(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】新規なCD47モノクローナル抗体およびこの使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20220322BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220322BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220322BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220322BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220322BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220322BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220322BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220322BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20220322BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220322BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P7/00
A61P35/02
A61P9/00
A61P9/10
A61P7/04
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2018519859
(86)(22)【出願日】2017-10-20
(86)【国際出願番号】 US2017057535
(87)【国際公開番号】W WO2018075857
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-09-11
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2016/102720
(32)【優先日】2016-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2017/076462
(32)【優先日】2017-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2017/000329
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519425729
【氏名又は名称】アイ-マブ バイオファーマ ユーエス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ワン,チェンギィ
(72)【発明者】
【氏名】ファン,レイ
(72)【発明者】
【氏名】グオ,ビンシィ
(72)【発明者】
【氏名】ツァン,ジンウ
【審査官】池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-508072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
A61K 39/00-39/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:31のアミノ酸配列を含む可変重(VH)鎖配列に示されるVH CDR1、VH CDR2、およびVH CDR3を含む重鎖;ならびに
配列番号:32のアミノ酸配列を含む可変軽(VL)鎖配列に示されるVL CDR1、VL CDR2、およびVL CDR3を含む軽鎖を有し、
この際、前記VH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2、およびVL CDR3は、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, National Institute of Health, Bethesda, Md. (1991)の番号付けに従う、ヒトCD47に結合する単離されたモノクローナル抗
体。
【請求項2】
それぞれが配列番号:31のアミノ酸配列を含む2個の重鎖;およびそれぞれが配列番号:32のアミノ酸配列を含む2個の軽鎖を有する、請求項1に記載の単離されたモノクローナル抗
体。
【請求項3】
前記抗体はヒトIgG4重鎖およびヒトカッパ軽鎖を有する、請求項
2に記載の単離されたモノクローナル抗
体。
【請求項4】
前記単離されたモノクローナル抗体は、赤血球凝集または赤血球の枯渇を引き起こさない、請求項1に記載の単離されたモノクローナル抗
体。
【請求項5】
前記単離されたモノクローナル抗
体は、ヒトCD47がシグナル調節タンパク質α(SIRPα)と相互作用することを防止する、請求項1に記載の単離されたモノクローナル抗
体。
【請求項6】
前記単離されたモノクローナル抗
体は、CD47発現細胞のマクロファージが介する食作用を促進する、請求項1に記載の単離されたモノクローナル抗
体。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の単離されたモノクローナル抗
体、および製薬上許容できる担体を含む薬剤組成物。
【請求項8】
治療上有効な量の請求項1~6のいずれか1項に記載の単離されたモノクローナル抗体、または請求項7に記載の薬剤組成物を患者に投与することを有する病気を処置する必要のあるヒト患者の病気の処置方法のために使用され、前記病気は、癌、線維症、食作用の阻害に関連する病気、または血小板凝集に関連する病気である、請求項1~6のいずれか1項に記載の単離されたモノクローナル抗体または請求項7に記載の薬剤組成物。
【請求項9】
前記癌は、卵巣癌、結腸癌、乳癌、肺癌、頭頸部癌、膀胱癌、大腸癌、膵臓癌、非ホジキンリンパ腫、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、有毛細胞白血病(HCL)、T細胞前リンパ球性白血病(T-PLL)、大型顆粒リンパ球白血病、成人T細胞白血病、多発性骨髄腫、黒色腫、平滑筋腫、平滑筋肉腫、神経膠腫、膠芽細胞腫、骨髄腫、単球性白血病、B細胞白血病、T細胞白血病、B細胞由来リンパ腫、T細胞由来リンパ腫、子宮内膜癌、腎臓癌、黒色腫、前立腺癌、甲状腺癌、子宮頸癌、胃癌、肝臓癌、および固形腫瘍からなる群より選択され;前記線維症は、心筋梗塞、狭心症、変形性関節症、肺線維症、喘息、嚢胞性線維症、気管支炎、および喘息からなる群より選択され;前記食作用の阻害に関連する病気は、心血管疾患であり;前記血小板凝集に関連する病気は、グランツマン血小板無力症(Glanzmann Thrombasthenia)、出血時間延長、免疫性血小板減少症(ITP)、フォン・ヴィレブランド病(vWD)である、請求項
8に記載の
単離されたモノクローナル抗体または薬剤組成物。
【請求項10】
前記癌は固形腫瘍である、請求項8に記載の単離されたモノクローナル抗体または薬剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年10月20日に提出された国際出願番号PCT/CN2016/102720、2017年3月13日に提出された国際出願番号PCT/CN2017/076462、および2017年4月27日に提出された国際出願番号PCT/CN2017/000329の優先権を主張し、これらの内容は全体が本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
CD47(Cluster of Differentiation 47)は、1980年代にヒト卵巣癌で腫瘍抗原として最初に同定された。それから、CD47は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病(ALL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、多発性骨髄腫(MM)、膀胱癌、や他の固形腫瘍などの複数のヒト腫瘍タイプで発現することが見出された。高レベルのCD47により、癌細胞はより高レベルのカルレティキュリン-優勢の前-食作用シグナル(dominant pro-phagocytic signal)を有するにもかかわらず食作用がなくなる。
【0003】
インテグリン結合タンパク質(integrin-associated protein)(IAP)、卵巣癌抗原OA3、Rh関連抗原及びMER6としても知られているが、CD47は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属するマルチスパンニング膜貫通型受容体(multi-spanning transmembrane receptor)である。その発現および活性は、数多くの病気や疾患とかかわりがある。CD47は、1つのIg様ドメイン及び5つの膜貫通領域(membrane spanning region)を有する広範に発現する膜貫通型糖タンパク質であり、シグナル調節タンパク質α(signal-regulatory-protein α)(SIRPα)のNH2-末端V様ドメインを介して結合するSIRPαの細胞リガンドとして機能する。SIRPαは、マクロファージ、顆粒球、骨髄樹状細胞(DC)、肥満細胞、及び造血幹細胞等のこれらの前駆細胞などの骨髄性細胞で主に発現する。
【0004】
マクロファージは、食作用により病原体やダメージを受けたまたは老齢の血流の細胞を取り除く。細胞表面のCD47は、マクロファージ上のレセプターである、SIRPαと相互作用して、正常な健常細胞の食作用を阻害する。SIRPαは、マクロファージによって宿主細胞の食作用を阻害し、宿主標的細胞で発現するCD47によるマクロファージ上のSIRPαのライゲーションにより、食作用をネガティブに調節するSHP-1によって仲介される阻害シグナルを生じさせる。
【0005】
CD47が正常細胞の食作用を阻害する役割を維持すると、その移行期の直前または移行期中に造血幹細胞(HSC)や前駆細胞で一時的にアップレギュレートされ、これらの細胞でのCD47のレベルによりインビボで飲み込まれる可能性が決定されるという証拠がある。
【0006】
CD47はまたその構造により、骨髄性白血病等の、数多くの癌でアップレギュレートされる。骨髄性白血病細胞系でのCD47の過剰発現は、食作用を避けさせることによってその病原性を増加させる。CD47のアップレギュレーションは炎症によるモビリゼーション(mobilization)中の正常なHSCへの保護を提供するための重要なメカニズムであり、白血病前駆細胞(leukemic progenitor)がマクロファージを殺すことを避けるためにこの能力を吸収する(co-opt)と結論つけた。
【0007】
特定のCD47抗体が食作用を回復させてアテローム性動脈硬化症を防止することが示された。例えば、Kojima et al., Nature, Vol. 36, 86-90 (Aug. 4, 2016)を参照。本発明は、ヒトでの免疫原性が低く、赤血球の枯渇(red blood cell depletion)のレベルが低いまたはない新規なCD47抗体またはその免疫学的に活性のある断片を提供する。当業者にはよく知られているように、このような抗体は、「抗CD47抗体」とほとんど同じ意味で呼ばれる。
【発明の概要】
【0008】
発明の要約
一態様では、本発明は、ヒトCD47に結合する単離モノクローナル抗体およびその免疫学的に活性のある断片を提供する。簡略して表現するために、上記CD47に結合する単離モノクローナル抗体およびその免疫学的に活性のある断片を、以降では「CD抗体」と称する。本発明のCD47抗体は、CD47の発現、活性および/またはシグナル伝達、またはCD47とSIRPαとの相互作用を、調節する、例えば、遮断する、阻害する、抑制する、拮抗する、中和する、または干渉することが可能である。非常に驚くべきことに、本発明のCD47抗体は、通常、有意なレベルのヒト赤血球の枯渇または赤血球凝集を引き起こさず、驚くべきことに、多くの場合において、ヒト赤血球の枯渇または赤血球凝集を全く引き起こさない。さらに、本発明のCD47抗体は、強力な抗腫瘍活性を示した。
【0009】
実施形態によっては、本発明のCD47抗体は、それぞれ、(a)配列番号:1、配列番号:3、配列番号:5、配列番号:7、配列番号:9、配列番号:11、配列番号:13、配列番号:15、配列番号:17、配列番号:19、配列番号:21、配列番号:23、配列番号:25、配列番号:27、配列番号:29、配列番号:31、配列番号:33、配列番号:35、配列番号:37、配列番号:39、配列番号:41、配列番号:43、配列番号:45、配列番号:47、配列番号:49、配列番号:51、配列番号:53、配列番号:55、配列番号:57、配列番号:59、配列番号:61、配列番号:63、配列番号:65、配列番号:67、配列番号:69、配列番号:71、配列番号:73、配列番号:75、および配列番号:77からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%)一致する可変重(VH)鎖配列;ならびに(b)配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、配列番号:8、配列番号:10、配列番号:12、配列番号:14、配列番号:16、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、配列番号:32、配列番号:34、配列番号:36、配列番号:38、配列番号:40、配列番号:42、配列番号:44、配列番号:46、配列番号:48、配列番号:50、配列番号:52、配列番号:54、配列番号:56、配列番号:58、配列番号:60、配列番号:62、配列番号:64、配列番号:66、配列番号:68、配列番号:70、配列番号:72、配列番号:74、配列番号:76、および配列番号:78からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%)一致する可変軽(VL)鎖配列を有する。
【0010】
他の実施形態によっては、本発明のCD47抗体は、それぞれ、配列番号:1および配列番号:2(即ち、1A1)、配列番号:3および配列番号:4(即ち、1F8)、配列番号:5および配列番号:6(即ち、2A11)、配列番号:7および配列番号:8(即ち、2C2)、配列番号:9および配列番号:10(即ち、2D7)、配列番号:11および配列番号:12(即ち、2G4)、配列番号:13および配列番号:14(即ち、2G11)、配列番号:15および配列番号:16(即ち、6F4)、配列番号:17および配列番号:18(即ち、5H1)、配列番号:19および配列番号:20(即ち、5F6)、配列番号:21および配列番号:22(即ち、1F3)、配列番号:23および配列番号:24(即ち、2A4)、配列番号:25および配列番号:26(即ち、2B12)、配列番号:27および配列番号:28(即ち、13A11)、配列番号:29および配列番号:30(即ち、15E1)、配列番号:31および配列番号:32(即ち、13H3)、配列番号:33および配列番号:34(即ち、14A8)、配列番号:35および配列番号:36(即ち、16H3)、配列番号:37および配列番号:38(即ち、1A1)、配列番号:39および配列番号:40(即ち、1A1-A)、配列番号:41および配列番号:42(即ち、1A1-Q)、配列番号:43および配列番号:44(即ち、1A2)、配列番号:45および配列番号:46(即ち、1A8)、配列番号:47および配列番号:48(即ち、1B1)、配列番号:49および配列番号:50(即ち、1B2)、配列番号:51および配列番号:52(即ち、1H3)、配列番号:53および配列番号:54(即ち、1H3-Q)、配列番号:55および配列番号:56(即ち、1H3-A)、配列番号:57および配列番号:58(即ち、2A2)、配列番号:59および配列番号:60(即ち、2A3)、配列番号:61および配列番号:62(即ち、2A6)、配列番号:63および配列番号:64(即ち、2A10)、配列番号:65および配列番号:66(即ち、2B1)、配列番号:67および配列番号:68(即ち、2C6)、配列番号:69および配列番号:70(即ち、2E7)、配列番号:71および配列番号:72(即ち、2E9)、配列番号:73および配列番号:74(即ち、2F1)、配列番号:75および配列番号:76(即ち、2F3)、ならびに配列番号:77および配列番号:78(即ち、34C5)からなる群より選択される1対のVHおよびVLアミノ酸配列と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、95%、96、97%、98%、99%、または99.5%)一致する1対のVH/VL鎖配列を有する。
【0011】
場合によっては、本発明のCD47抗体は、それぞれ、配列番号:1および配列番号:2(即ち、1A1)、配列番号:3および配列番号:4(即ち、1F8)、配列番号:5および配列番号:6(即ち、2A11)、配列番号:7および配列番号:8(即ち、2C2)、配列番号:9および配列番号:10(即ち、2D7)、配列番号:11および配列番号:12(即ち、2G4)、配列番号:13および配列番号:14(即ち、2G11)、配列番号:15および配列番号:16(即ち、6F4)、配列番号:17および配列番号:18(即ち、5H1)、配列番号:19および配列番号:20(即ち、5F6)、配列番号:21および配列番号:22(即ち、1F3)、配列番号:23および配列番号:24(即ち、2A4)、配列番号:25および配列番号:26(即ち、2B12)、配列番号:27および配列番号:28(即ち、13A11)、配列番号:29および配列番号:30(即ち、15E1)、配列番号:31および配列番号:32(即ち、13H3)、配列番号:33および配列番号:34(即ち、14A8)、配列番号:35および配列番号:36(即ち、16H3)、配列番号:37および配列番号:38(即ち、1A1)、配列番号:39および配列番号:40(即ち、1A1-A)、配列番号:41および配列番号:42(即ち、1A1-Q)、配列番号:43および配列番号:44(即ち、1A2)、配列番号:45および配列番号:46(即ち、1A8)、配列番号:47および配列番号:48(即ち、1B1)、配列番号:49および配列番号:50(即ち、1B2)、配列番号:51および配列番号:52(即ち、1H3)、配列番号:53および配列番号:54(即ち、1H3-Q)、配列番号:55および配列番号:56(即ち、1H3-A)、配列番号:57および配列番号:58(即ち、2A2)、配列番号:59および配列番号:60(即ち、2A3)、配列番号:61および配列番号:62(即ち、2A6)、配列番号:63および配列番号:64(即ち、2A10)、配列番号:65および配列番号:66(即ち、2B1)、配列番号:67および配列番号:68(即ち、2C6)、配列番号:69および配列番号:70(即ち、2E7)、配列番号:71および配列番号:72(即ち、2E9)、配列番号:73および配列番号:74(即ち、2F1)、配列番号:75および配列番号:76(即ち、2F3)、ならびに配列番号:77および配列番号:78(即ち、34C5)からなる群より選択される1対のVHおよびVL鎖配列を有する。
【0012】
本発明のCD47抗体は、キメラまたはヒト化抗体であってもよい。これらは、ヒトCD47がSIRPαと相互作用することを防止するまたは有意に抑制することができる、またはCD47発現細胞のマクロファージが介する食作用(macrophage-mediated phagocytosis)を促進する。
【0013】
本発明のCD47抗体は、有意な(significant)または顕著な(noticeable)レベルの赤血球凝集または赤血球の枯渇を引き起こさず、多くの場合、赤血球凝集または赤血球の枯渇を引き起こさない。
【0014】
他の態様では、本発明は、単離された二重特異性モノクローナル抗体を提供する。このような単離された二重特異性モノクローナル抗体は、それぞれ、第1のアームおよび第2のアームを有し、前記第1のアームはヒトCD47に結合する上記したような第1のモノクローナル抗体またはその免疫学的に活性のある断片を有し、さらに前記第2のアームはヒトCD47に結合しない第2のモノクローナル抗体を有する。
【0015】
実施形態によっては、単離された二重特異性モノクローナル抗体の第2のアームは、癌細胞に結合する。
【0016】
他の実施形態によっては、単離された二重特異性モノクローナル抗体はヒトCD47とヒトSIRPαとの相互作用を阻害する。
【0017】
さらに他の態様では、本発明は、それぞれが本発明のCD47抗体または本発明の単離された二重特異性モノクローナル抗体の一、および製薬上許容できる担体または賦形剤を含む薬剤組成物を提供する。
【0018】
本明細書に使用される、「製薬上許容できる担体または賦形剤」ということばは、通常、安全で、無毒であり、生物学的等の点で望ましくないものではない薬剤組成物または製剤を調製するのに使用される担体または賦形剤を意味する。使用される担体または賦形剤は、一般的に、ヒト患者または他の哺乳動物への投与に適するものである。組成物を作製するにあたり、活性成分は、一般的に、担体または賦形剤と混合する、上記で希釈する、または上記で包まれる。担体または賦形剤が希釈剤として機能する場合には、抗体の活性成分のベヒクル、担体、または媒質として作用する、固体、半固体、または液体材料であってもよい。
【0019】
病気を処置する必要のあるヒト患者の病気の処置方法であって、前記方法は、治療上有効な量の本発明のCD47抗体、本発明の二重特異性モノクローナル抗体、または本発明の薬剤組成物を前記患者に投与することを有し、上記病気は、癌、線維症、または食作用の阻害に関連する病気である方法もまた、本発明の範囲に含まれる。場合によっては、上記癌は、卵巣癌、結腸癌、乳癌、肺癌、頭頸部癌、膀胱癌、大腸癌、膵臓癌、非ホジキンリンパ腫、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、有毛細胞白血病(HCL)、T細胞前リンパ球性白血病(T-PLL)、大型顆粒リンパ球白血病、成人T細胞白血病、多発性骨髄腫、黒色腫、平滑筋腫、平滑筋肉腫、神経膠腫、膠芽細胞腫、骨髄腫、単球性白血病、B細胞由来白血病(B-cell derived leukemia)、T細胞由来白血病(T-cell derived leukemia)、B細胞由来リンパ腫、T細胞由来リンパ腫、子宮内膜癌、腎臓癌、黒色腫、前立腺癌、甲状腺癌、子宮頸癌、胃癌、肝臓癌、および固形腫瘍からなる群より選択されてもよく;上記線維症は、心筋梗塞、狭心症、変形性関節症、肺線維症、喘息、嚢胞性線維症、気管支炎、および喘息からなる群より選択されてもよい。固形腫瘍の例としては、例えば、子宮内膜癌、甲状腺癌、子宮頸癌、胃癌、乳房腫瘍、卵巣腫瘍、肺腫瘍、膵臓腫瘍、前立腺腫瘍、メラノーマ腫瘍、大腸腫瘍、肺腫瘍、頭頸部腫瘍、膀胱腫瘍、食道腫瘍、肝臓腫瘍、および腎臓腫瘍、ならびに神経芽細胞由来CNS腫瘍(neuroblastic-derived CNS tumor)が挙げられる。上記食作用の阻害に関連する病気は、心血管疾患(例えば、アテローム性動脈硬化症、発作、高血圧性心疾患、リウマチ性心疾患、心筋症、心臓不整脈、先天性心疾患、心臓弁膜症、心臓炎、大動脈瘤、末梢動脈疾患、または静脈血栓症)であってもよい。
【0020】
本明細書に使用される、「有効な量」ということばは、患者に投与されると、本明細書に記載されるような、CD47に依存するシグナル伝達に関連する病気の治療、予後または診断を行うのに十分なまたは必要であるCD47抗体の量を意味する。単独でまたは組み合わせて使用される際の、本明細書で提供される抗体の治療上有効な量は、抗体の相対活性(例えば、CD47を発現する癌細胞のマクロファージが介する食作用の促進)によっておよび処置される患者や病気の状態、患者の体重や年齢、病状の重篤度、投与形態などによって異なり、当業者によって容易に決定できる。
【0021】
本明細書に使用される、本発明のCD47抗体に先行する「単離された」ということばは、抗体が他の細胞材料を実質的に含まないことを意味する。一実施形態では、単離された抗体は、同種の他のタンパク質を実質的に含まない。他の実施形態では、単離された抗体は、異なる種の細胞によって発現され、異なる種の他のタンパク質を実質的に含まない。タンパク質は、当該分野において既知のタンパク質精製技術を用いて、単離によって天然に関連する(naturally associated)成分(または抗体を製造するのに使用される細胞発現システムと関連する成分)を実質的に含まないようにされてもよい。一実施形態では、本発明の抗体、または抗原結合断片は、単離される。
【0022】
さらに、第1のアミノ酸配列および第2のアミノ酸配列を有し、前記第1のアミノ酸配列は、配列番号:1、配列番号:3、配列番号:5、配列番号:7、配列番号:9、配列番号:11、配列番号:13、配列番号:15、配列番号:17、配列番号:19、配列番号:21、配列番号:23、配列番号:25、配列番号:27、配列番号:29、配列番号:31、配列番号:33、配列番号:35、配列番号:37、配列番号:39、配列番号:41、配列番号:43、配列番号:45、配列番号:47、配列番号:49、配列番号:51、配列番号:53、配列番号:55、配列番号:57、配列番号:59、配列番号:61、配列番号:63、配列番号:65、配列番号:67、配列番号:69、配列番号:71、配列番号:73、配列番号:75、もしくは配列番号:77、またはこれと少なくとも90%(例えば、少なくとも95%)一致するアミノ酸配列であり;さらに、前記第2のアミノ酸配列は、配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、配列番号:8、配列番号:10、配列番号:12、配列番号:14、配列番号:16、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、配列番号:32、配列番号:34、配列番号:36、配列番号:38、配列番号:40、配列番号:42、配列番号:44、配列番号:46、配列番号:48、配列番号:50、配列番号:52、配列番号:54、配列番号:56、配列番号:58、配列番号:60、配列番号:62、配列番号:64、配列番号:66、配列番号:68、配列番号:70、配列番号:72、配列番号:74、配列番号:76、もしくは配列番号:78、またはこれと少なくとも90%(例えば、少なくとも95%)一致するアミノ酸配列である、融合タンパク質も本発明の範囲に含まれる。
【0023】
実施形態によっては、本発明の融合タンパク質は、前記第1のアミノ酸配列および第2のアミノ酸配列の組み合わせを有し、これらの2つのアミノ酸配列の組み合わせは、配列番号:1および配列番号:2(即ち、1A1)、配列番号:3および配列番号:4(即ち、1F8)、配列番号:5および配列番号:6(即ち、2A11)、配列番号:7および配列番号:8(即ち、2C2)、配列番号:9および配列番号:10(即ち、2D7)、配列番号:11および配列番号:12(即ち、2G4)、配列番号:13および配列番号:14(即ち、2G11)、配列番号:15および配列番号:16(即ち、6F4)、配列番号:17および配列番号:18(即ち、5H1)、配列番号:19および配列番号:20(即ち、5F6)、配列番号:21および配列番号:22(即ち、1F3)、配列番号:23および配列番号:24(即ち、2A4)、配列番号:25および配列番号:26(即ち、2B12)、配列番号:27および配列番号:28(即ち、13A11)、配列番号:29および配列番号:30(即ち、15E1)、配列番号:31および配列番号:32(即ち、13H3)、配列番号:33および配列番号:34(即ち、14A8)、配列番号:35および配列番号:36(即ち、16H3)、配列番号:37および配列番号:38(即ち、1A1)、配列番号:39および配列番号:40(即ち、1A1-A)、配列番号:41および配列番号:42(即ち、1A1-Q)、配列番号:43および配列番号:44(即ち、1A2)、配列番号:45および配列番号:46(即ち、1A8)、配列番号:47および配列番号:48(即ち、1B1)、配列番号:49および配列番号:50(即ち、1B2)、配列番号:51および配列番号:52(即ち、1H3)、配列番号:53および配列番号:54(即ち、1H3-Q)、配列番号:55および配列番号:56(即ち、1H3-A)、配列番号:57および配列番号:58(即ち、2A2)、配列番号:59および配列番号:60(即ち、2A3)、配列番号:61および配列番号:62(即ち、2A6)、配列番号:63および配列番号:64(即ち、2A10)、配列番号:65および配列番号:66(即ち、2B1)、配列番号:67および配列番号:68(即ち、2C6)、配列番号:69および配列番号:70(即ち、2E7)、配列番号:71および配列番号:72(即ち、2E9)、配列番号:73および配列番号:74(即ち、2F1)、配列番号:75および配列番号:76(即ち、2F3)、配列番号:77および配列番号:78(即ち、34C5)、または各第1および第2のアミノ酸配列について前記と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%)一致する組み合わせである。
【0024】
他の実施形態によっては、本発明の融合タンパク質は、第1のアミノ酸配列および第2のアミノ酸配列の組み合わせを有し、これらの2つのアミノ酸配列の組み合わせは、配列番号:1および配列番号:2(即ち、1A1)、配列番号:3および配列番号:4(即ち、1F8)、配列番号:5および配列番号:6(即ち、2A11)、配列番号:7および配列番号:8(即ち、2C2)、配列番号:9および配列番号:10(即ち、2D7)、配列番号:11および配列番号:12(即ち、2G4)、配列番号:13および配列番号:14(即ち、2G11)、配列番号:15および配列番号:16(即ち、6F4)、配列番号:17および配列番号:18(即ち、5H1)、配列番号:19および配列番号:20(即ち、5F6)、配列番号:21および配列番号:22(即ち、1F3)、配列番号:23および配列番号:24(即ち、2A4)、配列番号:25および配列番号:26(即ち、2B12)、配列番号:27および配列番号:28(即ち、13A11)、配列番号:29および配列番号:30(即ち、15E1)、配列番号:31および配列番号:32(即ち、13H3)、配列番号:33および配列番号:34(即ち、14A8)、配列番号:35および配列番号:36(即ち、16H3)、配列番号:37および配列番号:38(即ち、1A1)、配列番号:39および配列番号:40(即ち、1A1-A)、配列番号:41および配列番号:42(即ち、1A1-Q)、配列番号:43および配列番号:44(即ち、1A2)、配列番号:45および配列番号:46(即ち、1A8)、配列番号:47および配列番号:48(即ち、1B1)、配列番号:49および配列番号:50(即ち、1B2)、配列番号:51および配列番号:52(即ち、1H3)、配列番号:53および配列番号:54(即ち、1H3-Q)、配列番号:55および配列番号:56(即ち、1H3-A)、配列番号:57および配列番号:58(即ち、2A2)、配列番号:59および配列番号:60(即ち、2A3)、配列番号:61および配列番号:62(即ち、2A6)、配列番号:63および配列番号:64(即ち、2A10)、配列番号:65および配列番号:66(即ち、2B1)、配列番号:67および配列番号:68(即ち、2C6)、配列番号:69および配列番号:70(即ち、2E7)、配列番号:71および配列番号:72(即ち、2E9)、配列番号:73および配列番号:74(即ち、2F1)、配列番号:75および配列番号:76(即ち、2F3)、または配列番号:77および配列番号:78(即ち、34C5)である。
【0025】
さらに他の実施形態によっては、本発明の融合タンパク質は、前記第1および第2のアミノ酸配列に加えて別のタンパク質をさらに有してもよい。上記別のタンパク質が抗体またはサイトカインである。
【0026】
さらに他の実施形態によっては、本発明の融合タンパク質は、小分子治療剤(small-molecule therapeutic agent)(例えば、抗癌剤もしくは抗炎症剤)またはマーカー(例えば、バイオマーカーもしくは蛍光マーカー)と結合して(conjugated with)いてもよい。
【0027】
さらに他の態様では、本発明は、TNMEAQループ(残基26~31)、T34、E35、L74、およびCD47のLTRヒンジ(残基101~103)を立体配座的に含む組換タンパク質を有するCD47遺伝子によってコードされる免疫優勢エピトープを提供する。
【0028】
さらに他の態様では、本発明は、CD47のTNMEAQループ(残基26~31)、T34、E35、L74、およびLTRヒンジ(残基101~103)を含むアミノ酸配列を有する立体配座エピトープに特異的に結合する生物分子であって、前記抗体がCD47に特異的に結合できる、生物分子を提供する。
【0029】
本明細書に使用される、「生物分子(biological molecule)」ということばは、合成抗体(モノクローナルまたは二重特異性抗体)、ペプチド、および生体模倣分子(biomimetic molecule)を包含することを意味する。「生体模倣分子」ということばは、タンパク質またはヌクレオチド等の天然の大きな化合物の構造または特性と同様のまたは似ている構造または特性を有するように設計または開発され、例えば、少なくとも3,000、少なくとも5,000、または少なくとも10,000の分子量を有する分子を意味する。
【0030】
本明細書で挙げられる参考文献はすべて、全体を参考で引用される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図面の簡単な説明
【
図1】
図1は、単量体CD47-ECDに結合するCD47抗体の用量依存反応を示す。
【
図2a】
図2aおよび
図2bは、二量体CD47-ECDに結合するCD47抗体の用量依存反応を示す。
【
図2b】
図2aおよび
図2bは、二量体CD47-ECDに結合するCD47抗体の用量依存反応を示す。
【
図3a】
図3a、
図3bおよび
図3cは、CD47のSIRPαへの結合を遮断するCD47抗体の用量依存反応を示す。
【
図3b】
図3a、
図3bおよび
図3cは、CD47のSIRPαへの結合を遮断するCD47抗体の用量依存反応を示す。
【
図3c】
図3a、
図3bおよび
図3cは、CD47のSIRPαへの結合を遮断するCD47抗体の用量依存反応を示す。
【
図4a】
図4aおよび
図4bは、CD47+Raji細胞に結合するCD47抗体の用量依存反応を示し;さらに、
図4c、
図4dおよび
図4eは、Biocore分析によって測定される、CD47抗体の結合キネティクスおよびデータを示す。
【
図4b】
図4aおよび
図4bは、CD47+Raji細胞に結合するCD47抗体の用量依存反応を示し;さらに、
図4c、
図4dおよび
図4eは、Biocore分析によって測定される、CD47抗体の結合キネティクスおよびデータを示す。
【
図4c】
図4aおよび
図4bは、CD47+Raji細胞に結合するCD47抗体の用量依存反応を示し;さらに、
図4c、
図4dおよび
図4eは、Biocore分析によって測定される、CD47抗体の結合キネティクスおよびデータを示す。
【
図4d】
図4aおよび
図4bは、CD47+Raji細胞に結合するCD47抗体の用量依存反応を示し;さらに、
図4c、
図4dおよび
図4eは、Biocore分析によって測定される、CD47抗体の結合キネティクスおよびデータを示す。
【
図4e】
図4aおよび
図4bは、CD47+Raji細胞に結合するCD47抗体の用量依存反応を示し;さらに、
図4c、
図4dおよび
図4eは、Biocore分析によって測定される、CD47抗体の結合キネティクスおよびデータを示す。
【
図5a】
図5aおよび
図5bは、CD47抗体を用いたヒトMΦによる腫瘍細胞の食作用を示す。
【
図5b】
図5aおよび
図5bは、CD47抗体を用いたヒトMΦによる腫瘍細胞の食作用を示す。
【
図6a】
図6a~6cは、CD47抗体によって引き起こされる(triggered)様々なヒト血液癌細胞系のマクロファージが介する食作用(macrophage-mediated phagocytosis)を示す。
【
図6b】
図6a~6cは、CD47抗体によって引き起こされる(triggered)様々なヒト血液癌細胞系のマクロファージが介する食作用(macrophage-mediated phagocytosis)を示す。
【
図6c】
図6a~6cは、CD47抗体によって引き起こされる(triggered)様々なヒト血液癌細胞系のマクロファージが介する食作用(macrophage-mediated phagocytosis)を示す。
【
図7a】
図7aおよび
図7bは、CD47抗体を用いたRBC凝集アッセイでの赤血球(RBC)-不足特性(red blood cells (RBC)-sparing properties)を示す。
【
図7b】
図7aおよび
図7bは、CD47抗体を用いたRBC凝集アッセイでの赤血球(RBC)-不足特性(red blood cells (RBC)-sparing properties)を示す。
【
図8a】
図8a、
図8b、
図8c、および
図8dは、異なるより高い量でのCD抗体によりRBCに結合するおよびRBC凝集を誘導する活性を示す。
【
図8b】
図8a、
図8b、
図8c、および
図8dは、異なるより高い量でのCD抗体によりRBCに結合するおよびRBC凝集を誘導する活性を示す。
【
図8c】
図8a、
図8b、
図8c、および
図8dは、異なるより高い量でのCD抗体によりRBCに結合するおよびRBC凝集を誘導する活性を示す。
【
図8d】
図8a、
図8b、
図8c、および
図8dは、異なるより高い量でのCD抗体によりRBCに結合するおよびRBC凝集を誘導する活性を示す。
【
図10a】
図10は、CD47抗体によって誘導される複数のヒト血液サンプルでの赤血球凝集の結果を示す。
【
図10b】
図10は、CD47抗体によって誘導される複数のヒト血液サンプルでの赤血球凝集の結果を示す。
【
図11】
図11は、血小板の表面マーカーとして染色されるCD61を用いた、CD47抗体およびSIRPα-Ig融合のヒト血小板結合活性を示す。
【
図12a】
図12は、インビトロでのCD47抗体およびSIRPα-Ig融合によって誘導されるカニクイザル(cyno)赤血球凝集の試験結果を示す。
【
図12b】
図12は、インビトロでのCD47抗体およびSIRPα-Ig融合によって誘導されるカニクイザル(cyno)赤血球凝集の試験結果を示す。
【
図13】
図13は、CD47抗体およびコントロールによる食作用およびAML細胞結合の試験結果を示す。
【
図14a】
図14aおよび
図14bは、ルシフェラーゼ-Raji異種移植マウスのCD47抗体およびコントロールによる処置の有効性を示す。
【
図14b】
図14aおよび
図14bは、ルシフェラーゼ-Raji異種移植マウスのCD47抗体およびコントロールによる処置の有効性を示す。
【
図15a】
図15は、CD47抗体およびコントロールによって誘導される腫瘍を有するマウスにおけるマクロファージの極性化を示す。
【
図15b】
図15は、CD47抗体およびコントロールによって誘導される腫瘍を有するマウスにおけるマクロファージの極性化を示す。
【
図16a】
図16は、様々なヒト癌タイプのPDXサンプルを用いたCD47発現プロフィールを示す。
【
図16b】
図16は、様々なヒト癌タイプのPDXサンプルを用いたCD47発現プロフィールを示す。
【
図16c】
図16は、様々なヒト癌タイプのPDXサンプルを用いたCD47発現プロフィールを示す。
【
図17a】
図17は、カニクイザル(cynomolgus monkey)の製剤安全研究(safety pharm study)(血液学)の結果を示す。
【
図17b】
図17は、カニクイザル(cynomolgus monkey)の製剤安全研究(safety pharm study)(血液学)の結果を示す。
【
図17c】
図17は、カニクイザル(cynomolgus monkey)の製剤安全研究(safety pharm study)(血液学)の結果を示す。
【
図17d】
図17は、カニクイザル(cynomolgus monkey)の製剤安全研究(safety pharm study)(血液学)の結果を示す。
【
図17e】
図17は、カニクイザル(cynomolgus monkey)の製剤安全研究(safety pharm study)(血液学)の結果を示す。
【
図18a】
図18は、異なるエピトープによる、抗体1F8および5F9ならびに抗体1F8および2A1のCD47の結合での競合、ならびに5F9/CD47コンプレックスおよび1F8/CD47コンプレックスの構造を示す。
【
図18b】
図18は、異なるエピトープによる、抗体1F8および5F9ならびに抗体1F8および2A1のCD47の結合での競合、ならびに5F9/CD47コンプレックスおよび1F8/CD47コンプレックスの構造を示す。
【
図18c】
図18は、異なるエピトープによる、抗体1F8および5F9ならびに抗体1F8および2A1のCD47の結合での競合、ならびに5F9/CD47コンプレックスおよび1F8/CD47コンプレックスの構造を示す。
【
図18d】
図18は、異なるエピトープによる、抗体1F8および5F9ならびに抗体1F8および2A1のCD47の結合での競合、ならびに5F9/CD47コンプレックスおよび1F8/CD47コンプレックスの構造を示す。
【
図18e】
図18は、異なるエピトープによる、抗体1F8および5F9ならびに抗体1F8および2A1のCD47の結合での競合、ならびに5F9/CD47コンプレックスおよび1F8/CD47コンプレックスの構造を示す。
【
図20】
図20は、組換CD47-ECDへの34C5の強力な結合親和性を示す。
【
図21】
図21は、CD47を有するRaji細胞への34C5の強力な結合親和性を示す。
【
図22】
図22は、34C5が、0.30nMのEC
50で、SIRPαへのCD47の結合を効果的に遮断できたことを示す。
【
図23】
図23は、抗体34C5がヒトMΦによる腫瘍細胞の食作用を促進したことを示す。
【
図24】
図24は、抗体34C5がインビトロでのRVC凝集を引き起こさなかったことを示す。
【
図25】
図25は、抗体34C5がこの抗体濃度の減少に伴いRBCへの結合を減少することを示す。
【
図26-1】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-2】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-3】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-4】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-5】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-6】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-7】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-8】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-9】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-10】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-11】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-12】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-13】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-14】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-15】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-16】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図26-17】
図26は、本発明のいくつかのCD47抗体のアミノ酸配列およびこれらのそれぞれのヌクレオチド配列を示す。
【
図27】
図27は、CD47免疫グロブリン様ドメイン(Ig-V)19-141に関するアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
本発明は、ヒトCD47がSIRPαと相互作用することを防止できる、またはCD47発現細胞のマクロファージが介する食作用を促進できる新規な単離されたモノクローナルCD47抗体を提供する。これらのCD47抗体は、有意な(significant)または顕著な(noticeable)レベルの赤血球凝集または赤血球の枯渇を引き起こさず、多くの場合、赤血球凝集または赤血球の枯渇を引き起こさない。
【0033】
例としては、本発明のCD47抗体は、(a)配列番号:1、配列番号:3、配列番号:5、配列番号:7、配列番号:9、配列番号:11、配列番号:13、配列番号:15、配列番号:17、配列番号:19、配列番号:21、配列番号:23、配列番号:25、配列番号:27、配列番号:29、配列番号:31、配列番号:33、配列番号:35、配列番号:37、配列番号:39、配列番号:41、配列番号:43、配列番号:45、配列番号:47、配列番号:49、配列番号:51、配列番号:53、配列番号:55、配列番号:57、配列番号:59、配列番号:61、配列番号:63、配列番号:65、配列番号:67、配列番号:69、配列番号:71、配列番号:73、配列番号:75、および配列番号:77からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%)一致する可変重(VH)鎖配列;ならびに(b)配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、配列番号:8、配列番号:10、配列番号:12、配列番号:14、配列番号:16、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、配列番号:32、配列番号:34、配列番号:36、配列番号:38、配列番号:40、配列番号:42、配列番号:44、配列番号:46、配列番号:48、配列番号:50、配列番号:52、配列番号:54、配列番号:56、配列番号:58、配列番号:60、配列番号:62、配列番号:64、配列番号:66、配列番号:68、配列番号:70、配列番号:72、配列番号:74、配列番号:76、および配列番号:78からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%)一致する可変軽(VL)鎖配列を有する。別の例としては、本発明のCD47抗体は、配列番号:1および配列番号:2、配列番号:3および配列番号:4、配列番号:5および配列番号:6、配列番号:7および配列番号:8、配列番号:9および配列番号:10、配列番号:11および配列番号:12、配列番号:13および配列番号:14、配列番号:15および配列番号:16、配列番号:17および配列番号:18、配列番号:19および配列番号:20、配列番号:21および配列番号:22、配列番号:23および配列番号:24、配列番号:25および配列番号:26、配列番号:27および配列番号:28、配列番号:29および配列番号:30、配列番号:31および配列番号:32、配列番号:33および配列番号:34、配列番号:35および配列番号:36、配列番号:37および配列番号:38、配列番号:39および配列番号:40、配列番号:41および配列番号:42、配列番号:43および配列番号:44、配列番号:45および配列番号:46、配列番号:47および配列番号:48、配列番号:49および配列番号:50、配列番号:51および配列番号:52、配列番号:53および配列番号:54、配列番号:55および配列番号:56、配列番号:57および配列番号:58、配列番号:59および配列番号:60、配列番号:61および配列番号:62、配列番号:63および配列番号:64、配列番号:65および配列番号:66、配列番号:67および配列番号:68、配列番号:69および配列番号:70、配列番号:71および配列番号:72、配列番号:73および配列番号:74、配列番号:75および配列番号:76、ならびに配列番号:77および配列番号:78からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%)一致するVH/VL鎖配列の組み合わせを有する。
【0034】
本明細書に使用される、「抗体」ということばは、最も広い意味で使用され、具体的には、モノクローナル抗体(全長のモノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(multi-specific antibody)(例えば、二重特異性抗体)、および所望の生物学的活性を示す限り抗体断片を包含する。「抗体」(または「Abs」)および「免疫グロブリン」(または「Ig」)は、同様の構造特性を有する糖タンパク質である。抗体は特定の抗原への結合特異性を示す一方、免疫グロブリンは抗原特異性を持たない抗体および他の抗体様分子を包含する。後者の種類のポリペプチドは、例えば、リンパ系によって低レベルでおよび骨髄腫によって高レベルで産生される。
【0035】
本明細書に使用される、「エピトープ」ということばは、抗体のパラトープが結合する抗原の抗原決定基を意味する。エピトープの決定基は、一般的に、アミノ酸または糖側鎖(sugar side chain)等の分子の化学的に活性のある表面基(surface grouping)から構成され、一般的に、特定の3次元構造特性、さらには特定のチャージ特性を有する。
【0036】
本明細書に使用される、「天然の抗体および免疫グロブリン」ということばは、一般的に、2個の同じ軽(L)鎖および2個の同じ重(H)鎖から構成される、約150,000ダルトンのヘテロ4量体糖タンパク質である。各軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に連結する(「VH/VL対」とも称する)一方、ジスルフィド結合の数は異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で異なる。各重鎖および軽鎖はまた、鎖内ジスルフィド架橋が一定間隔で存在する(has regularly spaced intrachain disulfide bridges)。各重鎖は、一方の末端に可変ドメイン、さらには数多くの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一方の末端に可変ドメイン(VL)および他方の末端に定常ドメインを有する;軽鎖の定常ドメインは重鎖の第1の定常ドメインと並列し(aligned with)、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと並列する。特定のアミノ酸残基が軽鎖及び重鎖の可変ドメインのインターフェースを形成すると考えられる。例えば、Clothia et al., J. Mol. Biol., 186:651 (1985); Novotny and Haber, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 82:4592 (1985)を参照。
【0037】
本明細書に使用される、「可変」ということばは、可変ドメインの特定の部分が抗体の中で配列がかなり異なり、その特定の抗原に関して各特定の抗体の結合および特異性で使用されるという事実を意味する。しかしながら、可変性は抗体の可変ドメインで均一に分布しない。可変性は、軽鎖および重鎖可変ドメイン双方において相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中する。可変ドメインのより高度に保存される部分をフレームワーク(FR)と称する。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、ループの連結を形成し、場合によっては、β-シート構造の部分を形成する、3つのCDRによって連結される、β-シート構造をとる、4つのFR領域を有する。各鎖のCDRは、FR領域によってごく接近して一緒に保持され、他の鎖のCDRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。例えば、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, National Institute of Health, Bethesda, Md. (1991)を参照。定常ドメインは、抗原への抗体の結合に直接関与しないが、抗体に依存する細胞毒性への抗体の参加等の、様々なエフェクター機能を示す。興味のある可変領域配列としては、CD47抗体の提供されるヒト化可変領域配列がある。例えば、1A1は配列番号:1(重鎖)および配列番号:2(軽鎖)を含み、1F8は配列番号:3(重鎖)および配列番号:4(軽鎖)を含み、さらに2A11は配列番号:5(重鎖)および配列番号:6(軽鎖)を含む。
【0038】
抗体をパパイン消化することにより、それぞれが1つの抗原結合部位を有する、「Fab」と呼ばれる、2つの同じ抗原結合断片、およびその名前は容易に結晶化できることを指す、残りの「Fc」断片を生じる。ペプシン処理によって、2つの抗原結合部位(antigen-combining sites)を有し、抗原を架橋することが可能であるF(ab’)2断片が得られる。「Fv」は、完全な抗原-認識及び結合部位を含む最小の抗体断片である。2本鎖Fv種(two-chain Fv species)では、この領域は、緊密な非共有結合した(in tight, non-covalent association)1つの重鎖および1つの軽鎖の可変ドメインのダイマーから構成される。1本鎖Fv種(single-chain Fv species)(scFv)では、1つの重鎖及び1つの軽鎖の可変ドメインが、軽鎖及び重鎖が2鎖Fv種(two-chain Fv species)に類似する「ダイマー」構造で結合できるようにフレキシブルなペプチドリンカー(flexible peptide linker)によって共有結合され得る。各可変ドメインの3つのCDRが相互作用して、VH-VLダイマーの表面で抗原結合部位を規定することがこの構成に含まれる。一括して、上記6個のCDRが抗体に抗原結合特異性を付与する。しかしながら、全結合部位に比して低い親和性ではあるが、1つの可変ドメイン(または抗原に特異的な3つのCDRだけを有する半分のFv)が抗原を認識、結合できる。例えば、Pluckthun, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)を参照。
【0039】
Fab断片はまた、軽鎖の定常ドメインおよび重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)を含む。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域の1以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に数個の残基を付加することによってFab断片とは異なる。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を有するFab’に関する本明細書での呼称である。F(ab’)2抗体断片は、もともとは、間にヒンジシステインを有するFab’対として製造された。抗体断片の他の化学的カップリングもまた知られている。
【0040】
IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMの免疫グロブリンの5つの主要なクラスがあり、これらのうちいくつかはサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2にさらに分類できる。免疫グロブリンの異なるクラスに相当する重鎖定常ドメインは、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および3次元構造はよく知られている。
【0041】
本明細書に使用される、「抗体断片」ということば、およびこのすべての文法上の異綴語(grammatical variants)は、完全な(intact)抗体の抗原結合部位または可変領域を有する完全な抗体の一部として規定され、この際、上記一部は完全な抗体のFc領域の定常重鎖ドメイン(即ち、抗体のアイソタイプによって、CH2、CH3、及びCH4)を含まない。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、及びFv断片;ダイアボディ(diabodies);以下に制限されないが、(1)1本鎖Fv(scFv)分子、(2)1個の軽鎖可変ドメインのみを含む1本鎖ポリペプチド、または会合する重鎖部分を含まない、軽鎖可変ドメインの3つのCDRを含むこの断片、ならびに(3)1個の重鎖可変領域のみを含む1本鎖ポリペプチド、または会合する軽鎖部分を含まない、重鎖可変領域の3つのCDRを含むこの断片などの、隣接アミノ酸残基の1つの連続配列から構成される1次構造を有するポリペプチドである抗体断片(本明細書では、「1本鎖抗体断片」または「1本鎖ポリペプチド」と称する);ならびに抗体断片から形成される多重特異性または多価構造がある。1以上の重鎖を有する抗体断片では、重鎖は、完全な抗体の非Fc領域で見出される定常ドメイン配列(例えば、IgGアイソタイプでのCH1)を含んでいてもよい、および/または完全な抗体で見出されるヒンジ領域配列を含んでいてもよい、および/または重鎖のヒンジ領域配列もしくは定常ドメイン配列中で融合するもしくは中に位置するロイシンジッパー配列(leucine zipper sequence)を含んでいてもよい。
【0042】
特記しない限り、本明細書で使用される「コンジュゲート(conjugate)」ということばは、1以上の抗体断片が1以上のポリマー分子に共有結合することにより形成される異種分子として規定され、この際、異種分子は水溶性であり、即ち、血液などの生理的な液体に可溶であり、さらに、異種分子は構造化された凝集体(structured aggregate)を含まない。興味のあるコンジュゲートは、ポリエチレングリコール(PEG)である。前記規定において、「構造化された凝集体(structured aggregate)」ということばは、(1)異種分子がミセルまたは他のエマルジョン構造を持たず、脂質二重層、小胞もしくはリポソームに固定されないように、球状もしくは球状シェル構造を有する水溶液での分子の凝集体;および(2)水相と接触した際に異種分子を溶液中に放出しない、クロマトグラフィービーズマトリックス等の、固体または不溶化形態の分子の凝集体を意味する。したがって、本明細書で規定される「コンジュゲート(conjugate)」ということばは、沈殿物(precipitate)、堆積物(sediment)、生体内分解性マトリックスまたは固体の水和時に水溶液中に異種分子を放出できる他の固体を包含する。
【0043】
本明細書に使用される、「モノクローナル抗体」(mAb)ということばは、実質的に均質な抗体集団から得られる抗体を意味し、即ち、上記集団を含む個々の抗体が少量で存在してもよい可能性のある天然の変異を除いて同じである。モノクローナル抗体は、かなり特異的であり、単一の抗原部位に対する(directed against)ものである。各mAbは、抗原の単一の決定基に対する(directed against)ものである。特異性に加えて、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養物によって合成でき、他の免疫グロブリンが混入しないという点で好ましい。修飾語句である「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体集団から得られるという抗体の特徴を示すものであり、抗体の製造が特定の方法による必要があるとは解されない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、固定化B細胞もしくはそのハイブリドーマで作製されてもよい、または組換DNA方法によって作製されてもよい。
【0044】
本明細書におけるモノクローナル抗体は、源となる種若しくは免疫グロブリンクラスもしくはサブクラスという称号にかかわらず、CD47抗体の可変(超可変を含む)ドメインを定常ドメインでスプライシングする(例えば、「ヒト化」抗体)、または軽鎖を重鎖でスプライシングする、またはある種の鎖を他の種の鎖でスプライシングする、または異種タンパク質との融合によって製造されるハイブリッド及び組換抗体、さらには所望の生物学的活性を示す限り、抗体断片(例えば、Fab、F(ab’)2、及びFv)を包含する。
【0045】
本明細書におけるモノクローナル抗体は、詳細には、重鎖および/または軽鎖の一部が特定の種由来のまたは特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の相当する配列と同じであるまたは上記配列と相同であるが、上記鎖の残りは他の種由来のまたは他の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の相当する配列と同じであるまたは上記配列と相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、さらには所望の生物学的活性を示す限り、このような抗体の断片を包含する。
【0046】
本明細書に使用される、「単離された」抗体は、自然環境の成分から同定および分離および/または回収されたものである。自然環境の混入成分は、抗体の診断または治療用途を妨げるような材料であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク様または非タンパク様溶質がある。実施形態によっては、抗体は、(1)ローリー法(Lowry method)によって測定される際に75重量%を超える抗体となるように、および最も好ましくは80重量%、90重量%または99重量%を超えるように、または(2)クマシー・ブルー、もしくは好ましくは銀染色を用いた還元もしくは非還元条件下でのSDS-PAGEによって均質であるように、精製されるであろう。抗体の自然環境の少なくとも1成分は存在しないであろうため、単離された抗体は組換細胞内にin situで存在する抗体を包含する。しかしながら、通常、単離された抗体は少なくとも1精製工程によって調製されるであろう。
【0047】
本明細書に使用される、「標識されたエピトープ(epitope tagged)」ということばは、「エピトープタグ(epitope tag)」に融合されたCD47抗体を意味する。上記エピトープタグポリペプチドは、これに対する抗体を作製できるエピトープを提供するのに十分な残基を有するが、CD47抗体の活性を妨げるように十分短い。好ましくは、エピトープタグは、エピトープに特異的な抗体が他のエピトープと実質的に交差反応しないように十分固有である(unique)。適当なタグポリペプチドは、通常、少なくとも6アミノ酸残基を有し、一般的には約8~50アミノ酸残基(好ましくは約9~30残基)を有する。例としては、c-mycタグならびにこれに対する8F9、3C7、6E10、G4、B7及び9E10抗体(例えば、Evan et al., Mol. Cell. Biol., 5(12):3610-3616 (1985)参照);ならびに単純ヘルペスウィルス(Herpes Simplex virus)糖タンパク質(gD)タグ及びその抗体(例えば、Paborsky et al., Protein Engineering, 3(6):547-553 (1990))がある。
【0048】
本明細書に使用される、「ラベル」ということばは、抗体に直接または間接的に結合する検出可能な化合物または組成物を意味する。ラベルは、それ自体検出可能であっても(例えば、放射性同位元素標識若しくは蛍光標識)または、酵素ラベルの場合には、検出可能な基質化合物若しくは組成物の化学的変化を触媒してもよい。
【0049】
本明細書に使用される、「固相」ということばは、本発明の抗体が付着できる非水性マトリックスを意味する。本明細書に包含される固相の例としては、一部がもしくは全部がガラスで形成されるもの(例えば、多孔質ガラス(controlled pore glass))、多糖(例えば、アガロース)、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール及びシリコーンが挙げられる。特定の実施形態では、内容に応じて、固相は、アッセイプレートのウェルを有していてもよい;他の実施形態では、精製カラム(例えば、アフィニティクロマトグラフィーカラム)がある。このことばはまた、ばらばらの粒子の不連続固相を包含する。例えば、米国特許第4,275,149号を参照。
【0050】
本発明はまた、これらのCD47抗体を含む薬剤組成物および上記CD47抗体または薬剤組成物で患者の病気を処置する方法を提供する。
【0051】
本明細書に使用される、「処置(treatment)」または「処置する(treating)」ということばは、病気(癌または線維症等)の治療のための処置および予防のための(prophylactic)または防止のための(preventative)手段双方を意味する。処置の必要なものとしては、すでにその病気にかかっているものおよびその病気を防ごうとするものがある。
【0052】
癌の例としては、以下に制限されないが、卵巣癌、結腸癌、乳癌、肺癌、頭頸部癌、膀胱癌、大腸癌、膵臓癌、非ホジキンリンパ腫、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、黒色腫、平滑筋腫、平滑筋肉腫、神経膠腫、膠芽細胞腫、骨髄腫、単球性白血病、B細胞由来白血病(B-cell derived leukemia)、T細胞由来白血病(T-cell derived leukemia)、B細胞由来リンパ腫、T細胞由来リンパ腫、および固形腫瘍が挙げられる。線維症は、例えば、心筋梗塞、狭心症、変形性関節症、肺線維症、喘息、嚢胞性線維症、気管支炎、または喘息であってもよい。
【0053】
本明細書に使用される、処置を目的とした「患者(subject)」ということばは、哺乳動物として分類される動物を指し、ヒト、イヌ、ウマ、ネコ、ウシ等の、家畜動物、および動物園、競技(sports)、またはペット動物を包含する。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0054】
本発明のCD47抗体はまた、CD47よる病気の治療の経過をモニターするのにインビトロでまたはインビボで使用できる。ゆえに、例えば、CD47を発現する細胞、特にCD47を発現する癌細胞の数の増加または減少を測定することによって、病気を改善することを目的とする特定の治療レジメが有効であるかどうかを決定できる。
【0055】
本発明のCD47抗体は、液相で利用できるまたは固相担体に結合できるイムノアッセイにインビボで使用されてもよい。加えて、これらのイムノアッセイでのCD47抗体は、様々な方法で検出可能なように標識されてもよい。本発明のモノクローナル抗体を利用できるイムノアッセイのタイプの例としては、フローサイトメトリー、例えば、FACS、MACS、免疫組織化学、直性または間接形式での競合及び非競合イムノアッセイがある。本発明のCD47抗体を用いた抗原の検出は、生理学的試料の免疫組織化学アッセイなどの、順形式(forward mode)、逆形式(reverse mode)、または同時形式(simultaneous mode)のいずれかで操作されるイムノアッセイを用いて行うことができる。当業者は、過度の実験をすることなく他のイムノアッセイ形式を知るであろう、または容易に認識できる。
【0056】
本発明のCD47抗体は、多くの様々な担体に結合して、CD47発現細胞の存在を検出するのに使用できる。既知の担体の例としては、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然及び変性セルロース、ポリアクリルアミド、アガロースならびに磁鉄鉱がある。上記担体の性質は、本発明の目的に応じて可溶性または不溶性のいずれであってもよい。当業者は、モノクローナル抗体に結合するための他の適当な担体を知っているであろう、または通常の実験を用いて、上記を確かめることができるであろう。
【0057】
診断方法に使用される、治療方法におけるトレーサーとしての用途が見つかっているなど、当業者が知っている多くの様々な標識や標識方法が存在する。診断を目的として、標識は、本発明の抗体または、CDR配列から構成されるもしくはCDR配列を有する断片などの、この断片に共有結合してもまたは非共有結合してもよい。本発明で使用できる標識のタイプの例としては、酵素、ラジオアイソトープ、蛍光化合物、コロイド金属、化学発光化合物、および生物発光化合物がある。当業者は、本発明のモノクローナル抗体に結合する他の適当な標識を知っているであろう、または通常の実験を用いて、上記を確かめることができるであろう。さらに、これらの標識の本発明のモノクローナル抗体への結合は、当業者に共通の標準的な技術を用いて行うことができる。
【0058】
実施形態によっては、本発明のCD47抗体は、例えば、イメージングに使用される、ナノ粒子に結合する。使用できるナノ粒子としては、当該分野において既知のものがあり、例えば、以下に制限されないが、ラマン-シリカ-金-ナノ粒子(Raman-silica-gold-nanoparticle)(R-Si-Au-NP)がある。上記R-Si-Au-NPは、狭いバンド分光特徴(narrow-band spectral signature)を有する、ラマン有機分子が金コアに吸着することで構成される。ラマン有機分子は変更されてもよいため、各ナノ粒子は自身の特徴を有することができ、これにより複数のナノ粒子がそれぞれ多量化によって同時に検出できる。完全なナノ粒子はシリカシェルに封入されて、ラマン有機分子を金ナノコアに保持する。R-Si-Au-NPの任意のポリエチレングリコール(PE)化(polyethylene glycol (PEG)-ylation)によって、そのバイオアベイラビリティが上がり、標的分子に結合する機能的「ハンドル(handle)」が提供される。例えば、Thakor et al (2011), Sci. Transl. Med., 3(79):79ra33; Jokerst et al. (2011) Small., 7(5):625-33; Gao et al. (2011) Biomaterials, 32(8):2141-8を参照。
【0059】
本発明を目的として、インビボでまたはインビトロで、体液中にまたは組織に存在する際に本発明のCD47抗体によってCD47を検出してもよい。検出可能な量のCD47を含むサンプルであれば、使用できる。サンプルは、尿、唾液、脳脊髄液、血液、血清など液体、または組織、便などの固体もしくは半固体、または組織学的診断に一般的に使用されるもの等の固形組織であってもよい。
【0060】
より高い感度を生じる可能のある他の標識技術としては、抗体を低分子量ハプテンにカップリングさせることからなるものがある。次に、これらのハプテンは、第2の反応によって特異的に検出できる。例えば、アビジンと反応する、ビオチン、または特異的な抗ハプテン抗体と反応できる、ジニトロフェノール、ピリドキサール、もしくはフルオレセインなどのハプテンを使用することが一般的である。
【0061】
便宜上、本発明のCD47は、キット、即ち、診断アッセイを行うための指示書と所定量の試薬とのパッケージされた組み合わせ(packaged combination)中に提供されてもよい。抗体を酵素で標識する際には、キットは、酵素で必要とされる基質および補因子(例えば、検出可能な発色団またはフルオロフォアを提供する基質前駆体)を含むであろう。加えて、安定化剤、バッファー(例えば、ブロックバッファー(block buffer)またはリシスバッファー(lysis buffer))等の、他の添加剤を含んでもよい。様々な試薬の相対量は、アッセイの感度を実質的に最適化する試薬の溶液における濃度となるように広範に変化しえる。特に、試薬は、溶解すると適当な濃度の試薬溶液となる賦形剤などの、一般的には凍結乾燥された、乾燥粉末として提供されてもよい。
【0062】
1以上の本発明の抗体を含む治療製剤は、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、任意の生理学的に許容できる担体、賦形剤または安定化剤と所望の純度を有する抗体を混合することによって貯蔵用に調製される(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)を参照)。抗体組成物は、医療行為によく適合するように処方、投薬(dosed)、および投与されるであろう。この際に考慮される因子としては、処置される特定の疾患、処置される特定の哺乳動物、個々の患者の病態、疾患の原因、薬剤のデリバリー部位、投与方法、投与のスケジュール、および医療従事者が知る他の因子がある。投与される抗体の「治療上有効な量」は、このような考えによって管理されるであろうし、CD47関連病気を防ぐのに必要な最小量である。
【0063】
治療用量は、少なくとも約0.01μg/kg体重、少なくとも約0.05μg/kg体重;少なくとも約0.1μg/kg体重、少なくとも約0.5μg/kg体重、少なくとも約1μg/kg体重、少なくとも約2.5μg/kg体重、少なくとも約5μg/kg体重であり、および約100μg/kg体重以下であろう。このようなガイドラインは、例えば、抗体断片を使用する際、または抗体コンジュゲート(antibody conjugate)を使用する際には、活性剤の分子量に関して調節されることは当業者が理解するであろう。用量はまた、局所投与、例えば、鼻腔内、吸入などで、または全身投与、例えば、腹腔内(I.P.)、静脈内(I.V.)、皮内(I.D.)、筋肉内(I.M.)などによって異なってもよい。
【0064】
本発明のCD47抗体は、活性を促進する、または治療効果を上げる1以上の薬剤と一緒に処方される必要はないが、必要であれば上記のように所望されてもよい。これらは、通常、前記で使用されるのと同様の用量および投与経路または従来使用される用量の約1~99%で使用される。
【0065】
許容できる担体、賦形剤、または安定化剤は使用される用量や濃度でレシピエントにとって無毒であり、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸やメチオニン等の抗酸化剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;塩化ベンザルコニウム;フェノール、ブチルアルコールまたはベンジルアルコール;メチルパラベンまたはプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン等の、タンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリン等の、単糖、二糖、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール等の糖;ナトリウム等の塩形成カウンターイオン;金属複合体(例えば、Zn-タンパク質複合体);および/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤がある。インビボ投与に使用される製剤は、滅菌されている必要がある。これは、滅菌濾過膜による濾過によって容易にできる。
【0066】
CD47抗体を含む活性成分はまた、例えば、コロイドドラッグデリバリーシステム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)においてまたはマクロエマルジョンにおいて、それぞれ、コアセルベーション技術によってまたは界面重合によって、調製されたマイクロカプセル、例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン-マイクロカプセルやポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに封入されて(entrapped)もよい。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に開示される。
【0067】
本発明のCD47抗体または薬剤組成物は、非経口、皮下、腹腔内、肺内、及び鼻腔内等の、適当な手段によって投与されてもよい。非経口注入としては、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、または皮下投与がある。加えて、抗CD47抗体は、特に抗体の用量を減らしながら、パルスインフィージョン(pulse infusion)によって適切に投与される。
【0068】
病気の予防または処置を目的として、抗体の適切な用量は、上記したような、処置される病気のタイプ、病気の重篤度や経過、抗体が予防目的で投与されるか否か、以前の治療、患者の病歴や抗体に対する応答性、ならびに主治医の判断によって異なるであろう。抗体は、1回または一連の処置にわたって患者に適切に投与される。
【0069】
本発明の他の実施形態では、上記疾患の処置に使用できる材料を含む製造社の製品(article of manufacture)が提供される。製造社の製品は、容器およびラベルを有する。適当な容器としては、例えば、ボトル、バイアル瓶、シリンジ、および試験管がある。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料で形成されてもよい。容器は、症状を処置するのに効果的である組成物を収容し、滅菌アクセスポート(sterile access port)を有していてもよい(例えば、容器が、静脈内溶液バッグまたは皮下注射針によって穿刺可能なストッパーを有するバイアル瓶であってもよい)。組成物中の活性剤はCD47抗体である。容器のラベルまたは容器に付着した(associated with)ラベルは、組成物が所定の症状を処置するのに使用することを示す。製造社の製品は、リン酸緩衝食塩水、リンガー溶液及びデキストロース溶液等の製薬上許容できるバッファーを含む第2の容器をさらに有していてもよい。製造社の製品は、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、及び使用のインストラクションの入った添付文書などの、商業上および使用者の観点から望ましい他の材料をさらに有していてもよい。
【実施例】
【0070】
以下の実施例は、本発明のをどのように行い、使用するかの完全な開示、記載を当業者に提供できるように、記載するものであり、発明者が発明とみなす範囲を制限するものではなく、また、以下の実験がすべてであるまたはその実験のみを行ったことを表わすものではない。使用される数値(例えば、量、温度など)に関しては正確をきすために努力がなされたが、実験誤差や偏差は考慮されるべきである。特記しない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度はセ氏温度であり、圧力は大気圧または大気圧付近である。
【0071】
本明細書で挙げられるすべての出版物や特許出願は、各出版物や特許出願が詳細にかつ個々に参考で組み込まれているように参考によって本明細書中に引用される。
【0072】
本発明は、本発明者によって見出されたまたは報告された特定の実施形態の観点から本発明の実施に好ましい形態を含むよう記載される。本開示を照らして、本発明の範囲を逸脱しない限り特定の具体的な実施形態において数多くの修飾や変更ができると、当業者は理解するであろう。例えば、コドンのリダンダシー(codon redundancy)により、タンパク質配列に影響を与えずに基本的なDNA配列に変更を行うことができる。さらに、生物学的に機能が等価であるとの考えにより、種類または量において生物学的作用に影響を与えずにタンパク質の構造に変更を行うことができる。このような修飾はすべて添付の請求の範囲に含まれるものと解される。
【0073】
ファージライブラリーの確立
CD47は、細胞外N末端IgVドメイン、5つの膜貫通ドメイン(transmembrane domain)、および短いC末端細胞内テールを有する50kDaの膜レセプターである。ヒトFcまたはビオチン化ヒトCD47-IgVドメインタンパク質(ACROBiosystems)と結合した(conjugated with)ヒトCD47-IgVドメインタンパク質を、ファージライブラリーパンニング(phage library panning)用の抗原として使用した。
【0074】
50人を超える健常なヒト被験者の脾臓または骨髄から増幅した抗体遺伝子断片から構成されるファージミドベクターを用いて、ファージライブラリーを構築した。抗体フォーマットは、1本鎖可変断片(VH+リンカー+VL)である。ライブラリーサイズは1.1×1010であり、配列多様性を以下のようにして分析した。ライブラリーから選択し、さらに配列を決定した(sequenced)62クローンについて、16配列がトランケーション(truncation)、フレームシフトまたはアンバーコドン(amber codon)を有し;46配列が全HCDR3配列が固有である全長scFvを有する。46の全長scFvにおいて、13配列がラムダ軽鎖を有し、33配列がカッパ軽鎖を有する。
【0075】
ファージパンニングおよびクローン選択
ヒトCD47-IgVドメインに特異的に結合するファージクローンを得るために、2つのファージパンニング方法を使用した。
【0076】
1.ヒトCD47-IgVに対するファージライブラリーイムノチューブ(immunotube)パンニング
本方法において、上記したのと同様にして開発したファージライブラリーを、まず、カゼイン被覆イムノチューブ中で2時間インキュベートした。ヒトCD47-IgV-Fc融合タンパク質を第1のパンニングラウンドで使用した。PBSTで5~20回洗浄することによって、非結合ファージを除去した。結合ファージを新たに調製した100mMトリエチルアミン溶液で溶出させ、Tris-HClバッファーを添加することによって中和して、第1のアウトプットファージプールとした。この第1のアウトプットファージプールを、増幅を目的として大腸菌TG-1(E. Coli TG-1)細胞に感染させることにより回収した(rescue)後、抗原としてビオチン化ヒトCD47-IgVを用いた第2のパンニングラウンドを行った。結合ファージを同様の方法で溶出させ、第2のアウトプットファージプールとし、さらにこれを回収した後、抗原としてヒトCD47-IgV-Fc融合タンパク質を用いた第3のパンニングラウンドを行った。さらに、結合ファージを第3のアウトプットファージプールとし、ビオチン化ヒトCD47-IgVを用いた第4のパンニングラウンドを行った。
【0077】
2.ヒトCD47-IgVに対するファージライブラリー溶液パンニング
本第2の方法において、ファージライブラリーを、まず、カゼインブロック(casein-blocked)100μL ストレプトアビジン-磁気ビーズ(streptavdin-magnetic bead)中でインキュベートして、ストレプトアビジンビーズバインダーを消耗させた。ストレプトアビジン-磁気ビーズ及びAG0084-huIgG1/kをネガティブ消耗(negative depletion)に使用した。消耗したライブラリーを回収した後、抗原としてビオチン化ヒトCD47-IgVを用いた第2のパンニングラウンドを行い、さらに、カゼインブロックストレプトアビジン-磁気ビーズを用いてネガティブ消耗を行った。PBSTで5~20回洗浄することによって、非結合ファージを除去した。結合ファージを新たに調製した100mMトリエチルアミン溶液で溶出させ、Tris-HClバッファーを添加することによって中和した後、回収し、さらにヒトCD47-IgV-Fc融合タンパク質を用いた第3のパンニングラウンドを行い、AG0084-huIgG1/kを用いて消耗させた。さらに、結合ファージを第3のアウトプットファージプールとし、ビオチン化ヒトCD47-IgVを用いた第4のパンニングラウンドおよびカゼインブロックストレプトアビジン-磁気ビーズを用いたネガティブ消耗を行った。
【0078】
このプロセス後、ヒトCD47-IgVドメインに特異的に結合する複数のファージクローンが得られ、これらを濃縮した(enriched)。次に、これを希釈し、播種して、37℃で8時間生育させ、一晩抗カッパ抗体被覆フィルターに捕捉させた(capture)。ビオチン化ヒトCD47-IgV(50nM)及びNeutrAvidin-APコンジュゲート(NeutrAvidin-AP conjugate)(1:1000希釈)をフィルターに塗布して、陽性に結合したファージクローンを検出した。陽性のファージプラークを選択して、100μLのファージ溶出バッファーに溶出させた。約10~15μLの溶出ファージを用いて、1mL XL1ブルー細胞(XL1 blue cells)に感染させて、ファージシングルポイントELISA(Phage single point ELISA)(SPE)のための高力価ファージ(HT)と作製した。フィルターリフトから選択した陽性シングルクローンをヒトCD47-IgV-Fc融合タンパク質およびビオチン化ヒトCD47-IgVドメインタンパク質に結合させた。また、これらの陽性シングルクローンのVHおよびVL遺伝子について配列を決定した。特有のVH及びVL遺伝子を有するすべての陽性ヒットを発現ベクターpFUSE2ss-CLIg-hk(軽鎖、InvivoGen, Cat No. pfuse2ss-hclk)およびpFUSEss-CHIg-hG1(重鎖、InvivoGen, Cat No. pfusess-hchg1)にクローニングした。抗体をHEK293細胞で発現させ、プロテインAプラスアガロース(Protein A Plus Agarose)で精製した。
【0079】
CD47抗体のアフィニティ成熟(Affinity maturation)
本発明のCD47抗体の結合親和性は、インビトロアフィニティ成熟によって、例えば、部位特異的ランダム突然変異(site-specific randomized mutation)によって、向上でき、これにより、本発明の範囲に含まれる変異配列が得られる。
【0080】
例えば、本発明のCD47抗体である1F8のBiaCore分析から、1.04E-031/sの高い解離速度で2.8nMの結合親和性(KD)が示され、これはインビトロアフィニティ成熟によって向上できた。1F8の重鎖及び軽鎖のCDR配列をよく分析することにより、ランダムに変異したHCDR1およびLCDR1領域内の数個の残基が同定された。したがって、ランダム突然変異ライブラリーを構築し、特定の残基に導入することにより、様々な新規な配列が得られる。このCDR突然変異ライブラリーを、平衡条件下で液相でビオチン化可溶性CD47 ECDを用いてパンニングした。低抗原濃度での複数のパンニングラウンド後、濃縮したアウトプットバインダーを結合ELISA試験用に選択した後、全IgGに変換し、これをBiaCore分析にかけて、オフ-レイト改良配列(off-rate improved sequence)用に特異的に選択する。このスクリーニングプロセスにより、本発明の抗体分子が臨床用途に全体的に最良の特性で構築できる。
【0081】
実施例1 組換CD47-ECDタンパク質に結合するファージクローンのELISAによるスクリーニング
組換ヒトCD47-Fc融合タンパク質(Acrobiosystems)を、室温(RT)で2時間、マイクロタイタープレートにリン酸緩衝食塩水(PBS)における2μg/mLで被覆した。抗原を被覆した後、ウェルを、室温(RT)で1時間、1% BSAを含むPBS/0.05% Tween(PBST)でブロックした。ウェルをPBSTで洗浄した後、単一のクローンから精製したファージをウェルに加えて、RTで1時間、インキュベートした。結合ファージクローンを検出するために、M13に対するHRP標識2次抗体(HRP conjugated secondary antibodies)(Jackson Immuno Research)を添加した後、蛍光発生基質(Roche)を添加した。すべてのインキュベーション工程間で、プレートのウェルをPBSTで3回洗浄した。蛍光をTECAN Spectrafluorプレートリーダー(TECAN Spectrafluor plate reader)で測定した。陽性のファージクローンを重鎖及び軽鎖遺伝子の配列決定用に選択した。
【0082】
本発明の試験を行ったCD47抗体はすべて、組換ヒトCD47-Fc融合タンパク質に対して良好な結合活性を示した。
【0083】
実施例2 SIRPαに対するCD47の相互作用を遮断する抗体のELISAによる分析
組換ヒトCD47/マウスFc融合タンパク質またはビオチン化CD47タンパク質(Acrobiosystems)を、RTで2時間、マイクロタイタープレートにPBSにおける1μg/mLで被覆した。抗原を被覆した後、ウェルを、RTで1時間、1% BSAを含むPBS/0.05% Tween(PBST)でブロックした。ウェルをPBSTで洗浄した後、PBSで希釈した抗体をウェルに加え(5μg/mL)、RTで1時間、インキュベートした。結合抗体を検出するために、ヒトFcに対するHRP標識2次抗体(HRP conjugated secondary antibodies)(Jackson Immuno Research)を添加した後、蛍光発生基質(Roche)を添加した。すべてのインキュベーション工程間で、プレートのウェルをPBSTで3回洗浄した。蛍光をTECAN Spectrafluorプレートリーダー(TECAN Spectrafluor plate reader)で測定した。
【0084】
本発明の試験を行ったCD47抗体はすべて、組換ヒトCD47-Fc融合タンパク質及びビオチン化CD47タンパク質に対して良好な結合活性を示した。
【0085】
実施例3 SIRPαに対するCD47の相互作用を遮断する抗体のELISAによる分析
組換ヒトCD47-Fc融合タンパク質(Acrobiosystems)を、4℃で16時間、マイクロタイタープレートにPBSにおける1μg/mLで被覆した。RTで1時間、PBSTにおける1% BSAでブロックした後、1μg/mLのSIRPα-Hisタンパク質を、RTで1時間、CD47抗体(10μg/mL)の不存在下でまたは存在下で添加した。次に、プレートを3回洗浄し、RTで1時間、HRP標識抗His2次抗体(HRP-conjugated anti-His secondary antibody)と共にインキュベートした。洗浄後、TMB溶液を30分間各ウェルに加え、反応を2.0M H2SO4で停止し、ODを490nmで測定した。
【0086】
本発明の試験を行ったCD47抗体はすべて、CD47タンパク質-SIRPα結合を効果的に遮断した。
【0087】
実施例4 単量体CD47-ECDに結合するCD47抗体の用量依存反応
直接結合および競合スクリーニング後、本発明のCD47抗体である1F8を、2つの既存の参照抗体と比較して、本試験に選んだ。ビオチン化CD47タンパク質(Acrobiosystems)を、RTで2時間、マイクロタイタープレートにPBSにおける1μg/mLで被覆した。抗原を被覆した後、ウェルを、RTで1時間、1% BSAを含むPBS/0.05% Tween(PBST)でブロックした。ウェルをPBSTで洗浄した後、異なる濃度のCD47抗体をウェルに添加して、RTで1時間、インキュベートした。結合抗体を検出するために、ヒトFcに対するHRP標識2次抗体(HRP conjugated secondary antibodies)(Jackson Immuno Research)を添加した後、蛍光発生基質(Roche)を添加した。すべてのインキュベーション工程間で、プレートのウェルをPBSTで3回洗浄した。蛍光をTECAN Spectrafluorプレートリーダー(TECAN Spectrafluor plate reader)で測定した。
【0088】
参照抗体である5F9及び2A1を、Stanford University、Inhibrx LLC、およびCelgene Corp.の研究者によって開示される(例えば、US Pat. No. 9,017,675 B2、US Pat. No. 9,382,320、US Pat. No. 9,221,908、米国特許出願公開第No. 2014/0140989号及びWO 2016/109415を参照)のと同様にして、Hu5F9およびCC-90002の配列に従って製造し、同じ研究に使用した。
【0089】
図1に示されるように、すべての3種の抗体(1F8、5F9、及び2A1)は、単量体CD47-ECDに対して同様の結合活性を示した。
【0090】
実施例5 二量体CD47-ECDに結合するCD47抗体の用量依存反応
実施例4で使用した3種のCD47抗体(即ち、1F8、5F9、及び2A1)を本研究でも使用した。
【0091】
CD47/マウスFc融合タンパク質(Acrobiosystems)を、RTで2時間、マイクロタイタープレートにPBSにおける1μg/mLで被覆した。抗原を被覆した後、ウェルを、RTで1時間、1% BSAを含むPBS/0.05% Tween(PBST)でブロックした。ウェルをPBSTで洗浄した後、異なる濃度の抗CD47抗体をウェルに添加して、RTで1時間、インキュベートした。結合抗体を検出するために、ヒトFcに対するHRP標識2次抗体(Jackson Immuno Research)を添加した後、蛍光発生基質(Roche)を添加した。すべてのインキュベーション工程間で、プレートのウェルをPBSTで3回洗浄した。蛍光をTECAN Spectrafluorプレートリーダーで測定した。
【0092】
同様に、
図2aに示されるように、3種の試験した抗体である1F8、5F9、及び2A1において、これらはすべて、二量体CD47-ECDに対して同様の結合活性を示した。
【0093】
他の結合研究を行い、本発明の2種の抗体、即ち、1F8及び13H3の組換CD49-ECDへの結合親和性を比較した。
図2bに示されるように、これらの2種の抗体もまた、容量に依存して同様の結合活性を示し、この際、EC
50は、1F8では0.038nMであり、13H3では0.045nMであった。
【0094】
実施例6 CD47のSIRPαへの結合を遮断するCD47抗体の用量依存反応
3種のCD47抗体(即ち、1F8、5F9、及び2A1)を本研究でも使用した。
【0095】
組換CD47-Fc融合タンパク質(Acrobiosystems)を、4℃で16時間、マイクロタイタープレートにPBSにおける1μg/mLで被覆した。RTで1時間、PBSTにおける1% BSAでブロックした後、1μg/mLのSIRPα-Hisタンパク質を、RTで1時間、異なる濃度の抗CD47抗体の不存在下でまたは存在下で添加した。次に、プレートを3回洗浄し、RTで1時間、HRP標識抗His2次抗体と共にインキュベートした。洗浄後、TMB溶液を30分間各ウェルに加え、反応を2M H2SO4で停止し、ODを490nmで測定した。
【0096】
再度、
図3aに示されるように、3種の抗体はすべて、CD47のSIRPαへの結合の遮断において同様の活性を示した。
【0097】
他の結合研究を行い、本発明の2種のCD47抗体である1F8及び13H3のCD47のSIRPαへの結合の遮断能を比較した。
図3b及び
図3cに示されるように、これらの2種の抗体もまた、容量に依存して同様の遮断活性を示し、この際、IC
50は、1F8では0.78nMであり、13H3では0.20nMであった。
【0098】
実施例7 CD47+ Raji細胞に結合するCD47抗体の用量依存反応
3種のCD47抗体(即ち、1F8、5F9、及び2A1)を本研究にも使用した。
【0099】
表面でヒトCD47を内生的に発現するRaji細胞を、4℃で30分間、異なる濃度の1F8、5F9及び2A1抗体で染色した。次に、細胞をPBSで3回洗浄した後、4℃で30分間、APC標識抗ヒトFc特異抗体(APC-labeled anti-human Fc specific antibody)(Invitrogen)と共にインキュベートした。結合をFACSCanto(Becton-Dickinson)を用いて測定した。
【0100】
図4aに示されるように、3種の抗体すべてがCD47
+ Raji細胞への結合において同様の活性を示し、さらに同様の用量依存パターンを示した。
【0101】
別の研究を行い、本発明の2種の抗体である1F8および13H3のCD47保有Raji細胞への結合能を比較した。
図4bに示されるように、13H3は、CD47保有Raji細胞への結合において1F8より強い親和性を発揮し、この際、EC
50は、1F8で2.95nMであり、13H3で1.06nMであった。
【0102】
図4c及び
図4dは、それぞれ、Biocore分析によって測定される、1F8および13H3の結合キネティクスを示す;さらに
図4eは、前記データを示す。
【0103】
実施例8 ヒトマクロファージ(MΦ)による腫瘍細胞の食作用の研究
3種のCD47抗体(即ち、1F8、5F9、及び2A1)を本研究でも使用した。
【0104】
PBMCをヒト血液から単離し、単球を6日間マクロファージに分化させた。この単球由来マクロファージ(MDM)をかき集め、24ウェルディッシュに再播種し、24時間接着させた。CD47を内生的に発現するヒト腫瘍細胞系Rajiを標的細胞として選択し、10分間、1μM CFSEで標識した後、5:1の腫瘍細胞:食細胞の割合でMDMに添加し、CD47抗体を様々な用量で添加した。3時間インキュベートした後、取り込まれなかった標的細胞をPBSで洗浄除去し、残った食細胞をかき集め、マクロファージマーカーCD14抗体で染色し、フローサイトメトリーで分析した。CD14+細胞へのゲーティング(gating)によって食作用を測定した後、CFSE+細胞の割合(%)を評価した。
【0105】
図5aに示されるように、これらの3種の試験抗体はすべて(即ち、1F8、5F9、及び2A1)は、ヒトMΦによる腫瘍細胞の食作用の促進において同様の活性を示した。
図6a、
図6b、および6cは、3種のCD47抗体によって引き起こされる(triggered)、3種の異なるヒト血液癌細胞系のマクロファージが介する食作用(macrophage-mediated phagocytosis)を示す。
【0106】
他の結合研究を行い、本発明の2種のCD47抗体である1F8及び13H3のヒトMΦによる腫瘍細胞の食作用の促進能を比較した。
図5bに示されるように、13H3および1F8は、同様の能力を示し、この際、13H3が濃度によっては若干より強い食作用を示した。
【0107】
実施例9 RBC凝集アッセイにおけるRBC-不足特性(RBC-sparing property)
ヒトRBCをPBSに10%になるように希釈し、底の丸い96ウェルプレートである力価のCD47抗体と共に(with a titration of CD47 antibodies)37℃で2時間、インキュベートした。赤血球凝集の兆候が、赤血球凝集しないRBCの点状赤色ドットと比較したヘーズとして現れる、沈降しないRBC(non-settled RBC)の存在によって示される(
図7aおよび
図8a参照)。
図7b及び
図8bのグラフは、IgGコントロールのものに対して正規化された、抗体の存在下でのRBCペレットの領域を定量化することによって測定される「凝集係数(agglutination index)」で表わされる、赤血球凝集アッセイの定量化結果を示す。
【0108】
図7a、
図7b、
図8a、および
図8bに示されるように、CD47抗体である5F9では0.1μg/μL以上の濃度ですでに有意なRBC凝集が示されたものの、CD47抗体である1F8および2A1では30μg/μL以下(
図7a及び
図7b)または150μg/mL以下(
図8a及び
図8b)での試験濃度でRBC凝集が実質的に生じなかった。
【0109】
同様にして、
図8c及び
図8dから、本発明のCD47抗体(即ち、1F8及び13H3)では150μg/mL以下の試験濃度でRBC凝集が実質的に生じないことが示されたが、CD47抗体である5F9では0.1μg/μL以上の濃度ですでに有意なRBC凝集が示された。
【0110】
実施例10 RBC結合アッセイ
ヒトRBCに対するCD47抗体の結合をフローサイトメトリーによって試験した。ヒトRBCをCD47抗体(10μg/mL)と共に4℃で1時間インキュベートした後、APC標識2次抗体を4℃で30分間添加した。
【0111】
図9a及び
図9bに示されるように、驚くべきことに、本発明のCD47抗体である1F8は試験濃度ではRBCに結合しなかったが、参考CD47抗体である5F9及び2A1は試験濃度でRBCに結合した。
【0112】
同様にして、
図9c及び
図9dから、1F8は試験濃度ではRBC結合が生じなかったが、13H3のみが試験濃度で非常に低いRBC結合を生じたことが示される。
【0113】
実施例11 RBC凝集アッセイ
CD47抗体の添加によるRBC凝集を分析するために、6人の男性及び6人の女性個体からRBCを集めた。
図10a及び
図10bは、IgGコントロールまたは参考抗体のものに対して正規化された、抗体の存在下でのRBCペレットの領域を測定することによって測定される「凝集係数(agglutination index)」で表わされる、赤血球凝集アッセイの滴定結果を示す。
【0114】
実施例12 血小板結合アッセイ
ヒト血小板に対する本発明のCD47抗体の結合をフローサイトメトリーによって試験した。ヒト末梢全血を本発明の試験CD47抗体(10μg/mLで)またはSIRPα-Ig融合タンパク質と共にインキュベートし、CD61を血小板に対する表面マーカーとして染色した。CD61陽性集団(血小板)でゲーティングし(gating)、さらにCD47またはSIRPα-Ig融合タンパク質の結合の割合(%)を試験することによって、CD47抗体またはSIRPα-Ig融合タンパク質の結合を測定した。
【0115】
図11に示されるように、本発明の試験CD47抗体はヒト血小板に感知できるほどには結合しなかったが、SIRPαタンパク質は結合した。
【0116】
実施例13 カニクイザル(cyno)RBC凝集アッセイ
オス及びメスのカニクイザル(cyno monkey)のRBCをPBSに10%になるように希釈し、底の丸い96ウェルプレートで所定の濃度のCD47抗体と共に37℃で2時間、インキュベートした。
図12aに示されるように、赤血球凝集の兆候が、赤血球凝集しないRBCの点状赤色ドットと比較したヘーズとして現れる、沈降しないRBC(non-settled RBC)の存在によって示された。
図12bは、IgGコントロールのものに対して正規化された、抗体の存在下でのRBCペレットの領域を測定することによって決定される「凝集係数(agglutination index)」で表わされる、赤血球凝集アッセイの滴定結果を示す。
【0117】
データから、本発明の試験CD47抗体はインビトロでカニクイザルのRBC凝集を感知できるほどには誘導しなかったことが示される。
【0118】
実施例14 CD47抗体による初期ヒトAML細胞の食作用
AML患者(AML-PB003F)の初期PBMC(Primary PBMC)を1μM CFSEで10分間標識した後、5:1の腫瘍細胞:食細胞の割合でMDMに添加し、所定のCD47抗体を様々な濃度で添加した。3時間インキュベート後、取り込まれない(non-phagocytosed)標的細胞をPBSで洗い流し、残った食細胞をかきおとし、CD47抗体で染色し、フローサイトメトリーによって分析した。食作用は、CD14+細胞でゲーティングし(gating)、さらにCFSE+細胞の割合(%)を評価することによって測定した。食作用を前記と同様にして測定した。
【0119】
図13a~13hに示されるように、すべてが同様のアッセイで使用した参考CD47抗体よりかなり高く、本発明の試験CD47抗体はすべて有意なAML結合能(75%を超える)および食作用能(phagocytosis capabilities)(少なくとも36%)を示した。
【0120】
実施例15 ルシフェラーゼ-Raji異種移植モデル(CDX)を用いた1F8のインビボ有効性
NSGマウスに、尾静脈注射により100万細胞/マウスの濃度でRaji Luc-EGFPを移植した。マウスをインビボで撮像し、移植してから5日目に移植レベルを測定した。CD47抗体(即ち、1F8、5F9、及び2A1)の処置を、10mg/kgの用量で同日に開始した。すべてのマウスに腹腔内注射により1日おきに注射した。マウスを、IVIS Lumina IIIイメージングシステム(IVIS Lumina III imaging system)により以下の時点でインビボで撮像した:抗体処置の0日目、処置後2日目、処置後6日目、及び処置後9日目。インビボライブイメージングシステム(in vivo live imaging system)により生物発光輝度(bioluminescent radiance)を分析することによって、マウスの腫瘍成長を測定した。
【0121】
図14aに示されるように、生物発光輝度の分析から、本発明の試験CD47抗体(即ち、1F8)で処置してからはじめの3日以内はマウスの腫瘍はほとんど成長せず、処置してから6日目から腫瘍は減少したことが示される。比較により、参考CD47抗体で処置されたマウスの腫瘍は同様の処置期間中成長し続けた。
【0122】
同様にして、
図14bから、CD47抗体である13H3もまた、異なる試験濃度でRaji異種移植モデルでインビボで有効であったことが示される。
【0123】
Raji-異種移植研究の最後に、すべてのマウスを齧歯動物の安楽死(rodent euthanasia)を目的としてCO2を使用することによって安楽死させた。4群のマウスの脾細胞を単離し、フローサイトメトリー分析によってM1マクロファージの割合(%)(F4/80陽性マクロファージにおけるCD80陽性割合(%))およびM2マクロファージの割合(%)(F4/80陽性マクロファージにおけるCD206陽性割合(%))を分析した。
【0124】
図15a~15bに示されるように、すべての試験CD47抗体(1F8を含む)は、腫瘍を有するマウスのマクロファージの極性化を誘導できた。
【0125】
実施例16 様々なヒト癌タイプのPDXサンプルを用いたCD47発現プロフィール
54個のPDXサンプル(7種のヒト癌タイプ)を、免疫-組織学染色によってCD47の発現について分析した。様々なPDXサンプルにおけるCD47染色のレベルを形状(geometry)および染色強度によって採点した(score)。
図16a、
図16bおよび
図16cから、CD47抗体による処置後に様々な発現レベルのCD47が示される。
【0126】
実施例17 安全製剤研究(インビボでのカニクイザル(cyno)PK研究)
投薬を受けていない(Naive)カニクイザル(cyno monkey)の静脈内にベヒクル(n=2)、1F8(n=3、15mg/kg)および5F9(n=3、15mg/kg)を注入した。血液採取してから24時間以内に、注射前に2回ならびに抗体投与してから3、6、10、14及び21日目に、血液学(CBC)を分析した。赤血球数(Erythrocyte count)(RBC)、ヘモグロビン(HGB)、絶対網状赤血球数(Absolute Reticulocytes Counts)及び血小板数を含むCBCパラメーターを試験した。結果を
図17a~17dに示すが、これから、1F8処置はカニクイザルの血液パラメーターに影響を及ぼさなかったことが示される。
【0127】
同様にして、投薬を受けていないカニクイザル(n=2)の静脈内に、20mg/kgの用量でCD47抗体である13H3を注射した。様々な時点で、抗凝固剤を用いずに血液を静脈穿刺によってチューブに集めた。コーティング試薬としてCD47タンパク質を用いたELISAによってCD47抗体である13H3の血清レベルを測定した後、HRP標識抗ヒトカッパ2次抗体(HRP-conjugated anti-human Kappa secondary antibody)を用いて検出した。カニクイザルの薬物動態パラメーターをWinolinによって分析し、
図17e及び下記表に示す。
【0128】
【0129】
カニクイザルにおける抗体13H3の安全製剤研究(血液学)
投薬を受けていない(Naive)カニクイザル(cyno monkey)の静脈内に抗体13H3(20mg/kg)を単回投与および繰り返し投与(毎週投与)で注入した。抗体投与してから所定の時期に、赤血球数(Erythrocyte count)(RBC)、ヘモグロビン(HGB)、血小板数及びリンパ球数を含む血液学(CBC)パラメーターを試験した。
【0130】
【0131】
実施例18 抗体1F8の構造
CD47抗体のエピトープビニングを、競合ELISAによって評価した。CD47 ECDタンパク質及び第1抗CD47抗体を予めインキュベートして、ストレプトアビジン-HRP抗体によって検出されるビオチン化第2抗CD47抗体に添加した。第1抗CD47抗体が第2抗体へのCD47 ECDの結合に対して競合した場合には、双方の抗体を同じまたは重複するエピトープビン(epitope bins)に入れた。競合しない場合には、非重複エピトープビン(non-overlapping epitope bin)に入れた。
図18a及び
図18bに示される結果から、本発明のCD47抗体である1F8は参考抗体5F9及び2A1とは異なるエピトープを有することが示される。
【0132】
図18cは、文献(例えば、J. Clin. Investigation, 126, 7: 2610-2620参照)で報告されるヒトCD47-ECD(緑色)とのコンプレックスにおける参考Ab 5F9(上部)の結晶構造を示す。
【0133】
図18dは、ヒトCD47-ECD(緑色)とのコンプレックスにおける1F8-Fab(上部)の結晶構造を示す。傾斜したヘッドツゥヘッド配向(tilted head to head orientation)を提示するCD47-SIRPα及びCD47-5F9ダイアボディ(diabody)のコンプレックス構造とは異なり、CD47-1F8 Fabのコンプレックス構造はよりまっすぐのヘッドツゥヘッド配向(straighter head to head orientation)をとる。残基L3、V25、T26、N27、M28、E29、A30、Q31、T34、E35、Y37、A53、L54、L74、K75、G76、T99、E100、L101、T102及びR103を含み、このうちL3、N27、E29、Q31、T34、E35、Y37、A53、T99、E100、L101、T102及びR103はSIRPαとの相互作用にかかわりのあるCD47の1F8エピトープは、不連続でかつ広範囲であり、1F8のアンタゴニスト特性を説明する。また、このコンプレックス構造から、1F8のVHドメインがCD47への8個の水素結合及び4個の塩架橋(salt bridge)を形成し、1F8のVLドメインがCD47への8個の水素結合を形成することが明らかである。
【0134】
公開されているCD47-IgV/抗体またはSIRPαコンプレックス構造とは異なり、すべてが同様のヘッドツゥヘッド配向(head-to-head orientation)で結合しているものの、1F8抗体はほとんどが標的の異なるエピトープに結合する。CD47の1F8エピトープは、立体配座的に不連続であり、CD47のTNMEAQループ(残基26~31)、T34、E35、L74、およびLTRヒンジ(残基101~103)を有する。多くの水素結合相互作用が抗体残基の側鎖とCD47の主鎖の酸素原子との間に形成される。また、塩架橋は、1F8のR103とCD47のE35との間に形成される。また、適切な配向を保持するのに重要であるいくつかのファン・デル・ワールス接触(Van der Waals contacts)が観察される。抗体1F8のVHドメインがCD47のT34、E35およびLTR ヒンジ(残基101~103)への結合に主に関与する一方、VKドメインがTNMEAQループ(残基26~31)及びL74と相互作用する。CD47のこれらのエピトープは、5F9抗体及びSIRPαのものとは異なる。構造分析から、1F8抗体の2つの長いループ(残基26~38および52~59)がほとんど垂直な配向でCD47に結合するのを助け、これにより付近の細胞のCD47が抗体によって架橋されないように抗体を分離し、これによりほとんどの血液細胞の血球凝集を防止することが示唆される。
【0135】
図18eは、5F9及び1F8とCD47との相互作用の比較を示す。
【0136】
1F8/CD47のコンプレックス構造への参考抗体5F9/CD47コンプレックス構造の重ね合わせから、CD47の結合配向がこれらの2つのコンプレックスで非常に異なることが明らかである。双方の抗体は共にhead-to-head結合配向を有するものの、CD47は約180°水平に回転する。1F8/CD47コンプレックスの構造は軽鎖ループ残基61~64付近にCD47 N-末端ピログルタメートを有するが、5F9はW52、N32及びW101の3つの重鎖ループの中にCD47 N末端を有する。抗体1F8では、重鎖残基Trp33及びArg103が、ファン・デル・ワールス接触およびそれぞれ、CD47のLeu101及びGlu35との塩架橋を形成する。同じ位置で、抗体5F9の残基Tyr101はファン・デル・ワールス接触を介してCD47のN-末端方向に向き、Arg102はCD47のGlu104と水素結合を形成する。抗体1F8のループ残基Asn31、Trp33、ならびにヒンジ残基Arg53及びAsp56は、ドメイン間水素結合ネットワークを形成し、さらにAsn31及びArg53はCD47のLeu101及びThr34の主鎖と水素結合を形成する。同じ界面で、5F9は、残基Tyr52がCD47のLeu3とのファン・デル・ワールス接触を形成する以外は、相互作用を形成しないように見える。ヒンジ(残基52~56)は1F8(残基52~59)より3残基短い。軽鎖では、Fab 1F8及び5F9は双方とも、ループ(1F8ではV29-Y38および5F9ではV152-Y158)のCD47とのいくつかの重要な水素結合相互作用を有する。1F8の残基Y97及びY98はループ(残基26~38)を押しのけ(“push” away)、後者は1F8とCD47との間に、即ち、1F8のArg34とCD47のLeu74の主鎖との間に、および1F8のArg36とCD47のThr26の主鎖との間に、2個の水素結合を形成する。しかしながら、5F9の残基Gly218及びSer219(1F8のTyr97及びTyr98に相当する)により、5F9のループ(残基149~158)がCD47と3つの水素結合(Asn157-Lys39、Tyr159-Glu104及びLys177-Thr99で)を形成する。また、重鎖も同様にして、5F9のループ(残基149~158)が1F8(残基26~38)より3残基短い。1F8のこれらの関連するより長いループは、CD47の結合配向に主として寄与する。
【0137】
実施例19 CD47抗体34C5
抗ヒトCD47抗体を得るために、BALB/C、C57/BL6またはSJLマウスを含む6~8週齢の異なる種を組換ヒトCD47細胞外ドメインタンパク質で数ラウンド免疫処置した。免疫処置後、十分な力価の抗CD47 IgGを有するマウスを、同じ抗原で追加免疫した後、融合した(fusion)。ハイブリドーマ上清について、ELISAスクリーニングによってヒトCD47 ECDタンパク質との直接結合およびCD47へのSIRPα結合の競合を試験した。一連のスクリーニングアッセイにより、34C5が上記したアッセイに従うヒト化およびさらにインビトロでの特性化(characterization)用に選択された。
【0138】
図20及び
図21から、それぞれ、組換CD47-ECD(EC
50が0.27nM)へのおよびCD47を有するRaji細胞(EC
50が0.83nM)への34C5の強力な結合親和性が示される。
【0139】
図22から、34C5が、EC
50が0.30nMであり、SIRPαへのCD47の結合を効果的に遮断できたことが示される。
【0140】
図23から、抗体34C5がヒトMΦによる腫瘍細胞の食作用を促進したことが示される。
【0141】
図24から、抗体34C5がインビトロでのRBC凝集を引き起こさなかったことが示される。
【0142】
図25から、抗体34C5がこの抗体濃度の減少に従ってRBCへの結合を減少させることが示される。
【配列表】