(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】ボルト供給装置
(51)【国際特許分類】
B23K 11/14 20060101AFI20220322BHJP
【FI】
B23K11/14 315
(21)【出願番号】P 2017234687
(22)【出願日】2017-12-06
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】590000721
【氏名又は名称】株式会社キーレックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 猛志
(72)【発明者】
【氏名】武富 隆二
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-018650(JP,A)
【文献】実開平02-144278(JP,U)
【文献】特開平11-033500(JP,A)
【文献】特開平11-207542(JP,A)
【文献】特開平02-086511(JP,A)
【文献】特開平11-170064(JP,A)
【文献】特開2012-183579(JP,A)
【文献】特開平02-212033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 - 11/36
B23P 19/00 - 21/00
B65G 47/00 - 47/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに形成された孔部にプロジェクションボルトの軸部が挿入された状態で、上部電極と下部電極とでワークとプロジェクションボルトとを挟持して、通電によるプロジェクション溶接によって、上記ワークと上記プロジェクションボルトとを接合するために、上記ワークの孔部の位置に上記プロジェクションボルトを供給するボルト供給装置であって、
軸長の異なる複数種類の上記プロジェクションボルトが貯留されたボルト供給源と、
互いに接離可能な一対のチャックレバーからなるチャックと、
上記チャックに設けられ、上記一対のチャックレバーが接触した状態で、上記ボルト供給源から供給される上記プロジェクションボルトを受け取り保持するボルト保持部と、
上記ボルト保持部に上記プロジェクションボルトが保持された状態で、該プロジェクションボルトを上記ワークの接合位置に案内するガイド装置と
、
上記ワークの上記孔部を貫通可能であり、該孔部を貫通した状態で上記プロジェクションボルトの先端部と係合可能なボルト受け部を先端に有するガイドピンと、を備え、
上記チャックは、上記ガイド装置によって、上記プロジェクションボルトを上記ワークの上記孔部の位置に案内した後、上記一対のチャックレバーを互いに離間させることで、上記プロジェクションボルトの先端部及び軸部を上記ワークの上記孔部に挿入させるように構成され、
上記ボルト保持部は、上記一対のチャックレバーが協働して構成されかつ上下方向に貫通する断面円形の貫通孔を含み、
上記ボルト保持部には、上記プロジェクションボルトの軸長に関わらず、該プロジェクションボルトの上記先端部を、
上記貫通孔の下端部の位置で受け取り保持可能な先端保持部が設けられて
おり、
上記先端保持部が上記プロジェクションボルトの上記先端部を保持し、上記ガイドピンが上記ワークの上記孔部を貫通した状態で、上記チャックを上記ガイドピン上に配置したときに、上記ボルト受け部が上記貫通孔内に進入して、上記プロジェクションボルトの上記先端部と上記ボルト受け部とが係合することを特徴とするボルト供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載のボルト供給装置において、
上記ボルト保持部における上記貫通孔を形成する部分は、下側に向かって上記貫通孔が縮径するように傾斜したテーパー部と、該テーパー部の下端から上下方向
に均一な径で延びるストレート部と、上記ストレート部の下端に設けられかつ該ストレート部から内側に突出した内側突出部とを有し、
上記テーパー部は、内径の最大値が上記プロジェクションボルトの頭部の径よりも大きい一方、内径の最小値が上記プロジェクションボルトの上記頭部の径よりも小さくかつ上記プロジェクションボルトの上記軸部の径よりも大きく、
上記ストレート部は、上記プロジェクションボルトの上記軸部を保持し、
上記内側突出部は、上記先端保持部を構成することを特徴とするボルト供給装置。
【請求項3】
請求項2に記載のボルト供給装置において、
上記内側突出部における上記貫通孔の径方向の内側の面は、下側に向かって上記径方向の内側に傾斜したテーパー面であることを特徴とするボルト供給装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のボルト供給装置において、
上記内側突出部は、上記貫通孔の周方向に沿って連続的に設けられていることを特徴とするボルト供給装置。
【請求項5】
請求項2又は3に記載のボルト供給装置において、
上記内側突出部は、上記貫通孔の周方向に沿って断続的に複数設けられていることを特徴とするボルト供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト供給装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、自動車の車体構成部材にプロジェクションボルトを接合するためのプロジェクション溶接では、ワークに形成された孔部にプロジェクションボルトの軸部が挿入された状態で、上部電極と下部電極とでワークとプロジェクションボルトとを挟持して、上部電極と下部電極との間で通電が行われている。このようなプロジェクション溶接では、ワークの孔部の位置にプロジェクションボルトを供給するためのボルト供給装置が用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、プロジェクションボルトを保持したチャックを、上部電極部とワークの間で、上部電極、プロジェクションボルト、ワークの孔部(溶接部)及び下部電極の中心線が一直線となる位置に移動し、上部電極の下降によりプロジェクションボルトを加圧してチャックを開き、ワークとプロジェクションボルトとを接合するボルト供給装置が開示されている。
【0004】
特許文献1のボルト供給装置では、チャックは、一対のチャックレバーと、該チャックレバーに水平支持ピンにより垂直方向に回動可能に枢支されスプリングにて閉じる方向に常に付勢されている爪とを有している。また、特許文献1のボルト供給装置では、爪の先端には、閉じたときに底面にプロジェクションボルトのボルト部が挿通される孔を設けた溝部が形成され、溝部にてプロジェクションボルトの頭部を保持するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、通常、ワークに接合されるプロジェクションボルトは、目的毎に異なる軸長のものが用いられる。特許文献1に記載のようなボルト供給装置では、プロジェクションボルトの軸長が変われば、チャックの孔からのプロジェクションボルトの突出量が変化する。つまり、チャックの孔の位置に対する該プロジェクションボルトの先端部の高さ位置が変わる。
【0007】
通常、プロジェクションボルトをワークの孔部の位置(接合位置)に供給する場合、該プロジェクションボルトの先端部を上記孔部の近傍に配置する。このとき、ワークの高さ位置はほとんど変化されないため、チャックの孔の位置に対する該プロジェクションボルトの先端部の高さ位置が変わると、該先端部の高さ位置を考慮してチャックを移動させる必要がある。このため、異なる軸長のプロジェクションボルトを供給する度に、チャックの移動の態様を変更する必要があり面倒である。
【0008】
予め上部電極とワークとの間の上下方向の間隔を大きくしておけば、チャックの移動の態様を変更する必要はなくなる。しかしながら、比較的短いプロジェクションボルトをワークに接合する際には、ワークとプロジェクションボルトの先端部との間の上下方向の間隔が大きくなる。この結果、プロジェクションボルトをワークの孔部の位置に適切に供給できなくなるおそれがある。
【0009】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、プロジェクションボルトの軸長に関わらず、プロジェクションボルトを保持するチャックの移動の態様を変更することなく、プロジェクションボルトをワークの孔部の位置に適切に供給することができるボルト供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、第1の発明では、ワークに形成された孔部にプロジェクションボルトの軸部が挿入された状態で、上部電極と下部電極とでワークとプロジェクションボルトとを挟持して、通電によるプロジェクション溶接によって、上記ワークと上記プロジェクションボルトとを接合するために、上記ワークの孔部の位置に上記プロジェクションボルトを供給するボルト供給装置を対象として、軸長の異なる複数種類の上記プロジェクションボルトが貯留されたボルト供給源と、互いに接離可能な一対のチャックレバーからなるチャックと、上記チャックに設けられ、上記一対のチャックレバーが接触した状態で、上記ボルト供給源から供給される上記プロジェクションボルトを受け取り保持するボルト保持部と、上記ボルト保持部に上記プロジェクションボルトが保持された状態で、該プロジェクションボルトを上記ワークの接合位置に案内するガイド装置と、上記ワークの上記孔部を貫通可能であり、該孔部を貫通した状態で上記プロジェクションボルトの先端部と係合可能なボルト受け部を先端に有するガイドピンと、を備え、上記チャックは、上記ガイド装置によって、上記プロジェクションボルトを上記ワークの上記孔部の位置に案内した後、上記一対のチャックレバーを互いに離間させることで、上記プロジェクションボルトの先端部及び軸部を上記ワークの上記孔部に挿入させるように構成され、上記ボルト保持部は、上記一対のチャックレバーが協働して構成されかつ上下方向に貫通する断面円形の貫通孔を含み、上記ボルト保持部には、上記プロジェクションボルトの軸長に関わらず、該プロジェクションボルトの上記先端部を、上記貫通孔の下端部の位置で受け取り保持可能な先端保持部が設けられており、上記先端保持部が上記プロジェクションボルトの上記先端部を保持し、上記ガイドピンが上記ワークの上記孔部を貫通した状態で、上記チャックを上記ガイドピン上に配置したときに、上記ボルト受け部が上記貫通孔内に進入して、上記プロジェクションボルトの上記先端部と上記ボルト受け部とが係合することを特徴とする。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、上記ボルト保持部における上記貫通孔を形成する部分は、下側に向かって上記貫通孔が縮径するように傾斜したテーパー部と、該テーパー部の下端から上下方向に均一な径で延びるストレート部と、上記ストレート部の下端に設けられかつ該ストレート部から内側に突出した内側突出部とを有し、上記テーパー部は、内径の最大値が上記プロジェクションボルトの頭部の径よりも大きい一方、内径の最小値が上記プロジェクションボルトの上記頭部の径よりも小さくかつ上記プロジェクションボルトの上記軸部の径よりも大きく、上記ストレート部は、上記プロジェクションボルトの上記軸部を保持し、上記内側突出部は、上記先端保持部を構成することを特徴とする。
【0012】
第3の発明では、第2の発明において、上記内側突出部における上記貫通孔の径方向の内側の面は、下側に向かって上記径方向の内側に傾斜したテーパー面であることを特徴とする。
【0013】
第4の発明では、第2又は第3の発明において、上記内側突出部は、上記貫通孔の周方向に沿って連続的に設けられていることを特徴とする。
【0014】
第5の発明では、第2又は第3の発明において、上記内側突出部は、上記貫通孔の周方向に沿って断続的に複数設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によると、ボルト保持部に、プロジェクションボルトの軸長に関わらず、該プロジェクションボルトの先端部を受け取り保持可能な先端保持部が設けられていることにより、プロジェクションボルトの軸長に関わらず、該プロジェクションボルトの先端部が先端保持部に保持される。このため、プロジェクションボルトがボルト保持部に保持された状態では、該ボルト保持部内において、プロジェクションボルトの先端部は、内側突出部の高さ位置に位置するようになる。この結果、軸長の異なるプロジェクションボルトの先端部を孔部の位置に配置するために、チャックを移動させるときに、チャックの移動
の態様を変更する必要がない。したがって、プロジェクションボルトを保持するチャックの移動の態様を変更することなく、プロジェクションボルトをワークの孔部の位置に適切に配置することができる。
【0016】
第2の発明によると、ボルト保持部のストレート部によってプロジェクションボルトの軸部が保持されるため、プロジェクションボルトを安定して保持することができる。
【0017】
第3の発明によると、内側突出部における貫通孔の径方向の内側の面は、下側に向かって上記径方向の内側に傾斜したテーパー面であるため、プロジェクションボルトをワークの孔部の位置に供給する際の動作を容易にすることができる。すなわち、例えば、プロジェクションボルトをワークの孔部の近傍に配置した後、該プロジェクションボルトをワーク側に向かって加圧する。この加圧によってプロジェクションボルトをワーク側に移動させるときには、プロジェクションボルトの先端部が内側突出部のテーパー面を押圧する。テーパー面を押圧する押圧力は、テーパー面によって、一対のチャックレバーが離れる方向の力に変換される。これにより、一対のチャックレバーを互いに離れるように変位させることができる。一対のチャックレバーを互いに離れるように変位すれば、内側突出部も互いに離れるため、プロジェクションボルトをワークの孔部に向かって移動させることができる。これにより、プロジェクションボルトの先端部及び軸部をワークの孔部に挿通させることができる。このように、プロジェクションボルトをワーク側に向かって加圧するだけで、一対のチャックレバーを互いに離れるように変位させることができるため、プロジェクションボルトをワークの孔部の位置に供給する際の動作を容易にすることができる。また、一対のチャックレバーを互いに離れるように変位させるために特別な装置が必要なくなるため、チャックの大型化を防止することができる。
【0018】
第4の発明によると、内側突出部でプロジェクションボルトの先端部を適切に受け止め保持することができるようになる。特に、第3の発明のように、内側突出部にテーパー面が形成されていれば、プロジェクションボルトをワーク側に向かって加圧する際の力を、一対のチャックレバーが離れる方向の力に適切に変換することができ、プロジェクションボルトをワークの孔部の位置に供給する際の動作を一層容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係るボルト供給装置を備えるプロジェクション溶接装置の構成を示す斜視図である。
【
図2】プロジェクション溶接装置の上部電極及び下部電極の側面図である。
【
図3】
図2のIII-III線相当の断面図である。
【
図4】ボルト供給装置のチャックの構成を示す斜視図である。
【
図5】チャックのボルト保持部を上側から見た平面図である。
【
図7】軸長の異なるプロジェクションボルトをボルト保持部で受けた状態を示す断面図である。
【
図8】プロジェクション溶接装置の制御系を示す概略図である。
【
図9】プロジェクションボルトをワークに接合させる場合であって、ガイドピンがワークの孔部に挿通された状態を示す図である。
【
図10】
図9の状態からガイドピンがボルトを受けた状態を示す図である。
【
図11】
図10の状態から上部電極がプロジェクションボルトを下側に押し込む状態を示す図である。
【
図12】
図11の状態からプロジェクションボルトがワークに当接した状態を示す図である。
【
図13】
図12の状態からボルト配送装置が退避して、通電を開始した状態を示す図である。
【
図14】チャックのボルト保持部の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係るボルト供給装置40を備えるプロジェクション溶接装置1を概略的に示す。このプロジェクション溶接装置1は、ワークW(
図10等参照)に対してプロジェクションナット及びプロジェクションボルト90(
図6等参照)を、プロジェクション溶接により接合するためのプロジェクション溶接装置である。
【0022】
図1に示すように、プロジェクション溶接装置1は、変位可能なアーム11を有するロボット10と、溶接装置本体20と、プロジェクションナットを供給するためのナット供給装置30と、プロジェクションボルト90を供給するためのボルト供給装置40と、ロボット10、溶接装置本体20、ナット供給装置30、及びボルト供給装置40を作動制御する制御装置100(
図8参照)と、を有している。
【0023】
ロボット10は、互いに回動可能に連結された3つのアーム11と、基台12とを有する多関節の産業用ロボットである。3つのアーム11は、基端が基台12に接続された基台側アーム11aと、先端に溶接装置本体20が保持された本体側アーム11bと、基台側アーム11aの先端部と本体側アーム11bの基端側とを連結する中間アーム11cとで構成されている。基台12は、工場の床面等に設置されており、これによりプロジェクション溶接装置1が工場の床面等に対して固定される。
【0024】
基台側アーム11aは、鉛直方向に延びる軸周りに回動可能に上記基台12と接続されている。基台側アーム11aが上記軸周りに回動したときには、溶接装置本体20ごと各アーム11が水平方向に回動するようになっている。
【0025】
基台側アーム11aの先端部と中間アーム11cの長手方向の一端部、及び、本体側アーム11bの基端部と中間アーム11cの上記長手方向の他端部とは、水平方向に延びる軸13周りに回動可能にそれぞれ連結されている。溶接装置本体20は、本体側アーム11b及び中間アーム11cを上記軸13周りに回動させることにより、鉛直方向の軸及び軸13の両方に直交する方向に進退させることができる。
【0026】
尚、以下の説明では、軸13の延びる方向を左右方向、鉛直方向の軸及び軸13の両方に直交する方向を前後方向という。また、前後方向については、溶接装置本体20が基台12から離れる側を前側、溶接装置本体20が基台12に近づく側を後側という。
【0027】
溶接装置本体20は、上部電極50と、該上部電極50を昇降させる上側シリンダ51と、下部電極60とを有している。
【0028】
〈上部電極〉
上部電極50は、
図1に示すように、上側シリンダ51ごと支持機構を介して、本体側アーム11bの先端に保持されている。上記支持機構は、上側シリンダ51を支持する上側支持部22と、該上側支持部22から下側に延びた後で前側に向かって延びる、側面視略L字状の下側支持部23とを有している。下側支持部23の先端部には、上記下部電極60(厳密には後述する下部電極ホルダ61)を挟持して保持する下側保持部23aが設けられている。
【0029】
上部電極50は、
図1及び
図2に示すように、上部電極ホルダ52の下側端部に保持さ
れている。上部電極ホルダ52の上端側の部分は、上側シリンダ51内に臨んでいる。上部電極50は、この上部電極ホルダ52が上側シリンダ51によって昇降されることによって、昇降されるようになっている。
【0030】
上側シリンダ51は、流体圧シリンダであって、油圧や空気圧を利用して上部電極50を昇降させる。図示は省略するが、上側シリンダ51内には、上部電極50を上側に向かって付勢するための付勢部材が配設されている。上側シリンダ51内に流体が供給されていない状態では、上部電極50は上記付勢部材の付勢力により上側に向かって移動(つまり上昇)された状態となる一方、上側シリンダ51内に流体が供給されて、該流体による流体圧が上記付勢部材の付勢力に打ち勝つ力を発生させる流体圧になったときに、上部電極50が下側に向かって移動(つまり下降)されるようになっている。
【0031】
〈下部電極〉
下部電極60は、
図3に示すように、下部電極ホルダ61を有している。下部電極ホルダ61は円筒状をなしており、筒軸方向が上下方向になるように延びている。下部電極ホルダ61の筒内には後述するガイドピン80が昇降可能に挿通されている。
【0032】
下部電極60は、下部電極ホルダ61の上側端部に載置された電極ソケット62と、該電極ソケット62に上側から覆い被さるように嵌着された電極チップ63とを有している。電極ソケット62及び電極チップ63は共に、上記ガイドピン80が挿通される貫通孔を有している。該貫通孔の中心は下部電極ホルダ61の筒軸上に位置している。貫通孔の径は、下部電極ホルダ61の内径と同等の径に設定されている。
【0033】
下部電極ホルダ61は、
図3に示すように、その下側端部がホルダベース64に保持されている。このホルダベース64の下側の部分には、上記ガイドピン80を昇降させるための下側シリンダ65が設けられている。この下側シリンダ65はエアシリンダで構成されている。下側シリンダ65には、該下側シリンダ65内に空気を供給するためのエア供給通路65aが設けられている。
【0034】
また、
図2及び
図3に示すように、下部電極ホルダ61の下側寄りでかつホルダベース64よりも上側の部分には、プロジェクション溶接時に下部電極60を冷却する冷却水を供給するための冷却水供給部66と、下部電極60を冷却した後の冷却水を排出するための冷却水排出部67とが設けられている。冷却水供給部66及び排出部67は、ぞれぞれ、下部電極ホルダ61の径方向の外側に向かって真っ直ぐ延びた後、該径方向の外側に向かって下側に傾斜して延びている。図示は省略しているが、冷却水供給部66及び排出部67には、ウォータポンプ等で構成された冷却水供給装置と接続されるホースが接続される。該冷却水供給装置から冷却水供給部66を介して供給された冷却水は、下部電極ホルダ61内を流れて、プロジェクション溶接中の下部電極60を冷却した後、冷却水排出部67を通って冷却水供給装置に流入するようになっている。
【0035】
下部電極ホルダ61の筒内には、
図3に示すように、ワークWとプロジェクションナット、及び、ワークWとプロジェクションボルト90との位置決めをするための昇降可能なガイドピン80と、該ガイドピン80をつなぎネジ68を介して保持するための爪部材69と、上側端部につなぎネジ68が締結されかつ下側端部が下側シリンダ65のシリンダロッド65bと接続された樹脂ロッド70とが挿通されている。
【0036】
〈ガイドピン〉
ガイドピン80は、
図3に示すように、下部電極ホルダ61の筒軸方向に延びるロッド部81と、該ロッド部81における該ロッド部81の軸方向の上側の端部に設けられかつプロジェクションナットを受けるナット受け部82と、該ナット受け部82の上側に設け
られかつプロジェクションボルト90を受けるボルト受け部83とを有している。
【0037】
ガイドピン80のロッド部81は、
図3に示すように、下部電極ホルダ61の内径よりも僅かに小さい径で上下に延びる大径部81aと、大径部81aから径方向の内側に窪んだ窪み部81bが形成された中間部81cと、中間部81cにおける最小径よりも大径でかつ大径部81aよりも小径でかつ上下方向に延びる小径部81dと、小径部81dの下端から下側に向かって縮径するように延びた縮径部81eとを有している。
図3に示すように、中間部81cは大径部81aの下側に形成され、小径部81dは中間部81cの下側に形成されている。縮径部81eの下端部は、つなぎネジ68に載置されている。ロッド部81の大径部81a、中間部81c、小径部81d、及び縮径部81eは同軸に形成されている。
【0038】
ガイドピン80のナット受け部82は、内径の異なる複数種類のプロジェクションナットを受け取り可能なように、ロッド部81の軸方向の上側から下側に向かって段形状をなしている。具体的には、ナット受け部82は、ロッド部81の大径部81aよりも径が小さい円柱体で構成された第1ナット受け部82aと、該第1ナット受け部82aよりも径が小さい円柱体で構成された第2ナット受け部82bとを有し、第2ナット受け部82bが第1ナット受け部82aの上側に位置するように配設されて構成されている。さらに詳しくは、ロッド部81の大径部81aの上端から、上記第1ナット受け部82aがロッド部81の軸方向の上側に向かって延びており、該第1ナット受け部82aの上端から、上記第2ナット受け部82bが上記軸方向の上側に向かって延びている。
【0039】
第1ナット受け部82a及び第2ナット受け部82bは、どちらもロッド部81と同軸に形成されている。つまり、ロッド部81、第1ナット受け部82a、及び第2ナット受け部82bは同軸になっている。
【0040】
第1ナット受け部82aの径及び第2ナット受け部82bの径は、ワークWに接合されるプロジェクションナットの内径に応じて設定される。例えば、ワークWに接合させるプロジェクションナットとして、内径が7mm程度のナットと5mm程度のナットとがある場合には、第1ナット受け部82aの径は7mmよりも小さい径(例えば6.8mm)に設定される一方、第2ナット受け部82bの径は5mmよりも小さい径(例えば4.8mm)に設定される。
【0041】
第1ナット受け部82aの高さ及び第2ナット受け部82bの高さは、ワークWに接合されるプロジェクションナットの高さに応じて設定されている。
【0042】
上記ボルト受け部83は、
図3に示すように、ナット受け部82を構成する複数の円柱体のうち最も上側に位置する円柱体から、下部電極ホルダ61の筒軸方向の上側に突出した突起により構成されている。より具体的には、ボルト受け部83は、第2ナット受け部82bの径方向の中心から上記筒軸方向の上側に向かって突出した円錐状又は円錐台状の突起で構成されている。
【0043】
ボルト受け部83を構成する円錐又は円錐台の最大径(第2ナット受け部82bとの結合部分の径)は、
図3に示すように、第2ナット受け部82bの径よりも小さい。
【0044】
ボルト受け部83は、ナット受け部82と同軸に構成されている。このため、ロッド部81、ナット受け部82(第1ナット受け部82a及び第2ナット受け部82b)、及びボルト受け部83は同軸になっている。
【0045】
ガイドピン80は、
図3に示すように、爪部材69によって軸方向及び径方向に保持さ
れた状態で、つなぎネジ68の上に設置されている。爪部材69は、本実施形態では四つ爪で構成されている。爪部材69は、つなぎネジ68と係合したネジ側係合部69aと、ガイドピン80の窪み部81bとそれぞれ係合する4つの爪部69bと、ネジ側係合部69aと各爪部69bとを連結する連結部69cとを有している。ネジ側係合部69aは、つなぎネジ68の軸方向の一部を周方向に覆うような円筒状をなしている。4つの連結部69cは、ネジ側係合部69aの周方向に等間隔に並んでおり、これにより、4つの爪部69bも該周方向に等間隔に並んでいる。
【0046】
爪部材69の連結部69cはそれぞれ弾性部材によって構成されており、爪部69bがガイドピン80の窪み部81bと係合した状態では、各連結部69cは、その弾性力によって、各爪部69bをガイドピン80の径方向の内側に向かって、窪み部81bに押し付けるようになっている。これにより、ガイドピン80が軸方向及び径方向に保持される。つまり、ガイドピン80は、爪部材69の連結部69cの弾性力によって軸方向及び径方向に保持される。
【0047】
上述のように、各爪部69bをガイドピン80の径方向の内側に向かって、窪み部81bに押し付けることで、爪部材69がガイドピン80を保持するようになっているため、爪部材69のガイドピン80に対する保持力は、軸方向の保持力が径方向の保持力よりも弱くなる。このため、ガイドピン80を下部電極ホルダ61に対して上側に引っ張ったときには、ガイドピン80は下部電極ホルダ61から抜き出されるようになっている。これにより、ガイドピン80を交換する必要が生じた場合には、ガイドピン80を下部電極ホルダ61から取り外すことができる。また、ガイドピン80のロッド部81の下側端部には、縮径部81eが形成されているため、ガイドピン80を容易に下部電極ホルダ61に取り付けることもできる。よって、ガイドピン80の交換を容易に行うことができる。
【0048】
図3に示すように、爪部材69は、下部電極ホルダ61の径方向において、該下部電極ホルダ61の筒内に収まるようになっている。下側シリンダ65によってガイドピン80が昇降したときには、爪部材69も、下部電極ホルダ61の筒内や電極ソケット62の貫通孔を通って昇降する。
【0049】
上記樹脂ロッド70は、上述したように、上側端部につなぎネジ68が締結されている。これにより、樹脂ロッド70は、つなぎネジ68及び爪部材69を介して、ガイドピン80を保持した状態となっている。
【0050】
また、上述したように、樹脂ロッド70の下側端部はシリンダロッド65bと接続されている。下側シリンダ65に空気が供給されてシリンダロッド65bが上昇したときには、樹脂ロッド70も該シリンダロッド65bと共に上昇する。そして、樹脂ロッド70が上昇することで、樹脂ロッド70に保持されたガイドピン80が上昇する。一方で、下側シリンダ65から空気が排出されてシリンダロッド65bが下降したときには、樹脂ロッド70も下降して、樹脂ロッド70と共にガイドピン80が下降する。
【0051】
樹脂ロッド70の下側端は、
図3に示すように、ガイドピン80に下向きの力が加えられていない無負荷状態では、ホルダベース64の底部から浮いた状態になっている。詳しくは、本実施形態では、下側シリンダ65内には、常に一定量の空気が供給されるようになっており、この一定量の空気に基づく力によって、シリンダロッド65b及び樹脂ロッド70が上側に上昇して、該樹脂ロッド70がホルダベース64の底部から浮いた状態となる。これにより、ガイドピン80に下向きの力が加えられていない無負荷状態では、
図3に示すように、ガイドピン80のナット受け部82及びボルト受け部83の全体及びロッド部81の一部は、電極チップ63を貫通して、該電極チップ63よりも上側に位置した状態となる。
【0052】
下側シリンダ65には、樹脂ロッド70の位置を検出するための位置センサ101(
図8参照)が設けられている。
【0053】
〈ナット供給装置〉
ナット供給装置30は、
図1に示すように、ナットシューター31とナットガイド装置32とを備えている。ナットシューター31は、ナット供給部33とナット待機部34とを有している。ナット供給部33は、図示を省略するナット供給源とチューブなどの接続具によって接続されている。ナットガイド装置32は、ガイド筒35と、該ガイド筒35内に挿入されたナット供給ロッド(図示省略)と、該ナット供給ロッドを進退可能に駆動するエアシリンダ(図示省略)とを有している。
【0054】
上記ナット供給源からナット供給部33を介して送られたプロジェクションナットは、ナット待機部34内で待機する。ナット待機部34内にプロジェクションナットが待機した状態で、上記エアシリンダが駆動すると、上記ナット供給ロッドがナット待機部34内に待機しているプロジェクションナットを保持して、上記ガイドピン80に向かって進んでいく。その後、上記プロジェクションナットは、ガイドピン80のナット受け部82で受け止められる。このようにして、プロジェクションナットがナット供給装置30からガイドピン80の位置に供給される。
【0055】
本実施形態では、
図1に示すように、ナット供給装置30が2台設けられている。この2台のナット供給装置30は、それぞれ異なる内径のプロジェションナットを供給する。ナット供給装置30自体の構成は、2台とも同じ構成である。上記ナット供給源で、プロジェクションナットを選別して、内径の異なる複数のプロジェクションナットから所望の内径のプロジェクションナットを供給することができるようになっているのであれば、ナット供給装置30を1台にしてもよい。
【0056】
〈ボルト供給装置〉
ボルト供給装置40は、
図1に示すように、ボルトシューター41と、ボルトシューター41から供給されるプロジェクションボルト90を受け取り保持するチャック43と、プロジェクションボルト90をワークWの接合位置に案内するボルトガイド装置42とを備えている。ボルト供給装置40はまた、
図8に示すように、軸長の異なる複数種類のプロジェクションボルト90が貯留されたボルト供給源47を備えており、ボルトシューター41は該ボルト供給源47とチューブなどの接続具によって接続されている。ボルト供給源47は、図示しない選択装置を有しており、該選択装置により所望の軸長のプロジェクションボルト90を供給できるように構成されている。ボルトガイド装置42は、チャック43をガイドピン80の位置まで案内するロッド44aが挿入されたガイド筒44と、該ロッドを進退可能に駆動するエアシリンダ(図示省略)とを有している。
【0057】
上記チャック43は、一対のチャックレバー43aが、それぞれ水平方向に接離可能に構成されている。
図4に示すように、各チャックレバー43aは、スプリング49により互いに近づく方向に付勢されており、各チャックレバー43aに負荷がかけられていない無負荷状態では、水平方向に当接した状態になっている。一方で、チャックレバー43aに、該チャックレバー43a同士が離れる方向に、スプリング49の付勢力に打ち勝つような力が加えられたときには、チャックレバー43aは互いに離れる方向に移動する。
【0058】
上記チャック43の先端側(反ロッド44a側)の部分には、
図4~
図7に示すように、カップ状のボルト保持部45が形成されている。ボルト保持部45は、一対のチャックレバー43aが協働して構成されかつ上下方向に貫通する断面円形の貫通孔46を有している。より具体的には、一対のチャックレバー43aには、貫通孔46の半割がそれぞれ
形成されており、一対のチャックレバー43aが互いに接した状態では、1つの貫通孔46が形成されるようになっている。
【0059】
ボルト保持部45における貫通孔46を構成する部分は、
図6に示すように、下側に向かって縮径するように傾斜したテーパー部45aと、該テーパー部45aの下側端から上下方向に均一な径で延びるストレート部45bと、ストレート部45bの下端に設けられかつ該ストレート部45bから内側に突出した内側突出部45cとを有している。
【0060】
テーパー部45aの内径の最大値D1(上端の内径)は、
図6に示すように、プロジェクションボルト90の頭部91の径DHよりも大きい。一方で、テーパー部45aの内径の最小値D2(ストレート部45bとの境界部分の内径)は、プロジェクションボルト90の頭部91の径DHよりも小さくかつプロジェクションボルト90の軸部92の径DSよりも僅かに大きい。ストレート部45bの内径は、テーパー部45aの内径の最小値D2と同等である。
【0061】
図6に示すように、内側突出部45cにおける貫通孔46の径方向の内側の面は、下側に向かって上記径方向の内側に傾斜したテーパー面46aになっている。内側突出部45cの内径の最小値D3は、プロジェクションボルト90の軸部92の径DSよりも僅かに小さい。内側突出部45cは、
図5に示すように、貫通孔46の周方向に沿って連続的に設けられている。
【0062】
ストレート部45bは、
図6に示すように、プロジェクションボルト90の軸部92を保持する軸部保持部を構成している。内側突出部45cは、プロジェクションボルト90の先端部93を保持する先端保持部を構成している。
【0063】
ボルト保持部45がプロジェクションボルト90の先端部93を受けるように構成されていることにより、プロジェクションボルト90の軸長が異なっていたとしても、ボルト保持部45に保持された状態では、プロジェクションボルト90の先端部93は、必ず内側突出部45cの高さ位置に位置することになる。つまり、
図7(a)に示すように、軸長が
図6のプロジェクションボルト90よりも短い場合や、
図7(b)に示すように、軸長が
図6のプロジェクションボルト90よりも長い場合でも、プロジェクションボルト90の先端部93は、内側突出部45cの高さ位置に位置することになる。このことから、内側突出部45cは、プロジェクションボルト90の軸長に関わらず、該プロジェクションボルト90の先端部93を受け取り保持可能な先端保持部となっている。
【0064】
ボルト供給装置40では、ボルトシューター41から供給されたプロジェクションボルト90をチャック43のボルト保持部45で保持した後、上記エアシリンダが駆動されて、上記ロッドが上記ガイドピン80に向かって進んでいく。その後、上記プロジェクションボルト90は、チャック43に保持されたまま、ガイドピン80のボルト受け部83で受け止められる。
【0065】
プロジェクションボルト90には、その先端部93に頭部91側に向かって凹んだ係合凹部94が形成されており、
図10~
図12に示すように、ガイドピン80のボルト受け部83は、プロジェクションボルト90の係合凹部94と係合することで、該プロジェクションボルト90を受け止める。また、プロジェクションボルト90の頭部91の軸部92側には、
図10~
図12に示すように、ワークWに対して溶接される溶接部95が予め形成されている。
【0066】
〈制御系〉
制御装置100は、
図8に示すように、ロボット10に作動信号を出力して、溶接装置
本体20をワークWの溶接箇所に移動させる。
【0067】
制御装置100は、ナット供給装置30に作動信号を出力して、ナットガイド装置32のエアシリンダを駆動させて、プロジェクションナットをガイドピン80の位置に供給する。
【0068】
制御装置100は、ボルト供給装置40に作動信号を出力して、ボルト供給源47からプロジェクションボルト90をボルトシューター41に供給して、ボルトシューター41からチャック43のボルト保持部45にプロジェクションボルト90を供給する。制御装置100は、ボルト供給装置40に作動信号を出力して、ボルト保持部45にプロジェクションボルト90が保持された状態で、ボルトガイド装置42のエアシリンダを駆動させて、プロジェクションボルト90をガイドピン80の位置に供給する。
【0069】
制御装置100は、上側シリンダ51に作動信号を出力して、上部電極50を昇降させる。また、制御装置100は、上部電極50及び下部電極60に作動信号を出力して、上部電極50と下部電極60との間で通電させる。
【0070】
制御装置100は、位置センサ101の検出結果から樹脂ロッド70の昇降量を算出する。制御装置100は、位置センサ101から算出した樹脂ロッド70の昇降量に基づいて、現在供給されているプロジェクションナット又はプロジェクションボルト90が、所望の規格のものであるか否かを判定する。
【0071】
〈プロジェクションボルトの接合〉
次に、プロジェクション溶接装置1によって、ワークWにプロジェクションボルト90を接合する際の動作について説明する。尚、以下の説明では、プロジェクションボルト90の軸部92の径が、ガイドピン80の第1ナット受け部82aよりも小さくかつ第2ナット受け部82bの径よりも大きい場合、つまり、ワークWの孔部Hの径が、ガイドピン80の第1ナット受け部82aよりも小さくかつ第2ナット受け部82bの径よりも大きい場合について説明する。ワークWは、例えば鋼板で構成されており、図示を省略するワーク搬送装置によって搬送される。
【0072】
先ず、ワークWが搬送されて、ワークWをガイドピン80の上側に配置して、ワークWの孔部Hとガイドピン80との大まかな位置合わせを行う。この位置合わせは、ロボット10によって行うことができる。
【0073】
次に、ワークWを下部電極60に向かって移動させて、孔部Hにガイドピン80を挿通させる。このとき、ワークWに形成されている孔部Hの径が、ガイドピン80の第1ナット受け部82aよりも小さくかつ第2ナット受け部82bの径よりも大きいため、
図9に示すように、ガイドピン80の第1ナット受け部82aは、上記孔部Hを貫通せずに、ガイドピン80の第2ナット受け部82b及びボルト受け部83のみが上記孔部Hを貫通した状態となる。ワークWにおける孔部Hの周囲の部分は、第1ナット受け部82aの上側端に載置する。ワークWにおける孔部Hの周囲の部分が、第1ナット受け部82aの上側端に載置した状態となるため、
図9に示すように、ガイドピン80のボルト受け部83がワークWの孔部Hを貫通した段階では、下部電極60の電極チップ63とワークWの下側の面との間には隙間が形成される。
【0074】
次いで、ボルト供給装置40が作動される。ボルト供給源47からボルトシューター41を介して、チャック43のボルト保持部45にプロジェクションボルト90が供給される。供給されたプロジェクションボルト90は、
図6、
図7、
図9及び
図10に示すように、先端部93が内側突出部45cによって受け止め保持され、軸部92の先端寄りの部
分がストレート部45bで保持される。
【0075】
続いて、プロジェクションボルト90をボルト保持部45で保持した後、上記エアシリンダが駆動されて、上記ロッドが上記ガイドピン80に向かって進んでいき、ガイドピン80の位置にプロジェクションボルト90が供給される。プロジェクションボルト90は、
図10に示すように、チャック43のボルト保持部45に保持された状態で供給される。ガイドピン80のボルト受け部83は、プロジェクションボルト90の係合凹部94と係合して、当該プロジェクションボルト90を受け止める。これにより、プロジェクションボルト90が、ワークWの孔部Hの近傍(詳しくは直上)に配置される。
【0076】
ガイドピン80の位置にプロジェクションボルト90が供給された後、上側シリンダ51が駆動されて、上部電極50が下側に移動される(下降される)。上部電極50は、
図11に示すように、供給されたプロジェクションボルト90の頭部91と当接した後も更に下側に移動される。これにより、ワークW及びプロジェクションボルト90ごと、ガイドピン80が下部電極ホルダ61の筒軸方向の下側に押し下げられる。
【0077】
詳しくは、上側シリンダ51により、上部電極50が下部電極60に向かって移動されると、プロジェクションボルト90の先端部93が内側突出部45cのテーパー面46aを押圧する。テーパー面46aを押圧する押圧力は、該テーパー面46aによって水平方向の力に変換され、この変換された水平方向の力によって、チャック43の一対のチャックレバー43aが僅かに離れる。これにより、プロジェクションボルト90の先端部93及び軸部92が、下側に向かって移動される。ワークWは、ガイドピン80が下部電極ホルダ61の筒軸方向の下側に押し下げられることによって、ガイドピン80と共に下側に移動する。
【0078】
その後、プロジェクションボルト90の頭部91が、ボルト保持部45のテーパー部45aと当接すると、該頭部91がテーパー部45aを押圧する。テーパー部45aを押圧する押圧力は、該テーパー部45aによって水平方向の力に変換され、この変換された水平方向の力によって、チャック43の一対のチャックレバー43aが互いに離れるように変位する。これにより、
図12に示すように、上部電極50が更に下側に移動できるようになる。そして、ワークWの孔部Hにプロジェクションボルト90の先端部93及び軸部92が挿通されて、プロジェクションボルト90(特に、プロジェクションボルト90の溶接部95)が、ワークWの上側の面と当接する。
【0079】
このように、一対のチャックレバー43aは、ボルト保持部45にプロジェクションボルト90が保持された状態で、該プロジェクションボルト90が上部電極50の下側への移動により加圧されることで、互いに離れるように変位する。
【0080】
プロジェクションボルト90とワークWの上側の面とが当接した後は、
図13に示すように、チャック43が退避する。このとき、チャック43は無負荷状態となるため、上記スプリング49の付勢力により、一対のチャックレバー43aが互いに当接した状態になる。
【0081】
上側シリンダ51は、プロジェクションボルト90が、ワークWの上側の面と当接して、チャック43が退避した後も、更に上部電極50を下側に移動させようとする。この上部電極50の下側への進出動作により、プロジェクションボルト90がワークW側に加圧される。下部電極60の電極チップ63は、下部電極ホルダ61上に載置され、該下部電極ホルダ61は、溶接装置本体20の支持部21に支持されているため、ワークWを下側に移動しないように支持して、上部電極50からの加圧力を受ける。下部電極60は、上部電極50からの加圧力に対する反力でもってワークWをプロジェクションボルト90側
に加圧する。これにより、ワークW及びプロジェクションボルト90が、上部電極50と下部電極60との間に加圧挟持される。
【0082】
そして、上部電極50と下部電極60との間に、ワークWとプロジェクションボルト90とを挟んだ状態(加圧挟持した状態)で、上部電極50と下部電極60との間で通電が実行されて、上部電極50と下部電極60との間に、プロジェクション溶接のための接合電流が流される。接合電流が流れている間も、上部電極50によるプロジェクションボルト90の加圧は継続される。この接合電流及び上記加圧によって、ワークWの上側の面とプロジェクションボルト90の溶接部95との接触部分が軟化して、該溶接部95が加圧方向(つまり、下側)に潰れていく。このとき、ワークWの上側の面とプロジェクションボルト90の溶接部95とに塑性流動が発生して、急速な拡散接合がなされる。これにより、プロジェクションボルト90がワークWに接合される。
【0083】
以上のようにして、ワークWとプロジェクションボルト90とがプロジェクション溶接によって接合される。
【0084】
以上のように、本実施形態では、ボルト保持部45に、プロジェクションボルト90の先端部93を受け取り保持する内側突出部45c(先端保持部)が設けられていることにより、プロジェクションボルト90の軸長に関わらず、該プロジェクションボルト90の先端部93は内側突出部45cに保持される。このため、ボルト保持部45に保持された状態では、該ボルト保持部45内において、プロジェクションボルト90の先端部93は、該プロジェクションボルト90の軸長に関わらず、内側突出部45cの高さ位置に位置する。この結果、軸長の異なるプロジェクションボルト90の先端部93をワークWの孔部Hの近傍に配置するために、チャック43を移動させるときに、チャック43を移動させる角度等、チャック43の移動の態様を変更する必要がない。したがって、プロジェクションボルト90を保持するチャック43の移動の態様を変更することなく、プロジェクションボルト90をワークWの孔部Hの位置に適切に供給することができる。
【0085】
また、本実施形態では、ボルト保持部45にストレート部45bが設けられているため、該ストレート部45bによってプロジェクションボルト90の軸部92が保持されるため、プロジェクションボルト90を安定して保持することができる。
【0086】
さらに本実施形態では、内側突出部45cにおける貫通孔46の径方向の内側の面は、下側に向かって上記径方向の内側に傾斜したテーパー面46aであるため、プロジェクションボルト90を、上部電極50の下側への移動によって、ワークW側(下側)に向かって加圧するだけで、一対のチャックレバー43aを互いに離れるように変位させることができるため、プロジェクションボルト90をワークWの孔部Hの位置に供給する際の動作を容易にすることができる。また、一対のチャックレバー43aを互いに離れるように変位させるために特別な装置が必要なくなるため、チャック43の大型化を防止することができる。
【0087】
また、本実施形態では、内側突出部45cは、貫通孔46の周方向に沿って連続的に設けられているため、内側突出部45cでプロジェクションボルト90の先端部93を適切に受け止め保持することができるようになる。また、プロジェクションボルト90をワークW側に向かって加圧する際の力を、一対のチャックレバー43aが離れる方向の力に適切に変換することができ、プロジェクションボルト90をワークWの孔部Hの位置に供給する際の動作を一層容易にすることができる。
【0088】
〈変形例〉
図14は、本実施形態の変形例を示し、この変形例では、上述の実施形態に対して内側
突出部45cの構成を変えたものである。
【0089】
この変形例では、内側突出部45cは、貫通孔46の周方向に沿って断続的に複数(
図14では6個)設けられている。各内側突出部45cにおける貫通孔46の径方向の内側の面は、下側に向かって上記径方向の内側に傾斜したテーパー面46aとなっている。内側突出部45cがこの変形例のような構成であったとしても、内側突出部45cは、プロジェクションボルト90の先端部93を受け取り保持する先端保持部として機能できる。このため、この変形例でも、プロジェクションボルト90を保持するチャック43の移動の態様を変更することなく、プロジェクションボルト90をワークWの孔部Hの位置に適切に供給することができる。
【0090】
また、例えば、複数の内側突出部45cを、各チャックレバー43aに形成された貫通孔46の半割における周方向の中央に集中して、それぞれ位置させるようにすれば、上部電極50の下側への移動によって、プロジェクションボルト90の先端部93が内側突出部45cのテーパー面46aを押圧するときの押圧力が、水平方向の力に効率良く変換される。これにより、一対のチャックレバー43aが離れる方向の力を効率良く発生させることができ、プロジェクションボルト90をワークWの孔部Hの位置に供給する際の動作をより一層容易にすることができる。
【0091】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0092】
例えば、上述の実施形態では、上部電極50を下側に移動させて、プロジェクションボルト90を下側(ワークW側)に加圧する力を利用して、一対のチャックレバー43aを互いに離れる方向に変位させていたが、これに限らず、上部電極50によるプロジェクションボルト90の加圧を利用せずに、一対のチャックレバー43aを互いに離れる方向に変位させるような装置を設けるようにしてもよい。この場合、ボルト保持部45にテーパー部45aを設けたり、内側突出部45cにおける貫通孔46の径方向の内側の面をテーパー面46aにしたりする必要はない。ただし、チャック43が大型化したり、コストが高くなったりするおそれがあるため、上述の実施形態のように、ボルト保持部45にテーパー部45aを設けるとともに、内側突出部45cにおける上記径方向の内側の面をテーパー面46aにすることで、上部電極50によるプロジェクションボルト90の加圧を利用して、一対のチャックレバー43aを互いに離れる方向に変位させるようにすることが好ましい。
【0093】
上述の実施形態では、1台のプロジェクション溶接装置1で、ワークWに形成された孔部Hの1つに、プロジェクションナット又はプロジェクションボルト90を接合していたが、プロジェクション溶接装置1は複数台あってもよい。このとき、ワークWに孔部Hが複数形成されている場合には、複数台のプロジェクション溶接装置1によって、複数荷所の孔部Hに同時にプロジェクション溶接を行うようにすることができる。
【0094】
また、上述の実施形態では、溶接装置本体20は、ロボット10に保持されていたが、ロボット10に保持されず、工場の床面等に固定されていてもよい。つまり、プロジェクション溶接装置1は定置型の溶接装置でもよい。
【0095】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、例えば、自動車の車体構成部材にプロジェクションボルトを接合するためのプロジェクション溶接装置において、プロジェクションボルトの溶接位置に該プロジェクションボルトを供給するボルト供給装置として適している。
【符号の説明】
【0097】
40 ボルト供給装置
42 ボルトガイド装置
43 チャック
43a チャックレバー
45 ボルト保持部
45a テーパー部
45b ストレート部
45c 内側突出部(先端保持部)
46 貫通孔
46a テーパー面
47 ボルト供給源
50 上部電極
60 下部電極
90 プロジェクションボルト
91 プロジェクションボルトの頭部
92 プロジェクションボルトの軸部
93 プロジェクションボルトの先端部
W ワーク
H 孔部
D1 テーパー部の内径の最大値
D2 テーパー部の内径の最小値
DH プロジェクションボルトの頭部の径