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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】エアコンプレッサ
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/04 20060101AFI20220322BHJP
   F04B 39/12 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
F04B39/04 Z
F04B39/12 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018103529
(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公開番号】P2019206954
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000177276
【氏名又は名称】三輪精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085637
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 辰也
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5626113(US,A)
【文献】米国特許第4182283(US,A)
【文献】特開平4-231686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B39/00-39/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油が収容されたクランクケースと、前記クランクケース内に支持されたクランクシャフトと、前記クランクケースに設けられたシリンダと、前記シリンダのライナに往復動自在に嵌入されて前記クランクシャフトによって往復動されるピストンと、前記シリンダの前記クランクケースと反対側に配置されたシリンダヘッドと、前記シリンダヘッドに設けられた吸入弁および吐出弁と、を備えているエアコンプレッサであって、
前記ピストンにシリンダ穴が設けられており、前記シリンダヘッドの前記シリンダ穴に対向する位置にピストン柱が設けられており、前記ピストン柱が前記シリンダ穴に摺動自在に嵌入されており、前記ピストン柱の外周面と前記ライナの内周面との間に形成された間隙内外を連通する連通路が前記ライナに設けられている、
ことを特徴とするエアコンプレッサ。
【請求項2】
前記連通路に空気の流通のみを許容するフィルタが設置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のエアコンプレッサ。
【請求項3】
前記ライナの中間部内周面にオイルシールが設けられており、前記オイルシールの内周面は前記ピストンの外周面に摺接されている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエアコンプレッサ。
【請求項4】
前記ピストンの外周面にオイルリングが設けられており、前記オイルリングの外周面は前記ライナの内周面に摺接されている、
ことを特徴とする請求項1、2または3に記載のエアコンプレッサ。
【請求項5】
前記ライナにドレインが内外を連通するように開設されており、前記ドレインに前記潤滑油を前記クランクケースに戻すドレイン装置が接続されている、
ことを特徴とする請求項1、2、3または4に記載のエアコンプレッサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は往復動形のエアコンプレッサに関し、詳しくは、エアコンプレッサからの吐出エア中に潤滑油(オイル)が混入しないように改良するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の往復動形のエアコンプレッサにおいては、クランクケース内を潤滑室として、クランクシャフトの軸受部やコネクティングロッドとの連結部およびピストンとシリンダとの摺動面等に潤滑油を供給するように構成されている。
しかしながら、この潤滑構造においては、潤滑油が圧縮室へ上がってしまうことは回避することができないため、吐出エア中に潤滑油が混入して、後系統のエアドライヤのフィルタを汚染し、さらにはエアドライヤから外部へ排出されるエアにも油が含まれるため、周辺の環境に悪影響を与える。
そこで、吐出エア中への潤滑油の混入を阻止するために、クランクケースとシリンダとの間に仕切板を設け、該仕切板とコネクティングロッドとの間にオイルシールを設けることにより、ピストンの上方に形成される圧縮室への潤滑油の浸入を阻止するというエアコンプレッサが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-103245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記した特許文献1におけるエアコンプレッサにおいては、オイルシールに加わる横方向の荷重を軽減するため、クランク機構の大幅な改造が避けられないという問題点がある。
【0005】
本発明の目的は、クランク機構を改造することなく吐出エア中への潤滑油の混入を防止することができるエアコンプレッサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した課題を解決するための手段のうち代表的なものは、次の通りである。
潤滑油が収容されたクランクケースと、前記クランクケース内に支持されたクランクシャフトと、前記クランクケースに設けられたシリンダと、前記シリンダのライナに往復動自在に嵌入されて前記クランクシャフトによって往復動されるピストンと、前記シリンダの前記クランクケースと反対側に配置されたシリンダヘッドと、前記シリンダヘッドに設けられた吸入弁および吐出弁と、を備えているエアコンプレッサであって、
前記ピストンにシリンダ穴が設けられており、前記シリンダヘッドの前記シリンダ穴に対向する位置にピストン柱が設けられており、前記ピストン柱が前記シリンダ穴に摺動自在に嵌入されており、前記ピストン柱の外周面と前記ライナの内周面との間に形成された間隙内外を連通する連通路が前記ライナに設けられている、
ことを特徴とするエアコンプレッサ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エアコンプレッサのクランク機構を改造することなく吐出エア中への潤滑油の混入を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第一実施形態であるエアコンプレッサの吸気終了状態を示す縦断面図である。
図2】本発明の第一実施形態であるエアコンプレッサの排気終了状態を示す縦断面図である。
図3】本発明の第二実施形態であるエアコンプレッサの吸気終了状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を図面に即して説明する。
【0010】
図1および図2は第一実施形態を示している。
本実施形態において、本発明に係るエアコンプレッサは車両に搭載されるものとして構成されている。
本実施形態に係るエアコンプレッサ1は、シリンダ10と、シリンダ10内に往復動可能に配設されたピストン20と、シリンダ10の上部に配設されたシリンダヘッド30とを備えている。
シリンダ10の一端部(以下、下端部とする)にはクランクケース11が形成されており、クランクケース11内にはクランクシャフト12が一対の軸受13、13によって回転自在に支持されている。クランクシャフト12の中間部にはコネクティングロッド14の下端部が回転自在に連結されており、コネクティングロッド14の上端部にはピストン20のピストンピン15が回転自在に連結されている。
クランクケース11内には所定量の潤滑油が給油口(図示せず)から供給されて収容されており、クランクシャフト12の軸受13、13、クランクシャフト12とコネクティングロッド14との連結部およびコネクティングロッド14とピストンピン15との連結部が油潤滑される。
クランクシャフト12の一端部はクランクケース11外に突出されており、該突出端部には接続部16が形成されている。エンジン側の回転軸(図示せず)が接続部16に例えばキーを介して接続されることにより、クランクシャフト12は回転駆動される。
【0011】
シリンダ10の上部にはライナ17が円筒形状に形成されており、ライナ17にはピストン20が摺動自在に嵌入されている。ライナ17の中間部内周面にはオイルシール18が設けられており、オイルシール18の内周面はピストン20の上端部外周面に摺接されている。ピストン20の下端部外周面にはオイルリング19が設けられており、オイルリング19の外周面はライナ17の下端部内周面に摺接されている。
【0012】
ピストン20の下端部にはピン孔21がコネクティングロッド14に直交するように開設されており、ピン孔21にはピストンピン15が嵌入されて一対のストッパリング22、22によって抜け止めされている。ピストンピン15は円筒形状に形成されており、ピン孔21およびピストンピン15の中空部の両端はライナ17内に連通している。
ピストンピン15にはコネクティングロッド14の連結部が回転自在に嵌合されている。ピン孔21とピストンピン15との接触面、ピストンピン15とコネクティングロッド14との接触面は、クランクケース11の給油口(図示せず)から供給される潤滑油によって潤滑される。ライナ17とピストン20との摺動面にも潤滑油がクランクケース11内およびピン孔21から供給される。
【0013】
シリンダヘッド30はシリンダ10の上端開口に被せられて印籠結合部40によって位置決めされており、ボルト等の締結手段(図示せず)によって締結されている。
シリンダヘッド30には吸入路31および吐出路32がそれぞれ開設されている。吸入路31はエンジン吸気管を介してエアクリーナに接続され、吐出路32はチェック弁およ
びエアドライヤを介してリザーバに接続される。
シリンダヘッド30の下端面にはバルブプレート(弁板)33と吸入弁用リードバルブ34とが重ね合わされてボルト等の締結手段(図示せず)によって締結されている。バルブプレート33の吸入路31に対向する位置には吸入口36が開設されており、吸入口36はリードバルブ34に形成された吸入弁37によって開閉されるようになっている。バルブプレート33の吐出路32に対向する位置には、吐出口38が開設されており、吐出口38は吐出弁39によって開閉されるようになっている。
【0014】
ピストン20の上端面にはシリンダ穴25が円柱穴形状に没設されており、シリンダヘッド30のシリンダ穴25に対向する位置にはピストン柱41が円柱形状に突設されている。ピストン柱41はシリンダ穴25に摺動自在に嵌入されており、ピストン20の往復動に伴ってシリンダ穴25内を相対的に往復動するようになっている。ピストン柱41のシリンダ穴25内での往復動によりエアの圧縮作用が行われるため、シリンダ穴25およびピストン柱41は圧縮室42を構成する。
バルブプレート33はピストン柱41の下端に配置されて同一径に形成されており、その外周にはプレッシャリング43が固定されている。プレッシャリング43の外周面はシリンダ穴25の上端部内周面に摺接されている。
【0015】
ピストン柱41の外周面とライナ17の上端部内周面との間には、シリンダ穴25の側壁の厚さに対応する幅の間隙44が形成されており、間隙44にはシリンダ穴25の側壁がピストン20のライナ17に対する往復動すなわちピストン柱41のシリンダ穴25に対する相対的な往復動に追従して往復動する。
ライナ17の上端部には連通路45が間隙44の内外を連通するように開設されており、連通路45はシリンダ穴25の側壁の往復動に伴う間隙44の容積変化を許容する。連通路45には空気の流通のみを許容するフィルタ46が設置されている。すなわち、フィルタ46はエンジンルームからの塵埃や水滴の間隙44内への侵入を阻止し、かつ、空気の間隙44に対する出入りを許容する。
【0016】
次に、エアコンプレッサ1の作用を説明する。
【0017】
クランクシャフト12がエンジン等によって回転駆動されると、コネクティングロッド14を介してピストン20がライナ17内を往復動する。ピストン20がライナ17内を往復動すると、間隙44の容積変化が連通路45によって許容されているので、シリンダヘッド30に突設されたピストン柱41はピストン20に没設されたシリンダ穴25内を相対的に往復動する。
ピストン柱41のシリンダ穴25内での往復動に伴う吸入弁37および吐出弁39の作用により、圧縮室42での圧縮作用が行われ、吐出口38から所定圧に圧縮された吐出エアが吐出される。
ちなみに、プレッシャリング43は圧縮室42の圧力の漏洩を阻止する。
また、フィルタ46はエンジンルームからの塵埃や水滴の間隙44内への侵入を阻止する。
【0018】
このエアコンプレッサ1の圧縮運転中、クランクシャフト12の軸受13、13およびライナ17とピストン20との摺動面は、クランクシャフト12の回転に伴う潤滑油の跳ねかけ作用による油潤滑が行われる。また、ピン孔21、ピストンピン15およびコネクティングロッド14の各接触面はクランクケース11に設けられた給油口(図示せず)から供給される潤滑油によって潤滑される。これらの油潤滑はエアコンプレッサ1の運転中における焼きつき等の障害の発生を防止する。
【0019】
この際、シリンダ穴25とピストン柱41とで形成される圧縮室42はライナ部17と
ピストン柱41との間の間隙44を介してクランクケース11内から隔離されているので、潤滑油およびクランクケース11内で生成される所謂オイルミストが圧縮室42に侵入する現象は抑止される。
したがって、吐出口38から吐出される吐出エアに潤滑油やオイルミストが混入することは抑止される。
ちなみに、ピストン20外周面に付着した潤滑油はオイルシール18によって掻き落とされる。掻き落とされた潤滑油はライナ17とピストン20とのクリアランスを通ってクランクケース11内に戻る。
【0020】
本実施形態によれば、次の効果を得ることができる。
【0021】
(1)エアコンプレッサ1の圧縮運転中に、クランクシャフト12の軸受13、13、ライナ17とピストン20との摺動面と、ピン孔21やピストンピン15およびコネクティングロッド14の接触面とが油潤滑されるので、エアコンプレッサ1の運転中における焼きつき等の発生を防止することができる。
【0022】
(2)シリンダ穴25とピストン柱41とで形成される圧縮室42はライナ部17とピストン柱41との間の間隙44を介してクランクケース11内から隔離されているので、潤滑油およびクランクケース11内で生成される所謂オイルミストが圧縮室42に侵入するのを防止することができる。
【0023】
(3)潤滑油およびクランクケース11内で生成される所謂オイルミストが圧縮室42に侵入するのを防止することにより、吐出口38から吐出される吐出エアに潤滑油やオイルミストが混入するのを回避することができるばかりでなく、潤滑油やオイルミストが高温の圧縮空気に触れることによる炭化の発生を防止することができる。
【0024】
(4)シリンダヘッド30をライナ17に印籠結合することにより、シリンダ穴25とピストン柱41とのクリアランスを容易かつ適正に管理することができる。
【0025】
(5)ピストン20の外周面にシリンダ穴25の内周面に摺接するプレッシャリング43を設けることにより、圧縮室42の圧力の漏洩を防止することができる。
【0026】
(6)オイルシール18によって掻き落とした潤滑油をライナ17とピストン20とのクリアランスを通してクランクケース11内に戻すことにより、潤滑油が減少するのを防止することができる。
【0027】
(7)ピストン20外周面のピストンリングを廃止することにより、潤滑油を掻き上げる要因を減少させることができるので、潤滑油およびオイルミストの圧縮室42への侵入をより一層抑制することができる。
【0028】
(8)フィルタ46を連通路45に設置することにより、エンジンルームからの塵埃や水滴の間隙44内への侵入を防止することができる。
【0029】
(9)油潤滑部と圧縮室とが分離されているので、圧縮室がライナとピストンとの摺動構造の設計問題から解放されるとともに、圧縮室おける摺動部(シリンダ穴とピストン柱との対向面)のオイルレス設計の自由度を増加させることができ、ライナ、ピストンおよびシリンダヘッドのような部品の樹脂化および摺動面のコーティング材の選択肢の拡大化を推進することができる。
【0030】
(10)クランクケースとシリンダとの間の仕切板と、該仕切板とコネクティングロッド
との間にオイルシールを設ける必要がないので、エアコンプレッサのクランク機構の改造を回避することができる。
【0031】
図3は本発明の第二実施形態を示している。
本実施形態が第一実施形態と異なる点は、ライナ17におけるオイルシール18の上位置にドレイン51が内外を連通するように開設されているとともに、ドレイン51にはドレイン装置52が接続されており、ドレイン装置52にはドレイン51とクランクケース11内とを接続する排出路53と、排出路53に介設されたバッファ54と、方向切換弁55とが設けられている点、である。
方向切換弁55は常時閉じられており、エンジン停止後予め設定された時間が経過した後にソレノイドによって開かれ、開いた後に予め設定された時間が経過したらソレノイドによって閉じられる。方向切換弁55によって排出路53が閉じられている間は潤滑油がバッファ54に溜まり、方向切換弁55が開かれた時に潤滑油がバッファ54からクランクケース11内に戻される。
本実施形態によれば、第一実施形態の効果に加えて、潤滑油の減少をより一層抑制することができるという効果を得ることができる。
【0032】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々に変更が可能であることはいうまでもない。
【0033】
ドレイン装置の排出路はクランクケース内に接続するに限らず、潤滑油を循環するための給油配管に接続してもよい。
【0034】
ドレイン装置の方向制御弁はソレノイド式に構成するに限らず、パイロット式や手動式等に構成してもよい。
【0035】
吸入弁および吐出弁はリードバルブによって構成するに限らず、ディスク弁等によって構成してもよい。
【0036】
前記実施形態においては、車両に搭載されるエアコンプレッサについて説明したが、本発明はこれに限らず、他の用途に使用されるエアコンプレッサ全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…エアコンプレッサ、10…シリンダ、11…クランクケース、12…クランクシャフト、13…軸受、14…コネクティングロッド、15…ピストンピン、16…接続部、17…ライナ部、18…オイルシール、19…オイルリング、
20…ピストン、21…ピン孔、22…ストッパリング、25…シリンダ穴、
30…シリンダヘッド、31…吸入路、32…吐出路、33…バルブプレート(弁板)、34…吸入弁用リードバルブ、36…吸入口、37…吸入弁、38…吐出口、39…吐出弁、
40…印籠結合部、41…ピストン柱、42…圧縮室、43…プレッシャリング、44…間隙、45…連通路、46…フィルタ、
51…ドレイン、52…ドレイン装置、53…排出路、54…バッファ、55…方向切換弁。
図1
図2
図3