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  • 特許-照射装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】照射装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/12 20060101AFI20220322BHJP
   C02F 1/32 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
B01J19/12 C
C02F1/32
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017017511
(22)【出願日】2017-02-02
(65)【公開番号】P2018122262
(43)【公開日】2018-08-09
【審査請求日】2019-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】糀屋 睦
(72)【発明者】
【氏名】長田 文夫
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-511138(JP,A)
【文献】特開2014-085255(JP,A)
【文献】特開2003-285085(JP,A)
【文献】特開2002-224668(JP,A)
【文献】特開2010-250037(JP,A)
【文献】特開2009-093190(JP,A)
【文献】特開2016-209307(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0047137(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00-12/02、
14/00-19/32
C02F 1/20- 1/26、
1/30- 1/38
A61L 2/00-12/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
算術平均粗さが2μm以下のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で流路内壁面の少なくとも一部が構成される流路構造と、
前記流路構造の内部を流れる水に向けて紫外光を照射する光源と、を備えることを特徴とする照射装置。
【請求項2】
前記PTFEで構成される前記流路内壁面の少なくとも一部は、切削加工により形成されることを特徴とする請求項1に記載の照射装置。
【請求項3】
前記流路構造は、前記PTFEで構成される直管を含み、
前記光源は、前記直管の内部を流れる水に向けて前記直管の軸方向に紫外光を照射するよう配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の照射装置。
【請求項4】
前記光源は、波長が250nm~300nmの紫外光を出力することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体に紫外光を照射するための照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外光には殺菌能力があることが知られており、医療や食品加工の現場などでの殺菌処理に紫外光を照射する装置が用いられている。また、水などの流体に紫外光を照射することで、流体を連続的に殺菌する装置も用いられている。このような装置として、例えば、直管状の金属パイプで形成される流路の管端部内壁に紫外線LEDを配置した装置が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-16074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
流路内を流れる流体に高効率で紫外光を照射するためには、流路内壁面での紫外光反射率が高い構造とすることが望ましい。しかし、流路内壁面には流体の状態によって気泡が生じたり消えたりすることがある。気泡が生じる場合には、流路内壁面の気泡により紫外光が散乱され、流路内の紫外光の強度分布が時間経過とともに変化する。そうすると、流体に作用する紫外光の量にばらつきが生じ、紫外光照射による殺菌効果や有機物分解効果にもばらつきが生じてしまう。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、紫外光の照射効率を高めつつ、照射量のばらつきを低減した照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の照射装置は、算術平均粗さが2μm以下のフッ素系樹脂材料で流路内壁面の少なくとも一部が構成される流路構造と、流路構造の内部に向けて紫外光を照射する光源と、を備える。
【0007】
この態様によると、流路内壁面にフッ素系樹脂材料を用いることにより、紫外光に対する耐久性が高い流路構造にするとともに、流路内壁面での紫外光反射率を高めて流体に効率的に紫外光を照射することができる。また、フッ素系樹脂材料の表面粗さを2μm以下にすることで、流路内壁面への気泡の付着を防ぎ、流路内の紫外光の照度分布の時間変化を軽減できる。これにより、流体に作用する紫外光量のばらつきを抑え、照射装置の照射性能を安定化させることができる。
【0008】
フッ素系樹脂材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であってもよい。
【0009】
流路構造は、フッ素系樹脂材料で構成される直管を含んでもよい。光源は、直管の内部に向けて直管の軸方向に紫外光を照射するよう配置されてもよい。
【0010】
光源は、波長が250nm~300nmの紫外光を出力してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、流路内での紫外光の照射効率を高めつつ、照射量のばらつきを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る照射装置の構成を概略的に示す断面図である。
図2】比較例に係る流路内の照度分布を模式的に示すグラフである。
図3】実施例に係る流路内の照度分布を模式的に示すグラフである。
図4】実施の形態に係る浄化装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0014】
図1は、実施の形態に係る照射装置10の構成を概略的に示す断面図である。照射装置10は、流路構造12と、光源14とを備える。流路構造12は、直管20と、流入管26と、流出管28と、照射窓30と、端部壁32とを備える。照射装置10は、直管20の内部を流れる水などの流体に紫外光を照射して殺菌処理や浄化処理を施すために用いられる。
【0015】
光源14は、流路構造12の内部に紫外光を照射するよう構成される。光源14は、直管20の第1端部22に配置され、照射窓30を介して直管20の内部に向けて直管20の軸方向に紫外光を照射する。光源14は、例えば、紫外光を発するLED(Light Emitting Diode)を含み、殺菌効率が高い波長である250nm~300nm付近の紫外光を出力する。光源14は、照射対象が水の場合、265nm~285nmの紫外光を出力するよう構成されることが好ましく、例えば、270nm、275nm、または、280nmの紫外光を出力する。光源14は、紫外光LEDから出力される紫外光の照射方向を整えるためのレンズやリフレクタといった光学素子を含んでもよい。
【0016】
直管20は、第1端部22から第2端部24に向けて軸方向に延在する。直管20は、フッ素系樹脂材料で構成され、例えば、全フッ素化樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で構成される。PTFEは、化学的に安定した材料であり、耐久性、耐熱性および耐薬品性に優れ、紫外光の反射率が高い材料である。直管20をPTFEなどのフッ素樹脂材料で構成することにより、光源14からの紫外光を内壁面18で反射させ、直管20の軸方向に紫外光を効率的に伝搬させることができる。
【0017】
なお、直管20は、その全体がPTFEで構成されている必要はなく、流体と接触する内壁面18がPTFEで構成されていればよい。例えば、他の樹脂材料もしくは金属材料で構成される管の内面にPTFEのライナを取り付けて直管20を構成してもよい。
【0018】
直管20の第1端部22には、光源14からの紫外光を透過させる照射窓30が設けられる。照射窓30は、石英(SiO)やサファイア(Al)、非晶質のフッ素系樹脂などの紫外光の透過率が高い部材で構成される。直管20の第2端部24には、端部壁32が設けられる。端部壁32は、直管20と同様にPTFEなどのフッ素系樹脂材料で構成される。端部壁32は、その全体がPTFEで構成されなくてもよく、少なくとも端部壁32の内面34がPTFEで構成されていればよい。
【0019】
流入管26は、直管20の第1端部22付近に設けられ、直管20の軸方向と直交する径方向に延在する。流出管28は、直管20の第2端部24付近に設けられ、直管20の径方向に延在する。したがって、照射装置10は、光源14に近い位置から流体が流入され、光源14から離れる方向に直管20の内部を流れてから排出される。なお、流体の流れの方向が逆になるように構成されてもよく、流入管26が流出側、流出管28が流入側となるように構成してもよい。
【0020】
本実施の形態では、直管20の内壁面18の算術平均粗さRaが2μm以下となるように構成されている。内壁面18の表面粗さRaを2μm以下にするためには、例えば、内壁面18に切削加工を施して内壁面18の微小な凹凸を除去すればよい。その他、直管20を成形する金型として、内壁面18を形成する面が鏡面仕上げされた金型を用いることにより、内壁面18の表面粗さRaを2μm以下にできる。
【0021】
直管20の内壁面18を構成するフッ素系樹脂材料は、表面エネルギーが高いために超撥水性を示す。そのため、内壁面18に微細な凹凸が存在していると、その凹凸に気泡が付着しやすく、気泡がいったんできると除去されにくい。本発明者らの知見によれば、PTFE表面の算術平均粗さRaが2μmを超えると、表面に気泡の付着が確認され、Raが9μm以上となると多数の気泡が付着することが分かっている。
【0022】
直管20の内壁面18に気泡が付着すると、流体と気泡の屈折率差により気泡表面で反射ないし散乱が生じ、直管20の内部の紫外光照度分布に影響を及ぼす。気泡の発生箇所は一定とは限らないため、気泡の発生数や発生場所等に応じて流路内の照度分布が変化し、流体に照射される紫外光量にばらつきが生じてしまう。また、フッ素系樹脂材料の表面では拡散反射が主体的であり、入射する紫外光が様々な方向に散乱されるのに対し、気泡表面では鏡面反射が主体的であり、入射する紫外光が特定の方向に強く反射されやすい。その結果、気泡が生じると流路内の照度分布が不均一になりやすい。本実施の形態では、気泡の発生による照射量のばらつきを低減するため、内壁面18の算術平均粗さRaを2μm以下としている。
【0023】
図2は、比較例に係る流路内の照度分布を模式的に示すグラフであり、流路内の径方向の照度分布の時間変化を示している。本比較例では、内直径が40mm、流路内壁面の算術平均粗さRaが4μmのPTFE管を使用し、光源から150mm離れた位置で照度分布を計測した。PTFE管の内部は純水で満たされている。図2は、複数回のタイミングで計測した照度分布のグラフを示しており、光強度が最大となったときの強度値を1として規格化している。図示されるように、流路内壁面の表面粗さが大きい場合には光強度のばらつきが見られ、最大で約30%の強度変化が生じていることが分かる。
【0024】
図3は、実施例に係る流路内の照度分布を模式的に示すグラフであり、流路内壁面の算術平均粗さRaが1.8μmのPTFEを用いた場合の照度分布の時間変化を示している。本実施例においても、内直径が40mmのPTFE管を使用し、PTFE管の内部に純水を満たした状態で、光源から150mm離れた位置で照度分布を計測した。図3においても、複数回のタイミングで計測した照度分布のグラフを示しており、光強度が最大となったときの強度値を1として規格化している。本実施例では、流路内壁面の表面粗さが小さいために光強度のばらつきが小さく、最大で約5%の強度変化しか生じていない。このように、表面粗さを2μm以下とすることで流路内の照度分布の時間変化を小さくし、照射量のばらつきを低減することができる。
【0025】
図4は、実施の形態に係る浄化装置70の構成を模式的に示す図であり、上述の照射装置10の応用例を示す。浄化装置70は、照射装置10と、処理装置60とを備える。浄化装置70は、二段階の浄化処理をするための浄化システムであり、処理装置60にて前処理がなされた後、照射装置10にて後処理がなされる。
【0026】
処理装置60は、処理槽62と、曝気装置64とを有する。処理装置60は、微生物を利用して浄化処理をするための装置である。処理槽62の内部には、好気性微生物が付着する接触材が設けられる。曝気装置64は、処理槽62の内部の流体に空気を供給し、好気性微生物の働きにより流入路71から供給される流体が浄化されるようにする。処理槽62にて処理された流体は、固形物が除去された後、接続路72を通じて照射装置10に供給される。
【0027】
照射装置10は、処理装置60から接続路72を通じて供給される流体に紫外光を照射して浄化処理をし、処理後の流体を流出路73から排出する。処理装置60では曝気装置64を通じて空気が供給されるため、接続路72を通じて供給される流体は、溶存空気量が比較的高く、気泡が生じやすい。しかしながら、照射装置10では、流路内壁面の表面粗さが2μm以下に設定されているため、溶存空気量が高い流体が供給される場合であっても、流路内壁面への気泡の付着を好適に抑制できる。その結果、照射装置10において高効率に紫外光を照射するとともに、気泡による照射ムラの発生を抑えることができる。したがって、本実施の形態によれば、浄化装置70の処理能力を安定化できる。
【0028】
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0029】
上述の実施の形態では、直管形状の流路構造を用いる場合を示したが、流路構造の形状は特に限定されない。変形例においては、流路全体が直線状に構成されるのではなく、流路の少なくとも一部に屈曲部が設けられてもよい。また、流路の断面形状は円形であってもよいし、多角形であってもよい。
【0030】
上述の実施の形態では、流路内壁面の全体にフッ素系樹脂材料を用いる場合を示した。変形例においては、流路内壁面の一部にフッ素系樹脂材料が用いられてもよい。流路の配壁面の一部に用いられるフッ素系樹脂材料について表面粗さRaを2μm以下にすることにより、フッ素系樹脂表面の気泡の付着を抑制し、フッ素系樹脂表面での紫外光の反射特性を安定化させることができる。
【0031】
上述の実施の形態では、光源14として紫外光LEDを用いる場合を示した。変形例においては、紫外線ランプを光源として用いてもよく、中心波長またはピーク波長が250nm~260nm、例えば254nmの紫外線ランプを用いてもよい。
【符号の説明】
【0032】
10…照射装置、12…流路構造、14…光源、18…内壁面、20…直管。
図1
図2
図3
図4