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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】ゲル状電解質および非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20220318BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220318BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01B1/06 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020553945
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2019042408
(87)【国際公開番号】W WO2020090828
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2018205567
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 早織
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 圭介
(72)【発明者】
【氏名】小林 正太
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-312536(JP,A)
【文献】国際公開第2014/002936(WO,A1)
【文献】特開平11-003729(JP,A)
【文献】特開2000-231935(JP,A)
【文献】特開2001-222988(JP,A)
【文献】特開2004-303473(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154448(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/154449(WO,A1)
【文献】特開2001-319690(JP,A)
【文献】特開2007-141467(JP,A)
【文献】特開2003-197259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 50/40-50/497
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン重合体と、非水電解液とを含み、
前記フッ化ビニリデン重合体は、主成分として第1フッ化ビニリデン重合体と、第2フッ化ビニリデン重合体とを含み、
前記第1フッ化ビニリデン重合体は、プロピレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1/1質量比)溶媒に、濃度が10質量%となるように溶解させた溶液を25℃に冷却した後、倒置法で行われるゲル化測定において、ゲル化するものであり、
前記第2フッ化ビニリデン重合体は、前記ゲル化測定において、ゲル化しないものであって、
前記第1フッ化ビニリデン重合体の融点は135~180℃であり、
前記第2フッ化ビニリデン重合体の融点は75~130℃である、
ゲル状電解質。
【請求項2】
フッ化ビニリデン重合体と、非水電解液とを含み、
前記フッ化ビニリデン重合体は、主成分として第1フッ化ビニリデン重合体と、第2フッ化ビニリデン重合体とを含み、
前記第1フッ化ビニリデン重合体は、プロピレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1/1質量比)溶媒に、濃度が10質量%となるように溶解させた溶液を25℃に冷却した後、倒置法で行われるゲル化測定において、ゲル化するものであり、
前記第2フッ化ビニリデン重合体は、前記ゲル化測定において、ゲル化しないものであって、
前記第1フッ化ビニリデン重合体および前記第2フッ化ビニリデン重合体の少なくとも一方は、カルボキシ基を有する不飽和モノマーに由来する構成単位をさらに含む、
ゲル状電解質
【請求項3】
前記第2フッ化ビニリデン重合体の含有量は、前記フッ化ビニリデン重合体の全質量に対して0.1~10質量%である、
請求項1または2に記載のゲル状電解質。
【請求項4】
前記第2フッ化ビニリデン重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、前記フッ化ビニリデン以外のフッ素系モノマーに由来する構成単位とを有する共重合体である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のゲル状電解質。
【請求項5】
前記第1フッ化ビニリデン重合体の重量平均分子量は、30万~200万である、
請求項1~4のいずれか一項に記載のゲル状電解質。
【請求項6】
前記非水電解液は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、およびメチルエチルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1つの非水溶媒に電解質が溶解したものである、
請求項1~5のいずれか一項に記載のゲル状電解質。
【請求項7】
前記電解質は、LiPF、LiAsF、LiClO、LiBF、LiCl、LiBr、LiCHSO、LiCFSO、LiN(CFSO、およびLiC(CFSOからなる群のうち少なくとの1つである、
請求項6に記載のゲル状電解質。
【請求項8】
無機フィラーをさらに含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載のゲル状電解質。
【請求項9】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置された、請求項1~8のいずれか一項に記載のゲル状電解質とを有する、
非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状電解質および非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池は、大容量化および小型化を両立できることから、スマートフォンなどの移動型電子機器や電気自動車などの電源として注目されている。非水電解質二次電池の電解液としては、リチウム塩を非水溶性の有機溶媒に溶解させた非水電解液が用いられる。
【0003】
近年では、非水電解質二次電池の電解液として、非水電解液の漏出などを抑制するため、非水電解液をポリマーに含浸させたゲル状電解質が開発されている。ゲル状電解質に用いるポリマーとしては、電気的安定性が高いことからフッ化ビニリデン重合体(以下、単に「フッ化ビニリデン重合体」というときは、フッ化ビニリデンの単独重合体および共重合体のいずれをも含む。)が好適に用いられる。
【0004】
ゲル状電解質として、例えば特許文献1には、フッ化ビニリデンに由来する構成単位を含み、かつ融点が50℃以上であるポリマーと、溶媒に可溶なフッ素ポリマーとをマトリクスとして含むポリマー電解質が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、フッ化ビニリデン単量体を70~97質量%およびフッ化ビニリデンと共重合可能な単量体を3~30質量%を含み、溶融結晶化熱量が一定以上であるフッ化ビニリデン共重合体(A)と、フッ化ビニリデン単量体を50~95質量%およびフッ化ビニリデンと共重合可能な単量体を5~50質量%を含み、溶融結晶化熱量が一定以下であるフッ化ビニリデン共重合体(B)とからなるフッ化ビニリデン系重合体組成物と、非水系電解液とからなるポリマー電解質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-3729号公報
【文献】特開2000-231935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や2に示されるようなゲル状電解質は、良好な非水電解液の保持性を有すると考えられる。しかしながら、電池の安全性のさらなる向上の要求に伴い、ゲル状電解質には、これまで以上に非水電解液の漏出を抑制できること、すなわち、非水電解液の保持性をさらに高めることが求められている。
【0008】
非水電解液の保持性は、ゲル状電解質中のポリマー濃度が高いほど高くなる。しかしながら、ポリマーは絶縁成分であることから、ゲル状電解質中のポリマー濃度が高くなると、電池の内部抵抗が増大し、電池特性が低下しやすい。つまり、ゲル状電解質中のポリマー濃度を高めることなく(すなわち、ゲル状電解質中のポリマー濃度を可能な限り低くしつつ)、非水電解液の保持性をさらに高めることが求められている。
【0009】
本発明はこれらの事情に鑑みてなされたものであり、ポリマー濃度が高くなくても、非水電解液の高い保持性を有するゲル状電解質およびそれを含む非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のゲル状電解質は、フッ化ビニリデン重合体と、非水電解液とを含み、前記フッ化ビニリデン重合体は、主成分として第1フッ化ビニリデン重合体と、第2フッ化ビニリデン重合体とを含み、前記第1フッ化ビニリデン重合体は、プロピレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1/1質量比)溶媒に、濃度が10質量%となるように溶解させた溶液を25℃に冷却した後、倒置法で行われるゲル化測定において、ゲル化するものであり、前記第2フッ化ビニリデン重合体は、前記ゲル化測定において、ゲル化しないものである。
【0011】
本発明の非水電解質二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置された、本発明のゲル状電解質とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリマー濃度が高くなくても、非水電解液の高い保持性を有するゲル状電解質およびそれを含む非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、倒置法を用いた室温(25℃)でのゲル化測定において、ゲル化する第1フッ化ビニリデン重合体と、ゲル化しない第2フッ化ビニリデン重合体とを組み合わせること(好ましくは、第2フッ化ビニリデン重合体の含有割合が一定以下となるように組み合わせること)で、ポリマー成分(フッ化ビニリデン重合体)の総濃度が低くても、十分にゲル化しつつ、非水電解液の保持性を高めうることを見出した。
【0014】
このメカニズムは明らかではないが、以下のように推測される。すなわち、第2フッ化ビニリデン重合体は、ゲル骨格の形成には寄与しないものの、第1フッ化ビニリデン重合体と非水電解液の両方に対して良好な親和性を有する。それにより、第2フッ化ビニリデン重合体が存在することによって、第1フッ化ビニリデン重合体と非電解液との親和性も間接的に高められることで、第1フッ化ビニリデン重合体のゲル骨格中に非水電解液が保持されやすくなると考えられる(推定メカニズム1)。また、第2フッ化ビニリデン重合体は、第1フッ化ビニリデン重合体よりも結晶性が低いため、(ゲル骨格の形成には寄与しないものの)第2フッ化ビニリデン重合体の凝集分子間に非水電解液が入り込みやすい。それにより、当該第2フッ化ビニリデン重合体の凝集分子間にも非水電解液が保持されやすくなると考えられる(推定メカニズム2)。
【0015】
室温ではゲル化しない(溶媒に対する溶解性が高い)第2フッ化ビニリデン重合体は、室温でゲル化する(溶媒に対する溶解性が低い)第1フッ化ビニリデン重合体よりも、組成分布が適切に制御されており(溶媒との親和性が低いモノマー組成を有する成分が少ない)、結晶性(結晶化度)は低い。フッ化ビニリデン重合体の組成分布や結晶性は、主に、モノマーの種類や共重合比、重合条件などによって調整されうる。
すなわち、組成分布が適切に制御されており、結晶性が低い第2フッ化ビニリデン重合体は、例えば結晶性を高めやすいフッ化ビニリデンの含有量を少なく(結晶性を低くしやすい他のモノマーの含有量を多く)し、かつ重合条件を適切に調整することによって得ることができる。重合条件を適切に調整するとは、具体的には、1)モノマーの添加を、重合が均質となるよう、可能な限り一様に、重合中、連続的または分割的に行うこと(具体的には、最初にモノマーを投入した直後の重合開始時の圧力(初期圧力)を維持するように連続的または分割的に行うこと)、2)重合温度を高くすることなどが挙げられる。1)は、より具体的には、最初にモノマーを投入した直後の重合開始時点から残りの全モノマーの添加が終了する時点までの重合圧力の低下が1MPa以内となるようにすることをいう。このうち、少なくとも上記1)を満たすことが好ましく、上記1)と2)の両方を満たすことがより好ましい。
【0016】
なお、特許文献1の実施例で用いられた溶媒に可溶なポリマーや、特許文献2の実施例で用いられたフッ化ビニリデン共重合体(B)の一つであるポリマーBは、前述の室温におけるゲル化測定においてゲル化する。また、ポリマーCおよびDは、プロピレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1/1質量比)溶媒に溶解しないことから、ゲル化試験を実施することができない。つまり、特許文献1および2の実施例の電解質は、いずれも本願の第2フッ化ビニリデン重合体を含んでいないと考えられる。
【0017】
1.ゲル状電解質
本発明のゲル状電解質は、フッ化ビニリデン重合体と、非水電解液とを含む。
【0018】
1-1.フッ化ビニリデン重合体
フッ化ビニリデン重合体は、主成分として第1フッ化ビニリデン重合体と、第2フッ化ビニリデン重合体とを含む。ここで、「主成分として」とは、フッ化ビニリデン重合体の含有量(好ましくは第1フッ化ビニリデン重合体と第2フッ化ビニリデン重合体の合計量)に対して80質量%以上、好ましくは90質量%以上であることをいう。
【0019】
<第1フッ化ビニリデン重合体>
第1フッ化ビニリデン重合体は、当該重合体をプロピレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1/1質量比)溶媒に、濃度が10質量%となるように溶解させた溶液を、25℃に冷却した後、倒置法で行われるゲル化測定において、ゲル化する重合体である。そのような重合体は、ゲル骨格(重合鎖のネットワーク)を形成しやすいため、当該ゲル骨格中に非水電解液を保持する機能を有しうる。
【0020】
フッ化ビニリデン重合体のゲル化測定(倒置法)は、以下の手順で行うことができる。
1)第1フッ化ビニリデン重合体を、プロピレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1/1質量比)溶媒に、濃度が10質量%となるように添加し、当該混合溶媒の沸点未満の温度で加熱しながら攪拌する。この加熱攪拌は、フッ化ビニリデン重合体が溶解するまで(不溶物が確認されなくなるまで)、加熱温度を上げながら行う。
フッ化ビニリデン重合体が溶解したかどうかは、調製した溶液を容器に採取し、透視度(JIS K 0102(2016年))を測定することにより行う。具体的には、溶液中に不溶物がなく、透視度が10度を超える場合は、溶解したと判断し;不溶物の容器底面への沈殿・堆積があり、透視度が10度以下の場合は、溶解できていないと判断する。
2)上記1)で第1フッ化ビニリデン重合体を溶解させた溶液を、室温(25℃)まで放冷し、25℃で一週間静置する。その後、当該溶液が入った容器を上下反転させて(倒置法)、内容物の流動状態を確認する。内容物が流動しないものを「ゲル化した」と判断し、内容物が流動したものを「ゲル化しなかった」と判断する。
内容物が流動したかどうかは、容器を上下反転した後、5分以内に内容物が容器の上から下へ流れ始めることが目視確認できたかどうかによって判断する。なお、粗大なゲル状物が目視で確認できた場合は、容器を上下反転した際に、内容物が上下移動したとしても、「ゲル化した」と判断する。
【0021】
そのような第1フッ化ビニリデン重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位を有し、必要に応じてフッ化ビニリデン以外の他のモノマーに由来する構成単位をさらに有しうる。すなわち、第1フッ化ビニリデン重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位を有する単独重合体であってもよいし、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、フッ化ビニリデン以外の他のモノマーに由来する構成単位とを有する共重合体であってもよい。
【0022】
フッ化ビニリデンに由来する構成単位について:
第1フッ化ビニリデン重合体中のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量は、第1フッ化ビニリデン重合体の結晶性を高めて、ゲルを形成しやすくする観点から、第1フッ化ビニリデン重合体の全質量に対して75~100質量%であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましく、95~100質量%であることがさらに好ましい。なお、第1フッ化ビニリデン重合体が、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、フッ化ビニリデン以外の他のモノマーに由来する構成単位とを有する共重合体である場合、フッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量の上限値は、例えば98.5質量%でありうる。
【0023】
第1フッ化ビニリデン重合体中のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量は、原料として仕込むモノマー中のフッ化ビニリデンの割合を調整することで、上記範囲に調整することができる。また、第1フッ化ビニリデン重合体中の当該フッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)などの公知の測定法により求めることができる。
【0024】
フッ化ビニリデン以外の他のモノマーに由来する構成単位について:
第1フッ化ビニリデン重合体は、前述の通り、フッ化ビニリデン以外の他のモノマーに由来する構成単位をさらに有してもよい。他のモノマーに由来する構成単位は、1種のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0025】
例えば、第1フッ化ビニリデン重合体は、電解液保持性に影響を与える結晶性を制御する観点から、フッ化ビニリデンと共重合可能な、フッ化ビニリデン以外の含フッ素アルキルビニル化合物(以下、単に「フッ化モノマー」ともいう)に由来する構成単位を有してもよい。フッ化モノマーの例には、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンなどが含まれる。これらのうち、結晶性の制御をより容易にする観点からは、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンが好ましく、ヘキサフルオロプロピレンがより好ましい。
【0026】
第1フッ化ビニリデン重合体がフッ化モノマーに由来する構成単位を有する場合、第1フッ化ビニリデン重合体中のフッ化モノマーに由来する構成単位の含有量は、第1フッ化ビニリデン重合体の全質量に対して1~20質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましい。
【0027】
また、第1フッ化ビニリデン重合体は、例えばゲル状電解質が無機フィラーを含む場合に、重合体に極性を付与して、当該無機フィラーとの親和性をより高める観点から、カルボキシ基を有する不飽和モノマーに由来する構成単位をさらに有しうる。カルボキシ基を有する不飽和モノマーの例には、(メタ)アクリル酸、末端にカルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、不飽和二塩基酸または不飽和二塩基酸モノエステルが含まれる。末端にカルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルの例には、2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート、アクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシエチルコハク酸、アクリロイロキシエチルフタル酸、メタクリロイロキシエチルフタル酸が含まれる。不飽和二塩基酸は、不飽和ジカルボン酸またはその誘導体であり、特に2つのカルボキシ基が、炭素数1以上6以下の直鎖状または分岐鎖状の不飽和アルキレン基で結合された化合物とすることができる。不飽和二塩基酸の例には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、およびシトラコン酸が含まれる。不飽和二塩基酸モノエステルは、不飽和二塩基酸に由来するモノエステル化合物である。不飽和二塩基酸モノエステルの例には、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、およびシトラコン酸モノエチルエステルが含まれる。
【0028】
第1フッ化ビニリデン重合体がカルボキシ基を有する不飽和モノマーに由来する構成単位を有する場合、第1フッ化ビニリデン重合体中のカルボキシ基を有する不飽和モノマーに由来する構成単位の含有量は、例えば0.01~5質量%であることが好ましく、0.05~2質量%であることがより好ましい。第1フッ化ビニリデン重合体中のカルボキシ基を有する不飽和モノマーに由来する構成単位の含有量は、前述の核磁気共鳴スペクトル(NMR)のほか、中和滴定などでも測定することができる。フッ化ビニリデン重合体中のカルボキシ基の中和滴定による定量法は、例えば、特許第5283688号などを参考にすることができる。
【0029】
また、第1フッ化ビニリデン重合体中のカルボキシ基を有する不飽和モノマーに由来する構成単位の含有量は、赤外吸収スペクトル(IR)によって測定することもできる。具体的には、3020cm-1に現れるフッ化ビニリデン構成単位中のC-H伸縮振動に由来する吸収帯の吸光度(AC-H)と、1700cm-1付近に現れるカルボキシ基を有する不飽和モノマー構成単位中のC=O伸縮振動に由来する吸収帯(例えば、MMMの場合、1740cm-1)の吸光度(AC=O)との比、AC=O/AC-Hによって測定することもできる。吸光度比AC=O/AC-Hは、例えば0.01~3であることが好ましく、0.05~1であることがより好ましい。
【0030】
また、第1フッ化ビニリデン重合体は、アクリル酸トリフルオロメチル、ビニルトリフルオロメチルエーテル、およびトリフルオロエチレンなどを含む、前述の含フッ素アルキルビニル化合物以外の含フッ素重合性モノマーに由来する構成単位をさらに有してもよい。
【0031】
また、第1フッ化ビニリデン重合体は、非水電解液を保持可能な網目空間を増やす観点などから、架橋性モノマーに由来する構成単位をさらに有してもよい。架橋性モノマーは、フッ化ビニリデンと共重合可能であり、かつ、互いに重合(架橋)可能なモノマーであればよい。例えば、架橋性モノマーは、2つの重合性官能基と、2つの重合性官能基を連結する2価の連結基とを有する化合物であることが好ましい。
【0032】
重合性官能基は、特に限定されないが、例えばCF=CF-で表される、全ての水素原子がフッ素原子で置換されたビニル基、および、全ての水素原子がフッ素原子で置換された(メタ)アクリロイル基などのRR’C=CR’’-CO-で表される官能基(ただし、R、R’およびR’’は、独立して、フッ素原子、または炭素数1以上5以下の直鎖状または分岐鎖状のパーフルオロアルキル基を示す)などでありうる。反応性の高さからは、全ての水素原子がフッ素原子で置換されたビニル基および全ての水素原子がフッ素原子で置換された(メタ)アクリロイル基が好ましく、全ての水素原子がフッ素原子で置換された(メタ)アクリロイル基がより好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイルとは「アクリロイルまたはメタクリロイル」を意味する。
【0033】
連結基は、重合性官能基同士を最短で結んだ時の原子数が、2以上10以下、好ましくは3以上8以下、とすることができ、例えば、直鎖状、分岐鎖状または環状のパーフルオロアルキル基とすることができる。
【0034】
架橋性モノマーの例には、CF=CFO-Rf-OCF=CFおよびCF=CFO-Rf-CF=CF(Rfは、エーテル性酸素原子を含んでもよい炭素数1以上8以下のフルオロアルキレン基を示し、Rfは、単結合、または、エーテル性酸素原子を含んでもよい炭素数1以上8以下のフルオロアルキレン基を示す。)で示される化合物が含まれる。
【0035】
<第1フッ化ビニリデン重合体の物性>
(重量平均分子量)
第1フッ化ビニリデン重合体の重量平均分子量は、特に限定されないが、30万~200万であることが好ましく、40万~150万であることがより好ましい。30万以上であると、ゲル形成が十分になされやすく、200万以下であると、ゲル状電解質を作製する際の、塗工性などが損なわれにくい。
【0036】
重量平均分子量は、公知のゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)で測定され、ポリスチレン換算で求められた値とすることができる。具体的には、第1フッ化ビニリデン重合体を、濃度が0.2質量%となるように溶解させたNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液について、GPC測定を行い、ポリスチレン換算にて第1フッ化ビニリデン重合体の重量平均分子量を測定することによって求めることができる。
【0037】
第1フッ化ビニリデン重合体の重量平均分子量(Mw)は、重合条件によって調整することができる。
【0038】
(溶解性)
第1フッ化ビニリデン重合体の溶媒に対する溶解性は、ゲル形成を十分に行いやすくする観点では、低いことが好ましい。具体的には、第1フッ化ビニリデン重合体は、後述するように、透視度が10度以上となるときの温度が高いこと、具体的には、60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。上記温度が60℃以上であると、第1フッ化ビニリデン重合体と非水電解質を含むゲル状電解質は、ゲル強度に一層優れ、任意の形状に成形しやすくすることができる。
【0039】
溶解性は、第1フッ化ビニリデン共重合体を非水電解液に添加し、順次、加熱温度を変化させながら、加熱撹拌していき、ポリマー溶液の透視度が初めて10度以上になった時の温度によって評価することができる。
具体的には、プロピレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1/1質量比)溶媒に、濃度が10質量%となる量のフッ化ビニリデン共重合体を加えて40℃で30分間加熱撹拌し、混合液を調製する。その後、速やかに混合液の透視度を測定する。透視度の測定は、JIS K0102(2016年)の透視度の試験に準じて行うことができる。ただし、測定器具としては、長さ300mm、径10mmのガラス管を用い、測定は、室温で行う。
透視度が10度より小さい場合、加熱温度を50℃に上げ、さらに30分加熱攪拌した後、再度、同様の条件で透視度を測定する。透視度が10度より小さい場合、さらに加熱温度を60℃に上げ、上記手順を繰り返す。
以上の操作を透視度が10度以上になるまで繰り返す。加熱温度の上限は、溶媒の沸点である。溶解性が高いほど、混合液の透視度が初めて10度以上になる温度は低くなる。
【0040】
(融点)
第1フッ化ビニリデン重合体のゲル形成のしやすさ(溶媒への溶解性の低さ)は、結晶性や、モノマー組成に依存した溶媒との化学的親和性などに依存する。結晶性を高くすることによって、ゲル形成を十分に行いやすくする観点では、第1フッ化ビニリデン重合体の融点(Tm)は高いほうが好ましく、具体的には135~180℃であることが好ましく、140~175℃であることがより好ましい。
【0041】
融点(Tm)は、示差走査熱測定(DSC)により測定することができる。すなわち、試料約10mgを採取して、測定サンプルとする。これを用いて、以下の条件でDSC測定を行い、昇温過程における吸熱ピーク温度からTmを求めることができる。
(測定条件)
装置:METTLER製 DSC30
サンプルホルダー:Aluminum standard 40μl
測定温度範囲:30~220℃
昇温速度:10℃/min
窒素流量:50ml/min
【0042】
第1フッ化ビニリデン重合体の溶解性および融点(Tm)は、モノマーの種類や共重合比、重合条件などによって調整することができる。第1フッ化ビニリデン重合体の溶解性を低くする(または融点(Tm)を高くする)ためには、例えばフッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量を多くしたり、重合温度を低くしたりすることが好ましい。
【0043】
<第2フッ化ビニリデン重合体>
第2フッ化ビニリデン重合体は、前述の倒置法で測定されるゲル化測定において、ゲル化しない重合体である。そのような第2フッ化ビニリデン重合体は、第1フッ化ビニリデン重合体と非水電解液の両方に対して良好な親和性を有する。そのため、第2フッ化ビニリデン重合体の存在により、第1フッ化ビニリデン重合体と非水電解液との親和性も間接的に高められるため、第1フッ化ビニリデン重合体のゲル骨格中に非水電解液を保持しやすくしうる。また、第2フッ化ビニリデン重合体の凝集分子間でも非水電解液を保持しやすくしうる。
【0044】
そのような第2フッ化ビニリデン重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、フッ化ビニリデン以外の他のモノマーに由来する構成単位とを有する共重合体であることが好ましい。
【0045】
フッ化ビニリデンに由来する構成単位について:
第2フッ化ビニリデン重合体中のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量は、結晶性を適度に低くすることによって、電解液保持性を高めやすくする観点では、第2フッ化ビニリデン重合体の全質量に対して50~90質量%であることが好ましく、60~80質量%であることがより好ましく、70~80質量%であることがさらに好ましい。第2フッ化ビニリデン重合体中のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量は、第1フッ化ビニリデン重合体中のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量よりも少ないことが好ましい。
【0046】
第2フッ化ビニリデン重合体中のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量の調整方法および測定方法は、第1フッ化ビニリデン重合体中のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量の調整方法および測定方法と同様である。
【0047】
フッ化ビニリデン以外の他のモノマーに由来する構成単位について:
フッ化ビニリデン以外の他のモノマーに由来する構成単位としては、第1フッ化ビニリデン重合体における他のモノマーと同様のものを用いることができる。他のモノマーに由来する構成単位は、1種のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0048】
中でも、第2フッ化ビニリデン重合体は、前述のフッ化モノマーに由来する構成単位を有することが好ましい。第2フッ化ビニリデン重合体中のフッ化モノマー以外の他のモノマーに由来する構成単位の含有量は、結晶性を適度に低くすることによって、電解液保持性を高めやすくする観点では、第2フッ化ビニリデン重合体の全質量に対して2~45質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましく、15~25質量%であることがさらに好ましい。第2フッ化ビニリデン重合体中のフッ化モノマー以外の他のモノマーに由来する構成単位の含有量は、第1フッ化ビニリデン重合体中のフッ化モノマー以外の他のモノマーに由来する構成単位の含有量よりも多いことが好ましい。
【0049】
また、第2フッ化ビニリデン重合体は、カルボキシ基を有する不飽和モノマーに由来する構成単位を有してもよい。第2フッ化ビニリデン重合体中のカルボキシ基を有する不飽和モノマーに由来する構成単位の含有量は、前述と同様に、例えば0.01~2質量%であることが好ましく、0.01~1質量%であることがより好ましく、0.01~0.1質量%であることがさらに好ましい。
【0050】
<第2フッ化ビニリデン重合体の物性>
(重量平均分子量)
第2フッ化ビニリデン重合体の重量平均分子量は、前述のゲル化測定において、よりゲル化しにくくする観点では、第1フッ化ビニリデン重合体の重量平均分子量よりも低いことが好ましい。具体的には、第2フッ化ビニリデン重合体の重量平均分子量は、特に限定されないが、30万~150万であることが好ましく、35万~100万であることがより好ましい。30万以上であると、電解液を保持しやすく、150万以下であると、ゲル状電解質を作製する際の、塗工性などが損なわれにくい。
【0051】
(溶解性)
第2フッ化ビニリデン重合体の溶媒に対する溶解性は、第1フッ化ビニリデン重合体の溶媒に対する溶解性よりも高いことが好ましい。具体的には、第2フッ化ビニリデン重合体は、プロピレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1/1質量比)溶媒に、濃度が10質量%となる量のフッ化ビニリデン共重合体を加えて40℃から順次加熱温度を上げながら加熱攪拌していき、混合液を調製した混合液の透視度が初めて10度以上になる温度が、第1フッ化ビニリデン重合体を添加して調製した混合液のそれよりも低いこと、具体的には50℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましい。上記温度が50℃以下であると、第2フッ化ビニリデン重合体を含むゲル状電解質の非水電解液の保持性をより高めやすく、上記温度が40℃以下であると、溶解工程が容易であることから、さらに好ましい。
【0052】
(融点)
第2フッ化ビニリデン重合体の溶媒に対する溶解のしやすさは、結晶性や、モノマー組成に依存した溶媒との化学的親和性などに依存する。結晶性を適度に低くすることによって、溶媒に対する溶解性を高めやすくする観点では、第2フッ化ビニリデン重合体の融点(Tm)は低いこと(特に第1フッ化ビニリデン重合体の融点(Tm)よりも低いこと)が好ましく、具体的には、75~130℃であることが好ましく、90~125℃であることがより好ましい。融点(Tm)は、前述と同様の方法で測定することができる。
【0053】
第2フッ化ビニリデン重合体の溶解性を高くする(または融点(Tm)を低くする)ためには、例えばフッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量を少なくしたり、重合温度を高くしたりすることが好ましい。
【0054】
<フッ化ビニリデン重合体の製造方法>
第1フッ化ビニリデン重合体および第2フッ化ビニリデン重合体などのフッ化ビニリデン重合体は、フッ化ビニリデンおよび必要に応じて他のモノマーを、乳化重合法または懸濁重合法などの公知の重合方法で重合(必要に応じて共重合)させて、合成することができる。
【0055】
(乳化重合法)
乳化重合法では、前述の各モノマーが難溶である液性媒体と、前述の各モノマーと、乳化剤とを混合して得られる混合液に、液性媒体に溶解性の重合開始剤をさらに加えて、前述のモノマーを重合させる。
【0056】
液性媒体は、前述の各モノマーが難溶であればよい。前述の各モノマーは、水に難溶性であるため、液性媒体は、水であることが好ましい。
【0057】
乳化剤は、各モノマーによるミセルを液性媒体中に形成し、かつ、乳化重合法により合成される重合体を液性媒体中に安定に分散させることができるものであればよく、公知の界面活性剤から適宜選択して用いることができる。乳化剤は、フッ化ビニリデン重合体の合成に従来から用いられている界面活性剤であればよく、たとえば、過フッ素化界面活性剤、部分フッ素化界面活性剤および非フッ素化界面活性剤などとすることができる。これらの界面活性剤のうち、パーフルオロアルキルスルホン酸およびその塩、パーフルオロアルキルカルボン酸およびその塩、ならびに、フルオロカーボン鎖またはフルオロポリエーテル鎖を有するフッ素系界面活性が好ましく、パーフルオロアルキルカルボン酸およびその塩がより好ましい。
【0058】
重合開始剤は、液性媒体に溶解性の重合開始剤であり、例えば水溶性過酸化物、水溶性アゾ系化合物またはレドックス開始剤系などでありうる。水溶性過酸化物の例には、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸カリウムが含まれる。水溶性アゾ系化合物の例には、2,2’-アゾビス-イソブチロニトリル(AIBN)および2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル(AMBN)が含まれる。レドックス開始剤系の例には、アスコルビン酸-過酸化水素が含まれる。これらのうち、重合開始剤は、水溶性過酸化物であることが好ましい。
【0059】
なお、乳化重合法は、ソープフリー乳化重合法またはミニエマルション重合法であってもよい。
【0060】
ソープフリー乳化重合法では、乳化剤として、分子中に重合性の二重結合をもち、かつ乳化剤としても作用する物質である、反応性乳化剤を用いることが好ましい。反応性乳化剤は、重合の初期には系中にミセルを形成するが、重合が進行するにつれ、モノマーとして重合反応に使用されて消費されるため、最終的に得られる反応系中には、遊離した状態ではほとんど存在しない。そのため、反応性乳化剤は、得られる重合体の粒子表面にブリードアウトしにくい。
【0061】
反応性乳化剤の例には、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム、メタクリロイルオキシポリオキシプロピレン硫酸エステルナトリウムおよびアルコキシポリエチレングリコールメタクリレートが含まれる。
【0062】
なお、反応性乳化剤なしでも各モノマーが液性媒体に分散する場合には、反応性乳化剤を用いずにソープフリー重合を行うことができる。
【0063】
ミニエマルション重合法では、超音波発振器などを用いて強いせん断力をかけてミセルをサブミクロンサイズまで微細化して、重合を行う。このとき、微細化されたミセルを安定化させるために、公知のハイドロホーブを混合液に添加する。ミニエマルション重合法では、典型的には、ミセルのそれぞれの内部でのみ重合反応が生じ、ミセルのそれぞれが重合体の微粒子となるため、得られる重合体の微粒子の粒径および粒径分布などを制御しやすい。
【0064】
(懸濁重合法)
懸濁重合法は、油溶性の重合開始剤を各モノマーに溶解させて得られるモノマー分散液を、懸濁剤、連鎖移動剤、安定剤および分散剤などを含む水中で機械的に攪拌しつつ加温することにより、モノマーを懸濁および分散させつつ、懸濁したモノマーによる液滴の中で重合反応を生じさせる。懸濁重合法では、典型的には、モノマーによる液滴のそれぞれの内部でのみ重合反応が生じ、モノマーによる液滴のそれぞれが重合体の微粒子となるため、得られる重合体の微粒子の粒径および粒径分布などを制御しやすい。
【0065】
重合開始剤の例には、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジノルマルヘプタフルオロプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、イソブチリルパーオキサイド、ジ(クロロフルオロアシル)パーオキサイド、ジ(ペルフルオロアシル)パーオキサイド、およびt-ブチルペルオキシピバレートが含まれる。
【0066】
懸濁剤の例には、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、部分ケン化ポリビニルアセテート、およびアクリル酸系重合体が含まれる。
【0067】
連鎖移動剤の例には、エチルアセテート、メチルアセテート、ジエチルカーボネート、アセトン、エタノール、n-プロパノール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、プロピオン酸エチル、および四塩化炭素が含まれる。
【0068】
特に、第2フッ化ビニリデン重合体を得るためには、重合時のモノマーの添加タイミングや重合温度、重合圧力などの重合条件を、第1フッ化ビニリデン重合体とは変えることが好ましい。具体的には、第2フッ化ビニリデン重合体を得るためには、重合時において、1)モノマーの添加を、重合が均質となるよう、可能な限り一様に、重合中、連続的または分割的に行うこと、2)重合温度を高くすることが好ましい。
【0069】
上記1)としては、モノマーの添加を一括で行うのではなく、モノマーの添加を連続的または複数回に分割して行うこと、特に重合開始時の重合圧力(初期圧力)を維持するように、モノマーの添加を連続的または複数回に分割して行うことが好ましい。具体的には、重合開始時点から残りの全モノマーの添加が終了する時点までの間の重合圧力の低下が1MPa以内となるようにすることが好ましい。
【0070】
後添加するモノマーの合計量は、最初に投入するモノマー量よりも多いことが好ましく、例えば最初に投入するモノマー量/後添加するモノマー合計量=5/95~45/55(質量比)としうる。
【0071】
また、反応性比を勘案し、後添加モノマーのコモノマー(HFPなど)の含有比率を調整することも、得られる重合体の組成分布や結晶性をより適切に制御する有効な手段となりうる。また、第2フッ化ビニリデン重合体の重合時における後添加モノマー中のコモノマーの含有比率を、第1フッ化ビニリデン重合体におけるそれよりも高くしてもよい。
【0072】
上記2)としては、重合温度を高くすること、例えば40~100℃とすることが好ましい。また、第2フッ化ビニリデン重合体の重合時における重合温度は、第1フッ化ビニリデン重合体の重合時における重合温度よりも10℃以上高いことが好ましい。
【0073】
このうち、上記1)を満たすことが好ましく、上記1)と2)の両方を満たすことがより好ましい。
【0074】
<共通事項>
第1フッ化ビニリデン重合体と第2フッ化ビニリデン重合体の混合比は、非水電解液の保持性を高めうるように設定されうる。具体的には、非水電解液の保持性を高めやすくする観点では、第2フッ化ビニリデン重合体の含有量は、フッ化ビニリデン重合体の全質量(好ましくは第1フッ化ビニリデン重合体と第2フッ化ビニリデン重合体の合計量)に対して、0.1~20質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましい。
【0075】
ゲル状電解質中のフッ化ビニリデン重合体の含有量は、フッ化ビニリデン重合体と非水電解液の合計量に対して0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上10質量%未満であることがさらに好ましい。フッ化ビニリデン重合体の含有量が0.1質量%以上であると、非水電解液の保持性を高めやすく、30質量%以下であると、ゲル状電解質中の絶縁成分であるポリマー成分の量が少ないため、電池特性が損なわれにくい。本発明のゲル状電解質は、第1フッ化ビニリデン重合体と第2フッ化ビニリデン重合体とを組み合わせることで、フッ化ビニリデン重合体のトータルの含有量を多くしなくても、非水電解液の高い保持性を有しうる。
【0076】
1-2.非水電解液
非水電解液は、リチウム原子またはナトリウム原子を含む電解質が、非水溶媒に溶解されてなる電解液である。これらの電解質は、1種のみ使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0077】
リチウム原子を含む電解質の例には、LiPF、LiAsF、LiClO、LiBF4、LiCl、LiBr、LiCHSO、LiCFSO、LiN(CFSO、およびLiC(CFSOなどを含む公知のリチウム塩が含まれる。これらのうち、LiPF、LiAsF、LiClO、LiBF、LiCHSO、LiCFSO、LiN(CFSO、およびLiC(CFSOがより好ましい。非水電解液中の上記リチウム塩の濃度は、0.1~5mol/dmであることが好ましく、0.5~2mol/dmであることがより好ましい。
【0078】
ナトリウム原子を含む電解質の例には、NaPFやNaTFSAが含まれる。
【0079】
非水溶媒の例には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、γ―ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、プロピオン酸メチル、およびプロピオン酸エチルが含まれる。これらの非水溶媒は、1種のみ使用してもよいし、複数種を併用してもよい。これらのうち、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、およびエチルメチルカーボネートは、電池性能を高める観点から好ましい。
【0080】
1-3.その他の成分
ゲル状電解質は、本発明の効果および電池特性を損なわない範囲で、フッ化ビニリデン重合体および非水電解液以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分の例には、無機フィラーが含まれる。
【0081】
無機フィラーは、ゲル状電解質に機械的強度および耐熱性を付与しうるだけでなく、カルボキシ基を有するフッ化ビニリデン重合体との相互作用により、非水電解液の保持性をより高めうる。
【0082】
無機フィラーの例には、二酸化ケイ素(SiO)、アルミナ(Al)、二酸化チタン(TiO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸バリウム(BaTiO)などの酸化物;水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化亜鉛(Zn(OH))水酸化アルミニウム(Al(OH))などの水酸化物;炭酸カルシウム(CaCO)などの炭酸塩;硫酸バリウムなどの硫酸塩;窒化物、粘土鉱物などが含まれる。無機フィラーは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。中でも、電池の安全性、塗液安定性の観点から、アルミナ、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛であることが好ましい。
【0083】
無機フィラーの平均粒子径は、5nm~2μmであることが好ましく、10nm~1μmであることがより好ましい。
【0084】
無機フィラーの含有量は、ゲル状電解質に対して1~50質量%であることが好ましく、1~20質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることがさらに好ましい。無機フィラーの含有量が1質量%以上であると、ゲル状電解質に強度を付与しやすいだけでなく、フッ化ビニリデン重合体がカルボキシ基を有する場合に、当該カルボキシ基を有するフッ化ビニリデン重合体と相互作用しやすいため、非水電解液の保持性が高まりやすい。無機フィラーの含有量が50質量%以下であると、絶縁成分である無機フィラーの量が多くなりすぎることによる電池特性の低下を抑制しやすい。
【0085】
本発明のゲル状電解質は、フッ化ビニリデン重合体として、ゲル形成に寄与する第1フッ化ビニリデン重合体と、ゲル形成には寄与しないものの、非水電解液と第1フッ化ビニリデン重合体との親和性を高める第2フッ化ビニリデン重合体とを含む。それにより、トータルのフッ化ビニリデン重合体の含有量を多くしなくても、非水電解液の保持性を高めることができる。
【0086】
2.ゲル状電解質の製造方法
ゲル状電解質は、第1フッ化ビニリデン重合体および第2フッ化ビニリデン重合体を含むフッ化ビニリデン重合体と、非水電解液とを混合した後、ゲル状電解質の形状に成形して製造することができる。
【0087】
混合は、非水電解液へのフッ化ビニリデン重合体の溶解性を高める観点から、加熱下で行うことが好ましい。加熱温度は、40~150℃であることが好ましい。
【0088】
混合されるフッ化ビニリデン重合体の量は、フッ化ビニリデン重合体と非水電解質との合計量に対して0.1~30質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがより好ましく、1.0~10質量%であることがさらに好ましい。
【0089】
混合される非水電解液の量は、フッ化ビニリデン重合体と非水電解質との合計量に対して70~99.9質量%であることが好ましく、80~99.5質量%であることがより好ましく、85~99質量%であることがさらに好ましい。
【0090】
得られる混合液の可塑性を高めることによって、ゲル状電解質の形状への成形を容易にする観点から、フッ化ビニリデン重合体と非水電解液に加えて、可塑剤をさらに添加してもよい。可塑剤は、比較的低い温度で高い蒸気圧を有する有機溶媒であることが好ましい。このような可塑剤の例には、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、1,3-ジオキソラン、シクロヘキサノン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートが含まれる。これらの可塑剤は、1種のみ使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0091】
なお、非水電解液に用いられる非水溶媒とフッ化ビニリデン重合体とを先に混合した後、電解質を混合液に添加してもよい。
【0092】
成形は、混合により得られた混合液を、ゲル状電解質の形状(たとえばフィルム状)を有する容器に導入し、好ましくは常温で冷却させることで、ゲル状の非水電解質(ゲル状電解質)が得られる。
【0093】
なお、フッ化ビニリデン重合体と非水電解液とに加えて可塑剤を混合したときは、混合後に、0~100℃、好ましくは15~60℃で可塑剤を揮発させて除去することで、フッ化ビニリデン重合体と非水電解液を含むゲル状電解質を得ることができる。
【0094】
なお、ゲル状電解質の製造方法は、上記方法に限定されるものではなく、フッ化ビニリデン重合体を予め公知の方法でゲル状電解質の形状に成形した後、成形されたフッ化ビニリデン重合体に非水電解液を添加して膨潤させて、ゲル状電解質を得てもよい。
【0095】
3.非水電解質二次電池
ゲル状電解質は、公知の正極および負極の間に配置して、非水電解質二次電池とすることができる。
【実施例
【0096】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0097】
1.フッ化ビニリデン重合体の合成
(1)第1フッ化ビニリデン重合体の合成
<第1フッ化ビニリデン重合体1-1の合成>
オートクレーブに、258質量部の水、0.15質量部のメトローズSM-100(信越化学工業(株)製)を仕込み、脱気した後、0.53質量部の50質量%ジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)-フロン225cb溶液を投入し、さらに、95質量部のフッ化ビニリデン(VDF)、5質量部のヘキサフルオロプロピレン(HFP)、および0.5質量部のマレイン酸モノメチルエステル(MMM)を投入し、29℃まで昇温した。その後、29℃を維持した。重合は、昇温開始から合計42時間行った。
重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分熱処理した後、脱水、続いて水洗して、さらに80℃で20時間乾燥して粒子状のVDF、HFPおよびMMMの共重合体である、第1フッ化ビニリデン重合体1-1を得た。
第1フッ化ビニリデン重合体1-1の組成を核磁気共鳴スペクトル(NMR)および中和滴定で測定した結果、VDF/HFP/MMM=96/4/0.5質量比であった。
【0098】
<第1フッ化ビニリデン重合体1-2の合成>
オートクレーブに、258質量部の水、0.15質量部のメトローズSM-100(信越化学工業(株)製)を仕込み、脱気した後、1.4質量部の50質量%IPP-フロン225cb溶液、0.7質量部のエチルアセテートを投入し、さらに、100質量部のVDFを投入し、26℃まで昇温した。その後、26℃を維持した。重合は、昇温開始から合計20時間行った。
重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分熱処理した後、脱水、続いて水洗して、さらに80℃で20時間乾燥して、VDFの単独重合体である、第1フッ化ビニリデン重合体1-2を得た。
【0099】
<第1フッ化ビニリデン重合体1-3の合成>
オートクレーブに、0.2質量部のリン酸水素二ナトリウム(NaHPO)および280質量部の水を仕込み、脱気した後、1質量部のパーフルオロオクタン酸(PFOA)アンモニウム塩および0.1質量部のエチルアセテートを投入し、その後さらに、13質量部のフッ化ビニリデン(VDF)、および22質量部のヘキサフルオロプロピレン(HFP)を投入した。これを撹拌下で80℃に昇温した後、0.1質量部の過硫酸アンモニウム(APS)を投入して重合を開始させた。このときの初期圧は3.7MPaだった。オートクレーブ中の圧力が2.5MPaまで低下した時点で、圧力が維持されるように65質量部のVDFを連続的に投入した。つまり、重合開始時点から全モノマーの添加が終了するまでの圧力低下を1.2MPaとした。その後、圧力が1.5MPaまで低下したところで重合反応を停止させ、乾燥させて、VDFとHFPの共重合体であるフッ化ビニリデン重合体1-3を得た。
第1フッ化ビニリデン重合体1-3の組成をNMRで測定した結果、VDF/HFP=79.2/20.8質量比であった。
【0100】
<第1フッ化ビニリデン重合体1-4の合成>
特許文献2の重合体調製例-Bの合成方法に従って、比較用のフッ化ビニリデン重合体(特許文献2のポリマーB)を得た。すなわち、内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1075g、メチルセルロース0.42g、IPP3.15g、フッ化ビニリデン(VDF)336gおよびヘキサフルオロプロピレン(HFP)84gを仕込み、29℃で18時間懸濁重合を行った。重合完了後、重合体スラリーを脱水、水洗後80℃で20時間乾燥させて、VDFとHFPの共重合体である第1フッ化ビニリデン重合体1-4を得た。
第1フッ化ビニリデン重合体1-4の組成をNMRで測定した結果、VDF/HFP=86/14質量比であった。
【0101】
(2)第2フッ化ビニリデン重合体の合成
<第2フッ化ビニリデン重合体2-1の合成>
オートクレーブに、0.2質量部のリン酸水素二ナトリウム(NaHPO)および280質量部の水を仕込み、脱気した後、1質量部のパーフルオロオクタン酸(PFOA)アンモニウム塩および0.1質量部のエチルアセテートを投入し、その後さらに、13質量部のフッ化ビニリデン(VDF)、および22質量部のヘキサフルオロプロピレン(HFP)を投入した。これを撹拌下で80℃に昇温した後、0.1質量部の過硫酸アンモニウム(APS)を投入して重合を開始させた。このときの初期圧は2.5MPaだった。オートクレーブ中の圧力が2.5MPaで維持されるように65質量部のVDFを連続的に投入した。つまり、重合開始時点から全モノマーの添加が終了するまでの圧力低下を0MPaとした。その後、圧力が1.5MPaまで低下したところで重合反応を停止させ、乾燥させて、VDFとHFPの共重合体である第2フッ化ビニリデン重合体2-1を得た。
第2フッ化ビニリデン重合体2-1の組成をNMRで測定した結果、VDF/HFP=79.6/20.4質量比であった。
【0102】
<第2フッ化ビニリデン重合体2-2の合成>
オートクレーブに、0.2質量部のリン酸水素二ナトリウム(NaHPO)および280質量部の水を仕込み、脱気した後、1質量部のパーフルオロオクタン酸(PFOA)アンモニウム塩および0.1質量部のエチルアセテートを投入し、その後さらに、22質量部のフッ化ビニリデン(VDF)、および8質量部のヘキサフルオロプロピレン(HFP)を投入した。これを撹拌下で80℃に昇温した後、0.1質量部の過硫酸アンモニウム(APS)を投入して重合を開始させた。このときの初期圧は2.5MPaだった。オートクレーブ中の圧力が2.5MPaで維持されるように54質量部のVDFと16質量部のHFPを連続的に投入した。つまり、重合開始時点から全モノマーの添加が終了するまでの圧力低下を0MPaとした。その後、圧力が1.5MPaまで低下したところで重合反応を停止させ、乾燥させて、VDFとHFPの共重合体(VDF/HFP=79.8/20.2質量比)であるフッ化ビニリデン重合体2-2を得た。
第2フッ化ビニリデン重合体2-2の組成をNMRで測定した結果、VDF/HFP=79.8/20.2質量比であった。
【0103】
<第2フッ化ビニリデン重合体2-3の合成>
オートクレーブに、280質量部の水を仕込み、脱気した後、1.0質量部のパーフルオロオクタン酸(PFOA)アンモニウム塩および0.1質量部のエチルアセテートを投入し、その後さらに、10質量部のフッ化ビニリデン(VDF)、および25質量部のヘキサフルオロプロピレン(HFP)を投入した。これを撹拌下で80℃に昇温した後、0.1質量部の過硫酸アンモニウム(APS)を投入して重合を開始させた。このときの初期圧は2.5MPaだった。オートクレーブ中の圧力が2.5MPaで維持されるように65質量部のVDFを連続的に投入した。反応開始後、連続添加するVDFのうち50質量%以上消費された時点でMMM0.1質量部を添加した。つまり、重合開始時点から全モノマーの添加が終了するまでの圧力低下を0MPaとした。その後、圧力が1.5MPaまで低下したところで重合反応を停止させ、乾燥させて、VDFとHFPとMMMの共重合体であるフッ化ビニリデン重合体2-3を得た。
なお、フッ化ビニリデン重合体2-3の組成をNMRで測定したところ、VDF/HFP=76.1/23.9質量比であった。MMMは、微量のため質量比として測定できなかったが、IRにより存在を確認したところ、吸光度比AC=O/AC-H=0.10であった。
【0104】
(3)他のフッ化ビニリデン重合体の合成
<フッ化ビニリデン重合体3-1の合成>
特許文献2の重合体調製例-Cの合成方法に従って、比較用のフッ化ビニリデン重合体(特許文献2のポリマーC)を得た。すなわち、内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1075g、メチルセルロース0.42g、IPP2.52g、フッ化ビニリデン(VDF)294gおよびヘキサフルオロプロピレン(HFP)126gを仕込み、28℃で27時間懸濁重合を行った。重合完了後、重合体スラリーを脱水、水洗後80℃で20時間乾燥させて、VDFとHFPの共重合体であるフッ化ビニリデン重合体3-1を得た。
得られたフッ化ビニリデン重合体3-1の組成をNMRで測定した結果、VDF/HFP=79/21質量比であった。
【0105】
<フッ化ビニリデン重合体3-2の合成>
特許文献2の重合体調製例-Dの合成方法に従って、比較用のフッ化ビニリデン重合体(特許文献2のポリマーD)を得た。すなわち、内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1075g、メチルセルロース0.42g、IPP3.78g、フッ化ビニリデン(VDF)252gおよびヘキサフルオロプロピレン(HFP)168gを仕込み、29℃で42時間懸濁重合を行った。重合完了後、重合体スラリーを脱水、水洗後80℃で20時間乾燥させて、VDFとHFPの共重合体であるフッ化ビニリデン重合体3-2を得た。
得られたフッ化ビニリデン重合体3-2の組成をNMRで測定した結果、VDF/HFP=72/28質量比であった。
【0106】
得られた第1フッ化ビニリデン重合体1-1~1-4、第2フッ化ビニリデン重合体2-1~2-3、および他のフッ化ビニリデン重合体3-1および3-2の、重量平均分子量、融点、ゲル化測定試験、ならびにポリマー加熱時の溶解性を、以下の方法で評価した。
【0107】
(重量平均分子量Mw)
得られたフッ化ビニリデン重合体を、濃度が0.2質量%となるように溶解させたNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液について、ゲルパーミエーションクロマトグラフ測定を行い、ポリスチレン換算にてフッ化ビニリデン重合体の重量平均分子量を測定した。測定条件は、以下の通りとした。
(測定条件)
装置:日本分光株式会社製GPC-900
カラム:TSK-GEL GMHXL
カラム温度:40℃
流速:1.0ml/min
【0108】
(融点)
得られたフッ化ビニリデン重合体の融点(Tm)は、示差走査熱測定(DSC)により測定した。すなわち、プレス成型機(株式会社神藤金属工業製 AYSR-5)を用いて、フッ化ビニリデン重合体を210℃で30秒間予備加熱した後、プレス圧0.5MPaで1分間保持しプレスシートを作成し、そのプレスシートから約10mgを切り出して、DSC用測定サンプルとした。これを用いて、以下の条件でDSC測定を行い、昇温過程における吸熱ピーク温度からTmを求めた。
(測定条件)
装置:METTLER製 DSC30
サンプルホルダー:Aluminum standard 40μl
測定温度範囲:30-220℃
昇温速度:10℃/min
窒素流量:50ml/min
【0109】
(ゲル化測定)
フッ化ビニリデン重合体のゲル化測定は、以下の手順で行った。
1)得られたフッ化ビニリデン重合体を、プロピレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1/1質量比)溶媒に、濃度が10質量%となるように加えて、当該溶媒の沸点未満の温度で加熱しながら、攪拌した。この加熱攪拌は、フッ化ビニリデン重合体が溶解するまで(不溶物が確認されなくなるまで)、加熱温度を上げながら行った。
フッ化ビニリデン重合体が溶解したかどうかは、調製した溶液を容器に採取し、透視度(JIS K 0102(2016年))を測定することにより行った。具体的には、溶液中に不溶物がなく、透視度が10度を超える場合は、溶解したと判断し;不溶物の容器底面への沈殿・堆積があり、透視度が10度以下の場合は、溶解できていないと判断した。
2)上記1)でフッ化ビニリデン重合体を溶解させた溶液を、室温(25℃)まで放冷し、25℃で一週間静置した。当該溶液が入った容器を上下反転させて、内容物の流動状態を確認した。内容物が流動しないものを「ゲル化した」と判断し、内容物が流動したものを「ゲル化しなかった」と判断した。
内容物が流動したかどうかは、容器を上下反転した後、5分以内に内容物が容器の上から下へ流れ始めることが目視確認できたかどうかによって判断した。なお、粗大なゲル状物が目視で確認でき、容器を上下反転した際、ゲル状物が落下もしくは溶媒の流れに乗って上下移動した場合は、「ゲル化した」と判断した。
【0110】
(溶解性試験)
溶解性は、フッ化ビニリデン共重合体を非水電解液に添加し、順次、加熱温度を変化させながら加熱撹拌していき、ポリマー溶液の透視度が初めて10度以上になった時の温度によって評価した。具体的には、プロピレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1/1質量比)溶媒に、濃度が10質量%となる量のフッ化ビニリデン共重合体を加えて40℃で30分間加熱撹拌し、混合液を調製した。その後、速やかに混合液の透視度を測定した。透視度の測定は、JIS K0102(2016年)の透視度の試験に準じて行った。ただし、測定器具としては、長さ300mm、径10mmのガラス管を用い、室温で行った。
透視度が10度より小さい場合、加熱温度を50℃に上げ、さらに30分加熱攪拌した後、再度、同様の条件で透視度を測定した。前記操作の後に透視度を測定し、透視度が10度より小さい場合、さらに加熱温度を60℃に上げ、上記手順を繰り返した。以上の操作を、透視度が10度以上になるまで加熱温度を10℃毎に上げながら繰り返した。加熱温度の上限は、溶媒の沸点である。フッ化ビニリデン共重合体の溶解性が低いとき、混合液の透視度が初めて10度以上になる温度は高くなる。具体的には、溶解性は、初めて透視度が10度以上になる温度を基準にして、以下のように評価した。
5:透視度が初めて10度以上になる温度が40℃
4:透視度が初めて10度以上になる温度が50℃
3:透視度が初めて10度以上になる温度が60℃
2:透視度が初めて10度以上になる温度が70℃
1:透視度が初めて10度以上になる温度が80℃以上
【0111】
得られた第1フッ化ビニリデン重合体1-1~1-4、第2フッ化ビニリデン重合体2-1~2-3、および他のフッ化ビニリデン重合体3-1および3-2の評価結果を、表1に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
特許文献2のポリマーBに相当するフッ化ビニリデン重合体1-4は、ゲル化することから、少なくとも第2フッ化ビニリデン重合体には該当しないことがわかる。また、特許文献2のポリマーCおよびDに相当するフッ化ビニリデン重合体3-1および3-2は、プロピレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1/1質量比)溶媒に溶解しないことから、ゲル化試験を実施できず、第1フッ化ビニリデン重合体と第2フッ化ビニリデン重合体のいずれにも該当しないことがわかる。
【0114】
2.ゲル状電解質の調製および評価
[実施例1]
(非水電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)を、3:2の質量比で混合した。得られた混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、1mol/Lの濃度となるように溶解させて、非水電解液を調製した。
【0115】
(ゲル状電解質の調製)
得られた非水電解液19.8gに、第1フッ化ビニリデン重合体として第1フッ化ビニリデン重合体1-1と、第2フッ化ビニリデン重合体として第2フッ化ビニリデン重合体2-3との混合物(1-1:2-3=95:5(質量比))を1.3g、可塑剤としてジメチルカーボネートを35.0g、無機フィラーとしてアルミナを1.3g添加し、加熱攪拌して、重合体溶液を調製した。
得られた重合体溶液を、ガラス板上に塗布した後、加熱によりジメチルカーボネートを乾燥除去させて、ゲル状電解質を得た。
【0116】
[実施例2~8、比較例1~5]
第1および第2フッ化ビニリデン重合体の種類や第1および第2フッ化ビニリデン重合体の混合比を、表2に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして、ゲル状電解質を得た。
【0117】
[比較例6および7]
第2フッ化ビニリデン重合体を、表1に示される他のフッ化ビニリデン重合体に変更した以外は実施例1と同様にして、ゲル状電解質を得た。
【0118】
実施例1~8および比較例1~7で得られたゲル状電解質の液保持率、および液保持率の比較例1に対する差分Δを、以下の方法で測定した。
【0119】
(液保持率)
得られたゲル状電解質を、所定の大きさに切り出して、試験片とした。そして、加圧前の質量を、25℃(露点-50℃以下)の環境下で測定し、「加圧前の試験片の質量」とした。次いで、試験片を30kPaで20分間加圧した後、試験片の表面に滲み出した液体成分(非水電解液)を拭き取り、前述と同様にして試験片の質量を測定し、「加圧後の試験片の質量」とした。得られた値を、下記式に当てはめて、液保持率(%)を算出した。
液保持率(%)=(加圧後の試験片の質量/加圧前の試験片の質量)×100
【0120】
(差分Δ)
第1フッ化ビニリデン重合体と第2フッ化ビニリデン重合体の混合による液保持率向上の効果を示す観点から、混合系のゲル状電解質(実施例1~8)の液保持率から、主成分となる第1フッ化ビニリデン重合体のゲル状電解質(比較例1~3)の液保持率を差し引いて、差分(Δ)を算出した。
差分Δ=(混合系のゲル状電解質の液保持率)-(主成分となる第1フッ化ビニリデン重合体のみを用いたゲル状電解質の液保持率)
【0121】
実施例1~8および比較例1~7の評価結果を表2に示す。
【表2】
【0122】
表2に示されるように、第1フッ化ビニリデン重合体と第2フッ化ビニリデン重合体とを含む実施例1~8のゲル状電解質は、第1フッ化ビニリデン重合体のみを含む比較例1~3のゲル状電解質、2種類の第1フッ化ビニリデン重合体を含む比較例4および5のゲル状電解質、および第1フッ化ビニリデン重合体と他のフッ化ビニリデン重合体とを含む比較例6および7のゲル状電解質よりも高い液保持率を有することがわかる。
【0123】
特に、第1フッ化ビニリデン重合体中のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有量が多いほうが、液保持率が高いことがわかる(実施例4と6の対比)。また、第2フッ化ビニリデン重合体の溶解性は高すぎないほうが、液保持率が高いことがわかる(実施例1、4および8の対比)。
【0124】
また、第2フッ化ビニリデン重合体の混合比が10質量%以下であると、液保持率がさらに高いことがわかる(実施例2~4と実施例5との対比)。
【0125】
また、無機フィラーをさらに含むことで、液保持率がさらに高まることがわかる(実施例4と7の対比)。これは、無機フィラーと第1フッ化ビニリデン重合体に含まれるMMM由来のカルボキシ基とが相互作用し、それらの間に非電解液が保持されやすくなるからであると考えられる。
【0126】
本出願は、2018年10月31日出願の特願2018-205567に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明によれば、ポリマー濃度が高くなくても、非水電解液の高い保持性を有するゲル状電解質およびそれを含む非水電解質二次電池を提供することができる。