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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】発電装置用の電極及び発電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/16 20060101AFI20220322BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20220322BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20220322BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20220322BHJP
   C12N 11/02 20060101ALN20220322BHJP
【FI】
H01M8/16
H01M4/86 B
H01M4/90 X
H01M4/90 Y
H01M4/96 B
C12N11/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017177760
(22)【出願日】2017-09-15
(65)【公開番号】P2019053906
(43)【公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 耕造
(72)【発明者】
【氏名】小澤 敏宏
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/066806(WO,A1)
【文献】特開2007-095471(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065581(WO,A1)
【文献】特開2013-218951(JP,A)
【文献】国際公開第2012/002290(WO,A1)
【文献】特開2017-135109(JP,A)
【文献】国際公開第2017/119419(WO,A1)
【文献】特開2011-090974(JP,A)
【文献】特開2000-133297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/16
H01M 4/86
H01M 4/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の代謝反応を利用して有機物である燃料を電気エネルギーに変換する発電装置のアノード電極に用いられる電極であって、
カーボンナノチューブと、
前記カーボンナノチューブの支持基材と、を含み、
前記支持基材は、前記微生物の前記代謝反応を行うための燃料となる前記有機物を成分として有する、
電極。
【請求項2】
前記支持基材は、パルプ繊維である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記有機物は、セルロースである、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
乾燥状態の前記微生物が内部に保持されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
微生物の代謝反応を利用して有機物である燃料を電気エネルギーに変換する発電装置であって、
カーボンナノチューブを含むカソード電極と、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のアノード電極と、
を備える、発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の代謝反応を利用して有機物である燃料を電気エネルギーに変換する発電装置に用いられる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微生物の代謝反応を利用して有機物である燃料を電気エネルギーに変換し、発電する装置が知られている。一般に、この種の発電装置は微生物燃料電池と呼ばれ、アノード電極とカソード電極とを備えている。そして、微生物燃料電池は、燃料としての有機物が微生物によって分解されるときに発生する電子をアノード電極にて回収し、アノード電極から外部回路を経由してカソード電極へ移動させる。また、アノード電極において発生したプロトンは、カソード電極へ移動した電子と、酸素と反応して水を生じさせる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-170466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のような微生物燃料電池は、燃料としての有機物を微生物に与えることによって、
電力を簡単に生成することができる。しかし、外部から燃料を供給しなくても発電を行うことができれば望ましい。
そこで、本発明は、外部から燃料を供給しなくても発電を行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発電装置用の電極は、微生物の代謝反応を利用して有機物である燃料を電気エネルギーに変換する発電装置のアノード電極に用いられる電極であって、カーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブの支持基材と、を含み、前記支持基材は、前記微生物の前記代謝反応を行うための燃料となる前記有機物を成分として有する。
なお、本開示の発電装置用の電極は、
微生物の代謝反応を利用して有機物である燃料を電気エネルギーに変換する発電装置に
用いられる電極であって、
カーボンナノチューブを含んでいる。
【0006】
電極がカーボンナノチューブを含むことによって、当該電極の表面積を拡大させることができ、発電装置の内部抵抗を下げて出力を高めることができる。
【0007】
好ましくは、前記電極が、カーボンナノチューブ複合紙からなる。
このような構成によって、当該電極に可撓性を持たせることができるので、使用箇所の自由度を高めることができる。また、使用後に容易に廃棄することができる。
【0008】
好ましくは、前記電極がカソード電極として用いられ、フェリシアン化カリウムが含まれている。
カソード電極にフェリシアン化カリウムが含まれることによって、カソード電極における反応を促進し、出力をより高めることができる。
【0009】
好ましくは、前記電極がアノード電極として用いられ、微生物が保持されている。
このような構成によって、アノード電極に保持された微生物の代謝反応により発電を行うことができる。また、アノード電極は、カーボンナノチューブを含んでいるので、表面積の拡大によってより多くの微生物を保持することができ、出力を高めることが可能となる。また、微生物としてセルロースを燃料とするものを用いた場合、カーボンナノチューブ複合紙の成分として含まれるセルロースを燃料として発電を行うことが可能となる。
【0010】
好ましくは、前記電極がアノード電極として用いられ、前記有機物を含んでいる。
このような構成によって、アノード電極に含まれる有機物を燃料として発電を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発電装置の出力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る発電装置を模式的に示す説明図である。
図2】発電装置の具体的構成を示す側面図である。
図3】発電装置の具体的構造を示す分解斜視図である。
図4】他の実施形態に係る発電装置の具体的構造を示す分解斜視図である。
図5】さらに他の実施形態に係る発電装置の具体的構造を示す分解斜視図である。
図6】さらに他の実施形態に係る発電装置の具体的構造を示す分解斜視図である。
図7】発電特性を示すグラフである。
図8】発電特性を示すグラフである。
図9】発電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
[発電装置の構成]
図1は、一実施形態に係る発電装置を模式的に示す説明図である。
本実施形態の発電装置10は、一槽型の微生物燃料電池により構成されている。また、本実施形態の発電装置10は、例えば非常用バッテリと使用することが想定され、平常時は、乾燥状態で保存され、非常時のみに発電を行って電気機器等に通電を行い、使用後は廃棄される使い捨てタイプとされている。
【0014】
この微生物燃料電池10は、微生物20が、有機物である燃料を分解する作用を利用して発電を行うものであり、筐体11と、アノード電極12と、カソード電極13と、セパレータ14とを備えている。
筐体11は、アノード電極12が配置されるアノード領域17を備えており、このアノード領域17内には外部から供給された水分を貯留することができる。ただし、発電装置10の不使用時には、アノード領域17は乾燥状態とされる。
アノード電極12とカソード電極13とは外部回路(負荷抵抗)15を介して電気配線により電気的に接続されている。
【0015】
(アノード電極)
アノード電極12は、カーボンナノチューブ複合紙からなる。カーボンナノチューブ複合紙は、紙の成分であるパルプ繊維にカーボンナノチューブを分散させたものである。カーボンナノチューブ複合紙は、例えば、次のように作製することができる。まず、カーボンナノチューブを分散させた水溶液(カーボンナノチューブ分散液)と、パルプを分散させた水溶液(パルプ分散液)とを混合し、マグネティックスターラ等を用いて所定時間(例えば24時間)撹拌する。その後、混合された水溶液を乾燥機により約40℃で所定期間(例えば2日程度)乾燥させる。この状態のカーボンナノチューブ複合紙は疎水性となるため、さらにプラズマ処理を施すことによって親水性を高める。
【0016】
アノード電極12は、カーボンナノチューブの支持基材として紙が用いられるので、可撓性(フレキシブル性)を有し、容易に湾曲させることができる。したがって、使用形態の自由度を高めることができる。また、アノード電極12を構成するカーボンナノチューブ複合紙は、パルプ繊維に水を含ませることができるため、吸水性を有する。なお、アノード電極12の厚さは、例えば、0.1mm以上1mm以下とされる。
【0017】
アノード電極12には、有機物を分解する微生物20が保持されている。すなわち、アノード電極12は、微生物20を保持するための「保持体」を構成している。
アノード電極12は、微生物20を培養している培養液に所定時間浸した後、乾燥させることによって微生物20を乾燥状態で保持することができる。このとき、培養液に含まれるエサとなる有機物もアノード電極12に含まれた状態となる。また、後述するように微生物20が枯草菌である場合、セルロースを分解することができるため、カーボンナノチューブ複合紙に含まれるパルプ繊維の成分であるセルロースを燃料として代謝反応を行う。
【0018】
(微生物)
本実施形態の微生物20は、枯草菌、例えば納豆菌が用いられている。枯草菌は、有機物としてのセルロースやグルコースを分解する。また、枯草菌は、栄養分が枯渇すると、芽胞を形成して休眠状態となり、高温状態や乾燥状態等の劣悪な環境下においても長期間にわたって生存状態を維持する。一方、芽胞を形成した枯草菌は、栄養が与えられると休眠状態を終えて発芽し、増殖する。本実施形態では、このような枯草菌の性質を利用することによって、長期保存可能な発電装置10を実現している。ただし、本実施形態の発電装置10は、枯草菌を用いたものに限定されず、乾燥状態でも生存可能な他の微生物、例えば、グルコースを分解する酵母菌、大腸菌等を適用することもできる。なお、本発明で用いる微生物は、乾燥状態で生存可能でないものであってもよく、セルロースやグルコース以外の有機物を分解するものであってもよい。
【0019】
(カソード電極)
カソード電極13は、アノード電極12と同様にカーボンナノチューブ複合紙からなる。したがって、アノード電極12と同様の方法により作製することができる。また、カソード電極13は、酸素の透過性を有する、いわゆるエアカソードである。
カソード電極13には、触媒としてフェリシアン化カリウムが含まれている。具体的には、カソード電極13は、フェリシアン化カリウム水溶液に所定時間浸した後、乾燥させることによって作製される。カソード電極13の厚さは、例えば、0.1mm以上1mm以下とされる。
【0020】
(セパレータ)
セパレータ14は、アノード領域17で発生したプロトン(水素イオン)を透過可能であり、アノード領域17内の水分の透過を防止するものである。このセパレータ14として、一般的にはプロトン交換膜(PEM)が用いられる。ただし、本実施形態では、PEMに代えて、紙製のセパレータ14が用いられている。このセパレータ14は、例えば、濾紙(例えば、孔径が約5μm)に防水剤を塗布(疎水化処理)することによって作製することができる。紙製のセパレータ14は、プロトン交換膜と比べて、安価に作製することができるとともに、使用後の廃棄が容易になるという利点を有する。なお、セパレータ14として孔径がより小さい濾紙(例えば、約0.05μm)を用いれば、濾紙自体で水分の透過を阻止することができるため、疎水化処理を行わなくてもよい。しかし、この場合、濾紙が非常に高価となるため、コストの面では、比較的孔径の大きな濾紙に対して疎水化処理を施すことが好ましい。
【0021】
[発電装置の具体的構造]
図2は、発電装置の具体的構造を示す側面図、図3は、同分解斜視図である。
筐体11は、一対の主枠31a、31bと、一対の副枠32a,32bとを有している。一対の主枠31a,31bは、合成樹脂材等により略正方形状に形成された薄板材からなり、中央部に略正方形状の開口31a1,31b1が形成されている。一対の主枠31a,31bは、セパレータ14を間に挟んだ状態で互いに重ね合わされている。セパレータ14は、主枠31a、31bとほぼ同一寸法の略正方形状に形成されている。
【0022】
一対の副枠32a,32bは、合成樹脂材等により略正方形に形成された薄板材からなり、中央部に略四角形状の開口32a1,32b1が形成されている。副枠32a,32bの外形は、主枠31a,31bの開口31a1,31b1と略同一形状に形成されている。
【0023】
一方の副枠32aは、アノード電極12を間に挟んだ状態で一方の主枠31aに重ね合わされ、他方の副枠32bは、カソード電極13を間に挟んだ状態で他方の主枠31bに重ね合わされる。アノード電極12側に配置された副枠32aの開口32a1は、水分を供給するための供給口とされる。また、アノード電極12側の主枠31a及び副枠32aの開口31a1,32a1は、アノード領域17を形成している。
【0024】
カソード電極13側に配置された副枠32bの開口32b1は、カソード電極13に外気を触れさせるための外気口とされている。アノード電極12及びカソード電極13は、主枠31a,31b及び副枠32a,32bから外側へ突出し、この突出部分が外部回路15(図1参照)に接続される。
【0025】
[発電装置の作用]
本実施形態の発電装置10は、不使用時に、微生物20を保持するアノード電極12が水分に触れていない乾燥状態とされる。そして、微生物20は、乾燥状態で長期間生存可能なもの、例えば、納豆菌等の枯草菌が用いられている。
そして、発電装置10は、使用時に、吸水口32a1からアノード領域17へ所定量の水分が供給される。アノード領域17に水分が供給されると、アノード電極12に保持されていた微生物20は有機物を分解し、プロトン(H)及び電子(e)を生成する。電子eは、アノード電極12で回収され、外部回路を経由してカソード電極13に移動する。プロトンは、セパレータ14を透過してカソード電極13に移動する。カソード電極13において、外気口32b1から取り込まれた空気中の酸素と、カソード電極13に移動した電子及びプロトンとの反応により水が発生する。
【0026】
したがって、本実施形態の発電装置10は、不使用時には、発電が行われない乾燥状態で長期に保存可能であり、使用時のみ水分を供給することによって発電を行うことができる。また、発電装置10は、電極12,13及びセパレータ14が紙成分を含むため、軽量に形成することができる。そのため、災害時等の非常時のみに使用する非常用バッテリに適している。
【0027】
アノード電極12は、カーボンナノチューブ複合紙により形成され、その成分であるパルプ繊維には、微生物20(枯草菌)のエサとなる有機物としてのセルロースが含まれているので、外部から燃料を供給しなくても発電を行うことができる。つまり、アノード電極12自体を燃料として発電を行うことができる。そのため、水さえあれば環境を問わずに発電を行うことができる。例えば、屋外において、河水、海水、雨水、廃水(排水)等を用いて発電を行うことができる。また、本実施形態では、アノード電極12に微生物20を保持させるために、微生物20を培養した培養液にアノード電極12を浸しているので、アノード電極12に培養液中の有機物が含まれた状態となる。そのため、当該有機物を用いても発電を行うことも可能となる。
【0028】
アノード電極12及びカソード電極13は、カーボンナノチューブを含んでいるので、表面積が拡大し、内部抵抗が低下する。そのため、出力電圧を高めることが可能となる。また、アノード電極12の表面積が拡大することによって、より多くの微生物20を保持することが可能となる。また、カソード電極13には、触媒としてフェリシアン化カリウムが含まれているので、カソード電極13における還元反応が促進され、出力電圧をより高めることができる。
【0029】
[他の実施形態]
図4図6は、他の実施形態に係る発電装置の具体的構造を示す分解斜視図である。
図4に示す発電装置10は、微生物を保持するための保持体として、アノード電極12とは別体のセルローススポンジ(吸水体)21を備えている。このセルローススポンジ21は、連続気泡を有し、略直方体形状に形成されている。また、セルローススポンジ21は、アノード電極12と一方の副枠32aとの間において吸水口32a1に対応して配置されている。
【0030】
保持体としてのセルローススポンジ21は、例えば、微生物を培養している培養液中にセルローススポンジ21を所定時間浸し、その後、セルローススポンジ21を乾燥させることによって作製することができる。したがって、培養液に含まれるエサとなる有機物もセルローススポンジ21に含まれた状態となる。
【0031】
本実施形態では、吸水口32a1からセルローススポンジ21に水分を供給することによって、セルローススポンジ21に保持された枯草菌等の微生物が、セルローススポンジ21の成分であるセルロースを分解して発電を行うことができる。したがって、外部から燃料を供給しなくても、水のみを供給することにより発電を行うことができる。また、セルローススポンジ21は、吸水口32a1から供給された水分をより多く吸収することができるので、発電時間を延長することが可能となる。また、セルローススポンジ21に微生物を保持させる際にセルローススポンジ21に含まれた有機物を分解して発電を行うこともできる。
【0032】
図5に示す発電装置10は、微生物を保持するための保持体として、アノード電極12とは別体の濾紙(吸水体)22を備えている。この濾紙22は、アノード電極12と一方の副枠との間に配置されている。また、濾紙22は、副枠の吸水口に対応して配置される。
保持としての濾紙22は、例えば、微生物を培養している培養液中に濾紙22を所定時間浸し、その後、濾紙22を乾燥させることによって作製することができる。したがって、培養液に含まれるエサとなる有機物も濾紙22に含まれた状態となる。
【0033】
本実施形態の発電装置10は、吸水口から濾紙22に水分を供給することによって、濾紙22に保持された枯草菌等の微生物が、濾紙22の成分であるセルロースを分解して発電を行うことができる。したがって、外部から燃料を供給しなくても、水のみを供給することにより発電を行うことができる。
また、濾紙22は、アノード電極12に比べて吸水性が高いため、アノード電極12を保持体として使用する場合に比べて、発電時間を延長することができる。また、濾紙22に微生物を保持させる際に濾紙22に含まれた有機物を分解して発電を行うこともできる。
【0034】
図6に示す発電装置10は、図5の例と同様に、微生物を保持するための保持体として、アノード電極12とは別体の濾紙22を備えている。さらに、本実施形態では、濾紙22の上にスポンジ(吸水部材)23が載置されている。このスポンジ23は、微生物を保持するためではなく専ら水分を吸収するために用いられる。本実施形態では、図5に示す実施形態と同様の作用効果を奏する。そして、スポンジ23に水が吸収されるので、図5に示す実施形態と比較して、より発電時間を延長することができる。
【0035】
本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、変更することが可能である。本発明は、例えば、以下のように変更することができる。
【0036】
カーボンナノチューブ複合紙の作製方法は、上記に説明したものに限らず、種々の方法を採用することができる。また、カーボンナノチューブ複合紙は、市販のものを用いてもよい。
上記各実施形態では、アノード電極12及びカソード電極13として、カーボンナノチューブ複合紙が用いられていたが、これに限定されるものではない。例えば、カーボンナノチューブをガラスや透明電極(FTO)等の支持基材に焼き付けたものを用いることもできる。なお、電極12,13にカーボンナノチューブを含ませる場合、少なくとも電極12,13の表面にカーボンナノチューブが存在するか、吸水性を有する電極12,13の内部及び表面にカーボンナノチューブが分散した状態で存在していることが好ましい。
【0037】
上記各実施形態では、カソード電極13がフェリシアン化カリウムを含んでいたが、フェリシアン化カリウムを含んでいなくてもよい。
また、上記各実施形態では、セパレータ14として、疎水化処理が施された濾紙22が用いられていたが、濾紙以外の紙が用いられていてもよい。また、セパレータ14として、一般的なプロトン交換膜(PEM)が用いられていてもよい。
【0038】
上記各実施形態では、微生物を培養している培養液中に保持体を浸し、その後、乾燥させることによって、保持体に微生物を保持させているが、これに限定されず、例えば、培養液中で生成したバイオフィルムを保持体に貼り付けることによって、保持体に微生物を保持させることもできる。
【0039】
本発明の発電装置10は、電気機器を駆動するために発電するものに限らず、他の用途のために発電するものであってもよい。例えば、供給された水分の特性等を発電量に応じて検出するセンサとして機能するものや、有機物を含む排水(廃水)を処理する過程で発電するものであってもよい。
【0040】
上記実施形態では、発電装置として1槽型の微生物燃料電池を例示したが、2槽型の微生物燃料電池であってもよい。また、本実施形態の発電装置は、乾燥状態で保存されるものに限らず、アノード電極及び/又はカソード電極が配置される領域に水分が存在しているものであってもよい。
【0041】
[発電装置の発電特性]
本発明の発電装置の発電特性として、時間の経過に伴う出力電圧の変化を調べた結果を図8及び図9に示す。図7は、比較例に係る電極を用いた場合の発電特性を示す。
図7は、カソード電極がフェリシアン化カリウムを含むことによる効果を示すグラフである。実験に使用した発電装置は、アノード電極及びカソード電極としてカーボンシートを用い、このカーボンシートに、乾燥状態で生存可能な微生物、特に枯草菌の一例である納豆菌を保持し、セパレータとしてPEMを用いたものである。また、外部回路の負荷抵抗を10kΩとした。また、発電装置に供給した水分の量を10μLとした。
【0042】
図7において、フェリシアン化カリウムの有無に関わらず、発電装置に水を供給することによって出力電圧が上昇している。
また、カソード電極がフェリシアン化カリウムを含む場合は、フェリシアン化カリウムを含まない場合と比べて水を供給した直後の出力電圧がより大きく上昇している。その後、時間が経過したあとも、フェリシアン化カリウムを含む方が、より高い電圧が出力されている。以上より、カソード電極がフェリシアン化カリウムを含むことによって、カソード電極における反応が促進され、出力電圧が高められることがわかる。
【0043】
図8は、電極としてカーボンナノチューブ複合紙を用いることによる効果を示すグラフである。実験に使用した発電装置は、アノード電極及びカソード電極としてカーボンナノチューブ複合紙を用い、カソード電極にフェリシアン化カリウムを含ませたものである。その他の条件は、図7に示す実験で用いた発電装置と同一である。また、外部回路の負荷抵抗が10kΩの場合と1kΩの場合とについてそれぞれ出力電圧を測定した。
【0044】
図8において、電極としてカーボンナノチューブ複合紙を使用することによって、電極がカーボンシートの場合(図7の比較例参照)と比較して、出力電圧がより高められていることが分かる。また、負荷抵抗が1kΩの場合、負荷抵抗が10kΩの場合よりも出力が低下するものの、好適に発電が行われている。したがって、アノード電極及びカソード電極として、カーボンナノチューブ複合紙を用いることがより好適であることがわかる。
【0045】
また、図示はしていないが、カソード電極としてカーボンナノチューブ複合紙にフェリシアン化カリウムを含ませたものを用いることによって、カーボンナノチューブ複合紙にフェリシアン化カリウムを含ませてないものと比べて出力が高められることがわかった。
【0046】
図9は、セパレータとして濾紙を用いることによる効果を示すグラフである。実験に使用した発電装置は、アノード電極及びカソード電極としてカーボンナノチューブ複合紙を用い、カソード電極にフェリシアン化カリウムを含ませたものである。セパレータとして、PEMに代えて、疎水化処理を施した濾紙を用いた。また、外部回路の負荷抵抗を10kΩとした。
【0047】
図9において、セパレータとして濾紙を用いた場合、PEMを用いた場合(図8参照)と比べて、水分を供給した直後の出力電圧の立ち上がりが緩やかとなり、出力電圧のピークが低下するものの、発電時間が長く維持されている。したがって、低い電圧で長く発電するために、セパレータとして濾紙を使用することが有効であることがわかる。また、電極としてフェリシアン化カリウムを含むカーボンシートを用いた場合(図7参照)と比較して、出力電圧のピークはほぼ同等であるが、発電時間が長く維持されており、発電量が大きくなっていることが分かる。
【0048】
なお、当該実験により、セパレータとして疎水化処理を施した濾紙を用いることによって、アノード領域内の水分がカソード電極へ移動することはなく、また、適切に発電が行われていることから、アノード領域で発生したプロトンはセパレータを透過してカソード電極へ移動していることが確認できた。
【0049】
[付記]
上記実施形態には、特許請求の範囲に記載した発明の他、以下に付記する発明も含まれている。
(付記1)微生物の代謝反応を利用して有機物である燃料を電気エネルギーに変換する発電装置に用いられる電極であって、
カソード電極として構成され、フェリシアン化カリウムを含ませたカーボンシートからなる電極。
(付記2)付記1に記載の電極であって、乾燥状態で使用される電極。
【符号の説明】
【0050】
10 :発電装置(微生物燃料電池)
12 :アノード電極
13 :カソード電極
20 :微生物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9