(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】金属材料の防錆処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 22/34 20060101AFI20220322BHJP
【FI】
C23C22/34
(21)【出願番号】P 2019513237
(86)(22)【出願日】2018-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2018004949
(87)【国際公開番号】W WO2018193696
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2019-04-15
【審判番号】
【審判請求日】2020-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2017082110
(32)【優先日】2017-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永峯 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】北 晃治
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】太田 一平
【審判官】井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-522889(JP,A)
【文献】特開2016-030777(JP,A)
【文献】国際公開第2013/133434(WO,A1)
【文献】特開2006-225761(JP,A)
【文献】国際公開第2010/032702(WO,A1)
【文献】特開2015-134942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C22/34
B05D3/10
B05D7/14
C09D183/04
C23C22/83
C23C28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(工程2)下記工程2a及び2bを含む工程;
(工程2a)ジルコニウム化合物及び両性界面活性剤を含有し
、ジルコニウム化合物の濃度が1.5~50g/Lであり、両性界面活性剤の濃度が0.1~10g/Lであり、且つpHが4.0~6.0である化成処理液Bで、金属材料を処理する工程、及び
(工程2b)工程2aで得られた化成処理済金属材料をシリカ質皮膜形成用処理液で処理する工程、
を含む、金属材料の処理方法。
【請求項2】
前記両性界面活性剤がベタイン型両性界面活性剤である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記シリカ質皮膜形成用処理液がアルコキシシランオリゴマーを含有する処理液である、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記シリカ質皮膜形成用処理液がさらにシリカ超微粒子を含有する、請求項3に記載の処理方法。
【請求項5】
前記シリカ超微粒子がコロイダルシリカである、請求項4に記載の処理方法。
【請求項6】
金属材料の防錆処理方法である、請求項1~5のいずれかに記載の処理方法。
【請求項7】
(工程2)下記工程2a及び2bを含む工程;
(工程2a)ジルコニウム化合物及び両性界面活性剤を含有し
、ジルコニウム化合物の濃度が1.5~50g/Lであり、両性界面活性剤の濃度が0.1~10g/Lであり、且つpHが4.0~6.0である化成処理液Bで、金属材料を処理する工程、及び
(工程2b)工程2aで得られた化成処理済金属材料をシリカ質皮膜形成用処理液で処理する工程、
を含む、防錆皮膜含有金属材料を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、コバルト、ニッケル、鉄、銅、錫、金、これらの合金などの各種の金属材料の防錆処理や変色防止方法として、これまでクロム酸の水溶液を用いた化成処理が施されてきた。しかしながら、6価クロム化合物であるクロム酸は、その有害性により特定化学物質に指定され、現在では、使用が規制されている。
【0003】
近年、クロム酸による化成処理の代替処理として、3価クロムを含む化合物による化成処理が盛んに開発されている。例えば、特許文献1においては、3価クロムによる化成処理後にシリカ質皮膜を形成することによる、防錆処理方法が開示されている。
【0004】
ただ、近年、金属材料に対する防錆性能の要求はますます高くなっており、この要求を満たす防錆技術の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、金属材料の防錆性能をより高めることができる、金属材料の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、金属材料を、ジルコニウム化合物及び両性界面活性剤を含有する処理液による化成処理することにより、或いはジルコニウム化合物を含有する処理液による化成処理後にシリカ質皮膜形成処理することにより、クロムを使用せずとも、金属材料の防錆性能をより高めることができることを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、一態様として下記の態様を包含する。
【0009】
項1. 下記工程1又は2:
(工程1)金属材料をジルコニウム化合物及び両性界面活性剤を含有する化成処理液Aで処理する工程、又は
(工程2)下記工程2a及び2bを含む工程;
(工程2a)金属材料をジルコニウム化合物を含有する化成処理液Bで処理する工程、及び
(工程2b)工程2aで得られた化成処理済金属材料をシリカ質皮膜形成用処理液で処理する工程、
を含む、金属材料の処理方法。
【0010】
項2. 前記両性界面活性剤がベタイン型両性界面活性剤である、項1に記載の処理方法。
【0011】
項3. 前記シリカ質皮膜形成用処理液がアルコキシシランオリゴマーを含有する処理液である、項1又は2に記載の処理方法。
【0012】
項4. 前記シリカ質皮膜形成用処理液がさらにシリカ超微粒子を含有する、項3に記載の処理方法。
【0013】
項5. 前記シリカ超微粒子がコロイダルシリカである、項4に記載の処理方法。
【0014】
項6. 金属材料の防錆処理方法である、項1~5のいずれかに記載の処理方法。
【0015】
項7. ジルコニウム化合物及び両性界面活性剤を含有する、金属材料の化成処理液。
【0016】
項8. アルコキシシランオリゴマーを含有する、金属材料上のジルコニウム含有化成処理皮膜に対するシリカ質皮膜形成用処理液。
【0017】
項9. 金属材料、並びに前記金属材料表面上の防錆皮膜を含み、且つ
前記防錆皮膜が、下記皮膜1又は2:
(皮膜1)ジルコニウム及び両性界面活性剤を含有する化成処理皮膜1、又は
(皮膜2)下記皮膜2a及び2bからなる皮膜2;
(皮膜2a)ジルコニウムを含有する化成処理皮膜2a、及び
(皮膜2b)前記化成処理皮膜2a上のシリカ質皮膜2b、
からなる、防錆皮膜含有金属材料。
【0018】
項10. 下記工程1又は2:
(工程1)金属材料をジルコニウム化合物及び両性界面活性剤を含有する化成処理液Aで処理する工程、又は
(工程2)下記工程2a及び2bを含む工程;
(工程2a)金属材料をジルコニウム化合物を含有する化成処理液Bで処理する工程、及び
(工程2b)工程2aで得られた化成処理済金属材料をシリカ質皮膜形成用処理液で処理する工程、
を含む、防錆皮膜含有金属材料を製造する方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、金属材料の防錆性能をより高めることができ、且つクロムの使用量がより少ない(好ましくはクロムを使用しない)、金属材料の処理方法を提供することができる。また、本発明によれば、該方法に用いる処理液、及び該処理方法により得られ得る防錆皮膜含有金属材料を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0021】
本発明は、その一態様において、下記工程1又は2:(工程1)金属材料をジルコニウム化合物及び両性界面活性剤を含有する化成処理液Aで処理する工程、又は(工程2)下記工程2a及び2bを含む工程; (工程2a)金属材料をジルコニウム化合物を含有する化成処理液Bで処理する工程、及び (工程2b)工程2aで得られた化成処理済金属材料をシリカ質皮膜形成用処理液で処理する工程、を含む、金属材料の処理方法(本明細書において、「本発明の処理方法」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0022】
1.化成処理工程(工程1又は2a)
1-1.金属材料
化成処理工程の処理対象物は金属材料である。金属材料は、その少なくとも一部の表面が金属で構成されている材料である限り特に制限されない。金属としては、例えば、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、コバルト、ニッケル、鉄、銅、錫、金、これらの合金などの各種の金属が挙げられ、好ましくは亜鉛が挙げられる。金属材料として、より具体的には、金属のみからなる物品、金属以外のその他の物品(例えば、セラミックス材料、プラスチックス材料等)と金属とが組み合わされた複合品、表面に金属めっき皮膜を有するめっき処理品(例えば、表面に亜鉛めっき皮膜又は亜鉛合金めっき皮膜を有する鋼のめっき処理品)等が挙げられる。また、金属材料の表面を構成している金属は、未処理の金属であってもよく、脱脂処理や酸活性処理等の前処理が施された金属であってもよい。
【0023】
1-2.化成処理液
化成処理液は、ジルコニウム化合物を含有する。ジルコニウム化合物は、溶媒に溶解してジルコニウムイオンを供給可能な化合物である限り特に制限されない。ジルコニウム化合物の具体例としては、フッ化ジルコニウムアンモニウム(III)、フッ化ジルコニウムナトリウム(III)、フッ化ジルコニウムカリウム(III)等のジルコニウムフッ化物; 塩化ジルコニウム(III)、塩化ジルコニウム(IV)等のジルコニウム塩化物; 酸化ジルコニウム(IV); タングステン酸ジルコニウム(IV)等が挙げられる。ジルコニウム化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0024】
化成処理液におけるジルコニウム化合物の濃度は、特に制限されない。該濃度は、金属材料表面により均一な化成皮膜を形成して、防錆効果をより高めるという観点からは、0.1g/L以上であることが好ましい。また、該濃度は、コストをより低減するという観点からは、50g/L以下であることが好ましい。該濃度は、好ましくは0.1~50g/L程度であり、より好ましくは0.5~35g/L程度であり、さらに好ましくは1.0~25g/L程度であり、よりさらに好ましくは1.5~15g/L程度であり、特に好ましくは2.0~10g/L程度である。
【0025】
化成処理液は、化成処理皮膜をより強固なものとすることができ、防錆効果を一層向上させることができるという観点から、更に、両性界面活性剤を含有することが好ましい。
【0026】
両性界面活性剤としては特に限定的ではないが、例えばコカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン等の脂肪酸アミドプロピルベタイン型両性界面活性剤; ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ドデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、オクタデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン等のアルキルベタイン型両性界面活性剤; 2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のアルキルイミダゾール型両性界面活性剤; ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルグルタミン酸カリウム、ラウロイルメチル-β-アラニン等のアミノ酸型両性界面活性剤; ラウリルジメチルアミンN‐オキシド、オレイルジメチルアミンN‐オキシド等のアミンオキシド型両性界面活性剤; 等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはコカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン等の脂肪酸アミドプロピルベタイン型両性界面活性剤; ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ドデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、オクタデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン等のアルキルベタイン型両性界面活性剤; 等が挙げられ、より好ましくはコカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン等の脂肪酸アミドプロピルベタイン型両性界面活性剤が挙げられ、さらに好ましくはコカミドプロピルベタインが挙げられる。両性界面活性剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0027】
化成処理液における両性界面活性剤の濃度は、特に制限されない。該濃度は、金属材料表面により均一な化成皮膜を形成して、防錆効果をより高めるという観点からは、0.01g/L以上であることが好ましい。また、該濃度は、コストをより低減するという観点からは、10g/L以下であることが好ましい。該濃度は、好ましくは0.01~10g/L程度、より好ましくは0.03~10g/L程度、さらに好ましくは0.1~10g/L程度である。
【0028】
化成処理液の溶媒は、ジルコニウム化合物を溶解可能な溶媒である限り特に制限されない。溶媒は、通常、水、或いは水が主成分である溶媒(溶媒100質量%に対して、例えば80質量%、好ましくは90質量%、より好ましくは95質量%、さらに好ましくは99質量%の水を含有する溶媒)である。
【0029】
化成処理液には、上記成分以外にも他の成分が含まれていてもよい。
【0030】
化成処理液のpHは、金属材料の溶解をより低減して防錆効果及び処理外観をより良好にするという観点から、2.0以上であることが好ましい。また、該pHは、化成処理液の浴安定性をより高めて、懸濁や沈殿の発生さらには浴分解をより抑制するという観点から、8.0以下であることが好ましい。該pHは、好ましくは2.0~8.0であり、より好ましくは3.0~7.0であり、さらに好ましくは4.0~6.0である。
【0031】
1-3.処理態様
化成処理は、金属材料を化成処理液で処理することにより行われる。処理の態様は、金属材料表面の金属上に、ジルコニウムを含有する化成処理皮膜が形成される態様である限りにおいて、特に制限されない。
【0032】
処理は、例えば化成処理液と金属材料表面とを接触させることによって行われる。該接触は、通常は、化成処理液を金属材料表面に塗布することによって行われる。塗布方法としては、例えばディップコート、スプレーコート、ロールコート、スピンコート、バーコート等の公知の方法を採用することができる。
【0033】
化成処理液と金属材料表面との接触時の、化成処理液の温度は、特に制限されないが、例えば10~80℃、好ましくは20~60℃、より好ましくは25~50℃、さらに好ましくは30~40℃である。
【0034】
化成処理液と金属材料表面との接触時間は、特に制限されないが、例えば10秒間~60分間、好ましくは30秒間~30分間、より好ましくは1分間~15分間、さらに好ましくは3分間~10分間である。
【0035】
化成処理により、金属材料上に直接、ジルコニウムを含有する化成処理皮膜を形成することができる。該皮膜が形成されてなる化成処理済金属材料を、後述のシリカ質皮膜形成処理に供することにより、金属材料上に高い防錆性を有する防錆皮膜を形成することができる。
【0036】
また、化成処理液に両性界面活性剤を含む場合、化成処理により、金属材料上に直接、ジルコニウム及び両性界面活性剤を含有する化成処理皮膜を形成することができる。該化成処理皮膜は、それ自体が、高い防錆性を有する防錆皮膜として機能することができる。
【0037】
形成される化成処理皮膜の膜厚については、例えば、0.01~0.2μm程度とすることが好ましい。
【0038】
2.シリカ質皮膜形成処理(工程2b)
2-1.化成処理済金属材料
シリカ質皮膜形成処理の処理対象物は、工程2aで得られた化成処理済金属材料である。
【0039】
2-2.シリカ質皮膜形成用処理液
シリカ質皮膜形成用処理液は、化成処理済金属材料におけるジルコニウムを含有する化成処理皮膜上にシリカ質皮膜を形成できるものである限り、特に制限されない。シリカ質皮膜形成用処理液は、代表的にはアルコキシシランオリゴマーを含有する処理液である。
【0040】
アルコシキシランオリゴマーは、例えば、式:(R1)mSi(OR2)4―m(式中、R1は官能基、R2は低級アルキル基である。mは0~3の整数である)で表されるアルコキシシランを加水分解し、縮重合させたものである。上記化学式において、官能基としては、ビニル、3-グリシドキシプロピル、3-グリシドキシプロピルメチル、2-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチル、p-スチリル、3-メタクリロキシプロピル、3-メタクリロキシプロピルメチル、3-アクリロキシプロピル、3-アミノプロピル、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピル、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチル、3-トリエトキシシリル―N-(1、3-ジメチルーブチリデン)プロピルアミン、N―フェニル―3-アミノプロピル、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル―3-アミノプロピル、トリス―(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピル、3-メルカプトプロピル、3-メルカプトプロピルメチル、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピル、3―プロピルコハク酸無水物等を例示できる。
【0041】
低級アルキル基としては、具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、1-エチルプロピル、イソペンチル、ネオペンチル等の炭素数1~6程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。
【0042】
上記化学式で表されるアルコキシシランの具体例としては、Si(OCH3)4、Si(OC2H5)4、CH3Si(OCH3)3、CH3Si(OC2H5)3、C2H5Si(OCH3)3、C2H5Si(OC2H5)4、CHCH2Si(OCH3)3、CH2CHOCH2O(CH2)3Si(CH3O)3、CH2C(CH3)COO(CH2)3Si(OCH3)3、CH2CHCOO(CH2)3Si(OCH3)3、NH2(CH2)3Si(OCH3)3、SH(CH2)3Si(CH3)3、NCO(CH2)3Si(C2H5O)3を挙げることができる。
【0043】
アルコキシシランオリゴマーを含有する処理液は、上記したアルコシキシランの縮合物を有効成分として含むものである。
【0044】
アルコシキシランの縮合物は、予め縮合物となったものを溶液中に添加してもよく、或いは、アルコシキシランを単独又はアルコシキシランの低縮合物と共にアルコール溶液中に添加し、酸、塩基、有機金属化合物等の後述する触媒成分を混合して加水分解、縮合反応を行って、溶液中において、縮合物としてもよい。
【0045】
アルコキシシランオリゴマーの縮合度については、特に限定的ではなく、シリカ質皮膜を形成するための処理液を調製した後、溶液中で加水分解、縮合反応が進行するので、被処理物に塗布する際に、円滑な塗布作業を阻害しない程度の縮合度であればよい。例えば、アルコキシシランオリゴマーの重量平均分子量として、1000~10000程度のものを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0046】
シリカ質皮膜形成用処理液におけるアルコキシシランオリゴマーのシリカ成分の濃度については、限定的ではないが、0.1~50重量%程度とすることが好ましく、5~30重量%程度とすることがより好ましい。
【0047】
アルコキシシランオリゴマーを含有するシリカ質皮膜形成用処理液では、溶媒としては、アルコール系、グリコール系、グリコールエーテル系、エーテル系、エーテルアルコール系、ケトン系などの有機溶剤を用いることが好ましい。
【0048】
該処理液には、更に、水及び触媒を加えることが必要である。これにより、アルコキシシランオリゴマーが加水分解し、縮重合が更に進行して、シリカ質皮膜を形成することができる。
【0049】
水の添加量については、通常、シリカ質皮膜形成用処理液の全体を基準として、0.1~20重量%程度とすればよい。
【0050】
触媒としては、酸、塩基、有機金属化合物等を用いることができる。
【0051】
これらの内で、酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸等を例示できる。
【0052】
塩基としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等を例示できる。
【0053】
有機金属化合物としては、例えば、金属成分として、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、錫などを含む水溶性の有機金属キレート化合物、金属アルコキシド等を用いることができる。これらの内で、有機チタン化合物としては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラターシャリーブチルチタネート、テトラオクチルチタネート等のチタンアルコキシド化合物;チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジオクチロキシビスエチルアセトアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンジイソプロポキシビスエチルアセチルアセトネート、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンジイソプロポキシビストリエタノールアミネート等のチタンキレート化合物等を例示でき、有機ジルコニウム化合物としては、ノルマルプロピルジルコネート、ノルマルブチルジルコネート等のジルコニウムアルコキシド化合物;ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムトリブトキシモノステアレート等のジルコニウムキレート化合物を例示でき、有機アルミニウム化合物としては、アルミニウムイソプロピレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブチレート等のアルミニウムアルコキシド化合物;、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセテート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート化合物等を例示できる。
【0054】
これらの触媒は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0055】
触媒の配合量は、特に限定的ではないが、シリカ質皮膜形成用処理液の全体を基準として、通常、0.01~20重量%程度とすればよく、0.1~10重量%程度とすることが好ましい。
【0056】
シリカ質皮膜形成用処理液には、更に、必要に応じて、シリカ超微粒子を添加することができる。シリカ超微粒子は、造膜助剤として作用するものであり、これを配合することによって、防錆性能をより向上させることができる。シリカ超微粒子としては、シリカ質皮膜形成用処理液への分散性が良好であることから、コロイダルシリカを用いることが好ましい。
【0057】
コロイダルシリカは、粒子径約100nm以下の球状又は球が鎖に繋がった形状のシリカナノ粒子が溶媒中に分散した分散体であり、水を溶媒とする水系コロイダルシリカと各種の有機溶剤を溶媒とする溶剤系コロイダルシリカをいずれも用いることができる。水系コロイダルシリカにはアルカリ性タイプと酸性タイプを示すものがあり、いずれも使用可能であるが、特に、液状組成物の安定性を保つには酸性タイプが好ましい。溶剤系コロイダルシリカの溶剤としては、例えば、メタノール、イソプロパノール、ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、エチレングリコールモノn-プロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸エチル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンなどを挙げることができる。コロイダルシリカにおけるシリカ含有量は、例えば、固形分濃度として5~40重量%程度である。
【0058】
シリカ質皮膜形成用処理液におけるコロイダルシリカの配合量は、シリカ質皮膜形成用処理液の全体を基準として、通常、固形分量として1~50重量%程度とすることが好ましい。
【0059】
シリカ質皮膜形成用処理液には、上記成分以外にも他の成分が含まれていてもよい。
【0060】
2-3.処理態様
シリカ質皮膜形成処理は、化成処理済金属材料をシリカ質皮膜形成用処理液で処理することにより行われる。処理の態様は、化成処理済金属材料の化成処理皮膜上に、シリカ質皮膜が形成される態様である限りにおいて、特に制限されない。
【0061】
処理は、例えばシリカ質皮膜形成用処理液と化成処理皮膜とを接触させたあと、乾燥処理ことによって行われる。該接触は、通常は、シリカ質皮膜形成用処理液を化成処理皮膜に塗布することによって行われる。塗布方法としては、例えばディップコート、スプレーコート、ロールコート、スピンコート、バーコート等の公知の方法を採用することができる。
【0062】
シリカ質皮膜形成用処理液と金属材料表面との接触時の、シリカ質皮膜形成用処理液の温度は、特に制限されないが、例えば10~80℃、好ましくは10~30℃である。
【0063】
化成処理液と金属材料表面との接触時間は、特に制限されないが、例えば1秒間~1分間、好ましくは1秒間~10秒間である。
【0064】
乾燥処理は、化成処理皮膜上のシリカ質皮膜形成用処理液の溶媒を除去することができる態様である限りにおいて、特に制限されない。乾燥温度は、例えば20~200℃、好ましくは50~200℃、より好ましくは100~180℃、さらに好ましくは120~180℃である。乾燥時間は、例えば30秒間~30分間、好ましくは5分間~30分間、より好ましくは10分間~20分間である。
【0065】
シリカ質皮膜形成処理により、化成処理皮膜上に直接、シリカ質皮膜を形成することができる。こうして金属材料上に形成される、ジルコニウムを含有する化成処理皮膜及び該化成処理皮膜上のシリカ質皮膜からなる皮膜は、高い防錆性を有する防錆皮膜として機能することができる。また、シリカ質皮膜は、透明性が良好な薄膜であり、被処理物の外観を損なうことなく、良好な防錆性能を付与することができる。
【0066】
形成されるシリカ質皮膜の膜厚については、例えば、0.1~5μm程度とすることが好ましい。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0068】
実施例1~3
亜鉛めっき鋼板(大きさ100×60×0.3mm)を、アルカリ脱脂処理した後、0.5%硝酸水溶液に10秒間浸漬して酸活性処理して、被処理物である金属材料を得た。
【0069】
次いで、被処理物を、表1に示す組成を有する化成処理液に35℃で5分間浸漬することにより、被処理物の表面に化成処理皮膜が形成された試験試料を得た。
【0070】
試験試料に対して塩水噴霧試験(JIS Z2371)を行い、試料表面積に対する白錆の発生面積比率が10%となるまでの時間を目視で求めた。結果を下記表1に示す。
【0071】
実施例4~12
亜鉛めっき鋼板(大きさ100×60×0.3mm)を、アルカリ脱脂処理した後、0.5%硝酸水溶液に10秒間浸漬して酸活性処理して、被処理物である金属材料を得た。
【0072】
次いで、被処理物を、表1に示す組成を有する化成処理液に35℃で5分間浸漬することにより、被処理物の表面に化成処理皮膜が形成された化成処理済金属材料を得た。
【0073】
一方で、シリカ質皮膜形成用処理液を次のようにして調製した。テトラメトキシシラン15重量%、3-メルカプトプロピルシラン15重量%、及びイソプロピルアルコール70重量%からなる混合液を調製した。次に、水とチタンジオクチロキシビスオクチレングリコレートを上記混合液100重量部に対しそれぞれ10重量部加えて加水分解し縮重合させて、シリカ成分の濃度が約25重量%のアルコキシシランオリゴマーのアルコール溶液を得た。この溶液にコロイダルシリカの濃度が30重量%のイソプロピルアルコール分散液を固形分量として5重量%となるように混合して、シリカ質皮膜形成用処理液を得た。
【0074】
化成処理済金属材料を、シリカ質皮膜形成用処理液に20℃で5秒間浸漬した後に、150℃で15分間乾燥処理することにより、化成処理皮膜上にシリカ質皮膜が形成された試験試料を得た。
【0075】
試験試料に対して、塩水噴霧試験(JIS Z2371)を行い、試料表面積に対する白錆の発生面積比率が10%となるまでの時間を目視で求めた。結果を下記表1に示す。
【0076】
比較例1
実施例1~12と同じ被処理物(亜鉛めっき鋼板をアルカリ脱脂処理後に酸活性処理して得られた金属材料)を試験試料として、実施例1~12と同様の方法で塩水噴霧試験を行い、試料表面積に対する白錆の発生面積比率が10%となるまでの時間を求めた。結果を下記表1に示す。
【0077】
比較例2
化成処理をしない以外は、実施例4~12と同様にして試験試料を得た。試験試料に対して、実施例1~12と同様の方法で塩水噴霧試験を行い、試料表面積に対する白錆の発生面積比率が10%となるまでの時間を求めた。結果を下記表1に示す。
【0078】