(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】プラズマインジケータ
(51)【国際特許分類】
H05H 1/00 20060101AFI20220322BHJP
C01G 29/00 20060101ALI20220322BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20220322BHJP
C04B 35/01 20060101ALI20220322BHJP
H01L 21/3065 20060101ALN20220322BHJP
【FI】
H05H1/00 A
C01G29/00
C04B41/87 A
C04B35/01
H01L21/302 101C
(21)【出願番号】P 2018093993
(22)【出願日】2018-05-15
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】目見田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】安藤 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】山川 裕
【審査官】冨士 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-111063(JP,A)
【文献】特開2002-323451(JP,A)
【文献】特開2017-216446(JP,A)
【文献】特開2016-108371(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0141192(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/01 、41/87
H01L 21/302、21/3065
21/461
H05H 1/00 - 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマによって変色する変色層を備えるプラズマインジケータであって、
前記変色層は、プラズマによって変色する変色剤と、色の視認性を向上する補助剤と
、化合物と、を含み、
前記変色剤は
、第1群から選択される少なくとも一種を含み、
前記補助剤は
、第2群から選択される少なくとも一種を含
み、
前記第1群は、酸化モリブデン粒子(IV)、酸化モリブデン粒子(VI)、酸化タングステン粒子(VI)、酸化スズ粒子(IV)、酸化バナジウム粒子(II)、酸化バナジウム粒子(III)、酸化バナジウム粒子(IV)、酸化バナジウム粒子(V)、酸化セリウム粒子(IV)、酸化テルル粒子(IV)、酸化ビスマス粒子(III)、炭酸酸化ビスマス粒子(III)、及び酸化硫酸バナジウム粒子(IV)を含む群であり、
前記第2群は、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、アルミニウム、チタン、白金、及び硫酸バリウムを含む群であり、
前記化合物は、前記第1群から選択される少なくとも1つと前記第2群から選択される少なくとも1つとの化合物であり、
前記変色剤、および、前記補助剤はともに前記変色層の表面に存在し、かつ、分散している
プラズマインジケータ。
【請求項2】
前記第1群から選択される少なくとも1つのX線回折スペクトルのピークは、前記化合物のX線回折スペクトルのピークの大きさよりも大きい
請求項1に記載のプラズマインジケータ。
【請求項3】
少なくとも、Bi
2O
3、および、Bi
4Ti
3O
12を含み、
Bi
2O
3のX線回折スペクトルのピークの大きさは、Bi
4Ti
3O
12のX線回折スペクトルのピークの大きさよりも大きい
請求項1または2に記載のプラズマインジケータ。
【請求項4】
前記変色層の膜厚は、4μm以上8μm以下である
請求項1~3のいずれか一項に記載のプラズマインジケータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを検出するプラズマインジケータに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマを検出するプラズマインジケータとして、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1に記載のプラズマインジケータは、Mo、W、Sn、V、Ce、Te及びBiからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む金属酸化物を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、表面処理や加工に用いられるプラズマは多種多様であり、プラズマの強度も様々である。プラズマの状態を明確に検出するためには、適度に変色するプラズマインジケータを用いることが好ましい。そこで、視認性が高いプラズマインジケータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)上記課題を解決するプラズマインジケータは、プラズマによって変色する変色剤と、色の視認性を向上する補助剤とを含み、前記変色剤は、Mo、W、Sn、V、Ce、Te、及びBiそれぞれの金属酸化物を含む第1群から選択される少なくとも一種を含み、前記補助剤は、Ti、Zr、Y、Ba、Mg、Si、Al、及びPtを含む第2群から選択される少なくとも一種を含む。この構成によれば、補助剤により色を視認し易くできるため、プラズマインジケータの変色の視認性を向上できる。なお、変色の視認性の向上とは、プラズマ照射前後における色差が大きくなることを示す。
【0006】
(2)上記プラズマインジケータにおいて、さらに、前記第1群から選択される少なくとも1つと前記第2群から選択される少なくとも1つとの化合物を含む。この構成によれば、プラズマインジケータの変色を抑制できる。
【0007】
(3)上記プラズマインジケータにおいて、前記第1群から選択される少なくとも1つのX線回折スペクトルのピークは、前記化合物のX線回折スペクトルのピークの大きさよりも大きい。これにより、プラズマインジケータの変色の視認性を向上できる。
【0008】
(4)上記プラズマインジケータにおいて、少なくとも、Bi2O3、および、Bi4Ti3O12を含み、Bi2O3のX線回折スペクトルのピークの大きさは、Bi4Ti3O12のX線回折スペクトルのピークの大きさよりも大きい。この構成によれば、Bi2O3のX線回折スペクトルのピークの大きさがBi4Ti3O12のX線回折スペクトルのピークの大きさよりも小さい場合に比べて、プラズマ照射前後におけるプラズマインジケータの変色の大きさを大きくできる。
【0009】
(5)上記プラズマインジケータにおいて、前記変色剤と前記補助剤と前記化合物とを含む変色層の膜厚は、4μm以上8μm以下である。この構成によれば、変色層の膜厚が薄い。
【発明の効果】
【0010】
上記プラズマインジケータは、変色の視認性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】組成が相違する複数の試料それぞれについて、X線回折スペクトルの図。
【
図3】各種プラズマについて、Bi
4Ti
3O
12の含有率と色差ΔE
*abとの関係を示すグラフ。
【
図5】変色層の膜厚と色差ΔE
*abとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照して、プラズマインジケータについて説明する。
図1に示されるように、プラズマインジケータ1は、無機材料からなるベース基板2と、ベース基板2に設けられてプラズマにより変色する変色層3とを備える。変色層3の表面の少なくとも一部は露出する。変色層3の露出部分は、プラズマに曝される。なお、
図1に示されるプラズマインジケータ1では表面全体が露出する。
【0013】
ベース基板2は、シリコン基板、サファイア基板、半導体化合物基板、ガラス基板、セラミック基板、または金属基板である。ベース基板2の種類は、プラズマインジケータ1が用いられるプラズマ装置の用途に応じて設定できる。例えば、シリコン半導体製造用のプラズマ装置において、プラズマ分布を検出する目的でプラズマインジケータ1が用いられる場合、ベース基板2は、シリコンであることが好ましい。ベース基板2の形状は限定されない。例えば、ベース基板2は、切欠き(所謂オリフラ)のついた円板状、すなわちウェハと同じ形状に構成される。
【0014】
変色層3は、ベース基板2の表面(ポリシング処理面)に設けられる。変色層3とベース基板2との間に下地層を設けてもよい。下地層は、プラズマで変色しない非変色層として構成される。非変色層は、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素により形成される。
【0015】
このような下地層は省略されてもよい。下地層が省略される理由は、下地層が、ベース基板2から変色層3を剥離させる要因になるからである。また、下地層は、下地層の形成時に下地層内に残存する有機物残渣を汚染物質として放出する汚染物質発生源になり得るからである。なお、汚染物質とは、高真空状態を低下させる物質を示す。
【0016】
変色層3は、プラズマによって変色する変色剤と、色の視認性を向上する補助剤とを含み、好ましくは、変色剤と、補助剤とに加えて、さらに、後述の化合物を含むことが好ましい。
【0017】
変色剤は、第1群から選択される少なくとも一種を含む。第1群は、Mo、W、Sn、V、Ce、Te、及びBiそれぞれの金属酸化物を含む群である。第1群に属する金属酸化物は、プラズマによって変色する。
【0018】
具体的には、第1群は、酸化モリブデン粒子(IV)、酸化モリブデン粒子(VI)、酸化タングステン粒子(VI)、酸化スズ粒子(IV)、酸化バナジウム粒子(II)、酸化バナジウム粒子(III)、酸化バナジウム粒子(IV)、酸化バナジウム粒子(V)、酸化セリウム粒子(IV)、酸化テルル粒子(IV)、酸化ビスマス粒子(III)、炭酸酸化ビスマス粒子(III)、及び酸化硫酸バナジウム粒子(IV)を含む群である。これらの粒子径(平均粒径)は限定されないが、変色層3の平滑化のため、粒子径は2.0μm以下であることが好ましい。なお、製造性の観点から、0.1μm以上であることが好ましい。平均粒径は、メディアン径D50を示す。
【0019】
補助剤は、Ti、Zr、Y、Ba、Mg、Si、Al、及びPtを含む第2群から選択される少なくとも一種を含む。補助剤は、変色剤とともにプラズマインジケータ1の表面に存在する。変色剤および補助剤は、プラズマインジケータ1の表面に分散している。変色層3における補助剤の含有率が調整されることによって、プラズマインジケータ1の表面の初期色が調整される。初期色は、プラズマが照射されるプラズマインジケータ1の表面の色を意味する。例えば、プラズマインジケータ1の初期色は、白色に近づけられる。この場合、補助剤は、プラズマインジケータ1の初期色を白色に近づける物質である。
【0020】
第2群に属する物質(金属または金属酸化物)は、当該物質自体はプラズマによって変化せず、変色剤の色を際立たせる。第2群の物質が適量であることによって、Lab空間において初期色の色が変色後の色から遠ざかるため、変色の視認性が向上する。第2群に属する物質は、明度が高く、視覚的に白色を呈するものが好適に用いられる。さらに、第2群に属する物質は、変色層3の脆弱性を改善させるものであることが好ましい。
【0021】
具体的には、第2群は、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、アルミニウム、チタン、白金、及び硫酸バリウムを含む群である。これらの粒子径(平均粒径)は限定されないが、変色層3の平滑化のため、粒子径は2.0μm以下であることが好ましい。なお、製造性の観点から、0.1μm以上であることが好ましい。変色層3の変色の視覚的強調効果、及び変色層3の脆弱性の改善効果の観点で、酸化チタン(IV)が好適に用いられる。
【0022】
化合物は、例えば、第1群に属する金属酸化物と第2群に属する金属酸化物との複合酸化物、および、第1群に属する金属酸化物と第2群に属する金属との金属酸化物を含む。また、化合物は、第1群に属する金属酸化物の少なくとも1つと第2群に属する物質の少なくとも1つとから形成され得る。例えば、化合物は、第1群に属する金属酸化物の少なくとも1つと第2群に属する物質の少なくとも1つとの混合物の焼結により形成されたものでも良い。
【0023】
化合物は、プラズマ照射前のプラズマインジケータ1の初期色(化合物が含まないときの色)を変えないものであることが好ましい。例えば、化合物の一例として、Bi2O3とTiO2との複合酸化物であるBi4Ti3O12が挙げられる。Bi4Ti3O12は、3価のBiを含む物質であるが、プラズマインジケータ1におけるBi4Ti3O12の含有率を増大させることにより、プラズマによる変色を抑制できる。一方、Bi4Ti3O12の含有率を小さくすることにより、プラズマインジケータ1の変色の視認性を向上できる。なお、Bi2O3とTiO2とBi4Ti3O12とを含むプラズマインジケータ1においてBi4Ti3O12の含有率が調整される場合、これにともなって、TiO2の含有率およびBi2O3の含有率の少なくとも一方の含有率が調整される。
【0024】
プラズマインジケータ1において、プラズマ照射によるLab空間系の飽和色差は、10以上であることが好ましい。飽和色差が10以上であることにより、変化の視認性が良くなるからである。さらに、好ましくは、プラズマ照射によるLab空間系の飽和色差は、13以上である。飽和色差とは、プラズマ照射前の初期色と、プラズマ照射によって更なる変色がない変色飽和状態となったときの色との色差を意味する。
【0025】
以下に、Bi2O3とTiO2とBi4Ti3O12とを含むプラズマインジケータ1について説明する。
一例のプラズマインジケータ1では、Bi2O3のX線回折スペクトルのピークの大きさは、Bi4Ti3O12のX線回折スペクトルのピークの大きさよりも大きい。この場合、Bi2O3のX線回折スペクトルのピークの大きさがBi4Ti3O12のX線回折スペクトルのピークの大きさよりも小さい場合に比べて、プラズマインジケータ1の変色が大きくなる。このようなプラズマインジケータ1は、アルゴンプラズマ、酸素プラズマおよびCF4プラズマの検出に用いられる。また、プラズマの強度が弱いまたは短時間でプラズマを検出したいとき、このようなプラズマインジケータ1が好適に用いられる。
【0026】
別の例のプラズマインジケータ1では、Bi2O3のX線回折スペクトルのピークの大きさは、Bi4Ti3O12のX線回折スペクトルのピークの大きさよりも小さい。この場合、Bi2O3のX線回折スペクトルのピークの大きさがBi4Ti3O12のX線回折スペクトルのピークの大きさよりも大きい場合に比べて、プラズマインジケータ1の変色が小さくなる。このようなプラズマインジケータ1は、アルゴンプラズマの検出など、プラズマの強度が強いまたは長時間にかけてプラズマを検出したいときに用いられるが、酸素プラズマおよびCF4プラズマの検出時に用いられると、色差が小さく、変色の視認性が低下する。
【0027】
また、高温真空状態でプラズマ処理する装置用に用いられるプラズマインジケータ1の変色層3は、プラズマが存在しない高温雰囲気で変色しないことが好ましい。例えば、真空下、5.0E-4Pa、400℃で、30分間の加熱処理について、この加熱処理前後における色差ΔE*abが3.0以下であることが好ましい。また、プラズマ以外の物質で変色しないことが好ましい。例えば、大気圧、空気中で、450℃で、30分間の加熱で、色差ΔE*abが3.0以下であることが好ましい。さらに、色が変化したことが目視で視認できることが望ましい。このため、初期の色(プラズマ処理前の色)は、白色であることが好ましい。これらの点において、「変色剤は酸化ビスマス、補助剤はチタンの組合せ」が好適である。
【0028】
変色層3の膜厚は、以下に示す理由から13.0μm以下であることが好ましい。なお、膜厚は、卓上走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型式:JCM-6000)で測定された平均膜厚を示す。平均膜厚は、複数個所で計測された膜厚により算出されるメディアン値を示す。以下の「膜厚」は、全てこれと同じ定義である。
【0029】
変色層3の膜厚が大きい程、色差が大きくなり変色状態が視認し易くなるため、視認性の観点では、変色層3の膜厚は大きいことが好ましいが、変色層3の膜厚が大きくなる程、ベース基板2から剥離し易くなるため、変色層3は適切な厚さにする必要がある。変色層3の膜厚が大きくなる程、ベース基板2からの剥離性が高くなる理由は明らかではない。剥離試験によれば、変色層3の膜厚が13.0μmを超えると、変色層3が根元(ベース基板2に接触している部分)から剥離する。このことから、変色層3の膜厚が大きいと、変色層3とベース基板2との結合を低下させる要因が顕在化すると考えられる。
【0030】
さらに、変色層3の膜厚は、高真空に置いたときに有機物残渣の放出量を少なくさせる観点から、13.0μm以下であることが好ましい。これは、変色層3の膜厚が大きい程、焼結で残存する有機物残渣の残存量は増大するからである。特に、変色層3の膜厚が13.0μmよりも大きくなると、高真空(例えば、1.0~10x10E-6Pa)において加熱時では、汚染物質の放出量が多くなる。なお、更に好ましくは、変色層3の膜厚は、10μm以下であり、更に好ましくは、変色層3の膜厚は、8μm以下である。
【0031】
また、変色層3の膜厚は、低レベルのプラズマにより変色層3の変色が視認できるように、設定される。低レベルのプラズマとは、プラズマの検出に係るプラズマ装置を最低出力で駆動するときに形成されるプラズマの強度を示す。変色層3の膜厚が薄すぎると、変色層3の変色を視認し難くなる。また、変色層3の膜厚は、変色層3の色差の大きさに基づいて設定されることが好ましい。変色層3の色差が大きいとき、変色層3の膜厚を薄くできる。変色層3の色差が小さいとき、変色層3の膜厚を厚くすることが好ましい。このため、変色層3の膜厚は、変色層3の色差が大きさに基づいて設定される。下地が透けて見えると視認性が低下することから、好ましくは、変色層3の膜厚は、4μm以上であることが好ましい。
【0032】
<製造方法>
プラズマインジケータ1の製造方法の一例を説明する。プラズマインジケータ1の製造方法は、スラリーの調整工程と、スラリーの塗布工程と、加熱処理工程とを含む。
【0033】
スラリーは、第1群の金属酸化物、第2群の物質、上述の化合物、バインダー樹脂、及び溶剤を含む。バインダー樹脂は、特に限定されないが、バインダー樹脂は、加熱処理工程で熱分解されることが好ましい。例えば、バインダー樹脂として、石油系炭化水素樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、アクリロニトリル樹脂、ケトン樹脂、シリコン樹脂、ビニル樹脂、ブチラール樹脂、ホルマリン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂、マレイン酸樹脂、クマロン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、及び脂環族樹脂、等が挙げられる。
【0034】
溶剤として、バインダー樹脂を溶解できるものが用いられる。例えば、溶剤として、石油系溶剤などを用いることが好ましく、特にエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)等が挙げられる。なお、塗布性及び膜厚を変更する場合、バインダー樹脂及び溶剤の比率が調整される。
【0035】
スラリーは、ベース基板2に塗布される。スラリーの塗布方法は限定されない。塗布方法として、例えば、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、スリットコート、シルクスクリーン印刷、凸版印刷、フレキソ印刷等が挙げられる。スラリーの層を厚くする場合、スラリーが重ね塗りされる。具体的には、乾燥させたスラリーの上にスラリーが塗布される。
【0036】
スラリーが塗付されたベース基板2はオーブンで加熱処理される。加熱処理により、スラリーのバインダー樹脂及び溶剤を除去または分解し、かつ変色層3を焼結させる。
加熱は、大気圧、大気雰囲気、所定の焼結温度において所定時間にわたって行われる。焼結温度は、バインダー樹脂を分解できる温度である。また、焼結温度は、第1群の金属酸化物、第2群の物質、および、上記化合物を焼結できる温度である。プラズマインジケータ1において、バインダー樹脂は、分解除去される。変色層3には、実質的に、バインダー樹脂及び溶剤は含まれないことが好ましいが、変色層3内に僅かに有機物が残存してもよい。
【0037】
プラズマインジケータ1の作用を説明する。
プラズマインジケータ1の変色の視認性は、変色剤のみならず、変色剤の周囲の物質によって影響を受ける。補助剤は、プラズマインジケータ1の初期色を調整することによって、変色の視認性を高める。プラズマインジケータ1において化合物が加えられる場合、化合物は、プラズマインジケータ1の変色を抑制する。変色剤と補助剤と化合物との含有率のバランスによって、プラズマインジケータ1の変色の視認性を向上させたり、変色を抑制したりできる。例えば、
図3に示されるように、化合物の含有率を小さくすることによって、変色の視認性を向上できる。逆に、化合物の含有率を大きくすることによって、変色を抑制できる。
【0038】
図2は、プラズマインジケータ1のX線回折スペクトルを示す。
図2に示される試料1は、Bi
2O
3、TiO
2、および、Bi
4Ti
3O
12を含む。
図2に示される試料2は、Bi
2O
3、TiO
2および、Bi
4Ti
3O
12を含む。試料2においてBi
4Ti
3O
12の含有率は、試料1におけるBi
4Ti
3O
12の含有率よりも小さい。X線回折スペクトルから分かるように、試料1では、Bi
2O
3のピークがBi
4Ti
3O
12のピークよりも低い。試料2では、Bi
2O
3のピークがBi
4Ti
3O
12のピークよりも高い。試料1は、アルゴンプラズマの検出に好適に用いられる。試料2は、アルゴンプラズマ、酸素プラズマ、および、CF
4プラズマの検出に好適に用いられる。
【0039】
図3を参照して、Bi
4Ti
3O
12の含有率に対する色差の変化について説明する。
図3に示されるチャートは、各種のプラズマについて、各試料のBi
4Ti
3O
12の含有率に対する変色の大きさ(色差)の変化を示す。
図3に示されるチャートの線は、Bi
4Ti
3O
12の含有率が相違する試料にプラズマを照射して得られたデータから形成される。
【0040】
一点鎖線のチャートは、アルゴンプラズマに対する変色性を示す。
図3から分かるように、アルゴンプラズマ照射は、CF
4プラズマおよび酸素プラズマに比べて色差が大きい。また、Bi
4Ti
3O
12の含有率が高いほど、色差が小さくなっている。破線のチャートは、CF
4プラズマに対する変色性を示す。
図3から分かるように、CF
4プラズマ照射では、酸素プラズマに比べて色差が大きい。また、Bi
4Ti
3O
12の含有率が高いほど、色差が小さくなっている。実線のチャートは、酸素プラズマに対する変色性を示す。
図3から分かるように、酸素プラズマ照射では、Bi
4Ti
3O
12の含有率が高いほど、色差が小さくなっている。酸素プラズマ照射およびCF
4プラズマ照射においてBi
4Ti
3O
12の含有率の増大に伴う色差の減少量は、アルゴンプラズマ照射による場合よりも、大きい。すなわち、Bi
4Ti
3O
12による変色の抑制効果は、酸素プラズマおよびCF
4プラズマにおいて顕著である。
【0041】
なお、この試験(
図3の結果を得る試験)では、
図4に示される誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)型のプラズマエッチング装置10を用いてプラズマ照射を行った。ICP型のプラズマエッチング装置10は、交流電源11と、コイル12と、チャンバー13と、ウェハを載置するステージ14と、真空ポンプ(図示省略)とを備える。プラズマ処理時、試料をステージ14に置いた。プラズマ発生用の反応性ガス(アルゴン、酸素、またはCF
4)を所定流量で導入し、RFパワーを所定値として、プラズマを発生させた。プラズマ照射後のプラズマインジケータ1の色差を色差計(コニカミノルタ製、型番:FD-7)で測定した。色差ΔE
*abについては、プラズマ処理前とプラズマ処理後との色度の差として算出した。
【0042】
図5を参照して、変色層3の膜厚と色差との関係について説明する。
図5に示されるチャートは、各種の試料について、変色層3の膜厚に対する変色の大きさ(色差)の変化を示す。
図5に示されるチャートの上側の線は、Bi
4Ti
3O
12の含有率が所定値であって膜厚が相違する複数の試料3それぞれにプラズマを照射して得られたデータから形成される。
図5に示されるチャートの下側の線は、Bi
4Ti
3O
12の含有率が試料3のBi
4Ti
3O
12の含有率よりも大きく、膜厚が相違する複数の試料4それぞれにプラズマを照射して得られたデータから形成される。
【0043】
図5に示されるチャートは、いずれも、試料3、4に酸素プラズマを照射したときの色差の変化を示す。誘導結合プラズマ型のプラズマエッチング装置10(
図4参照)を用いて、プラズマ照射を行った。プラズマ条件は、「Bi
4Ti
3O
12の含有率と色差との関係(
図3参照)」を調査したときのプラズマ条件と同じである。色差の測定条件についても、「Bi
4Ti
3O
12の含有率と色差との関係」を調査したときの条件と同じである。
【0044】
図5に示されるように、変色層3の膜厚が大きいほど、プラズマインジケータ1の変色(色差)が大きくなる。
Bi
4Ti
3O
12の含有率が小さい試料3(
図5の上側の線を参照)は、Bi
4Ti
3O
12の含有率が大きい試料4(
図5の下側の線を参照)に比べて、プラズマインジケータ1の変色(色差)が大きい。したがって、Bi
4Ti
3O
12の含有率を小さくすることによって、プラズマインジケータ1の変色を大きくできる。プラズマインジケータ1の変色が大きい場合、プラズマインジケータ1の変色層3の薄膜化が可能である。さらに、変色層3の薄膜化によれば、変色層3の剥離が少なくなるというメリットもある。
【0045】
以下、プラズマインジケータ1の効果を説明する。
(1)プラズマインジケータ1は、プラズマによって変色する変色剤と、色の視認性を向上する補助剤とを含む。変色剤は、上述の第1群から選択される少なくとも一種を含む。補助剤は、上述の第2群から選択される少なくとも一種を含む。この構成によれば、補助剤により色を視認し易くできるため、プラズマインジケータ1の視認性を向上できる。
【0046】
(2)プラズマインジケータ1は、変色剤および補助剤に加えて、さらに、第1群から選択される少なくとも1つと第2群から選択される少なくとも1つとの化合物を含む。この構成によれば、プラズマインジケータ1の変色を抑制できる。
【0047】
(3)上記プラズマインジケータ1において、第1群から選択される少なくとも1つのX線回折スペクトルのピークは、化合物のX線回折スペクトルのピークの大きさよりも大きい。これにより、プラズマインジケータ1の変色の視認性を向上できる。具体的には、変色の前後における色差を大きくできる。
【0048】
(4)一例のプラズマインジケータ1の変色層3は、少なくとも、Bi2O3、および、Bi4Ti3O12を含み、Bi2O3のX線回折スペクトルのピークの大きさは、Bi4Ti3O12のX線回折スペクトルのピークの大きさよりも大きい。この構成によれば、Bi2O3のX線回折スペクトルのピークの大きさがBi4Ti3O12のX線回折スペクトルのピークの大きさよりも小さい場合に比べて、プラズマインジケータ1の変色を大きくできる。このようなプラズマインジケータ1は、酸素プラズマ若しくはCF4プラズマの検出、または、低強度のプラズマの検出に好適に用いられる。
【0049】
(5)上記プラズマインジケータ1において、変色剤と補助剤と化合物とを含む変色層3の膜厚は、4μm以上8μm以下である。この構成によれば、変色層3の膜厚が薄い。変色層3の膜厚が薄くなることによって剥離が少なくなるというメリットがある。また、変色層3の膜厚が薄い場合、ガス放出の低減が図れるため、チャンバーの汚染を抑制できる。
【0050】
<その他の実施形態>
プラズマインジケータ1の実施形態は限定されない。例えば、プラズマインジケータ1は以下のように変更され得る。
【0051】
・上記プラズマインジケータ1の製造方法では、スラリーは、第1群の金属酸化物、第2群の物質、化合物、バインダー樹脂、及び溶剤を含むが、化合物を省略してもよく、この場合、スラリーの焼結によって形成される第1群の金属酸化物と第2群の物質との副生成物を、変色層3に含有させる化合物としてもよい。
【0052】
・変色層3は、上述の第1群から選択される少なくとも一種からなる第1層と、上述の第2群から選択される少なくとも一種からなる第2層との積層体であってもよい。この場合、上述の化合物は、第1層に含まれることが好ましい。
【0053】
・変色層3は、上述の第1群から選択される少なくとも一種と上述の第2群から選択される少なくとも一種とを含み第1群から選択される少なくとも一種を主成分(50質量%以上)とする第1層と、上述の第1群から選択される少なくとも一種と上述の第2群から選択される少なくとも一種とを含み第2群から選択される少なくとも一種を主成分(50質量%以上)とする第2層との積層体であってもよい。この場合、第2層は、第1層の下地としてもよい。上述の化合物は、第1層に含まれることが好ましい。
【符号の説明】
【0054】
1…プラズマインジケータ、2…ベース基板、3…変色層、10…プラズマエッチング装置、11…交流電源、12…コイル、13…チャンバー、14…ステージ。