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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】車両用制御方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/08 20200101AFI20220322BHJP
   B60W 40/08 20120101ALI20220322BHJP
   F16H 59/14 20060101ALI20220322BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20220322BHJP
   F16H 61/68 20060101ALI20220322BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
B60W50/08
B60W40/08
F16H59/14
F16H61/02
F16H61/68
F16H63/50
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017046932
(22)【出願日】2017-03-13
(65)【公開番号】P2018149896
(43)【公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】木口 量夫
(72)【発明者】
【氏名】藪中 翔
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄策
(72)【発明者】
【氏名】▲たか▼山 雅年
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-102650(JP,A)
【文献】特開2016-129661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
F16H 59/14
F16H 61/02
F16H 61/68
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転中の乗員の脳波に基づいて車両の走行特性を制御する車両制御方法において、
前記脳波のうち乗員による操作部の操作時において前記操作部の操作動作に対応した周波数により規定された特定周波数帯域の脳波成分の変化を時系列的に検出する特定脳波検出行程と、
前記特定脳波検出行程により検出された前記特定周波数帯域の脳波成分であって基準電位よりも低い電位状態を含んだ特定脳波成分の変化が減少傾向になる事象関連脱同期であるか判定する現象判定行程と、
前記現象判定行程で判定された事象関連脱同期の特定脳波成分に基づき乗員の動作に先行して乗員の操作要求を車両の走行特性に反映するように変更する走行特性変更行程と、
を有することを特徴とする車両制御方法。
【請求項2】
乗員によるアクセルペダルの操作時において、
前記現象判定行程は、8~23Hzの周波数帯域の脳波成分から第1事象関連脱同期を判定することを特徴とする請求項1に記載の車両制御方法。
【請求項3】
前記走行特性変更行程は、前記第1事象関連脱同期が判定されると共に前記基準電位よりも低下した直後の特定脳波成分の変化率が第1閾値以上又は前記第1事象関連脱同期が判定されると共に前記基準電位よりも低下した特定脳波成分の振幅値が第1判定値以上のとき、車両の走行特性を加速方向に変更することを特徴とする請求項2に記載の車両制御方法。
【請求項4】
乗員によるアクセルペダルの操作時において、
前記現象判定行程は、23~28Hzの周波数帯域の脳波成分から第2事象関連脱同期を判定することを特徴とする請求項1に記載の車両制御方法。
【請求項5】
前記走行特性変更行程は、前記第2事象関連脱同期が判定されると共に前記基準電位よりも低下した直後の特定脳波成分の変化率が第2閾値以上又は前記第2事象関連脱同期が判定されると共に前記基準電位よりも低下した特定脳波成分の振幅値が第2判定値以上のとき、車両の走行特性を定速方向に変更することを特徴とする請求項4に記載の車両制御方法。
【請求項6】
運転中の乗員の脳波に基づいて車両の走行特性を制御する車両制御装置において、
前記脳波のうち乗員による操作部の操作時において前記操作部の操作動作に対応した周波数により規定された特定周波数帯域の脳波成分の変化を時系列的に検出する特定脳波検出手段と、
前記特定脳波検出行程により検出された前記特定周波数帯域の脳波成分であって基準電位よりも低い電位状態を含んだ特定脳波成分の変化が減少傾向になる事象関連脱同期であるか判定する現象判定手段と、
前記現象判定手段で判定された事象関連脱同期が判定されると共に前記基準電位よりも低下した直後の特定脳波成分の変化率が所定閾値以上又は前記事象関連脱同期が判定されると共に前記基準電位よりも低下した特定脳波成分の値が所定判定値以上のとき、車両の走行特性を変更する走行特性変更手段と、
を有することを特徴とする車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転中の乗員の脳波に基づいて車両に対する乗員の操作要求を判定する車両用制御方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、人の認知過程を反映する指標として事象関連電位(Event-Related Potential: ERP)が有効であることが知られている。
ERPは、大脳皮質から発生する脳波(Electroencephalogram: EEG)を介して観察することができる事象に関連した脳の反応電位である。このERPには、人の運動に関連する現象として事象関連脱同期(Event-Related Desynchronization: ERD)と、ERDの後に発生する事象関連同期(Event-Related synchronization: ERS)とが存在している。
ERDは、頭皮上の特定部分で脳波の特定周波数帯域の電位が減少する現象であり、ERSは、頭皮上の特定部分で脳波の特定周波数帯域の電位が増加する現象である。
そこで、随意運動がERDを介して検出できることに着目し、リハビリテーション用装置等が提案されている。
【0003】
特許文献1の判定システムは、ユーザの左右各々の運動に属する部位の意図を取得するために左右半身のマストイドに夫々配置されるマストイド電極と、ユーザの耳穴に配置される耳穴電極と、マストイド電極と耳穴電極と間の電圧とを取得する脳波信号計測器と、電圧の変化にユーザの左半身に属する部位又はユーザの右半身に属する部位の運動意図が含まれるか否かを判定する判定器とを備えている。
ユーザの運動イメージ手が属する半身とは反対のマストイドに配置したマストイド電極とユーザの運動イメージ手が属する半身とは反対の耳穴に配置した耳穴電極の差分波形における所定周波数帯の電圧強度を算出し、この電圧強度がリラックス区間の所定周波数帯の電圧強度未満であればERDが存在すると判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-129661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の判定システムは、脳波から計測された電圧強度に基づいてERDの存在を判定することができ、ユーザの運動イメージ手が属する半身を検出することができる。
しかし、特許文献1の判定システムでは、ユーザが動かしたい半身に属する自身の部位を判定しているに過ぎず、ユーザが操作したいと意図する操作対象物やその操作対象物の具体的な挙動との関連性については一切考慮されていない。
【0006】
人が行動するとき、指令系である脳が、感覚入力(刺激情報)に対して知覚、認知、判断を順次行い、実行系である四肢が判断に基づき動作するという処理が行われる。
ここで、人が車両を操縦するときは、指令系である車両制御部が、操作部を介して入力された上記四肢の動作に基づき判断を行い、実行系である機能部が車両制御部の判断に基づき動作(挙動)するという処理が行われている。
即ち、ERDから得られる情報を人(人体)の領域を超えて、車両(操作対象物)の動作に反映させることにより、乗員の意思、所謂操作要求に適合した車両挙動が実行可能になると考えられる。
【0007】
また、脳波は、複数の周波数帯域の脳波成分が重畳して構成されている。
通常、脳波の成分は、低速成分の除波であるδ波(0.5~4Hz)やθ波(4~8Hz)、中速成分であるα波(8~14Hz)、高速成分の速波であるβ波(14~30Hz)等に区分されて様々な用途に用いられている。
即ち、乗員の操作要求を車両挙動に対して反映させるためには、乗員が操作する操作部や乗員が要求する車両挙動に対応した周波数帯域の脳波成分を特定し、この特定された周波数帯域成分のERDを抽出する必要があり、抽出されたERDと操作対象である操作部との関連性や、ERDと乗員が要求する車両挙動との関連性を明らかにする必要がある。
【0008】
本発明の目的は、乗員の操作要求を乗員の動作に先行して車両の走行特性に反映することができる車両用制御方法及びその装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の車両用制御方法は、運転中の乗員の脳波に基づいて車両の走行特性を制御する車両制御方法において、前記脳波のうち乗員による操作部の操作時において前記操作部の操作動作に対応した周波数により規定された特定周波数帯域の脳波成分の変化を時系列的に検出する特定脳波検出行程と、前記特定脳波検出行程により検出された前記特定周波数帯域の脳波成分であって基準電位よりも低い電位状態を含んだ特定脳波成分の変化が減少傾向になる事象関連脱同期であるか判定する現象判定行程と、前記現象判定行程で判定された事象関連脱同期の特定脳波成分に基づき乗員の動作に先行して乗員の操作要求を車両の走行特性に反映するように変更する走行特性変更行程と、を有することを特徴としている。
【0010】
この車両用制御方法では、脳波のうち乗員による操作部の操作時において前記操作部の操作動作に対応した周波数により規定された特定周波数帯域の脳波成分の変化を時系列的に検出する特定脳波検出行程を有するため、乗員が操作する操作部や乗員が要求する車両挙動に対応した周波数帯域の脳波成分を検出することができる。
特定脳波検出行程により検出された前記特定周波数帯域の脳波成分であって基準電位よりも低い電位状態を含んだ特定脳波成分の変化が減少傾向になる事象関連脱同期であるか判定する現象判定行程を有するため、乗員が操作する操作部や乗員が要求する車両挙動に対応した周波数帯域成分の事象関連脱同期を抽出することができる。
現象判定行程で判定された事象関連脱同期の特定脳波成分に基づき乗員の動作に先行して乗員の操作要求を車両の走行特性に反映するように変更する走行特性変更行程を有するため、乗員による車両の操作要求を乗員の動作に先行して車両の走行特性に反映することができる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、乗員によるアクセルペダルの操作時において、前記現象判定行程は、8~23Hzの周波数帯域の脳波成分から第1事象関連脱同期を判定することを特徴としている。
この構成によれば、乗員による車両の加速走行要求を脳波を介して判定することができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記走行特性変更行程は、前記第1事象関連脱同期が判定されると共に前記基準電位よりも低下した直後の特定脳波成分の変化率が第1閾値以上又は前記第1事象関連脱同期が判定されると共に前記基準電位よりも低下した特定脳波成分の振幅値が第1判定値以上のとき、車両の走行特性を加速方向に変更することを特徴としている。
この構成によれば、第1事象関連脱同期の初期変化率が第1閾値以上のとき、乗員の加速走行要求を乗員の動作に先行して車両の走行特性に反映することができる。
また、第1事象関連脱同期の振幅値が第1判定値以上のとき、乗員の加速走行要求を車両の走行特性に確実に反映することができる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、乗員によるアクセルペダルの操作時において、前記現象判定行程は、23~28Hzの周波数帯域の脳波成分から第2事象関連脱同期を判定することを特徴としている。
この構成によれば、乗員による車両の定速走行要求を脳波を介して判定することができる。
【0014】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記走行特性変更行程は、前記第2事象関連脱同期が判定されると共に前記基準電位よりも低下した直後の特定脳波成分の変化率が第2閾値以上又は前記第2事象関連脱同期が判定されると共に前記基準電位よりも低下した特定脳波成分の振幅値が第2判定値以上のとき、車両の走行特性を定速方向に変更することを特徴としている。
この構成によれば、第2事象関連脱同期の初期変化率が第2閾値以上のとき、乗員の定速走行要求を乗員の動作に先行して車両の走行特性に反映することができる。
また、第2事象関連脱同期の振幅値が第2判定値以上のとき、乗員の定速走行要求を車両の走行特性に確実に反映することができる。
【0015】
請求項6の発明は、運転中の乗員の脳波に基づいて車両の走行特性を制御する車両制御装置において、前記脳波のうち乗員による操作部の操作時において前記操作部の操作動作に対応した周波数により規定された特定周波数帯域の脳波成分の変化を時系列的に検出する特定脳波検出手段と、前記特定脳波検出行程により検出された前記特定周波数帯域の脳波成分であって基準電位よりも低い電位状態を含んだ特定脳波成分の変化が減少傾向になる事象関連脱同期であるか判定する現象判定手段と、前記現象判定手段で判定された事象関連脱同期が判定されると共に前記基準電位よりも低下した直後の特定脳波成分の変化率が所定閾値以上又は前記事象関連脱同期が判定されると共に前記基準電位よりも低下した特定脳波成分の値が所定判定値以上のとき、車両の走行特性を変更する走行特性変更手段と、を有することを特徴としている。
【0016】
この車両用制御装置では、脳波のうち乗員による操作部の操作時において前記操作部の操作動作に対応した周波数により規定された特定周波数帯域の脳波成分の変化を時系列的に検出する特定脳波検出手段を有するため、乗員が操作する操作部や乗員が要求する車両挙動に対応した周波数帯域の脳波成分を検出することができる。
特定脳波検出行程により検出された前記特定周波数帯域の脳波成分であって基準電位よりも低い電位状態を含んだ特定脳波成分の変化が減少傾向になる事象関連脱同期であるか判定する現象判定手段を有するため、乗員が操作する操作部や乗員が要求する車両挙動に対応した周波数帯域成分の事象関連脱同期を抽出することができる。
現象判定手段で判定された事象関連脱同期が判定されると共に前記基準電位よりも低下した直後の特定脳波成分の変化率が所定閾値以上又は前記事象関連脱同期が判定されると共に前記基準電位よりも低下した特定脳波成分の値が所定判定値以上のとき、車両の走行特性を変更する走行特性変更手段を有するため、乗員による車両の操作要求を乗員の動作に先行して車両の走行特性に反映することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両用制御方法及びその装置によれば、特定脳波成分の事象関連脱同期を介して乗員の操作要求を乗員の動作に先行して車両の走行特性に反映することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1に係る車両の概略構成図である。
図2】システム構成図である。
図3】第1周波数帯域の脳波成分に係るERPを示すグラフである。
図4】第2周波数帯域の脳波成分に係るERPを示すグラフである。
図5】目標駆動力マップである。
図6】通常モードの変速マップである。
図7】加速モードの変速マップである。
図8】定速モードの変速マップである。
図9】定速モードにおいて定速走行要求ありと確定されたときの説明図である。
図10】加速モード設定の処理手順を示すフローチャートである。
図11】定速モード設定の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下の説明は、本発明を車両の制御装置に適用したものを例示したものであり、本発明、その適用物、或いは、その用途を制限するものではない。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の実施例1について図1図11に基づいて説明する。
車両1は、脳波を介して乗員の操作要求を判定すると共に、判定された乗員の操作要求に基づいて走行特性を通常モードと加速モードと定速モードのうち何れかの運転モードに設定可能な制御装置2を有している。
尚、以下の説明は、車両用制御方法の説明を含むものである。
【0021】
図1に示すように、車両1は、エンジン3と、自動変速機(以下、ATと示す)4と、差動装置5とを有し、エンジン3のトルクが、AT4、差動装置5及び車軸6を介して左右1対の駆動輪7に伝達されている。
更に、車両1は、乗員に踏込み及び踏戻し操作されるアクセルペダル8と、エンジン3のスロットルバルブ3aの開度を制御するアクチュエータ9と、後述する目標駆動力マップM1に基づきエンジン制御を実行すると共に変速マップM2(M3,M4)に基づき変速制御を実行するコントロールユニット10と、アクセルペダル8の操作量Sを検出するアクセルセンサ11と、エンジン3の回転数を検出する回転数センサ12と、AT4の出力回転数から車両1の車速Vを検出する車速センサ13と、AT4の入力軸及び出力軸の回転数を検出する回転数センサ(図示略)等を備えている。
【0022】
次に、制御装置2について説明する。
図2に示すように、制御装置2は、脳波計21(特定脳波検出手段)と、現象判定部22(現象判定手段)と、特性判定部23(操作要求判定手段)と、走行特性変更機構24(走行特性変更手段)等を備えている。
【0023】
脳波計21は、乗員が装着可能なキャップ又はヘッドセットを介して乗員の脳波を測定し、測定した脳波信号をアンプ(図示略)に出力する。
具体的には、脳波計21は、複数の電極を有し、それらの複数の電極によって乗員の頭部の複数点における脳波を時系列に測定している。そして、この脳波計21は、時系列に測定された複数点における脳波信号を生成してアンプに送信し、アンプは、脳波計21から受信した脳波信号を増幅して生成した脳波信号(脳波W)を現象判定部22(コントロールユニット10)に送信している。
【0024】
現象判定部22は、脳波計21から受信した脳波Wから8~23Hzの周波数帯域の脳波成分W1と23~28Hzの周波数帯域の脳波成分W2とを抽出し、これら脳波成分W1,W2の変化が減少傾向になる第1,第2事象関連脱同期(以下、事象関連脱同期をERDと示す)を夫々判定している。
本発明者が、検討を重ねた結果、8~23Hzの周波数帯域の脳波成分W1は車両1を積極的に操作したいという乗員の操作要求(特に加速走行要求)に対応して発生し、23~28Hzの周波数帯域の脳波成分W2は現状の走行状態を維持したいという乗員の操作要求(特に定速走行要求)に対応して発生することが知見された。
そこで、特定された周波数帯域成分である脳波成分W1,W2について、第1,第2ERDの発生の有無を夫々判定している。
【0025】
特性判定部23は、ERDが運動想起時や実際の運動開始直前から検出されることから、現象判定部22で判定された第1,第2ERDの初期変化率ΔW1,ΔW2が夫々第1,第2閾値A1,A2以上のとき、乗員による車両1の操作要求があると判定している。
図3に示すように、乗員が加速操作した場合、アクセルペダル8の操作を開始する0secよりも前段階にも拘らず、第1ERDの初期変化率ΔW1が第1閾値A1以上になるため、初期変化率ΔW1が第1閾値A1以上のとき、乗員による加速走行要求があると判定する。この場合、加速モードに該当するため、加速モードフラグFが0から1に設定される。また、乗員の加速走行要求が高い場合、脳波成分W1の負側における振幅幅W1aが第1判定値B1以上になるため、脳波成分W1の振幅幅W1aが第1判定値B1(例えば、1.5μV)以上のとき、乗員による加速走行要求があると確定する。
図4に示すように、乗員がアクセルペダル8を維持するよう定速操作した場合、乗員が具体的な定速走行操作を行う前段階にも拘らず、第2ERDの初期変化率ΔW2が第2閾値A2以上になるため、初期変化率ΔW2が第2閾値A2以上のとき、乗員による定速走行要求があると判定する。この場合、定速モードに該当するため、定速モードフラグGが0から1に設定される。また、乗員の定速走行要求が高い場合、脳波成分W2の負側における振幅幅W2aが第2判定値B2以上になるため、脳波成分W2の振幅幅W2aが第2判定値B2(例えば、2.5μV)以上のとき、乗員による定速走行要求があると確定する。
【0026】
走行特性変更機構24は、目標駆動力マップ変更部24aと、変速マップ変更部24bとを備え、特性判定部23にて判定された乗員の操作要求に基づきエンジン制御部14の制御特性及び変速制御部15の制御特性を夫々変更している。
目標駆動力マップ変更部24aには、目標駆動力マップM1が格納され、変速マップ変更部24bには、変速マップM2~M4が格納されている。
図5に示すように、目標駆動力マップM1は、横軸がアクセル操作量S、縦軸が駆動力Pによって規定され、駆動力Pは乗員のアクセル操作量Sに比例するように設定されている。
図6図8に示すように、変速マップM2~M4は、横軸が車速V、縦軸がアクセル操作量Sによって規定され、車両1の変速段は車速Vと乗員のアクセル操作量Sとに基づいて設定されている。尚、アクセル操作量Sとスロットルバルブ3aとは連動するため、変速マップM2~M4の縦軸をアクセル操作量Sに代えて、スロットルバルブ3aの開度にしても良い。
【0027】
目標駆動力マップ変更部24aは、特性判定部23にて加速走行要求ありと判定されたとき、目標駆動力マップM1を通常モードから加速モードに変更し、加速走行要求ありと確定されたとき、加速モードの加速傾向を更に高くしている。
図5に示すように、車両1の走行特性が通常モードのとき、駆動特性ラインN1に基づきエンジン制御が実行され、加速モードのとき、駆動特性ラインN1に基づくエンジン制御を中止して駆動特性ラインN1よりも加速傾向が高い駆動特性ラインN2に基づきエンジン制御が実行される。これにより、加速モードでは、通常モードよりも高い走行性能を確保することができる。更に、加速走行要求ありと確定されたとき、駆動特性ラインN2よりも加速傾向が高い駆動特性ラインN3に基づきエンジン制御が実行される。これにより、駆動特性ラインN2よりも更に高い走行性能を確保することができる。
尚、加速モードは、定速走行要求ありと判定されたときに解除される。
【0028】
また、目標駆動力マップ変更部24aは、特性判定部23にて定速走行要求ありと確定されたとき、駆動特性ラインN1の周囲にヒステリシス領域Nを設定している。
図9に示すように、駆動特性ラインN1にアクセル操作量Sが大きい程不感帯的領域が拡大する領域Nを設定している。これにより、アクセル操作量Sがαにおいて、定速走行要求ありと確定された場合、アクセル操作量Sがα1からα2までの間を若干移動しても、駆動力Pは一定のβに維持されている。これにより、アクセルペダル8の微小変位に伴う駆動力Pの変更を遅延することができ、駆動力Pの変動を抑制することができる。
尚、領域Nは、αからα1までの距離とαからα2までの距離が等しくなるように駆動特性ラインN1の傾斜角度に応じて設定されている。
【0029】
変速マップ変更部24bは、特性判定部23にて加速走行要求ありと判定されたとき、通常モードの変速マップM2を加速モードの変速マップM3に変更している。
図6に示すように、変速マップM2は、シフトアップラインU1~U3が車速u1~u3から夫々所定の傾斜で設定され、シフトダウンラインD1~D3が車速d1~d3(d1<u1,d2<u2,d3<u3)から夫々所定の傾斜で設定されている。尚、シフトアップラインU1~U3は、1速から2速、2速から3速、3速から4速へのシフトアップ用切替ラインを夫々示し、シフトダウンラインD1~D3は、2速から1速、3速から2速、4速から3速へのシフトダウン用切替ラインを夫々示している。
図7に示すように、変速マップM3は、シフトアップラインU1~U3が夫々高速側に平行移行されたシフトアップラインU1a~U3aが車速u1a~u3a(u1<u1a,u2<u2a,u3<u3a)から夫々設定され、シフトダウンラインD1~D3よりも夫々高速側に移行されたシフトダウンラインD1a~D3aが車速d1a~d3a(d1<d1a,d2<d2a,d3<d3a)から夫々設定されている。U1a(U2a,U3a)とD1a(D2a,D3a)との間のヒステリシスは、U1(U2,U3)とD1(D2,D3)との間のヒステリシスと同じである。
【0030】
車両1の走行特性が通常モードのとき、変速マップM2に基づき変速制御が実行され、加速モードのとき、変速マップM2に基づく変速制御を中止して変速マップM2よりも加速傾向を高める、つまり、加速のためにシフトアップを遅延し且つ変速早期化のためにシフトダウンを先行するように変速マップM3に基づき変速制御が実行される。
これにより、加速モードでは、シフトアップラインU1a~U3aを通常モードのシフトアップラインU1~U3よりも高速側に移行して加速性を高め、シフトダウンラインD1a~D3aを通常モードのシフトダウンラインD1~D3よりも高速側に移行してシフトダウンの早期化を図ることで、通常モードよりも高い走行性能を確保している。
【0031】
また、変速マップ変更部24bは、特性判定部23にて定速走行要求ありと判定されたとき、通常モードの変速マップM2を定速モードの変速マップM4に変更している。
図8に示すように、変速マップM4は、シフトアップラインU1a~U3aが車速u1a~u3aから夫々設定され、シフトダウンラインD1~D3よりも夫々低速側に移行されたシフトダウンラインD1b~D3bが車速d1b~d3b(d1b<d1,d2b<d2,d3b<d3)から夫々設定されている。U1a(U2a,U3a)とD1b(D2b,D3b)との間のヒステリシスは、U1(U2,U3)とD1(D2,D3)との間のヒステリシスよりも大きくされている。
車両1の走行特性が定速モードのとき、通常モードの変速マップM2(又は加速モードの変速マップM3)に基づく変速制御を中止して変速マップM2(M3)よりもシフトアップラインとシフトダウンラインとのヒステリシスが大きな変速マップM4に基づき変速制御が実行される。
これにより、定速モードでは、通常モードに比べてシフトアップとシフトダウン共に変速が遅延されるため、頻繁なシフトチェンジに起因した乗員の不安感を解消でき、走行安全性を確保している。
【0032】
次に、コントロールユニット10について説明する。
図2に示すように、コントロールユニット10は、脳波成分Wと、アクセル操作量Sと、エンジン回転数と、車速Vと、変速機回転数等を入力し、エンジン3に供給する燃料噴射量や点火時期を制御している。
また、このコントロールユニット10は、アクセル操作量Sと車速Vとに基づき目標変速段を求めてAT4のコントロールバルブ(図示略)を制御している。
コントロールユニット10には、エンジン制御部14と、変速制御部15と、現象判定部22と、特性判定部23と、走行特性変更機構24等が設けられている。
【0033】
エンジン制御部14は、目標駆動力マップ変更部24aによって設定された目標駆動力マップM1とアクセル操作量Sとに基づいて目標駆動力Pを演算し、この目標駆動力Pからエンジン回転数と変速機回転数を用いて目標エンジントルクを設定した後、目標エンジントルクに基づく指令信号をエンジン3に出力している。
具体的には、AT4の変速機回転数の入力軸回転数を出力軸回転数で割って変速比を算出し、入力軸回転数をエンジン回転数で割ってトルクコンバータ(図示略)のスリップ率を算出する。更に、トルクコンバータのスリップ率に基づきトルク増幅比を算出し、目標駆動力Pを変速比で割ってAT4の入力トルク目標値を算出する。そして、入力トルク目標値をトルク増幅比で割って目標エンジントルクを設定している。
【0034】
変速制御部15は、変速マップ変更部24bによって設定された変速マップM2~M4とアクセル操作量Sと車速Vとに基づいて目標変速段を求め、この目標変速段に基づく指令信号をAT4に出力している。
【0035】
次に、図10のフローチャートに基づいて、制御装置2による加速モード設定の制御処理手順について説明する。
尚、Si(i=1,2…)は、各処理のためのステップを示す。
【0036】
図10のフローチャートに示すように、まず、S1にて、各センサ11、13,21の出力値及び各種情報を読み込み、S2に移行する。
S2では、定速モードフラグGが1か否か判定する。
S2の判定の結果、フラグGが1の場合、現時点において定速モードの実行条件が成立しているため、S3に移行する。
【0037】
S3では、加速モードフラグFが1か否か判定する。
S3の判定の結果、フラグFが1の場合、現時点以前に既に加速モードを実行しているため、S4に移行する。S3の判定の結果、フラグFが0の場合、現時点以前において加速モードを実行していないため、リターンする。
S4では、現時点から実行すべき運転モードに適合するように目標駆動力マップM1を変更するため、駆動特性ラインN2(N3)を駆動特性ラインN1に変更し、加速モードフラグFを0にして(S5)、リターンする。
【0038】
S2の判定の結果、フラグGが0の場合、現時点において定速モードの実行条件が成立していないため、S6に移行する。
S6では、第1ERDの初期変化率ΔW1が第1閾値A1以上か否か判定する。
S6の判定の結果、初期変化率ΔW1が第1閾値A1以上の場合、加速モードの成立条件を満たすため、S7に移行する。
S6の判定の結果、初期変化率ΔW1が第1閾値A1未満の場合、定速モードでもなく、また、加速モードの成立条件を満たしていないため、リターンする。
S7では、乗員による加速走行要求を車両の走行特性に反映させるため、駆動特性ラインN1を駆動特性ラインN2に変更すると共に変速マップM2を変速マップM3に変更した加速モードを設定する。これにより、乗員がアクセルペダル8の操作を開始する前に、乗員の操作要求を車両1の走行特性に反映させている。
【0039】
S8では、フラグFを1にして、S9に移行する。
S9では、脳波成分W1の振幅幅W1aが第1判定値B1以上か否か判定する。
S9の判定の結果、脳波成分W1の振幅幅W1aが第1判定値B1以上の場合、乗員は強い加速走行要求があるため、駆動特性ラインN2を駆動特性ラインN3に変更し(S10)、リターンする。これにより、乗員がアクセルペダル8の操作中において、乗員の操作要求を車両1の走行特性に更に強く反映させている。
S9の判定の結果、脳波成分W1の振幅幅W1aが第1判定値B1未満の場合、乗員は強い加速走行要求がないため、駆動特性ラインN2を維持して、リターンする。
【0040】
次に、図11のフローチャートに基づいて、制御装置2による定速モード設定の制御処理手順について説明する。
尚、定速モード設定処理は、加速モード設定処理と並行して実行される。
【0041】
図11のフローチャートに示すように、まず、S21にて、各センサ11、13,21の出力値及び各種情報を読み込み、S22に移行する。
S22では、第2ERDの初期変化率ΔW2が第2閾値A2以上か否か判定する。
S22の判定の結果、初期変化率ΔW2が第2閾値A2以上の場合、定速モードの成立条件を満たすため、S23に移行する。
S23では、乗員による定速走行要求を車両の走行特性に反映させるため、駆動特性ラインN2(N3)を駆動特性ラインN1に変更すると共に変速マップM2(M3)を変速マップM4に変更した定速モードを設定する。これにより、乗員が定速走行操作を開始する前に、乗員の操作要求を車両1の走行特性に反映させている。
【0042】
S24では、フラグGを1にして、S25に移行する。
S25では、脳波成分W2の振幅幅W2aが第2判定値B2以上か否か判定する。
S25の判定の結果、脳波成分W2の振幅幅W2aが第2判定値B2以上の場合、乗員は強い定速走行要求があるため、駆動特性ラインN1に領域Nを設定し(S26)、リターンする。これにより、乗員が定速走行操作中において、乗員の操作要求を車両1の走行特性に更に強く反映させている。
S25の判定の結果、脳波成分W2の振幅幅W2aが第2判定値B2未満の場合、乗員は強い定速走行要求がないため、駆動特性ラインN1を維持して、リターンする。
【0043】
S22の判定の結果、初期変化率ΔW2が第2閾値A2未満の場合、定速モードの成立条件を満たしていないため、S27に移行する。
S27では、フラグGが1か否か判定する。
S27の判定の結果、フラグGが1の場合、現時点以前に既に定速モードを実行しているため、S28に移行する。S27の判定の結果、フラグGが0の場合、現時点以前に定速モードを実行していないため、リターンする。
S28では、変速マップM4を変速マップM2に変更し、S29に移行する。
S29では、フラグGを0に変更して、リターンする。
【0044】
次に、上記車両用制御装置2の作用、効果について説明する。
本制御装置2によれば、脳波Wのうち特定周波数帯域の脳波成分W1,W2の変化を時系列的に検出する脳波計21を有するため、乗員が操作するアクセルペダル8や乗員が要求する車両挙動に対応した周波数帯域の脳波成分W1,W2を検出することができる。
脳波計21により検出された特定脳波成分W1,W2の変化が減少傾向になるERDであるか判定する現象判定部22を有するため、乗員が操作するアクセルペダル8や乗員が要求する車両挙動に対応した周波数帯域成分W1,W2のERDを抽出することができる。
現象判定部22で判定されたERDに基づき車両1の走行特性を変更する走行特性変更部24を有するため、乗員による車両1の操作要求を乗員の動作に先行して車両1の走行特性に反映することができる。
【0045】
現象判定部22は、8~23Hzの周波数帯域の脳波成分W1から第1ERDを判定するため、乗員による車両1の加速走行要求を脳波Wを介して判定することができる。
【0046】
走行特性変更部24は、第1ERDの初期変化率ΔW1が第1閾値A1以上又は第1ERDの振幅値W1aが第1判定値B1以上のとき、車両1の走行特性を加速方向に変更するため、第1ERDの初期変化率ΔW1が第1閾値A1以上のとき、乗員の加速走行要求を乗員の動作に先行して車両1の走行特性に反映することができる。
また、第1ERDの振幅値W1aが第1判定値B1以上のとき、乗員の加速走行要求を車両1の走行特性に確実に反映することができる。
【0047】
現象判定部22は、23~28Hzの周波数帯域の脳波成分W2から第2ERDを判定するため、乗員による車両1の定速走行要求を脳波Wを介して判定することができる。
【0048】
走行特性変更部24は、第2ERDの初期変化率ΔW2が第2閾値A2以上又は第2ERDの振幅値W2aが第2判定値B2以上のとき、乗員による定速走行要求があると判定するため、第2ERDの初期変化率ΔW2が第2閾値A2以上のとき、乗員の定速走行要求を乗員の動作に先行して車両1走行特性に反映することができる。
また、第2ERDの振幅値W2aが第2判定値B2以上のとき、乗員の定速走行要求を車両の走行特性に確実に反映することができる。
【0049】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施形態においては、乗員の加速走行要求と定速走行要求に着目し、これらの要求に対応したERDの例を説明したが、実動作に先行して発生するERDであれば良く、乗員の減速走行要求や旋回走行要求等他の要求に対応したERDに適用しても良い。
減速走行要求の場合、減速走行要求に対応した周波数帯域の脳波成分のERDを抽出し、操作部としてブレーキペダルの操作特性を変更する。旋回走行要求の場合、旋回走行要求に対応した周波数帯域の脳波成分のERDを抽出し、操作部としてステアリングの操作特性を変更する。
【0050】
2〕前記実施形態においては、初期変化率で運転モード設定し、振幅値でモード傾向を高くする2段階制御の例を説明したが、初期変化率の単独検出により運転モード設定すると同時にモード傾向を高くするように制御しても良い。
また、振幅値の単独検出により運転モード設定すると同時にモード傾向を高くするように制御しても良い。
【0051】
3〕前記実施形態においては、目標駆動力マップ及び変速マップを変更する例を説明したが、各々の特性のゲインを変更することで、走行特性を変更しても良い。
第1ERDの初期変化率が第1閾値以上の場合、第1閾値を超えた値に比例して目標駆動力マップの駆動特性ラインN1から駆動特性ラインN2までの角度をリニアに増加しても良く、変速マップのシフトアップライン及びシフトダウンラインの高速側移動量をリニアに増加しても良い。また、第1ERDの振幅値が第1判定値以上の場合、第1判定値を超えた値に比例して目標駆動力マップの駆動特性ラインN2から駆動特性ラインN3までの角度をリニアに増加しても良い。
【0052】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態や各実施形態を組み合わせた形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【符号の説明】
【0053】
1 車両
2 制御装置
21 脳波計
22 現象判定部
24 走行特性変更部
S アクセル操作量
V 車速
W 脳波
W1,W2 脳波成分
ΔW1,ΔW2 初期変化率
W1a,W2a 振幅値
A1,A2 閾値
B1,B2 判定値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11