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特許7043050ケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法、ケイ素化合物被覆酸化物粒子及びそれを含むケイ素化合物被覆酸化物組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】ケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法、ケイ素化合物被覆酸化物粒子及びそれを含むケイ素化合物被覆酸化物組成物
(51)【国際特許分類】
   C01G 9/02 20060101AFI20220322BHJP
   C01G 49/02 20060101ALI20220322BHJP
   C01G 23/047 20060101ALI20220322BHJP
   C01F 17/235 20200101ALI20220322BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20220322BHJP
   C01B 13/14 20060101ALI20220322BHJP
   C09C 1/04 20060101ALI20220322BHJP
   C09C 1/24 20060101ALI20220322BHJP
   C09C 1/00 20060101ALI20220322BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20220322BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20220322BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
C01G9/02 B
C01G49/02 Z
C01G23/047
C01F17/235
G02B5/22
C01B13/14 A
C09C1/04
C09C1/24
C09C1/00
C09C1/36
C09C3/06
C09C3/08
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2017158762
(22)【出願日】2017-08-21
(62)【分割の表示】P 2017531789の分割
【原出願日】2017-05-25
(65)【公開番号】P2017218377
(43)【公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-05-14
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/066542
(32)【優先日】2016-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/083001
(32)【優先日】2016-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016111346
(32)【優先日】2016-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】595111804
【氏名又は名称】エム・テクニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100107629
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100186679
【弁理士】
【氏名又は名称】矢田 歩
(74)【代理人】
【識別番号】100189186
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】榎村 眞一
(72)【発明者】
【氏名】本田 大介
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2000/042112(WO,A1)
【文献】特開2007-131460(JP,A)
【文献】特開2017-071754(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0167138(US,A1)
【文献】国際公開第98/047476(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00-25/00
C01G 49/00-49/10
C01F 1/00-17/38
C01B 13/14
G02B 5/22
C09C 1/00-3/12
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法であり、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率を制御することによって、濡れ性及び色特性を制御することを特徴とするケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
上記濡れ性が撥水性又は撥油性であることを特徴とする請求項1に記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
上記色特性が反射率、透過率又はモル吸光係数のいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率が、全反射測定法(ATR法)を用いて測定した赤外吸収スペクトルにおける波数650cm-1から1300cm-1のケイ素化合物被覆酸化物粒子由来のピークを波形分離することで算出されるものであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
上記ケイ素化合物に含まれる官能基の変更処理を行うことによって、上記ケイ素化合物に含まれるSi-OH結合の比率を制御することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
上記官能基の変更処理が、フッ化処理であることを特徴とする請求項に記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
上記フッ化処理が、トリフルオロメチル化処理であることを特徴とする請求項に記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
上記ケイ素化合物に含まれるSi-OH結合の比率を、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた分散体の状態で制御することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法。
【請求項9】
上記分散体を熱処理することによって、上記ケイ素化合物に含まれるSi-OH結合の比率を制御することを特徴とする請求項に記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法。
【請求項10】
上記ケイ素化合物に含まれるSi-OH結合の比率を接近離反可能な相対的に回転する処理用面間において制御することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法。
【請求項11】
上記分散体が塗膜、フィルム又はガラスであり、上記分散体を熱処理することによって、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子の撥水性又は撥油性、及び色特性を制御することを特徴とする請求項又はに記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法。
【請求項12】
上記Si-OH結合の比率を低く制御することで、波長780nmから2500nmの領域における平均反射率が高くなるように制御することを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法。
【請求項13】
上記Si-OH結合の比率を低く制御することで、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を有機溶媒に分散させた分散体における、波長200nmから380nmの領域における平均モル吸光係数が高くなるように制御することを特徴とする請求項1~12のいずれかに記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法。
【請求項14】
金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記ケイ素化合物は、上記金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記金属酸化物粒子の濡れ性及び色特性を変化させ得るものであって、
全反射測定法(ATR法)を用いて測定した赤外吸収スペクトルにおける波数650cm-1から1300cm-1のケイ素化合物被覆酸化物粒子由来のピークを波形分離することで算出される、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるCF結合/Si-OH結合比率が0以上4.5以下であり、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた状態で波長200nmから380nmの領域における平均モル吸光係数が650L/(mol・cm)以上であることを特徴とするケイ素化合物被覆酸化物粒子。
【請求項15】
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率が5%以上70%以下であることを特徴とする請求項14に記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子。
【請求項16】
上記金属酸化物粒子を構成する酸化物が酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウム及び酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項14又は15に記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子。
【請求項17】
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子の波長780nmから2500nmの領域における平均反射率が50%以上であることを特徴とする請求項1416のいずれかに記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子。
【請求項18】
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた状態で、波長200nmから380nmの光線に対する平均透過率が15%以下であり、波長380nmから780mnの光線に対する平均透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1417のいずれかに記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子。
【請求項19】
上記金属酸化物粒子を構成する酸化物粒子が、2種以上の元素からなる複合酸化物粒子であり、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子の色特性が、L表色系において、40≦L≦95、-35≦a≦35、又は-35≦b≦35の範囲であることを特徴とする請求項1418のいずれかに記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子。
【請求項20】
上記ケイ素化合物が非晶質のケイ素酸化物を含むケイ素化合物であることを特徴とする請求項1419のいずれかに記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子。
【請求項21】
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を塗布した塗布面に対する水滴の接触角が110°以上であることを特徴とする請求項1420のいずれかに記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子。
【請求項22】
請求項1421のいずれかに記載のケイ素化合物被覆酸化物粒子を含むことを特徴とする、紫外線防御かつ撥水又は撥油用ケイ素化合物被覆酸化物組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法、ケイ素化合物被覆酸化物粒子及びそれを含むケイ素化合物被覆酸化物組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の外壁や看板、乗り物等の塗装体や、ガラスや透明樹脂等の透明材、並びに衣類等のテキスタイル製品のように耐候性を求められる製品には、美観や質感、又は意匠性を損なわないことに加えて、塵埃や雨水に含まれる物質等に対して汚れにくいことや汚れた場合にあっても製品に含まれる物質が有する特性を用いた自浄作用によって、長期に渡って製品及び製品に組み込まれた部品等の性能や意匠性を劣化させない特性が求められている。そのような目的のために、特許文献1のように、製品に酸化チタン等の光触媒能を有する酸化物粒子を含む層を形成することで、光触媒能による親水化や汚れの原因となる有機物等の分解によって、自浄作用を付与することが提案されている。しかしながらそのような方法においては、一旦は上記光触媒能を有する酸化物粒子を含む製品塗膜等に汚れの原因となる有機物等を付着や吸着させる。そして、その後酸化チタン等が有する光触媒能によって分解するものであるため初めから付着、吸着させないものが望まれている。また、製品や塗膜に含まれる樹脂や材料周辺の有機物等の分解をも引き起こし、製品の塗膜や製品自体の有する機能、又は意匠性を低下させる等の問題があった。
【0003】
そのため、特許文献2に記載されたように、有機物の撥水剤を用いた塗膜等が提案されているが、それらにおいては、有機物自体が紫外線等に対して分解しやすいことなど、耐久性の観点から不安定であるために耐候性の高い無機物の撥水性剤が切望されていた。特許文献3又は4に提案されたような撥水性を有する酸化物粒子を含む被膜を製品に対して形成することによって、撥水性を付与し、着水の防止や水滴の付着を防止することが提案されている。しかしながら、特許文献3に記載された撥水性を有する酸化物微粒子は、疎水性シリカであり、撥水性が不十分な場合があったことに加えて、撥水性以外の要求特性である、紫外線防御能や近赤外線防御能を兼ね備えた材料や繊細に色特性が制御された材料、及びそれらを用いた組成物については開示されていなかった。また特許文献4に記載された金属酸化物微粒子を用いた撥水性基材においては、上記金属酸化物粒子の凝集体によって基材の表層に形成された凹凸によって撥水性を得ている所が大きく、金属酸化物微粒子そのものの撥水性が向上されているかどうかは定かではない。また、特許文献4に記載されている紫外線遮蔽や赤外線遮蔽については、上記金属酸化物微粒子の凝集体を用いた被膜を形成するための基体に付与されていても良い特性であり、さらに特許文献4の実施例に記載された波長300nmから1300nmの領域における平均反射率も5%以下と非常に低いものであるため、特許文献3と同様に、撥水性と紫外線防御能又は近赤外線防御能を兼ね備えた材料及びそれを用いた組成物については開示されていなかった。
【0004】
また、特許文献5には、シリカ被覆金属酸化物粒子をさらにジメチルエトキシシランのような疎水性付与材にて表面処理した粒子が記載されているが、化粧料を目的としてトリイソステアリン酸ポリグリセリンやシリコーンオイル、スクワラン等の油性分散媒への分散性を高めるために粒子を疎水性付与材で処理しているに過ぎない。また、特許文献5には、赤外吸収スペクトルにおける1150~1250cm-1に見られるピークが、Si-OHの変角振動の吸収であると記載されているが、通常はSi-Oの結合に帰属されるべきであり、Si-OHとの記載は明らかな誤記である。そのため、特許文献5においてはシリカ被覆金属酸化物に含まれるSi-OH基の量を制御するものではない。すなわち特許文献5においても、特許文献3と同様に、撥水性と紫外線防御能又は近赤外線防御能を兼ね備えた材料及びそれを用いた組成物については開示されていなかった。
【0005】
ところで、一般的に紫外線防御能は、波長200nmから380nmの範囲における単位物質量当たりの吸収性が高いほど、すなわち、「モル吸光係数」が大きい程、少量で多くの紫外線を吸収することができると言える。よって、モル吸光係数が大きければ少量で現状と同様又はそれ以上の紫外線吸収能を発揮することができるために、ヘーズ値を小さくして、塗膜等の塗布物、及び透明樹脂やフィルム又はガラス等の透明材の透明性を高め、美観や意匠性を高めることができる。
【0006】
また、近赤外線防御能においては、例えばガラスやクリアー塗膜に近赤外線を吸収する材料を用いた場合には、原理上ガラスやクリアー塗膜に吸収された近赤外線由来の熱エネルギーの半分は遮蔽できるが、他方の残り半分は、遮蔽されるべき方向に放熱されることになる。例えば近赤外線吸収剤を用いたガラスによって熱線を遮蔽した場合には、熱エネルギーの半分は室外に放出できるが、残り半分は室内に放熱されることになるために、実際の遮熱効果が十分でない。つまり、近赤外線については特に波長780nmから2500nmの範囲における反射特性が優れ、かつコストや採掘における環境負荷上も問題がない材料が求められていた。
【0007】
また、本願出願人による発明を開示する、特許文献6及び特許文献7には、接近離反可能な相対的に回転する処理用面間において酸化鉄等の各種ナノ粒子を析出させる方法を用いて均一な酸化物ナノ粒子を製造する方法が記載されている。しかし、特許文献6においては、酸化物と水酸化物の作り分けに関して記載されており、特許文献7においては均一な酸化物の製造に関して記載されているが、紫外線防御能又は近赤外防御能、並びに撥水性又は撥油性の制御に関する酸化物の製造方法については記載されていなかった。以上のことから、効果的に紫外線又は近赤外線を防御し、かつ撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性が制御された材料及び組成物が懇願されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-286916号公報
【文献】特開2017-8268号公報
【文献】特開2010-155727号公報
【文献】国際公開第2010-007956号パンフレット
【文献】国際公開第2000-42112号パンフレット
【文献】特許第4868558号公報
【文献】国際公開第2009/008393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、このような事情に照らし、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法、ケイ素化合物被覆酸化物粒子及びそれを用いたケイ素化合物被覆酸化物組成物を提供することを目的とする。すなわち本来から酸化物がもっている特性を最大限向上させることや、そのような特性を補うことを目的としてケイ素化合物被覆金属酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合に対するCF結合の比率であるCF結合/Si-OH結合比率が制御されており、撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性に加えて紫外線防御能や近赤外防御能等の色特性が制御されたケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法及びケイ素化合物被覆酸化物粒子を提供すると共にそれを含む組成物を提供することを課題とする。ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率が、作製方法や作製後の環境変化において変化することを利用するものである。撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性に加えて、波長200nmから380nmの紫外領域においては、透過率又はモル吸光係数を制御することを課題とする。波長780nmから2500nmの近赤外領域に対しては、反射率を制御することを課題とする。また波長380nmから780nmの可視領域に対しては、透過率を制御することを課題とする。さらに、本願発明者は、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率と、当該ケイ素化合物被覆酸化物粒子であるケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子、ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子、ケイ素化合物被覆酸化チタン粒子、ケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子等の色特性、撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性との関連性を見出し、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することでケイ素化合物被覆酸化物粒子の特性を向上させることを見出して本発明を完成させた。また本発明では、上記の事情に照らし、撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性に加えて紫外線防御能や近赤外防御能等の色特性が制御されたケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法及びケイ素化合物被覆酸化物粒子を提供すると共にそれを含む組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合に対するCF結合の比率であるCF結合/Si-OH結合比率が、当該ケイ素化合物被覆酸化物粒子の撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性に加えて、透過特性、吸収特性、反射特性等の色特性に対して関連性を有するものとなることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0011】
すなわち本発明は、金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法であり、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率を制御することによって、濡れ性及び色特性を制御するケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法である。
【0012】
また本発明は、金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法であり、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子がCF結合を含み、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合に対するCF結合の比率であるCF結合/Si-OH結合比率を制御することによって、濡れ性及び色特性を制御するケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法である。
【0013】
また本発明は、上記濡れ性が撥水性又は撥油性であることが好ましい。
【0014】
また本発明は、上記色特性が反射率、透過率又はモル吸光係数のいずれかであることが好ましい。
【0015】
また本発明は、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又は上記CF結合/Si-OH結合比率が、全反射測定法(ATR法)を用いて測定した赤外吸収スペクトルにおける波数650cm-1から1300cm-1のケイ素化合物被覆酸化物粒子由来のピークを波形分離することで算出されるものであることが好ましい。
【0016】
また本発明は、上記波形分離されたCF結合に由来するピークが、波数1200cm-1から1220cm-1の範囲に波形分離されたピークであることが好ましい。
【0017】
また本発明は、上記ケイ素化合物に含まれる官能基の変更処理を行うことによって、上記ケイ素化合物に含まれるSi-OH結合の比率を制御することが好ましい。
【0018】
また本発明は、上記官能基の変更処理が、フッ化処理であることが好ましい。
【0019】
また本発明は、上記フッ化処理が、トリフルオロメチル化処理であることが好ましい。
【0020】
また本発明は、上記ケイ素化合物に含まれるSi-OH結合の比率を、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた分散体の状態で制御することが好ましい。
【0021】
また本発明は、上記分散体を熱処理することによって、上記ケイ素化合物に含まれるSi-OH結合の比率を制御することが好ましい。
【0022】
また本発明は、上記ケイ素化合物に含まれるSi-OH結合の比率を接近離反可能な相対的に回転する処理用面間において制御することが好ましい。
【0023】
また本発明は、上記分散体が塗膜、フィルム又はガラスであり、上記分散体を熱処理することによって、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子の撥水性又は撥油性、及び色特性を制御することが好ましい。
【0024】
また本発明は、上記Si-OH結合の比率を低く制御することで、波長780nmから2500nmの領域における平均反射率が高くなるように制御することが好ましい。
【0025】
また本発明は、上記Si-OH結合の比率を低く制御することで、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を有機溶媒に分散させた分散体における、波長200nmから380nmの領域における平均モル吸光係数が高くなるように制御することが好ましい。
【0026】
また本発明は、金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記ケイ素化合物は、上記金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記金属酸化物粒子の濡れ性及び色特性を変化させ得るものであって、全反射測定法(ATR法)を用いて測定した赤外吸収スペクトルにおける波数650cm-1から1300cm-1のケイ素化合物被覆酸化物粒子由来のピークを波形分離することで算出される、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれる上記CF結合/Si-OH結合比率が0以上4.5以下であり、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた状態で波長200nmから380nmの領域における平均モル吸光係数が650L/(mol・cm)以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子である。
【0027】
また本発明は、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率が5%以上70%以下であるケイ素化合物被覆酸化物粒子である。
【0028】
また本発明は、上記金属酸化物粒子を構成する酸化物が酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウム及び酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種であるケイ素化合物被覆酸化物粒子である。
【0029】
また本発明は、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子の波長780nmから2500nmの領域における平均反射率が50%以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
【0030】
また本発明は、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた状態で、波長200nmから380nmの光線に対する平均透過率が15%以下であり、波長380nmから780mnの光線に対する平均透過率が80%以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
【0031】
また本発明は、上記金属酸化物粒子を構成する酸化物粒子が、2種以上の元素からなる複合酸化物粒子であり、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子の色特性が、L表色系において、40≦L≦95、-35≦a≦35、又は-35≦b≦35の範囲であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
【0032】
また本発明は、上記ケイ素化合物が非晶質のケイ素酸化物を含むケイ素化合物であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
【0033】
また本発明は、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を塗布した塗布面に対する水滴の接触角が110°以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
【0034】
また本発明は、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を含む紫外線防御かつ撥水又は撥油用ケイ素化合物被覆酸化物組成物として実施できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によると、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合に対するCF結合の比率であるCF結合/Si-OH結合比率が制御されており、撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性の制御に加えて、反射率、モル吸光係数又は透過率のいずれかの色特性が制御されたケイ素化合物被覆酸化物粒子を提供できる。当該Si-OH結合の比率又はSi-OH結合に対するCF結合の比率であるCF結合/Si-OH結合比率が制御されることによって、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性及び色特性を厳密に制御することが可能であるため、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に対して高まる要求、多様化する用途、及び目的の特性に対して、従来に比べてより的確な組成物の設計が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施例1-2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のSTEMマッピングである。
図2】実施例1-2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子の線分析結果である。
図3】実施例1-2及び実施例1-11、及び参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のIR測定結果である。
図4】参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のIR測定結果における波長650cm-1から1300cm-1の範囲を波形分離した結果である。
図5】実施例1-2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のIR測定結果における波長650cm-1から1300cm-1の範囲を波形分離した結果である。
図6】実施例1-11で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のIR測定結果における波長650cm-1から1300cm-1の範囲を波形分離した結果である。
図7】実施例1-2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のXRD測定結果である。
図8】実施例1-2、実施例1-3、実施例1-5及び実施例1-11で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子をプロピレングリコールモノメチルエーテルに分散させた分散液を用いて測定したモル吸光係数及び参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子をプロピレングリコールに分散させた分散液を用いて測定したモル吸光係数のグラフである。
図9】実施例1-2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子をプロピレングリコールモノメチルエーテルに分散させた分散液を用いて測定した透過率のグラフである。
図10】実施例1-2及び実施例1-11で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子を用いて測定した反射率のグラフである。
図11】実施例1-13で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子及び参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子をガラス基材に塗布した塗膜に対する水滴の付着の様子及び純水の接触角測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態の一例を取り上げて説明する。なお、本発明の態様は以下に記載の実施形態にのみ限定するものではない。
【0038】
(ケイ素化合物被覆酸化物粒子及びケイ素化合物被覆酸化物粒子組成物)
本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子は、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合に対するCF結合の比率であるCF結合/Si-OH結合比率が制御されており、撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性に加えて、反射率、モル吸光係数又は透過率の色特性が制御されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子を、塗膜や封止材又は塗装体の用途に用いる目的の組成物、衣類等のテキスタイル用途に用いる目的の組成物、又は透明性を求められるクリアー塗膜やガラスに用いるための組成物、透明樹脂やフィルム状組成物に用いるための組成物に用いた場合には、撥水性又は撥油性が制御されていることに加えて紫外線又は近赤外線を目的に応じて効果的に遮蔽するために好適な組成物とできる。さらに可視領域においては高い透過特性すなわち透明性が高い組成物とすることが可能であるため、長期に渡って意匠性若しくは美観や質感を損なわず、特に耐候性を求められる被塗布物に対して効果的に用いることができる撥水又は撥油用ケイ素化合物被覆金属酸化物組成物を提供できる。なお、上記透明性を求められる組成物には、例えば、ガラス、透明樹脂やクリアー塗膜そのものに含まれる組成物や、ガラスや透明樹脂に貼付する等によってガラスや透明樹脂と組み合わせるフィルム等に用いられるフィルム状組成物、並びにガラスや透明樹脂に塗布するための塗料も含む。
【0039】
(ケイ素化合物被覆酸化物粒子の形態-1)
本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子は、金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物によって被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、上記金属としては、化学周期表上における金属元素又は半金属元素の単数又は異なる複数の元素を含む金属酸化物粒子である。本発明における金属元素は、特に限定されないが、好ましくは、二価又は三価の金属元素が挙げられ、より好ましくはZn、Fe、Ce、Ti等の金属元素を挙げることができる。また、本発明における半金属元素は、特に限定されないが、好ましくは、Si、Ge、As、Sb、Te、Se等の半金属元素を挙げることができる。これらの金属や半金属について、単一の金属元素からなる金属酸化物粒子であってもよく、複数の金属元素からなる複合金属酸化物粒子や金属元素と半金属元素とを含む複合金属酸化物粒子であってもよい。ただし、本発明はケイ素化合物被覆酸化物粒子であるため、上記金属酸化物を構成する元素にSiを含む場合にあっては、Siと金属元素、又はSiとは異なる半金属元素との複数の元素からなる酸化物である必要がある。
【0040】
(ケイ素化合物被覆酸化物粒子の形態-2)
本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子は、酸化物によってのみ構成されるものに限定するものではない。本発明に影響を与えない程度に酸化物以外の化合物を含むものとしても実施できる。例えば酸化物以外の化合物を含む金属酸化物粒子又は複合金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物によって被覆されたケイ素化合物被覆金属酸化物粒子としても実施できる。上記酸化物以外の化合物としては、水酸化物や窒化物、炭化物、硝酸塩や硫酸塩等の各種塩類、及び水和物や有機溶媒和物を挙げることができる。
【0041】
(ケイ素化合物被覆酸化物粒子の形態-3)
本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子は、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合に対するCF結合の比率であるCF結合/Si-OH結合比率が制御されたケイ素化合物被覆酸化物粒子である。そのため、本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子には、少なくともケイ素(Si)と酸素(O)が含まれる。ケイ素(Si)と酸素(O)が含まれていることの評価方法としては、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(STEM)を用いて複数の粒子を観察し、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)によって、それぞれの粒子においてケイ素以外の元素に対するケイ素の存在比及び存在位置を確認する方法が好ましい。一例として、一個のケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるケイ素以外の元素とケイ素との存在比(モル比)を特定し、複数個のケイ素化合物被覆酸化物粒子におけるモル比の平均値及び変動係数を算出することで、均一性を評価する方法や、マッピングによってケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるケイ素の存在位置を特定する方法等が挙げられる。本発明においては、STEMマッピング又は線分析において、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の表層近傍にケイ素が検出されるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子は金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化物粒子として実施することができるが、ガラスやクリアー塗膜等の耐候性を求められる組成物に用いる場合には、酸化物粒子を微粒子化することによって生じる光触媒能が、上記ケイ素化合物を粒子の表面の少なくとも一部に被覆することによって抑制されていることが好ましい。また、酸化物粒子の表面をケイ素化合物で被覆することによって、酸化物に対して、耐水性や耐酸・耐アルカリ性等の化学安定性を付与できる利点がある。
【0042】
(ケイ素化合物被覆酸化物粒子の形態―4)
本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子には、撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性の制御のために、フッ素(F)が含まれていることが好ましく、CF結合が含まれていることがより好ましい。また上記CF結合がトリフルオロメチル基に由来するフッ素又はCF結合であることがさらに好ましい。撥水性又は撥油性のために、上記フッ素又はCF結合は、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子の表面側に主に存在することが好ましいが、本発明においては上記フッ素又はCF結合が、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の内部に含まれても良い。トリフルオロメチル基(CF基)は臨界表面張力が6mN/m程度と非常に小さいため、上記粒子の特に表面にCF基が含まれることよって撥水性及び撥油性を向上できるものであり、さらにCF結合の比率を制御することによっても、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の撥水性、撥油性並びに紫外線吸収能及び近赤外線反射能等の色特性を制御できる。ケイ素化合物被覆酸化物粒子にフッ素が含まれていることの評価方法としては、上記ケイ素又は酸素と同様の方法が挙げられる。
【0043】
(Si-OH結合及びCF結合の説明―1)
本発明においては、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率、又はSi-OH結合に対するCF結合の比率であるCF結合/Si-OH結合比率を制御することで撥水性又は撥油性等の濡れ性、及び反射率や透過率、モル吸光係数等の各種色特性を制御するものであるが、上記Si-OH結合又は上記CF結合/Si-OH結合比率は、一例としてFT-IR測定結果より判断することができる。ここでIRとは赤外吸収分光法の略である。(以下、単にIR測定と示す。)また、上記Si-OH結合又は上記CF結合/Si-OH結合比率は、IR測定以外の方法で測定してもよく、一例としてX線光電子分光法(XPS)や、固体核磁気共鳴(固体NMR)、電子エネルギー損失分光法(EELS)等の方法が挙げられる。
【0044】
(Si-OH結合及びCF結合の説明―2)
本発明において、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率は、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の赤外吸収スペクトル測定における、波数650cm-1から1300cm-1の領域のピークを波形分離することによって得ることが好ましく、波数850cm-1から950cm-1の領域に波形分離されたピーク、好ましくは波数890cm-1から920cm-1の領域に波形分離されたピークをSi-OH結合に由来するピークとし、波数1200cm-1から1220cm-1の領域に波形分離されたピークをCF結合に由来するピークとし、上記波数650cm-1から1300cm-1の領域において波形分離された各ピークの総面積に対する、上記Si-OH結合に波形分離されたピークの面積比率又は上記Si-OH結合に波形分離されたピークの面積に対する上記CF結合に波形分離されたピークの面積比率(CF結合/Si-OH結合比率)を制御することで、撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性及び色特性が制御された酸化物粒子であることが好ましい。なお、CF結合については、例えばCF基、CF基及びCF基などのCF結合を有する官能基による振動が全て波数1200cm-1から1220cm-1の領域に検出されることが考えられるため、波数1200cm-1から1220cm-1の領域に波形分離されたCF結合に由来する単数または複数のピークの総面積をCF結合の面積とすることが好ましい。また、波数850cm-1から950cm-1の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークについては、波数850cm-1から950cm-1の領域において、上記CF結合と同様に、異なる振動のSi-OH結合が複数のピークとして波形分離されることも考えられるが、Si-OH結合の代表として波数850cm-1から950cm-1の領域に波形分離されたピークの内、最も面積比率の大きいピークをSi-OH結合の比率とし、上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を算出することが好ましい。
【0045】
(非晶質のケイ素酸化物の説明)
本発明において、上記金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部を被覆するケイ素化合物は、特にSi-OH結合の比率を制御することが容易となるために非晶質のケイ素酸化物を含むことが好ましい。ケイ素化合物が非晶質のケイ素酸化物を含むことの評価方法としては特に限定されないが、上記STEMマッピングによるSi及びOの存在の確認と、赤外吸収スペクトルによるケイ素酸化物の存在の確認に加えて、XRD測定において結晶性のシリカ(SiO)に由来するピークが確認されないことを組み合わせて評価する方法や、TEM観察やSTEM観察において、Si及びOの検出される部位に結晶格子が観察されないことを確認する等の方法が挙げられる。
【0046】
(平均モル吸光係数)
モル吸光係数は、紫外可視吸収スペクトル測定における、吸光度と測定試料中の測定対象となる物質のモル濃度より、以下の(式1)にて算出可能である。
ε=A/(c・l) (式1)
ここで、εは物質固有の定数で、モル吸光係数と言い、1cmの厚みをもつ1mol/Lの分散液の吸光度であるため、単位はL/(mol・cm)である。Aは紫外可視吸収スペクトル測定における吸光度であり、cは試料のモル濃度(mol/L)である。lは光が透過する長さ(光路長)(cm)であり、通常は紫外可視吸収スペクトルを測定する際のセルの厚みである。本発明においては、波長200nmから380nmの紫外領域の光線を吸収する能力を示すために、波長200nmから380nmの測定波長領域における複数の波長に対するモル吸光係数の単純平均を算出し、「平均モル吸光係数」として評価した。
【0047】
(モル吸光係数以外の色特性)
本発明においては、紫外領域である上記波長200nmから380nmの範囲におけるモル吸光係数や平均モル吸光係数と同様に上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することによって、可視領域である波長380nmから780nmにおける特定領域の透過率や平均透過率、近赤外領域である波長780nmから2500nmにおける特定領域の反射率や平均反射率等の色特性についても的確かつ厳密に制御できるものであり、特に紫外線防御目的又は近赤外線防御目的の組成物に用いた場合に好適な撥水性又は撥油性のケイ素化合物被覆酸化物粒子を提供できるものである。これらの色特性も制御されたケイ素化合物被覆酸化物粒子の紫外領域又は近赤外線領域の光線を効率良く防御する能力によって、塗装体やガラスそのものの美観や質感、又は意匠性を損なわないための紫外線防御用又は近赤外線防御用組成物や、本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子を含むガラス等を敷設された室内の装飾品や機器類の美観や意匠性又は製品特性を損なわない目的に用いられる透明材用組成物に用いた場合に好適である
【0048】
(着色用ケイ素化合物被覆酸化物粒子)
上記金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化物粒子において、上記金属酸化物粒子を上記金属元素又は半金属元素から選ばれる少なくとも2種類の元素からなる金属酸化物粒子とすることで、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を着色し、着色したケイ素化合物被覆酸化物粒子を上記組成物に用いることによって、撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性及び色特性が制御された着色用ケイ素化合物被覆酸化物粒子組成物を提供することも可能である。特に上記金属元素又は半金属元素から選ばれる少なくとも2種類の元素からなる金属酸化物粒子における2種類の金属元素又は半金属元素のモル比(M2/M1:M1、M2はそれぞれ金属元素又は半金属元素)を制御することによって、上記可視領域である波長380nmから780nmにおける透過率や平均透過率に加えて、L表色系における色相H(=b/a)又は彩度C(=((a+(b1/2)等の色特性についても的確かつ厳密に制御できるものであり、紫外領域の光線を効率良く防御する能力によって、美観や質感、又は意匠性を損なわない塗布用組成物又は透明材用組成物に用いた場合に好適であるだけでなく、目的によっては積極的に着色することができるため、着色用組成物として用いた場合にも好適である。なお、上記着色を目的とする場合の異なる複数の元素であるM1、M2については、2種の金属元素又は半金属元素からなる複合酸化物に限定しるものではない。M1、M2、M3・・・Mnのように、3種以上の金属元素又は半金属元素からなる酸化物としても実施できる。
【0049】
(色特性:色相又は彩度)
本発明における色相又は彩度は、L表色系における色相H(=b/a、b>0、a>0)、彩度C(=((a+(b1/2)で示すことができる。ここで、L表色系は、均等色空間の一つであり、Lは明るさを表す値であり、数値が大きい程明るいことを示す。また、a、bは色度を表す。本発明においては、上記表色系をL表色系に限定するものではない。XYZ系等他の表色系を用いて色特性を評価してもよい。また本発明においては、色特性がL表色系において、40≦L≦95の範囲で制御することで、暗い色から明るい色までを効果的に発色でき、-35≦a≦35、又は-35≦b≦35の範囲、好ましくは-30≦a≦30、又は-30≦b値≦30の範囲で制御することで、着色力が強すぎず、人の目に優しい色に近づけることが可能となるため、特に着色紫外線防御目的の組成物に用いた場合に好適である。
【0050】
(Si-OH結合又はCF結合の比率の制御:方法の説明―1)
本発明においては、上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率の制御の方法については、特に限定されないが、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれる官能基の変更処理によって、上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することが好ましい。特にケイ素化合物被覆酸化物粒子にCF結合を付与する場合にあっては、上記官能基の変更処理がフッ化処理であることが好ましい。上記官能基の変更処理は、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれる官能基に対して、置換反応や付加反応、脱離反応や脱水反応、縮合反応を用いた反応等を行う方法によって上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することが可能である。Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御するにあたり、CF結合又はSi-OH結合の比率を増やしてもよいし、減らしてもよい。なお、本発明においては、上記の制御により、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合に対して、例えば無水トリフルオロ酢酸のようにCF基を有するカルボン酸におけるカルボキシル基(-COOH)からOHが、Si-OH基におけるヒドロキシル基(-OH)からHが脱離する脱水・縮合反応により達成されるエステル化によって上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子にCF結合を付与することも可能である。エステル化によってケイ素化合物被覆酸化物粒子にCF結合を付与する場合にあっては、Si-OH結合の比率を低減し、CF結合の比率を増加させることが可能であり、さらに親水性官能基であるカルボニル基(―C(=O)-)も付与することが可能であるため、さらに厳密な撥水性、撥油性等の濡れ性の制御が可能である。エステル化において、酸無水物を用いる方法の他、混合酸無水物、酸ハライド等、又はカルボジイミド等の脱水剤を用いる方法等を用いることもできる。また、上記エステル化以外にも、フッ素及び水酸基を有する物質、又はフッ素を有するアルキルハライド、アリールハライド若しくはヘテロアリールハライドを、Si-OH基に好ましくは酸触媒の存在下において作用させることで脱水によって上記フッ素を有する物質とSiとの間にエーテル結合を生じさせる方法や、フッ素を含むイソシアネート又はチオイソシアネートを上記Si-OHに作用させることで(チオ)ウレタン結合を生じさせる方法等によって、上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することも可能である。また本発明においてはSi-OH結合に直接他の物質又は官能基を作用させることによって、新たな結合を生むことに限定されるものではなく、例えばフッ素を含むカルボジイミドを粒子に含まれるカルボン酸等に作用させる方法によって、上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することも可能である。その他にも、過酸化水素やオゾンを酸化物粒子に作用させる方法によって上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することもできる。また、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を液中において析出させる際に、当該ケイ素化合物被覆酸化物粒子を析出させる際の酸化物原料液や酸化物析出溶媒の処方や、pHを制御する等の方法によって上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することも可能である。また、脱水反応の一例として、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を熱処理する方法によって上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することもできる。ケイ素化合物被覆酸化物粒子を熱処理する方法によって上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御する場合には、乾式での熱処理によっても実施できるし、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた分散体の状態で熱処理することによっても実施できる。また、後述するように、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を目的の溶媒に分散し、当該分散液に官能基を含む物質を加え攪拌等の処理を施して上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率の制御を実施してもよいし、上記酸化物原料液と酸化物析出溶媒及びケイ素化合物原料液を混合して析出させたケイ素化合物被覆酸化物粒子を含む分散液をそのまま続けて攪拌等の処理を施して上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率の制御を実施しても良い。さらに、分散装置と濾過膜とを連続させた装置を構築し、粒子に対する分散処理とクロスフロー方式の膜濾過による処理によってケイ素化合物被覆酸化物粒子を含むスラリーから不純物を除去する等の方法を行う際のスラリー温度やクロスフローに用いる洗浄液の温度の変更等によっても実施できる。この場合にあっては、当該ケイ素化合物被覆酸化物粒子の一次粒子、特にそれぞれの一次粒子の表面に対して均一な改質処理を行うことができるために、本発明におけるケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれる上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率の制御と、撥水性又は撥油性及び色特性との制御をより厳密かつ均質に行うことが可能となる利点がある。
【0051】
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を析出させる際のpH調整については、本発明における各種溶液、溶媒の少なくとも1つに酸性物質又は塩基性物質等のpH調整剤を含めることによって調整してもよいし、酸化物原料液を含む流体と酸化物析出溶媒を含む流体とを混合する際の流量を変化させることによって調整してもよい。
【0052】
本発明にかかるケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれる官能基を変更する方法としては、特に限定されない。ケイ素化合物被覆酸化物粒子を目的の溶媒に分散し、当該分散液に官能基を含む物質を加え攪拌等の処理を施して実施してもよいし、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を含む流体と官能基を含む物質を含む流体とを特許文献6又は特許文献7に記載のマイクロリアクターを用いて混合することで実施してもよい。
【0053】
官能基を含む物質としては、特に限定されないが、酸化物粒子に含まれる水酸基と置換可能な官能基を含む物質であって、無水酢酸や無水プロピオン酸等のアシル化剤;ジメル硫酸や炭酸ジメチル等のメチル化剤;及びクロロトリメチルシラン、メチルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等が挙げられる。具体的には、これらの水酸基と置換可能な官能基を含む物質を用いた場合には、Si-OH結合の比率を制御することが可能である。CF結合をケイ素化合物被覆酸化物粒子に導入して制御する場合のCF結合を含む物質としては、各種のフッ素化合物が挙げられる。特に限定されないが、上記フッ素化合物としては、トリフルオロ酢酸やトリフルオロメタンスルホン酸、又はそれらの無水物のようなフッ素を含む化合物や、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシランやトリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シランのようにフッ素を含むシランカップリング剤、又はトリフルオロメタンやトリフルオロエタンなどフッ素化合物が挙げられ、またこれら列挙したフッ素化合物にはトリフルオロメチル基(CF基)が含まれるために好ましい。これらのフッ素化合物を上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれる水酸基と反応させることでCF結合を付与しても良いし、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を析出させる際に、上記フッ素化合物を作用させることでCF結合を含むケイ素化合物被覆酸化物粒子を作成することもできる。さらに、例えばトリフルオロメタンやトリフルオロエタンなどの気体をケイ素化合物被覆酸化物粒子、又はすでにCF結合を含むケイ素化合物被覆酸化物粒子に作用させる方法によっても本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子を得ること、及び当該ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することも可能である。
【0054】
上述のとおり、過酸化水素やオゾンを酸化物粒子に作用させる方法によっても上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することもできる。過酸化水素やオゾンを酸化物粒子に作用させる方法しては、特に限定されない。ケイ素化合物被覆酸化物粒子を目的の溶媒に分散し、当該分散液に過酸化水素又はオゾン又はそれらを含む水溶液等の溶液を加え攪拌等の処理を施して実施してもよいし、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を含む流体と過酸化水素又はオゾンを含む流体とを特許文献6又は特許文献7に記載のマイクロリアクターを用いて混合することで実施してもよい。
【0055】
上記分散体としては、水や有機溶媒、樹脂等の液状の分散媒にケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散させた、液状の分散体としても実施できるし、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を含む分散液を用いて作製した塗膜状とした分散体としても実施できる。ケイ素化合物被覆酸化物粒子を含む分散体の状態として熱処理した場合には、乾式での熱処理に比べて粒子の凝集が抑制できることや、例えば特開2014-042891号公報及び特開2014-042892号公報に記載の積層塗膜並びに高意匠複層塗膜に本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子を用いた場合には、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を当該積層塗膜又は複層塗膜とした後に、熱処理等の方法で酸化物粒子に含まれる上記CF結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することでケイ素化合物被覆酸化物粒子の撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性及び色特性を制御することが可能であるため、工程数の削減や、撥水性のボディーやガラスに対して撥水性、撥油性の制御に加えて、厳密な色特性の制御に好適である。なお、特開2014-042891号公報及び特開2014-042892号公報に記載の積層塗膜並びに高意匠複層塗膜においては、特定色についてハイライトとシェードの差を大きくすることによって、反射光の強度が観察角度によって大きく変化することとなり、深み感及び緻密感を実現するものである。そのため、ハイライトを高めるために特定色について透過率を向上させること、及びハイライトとシェードの差を大きくすることが要求されており、特にクリアー塗膜等のケイ素化合物被覆酸化物等の紫外線遮蔽特性を有する物質を含む塗膜は、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の紫外線を吸収する能力である紫外域でのモル吸光係数が大きい程、酸化物粒子分散体としての塗膜の透明性を高めることができ、またケイ素化合物被覆酸化物粒子の使用量を低減することでヘーズ値も小さくすることができる。
【0056】
また上記積層塗膜用途以外にも、例えば建造物のガラス等に用いるフィルム状組成物においても、ガラスや樹脂等にケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散させることによって、紫外線の吸収や近赤外線の反射等にも好適に用いることができ、さらに可視光線に対する透過特性を高めることができるために、紫外線防御又は近赤外防御目的ケイ素化合物被覆酸化物組成物としても好適に用いることができる。また、上記積層塗膜と同様にガラスや透明樹脂等にケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散させてフィルム状とした後に、熱処理やフッ化処理等による官能基の変更処理を行うことによってケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することでケイ素化合物被覆酸化物粒子の撥水性又は撥油性及び色特性を制御することも可能であり、上記積層塗膜と同様に工程数の削減や、厳密な撥水性又は撥油性及び色特性の制御に好適である。
【0057】
(ケイ素化合物被覆酸化物粒子の好ましい形態-1)
本発明においては、ケイ素化合物被覆酸化物粒子における金属酸化物粒子の一次粒子径が1nm以上100nm以下であることが好ましく、1nm以上50nm以下であることがより好ましい。また、被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子における一次粒子径においても、1nm以上100nm以下であることが好ましく、1nm以上50nm以下であることがより好ましい。ケイ素化合物酸化物粒子に含まれるCF結合又はSi-OH結合が主に粒子の表面に存在することによって、撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性及び色特性の制御を厳密に行うことが可能となることが想定されるため、一次粒子径が100nm以下のケイ素化合物被覆酸化物粒子は、一次粒子径が100nmを超えるケイ素化合物被覆酸化物粒子に比べて表面積が増大されており、ケイ素化合物被覆酸化物粒子のSi-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することによる当該ケイ素化合物被覆酸化物粒子の撥水性、撥油性又は親水性などの濡れ性に加えて、透過特性、吸収特性、反射特性、色相、又は彩度等の色特性に対して与える影響が大きいことが考えられる。そのため一次粒子径が100nm以下のケイ素化合物被覆酸化物粒子にあっては、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することで、所定の色特性(特に、塗膜や塗装体、衣類等のテキスタイル用途に用いる目的の組成物、又は透明性を求められる塗装体やガラス、透明樹脂やフィルム状組成物として用いるのに好適な色特性)を好適に発揮させることができる利点がある。
【0058】
(ケイ素化合物被覆酸化物粒子の好ましい形態-2)
本発明においては、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子は、上記被覆前の上記金属酸化物粒子の平均一次粒子径に対する化合物による被覆後のケイ素化合物被覆酸化物粒子の平均一次粒子径の割合が100.5%以上190%以下であることが好ましい。金属酸化物粒子に対する化合物の被覆が薄すぎると、化合物によって被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子が有する撥水性又は撥油性及び色特性に関する効果等を発揮し得なくなるおそれがあることから、ケイ素化合物による被覆後のケイ素化合物被覆酸化物粒子の平均一次粒子径が、金属酸化物粒子の平均一次粒子径の100.5%以上であることが好ましく、被覆が厚すぎる場合や、粗大な凝集体を被覆した場合には撥水性又は撥油性及び色特性の制御が困難となることから、化合物による被覆後のケイ素化合物被覆酸化物粒子の平均一次粒子径が、酸化物粒子の平均一次粒子径の190%以下であることが好ましい。本発明に係るケイ素化合物によって被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子は、コアとなる金属酸化物粒子の表面全体を化合物で均一に被覆したコアシェル型のケイ素化合物被覆酸化物粒子であってもよい。また、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子は、複数個の金属酸化物粒子が凝集していない、単一の金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部を化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましいが、複数個の金属酸化物粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部を化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化物粒子であってもかまわない。
【0059】
(ケイ素化合物被覆酸化物粒子の好ましい形態-3)
本発明における酸化物の表面の少なくとも一部を被覆する化合物は、ケイ素化合物であることが好ましく、ケイ素酸化物を含むものであることがより好ましく、非晶質のケイ素酸化物を含むものであることが更に好ましい。ケイ素化合物が非晶質のケイ素酸化物を含むことによって、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の反射率、透過率、モル吸光係数、色相、彩度等の色特性を厳密に制御することが可能である。ケイ素化合物が、結晶性のケイ素酸化物の場合には、Si-OHを存在させることが極めて困難となるため、本発明の色特性の制御が困難となる場合がある。
【0060】
(ケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法:好ましい方法)
本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法の一例として、ケイ素化合物で被覆される金属酸化物粒子の原料を少なくとも含む酸化物原料液と、当該金属酸化物粒子を析出させるための酸化物析出物質を少なくとも含む酸化物析出溶媒とを用意し、酸化物原料液と酸化物析出溶媒とを混合させた混合流体中で、反応、晶析、析出、共沈等の方法で金属酸化物粒子を析出させ、上記析出させた金属酸化物粒子を含む上記混合流体と、被覆する化合物である、ケイ素化合物の原料を少なくとも含むケイ素化合物原料液とを混合させて、上記金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆することによってケイ素化合物被覆酸化物粒子を製造する方法を用いることが好ましい。また、着色用ケイ素化合物被覆酸化物粒子を目的とする場合には、上記金属酸化物粒子に含まれる異なる複数の金属元素又は半金属元素とは、上記酸化物原料液に一緒に含まれていてもよく、酸化物原料液と酸化物析出溶媒にそれぞれ含まれていてもよく、酸化物原料液と酸化物析出溶媒の両者又はケイ素化合物原料液に含まれていてもよい。
【0061】
本発明におけるケイ素化合物被覆酸化物粒子の原料としては、特に限定されない。反応、晶析、析出、共沈等の方法でケイ素化合物被覆酸化物粒子となるものであれば実施できる。また、本発明において、金属元素又は半金属元素の化合物を化合物と総称する。化合物としては特に限定されないが、一例を挙げると、金属元素又は半金属元素を含む金属若しくは半金属の塩や酸化物、水酸化物、水酸化酸化物、窒化物、炭化物、錯体、有機塩、有機錯体、有機化合物又はそれらの水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。なお、金属又は半金属の単体を用いることも可能である。金属又は半金属の塩としては、特に限定されないが、金属若しくは半金属の硝酸塩や亜硝酸塩、硫酸塩や亜硫酸塩、炭酸塩、蟻酸塩や酢酸塩、リン酸塩や亜リン酸塩、次亜リン酸塩や塩化物、オキシ塩やアセチルアセトナート塩又はそれらの水和物、有機溶媒和物等が挙げられ、有機化合物としては金属又は半金属のアルコキシド等が挙げられる。以上、これらの金属又は半金属の化合物は単独で使用してもよく、複数以上の混合物として使用してもよい。本発明においては、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を構成する金属酸化物が異なる複数の金属元素又は半金属元素である場合、主たる金属元素をM1とし、副となる金属元素又は半金属元素をM2とすれば、M1に対するM2のモル比(M2/M1)が0.01以上1.00以下であることが好ましい。
【0062】
また、本発明に係るケイ素化合物の原料としては、ケイ素の酸化物や水酸化物、その他ケイ素の塩やアルコキシド等の化合物やそれらの水和物が挙げられる。特に限定されないが、ケイ酸ナトリウム等のケイ酸塩や、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-トリフルオロプロピル-トリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、及びTEOSのオリゴマ縮合物、例えば、エチルシリケート40、テトライソプロピルシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラブトキシシラン、及び同様の物質が挙げられる。さらにケイ素化合物の原料として、その他のシロキサン化合物、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,9-ビス(トリエトキシシリル)ノナン、ジエトキシジクロロシラン、トリエトキシクロロシラン等を用いてもかまわない。なお、これらは粒子の表面を被覆するためだけに用いるものでは無く、上記M1又はM2を含む化合物としても用いることができる。
【0063】
また、上記金属酸化物粒子又は被覆するためのケイ素化合物の原料が固体の場合には、各原料を溶融させた状態、又は後述する溶媒に混合又は溶解された状態(分子分散させた状態も含む)で用いることが好ましい。各原料が液体や気体の場合であっても、後述する溶媒に混合又は溶解された状態(分子分散させた状態も含む)で用いることが好ましい。
【0064】
酸化物析出物質としては、酸化物原料液に含まれるケイ素化合物被覆酸化物粒子の原料をケイ素化合物被覆酸化物粒子として析出させることができる物質であれば、特に限定されず、例えば、酸性物質又は塩基性物質を用いることができる。少なくとも酸化物析出物質を後述する溶媒に混合・溶解・分子分散させた状態で用いることが好ましい。
【0065】
塩基性物質としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の金属水酸化物、ナトリウムメトキシドやナトリウムイソプロポキシドのような金属アルコキシド、トリエチルアミン、ジエチルアミノエタノールやジエチルアミン等のアミン系化合物やアンモニア等が挙げられる。
【0066】
酸性物質としては、王水、塩酸、硝酸、発煙硝酸、硫酸、発煙硫酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、クエン酸等の有機酸が挙げられる。なお、上記塩基性物質及び酸性物質は、ケイ素化合物被覆酸化物粒子又は被覆するための化合物を析出させるために使用することもできる。
【0067】
(溶媒)
酸化物原料液、酸化物析出溶媒又はケイ素化合物原料液に用いる溶媒としては、例えば水や有機溶媒、又はそれらの複数からなる混合溶媒が挙げられる。上記水としては、水道水、イオン交換水、純水、超純水、RO水(逆浸透水)等が挙げられ、有機溶媒としては、アルコール化合物溶媒、アミド化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、芳香族化合物溶媒、二硫化炭素、脂肪族化合物溶媒、ニトリル化合物溶媒、スルホキシド化合物溶媒、ハロゲン化合物溶媒、エステル化合物溶媒、イオン性液体、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物等が挙げられる。上記の溶媒はそれぞれ単独で使用してもよく、又は複数を混合して使用してもよい。アルコール化合物溶媒としては、メタノールやエタノール等の1価アルコールや、エチレングリコールやプロピレングリコール等のポリオール等が挙げられる。
【0068】
(分散剤等)
本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子の作製に悪影響を及ぼさない範囲において、目的や必要に応じて各種の分散剤や界面活性剤を用いてもよい。特に限定されないが、分散剤や界面活性剤としては一般的に用いられる様々な市販品や、製品又は新規に合成したもの等を使用できる。一例として、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤や、各種ポリマー等の分散剤等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。上記の界面活性剤及び分散剤は、酸化物原料液、酸化物析出溶媒の少なくともいずれか1つの流体に含まれていてもよい。また、上記の界面活性剤及び分散剤は、酸化物原料液、酸化物析出溶媒とも異なる、別の流体に含まれていてもよい。
【0069】
(ケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法:方法概要-1)
本発明においては、まず、上述したとおり上記ケイ素化合物で被覆される金属酸化物粒子を析出等によって製造する。この際上記金属酸化物粒子が異なる複数の元素M1及びM2からなる場合にあっては、M1とM2とは、少なくとも共に粒子の内部に存在することが好ましく、析出等によって異なる複数の金属元素又は半金属元素からなる金属酸化物粒子を製造するに際して、異なる複数の元素(M1とM2)から構成される金属酸化物を実質的に同時に析出させることによって製造することが好ましい。例えば、酸化亜鉛の原料として硝酸亜鉛六水和物等の亜鉛化合物(M1=Zn)と複合酸化物とするための金属元素又は半金属元素(M2)を含む化合物とを酸性水溶液中に溶解した酸化物原料液と、水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属水酸化物(酸化物析出物質)の水溶液である酸化物析出溶媒とを混合してケイ素化合物被覆酸化物粒子を析出させる場合においては、pHが1から2付近又は1未満である酸化物原料液に、pHが14以上のような酸化物析出溶媒を混合してケイ素化合物被覆酸化物粒子を析出させる必要がある。酸化物原料液に含まれるM1又はM2から構成される酸化物は、それぞれに析出し易いpHや温度等が異なるため、例えば酸性である酸化物原料液に塩基性である酸化物析出溶媒を徐々に滴下した場合には、上記酸化物原料液と酸化物析出溶媒の混合液のpHも徐々に酸性から塩基性に変化することとなり、まずM1とM2とのいずれか一方が析出し易いpH付近となった時点でM1又はM2の酸化物が析出し(析出し始め)、その後さらに酸化物析出溶媒を加えることで混合液のpHが塩基性側に変化した段階で上記先に析出した酸化物とは異なる他方の酸化物が析出するというような、M1から構成される酸化物粒子とM2から構成される酸化物粒子が段階的に析出することが考えられる。そして、その場合にあっては粒子の内部にM1とM2との両方を含む上記金属酸化物粒子を作製することが困難となる。上記混合液をM1の酸化物とM2の酸化物とのいずれもが析出するpHに瞬間的に調整することによって、見かけ上、同時に析出させることができるために、少なくとも粒子の内部にM1とM2との両方を含む金属酸化物粒子を作製するための前提条件を整えることが可能となる。
【0070】
(ケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法:方法概要-2)
さらに、上記金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部にケイ素化合物を被覆する工程においては、上記金属酸化物粒子が凝集する前にケイ素化合物によって被覆することが好ましい。上記金属酸化物粒子を含む流体に、ケイ素化合物原料液を混合する際には、上記金属酸化物粒子が析出し、その後如何に凝集するよりも早い速度でケイ素化合物原料液を投入してケイ素化合物を上記金属酸化物粒子の表面に析出させるかが重要である。さらに、上記ケイ素化合物原料液を、上記金属酸化物粒子を含む流体に投入することによって、上記金属酸化物粒子を含む流体のpH及びケイ素化合物原料の濃度が徐々に変化することとなり、粒子が分散しやすい状況から凝集しやすい状況となった後に粒子の表面を被覆するためのケイ素化合物が析出すると、上記本発明の特性を発揮できない程に凝集する前に被覆することが困難となる可能性がある。上記金属酸化物粒子が析出した直後に、ケイ素化合物原料液に含まれるケイ素化合物原料を作用させることが好ましい。
【0071】
(優先権主張出願との対応関係)
本発明者らは、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することによって、当該ケイ素化合物被覆酸化物粒子の撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性及び色特性が制御できることを見出して、本発明を完成させるに至った。ケイ素化合物がケイ素酸化物であるケイ素化合物被覆酸化物粒子や、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を析出させる際に、当該ケイ素化合物被覆酸化物粒子にCF結合を付与するトリフルオロ酢酸や、シェル用酸化物原料として3-トリフルオロプロピル-トリメトキシシランのようなCF結合を含む物質を用いることについては、本件出願の基礎出願である特願2016-111346号においても開示されており、これが特異な性質を有することが見出されていたが、本発明者らは、さらに、本件出願の別の基礎出願であるPCT/JP2016/83001号に開示されている通り、このケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合を制御することによって、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の撥水性又は撥油性及び色特性を制御できることを見出した。本発明のケイ素酸化物被覆酸化物粒子は、実質的には、本件出願の基礎出願である特願2016-111346号に開示されたケイ素酸化物被覆酸化物粒子と対応関係にあるものである。
【0072】
(ケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法:装置)
本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法の一例としては、例えば、マイクロリアクターを用いたり、バッチ容器内で希薄系での反応を行う等によってケイ素化合物被覆酸化物粒子を作製する等の方法が挙げられる。またケイ素化合物被覆酸化物粒子を作製するために、本願出願人によって提案された特開2009-112892号公報にて記載されたような装置及び方法を用いてもよい。特開2009-112892号公報に記載の装置は、断面形状が円形である内周面を有する攪拌槽と、該攪拌槽の内周面と僅かな間隙を在して付設される攪拌具とを有し、攪拌槽には、少なくとも二箇所の流体入口と、少なくとも一箇所の流体出口とを備え、流体入口のうち一箇所からは、被処理流体のうち、反応物の一つを含む第一の被処理流体を攪拌槽内に導入し、流体入口のうちで上記以外の一箇所からは、上記反応物とは異なる反応物の一つを含む第二の被処理流体を、上記第一の被処理流体とは異なる流路より攪拌槽内に導入するものであり、攪拌槽と攪拌具の少なくとも一方が他方に対し高速回転することにより被処理流体を薄膜状態とし、この薄膜中で少なくとも上記第一の被処理流体と第二の被処理流体とに含まれる反応物同士を反応させるものであり、三つ以上の被処理流体を攪拌槽に導入するために、同公報の図4及び5に示すように導入管を三つ以上設けてもよいことが記載されている。また上記マイクロリアクターの一例としては、特許文献6及び7に記載の流体処理装置と同様の原理の装置が挙げられる。その他、ビーズミル等の粉砕法を用いる等して酸化物粒子を作製し、作製した後に反応容器内や上記マイクロリアクター等を用いてケイ素化合物を被覆酸化物粒子に被覆する処理を行ってもよい。
【0073】
(ケイ素化合物被覆酸化物粒子組成物-1)
本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子は撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性及び紫外線又は近赤外線の防御、並びに着色を目的とするものであり、塗膜や封止材又は塗装体、衣類等のテキスタイル用途に用いる目的の組成物、又は透明性を求められる塗装体やガラス、透明樹脂やフィルム状組成物に用いるための組成物に用いることができる。一例として、塗布用組成物又は透明材用組成物に用いることが挙げられる。塗布用組成物としては、特に限定されるものではなく、例えば溶剤系塗料、水性塗料等種々の塗装に用いるための塗布用組成物や、口紅やファンデーション、サンスクリーン剤等の化粧料や皮膚に塗布することを目的とした塗布用組成物に適用することができる。透明材用組成物としては、透明性を求められる塗装体や建築用や乗り物用又はメガネに用いるガラス、透明樹脂やフィルム状組成物に用いるための組成物であり、例えばガラスや透明樹脂又はクリアー塗膜そのものに含まれる組成物や、ガラスや透明樹脂に貼付する等、ガラスと組み合わせるフィルム等に用いられるフィルム状組成物、ガラスに塗布するための塗料などが挙げられる。なお上記透明樹脂としては、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PC(ポリカーボネート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等が挙げられる。
【0074】
(ケイ素化合物被覆酸化物粒子組成物-2)
塗布用組成物又は透明材用組成物である、塗料や塗膜、化粧料等、若しくはガラスや透明樹脂の材料として用いる場合には本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子組成物を、塗料や塗装体を形成する塗膜又は化粧料等の組成物に混合させる等の方法や、ガラスや硬化前のガラス、又は透明樹脂に直接練り込むことや、各種ガラス用の膜やフィルム、又はクリアー塗膜を形成するための組成物に混合させる等の方法で用いることができる。これによって、紫外線又は近赤外線を目的に応じて効果的に遮蔽し、且つ撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性が制御された紫外線又は近赤外線防御目的塗布用組成物又は撥水性、撥油性若しくは親水性等の濡れ性が制御された紫外線又は近赤外線防御目的透明材用組成物とできる。上記紫外線又は近赤外線防御目的塗布用組成物又は紫外線若しくは近赤外線防御目的透明材用組成物は、必要に応じて、顔料、染料の他、湿潤剤、分散剤、色分れ防止剤、レベリング剤、粘度調整剤、皮張り防止剤、ゲル化防止剤、消泡剤増粘剤、タレ防止剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、近赤外反射剤、成膜助剤、界面活性剤、樹脂成分等の添加剤を、適宜、目的に応じてさらに含むことができる。塗装することを目的とする場合の樹脂成分としては、ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等を例示し得る。本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子が含まれる塗料が適用される塗布物としては、単一の塗料組成物から構成される単層の塗布物であってもよく、特開2014-042891号公報や特開2014-042892号公報に記載のような積層塗膜用途のように、複数の塗料組成物から構成される複数層の塗布物であってもよく、また、顔料が含まれる塗料に含めて実施することもできるし、クリアー塗料等の塗料に含めて実施することもできる。上記フィルム状組成物を目的とする場合には、必要に応じてバインダー樹脂や硬化剤、硬化触媒やレベリング剤、界面活性剤やシランカップリング剤、消泡剤や顔料又は染料のような着色剤、酸化防止剤等を含有することができる。
【0075】
(塗布用組成物又は透明材用組成物-3)
本発明に係る撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性が制御された紫外線若しくは近赤外線防御目的塗布用組成物又は紫外線若しくは近赤外線防御目的透明材用組成物は、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の粉末、液状の分散媒にケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散させた分散体、及びガラスや樹脂等の固体(又は固化する前の液体等)にケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散させた分散体等を含むものである。上記組成物に含まれるケイ素化合物被覆酸化物粒子は、1個のケイ素化合物被覆酸化物粒子から構成されていてもよく、複数個のケイ素化合物被覆酸化物粒子が凝集した凝集体から構成されていてもよく、両者の混合物であってもよい。複数個のケイ素化合物被覆酸化物粒子が凝集した凝集体から構成される場合、その凝集体の大きさが100nm以下であることが好ましい。また、上記紫外線又は近赤外線防御目的塗布用組成物又は紫外線若しくは近赤外線防御目的透明材用組成物は、各種の色材とともに使用してもよいし、塗膜としてガラスにオーバーコートするための組成物であってもよい。さらに上記撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性が制御された紫外線若しくは近赤外線防御目的塗布用組成物又は紫外線若しくは近赤外線防御目的透明材用組成物が分散体の場合、分散媒としては、水道水、蒸留水、RO水(逆浸透水)、純水、超純水等の水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒;プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールやグリセリン等の多価アルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;シリコーンオイルや植物オイル、ワックス等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。
【0076】
(塗布用組成物又は透明材用組成物の色)
本発明に係る撥水性又は撥油性等の濡れ性を有する紫外線若しくは近赤外線防御目的塗布用組成物又は紫外線若しくは近赤外線防御目的透明材用組成物に用いられる塗布物、又は紫外線若しくは近赤外線防御目的透明材用組成物に用いるフィルムやガラス等の透明材の色としては、特に限定されず、目的の色相に対して本発明の紫外線若しくは近赤外線防御目的塗布用組成物又は紫外線若しくは近赤外線防御目的透明材用組成物を用いることができる。また本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子は、上記Si-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することによって、厳密かつ正確な色特性が制御できるため、紫外線又は近赤外線防御目的着色用組成物として用いた場合においても好適である。本発明に係る塗布用、透明材用又は着色用組成物は上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を含むことによって、建物や乗り物等に用いられる塗料や塗装体等の塗布物に用いた場合や、クリアー塗膜やガラス、又はディスプレイやコンタクトレンズ等のフィルム状組成物等の透明材に用いた場合には、撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性が制御されており、且つ紫外線又は近赤外線防御能を高め、建物や乗り物等の塗装体においても上記濡れ性の制御に加えてそれの塗装体に含まれる有機物等の分解や人体においては皮膚の損傷等をも抑制し、また建築物や乗り物に用いられるガラスにおいても上記濡れ性の制御に加えてガラスを透過した紫外線が室内の有機物や機器類を損傷することや近赤外線による温度上昇等を抑制でき、尚かつ使用量の低減やそれによって可視光線に対して高い透過特性を示すためにガラスやクリアー塗膜等の透明感の向上にも寄与できるだけでなく、色相等の色特性を厳密に制御できるために、美観や質感、意匠性を高めることができる。
【0077】
(塗布用組成物、透明材用組成物又は着色用組成物の色)
塗布物や透明材の色としては、白色系やグレー系、又は黒色系、例えばマンセル表色系における明度10の白色から明度0の黒色を備えた色や、赤色系、例えばマンセル色相環でRPからYRの色相を備えた色や、黄色から緑色系、例えばマンセル色相環でYからBGの色相を備えた色や、青色から紫色系、例えばマンセル色相環でBからPの色素を備えた色(それぞれ、メタルカラーを含む)等が挙げられる。これらの色は、それらの色の塗布物に用いられる塗布用組成物に好適に配合することができる。しかしこれに限るものではなく、他の色相の色であってもかまわない。また、特にそれらの色を呈する塗膜や塗装体のトップコートに、本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子を含む塗布用組成物又は透明材用組成物を用いることによって、撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性が制御された各種の組成物とできることに加えて、各色の発色を損なうことを著しく低減できるだけでなく効果的に着色できるため、塗装体の意匠性を高めるための着色用組成物としても好適である。塗布用、透明材用又は着色用組成物に必要に応じて含まれる顔料や染料は、種々の顔料や染料を用いることができ、例えばカラーインデックスに登録される全ての顔料や染料を用いることができる。その中でも例えば、緑色を構成する顔料にあってはC.I.Pigment Greenに分類される顔料並びに染料、青色を構成する顔料にあっては、C.I.Pigment Blueに分類される顔料並びに染料、白色を構成する顔料にあってはC.I.Pigment Whiteに分類される顔料並びに染料、黄色を構成する顔料にあってはC.I.Pigment Yellowに分類される顔料並びに染料、赤色を構成する顔料や染料にあっては、カラーインデックスにおいてC.I.Pigment Redに分類される顔料並びに染料、C.I.Pigment VioletやC.I.PigmentOrangeに分類される顔料並びに染料等が挙げられる。より具体的にはC.I.Pigment Red 122やC.I.Pigment Violet 19のようなキナクリドン系顔料やC.I.Pigment Red 254やC.I.Pigment Orange 73のようなジケトピロロピロール系顔料、C.I.Pigment Red 150やC.I.Pigment Red 170のようなナフトール系顔料やC.I.Pigment Red 123やC.I.Pigment Red 179のようなペリレン系顔料やC.I.Pigment Red 144のようなアゾ系顔料等が挙げられる。これらの顔料並びに染料は、単独で用いてもよいし、複数を混合して使用してもよい。なお、本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子を含む組成物は、上記顔料及び染料等と混合せずに単独で塗布用、透明材用又は着色用組成物に配合することも可能である。
【実施例
【0078】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例では、特に記載のないものについては、純水として導電率が0.86μS/cm(測定温度:25℃)の純水を用いた。
【0079】
(TEM観察用試料作製とSTEM観察用試料作製)
実施例で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子のウェットケーキサンプルの一部をプロピレングリコールモノメチルエーテルに分散させ、得られた分散液をコロジオン膜に滴下して乾燥させて、TEM観察用試料又はSTEM観察用試料とした。なお、後述する参考例で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子の場合においては、得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子のウェットケーキサンプルの一部をプロピレングリコールに分散させ、得られた分散液を更にイソプロピルアルコール(IPA)で100倍に希釈し、得られた分散液をコロジオン膜に滴下して乾燥させて、TEM観察用試料又はSTEM観察用試料とした。
【0080】
(透過型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置:TEM-EDS分析)
TEM-EDS分析によるケイ素化合物被覆酸化物粒子の観察及び定量分析には、エネルギー分散型X線分析装置、JED-2300(日本電子株式会社製)を備えた透過型電子顕微鏡、JEM-2100(日本電子株式会社製)を用いた。観察条件としては、加速電圧を80kV、観察倍率を2万5千倍以上とした。TEMによって観察されたケイ素化合物被覆酸化物粒子の最大外周間の距離より粒子径を算出し、100個の粒子について粒子径を測定した結果の平均値(平均一次粒子径)を算出した。TEM-EDSによってケイ素化合物被覆酸化物を構成する元素成分のモル比を算出し、10個以上の粒子についてモル比を算出した結果の平均値を算出した。
【0081】
(走査透過型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置:STEM-EDS分析)
STEM-EDS分析による、ケイ素化合物被覆酸化物粒子中に含まれる元素のマッピング及び定量には、エネルギー分散型X線分析装置、Centurio(日本電子株式会社製)を備えた、原子分解能分析電子顕微鏡、JEM-ARM200F(日本電子株式会社製)を用いた。観察条件としては、加速電圧を80kV、観察倍率を5万倍以上とし、直径0.2nmのビーム径を用いて分析した。
【0082】
(X線回折測定)
X線回折(XRD)測定には、粉末X線回折測定装置 EMPYREAN(スペクトリス株式会社PANalytical事業部製)を使用した。測定条件は、測定範囲:10から100[°2θ] Cu対陰極、管電圧45kV、管電流40mA、走査速度0.3°/minとした。各実施例及び参考例で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子の乾燥粉体を用いてXRD測定を行った。
【0083】
(FT-IR測定)
FT-IR測定には、フーリエ変換赤外分光光度計、FT/IR-6600(日本分光株式会社製)を用いた。測定条件は、窒素雰囲気下におけるATR法を用いて、分解能4.0cm-1、積算回数1024回である。IRスペクトルにおける波数650cm-1から1300cm-1のピークの波形分離は、上記FT/IR-6600の制御用ソフトに付属のスペクトル解析プログラムを用いて、残差二乗和が0.01以下となるようにカーブフィッティングした。実施例及び参考例で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子の乾燥粉体を用いて測定した。
【0084】
(透過スペクトル、吸収スペクトル、反射スペクトル、色相及び彩度)
透過スペクトル、吸収スペクトル、反射スペクトル、色相、及び彩度は、紫外可視近赤外分光光度計(製品名:V-770、日本分光株式会社製)を使用した。透過スペクトルの測定範囲は200nmから800nmとし、吸収スペクトルの測定範囲は200nmから800nmとし、サンプリングレートを0.2nm、測定速度を低速として測定した。特定の波長領域について、複数の測定波長における透過率を単純平均し、平均透過率とした。
モル吸光係数は、吸収スペクトルを測定後、測定結果から得られた吸光度と分散液の酸化物濃度より、各測定波長におけるモル吸光係数を算出し、横軸に測定波長、縦軸にモル吸光係数を記載したグラフとした。測定には、厚み1cmの液体用セルを用いた。また、波長200nmから380nmの複数の測定波長におけるモル吸光係数を単純平均し、平均モル吸光係数を算出した。
【0085】
反射スペクトルは、測定範囲を200nmから2500nmとし、サンプリングレートを2.0nm、測定速度を中速、測定方式はダブルビーム測光方式として測定し、正反射と拡散反射とを測定する全反射測定を行った。また粉末を測定する際のバックグラウンド測定(ベースライン設定)には、標準白板(製品名:Spectralon(商標)、Labsphere製)を使用した。各実施例で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子の乾燥粉体を用いて反射スペクトルを測定した。特定の波長領域について、複数の測定波長における反射率を単純平均し、平均反射率とした。色相及び彩度は反射スペクトル測定結果より、表色系をL表色系、視野を2(deg)、光源をD65-2、等色関数をJIS Z 8701:1999、データ間隔を5nmとして測定し、取得されたL、a、bそれぞれの値より、色相H=b/a、彩度C=((a+(b1/2の式を用いて算出した。
【0086】
(実施例1)
以下、実施例1においては、金属酸化物粒子として酸化亜鉛粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子について記載する。高速回転式分散乳化装置であるクレアミックス(製品名:CLM-2.2S、エム・テクニック株式会社製)を用いて、酸化物析出溶媒(A液)、酸化物原料液(B液)、及びケイ素化合物原料液(C液)を調製した。具体的には表1の実施例1に示す酸化物原料液の処方に基づいて、酸化物原料液の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度40℃、ローター回転数を20000rpmにて30分間攪拌することにより均質に混合し、酸化物原料液を調製した。また、表1の実施例1に示す酸化物析出溶媒の処方に基づいて、酸化物析出溶媒の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度45℃、ローターの回転数15000rpmにて30分間攪拌することにより均質に混合し、酸化物析出溶媒を調製した。ただし、メタノール(MeOH)のみのように単独の溶媒を用いた場合には、上記調製の処理は行っていない。さらに、表1の実施例1に示すケイ素化合物原料液の処方に基づいて、ケイ素化合物原料液の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度20℃、ローターの回転数6000rpmにて10分間攪拌することにより均質に混合し、ケイ素化合物原料液を調製した。
なお、表1に記載の化学式や略記号で示された物質については、MeOHはメタノール(株式会社ゴードー製)、EGはエチレングリコール(キシダ化学株式会社製)、KOHは水酸化カリウム(日本曹達株式会社製)、TEOSはテトラエチルオルトシリケート(和光純薬工業株式会社製)、ZnOは酸化亜鉛(関東化学株式会社製)、Zn(NO・6HOは硝酸亜鉛六水和物(関東化学株式会社製)、Co(NO・6HOは硝酸コバルト六水和物(関東化学株式会社製)、Mn(NO・6HOは硝酸マンガン六水和物(関東化学株式会社製)、Al(NO・9HOは硝酸アルミニウム九水和物(関東化学株式会社製)、Fe(NO・9HOは硝酸鉄九水和物(関東化学株式会社製)、NaOHは水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製)、NMPはN-メチル-2-ピロリドン(キシダ化学株式会社製)、フッ化処理剤1はトリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシラン(東京化成工業株式会社製)、フッ化処理剤2はトリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン(東京化成工業株式会社製)、フッ化処理剤3はトリフルオロ酢酸無水物(関東化学株式会社製)、フッ化処理剤4はトリフルオロメタンスルホン酸無水物(関東化学株式会社製)を使用した。
【0087】
次に調製した酸化物原料液、酸化物析出溶媒、及びケイ素化合物原料液を本願出願人による特許文献7に記載の流体処理装置を用いて混合した。ここで、特許文献7に記載の流体処理装置とは、同公報の図1(B)に記載の装置であって、第2及び第3導入部の開口部がリング状に形成されたディスクである処理用面2の中央の開口を取り巻く同心円状の円環形状であるものを用いた。具体的には、A液として酸化物原料液又は酸化物析出溶媒を第1導入部d1から処理用面1,2間に導入し、処理用部10を回転数1130rpmで運転しながら、B液として酸化物原料液又は酸化物析出溶媒の内、A液として送液した液とは異なる他方の液を第2導入部d2から処理用面1と2間に導入して、酸化物原料液と酸化物析出溶媒とを薄膜流体中で混合し、処理用面1と2間において、コアとなる酸化亜鉛粒子を析出させた。次に、C液としてケイ素化合物原料液を第3導入部d3から処理用面1,2間に導入し、薄膜流体中においてコアとなる酸化亜鉛粒子を含む混合流体と混合した。コアとなる酸化亜鉛粒子の表面にケイ素化合物が析出され、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子を含む吐出液(以下、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子分散液)を流体処理装置の処理用面1と2間から吐出させた。吐出させたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子分散液を、ベッセルvを介してビーカーbに回収した。
【0088】
表2に、流体処理装置の運転条件、並びに得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のTEM観察結果より算出した平均一次粒子径及びTEM-EDS分析より算出したF/Si/Znのモル比をA液、B液及びC液の処方及び導入流量より計算した計算値とともに示す。ただし、着色を目的としてコアとなる酸化亜鉛粒子に亜鉛以外の金属元素又は半金属元素を含む複合酸化物とした場合には、亜鉛とは異なる金属元素又は半金属元素をM2及びM3として、F/Si/(Zn+M2+M3)のモル比を示す。表2に示したA液、B液及びC液の導入温度(送液温度)と導入圧力(送液圧力)は、処理用面1と2間に通じる密封された導入路(第1導入部d1と第2導入部d2、及び第3導入部d3)内に設けられた温度計と圧力計とを用いて測定したものであり、表2に示したA液の導入温度は、第1導入部d1内の導入圧力下における実際のA液の温度であり、同じくB液の導入温度は、第2導入部d2内の導入圧力下における実際のB液の温度であり、C液の導入温度は、第3導入部d3内の導入圧力下における実際のC液の温度である。
【0089】
pH測定には、株式会社堀場製作所製の型番D-51のpHメーターを用いた。A液、B液及びC液を流体処理装置に導入する前に、そのpHを室温にて測定した。また、酸化物原料液と酸化物析出溶媒との混合直後の混合流体のpH、及びコアとなる酸化亜鉛粒子を含む流体とケイ素化合物原料液との混合直後のpHを測定することは困難なため、同装置から吐出させ、ビーカーbに回収したケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子分散液のpHを室温にて測定した。
【0090】
流体処理装置から吐出させ、ビーカーbに回収したケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子分散液から、乾燥粉体とウェットケーキサンプルを作製した。作製方法としては、この種の処理の常法に従って行い、吐出されたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子分散液を回収し、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子を沈降させて上澄み液を除去し、その後、純水100質量部での洗浄と沈降とを繰り返し3回行い、その後に純水での洗浄と沈降とを繰り返し3回行うことでケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子を洗浄し、最終的に得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のウェットケーキの一部を-0.10MPaGにて25℃、20時間乾燥させて乾燥粉体とした。残りをウェットケーキサンプルとした。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
実施例1-1~実施例1-3は、Si-OH結合の比率又はCF結合に対するSi-OH結合の比率であるCF結合/Si-OH結合比率を変化させることを目的として、金属酸化物粒子を析出させ、ケイ素化合物及びCF結合を含む物質(フッ化処理剤)を含む流体を金属酸化物粒子に作用させる際の温度を変更した。実施例1-4~実施例1-6は、実施例1-1に対して、フッ化処理剤の種類を変更した。実施例1-7~実施例1-10は、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子を着色することを目的として、被覆される金属酸化物が亜鉛(Zn)だけでなく、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)又はアルミニウム(Al)を含む複合酸化物とした。
【0094】
上記実施例1-1~実施例1-10においては、接近離反可能な相対的回転する処理用面間において、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子に含まれるSi-OH結合及びCF結合の比率を制御したが、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子に含まれる官能基の変更処理のさらなる一例として、参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子に無水トリフルオロ酢酸を作用させて、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子をフッ化処理した。具体的には参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子を、メチルエチルケトンにケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子として0.1質量%となるように投入し、高速回転式分散乳化装置であるクレアミックス(製品名:CLM-2.2S、エム・テクニック株式会社製)を用いて調製温度30℃、ローター回転数を20000rpmにて30分間攪拌することにより均質に混合・分散させてケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子分散液を調製した。上記分散液をクレアミックスを用いて20000rpmで攪拌しながら、トリエチルアミン(和光純薬株式会社製)をケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子に含まれる酸化亜鉛に対して2mol倍投入し、無水トリフルオロ酢酸をケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子に対して、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子に含まれる酸化亜鉛に対して1mol倍投入した(処理温度:30℃~35℃)。無水トリフルオロ酢酸の投入完了後、クレアミックスの回転数を20000rpm、処理温度を30℃~35℃に保持したまま30分間の処理を続けた。処理終了後、フッ化されたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子分散液から、乾燥粉体とウェットケーキサンプルを作製した。作製方法としては、この種の処理の常法に従って行い、フッ化されたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子分散液中において、フッ化されたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子を沈降させて上澄み液を除去し、その後、メチルエチルケトン100質量部での洗浄と沈降とを繰り返し3回行い、その後にメタノールでの洗浄と沈降とを繰り返し3回行うことでフッ化されたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子を洗浄し、最終的に得られたフッ化されたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のウェットケーキの一部を-0.10MPaGにて25℃、20時間乾燥させて乾燥粉体とした。残りをウェットケーキサンプルとした。(実施例1-11)
【0095】
実施例1-1のケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子を、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のケイ素化合物に含まれる官能基の変更処理として、電気炉を用いて熱処理した。熱処理条件は、実施例1-1:未処理、実施例1-12:100℃にて30分間、実施例1-13:200℃にて30分間、実施例1-14:200℃にて60分間、実施例1-15:200℃にて90分間である。
【0096】
実施例1-1のケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子を、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のケイ素化合物に含まれる官能基の変更処理として、電気炉を用いて三フッ化メタンガスをフローしながら熱処理した。処理条件は、実施例1-16:100℃にて60分間(ガスフロー:2L/min)、実施例1-17:200℃にて60分間(ガスフロー:2L/min)、実施例1-18:200℃にて60分間(ガスフロー:5L/min)である。
【0097】
参考例1のケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子を、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のケイ素化合物に含まれる官能基の変更処理として、電気炉を用いて熱処理した。熱処理条件は、参考例1:未処理、実施例1-19:100℃にて30分間、実施例1-20:200℃にて30分間、実施例1-21:200℃にて60分間、実施例1-22:200℃にて90分間である。
【0098】
図1に実施例1―2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のSTEMを用いたマッピング結果を、図2図1のBF像における破線を施した位置での線分析の結果を示す。図1において、(a)は明視野像(BF像)であり、(b)はケイ素(Si)、(c)は亜鉛(Zn)、(d)は酸素(O)、(e)はフッ素(F)のそれぞれマッピング結果である。図2は、図1のBF像において、破線を施した位置での線分析の結果であり、粒子の端から端までの線部分において検出された元素の原子%(モル%)を示した結果である。図2に見られるように、酸素とケイ素及びフッ素については、線分析における分析範囲の両端まで検出されたが、亜鉛については粒子の端から数nm程度内側までしか検出されておらず、酸化亜鉛粒子の表面をケイ素酸化物を含むケイ素化合物及びフッ素を含む化合物で被覆されていることがわかる。図1及び図2に見られるように、実施例1―2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子は、粒子の全体をケイ素化合物及びフッ素を含む化合物によって覆われた酸化亜鉛粒子として観察された。実施例1-1及び実施例1-3から実施例1-22で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子についても、実施例1-2と同様のSTEMマッピング及び線分析の結果を得たが、実施例1-7及び実施例1-9については、酸化亜鉛粒子の全体をケイ素酸化物によって覆われたものではなく、酸化亜鉛粒子の表面の一部をケイ素酸化物を含むケイ素化合物よって被覆したケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子も確認された。本発明においては、金属酸化物粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化物粒子として実施することができる。
【0099】
図3に実施例1-2、実施例1-11及び参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のATR法にて測定したIR測定結果を示す。実施例1-2及び実施例1-11で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子のIR測定結果は、参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛のIR測定結果に比べて、1000cm-1付近から1300cm-1付近に新たなピークが確認された。また、実施例1-11で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子においては、1673cm-1付近にカルボニル基に由来するピークが見られており、参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子に無水トリフルオロ酢酸を作用させることによって、エステル結合が生じたことがわかった。
【0100】
図4に参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子、図5に実施例1-2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子、図6に実施例1-11で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子についてそれぞれ上記IRスペクトルにおける波数650cm-1から1300cm-1の領域について波形分離した結果を示す。
【0101】
図4に見られる波形分離の結果より、参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子には、913cm-1付近にSi-OH結合に由来するピーク及び1033cm-1付近のSi-OH結合とは異なる参考例1のピークを構成する(構成ピーク1)のみが確認されたが、図5及び図6に見られるように実施例1-2及び実施例1-11で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子については、それらに加えて新たなピークが確認された。図5に見られる波形分離されたピークの内、1219cm-1及び1205cm-1付近に確認されるピーク、並びに図6に見られる波形分離されたピークの内、1205cm-1付近に確認されるピークについては、CF結合に帰属することができるため、実施例1-2及び実施例1-11で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子が、CF結合を含むケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子であることが確認された。また、参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子よりも実施例1-2及び実施例1-11で得られたフッ化されたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子の方が、波形分離されたピークの総面積に対するSi-OH結合の比率が下がっていることがわかる。即ち、参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子に比べて、実施例1-2及び実施例1-11で得られたフッ化されたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子の方が、粒子に含まれるSi-OH結合の比率が低く、CF結合の比率が高いことがわかった。本発明においては、上記IRスペクトルにおける波数650cm-1から1300cm-1の領域について波形分離されたピークの総面積に対するSi-OH結合の面積比率(Si-OH比率[%])又はCF結合の面積比率(CF比率[%])に対するSi-OH結合の面積比率(Si-OH比率[%])であるCF結合/Si-OH結合比率を制御することによって、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子の撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性及び色特性を制御することが可能である。
【0102】
図7に実施例1-2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のXRD測定結果を示す。図7に見られるように、XRD測定においては、ZnOに由来するピークのみが検出された。すなわち上記STEM、及びIR測定において確認されたケイ素酸化物を含むケイ素化合物が非晶質のケイ素化合物であることが確認された。また、実施例1-1及び実施例1-3~実施例1-22についても同様のXRD測定結果が得られた。
【0103】
図8に実施例1-2、実施例1-3、実施例1-5及び実施例1-11で得られたフッ化されたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子をプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)に分散させた分散液におけるモル吸光係数の結果と参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子をプロピレングリコール(PG)に分散させた分散液におけるモル吸光係数の結果を示す。なお、参考例1においてはフッ化されたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子ではなく、Si-OH結合の比率が70%を超えていることによって粒子の親水性が高いために、分散媒をプロピレングリコールとし、実施例1-2、実施例1-3、実施例1-5及び実施例1-11においては、フッ化されることによって撥水性が高まっているため、プロピレングリコールモノメチルエーテルに分散媒を変更し、一次粒子径及び分散粒子径が同等の状態としてモル吸光係数を測定したものである。参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子をプロピレングリコールモノメチルエーテルに分散させた場合にあっては分散安定性が非常に低く、分散処理終了直後に粒子の沈降がみられ、実施例1-2、実施例1-3、実施例1-5及び実施例1-11で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子をプロピレングリコールに分散させた場合にあっても同様に分散処理終了直後に沈降が見られたためである。本発明において、後述する全ての実施例においては、モル吸光係数及び透過率を測定するための分散液の分散媒をプロピレングリコールモノメチルエーテルとし、全ての参考例については、分散媒をプロピレングリコールとした。
【0104】
図8に見られるように、参考例1に比べて実施例1-2、実施例1-3、実施例1-5及び実施例1-11で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子の方が、波長200nmから380nmの範囲におけるモル吸光係数が向上していることがわかる。即ち、粒子に含まれるSi-OH結合の比率を変化させることによって、波長200nmから380nmの範囲における平均モル吸光係数が変化することがわかった。上記実施例1-1~実施例1-22においては、波長200nmから380nmの範囲における平均モル吸光係数は650L/(mol・cm)以上であり、紫外線領域である波長200nmから380nmの範囲の光線を効果的に吸収する能力を有することがわかった。
【0105】
図9に実施例1-2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子プロピレングリコールモノメチルエーテルに分散させて得られた分散液の透過スペクトルを示す。図9に見られるように、波長200nmから380nmの範囲における平均透過率が15%以下であり、波長380nmから780nmの範囲においては、80%以上であるため、可視領域の光線に対しては非常に透過性能が高い分散体であり、各種の組成物に好適に用いることができる。
【0106】
図10に実施例1-2及び実施例1-11で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子の反射率測定結果を示す。図10に見られるように、波長780nmから2500nmの範囲における平均反射率が50%以上であるため、近赤外線領域の光線に対して高い反射特性を有することがわかった。
【0107】
実施例1-13で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子をプロピレングリコールモノメチルエーテルに分散させて得られた分散液をスピンコーター(MIKASA製 MS-A100)にてガラス基板に塗布し、200℃で2時間の真空乾燥(-0.1MPaG)を行い、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子塗膜を得た。また、参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子をプロピレングリコールに分散させて得られた分散液をスピンコーター(MIKASA製 MS-A100)にてガラス基板に塗布し、25℃で20時間の真空乾燥(-0.1MPaG)を行い、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子塗膜を得た。
【0108】
得られた塗膜について、株式会社あすみ技研製の接触角計(LSE-B100)を用いて純水又はヒマシ油に対する接触角測定した。計算方法はθ/2法を用いて算出した。純水を用いた測定時の写真を図11に示す。実施例1-13の接触角は159.7°であり、参考例1の接触角は95.1°であった。このことから、実施例1-13で得られたケイ素化合物は撥水性が向上していることがわかった。
【0109】
表3に実施例1-1から実施例1-22、及び参考例1で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子について、Si-OH結合の比率、CF結合の比率、CF結合/Si-OH結合比率、平均反射率、平均モル吸光係数、平均透過率、L値、b値、c値、色相、彩度、接触角を示す。
【0110】
【表3】
【0111】
表3に見られるように、Si-OH結合の比率が低くなるにしたがって、またCF結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率が高くなるにしたがって、波長780nmから2500nmの領域における平均反射率及び波長200nmから380nmの領域における平均モル吸光係数、接触角が高くなる傾向が見られた。本発明のケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子においては、CF結合/Si-OH結合比率が0以上4.5以下であり、Si-OH結合の比率が5%以上70%以下であり、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた状態で波長200nmから380nmの領域における平均モル吸光係数が650L/(mol・cm)以上であることが好ましい。また、実施例1-7~実施例1-10に見られるように、酸化亜鉛粒子にFe、Co、Mn、Al等の元素を複合させることで着色も可能であることがわかった。
これらのことから、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子に含まれるSi-OH結合又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することによって、波長200nmから380nmの範囲における平均モル吸光係数、波長780nmから2500nmの範囲における平均反射率、及び撥水性、撥油性又は親水性等の濡れ性が制御できることがわかった。より具体的にはケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子に含まれるSi-OH結合の比率を低く制御すること及びCF結合/Si-OH結合比率を高く制御することによって、波長200nmから380nmの範囲における平均モル吸光係数、波長780nmから2500nmの範囲における平均反射率、及び撥水性又は撥油性を向上できることがわかった。
【0112】
(実施例2)
以下、実施例2においては、酸化物粒子として酸化鉄粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化鉄粒子について記載する。作製条件を表4及び表5とした以外は、実施例1-1~実施例1-6と同様の条件で作製した。なお、表4に記載の化学式や略記号で示された物質については、MeOHはメタノール(株式会社ゴードー製)、TEOSはテトラエチルオルトシリケート(和光純薬工業株式会社製)、Fe(NO・9HOは硝酸鉄九水和物(関東化学株式会社製)、NaOHは水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製)、NMPはN-メチル-2-ピロリドン(キシダ化学株式会社製)、フッ化処理剤1はトリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシラン(東京化成工業株式会社製)、フッ化処理剤2はトリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン(東京化成工業株式会社製)、フッ化処理剤3はトリフルオロ酢酸無水物(関東化学株式会社製)、フッ化処理剤4はトリフルオロメタンスルホン酸無水物(関東化学株式会社製)を使用した。
【0113】
STEMマッピング及び線分析の結果及びXRD測定結果は実施例1と同様の結果が得られ、XRD測定結果においては、α―Feに由来するピークのみが検出された。
【0114】
表6に実施例2-1~実施例2-6及び参考例2で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子について、Si-OH結合の比率、CF結合の比率、CF結合/Si-OH結合比率、平均反射率、平均モル吸光係数、平均透過率、接触角を示す。表6に見られるように実施例2においても実施例1と同様に、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することによって、撥水性又は撥油性及び色特性を制御できることがわかった。本発明においては、ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子において、CF結合/Si-OH結合比率が0以上4.5以下であり、Si-OH結合の比率が5%以上70%以下であり、上記ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子を分散媒に分散させた状態で波長200nmから380nmの領域における平均モル吸光係数が1500L/(mol・cm)以上であるケイ素化合物被覆酸化鉄粒子であることが好ましい。
【0115】
【表4】
【0116】
【表5】
【0117】
【表6】
【0118】
(実施例3)
以下、実施例3においては、酸化物粒子として酸化セリウム粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子について記載する。作製条件を表7及び表8とした以外は、実施例1-1~実施例1-6と同様の条件で作成した。なお、表7に記載の化学式や略記号で示された物質については、MeOHはメタノール(株式会社ゴードー製)、TEOSはテトラエチルオルトシリケート(和光純薬工業株式会社製)、Ce(NO・6HOは硝酸セリウム六水和物(関東化学株式会社製)、NaOHは水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製)、NMPはN-メチル-2-ピロリドン(キシダ化学株式会社製)、フッ化処理剤1はトリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシラン(東京化成工業株式会社製)、フッ化処理剤2はトリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン(東京化成工業株式会社製)、フッ化処理剤3はトリフルオロ酢酸無水物(関東化学株式会社製)、フッ化処理剤4はトリフルオロメタンスルホン酸無水物(関東化学株式会社製)を使用した。
【0119】
STEMマッピング及び線分析の結果及びXRD測定結果は実施例1と同様の結果が得られ、XRD測定結果については、CeOに由来するピークのみが検出された。
【0120】
表9に実施例3-1から実施例3-6、及び参考例3で得られたケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子について、Si-OH結合の比率、CF結合の比率、CF結合/Si-OH結合比率、平均反射率、平均モル吸光係数、平均透過率、接触角を示す。表9に見られるように実施例3においても実施例1及び2と同様に、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することによって、撥水性又は撥油性及び色特性を制御できることがわかった。本発明においては、CF結合を含むケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子において、CF結合/Si-OH結合比率が0以上4.5以下であり、Si-OH結合の比率が5%以上70%以下であり、上記ケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子を分散媒に分散させた状態で波長200nmから380nmの領域における平均モル吸光係数が3500L/(mol・cm)以上であるケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子であることが好ましい。
【0121】
【表7】
【0122】
【表8】
【0123】
【表9】
【0124】
(実施例4)
以下、実施例4においては、酸化物粒子として酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化チタン粒子について記載する。作製時の条件を表10及び表11とした以外は、実施例1-1~実施例1-6と同様の条件で作成した。なお、表10に記載の化学式や略記号で示された物質については、MeOHはメタノール(株式会社ゴードー製)、TEOSはテトラエチルオルトシリケート(和光純薬工業株式会社製)、TiOSO・nHOは硫酸チタニルn水和物(関東化学株式会社製、TiOSO・2HOとして用いた。)、NaOHは水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製)、NMPはN-メチル-2-ピロリドン(キシダ化学株式会社製)、フッ化処理剤1はトリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシラン(東京化成工業株式会社製)、フッ化処理剤2はトリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン(東京化成工業株式会社製)、フッ化処理剤3はトリフルオロ酢酸無水物(関東化学株式会社製)、フッ化処理剤4はトリフルオロメタンスルホン酸無水物(関東化学株式会社製)を使用した。
【0125】
STEMマッピング及び線分析の結果及びXRD測定結果は実施例1と同様の結果が得られ、XRD測定結果においては、TiOに由来するピークのみが検出された。
【0126】
表12に実施例4-1~実施例4-6及び参考例4で得られたケイ素化合物被覆酸化チタン粒子について、Si-OH結合の比率、CF結合の比率、CF結合/Si-OH結合比率、平均反射率、平均モル吸光係数、平均透過率、接触角を示す。表12に見られるように実施例4においても実施例1~3と同様に、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することによって、撥水性又は撥油性及び色特性を制御できることがわかった。本発明においては、CF結合を含むケイ素化合物被覆酸化チタン粒子において、CF結合/Si-OH結合比率が0以上4.5以下であり、Si-OH結合の比率が5%以上70%以下であり、上記ケイ素化合物被覆酸化チタン粒子を分散媒に分散させた状態で波長200nmから380nmの領域における平均モル吸光係数が4000L/(mol・cm)以上であるケイ素化合物被覆酸化チタン粒子であることが好ましい。
【0127】
【表10】
【0128】
【表11】
【0129】
【表12】
【0130】
(実施例5)
実施例5として、特開2009-112892号公報に記載の装置並びにA液、B液及びC液の混合・反応方法を用いた以外は、実施例1と同じ条件とすることで、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子を作製した。ここで、特開2009-112892号公報の装置とは、同公報の図1に記載の装置を用い、撹拌槽の内径が80mm、攪拌具の外端と攪拌槽の内周側面と間隙が0.5mm、攪拌羽根の回転数は7200rpmとした。また、撹拌槽にA液を導入し、攪拌槽の内周側面に圧着されたA液からなる薄膜中にB液を加えて混合し反応させた。TEM観察の結果、一次粒子径が30nm~40nm程度のケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子が観察された。また参考例1と同様に、フッ化されていない上記実施例5と同粒子径の酸化亜鉛粒子を作製した(参考例5)。
【0131】
STEMマッピング及び線分析の結果及びXRD測定結果は実施例1と同様の結果が得られた。
【0132】
表13に実施例5及び参考例5で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子について、Si-OH結合の比率、CF結合の比率、CF結合/Si-OH結合比率、平均反射率、平均モル吸光係数、平均透過率及び接触角を示す。表13に見られるように特許文献7に記載された装置とは異なる装置を用いて行った実施例5においても実施例1~4と同様に、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はCF結合/Si-OH結合比率を制御することによって、撥水性又は撥油性及び色特性を制御できることがわかった。
【0133】
【表13】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11