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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】弾性繊維用処理剤及び弾性繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/647 20060101AFI20220322BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20220322BHJP
   D06M 101/38 20060101ALN20220322BHJP
【FI】
D06M15/647
D06M15/53
D06M101:38
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021193223
(22)【出願日】2021-11-29
【審査請求日】2021-11-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西川 武志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 旬
(72)【発明者】
【氏名】小田 康平
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-82380(JP,A)
【文献】特開2015-206151(JP,A)
【文献】特開2003-147675(JP,A)
【文献】特開2007-246865(JP,A)
【文献】特開2019-123953(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0071748(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテル変性シリコーン、該ポリエーテル変性シリコーン以外の平滑剤、及び水を含有する弾性繊維用処理剤であって
前記弾性繊維用処理剤中における前記ポリエーテル変性シリコーンの含有割合が、0.01質量%以上10質量%以下であり、前記ポリエーテル変性シリコーンのHLBが、1以上7以下であることを特徴とする弾性繊維用処理剤。
【請求項2】
前記ポリエーテル変性シリコーンのHLBが、1以上6以下である請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項3】
前記弾性繊維用処理剤中における前記ポリエーテル変性シリコーンの含有割合が、0.01質量%以上2.5質量%以下である請求項1又は2に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項4】
前記弾性繊維用処理剤中における前記水の含有割合が、0.01質量%以上1.0質量%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項5】
前記弾性繊維用処理剤中における前記水の含有割合が、0.01質量%以上0.1質量%以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項6】
更に、アリル化ポリエーテルを含有し、
前記弾性繊維用処理剤中における前記アリル化ポリエーテルの含有割合が、0.001質量%以上0.2質量%以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする弾性繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のポリエーテル変性シリコーンを含有する弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばポリウレタン系弾性繊維等の弾性繊維は、他の合成繊維に比べて、繊維間の粘着性が強い。そのため、例えば弾性繊維を紡糸し、パッケージに巻き取った後、該パッケージから引き出して加工工程に供する際、パッケージから安定して解舒することが困難という問題があった。そのために、従来より弾性繊維の平滑性を向上させるため、炭化水素油等の平滑剤を含有する弾性繊維用処理剤が使用されることがある。
【0003】
従来、特許文献1~4に開示される弾性繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、弾性繊維用処理剤は、ベース成分、HLBが3~15のノニオン界面活性剤を0.01~30質量%含有する弾性繊維用処理剤について開示する。特許文献2は、ベース成分と、水、炭素数1~15の炭化水素基を有する低級アルコール、又は該低級アルコールのアルキレンオキサイド付加物を0.1~20質量%、乳化剤を0.1~30質量%含有する弾性繊維用処理剤について開示する。特許文献3は、ポリオキシエチレン骨格の含有量が分子中に20~80質量%であるポリオキシアルキレンエーテル変性ポリシロキサンを含有する弾性繊維用油剤について開示する。特許文献4は、ジオルガノポリシロキサン及び鉱物油、ポリオキシアルキレン基を有する変性シリコーンを含有する弾性繊維用油剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-100291号公報
【文献】特開2003-147675号公報
【文献】特開平09-268477号公報
【文献】特開平09-296377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電気特性の向上と弾性繊維用処理剤の安定性向上の更なる両立が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、弾性繊維用処理剤において、所定のHLBを有するポリエーテル変性シリコーン、該ポリエーテル変性シリコーン以外の平滑剤、及び水を配合した構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の弾性繊維用処理剤では、ポリエーテル変性シリコーン、該ポリエーテル変性シリコーン以外の平滑剤、及び水を含有する弾性繊維用処理剤であって前記弾性繊維用処理剤中における前記ポリエーテル変性シリコーンの含有割合が、0.01質量%以上10質量%以下であり、前記ポリエーテル変性シリコーンのHLBが、1以上7以下であることを要旨とする。
【0008】
上記弾性繊維用処理剤において、前記ポリエーテル変性シリコーンのHLBが、1以上6以下であってもよい。
上記弾性繊維用処理剤において、前記弾性繊維用処理剤中における前記ポリエーテル変性シリコーンの含有割合が、0.01質量%以上2.5質量%以下であってもよい。
【0009】
上記弾性繊維用処理剤において、前記弾性繊維用処理剤中における前記水の含有割合が、0.01質量%以上1.0質量%以下であってもよい。
上記弾性繊維用処理剤において、前記弾性繊維用処理剤中における前記水の含有割合が、0.01質量%以上0.1質量%以下であってもよい。
【0010】
上記弾性繊維用処理剤において、更に、アリル化ポリエーテルを含有し、前記弾性繊維用処理剤中における前記アリル化ポリエーテルの含有割合が、0.001質量%以上0.2質量%以下であってもよい。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の弾性繊維では、前記弾性繊維用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電気特性の向上と弾性繊維用処理剤の安定性向上の両立を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、本発明の弾性繊維用処理剤(以下、処理剤という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、ポリエーテル変性シリコーン、該ポリエーテル変性シリコーン以外の平滑剤、及び水を含み、さらにアリル化ポリエーテルを含んでもよい。
【0014】
(ポリエーテル変性シリコーン)
本実施形態の処理剤に供するポリエーテル変性シリコーンは、HLBが1以上7以下のものが適用される。このポリエーテル変性シリコーンを適用することにより、水を含む処理剤の安定性を向上できる。
【0015】
ポリエーテル変性シリコーンとしては、公知のものを適宜採用することができる。ポリエーテル変性シリコーンのHLBが1以上7以下の範囲の要件を満たすために、構成としてオキシアルキレン鎖を有するポリエーテル変性シリコーンが適用される。オキシアルキレン鎖の原料となるアルキレンオキサイドの具体例としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが挙げられる。アルキレンオキサイドは、一種類のアルキレンオキサイドを単独で使用してもよいし、又は二種のアルキレンオキサイドを適宜組み合わせて使用してもよい。アルキレンオキサイドが2種類適用される場合、それらの付加形態は、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0016】
ポリエーテル変性シリコーンとしては、例えばABn型ポリエーテル変性シリコーン、側鎖型ポリエーテル変性シリコーン、両末端型ポリエーテル変性シリコーン、ポリエーテル基とアルキル基の両方が側鎖、又は、末端に導入されたアルキルポリエーテル変性シリコーン、側鎖型ポリエーテル変性シリコーンのポリエーテル鎖末端部分が脂肪族化合物、又は、脂肪酸化合物で封鎖されたもの、両末端型ポリエーテル変性シリコーンのポリエーテル鎖末端部分が脂肪族化合物、又は、脂肪酸化合物で封鎖されたもの等が挙げられる。
【0017】
ポリエーテル変性シリコーンは、1種のポリエーテル変性シリコーンを単独で使用してもよく、2種以上のポリエーテル変性シリコーンを組み合わせて使用してもよい。
ポリエーテル変性シリコーンのHLBは、1以上7以下、好ましくは1以上6以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。ポリエーテル変性シリコーンのHLBが、かかる範囲に規定されることにより処理剤の安定性を向上できる。
【0018】
ポリエーテル変性シリコーンにおいて、炭素数2以上3以下のオキシアルキレン基を含むポリエーテル基がシリコーン鎖の側鎖に導入されたポリエーテル変性シリコーンのHLBの値は、下記式で求められる値である。式中、(EO)はエチレンオキシ基、(PO)はプロピレンオキシ基を示す(以下、同じ)。(EO)の質量%は、ポリエーテル変性シリコーン分子中における(EO)の割合を示す。(PO)の質量%は、ポリエーテル変性シリコーン分子中における(PO)の割合を示す。
【0019】
HLB=[(EO)の質量%+(PO)の質量%]÷5
ポリエーテル変性シリコーンが複数種類使用される場合のHLBの値は、各ポリエーテル変性シリコーンの質量比より、HLBの平均値が求められる。例えば、HLBが1のポリエーテル変性シリコーン90質量部と、HLBが6のポリエーテル変性シリコーン10質量部を使用する場合は、HLBの値は1.5となる。
【0020】
ポリエーテル変性シリコーンの25℃の動粘度の下限は、特に制限はないが、好ましくは100mm/s以上、より好ましくは300mm/s以上である。ポリエーテル変性シリコーンの25℃の動粘度の上限は、特に制限はないが、好ましくは7000mm/s以下、より好ましくは5000mm/s以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。動粘度をかかる範囲に規定することにより、処理剤の安定性をより向上できる。なお、ポリエーテル変性シリコーンが複数種類使用される場合の動粘度は、使用する複数のポリエーテル変性シリコーンの混合物の実際の測定値が適用される。
【0021】
処理剤中におけるポリエーテル変性シリコーンの含有割合の下限は、0.01質量%以上である。かかる含有割合が0.01質量%以上の場合、処理剤の安定性を向上できる。ポリエーテル変性シリコーンの含有割合の上限は、10質量%以下、好ましくは2.5質量%以下である。かかる含有割合が10質量%以下の場合、処理剤の安定性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0022】
(平滑剤)
本実施形態の処理剤に供する平滑剤としては、ベース成分として処理剤に配合され、弾性繊維に平滑性を付与する。平滑剤としては、例えば鉱物油、シリコーン油、エステル油、ポリオレフィン等が挙げられる。
【0023】
鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えば、スピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、粘度等によって規定される市販品を適宜採用してもよい。
【0024】
シリコーン油の具体例としては、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、上述したポリエーテル変性シリコーン以外のポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、上述したポリエーテル変性シリコーン以外のポリオキシアルキレン変性シリコーン等が挙げられる。これらのシリコーン油は、動粘度等によって規定される市販品を適宜採用してもよい。動粘度は、適宜設定されるが、25℃における動粘度が2~100cst(mm/s)であることが好ましい。25℃における動粘度は、JIS Z 8803に準拠して測定される。
【0025】
エステル油としては、特に制限はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が挙げられる。エステル油としては、例えば後述する奇数又は偶数の炭化水素基を有する脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が例示される。
【0026】
エステル油の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、環状のシクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。エステル油の原料であるアルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級アルコールであっても、環状のシクロ環を有するアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。
【0027】
エステル油の具体例としては、例えば(1)オクチルパルミタート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソトリデシルステアラート、イソテトラコシルオレアート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカナート、グリセリントリオレアート、トリメチロールプロパントリラウラート、ペンタエリスリトールテトラオクタナート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオレイルアゼラート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレアート、ベンジルラウラート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウラート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタラート、ジイソステアリルイソフタラート、トリオクチルトリメリタート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。
【0028】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用してもよい。
【0029】
これらの平滑剤は、1種の平滑剤を単独で使用してもよく、2種以上の平滑剤を組み合わせて使用してもよい。
(水)
水は、処理剤が付与された弾性繊維の電気特性を向上させるために配合される。処理剤中における水の含有割合の下限は、好ましくは0.01質量%以上である。かかる含有割合が0.01質量%以上の場合、電気特性をより向上できる。水の含有割合の上限は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。かかる含有割合が1.0質量%以下の場合、処理剤の安定性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0030】
(アリル化ポリエーテル)
本実施形態の処理剤は、アリル化ポリエーテルを含有してもよい。アリル化ポリエーテルにより処理剤の安定性をより向上できる。
【0031】
本実施形態の処理剤に供するアリル化ポリエーテルは、アリル基を有するポリエーテル化合物を示し、例えばアリルアルコール(2-プロペン-1-オール)にアルキレンオキサイドが付加した化合物が挙げられ、末端が脂肪族化合物等で封鎖されている化合物も含む。アルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。
【0032】
アリルアルコールにアルキレンオキサイドが付加した化合物の具体例としては、例えばアリルアルコールにエチレンオキサイドが付加した化合物、アリルアルコールにプロピレンオキサイドが付加した化合物、アリルアルコールにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドがランダム付加した化合物、アリルアルコールにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドがブロック付加又はランダム付加した化合物等が挙げられる。
【0033】
末端が脂肪族化合物等で封鎖されている化合物の具体例としては、例えばアリルアルコールにアルキレンオキサイドが付加したもののメトキシ化合物、アリルアルコールにアルキレンオキサイドが付加したもののエトキシ化合物、アリルアルコールにアルキレンオキサイドが付加したもののブトキシ化合物、アリルアルコールにアルキレンオキサイドが付加したもののイソブトキシ化合物、アリルアルコールにアルキレンオキサイドが付加したもののアセチル化物等が挙げられる。
【0034】
アリル化ポリエーテルが、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドの付加物であることが好ましい。
アリル化ポリエーテルの分子量に特に制限はないが、数平均分子量が200以上5000以下であるものが好ましい。尚、脂肪族アリル化ポリエーテルの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定を行い、ポリスチレン換算で求めた。
【0035】
これらのアリル化ポリエーテルは、1種のアリル化ポリエーテルを単独で使用してもよく、2種以上のアリル化ポリエーテルを組み合わせて使用してもよい。
処理剤中におけるアリル化ポリエーテルの含有割合の下限は、好ましくは0.001質量%以上である。かかる含有割合が0.001質量%以上の場合、処理剤の安定性をより向上できる。アリル化ポリエーテルの含有割合の上限は、好ましくは0.2質量%以下である。かかる含有割合が0.2質量%以下の場合、処理剤が付与された弾性繊維の摩擦特性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0036】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る弾性繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の弾性繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している弾性繊維である。弾性繊維に対する第1実施形態の処理剤(溶媒を含まない)の付着量は、特に制限はないが、本発明の効果をより向上させる観点から0.1質量%以上10質量%以下の割合で付着していることが好ましい。
【0037】
弾性繊維の具体例としては、特に制限はないが、例えばポリエステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、ポリウレタン系弾性繊維等が挙げられる。これらの中でもポリウレタン系弾性繊維が好ましい。かかる場合に本発明の効果の発現をより高くすることができる。
【0038】
本実施形態の弾性繊維の製造方法は、第1実施形態の処理剤を弾性繊維に給油することにより得られる。処理剤の給油方法としては、希釈することなくニート給油法により、弾性繊維の紡糸工程において弾性繊維に付着させる方法が好ましい。付着方法としては、例えばローラー給油法、ガイド給油法、スプレー給油法等の公知の方法が適用できる。給油ローラーは、通常口金から巻き取りトラバースまでの間に位置することが一般的であり本実施形態の製造方法にも適用できる。これらの中でも延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーにて第1実施形態の処理剤を弾性繊維、例えばポリウレタン系弾性繊維に付着させることが効果の発現が顕著であるため好ましい。
【0039】
本実施形態に適用される弾性繊維自体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造が可能である。例えば湿式紡糸法、溶融紡糸法、乾式紡糸法等が挙げられる。これらの中でも、弾性繊維の品質及び製造効率が優れる観点から乾式紡糸法が好ましく適用される。
【0040】
本実施形態の処理剤及び弾性繊維の効果について説明する。
(1)本実施形態の処理剤では、HLBが1以上7以下であるポリエーテル変性シリコーンを0.01質量%以上10質量%以下、該ポリエーテル変性シリコーン以外の平滑剤、及び水を配合して構成した。したがって、処理剤が付与された弾性繊維の電気特性の向上と、水を含有する処理剤の安定性向上の両立を図ることができる。
【0041】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例
【0042】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0043】
試験区分1(処理剤の調製)
各実施例、各比較例に用いた処理剤は、表1に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。HLB=1のポリエーテル変性シリコーン(PE-1)を2部(%)、水0.08部(%)、アリル化ポリエーテルとしてポリオキシアルキレンモノアリルエーテル(EO/POのモル比100/0)(ALPE-1)を0.01部(%)、平滑油としてジメチルシリコーン(動粘度10mm/s(25℃))(A-2)60部(%)及び鉱物油(粘度40レッドウッド秒(40℃))(A-4)37.91部(%)とをよく混合して均一にすることで実施例1の処理剤を調製した。
【0044】
実施例2~22、比較例1~6は、実施例1と同様にしてポリエーテル変性シリコーン、水、アリル化ポリエーテル、及び平滑剤を表1に示した割合で混合することで処理剤を調製した。
【0045】
各例の処理剤中におけるポリエーテル変性シリコーンの種類と含有割合、水の含有割合、アリル化ポリエーテルの種類と含有割合、及び平滑剤の種類と含有割合を、表1の「ポリエーテル変性シリコーン」欄、「水」欄、「アリル化ポリエーテル」欄、「平滑剤」欄にそれぞれ示す。
【0046】
【表1】
表1に記載するポリエーテル変性シリコーン、アリル化ポリエーテル、及び平滑剤の詳細は以下のとおりである。
【0047】
(ポリエーテル変性シリコーン)
PE-1:ポリエーテル変性シリコーン-1(HLB=1)(動粘度1000mm/s(25℃))
PE-2:ポリエーテル変性シリコーン-2(HLB=2)(動粘度1200mm/s(25℃))
PE-3:ポリエーテル変性シリコーン-3(HLB=4)(動粘度3400mm/s(25℃))
PE-4:ポリエーテル変性シリコーン-4(HLB=5)(動粘度2800mm/s(25℃))
PE-5:ポリエーテル変性シリコーン-5(HLB=5)(動粘度3600mm/s(25℃))
PE-6:ポリエーテル変性シリコーン-6(HLB=6)(動粘度2900mm/s(25℃))
PE-7:ポリエーテル変性シリコーン-7(HLB=7)(動粘度1500mm/s(25℃))
PE-8:ポリエーテル変性シリコーン-8(HLB=7)(動粘度7000mm/s(25℃))
rPE-1:ポリエーテル変性シリコーン-9(HLB=8)(動粘度1200mm/s(25℃))
rPE-2:ポリエーテル変性シリコーン-10(HLB=10)(動粘度300mm/s(25℃))
rPE-3:ポリエーテル変性シリコーン-11(HLB=16)(動粘度200mm/s(25℃))
rPE-4:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB=12)(動粘度30mm/s(25℃))
(アリル化ポリエーテル)
ALPE-1:ポリオキシアルキレンモノアリルエーテル(EO/POモル比=100/0)(数平均分子量:1500)
ALPE-2:ポリオキシアルキレンモノアリルエーテル(EO/POモル比=100/0)(数平均分子量:450)
ALPE-3:ポリオキシアルキレンモノアリルエーテル(EO/POモル比=75/25(ランダム))(数平均分子量:750)
ALPE-4:ポリオキシアルキレンモノアリルエーテル(EO/POモル比=0/100)(数平均分子量:1500)
(平滑剤)
A-1:ジメチルシリコーン(動粘度5mm/s(25℃))
A-2:ジメチルシリコーン(動粘度10mm/s(25℃))
A-3:ジメチルシリコーン(動粘度20mm/s(25℃))
A-4:鉱物油(粘度40レッドウッド秒(40℃))
A-5:鉱物油(粘度80レッドウッド秒(40℃))
試験区分2(弾性繊維の製造)
分子量1000のポリテトラメチレングリコールとジフェニルメタンジイソシアネートとから得たプレポリマーをジメチルホルムアミド溶液中にてエチレンジアミンにより鎖伸長反応させ、濃度30%の紡糸ドープを得た。この紡糸ドープを紡糸口金から加熱ガス流中において乾式紡糸した。そして、巻き取り前の延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーより、乾式紡糸したポリウレタン系弾性繊維に、処理剤をローラーオイリング法でニート給油した。
【0048】
以上のようにローラー給油した弾性繊維を、巻き取り速度が600m/分で、長さ58mmの円筒状紙管に、巻き幅38mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて巻き取り、40デニールの乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージ500gを得た。処理剤の付着量の調節は、給油ローラーの回転数を調整することで何れも5%となるように行った。
【0049】
こうして得られた処理剤又はローラー給油した乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを用いて、平滑性としてFM摩擦、処理剤の安定性として配合時外観及びオイリングローラー(OR)ゲル、電気特性として漏洩抵抗について評価した。
【0050】
試験区分3(処理剤及び弾性繊維の評価)
・FM摩擦の評価
FM摩擦の評価は、試験区分2で得られた糸パッケージを使用した。編針1本が使用される評価の場合は、二つのフリーローラー間に編針1本が配置される。上記糸パッケージから引き出したポリウレタン系弾性繊維がフリーローラー、編針、フリーローラーの順に掛けられる。その際、編針を通るポリウレタン系弾性繊維の接触角度が90度となるように位置決めされる。
【0051】
編針3本が使用される評価の場合は、上記編針1本が使用される評価において、二つのフリーローラーがそれぞれ編針に置き換えられた構成が適用される。
評価方法は、まず編針3本が使用される評価が行われる。編針3本に糸を掛け、100m/分で送り出し、300m/分で巻取り、糸を3分走行させた。3分間に糸切れが発生した場合に、編針1本が使用される評価が行われる。編針1本が使用される評価も上記と同様の方法にて糸を3分間走行させた。評価結果を表1の「FM摩擦」欄に示す。
【0052】
・FM摩擦の評価基準
◎(良好):編み針3本で糸切れ無しの場合
○(可):編み針3本で糸切れし、編み針1本で糸切れ無しの場合
×(不可):編み針1本で糸切れの場合
-:処理剤調製時に液滴が生じ、測定不能の場合
・配合時外観の評価
試験区分1において得られた各例の処理剤について、外観を目視により下記の基準で評価した。評価結果を表1の「配合時外観」欄に示す。
【0053】
・配合時外観の評価基準
◎(良好):処理剤の外観が透明液状の場合
○(可):処理剤の外観が白濁、又は乳液状の場合
×(不可):処理剤に液滴がある場合
・ORゲルの評価
ORゲル測定装置を用いた測定方法により、試験区分1において得られた各例の処理剤の安定性を評価した。ORゲル測定装置は、ORとして所定の回転速度で横軸回転可能な直径70mm×ローラー幅20mmの横軸回転ドラムと、深さ約20mmの丸皿状のオイリングトレイを備える。横軸回転ドラム及びオイリングトレイは、オイリングトレイに所定量の処理剤を注いだ際、所定の深さで横軸回転ドラムの周面部が処理剤に浸るように配される。
【0054】
まず、オイリングトレイに各例の処理剤を満たし、ORの周面部が10mmの深さで浸る高さでORをセットする。1分間に5回転の速度でORを回転させる。OR回転開始から3日後及び1週間後にオイリングトレイの外観及びOR表面のゲルの有無を目視にて確認し、下記の基準で評価した。評価結果を表1の「ORゲル」欄に示す。
【0055】
・ORゲルの評価基準
◎(良好):オイリングトレイ中の処理剤の白濁無し、OR表面にゲル無しの場合
○(可):オイリングトレイ中の処理剤の白濁有り、OR表面にゲル無しの場合
×(不可):オイリングトレイ中の処理剤の白濁有り、OR表面にゲル有りの場合
-:処理剤調製時に液滴が生じ、測定不能の場合
・漏洩抵抗の評価
試験区分2において、ローラー給油した直後の弾性繊維5gの電気抵抗値を、25℃×40%RHの雰囲気下で、電気抵抗測定器(東亜電波工業社製のSM-5E型)を用いて測定した。測定値を下記の基準で評価した。評価結果を表1の「漏洩抵抗」欄に示す。
【0056】
・漏洩抵抗の評価基準
◎(良好):電気抵抗値1.0×10Ω未満の場合
○(可):電気抵抗値1.0×10Ω以上且つ1.0×1010未満の場合
×(不可):電気抵抗値1.0×1010Ω以上の場合
-:処理剤調製時に液滴が生じ、測定不能の場合
表1の各比較例に対する各実施例の評価結果からも明らかなように、本発明の処理剤によると、処理剤が付与された弾性繊維の電気特性及び平滑性を向上できる。また、処理剤の安定性を向上できる。
【要約】
【課題】電気特性の向上と弾性繊維用処理剤の安定性向上の両立を図ることができる弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維を提供する。
【解決手段】本発明の弾性繊維用処理剤は、ポリエーテル変性シリコーン、該ポリエーテル変性シリコーン以外の平滑剤、及び水を含有する弾性繊維用処理剤であって、前記弾性繊維用処理剤中における前記ポリエーテル変性シリコーンの含有割合が、0.01質量%以上10質量%以下であり、前記ポリエーテル変性シリコーンのHLBが、1以上7以下であることを特徴とする。
【選択図】なし