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特許7042997麻酔器に用いる酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法
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  • 特許-麻酔器に用いる酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法 図1
  • 特許-麻酔器に用いる酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法 図2
  • 特許-麻酔器に用いる酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】麻酔器に用いる酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/10 20060101AFI20220322BHJP
   A61D 7/04 20060101ALI20220322BHJP
   A61M 16/01 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
A61M16/10 B
A61D7/04
A61M16/01 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019528405
(86)(22)【出願日】2018-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2018020562
(87)【国際公開番号】W WO2019008949
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2019-10-29
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2017132120
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509334996
【氏名又は名称】テルコム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 照男
【合議体】
【審判長】佐々木 一浩
【審判官】加藤 啓
【審判官】莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/098180(WO,A1)
【文献】特開平9-183601(JP,A)
【文献】特開2016-131778(JP,A)
【文献】国際公開第2016/027097(WO,A1)
【文献】特開2011-83472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃縮酸素の流量の増加に伴い前記濃縮酸素の濃度が低下する特性を有し、麻酔器に用いる酸素濃縮装置であって、
大気中の空気を供給するコンプレッサと、
前記コンプレッサによって供給された空気をゼオライトに通して濃縮酸素を生成する酸素濃縮部と、
前記酸素濃縮部から前記麻酔器に供給され得る前記濃縮酸素の一部を前記麻酔器を介さず大気中にパージするための流量調整部と、
を有し、
前記流量調整部から前記濃縮酸素の一部を前記麻酔器を介さず大気中にパージすることにより、前記麻酔器に供給される前記濃縮酸素の流量及び酸素濃度を同時に低減させる、麻酔器に用いる酸素濃縮装置。
【請求項2】
濃縮酸素の流量の増加に伴い前記濃縮酸素の濃度が低下する特性を有し、麻酔器に用いる酸素濃縮方法であって、
コンプレッサによって供給された空気を酸素濃縮部でゼオライトに通して濃縮酸素を生成する濃縮酸素生成工程と、
前記酸素濃縮部から前記麻酔器に供給され得る前記濃縮酸素の一部を流量調整部で前記麻酔器を介さず大気中にパージするパージ工程と、
を有し、
前記パージ工程では、前記流量調整部から前記濃縮酸素の一部を前記麻酔器を介さず大気中にパージすることにより、前記麻酔器に供給される前記濃縮酸素の流量及び酸素濃度を同時に低減させる、麻酔器に用いる酸素濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、人又は猫、犬などの動物の全身麻酔器に用いる酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、麻酔器を利用した全身麻酔には濃度100%の酸素ガスを用いていた。しかしながら、近年では、純酸素での麻酔弊害が知られ、吸入する酸素ガスの酸素濃度は約60%前後が好ましいとされている。
【0003】
この酸素濃度約60%の酸素ガスを患者に供給するために、窒素ガス又は圧縮空気(無菌・低湿度のもの)を別途用意し、酸素に混合して酸素濃度約60%の気体を作っている。
【0004】
また、手術終了時麻酔を覚醒させる際にはさらに酸素濃度を下げ、大気の酸素濃度に近い低濃度の酸素を患者に吸入させ、患者の身体に馴染ませて安全性を確保していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2016/098180
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記方法では、日常的に入手困難な窒素又は圧縮空気を別途用意する必要があり、動物病院などの現場では、コスト等の問題でその採用が困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、通常の酸素治療に使用する酸素濃縮器を用いて、麻酔器に供給する酸素ガスの濃度を約25~90%の範囲で任意に調節可能な酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、濃縮酸素の流量の増加に伴い前記濃縮酸素の濃度が低下する特性を有し、麻酔器に用いる酸素濃縮装置であって、大気中の空気を供給するコンプレッサと、前記コンプレッサによって供給された空気をゼオライトに通して濃縮酸素を生成する酸素濃縮部と、前記酸素濃縮部から前記麻酔器に供給され得る前記濃縮酸素の一部を前記麻酔器を介さず大気中にパージするための流量調整部と、を有し、前記流量調整部から前記濃縮酸素の一部を前記麻酔器を介さず大気中にパージすることにより、前記麻酔器に供給される前記濃縮酸素の流量及び酸素濃度を同時に低減させることを特徴とする。
【0010】
第2の発明は、濃縮酸素の流量の増加に伴い前記濃縮酸素の濃度が低下する特性を有し、麻酔器に用いる酸素濃縮方法であって、コンプレッサによって供給された空気を酸素濃縮部でゼオライトに通して濃縮酸素を生成する濃縮酸素生成工程と、前記酸素濃縮部から前記麻酔器に供給され得る前記濃縮酸素の一部を流量調整部で前記麻酔器を介さず大気中にパージするパージ工程と、を有し、前記パージ工程では、前記流量調整部から前記濃縮酸素の一部を前記麻酔器を介さず大気中にパージすることにより、前記麻酔器に供給される前記濃縮酸素の流量及び酸素濃度を同時に低減させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、麻酔器に用いる酸素、窒素又は圧縮空気に要するコストを大幅に削減でき、同時に安全な麻酔の実施が可能となり医療現場で広く採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の酸素濃縮装置の構成図である。
図2】酸素流量と酸素濃度の関係を示すグラフである。
図3】本発明の酸素濃縮方法の実験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法について説明する。
【0015】
図1に示すように、酸素濃縮装置10は、主として、コンプレッサ12と、熱交換器14と、ファン16と、空気制御部18と、一対の酸素濃縮部20A、20Bと、濃縮酸素タンク22と、圧力調整部24と、複数の流量計26A、26Bと、複数の流量調整部30A、30Bと、を有している。
【0016】
コンプレッサ12は、大気中の空気を下流側へ供給する供給源である。
【0017】
熱交換器14は、コンプレッサ12で圧縮されて高温になった圧縮空気の温度を下げるためのものである。ファン16が駆動することで空冷式の放熱効果が得られる。
【0018】
空気制御部18は、例えば、二方バルブマニホールドが採用される。二方バルブマニホールドには、4個の二方バルブが組み合わされ、各サイクルに2個のバルブが作動し、空気の送り込み及び窒素の排出を行う。二方バルブマニホールドの作動は、所定時間又は所定圧力の周期で第一サイクルと第二サイクルを繰り返す。作動サイクルは、電源周波数と流量で異なる。
【0019】
一対の酸素濃縮部20A、20Bは、例えば、筐体と、筐体の内部に収容されたゼオライトと、を有する。これは、分子篩とも言われ、分子の大きさに依って分子を分離する能力がある。ゼオライトは、窒素を吸着し、酸素を通す。この理由は、窒素分子の大きさが相対的に大きく、ゼオライトの孔で捕捉されるのに対して、酸素分子の大きさが相対的に小さく、ゼオライトの孔で捕捉されないからである。この結果、圧縮空気がゼオライトを通過すれば、空気中の酸素と窒素が分離され、窒素がゼオライトに吸着され、濃縮酸素が生成される。
【0020】
生成された濃縮酸素は、濃縮酸素タンク22に貯えられ、圧力調整部24で所定値に制御されてから、流量調整部30Aの出口で枝分れする。
【0021】
すなわち、流量調整部30Aの出口側には、第1流路36と第2流路38との2つのルートが設けられている。第1流路36には麻酔器28が接続され、第2流路38には別の流量調整部30Bを介して大気に開放されている。
【0022】
ここで、酸素濃度と流量の関係について考察する。
【0023】
図2に示すように、濃縮酸素を供給するときの流量が例えば2L/minで酸素濃度が約90%前後になる酸素濃縮装置を利用すると、流量30L/minに調整すれば酸素濃度が約25%になる。このため、高濃度酸素を患者に供給することの弊害を解決するためには、可能な限り大きな流量で麻酔器28に濃縮酸素を供給すればよい。
【0024】
しかしながら、大きな流量で麻酔器28に濃縮酸素を供給すると、患者が消費する濃縮酸素以外の麻酔成分を含んだ濃縮酸素が手術室内に同時に排気され、医師及び医療スタッフ等にとって適切な医療行為の妨げになり得る。
【0025】
かかる理由から、必要以上の流量の濃縮酸素を麻酔器28に供給することを回避する必要がある。
【0026】
麻酔器28は、患者に対する麻酔効果を発生させるものであり、所定の濃度の濃縮酸素が麻酔器28に供給される。麻酔器28には、流量計26Aと、流量調整部27Aと、が近接され又は一体に設けられ、麻酔器28に供給される濃縮酸素の流量を調整することができる。
【0027】
第2流路38の流量調整部30Bにも、同様にして、流量計26Bが設けられている。
【0028】
なお、流量調整部30A、30Bは、流路を流れる気体の流量を調整する。
【0029】
次に、本実施形態に係る酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法の作用について説明する。
【0030】
図1に示すように、濃縮酸素タンク22に濃縮酸素が貯えられる。濃縮酸素タンク22の濃縮酸素の一部が第1流路36に供給され、濃縮酸素の残りが第2流路38に供給される。
【0031】
第1流路36に供給された濃縮酸素は、流量調整部27Aによって流量が適宜調整されながら、麻酔器28を介して患者に供給される。
【0032】
第2流路38に供給された濃縮酸素は、流量調整部30Bによって流量が適宜調整されながら、大気中にパージされる。
【0033】
ここで、酸素濃縮装置10の特性として、濃縮酸素の流量と濃度の関係は、図2で示される。酸素濃縮装置10の流量を大きくすれば、酸素濃度が低下していくことを示している。
【0034】
上述したように、例えば90%のような高濃度の濃縮酸素が長時間患者の体内に取り入れられると、かえって悪影響を及ぼすことになる。このため、濃縮酸素の流量を大きくして、患者に提供される濃縮酸素の濃度を低下させる必要があった。
【0035】
しかしながら、濃縮酸素の流量を大きくしたとき、麻酔成分を含んだ濃縮酸素のうち患者が消費せずに余った濃縮酸素が麻酔器28に設備されたリリーフバルブを通じて手術室内に放出され、医療関係者の医療行為の妨げになる危険がある。
【0036】
このため、濃縮酸素タンク22から供給される濃縮酸素の一部を、意図的に第2流路38を通しかつ麻酔器28を介さずに大気中にパージすることにより、第1流路36を通しかつ麻酔器28を介して患者に供給される濃縮酸素の流量及び酸素濃度を同時に低減させることができる。
【0037】
本発明では、麻酔器に供給する酸素ガスの酸素濃度を希釈させるために、圧縮空気や窒素ガスが不要になる。
【0038】
なお、符号32はオリフィスであり、符号34はPEバルブである。
【0039】
次に、本実施形態の酸素濃縮方法の実験例について説明する。
【0040】
図1に示す流量調整部30Bを調整して大気中にパージされる濃縮酸素の流量値の変化に応じて、麻酔器28に提供される濃縮酸素の酸素濃度がどのように変化するかを確認するための実験を行った。
【0041】
その実験では、図3に示すように、麻酔器28に供給される濃縮酸素の流量を2L/minと5L/minで変化させた。また、第2流路38から大気中にパージされる濃縮酸素の流量を6L/min、12L/min、23L/min、30L/minと変化させた。
【0042】
図3に示すように、第2流路38から大気中にパージされる濃縮酸素の流量を6L/minのもと、麻酔器28に供給される濃縮酸素の流量が2L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が60%となり、5L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が43%となった。
【0043】
第2流路38から大気中にパージされる濃縮酸素の流量を12L/minのもと、麻酔器28に供給される濃縮酸素の流量が2L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が40%となり、5L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が35%となった。
【0044】
第2流路38から大気中にパージされる濃縮酸素の流量を23L/minのもと、麻酔器28に供給される濃縮酸素の流量が2L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が30%となり、5L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が29%となった。
【0045】
第2流路38から大気中にパージされる濃縮酸素の流量を30L/minのもと、麻酔器28に供給される濃縮酸素の流量が2L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が25%となり、5L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が23%となった。
【0046】
以上の結果から、麻酔器28に供給される濃縮空気の流量と酸素濃度との関係は、第2流路38から大気中にパージされる濃縮酸素の流量の値によって、麻酔器28に供給される濃縮空気の流量が増加すれば(2L/min→5L/min)、当該濃縮酸素の酸素濃度が低下したことが判明した。これにより、麻酔器28に供給される濃縮空気の流量が増加すれば、当該濃縮酸素の酸素濃度が低下することが証明された。
【0047】
また、第2流路38から大気中にパージされる濃縮酸素の流量の値が増加すれば、麻酔器28に供給される濃縮酸素の酸素濃度が低下していくことが証明された。このことは、麻酔器28に供給される濃縮空気の流量の値が2L/minと5L/minにおいて同様の傾向になることが証明された。
【0048】
しかしながら、第2流路38から大気中にパージされる濃縮酸素の流量の値が増えれば、麻酔器28に供給される濃縮空気の酸素濃度の差が、麻酔器28に供給される濃縮空気の流量の大小間(2L/minと5L/minの値)において小さくなっていくことが証明された。すなわち、第2流路38から大気中にパージされる濃縮酸素の流量値が増えれば、麻酔器28に供給される濃縮酸素の酸素濃度が、麻酔器28に供給される濃縮酸素の流量の値によらず、一定値に低減するように収束する傾向にあることが判明した。
【0049】
以上のように、第2流路38から濃縮酸素を大気中にパージさせることが麻酔器28に供給される濃縮酸素の酸素濃度の低下に大きく寄与することが判明した。
【0050】
この前提のもとで、第2流路38から大気中にパージされる濃縮酸素の流量値の大小にかかわらず、麻酔器28に供給される濃縮酸素の流量を大きくすることにより、麻酔器28に供給される濃縮酸素の酸素濃度が低下することが判明した。
【0051】
また、第2流路38から大気中にパージされる濃縮酸素の流量値が大きくなれば、麻酔器28に供給される濃縮酸素の流量値の大小にかかわらず、麻酔器28に供給される濃縮酸素の酸素濃度が一定値に低減するように収束していくことが判明した。
【符号の説明】
【0052】
10 酸素濃縮装置
12 コンプレッサ
14 熱交換器
16 ファン
18 空気制御部
20A 酸素濃縮部
20B 酸素濃縮部
22 濃縮酸素タンク
24 圧力調整部
26A 流量計
26B 流量計
27A 流量調整部
28 麻酔器
30A 流量調整部
30B 流量調整部
32 オリフィス
34 PEバルブ
36 第1流路
38 第2流路
図1
図2
図3