(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】液晶ポリマー組成物、液晶ポリマー成形体、および電気電子機器
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20220322BHJP
C08L 67/03 20060101ALI20220322BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20220322BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
C08L101/12
C08L67/03
C08K7/06
C08K9/06
(21)【出願番号】P 2022502940
(86)(22)【出願日】2021-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2021039272
【審査請求日】2022-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2020181592
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 洋
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-323262(JP,A)
【文献】特開2020-045501(JP,A)
【文献】特開2009-276587(JP,A)
【文献】特開平10-206861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/12
C08L 67/03
C08K 7/06
C08K 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー(A)と、粒子状炭素材(B)と、補強材(C)とを含み、
前記液晶ポリマー(A)は、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーであり、
前記粒子状炭素材(B)の一次粒子径が、10nm以上、50nm以下であり、
前記補強材(C)の表面における少なくとも一部が、疎水性表面処理剤により構成されている処理層により覆われて
おり、
前記疎水性表面処理剤が、下記一般式(I)で表されるアルコキシシランであることを特徴とする、液晶ポリマー組成物。
R
1
n
Si(OR
2
)
4-n
…式(I)
[一般式(I)において、nは1~3から選択される任意の整数を示し、R
1
はアルキル基、アルケニル基、またはアリール基を示し、R
2
はアルキル基を示す。]
【請求項2】
前記補強材(C)の平均繊維長が、1μm~300μmであることを特徴とする、請求項
1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項3】
前記補強材(C)が、チタン酸カリウム繊維およびワラストナイト繊維のうち少なくとも一方であることを特徴とする、請求項1
または請求項2に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項4】
前記粒子状炭素材(B)が、カーボンブラックおよびカーボンナノチューブのうち少なくとも一方であることを特徴とする、請求項1~請求項
3のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項5】
前記粒子状炭素材(B)の前記補強材(C)に対する質量比(粒子状炭素材(B)/補強材(C))が1/400~10であることを特徴とする、請求項1~請求項
4のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項6】
前記液晶ポリマー(A)が、液晶ポリエステルであることを特徴とする、請求項1~請求項
5のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項7】
カメラモジュールに用いられることを特徴とする、請求項1~請求項
6のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項8】
請求項1~請求項
7のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物の成形体であることを特徴とする、液晶ポリマー成形体。
【請求項9】
前記液晶ポリマー成形体が、カメラモジュール用部材であることを特徴とする、請求項
8に記載の液晶ポリマー成形体。
【請求項10】
請求項
8または請求項
9に記載の液晶ポリマー成形体を備え、カメラ機能を有することを特徴とする、電気電子機器。
【請求項11】
前記カメラ機能を搭載したスマートフォンまたはタブレット型端末であることを特徴とする、請求項
10に記載の電気電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマー組成物、該液晶ポリマー組成物を用いた液晶ポリマー成形体、および該液晶ポリマー成形体を用いた電気電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマーは、機械強度、成形性、寸法精度、耐薬品性、耐湿性、電気的性質などが優れるため、様々な部品に用いられている。特に、製造工程における耐熱性、薄肉成形性が優れることから、精密機器等の電子部品、例えばカメラモジュールへの使用が検討されている。
【0003】
液晶ポリマーからなる液晶ポリマー成形体のカメラモジュールへの使用に際しては、小さなゴミ、塵、埃等がレンズやイメージセンサーに付着すると光学特性が低下する。そのため、通常、このような光学特性の低下を防ぐ目的で、カメラモジュール使用部品の組み立て前に超音波洗浄され、表面に付着している小さなゴミ、塵、埃等が除去される。しかしながら、液晶ポリマー成形体では、液晶ポリマーの結晶配向性が高いことから液晶ポリマー成形体表面が剥離しやすく、超音波洗浄すると表面が剥離し、毛羽立つ現象(フィブリル化)が生じることが知られている。フィブリル化した部分からは小さな粉(パーティクル)が発生しやすく、生産性が低下するという問題がある。
【0004】
一方で、カメラモジュールは、スマートフォンやタブレット型端末等の多くの機器類に組み込まれており、オートフォーカス(AF)機構、光学的手振れ補正(OIS)機構等のアクチュエーター機構を有するカメラモジュールが広く普及している。
【0005】
近年では、機器および部品の小型化や薄型化が進行し、機器の携帯頻度が増加したことに伴い、オートフォーカス(AF)機構や光学的手振れ補正(OIS)機構に使用されるカメラモジュール使用部品とレンズとの摺動時に発生するパーティクルの抑制に加えて、機器および部品の耐衝撃性などの機械的強度を改善することや、衝突時や落下時に発生するパーティクルの抑制が課題となっている。
【0006】
そこで、カメラモジュール使用部品の遮光性を確保し、空気中のゴミや埃の付着防止を目的として、液晶ポリマーに漆黒性と特に耐衝撃性などの機械的強度を付与し、衝突時や落下時に発生するパーティクルを抑制する機能を付与する必要が出てきた。一般に、樹脂に漆黒性または帯電防止性などの機能性を付与するには、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの粒子状炭素材を添加したものが用いられるが、これらの粒子状炭素材の構造は非常に複雑で端的に凝集塊となって存在しているため、液晶ポリマーへの溶融混錬ではこの凝集塊が粘度の低い溶融した樹脂の中を漂う形となり、混練時のシェアがかかり難く、特に分散が難しいことが知られている。この結果、分散不良が起こった場合には、凝集塊に応力が集中し破壊起点となるため、機械的強度が著しく低下してしまう恐れがあり、本来の目的を達成することが困難となる場合がある。例えば、カーボンブラックの場合は縮合ベンゼン環が擬似グラファイト構造と呼ばれる結晶子として配列し、その結晶子が集合して一次粒子を形成し、一次粒子が融着することによりアグリゲート構造を形成し、更にアグリゲート構造同士がファンデルワールス力により結合した構造体として、凝集塊が存在することとなる。
【0007】
例えば、特許文献1では、熱可塑性樹脂と所定の平均繊維径以下の炭素微細繊維とからなる導電性樹脂成分を含む導電性熱可塑性樹脂組成物を成形してなる帯電防止性樹脂成形品に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1には、空気中のゴミや埃の液晶ポリマーへの付着防止や、成形時の金型への部品付着を防止し、カメラモジュール使用部材などの成形品の遮光性を確保する目的で、液晶ポリマーに漆黒性または帯電防止性を付与する手段は開示されていない。特に、耐衝撃性などの機械的強度を付与し、衝突時や落下時に発生するパーティクルを抑制する手段は開示されていない。
【0010】
本発明はかかる問題を解決することを目的とし、遮光性に優れ、特に耐衝撃性などの機械的強度を高めることができる液晶ポリマー組成物、該液晶ポリマー組成物を用いた液晶ポリマー成形体、並びに該液晶ポリマー成形体を用いた電気電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、液晶ポリマー(A)と、粒子状炭素材(B)と、補強材(C)とを含み、粒子状炭素材(B)の一次粒子径が、10nm以上、50nm以下であり、補強材(C)の表面における少なくとも一部が、疎水性表面処理剤により構成されている処理層により覆われていることにより、遮光性に優れ、カーボンブラック等の粒子状炭素材を含有した樹脂成形品では不足しがちとなる機械的強度、特に耐衝撃性において優れた効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0012】
項1 液晶ポリマー(A)と、粒子状炭素材(B)と、補強材(C)とを含み、前記粒子状炭素材(B)の一次粒子径が、10nm以上、50nm以下であり、前記補強材(C)の表面における少なくとも一部が、疎水性表面処理剤により構成されている処理層により覆われていることを特徴とする、液晶ポリマー組成物。
【0013】
項2 前記疎水性表面処理剤が、下記一般式(I)で表されるアルコキシシランであることを特徴とする、項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【0014】
R1
nSi(OR2)4-n …式(I)
[一般式(I)において、nは1~3から選択される任意の整数を示し、R1はアルキル基、アルケニル基またはアリール基を示し、R2はアルキル基を示す。]
【0015】
項3 前記補強材(C)の平均繊維長が、1μm~300μmであることを特徴とする、項1または項2に記載の液晶ポリマー組成物。
【0016】
項4 前記補強材(C)が、チタン酸カリウム繊維およびワラストナイト繊維のうち少なくとも一方であることを特徴とする、項1~項3のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物。
【0017】
項5 前記粒子状炭素材(B)が、カーボンブラックおよびカーボンナノチューブのうち少なくとも一方であることを特徴とする、項1~項4のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物。
【0018】
項6 前記粒子状炭素材(B)の前記補強材(C)に対する質量比(粒子状炭素材(B)/補強材(C))が1/400~10であることを特徴とする、項1~項5のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物。
【0019】
項7 前記液晶ポリマー(A)が、液晶ポリエステルであることを特徴とする、項1~項6のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物。
【0020】
項8 カメラモジュールに用いられることを特徴とする、項1~項7のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物。
【0021】
項9 項1~項8のいずれか一項に記載の液晶ポリマー組成物の成形体であることを特徴とする、液晶ポリマー成形体。
【0022】
項10 前記液晶ポリマー成形体が、カメラモジュール用部材であることを特徴とする、項9に記載の液晶ポリマー成形体。
【0023】
項11 項9または項10に記載の液晶ポリマー成形体を備え、カメラ機能を有することを特徴とする、電気電子機器。
【0024】
項12 前記カメラ機能を掲載したスマートフォンまたはタブレット型端末であることを特徴とする、項11に記載の電気電子機器。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、遮光性に優れ、耐衝撃性などの機械的強度を高めることができる液晶ポリマー組成物、該液晶ポリマー組成物を用いた液晶ポリマー成形体、および該液晶ポリマー成形体を用いた電気電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0027】
<液晶ポリマー組成物>
本発明の液晶ポリマー組成物は、液晶ポリマー(A)と、粒子状炭素材(B)と、補強材(C)とを含み、必要に応じて、硫酸バリウム(D)、固体潤滑剤、その他添加剤をさらに含有することができる。
【0028】
本発明の液晶ポリマー組成物の各構成成分等について以下説明する。
【0029】
<液晶ポリマー組成物の必須成分>
(液晶ポリマー(A))
本発明の液晶ポリマー組成物は、液晶ポリマー(A)(以下「成分(A)」という場合がある。)を含有する。液晶ポリマー(A)とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーをいう。光学的異方性溶融相は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法によって確認することができる。液晶ポリマー(A)は、分子形状が細長く、扁平で分子の長鎖に沿って剛性が高い分子鎖(「メソゲン基」という)を有するものであり、液晶ポリマー(A)はメソゲン基を高分子主鎖又は側鎖のいずれか一方又は両方に有していればよいが、得られる液晶ポリマー成形体が、より高い耐熱性を求めるならば高分子主鎖にメソゲン基を有するものが好ましい。
【0030】
成分(A)としては、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルカーボネート、液晶ポリエステルイミド、液晶ポリアミド等が挙げられるが、これらの中でも、より強度に優れた液晶ポリマー成形体を得る観点からは液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド又は液晶ポリアミドが好ましく、より低吸水性の液晶ポリマー成形体が得られる点で、液晶ポリエステル又は液晶ポリエステルアミドが好ましく、液晶ポリエステルがより好ましい。より具体的には以下の(A1)~(A6)等の液晶ポリマーを挙げることができ、これらから選ばれる液晶ポリマーを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて成分(A)として使用してもよい。
【0031】
(A1)式(1)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル;
(A2)式(2)で表される繰り返し単位および式(3)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル;
(A3)式(1)で表される繰り返し単位、式(2)で表される繰り返し単位、および式(3)で表される繰り返し単位からなる液晶ポリエステル;
(A4)(A1)において、式(1)で表される繰り返し単位の一部又は全部を式(4)で表される繰り返し単位に置き換えてなる、液晶ポリエステルアミド又は液晶ポリアミド;
(A5)(A2)において、式(3)で表される繰り返し単位の一部又は全部を式(5)で表される繰り返し単位および/又は式(6)で表される繰り返し単位に置き換えてなる、液晶ポリエステルアミド又は液晶ポリアミド;
(A6)(A3)において、式(3)で表される繰り返し単位の一部又は全部を式(5)で表される繰り返し単位および/又は式(6)で表される繰り返し単位に置き換えてなる、液晶ポリエステルアミド等の液晶ポリマーを挙げることができ、これらから選ばれる液晶ポリマーを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて、液晶ポリマー(A)として使用してもよい。
【0032】
【0033】
(式中、Ar1およびAr4はそれぞれ独立に、1,4-フェニレン基、2,6-ナフタレンジイル基又は4,4-ビフェニリレン基を表す。Ar2、Ar3、Ar5およびAr6はそれぞれ独立に、1,4-フェニレン基、2,6-ナフタレンジイル基、1,3-フェニレン基又は4,4-ビフェニリレン基を表す。また、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6は、その芳香環上の水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基に置換されていてもよい。)
【0034】
式(1)で表される繰り返し単位は、芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される繰り返し単位であり、該芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、7-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、6-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、4-ヒドロキシビフェニル-4-カルボン酸、又はこれらの芳香族ヒドロキシカルボン酸にある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。
【0035】
式(2)で表される繰り返し単位は、芳香族ジカルボン酸から誘導される繰り返し単位であり、該芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、フタル酸、4,4-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、又はこれら芳香族ジカルボン酸にある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0036】
式(3)で表される繰り返し単位は、芳香族ジオールから誘導される繰り返し単位であり、該芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレン-2,6-ジオール、4,4-ビフェニレンジオール、3,3-ビフェニレンジオール、4,4-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン又はこれら芳香族ジオールにある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ジオールが挙げられる。
【0037】
式(4)で表される繰り返し単位は、芳香族アミノカルボン酸から誘導される繰り返し単位であり、該芳香族アミノカルボン酸としては、4-アミノ安息香酸、3-アミノ安息香酸、6-アミノ-2-ナフトエ酸、又はこれら芳香族アミノカルボン酸にある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族アミノカルボン酸が挙げられる。
【0038】
式(5)で表される繰り返し単位は、ヒドロキシ基を有する芳香族アミンから誘導される繰り返し単位であり、4-アミノフェノール、3-アミノフェノール、4-アミノ-1-ナフトール、4-アミノ-4-ヒドロキシジフェニル、又はこれらヒドロキシ基を有する芳香族アミンにある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ヒドロキシアミンが挙げられる。
【0039】
式(6)で表される繰り返し単位は、芳香族ジアミンから誘導される構造単位であり、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン又はこれらの芳香族ジアミンにある芳香環上の水素の一部又は全部が、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子に置換されてなる芳香族ジアミンが挙げられる。
【0040】
上述の構造単位を有する置換基として例示されているアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基などの、炭素数1~10の直鎖、分岐又は脂環状のアルキル基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基やナフチル基などの炭素数6~10のアリール基が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0041】
成分(A)の中でも、(A1)~(A3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の液晶ポリエステルが、より耐熱性や寸法安定性に優れた液晶ポリマー成形体が得られる点で好ましく、(A1)又は(A3)の液晶ポリエステルが特に好ましい。
【0042】
成分(A)の中でも、キャピラリーレオメーターで融点より20℃~40℃高い溶融温度で測定したずり速度1.0×103sec-1での溶融粘度が1.0×103mPa・s~1.0×105mPa・sである液晶ポリマーが好ましい。例えば、液晶ポリマーは、熱変形温度の違いにより、荷重たわみ温度が260℃以上のものがI型と称され、荷重たわみ温度が210℃以上260℃未満のものがII型と称されるが、I型の液晶ポリマーは融点より30℃高い温度で測定し、II型の液晶ポリマーは融点より40℃高い温度で測定する。
【0043】
成分(A)の形状は、溶融混練が可能であれば特に制限はなく、例えば、粉末状、顆粒状、ペレット状のいずれも使用することができる。
【0044】
本発明の液晶ポリマー組成物における成分(A)の含有量は、液晶ポリマー組成物全量100質量%中において40質量%~98質量%であることが好ましく、60質量%~94質量%であることがより好ましく、70質量%~90質量%であることが更に好ましい。
【0045】
(粒子状炭素材(B))
本発明の液晶ポリマー組成物における粒子状炭素材(B)(以下「成分(B)」という場合がある。)は、特に限定されず、例えば、カメラモジュール使用部品等の液晶ポリマー成形体の遮光性を確保する目的で使用されるものであって、樹脂着色に用いられる一般的に入手可能なものを好適に使用することができる。
【0046】
粒子状炭素材(B)としては、例えば、黒鉛;アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ロールブラック、ディスクブラック等のカーボンブラック;カーボンナノチューブ;カーボンフィブリル等を用いることができる。本発明の液晶ポリマー組成物から成形された液晶ポリマー成形体の遮光性をより一層高める観点からは、粒子状炭素材(B)が、カーボンブラックであることが好ましい。なお、これらの粒子状炭素材(B)は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0047】
本発明において、粒子状炭素材(B)の一次粒子径は、10nm以上、50nm以下である。
【0048】
粒子状炭素材(B)の一次粒子径が10nm以上、50nm以下であると、本発明の液晶ポリマー組成物や本発明の液晶ポリマー組成物から成形された液晶ポリマー成形体を製造する際に、液晶ポリマー組成物中に粒子状炭素材(B)を分散させ易い。また、本発明の液晶ポリマー組成物から成形された液晶ポリマー成形体の表面抵抗値を十分に低くすることができるため、液晶ポリマー成形体における帯電量の増加を抑制することができる。このようにして得られた液晶ポリマー成形体においては、液晶ポリマー成形体の面内の表面抵抗値を均一にし易い。その結果、液晶ポリマー成形体の面内のいずれの場所においても、帯電量の増加を抑制することができる。粒子状炭素材(B)の一次粒子径は、15nm以上、45nm以下であることが好ましく、20nm以上、45nm以下であることがより好ましい。
【0049】
本発明において、粒子状炭素材(B)の一次粒子径は、透過型電子顕微鏡により測定される一次粒子径の平均値である算術平均粒子径(数平均)を採用することができる。
【0050】
本発明において、粒子状炭素材(B)のDBP吸油量は、好ましくは90cm3/100g以上、好ましくは550cm3/100g以下である。
【0051】
粒子状炭素材(B)のDBP吸油量が高いほど、粒子状炭素材(B)の表面近傍の空隙が多いことを意味する。粒子状炭素材(B)の表面近傍の空隙が多いと、液晶ポリマー組成物中で粒子状炭素材(B)同士が引っかかりやすく、連結しやすい。
【0052】
粒子状炭素材(B)のDBP吸油量が90cm3/100g以上であると、液晶ポリマー組成物から成形された液晶ポリマー成形体は、粒子状炭素材(B)の連結部分で電気を十分通しやすくなる。その結果、成形体の表面抵抗値をより一層十分に低くすることができる。したがって、成形体における帯電量の増加をより一層十分に抑制することができる。しかし、粒子状炭素材(B)のDBP吸油量が高すぎると、粒子状炭素材(B)の表面近傍の空隙が多すぎて、液晶ポリマー組成物中で粒子状炭素材(B)同士が強く引っかかりやすい。液晶ポリマー(A)、粒子状炭素材(B)、補強材(C)および所望により添加される添加剤を溶融混練する際に、これらの混合物の溶融粘度が高くなる場合がある。その結果、混合物を混錬しにくくなって、液晶ポリマー組成物を製造することが困難となる場合がある。粒子状炭素材(B)のDBP吸油量が550cm3/100g以下であると、液晶ポリマー(A)、粒子状炭素材(B)、補強材(C)および所望により添加される添加剤を溶融混練する際に、これらの混合物の粘度が高くなり過ぎない。その結果、混合物を造粒しやすくなり、本発明の液晶ポリマー組成物を製造することがより一層容易となる。粒子状炭素材(B)のDBP吸油量は、好ましくは90cm3/100g以上、より好ましくは92cm3/100g以上、好ましくは550cm3/100g以下、より好ましくは525cm3/100g以下である。
【0053】
本発明において、DBP吸油量は、ジブチルフタレートアブソーブドメーターによって、JIS K 6221に準拠して測定される値を採用する。
【0054】
本発明において、粒子状炭素材(B)のBET比表面積は、75m2/g以上、1500m2/g以下であることが好ましく、95m2/g以上、1350m2/g以下であることがより好ましく、100m2/g以上、1300m2/g以下であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明において、BET比表面積は、BET比表面積測定器を用いて、液体窒素温度下で窒素ガスを吸着させ、吸着量を測定し、BET法で算出した値を採用する。BET比表面積測定器としては、例えば、Micromeritics社製、「AccuSorb 2100E」を用いることができる。
【0056】
粒子状炭素材(B)のBET比表面積が上記下限値以上であると、本発明の液晶ポリマー組成物から成形された液晶ポリマー成形体は、粒子状炭素材(B)の連結部分で電気を十分通しやすくなる。その結果、液晶ポリマー成形体の表面抵抗値をより一層低くすることができる。したがって、成形品における帯電量の増加をより一層抑制することができる。
【0057】
本発明の液晶ポリマー組成物や成形品の製造時に、粒子状炭素材(B)のBET比表面積が上記上限値以下であると、液晶ポリマー(A)、粒子状炭素材(B)、補強材(C)および所望により添加される添加剤を溶融混練する際に、これらの混合物の溶融粘度が高くなり過ぎない。その結果、混合物をより一層混錬しやすくなり、本発明の液晶ポリマー組成物を製造することがより一層容易となる。
【0058】
本発明の液晶ポリマー組成物における成分(B)の含有量は、液晶ポリマー組成物全量100質量%中において0.1質量%~5.0質量%の範囲とすることが好ましく、1.0質量%~4.5質量%がより好ましく、2.0質量%~4.0質量%がさらに好ましい。成分(B)の配合量が少なすぎると、得られる液晶ポリマー組成物の漆黒性が低下し、遮光性が十分確保できない場合がある。
【0059】
また、成分(B)の配合量が多すぎると、溶融混錬時に粘度の低い溶融させた液晶ポリマーからなる樹脂の中を凝集塊(粒子状炭素材(B)が凝集した細かいブツブツ状の突起物)が漂う形となり、混練時のシェアが掛かり難く、分散不良が起こる可能性が高くなり、凝集塊に応力が集中し破壊起点となるため、液晶ポリマー成形体の機械的強度が著しく低下してしまう恐れがあり、本来の目的を達成することが困難となる場合がある。
【0060】
成分(B)の含有量を0.1質量%~5.0質量%の範囲とすることで、液晶ポリマー組成物の分散性を向上させ、得られる液晶ポリマー成形体の耐熱性、機械強度とりわけ耐衝撃特性をより一層向上させることができる。
【0061】
補強材(C)が後述するワラストナイト繊維である場合、本発明の液晶ポリマー組成物における成分(B)の含有量は、液晶ポリマー組成物全量100質量%中において0.1質量%~5.0質量%の範囲とすることが好ましく、1.0質量%~4.5質量%がより好ましく、2.5質量%~4.0質量%がさらに好ましい。この場合、得られる液晶ポリマー成形体の動摩擦係数および/または静摩擦係数をより一層低めることができる。
【0062】
補強材(C)が後述するチタン酸カリウム繊維である場合、本発明の液晶ポリマー組成物における成分(B)の含有量は、液晶ポリマー組成物全量100質量%中において0.1質量%~5.0質量%の範囲とすることが好ましく、1.0質量%~4.5質量%がより好ましく、1.5質量%~4.0質量%がさらに好ましい。この場合、得られる液晶ポリマー成形体の動摩擦係数および/または静摩擦係数をより一層低めることができる。
【0063】
(補強材(C))
本発明の液晶ポリマー組成物は、補強材(以下「成分(C)」という場合がある。)を含有する。成分(C)としては、繊維状補強材、板状補強材等があり、好ましくは繊維状補強材である。繊維状補強材の具体例としては、炭素繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、ワラストナイト繊維、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸マグネシウム、ゾノトライト、酸化亜鉛、塩基性硫酸マグネシウム、アルミナ繊維、シリコンカーバイド繊維、ボロン繊維等の無機繊維;アラミド繊維、ポリフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維等の有機繊維が挙げられ、好ましくは無機繊維である。これらの補強材(C)は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0064】
成分(C)は、繊維状粒子から構成される粉末であることが好ましい。パーティクルの発生をより一層低減する観点から、平均繊維長は、好ましくは1μm~300μmであり、より好ましくは1μm~200μmであり、さらに好ましくは3μm~100μmであり、特に好ましくは5μm~50μmである。平均アスペクト比は、好ましくは3~200であり、より好ましくは3~100であり、さらに好ましくは3~50であり、特に好ましくは3~40である。
【0065】
本発明において繊維状粒子とは、粒子に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い辺を長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さT(B>T)と定義したときに、L/BおよびL/Tがいずれも3以上の粒子のことをいい、長径Lが繊維長、短径Bが繊維径に相当する。
【0066】
成分(C)は、液晶ポリマー成形体の摺動特性をより一層高める観点から、モース硬度が5以下であることが好ましく、例えば、チタン酸カリウム繊維、ワラストナイト繊維、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸マグネシウム、ゾノトライト、酸化亜鉛、塩基性硫酸マグネシウム等が挙げられる。機械強度をより一層高める観点から、成分(C)は、チタン酸カリウム繊維およびワラストナイト繊維のうち少なくとも一方であることが好ましい。モース硬度とは、物質の硬さを表す指標であり、鉱物同士を擦り付けて傷ついたほうが硬度の小さい物質となる。
【0067】
チタン酸カリウム繊維としては、従来公知のものを広く使用でき、例えば、4チタン酸カリウム繊維、6チタン酸カリウム繊維、8チタン酸カリウム繊維等が挙げられる。チタン酸カリウム繊維の寸法は、上述の寸法の範囲であれば特に制限はないが、平均繊維長が好ましくは1μm~50μm、より好ましくは3μm~30μm、さらに好ましくは3μm~20μmである。平均繊維径が好ましくは0.01μm~1μm、より好ましくは0.05μm~0.8μm、さらに好ましくは0.1μm~0.7μmである。平均アスペクト比が好ましくは10以上、より好ましくは10~100、さらに好ましくは15~35である。これらの繊維補強材は市販品でも使用でき、例えば、大塚化学社製の「TISMO D」(平均繊維長15μm、平均繊維径0.5μm)、「TISMO N」(平均繊維長15μm、平均繊維径0.5μm)等を使用することができる。
【0068】
ワラストナイト繊維は、メタ珪酸カルシウムからなる無機繊維である。ワラストナイト繊維の寸法は上述の繊維補強材の寸法の範囲であれば特に制限はないが、平均繊維長が好ましくは5μm~180μm、より好ましくは10μm~100μm、さらに好ましくは20μm~40μmである。平均繊維径が好ましくは0.1μm~15μm、より好ましくは1μm~10μm、さらに好ましくは2μm~7μmである。平均アスペクト比が好ましくは3以上、より好ましくは3~30、さらに好ましくは3~15である。これらの繊維補強材は市販品でも使用でき、例えば、大塚化学社製の「バイスタルW」(平均繊維長25μm、平均繊維径3μm)等を使用することができる。
【0069】
上述の平均繊維長および平均繊維径は、走査型電子顕微鏡の観察により測定することができ、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は平均繊維長および平均繊維径より算出することできる。例えば、走査型電子顕微鏡により、複数の繊維補強材を撮影し、その観察像から繊維補強材を任意に300個選択し、それらの繊維長および繊維径を測定し、繊維長の全てを積算して個数で除したものを平均繊維長、繊維径の全てを積算して個数で除したものを平均繊維径とすることができる。
【0070】
成分(A)および成分(B)の濡れ性を高め、得られる液晶ポリマー成形体の漆黒性や機械強度等の物性をより一層向上させるために、成分(C)の表面には表面処理剤からなる処理層が形成される。
【0071】
より具体的には、成分(C)は、表面における少なくとも一部が、疎水性表面処理剤により構成されている処理層により覆われている、補強材であることが好ましい。なお、処理層は、補強材の表面における50%以上を覆っていることが好ましく、80%以上を覆っていることがより好ましい。もっとも、処理層は、補強材の表面全体を覆っていることが特に好ましい。
【0072】
疎水性表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミネート系カップリング剤等を挙げることできる。これらの中でもシランカップリング剤が好ましく、疎水性のアルキル系シランカップリング剤がより好適に使用される。
【0073】
疎水性のシランカップリング剤としては、アルキル基、アリール基等の本質的に疎水性の官能基と、補強材表面の親水性基と反応し得る基を生成する加水分解性の官能基とを有するものであればよく、このような疎水性のアルキル系シランカップリング剤の代表例としては、例えば、一般式(I)で表されるアルコキシシランを挙げることができる。
【0074】
R1
nSi(OR2)4-n …式(I)
〔一般式(I)において、nは1~3から選択される任意の整数を示し、R1はアルキル基、アルケニル基又はアリール基を示し、それらの基は置換基を有していてもよい。R1が複数存在する場合には互いに同一であっても異なっていてもよい。R2はアルキル基を示し、それらの基は置換基を有していてもよく、R2が複数存在する場合には互いに同一であっても異なっていてもよい。〕
【0075】
R1で示されるアルキル基としては、例えば、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等のアルキル基を挙げることができる。得られる液晶ポリマー成形体の耐衝撃性をより一層高める観点からは、上記アルキル基の炭素数は、好ましくは8以上、より好ましくは10以上である。また、得られる液晶ポリマー成形体の動摩擦係数および/または静摩擦係数をより一層低める観点からは、上記アルキル基の炭素数は、さらに好ましくは12以上、特に好ましくは14以上である。なお、アルキル基の炭素数の上限値は、特に限定されないが、例えば、20以下とすることができる。
【0076】
これらのアルキル基は、環状構造を有していてもよく、分岐構造を有していてもよく、一般に直鎖の炭素数が多いほど疎水性の程度が大きい傾向がある。該アルキル基は任意の位置に、後述する置換基を1個~4個(好ましくは1個~3個、より好ましくは1個)有していてもよい。
【0077】
R1で示されるアルケニル基としては、例えば、ビニル基、ブテニル基等を挙げることができ、これらは環状構造を有していてもよく、分岐構造を有していてもよい。該アルケニル基は任意の位置に、後述する置換基を1個~4個(好ましくは1個~3個、より好ましくは1個)有していてもよい。
【0078】
R1で示されるアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。該アリール基は任意の位置に、後述する置換基を1個~4個(好ましくは1個~3個、より好ましくは1個)有していてもよい。
【0079】
上記R1で示される基は、その疎水性を阻害しない限り、それぞれ置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えば、フッ素原子、(メタ)アクリロキシ基等の疎水性の置換基が挙げられる。
【0080】
さらに上記のアルキル基は、疎水性の置換基として上記で例示したアリール基を有していてもよいし、上記のアリール基は、疎水性の置換基としてアルキル基を有していてもよい。
【0081】
R2で示されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等を挙げることができる。一般式(1)で表されるアルコキシシラン中のアルコキシ基(OR2)は加水分解性の基であることから、加水分解性の観点からR2は炭素数4以下の低級アルキル基が好適であり、より好ましくはエチル基またはメチル基が好ましく、メチル基であることが最も好ましい。nは、1~3から選択される任意の整数を示し、補強材粒子表面との反応性および疎水性の観点から、好ましくは1である。
【0082】
上述のアルコキシシランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、へプチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、イコシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、イコシルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等を挙げることができ、これは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0083】
本発明において表面処理剤の疎水性の度合いは、ガラス板表面を表面処理剤で処理し、該処理面の表面自由エネルギーを測定することで表すことができる。本発明において表面自由エネルギーは、ガラス板へメタノールで10倍希釈した表面処理剤を均一に塗布し、85℃で1時間加熱後、110℃で1時間加熱処理を行い、表面処理剤を塗布した面の表面自由エネルギーを水とデカンの2液静的接触角を測定することから算出することで測定できる。例えば、デシルトリメトキシシランの表面自由エネルギーは28mN/m、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの表面自由エネルギーは55mN/m、3-アミノプロピルトリエトキシシランの表面自由エネルギーは68mN/mである。
【0084】
本発明で使用される表面処理剤としては、特に限定されるものではないが、液晶ポリマーの成形加工温度において熱安定性が良好で、物理的、化学的に安定であり、且つガラス板上に均一に処理された時の表面自由エネルギーが、50mN/m以下であることが好ましく、下限値は特に限定されないが好ましくは1mN/mである。なお、表面自由エネルギーが50mN/m超の表面処理剤であっても、2種以上を混合することにより、表面自由エネルギーを50mN/m以下としてもよい。
【0085】
表面処理剤の表面自由エネルギーが50mN/mを超えると液晶ポリマー(A)よりも表面自由エネルギーが高くなり、混練、成形加工時の補強材(C)の破損により破損面から溶出する金属イオンを制御できないため、液晶ポリマーの加水分解が促進される場合がある。そのため、表面自由エネルギーの範囲が50mN/m以下で調製された補強材(C)を液晶ポリマー(A)に充填することが好ましい。
【0086】
さらには補強材(C)の表面処理後の吸油量が、130ml/100g以下であることが好ましく、80ml/100g~130ml/100gであることがより好ましい。
【0087】
吸油量が130ml/100gを超えると極端に液晶ポリマー(A)との相溶性が低下するため著しく生産性が低下し、さらには表面処理された補強材(C)の充填量を増加できないという問題が生じる場合がある。
【0088】
また、補強材(C)の表面処理剤での表面処理後の吸油量の測定は、精製アマニ油法〔JIS K5101-13-1〕を用いて測定することができる。
【0089】
本発明において、補強材(C)への表面処理方法としては、あらかじめカップリング剤を補強材(C)表面へ処理する方法として乾式法および湿式法が知られており、どちらの方法も使用することができる。その際の表面処理濃度は補強材(C)に対して0.1質量%~3.0質量%、好ましくは0.5質量%~1.5質量%程度が適当である。
【0090】
成分(C)の表面に表面処理剤からなる処理層を形成する方法としては、公知の表面処理方法を使用することができるが、例えば、ヘンシェルミキサーのような高速撹拌可能な装置に補強材を仕込み、撹拌下、表面処理剤(液体の場合)または加水分解を促進する溶媒(例えば、水、アルコール又はこれらの混合溶媒)に表面処理剤を溶解した溶液を補強材に噴霧する乾式法等でなされる。
【0091】
表面処理剤を本発明で用いる補強材(C)の表面へ処理する際の該表面処理剤の量は特に限定されないが、乾式法の場合、例えば、補強材(C)100質量部に対して表面処理剤が0.1質量部~20質量部、好ましくは0.1質量部~10質量部、より好ましくは0.3質量部~5質量部、さらにより好ましくは0.5質量部~3質量部、最も好ましくは0.8質量部~1.2質量部となるように表面処理剤の溶液を噴霧すればよい。
【0092】
表面処理剤の量を上記範囲内にすることで、成分(A)および成分(B)の密着性がより一層向上し、補強材(C)の分散性をより一層向上することができる。
【0093】
本発明の液晶ポリマー組成物における成分(C)の含有量は、液晶ポリマー組成物全量100質量%中において0.5質量%~40質量%が好ましく、5質量%~25質量%がより好ましく、10質量%~25質量%がさらに好ましい。
【0094】
成分(C)の含有量を0.5質量%~40質量%の範囲とすることで、耐熱性、機械強度とりわけ耐衝撃特性をより一層向上することができる。
【0095】
本発明の液晶ポリマー組成物における成分(B)と成分(C)の質量比((B):(C)(粒子状炭素材(B)/補強材(C)))は、0.1:40~5:0.5(1/400~10)が好ましく、0.5:25~5:5(1/50~1)がより好ましく、2:25~4:10(2/25~2/5)がさらに好ましい。成分(B)と成分(C)の質量比を、0.1:40~5:0.5(1/400~10)の範囲とすることで、漆黒性、導電性、耐熱性、機械強度とりわけ耐衝撃特性をより一層向上することができる。
【0096】
本発明の液晶ポリマー組成物は、上記のような液晶ポリマー(A)と、粒子状炭素材(B)と、補強材(C)を含むことにより、遮光性に優れ、特に耐衝撃性などの機械的強度を高めることができる。
【0097】
<液晶ポリマー組成物の任意成分>
(硫酸バリウム(D))
本発明の液晶ポリマー組成物は、必要に応じて、硫酸バリウム(D)(以下「成分(D)」という場合がある。)を含有することができる。成分(D)には、重晶石と呼ばれる鉱物を粉砕して脱鉄洗浄、水簸して得られる簸性硫酸バリウム(バライト粉)と、人工的に合成する沈降性硫酸バリウムがある。沈降性硫酸バリウムは合成時の条件により粒子の大きさを制御することができ、目的とする粗大粒子の含有量が少ない、微細な硫酸バリウムを製造することができる。不純物をより一層少なくし、粒度分布をより一層均一にする観点から、沈降性硫酸バリウムを用いることが好ましい。
【0098】
成分(D)は、粉末であることが好ましく、その平均粒子径は、好ましくは0.1μm~50μmであり、より好ましくは0.1μm~30μmであり、さらに好ましくは0.1μm~5μmであり、さらにより好ましくは0.3μm~1.2μmであり、特に好ましくは0.3μm~0.8μmであり、最も好ましくは0.3μm~0.5μmである。平均粒子径を上記範囲とすることで摺動時の摩擦係数をより一層小さくすることができる。
【0099】
成分(D)の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定することができ、レーザー回折・散乱法により測定される粒度分布における体積基準累積50%時の粒子径(体積基準累積50%粒子径)、すなわちD50(メジアン径)である。この体積基準累積50%粒子径(D50)は、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積曲線において、粒子サイズの小さいものから粒子数をカウントしていき、累積値が50%となる点の粒子径である。
【0100】
成分(D)の粒子形状は、球状、柱状、板状、棒状、円柱状、ブロック状、不定形状等の非繊維状粒子であれば特に限定されないが、好ましくは球状または不定形状である。硫酸バリウムの粒子形状は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察から解析することができる。成分(D)は表面処理されていてもよく、その処理剤としてはコーティング剤、分散剤、改質剤などをあげることができ、具体的には脂肪酸、ワックス、非イオン系界面活性剤、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、リン系化合物、アルミナなどのアルミニウム塩、二酸化ケイ素などのケイ酸塩、二酸化チタンなどのチタニウム塩等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいが2種以上を併用して使用することもできる。
【0101】
本発明の液晶ポリマー組成物における成分(D)の含有量は、液晶ポリマー組成物全量100質量%中において1質量%~30質量%が好ましく、1質量%~20質量%がより好ましく、1質量%~15質量%がさらに好ましく、1.5質量%~2.5質量%であることが最も好ましい。成分(D)の含有量を1質量%~30質量%の範囲とすることで、パーティクルの発生をより一層低減することができる。
【0102】
(固体潤滑剤)
本発明の液晶ポリマー組成物には、その好ましい物性を損なわない範囲で、固体潤滑剤を配合することができる。固体潤滑剤としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、グラファイト、二硫化モリブテン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、-(CF2-CF2)-の繰り返し単位を有する重合体であるポリテトラフルオロエチレン樹脂およびパーフロオロアルキルエーテル基(-CpF2p-O-)(pは1~4の整数)あるいはポリフルオロアルキル基(H(CF2)q)(qは1~20の整数)を導入した変性ポリテトラフルオロエチレン樹脂等を挙げることができ、これらは、1種又は2種以上を配合してもよい。本発明の液晶ポリマー組成物における固体潤滑剤の含有量は、液晶ポリマー組成物全量100質量%中において0.5質量%~20質量%が好ましく、1質量%~15質量%がより好ましい。
【0103】
(その他添加剤)
本発明の液晶ポリマー組成物は、その好ましい物性を損なわない範囲において、その他添加剤を含有することができる。その他添加剤としては、無機充填材(例えば炭酸カルシウム、雲母、マイカ、セリサイト、イライト、タルク、カオリナイト、モンモリナイト、ベーマイト、スメクタイト、バーミキュライト、パリゴルスカイト、パイロフィライト、ハイロサイト、珪藻土、二酸化チタン等);レーザーダイレクトストラクチャリング添加材(例えばMgAl2O4、ZnAl2O4、FeAl2O4、CuFe2O4、CuCr2O4、MnFe2O4、NiFe2O4、TiFe2O4、FeCr2O4、MgCr2O4等);導電性充填剤(例えば金属粒子(例えばアルミニウムフレーク)、金属繊維、金属酸化物粒子、炭素繊維、イオン性液体、界面活性剤等);帯電防止剤(例えばアニオン性帯電防止剤、カチオン性帯電防止剤、非イオン系帯電防止剤等);酸化防止剤および熱安定剤(例えばヒンダードフェノール類、ヒドロキノン類、ホスファイト類およびこれらの置換体等);紫外線吸収剤(例えばレゾルシノール類、サリシレート系、ベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類、トリアジン類等);光安定剤(例えばヒンダードフェノール類等);耐候剤;耐光剤;離型剤(例えば高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは炭素原子数10~25のものをいう)、脂肪酸、脂肪酸金属塩等);滑剤;流動性改良剤;可塑剤(例えばポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤、エポキシ系可塑剤);耐衝撃性改良剤;難燃剤(例えばホスファゼン系化合物、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、無機リン系、ハロゲン系、シリコーン系難燃剤、金属酸化物系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤、有機金属塩系難燃剤、窒素系難燃剤、ホウ素化合物系難燃剤等);ドリッピング防止剤;核形成剤;分散剤;制振剤;中和剤;ブロッキング防止剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を含有することができる。
【0104】
本発明の液晶ポリマー組成物がその他添加剤を含む場合、その配合量は、本発明の液晶ポリマー組成物の好ましい物性を損なわない範囲であれば特に制限はない。添加剤の配合量は、液晶ポリマー組成物全量100質量%中に10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。
【0105】
<液晶ポリマー組成物の製造方法>
本発明の液晶ポリマー組成物は、液晶ポリマー(A)と、粒子状炭素材(B)と、補強材(C)とを含有し、必要に応じて、硫酸バリウム(D)、固体潤滑剤、その他添加剤を含む混合物を、加熱および混合(特に、溶融混練)することによって製造できる。
【0106】
溶融混練には、例えば、二軸押出機等の公知の溶融混練装置を使用することができる。具体的には、(1)混合機(タンブラー、ヘンシェルミキサー等)で各成分を予備混合して、溶融混練装置で溶融混練し、ペレット化手段(ペレタイザー等)でペレット化する方法;(2)所望する成分のマスターバッチを調整し、必要により他の成分を混合して溶融混練装置で溶融混練してペレット化する方法;(3)各成分を溶融混練装置に供給してペレット化する方法等により製造することができる。
【0107】
溶融混練における加工温度は、液晶ポリマー(A)が溶融し得る温度であれば特に限定されない。通常、溶融混練に用いる溶融混練装置のシリンダー温度をこの範囲に調整する。かくして、所望の効果を発揮する本発明の液晶ポリマー組成物が製造される。
【0108】
<液晶ポリマー成形体の製造方法および用途>
本発明の液晶ポリマー組成物は、目的とする液晶ポリマー成形体の種類、用途、形状等に応じて、射出成形、インサート成形、圧縮成形、ブロー成形、インフレーション成形等の公知の樹脂成形方法により成形することで液晶ポリマー成形体とすることができ、射出成形、インサート成形が好ましい。また、上記の成形方法を組み合わせた成形方法を採用することができる。本発明の液晶ポリマー組成物を成形することで得られる液晶ポリマー成形体は、遮光性に優れ、特に耐衝撃性などの機械的強度に優れている。また、帯電防止性に優れ、衝突時や落下時に発生するパーティクルを抑制することができる。
【0109】
本発明の液晶ポリマー組成物を用いて成形された液晶ポリマー成形体は、精密機器の電子部品の製造に用いられる部材として好適に使用される。上記液晶ポリマー成形体を備える部品としては、他の部材との摺動を伴う摺動部材用電子部品、例えば、コネクタ、アンテナ、スイッチ、リレー、カメラモジュールからなる群から選択されるものを構成する部品の製造に好適に使用される。これらの中でも、本発明の液晶ポリマー成形体は、液晶ポリマー成形体表面のフィブリル化に起因する光学特性の低下を阻止することが期待できることから、カメラモジュールを構成する光学電子部品(カメラモジュール用部材)の製造に特に好適に使用される。カメラモジュールを構成する光学電子部品としては、レンズバレル部(レンズが載る部分)、スペーサー、マウントホルダー部(バレルを装着し、基板に固定する部分)、ベース、鏡筒、CMOS(イメージセンサー)の枠、シャッター、シャッタープレート、シャッターボビ部、絞りのリング、ストッパー(レンズを押さえる部分)等が挙げられる。
【0110】
本発明の電気電子機器は、上記のような液晶ポリマー成形体を備え、カメラ機能を有する。特に、本発明の電気電子機器は、カメラ機能を搭載したスマートフォンまたはタブレット型端末として好適に用いることができる。
【実施例】
【0111】
以下に実施例および比較例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。なお、本実施例および比較例で使用した原材料は具体的には以下の通りである。
【0112】
液晶ポリマー1:溶融粘度2.4×104mPa・s、融点280℃、上野製薬社製、商品名「UENO LCP A-5000」
液晶ポリマー2:溶融粘度2.0×104mPa・s、融点320℃、上野製薬社製、商品名「UENO LCP A-6000」
カーボンブラック(CB):一次粒子径24nm、BET比表面積110m2/g、DBP吸油量95cm3/100g、三菱ケミカル社製、商品名「MA100RB」
ワラストナイト繊維:平均繊維長9.3μm、平均繊維径2.4μm、アスペクト比3.9
チタン酸カリウム繊維:平均繊維長15μm、平均繊維径0.5μm、大塚化学社製、商品名「ティスモN」
硫酸バリウム:平均粒子径0.28μm、堺化学工業社製、商品名「沈降性硫酸バリウムB-31」
タルク:平均粒子径(D50)19μm、富士タルク工業社製、商品名「RG319」
【0113】
液晶ポリマーの溶融粘度は、溶融粘度測定装置(株式会社東洋精機製作所社製、商品名「キャピログラフ1D」)を用いて、液晶ポリマー1に関しては融点より40℃高い温度で、液晶ポリマー2に関しては融点より30℃高い温度で測定したずり速度が1.0×103sec-1の条件にて1.0mmφ×10mmのキャピラリーレオメーターを用いて、溶融粘度をそれぞれ測定した。カーボンブラックの一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、品番「JEM2010」)により測定される一次粒子径の平均値である算術平均粒子径(数平均)により求めた。DBP吸油量は、ジブチルフタレートアブソーブドメーターによって、JIS K 6221に準拠して測定した。BET比表面積は、JIS K 6217に準拠して測定した。
【0114】
ワラストナイト繊維またはチタン酸カリウム繊維の平均繊維長、平均繊維径、及びアスペクト比は、走査型電子顕微鏡の観察により測定した任意の1000個の平均値から求めた。平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、商品名「SALD-2100」)により測定した。
【0115】
<液晶ポリマー組成物および液晶ポリマー成形体の製造>
<配合例1~配合例8および比較配合例1~比較配合例4>
液晶ポリマー組成物を表1に示す配合割合で、二軸押出機を用いて溶融混練し、それぞれペレットを製造した。なお、二軸押出機のシリンダー温度は、300℃であった。
【0116】
なお、配合例1では、ヘンシェルミキサーにワラストナイト繊維を仕込み、オクチルトリエトキシシラン(アルキル基の炭素数:8)をワラストナイト繊維に対して1.0質量%処理されるようにワラストナイト繊維に乾式法で表面処理を行った後の補強材(ワラストナイト繊維A)を用いた。配合例2、配合例4および配合例5では、ヘンシェルミキサーにワラストナイト繊維を仕込み、デシルトリメトキシシラン(アルキル基の炭素数:10)をワラストナイト繊維に対して1.0質量%処理されるようにワラストナイト繊維に乾式法で表面処理を行った後の補強材(ワラストナイト繊維B)を用いた。配合例3では、ヘンシェルミキサーにワラストナイト繊維を仕込み、ヘキサデシルトリメトキシシラン(アルキル基の炭素数:16)をワラストナイト繊維に対して1.0質量%処理されるようにワラストナイト繊維に乾式法で表面処理を行った後の補強材(ワラストナイト繊維C)を用いた。比較配合例3では、ヘンシェルミキサーにワラストナイト繊維を仕込み、3-アミノプロピルトリエトキシシランをワラストナイト繊維に対して1.0質量%処理されるようにワラストナイト繊維に乾式法で表面処理を行った後の補強材(ワラストナイト繊維D)を用いた。なお、比較配合例1および比較配合例2では、表面処理を行っていない未処理のワラストナイト繊維(未処理ワラストナイト繊維)をそのまま用いた。
【0117】
配合例6~配合例8では、ヘンシェルミキサーにチタン酸カリウム繊維を仕込み、デシルトリメトキシシラン(アルキル基の炭素数:10)をチタン酸カリウム繊維に対して1.0質量%処理されるようにチタン酸カリウム繊維に乾式法で表面処理を行った後の補強材(チタン酸カリウム繊維A)を用いた。比較配合例4では、ヘンシェルミキサーにチタン酸カリウム繊維を仕込み、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランをチタン酸カリウム繊維に対して1.0質量%処理されるようにチタン酸カリウム繊維に乾式法で表面処理を行った後の補強材(チタン酸カリウム繊維B)を用いた。
【0118】
<液晶ポリマー成形体の機械物性に関する評価>
<実施例1~実施例8および比較例1~比較例4>
配合例1~配合例8および比較配合例1~比較配合例4で得られたペレットを射出成形機にて、平板(全て縦90mm、横50mm、厚み3mm)およびJIS試験片を成形し、評価サンプル(液晶ポリマー成形体)とした。なお、射出成形機のシリンダー温度は310℃、金型温度は120℃であった。
【0119】
<評価>
(引張強さおよび引張伸び)
JIS K7162に準拠して、オートグラフAG-5000(島津製作所社製)にて引張強さおよび引張伸びを測定した。
【0120】
(曲げ強度、曲げ弾性率および曲げたわみ)
JIS K7171に準じ、オートグラフAG-5000(島津製作所社製)にて支点間距離60mmの3点曲げ試験により曲げ強度、曲げ弾性率および曲げたわみを測定した。結果を表1に示した。
【0121】
(ノッチ付きアイゾット(IZOD)衝撃値)
JIS K7110に準じ、2号試験片で測定した。結果を表1に示した。
【0122】
(ハンター白度)
色差計(商品名:ZE6000、日本電色株式会社製)を用いて、成形直後の平板のハンター白色度を測定した。結果を表1に示した。
【0123】
(成形収縮率)
引張試験測定用のJIS試験片の長手方向の寸法をマイクロメータを用いて正確に測定し、金型寸法との誤差率を成形収縮率(%)とした。即ち、成形収縮率(%)を式(II)に従って算出した。
【0124】
成形収縮率(%)=[(金型寸法-成形品寸法)/金型寸法]×100…式(II)
【0125】
(摩擦係数)
静摩擦試験機(協和界面科学株式会社製、品番「TRIBOSTAR TS 501」)を用いて、荷重50g、速度1mm/sec、移動距離10mm、ステンレス球(SUS304、Φ3mm)、摺動回数1000回の条件で、硬質金属との摺動試験を行い、平板の静摩擦係数(μs)と動摩擦係数(μk)を測定した。
【0126】
結果を表1に示した。
【0127】
【0128】
表1から明らかなように、比較例1と比較例2に関して、比較例1の液晶ポリマー成形体のハンター白度は79.8であるのに対し、比較例2の液晶ポリマー成形体のハンター白度は14.6と低減していたため、粒子状炭素材を添加することにより、遮光性は改善されていることが分かる。一方、表1から明らかなように、比較例1と比較例2の対比から、粒子状炭素材と補強材(表面処理なし)を配合すると、粒子状炭素材の脆さが影響しているためか、液晶ポリマー成形体のIZOD衝撃値(ノッチ付)はやや悪化することが分かる。
【0129】
表1から明らかなように、実施例1~実施例3では、炭素数8以上の疎水性のアルキル基を有するアルキル系アルコキシシランカップリング剤で表面処理をした補強材を使用することにより、液晶ポリマー成形体のIZOD衝撃値(ノッチ付)に関して優れた改善効果が得られていることが分かる。実施例5と比較例2の対比から、炭素数10の疎水性のアルキル基を有するデシルトリメトキシシランで補強材を表面処理することで、表面処理をしない場合と比べて、成形体のIZOD衝撃値(ノッチ付)が悪化するどころか、むしろ予期せぬ優れた改善効果が得られていることが分かる。実施例5と比較例3、実施例8と比較例4の対比から、炭素数8以上の疎水性のアルキル基を有さないアルキル系アルコキシシランカップリング剤で表面処理をした補強材を使用しても、液晶ポリマー成形体のIZOD衝撃値(ノッチ付)に関しては改善効果が認められないことが分かる。
【0130】
実施例2、実施例4および実施例5の対比、あるいは実施例6~実施例8の対比から、粒子状炭素材と炭素数8以上の疎水性のアルキル基を有するアルキル系アルコキシシランカップリング剤で表面処理をした補強材を併用する場合、粒子状炭素材の添加量が増えるに応じて、IZOD衝撃値(ノッチ付)に関して優れた改善効果が得られていることが分かる。
【0131】
実施例2、実施例4および実施例5の対比、あるいは実施例6~実施例8の対比から、粒子状炭素材と疎水性のアルキル基を有するアルキル系アルコキシシランカップリング剤で表面処理をした補強材を併用する場合、粒子状炭素材の添加量が多いほど、動摩擦係数および/または静摩擦係数を低められる傾向にあることがわかる。また、実施例1~3の対比より、粒子状炭素材と疎水性のアルキル基を有するアルキル系アルコキシシランカップリング剤で表面処理した補強材を併用する場合、アルキル基の炭素数が多いほど、動摩擦係数および/または静摩擦係数を低められる傾向にあることがわかる。
【0132】
また、実施例6、実施例7および実施例8に関して、実施例6の液晶ポリマー成形体の白度は25.7、実施例7の液晶ポリマー成形体のハンター白度は19.9、実施例8の液晶ポリマー成形体のハンター白度は16.5と低減していたため、粒子状炭素材の添加量が増えるに応じてハンター白度も低減しており、このことから、粒子状炭素材の添加量が増えるに応じて遮光性も改善されていく傾向にあることが分かる。
【0133】
このように、液晶ポリマーに粒子状炭素材を添加すると耐衝撃性が低下していたところ、粒子状炭素材と疎水性表面処理剤により構成されている処理層を有する補強材を併用することで、遮光性を維持しつつ、耐衝撃性を顕著に高められるという予期せぬ効果が得られていることが分かる。特に、粒子状炭素材と炭素数の大きい疎水性のアルキル基を有するアルキル系アルコキシシランカップリング剤で表面処理した補強材を配合し液晶ポリマー組成物を成形することで、さらに飛躍的に耐衝撃性を高められるとともに、動摩擦係数および/または静摩擦係数を低められるという予期せぬ効果が得られていることが分かる。加えて、粒子状炭素材と疎水性のアルキル基を有するアルキル系アルコキシシランカップリング剤で表面処理をした補強材を併用する場合、粒子状炭素材の添加量が多いほど、飛躍的に耐衝撃性を高められるとともに、動摩擦係数および/または静摩擦係数を低められるという予期せぬ効果が得られていることが分かる。
【0134】
<液晶ポリマー成形体のパーティクル発生量に関する評価>
<配合例9および比較配合例5>
液晶ポリマー組成物を表2に示す配合割合で、二軸押出機を用いて溶融混練し、それぞれペレットを製造した。なお、二軸押出機のシリンダー温度は、345℃であった。
【0135】
配合例9では、ヘンシェルミキサーにワラストナイト繊維を仕込み、ヘキサデシルトリメトキシシラン(アルキル基の炭素数:16)をワラストナイト繊維に対して1.0質量%処理されるようにワラストナイト繊維に乾式法で表面処理を行った後の補強材(ワラストナイト繊維C)を用いた。比較配合例5では、表面処理を行っていない未処理のワラストナイト繊維(未処理ワラストナイト繊維)をそのまま用いた。
【0136】
<実施例9および比較例5>
配合例9および比較配合例5で得られたペレットを射出成形機にて、平板1(9mm×9mm×1mm)、平板2(126mm×13mm×1.6mm)、及びJIS試験片を成形し、評価サンプル(液晶ポリマー成形体)とした。なお、射出成形機のシリンダー温度は340℃、金型温度は120℃であった。
【0137】
(パーティクル発生量)
20個の平板1を重量測定した後、長さ40mm、内径φ18mmの容器(SUS製)に投入して、振動機(評価機器:日本分析工業(株)製「JFC-400」)に設置し、60Hz、5分間振動させた。振動終了後、エアーで平板1に付着したパーティクルを除去した後に、平板1を全て取り出して重量を測定し、試験前後の重量差をパーティクル発生量とした。結果を下記の表2に示した。
【0138】
(液晶ポリマー成形体の接着特性に関する評価)
(リベット法接着力測定)
JIS規格に準拠した引張試験片(ダンベル片)を120℃×60分強制対流式オーブンで乾燥させた。乾燥後、溶剤で試験部位を拭き、充分に脱脂した。SUSのT型リベット(長径φ5.9mm、短径φ3.0mm、長さ13.3mm)を溶剤に浸漬し油分を除去した。長径φ5.9mm面に接着剤を適量塗布し、引張試験片(ダンベル片)のチャック掴部へ接着させた。接着後、あらかじめ80℃に調整しておいたオーブンで60分の硬化を行った。硬化後、接着面から大幅にはみ出した接着剤は事前にカッター等で除去した。試験片の調整後、イマダ社製、デジタルフォースゲージ、品番「ZTA-500N」に試験片を装着し、速度10mm/分にてSUSリベットのプッシュを行い、得られた試験力(N)を接着強さとした。試験は5回実施し、その平均値を平均接着強さとして表2に記載した。なお、用いた接着剤、硬化条件、測定機器は、以下に示す通りである。
【0139】
接着剤:味の素ファインテクノ社製、低弾性速硬化タイプエポキシ接着剤、品番「AE-740」
硬化条件:80℃×60分
接着層:JIS規格に準拠した引張試験片(液晶ポリマー成形体プラスチックダンベル試験片)vs金属棒(SUS)、n=5
測定機器:イマダ社製、デジタルフォースゲージ、品番「ZTA-500N」
【0140】
(引張接着力測定)
平板2を120℃で60分間の条件にて、強制対流式オーブンで乾燥させた。乾燥後、溶剤で試験部位を拭き、充分に脱脂した。試験片反ゲート側の末端から20mmの部分(金型固定面)に接着剤(味の素ファインテクノ社製、低弾性速硬化タイプエポキシ接着剤、品番「AE-740」)を塗布し、金型固定面同士を20mm分オーバーラップさせて貼り合わせクリップで固定した状態であらかじめ80℃に調整しておいたオーブンで60分間の硬化を行った。硬化後、接着面から大幅にはみ出した接着剤は事前にカッター等で除去した。試験片の調整後、島津製作所社製、オートグラフ、品番「AG-I」にて10mm/分の速度で引張試験を行い、得られた試験力(N)を接着強さとした。試験は5回実施し、その平均値を平均接着強さ(引張接着力)として表2に記載した。なお、用いた接着剤、硬化条件、測定機器は、以下に示す通りである。
【0141】
接着剤:味の素ファインテクノ社製、低弾性速硬化タイプエポキシ接着剤、品番「AE-740」
硬化条件:80℃×60分
接着層:液晶ポリマー成形体試験片 20mm×13mm
測定機器:島津製作所社製、オートグラフ、品番「AG-I」
【0142】
結果を下記の表2に示す。
【0143】
【0144】
表2から明らかなように、実施例9で得られた液晶ポリマー成形体は、炭素鎖8以上の疎水性のアルキル基である炭素数16のアルキル基を有するヘキサデシルトリメトキシシランで表面処理をした補強材を使用し成形したため、比較例5のように表面処理をしないで成形した液晶ポリマー成形体と比べて、パーティクル発生量が若干少なく、リベット法接着力及び引張接着力が向上していることが分かる。
【0145】
よって、本発明の液晶ポリマー組成物の液晶ポリマー成形体は、例えば、カメラモジュールを構成する光学電子部品等に好適に用いることができる。
【要約】
遮光性に優れ、耐衝撃性などの機械的強度を高めることができる、液晶ポリマー組成物を提供する。
液晶ポリマー(A)と、粒子状炭素材(B)と、補強材(C)とを含み、前記粒子状炭素材(B)の一次粒子径が、10nm以上、50nm以下であり、前記補強材(C)の表面における少なくとも一部が、疎水性表面処理剤により構成されている処理層により覆われていることを特徴とする、液晶ポリマー組成物。