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特許7043130バイオマス材料の加圧環境下での処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】バイオマス材料の加圧環境下での処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/40 20220101AFI20220322BHJP
   B09B 3/00 20220101ALI20220322BHJP
【FI】
B09B3/00 302Z
B09B3/00 ZAB
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018045032
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2019155272
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】509293165
【氏名又は名称】谷黒 克守
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】谷黒 克守
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 和則
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴則
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-098330(JP,A)
【文献】特開2010-194501(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195407(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス材料を容器内に入れた後、該容器内に、(a)酸素含有ガスを酸素供給量換算で3.4~33.6g-O-1kg-AFS-1、で供給すると共に、(b)容器内をゲージ圧力で0.5~1.5MPaに保持し、(c)容器内の初期温度を85~160℃に設定して、外部より加熱してバイオマス材料の処理を開始し、バイオマス材料の温度がバイオマスの自己発熱により前記初期温度を上回ったら、前記酸素含有ガスの供給及び前記容器内のゲージ圧力は維持しつつ、加熱条件を(i)外部からの加熱を停止する、又は、(ii)加熱をバイオマス材料の温度と前記容器の囲繞空間の温度との温度差が1.5℃以内になるように制御するのみに抑える、のいずれかとして、反応を継続させることによって、前記バイオマス材料を少なくとも160℃を超える温度に自然上昇させて、該バイオマス材料を減量化及び炭化する、ことを特徴とするバイオマス材料の処理方法。
【請求項2】
前記バイオマス材料が少なくとも160℃を超える温度に自然上昇した後に、適当な温度に達したら、酸素含有ガスの供給を途中で止め、燃焼反応を止めることによって処理を終了させる、請求項1に記載のバイオマス材料の処理方法。
【請求項3】
(a)酸素含有ガスを酸素供給量換算で13.9~30.4g-O-1kg-AFS-1、で供給すると共に、(b)容器内を0.9~1.0MPaに保持し、(c)初期温度を85~130℃に設定する、請求項1に記載のバイオマス材料の処理方法。
【請求項4】
前記バイオマス材料を少なくとも160~300℃の温度に自然上昇させた後、減圧し、窒素ガスを供給しながら環境温度(25℃±10℃)まで冷却する、請求項1に記載のバイオマス材料の処理方法。
【請求項5】
前記バイオマス材料として、含水率40~80%の家畜ふんを用いる、請求項1に記載のバイオマス材料の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス材料の加圧環境下での処理方法に関し、さらに詳しくは、食品廃棄物、家畜排泄物、農産廃棄物、水産廃棄物、林産廃棄物等のバイオマス材料の減量化及び半炭化を低消費エネルギー量にて行うことができる、バイオマス材料の加圧環境下での処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物資源の循環利用への意識の高まりとともに、近年、廃棄系バイオマス材料の多くが堆肥化され、資源として土壌還元されるようになった。そのなかで、最も堆肥化・資源化が期待される畜産排泄物である家畜ふんや生ゴミ等の食品廃棄物(以下、これらを総称するときは「家畜ふん等」という。)は、発生時点では高水分でいわゆる泥濘状となっている場合が多い。そうした家畜ふん等は、泥濘状になっているために内部に空気(酸素)を取り込みにくく、通常の微生物分解による生化学反応が起きにくく堆肥化しにくいという難点がある。そのため、従来は、含水率を下げ、内部に酸素を取り込み易くする方法が採られている。
【0003】
含水率を下げる一つの手段として、バイオマス材料に熱エネルギーや送風等を与えて含水率を下げる方法があるが、コストの点で問題があり、現実的ではない。また、他の手段として、畜産排泄物である家畜ふんの場合のように、オガクズ、稲藁、籾殻等の農業副産物をバイオマス材料と混合して水分を下げ、その結果として空気を通り易くして微生物分解による生化学反応を促進する方法がある。しかし、この場合には、前記農業副産物を調達しにくい地域があったり、たとえ調達できたとしても農業副産物の加工作業が加わってコスト増大になったり、また、そうした農業副産物の混合はかえって総処理量が増してコスト増大になったりするという難点がある。
【0004】
廃棄系バイオマスを堆肥化・資源化せず、減量化して自然界に戻すことも考えられるが、その場合にも、泥濘状のバイオマスは含水率を下げなければならず、上記と同様の問題が起こる。また、泥濘状のバイオマスの含水率を単に下げて乾燥しただけでは微生物分解による堆肥化反応が起こっておらず、乾燥したバイオマスを自然界に再び戻すと元の泥濘状のバイオマスに戻ってしまう。また、人間排泄物と同様の下水処理を行うほどのコストもかけられない。
【0005】
廃棄系バイオマスの資源化・エネルギー化方法の一つとして炭化が挙げられ、バイオマスを原料として造られた炭はバイオ炭と呼ばれる。一般に炭化は、無酸素又は貧酸素環境下でバイオマスを500℃以上の温度域で熱分解し、バイオマス中に含まれる水素や酸素を取り除き相対的に炭素含有率の高い固形物(バイオ炭)を得る熱化学的プロセスである。しかしながら、バイオ炭製造には外部からの熱源が必要不可欠である。このような状況を受け、エネルギー及び固形物収率の向上を目指し、より低い温度域で炭化を行う半炭化技術も提案されている。
【0006】
特許文献1には、生ゴミを含有する廃棄物を水蒸気釜で加圧及び加熱(150~200℃)して廃棄物を炭化、減量化する廃棄物処理方法が提案されている。また、特許文献2では、乾燥装置内部の被乾燥物と接触している雰囲気ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定して、前記一酸化炭素の濃度を10ppm以上100ppm以下の所定の値に維持する有機物等の乾燥方法が記載されている。また、特許文献3には、厨芥を擂潰し下水と混合してスラリ原水をつくり、これを高圧ポンプで加圧すると共に酸素を含む高圧ガス又は高圧空気を圧入し、湿式酸化温度まで加熱した後、湿式酸化処理する厨芥の混合処理方法が提案されている。また、特許文献4には、畜産物等の廃棄物を、反応容器と加熱手段と加圧手段とを備えた亜臨界水分解装置を用いて、130~374℃の反応温度、反応温度の飽和水蒸気圧以上の反応圧力で亜臨界水分解処理する方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1~4のいずれでも、外部からの熱源によってその処理温度を高温にする必要があり、処理コストが高いという問題がある。具体的には、特許文献1では150~200℃という高温とすることが必要であり、特許文献2でも350~600℃の高温とすることが必要であり、特許文献3でも100~300℃の高温とすることが必要であり、特許文献4でも130~374℃の高温とすることが必要である。
【0008】
このような状況下にあって、本発明者は、先に、含水率の高い泥濘状の有機性廃棄物であってもその内部に酸素を効果的に共有すれば、微生物分解による生化学反応が促進して堆肥化を実現できることを見出し、さらに、驚くべきことに、微生物分解による自己発熱が終了する温度(約70℃前後)を超え、100℃、200℃と温度が上昇する現象を見出し、有機性廃棄物を加圧可能な密閉容器内に入れ、大気圧を超え15気圧以下の加圧環境下で前記有機性廃棄物の内部に酸素を強制的に供給し、酸素が供給された前記有機性廃棄物の内部温度を該有機性廃棄物内に存在する微生物の有機物分解反応によって少なくとも55℃まで上昇させる第1反応段階と、第1反応段階により少なくとも55℃以上となった有機性廃棄物を密閉した前記容器内で、酸素と、前記第1反応段階後の有機性廃棄物を発生源とする100ppm以上の一酸化炭素の存在下に保持して100℃以上の温度にまで上昇させる第2反応段階と、を有することを特徴とする、又は、前記有機性廃棄物を配管及び弁を有する密閉可能な容器内に入れ、前記有機性廃棄物の内部にチューブを用いて酸素を直接注入して供給し、酸素が供給された前記有機性廃棄物の内部温度を該有機性廃棄物内に存在する微生物の有機物分解反応によって少なくとも55℃まで上昇させる第1反応段階と、第1反応段階により少なくとも55℃以上となった有機性廃棄物を密閉した前記容器内で、酸素と、前記第1反応段階後の有機性廃棄物を発生源とする100ppm以上の一酸化炭素の存在下に保持して100℃以上の温度にまで上昇させる第2反応段階と、を有することを特徴とする、有機性廃棄物の処理方法を提案した(特許文献5)。
【0009】
さらに、本発明者は、検討を進め、前記と同様の温度上昇は、含水率が低い他のバイオマス材料であっても、初期において特定の条件下に置くことにより自然に温度上昇が起こり、従来のような高温加熱を行わなくてもバイオマス材料の減量化又は炭化を行うことができることを見出し、バイオマス材料を容器内に入れた後、該容器内を(a)酸素含有雰囲気、(b)55℃~80℃、(c)大気圧超~15気圧、及び(d)一酸化炭素濃度が100ppm以上、の全てを満たす初期環境とすることによって、前記バイオマス材料を80℃を超える温度に上昇させ、前記80℃を超えた後は、前記容器内を(ア)酸素含有雰囲気、(イ)大気圧超~15気圧、及び(ウ)一酸化炭素濃度が100ppm以上、の全てを満たす継続環境とすることによって、前記バイオマス材料を少なくとも150℃を超える温度に自然上昇させて、該バイオマス材料を減量化又は炭化することを特徴とするバイオマス材料の処理方法を提案した(特許文献6)。
【0010】
特許文献5,6の処理方法によれば、静置した状態では酸素が内部に浸透しにくく微生物による生化学反応が起きにくい泥濘状の有機性廃棄物であっても、その内部に酸素を強制的に供給することにより、バイオマスの酸化による自己昇温反応を促進させ且つ継続させることができ、有機性廃棄物の堆肥化・資源化を実現できるものであった。
【0011】
しかしながら、このような特許文献5,6の処理方法でも、従来方法よりは消費エネルギー量の低下は望めるものの、その方式上、乾燥が進みにくいことに加え、減圧操作等により乾燥を進めようとするとバイオマスの自己昇温反応が阻害されることが懸念されており、バイオマスの乾燥と炭化を同時に行う省エネルギーな処理方法の開発が望まれるところであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2001-137806号公報
【文献】特開2000-46472号公報
【文献】特開平1-310799号公報
【文献】WO2005/077514(国際公開パンフレット)
【文献】特開2009-249240号公報
【文献】特開2011-98330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、その目的は、食品廃棄物、家畜排泄物、農産廃棄物、水産廃棄物、林産廃棄物等のバイオマス材料を極めて低コストで減量化及び炭化させることができる、バイオマス材料の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するために、バイオマスの自己昇温反応を用いた新たな半炭化システムについて検討した。酸化反応によってバイオマスの自己昇温反応を促し、任意の温度まで昇温させることでバイオマスの乾燥と分解を行う。このシステムではバイオマスの自己昇温反応がより低い温度域で始まるほど、炭化に要するエネルギー量は少なくなると予想された。
【0015】
このような理由から、バイオマスの自己昇温反応を引き起こすため、低温酸化反応(low temperature oxidation、LTO)に着目した。低温酸化反応は100℃以下で進み、石炭の自己昇温及び自然発火の主な熱源であることが知られている(Wang H, Dlugogorski BZ, Kennedy EM. Coal oxidation at low temperatures: oxygen consumption, oxidation products, reaction mechanism andkinetic modelling. Prog Energy Combust Sci 2003;29:487-513. doi:10.1016/S0360-1285(03)00042-X.)。低温での酸化反応は比較的遅く、かつ水分量の影響を大きく受ける。適切な水分量であれば、水自身が触媒や反応場としての役割を担うことで、バイオマスと酸素の反応を促進するのに対し、過剰な水分量は反応を阻害する(Petit JC. A comprehensive study of the water vapour/coal system: application to the role of water in the weathering of coal. Fuel 1991;70:1053-8. doi:10.1016/0016-2361(91)90259-D.; 上記Wang et al., 2003; Yu J, Tahmasebi A, Han Y, Yin F, Li X. A review on water in low rank coals: The existence, interaction with coal structure and effects on coal utilization. Fuel Process Technol 2013;106:9-20. doi:10.1016/j.fuproc.2012.09.051.)。
【0016】
これはつまり、たとえ高水分バイオマスであっても、安定した酸素供給が行われれば低温酸化反応及びバイオマスの自己昇温反応が達成されることを示唆している。溶存酸素量は雰囲気圧力が上昇するにつれて増加すると考えられる。このことから、バイオマスを高圧環境に置き、安定した酸素環境を実現することで、低温酸化反応とそれに続くバイオマスの自己昇温反応が促進されると予想した。
【0017】
そこで、ゲージ圧力0.9MPa、比較的高い一定酸素供給量のもと、バイオマスの低温酸化反応及び自己昇温反応が誘発される温度域で研究を進めた。その結果、バイオマスの自己昇温はこの雰囲気で85℃以上の温度域で開始することが確認された。バイオマスは酸化的分解と自身の発熱のみでの300℃までの昇温と乾燥プロセスを経ることで、バイオ炭へと変換された。以上のことから、高圧環境下におけるバイオマスの自己昇温反応を用いた酸化的半炭化の実現性が示され、本発明に至ったものである。
【0018】
すなわち、上記課題を解決する本発明のバイオマス材料の処理方法は、バイオマス材料を容器内に入れた後、該容器内に、(a)酸素含有ガスを酸素供給量換算で3.4~33.6g-O-1kg-AFS-1で供給すると共に、(b)容器内をゲージ圧力で0.5~1.5MPaに保持し、(c)初期温度を85~160℃に設定して、外部より加熱してバイオマス材料の処理を開始し、バイオマス材料の温度がバイオマスの自己発熱により前記初期温度を上回ったら、前記酸素含有ガスの供給及び前記容器内のゲージ圧力は維持しつつ、加熱条件を、(i)外部からの加熱を停止する、又は、(ii)加熱をバイオマス材料の温度と前記容器の囲繞空間の温度との温度差が1.5℃以内になるように制御するのみに抑える、のいずれかとして、反応を継続させることによって、前記バイオマス材料を少なくとも160℃を超える温度に自然上昇させて、該バイオマス材料を減量化及び炭化することを特徴とする。
【0019】
本発明に係るバイオマス材料の処理方法において、前記バイオマス材料が少なくとも160℃を超える温度に自然上昇した後に、適当な温度に達したら、酸素含有ガスの供給を途中で止め、燃焼反応を止めることによって処理を終了させる。
【0020】
本発明に係るバイオマス材料の処理方法において、(a)酸素含有ガスを酸素供給量換算で13.9~30.4g-O-1kg-AFS-1、で供給すると共に、(b)容器内をゲージ圧力で0.9~1.0MPaに保持し、(c)初期温度を85~130℃に設定することが好ましい。
【0021】
本発明に係るバイオマス材料の処理方法において、前記バイオマス材料を少なくとも160~300℃の温度に自然上昇させた後、減圧し、窒素ガスを供給しながら環境温度(25℃±10℃)まで冷却することが好ましい。
【0022】
本発明に係るバイオマス材料の処理方法において、前記バイオマス材料として、含水率40~80%の家畜ふんを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るバイオマス材料の処理方法によれば、バイオマス材料を容器内に入れた後にその容器内を比較的高加圧条件で高酸素供給条件下で所定温度まで加熱することで、バイオマス材料に低温酸化反応及び自己昇温反応を誘発させることができる。さらに、その温度上昇が開始した後は、先の加圧条件及び酸素供給条件を維持することによって、バイオマス材料を高温にまで自然上昇させてバイオマス材料を減量化及び炭化することができる。その結果、従来のような高温加熱を行わなくてもよく、極めて低コストでバイオマス材料の減量化及び炭化を実現できる。また、反応系に供給するガスは、空気に代表される酸素含有ガスのみでよいため、その制御の上でも、コスト的な上でも特に有利な方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係るバイオマス材料の処理方法を実施するのに用いられる装置の一例を示す構成図である。
図2】ゲージ圧力0.9MPaに加圧下でバイオマスの初期温度80℃~100℃に設定した場合の、バイオマスの自己昇温反応による温度の経時的変化を示すグラフである。
図3】本発明に係るバイオマス材料の処理方法の一実施例でのバイオマスの処理における、(a)酸素供給速度と酸素消費温度と、(b)CO、CO発生速度の、バイオマス温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係るバイオマス材料の処理方法についてその実施形態に基づき詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の好ましい例であって、その実施形態に限定解釈されるものではない。
【0026】
[バイオマス材料の加圧環境下での処理方法]
本発明に係るバイオマス材料の処理方法は、比較的高い加圧条件下で比較的高い酸素ガス供給を行って所定の初期温度までバイオマス材料を加熱することで、バイオマス材料の低温酸化反応とその後の自己昇温反応を促し、これによってバイオマス自身の発熱のみで乾燥と炭化を行うものである。
【0027】
そして、その特徴は、バイオマス材料を容器内に入れた後、該容器内に、(a)酸素含有ガスを酸素供給量換算で3.4~33.6g-O-1kg-AFS-1で供給すると共に、(b)容器内をゲージ圧力で0.5~1.5MPaに保持し、(c)初期温度を80~160℃に設定して、外部より加熱してバイオマス材料の処理を開始し、バイオマス材料の温度がバイオマスの自己発熱により前記初期温度を上回ったら、前記酸素含有ガスの供給及び前記容器内圧力は維持しつつ、外部からの加熱を停止する、又は、加熱をバイオマス材料の温度と前記容器体の囲繞空間の温度との温度差が1.5℃以内になるように制御するのみに抑えて、反応を継続させることによって、前記バイオマス材料を少なくとも160℃を超える温度に自然上昇させて、該バイオマス材料を減量化及び炭化することを特徴とするバイオマス材料の処理方法である。
【0028】
以下、本発明の構成について詳しく説明する。なお、以下において、特に断らない限り「%」は「重量%(質量%)」である。
【0029】
(バイオマス材料)
バイオマス材料は、食品廃棄物、家畜排泄物、農産廃棄物、水産廃棄物及び林産廃棄物から選ばれる1種又は2種以上の廃棄物である。具体的には、生ゴミ等の食品廃棄物(食品残滓)、牛、豚、馬等の家畜排泄物(糞尿)、余剰生産品、選別排除品、加工副産物(米ぬか等)等の農産廃棄物、過剰水揚品、加工ゴミ等の水産廃棄物、木くず、木材チップ、加工ゴミ等の林産廃棄物等を挙げることができる。これらは、それぞれ単独であってもよいし、複数の種類を混合したものであってもよい。
【0030】
バイオマス材料は、その含水率は関係なく、泥濘体であっても乾燥体であってもよいし、また、既に堆肥化されたものであってもなくてもよい。一例としては、含水率が高く、静置した状態では酸素が内部に浸透しにくく微生物による生化学反応が起きにくいバイオマス材料;全体として又は局部的に泥濘化して通気性が悪いバイオマス材料;含水率が低い(0%も含む。)乳牛ふん、木材チップ、玄米等のような炭素を基質に持つドライ系のバイオマス材料;既に堆肥化されたバイオマス材料;等を適用できる。
【0031】
堆肥化されたバイオマス材料とは、酸素に接触して起こる微生物の有機物分解反応によって少なくとも55℃まで上昇して堆肥化されたものである。このバイオマス材料は、堆肥化(コンポスト化)された後に本発明の処理方法に適用されて減量化又は炭化されることになるので、その後の埋め立て等により再び自然界に戻すことができる。
【0032】
バイオマス材料の含水率が家畜排泄物(糞尿)や農産廃棄物等のように全体として80%以上であるか、全体では多くないが局部的に80%以上であるものは、泥濘状になっているが、本発明の処理方法では寧泥状のバイオマス材料でも問題なく使用できる。
【0033】
バイオマス材料が生ゴミ等の食品廃棄物である場合は、その含水率は、そのバイオマス材料全体として40%以上であるか、全体では多くないが局部的に40%以上である。上記した家畜排泄物(糞尿)や農産廃棄物等のように繊維質を多く含むものである場合は、全体又は局部的な含水率が80%以上で泥濘化する。一方、繊維質をそれほど多く含まない生ゴミ等では、80%未満でも泥濘化し、通常40%以上で泥濘化する傾向がある。こうした食品廃棄物でも、上記同様、本発明の処理方法では問題なく使用できる。含水率が「全体として」とは、バイオマス材料に水分が均等に又は比較的均等に含まれている場合における割合を指している。一方、含水率が「局部的に」とは、バイオマス材料全体としては80%未満(例えば畜産排泄物等の場合)又は40%未満(例えば生ゴミ等の食品廃棄物の場合)であっても、部分的に見れば80%以上又は40%以上の泥濘状になっている部分がある場合を指している。
【0034】
バイオマス材料全体の含水率の測定は、ある程度の量のバイオマス材料を試料として採取し、その試料の乾燥前後の質量測定で評価できる。一方、バイオマス材料の局部的な含水率は、局部的に少量の試料を採取し、その乾燥前後の質量測定により評価できる。特に限定されるわけではないが、本発明のバイオマス材料の処理方法における、被処理体としては、含水率40~80%の家畜ふんが望ましい。
【0035】
こうしたバイオマス材料とともに、他の廃棄物を混入させてもよい。他の廃棄物としては、例えば家庭からの生ゴミと一緒に廃棄されやすいプラスチック材料(バラン、ヒトツバ、ボトルキャップ、ストロー、輪ゴム、包装材等)、紙製品、木製品(割り箸、爪楊枝等)等が挙げられる。なお、プラスチック材料は種類によって耐熱性が異なるので、ここでは、ガラス転移温度が200℃以下のプラスチック材料、特に150℃以下のプラスチック材料、例えばポリエチレンナフタレート(ガラス転移温度:120℃)、ポリブチレンテレフタレート(75℃)、ポリエチレンテレフタレート(75℃)、ポリフェニレンサルファイド(90℃)、ポリエーテルエーテルケトン(143℃)、ポリカーボネート(145℃)からなるものを挙げることができる。これらの廃棄物をバイオマス材料とともに混入することにより、少なくとも150℃を超える温度に上昇するバイオマス材料と共に減量化又は炭化することができる。
【0036】
(処理容器)
図1は、本発明に係るバイオマス材料の処理方法で用いられ得る装置の一例を示す構成図である。バイオマス材料90を収納し、加温及び加圧条件下で反応場を提供する反応容器100としては、このような所定の加温及び加圧条件に耐えて実質的な密封空間を形成できるものであれば、その形状等は特に限定されるものではない。
【0037】
容器100の材質は特に限定されないが、バイオマス材料90に対して耐腐食性があり、また、耐熱性のある材質からなるものであればよく、例えばステンレス鋼等を例示できる。また、内部に収納されるバイオマス材料90の断熱性を保つための保温構造を有するものであることが望ましく、例えば、容器100の壁面は空気によって隔たれた二重構造としたり、断熱材を配したもの等とすることが好ましい。
【0038】
容器100内の加圧の方法は、容器100内を上記所定の加圧条件に保持できるものであれば特に限定されることはない。所定の圧力値を担うのは、通常、圧縮酸素又は圧縮空気、或いは、圧縮ポンプ又はコンプレッサー等の圧力印加手段が適用される。一方で、容器100内へは、上記所定の供給量で、酸素含有ガスが供給される。
【0039】
酸素含有ガスは、純酸素や高濃度酸素を用いることも可能ではあるが、コスト的な観点から空気(酸素含有率約21%)を用いることが望ましい。もちろん、必要に応じて、空気と、純酸素又は高濃度酸素といった2種又はそれ以上のものを組み合わせて用いることもできる。
【0040】
容器100内の加圧と、容器100内への酸素含有ガスの供給とは、独立した機構とすることは可能であるが、その効率的にも機構的にも、1つの系統とすることが簡便なものであり好ましい。例えば、図1に示す例のように、圧縮空気(空気ボンベ10)とマスフローコントローラ30を用いて容器100底部から所定酸素供給量で供給し、容器上部からの排気ライン上の背圧レギュレータ120で容器内部圧力を所定値に調整するものである。なお、容器100には、図1に示すように大気圧~2.0MPa程度の圧力を測定できる圧力計110が設けられている。圧力計としては、市販のものを適用でき特に限定されない。
【0041】
容器100の加温手段も特に限定されるものではなく、例えば、容器壁面外部に巻装された電熱ヒータ、又は図1に示すように、ヒータ60とファン50とを備えた熱風式オーブン130、その他、赤外線、高周波誘導等による加熱等を用いることが可能であるが、上記した80℃~160℃という所定の初期温度を制御性よく保持する上では、図1に示すようなオーブン130を用い、その内部に反応容器100を収納する構成を採ることが好ましい。オーブン130の壁面はまた断熱材で覆われていることが望ましい。
【0042】
容器100には、耐熱被覆された熱電対等の温度計80が設けられている。その温度計80は容器内に設けられ、好ましくはバイオマス材料90が充填される部位に設けられていることが好ましく、容器内でのバイオマス材料90の温度を正確に測定することができる。
【0043】
オーブン130内にも耐熱被覆された熱電対等の温度計70が設けられている。その温度計70はオーブン130内に設けられ、オーブン130内、すなわち、容器100を外部より加熱する囲繞空間の温度を正確に測定することができるようになっている。
【0044】
図1に示す例では、それぞれの温度計80及び90で計測されたバイオマス材料の温度データと、オーブン内部の温度データとは、マイクロコンピューター等の自動演算処理装置40へと送られ、そこで両データのその差分から、プログラムによって、オーブン130のヒータ60の発熱量及びファン50の回転数を制御し、所定の温度に保持できるように構成されている。
【0045】
図1では、容器からの排気ライン上に背圧レギュレータ120の後方に順に、液体捕集装置140、ガスサンプリング口150、アンモニア捕集装置160、脱臭装置(シリカゲル)170及び酸素センサ180が設けられている。背圧レギュレータは容器内圧力を調整するためのものであり、それと同様の働きを有する機器又は装置構成であればこれに限定されない。その他の装置はいずれも反応排ガスの処理、分析等の目的で設けられているものであって、いずれも本発明の方法の実施で必須の構成ではなく、また、その配置順序に関しても特に限定されるものではない。
【0046】
(初期環境)
本発明に係る処理方法では、バイオマス材料90を容器100内に入れた後、その容器内を、(a)酸素含有ガスを酸素供給量換算で3.4~33.6g-O-1kg-AFS-1、より好ましくは、13.9~30.4g-O-1kg-AFS-1で供給すると共に、(b)容器内をゲージ圧力で0.5~1.5MPa、より好ましくは、0.9~1.0MPaに保持し、(c)初期温度を80~160℃、より好ましくは85~130℃に設定して、外部より加熱する。
【0047】
本発明では、前記したように、たとえ高水分バイオマスであっても、安定した酸素供給が行われれば低温酸化反応及びバイオマスの自己昇温反応が達成されるとの考え、また溶存酸素量は雰囲気圧力が上昇するにつれて増加するとの考えから、バイオマスを比較的高圧環境に置き、比較的高い酸素供給量を与えるものである。
【0048】
処理されるバイオマス材料の含水率、及び容器内の設定圧力によってもある程度影響されるが、酸素含有ガスを酸素供給量換算で3.4~33.6g-O-1kg-AFS-1で供給すれば、上記所定の初期温度で、バイオマスの低温酸化反応及び自己昇温反応を誘発することが可能である。なお、酸素含有ガスとして空気を用いる場合には、上記酸素供給量とするために、概略換算値で、空気の通気量を0.2~2.0Lmin-1kg-AFS-1程度とすればよい。このようにして供給された酸素は、必須の雰囲気ガスとして容器内に含まれ、バイオマス材料90の炭素と反応して発熱反応に寄与する。
【0049】
容器内をゲージ圧力で0.5~1.5MPaとすることは、容器内における溶存酸素量高める上から必要である。高圧環境は高い水分状態であっても、バイオマスと酸素の反応を助け、さらには低温酸化反応及びバイオマスの自己昇温を引き起こしている可能性が極めて高いこと。また、高圧化に伴う沸点上昇が100℃付近で起きる水分蒸発による熱損失を抑えている効果もある。容器内のゲージ圧力が0.5MPa未満では、高い酸素供給量を与え、初期温度として所定の温度に設定しても、バイオマスの自己昇温反応を誘発することができない。100℃付近での熱発生速度は小さいため、例えば、大気圧環境のもとでは水分蒸発による熱損失速度が大きいため自己昇温にはつながらない。一方、ゲージ圧力で1.5MPaを超える圧力は、耐圧のための設備構成等が大がかりなものとなり、経済的な観点から、また作業安全性の上からもあまり望ましいものではない。容器内の圧力は、常に一定になるように制御されていてもよいし、上記所定の圧力範囲内であれば任意に変動するものであってもよい。
【0050】
容器内の温度は、80~160℃に設定される。温度をこの範囲にすることによって、バイオマス材料90に低温酸化反応及び自己昇温反応を生じさせることができ、300℃程度までの温度に上昇させることができる。温度が85℃未満では、反応による熱発生速度が通気による熱損失速度よりも小さくなり顕著な温度変化は生じないおそれがある。一方、160℃を超える温度に設定することは、消費エネルギーの削減という本来の目的から逸脱することとなるために好ましくない。なお、この温度は初期環境での範囲であるので、容器内のバイオマス材料90の温度がバイオマス材料の自己昇温反応によって、当該初期温度を超えて後述する「昇温環境」に移行した後では、外部からの加熱を停止する、又は、加熱をバイオマス材料の温度と前記容器体の囲繞空間の温度との温度差が1.5℃以内になるように制御するのみに抑えてよい。
【0051】
以上、特定の初期環境とすることによって、バイオマス材料の低温酸化反応及び自己発熱反応を誘発して、バイオマス材料の温度を前記初期温度を超える温度に上昇させることができる。
【0052】
(昇温環境)
本発明に係る処理方法では、バイオマス材料の温度がバイオマスの自己発熱により前記初期温度を上回ったら、前記酸素含有ガスの供給及び前記容器内圧力は維持しつつ、外部からの加熱を停止する、又は、加熱をバイオマス材料の温度と前記容器体の囲繞空間の温度との温度差が1.5℃以内になるように制御するのみに抑えて、反応を継続させることによって、前記バイオマス材料を少なくとも160℃を超える温度に自然上昇させ、該バイオマス材料を減量化及び炭化することができる。なお、この昇温環境は、温度要件及びそのための加熱要件除いて前記した初期環境とほぼ同じである。
【0053】
酸素含有ガスを酸素供給量換算で3.4~33.6g-O-1kg-AFS-1で供給することは、昇温環境に移行しても継続される。
【0054】
容器内の圧力も上記した初期環境と同様にゲージ圧力0.5~1.5MPaに保持する。この範囲の圧力とすることにより、上述した酸素をバイオマス材料内に容易に注入し、バイオマス材料の炭化を進行させることができる。
【0055】
なお、本発明に係る処理方法では、昇温環境を継続させると、バイオマス温度は300℃を超えてそれ以上の温度まで昇温させることが可能である。しかし、バイオマス材料90の半炭化という観点からは、300℃を超えての加熱処理は、バイオマス材料に過酷な条件となる。そうしたことから、170℃以上でかつ300℃以下、より好ましくは230℃以上でかつ280℃以下で反応を停止させ、バイオマス材料の炭化物を得ることが望ましい。
【0056】
反応の停止は、酸素供給(通気)を止め、適当な燃焼温度で反応を燃焼を止めることにより容易に行うことができる。また、得られたバイオマス材料の炭化物のさらなる分解を防ぐ上では、反応停止後、減圧し、窒素ガスを供給しながら環境温度(25℃±10℃)まで冷却することが好ましい。
【実施例
【0057】
次に、具体的な実験例を示して本発明に係るバイオマス材料の処理方法についてさらに詳しく説明する。
【0058】
[実験1]
実験試料として、乳牛ふんが用いられた。実験に先立ち、湿った試料を105℃で24時間乾燥させ、次いで600℃で3時間焼却することで水分と灰分を測定した。有機物(揮発成分及び固定炭素)の総量は、乾燥固形分から灰分を差し引いて決定された、灰分フリー固形分(ash-free-solid、AFS)と表された。試料(200±1g、含水率63±2% wet basis (wb))を、各実験おいて反応容器中に入れた。
【0059】
実験システムの概略図を図1に示す。反応容器100としては、容積約1 Lのステンレス製耐圧容器を使用した。実験試料90の断熱性を保つため、容器の壁面は空気によって隔たれた二重構造となっている。反応容器100をオーブン130内に設置し、空気ボンベ10とマスフローコントローラ30(F-201CV Series、Bronkhorst社製)を用いて容器100底部から通気した。通気量は0.83±0.02L min-1kg-AFS-1(酸素供給量:13.9±0.4g-O-1kg-AFS-1に相当)に設定した。容器100内の圧力は背圧レギュレータ120(BP-3 Series、Go Regulator社製)にて1.0MPa(=ゲージ圧力:0.9MPa)になるよう調整した。排気中に含まれるガス種の濃度(O、CO、CO)はそれぞれ、酸素センサ180及びガスクロマトグラフ(GC-4000、GL Science、Inc.製)にて測定した。各種ガス濃度はサルデスら(Saludes et al.)の方法に従い消費速度又は発生速度へと変換した(Saludes RB、 Iwabuchi K、 Kayanuma A、 Shiga T. Composting of dairy cattle manure using a thermophilic-mesophilic sequence. Biosyst Eng 2007;98:198-205. doi:10.1016/j.biosystemseng.2007.07.003.)。
【0060】
バイオマスの低温酸化反応及び自己発熱が開始する温度域を調べるため、初期温度を4水準(80、85、90、100℃)に設定した。バイオマスの自己発熱により、材料温度が初期温度を上回ったのち、オーブン内の温度と試料の温度が1.5℃以内になるように制御した。バイオマスの温度が300℃に達したのち、実験を終了した。実験終了後のバイオマス分解を防ぐため、減圧したのち、窒素ガスを供給しながら環境温度(25℃±10℃)まで冷却した。試料温度が300℃から200℃まで下がるのは20分程度であった。比較のため、大気圧(0.1MPa)のもと開始温度100℃で実験を行なった。
【0061】
試料の元素分析は元素分析装置(CE-440、Exeter Analytical、Inc.製)を用いてCHN含有量を測定した。なお酸素量は差分(O=100-C-H-N-Ash)にて求めた。各元素の重量減少率はチェンら(Chen et al.)の方法に則って算出した(Chen W-H、 Kuo P-C. Torrefaction and co-torrefaction characterization of hemicellulose、 cellulose and lignin as well as torrefaction of some basic constituents in biomass. Energy 2011;36:803-11. doi:10.1016/j.energy.2010.12.036.)。高位発熱量(HHV)はボンベ式熱量計(O.S.K200、小川サンプリング株式会社製) にて測定した。測定されたHHVと固形物収率によって求められる、エネルギー収率はルゥら(Lu et al.)の計算式に従い求めた(Lu K-M、 Lee W-J、 Chen W-H、 Liu S-H、 Lin T-C. Torrefaction and low temperature carbonization of oil palm fiber and eucalyptus in nitrogen and air atmospheres. Bioresour Technol 2012;123:98-105. doi:10.1016/j.biortech.2012.07.096.)。
【0062】
[結果]
反応中の試料温度を図2に示す。オーブンの初期温度を85℃以上に設定した場合、バイオマスの自己昇温反応が進み、300℃までの昇温が確認された。昇温中、乾燥プロセスにより160~170℃付近で24時間程度の温度停滞が観察された(水の沸点はゲージ圧力0.9MPaで約180℃)。一方、初期温度80℃ではわずかな昇温は起きたものの、バイオマスの自己昇温反応に至ることはなかった。
【0063】
酸素消費及びCO、COの発生速度を図3に示す。酸素消費速度は、温度の上昇に伴い増加した。140℃以上の温度域では、消費速度は一定(13.6g-O-1kg-AFS-1)となり、おおよそ供給速度と同じであった。CO発生速度も酸素消費速度と同様の傾向を示した。CO発生速度は100℃から140℃の間で急激に増加し、140℃以上ではおよそ15.0g-CO-1kg-AFS-1であった。それに対し、CO発生速度は指数関数的に増加し、300℃のとき0.8g-COh-1kg-AFS-1であった。
【0064】
原料と作製されたバイオ炭の性質を表1に示す。バイオ炭の含水率が1.0%以下であり、乾燥は十分に行われていた。プロセスを経ることでバイオ炭の炭素、水素、酸素量は減少した。各元素の重量減少率は、炭素で62.5%、水素で88.5%、そして酸素で80.3%であった。バイオ炭のHHVは灰分率が高かったため、原料よりも低くなった。固形物及びエネルギー収率はそれぞれ乾物基準で47.1%と34.9%であった。
【0065】
【表1】
【0066】
バイオマスの低温酸化反応及び自己昇温は、ゲージ圧力0.9MPaの雰囲気で初期温度85℃以上で起こり、300℃まで昇温することが確認された。
【0067】
初期温度は反応速度、特に低い温度域における反応速度とプロセス全体の期間に影響を及ぼすことがわかった。初期温度85℃及び90℃で始めた場合、100℃と比べて、300℃に到達するまで20時間以上の差があった。したがって、より短期間でプロセスを終えるには初期温度100℃以上で行うことが適していると言える。本実験で、初期温度80℃は低温酸化反応を誘発したように思われたが、反応による熱発生速度が通気による熱損失速度よりも小さかったため顕著な温度変化は見られなかった。
【0068】
高圧環境は反応プロセスの促進に大きく貢献している。大気圧環境下で、低温酸化反応の最大反応速度は限界含水率である7~17%(乾燥基準(db))であり(Chen XD, Stott JB. The effect of moisture content on the oxidation rate of coal during near-equilibrium drying and wetting at 50℃. Fuel 1993;72:787-92. doi:10.1016/0016-2361(93)90081-C.)、これ以上の水分状態では反応が阻害されることが予想される。一方で、本実験のように高圧環境下では、含水率63%wb(≒170%db)の乳牛ふんを用いた場合であっても、低温酸化反応及びその後のバイオマスの自己昇温が観察された。すなわち、高圧環境は高い水分状態であっても、バイオマスと酸素の反応を助け、さらには低温酸化反応及びバイオマスの自己昇温を引き起こしている可能性が極めて高いことが示された。また、高圧化に伴う沸点上昇が100℃付近で起きる水分蒸発による熱損失を抑えている効果もある。すでに述べたとおり、100℃付近での熱発生速度は小さいため、大気圧(0.1MPa=ゲージ圧力(0.0MPa))環境のもとでは水分蒸発による熱損失速度が大きいため自己昇温にはつながらない。このように高圧環境は確かに低温酸化反応及びバイオマスの自己昇温反応を促進する。
【0069】
一般に炭化プロセスでは、バイオマス中の酸素量が減少するのに対し相対的に炭素含有量が増加する。しかし、元素分析の結果、反応中の酸化反応により水素、酸素の減少とともに炭素損失も進んでいたことが確認された。一方で各元素の重量減少率を見ると、水素と酸素の減少率の方が炭素減少率よりも大きかった。このことから、牛ふんは炭へと変換されていることが示された。
【0070】
元素及び発熱量の分析結果から、300℃までの昇温反応はバイオ固形燃料を作製するという視点では過酷な条件であったと言える。半炭化は温度域(230℃、260℃、300℃)によってその激しさが3段階に分類される(Chen W-H, Kuo P-C. Torrefaction and co-torrefaction characterization of hemicellulose, cellulose and lignin as well as torrefaction of some basic constituents in biomass. Energy 2011;36:803-11. doi:10.1016/j.energy.2010.12.036.)。本実験は300℃に到達した時点で反応を終了させており、牛ふんは激しい半炭化を経たと言える。さらに、酸化的半炭化はバイオマスの熱的分解温度を下げ、分解速度を増大させることが報告されている(Calvo LF, Otero M, Jenkins BM, Moran A, Garcia AI. Heating process characteristics and kinetics of rice straw in different atmospheres. Fuel Process Technol 2004;85:279-91. doi:10.1016/S0378-3820(03)00202-9;
【0071】
Chiang W-F, Fang H-Y, Wu C-H, Chang C-Y, Chang Y-M, Shie J-L. Pyrolysis Kinetics of Rice Husk in Different Oxygen Concentrations. J Environ Eng 2008;134:316-25. doi:10.1061/(ASCE)0733-9372(2008)134:4(316);
【0072】
Fang MX, Shen DK, Li YX, Yu CJ, Luo ZY, Cen KF. Kinetic study on pyrolysis and combustion of wood under different oxygen concentrations by using TG-FTIR analysis. J Anal Appl Pyrolysis 2006;77:22-7. doi:10.1016/j.jaap.2005.12.010;
【0073】
Wang C, Peng J, Li H, Bi XT, Legros R, Lim CJ, et al. Oxidative torrefaction of biomass residues and densification of torrefied sawdust to pellets. Bioresour Technol 2013;127:318-25. doi:10.1016/j.biortech.2012.09.092.)。このようなことから、本発明において、炭化の最適条件は300℃よりも低い温度域であると示唆された。
【0074】
上記のように、ゲージ圧力0.9MPaの雰囲気下で、バイオマスの低温酸化反応及び自己昇温反応が開始する温度域で調べた結果、バイオマスの自己昇温は85℃以上の温度域で開始することが確認された。プロセスの途中、酸素不足が起きたものの300℃までの昇温が確認され、バイオマスは酸化的分解と乾燥プロセスを経ることで、バイオ炭へと変換された。以上のことから、高圧環境下における、バイオマスの自己昇温反応を用いた酸化的半炭化の実現可能性が示された。

図1
図2
図3