(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】イベントデータ処理装置及び車両の査定システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 30/06 20120101AFI20220318BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20220318BHJP
【FI】
G06Q30/06
G06Q50/10
(21)【出願番号】P 2021539105
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2021008938
(87)【国際公開番号】W WO2021192954
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2020054397
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】里 廉太郎
(72)【発明者】
【氏名】田口 哲也
【審査官】永野 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-137733(JP,A)
【文献】国際公開第2015/002026(WO,A1)
【文献】特開2015-101291(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03570240(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0337573(US,A1)
【文献】特開2009-031047(JP,A)
【文献】特開2006-218885(JP,A)
【文献】特開2010-055261(JP,A)
【文献】特開2011-027744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(61)の査定に用いる事故履歴レポート(30)を生成する事故履歴レポート生成部(21)を備え、
前記事故履歴レポート生成部(21)は、前記車両(61)に備えられたイベントデータ記憶部(69)から出力されたイベントデータから前記車両(61)の事故履歴に関する一部のデータを抽出するとともに所定の演算処理を行って前記事故履歴レポート(30)を生成し、
前記事故履歴レポート(30)は、前記車両(61)の
衝突事象の種類を示すデータを含む、
ことを特徴とするイベントデータ処理装置。
【請求項2】
前記事故履歴レポート(30)は、
さらに前記車両(61)の製造メーカ、車種名、車台識別番号、衝突事象の発生回
数、及び衝突発生時に車両に与えられた衝撃を示すデータを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のイベントデータ処理装置。
【請求項3】
前記事故履歴レポート(30)は、車両生産後、衝突事象発生までの間にイグニッションスイッチをオンにした回数又はエンジンを始動させた回数のいずれかのデータを含む、
ことを特徴とする請求項2に記載のイベントデータ処理装置。
【請求項4】
前記事故履歴レポート(30)は、前記車両(61)の登録時期及びシートベルト装置の製造時期のデータを含む、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のイベントデータ処理装置。
【請求項5】
前記事故履歴レポート(30)は、衝突発生時のエアバッグシステムの作動状況を示すデータを含む、
ことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載のイベントデータ処理装置。
【請求項6】
前記イベントデータ処理装置(10)は、
前記イベントデータに基づいて推定される事故発生の可能性の情報を生成する事故発生情報生成部(23)をさらに備え、
前記事故発生情報生成部(23)は、ユーザからの要求に応じて、生成した前記情報を出力する、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のイベントデータ処理装置。
【請求項7】
車両(61)に備えられたイベントデータ記憶部(69)に記憶されたイベントデータを読み出す査定者端末(63)と、
前記査定者端末から送信される前記イベントデータを取得するイベントデータ処理装置(10)と、を備え、
前記イベントデータ処理装置(10)は、取得した前記イベントデータから前記車両(61)の事故履歴に関する一部のデータを抽出するとともに所定の演算処理を行って、前記車両(61)の
衝突事象の種類を示すデータを含む事故履歴レポート(30)を生成し、当該事故履歴レポート(30)のデータを前記査定者端末(63)に送信し、
前記査定者端末(63)は、受信した前記事故履歴レポート(63)を出力可能に構成される、
ことを特徴とする車両の査定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の事故履歴に関するデータを生成するイベントデータ処理装置及び車両の査定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両には、EDR(Event Data Recorder)とも呼ばれる、発生した衝突事象のデータ(以下、「イベントデータ」ともいう)を記録する機能の装備が義務付けられつつある。かかるイベントデータは、衝突発生後において、CDR(Crash Data Retrieval)とも呼ばれる専用の外部ツールを用いて読み出され、衝突発生時の車両の状況を把握できるために活用されている。例えば、特許文献1には、車載器により収集される多種多様の走行情報を用いて衝突発生時の車両の状況を一目で把握できるように表示を行う衝突可視化装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、中古車両の売買において、対象車両の事故履歴は重要な情報となる。従来、中古車両の査定額を評価するにあたり、査定業者が、対象車両の外装や内装を目視により確認することが行われている。しかしながら、目視により車両のすべての事故履歴を把握することは容易ではない。また、上述したイベントデータは多種多様の情報を含み、出力されるレポートを読み解くことも容易ではない。特許文献1に記載の衝突可視化装置は、衝突発生時の車両の状況を把握しやすいように表示するものではあるが、衝突発生時の車両の状況の情報だけでは中古車両の査定に必要な情報が含まれない場合もあり、中古車両の査定に適した情報とはなっていない。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、車両に備えられたイベントデータ記録部から出力されたイベントデータに基づいて、中古車両の査定に用いる事故履歴レポートデータを生成可能なイベントデータ処理装置及び車両の査定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある観点によれば、車両の査定に用いる事故履歴レポートを生成する事故履歴レポート生成部を備え、事故履歴レポート生成部は、車両に備えられたイベントデータ記憶部から出力されたイベントデータから、車両の事故履歴に関する一部のデータを抽出するとともに所定の演算処理を行って事故履歴レポートを生成し、事故履歴レポートは、車両の衝突事象の種類を示すデータを含む、イベントデータ処理装置が提供される。
【0007】
また、本発明の別の観点によれば、車両に備えられたイベントデータ記憶部に記憶されたイベントデータを読み出す査定者端末と、査定者端末から送信されるイベントデータを取得するイベントデータ処理装置と、を備え、イベントデータ処理装置は、取得したイベントデータから車両の事故履歴に関する一部のデータを抽出するとともに所定の演算処理を行って、車両の衝突事象の種類を示すデータを含む事故履歴レポートを生成し、当該事故履歴レポートを査定者端末に送信し、査定者端末は、受信した事故履歴レポートを出力可能に構成される車両の査定システムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように本発明によれば、車両に備えられたイベントデータ記録部から出力されたイベントデータに基づいて、中古車両の査定に用いる事故履歴レポートデータを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態に係る車両の査定システムの全体構成例を示す模式図である。
【
図2】同実施形態に係る車両の査定システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図3】同実施形態に係る査定者端末による処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】事故履歴レポートの表示例を示す説明図である。
【
図5】別の事故履歴レポートの表示例を示す説明図である。
【
図6】同実施形態に係る管理サーバによる処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
<1.車両の査定システムの全体構成例>
まず、本発明の一実施形態に係る車両の査定システムの全体構成の一例を説明する。
図1は、本実施形態に係る車両の査定システム100の全体構成の一例を示す模式図である。
【0012】
査定システム100は、管理サーバ10及び査定者端末63a,63b…63n(以下、特に区別を要しない場合には査定者端末63と総称する)を備える。査定者端末63a,63b…63nは、主として中古車両の販売業者や査定業者(以下、まとめて「査定業者60」ともいう)において、図示しないデータ読出ツールを介して査定対象の車両61a,61b…61n(以下、特に区別を要しない場合には車両61と総称する)に接続されて用いられる。管理サーバ10及び査定者端末63は、例えば移動体通信やWi-fi等の通信ネットワーク5を介して互いに通信可能に構成されている。通信ネットワーク5は、無線又は有線のいずれの通信ネットワークであってもよい。また、通信ネットワーク5は、査定システム100の専用回線であってもよい。
【0013】
査定者端末63は、ラップトップ型のコンピュータや携帯型端末装置等の汎用のコンピュータ装置から構成されてもよく、査定システム100の専用端末装置であってもよい。査定業者60において用いられる査定者端末63は、データ読出ツールを介して査定対象の車両61に接続されて、車両61に備えられたイベントデータ記憶部に記憶されたイベントデータ(以下、「EDR(Event Data Recorder)データ」ともいう)を読み出す。本実施形態において、査定者端末63は、読み出したEDRデータを管理サーバ10へ送信する。
【0014】
査定者端末63は、読み出したEDRデータに基づいて、イベントデータレポート(以下、「CDRレポート」ともいう)を生成するように構成されていてもよい。CDRレポートは、それぞれの車両61のEDRデータに含まれる多種多様のデータを所定の形式にまとめたレポートであり、車両61の査定に限らない事故発生時の車両61の状態の分析などに用いられる。査定者端末63は、生成したCDRレポートを管理サーバ10へ送信する。
【0015】
管理サーバ10は、本発明に係るイベントデータ処理装置としての機能を有する。管理サーバ10は、例えばクラウドサーバであってもよい。管理サーバ10は、査定者端末63から送信されるEDRデータを取得し、データベースに記憶する。また、管理サーバ10は、記憶したEDRデータから事故履歴に関する一部のデータを抽出するとともに所定の演算処理を行って事故履歴レポートを生成する。管理サーバ10は、生成した事故履歴レポートのデータを査定者端末63へ送信する。
【0016】
管理サーバ10は、通信ネットワーク5を介して、CDRレポートの提供を希望する専門家や団体等51a,51b…51n(以下、これらの専門家や団体等を「専門家51」と総称する)において用いられる端末53a,53b…53n(以下、特に区別を要しない場合には専門家側端末53と総称する)と互いに通信可能に構成されている。なお、EDRデータに基づいてCDRレポートを生成する機能を管理サーバ10が有していてもよい。
【0017】
専門家側端末53と管理サーバ10とを接続する通信ネットワークは、査定者端末63と管理サーバ10とを接続する通信ネットワーク5と共通のネットワークであってもよく、異なるネットワークであってもよい。管理サーバ10は、専門家側端末53からのリクエストに応じて、所望の車両61のCDRレポートのデータを専門家側端末53へ送信する。専門家側端末53と査定者端末63とは同一の端末装置であってもよい。
【0018】
なお、本実施形態に係る査定システム100においては、通信ネットワーク5を介して、専門家側端末53あるいは査定者端末63と管理サーバ10との通信が行われる。ただし、専門家側端末53あるいは査定者端末63と管理サーバ10との間で行われるデータの送受信の一部が、通信ネットワーク5を介して行われなくてもよい。例えば、専門家51あるいは査定業者60から管理サーバ10の管理者に対して、書面あるいは電子メール等の手段により、CDRレポートあるいは事故履歴リポートを提供するようリクエストを伝達してもよい。また、管理サーバ10の管理者から専門家51あるいは査定業者60に対して、生成したCDRリポートあるいは事故履歴リポートのデータを記憶した記憶媒体を提供したり、CDRリポートあるいは事故履歴リポートのデータを電子メール等により提供したりしてもよい。
【0019】
<2.車両の査定に関わる構成例>
図2は、車両の査定システム100の管理サーバ10及び査定者端末63の機能構成を示すブロック図である。
図2では、管理サーバ10に接続された複数の査定者端末63及び専門家側端末53のうち、それぞれ一つの査定者端末63及び専門家側端末53のみを示している。
【0020】
(査定者端末)
査定者端末63は、通信部71、制御部75、記憶部77及び表示部79を備える。また、査定者端末63は、作業者の入力操作を受け付ける図示しない入力部を備える。なお、
図2には、査定者端末63が一つの機器として示されているが、査定者端末63は、複数の機器が互いに通信可能に構成されていてもよい。
【0021】
通信部71は、通信ネットワーク5を介して管理サーバ10と通信するためのインタフェースである。通信部71は、通信ネットワーク5の通信方式に適合する無線通信用あるいは有線通信用のインタフェースにより構成される。通信ネットワーク5は、例えば、移動体通信であってもよく、Wi-fi等のインターネットであってもよく、あるいは、専用回線であってもよい。
【0022】
査定者端末63は、データ読出ツール73を介して、査定対象の車両61の制御システム67に接続される。データ読出ツール73は、EDRデータを読み出すための専用の外部ツールであり、CDRツールとも呼ばれる。車両61の制御システム67は、例えば、CAN(Controller Area Network)及びLIN(Local Inter Net)を介して通信可能に接続された複数のECU(Electronic Control Unit)等の機器を備える。データ読出ツール73は、例えばCANプロトコルに適合するインタフェースを含んで構成される。
【0023】
ここで、車両61の制御システム67は、イベントデータ記憶部69を含む。本実施形態に係る査定システム100を適用可能な車両61の制御システム67には、車両61において生じた種々の事象(イベント)に関連するデータ(EDRデータ)を記憶するイベントデータ記憶機能が設けられている。イベントデータ記憶部69は、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等の記憶素子、あるいは、HDD(Hard Disk Drive)やCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、SSD(Solid State Drive)、USB(Universal Serial Bus)フラッシュ、ストレージ装置等の記憶媒体の少なくとも一つを含み、種々のEDRデータを記憶する。
【0024】
本実施形態において、EDRデータは、車両61の衝突発生時における車両61の操作状態あるいは走行状態、及び、車両61に与えられた衝撃を示すデータを含む。車両61の衝突発生時における車両61の操作状態あるいは走行状態、及び、車両61に与えられた衝撃を示すデータとしては、例えば以下のデータのうちの一つ又は複数が含まれる。
-車両61の生産後からEDRデータ読み出し時までの衝突事象の発生回数
-衝突事象の発生年月日及び時刻
-衝突事象の種類(衝突位置)
-衝突発生時の車長方向の最大速度変化量
-衝突発生時の車幅方向の最大速度変化量
-衝突発生時の最大速度変化が生じるまでの時間
-衝突発生時の車速、舵角、アクセル操作量、ブレーキ操作量
-衝突発生時のエアバッグシステムの作動状況
-車両61の生産後から衝突発生時までにイグニッションスイッチをオンにした回数又はエンジン始動回数
-車両61の生産後からEDRデータ読み出し時までにイグニッションスイッチをオンにした回数又はエンジン始動回数
【0025】
車両61の衝突に関連する上記のデータは、例えば、車両61に設けられた加速度センサあるいは角速度センサのセンサ値の変化量が所定の閾値を超えた衝突発生ごとに、車両61に搭載された種々のシステムを制御する電子制御装置により検出されたデータとして記憶される。
【0026】
衝突発生時の車長方向の最大速度変化量及び衝突発生時の車幅方向の最大速度変化量は、例えば、加速度センサあるいは角速度センサのセンサ値の変化量が所定の閾値を超えた衝突発生時刻から250ミリ秒、あるいは、当該衝突発生時刻から加速度又は角速度がゼロになった時刻プラス30ミリ秒のいずれか短い時刻までに記録された速度変化量のデータのうちの最大値とすることができる。同様に、衝突発生時の最大速度変化が生じるまでの時間は、衝突発生時刻から250ミリ秒、あるいは、当該衝突発生時刻から加速度又は角速度がゼロになった時刻プラス30ミリ秒のいずれか短い時刻までの間に特定された最大速度変化量が生じるまでの経過時間とすることができる。
【0027】
エアバッグシステムの作動状況は、前方エアバッグ装置の異常を示す警告ランプが点灯していたか否かの情報を含む。つまり、エアバッグシステムが正常に作動する状態であったか否かを判定する情報として用いられる。また、エアバッグシステムの作動状況は、衝突発生時刻から運転席及び助手席のエアバッグがそれぞれ展開するまでの経過時間の情報を含む。これらの情報は、いずれも、エアバッグシステムの故障の有無あるいは応答性を判定する情報として用いられる。
【0028】
この他のEDRデータとしては、例えば以下のデータのうちの一つ又は複数が含まれる。
-制御システムの通信状態の不具合
-制御システムの故障
-各制御装置又はセンサ機器の故障
-制御システムの自己診断結果
-製造時不具合データ
【0029】
記憶部77は、車両61の査定作業に用いるコンピュータプログラムあるいはプログラムの実行に用いられるパラメータ等の情報を記憶する。記憶部77は、RAM又はROM等の記憶素子、あるいは、HDDやCD、DVD、SSD、USBフラッシュ、ストレージ装置等の記憶媒体の少なくとも一つを含む。
【0030】
表示部79は、査定作業に用いるコンピュータプログラムの実行時に、操作ガイドや操作画面、進行状況、処理結果等を表示する。表示部79への表示は、制御部75により制御される。表示部79は、液晶パネル等の表示機器により構成される。
【0031】
制御部75は、例えばCPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサや電気回路を備えて構成される。制御部75の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0032】
制御部75は、車両61のイベントデータ記憶部69に記憶されたEDRデータを読み出す処理を実行する。例えば、制御部75は、査定者端末63が車両61の制御システム67に接続され、査定システムのコンピュータプログラムが起動した状態で、EDRデータの読み出し処理の実行が開始されると、イベントデータ記憶部69に記憶された種々のEDRデータを読み出す。
【0033】
制御部75は、EDRデータを読み出す際に、併せて、制御システム67内に記憶されている車両61の製造国、製造メーカ、車種名、制御システムの種類、制御システムのバージョン、車載装置の品番、車載装置の製造年月日等のデータ(以下、これらのデータを「車両システム識別データ」ともいう)のうちの少なくとも一部のデータの読み出しを行う。車両システム識別データは、車両61に搭載されているセンサ等の機器の種類又は仕様のデータを含んでもよい。ただし、これらの車両システム識別データの一部又は全部は、査定業者60により査定者端末63に入力されてもよい。例えば、車両61の登録年及びシートベルト装置の製造年月日は、査定業者60により入力されるデータであってもよい。
【0034】
制御部75は、読み出したEDRデータ及び車両システム識別データを、通信部71を介して管理サーバ10へ送信する。このとき、制御部75は、読み出したEDRデータのうち、車両61に発生した衝突の分析に必要なデータとしてあらかじめ選択されたデータ(以下、「衝突関連イベントデータ」ともいう)のみを、車両システム識別データと併せて管理サーバ10へ送信してもよい。
【0035】
その際、制御部75は、衝突関連イベントデータ及び車両システム識別データを、所定の形式のCDRレポートに変換したうえで、管理サーバ10へ送信してもよい。CDRレポートは、公知のCDRレポートの形式に準じて生成されるものであってもよい。制御部75は、管理サーバ10へ送信するデータ、あるいは、生成したCDRレポートを記憶部77に記憶させてもよい。ただし、イベントデータ記憶部69から読み出されたEDRデータは多種多様なデータを含むことから、制御部75は、送信するデータを記憶部77に記憶させることなく管理サーバ10へ転送することが好ましい。
【0036】
(管理サーバ)
管理サーバ10は、通信部11、制御部13、記憶部14及びデータベース15を備える。通信部11は、通信ネットワーク5を介して査定者端末63及び専門家側端末53と通信するためのインタフェースである。通信部11は、通信ネットワーク5の通信方式に適合する無線通信用あるいは有線通信用のインタフェースにより構成される。専門家側端末53と管理サーバ10との間の通信ネットワークが、査定者端末63と管理サーバ10との間の通信ネットワーク5と異なる場合には、通信部11は、複数の通信インタフェースを含んでいてもよい。
【0037】
記憶部14及びデータベース15は、RAM又はROM等の記憶素子、あるいは、HDDやCD、DVD、SSD、USBフラッシュ、ストレージ装置等の記憶媒体の少なくとも一つを含んで構成される。記憶部14及びデータベース15は、一つの記憶部として構成されてもよく、別の記憶部として構成されてもよい。記憶部14は、制御部13により実行されるイベントデータ処理プログラム及び当該プログラムの実行に用いるパラメータ等を記憶する。データベース15は、査定者端末63から送信されるEDRデータ又は衝突関連イベントデータと車両システム識別データ、あるいは、CDRレポートのデータ(以下、「受信イベントデータ」ともいう)を記憶する。
【0038】
制御部13は、例えばCPU又はMPU等のプロセッサや電気回路を備えて構成される。制御部13の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。制御部13は、事故履歴レポート生成部21、事故発生情報生成部23及びイベントデータレポート出力部25を備える。これらの事故履歴レポート生成部21、事故発生情報生成部23及びイベントデータレポート出力部25は、CPU等のプロセッサによるプログラムの実行により実現される機能であってもよい。
【0039】
事故履歴レポート生成部21は、データベース15に記憶された受信イベントデータから、査定対象の車両61の事故履歴に関する一部のデータを抽出するとともに所定の演算処理が行って事故履歴レポートを生成する。事故履歴レポートは、受信イベントデータのうち、車両61の査定に必要な事故履歴に関する一部のデータが抽出されるとともに所定の演算処理が行われて所定の形式にされたものである。事故履歴レポートのデータは、例えば、CSV(Comma Separated Values)形式のデータであってもよい。事故履歴レポート生成部21は、生成した事故履歴レポートのデータを査定者端末63へ送信する。
【0040】
査定者端末63の利用者の識別コード等によって、事故履歴レポートを閲覧又は取得できるユーザに制限がかけられている。事故履歴レポート生成部21は、特定の車両61に接続されている査定者端末63から受信イベントデータが送信されてきた場合に、生成した事故履歴レポートのデータを査定者端末63へ返信してもよい。あるいは、事故履歴レポート生成部21は、当該車両61の事故履歴レポートの閲覧権限又は取得権限を持つユーザ(査定者端末63)から特定の車両61についての事故履歴レポートデータの提供のリクエストがあった場合に、事故履歴レポートのデータを査定者端末63へ送信してもよい。
【0041】
事故履歴レポートは、少なくとも車両61の製造メーカ、車種名、車体識別番号、車両61の生産後からEDRデータ読み出し時までの衝突事象の発生回数、衝突事象の種類、及び衝突発生時に車両61に与えられた衝撃を示すデータを含む。車両61の製造メーカ、車種名及び車体識別番号のデータは、車両61を特定するための情報である。衝突事象の発生回数は、車両61の生産後に車両61が受けた衝突の回数のデータである。衝突事象の種類は、それぞれの衝突が正面衝突、正面オフセット衝突、側面衝突、後方追突、後方オフセット衝突のいずれであったかを示すデータであって、車両61が受けた衝突位置を特定するための情報である。衝突発生時に車両61に与えられた衝撃を示すデータは、それぞれの衝突発生時における車両61の車速の変化量、荷重入力方向、エアバッグシステムの作動状況のデータを含み、車両61の車台構造への損傷を推定し得る情報である。
【0042】
これ以外に、事故履歴レポートは、車両61の生産後から衝突事象発生まで、あるいは、EDRデータ読み出し時までの間にイグニッションスイッチをオンにした回数又はエンジンを始動させた回数のいずれかのデータを含んでもよい。これらのデータは、車両61の使用回数を判定し得る情報である。
【0043】
また、事故履歴レポートは、車両61の登録時期、シートベルト装置の製造時期及びエアバッグコントロールモジュール(ACM)品番等のデータを含んでもよい。これらのデータは、いずれかの車載装置の交換の可能性や、それによる動作不良の可能性を判定し得る情報である。
【0044】
事故履歴レポート生成部21は、受信イベントデータから事故履歴レポートの生成に用いるデータを抽出する。また、事故履歴レポート生成部21は、受信イベントデータに基づいて、車速の変化量や荷重入力方向等、事故履歴レポートの生成に用いるデータを算出する処理を実行する。
【0045】
事故発生情報生成部23は、受信イベントデータに基づいて推定される事故発生の可能性を通知する情報を生成する。例えば、事故発生情報生成部23は、シートベルト装置の製造年月日と車両61の登録時期とが一致しない場合に、シートベルト装置の交換を伴う事故が発生した可能性があることを通知する情報を生成する。また、例えば、エアバッグシステムあるいはエアバッグシステムのソフトウェアのバージョンが、想定されるバージョンよりも古い場合に、エアバッグ制御装置が交換されており、エアバッグが展開した事故が発生した可能性があることを通知する情報を生成する。その他、事故発生情報生成部23は、受信イベントデータに基づいて推定される車両61の事故発生の可能性を通知する情報を生成してもよい。
【0046】
事故発生情報生成部23は、生成した事故発生の可能性の情報を査定者端末63へ送信する。事故発生情報生成部23は、事故発生の可能性の情報を、事故履歴レポートのデータとともに常時査定者端末63へ送信してもよく、査定者端末63から事故発生の可能性の情報の提供のリクエストがあった場合に査定者端末63へ送信してもよい。
【0047】
イベントデータレポート出力部25は、事故履歴レポートに含まれないデータも含む所定の形式のCDRレポートを専門家側端末53へ送信する。専門家側端末53の利用者の識別コード等によって、CDRレポートを閲覧又は取得できるユーザに制限がかけられている。イベントデータレポート出力部25は、特定の車両61の事故履歴レポートの閲覧権限又は取得権限を持つユーザ(専門家側端末53)から当該車両61についてのCDRレポートのデータの提供のリクエストがあった場合に、CDRレポートのデータを専門家側端末53へ送信する。
【0048】
査定者端末63においてCDRレポートのデータが生成され、管理サーバ10のデータベース15に記憶される場合には、イベントデータレポート出力部25は、専門家側端末53からリクエストされた特定の車両61のCDRレポートのデータを査定者端末63へ送信する。また、査定者端末63から、EDRデータ又は衝突関連イベントデータ及び車両システム識別データが送信される場合には、イベントデータレポート出力部25は、専門家側端末53から特定の車両61についてのイベントデータレポートの提供のリクエストがあったときに、データベース15を参照してCDRレポートを生成し、専門家側端末53へ送信する。
【0049】
なお、事故履歴レポートを閲覧又は取得できるユーザ(査定業者)の範囲は、CDRレポートを閲覧又は取得できるユーザ(専門家)の範囲よりも広く設定されている。これは、CDRレポートは、多種多様のデータを含み、事故の分析等活用の範囲が限定的である一方、事故履歴レポートは、車両61の査定に必要な限定的なデータのみを含み、査定の評価に用いられるデータであるためである。
【0050】
<3.査定システムの動作例>
次に、本実施形態に係る車両の査定システム100の動作例を、査定者端末63の動作例及び管理サーバ10の動作例に分けて説明する。なお、以下に説明する査定システム100では、査定者端末63が、車両61のイベントデータ記憶部69から読み出したEDRデータ及び車両システム識別データに基づいてCDRレポートを生成して管理サーバ10へ送信するように構成されている。
【0051】
(3-1.査定者端末の動作例)
図3は、査定者端末63の制御部75により実行される処理の一例を示すフローチャートである。
まず、査定者端末63が査定対象の車両61の制御システム67に接続され、査定者端末63に格納された査定システムのプログラムが起動した状態で、制御部75は、査定業者60により入力されるデータを取得する(ステップS11)。例えば、査定業者60は、査定対象の車両61の車検証を参照して車両61の登録年を入力するとともに、シートベルトラベルを参照してシートベルト装置の製造年月日を入力する。その他、適宜のデータが査定業者60により入力されてもよい。
【0052】
次いで、制御部75は、データ読出ツール73を介して、車両61のイベントデータ記憶部69に記憶されているEDRデータを読み出す(ステップS13)。このとき、制御部75は、車両61及び車両61に搭載されているシステムを識別する車両システム識別データを併せて読み出す。車両システム識別データの一部又は全部は、査定業者60により査定者端末63に入力されてもよい。
【0053】
次いで、制御部75は、読み出したEDRデータの中から、あらかじめ設定された衝突関連イベントデータを抽出し、車両システム識別データと併せて、CDRレポートを生成する(ステップS15)。次いで、制御部75は、生成したCDRレポートのデータを、管理サーバ10へ送信する(ステップS17)。
【0054】
なお、管理サーバ10が査定者端末63を介してEDRデータ及び車両システム識別データを直接読み出す場合、査定者端末63は、ステップS11において、読み出したEDRデータ及び車両システム識別データを管理サーバ10へ転送すればよく、ステップS15及びステップS17は省略される。
【0055】
次いで、制御部75は、管理サーバ10から送信される事故履歴レポートのデータを受信する(ステップS19)。次いで、制御部75は、受信した事故履歴レポートのデータに基づいて、事故履歴レポートを表示部79へ表示させる(ステップS21)。
【0056】
図4は、表示される事故履歴レポート30の一例を示す。
図4に示す事故履歴レポート30は、表示部79に表示されるだけでなく、あるいは、表示部79に表示させる代わりに、プリンタ等により印刷されて用いられてもよい。
【0057】
図4に示した事故履歴レポート30の例では、車両登録年REGIS_C及びシートベルト装置の製造年月日MFD_SBのデータ41、車両61の製造メーカMKR及び車種名NMのデータ42、車台識別番号No.及び型式TYPのデータ43、エアバッグコントロールモジュールの品番No.ACM及びイベントデータ記憶システムの世代GEN_EDRのデータ44、CDRレポート生成日時DT_CDRのデータ45、データ抽出作業者NM_PER.のデータ46、生成した事故履歴レポートの元となったCDRデータファイルの識別コードNo_CDRxのデータ47、EDRデータを読み出しCDRレポートを生成するソフトウェアのバージョンVer.CDR及びCDRレポートから事故履歴レポートを生成するソフトウェアのバージョンVer.CHRのデータ48、並びに、最新の衝突事象のカウントCNT及び記憶されているEDRデータのうち最大の速度変化量MAX_dVのデータ49が表形式で表示されている。表示される事故履歴レポート30は、これ以外のデータを含んでいてもよい。
【0058】
また、
図4に示した事故履歴レポート30の例では、車両61の事故履歴の状況から判断される総合評価JDGの情報31が5段階で表示される。総合評価JDGは、衝突事象の発生回数や衝突事象の種類及び衝突事象の発生時に車両61に与えられた衝撃、車載装置の不具合や交換履歴の統計データに基づいて設定される各ランクの閾値によりいずれかのランクに区分されて設定される。衝突回数あるいは衝突箇所が多いほど総合評価JDGは下げられる。また、衝突発生時に車両61に与えられた衝撃が大きいほど総合評価JDGは下げられる。また、車載装置の交換履歴が多いほど総合評価JDGは下げられる。かかる総合評価JDGは、管理サーバ10の事故履歴レポート生成部21により設定される。
【0059】
また、
図4に示した事故履歴レポート30の例では、CDRレポートから推定される車両61の不具合に関するコメントCMTの表示欄33が含まれている。かかるコメントCMTは、管理サーバ10の事故発生情報生成部23で推定された事故発生の可能性の情報を表示する。例えば、コメントCMTの表示欄33に、「シートベルト装置の製造年月日MFD_SBと車両登録年REGIS_Cが一致しません。」とのコメントや、「エアバッグ制御装置が交換された可能性があり、エアバッグが展開した事故が発生した可能性があります。」とのコメントが表示される。かかるコメントCMTの表示は、査定業者60から通知のリクエストがあった場合に表示されてもよい。
【0060】
また、
図5は、別の事故履歴レポート30の例を示す。
図5に示す事故履歴レポート30は、
図4に示した事故履歴レポート30とともに表示され得るが、
図5に示す事故履歴レポート30の表示は省略されてもよい。
【0061】
図5に示す事故履歴レポート30は、前面衝突、左側面衝突、右側面衝突、後方追突のそれぞれについて、衝突発生時の最大速度変化量MAX_dVの値が最大であった衝突事象のイベントデータを示している。図中のイベントEVTは衝突が検知された順序を表し、PDOF(Principal Direction of Force)は荷重入力方向を表している。荷重入力方向は、車両の進行方向正面を0°として360°表示で示される。
【0062】
図5に示した例では、4回の衝突事象のイベントデータが示されている。1回目の衝突(EVT=00)は前面衝突であり、衝突発生時の最大速度変化量MAX_dVが34km/h、荷重入力方向が5°となっている。また、2回目の衝突(EVT=01)は右側面衝突であり、衝突発生時の最大速度変化量MAX_dVが23km/h、荷重入力方向が120°となっている。また、3回目の衝突(EVT=02)は後方追突であり、衝突発生時の最大速度変化量MAX_dVが12km/h、荷重入力方向が180°となっている。また、4回目の衝突(EVT=03)は左側面衝突であり、衝突発生時の最大速度変化量MAX_dVが1km/h、荷重入力方向が270°となっている。かかる事故履歴レポート30が併せて表示されることにより、査定業者60は、車台構造に影響し得る比較的重大な事故の発生履歴を容易に把握することができる。
【0063】
(3-2.管理サーバの動作例)
図6は、管理サーバ10の制御部13により実行される処理の一例を示すフローチャートである。
まず、管理サーバ10の制御部13は、査定者端末63から送信されたCDRレポートのデータを受信する(ステップS31)。制御部13は、受信したCDRレポートのデータをデータベース15に記憶する。
【0064】
次いで、制御部13の事故履歴レポート生成部21は、CDRレポートのデータから、あらかじめ設定された車両61の事故履歴に関する一部のデータを抽出するとともに所定の演算処理を行って事故履歴レポートを生成する(ステップS33)。生成される事故履歴レポートは、あらかじめ設定されたデータだけでなく、査定業者60からのリクエストに応じて適宜のデータが追加されてもよい。また、生成される事故履歴レポートは、事故発生情報生成部23により生成された事故発生の可能性を通知する情報を含んでいてもよい。かかる事故発生の可能性を通知する情報は、査定業者60からのリクエストに応じて追加されてもよい。
【0065】
次いで、事故履歴レポート生成部21は、生成した事故履歴レポートのデータを査定者端末63へ送信する(ステップS35)。これにより、査定者端末63では、受信した事故履歴レポートを参照して、査定対象の車両61の査定を行うことができる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態に係る管理サーバ(イベントデータ処理装置)10によれば、査定対象の車両61のイベントデータ記憶部69から読み出され、査定者端末63から送信されたEDRデータに基づいて、車両61の事故履歴に関する一部のデータを抽出するとともに所定の演算処理を行って事故履歴レポートが生成される。生成された事故履歴レポートは、査定者端末63に送信され、査定対象の車両61の査定に用いられる。このため、修復履歴の記載がされていない場合や、内装又は外装の目視のみでは把握できない事故履歴も考慮した車両61の査定を行うことができる。
【0067】
また、生成される事故履歴レポートは、EDRデータあるいはCDRデータから必要なデータのみを抽出するとともに所定の演算処理を行って生成されるため、査定に必要な事故履歴に関する情報のみを容易に知ることができ、査定業者60の負担の増大を抑制することができる。また、事故履歴レポートは、従来活用されているEDRデータあるいはCDRデータから生成されるため、大掛かりな改変あるいはシステム構築を伴わずに、査定業者60へ提供することができる。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。