(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23D 9/00 20060101AFI20220322BHJP
【FI】
B23D9/00
(21)【出願番号】P 2021063391
(22)【出願日】2021-04-02
【審査請求日】2021-04-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】721002163
【氏名又は名称】山家 孝志
(72)【発明者】
【氏名】山家 孝志
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-057606(JP,U)
【文献】実開昭53-029895(JP,U)
【文献】実公昭47-018638(JP,Y1)
【文献】実開昭53-120397(JP,U)
【文献】特開平07-250974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 9/00,
B27G 17/00-17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃先が、すくい面と逃げ面が交差して形成される稜線から構成されてなり、前記刃先を被切削面に押し込みながら前記すくい面側に移動させることにより、前記被切削面を切削する機能を有する切削工具であって、前記すくい面側または前記逃げ面側の少なくとも一方の側の、前記刃先と一定の距離を有する位置に、先端が鈍角を成す形状またはR加工の面取りが施された形状を有し、前記被切削面に線状または点状に当接し得る支持部が設けられてなり、
前記支持部は、前記刃先の幅以下の厚みを有し、前記被切削面を切削する際に、前記刃先が前記被切削面に当接した状態から、前記刃先が前記被切削面に食い込んだ状態まで、前記支持部の
少なくともいずれか一方を支点として前記刃先の切り込み深さを連続して調整することを特徴とする切削工具。
【請求項2】
刃先が、すくい面と逃げ面が交差して形成される稜線から構成されてなり、前記刃先を被切削面に押し込みながら前記すくい面側に移動させることにより、前記被切削面を切削する機能を有する切削工具であって、前記すくい面側または前記逃げ面側の少なくとも一方の側の、前記刃先と一定の距離を有する位置に、先端が鈍角を成す形状またはR加工の面取りが施された形状を有し、前記被切削面に線状または点状に当接し得る支持部が設けられてなり、前記支持部は、前記刃先の幅以下の厚みを有し、前記刃先を前記被切削面に押し込む方向から見たとき、前記刃先を前記すくい面側に移動させる方向の直線上に前記支持部があり、前記被切削面を切削する際に、前記刃先が前記被切削面に当接した状態から、前記刃先が前記被切削面に食い込んだ状態まで、前記支持部の少なくともいずれか一方を支点として前記刃先の切り込み深さを連続して調整することを特徴とする切削工具。
【請求項3】
前記すくい面は平面または曲面のいずれかより選択され、前記逃げ面は平面または曲面のいずれかより選択されてなることを特徴とする、請求項1
または請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記刃先と前記すくい面側に設けられてなる支持部との間に、幅が1mm以上で深さが1mm以上の凹部が設けられてなることを特徴とする、請求項1ないし請求項
3のいずれかに記載の切削工具。
【請求項5】
前記支持部の先端は、R0.3mm以上の面取りが施された形状であることを特徴とする、請求項1ないし請求項
4のいずれかに記載の切削工具。
【請求項6】
前記刃先と前記すくい面側に設けられてなる支持部の先端とを結ぶ直線を、被切削面に平行に配した状態における、前記すくい面と前記被切削面の法線がなす角度は、-10°以上であることを特徴とする、請求項1ないし請求項
5のいずれかに記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、彫刻刀やバリ取り工具、プラスチックカッターなどの、木材やプラスチック材料や金属材料などの素材を、切断したり、切削したりするための切削工具に関し、特に、刃先は、すくい面と逃げ面が交差して形成される稜線から構成され、手持ち工具として用いられる切削工具に関するものである。
【0002】
古来より切削や切断に用いられる加工具には、刃先の稜線が柄と略平行な縦斧と略直角な横斧があり、例えば縦斧としてはマサカリ、横斧としては日本では大工道具として用いられているチョウナやカンナが知られている。他に縦斧の構造に類するものは、包丁やナイフなど手持ちの刃物や、ナゲシのある横引き鋸など身の回りに多数あるが、横斧の構造に類するものは前記の他、縦引きの鋸などで多くはない。
【0003】
チョウナ、カンナのような、古来使用されている横斧の刃先や、機械加工に用いられるドリル、エンドミルの刃先は、すくい面と逃げ面が交差して形成される、直線または曲線の稜線から構成される。加工の際には、刃先が被切削物に押し込まれ、刃先の進行方向側のすくい面に沿って切屑がすくい取られ、逃げ面は刃先が進行した後の刃自体が被切削物に干渉することを避けるために、適当な角度を有するように設けられている。
【0004】
縦斧の方が、横斧よりも多用されている理由として、縦斧は単純に刃先を被加工物に押しつけ、刃を、刃先を構成する稜線方向に動かせば切れるため、手加工が容易であるのに対し、横斧は、前記のように、刃先の稜線方向が加工の進行方向と直角なため加工の抵抗が大きく、人の手で安定して切り進めるのは難しいことが挙げられる。
【0005】
実際に教育の場で手にする彫刻刀は平刀、丸刀、切り出しなど少しずつ押して切るものが基本であるが、一気に連続して深く彫るべく、それらをカンナのように刃を立てて切ろうとしてうまくいかなかった経験を持つ人も少なからずいると思われる。
【0006】
図7は、縦斧構造の刃を用いて、被切削物を切る状態の例を示す図で、
図7(a)は斜視図、
図7(b)は刃先が被切削物に押し込まれた状態を示す断面図である。このように、包丁やナイフのような縦斧的な刃物9を用いて、被切削物10を引き切りしようとしても、刃は若干食い込むものの、刃先より徐々に厚くなる刃の厚みが大きな抵抗となり、深く切り込むことは難しい。
【0007】
その問題を解決すべく、実際に刃先の稜線の長さが10mmの小型のチョウナを作製し、木材やプラスチック材料を、引き切りで加工してみると、はじめのうち表面は多少削れるが、刃の食い込みが不連続に生じるため、具体的には引っ掛かりによる停止と、その解消による刃の前進が交互に発生するため、それを繰り返すと引っ掛かりによる溝が複数個所で深く成長していき、ついには加工不能となる。なお、本例に類する製品は、かき出し小刀、板カンナ、カキ、カマ等としてネット上で販売されているがホームセンターなどの店頭で見かけることはあまりない。
【0008】
上記のような切削加工方法は、機械加工の分野では、旋盤やフライス盤などで、すくい面と逃げ面を持つ刃先で切り込む加工方法として確立されているが、旋盤の場合であれば、バイトと称される切削工具を堅牢な台に固定し、台自体の動作を調整することで、バイトの尖端を、高速で回転する被切削物表面に当接させる機構が用いられ、フライス盤の場合、用いる刃が加工対象によって使い分けられるが、例えば正面フライスは、回転の中心から外周に向かって稜線が配される刃先を回転させ、テーブルに固定された被切削物に当接させる機構が用いられている。つまりいずれの場合も、相互の接触により、刃先や被切削物が不測の偏倚を起こさないような固定機構を備えている。
【0009】
しかし、手持ちの工具で切削加工を行うと、木材やプラスチック材料などの比較的軟らかい材料に対してでさえも、刃を保持する剛性が低いために、安定して切り込むのは困難である。特に木材を木目と直角に加工するときは、この現象が顕著で、硬い木目部が加工され難いため、大きな凹凸となりやすく、アクリルやポリエチレンなどのプラスチックは軟らかいため、より局部的な食い込みが進行し深くなりやすく、深く切り込む加工がし難い。
【0010】
また、引き切り可能な加工具として、特許文献1には、縦斧構造の刃体を用い、モデルの表面に筋を彫る所定幅の刃体を、手で支えられて力を加えるためのホルダーに取り付けてなる筋彫り刀であって、前記刃体をホルダーに交換可能に取り付け得るようにして、前記刃体の刃部による筋彫り方向を、手前側または前方に変換自在としたことを特徴とする筋彫り刀が記載されている。
【0011】
しかし、ここに開示されている筋彫り刀は、ホルダーと刃の取付構造により、筋彫りの作業性の向上に一定の効果が得られるが、幅が狭くごく浅い筋を掘る刀であり、数mm以上の幅や切り込みを想定しているものではなく、前記のように、刃先より徐々に厚くなる刃の厚みが大きな抵抗となり、深く切り込むことは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、刃の引っ掛かりや食い込みにより生じ、その後の刃の円滑な切り込みの妨げとなる局部的な深い溝の形成を軽減し、連続して深く切り込み続けることが可能で、手持ち加工具として使用し得る切削工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記の課題解決のため、横斧構造の切削工具に、被切削物表面における動作の安定性を向上させるための構造を付与することを検討した結果なされたものである。
【0015】
本発明によれば、刃先が、すくい面と逃げ面が交差して形成される稜線から構成されてなり、前記刃先を被切削面に押し込みながら前記すくい面側に移動させることにより、前記被切削面を切削する機能を有する切削工具であって、前記すくい面側または前記逃げ面側の少なくとも一方の側の、前記刃先と一定の距離を有する位置に、前記刃先が前記被切削面に当接した状態、または前記刃先が前記被切削面に食い込んだ状態において、前記被切削面に当接し得る支持部が設けられてなることを特徴とする切削工具が得られる。
本発明によれば、刃先が、すくい面と逃げ面が交差して形成される稜線から構成されてなり、前記刃先を被切削面に押し込みながら前記すくい面側に移動させることにより、前記被切削面を切削する機能を有する切削工具であって、前記すくい面側または前記逃げ面側の少なくとも一方の側の、前記刃先と一定の距離を有する位置に、先端が鈍角を成す形状またはR加工の面取りが施された形状を有し、前記被切削面に線状または点状に当接し得る支持部が設けられてなり、前記支持部は、前記刃先の幅以下の厚みを有し、前記被切削面を切削する際に、前記刃先が前記被切削面に当接した状態から、前記刃先が前記被切削面に食い込んだ状態まで、前記支持部の少なくともいずれか一方を支点として前記刃先の切り込み深さを連続して調整することを特徴とする切削工具が得られる。
本発明によれば、刃先が、すくい面と逃げ面が交差して形成される稜線から構成されてなり、前記刃先を被切削面に押し込みながら前記すくい面側に移動させることにより、前記被切削面を切削する機能を有する切削工具であって、前記すくい面側または前記逃げ面側の少なくとも一方の側の、前記刃先と一定の距離を有する位置に、先端が鈍角を成す形状またはR加工の面取りが施された形状を有し、前記被切削面に線状または点状に当接し得る支持部が設けられてなり、前記支持部は、前記刃先の幅以下の厚みを有し、前記刃先を前記被切削面に押し込む方向から見たとき、前記刃先を前記すくい面側に移動させる方向の直線上に前記支持部があり、前記被切削面を切削する際に、前記刃先が前記被切削面に当接した状態から、前記刃先が前記被切削面に食い込んだ状態まで、前記支持部の少なくともいずれか一方を支点として前記刃先の切り込み深さを連続して調整することを特徴とする切削工具が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、前記すくい面が少なくとも一つの平面または曲面より構成され、前記逃げ面が少なくとも一つの平面または曲面より構成されてなることを特徴とする、前記の切削工具が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、前記刃先と前記すくい面側に設けられてなる支持部との間に、幅が1mm以上で深さが1mm以上の凹部が設けられてなることを特徴とする、前記の切削工具が得られる。
【0018】
また、本発明によれば、前記支持部の先端は、R0.3mm以上の面取りが施された形状であることを特徴とする、前記の切削工具が得られる。
【0019】
また、本発明によれば、前記刃先と前記すくい面側に設けられてなる支持部の先端とを結ぶ直線を、被切削面に平行に配した状態における、前記すくい面と前記被切削面の法線がなす角度は、-10°以上であることを特徴とする、前記の切削工具が得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る切削工具は、刃先と同時に非切削面に当接する支持部が設けられているので、刃先の引っ掛かりや食い込みにより生じ、その後の刃の円滑な切り込みの妨げとなる局部的な深い溝の形成を軽減し、手で操作することで、連続して深く切り込み続けることが可能な切削工具を提供することができる。
【0021】
また、刃先のすくい面側と逃げ面側に設けられた二つの支持部の少なくともいずれか一方を、刃先と同時に被切削面に当接させた状態で、切削加工を行うと、刃先が必要以上に被切削物に食い込まないようにするストッパーとして、支持部が機能する、つまり台カンナにおける台と同様に機能するので、安定した状態で切削加工を行うことができる。
【0022】
また、すくい面と逃げ面の形状を、平面と曲面から選択することにより、刃先の形状も多様な形状とすることが可能なので、被切削物の材質や所要の溝形状に対応できる。
【0023】
また、すくい面側の支持部と刃先の間は、前記のような凹形状となっているので、切削で生じる切削屑が、被切削物の外部に速やかに排出され、切削作業を円滑に行うことが可能であり、支持部の先端が尖端形状とならない処理が施されているので、被切削物表面に傷を付けないで切削作業を行うことが可能である。
【0024】
また、本発明の切削工具においては、すくい面側の支持部と刃先の相対的な位置を調整することで、刃先が被切削面に当接または食い込んだ状態における、被切削面の法線とすくい面とがなす角度、つまりすくい角を-10°以上とすることが可能であり、これによっても切削の作業性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る切削工具の一例の、刃の部分を示す図
【
図2】刃に柄を取り付け、刃を用いて被切削物の被切削面を切削しようとする状態の例を示す図
【
図3】本発明に係る切削工具の刃先の様々な形状の例を示す斜視図
【
図4】本発明に係る切削工具の刃を交換可能とした例
【
図5】本発明に係る切削工具で被切削面を彫った例を示す斜視図
【
図6】本発明に係る切削工具における刃先の適性な配置の例を示す概念図
【
図7】縦斧構造の刃を用いて、被切削物を切る状態の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に具体的な図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明に係る切削工具の一例の、刃の部分を示す図で、
図1(a)は斜視図、
図1(b)は側面図である。ここに例示した刃1は、刃先2が逃げ面3とすくい面4が交差して形成される稜線から構成され、逃げ面3とすくい面4の両方の側に一定の距離をおいて逃げ面側の支持部5aとすくい面側の支持部5bが設けられている。刃先2の幅、つまりwは、刃を構成する材料の厚みに依存し、使用目的により調製される。
【0027】
また、被切削物を刃先2で彫り込むのに伴い、刃1の側面と被切削物との摩擦抵抗が増加するので、刃1の厚みは、刃先2の幅wよりも小さくするのが望ましい。なお、一般的に、すくい面4と被切削面の法線とがなす角度を、すくい角と称するが、
図1(b)におけるθ1がすくい角に相当し、すくい面4がすくい面側の支持部5bの方に傾斜している場合は、-(マイナス)角度となる。
【0028】
図2は、
図1に示した刃1に、柄6を取り付け、刃1を用いて被切削物7の被切削面8を切削しようとする状態の例を示す図で、
図2(a)は、刃先2とすくい面側の支持部5bが、被切削面8に当接した状態、
図2(b)は、刃先2と逃げ面側の支持部5aが、被切削面に当接した状態、
図2(c)は、逃げ面側の支持部5aとすくい面側の支持部5bが、被切削面に当接し、刃先2が被切削物に食い込んだ状態を示す。切削加工は、刃先2を被切削面8に押し込みながら、図における柄6の方向に動かすことによって行われる。
【0029】
この構成により、例えば逃げ面側の支持部5aを被切削面8に押し当てた状態から柄6を下方に動かせば、徐々に刃先2が被切削面8に接近し、接触することになる。この状態で、のこぎりのように刃1全体を前後方向、図における左右方向に動かせば、刃先2は少しずつ被切削物7の深さ方向に切り込んでいくので、局部的な引っ掛かりを生じにくい。
【0030】
また、きつい木目や段差など不均一な部分がある場合は、引っ掛かりや切削抵抗などの手ごたえを頼りに柄6の上下や前後方向の動きを調整することにより、切り進めることができる。また、大きな薄板などの場合はガイド定規などに沿って切り進んでもよい。
【0031】
同様に、すくい面側の支持部5bを、被切削面8に当接させて加工してもよい。例えば、
図2において被切削物7の右端まで加工すると、はじめにすくい面側の支持部5bが被切削面8からはずれ、その瞬間の衝撃でまだ被切削物7上にある刃先2が食い込みやすい。そのような際は逃げ面側の支持部5aに切り替えて加工すればよい。
【0032】
さらには、刃先2を被切削物7に食い込ませ、逃げ面側の支持部5aとすくい面側の支持部5bとを同時に被切削面8に当接させて加工を行うことも可能である。この場合は、双方の支持部のいずれか、または双方がストッパーとして機能することは前記のとおりである。
【0033】
なお、柄6が一部でも、刃先2とすくい面側の支持部5aを結ぶ延長線よりも、被切削面8側にはみ出していると、すくい面側の支持部材5bより先に、柄6が被切削面8に当接し、角度調整に支障が生じるため、柄6を付設する場合は、このような状態が生じない設計が望ましい。
【0034】
また逆に、逃げ面側の支持部5aとすくい面側の支持部5bとの両方を有する場合、逃げ面側の支持部5aと刃先2を結ぶ延長線より、すくい面側の支持部5bが被切削面側にはみ出していると、刃先2は被切削面8に当接することができないので、少なくとも刃先が被切削物7に食い込んだ時に、支持部5aと支持部5bが被切削面8に当接する必要がある。
【0035】
したがって、被切削物7に深く切り込む場合は、刃1における、すくい面4と逃げ面3とに隣接する一対の側面には、保持接続などの突き出しがないことが望ましい
【0036】
また、刃先2が被切削物7に深く切り込んでいくと、切屑の排出が問題となり、具体的には切屑が刃1の逃げ面3と、逃げ面側の支持部5aと、被切削物7との間に詰まり、刃先2が露出できず加工不能となる。それを防止するため、刃1の逃げ面3と逃げ面側の支持部5aとの間には、幅と深さが1mm以上の凹部を設けることが望ましい
【0037】
また、逃げ面側の支持部5aとすくい面側の支持部5bの先端が尖端形状であると、刃先2の引っ掛かりに加え、各支持部の被切削物7への食い込みや引っ掛かりが生じやすいため、先端は、鈍角であるかR0.3mm以上の面取りがあることが望ましい
【0038】
また、刃先2の幅よりも刃1の厚みが大きいと、被切削物7の深さ方向に切り込んでいくにつれ、刃1の側面と被切削物との接触面積が増えることで、加工の抵抗が大きくなるので、このような構造が望ましくないのは前記のとおりである。同様の理由でに刃先2の幅よりも、逃げ面側の支持部5aとすくい面側の支持部5bの厚みが大きいことも望ましくない。
【0039】
図3は、本発明に係る切削工具の刃先の、様々な形状の例を示す斜視図である。前記のように本発明の切削工具の刃先は、すくい面と逃げ面が交差して形成される稜線によって、構成されるので、すくい面と逃げ面の形状の組み合わせにより、多様な形状とし得る。
【0040】
図3(a)、
図3(b)は、すくい面と逃げ面の両方が平面の例で、稜線が直線で、長さが異なる。
図3(c)はすくい面が平面、逃げ面が曲面で、稜線が曲線の例で、底面が曲線の溝を彫ることが可能である。
図3(d)はすくい面が平面、逃げ面が曲面で、稜線が直線の例であり、
図3(e)は、すくい面と逃げ面の両方が曲面で、稜線が直線の例である。被切削物の材質によって、すくい面と逃げ面の角度の調整が必要な場合にこれらの形状が使い分けられる。
【0041】
図3(f)は円柱形状の素材に、旋盤などで切削加工を施して製作される切削工具の例で、すくい面が円または凹形状の回転体、逃げ面が凸形状の回転体で、刃先を構成する稜線が円形であり、稜線の任意の箇所を刃先として使用できるという特徴がある。また、
図3(g)と
図3(h)は、ノコギリの刃に本発明に係る切削工具の構造を付与した例であり、
図3(i)と
図3(j)は鋼帯に曲げ加工を施して製作した例で、
図3(j)はすくい面と逃げ面がそれぞれ平面と曲面から構成されている。
【0042】
図4は、本発明に係る切削工具の刃11を交換可能とした例である。本発明に係る切削工具では、基本的に消耗するのは刃先12であるので、
図5に示すように刃11を別体としてネジ14で固定し交換できる形とすることも可能で、取り付け穴15を長穴として、刃先12の出代を微調整し得る構造とすることも可能である。
【0043】
また、前記刃11の逃げ面側またはすくい面側の位置に、刃11よりも幅が広く、刃11の、図示しない被切削物の深さ方向への切り込みを制限するストッパー13を設けることで、一定深さの溝を彫ることができる。このストッパー13は、支持部の機能を兼ね備えている。
【0044】
また、薄板の切断の際は部分的な貫通により当該部の割れや断面の乱れを軽減することができるので、その後さらに他の切断具と併用してもよい。刃先12の数については、1箇所であることが最も切削抵抗が小さく摩耗や欠損した際の再研磨もしやすいが、複数箇所あってもよい。
【0045】
刃11のすくい面の角度は、被切削物の材料物性により適宜に選定されるが、被切削物の表面に対する垂線とすくい面のなす角度、即ちすくい角は-10°未満では切り込みの効率が極端に悪化するので望ましくない。なお、刃先12は粗切りやプレスでの打ち抜きのままでは稜線が直線的に形成されにくいので、すくい面と逃げ面は研磨加工されていることが望ましい。さらに、すくい面側支持部16と柄17の間にのこぎり状の刃を設け、切り始め部や切り終わり部及び貫通部などで併用して用いてもよい
【0046】
図5は、本発明に係る切削工具における刃先の適性な配置の例を示す概念図である。本発明に係る切削工具においては、
図5に示すように、逃げ面側の支持部5aと、すくい面側の支持部5bを結ぶ直線を底辺とする二等辺三角形の底角θ2が45°以内の範囲に、刃先2が配されることが望ましい。
図5(a)の例は10°である。
【0047】
その理由としては、
図5(b)に示したように、二等辺三角形の底角が45°に位置付近に刃先2が配されていると、すくい面側の支持部5bを被切削物に当接させて加工する場合と、逃げ面側の支持部5aを被切削物に当接させて加工する場合では、刃先と一体化している柄の位置が90°以上回転することになる。そして、θ2が45°を超えると、柄を保持して加工するのが困難となる。
【0048】
さらに、θ2が45°よりも大きい状態で、すくい面側の支持部5bを被切削面に当接させると、すくい角が小さくなって、切れ味が低下し、θ2が45°を超える状態で、逃げ面側の支持部5aを被切削面に当接させると、すくい角が大きすぎる状態となる他、逃げ面とすくい面が交差する角度が、必然的に小さ過ぎる状態となり、刃の強度が低下するために、望ましくない。
【実施例】
【0049】
次に、本発明の実施例を、図を参照して、以下に説明する。
図6は、本発明に係る切削工具で被切削面を形成した例を示す斜視図である。
【0050】
実施例1として、刃先の幅を1.0mm、刃の幅を0.8mm、すくい面側の支持部の幅を0.8mm、被切削面に対するすくい角10°にて作製した切削工具を調製した。この切削工具の形状は、
図3(a)に示したものである。これを用いて切削加工し、切断した例を、
図6(a)に示す。この切削工具は刃幅が狭いので切削抵抗が小さく、ガイドの定規に沿って被切削物として用意した、厚さ5mmのアクリル板を深さ3mmまで容易に加工することができた。なお、刃がアクリル板を部分的に貫通して、完全な引っ掛かりとなる場合が生じたが、必要に応じて裏面からも加工を加え、アクリル板を折ることで、問題なく切断することができた。
【0051】
また、被切削物として、厚さ5mmの木材の板を用意し、部分的に貫通させて切り抜く加工も容易にできた。すなわち、従来は捨て穴を空け、そこから糸鋸などで切り進めなければならない切り抜き加工を、捨て穴なしで加工することが可能となり、切り抜いた内側部材と外側部材の双方を一枚の母材から得ることができた。
【0052】
実施例2として実施例1と同じ構成で、逃げ面側に支持部がある切削工具を調整した。この切削工具は被切削物における、引っ掛かりが生じやすい切り始めの端部と切り終わりの端部において、いずれかの支持部を支点として用いることで、効率よく切り進める
ことが可能であった。
【0053】
実施例3として刃先の幅を11mm、刃の幅を11mm、すくい面側の支持部の幅を11mm、すくい角0°とした切削加工具を調製した。この切削工具の形状は、
図3(b)に示したものである。これを用いて切削加工した例を
図6(b)に示す。この切削工具を用いて、木材やアクリル板からなる被切削物に11mm幅の溝を部分的に加工することが可能であった
【0054】
これらの部分的な溝や段差などの加工形態は、従来フライスやノミ加工にて可能であったが本発明による切削工具にても可能であることが確認された。また、被切削物たるプラスチック製のカードや名刺などの表面の印刷を指触では感じられないほど極薄く削り取り、印刷前のような状態に戻すことが可能であった。さらに、アルミニウムや鉄などの加工物や成形物のエッヂ(端部)のバリ取りや面取りも容易にできた。
【0055】
実施例4として刃先とすくい面側の支持部の先端を、回転の外周とした回転体形状に作製した切削工具を調製した。この切削工具の形状は、
図3(f)に示したものである。これを用いて切削加工した例を
図6(c)に示す。この切削工具によれば、木材やプラスチック材からなる被切削物に、円弧状の断面の溝を安全で容易に彫ることが可能であった。また、加工物の内径となる隅部の凸やバリ、汚れなどを除去することが可能であった
【0056】
以上に説明したように、本発明によれば、プラスチック材料や木材を切削、切断する作業を容易にする手持ちで使用可能な切削工具を提供することができる。なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含み、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
1, 11 刃
2, 12 刃先
3 逃げ面
4 すくい面
5a 逃げ面側の支持部
5b,16 すくい面側の支持部
6 柄
7,10 被切削物
8 被切削面
9 刃物
13 ストッパー
14 ネジ
15 長穴
【要約】
【課題】
彫刻刀やバリ取り工具、プラスチックカッターなどの切削工具に関し、刃の引っ掛かりや食い込みにより生じ、その後の刃の円滑な切り込みの妨げとなる局部的な深い溝の形成を軽減し、連続して深く切り込み続けることが可能で、手持ち加工具として使用し得る切削工具を提供する
【解決手段】
刃先2が、すくい面4と逃げ面3が交差して形成される稜線から構成されてなり、前記すくい面4側または前記逃げ面3側の少なくとも一方の側の、前記刃先2と一定の距離を有する位置に、前記刃先2が被切削面8に当接した状態、または前記刃先2が前記被切削面8に食い込んだ状態において、前記被切削面8に当接し得る支持部5aまたは5bが設けられてなる。
【選択図】
図1