルフルオロメチル-シクロペンタン、ペルフルオロジメチルシクロペンタン、ペルフルオロシクロヘキサン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、又はペルフルオロシクロヘプタンが含まれる。他のハロゲン化ガスには、塩化メチル、フッ素化(例えば、過フッ素化)ケトン、例えばペルフルオロアセトン、及びフッ素化(例えば、過フッ素化)エーテル、例えばペルフルオロジエチルエーテルが含まれる。
【0069】
過フッ素化ガス、例えば、六フッ化硫黄並びにペルフルオロカーボン、例えば、ペルフルオロプロパン、ペルフルオロブタン、ペルフルオロペンタン、及びペルフルオロヘキサンの使用は、そのような気体を含有する微小気泡の血流中での認識されている高い安定性の観点から特に有利である。血流中で高度に安定な微小気泡を形成させる物理化学的特性を有する他の気体も同様に有用でありうる。最も好ましくは、分散した気体は、六フッ化硫黄、ペルフルオロプロパン、ペルフルオロブタン、ペルフルオロペンタン、ペルフルオロヘキサン、窒素、空気、又はそれらの混合体を含む。
【0070】
分散した気体は、例えば、気体含有成分としての任意の適切な気体含有超音波造影剤製剤、例えば、Sonazoid、Optison、Sonovue、若しくはDefinity、又は前臨床薬剤、例えば、Micromarker若しくはPolySon Lを使用した、任意の好都合な形態でありうる。第1の成分はまた、微小気泡分散体を安定化するための材料を含有し、これは本文書において、「第1の安定剤」と称される。そのような配合物の代表例には、第1の安定剤、例えば、耐合体性の表面膜(例えば、ゼラチン)、フィルム形成性(filmogenic)タンパク質(例えば、アルブミン、例えばヒト血清アルブミン)、ポリマー材料(例えば、合成生分解性ポリマー、弾性界面合成ポリマー膜、微粒子状生分解性ポリアルデヒド、ポリアミノ酸-多環式イミドの微粒子状N-ジカルボン酸誘導体)、非ポリマー性及び非重合性の壁形成材料、又は界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー界面活性剤、例えばPluronic、ポリマー界面活性剤、若しくはフィルム形成界面活性剤、例えばリン脂質)によって安定化された(例えば、少なくとも部分的に封入された)気体の微小気泡が含まれる。好ましくは、分散した気体は、リン脂質、タンパク質、又はポリマーで安定化された気体微小気泡の形態である。特に有用な界面活性剤には、正味の全体として負の電荷を有する分子を含むリン脂質、例えば、天然に存在する(例えば、大豆若しくは卵黄に由来する)、半合成の(例えば、部分的に若しくは完全に水素化された)、及び合成のホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、及び/又はカルジオリピンが含まれる。或いは、安定化のために加えられるリン脂質は、全体として中性の電荷を有し、脂肪酸などの陰性界面活性剤を添加したもの、例えば、パルミチン酸を添加したホスファチジルコリンであってもよく、又は異なった荷電のリン脂質の混合体、例えば、ホスファチジルエタノールアミン及び/又はホスファチジルコリン及び/又はホスファチジン酸であってもよい。
【0071】
静脈内注射用の分散した気体成分の微小気泡サイズは、微小気泡/微小液滴クラスターの状態であっても、肺系統の円滑な通過を促進するために、好ましくは7μm未満、より好ましくは5μm未満、最も好ましくは3μm未満であるべきである。
【0072】
第2の成分については、「拡散性成分」は、好適には、例えば投与した際に、気体を発生させることが可能な気体/蒸気、揮発性液体、揮発性固体、又はそれらの前駆体であり、主な要件は、成分が、分散した気体中への気体又は蒸気分子の内向き拡散を増進させることができるように、インビボで十分な気体又は蒸気圧(例えば、少なくとも50トル、好ましくは100トル超)を有する又は発生させることができるべきであるということである。「拡散性成分」は、好ましくは、適切な水性媒体中の微小液滴のエマルション(即ち、安定化された懸濁液)として配合され、その理由は、そのような系中では、非常に希薄なエマルション中であっても、拡散性成分の水性相における蒸気圧が、純成分材料のものと実質的に等しいからである。
【0073】
そのような微小液滴中の拡散性成分は、有利には、水性相が適切な不凍材料を含有する場合、例えば-10℃程度の低温でありうる処理及び保存温度で液体であるが、体温で気体であるか又は実質的な蒸気圧を示す。適切な化合物は、例えば、特許WO-A-9416379に示された乳化性の低沸点液体の様々な一覧から選択することができ、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。乳化性の拡散性成分の具体例には、脂肪族エーテル、例えば、ジエチルエーテル;多環式油又はアルコール、例えば、メントール、ショウノウ、又はユーカリプトール;複素環式化合物、例えば、フラン又はジオキサン;飽和又は不飽和及び直鎖又は分岐鎖でありうる脂肪族炭化水素、例えば、n-ブタン、n-ペンタン、2-メチルプロパン、2-メチルブタン、2,2-ジメチルプロパン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、1-ブテン、2-ブテン、2-メチルプロペン、1,2-ブタジエン、1,3-ブタジエン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、イソプレン、1-ペンテン、1,3-ペンタジエン、1,4-ペンタジエン、ブテニン、1-ブチン、2-ブチン、又は1,3-ブタジインなどの場合;脂環式炭化水素、例えば、シクロブタン、シクロブテン、メチルシクロプロパン、又はシクロペンタン;及び低分子量ハロゲン化炭化水素(例えば、最大7個の炭素原子を含有する)が含まれる。代表的なハロゲン化炭化水素には、ジクロロメタン、臭化メチル、1,2-ジクロロエチレン、1,1-ジクロロエタン、1-ブロモエチレン、1-クロロエチレン、臭化エチル、塩化エチル、1-クロロプロペン、3-クロロプロペン、1-クロロプロパン、2-クロロプロパン、及び塩化t-ブチルが含まれる。有利には、ハロゲン原子のうちの少なくとも一部はフッ素原子であり、例えば、ジクロロフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエタン、1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラフルオロエタン、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン、2-ブロモ-2-クロロ-1,1,1-トリフルオロエタン、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル、1-クロロ-2,2,2-トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル、部分的にフッ素化されたアルカン(例えば、ペンタフルオロプロパン、例えば、1H,1H,3H-ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロブタン、ノナフルオロブタン、例えば、2H-ノナフルオロ-t-ブタン、及びデカフルオロペンタン、例えば、2H,3H-デカフルオロペンタン)、部分的にフッ素化されたアルケン(例えば、ヘプタフルオロペンテン、例えば、1H,1H,2H-ヘプタフルオロペンタ-1-エン、及びノナフルオロヘキセン、例えば、1H,1H,2H-ノナフルオロヘキサ-1-エン)、フッ素化エーテル(例えば、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルメチルエーテル又は2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル)などの場合であり、より好ましくはペルフルオロカーボンである。ペルフルオロカーボンの例には、ペルフルオロアルカン、例えば、ペルフルオロブタン、ペルフルオロペンタン、ペルフルオロヘキサン(例えば、ペルフルオロ-2-メチルペンタン)、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロノナン、及びペルフルオロデカン;ペルフルオロシクロアルカン、例えば、ペルフルオロシクロブタン、ペルフルオロジメチル-シクロブタン、ペルフルオロシクロペンタン、及びペルフルオロメチルシクロペンタン;ペルフルオロアルケン、例えば、ペルフルオロブテン(例えば、ペルフルオロブタ-2-エン又はペルフルオロブタ-1,3-ジエン)、ペルフルオロペンテン(例えば、ペルフルオロペンタ-1-エン)、及びペルフルオロヘキセン(例えば、ペルフルオロ-2-メチルペンタ-2-エン又はペルフルオロ-4-メチルペンタ-2-エン);ペルフルオロシクロアルケン、例えば、ペルフルオロシクロペンテン又はペルフルオロシクロペンタジエン;並びに過フッ素化アルコール、例えば、ペルフルオロ-t-ブタノールが含まれる。
【0074】
本発明において特に有用なのは、1×10-4M未満、より好ましくは1×10-5M未満の水溶解度を有する拡散性成分である(実施例5-3を参照されたい)。しかしながら、拡散性成分及び/又は共溶媒の混合物を使用する場合、混合物の実質的な割合は、より高い水溶解度を有する化合物を含有しうることに留意されたい(実施例5-4を参照されたい)。
【0075】
所望の場合、2種以上の拡散性成分の混合物を本発明に従って採用することができ、本明細書における「拡散性成分」への言及は、そのような混合物を含むと解釈すべきであることが理解されよう。また、拡散性成分に薬物を組み込んでもよいこと、及び系の薬物ローディング容量を増加させるために、下記の本文に記載する共溶媒を使用してもよいことが理解されよう。
【0076】
第2の成分はまた、微小液滴分散体を安定化するための材料を含有し、これは本文書において、「第2の安定剤」と称される。第2の安定剤は、気体分散体を安定化するのに使用される任意の材料と同じであっても異なっていてもよく、例えば、界面活性剤、ポリマー、又はタンパク質である。任意のそのような材料の性質は、分散した気体相の成長速度などの因子に有意に影響しうる。一般的に、幅広い範囲の界面活性剤が有用でありえ、これは例えば、EP-A-0727225に示された広範な一覧から選択され、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。有用な界面活性剤の代表例には、脂肪酸(例えば、直鎖の飽和又は不飽和脂肪酸、例えば10~20個の炭素原子を含有するもの)及びそれらの炭水化物及びトリグリセリドエステル、リン脂質(例えば、レシチン)、フッ素含有リン脂質、タンパク質(例えば、アルブミン、例えばヒト血清アルブミン)、ポリエチレングリコール、及びポリマー、例えばブロックコポリマー界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、例えばPluronic、伸長ポリマー、例えばアシルオキシアシルポリエチレングリコール、例えばポリエチレングリコールメチルエーテル16-ヘキサデカノイルオキシ-ヘキサデカノエート、例えばここで、ポリエチレングリコール部分は、2300、5000、又は10000の分子量を有する)、並びにフッ素含有界面活性剤(例えば、Zonyl及びFluoradの商品名で市販されているか、又はWO-A-9639197に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる)が含まれる。特に有用な界面活性剤には、全体として中性の電荷を有する分子を含むリン脂質、例えば、ジステアロイル-sn-グリセロール-ホスホコリンが含まれる。
【0077】
静電引力相互作用を促進して、第1の成分中の微小気泡及び第2の成分中のエマルション微小液滴の間のクラスター化を達成するためには、これらは反対の表面電荷を有するべきであることが理解されよう。従って、第1の成分の微小気泡が負荷電である場合、第2の成分の微小液滴は正荷電であるべきであり、逆もまた同様である。油微小液滴の好適な表面電荷を促進するために、カチオン性界面活性剤が安定化構造に添加されうる。幅広い範囲のカチオン性物質を使用することができ、例えば、塩基性窒素原子を有する少なくとも幾分疎水性及び/又は実質的に水不溶性の化合物、例えば、第一級、第二級、又は第三級アミン及びアルカロイドである。特に有用なカチオン性界面活性剤は、ステアリルアミンである。
【0078】
また、第1及び第2の成分の混合は、成分の形態に応じて様々な様式で、例えば、2つの流体成分を混合する、乾燥粉末形態の1つの成分を流体形態の1つの成分で再構成する、乾燥形態の2つの成分を混合した後に流体(例えば、注射用水又は緩衝溶液)で再構成することで達成できることが理解されよう。また、微小気泡/微小液滴の表面電荷のレベル、2つの成分中の微小気泡/微小液滴の濃度、微小気泡/微小液滴のサイズ、イオンの組成及び濃度、添加剤(例えば、緩衝液又は等張化成分)の組成及び濃度等を含むがこれらに限定されない他の成分が、微小気泡及び微小液滴が混合の際にクラスターを形成する能力に影響を及ぼす可能性もあることが理解されよう(実施例1を参照されたい)。成分及び組成物のそのような特性はまた、発生したクラスターのサイズ及び安定性(インビトロとインビボの両方での)に影響を及ぼす可能性があり、生物学的属性(例えば、有効性及び安全性プロファイル)に影響を及ぼす重要な因子でありうる。また、クラスター組成物中の微小気泡/微小液滴の全てがクラスター化形態で存在しうるとは限らないが、微小気泡及び/又は微小液滴の実質的な割合は、微小気泡/微小液滴クラスターの集団とともに遊離(非クラスター化)形態で一緒に存在しうることが理解される。加えて、均質化中に印加される剪断応力(例えば、穏やかな手動均質化又は強力な機械的均質化)及び均質化の時間範囲を含むがこれらに限定されない2つの成分を混合する方式が、これらの側面に影響を及ぼす可能性もある。
【0079】
静脈内注射用のエマルション中の分散した拡散性成分の微小液滴サイズは、肺系統の円滑な通過を促進しつつも、薬物ローディング及び微小血管系内への活性化気泡の保持に十分な体積を保持するために、好ましくは7μm未満、より好ましくは5μm未満、最も好ましくは3μm未満であり、且つ0.5μm超、より好ましくは1μm超であるべきである。
【0080】
インビボでの分散した気体相の成長は、例えば、任意の封入材料の膨張(これが十分な可撓性を有する場合)及び/又は投与された材料から成長中の気液界面への過剰の界面活性剤の引き抜きを伴いうる。しかしながら、封入材料の伸張及び/又は材料と超音波との相互作用が、その多孔性を実質的に増加させうる可能性もある。封入材料のそのような破壊は、これまで多くの場合には、それによって露出した気体の外向き拡散及び溶解によるエコー源性の急速な低下につながることが見出されているが、本発明者らは、本発明による組成物を使用した場合、露出した気体が実質的な安定性を示すことを見出した。理論的計算に拘泥することを望むものではないが、本発明者らは、例えば遊離された微小気泡の形態の露出した気体は、微小気泡気体の外向き拡散傾向に対抗する内向き圧力勾配をもたらす、拡散性成分によって発生する過飽和環境によって、例えば微小気泡の崩壊に対して安定化されうると考えている。露出した気体の表面は、封入材料の実質的な不在によって、活性化気泡に、典型的な診断用画像化周波数において高い後方散乱及び低いエネルギー吸収(例えば、高い後方散乱:減衰比によって表される)によって立証される並外れて好ましい音響特性を示させることができ、このエコー源性効果は、連続的な超音波照射の間であっても、かなりの期間にわたって持続しうる。
【0081】
クラスターの微小気泡成分の音響共振は、診断用周波数範囲(1~10MHz)内である。クラスターの活性化は、例えば従来の医療用超音波の腹部及び心臓適用において使用される標準的な診断用超音波画像化パルスを用いて、中程度から低いメカニカルインデックス(1.9未満、好ましくは0.7未満、より好ましくは0.4未満のMI)で容易に得られる。相シフトして大型(直径10μm以上)の相シフト気泡を生成するクラスターの活性化は、画像化パルスを採用することによって、ミリメートル以内の空間分解能までの臨床用画像化システムを用いて達成することができる。活性化の際、微小液滴中の油が気化して、治療剤(含まれている場合)を遊離薬物形態で若しくは結晶化した薬物として(粒子状形態で)周囲流体へ放出するか、又は活性化気泡表面に発現/会合させる。活性化気泡は、微小血管系内に捕捉されて、血流を一時的に止め、微小血管系内の薬物を高濃度で保つ。捕捉後の超音波の更なる適用は、送達機構を促進して、組織への薬物送達の効率を増加させる。クラスターは低MI(クラスター活性化閾値であるおおよそ0.1未満)では活性化されず、標準的な医療用超音波造影剤画像化を実施して、例えば、クラスターを活性化することなく腫瘍微小血管病変を特定することが可能になる。画像化パルスを使用した医療用超音波画像化制御下での活性化は、超音波場によって調べられる組織領域におけるクラスターの空間的に標的化された活性化を可能にする。活性化の後、生成された大型の相シフト気泡は、そのサイズ(直径10μm以上)に起因して、微小血管系内に一時的に捕捉される。得られた大型の相シフト気泡は、気化したエマルション微小液滴の体積のおおよそ1000倍である(直径3μmの油微小液滴から30μmの気泡直径)。これらの大型の相シフト気泡の散乱断面積は、活性化の前のクラスターに含まれるミクロンサイズの微小気泡の散乱断面積よりも数桁大きい。結果として、大型の相シフト気泡は、大量の後方散乱信号を生成し、診断用画像化システムを用いて基本画像化モードで容易に画像化される(実施例2及び7を参照されたい)。大型の相シフト気泡の機械的共振周波数はまた、活性化の前のクラスターに含まれる微小気泡の共振周波数よりも1桁低い(1MHz以下)。大型の相シフト気泡の共振周波数に対応する音場の印加は、医療診断用
範囲内のMIで相対的に大きい半径の振動を生じさせる。従って、低周波数(0.05から2MHz、好ましくは0.1から1.5MHz、最も好ましくは0.2から1MHz)の超音波を適用して、放出又は共投与された薬物の取り込みを向上させる生物学的作用機構を生じさせることができる。活性化気泡の共振作用を活用すると、他の技術を用いて可能となるよりも低い音響強度及び低い周波数におけるこれらの生物学的作用の開始のより良好な制御が可能になる。大型の相シフト気泡が、画像化制御下で、組織微小血管系内で活性化され蓄積する(組織における大型の活性化気泡の空間的標的化を可能にする)という事実と併せて、その長期の滞在時間により、薬物送達機構のより効率的且つ制御された実施が可能になる。蓄積した大型の相シフト気泡の共振特性を使用することによって必要とされる低い周波数及び低減された音響出力は、血液脳関門を開くための大きな潜在的利点を有する。低周波場は、他の手法が現在経験している熱的作用の問題及びそのような問題を回避するために頭蓋骨を除去する必要性を大幅に低減させる。
【0082】
送達される治療剤は、「薬物」とも呼ばれ、薬物分子、ナノ粒子及びナノ粒子送達系、遺伝子、並びに放射性同位体の群から選択されうる。これは、第2の成分の油相に溶解している又は他の形で組み込まれている(例えば、分散している)か、或いは、別個の組成物として投与されるかのいずれかである。薬物クラスの例には、遺伝子(遺伝子療法のための)、化学療法薬、免疫療法薬(例えば、がん療法又は臓器移植療法のための)、例えば新たな血管の成長を刺激するための血管新生を生じさせる薬物、例えばがん又は神経疾患、例えばパーキンソン病及びアルツハイマー病を治療するための血液脳関門を通過する薬物が含まれるがこれらに限定されない。
【0083】
化学療法薬については、例となる薬物には、以下の薬物クラスが含まれるがこれらに限定されない:アルキル化剤、例えば、シクロホスファミド、メクロレタミン、クロラムブシル、メルファラン;アントラサイクリン、例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、バルルビシン;細胞骨格破壊剤(cytoskeletal disruptor)(タキサン)、例えば、パクリタキセル及びドセタキセル;エポチロン;ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、例えば、ボリノスタット、ロミデプシン;トポイソメラーゼI及びIIの阻害剤、例えば、イリノテカン、トポテカン、エトポシド、テニポシド、タフルポシド;キナーゼ阻害剤、例えば、ボルテゾミブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ベムラフェニブ、ビスモデギブ;モノクローナル抗体、例えば、ベバシズマブ、セツキシマブ、イピリムマブ、オファツムマブ、オクレリズマブ、パニツマブ、リツキシマブ;ヌクレオチド類似体及び前駆体類似体、例えば、アザシチジン、アザチオプリン、カペシタビン、シタラビン、ドキシフルリジン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メルカプトプリン、メトトレキサート、チオグアニン;ペプチド抗生物質、例えば、ブレオマイシン、アクチノマイシン;白金系薬剤、例えば、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン;レチノイド、例えば、トレチノイン、アリトレチノイン、ベキサロテン;ビンカアルカロイド及び誘導体、例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン。
【0084】
実施例5に記したように、本発明においては、-2未満のLogSを有する疎水性薬物が好ましい。
【0085】
本発明の一実施形態では、薬物は、拡散性(diffusable)成分を含む油微小液滴に溶解している。十分な量、例えば、0.5質量%超又は好ましくは2質量%超の薬物を溶解するために、1種又は複数の溶媒(共溶媒)を主な油成分に添加してもよい。溶媒の化学反応性は、好ましくは不活性であるべきであり、非置換のアルカン及びエーテル、水素化フルオロカーボン(hFC)及び過フッ素化(pF)アルカン(pFC)、pF-シクロアルカン、pF-エーテル、水素化フルオロエーテル(hFE)、pF-オキソラン、pF-フラン、pF-ピラン、ジエチルシランなどであるがこれらに限定されない。共溶媒は、好ましくは、ICHクラス2、3、及び4、低毒性の溶媒及び適当な毒性データがない溶媒に制限されるべきであり、アセトン、エタノール、酢酸エチル、2-プロパノール、1,1-ジメトキシメタン、イソプロピルエーテル、トリクロロ酢酸等などであるがこれらに限定されない。潜在的に好ましい溶媒の更なる例には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、オキセタン(トリメチレンオキシド)、1-クロロ-2-フルオロエタン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、二塩化メチレン(ジクロロメタン)、三塩化メチレン(トリクロロメタン)、3-フルオロオキセタン、グリコフロール、ジクロロエチレン、1,3-ジフルオロプロパン、2-クロロ-1,1-ジフルオロエタン、1-クロロ-2,2-ジフルオロエタン、1,2,2-テトラフルオロエチルフルオロメチルエーテル、メチルイソプロピルエーテル、1-プロパノール、プロピレングリコール、2-プロパノール、1-ペンタノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1,3-ブタンジオール、及びイソブチルアルコールが含まれるがこれらに限定されない。
【0086】
薬物ローディング容量を最適化するため、2種以上の共溶媒を同時に使用することが特に有用でありうる。特に有用な共溶媒には、二塩化メチレン、三塩化メチレン、及び2-クロロ-1,1-ジフルオロエタンが含まれる。
【0087】
所望の空間的位置におけるクラスター組成物の活性化の際に生成された大型の相シフト気泡からの音響信号を、組成物によって放出され組織領域に送達された薬物の量を数値化するために、典型的には医療用超音波画像化システムを用いて測定することができる。音響情報は、例えば、好適なソフトウェアアルゴリズム及びコンピューター処理を使用したサポート方法によって記録及び解釈される。従って、一実施形態では、本発明は、相シフト技術による活性化によって遊離される大型の相シフト気泡によって生成される音響シグネチャーを分析することによる、放出される薬物の量の数値化方法を提供する。従って、送達された薬物の量は、大型の活性化気泡の音響シグネチャーの処理によって数値化される。
【0088】
別の実施形態では、本発明は、多剤治療計画の一部としての、薬物送達のための方法を提供する。
【0089】
更に別の実施形態では、本発明は、クラスターを活性化することなく微小気泡成分、即ち、分散した気体を画像化する低MI造影剤画像化モード(MI<0.15)を使用して、治療のための病変領域を特定する工程を含む方法を提供する。従って、クラスターは低MI(活性化閾値未満)では活性化されないことから、活性化工程の前に標準的な医療用超音波造影剤画像化を実施して、例えば、クラスターを活性化することなく腫瘍微小血管病変を特定することができる。
【0090】
更に別の実施形態では、本発明は、治療のための病変領域を特定するため、及び灌流を数値化するための、活性化気泡の蓄積トレーサー特性及び超音波画像化の使用を提供する。クラスターを活性化することなく微小気泡成分を画像化する低MI造影剤画像化モードを使用して、治療のための病変領域を特定することに加えて、本方法は、活性化気泡の蓄積トレーサー特性を使用して、治療のための病変領域を特定すること、及び灌流を数値化することを含みうる。
【0091】
本発明の更に別の実施形態では、治療剤は、事前投与及び/又は共投与及び/又は事後投与される。クラスター組成物が投与され、活性化工程が実施される。クラスター組成物の活性化は、目的部位に捕捉されて、血流を一時的に止める、大型の相シフト気泡を生成する。捕捉後の超音波の更なる適用は、生物学的機構を促進し、例えば、血管系の透過性を増加させ、従って、事前投与及び/又は共投与及び/又は事後投与された薬物の取り込み及び/又は分布、ひいては効率を増加させる。
【0092】
本発明の更に別の実施形態では、治療剤は、第2の成分中のエマルション微小液滴にロードされて且つ別個の組成物として与えられる。
【0093】
本発明の更に別の実施形態では、治療される組織領域の灌流は、大型の活性化気泡の音響シグネチャーの処理によって数値化される。
【0094】
本発明の更に別の実施形態では、大型の相シフト気泡の音響シグネチャーは、後方散乱信号の処理によって組織領域の音響シグネチャーから完全に又は部分的に分離され、送達された薬物及び/又は治療される組織の灌流の数値化を改良するのに使用される。
【0095】
本発明の更に別の実施形態では、高出力超音波(高密度焦点式超音波、HIFU)[Lukka, H.等、Clinical Oncology 23 (2011) 117~127頁]が、大型の活性化気泡を含有する組織領域に適用される。大型の相シフト気泡の存在は、超音波温熱治療及び/又は組織切除を使用した熱送達の局所速度を増加させる。
【0096】
本発明の更に別の実施形態では、がん組織に対する全身性免疫応答を引き起こすために、大型の相シフト気泡を含有する組織領域に高出力超音波を適用して、細胞、例えばがん細胞を溶解する。
【0097】
従って、本発明のクラスター組成物は、医薬組成物としての使用するためのものでありうる。
【0098】
第2の態様では、本発明は、
(i)第1の態様に定義されたクラスター組成物と、
(ii)(i)との混合物又は(i)とは別個の組成物のいずれかとして提供される、任意選択の第2の治療剤と
を含み、少なくとも1種の治療剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0099】
第2の態様の第1の実施形態では、医薬組成物のクラスター組成物中の治療剤が存在せず、別個の組成物として提供される。
【0100】
第2の態様の第2の実施形態では、第1の治療剤が医薬組成物のクラスター組成物中に存在し、第2の治療剤もまた存在して別個の組成物として提供される。
【0101】
第3の態様では、本発明は、第1の態様に記載されたクラスター組成物又は第2の態様に記載された医薬組成物を含む、超音波造影剤を提供する。
【0102】
第4の態様では、本発明は、少なくとも1種の治療剤を哺乳動物対象に送達する方法であって、
(i)第2の態様に定義された医薬組成物を哺乳動物対象に投与する工程と、
(ii)任意選択で、超音波画像化を使用して前記医薬組成物の微小気泡を画像化して、前記対象内の治療のための目的領域を特定する工程と、
(iii)前記対象内の目的領域の超音波照射によって、工程(i)からのクラスター組成物の第2の成分の拡散性成分の相シフトを活性化して、
(a)前記クラスターの微小気泡が、工程(iii)の前記拡散性成分によって拡大されて、拡大した気泡を生じ、前記拡大した気泡が、前記拡大した気泡による前記目的領域における微小循環の一時的遮断に起因して、前記目的領域に局在するようにし、
(b)工程(iii)の前記活性化が、工程(i)において投与された治療剤の溢出を促進するようにする
工程と、
(iv)任意選択で、更なる超音波照射によって、工程(i)において投与された治療剤の更なる溢出を促進する工程と
を含む、方法を提供する。
【0103】
これに関連して、工程ii、iii、及びivにおいては、任意のメカニカルインデックスの超音波が使用されうる。しかしながら、工程iiにおいては、0.15未満のMIが好ましく、工程iii及びivにおいては、0.7未満のMIが好ましい。これに関連して、工程ii、iii、及びivにおいては、0.05から30MHzの間の任意の周波数の超音波が使用されうる。しかしながら、工程ii及びiiiにおいては、1~10MHzの範囲の周波数が好ましく、工程ivにおいては、0.05~2MHzの範囲の周波数が好ましい。
【0104】
医薬組成物は、好ましくは、前記哺乳動物対象に非経口的に、好ましくは静脈内に投与される。投与経路はまた、動脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下投与から選択されうる。第5の態様では、本発明は、哺乳動物対象の治療方法であって、第4の態様に定義された送達方法を含む、方法を提供する。
【0105】
本発明はまた、哺乳動物対象の治療における、本発明の医薬組成物又は本発明の送達方法の使用に関する。
【0106】
第6の態様では、本発明は、哺乳動物対象の治療方法であって、本発明のクラスター組成物又は本発明の医薬組成物を投与する工程と、高密度焦点式超音波(HIFU)を目的領域に適用する工程とを含む、方法を提供する。
【0107】
第7の態様では、本発明は、超音波造影剤又は医薬としての、本発明のクラスター組成物又は本発明の医薬組成物の使用を提供する。
【0108】
第8の態様では、本発明は、本発明の超音波造影剤を事前に投与された哺乳動物対象を画像化する工程を含む、超音波画像化方法を提供する。
【0109】
第2から第8の態様では、第1の態様に記載されたものと同じ成分及び実施形態が使用されうる。
【実施例
【0110】
以下の非限定的実施例は、本発明を例示する働きをする。単純化するために、全ての以下の実施例では、第1の成分をC1と称し、第2の成分をC2と称し、クラスター組成物、即ち、第1及び第2の成分の組合せにより得られる組成物をDP(製剤品)と称する。
【0111】
実施例1は、DP中の微小気泡/微小液滴クラスターの特性決定及び定量化のための分析方法について記載しており、濃度、サイズ、及び円形度を含む関連する応答及び属性を説明している。また、活性化気泡のサイズ及び濃度の特性決定及び数値化のための分析方法に関する詳細が提供される。加えて、調製後のクラスター安定性に関するデータが示されており、事前混合されたDP対同時注射されたDPについての特性の比較も示されている。また、DP中のクラスターの含量及びサイズの制御された操作のための設計工程が詳述されている。
【0112】
実施例2は、微小循環内に大型の活性化気泡を蓄積させる能力としての生成物の有効性に対するクラスター特性の作用を解明する、2つのインビボ研究の結果を提供する。これらのデータが更に分析され、0.9未満の円形度によって定義される3から10μmの間のサイズを有するクラスターが、クラスター組成物の有効性に寄与すると結論付けられている。また、生成物の有効性に関する結果がWO99/53963に報告された結果と比較され、本発明が、蓄積した相シフト気泡の量の10倍の増加をもたらすことが示されている。
【0113】
実施例3は、インビボでの活性化気泡のサイズ及び動態を実証する研究の結果を提供する。インビトロ分析の結果が確認され、おおよそ20μmの平均活性化気泡サイズが示されている。
【0114】
実施例4は、腸間膜組織の生体顕微鏡観察によって活性化気泡の蓄積性を実証するインビボ研究の結果を提供する。また、US照射の際の大型の活性化気泡の体積振動に対する理論的計算が提供され、これらが通常のコントラスト微小気泡の体積振動と比較されている。本発明の大型の活性化気泡によって得られる絶対体積振動は、通常のコントラスト微小気泡によるものよりも3桁大きいと結論付けられている。
【0115】
実施例5は、C1及びC2に関する様々な配合研究の結果を提供する。本発明によって教示される概念が、市販の微小気泡製剤:Sonazoid、Optison、Sonovue、Micromarker、及びPolysonをC1として使用する場合に機能的であり、従って、種々の微小気泡成分を本発明における使用のために検討できると証明されることが示されている。これらの薬剤の一部を用いて作製したクラスター組成物についての結果は、下は直径おおよそ1μmに至るまでのクラスターが活性化され、従って、組成物の全体的有効性に寄与しうることを実証している。実施例5はまた、C2中で使用するための種々の拡散性成分を調査しており、低水溶解度の過フッ素化炭化水素を使用することによってC1及びC2を混合した際の自発的活性化を回避できること、及びまたそのような化合物の使用により、US活性化の際に大型の相シフト気泡を形成する能力が高まることを示している。更に、実施例5は、C2の薬物ローディング及びそのようなローディングを促進するための共溶媒としての、部分的にハロゲン化された炭化水素の使用に対する調査からのデータを提供する。
【0116】
実施例6は、ナイルレッド蛍光色素をロードしたC2を用いて作製した活性化気泡に対する蛍光顕微鏡観察の結果を提供する。活性化の後、ロードされた物質は、活性化気泡の表面に均質に発現され、従って、内皮壁と密接に接触し、溢出しやすくなることが実証されている。
【0117】
実施例7は、マウスがんモデルにおける活性化気泡の蓄積性を実証するUS画像化コントラスト研究の結果を提供し、その特性を通常のHEPS/PFB微小気泡(C1)と比較している。DPの投与及び後続の活性化の際に、大型の相シフト気泡が腫瘍微小循環内に蓄積し、数分間停留したままであることが示されている。活性化の1.5分後に、コントラストレベルの変化は観察されない。反対に、HEPS/PFB微小気泡は、急速に流出する自由流動性のコントラストを示し、1分未満後にベースラインに完全に戻る。
【0118】
実施例8は、共投与及びロードされた化合物の送達の調査の結果を提供する。第1の研究コホートでは、後続の活性化及び更なるUS照射を伴うDPの投与が、筋組織への取り込みを2倍に増加させることが示されている。同一のUS照射手順を使用して、HEPS/PFB微小気泡(C1)のみの投与後には、取り込みの増加は観察されなかった。DPでは、腫瘍への取り込みは、活性化のみの際には2倍に、更なるUS照射の後には3.4倍に増加した。第2の研究コホートでは、後続の活性化を伴うDPの投与が、CW800 IR色素の腫瘍内取り込みをおおよそ30%増加させる(ルミネッセンス強度の増加として)こと、及び更なるUS照射が、腫瘍内取り込みをおおよそ60%増加させることが示された。第3の研究コホートでは、DiR蛍光色素をロードしたDPの投与、後続の活性化、及び更なるUS照射を調査した。結果は、処置後の腫瘍組織における蛍光強度の強い有意な増加を示し、C2成分にロードされた蛍光色素の放出及び取り込みが実証される。
【0119】
実施例9は、C1及びC2の製造について記載している。C1及びC2の3つの連続するバッチが、薬局方(欧州薬局方/米国薬局方)に準拠した無菌試験を通過した。
【図面の簡単な説明】
【0120】
図1】第1の成分中の微小気泡及び第2の成分中の微小液滴の間の3つのレベルの静電引力についての、第1の成分(微小気泡、点線)、第2の成分(微小液滴、一点鎖線)、第1及び第2の成分の合計(二点鎖線)、並びにクラスター組成物(実線)に対するコールターカウンター分析の結果を示すグラフである。y軸は数濃度(a.u.)であり、x軸は直径(μm)である。1.5%SAによる低引力(上のプロット)、3%SAによる中引力(中央のプロット)、及び5%SAによる高引力(下のプロット)。観察できるように、系中の粒子の総数の低下(白矢印によって示されている)は、1.5%SAでの無視できる低下から5.5%SAでの50%超の低下へと増加する。加えて、静電引力の増加とともに、クラスター組成物のサイズ分布の大きなエンドテーリング(黒矢印によって示されている)が増加し、微小気泡/微小液滴クラスターの含量の増加が実証される。
図2】クラスター組成物に対するフロー式粒子像分析(Flow Particle Image Analysis)の結果を示す写真である。微小気泡/微小液滴クラスターを示す5から10μmの間の粒子の顕微鏡写真の代表的な選択物である。
図3】第1の成分(微小気泡、上のプロット)及び第2の成分(微小液滴、下のプロット)に対する顕微鏡観察及び画像解析の結果を示す図である。1番のプロットペインは、微小気泡/微小液滴のサイズ分布を示し、図中、y軸は検出数であり、x軸は直径(μm)である。2番のプロットペインは、微小気泡/微小液滴の円形度分布を示し、図中、y軸は円形度であり、x軸は検出数である。3番のプロットペインは、サイズ(x軸)対円形度(y軸)の散布図を示し、図中、各検出は、サイズ/円形度マトリックス中の単一の点としてプロットされている。プロットペイン3中の灰色エリアは、円形度が0.9未満の3μm超の検出を示す。右の(大きい)ペインは、微小気泡/微小液滴の個々の検出からの顕微鏡写真の代表的な選択物を示す。上のプロットから観察できるように、第1の成分中の微小気泡は、メジアン径がおおよそ2.8μmの極めて狭いサイズ分布、並びにメジアン円形度がおおよそ0.98の狭い円形度分布を示す。検出の1%未満が直径3μm超及び円形度0.9未満の区域に含有され、これらは全て個々の微小気泡である。下のプロットから観察できるように、第2の成分中の微小液滴は、メジアン径がおおよそ3.0μmの極めて狭いサイズ分布、並びにメジアン円形度がおおよそ0.96の狭い円形度分布を示す。検出の1%未満が直径3μm超及び円形度0.9未満の区域に含有され、これらは全て個々の微小液滴である。
図4】USにより誘導される相シフト活性化の前(上のプロット)及び後(下のプロット)の、クラスター組成物に対する顕微鏡観察及び画像解析の結果を示す図である。1番のプロットペインは、検出された粒子のサイズ分布を示し、図中、y軸は検出数であり、x軸は直径(μm)である。2番のプロットペインは、円形度分布を示し、図中、y軸は円形度であり、x軸は検出数である。3番のプロットペインは、サイズ(x軸)対円形度(y軸)の散布図を示し、図中、各検出は、サイズ/円形度マトリックス中の単一の点としてプロットされている。上のプロット、プロットペイン3中の灰色エリアは、円形度が0.9m未満の3μm超の検出を示す。上のプロット、右の(大きい)ペインは、直径3μm超及び円形度0.9未満の区域における個々の検出からの顕微鏡写真の代表的な選択物を示す。図3と比較して、非活性化クラスター組成物中の粒子は、サイズ対円形度の散布図中で著明な隆起として観察される、サイズの長いエンドテーリング及び円形度の低いエンドテーリングを示し、微小気泡/微小液滴クラスターの存在が実証される。検出のおおよそ6%が直径3μm超及び円形度0.9未満の区域に含有される。これらのうち、95%超が微小気泡/微小液滴クラスター(即ち、5%未満の個々の微小気泡又は微小液滴)である。下のプロット、右の(大きい)ペインは、大型の活性化気泡の個々の検出からの顕微鏡写真の代表的な選択物を示す。観察できるように、US照射の際に、クラスター組成物中のクラスターは、相シフトして、おおよそ10から100μmの間に含有されるメジアン径がおおよそ20μmの大型の相シフト気泡の集団を生成する。
図5図4に示したクラスター組成物についての結果から単離された微小気泡/微小液滴クラスターの相対数サイズ(上)及び円形度(下)の分布を示すグラフである。観察できるように、クラスター組成物中のクラスターは、直径約3から約10μmであり、0.9未満の円形度を特徴とする。
図6】ソノメトリー(Sonometry)分析からの応答を示すグラフである。左のプロット:ソノメーター測定セルにおける体積割合(y軸)対活性化後の時間(x軸)。右のプロット:活性化気泡の体積加重(A)及び数加重(B)平均直径(y軸)対活性化後の時間(x軸)。
図7】クラスター組成物の安定性を示すグラフである。FPIA分析による5から10μmの間のクラスターの濃度(白丸、左軸)及びソノメトリー分析による微小液滴体積当たりの活性化気泡体積(黒丸、右軸)対調製後の時間。
図8】ソノメトリー分析による活性化気泡の体積加重メジアン径(y軸、μm)対コールター分析によるクラスター組成物の反応性(x軸、%)を示すグラフである。
図9】クラスター組成物の有効性対反応性を示すグラフである。y軸は、クラスター組成物の静脈内投与及び左心室における活性化の際の、イヌ心筋からのUS信号の線形増強(グレースケール単位)を示す。x軸は、コールター分析によるクラスター組成物の反応性(%)を示す。これらの結果は、30から60%の間の最適な反応性を実証している。
図10】クラスター組成物中のクラスターサイズ対反応性を示すグラフである。y軸は、5μm未満(点線)、5から10μm(実線)、10から20μm(一点鎖線)、及び20から40μm(二点鎖線)のサイズクラスについて観察されたクラスターの含量(%平均値)を示す。x軸は、コールター分析によるクラスター組成物の反応性(%)を示す。これらの結果は、反応性の増加とともにクラスターが大型化し、高反応性では小型及び中型サイズのクラスターが激減することを実証している。
図11】クラスター組成物の有効性対クラスター濃度及び活性化気泡体積を示すグラフである。左側の図:y軸は、クラスター組成物の静脈内投与及び左心室における活性化の際の、イヌ心筋からのUS信号の線形増強(グレースケール単位)を示す。x軸は、FPIA分析による投与されたクラスター組成物中の5から10μmの間のクラスターの濃度(百万/mL)を示す。右側の図:y軸は、クラスター組成物の静脈内投与及び左心室における活性化の際の、イヌ心筋からのUS信号の線形増強(グレースケール単位)を示す。x軸は、ソノメトリー分析による投与されたクラスター組成物中の活性化気泡体積(μL/mL)を示す。両方の図中の灰色エリアは、WO99/53963に報告された心筋内増強の範囲を示している。これらの結果は、調査されたインビトロパラメーターが組成物の有効性についての良好な予測因子であること、及び本発明によって教示されるクラスター組成物の有効性が、WO99/53963において教示されたものに対し、有効性の10倍の増加をもたらすことを実証している。
図12】クラスター組成物の静脈内投与及び左心室における活性化の際の、イヌ心筋からのUS信号の線形増強(グレースケール単位)に対する、様々なサイズクラスのクラスターの寄与についての多変量主成分分析(PCA)の結果を示すグラフである。Table 7(表7)及びTable 8(表8)に詳述した30個の試料のデータに対してPCAを実施した。左側のプロット:y軸は、5μm未満、5から10μm、10から20μm、及び20から40μmのクラスターサイズクラス(X変数)についての、計算された相関係数、即ち、心筋内増強に対する寄与を示す。右側のプロット:y軸は、左側のプロットからのモデルを使用した、計算された心筋内増強(GS単位)を示し、x軸は、各試料についての測定された心筋内増強(GS単位)を示す(R=0.85)。これらの結果は、小型及び中型サイズのクラスター(10μm未満)はクラスター組成物の有効性に有意に寄与するのに対し、大型のクラスター(10μm超)は寄与しないことを実証している。
図13】46%の反応性を有するクラスター組成物[Table 4(表4)の3番の試料]についての結果から単離された微小気泡/微小液滴クラスターの相対数サイズ(上)及び円形度(下)の分布を示すグラフである。観察できるように、クラスター組成物中のクラスターは、直径約3から約10μmであり、0.9未満の円形度を特徴とする。
図14】クラスター組成物の静脈内投与及び心腔における活性化の後の、動脈血中の活性化気泡の体積割合(y軸、ppm)対時間(x軸、秒)を示すグラフである。
図15】左上は、相シフト気泡が微小血管系内に一時的に滞留して血流を遮断している、腸間膜中のクラスター組成物の注射及び活性化後17秒のラット腸間膜の画像を示す顕微鏡写真である。左下は、破線の長方形のボックスによって示されるエリアを概略的に示す説明図である。相シフト気泡の輪郭を5倍に拡大表示している。相シフト気泡の輪郭はAと標識され、20ミクロンのスケールバーはCと標識されている。Bと標識され縮尺通りに示された3μmのHEPS/PFB微小気泡は、明らかに十分に小型であるため、活性化した相シフト気泡と同じように血管を遮断することはない。(右上)及び(右下)は、それぞれ注射後5分19秒及び5分45秒における、腸間膜の同じ領域を示す顕微鏡写真である。相シフト気泡は縮小し、血管樹の下方へ断続的に移動した後、完全に剥離し、再開された血流によって流出する。
図16】Aと標識された直径30ミクロンの相シフト気泡、及びBと標識された直径3ミクロンのHEPS/PFB微小気泡を10ミクロンのスケールバーとともに縮尺通りに示す図である。USインソネーションに対するシミュレーションされた応答の最小及び最大直径が、同じく縮尺通りに描画されたより小さい及びより大きい直径の破線によって描かれている。相シフト気泡のインソネーションに起因する体積の絶対変化は、HEPS/PFB微小気泡と比較して、おおよそ3桁増加しており、これらの2つの気泡タイプの間の周囲組織に対する機械的作用の根本的相違が実証される。
図17】自発的及びUS活性化気泡成長に対する油相の水溶解度の作用を示すグラフである。左側のプロット:y軸は、第1の成分及び第2の成分を混合した際に(即ち、クラスター組成物中で)自発的に形成された大型の相シフト気泡の量についての顕微鏡観察検査のスコアを示す(0=ゼロ又は非常に少数の15μm超の気泡が観察された、1=中程度の数の15μm超の気泡が観察された、及び2=多数の15μm超の気泡が観察された)。x軸は、第2の成分中の油相の水へのモル溶解度を示す。右側のプロット:y軸は、クラスター組成物のUS活性化の際に形成された大型気泡の量についての顕微鏡観察検査のスコアを示す(0=ゼロ又は非常に少数の15μm超の気泡が観察された、1=中程度の数の15μm超の気泡が観察された、及び2=多数の15μm超の気泡が観察された)。x軸は、第2の成分中の油相の水へのモル溶解度を示す。これらの結果は、第2の成分中の油相の水溶解度の増加とともに、自発的活性化のレベルが増加し、USにより誘導される活性化のレベルが減少することを実証している。
図18】ロード分子の沈殿の兆候がなく、1から5μmのサイズ範囲の微小液滴直径を有する安定なエマルションを示す、DiR色素、ナイルレッド色素、及びパクリタキセルをロードした第2の成分の顕微鏡写真である。
図19】第2の成分中の微小液滴に5mg/mLのナイルレッド色素をロードしたクラスター組成物由来の、活性化した相シフト気泡のインターセクション(intersection)に対する蛍光顕微鏡観察による顕微鏡写真である。観察できるように、活性化の後、微小液滴にロードされた分子色素は、活性化気泡の表面に発現され、従って、内皮壁と密接に接触し、溢出しやすくなる。
図20】左側の画像は、マウスの後肢におけるPC-3皮下腫瘍の典型的な超音波画像を示す図である。白い破線は腫瘍組織の位置を示している。腫瘍の内部は、皮膚及び筋肉などの周囲組織と比較して、典型的には低エコー源性である。右側の画像は、クラスター組成物の静脈内注射及び活性化後の、左の画像に示したものと同じPC-3腫瘍の典型的な超音波画像を示す。腫瘍内部に明らかに描かれている更なるコントラストエコーは、組織内に蓄積し、腫瘍組織内に数分間停留したままである。
図21】同じ腫瘍において測定された、クラスター組成物の投与及び活性化の後(A)並びに同等用量のHEPS/PFB微小気泡のみの後(B)の、PC-3腫瘍におけるコントラスト増強の典型的な時間強度曲線(TIC)を示すグラフである。線形化後方散乱強度は、腫瘍の中心をカバーする目的領域において平均化される。y軸は平均化された線形化後方散乱の値であり、x軸は映像シーケンスにおける映像フレーム数である。10フレーム毎秒の速度で映像を取得した。観察できるように、クラスター組成物では、散乱強度は、おおよそ20秒後に高いレベルでピークに達し、調査されたタイムスパンにわたって安定したままである。反対に、HEPS/PFB微小気泡のみを投与すると、散乱強度は、相シフト気泡よりも低いレベルでピークに達し、激減しておおよそ1分後にベースラインに戻る。
図22】LiCor CW800 EPR剤をクラスター組成物と共投与した場合の、典型的な落射蛍光画像を示す図である。群1の動物(左の画像)はUS照射を受けなかったのに対し、群3の動物(右の画像)はUS活性化及び後続の低周波数US照射を受けた。矢印は腫瘍の位置を示しており、腫瘍は、各動物においていずれもおおよそ同じサイズ及び位置である。画像は、直接比較するため、同じスキャナー設定を用いて撮影され、同じ蛍光強度のリニアグレースケールで示されている。超音波活性化及び後続のUS照射を受けた腫瘍では、超音波照射を受けなかった腫瘍と比較して、蛍光強度の明らかな増加があり、クラスター組成物で処置した場合のCW800色素の取り込みの有意な増加が実証される。
図23】処置後1分から9時間までの腫瘍蛍光強度対無処置の対照脚強度の比率を示すグラフである。y軸は、腫瘍強度対無処置の対照脚強度の比率である。x軸は時間(分)である。群2(正方形:活性化のみ)では、群1(菱形:活性化なし、後続のUS照射なし)と比較して、初期取り込みの統計的に有意な増加があり、群3(丸:活性化及び後続のUS照射)では、群1及び2と比較して、初期取り込み及び取り込み速度の統計的に有意な増加がある。
図24】処置後1分から1時間まで積分した腫瘍領域における平均強度対無処置の脚における平均強度の比率を示すグラフである。群A、B、及びCは、それぞれ「活性化なし、後続のUS照射なし」、「活性化のみ」、及び「活性化及び後続のUS照射」である。取り込みの観察された増加は、群AとBの間及び群BとCの間で統計的に有意である。
図25】第2の成分中の微小液滴に10mg/mLのDiR色素をロードしたクラスター組成物による、典型的な処置後の落射蛍光画像を示す図である。上の画像(A)は、活性化も腫瘍を有する左脚への後続のUS照射も受けていない群1の動物のものである。下の画像(B)は、クラスター組成物を活性化し、続いて腫瘍を有する左脚への後続のUS照射を行った群2の動物のものである。腫瘍の位置が矢印によって示されている。蛍光強度の観察された差は、Table 22(表22)に示した統計分析によって示されるように、活性化及び後続のUS照射の際の、ロードされた分子色素の放出及び組織内取り込みを明らかに実証する。
【0121】
(実施例1)
(E1)-本発明の分析ツール及び基本特性
E1-1 序論
C1及びC2を合わせた際に形成される、即ち、DP中に存在する微小気泡/微小液滴クラスターは、組成物の重要品質属性、即ち、薬物送達のためのその機能性にとって肝要である。従って、形成されたクラスターを濃度及びサイズに関して特性決定及び制御するための分析方法は、本発明の判定並びに医薬品質管理(QC)のための不可欠なツールである。本発明者らは、この目的に適用できる3つの異なる分析ツール:コールター計数、フロー式粒子像分析(FPIA)、及び顕微鏡観察/画像解析を特定した。以下の本文において、これらの3つの分析方法及び好適な応答を簡単に説明し、C1、C2、及びDPのいくつかの基本特性を例示し、これらの特性の制御された設計についてのいくつかの態様も例示する。
【0122】
クラスター組成物中のクラスターの特性決定に適用されるこれらの技法に加えて、インビトロでのクラスターの活性化、即ち、US照射の際の大型の活性化気泡の発生を研究するための分析方法を開発した。この方法、「ソノメトリー」についてはE1-6に詳述する。ソノメトリー分析からの主要報告応答は、いずれも活性化後の時間に対する、活性化気泡の数及び体積、並びにそのサイズ分布である。活性化応答はまた、E1-5に詳述したように顕微鏡観察/画像解析によって検討されうる。
【0123】
E1-2 調査された成分及び組成物
E5-2を除く全ての実施例において調査された全ての組成物中の第1の成分(C1)は、水素化卵ホスファチジルセリン-ナトリウム(HEPS-Na)膜によって安定化され、凍結乾燥スクロースに包埋された、ペルフルオロブタン(PFB)微小気泡からなっていた。HEPS-Naは、微小気泡の負の表面電荷を結果として生じる負荷電のヘッド基を有する。C1の各バイアルは、平均直径がおおよそ2.0μmのおおよそ16μL又は2×109個の微小気泡を含有する。
【0124】
この実施例において調査された全ての組成物中の第2の成分(C2)は、正の表面電荷を与えるために3mol/mol%ステアリルアミン(SA)を添加した1,2ジステアロイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン(DSPC)膜によって安定化された、ペルフルオロメチル-シクロペンタン(pFMCP)微小液滴からなっていた。C2中の微小液滴は、5mM TRIS緩衝液に分散させた。これらの研究において調査されたC2の標準配合物は、平均直径がおおよそ1.8μmのおおよそ4μL又は1mL当たり0.8×109個の微小液滴を含有する。
【0125】
一部の場合には、クラスター特性に対する作用を解明するため、多様な配合変数、例えば、SA含量、微小液滴サイズ、微小液滴濃度、TRIS濃度、及びpHを、制御された様式で変動させた。そのような試料を使用した場合には、これらの態様を本文に詳述する。
【0126】
クラスター組成物(DP)は、C1のバイアルを2mLのC2で再構成し、続いて30秒間手動で均質化することによって無菌的に調製した。滅菌された単回使用のシリンジ及び針を使用して、2mLをC2のバイアルから取り出した。シリンジの内容物をC1のバイアルの栓を介して添加し、得られたDPを均質化した。
【0127】
C1及びC2は、実施例9に詳述したように製造した。
【0128】
一部の場合には、本発明のクラスター組成物の作用を通常のコントラスト微小気泡と比較するために、C2の代わりに純水を用いてC1を調製して、HEPS/PFB微小気泡の水性分散体を生成した。
【0129】
E1-3 コールター計数
コールター計数は、1μmよりも大きい粒子状物質の定量化及びサイズ特性決定のための最も広く使用されている分析技法のうちの1つであり、医薬製剤品のQCに好適であると示されている[Sontum, PC.及びChristiansen, C.、J. Pharm. Biomed. Anal.第12巻、第10号、1233~1241頁(1994)]。簡単に言えば、分析物(例えば、C1、C2、又はDP)の少量のアリコートをパーティクルフリーの水性電解質(典型的には、リン酸緩衝生理食塩水、PBS)に希釈/分散させ、連続的に撹拌することによって均質化した。次いで、希釈された試料のある分量を装置中のアパチャーを通して吸引し、その上で抵抗が連続的に測定される。アパチャーを通して吸引される各粒子は、粒子の体積に比例して抵抗を変化させる。分析の過程で、装置は、既知の体積の電解質をアパチャーを通して吸引し、各抵抗パルスを測定及び計数し、結果をサイズに対する測定された粒子の数濃度として示す。報告した分析については、50μmアパチャー(測定範囲1から30μm)に設定したCoulter Multisizer III又はIV(Beckman Coulter社)を利用した。好適な試料体積をIsoton II(PBS電解質、Beckman Coulter社)に希釈し、分析の間中連続的に撹拌することによって均質化した。
【0130】
コールター計数は、C1及びC2中の微小気泡及び微小液滴濃度並びにサイズ分布の数値化、並びにDP中の粒子の特性決定に好適である。クラスター中の2個以上の微小気泡/微小液滴は単一粒子として計数されることから、2つの成分を合わせた際のクラスターの形成は、1)系中の粒子の総数の低減、及び2)サイズの大型化につながる。これらの作用は図1に例示され、個々の成分としてのC1及びC2、C1及びC2の合計(即ち、混合の際にクラスターが形成しなかった場合の組合せ組成物)、並びにDPの濃度及びサイズ分布が示されている。プロットは、安定化膜中に正荷電界面活性剤である1.5%、3.5%、及び5.5%SAを含むC2配合物を使用した結果を示している。SAの量は、微小液滴の表面電荷(ゼータ電位)並びにC2中の微小液滴及びC1中の微小気泡の間の静電引力の強さ、ひいては混合の際にクラスターを形成する能力に影響する。これらの3個の試料における微小液滴のゼータ電位は、1.5%、3.5%、及び5.5%SA配合物について、それぞれ+22mV、+35mV、及び+43mVと測定された。全ての試料は、同じC1配合物を用いて作製された。C1中の微小気泡のゼータ電位は、-57mVと測定された。図1に示したように、2つの成分間の表面電荷の差が大きいほど(即ち、静電引力が大きいほど)、より多くより大型のクラスターが形成される。1.5%SA配合物では、DP中の濃度及びサイズに、C1及びC2の理論合計からの有意でない変化があり、従って、クラスター形成の証拠は観察されなかった。他方で、3.5%SA配合物は、濃度のわずかであるが有意な減少及び大きなエンドテーリングの増加を示し、5.5%SA配合物は、数濃度の顕著な減少及びより強い大きなエンドテーリングへの明らかなシフトを伴う、かなりのクラスター化の証拠を示す。従って、微小気泡及び微小液滴の間の引力は、C1及びC2を合わせた際に安定なクラスターを形成させるために、ある特定の閾値を超えることが必要である。
【0131】
これらの測定からの特に有用な応答は、
R = (CC1 + CC2 - CDP)×100 / (CC1 + CC2)
[式中、CC1、CC2、及びCDPは、それぞれC1、C2、及びDPにおいて観察された数濃度である(C1中の場合、2mLの純水中での再構成後)]
と定義されるクラスター組成物の反応性(R)である。従って、この反応性は、DP中にクラスター形態で含有されるC1及びC2中の個々の微小気泡及び微小液滴の数の尺度である。反応性はまた、これらのクラスターの大きさ(即ち、単一のクラスターを構成する個々の微小気泡及び微小液滴の数)と相関しており、更なる詳細についてはE2-5を参照されたい。例えば、クラスター化がない場合、CDP=CC1+CC2及びR=0%であり、クラスター組成物中の全ての微小気泡及び微小液滴が単一の大型クラスターを形成する場合、CDP約0及びR約100%である。C1(2mLの水中での再構成後)、C2、及びDPのコールター分析から、Rを簡単に計算することができる。
【0132】
コールター分析は、DP中の総粒子濃度及びサイズ分布の特性決定に好適であるが、それ自体では、微小気泡、微小液滴、又はクラスターを識別せず、全ての構成体が「粒子」として計数及びサイズ決定される。クラスターを特異的に区別し特性決定するために、顕微鏡観察技法が必要である。
【0133】
E1-4 フロー式粒子像分析
フロー式粒子像分析(FPIA)は、完全に自動化された顕微鏡観察及び画像解析技法である[Sontum, PC.及びMartinsen, E.、Abstracts of Eur. Conf. Drug Deliv. Pharm. Tech.、Seville(スペイン)、47頁、第25号(2004)]。簡単に言えば、分析物(例えば、C1、C2、又はDP)の少量のアリコートをパーティクルフリーの水性希釈剤(水又はPBS)に希釈/分散させ、連続的に撹拌することによって均質化した。次いで、希釈された試料の既知の分量を装置中の測定セルを通して吸引し、そこで、所定の一式の顕微鏡写真がストロボ光源を備えたCCDカメラによって撮影される。各フレーム内の粒子を自動的に単離し、画像解析ソフトウェアによって分析し、各粒子について多様な形態学的パラメーターを計算する。加えて、粒子濃度を報告した。本発明にとって特に関心があるのは、遊離した微小気泡又は微小液滴とそれらのクラスターとを識別するパラメーターである。この目的のため、円相当径として表される粒径、及びその円形度を標準応答として使用した。円相当径は、検出された粒子と同等の面積を有する円の直径として定義される。「円形度」(C)という用語は、画像解析の分野におけるその従来の意味を有し、12頁に定義されている。
【0134】
数値応答に加えて、装置は、異なるサイズクラス: 5μm未満、5から10μm、10から20μm、及び20から40μmについての顕微鏡写真の代表的な選択物を提供する。報告した分析については、高倍率視野(20×)及び0.7から40μmの測定範囲に設定されたSysmex 2100装置(Malvern Instruments社)を利用した。好適な試料体積を水に希釈し、分析の間中連続的に撹拌することによって均質化した。
【0135】
3.5%ステアリルアミンを含有するC2を用いて作製したDP試料の分析による、5から10μmの間のサイズクラスの個々のクラスターの顕微鏡写真の代表的な選択物を図2に示す。観察できるように、このサイズクラスにおいて、117個のうち1個(即ち、1%未満)を除く全ての検出が微小気泡/微小液滴クラスターである。Table 1(表1)は、図1に視覚化された種々の量のステアリルアミン(1.5から5.5%)を含む試料についての、異なるサイズクラスにおいて観察されたクラスターの数濃度を記述している。認められるように、図1の結果を裏付けて、1.5%ステアリルアミンでのクラスター濃度は無視できる濃度であり、3.5%ではかなりの数の小型(即ち、5μm未満)及び中型(即ち、5~10μm)サイズのクラスターが観察され、5.5%では小型の減少並びに中型及び大型(即ち、10μm超)のクラスターの濃度の増加が観察される。
【0136】
【表1】
【0137】
E1-5 顕微鏡観察/画像解析
FPIA分析の代替として、画像解析ソフトウェアと組み合わせたより手動の顕微鏡観察技法を採用してもよい。この目的のため、20×対物レンズ及び1.8から100μmの測定範囲を備えたMalvern Morphology G3システム(Malvern Instruments社)を利用した。一部の場合には、0.5から40μmの測定範囲の50×対物レンズを利用した。簡単に言えば、分析物(例えば、C1、C2、又はDP)の少量のアリコートをパーティクルフリーの水性希釈剤(例えば、水又はPBS)に希釈/分散させ、均質化した。次いで、希釈した試料を、既知のチャンネル高さ400μmを有する顕微鏡観察チャンネルスライド(IBIDI μ-slide、IBIDI社)に導入し、顕微鏡下に置いた。装置は、スライドの規定エリアを自動的に走査し、所定の一式の顕微鏡写真がCCDカメラによって撮影される。各フレーム内の粒子を自動的に単離し、画像解析ソフトウェアによって分析し、各粒子について多様な形態学的パラメーターを計算する。粒子の総数を報告し、既知の走査面積及び既知のチャンネル高さから、分析物中の粒子の濃度を計算することができる。FPIA分析に関しては、円相当径及び粒子円形度を報告した。検出された全ての粒子の顕微鏡写真を表示し、手動の目視検査によって評価することができる。従って、全てのクラスターを、例えば遊離した微小気泡及びフルクラスターサイズから単離することができ、各試料におけるクラスターについて円形度分布を構築することができる。
【0138】
この方法はまた、活性化気泡集団、即ち、超音波活性化の後のクラスター組成物を特性決定するのに使用することができる。この目的のため、顕微鏡観察スライドを37℃の水に浸漬し、ATL 3-2トランスデューサー(中心周波数2.25MHz)を用いて公称MI0.8で10秒間インソネートした。活性化の直後に、スライドを顕微鏡下に置き、分析を繰り返した。
【0139】
この分析からのアウトプットの典型例を、C1及びC2については図3に、活性化の前及び後のDPについては図4に示す。円形度対直径の散布図から観察できるように、C1及びC2は、本質的に球状の粒子による狭いサイズ分布を示すのに対し、非活性化DPは、微小気泡/微小液滴クラスターの存在によって引き起こされる低い円形度を有する材料の隆起を含有する。全ての顕微鏡写真の目視検査は、ニートなC1及びC2試料において微小気泡/微小気泡又は微小液滴/微小液滴の凝集体は観察されず、全ての検出された粒子は単一の球状構成体からなることを示す。US照射の後のDP試料についての結果は、クラスターが活性化され、大型(10μm超)の気体気泡に相シフトしたことを明らかに示す。ニートなC1又はC2試料のみの同等のインソネーションの後には、大型の気体気泡は観察されない。図5は、図4のDP試料から単離された全クラスター集団についての結果を示す。観察できるように、クラスターは、約3から約10μmの間に含有され、0.9未満の円形度を特徴とする。
【0140】
E1-6 ソノメトリー
組成物中に存在する微小気泡/微小液滴クラスターの活性化の後に生成された大型の相シフト気泡の特性を研究し実証するために、関連するインビトロ系において、活性化の後の活性化気泡の濃度、サイズ、及び動態を決定することを可能にする分析方法を開発した。下記の本文は、インビトロで活性化気泡をサイズ決定するための方法について詳細に記載しており、これは、活性化気泡の濃度及び直径4から80ミクロンまでのサイズ分布の測定値を経時的に生成する。測定は、15秒ごとに、活性化気泡の成長及び溶解の時間をカバーする期間にわたって実施する。
【0141】
音響伝送技法を使用して、インビトロでの活性化した大型気泡集団のサイズ分布動態を測定した。音響技法は、従来の画像化に使用される周波数(1~10MHz)よりも1桁低い(0.2MHz付近)、種々の周波数にわたる減衰の測定を必要とする。活性化気泡のサイズ情報への後続の変換は、気泡共振理論及び得られた第1種フレドホルム積分方程式の解法に基づいており、標準的な技法を使用する。関連する速度分散データを使用して、逆演算(inversion)手順の性能を判定するための定量的品質測定基準を得る。この技法は、上部海洋中の気泡集団をサイズ決定するソナー文献に記載された方法を、目下の課題に合わせて非本質的に改変したものに基づいている。
【0142】
活性化気泡サイズに関する情報を得るために、主な音響特性を周波数の関数として測定する。次いで、このデータを逆演算して、サイズ情報を得る。逆演算は、活性化気泡と入射音場との相互作用の正確なモデルを必要とする。泡状液体中の非線形圧力波の伝搬に関するいくつかのモデルが文献において利用可能である。ここでは、本発明者らは、測定値が線形領域に事実上配置される低振幅音波の伝搬に測定を制限し、従って、線形モデルを採用する。本発明者らはまた、Foldy近似[Phys. Rev. B、第67巻、107~119頁、1945]が適用可能である気泡密度に考察及び測定を制限する。関連する理論は、[J. Acoust. Soc. Am 85、732~746頁、1989]に示されている。
【0143】
低周波数(Panametrics Videoscan SN:267202 部品番号V1012、中心周波数0.25MHz)の広帯域パルスは、試料セルを通るよう方向付けられ、鋼板から反射され(低周波数トランスデューサーからおおよそ25cm)、再び試料を通って伝搬し、同じトランスデューサーによって受信される。従って、パルスは試料セルを2回通過する。試料セルの内部寸法は、幅7.4cm、厚さ3.1cm、高さ10.3cmであり、総容積容量は236.28cm3となる。セルは、制御されたガス飽和度で保つことができるように、閉鎖され、ヘッドスペースを含有しない。測定を実施する温度は、体温を模擬するために、37℃に選択される。インビボでの血中のガス飽和度は、動脈血中ではおおよそ98kPaであり、静脈血中では90kPaである。全身の過剰圧力(約100mmHg)と併せて、これは、インビボでおおよそ85%のガス飽和度環境をもたらす。試料セルのガス飽和度は、インビボ環境を模擬するために、85%で制御した。穏やかな撹拌を組み込んで、適当な混合を確保する。マイラー膜を使用して、音響的に透明な窓を設ける。低周波数源はクラスターを活性化しない。高周波数トランスデューサーによって活性化を行う。低周波数パルスの帯域幅は、直径4から80μmの活性化気泡のサイズ範囲をカバーすることができる。
【0144】
逆演算手順は、アダマールの意味で非適切(ill-posed)であり、従って、データの信号対ノイズ比の最適化を必要とする。従って、実際的に可能な限り平均化することが適切である。200個の連続するrf Aライン信号は、10MHzのサンプリング周波数で公称8ビットに記録され、1個の測定データセットを含む。伝送トランスデューサーのパルス繰り返し周波数は200Hzに設定され、従って、データ収集に1秒を必要とする。データセットを15秒ごとに1回記録し、後続の数値逆演算のためにPCにダウンロードする。45個のそのような測定データセットは、合計で11分にわたる1回の実行を含む。
【0145】
活性化気泡の濃度及びサイズ分布情報を得るための測定された主要音響特性の逆演算は、Commander及びMcDonaldによって提案された単純な有限要素解法に基づいている[J Acoust. Soc. Am. 89 592~597頁、1991]。使用された逆演算アルゴリズムの詳細は、[「Solving least squares problems」、Prentice Hall、第23章、161頁、1974]に見出すことができる。
【0146】
音響測定から、周波数の関数としての音響の減衰及び速度がいずれも計算されうる。速度データは、減衰データとは独立であると見なされうる。減衰データのみを使用して活性化気泡のサイズ分布を計算し、推定された活性化気泡のサイズ分布の独立したチェックの基礎として速度データを使用することができる。泡状液体の速度は、共振周波数付近で高分散性である。この現象は、後に、推定された活性化気泡のサイズ分布の正確さ又は信頼性を定量的に推論するための「品質」測定基準を導出するのに使用されうる[IEEE J. of Oceanic Engineering、第23巻、第3号、1998]。
【0147】
上記に詳述した方法からの主要報告は、いずれも活性化後の時間に対する、活性化気泡の数及び体積濃度、並びに数及び体積加重気泡直径である。
【0148】
ソノメトリー分析を適用して、E1-2に詳述したクラスター組成物の試料を分析した。図6(左側)は、測定セルにおける活性化気泡の体積濃度(v/v%)(y軸)を、図6(右側)は、数及び体積加重平均直径(y軸)を、いずれも活性化後の時間(x軸)の関数として示す。品質測定基準により、示されたサイズ分布が頑健であることが確認された。図6から観察できるように、生成された結果により、関連するインビトロ測定系において、組成物中のクラスターが所望のMI範囲内で活性化され、所望のサイズ範囲内の気泡成長及び動態を生じさせることが確認される。
【0149】
以下の実施例では、この分析から評価される主要応答は、微小液滴体積当たり又はDPの体積当たりのピーク活性化気泡体積、及びピーク活性化体積における体積加重平均直径である。
【0150】
E1-7 クラスター組成物中のクラスターの安定性
DP中のクラスターは、微小気泡及び微小液滴の間の静電引力によって形成され保たれる。これらの力は有限であり、クラスターは、形成の後に様々な経路/影響、例えば機械的応力又は熱(ブラウン)運動によって分割されうる。
【0151】
精密且つ正確な特性決定のため、クラスターが分析の期間中安定したままであることが重要である。この安定性は、上記の方法全てを用いて調査された。安定性を評価するため、単一のDP試料に対して3から5回の分析を繰り返し、5分超のタイムスパンをカバーした。これらの反復を通じて、濃度及びサイズのいずれにも有意な変化は観察されず、微小気泡、微小液滴、及びクラスターは、記述された分析条件下、即ち、PBS又は水への希釈後及び連続的な均質化(撹拌)下で、5分超の間安定であると証明される。
【0152】
医薬製剤品としての使用のため、使用が可能となる期間にわたって生成物の必須の特性が保たれることが不可欠である。調製後のDPの安定性を、FPIA及びソノメトリーを含む様々な技法を用いて研究した。図7は、室温及び周囲圧力で保存した2個のDP試料における、FPIA分析による5から10μmの間のクラスター濃度及びソノメトリー分析による微小液滴体積当たりのピーク活性化体積を、調製後の時間に対して示す。FPIA分析中に、自発的活性化の証拠は観察されなかった。図7から観察できるように、DPの調製後1時間の期間にわたって、クラスター含量及び活性化気泡体積の無視できる変化が観察される。
【0153】
E1-8 配合態様
DP中のクラスターの含量及びサイズを制御するため並びに最適な特性を標的とするために、いくつかの異なる配合態様を検討することができる。クラスターの含量及びサイズ分布を設計するのに使用されうるパラメーターには、微小気泡及び微小液滴の間の表面電荷の差(例えば、E1-3に示したSA%)、C2の微小液滴サイズ、pH、C2中のTRISの濃度、並びに微小気泡及び微小液滴の濃度が含まれるがこれらに限定されない。加えて、例えば高温での長期保存中の成分の化学分解は、C1及びC2がDPの調製中にクラスターを形成する能力に影響を及ぼす可能性がある。これらの態様の簡単な説明を以下に示す。
【0154】
微小液滴サイズ - 種々の微小液滴サイズを有するC2の試料を、原料エマルションの単一のバッチから、遠心分離、並びに異なる遠心分離時間の後の上澄液及び/又は沈殿物の制御除去によって作製した。サイズ調整の後、全ての試料の濃度を、同じ体積濃度の微小液滴(おおよそ4μlの微小液滴/mL)に調整した。1.8μm、2.4μm、及び3.1μmの体積メジアン径としての微小液滴サイズを有するC2試料を調製し、C1の単一のバッチ由来のバイアルとともにDPの調製に使用し、反応性をコールター計数によって測定した。反応性は、微小液滴サイズの減少とともに、3.1μmでの27%から、2.4μmでの49%、1.8μmでの78%へと増加することが見出された。従って、微小液滴サイズの減少は、C1及びC2を混合した際のクラスターの形成を増加させる。
【0155】
pH - DPの2つのバイアルをpH6.6に調製し、2つのバイアルをpH6.1に調製した。得られた反応性は、コールター計数によって測定して、pH6.6及びpH6.1の試料について、それぞれ30~32%及び51~52%であった。従って、pHの減少は、クラスターの形成を増加させる。
【0156】
TRIS濃度 - 同じバッチ由来のC2の3個の試料について、TRISの濃度を1mMから10mMまで変動させた。C1の単一のバッチを使用して、各試料を使用してDPを調製し、5から10μmの間のクラスターの濃度を、全ての試料に対するFPIA分析によって測定した。クラスターの形成は、TRIS濃度の増加とともに減少し、C2中のTRISが1から10mMになると、クラスター濃度が6.7から3.7百万/mLに低下することが見出された。
【0157】
微小液滴濃度 - C1及びC2を合わせた際のクラスターの形成はまた、2つの成分中の微小気泡及び微小液滴の濃度、即ち、微小気泡と微小液滴の比に左右される。直観的見地から、2つの成分によって示される全表面電荷が完全に平衡している系では、結果として全ての微小気泡及び全ての微小液滴が少数の非常に大型のクラスターを形成する(即ち、系の全崩壊をもたらす)ことになる可能性があると思われる。本発明者らは、微小液滴のほとんど全てがクラスター形態で含有され、且つ形成されたクラスターが許容可能なサイズである、制御された標的とするクラスター化を発生させるために、微小気泡によって示される全電荷は、微小液滴によって示される全電荷を上回るべきであることを見出した。しかしながら、かなりの量のクラスターを形成するために、微小液滴/微小気泡比はまた、ある特定の閾値を超えなければならない。Table 2(表2)の結果は、C1中の固定濃度の微小気泡(8μlの微小気泡/mL)を有するDPを調製するのに使用した場合の、C2中の微小液滴濃度の作用を示す。認められるように、本発明者らは、固定量の微小気泡に添加された微小液滴濃度の増加に伴う、反応性の点からのクラスター化の強い増加、及び平均クラスター直径の強い増加を見出している。
【0158】
【表2】
【0159】
熱分解 - C2中の微小液滴を安定化するリン脂質膜中のSA成分は、高温で長期保存した際に熱分解しやすく、分解過程においてその正電荷が失われる。従って、C1と合わせたときに微小気泡/微小液滴クラスターを形成する能力が低減する。C1の2個の試料を、4及び30℃の制御された保存条件下に3カ月間置き、DPの調製に使用し、これに対して、5から10μmの間のクラスターの含量をFPIA分析によって測定した。観察されたクラスター含量は、4及び30℃で保存した試料について、それぞれ29.6及び0.2百万/mLであった。
【0160】
E1-9 活性化気泡のサイズ
活性化気泡のサイズは、投与された組成物の生物学的属性、例えば、安全性及び有効性の側面にとって重要でありうる。当然ながらC2中の微小液滴のサイズに依存するが、活性化気泡サイズもまた、クラスターサイズに強く関連する。図8は、Table 4(表4)、E2-3に詳述した試料に対して測定された、コールター分析による反応性とソノメトリーによる活性化気泡直径との間の共分散を示す。認められるように、活性化気泡直径は、低反応性でのおおよそ20μm(即ち、小型のクラスター由来)から、高反応性でのおおよそ50μm(即ち、大型のクラスター由来)へと増加する。
【0161】
(実施例2)
(E2)-クラスター属性対生成物の有効性に関するインビボ研究
E2-1 序論
E1において、本発明の重要な特性、即ち、クラスター組成物中のクラスターについての重要な特性をいかにして測定するか、並びにまたこれらをいかにして操作及び制御するかを示したが、本実施例は、最適なインビボ有効性のためにどのクラスター特性を標的とすべきかを検討する。この目的に到達するために、2つの広範なインビボ研究(研究A及び研究B)を実施し、ここでは、異なる特性を有するいくつかのDP試料の投与後に得られたUSコントラスト増強を、開胸イヌ心筋モデルにおいて測定した。静脈内注射及び左心室における組成物の活性化の後に、US信号の心筋内増強が観察された。活性化の後、大型の相シフト気泡は心筋毛細血管網内に捕捉され、USコントラスト増強は、蓄積した活性化気泡の量の直接的尺度、ひいては投与された試料の有効性の尺度である。
【0162】
E2-2 調査された成分及び組成物
この実施例において調査された組成物中の第1の成分(C1)は、E1-2に記載されている。
【0163】
この実施例において調査された全ての組成物中の第2の成分(C2)は、正の表面電荷を与えるためにステアリルアミン(SA)を添加した1,2ジステアロイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン(DSPC)膜によって安定化された、ペルフルオロメチル-シクロペンタン(pFMCP)微小液滴からなっていた。C2中の微小液滴は、TRIS緩衝液に分散させた。
【0164】
クラスター組成物(DP)のクラスター特性の有意な変動を得るために、E1に記載されたように、配合変数、例えば、SA含量、微小液滴サイズ、微小液滴濃度、TRIS濃度、及びpHを、制御された様式で変動させた。
【0165】
研究Aでは、Table 3(表3)に詳述した一連の15個の試料において、微小液滴サイズ、SA含量(mol/mol%)、及びpHを変動させた。これらの試料について、微小液滴及びTRISの濃度は、おおよそ4μl/mL及び5mMで一定に保った。
【0166】
【表3】
【0167】
研究Bでは、一連の15個の試料において、微小液滴及びTRISの濃度並びに微小液滴直径を変動させた。加えて、1個の試料を、40℃で3カ月間保存することによって熱分解した。調査されたC2試料をTable 4(表4)に詳述する。これらの試料について、pHは6.2で一定に保ち、SA含量は3%で一定に保った。
【0168】
【表4】
【0169】
E2-3 インビトロ特性決定
Table 3(表3)及びTable 4(表4)に詳述した全ての試料を使用して、E1に詳述したようにDPを調製し特性決定した。全ての試料について、クラスターの含量及びサイズをFPIA分析によって決定し、活性化気泡の含量及びサイズをソノメトリーによって決定した。加えて、Table 3(表3)に詳述した試料について、反応性をコールター計数によって測定した。
【0170】
E2-4 インビボ手順
両方の研究について、以下のインビボ手順を適用した。
【0171】
動物の取扱い:
動物(雑種又は混血のイヌ)は、実験日の朝に到着した。順化は行わなかった。ペントバルビタール(12~25mg kg-1静脈内)及びフェンタニル(1.5~2.5μg kg-1)を用いて麻酔を誘導し、気管内チューブを挿入した。動物を手術台に移し、従量式機械的室内空気換気(New England社モデル101 Large Animal Ventilator)にかけた。必要な場合、O2富化空気をある期間中与えてもよいが、試験物質の注射の10分前から11分後までの時間間隔には一切与えない。
【0172】
麻酔:
シリンジ注入ポンプ(IVAC社モデルP2000)によって制御されたフェンタニル(20μg kg-1-1)、及び滴下によるペントバルビタール(10mg kg-1-1)の連続静脈内注入によって、動物を全身麻酔で保った。投与される麻酔薬の速度は、確実に一定の麻酔深度にするために公称値から幾分調整されうる。麻酔深度は、生理学的記録(心拍数、血圧)及び動物の一般的観察(筋活動、呼吸努力、反射の兆候)によってモニタリングした。
【0173】
体温:
体温は、Harvard恒温フィードバック制御ユニットによって38°で一定に保った。
【0174】
外科手術及び装置:
圧力測定のためのスワンガンツカテーテルを、大腿静脈及び鼠径部切開によって肺動脈に挿入した。全身動脈圧トランスデューサーカテーテルを、同じ切開によって大腿動脈に挿入した。正中胸骨切開を実施し、前心膜を除去した。心臓周囲クレードル(pericardial cradle)に心臓を懸吊して、心房及び静脈の圧迫を回避した。試験物質の注射のため、肘関節の近位にある右橈側皮静脈に0.8mm Venflon(商標)カニューレを挿入した。
【0175】
生理学的モニタリング:
特注のドリフト補償ブリッジ増幅器(MAX 420、Maxim Integrated Products社、Sunnyvale CA)に接続したSensonor 840トランスデューサー(Sensonor AS社、Horten、ノルウェー)によって、動脈及び肺動脈圧を測定した。増幅器出力を500Hzでサンプリングし、PCソフトウェア(Turbo Pascal 5.0、Borland International社)による更なる処理のために、8チャンネル12ビットADCカード(CIO-DAS 08、Computer Boards社)に供給した。O2及びCO2の吸入及び吐出量を連続的にモニタリングする(Capnomac Ultima Respiratory Gas Analyzer)が、記録はしない。
【0176】
各心拍について以下の変数を計算し、表示し、記録する:a)収縮期、拡張期、及び真の平均全身動脈圧(SAP)、b)真の平均肺動脈圧(PAP)、並びにc)自動化された(ソフトウェアによる)ECG r波検出から得られる瞬間心拍数。
【0177】
画像化:
心臓の正中中乳頭短軸像をATL HDI-5000スキャナーによって画像化した。P3-2トランスデューサーを使用し、2つの焦点域を有する従来の基本のBモードで、最高フレームレート及び最大出力(MI≒1.0)でスキャナーを動作させた。30mmの軟質シリコーンゴムパッドを、トランスデューサー表面及び心外膜の間に使用した。全ての材料界面を水性音響コンタクトゲルで覆う。
【0178】
画像の奥行きは、心臓全体を含む最小値に調整した。50dBのダイナミックレンジを使用した。拡張末期及び収縮末期からの一対のデジタル画像を各指定された時点において保存した。画像を保存するための短期間のシネループ呼び出しを除いて、スキャナーを連続的に作動させておいた。実験セッションの完了後に、デジタル画像を光磁気ディスクに転送する。スクリーンのPAL VHS録画を実施して、手順を文書化した。動物の識別情報並びに全ての注射(注射番号、物質、及び用量)はスクリーンに注記すべきである。
【0179】
注射技法及び投薬:
各注射の前に、C1の新たなバイアルを2mLのC2で再構成した。所望の用量のDP(200μl)を取り出し、50mg/mLのTRIS緩衝マンニトール(10mM、pH7.4)で2.5mLに希釈した。投与された用量は、10μlのDP/kg体重と同等であり、体重1kg当たり公称0.04μlのpFMCP微小液滴及び0.08μlのHEPS/PFB微小気泡と同等であった。ゴム膜ポートを装備したVenflon(商標)カニューレによって注射を実施する。各注射の直後に、カニューレ及びポートのデッドスペース(約0.1mL)を、5mLの等張生理食塩水でフラッシュした。
【0180】
実験手順:
右橈側皮静脈からDPの注射を行い、得られた心筋コントラスト効果を90秒、3、5、7、及び11分において数値化する。各注射の前にベースライン読み取りを実施した。注射の間に少なくとも20分空けて、潜在的な持ち越し作用を低減させた。
【0181】
データ分析及び報告:
指定された時点のそれぞれについて、心筋コントラスト効果を前心筋における広範な目的領域から読み取り(MathLabソフトウェア)、時間に対してリスト化し、グラフで図示した。90秒におけるコントラスト効果を、各注射についての有効性の主要尺度として使用した。コントラスト強度値をdBで報告し、これらの値から、線形増強(グレースケール単位、GS)を計算した。
【0182】
E2-5 研究Aの結果
調査された15個の組成物についてのインビトロ特性決定の結果及び観察された心筋内増強をTable 5(表5)に詳述する。系の性質及び特性を解明するいくつかの重要な相関を、このデータから抽出することができる。
【0183】
最も重要なことには、本発明者らは、図9に示したように、反応性対増強の相関における最適条件を見出している。この共分散は、DP中のクラスターの形成の最適なバランスが存在することを明らかに実証している。
【0184】
第2に、本発明者らは、図10に示したように、形成されたクラスターのサイズもまた、系の反応性に強く関係することを見出している。この図から観察できるように、相対的に低いレベルの反応性(例えば、20%未満)では、小型のクラスター(即ち、5μm未満)及び中型サイズのクラスター(即ち、5~10μm)のみが形成される。反応性の増加とともに、大型のクラスターが形成しはじめ、おおよそ20%超のRでは、10~20μmのクラスターが形成しはじめ、おおよそ50%超のRでは、20~40μmのクラスターが形成しはじめる。大型のクラスターが形成すると、小型及び中型サイズのクラスターが失われ、本発明者らは、5μm未満及び5~10μmのクラスター濃度についての含量対反応性における明らかな最適条件を見出している。
【0185】
併せると、図9及び図10に示した結果は、大型のクラスターの形成が組成物の有効性にとって有害であること、及びクラスター化潜在力を相応に平衡させなければならないことを実証している。
【0186】
理論的推測に固執することを望むものではないが、これらの作用の考えられる理由は、1)大型のクラスター中に含有される大型の塊が活性化の有効性を妨げる若しくは低減させること、又は2)大型のクラスターが静脈内注射後に肺循環内に保持され、従って、活性化が実施される左心室に到達しないことでありうる。
【0187】
【表5】
【0188】
E2-6 研究Bの結果
調査された15個の組成物についてのインビトロ特性決定の結果及び観察された心筋内増強をTable 6(表6)に詳述する。系の性質及び特性を解明するいくつかの重要な相関を、これらのデータから抽出することができる。
【0189】
5から10μmの間のクラスター濃度及びインビトロで観察されたピーク活性化気泡体積対インビボで観察された心筋内増強の間の相関を図11に示す。
【0190】
WO99/53963に示された実施例20から27もまた、E2-4に記載されたものと同一のモデルにおける心筋内増強のデータを列挙しており、適用された手順は同一である。加えて、体重1kg当たりの投与される気体及び微小液滴体積に換算した用量は、これらの研究間で比較可能であり、WO99/53963は0.35μlの気体及び0.04μlの微小液滴/kg体重を列挙しているのに対し、本実施例では、有効用量は、0.08μlの気体及び0.026から0.059μlの微小液滴/kg体重であった。そこで比較のため、WO99/53963の実施例20から27において観察及び列挙された増強の範囲を図11に含めた。これらの例における増強はdBとして示され、従って、この比較のため、WO99/53963のTable 4(表4)、実施例20から27、63頁に列挙されたデータから、線形増強=10(dB/10)に従って線形増強値を再計算した。
【0191】
図11から認められるように、インビボでの増強は、2つのインビトロパラメーターと良好に相関し、インビボ性能についての予測因子としてのそれらの妥当性が証明される、即ち、クラスターはDP中の活性成分を含む。加えて、WO99/53963に報告された線形心筋内増強の最大値は51であったのに対し、本研究では693であった。本発明の概念を適用すると、投与の前にC1及びC2から組成物を調製すること、従って、微小気泡/微小液滴クラスターを形成することによって、WO99/53963によって教示された2つの成分の同時注射とは対照的に、有効性の10倍超の増加が可能になる。
【0192】
【表6】
【0193】
E2-7 多変量分析、標的クラスターサイズ、及び円形度による区別
E2-5及びE2-6に報告した全てのデータについての、様々なサイズクラスのクラスター含量及びインビボでの増強についての結果は、インビボ有効性に対する様々なクラスターサイズクラスの寄与の統計的評価を可能にする。この目的のため、多変量主成分分析を実施した。様々なクラスターサイズクラスの含量(X)及び増強(Y)の間の相関を、部分最小二乗回帰(PLSR)によって決定した。PLSRアルゴリズムは、ノイズを識別して、真の相関を抽出及び定義する。完全交差検証(CV)を適用することによって、PLSRモデルの検証を実施した。CV手順は、1個の試料を取り出しておき、続いて除外された試料についてYを推定する(予測する)ことによってモデルの精度を試験し、測定されたYと比較する。各試料について手順を繰り返し、従って、モデルの数は、試料の数と等しかった。交差検証によって導出された全てのモデルを比較することによって、X変数の有意性を、各モデルを起源とする回帰係数のばらつきを評価することによって決定した(p=0.05)。全ての30個の試料から最終モデルを開発する。
【0194】
モデルの正確さ及び信頼度を、予測された増強及び測定された増強を比較することによって行い、信頼性のあるモデルを古典的な統計的品質推定(r、RMSEC、RMSEP)によって確かめた。モデルのてこ比及びモデルに対する試料距離のような更なる統計的パラメーターの評価により、大きな外れ値はモデルの解に影響を及ぼさないと結論付けられた。Unscramblerソフトウェアv.9.8、Camo ASA社を、統計分析に使用した。
【0195】
この分析の結果を図12に示す。観察できるように、心筋内増強に対する統計的に有意な寄与が5μm未満のクラスターについて見出され、5から10μmの間のクラスターについてはより強く見出され、図11に示した2次元解析が裏付けられる。10から20μmの間のクラスターは、増強に有意に寄与せず、20から40μmの間のクラスターも同様であり、後者はマイナスの寄与を有することさえも示され、図9及び図10に示した結果が裏付けられる。結果は、大型のクラスターの形成が、この形成により10μm未満の機能的クラスターの濃度が激減することから、概念の機能性を低減させることを実証している。
【0196】
Table 4(表4)に報告した中程度の反応性(R=46%)の試料は、標的とすべきクラスター属性を有するDPを表す。図13は、この試料のクラスターサイズ及び円形度分布を示す。認められるように、この試料中のクラスターは、約3から約10μmの間であり、0.9未満の円形度を示す。
【0197】
E2-8 結論
E1及びE2に詳述したデータ及び考察によれば、本発明者らは、以下のことを示した。
- 第1の成分及び第2の成分を合わせた際の、即ち、クラスター組成物又は医薬組成物中の微小気泡/微小液滴クラスターの形成は、その意図されたインビボでの機能性のための必要条件である。
- サイズの点からの標的クラスター属性は、10μm未満であり、遊離した微小気泡/微小液滴との区別は、0.9未満の円形度によって示すことができる。
【0198】
(実施例3)
(E3)-インビボでの活性化気泡サイズ
E3-1 序論
組成物中に存在する微小気泡/微小液滴クラスターの活性化の後に生成された大型の相シフト気泡の特性を研究し実証するために、関連する動物モデルにおいて、活性化気泡のサイズ及び動態をインビボで決定することを可能にする方法を開発した。
【0199】
E3-2 調査された成分及び組成物
この研究において調査された組成物は、E1-2に詳述した通りであった。
【0200】
E3-3 方法
活性化気泡のサイズ分布及び活性化の収率の測定をイヌモデルにおいて実施した。研究は地域の動物福祉委員会によって承認された。カニューレを大動脈に留置して、音響気泡サイズ決定を実施する体外測定チャンバーを通る血流を可能にした。化合物を10μlのDP/kg体重での静脈内注射によって投与し、心室を画像化する臨床用超音波スキャナーによって活性化を行った。
【0201】
一貫性データを得るために、化合物をまた左心房カニューレによって投与し、カニューレにおいて音響活性化を行うことによって、インビトロ気泡サイズ決定系への同じ投与(カニューレにおける活性化)と直接比較できるデータを得た。
【0202】
体外測定チャンバー内で実施された測定から遊離された活性化気泡の体積を計算する数学モデルを開発した。活性化気泡をカニューレによって左心房に注射し、結果をインビトロ測定系における同じ投与と比較することによって、モデルの結果を検証した。
【0203】
各投薬の間に少なくとも15分空けた。前肢Venflon(商標)静脈内カニューレのゴム膜ポートを介して18G針を用いて注射を実施した。低い用量レベルに起因して、全ての静脈内注射は、DPをマンニトール/TRIS水溶液で1:10希釈した後に行った。注射を約5秒で行い、続いて生理食塩水のフラッシュを行った。一部の場合には、エキソビボでの超音波による製剤品の事前活性化を行って又は行わずに、短いポリエチレンカテーテルによって心臓の左心房に注射を実施した。左心房への注射は、正常な肺通過中のボーラスの経時的分散をシミュレーションするために、ゆっくりと(20秒)行った。エキソビボでの超音波曝露が流体に浸透するために注射された試料の希釈が必要であることに起因して、心房注射液を等張生理食塩水で20mLの総体積に更に希釈した。
【0204】
体温は、Harvard恒温フィードバック制御ユニット(電気加熱ブランケットを制御する直腸温センサー)によって38℃で一定に保った。圧力測定及び心拍出量のモニタリング(Baxter社Vigilance連続心拍出量(CCO)モニター)のためのスワンガンツカテーテルを、大腿静脈及び鼠径部切開によって肺動脈に挿入した。全身動脈圧トランスデューサーカテーテルを、同じ切開によって大腿動脈に挿入した。試験物質の注射のため、肘関節の近位にある右橈側皮静脈に1.4mm Venflon(商標)カニューレを挿入した。正中胸骨切開を実施し、胸膜腔に入るときにPEEPを人工呼吸器出口に適用した。前心膜を除去し、残存心膜の縁を傷の端に縫合することによって心臓を懸吊した。活性化DPの注射のため、左心房の心耳にカニューレ挿入し、肺循環をバイパスした。
【0205】
動物を、完全な外科的止血を達成した後且つ体外循環を開始する前に、ヘパリン(1000i.u./kg体重)の単回静脈内注射によって十分に抗凝固処置した。体外シャント及びその付随するチューブに等張生理食塩水を充填し、全ての空気を系から排出した後に、頸動脈及び頸静脈カテーテルへの接続を確立した。
【0206】
肺動脈圧トランスデューサーをチャンバーのサイドポートに短期間接続することによって、音響測定チャンバー内の圧力を定期的な間隔でチェックして、トランスデューサーをチャンバーと同じ上昇レベルで保った。
【0207】
実験中に、シャント循環における流量又は圧力の有意なずれは観察されず、実験の後、シャントデバイス内でフィブリン血栓の沈着は観察されなかった。従って、抗凝固処置は適当であった。
【0208】
セルへの流量の関数としての測定セルにおけるピーク濃度、及び活性化気泡半減期、及びボーラス半減期を推定するために、フロー系の数学モデルを開発した。次いで、測定セルへの適当な用量を確保するために、流動抵抗を変更することによって流量が調整されうる。加えて、測定セルにおいて観察された濃度から動脈血中の活性化気泡の濃度を推定する数学モデルを開発した。
【0209】
E3-4 結果
図14は、心拍出量、セルを通る流量、セルへの移動時間、及び活性化気泡寿命について補正した後の、動脈血区画における典型的な活性化気泡の濃度-時間曲線を示す。表示を明確にするため、最初の2分のみをプロットする。x軸は時間(秒)であり、y軸は動脈血中の活性化気泡集団の気体割合(百万分率)である。
【0210】
下記のTable 7(表7)は、動脈条件(正常な動脈血ガス飽和度、静水圧約60mmHg)において測定された静脈内注射後の体積加重平均活性化気泡直径を示す。表中の全ての観察値の平均値は21.4μmである。
【0211】
【表7】
【0212】
下記のTable 8(表8)は、音響測定チャンバー内の気体の体積割合減損の半減期として示される、動脈及び静脈圧における活性化気泡の縮小の速度を示す。圧力は、動脈圧のカテーテル/トランスデューサー測定から計算し、静脈(頸静脈)圧をゼロと仮定している。動脈圧におけるより高速の減損が認められ、これは、外向き気体拡散のためのより大きい勾配をもたらす、活性化気泡内の全ての気体の分圧の上昇によって引き起こされる。
【0213】
【表8】
【0214】
動脈血中の活性化気泡は、20~22ミクロンの直径を有し、これは十分に予測の範囲内である。物質を左心房に注射し、左心室において活性化した後、活性化気泡は、直径22~25ミクロンとわずかに大きくなる。全ての動物における正しい測定及び計算の確認は、US照射によって注射された試料の活性化を行う並行インビトロ分析によって得られている。
【0215】
E3-5 結論
実施例3により、静脈内投与の後インビボで、組成物が所望のMI範囲内で活性化され、所望のサイズ範囲内の気泡成長及び動態を生じさせることが確認される。
【0216】
(実施例4)
(E4)-活性化気泡の蓄積性に対する生体顕微鏡観察及び通常の微小気泡と比較したUS照射に対する応答のモデル化
E4-1 序論
インビボでの活性化の後に生成された大型気泡の特性を更に研究し実証するために、ラット腸間膜の顕微鏡観察によって微小循環内の個々の活性化した相シフト気泡を直接観察する研究を実施した。加えて、本発明による大型の活性化気泡と通常のUSコントラスト微小気泡、例えばSonazoidなどとの間の有意差を説明するため、USインソネーションに対する体積応答の理論的モデル化を実施した。
【0217】
E4-2 調査された成分及び組成物
この研究において調査された組成物は、E1-2に詳述した通りであった。
【0218】
E4-3 方法
雄のWistarラットを本研究で使用した。組成物を1mLのDP/kg体重の用量で静脈内投与した(即ち、4μL/kg体重の微小液滴及び8μL/kg体重の微小気泡)。全身麻酔を投与し、静脈内及び筋肉内のペントバルビタールナトリウムで維持した。ラットに挿管し、試験製剤の投与のため、尾静脈又は頸静脈(carotid vein)にカニューレ処置した。超音波を適用して、腸間膜中のクラスターを活性化した。腹部を縦正中切開によって開き、次いで、ラットをカバーガラスの丸窓を組み込んだプラスチックプレートの上に側臥位で置き、外に露出させた腸間膜をカバーガラス窓の上に置いた。広げた腸間膜を37℃のクレブス-リンゲル緩衝液で灌流した。顕微鏡の対物レンズ下で、外に露出させた腸間膜に超音波を直接適用した。リニアプローブ(7.5L40)を装備した超音波スキャナー(Elegra、Siemens社、Seattle、WA)を、超音波曝露に使用した。出力はMI値1.2に相当する最大に設定した。ソナーゲルを超音波トランスデューサー及び胸壁又は腸間膜の間に塗布した。後続の再検討のため、画像をS-VHS又はDVテープに記録した。
【0219】
インソネーションの際の、本発明による活性化気泡及び通常のHEPS/PFB微小気泡(水で再構成したC1)の体積の変化のシミュレーションを、Lars Hoffによって開発され、Acoustic Characterisation of Contrast Agents for Medical Ultrasound Imaging、Kluwer Academic Publishers、2001、第8章に記載された非線形気泡モデルを使用してモデル化した。活性化した相シフト気泡のシミュレーションパラメーター:MI0.2及び周波数0.5MHzで8サイクル駆動パルス、血中、並びに30ミクロンの静止直径。HEPS/PFB微小気泡のシミュレーションパラメーター:MI0.2及び周波数5MHzで8サイクル駆動パルス、血中、並びに3ミクロンの静止直径。
【0220】
E4-4 結果
超音波活性化なし:
2匹の動物を使用した。6回の注射を実施した後、腸間膜微小循環において、大型の相シフト気泡は観察されなかった。
【0221】
超音波活性化:
3匹の動物を使用した。大型の活性化気泡が全ての注射後に観察された。活性化気泡は、超音波を適用した後にのみ観察された。活性化した相シフト気泡の成長段階は、リアルタイムで観察することができた。活性化気泡の核は数秒以内に成長し、それに伴って微小血管血流を閉塞させた。微小血管の膨張は観察されなかった。活性化気泡は徐々に縮小し、微小血管内で断続的に前進した。全ての活性化した相シフト気泡は赤血球よりも大きく、微小血管内に滞留し、血流を一過性に遮断した。全ての活性化気泡は非球状であり、微小血管の一部に接して形成した楕円形状の外観であった。
【0222】
図15は、それぞれ(左上)微小血管への注射後17秒、血流を遮断、(右上)5分19秒、(右下)5分45秒における、腸間膜中の活性化した相シフト気泡の映像フレームを示す。活性化した相シフト気泡(矢印によって示されている)は徐々に縮小し、微小血管内で断続的に滞留及び脱離することによって前進した後、完全に消失する。図15(左下)は、画像(左上)に示されている破線の長方形のボックスの5倍の概略的拡大表示を示す。相シフト気泡の輪郭は(A)と示され、20ミクロンのスケールバーはCで示されている。円筒状気泡と仮定すると、長さは30ミクロン、幅は13ミクロンと測定され、体積は3982立方ミクロンとなり、これは直径20ミクロンの球状気泡と同等であり、E3に詳述した結果と優れた一致を示す。HEPS/PFB微小気泡(B)は、縮尺通りに示されている。これらの通常のUSコントラスト微小気泡は、微小血管系において明らかに自由流動性であり、内皮壁と接触していない。
【0223】
超音波場に曝露した場合の気泡動態のシミュレーション:
結果を図16に示す。相シフト気泡は、駆動超音波場に応答して振動するとき、最小直径22.8ミクロン及び最大直径36.4ミクロンを有する。HEPS/PFB微小気泡は、駆動超音波場に応答して振動するとき、最小直径2.3ミクロン及び最大直径4.1ミクロンを有する。相シフト気泡の場合に誘導される絶対体積変化は、HEPS/PFB微小気泡よりもおおよそ3桁大きい。
【0224】
E4-5 結論
超音波活性化を適用した場合、おおよそ20μmのサイズを有する活性化した相シフト気泡が観察された。超音波活性化を適用しなかった場合、活性化した相シフト気泡は観察されなかった。活性化した相シフト気泡は、微小循環内に一過性に(5~19分)蓄積したが、そのサイズが減少するにつれて脱離した。
【0225】
USインソネーション中の相シフト気泡の体積変化のシミュレーションは、HEPS/PFB微小気泡よりも3桁大きい応答を示し、相シフト気泡が組織に対して数桁大きい機械的作用を及ぼすことが実証される。
【0226】
(実施例5)
(E5)-配合研究
E5-1 序論
E1から明白なように、本発明者らは、C2の変動に配合研究の焦点を合わせるよう入念に選択した。これは、DPの調製の際にクラスターを形成する能力に対する一般的作用を研究するため、ひいてはクラスター特性の制御を獲得し、それらの重要性を解明するためである。E1に示した一般的な配合態様/作用が多種多様な微小気泡/微小液滴製剤系について当てはまると仮定することは妥当である。これを示すために、6種の市販の微小気泡製剤を、クラスター組成物の調製及び後続の活性化について試験した。
【0227】
加えて、本発明の2つの重要な側面:自発的活性化の回避の点からの医薬調製物の安定性(WO99/53963に記されている)及び微小液滴に治療剤をロードする能力が、本実施例で解明される。
【0228】
E5-2 市販の微小気泡製剤由来のクラスター組成物
本発明の概念が多種多様な微小気泡製剤に適用可能であることを示すために、E1-2に詳述したC2と、C1としての6種の市販の微小気泡製品とから作製したDPを、顕微鏡観察/画像解析によってクラスター含量について、並びにソノメトリーによって活性化気泡の体積及び直径について試験した。C1として調査された微小気泡成分を、供給業者、気体コアの組成、安定化膜、及び医薬形態とともにTable 9(表9)に詳述する。
【0229】
【表9】
【0230】
凍結乾燥形態については、C1を各製剤の添付文書に詳述されている体積のC2(Sonazoidについては2mL、Sonovueについては5mL、Micromarkerについては0.7mL)で再構成して、E1-2に詳述したようにクラスター組成物の調製を実施した。Optison及びDefinityについては、微小気泡が分離した後に下澄液(infranatant)を除去することによって製品バイアル中の微小気泡を単離し、同じ体積のC2をバイアルに添加した後に均質化することによってクラスター組成物を調製した。Polyson Lについては、0.5mLの均質化したC1を0.5mLのC2と混合した。
【0231】
様々なクラスター組成物中のクラスター含量並びに活性化気泡の体積及び直径についての結果をTable 10(表10)に記述する。E1-2に詳述したC1成分は、市販の造影剤であるSonazoidと同じ配合及び形態を有し、従って、これらの2つの薬剤は、C1として使用した場合、類似の特性を有するクラスター組成物を発生させると予想され、Table 11(表11)に記述した結果によって確認される通りである。調査されたその他の5種の市販の微小気泡製品のうち、Definityを除く全てが、US照射の際に活性化されてかなりの活性化気泡体積を示したかなりの量のクラスターを有するクラスター組成物をもたらす。Micromarker、Optison、Sonovue、及びPolysonは、気体コア及び安定化膜の化学組成の強い変動を示すが、Sonazoid及びE1-2に詳述したC1を用いて調製したものと比較可能である、それらのそれぞれのクラスター組成物についての特性を示す。理論的考察に拘泥することを望むものではないが、Definity微小気泡がC2中の微小液滴とクラスターを形成しない理由は、安定化膜中のPEG-DPPE成分の使用である可能性がある。この成分は、微小気泡を取り囲む水の厚い緻密な層を作り出すことによって、C2の微小液滴に対する静電引力を遮蔽する可能性がある。0.5から40μmの測定範囲の50×対物レンズを使用した場合、この研究からの更なる知見は、Sonovue及びPolySon Lを用いて作製したクラスター組成物中で3μmよりも小さいかなりの量のクラスターが観察されたことであった。これらの微小気泡剤は、E1-2に詳述したC1、Sonazoid、又はOptisonと比較して、かなりの量の小型の微小気泡を含有する。Sonovue及びPolySonを用いて作製したクラスター組成物中では、約1μmの微小気泡及び約1μmの微小液滴から形成されたかなりの割合のクラスターが観察され、これらはUS照射の後の活性化気泡体積に寄与するようであった。従って、1~10μmのサイズ範囲のクラスターを、本発明の下で機能的であると見なすべきである。
【0232】
【表10】
【0233】
上記に報告したこれらの結果は、本発明の概念が、気体コアの組成及び安定化膜の組成の両方に関して、多種多様なC1配合物に適用可能であることを実証している。
【0234】
E5-3 自発的活性化及びUS活性化
製剤の基本的性質は、系の不安定化、即ち、USにより誘導される、微小気泡及び微小液滴の組合せからの大型の相シフト気泡の発生を指向する。この不安定化は、インビボで且つ標的部位(病変)において制御された様式で起こらなければならず、DPの調製の際又は投与の直後の(即ち、インソネーションの不在下での)自発的成長(活性化)は、本発明の機能性にとって有害である。WO99/53963は、2つの成分の共投与しか検討していないが、投与の前に成分を混合した場合、系のそのような自発的活性化を回避するには、C1及びC2を合わせた後に高圧又は低温での保存が必要となる可能性があると記している。本発明者らは、これらの明らかに厄介で限定的な必要性を排除して、周囲条件において安定である製剤を提供しようと試みた。WO99/53963に記されたように、理論的評価に基づいて、自発的活性化は、油相の沸点(b.p.)及びその蒸気圧(v.p)に左右される可能性がある。しかしながら、この特許の著者らは、油相の水溶解度が、C1及びC2を合わせた際の自発的不安定化及び気泡成長の更に重要な一因でありうる可能性を特定していない。これらの関係を解明し、この課題に対する解決策を提供するため、幅広い範囲の沸点、蒸気圧、及び水溶解度を有するいくつかの微小液滴相成分(フルオロカーボン油)をスクリーニングし、C2の製造に使用した。次いで、これらの試料をC1と合わせ、自発的活性化及びUS活性化気泡の含量について判定した。これらの試料の製造及び分析について以下に記載する。
【0235】
641mgのジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)及び73mgの1,2-ジステアロイル-3-(トリメチルアンモニオ)プロパンクロリド(DSTAP)を250mL丸底フラスコに量り入れ、50mLのクロロホルムを添加した。試料を、透明な溶液が得られるまで高温の水道水で加熱した。ロータリーエバポレーターで350mmHg及び40℃で蒸発乾固することによってクロロホルムを除去し、続いて、デシケーターで50mmHgで終夜更に乾燥した。その後、143mLの水を添加し、フラスコを再度ロータリーエバポレーターに置き、最大回転スピード及び80℃の水浴温度によって25分間脂質を再水和させた。試料を終夜冷蔵庫に入れた。脂質分散体を好適なバイアルに移し、使用するまで冷蔵庫で保存した。
【0236】
低温の脂質分散体の1mLのアリコートを2mLクロマトグラフィーバイアルに移すことによって、エマルションを調製した。7つのバイアルのそれぞれに、Table 11(表11)に詳述したフルオロカーボン油100μLを添加した。クロマトグラフィーバイアルをCapMix(Espe社)で75秒間振盪した。バイアルを直ちに氷冷し、プールし、使用するまで冷却しておいた。コールターカウンター分析を実施して、微小液滴の体積濃度を決定し、次いで、エマルションを水で10μl/mL分散相に希釈した。
【0237】
C1(E1-2に詳述した)を2mLの水中で再構成し、10mLチューブ中で調製したC2試料とともに10:1の比に混合し、手で慎重に振盪した。次いで、混合物を7mLの水で希釈した。試料を、自発的活性化及びUS活性化気泡について、E1-4に記載された方法の手動バージョンの顕微鏡観察によって評価した。1mLのこの溶液を顕微鏡セルに移し、ここで、温度を2分後に37℃に安定化した。2.25MHzの中心周波数を有するATL 3-2トランスデューサーを使用したUS音波処理を試料に適用できるようにセルを設定した。200×の倍率で、全セルエリアを走査し、大型(約15μm超)の自発的活性化気泡の含量を目視検査によって半定量的に判定した。各試料について、0から2の範囲のスコアを付け、ここで、0は「大型の相シフト気泡が全く又はほとんど観察されなかった」ことを示し、1は「中程度の数の大型の相シフト気泡が観察された」ことを示し、2は「多数の大型の相シフト気泡が観察された」ことを示す。次いで、試料を公称MI0.8で5秒間インソネートし、大型のUS活性化気泡の含量を計数し、同じようにスコア付けした。この研究の結果を、調査された化合物の物理化学的特性とともにTable 11(表11)に詳述する。
【0238】
【表11】
【0239】
驚くべきことに、Table 11(表11)に列挙したデータは、自発的活性化のレベルは、沸点又は蒸気圧と有意に相関しないが、油成分の水溶解度と強く相関し、US活性化のレベルも同様であったことを示す。図17は、水溶解度対自発的及びUS活性化スコアを示す。認められるように、水溶解度の減少とともに、自発的活性化気泡の形成の顕著な減少が観察されるのに対し、水溶解度の減少とともに、US活性化気泡のレベルの顕著な増加が観察される。これらの結果は、おおよそ1×10-5M未満の水溶解度を有するC2の油成分を使用することによってDPを自発的活性化に対して安定化できること、及びまたUS活性化のレベルがこのレベル未満の水溶解度の恩恵を受けることを実証している。しかしながら、E5-4に示したように、エマルション微小液滴成分のかなりの割合は、自発的活性化の増加又はUSにより誘導される活性化の減少につながることなく、より高い水溶解度を有する成分(例えば、薬物ローディングの増加のために添加される共溶媒)によって構成されうることに留意されたい。
【0240】
E5-4 薬物ローディング及び共溶媒
本発明の一態様では、活性化の際にインビボで標的部位において放出するために、治療用化合物が微小液滴の油相に添加される。そのようなローディングを達成するための概念を解明するために、一連の配合研究を実施した。これらを以下に簡単に要約する。
【0241】
E5-3に報告した様々な成分のスクリーニング研究と、乳化しやすさ、エマルションの安定性、入手可能性、品質等などの更なる応答に基づいて、ペルフルオロメチルシクロペンタン(pFMCP)をC2の製造のための主要油成分として選択し、正の表面電荷のためにステアリルアミン(SA)を添加したジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)安定化膜を用いた。薬物ローディングに関する研究のための出発点として、pFMCP及び種々の他の油成分に対する異なる溶質(薬物及び光学画像化用の発色団)の溶解度の理論的評価を実施した。この評価は、溶媒と溶質の適合性であるハンセン溶解度パラメーターの判定のための最新のソフトウェア、HSPiP v.4(Steven Abbott TCNF社)を使用して実施した。HSPiP分析は、物質間の適合性に関する3つの基本特性:極性、分散、及び水素結合、並びにこの3次元空間における、例えば溶媒及び溶質の間の距離:ハンセン距離(Hd)を計算する。この空間において溶媒及び溶質が近いほど、溶媒に対する溶質の溶解度が(相対的に)良好になる。ハンセン理論は、Hd<8が可溶性の「溶媒中溶質」ペアを表し、8<Hd<12が部分的可溶性を表し、Hd>12が非可溶性を表すと予測する。この分析を、1)65℃未満の沸点、0.1M未満の水溶解度、及び予想される生体適合性(毒性)に基づいて選択された、広範なハンセンパラメーターを有する一連の溶媒、並びに2)一連の標的溶質:化学療法薬及び光学画像化に好適な分子について実施した。記述された溶媒選択基準に基づいて、好ましい溶媒は全て、部分的にハロゲン化された炭化水素であった。溶媒間の混和性及び溶媒のうちの1種に対する溶質の溶解度を実験的に決定した。この研究の結果をTable 12(表12)に記述する。そこに記述したデータに加えて、クロロトリフルオロプロパン(CltFPr)及びジクロロジフルオロエタン(dCldFEt)は、pFMCP、ジクロロメタン(dClMe)、及びトリクロロメタン(tClMe)に完全に混和性であることが見出された。
【0242】
【表12】
【0243】
これらの結果から認められるように、計算されたHdは、溶媒間の予測された混和性とある程度合致するが、tClMeに対する様々な標的分子の絶対溶解度の良好な予測因子ではない。これは、ハンセン分析は主として、様々な溶媒系に対する所与の分子の相対溶解度のためのツールであり、様々な溶媒系に対する様々な化合物の絶対溶解度を推定するのに使用できないことを示す。
【0244】
Table 12(表12)に列挙した物質のうちの7個について、tClMeに対する測定された溶解度はまた、LogP及びLogSについての文献値と相関していた。この分析は、予想通り、tClMeに対する溶解度が親油性に左右されることを示したが、これらの特性は、絶対溶解度を予測することができなかった。LogP<0.9及びlogS>-2.7を有する物質は、ゼロ又は非常に低い溶解度を示したが、3.2から3.9のLogP範囲を有する物質については、溶解度は50から350mg/mLまで変動し、LogPとの共分散はなく、-3.7から-5.2のLogS範囲を有する物質については、溶解度は20から350mg/mLまで変動し、LogSとの共分散はなかった。
【0245】
これらの評価は、親油性物質が好ましいが、任意の特定の治療剤及び本発明の間の適合性は実験的に試験する必要があることを示す。
【0246】
Table 12(表12)中の標的分子はいずれも、pFMCPに対して測定可能な溶解度を示さず、従って、機能的なローディング容量を達成するための共溶媒の使用が必要である。pFMCPに対するd-及びt-ClMeの混和性は、約10%にすぎないことから、「溶媒ラダー(ladder)」の構築、即ち、ハンセン空間におけるtClMe及びpFMCPの間の第3の溶媒の使用が必要である。これらの考察に基づいて、治療用又は光学画像化用化合物をロードしたC2に関する更なる研究のために、tClMe、CltFPr、及びpFMCPの1:1:1(体積で)混合体を選択した。
【0247】
ナイルレッド(NR)、DiR、及びパクリタキセル(Ptx)の溶解度を、tClMe、CltFPr、及びpFMCPの1:1:1混合物に対して評価し、それぞれ5mg/mL超、10mg/mL超、及び25mg/mL超であることが見出された。加えて、Ptxをロードした前記3種の溶媒の1:1:2混合物を検討した。この溶媒混合物に対するPtxの溶解度は50mg/mL超であり、油相の組成を変化させることによってローディング容量が実質的に増加しうることが示される。これらの成分の1:1:1混合物を含むC2を、下記に詳述したように製造した。
【0248】
100mL丸底フラスコ中の50mLの水に3mol/mol%SAを含む250mgのDSPCを量り分けることによって脂質分散体を作製し、80℃で30分間水和させ、冷却させた。Xmgの物質(Xは、NR、DiR、及びPtxについて、それぞれ5、10、及び25mgである)を量り分け、333μLのtClMeに溶解した(溶液A)。333μlの溶液Aを、333μlのCltFPr+333μLのpFMCPで希釈した(溶液B)。900μlの脂質分散体を、1.5mL遠心管に添加した。100μlの溶液Bを、遠心管中の脂質分散体に添加した。ZoneRay(登録商標)Dental HL-AH G7 Amalgamatorを3200rpmで20秒間使用して、乳化を達成した。得られたエマルションを25gで5分間遠心分離した。遠心分離の後、微小液滴は明確な沈殿物層を形成した。過剰の脂質小胞を含有する上澄液を慎重に除去し、同等体積の水中5mM TRISを添加し、微小液滴を手動振盪によって再分散させた。コールター分析を実施し、微小液滴の検出された体積濃度に基づいて、エマルションを5mMで3μlの微小液滴/mLに希釈した。
【0249】
C2の得られた試料を顕微鏡観察及びコールター分析によって判定した。図18は、顕微鏡観察評価による顕微鏡写真を示す。全ての試料について、標的範囲1から5μmの微小液滴サイズを有する安定なエマルションが観察された。加えて、ロードされた物質は、明らかに、微小液滴内に溶解状態で含有され、過剰小胞材料は観察されず、微小液滴は透明で均質な色であり、沈殿の兆候はない。全ての試料について、コールター分析は、おおよそ3μlの微小液滴/mLを示し、メジアン径はおおよそ3μmであった。
【0250】
次いで、E1-2に詳述したC1とともに、これらのC2試料をDPの調製に使用し、これを、コールター計数によって反応性について、顕微鏡観察によってクラスター化について、並びにソノメトリーによって活性化気泡のサイズ及び体積について判定した。全ての試料についての観察された反応性は40~70%の範囲であり、顕微鏡観察によりクラスターの存在が確認されたが、自発的活性化の証拠は示されず、活性化気泡体積は微小液滴1μl当たり100~200μlの範囲であり、活性化気泡サイズは42~48μmの範囲であった。これらの結果は、以下を実証している:
- 微小液滴の油相は、許容可能な薬物ローディング容量を得るために、種々の溶媒を含みうること。このためには、部分的にハロゲン化された炭化水素が特に有用である。
- かなりの割合(例えば、60v/v%超)の溶媒は、E5-2から示される(1×10-5M未満)よりも有意に高い水溶解度(例えば、1×10-1M未満)を有しうること。
- これらの製剤は、クラスター組成物中のクラスターの形成時に概念の重要属性を保持し、インソネーションの際に活性化される能力を有し、自発的活性化がないこと。
【0251】
上記のようにDiRをロードしたC2試料を、インビボでの送達の判定に使用した(E8を参照されたい)。上記のようにNRをロードしたC2試料を、活性化の際のロードされた物質の発現の判定に使用した(E6を参照されたい)。
【0252】
(実施例6)
(E6)-活性化の際のロードされた物質の発現
E6-1 序論
クラスター組成物の活性化の後に、C2の微小液滴にロードされた分子性物質がいかにして発現されるかを調査するために、蛍光顕微鏡観察研究を実施した。C2中の微小液滴にナイルレッド(NR)色素をロードしたクラスター組成物を活性化し、蛍光顕微鏡観察によって研究した。
【0253】
E6-2 化合物及び手順
E5-4に詳述した5mg/mLのナイルレッド色素をロードしたC2を使用して、E1-2に詳述したようにクラスター組成物を調製した。クラスター組成物を水に希釈し、顕微鏡観察用ウェルに入れ、Vscan USスキャナー(GE Healthcare社)を使用して活性化した。
【0254】
活性化したクラスター組成物の画像を、Leica TCS SP8共焦点顕微鏡を使用して取得した。使用した対物レンズは、0.95の開口数を備えたHCX IRAPO L 25×水浸漬対物レンズであった。蛍光色素を、波長可変白色光レーザーによって539nmで励起した。ハイブリッド検出器(HyD)によって、570~670nmの範囲の発光を検出した。使用したレーザースピードは400Hzであり、ピンホール直径は1AUに設定した。蛍光画像と重ね合わせることができる透過画像を別の検出器で同時に取得した。対物レンズのノーズピースを段階的にz方向に動かすことによって、試料のインターセクション及び3D画像を取得した。
【0255】
E6-3 結果
図19は、C2微小液滴成分に5mgのNR/mLをロードしたDPの活性化後の相シフト気泡のインターセクションの蛍光顕微鏡写真を示す。
【0256】
この図から認められるように、活性化の後、ロードされたNRは、液体/気体界面に現れる。インビボでの活性化の後、治療物質をロードしている場合、そのような物質は、内皮壁と密接に接触し、従って、溢出しやすくなる。
【0257】
(実施例7)
(E7)-腫瘍における活性化気泡の蓄積
E7-1 序論
腫瘍モデルにおける活性化の後に生成された大型気泡の特性を更に研究し実証するために、マウスモデルの皮下前立腺がんPC-3腫瘍異種移植片において活性化した相シフト気泡を画像化する研究を実施し、蓄積性、及び自由流動性のHEPS/PFB微小気泡とのコントラスト増強キネティクスの顕著な相違が実証された。
【0258】
E7-2 調査された成分及び組成物
この研究において調査された組成物は、E1-2に詳述した通りであった。
【0259】
E7-3 方法
16匹の雌のBalb/cヌードマウスを使用した。腫瘍植え込みの前に、マウスを秤量し、イソフルランで麻酔し、耳標を付けた。3×106個のPC-3細胞を含有する100μLの細胞懸濁液を、臀部及び膝の間の左後脚の外側にゆっくりと皮下注射した。
【0260】
フェンタニル(0.05mg/kg)、ミダゾラム(5mg/kg)、及びメデトミジン(0.5mg/kg)の混合体の皮下注射によって、マウスに外科的麻酔を投与した。静脈内カニューレ[BD Neoflon(商標)24 GA]を尾静脈に留置した。わずかな量(約20μL)の注射用0.9%塩化ナトリウムの注射によって開存性を確かめ、その後、少量の(約10μL)ヘパリン(10U/mL)を注射して血栓を防止した。カニューレのハブに注射用0.9%塩化ナトリウムを充填してデッドスペースを排除し、キャップで閉鎖した。カニューレを、サージカルテープを用いて尾部に固定した。
【0261】
3つの市販の超音波画像化システムを使用した。全ての実験について、MS250トランスデューサー(16~18MHz)を備えた高周波数小動物画像化システムVevo 2100(VisualSonic社)を用いて腫瘍を画像化した。MI設定0.28で2MHz画像化プローブを使用したVivid E-9臨床用画像化システム(GE Healthcare社)、又は公称MI設定0.8で2MHz画像化プローブを用いたVscan 1.2臨床用画像化システム(GE Healthcare社)のいずれかを用いて、クラスター組成物をインビボで活性化した。
【0262】
16匹の動物を各群4匹の4つの群に分けた。群ごとの活性化システム及び用量をTable 13(表13)に記述する。
【0263】
【表13】
【0264】
用意したマウスを、その右側を下にして処理台(温度制御を37℃に設定した)に置いた。左脚を水平に持ち上げ、布で支え、サージカルテープを用いて固定化した。超音波ゲルを腫瘍上に十分に塗布し、水浴バッグを腫瘍の上に置いた。トランスデューサーを水浴に入れ、画像化トランスデューサーを所定の走査面に保持して、Visualsonics Vevo 2100画像化システムを用いて画像化を実施した。クラスター組成物の活性化を、更なるトランスデューサー(Vivid E9又はVscanのいずれか)を用いて、クラスター組成物の注射時から開始して75秒間実施した。
【0265】
クラスター組成物の活性化は、超音波画像において数分間停留したままであるコントラストエコーを生成する。走査面において画像化された腫瘍の単位面積当たりの停留コントラスト信号の数を計数した。走査面の厚さを0.2mmと仮定して、腫瘍の単位体積当たりの相シフトエコーの数を導出した。
【0266】
E7-4 結果
腫瘍は、超音波画像において低エコー源性である。クラスター組成物の注射前(左の画像)並びに注射及び活性化後(右の画像)の両方についての、典型的な腫瘍画像が図20に示され、活性化後の停留相シフトエコーの存在が示されている(右の画像)。腫瘍組織1mL当たりの停留相シフトコントラストエコーの推定数をTable 14(表14)に示す。全ての腫瘍が、停留コントラストエコーの蓄積を示した。これらのエコーは、超音波画像において数分間静止したままであることから、停留と称される。HEPS/PFBなどの通常のコントラスト微小気泡を壊すように設計されている、Vevo 2100画像化システムからのバーストシーケンスの適用は、停留エコーを壊さない。これは、相シフト気泡がその大型サイズに起因して、バーストシーケンスによって壊されないと予測する理論と一致し、停留コントラストエコーが、組成物中のHEPS/PFB微小気泡によって生成されないことを確認する。図21は、同等用量のHEPS/PFB微小気泡のみ(図中でBと標識されている)と比較した、相シフト気泡(図中でAと標識されている)由来の腫瘍領域における典型的な積分コントラスト増強キネティクスを示す。これは、相シフト気泡のHEPS/PFB微小気泡と比較したキネティクスの相違、即ち、蓄積性対自由流動性を実証する。自由流動性のHEPS/PFB微小気泡による増強の方が、はるかに一過性である。相シフト気泡由来のコントラストは、腫瘍内に蓄積して数分間留まる停留エコーを示す。
【0267】
【表14】
【0268】
用量及び活性化のタイプ(Vivid E9又はVscan)について二元配置分散分析を適用した。用量についてはp=0.024で統計的に有意な差があり、活性化トランスデューサーについてはp=0.352で有意でない差がある。
【0269】
E7-5 結論
2つの異なる臨床用画像化システムである、2MHzプローブ及びMI0.28を用いたVivid E9、並びに2MHzプローブ及びMI0.8を用いたVscanを用いてクラスター組成物を活性化し、高周波数(16~18MHz)小動物超音波画像化システムを用いて腫瘍を画像化した。全ての手順が、腫瘍内に停留コントラストエコーを生成した。これらのコントラストエコーは、HEPS/PFB微小気泡由来の一過性のコントラストエコーとは対照的に、超音波画像において数分間停留したままである。これらは、HEPS/PFB微小気泡を破壊するように設計されたバーストイメージングシーケンスによって破壊されない。これらの観察は、腫瘍組織における相シフト気泡の蓄積と一致する。統計的に有意な用量応答が観察され(p=0.24)、MI0.28及び0.8の異なる臨床用画像化システムを用いて活性化した場合、蓄積の量は統計的に差がなかった(p=0.352)。
【0270】
(実施例8)
(E8)-同時注射又はロードされた物質の腫瘍への送達
E8-1 序論
本発明がインビボでの分子の送達を向上させうることを実証するために、マウスPC-3異種移植片腫瘍モデルにおける研究を実施した。以下の3つのモデル系を検討した:DP及びエバンスブルー色素の同時注射、DP及びLicor CW800 EPR剤の同時注射、並びに微小液滴成分(C2)にDiR色素をロードしたDPの注射。エバンスブルーは、静脈内注射したときにアルブミンタンパク質に結合する蛍光色素である。生理的条件下では、内皮はアルブミンに対して不浸透性であり、エバンスブルーが結合したアルブミンは血管内に閉じ込められたままである。従って、エバンスブルーは、多くの場合、薬物送達研究におけるモデル化合物として使用される[Bohmer等、J Controlled Release、148、第1号、2010、18~24頁]。血管透過性-滞留性亢進(EPR)は、腫瘍血管系の一般的な特性である。腫瘍微小環境における血管内皮は、多くの場合不連続であり、分子を周囲の腫瘍組織中に拡散させる。市販の(Li-Cor Biosciences社)IR色素である800CW PEG造影剤(25~60kDa)は、EPR効果に起因して腫瘍内に堆積するよう意図された非特異的画像化剤である。DiR色素は、市販の(Life Technologies、Thermo Fisher Scientific社)近赤外蛍光性の親油性カルボシアニンDiOC18(7)色素であり、これは、水性条件では弱蛍光性であるが、例えば細胞膜に組み込まれると、強蛍光性及び光安定性である。従って、組織中のエバンスブルーの抽出及び定量化、並びに800CW PEG及びDiR色素を用いた光学画像化の標準的な技法を、本発明による薬物送達のインビボでの実証のためのモデル化合物として採用した。
【0271】
E8-2 調査された成分及び組成物
この研究において調査された組成物は、E1-2(同時注射モデル)及びE5-4(DiRロード)に詳述した通りであった。
【0272】
E8-3 方法
雌のBalb/cヌードマウスを本研究で使用した。腫瘍植え込みの前に、マウスを秤量し、イソフルランで麻酔し、耳標を付けた。3×106個のPC-3細胞を含有する100μlの細胞懸濁液を、臀部及び膝の間の左後脚の外側にゆっくりと皮下注射した。
【0273】
フェンタニル(0.05mg/kg)、ミダゾラム(5mg/kg)、及びメデトミジン(0.5mg/kg)の混合体の皮下注射によって、マウスに外科的麻酔を投与した。静脈内カニューレ[BD Neoflon(商標)24 GA]を尾静脈に留置した。わずかな量(約20μL)の注射用0.9%塩化ナトリウムの注射によって開存性を確かめ、その後、少量の(約10μL)ヘパリン(10U/mL)を注射して血栓を防止した。カニューレのハブに注射用0.9%塩化ナトリウムを充填してデッドスペースを排除し、キャップで閉鎖した。カニューレを、サージカルテープを用いて尾部に固定した。
【0274】
マウスの後肢を、腫瘍のインソネーションのために2つのUSトランスデューサーを備えた水浴に入れた。2MHzプローブ及び公称MI0.8を用いたVscanによって、クラスター組成物の超音波活性化を行った。500kHzの特注トランスデューサー(Imasonic SAS社)、0.1から0.8の範囲のMIでパルス繰り返し周波数1kHzの8サイクルパルスを使用して、後続の超音波曝露を適用した。
【0275】
エバンスブルー
50μlのエバンスブルー(50mg/kg)を注射し、続いて直ちに、1mL当たり公称1.5μLのpFMCP微小液滴+4.0μLのHEPS/PFB微小気泡を含有する50μLのクラスター組成物、又は1mL当たり4.0μLのHEPS/PFB微小気泡のみを注射した。2MHzプローブを備えたVscan臨床用超音波スキャナーによって、注射時から開始して45秒間活性化を行った。次に、これに続いて、MI0.1又は0.2で5分間500kHzの超音波照射を行った。処置の30分後に、動物を屠殺し、組織試料:腫瘍、処置後の脚由来の大腿筋、及び対側の無処置の脚由来の大腿筋を収集し、エバンスブルー含有物を抽出し定量化した。各群において3匹の動物を試験し、全てVScanプローブを使用して45秒間活性化した。群及び変数をtable 15(表15)に示す。
【0276】
【表15】
【0277】
LiCor CW800 EPR剤
LiCor CW800 EPR剤を5nmol/kg体重の用量で投与し、続いて直ちに、1mL当たり公称1.5μLのpFMCP微小液滴+4.0μLのHEPS/PFB微小気泡を含有する50μLのクラスター組成物を投与した。2MHzプローブを備えたVscan臨床用超音波スキャナーによって、注射時から開始して45秒間活性化を行った。次に、これに続いて、MI0.2で5分間500kHzの超音波照射を行った。Pearl Impulse画像化システムを用いて投与後12時間まで全身落射蛍光画像化を実施した。動物の群及び数をTable 16(表16)に示す。
【0278】
【表16】
【0279】
落射蛍光画像中の腫瘍の上に目的領域を描画し、平均強度を計算した。また、脚のおおよそ同じ位置における無処置の対側の大腿の上に対応する目的領域を描画した。腫瘍領域エリアにおける平均画像強度を無処置の脚における平均画像強度で除した無次元比率を計算した。この比率の曲線下面積を計算し、1分の時点から1時間の時点まで積分した。
【0280】
DiRをロードしたクラスター組成物
1mL当たり、10mg/mLのDiR色素をロードした公称1.5μLのpFMCP微小液滴+4.0μLのHEPS/PFB微小気泡を含有する50μLのクラスター組成物を投与した。2MHzプローブを備えたVscan臨床用超音波スキャナーによって、注射時から開始して45秒間活性化を行った。次に、これに続いて、MI0.2で5分間500kHzのUS照射を行った。動物の腫瘍を有する左脚に超音波場を印加した。対照群は、同じDiRをロードしたクラスター組成物及び取扱い手順を受けたが、超音波曝露を受けなかった。動物の群の詳細をTable 17(表17)に示す。
【0281】
【表17】
【0282】
Pearl Impulse蛍光画像化システムを用いて、注射前及び処置後1分(注射後おおよそ7分)の両方に、定量的比較を可能にする標準化された画像取得によって落射蛍光画像を取得した。左大腿の腫瘍の上に目的領域を描画し、おおよそ同じサイズ及び解剖学的位置の腫瘍を有さない右大腿に対応する目的領域を描画した。領域における平均蛍光強度を記録した。主要応答として、注射前の画像及び処置後の画像の間の蛍光強度の差を判定した。腫瘍を有する脚対腫瘍を有さない脚、及びUS照射対US照射なしの因子を用いて、二元配置分散分析を実施した。
【0283】
E8-4 結果
エバンスブルー
組織試料からエバンスブルーを抽出し定量化した(mg/mL組織)。各動物(マッチドペア)について、処置後の大腿筋における濃度を無処置の大腿筋における濃度で除して、処置後の筋肉への取り込みの増加の無次元比率を得た。データに一元配置ANOVAを適用し、結果をTable 18(表18)に示す。活性化したクラスター組成物で処置し、後続の低周波数を適用した脚では、エバンスブルー取り込みの統計的に有意なおおよそ2倍の増加があった。その他の群については、取り込みの統計的に有意な増加は観察されなかった。
【0284】
【表18】
【0285】
腫瘍試料を群1及び2から採取した。エバンスブルー濃度を無処置の大腿筋組織試料におけるエバンスブルーの濃度で除して、取り込みの増加を表す無次元比率を得た。等しい標本分散を仮定して2標本t検定を適用した。結果をTable 19(表19)に示す。活性化の後に500kHzの超音波を適用した腫瘍については、無処置の大腿筋と比較しておおよそ3.4対1の腫瘍組織への取り込みの増加があり、活性化に続いて500kHzの超音波を適用しなかった場合には、おおよそ2対1の増加があった。
【0286】
【表19】
【0287】
LiCor CW800 EPR造影剤を用いた光学画像化
群1(左の画像:活性化なし、後続のUS照射なし)、及び群3(右の画像:活性化及び後続のUS照射)の動物についての、典型的な落射蛍光画像を図22に示す。矢印は腫瘍の位置を示している。画像は、直接比較するため、同じPearl画像化システムスキャナー設定を用いて撮影され、同じ蛍光強度のリニアグレースケールで示されている。2匹の動物における腫瘍は、おおよそ同じ位置及びサイズである。
【0288】
図23は、処置後1分から9時間までの腫瘍蛍光強度対無処置の対照脚強度の比率を示す。群2(正方形:活性化のみ)では、群1(菱形:活性化なし、後続のUS照射なし)と比較して、初期取り込みの統計的な増加があり、群3(丸:活性化及び後続のUS照射)では、群1及び2と比較して、初期取り込み及び取り込み速度の統計的な増加がある。
【0289】
腫瘍領域における平均強度対無処置の脚における平均強度の比率を計算して、無次元の標的対バックグラウンド(TBR)比を出し、TBR曲線下面積を処置後1分から1時間まで積分した。全ての動物について、1分、30分、及び60分の時点で画像化を実施した。結果をTable 20(表20)にリスト化する。図24は、図中でそれぞれA、B、及びCと標識された群1、2、及び3の平均値及び推定標準誤差を示す。
【0290】
【表20】
【0291】
3つの処置群に分散分析を適用し、得られたp値は0.001未満であった。対比を適用し、群1と2の間ではp値0.037であり、群2と3の間ではp値0.005であった。従って、群1と2の間及び群2と3の間で、曲線下面積の統計的に有意な(0.05レベルで)増加がある。
【0292】
クラスター組成物のDiRをロードした微小液滴成分
超音波曝露を受けていない群1の動物(Aと標識されている)、並びに活性化及び腫瘍を有する左脚への後続のUS照射を受けた群2の動物(Bと標識されている)についての、典型的な処置後の落射蛍光画像を図25に示す。左(腫瘍を有する)脚及び右脚についての、処置後の平均強度から注射前の平均強度を引いたものとして定義される蛍光強度の平均差をTable 21(表21)に示す。
【0293】
【表21】
【0294】
二元配置分散分析は、超音波活性化及び後続の照射を適用した場合の腫瘍を有する脚における蛍光強度の増加について、p値<0.001を与える。これらの結果は、微小液滴成分(C2)の油相にロードされた蛍光色素分子の局在化された送達及び取り込みを実証している。
【0295】
E8-5 結論
クラスター組成物との同時注射と、それに続くUS活性化及び更なるUS照射の際に、エバンスブルー色素の筋肉及び腫瘍組織への送達の0.05レベルで統計的に有意な増加があった。処置後の筋組織では、活性化なし及び後続のUS照射なしと比較して、エバンスブルーのおおよそ2倍の増加が観察された。HEPS/PFB微小気泡のみの投与、並びに活性化の適用及び後続の超音波曝露では、エバンスブルーの送達の有意な増加は観察されなかった。無処置の筋組織と比較した腫瘍組織への取り込みは、活性化のみの際には2倍に、活性化及び後続のUS照射の際には3.4倍に増加した。
【0296】
クラスター組成物との同時注射及び超音波活性化の際に、超音波活性化なしと比較して、Licor CW800 EPR剤の腫瘍組織への送達の統計的に有意な増加があった。送達の向上のために後続の超音波照射を行うと、活性化のみと比較して、後続のUS照射の際に送達の更なる統計的に有意な増加があった。
【0297】
C2中の微小液滴の油相にDiR色素をロードしたクラスター組成物を注射した後に、活性化及び後続のUS照射を適用した場合、腫瘍を有する脚における蛍光強度の統計的に有意な増加が観察された。これは、微小液滴からの分子ペイロードの局在化された送達を実証しており、超音波手順に曝露したエリアへの標的化された空間的放出及び取り込みが確認される。
【0298】
(実施例9)
(E9)-成分の製造及びクラスター組成物の調製
いずれの成分も無菌的に製造した。
【0299】
C1 - 微小気泡の原料分散体は、滅菌された脂質分散体及び滅菌された気体成分から調製した。脂質分散体をバルク容器中で加熱滅菌し、気体を滅菌濾過した。全生産ラインを蒸気滅菌した。コロイドミルにおいて脂質分散体及び気体を同時に供給して、マイクロスフェアをインサイチュで生成した。次いで、中間生成物(原料分散体)を浮選器でサイズ分画し、凍結乾燥保護剤の水溶液で標的微小気泡濃度に希釈し、無菌的に充填し、凍結乾燥した。
【0300】
C2 - 微小液滴エマルションは、滅菌された脂質分散体及び滅菌された油成分から調製した。脂質分散体をバルク容器中で加熱滅菌し、油成分を滅菌濾過した。全生産ラインを蒸気滅菌した。コロイドミルにおいて脂質分散体及び油成分を同時に供給して、微小液滴をインサイチュで生成した。次いで、原料エマルションをインライン遠心分離機でサイズ分画し、TRIS緩衝液の水溶液で標的微小液滴濃度に希釈し、無菌的に充填した。
【0301】
各成分の3つの連続するバッチを製造し、欧州薬局方及び米国薬局方に準拠した無菌試験に供した。6つのバッチ全てが無菌試験を通過した。
【0302】
DP - クラスター組成物は、C1のバイアルを2mLのC2で再構成し、続いて30秒間手動で均質化することによって無菌的に調製した。滅菌された単回使用のシリンジ及び針を使用して、2mLをC2のバイアルから取り出した。シリンジの内容物をC1のバイアルの栓を介して添加し、得られたDPを均質化した。
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