(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】衣類の縫目拡張装置
(51)【国際特許分類】
A41H 43/00 20060101AFI20220322BHJP
【FI】
A41H43/00 Z
(21)【出願番号】P 2019094089
(22)【出願日】2019-04-23
【審査請求日】2020-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000114868
【氏名又は名称】ヤマトミシン製造株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松本 文男
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-010498(JP,A)
【文献】特開2019-058232(JP,A)
【文献】特開昭53-033748(JP,A)
【文献】特開平08-299635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B1/00-97/12
A41H1/00-43/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重なり合った二枚の生地部の縁かがり縫いにより収縮状態の縫目が形成された衣類における前記二枚の生地部を前記縫目の長手方向に対して直交する方向の両側に展開した状態で前記収縮状態の縫目が該縫目の長手方向に沿って移動するようにガイドしつつ前記二枚の生地部を送り込む縫目移動ガイド溝付き生地部送り込み部と、
前記縫目が縫目移動ガイド溝に沿ってガイドされる状態で前記生地部送り込み部
から送り込まれてくる前記二枚の生地部を挟み保持して該二枚の生地部を前記縫目の長手方向に向けて強制移送し、その移送方向の終端部ほど対向間距離が漸次大きくなるように配置され、かつ、少なくとも移送方向の終端部の対向間距離が変更可能に構成された一対の生地部強制移送装置と、を具備し、
前記衣類における二枚の生地部が前記一対の生地部強制移送装置により移送されるとき、展開した二枚の生地部の端縁が突き合わせ状態となるように前記収縮状態の縫目を拡張する衣類の縫目拡張装置であって、
前記一対の生地部強制移送装置の移送終端部に続く箇所には、該一対の生地部強制移送装置により縫目が拡張された衣類の移送方向先端部及び移送方向終端部が前記一対の生地部強制移送装置から送り出されたか否かを検知する検知器と、
前記一対の生地部強制移送装置から排出されてくる衣類に接触して該衣類を前記縫目の長手方向に向けて強制的に排出移送する第1状態と前記衣類から離間して衣類の強制排出移送を行わない第2状態とに切換え可能な縫目拡張済衣類の強制排出移送装置と、が設けられており、
前記検知器が縫目拡張済衣類の移送方向先端部を検知した動作に応じて前記強制排出移送装置を前記第2状態から前記第1状態に切換えて該縫目拡張済衣類を縫目の長手方向に強制的に排出移送するように構成されているとともに、前記検知器が縫目拡張済衣類の移送方向終端部を検知した動作に応じて前記強制排出移送装置を第1状態から前記第2状態に切換え、かつ、その切換え後の操作により前記一対の生地部強制移送装置の対向移送面間に縫目拡張済衣類を前記生地部送り込み部の上流側への抜き出し用空隙部を形成可能に構成されている
ことを特徴とする衣類の縫目拡張装置。
【請求項2】
前記縫目移動ガイド溝付き生地部送り込み部と前記一対の生地部強制移送装置の移送始端部との間には、送り込まれてくる前記二枚の生地部を前記一対の生地部強制移送装置の移送始端部に強制的に送り込む強制送り込み用回転体が配設されている
ことを特徴とする請求項1に記載の衣類の縫目拡張装置。
【請求項3】
前記一対の生地部強制移送装置は、それぞれ移送面を互いに対向させて配置された一組の移送装置から構成され、これら一組の移送装置は、それぞれ移送面を互いに対向させて配置された一組の無端ベルトから構成され、そのうち一方の無端ベルトが駆動モータに連動連結されて駆動回転式に構成されているとともに、他方の無端ベルトは従動回転式に構成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の衣類の縫目拡張装置。
【請求項5】
前記断面円形無端ベルトは、前記縫目拡張済衣類の強制排出移送始端部に位置するプーリ、前記駆動モータから駆動力を受動するプーリ及び前記断面円形無端ベルトの外周部に接触するアイドルプーリを含む複数個のプーリ間に亘って掛け渡しされており、これら複数個のプーリは、前記検知器の検知動作に応じて前記第2状態から前記第1状態へ切換えられる時及び前記検知器が縫目拡張済衣類の移送方向終端部を検知した動作に応じて前記第1状態から前記第2状態へ切換えられる時に前記
断面円形無端ベルトが外れないように屈曲動作するリンク機構に支えられている
ことを特徴とする請求項4に記載の衣類の縫目拡張装置。
【請求項6】
前記縁かがり縫いにより形成される縫目が、JISの表記記号クラス500に分類されるものである
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の衣類の縫目拡張装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、スポーツウェア、スパッツ、パンティストッキング、タイツ、ナイトウェアなどのように、重なり合った二枚の生地部の縁かがり縫いにより収縮状態の縫目が形成された衣類における前記二枚の生地部を前記縫目の長手方向に対して直交する方向の両側に展開したとき、その展開した二枚の生地部の端縁が突き合わせ縫い状態となるように前記収縮状態の縫目を拡張するために使用される衣類の縫目拡張装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象衣類として、
図11に示すスポーツウェアSWを例にとって説明すると、該スポーツウェアSWは、オーバーロックミシンを用いて、
図11の矢印a,b,c,d,e,fで示す箇所に、JISの表記記号クラス500に分類される縫目Sが生地進行方向Y(
図13参照)に沿って形成されるように縁かがり縫いを行うことによって作製される。JISの表記記号クラス500のうち、例えば、1本の針糸NTと上下2本のルーパ糸ULT、LLTとの計3本の糸で構成するJIS表記記号505に分類される縫目Sの構造は、
図12に示すとおりであり、縁かがり縫い時に上下に重なりあっていた上部の生地部UWと下部の生地部LWとを縫目の長手方向に直交する方向、例えば左右に展開することにより、該左右の生地部UW,LWの端縁UWe、LWeが
図13及び
図14に示すような突き合わせ縫い状態となる。
【0003】
上記のように、縁かがり縫い後に左右に展開される左右の生地部UW,LWの端縁UWe、LWeが突き合わせ縫い状態の縫目構造とすることにより、肌に接する衣類の裏面に縫目部分が突出することなく、生地部を平滑に縫い合わせて着用感を高めることが可能であるとともに、生地部の端縁を衣類の表面に露出させることなく、美観にも優れた衣類を得ることが可能である。
【0004】
ところで、対象衣類が前述のスポーツウェアやパンティストッキングなどのように弾力性、伸縮性に富む生地素材を用いたものでは、針糸及びルーパ糸としてウーリー糸のような高伸度の糸が使用されることが多い。そのために、縁かがり縫いによって形成されるJISの表記記号クラス505に分類の縫目は、生地部の弾力性、伸縮性及び針糸、ルーパ糸の高伸度性の影響を受けて強い収縮状態となり、縁かがり縫いした生地部を縫目の左右に展開して左右の生地部の端縁が
図13及び
図14に示す突き合わせ縫い状態となるように縫目を拡張するためには前記強い収縮状態にある縫目をその収縮力に対抗するに足りる強い引張り力が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来では、上記のような強い収縮状態にある縫目をその長手方向の全長に亘って拡張する専用の機器が存在しないため、縫目の拡張作業が全面的に人手に委ねられていた。そのため、縫目を拡張するために二枚の生地部を両手で強く掴んで縫目の長手方向に対して直交する両方向に強い引張り力を付与しなければならず、膨大な作業労力(人力)を要する。また、一つの衣類の複数個所に縫目が形成されている場合や、縫目の長さが非常に長いような場合、それら複数あるいは長い縫目の全てを拡張するために多大な作業手間及び長時間を要することとなる。その結果、所定の衣類の生産性低下を招きやすく、また、縫目をその全長に亘って見栄え良く拡張して着用感及び仕上りの良い衣類を得ることがむずかしいという問題があった。
【0006】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、縁かがり縫い後に、特別大きな作業労力を要することなく、最少限の手間、時間をかけるのみで、縫目をその全長に亘って確実に、かつ、生地に余分な摩擦や無理な力をかけて傷などを付けることなく拡張することができ、しかも、縫目の拡張作業を非常に順調かつ効率的に実行することができて、着用感及び仕上りの良い衣類の生産性向上に貢献することができる衣類の縫目拡張装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る衣類の縫目拡張装置は、重なり合った二枚の生地部の縁かがり縫いにより収縮状態の縫目が形成された衣類における前記二枚の生地部を前記縫目の長手方向に対して直交する方向の両側に展開した状態で前記収縮状態の縫目が該縫目の長手方向に沿って移動するようにガイドしつつ前記二枚の生地部を送り込む縫目移動ガイド溝付き生地部送り込み部と、前記縫目が縫目移動ガイド溝に沿ってガイドされる状態で前記生地部送り込み部から送り込まれてくる前記二枚の生地部を挟み保持して該二枚の生地部を前記縫目の長手方向に向けて強制移送し、その移送方向の終端部ほど対向間距離が漸次大きくなるように配置され、かつ、少なくとも移送方向の終端部の対向間距離が変更可能に構成された一対の生地部強制移送装置と、を具備し、前記衣類における二枚の生地部が前記一対の生地部強制移送装置により移送されるとき、展開した二枚の生地部の端縁が突き合わせ状態となるように前記収縮状態の縫目を拡張する衣類の縫目拡張装置であって、前記一対の生地部強制移送装置の移送終端部に続く箇所には、該一対の生地部強制移送装置により縫目が拡張された衣類の移送方向先端部及び移送方向終端部が前記一対の生地部強制移送装置から送り出されたか否かを検知する検知器と、前記一対の生地部強制移送装置から排出されてくる衣類に接触して該衣類を前記縫目の長手方向に向けて強制的に排出移送する第1状態と前記衣類から離間して衣類の強制排出移送を行わない第2状態とに切換え可能な縫目拡張済衣類の強制排出移送装置と、が設けられており、前記検知器が縫目拡張済衣類の移送方向先端部を検知した動作に応じて前記強制排出移送装置を前記第2状態から前記第1状態に切換えて該縫目拡張済衣類を縫目の長手方向に強制的に排出移送するように構成されているとともに、前記検知器が縫目拡張済衣類の移送方向終端部を検知した動作に応じて前記強制排出移送装置を第1状態から前記第2状態に切換え、かつ、その切換え後の操作により前記一対の生地部強制移送装置の対向移送面間に縫目拡張済衣類を前記生地部送り込み部の上流側への抜き出し用空隙部を形成可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記のごとき特徴を有する本発明に係る衣類の縫目拡張装置によれば、縁かがり縫いによって縫目が形成された二枚の生地部を縫目の長手方向に対して直交する方向の両側に展開した状態でその二枚の生地部を、収縮状態の縫目が縫目移動ガイド溝に嵌り、該移動ガイド溝に沿ってガイドされるように生地部送り込み部に送り込みセットすることにより、二枚の生地部が前記一対の生地部移送装置に挟み保持されて縫目の長手方向に向けて強制移送される。そして、この強制移送時に前記一対の生地部強制移送装置の対向間距離が漸次大きくなるため、強制移送の進行に伴って二枚の生地部には縫目の長手方向に対して直交する方向の引張り力が付与されて該縫目を機械的、自動的に拡張することが可能である。したがって、縁かがり縫い後の二枚の生地部を展開して生地部送り込み部にセットするといった最少限の手間と時間をかけるのみで、また、二枚の生地部を両手で強く掴んで縫目の長手方向に対して直交する両方向に強い引張り人力をかけるといった作業労力も要することなく、縫目をその全長に亘って確実かつ効率的に拡張して、生地部が着用感の高い平滑な裏面と美観に優れた表面とを有する衣類を得ることができる。
【0009】
しかも、一対の生地部移送装置の対向間距離を移送方向の終端部ほど漸次大きくなるように配置して縁かがり縫い後の二枚の生地部を強制移送しながら該二枚の生地部を繋ぐ縫目にその長手方向に対して直交する引張り力をかけることができるので、例えば、強制移送時に縫目を含む生地部分を勾配カムに沿って摺接移動させることで前記引張り力を付与する形式の固定式拡張装置や、強制移送されてくる縫目を含む生地部分を順次掻き込むとともに、その掻き込んだ生地部分を生地部の表裏方向の一方に回転移送する駆動回転体により前記引張り力を付与する形式の回転掻き込み式拡張装置を用いる場合に比べて、生地に余分な摩擦や無理な力等をかけることがないので、生地に擦過傷や局部破れなどを生じることがなく、仕上がりのよい縫目拡張を行うことができる。
【0010】
加えて、前記一対の生地部強制移送装置の移送方向下流箇所には該一対の生地部強制移送装置により縫目が拡張された衣類の移送方向先端部が該一対の生地部強制移送装置から送り出されたことを検知する検知器の検知動作に応じて衣類から離間した第2状態にあった縫目拡張済衣類の強制排出移送装置が衣類に接触する第1状態に切換えられて縫目拡張済の衣類を、前記一対の生地部強制移送装置に引き続いて縫目の長手方向に向けて強制的に排出移送することができるので、縫目拡張済衣類が前記一対の生地部強制移送装置の移送方向下流箇所に停滞してそれ以降の衣類の移送などに支障を招くことを回避することができる。
【0011】
さらに、前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置は、前記検知器が縫目拡張済衣類の移送方向終端部を検知した動作に応じて前記第1状態から前記第2状態に切換えられ、かつ、その切換え後の操作により前記一対の生地部強制移送装置の対向移送面間に縫目拡張済衣類を前記生地部送り込み部の上流側への抜き出し用空隙部を形成可能に構成されているので、対象衣類が筒状衣類であっても縫目拡張済の衣類を余分に強制排出方向に移送させないでできるだけ早く前記空隙部を通して生地部送り込み部の上流側に素早く抜き出して、すなわち、当該拡張装置から取り外して次の衣類の拡張を早期に開始することができるといったように、当該拡張装置の使用効率を高めることができる。したがって、多数の衣類に対する縫目拡張作業を非常に順調かつ効率的に実行することができて、着用感及び仕上りの良い衣類の生産性向上を達成することができるといった効果を奏する。
【0012】
本発明に係る衣類の縫目拡張装置において、前記縫目移動ガイド溝付き生地部送り込み部と前記一対の生地部強制移送装置の移送始端部との間には、送り込まれてくる前記二枚の生地部を前記一対の生地部強制移送装置の移送始端部に強制的に送り込む強制送り込み用回転体が配設されていることが好ましい。
この場合は、縁かがり縫い後に両側に展開した二枚の生地部の先端部を生地部送り込み部にセットするだけで、その二枚の生地部を前記一対の生地部強制移送装置の移送始端部に自動的に送り込むことができるため、生地部のセット作業が一層簡便で済む。
【0013】
本発明に係る衣類の縫目拡張装置において、前記一対の生地部移送装置は、それぞれ移送面を互いに対向させて配置された一組の移送装置から構成され、これら一組の移送装置は、それぞれ移送面を互いに対向させて配置された一組の無端ベルトから構成され、そのうち一方の無端ベルトが駆動モータに連動連結されて駆動回転式に構成されているとともに、他方の無端ベルトは従動回転式に構成されていることが好ましい。
この場合は、縁かがり縫い後、縫目の両側に展開された二枚の生地部がそれぞれ一組の移送装置である一組の無端ベルトの対向する移送面間に挟み保持されて移送されることになるため、二枚の生地部を確実かつ均等に所定方向に強制移送することが可能となり、一層仕上りのよい衣類を得ることができる。また、縁かがり縫い後、縫目の両側左右に展開された二枚の生地部が対向配置された一対の無端ベルト間に挟まれた状態で、一方の無端ベルトの駆動回転に伴い他方の無端ベルトを従動回転させながら強制移送されることになるため、二枚の生地部には殆ど移送抵抗がかからず、これら二枚の生地部をスムーズに強制移送させて所定の縫目拡張機能を確実かつ円滑に発揮させることが可能である。
【0014】
また、本発明に係る衣類の縫目拡張装置において、前記駆動モータに連動連結されて駆動回転式に構成された前記一方の無端ベルトは、前記検知器が縫目拡張済衣類の移送方向終端部を検知した動作後の人為操作により、前記従動回転式に構成された他方の無端ベルトから離間してそれら両方の無端ベルトの対向移送面間に縫目拡張済衣類の前記生地部送り込み部の上流側への抜き出し用空隙部を形成可能に構成されていることが好ましい。
この場合は、前記検知器により縫目拡張済衣類の移送方向終端部の検知動作後の人為操作、例えば駆動モータの駆動開始及び駆動停止を司る操作ペダルの駆動停止操作(一般的に踏み返し操作という)に伴い駆動回転式の一方の無端ベルトを従動回転式の他方の無端ベルトから離間させて両方の無端ベルトの対向移送間に空隙部を形成することが可能であるため、対象衣類が筒状衣類である場合でも、縫目拡張済の筒状衣類を前記生地部送り込み部の上流側に素早く抜き出すことができる。
【0015】
また、本発明に係る衣類の縫目拡張装置において、前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置は、前記縫目の長手方向に対して直交する方向に並設された複数条の断面円形無端ベルトから構成され、これら複数条の断面円形無端ベルトは、前記一対の生地部強制移送装置の駆動モータに連動連結されていることが好ましい。
この場合は、前記強制排出移送装置の縫目拡張済の衣類に対する接触を複数条の線接触とすることができるので、該強制排出移送装置と前記一対の生地部強制移送装置との間で多少の移送速度差が生じたとしても、その速度差を前記線接触部でのスベリによって吸収することが可能で、衣類に余分な力をかけないですむ。また、前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置及び前記一対の生地部強制移送装置の駆動モータを兼用化することにより、装置全体としての駆動系の構成を簡単にすることができる。
【0016】
また、本発明に係る衣類の縫目拡張装置において、前記断面円形無端ベルトは、前記縫目拡張済衣類の強制排出移送始端部に位置するプーリ、前記駆動モータから駆動力を受動するプーリ及び前記断面円形無端ベルトの外周部に接触するアイドルプーリを含む複数個のプーリ間に亘って巻掛けられており、これら複数個のプーリは、前記検知器の検知動作に応じて前記第2状態から前記第1状態へ切換えられる時及び前記検知器が縫目拡張済衣類の移送方向終端部を検知した動作に応じて前記第1状態から前記第2状態へ切換えられる時に前記断面円形無端ベルトが外れないように屈曲動作するリンク機構に支えられていることが好ましい。
この場合は、前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置を構成する断面円形無端ベルトを検知器の検知動作に応じて前記第2状態から前記第1状態に切換える時及び第1状態ら第2状態に切換える時のいずれも前記リンク機構の屈曲動作により前記断面円形無端ベルトが前記複数個のプーリから外れるといったトラブルの発生を回避することができる。
【0017】
更に、本発明に係る衣類の縫目拡張装置において、前記縁かがり縫いにより形成される縫目が、JISの表記記号クラス500に分類されるものであることが好ましい。
この場合は、縁かがり縫いにより形成される縫目がJISの表記記号クラス500に分類されるものであって、例えば、JIS表記記号505のような針糸の張力が低い(又は緩い)状態の縫目であるならば、上記の縫目拡張を一層確実かつ安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係る衣類の縫目拡張装置全体の斜視図である。
【
図2】同上衣類の縫目拡張装置の要部の拡大分解斜視図である。
【
図3】同上衣類の縫目拡張装置の要部の拡大分解斜視図である。
【
図4】同上衣類の縫目拡張装置の要部の拡大分解斜視図である。
【
図5】同上衣類の縫目拡張装置の要部の拡大平面図である。
【
図7】同上衣類の縫目拡張装置による衣類の移送開始時の状態を示す要部の拡大側面図である。
【
図8】同上衣類の縫目拡張装置による衣類の移送途中の状態を示す要部の拡大側面図である。
【
図9】同上衣類の縫目拡張装置から縫目拡張済衣類を抜き出した後の状態を示す要部の拡大側面図である。
【
図10】同上衣類の縫目拡張装置における拡張済衣類の強制排出装置を構成する断面円形無端ベルトの外れ防止用リンク機構の概略動作線図である。
【
図11】縁かがり縫いによってJISの表記記号クラス500に分類される縫目が形成される衣類の一例としてのスポーツウェアの斜視図である。
【
図12】JIS表記記号505に分類される縫目の構造を示す要部の拡大斜視図である。
【
図13】縁かがり縫いした生地部を縫目の左右に展開したときの縫目の構造を生地表面側から見た要部の拡大平面図である。
【
図14】縁かがり縫いした生地部を縫目の左右に展開したときの縫目の構造を生地裏面側から見た要部の拡大平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面にもとづいて説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る衣類の縫目拡張装置全体の斜視図、
図2~
図4は同上衣類の縫目拡張装置の要部の拡大分解斜視図、
図5は同上衣類の縫目拡張装置の要部の拡大平面図、
図6は
図5のA-A線に沿った縦断面図、
図7~
図9は同上衣類の縫目拡張装置による衣類の移送開始時の状態、移送途中の状態、縫目拡張済衣類を抜き出した後の状態を示す要部の拡大側面図である。
【0020】
上記衣類の縫目拡張装置Mは、水平基台1上に略垂直姿勢に固定設置された側面視が逆コの字形状の枠フレーム2と、該枠フレーム2の下側水平フレーム部2Lの前端部付近にねじ13で固定の支持台8の前半部上面にビス9を介して固定されたロアブロック10の前部に配設される生地部送り込み部4と、前記ロアブロック10の後部に配設されて、オーバーロックミシンを用いてJISの表記記号クラス505に分類される縫目S(
図12参照)が形成されるよう縁かがり縫いされた後の衣類における前記縫目Sの縫目長手方向に対して直交する方向の両側、つまり、水平面でいう左右両側に展開される左右二枚の生地部UW、LWを上下から挟み保持して、前記縫目Sの長手方向に向けて矢印YL,YR方向(
図5参照)に強制移送する左右一対の生地部強制移送装置3L,3R(
図6参照)と、前記生地部送り込み部4と前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rの移送始端部との間に配設されて、前記生地部送り込み部4に送り込まれてくる生地部UW,LWを前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rの移送始端部に強制的に送り込む強制送り込み用下部回転体としての左右二個のローラ12L、12Rとを、具備している。
【0021】
前記生地送り込み部4は、前記ロアブロック10の前面にビス11,11により固定された左右一対のガイド片4L,4Rからなり、該左右一対のガイド片4L,4R間には、前記収縮状態にある縫目Sを落し込み該縫目Sがその長手方向に沿って移動するようにガイドする縫目移動ガイド溝4Sが形成されている。また、前記左右二個のローラ12L,12Rは、
図3及び
図5に明示されているように、前記ロアブロック10の上面部に形成された凹溝14L、14R内に嵌合させて軸15の周りを自由回転可能に支承されている。
【0022】
前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rは、
図1~
図6に示されているように、それぞれ移送面を上下に対向させて配置された上下一対の移送装置としての上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLから構成されている。この上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLは、
図5に最も明瞭に示されているように、それぞれの移送方向YL,YRの終端部ほど対向間距離が漸次大きくなるように前記生地部送り込み部4の縫目移動ガイド溝4Sの延長線に対して左右均等に傾斜させて平面視でほぼ逆ハの字状に配置されている。
【0023】
前記上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLのうち、上部の無端ベルト3LU,3RUは、
図2に明示されているように、それぞれ上部取付台15LU,15RUに生地部移送方向に適宜間隔を隔てて軸支された複数個(実際は2個)の歯付きプーリ16LU、16RUに巻掛けられている一方、下部の無端ベルト3LL,3RLは、
図4に明示されているように、それぞれ下部取付台15LL,15RLに生地部移送方向に適宜間隔を隔てて軸支された複数個(実際は2個)の歯付きプーリ16LL、16RLに巻掛けられている。以上のように構成される生地部強制移送装置3L,3Rが、縁かがり縫いされた衣類における左右二枚の生地部UW、LWを縫目Sの長手方向に対して直交する方向の両側に展開した状態で前記左右二枚の生地部UW,LWを上下から挟み保持して該左右二枚の生地部UW,LWを前記YL、YR方向に向けて強制移送する。
【0024】
前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rにおける上部の無端ベルト3LU,3RU及び前記左右二個のローラ12L,12Rの上部位置に配置の中間取付台17に軸支された歯付きプーリ18に巻き付けられている強制送り込み用上部回転体としての無端ベルト19が、前記枠フレーム2の中間垂直フレーム部2Mに固定支持された駆動モータ20に中継用伝動ベルト21を介して連動連結されて駆動回転式に構成されている一方、下部の無端ベルト3LL,3RLは、非駆動で上部の無端ベルト3LU,3RUとの間に生地部を挟み保持して移送するときに移送面が同一方向へ向けて移動するような従動回転式に構成されている。
【0025】
前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rのうち、上部の無端ベルト3LU,3RUを巻掛ける歯付きプーリ16LU,16RUを回転可能に軸支する上部取付台15LU,15RUは、
図2に明示されているように、固定部となる中間ブロック24に上部ガイドピン25LU,25RUを介して上下軸心周りに回転可能に支持されているとともに、前記中間ブロック24の左右両側面部に螺合させたネジ26LU,26RUを介して任意の回転位置で固定可能に構成されている。
【0026】
一方、下部の無端ベルト3LL,3RLを巻掛ける歯付きプーリ16LL,16RLを回転可能に軸支する下部取付台15LL,15RLは、
図4に明示されているように、固定部となる前記ロアブロック10に下部ガイドピン25LL,25RLを介して上下軸心周りに回転可能に支持されているとともに、前記ロアブロック10の左右両側面部に螺合させたネジ26LL,26RLを介して任意の回転位置で固定可能に構成されている。
【0027】
前記上部ガイドピン25LU,25RU及び下部ガイドピン25LL,25RLはそれぞれ前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rによる強制移送経路の中央部付近に配置されており、前記上部取付台15LU,15RU及び下部取付台15LL,15RLを上部ガイドピン25LU,25RU及び下部ガイドピン25LL,25RLそれぞれの上下軸心周りに回転させ任意の回転位置で固定することにより、上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLの移送方向終端部の対向間距離が変更可能に構成されている。
【0028】
前記中間ブロック24と前記各無端ベルト3LU,3RU及び強制送り込み用上部回転体としての無端ベルト19の各巻掛け用上部歯付きプーリ(部品番号省略)を軸支するブラケット29は前記枠フレーム2の上側水平フレーム部2Uの前端部に固定の上下スライドレール27に沿って上下に昇降可能に支持された昇降板部材30に固定されており、該昇降板部材30をシリンダ28によりスライドレール27に沿って駆動昇降させることによって、前記強制送り込み用無端ベルト19を前記左右二個のローラ12L、12Rに接近させて左右二枚の生地部を後方へ強制送り込みするとともに、前記上部の無端ベルト3LU,3RUの各移送面を下部の無端ベルト3LL,3RLの各移送面に接近させて衣類の左右二枚の生地部を挟み保持して強制移送する状態と、前記強制送り込み用無端ベルト19を前記左右二個のローラ12L、12Rの上方に離間させるとともに、前記上部の無端ベルト3LU,3RUの各移送面を下部の無端ベルト3LL,3RLの各移送面から上方に離間させて上部の無端ベルト3LU,3RUと下部の無端ベルト3LL,3RLの対向移送面間に空隙部44を形成することで筒状の衣類であっても縫目拡張後の該筒状衣類を前記生地送り込み部4の上流側に抜き出し可能とする状態と、に切替自在に構成されている。
【0029】
前記強制送り込み用無端ベルト19の中間部には歯付きアイドルプーリ31が配置されており、この歯付きアイドルプーリ31は前記中間ブロック24に固定されたアイドラーブロック32に回転可能に軸支されている。
【0030】
また、前記強制送り込み用下部回転体としての左右二個のローラ12L、12Rは、ロアブロック10の上面部の凹溝14L、14R内に自由回転可能に軸支されており、前記強制送り込み用無端ベルト19が下降されて前記ローラ12L,12Rの上部周面に接近した状態で衣類の強制送り込みを行い、このとき、前記ローラ12L,12Rは前記無端ベルト19に同期して従動回転するように構成されている。
【0031】
前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rの移送終端部に続く箇所には、該左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rにより縫目Sが拡張された衣類SWの移送方向先端部が前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rから送り出されたか否かを検知する検知器40と、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rから排出されてくる縫目拡張済の衣類SWを縫目Sの長手方向に向けて引続き強制的に排出移送する縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35と、が設けられている。
【0032】
前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35は、
図1に示すように、縫目の長手方向に対して直交する左右方向に並設された複数条、具体的には二条の断面円形無端ベルト35L,35Rから構成されている。これら二条の断面円形無端ベルト35L,35Rは、前記縫目拡張済衣類の強制排出移送方向Zに間隔を置いた2個所に配置されて昇降台36に支承された2つのプーリ37a,37b、前記駆動モータ20に中継用伝動ベルト22を介して連動連結されて駆動モータ20からの駆動力を受動する中間軸38に固定されたプーリ37c及び前記2つのプーリ37a,37bの上方位置に配置されて前記断面円形無端ベルト35L,35Rの外周部に接触するアイドルプーリ37dの間に亘って無端回動可能に巻掛けられている。
【0033】
前記昇降台36に支承された2つのプーリ37a,37b間に略水平に位置する二条の無端ベルト部分が前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35における実質的な強制排出移送部35Aを形成しており、該強制排出移送部35Aが前記枠フレーム2の下側水平フレーム部2Lの上面からなる縫目拡張済衣類の排出移送案内面2Laに対向している。
【0034】
前記昇降台36は、前記枠フレーム2の上側水平フレーム部2Uの前部に取り付けられたシリンダ41により駆動昇降自在に構成されている。前記シリンダ41は、前記検知器40の検知動作に応じて伸縮され、このシリンダ41の伸縮に応じて前記昇降台36が駆動昇降されて前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35における実質的な強制排出移送部35Aが前記排出移送案内面2Laに接近離間するように構成されている。
【0035】
具体的には、前記検知器40が縫目拡張済衣類の移送方向先端部を検知した動作に応じて前記シリンダ41が伸長されて前記昇降台36が駆動下降されることによって、
図8に示すように、前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35における実質的な強制排出移送部35Aが前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rから前記排出移送案内面2La上に排出されてくる縫目拡張済衣類SWの上面に接触されて該衣類SWを縫目の長手方向である前記強制排出移送方向Zに強制的に排出移送する第1状態と、前記検知器40が前記縫目拡張済衣類の移送方向終端部を検知した動作に応じて前記シリンダ41が収縮されて前記昇降台36が駆動上昇されることによって、
図9に示すように、前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35における実質的な強制排出移送部35Aが前記縫目拡張済衣類SWから上方に離間されて該衣類SWの強制排出移送を行わない第2状態と、に自動的に切換えられるように構成されている。
【0036】
また、前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35を構成する二条の断面円形無端ベルト35L,35Rを無端回動可能に巻掛けている4個のプーリ37a~37dのうち、前記昇降台36に支承された2つのプーリ37a,37b及びアイドルプーリ37dは、前記検知器40が縫目拡張済衣類SWの移送方向始端部を検知した動作に応じて前記第2状態から前記第1状態に切換えられる時及び前記検知器40が縫目拡張済衣類SWの移送方向終端部を検知した動作に応じて前記第1状態から前記第2状態に切換えられる時に前記断面円形無端ベルト35L、35Rが外れないように屈曲動作するリンク機構42に支持されている。
【0037】
前記リンク機構42は、
図10の概略動作線図に示すように、支点P1の周りを揺動可能な1つの腰折れリンク42aと前記支点P1の下方位置で上下に配置の支点P2,P3の周りを上下に揺動可能な平行四連式の2つのリンク42b,42cとを有するとともに、前記2つのリンク42b,42cのうち一方のリンク42bの支点P2から斜め上方への延長リンク部42b1の遊端部と前記腰折れリンク42aの遊端部とを枢支連結して構成されている。前記リンク機構42の前記腰折れリンク42aの一部に前記アイドルプーリ37dを回転可能に支承するプーリ支持片43が取り付けられているとともに、前記平行四連式の2つのリンク42b,42cの遊端部間が前記昇降台36により連結されている。
【0038】
なお、本実施の形態の衣類の縫目拡張装置Mには、図示を省略するが、該装置Mの作動をON/OFFする起動スイッチ及び足踏みペダルが設けられており、前記起動スイッチONにして足踏みペダルを踏み返すことにより、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rにおける上部の無端ベルト3LU,3RU及び縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35における実質的な強制排出移送部35Aが共に上昇される。この状態で前記足踏みペダルを中立位置に操作することにより、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rにおける上部の無端ベルト3LU,3RUが下降する。さらに、この状態から前記足踏みペダルを踏み込むことにより、駆動モータ20が作動して前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rにおける上部の無端ベルト3LU,3RU及び前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35における二条の断面円形無端ベルト35L,35Rが同時に回転開始されるように構成されている。
【0039】
次に、上記のように構成された本実施の形態に係る衣類の縫目拡張装置Mを用いて、オーバーロックミシンを用いた縁かがり縫いによってJISの表記記号クラス505に分類される
図12に示すような収縮状態の縫目Sが形成された衣類SW、例えば、
図11に示すスポーツウェアにおける各縫目Sを拡張する動作について説明する。
【0040】
まず、起動スイッチをONにした状態で足踏みペダルを踏み返すことにより、
図9に示すように、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rにおける上部の無端ベルト3LU,3RU及び縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35における実質的な強制排出移送部35Aが共に上昇される。このとき、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rにおける上部の無端ベルト3LU,3RU及び前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35における二条の断面円形無端ベルト35L,35Rは回転停止したままである。
【0041】
次に、前記足踏みペダルを中立位置に操作することにより、
図7に示すように、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rにおける上部の無端ベルト3LU,3RUが下降して該上部の無端ベルト3LU,3RUの各移送面が下部の無端ベルト3LL,3RLの各移送面に接近して衣類の左右二枚の生地部を挟み保持して強制移送する状態になる。
【0042】
続いて、前記足踏みペダルを踏み込むことにより、駆動モータ20が作動して前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rにおける上部の無端ベルト3LU,3RU及び前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35における二条の断面円形無端ベルト35L,35Rが同時に回転開始される。
【0043】
この状態で、JISの表記記号クラス505に分類される縫目Sが形成されたスポーツウェアなどの衣類SWの生地部で、縫目形成時には上下に重ね合わせられていた上下二枚の生地部UW,LWを縫目Sの左右両側に展開した上、収縮状態の縫目Sが縫目移動ガイド溝4Sに嵌り、該移動ガイド溝4Sに沿って移動ガイドされるように生地部送り込み部4にセットする。
【0044】
すると、前記左右両側に展開された生地部UW,LWが前記強制送り込み用無端ベルト19と二個のローラ12L,12Rとを介して強制移送されて生地部の先端から前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rにおける上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLの対向移送面間に送り込まれて
図6に示すように、挟み保持されたのち、前記左右の生地部UW,LWが左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rにより矢印YL,YR方向にそれぞれ強制移送される。
【0045】
この強制移送時に前記一対の生地部強制移送装置3L,3Rの対向間距離が漸次大きくなるため、強制移送の進行に伴って左右二枚の生地部UW,LWには縫目Sの長手方向に対して直交する方向の引張り力が付与され該縫目Sが自動的かつ連続的に順次拡張されることになり、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rを通過後には、左右二枚の生地部UW,LWの端縁UWe、LWeが
図13及び
図14に示すような突き合わせ縫い状態となり、着用感の高い平滑な裏面と美観に優れた表面とを有するスポーツウェア等の衣類SWに仕上げられる。
【0046】
上記のようにして、縫目Sが拡張された左右二枚の生地部UW,LW(スポーツウェア等の衣類SW)の移送方向先端部が前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rから前記排出移送案内面2La上に送り出されたとき、その先端部を検知器40が検知し、その検知動作に応じてシリンダ41が伸長して前記昇降台36が駆動下降されることによって、
図8に示すように、前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35における実質的な強制排出移送部35Aが前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rから前記排出移送案内面2La上に排出された縫目拡張済衣類SWの上面に接触して該衣類SWを縫目Sの長手方向である前記強制排出移送方向Zに強制的に排出移送する。
【0047】
そして次に、縫目拡張済衣類SWの移送方向終端部を前記検知器40が検知したとき、その検知動作に応じて前記シリンダ41が収縮して前記昇降台36が駆動上昇されて前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35における実質的な強制排出移送部35Aが前記排出移送案内面2Laの上方に離間する一方、その後に前記足踏みペダルを踏み返し操作することにより、前記駆動モータ20の作動が停止されるとともに、
図9に示すように、シリンダ28を介して昇降部材30が駆動上昇されて、前記上部の無端ベルト3LU,3RUの各移送面が下部の無端ベルト3LL,3RLの各移送面から上方に離間されて上部の無端ベルト3LU,3RUと下部の無端ベルト3LL,3RLの対向移送面間に空隙部
44が形成された状態となる。
【0048】
この
図9の状態において、縫目拡張済衣類SWが
図11に示すスポーツウェアなどの筒状衣類であっても、該筒状衣類SWを前記空隙部
44を通して前記生地部送り込み部の上流側に素早く抜き出し、それ以降は前述と同様な作用を繰り返すことで複数の衣類に対する縫目拡張作業を次々と実行する。
【0049】
上記のように、本実施の形態に係る衣類の縫目拡張装置Mは、縁かがり縫い後の生地部を縫目Sの長手方向に対して直交する左右両側に展開してセットするといった最少限の手間と時間をかけるのみで、また、人力にて強い引張り力をかけるといった作業労力も要することなく、縫目Sをその全長に亘って確実かつ効率的に拡張して、生地部が着用感の高い平滑な裏面と美観に優れた表面とを有する衣類を得ることができ、スポーツウェアSWやパンティストッキングなどのように弾力性、伸縮性に富む生地素材を用い、針糸及びルーパ糸としてウーリー糸のような高伸度の糸を使用して作製されることが多い関係から縫目Sが強い収縮状態となる衣類であっても、その縫目Sを自動的に確実、迅速かつ均一に拡張することができる。
【0050】
特に、一対の生地部移送装置3L,3Rの対向間距離を移送方向の終端部ほど漸次大きくなるように配置して縁かがり縫い後の左右二枚の生地部UW,LWを強制移送しながら該二枚の生地部UW,LWを繋ぐ縫目Sにその長手方向に対して直交する引張り力を無理なく徐々にかけることができるので、例えば、強制移送時に縫目Sを含む生地部分を勾配カムに沿って摺接移動させることで前記引張り力を付与する形式の固定式拡張装置や、強制移送されてくる縫目を含む生地部分を順次掻き込むとともに、その掻き込んだ生地部分を生地部の表裏方向の一方に回転移送する駆動回転体により前記引張り力を付与する形式の回転掻き込み式拡張装置を用いる場合に比べて、生地に余分な摩擦や無理な力等をかけることがないので、生地に擦過傷や局部破れなどを生じることがなく、仕上がりのよい縫目拡張を行うことができる。
【0051】
加えて、縫目Sの収縮度合いに応じて、前記上部取付台15LU,15RU及び下部取付台15LL,15RLを上部ガイドピン25LU,25RU及び下部ガイドピン25LL,25RLそれぞれの上下軸心周りに回転させ、かつ、任意の回転位置でネジ26LU,26RU及びネジ26LL,26RLを介して固定することにより、上下一対の無端ベルト3LU,3LL及び3RU,3RLの移送方向終端部の対向間距離を任意に変更することが可能である。そのため、スポーツウェアやパンティストッキングなどのように弾力性、伸縮性に富む生地素材が用いられ、針糸及びルーパ糸としてウーリー糸のような高伸度の糸が使用される関係から種々変化する縫目の収縮度合いがいかなる衣類であっても、その縫目を確実かつ適正に見栄え良く拡張して仕上りの良い衣類を生産することができる。
【0052】
また、本実施の形態のように、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rが、それぞれ移送面を上下に対向して配置された上下一対の移送装置としての上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLから構成されている場合は、縁かがり縫い後、左右両側に展開された二枚の生地部UW,LWがそれぞれ上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLの上下対向移送面間に挟まれて強制移送されることになるため、左右二枚の生地部UW,LWを確実かつ均等に所定方向に強制移送することが可能で、縫目Sを左右に均一に拡張し、一層仕上りのよい衣類を得ることができる。
【0053】
また、本実施の形態に示すように、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rを構成する上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLのうち、上部の無端ベルト3LU,3RUを、駆動モータ6に連動連結させて駆動回転式に構成する一方、下部の無端ベルト3LL,3RLは、非駆動で上部の無端ベルト3LU,3RUとの間に生地部を挟んで移送するときに移送面が同一方向へ向けて移動するような従動回転式に構成する場合は、縁かがり縫い後、左右両側に展開された二枚の生地部UW,LWが対向配置された一対の無端ベルト間に挟まれた状態で、上部の無端ベルト3LU,3RUの駆動回転に伴い下部の無端ベルト3LL,3RLを従動回転させながら強制移送されることになるため、左右の生地部UW,LWには殆ど移送抵抗がかからず、強制移送に伴う所定の縫目拡張機能を確実かつ円滑に発揮させることが可能である。
【0054】
また、本実施の形態に示すように、前記一対の生地部強制移送装置3L,3Rの移送方向下流箇所に該一対の生地部強制移送装置3L,3Rにより縫目が拡張された衣類SWの移送方向先端部が該一対の生地部強制移送装置3L,3Rから送り出されたことを検知する検知器40の検知動作に応じて衣類から離間した第2状態にあった縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35における実質的な強制排出移送部35Aが衣類SWに接触する第1状態に切換えられることにより、縫目拡張済の衣類SWを引き続いて縫目の長手方向に向けて強制的に排出移送することができるので、縫目拡張済衣類SWが前記一対の生地部強制移送装置3L,3Rの移送方向下流箇所に停滞してそれ以降の衣類の移送などに支障を招くことを回避することができる。これにより、多数の衣類に対する縫目拡張作業を非常に順調かつ効率的に実行することができる。
【0055】
また、本実施の形態に示すように、前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35は、前記検知器40が縫目拡張済衣類SWの移送方向終端部を検知した動作に応じて前記第1状態から前記第2状態に自動的に切換えられるため、縫目拡張済衣類SWをできるだけ早く当該拡張装置Mから取り外して次の衣類の拡張を早期に開始することで、当該拡張装置Mの使用効率を高めることができる。
【0056】
また、本実施の形態に示すように、前記縫目拡張済衣類の強制排出移送装置35が、前記縫目Sの長手方向に対して直交する方向に並設された複数条(二条)の断面円形無端ベルト35L,35Rから構成され、これら断面円形無端ベルト35L,35Rが前記一対の生地部強制移送装置3L,3Rの駆動モータ20に連動連結されていることによって、前記強制排出移送装置35の縫目拡張済の衣類SWに対する接触を線接触とすることができるので、該強制排出移送装置35と前記一対の生地部強制移送装置3L,3Rとの間で多少の移送速度差が生じたとしても、その速度差を線接触部でのスベリにより吸収することが可能で、衣類に余分な力をかけないですむ。また、駆動モータ20の兼用化により、装置全体としての駆動系の構成を簡単にすることができる。
【0057】
さらに、本実施の形態に示すように、前記断面円形無端ベルト35L,35Rが、縫目拡張済衣類の強制排出移送始端部に位置する2つのプーリ37a,37b、前記駆動モータ20から駆動力を受動するプーリ37c及び断面円形無端ベルト35L,35Rの外周部に接触するアイドルプーリ37d間に亘って巻掛けられており、これらプーリ37a~37dは、前記検知器40の検知動作に応じて前記第2状態から前記第1状態へ切換えられる時及び前記第1状態から前記第2状態へ切換えられる時のいずれも前記断面円形無端ベルト35L,35Rが外れないように屈曲動作するリンク機構42に支えられているので、前記断面円形無端ベルト35L,35Rが前記プーリ7a~37dから外れるといったトラブルの発生を回避してメンテナンスフリーで使用することができる。
【0058】
また、本実施の形態では、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rの移送方向終端部の対向間距離が漸次大きくなるようにするために、一対の生地部強制移送装置3L,3Rをその強制移送経路の中央部付近に配置した軸(ガイドピン)の周りに回転固定可能としたが、これ以外に、例えば前記軸を生地部強制移送装置3L,3Rの強制移送経路の始端部又は始端部よりも更に移送方向の手前に配置してもよい。ただし、本実施の形態のように前記軸を強制移送経路の中央部付近に配置する構成とした場合は、他の構成の場合に比べて、生地部強制移送装置3L,3Rの軸周りの回転に伴う対向間距離の変化率を小さくすることが可能で、縫目の収縮度合に対する拡張機能の適応性を高めることができる。
【0059】
また、上記した実施の形態では、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rによる生地部の移送経路が水平又は略水平に形成されたものについて説明したが、生地部の移送経路が鉛直又は略鉛直に形成されたものであっても、また、上下方向に傾斜した状態に形成されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0060】
3L,3R 一対の生地部強制移送装置
3LU,3RU 上部の無端ベルト
3LL,3RL 下部の無端ベルト
4 生地部送り込み部
4S 縫目移動ガイド溝
12L,12R ローラ(強制送り込み用回転体)
20 駆動モータ
35 縫目拡張済衣類の強制排出移送装置
35L,35R 断面円形無端ベルト
37a~37d 断面円形無端ベルトの巻掛け用プーリ
40 検知器
42 リンク機構
44 空隙部
M 衣類の縫目拡張装置
SW 衣類(スポーツウェア)
UW,LW 左右の生地部
S 縫目
YL、YR 強制移送方向
Z 強制排出移送方向