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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】フローセル及び分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/05 20060101AFI20220322BHJP
   G01N 15/14 20060101ALI20220322BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
G01N21/05
G01N15/14 C
G01N21/17 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017155320
(22)【出願日】2017-08-10
(65)【公開番号】P2019035602
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100105407
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】増田 茂樹
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02003438(EP,A2)
【文献】特表2013-535687(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0273774(US,A1)
【文献】特開平06-288895(JP,A)
【文献】特開2003-161691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/83
G01N 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体流体及びシース流体を含む液体が流れる流路と、
前記検体流体を前記流路に導入する検体流路と、
前記シース流体を前記流路に導入するシース流路と、
前記検体流路及び前記シース流路が合流する合流部と、
を備え、
前記流路は、前記合流部よりも下流側に、下流に向かって深さを徐々に浅くするテーパ部を備え、
前記流路を形成する壁材の前記液体に接する面と逆側にある外面には、前記外面から突起する球面突起を更に備え、
前記球面突起は、前記流路の前記テーパ部より下流側に位置し、
前記球面突起の球面の中心点は、前記流路内にある、フローセル。
【請求項2】
前記球面突起は、外部から前記球面突起を通過した光を前記流路内で収束させる、
請求項1に記載のフローセル。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフローセルと、
前記フローセル内の前記液体を撮像する撮像装置と、
を備える分析装置。
【請求項4】
フローセルと、
前記フローセル内の液体を撮像する撮像装置と、
を備える分析装置であって、
前記フローセルは、
検体流体及びシース流体を含む液体が流れる流路と、
前記検体流体を前記流路に導入する検体流路と、
前記シース流体を前記流路に導入するシース流路と、
前記検体流路及び前記シース流路が合流する合流部と、
を備え、
前記流路は、前記合流部よりも下流側に、下流に向かって深さを徐々に浅くするテーパ部を備え、
前記テーパ部よりも下流側にある前記液体の撮像位置に、撮像部に向かう光学突起を更に備え、
前記撮像装置は、
前記フローセル内の前記液体の第一画像を撮像する第一撮像部と、
前記第一画像と視野角が同じで被写界深度が異なる第二画像を撮像する第二撮像部と、
を備える、
析装置。
【請求項5】
前記撮像装置は、
前記第一撮像部及び前記第二撮像部で共通の対物レンズと、
前記対物レンズを通過した光を、前記第一撮像部へ向かう方向と前記第二撮像部へ向かう方向とに分岐させる分岐部と、
前記分岐部から前記第一撮像部へ向かう光の光路上に配置される開口絞りと、
を備える請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
前記第一画像から有形成分を切り出した画像である第一切り出し画像を生成し、前記第二画像から前記第一切り出し画像と同じ位置及びサイズの画像を切り出した画像である第二切り出し画像を生成し、前記第一切り出し画像及び前記第二切り出し画像を関連付けて記憶する制御部を更に備える、
請求項5に記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローセル及び分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
採取した尿の検査において、透明な部材で形成されたフローセルの流路を流れる尿検体をフローセルの壁越しに撮像することが考えられている。例えば、フローセル内に設けられた流路を流れる尿検体を撮像し、撮像された画像を解析することにより尿中の沈渣成分(血球、上皮細胞、円柱、細菌、結晶などの尿中の有形(固形)成分)の分析を行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平06-288895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
撮像に使用されるフローセルの壁の厚さは製造上の制約からプレパラートに使用されるカバーガラスの厚さより厚くなる。このため、カバーグラスの厚さに合わせて製作された対物レンズを撮像に用いると、フローセルの壁の厚みに応じて大きな球面収差が生じる。この結果、得られる尿検体の像が不鮮明となる問題があった。
【0005】
本発明の目的は、検体中の有形成分のより鮮明な画像を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様の一つは、検体流体及びシース流体を含む液体が流れる流路と、前記検体流体を前記流路に導入する検体流路と、前記シース流体を前記流路に導入するシース流路と、前記検体流路及び前記シース流路が合流する合流部と、を備え、前記流路は、前記合流部よりも下流側に、下流に向かって深さを徐々に浅くするテーパ部を備え、前記テーパ部よりも下流側にある前記液体の撮像位置に、撮像部に向かう光学突起を更に備える、フローセルである。
【0007】
前記光学突起は、前記撮像位置において、前記撮像部に含まれる対物レンズからの光を前記流路内で収束させるのが好ましい。
【0008】
また、本発明の態様の一つは、前記フローセルと、前記フローセル内の前記液体を撮像する撮像装置と、を備える分析装置である。
【0009】
前記撮像装置は、前記フローセル内の前記液体の第一画像を撮像する第一撮像部と、前記第一画像と視野角が同じで被写界深度が異なる第二画像を撮像する第二撮像部と、を備えることが好ましい。
【0010】
前記撮像装置は、前記第一撮像部及び前記第二撮像部で共通の対物レンズと、前記対物レンズを通過した光を、前記第一撮像部へ向かう方向と前記第二撮像部へ向かう方向とに分岐させる分岐部と、前記分岐部から前記第一撮像部へ向かう光の光路上に配置される開口絞りと、を備えることが好ましい。
【0011】
前記第一画像から有形成分を切り出した画像である第一切り出し画像を生成し、前記第
二画像から前記第一切り出し画像と同じ位置及びサイズの画像を切り出した画像である第二切り出し画像を生成し、前記第一切り出し画像及び前記第二切り出し画像を関連付けて記憶する制御部を更に備えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、検体中の有形成分のより鮮明な画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態に係る分析装置の概略構成を示した図である。
図2】フローセルの概略構成を示した図である。
図3】合流部及びテーパ部付近の概略構成を示した図である。
図4】第四通路を流通するシース液と検体の分布を示した図である。
図5】球面突起の断面図である。
図6】仮に球面突起を設けていないフローセルにおける光路を示した図である。
図7】球面突起を有する場合(球面突起有)と有さない場合(球面突起無)とで捕捉角度ΘShを比較した図である。
図8】仮に球面突起を設けていないフローセルにおける球面収差を説明するための図である。
図9】第2の実施形態に係る分析装置の概略構成を示した図である。
図10】開口径と瞳径との関係を示した図である。
図11】開口数と、被写界深度との関係を示した図である。
図12】切り出し画像を生成、記憶するフローを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照して、本発明を実施するための形態を説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る分析装置20の概略構成を示した図である。分析装置20は、撮像装置1を備えている。撮像装置1は、検体として例えば尿を撮像し、撮像された画像を解析することにより例えば尿中の有形成分の分析を行う。ただし、撮像装置1は、例えば血液や体液などの尿以外の液体検体中の有形成分の分析に対して適用することも可能である。
【0016】
撮像装置1は、検体を撮像する撮像部10、撮像用の光源12、及びフローセルユニット13を備える。フローセルユニット13は、検体が流通するフローセル13Aを固定配置するステージ(図示省略)を備える。フローセル13Aはステージに対して脱着自在としてもよい。
【0017】
分析装置20には、制御部としてのコントローラ14が設けられている。コントローラ14は、CPU14A、ROM14B、RAM14C、EEPROM14D、およびインターフェイス回路14Eを備えており、バス線14Fにより相互に接続されている。
【0018】
CPU(central processing unit)14Aは、ROM(read only memory)14Bに
格納されてRAM(random access memory)14Cに読み込まれたプログラムに基づいて動作し、分析装置20の全体を制御する。ROM14Bには、CPU14Aを動作させるためのプログラムやデータが格納されている。RAM14Cは、CPU14Aにワーク領域を提供するとともに、各種のデータやプログラムを一時的に記憶する。EEPROM(electrically erasable programmable read only memory)14Dは、各種の設定データ
などを記憶する。インターフェイス回路14Eは、CPU14Aと各種回路との間の通信を制御する。
【0019】
インターフェイス回路14Eには、撮像部10、光源12、及び、第一ポンプ15A及び第二ポンプ15Bが接続されており、これらの機器が、コントローラ14によって制御される。第一ポンプ15Aは、第一供給管132Aを介してフローセル13Aにシース液を供給するポンプであり、第二ポンプ15Bは、第二供給管133Aを介してフローセル13Aに検体を供給するポンプである。シース液とは、フローセル13A中の検体の流れを制御する液体であり、例えば検体が尿である場合に生理食塩水が適用される。但し、生理食塩水以外の溶液をシース液として用いてもよい。
【0020】
撮像部10は、カメラ11と、対物レンズ11Aを含む複数のレンズとを含む。カメラ11で、フローセル13Aを流通する検体中の有形成分の静止画像を撮像する。カメラ11は、例えばCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサまたはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどの撮像素子を用いて撮像を行う。撮像は、拡大撮像であり、光源12の点灯時間とカメラ11の撮像時間(露光時間)は、コントローラ14により同期される。撮像に際して光源12を1~複数回点灯させる。光源12の点灯時間は検体の流速に依存し、被写体ぶれが許容範囲内となるように、例えば0.1~10μsecに設定される。1露光に対して、光源12を複数回発光させることにより、一画像に含まれる有形成分の数を多くしてもよい。この場合の光源12の点滅タイミングは、同じ検体が撮像されないように、検体の流速と光源12の点灯時間との関係を考慮して決定する。光源12は、例えばキセノンランプまたは白色LEDを採用することができるが、これに限らず、他の光源を採用することも可能である。
【0021】
図2は、フローセル13Aの概略構成を示した図である。フローセル13Aは、第一板130と第二板131とを接合(例えば熱圧着)することにより形成される。図2は、第一板130側からフローセル13Aを見た図である。なお、図2に示すフローセル13Aの幅方向を直交座標系におけるX軸方向、長さ方向をY軸方向、厚さ方向をZ軸方向とする。撮像される検体はフローセル13A内でY軸方向に流れる。対物レンズ11Aの光軸11Bは、Z軸方向に配置されている。
【0022】
フローセル13Aの材料には、PMMA(アクリル樹脂)、COP(シクロオレフィンポリマー)、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、PP(ポリプロピレン)、石英ガラスといった例えば90%以上の可視光透過性がある材料を採用することができる。
【0023】
第一板130には、シース液を供給するための第一供給口132、検体を供給するための第二供給口133、シース液及び検体を排出するための排出口134が設けられている。第一供給口132、第二供給口133、排出口134は、夫々第一板130を貫通している。第一供給口132は第一板130の長手方向の一端側に設けられており、第二供給口133は第一板130の長手方向の他端側に設けられおり、排出口134は第一板130の長手方向の第一供給口132と第二供給口133との間に設けられている。
【0024】
第一供給口132、第二供給口133、排出口134は、互いに通路135A、135B、136、138によって連通されている。これら通路135A、135B、136、138は、第一板130の接合面側の表面から断面が矩形となるように凹んで形成されている。また、これら通路135A、135B、136、138の断面は、深さ方向(図2のZ軸方向)よりも幅方向(図2のX軸方向)のほうが大きくなるように形成されている。第一板130と第二板131とを接合すると、第二板131は、通路135A、135B、136、138を形成する壁材となる。
【0025】
第一供給口132には、第一通路135A及び第二通路135Bが接続されている。第一通路135A及び第二通路135Bは、夫々逆回りに、第一板130の外縁に沿って第二供給口133側に向かい、合流部137において合流している。また、第二供給口133には、第三通路136が接続されており、第三通路136は、合流部137において、第一通路135A及び第二通路135Bと合流している。合流部137は、第四通路138を介して排出口134に接続されている。第四通路138には、合流部137から排出口134に向かって第四通路138の深さ(第一板130の板厚方向(Z軸方向)の長さ)が徐々に小さくなるテーパ形状に形成されたテーパ部138Aが形成されている。テーパ部138Aには、例えば2°~8°の傾斜が設けられている。
【0026】
第一供給口132には、図1に示した第一供給管132Aが接続され、第二供給口133には、図1に示した第二供給管133Aが接続され、排出口134には、排出管(図示省略)が接続されている。第一供給管132Aから第一供給口132に供給されたシース液は、シース流路としての第一通路135A及び第二通路135Bを流通する。第二供給管133Aから第二供給口133に供給された検体は、検体流路としての第三通路136を流通する。そして、シース液及び検体が合流部137において合流して第四通路138を流通し、排出口134から排出管に排出される。
【0027】
第二板131における第一板130との接合面とは逆側の面131A(対物レンズ11Aに向けて配置される面。以下、外面131Aともいう。)には、対物レンズ11Aに向けて隆起する球面突起139が設けられている。球面突起139は、第一板130及び第二板131からなるフローセル13Aの本体に接合されている。球面突起139には、第二板131と同じ材料が用いられている。ただし、第二板131と同じ屈折率を有する他の材料を用いることもできる。例えば直径8mmの石英ボールレンズの一部を研磨して平面を形成したものを、球面突起139として採用することができる。石英ボールレンズに形成された平面を第二板131に接合(例えば熱圧着)する。なお、第一板130と第二板131とを接合した後に、第二板131に球面突起139を接合してもよく、第二板131に球面突起139を接合した後に、第一板130と第二板131とを接合してもよい。第二板131と球面突起139の間には空気などが介在せずに密着していればよく、球面突起139と第二板131とが一体的に形成されていてもよい。球面突起139が設けられる位置は、以下で説明する撮像位置である。フローセル13Aから対物レンズ11A側に向けて球面突起139が突出するように、フローセル13Aがステージに固定される。なお、ここでは光学突起として球面状の突起を例として示したが、楕円等の非球面状の突起であってもよいし、レンズ体などの凸状の光学部材であってもよい。
【0028】
図3は、合流部137及びテーパ部138A付近の概略構成を示した図である。合流部137においては、第三通路136が第二板131側に偏って配置されており、検体は、合流部137において、第二板131に沿って流れる。
【0029】
図4は、第四通路138を流通するシース液と検体の分布を示した図である。図4における上側からシース液と検体とが別々に供給された後、合流部137で合流している。合流部137においてシース液と検体とが合流した直後では、シース液内の検体は、第二板131の壁面側の比較的狭い範囲に集中している(図4のA-A断面参照)。その後、検体がテーパ部138Aを流通すると、検体がシース液に押されて第二板131の壁面近くで壁面に沿って扁平状に広がる(図4のB-B断面参照)。さらに検体が流れると、Tubular-pinch効果により検体が第二板131の壁面から離れて、第四通路138の中央方向
へ持ち上げられる(図4のC-C断面参照)。
【0030】
有形成分の分布は、シース液中での検体流体の分布の影響を受ける。より多くの有形成分を撮像可能な位置において撮像を行うことにより、有形成分の分析精度を高めることが
できる。フローセル13A中では、図4の断面図に示されるように、Y軸方向の位置によって検体の流れが変化する。図4のC-C断面の位置では、B-B断面の位置よりも、Z軸方向における検体の幅が大きくなる。図4のC-C断面の位置では、検体中の有形成分がZ軸方向に広がって分布するため、有形成分の撮像には不向きである。
【0031】
一方、図4のB-B断面の位置では、上方からシース液が検体を第二板131に押しつけるように流れ、検体がシース液で押しつぶされて薄く広がる。そのため、図4のB-B断面の位置では、検体中の有形成分がZ軸方向に広がらずに存在しており、焦点が合いやすい。なお、シース流体、検体流体とも層流を形成しており、ほとんど混ざり合うことはない。このようなB-B断面の位置は、有形成分を撮像するのに適したY軸方向の位置で
あるため、このY軸方向の位置で検体を撮像する。この位置を以下では撮像位置という。この撮像位置に対物レンズ11Aの光軸11Bを合わせている。撮像位置は、テーパ部138Aよりも下流に位置する。
【0032】
球面突起139は、撮像位置において検体を拡大するように、第二板131の外面131Aに形成されている。
【0033】
図5は、球面突起139の断面図である。なお、図5では各構成の大きさの比率が実際の比率とは異なっている。第二板131の厚さは例えば1mmである。対物レンズ11Aとフローセル13Aの間には空気が存在している。空気の屈折率は例えば1.0であり、球面突起139を含むフローセル13Aの屈折率は例えば1.46であり、検体及びシース液の屈折率は例えば1.33である。対物レンズの開口数NAは、例えば0.4である。
【0034】
球面突起139は、対物レンズ11Aからの光を第四通路138内で収束させている。なお、説明の便宜のためにカメラ11側から対物レンズ11Aへは平行光が入射すると仮定する。対物レンズ11Aからの光が収束する点は、対物レンズ11Aの光軸11B上にある点であり、検体が撮像される点である。球面突起139は、対物レンズ11Aからの光が球面突起139の外面(球面)を通過する際に、球面の法線方向を通過するため、球面突起139を通過した光は、光軸11B上の1点に集光される。このように球面突起139は、検体を撮像する際の光軸11B上で対物レンズ11A側に突出して形成されており、光を集める機能を果たす。仮に球面突起139を設けない場合には、光軸11B上の1点から出た光線が、第二板131から出射される際に光が屈折するため、その後結像した画像は球面収差の影響を受け画像がぼやける。しかし、フローセル13Aの撮像位置に球面突起139を設けることにより、光の屈折による感度低下を抑制し、且つ、球面収差の影響も低減することができるため、検体を鮮明に撮像することが可能となる。また、球面突起139を設けることにより、検体の捕捉角度が大きくなる。
【0035】
球面突起139は、例えば、石英ボールレンズを研磨して製造するときに製造可能な大きさで、且つ、対物レンズ11Aと接触しないような大きさとなるように形成すればよい。球面突起139の曲率半径R及び厚さdRは、例えば以下の条件が成立する範囲で設定してもよい。
【0036】
一般的に、対物レンズ11Aの入射瞳径Dinは、以下の式1で表すことができる。
Din=2×((WD-0.17)×tanΘob+0.17×tanΘf)・・・式1
ただし、WDは、対物レンズ11Aから被写体までの距離(working distance、若しくは作動距離)、Θobは、球面突起139から対物レンズ11Aまでの間の光軸11Bに対する光線の最大角度、Θfは、球面突起139を含むフローセル13A内における光軸11Bに対する光線の最大角度を示している。
【0037】
そして、入射瞳径Dinとの関係から、球面突起139の曲率半径の最大値Rmaxは以下の式2で表すことができる。
Rmax=Din×sinΘob・・・式2
また、球面突起139の曲率半径の最小値Rminは以下の式3で表すことができる。
Rmin=dcell+offset・・・式3
dcellは、フローセル13Aと検体とに屈折率の差がないと仮定した場合のフローセル13A内における光軸11Bに対する最大角度Θfの光線が光軸11Bと交差する点
(球面突起139の曲率の中心点)から、球面突起139の接合面までの距離である。球面突起139の曲率半径RはRmin<R<Rmaxの範囲内で製造しやすい任意の値に設定することができる。
【0038】
球面突起139の厚さdRは、製造可能な厚さの最小値よりも大きくする。一方、球面突起139の厚さdRの上限は、球面突起139が対物レンズ11Aに接触しないように設定される。すなわち、球面突起139の厚さdRは以下の範囲で設定することができる。
offset<dR<WD-dcell
【0039】
図6は、仮に球面突起139を設けていないフローセルにおける光路を示した図である。球面突起139が設けられていないこと以外の条件は図5と同じである。図7は、球面突起139を有する場合(球面突起有)と有さない場合(球面突起無)とで捕捉角度ΘShを比較した図である。
【0040】
捕捉角度ΘShは、シース液及び検体内での光軸11Bに対する光線の最大角度を示している。球面突起無の場合には、捕捉角度ΘShが例えば17.5°になる。一方、球面突起有の場合の捕捉角度ΘShは例えば26.1°である。このように、球面突起139を設けることにより捕捉角度ΘShが大きくなり、より多くの光学情報を得ることが可能となる。対物レンズ11Aの開口数NAが0.4であるため、球面突起無の場合の開口数NAshは0.4になるが、球面突起139を設けることにより、開口数NAshが0.6になる。
【0041】
このように開口数NAshが上がることにより、分解能δも上がる。分解能δは、以下の式4に示すアッベの式により求まる。
δ=0.61×λ/NAsh・・・式4
但し、λは光の波長であり0.22μmとする。
【0042】
そうすると、球面突起無の場合(開口数NAshが0.4の場合)の分解能δは0.84μmとなり、球面突起有の場合(開口数NAshが0.6の場合)の分解能δは0.56μmとなるため、球面突起139を設けることで分解能が高くなり、より鮮明な画像を得られることができる。したがって、例えば有形成分の形状等から分析を行う尿沈渣検査における検査精度を高めることができる。
【0043】
図8は、仮に球面突起139を設けていないフローセルにおける球面収差を説明するための図である。フローセルを流通する検体の撮像に、従来のプレパラートのカバーグラスの厚さに合わせて製作された対物レンズを用いると、フローセルの壁の厚みにて球面収差が生じる。この結果、得られる画像が不鮮明となってしまうため、有形成分の分析精度が低下し得る。一方、図5に示したように、球面突起139を設けることにより、球面収差が生じることを抑制できるので、より鮮明な画像を得ることができる。
【0044】
以上説明したようにフローセル13Aに球面突起139を設けることで、フローセル1
3Aの球面収差の影響を低減することができる。さらに、対物レンズ11Aを単体で用いるときよりも開口数を大きくすることができるため、検体中の有形成分のより鮮明な画像を得ることができる。これらにより、有形成分の分析精度を高めることができる。
【0045】
(第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態に係る分析装置200の概略構成を示した図である。主に第1の実施形態と異なる点について説明する。分析装置200には撮像装置100が備わり、撮像装置100は、対物レンズ101、分岐部102、第一レンズ群103A、第二レンズ群103B、マスク104、第一カメラ105A、第二カメラ105Bを備えている。また、撮像装置100は、第1の実施形態で説明した撮像用の光源12及びフローセルユニット13を備えている。
【0046】
以下では、対物レンズ101、分岐部102、第一レンズ群103A、マスク104、第一カメラ105Aを合わせて第一撮像部100Aといい、対物レンズ101、分岐部102、第二レンズ群103B、第二カメラ105Bを合わせて第二撮像部100Bという。第一レンズ群103A及び第二レンズ群103Bは、夫々接眼レンズを含み、さらに結像レンズを有する場合もある。第一撮像部100A及び第二撮像部100Bは、インターフェイス回路14Eに接続されており、コントローラ14によって制御される。
【0047】
分岐部102は、例えばハーフミラーなどのスプリッタであり、対物レンズ101を通過した光の一部を透過させ、残りを反射することにより、光を2方向に分岐している。そして、分岐された光のうち、分岐部102を透過する光が第一レンズ群103Aに入射され、第一撮像部100Aにおいて撮像に供される。一方、分岐部102で反射する光が第二レンズ群103Bに入射され、第二撮像部100Bにおいて撮像に供される。分岐部102を透過する光の光路を第一光路といい、分岐部102を透過する光の光路を第二光路という。また、分岐部102よりも光源12側の光軸を11Bで示し、第一光路の光軸を111Aで示し、第二光路の光軸を111Bで示している。
【0048】
マスク104は、分岐部102と第一レンズ群103Aとの間に配置される。マスク104は、第一レンズ群103Aの光軸111Aと直交する板に円形の穴を開けて形成しており、第一レンズ群103Aの光軸111Aがマスク104の穴の中心軸を通るようにマスク104が配置されている。マスク104は、第一光路において光の一部を遮ることにより、開口絞りとして機能する。
【0049】
第一撮像部100Aでは、対物レンズ101よりも後にマスク104が存在することにより光量が絞られるため、以下のように、第一撮像部100Aで撮像される画像の被写界深度が、第二撮像部100Bで撮像される画像の被写界深度よりも深くなるが、第二撮像部100Bの分解能は、第一撮像部100Aの分解能よりも高くなる。マスク104に形成する穴の直径は、第一撮像部100Aにおいて所望の開口数になるように設定する。所望の開口数は、要求される分解能または被写界深度に応じて設定することができる。
【0050】
また、第二撮像部100Bで撮像される画像の被写界深度が、第一撮像部100Aで撮像される画像の被写界深度に含まれるように、両画像の被写界深度を設定する。さらに、両画像の被写界深度内に検体が存在するように、両画像の被写界深度を設定する。以下では、第一撮像部100Aの開口数を0.4に設定し、第二撮像部100Bの開口数を0.6に設定する場合について説明する。
【0051】
図10は、開口径と瞳径との関係を示した図である。
第二撮像部100Bにおける出射瞳径である最大出射瞳径Dmaxは、以下の式5により算出される。
Dmax=2×f×NA・・・式5
但し、fは対物レンズ101の焦点距離、NAは対物レンズ101の開口数である。焦点距離fが10、対物レンズ101の開口数NAが0.4とすると、最大出射瞳径Dmaxは8.0mmになる。この場合、球面突起139が存在することによって開口数(最大出射瞳径に対応する開口数NAmax)は0.6になる。
【0052】
マスク104が存在する場合の第一撮像部100Aにおける出射瞳径D0は、以下の式6により算出される。
D0=Dmax×(NA0/NAmax)・・・式6
但し、Dmaxは最大出射瞳径、NA0は求めたい出射瞳径に対応する開口数、NAmaxは最大出射瞳径に対応する開口数である。Dmaxが8.0mmであり、NA0が0.4、NAmaxが0.6とすると、マスク104が存在する場合の出射瞳径D0は5.3mmとなる。すなわち、マスク104に形成する穴の直径を5.3mmに設定することにより、第一撮像部100Aにおける開口数を0.4に設定することができる。
【0053】
被写界深度dは例えば以下の式7に基づいて算出することができる。
d=RC×2/(NA×β)+λ/(2×NA)・・・式7
但し、βは倍率、λは光の波長、NAは開口数、RCはCMOSカメラの素子サイズである。
【0054】
式7により開口数NA=0.4の場合には被写界深度が例えば3.5μmになり、開口数NA=0.6の場合には被写界深度が例えば2.0μmになる。図11は、開口数NA=0.4の場合の被写界深度(例えば3.5μm)と、開口数NA=0.6の場合の被写界深度(例えば2.0μm)との関係を示した図である。このように、開口数NA=0.4の場合の画像の被写界深度に、開口数NA=0.6の場合の画像の被写界深度が含まれるように、両被写界深度が設定される。
【0055】
したがって、光路を分岐部102で第一光路と第二光路とに分岐させ、第一光路にマスク104を設けることにより、第一撮像部100Aと第二撮像部100Bとで、視野角が同じで分解能及び被写界深度が異なる2つの画像を同時に取得することができる。被写界深度がより深い第一撮像部100Aで撮像した画像は、撮影領域が広いため、有形成分の種類や数を求めるのに適している。一方、分解能がより高い第二撮像部100Bで撮像した画像は、細胞核等の形態観察に適している。したがって、第一撮像部100Aにより撮像された画像に基づいて、有形成分が存在する位置や種類、数を把握し、第二撮像部100Bにより撮像された画像に基づいて、有形成分の細かな形態観察を実施することで、有形成分の分析精度を高めることができる。フローセル13Aに球面突起139を設けることにより、開口数を高めたことにより、撮像の制約が少なくなり、観察目的に適合する撮像をすることが可能となる。
【0056】
CPU14Aは、第一撮像部100A及び第二撮像部100Bによって同時に同じ範囲に存在する有形成分の撮像を行い、第一撮像部100Aにより撮像された画像から、有形成分の位置、種類、大きさ、数を把握し、把握された有形成分の大きさから画像の切り出しサイズを決定し、切り出し画像を生成する。切り出し画像は、撮像した画像に含まれる有形成分の1つを四角で囲ってその内部を切り出した画像に相当する。切り出し画像は、有形成分の種類、切り出し位置、切り出しサイズと共にRAM14Cに記憶される。
【0057】
CPU14Aは、第一撮像部100Aにより撮像された画像から生成された切り出し画像(以下、第一切り出し画像という)と同じ切り出し位置及び同じ切り出しサイズの画像を、第二撮像部100Bにより撮像された画像から切り出して切り出し画像(以下、第二切り出し画像という)を生成する。そして、第一切り出し画像と第二切り出し画像とを関
連付けてRAM14Cに記憶させる。第二切り出し画像は、CPU14Aにより各種分析に供される。
【0058】
図12は、切り出し画像を生成、記憶するフローを示したフローチャートである。本フローチャートは、CPU14Aによって実行される。
【0059】
ステップS101では、CPU14Aは、第一撮像部100A及び第二撮像部100Bによって撮像される画像を取得する。以下では、第一撮像部100Aによって撮像された画像を第一画像といい、第二撮像部100Bによって撮像された画像を第二画像という。
【0060】
ステップS101の処理が完了するとステップS102へ進み、CPU14Aは、第一画像から有形成分を切り出して第一切り出し画像を生成し、夫々の第一切り出し画像を、位置情報(切り出し位置、切り出しサイズなど)及び種別情報と共にRAM14Cに記憶させる。種別情報は、例えば色、形状、大きさに基づいて有形成分を分類した情報であり、この分類には予めROM14Bに記憶されたプログラムが用いられる。なお、切り出した画像から焦点が合っているものだけを選択して第一切り出し画像として取得してもよい。
【0061】
ステップS102の処理が完了するとステップS103へ進み、CPU14Aは、第二画像から有形成分を切り出して第二切り出し画像を生成する。第二切り出し画像は、複数の第一切り出し画像の夫々の位置情報に基づいて、第一切り出し画像と同じ位置及びサイズで第二画像から画像を切り出すことにより生成される。第二切り出し画像は、第一切り出し画像と関連付けてRAM14Cに記憶される。
【0062】
その後、CPU14Aはフローチャートを終了させる。そして、CPU14Aは、記憶された第二切り出し画像を解析することにより有形成分を分析する。
【0063】
このように第一切り出し画像に基づいて、有形成分の種類や数を特定することができ、第二切り出し画像に基づいて、有形成分の詳細な分析を行うことにより、有形成分の分析精度を高めることができる。また、マスク104の穴のサイズを調整することにより、任意の開口数で画像を取得することにより、被写界深度を調整することが可能である。
【0064】
なお、上記実施形態では、フローセル13Aのテーパ部138A通過後の検体は、フローセル13Aの壁面に接触している態様を一例として説明したが、フローセルの構造及び検体の流れについてはこの態様だけに限定されない。例えば、フローセル13Aのテーパ部138A通過後に、検体の周りをシース液が取り囲み、シース液の中心部で検体が薄く引き伸ばされる構造のフローセルを用いてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 撮像装置
10 撮像部
11 カメラ
11A 対物レンズ
11B 光軸
12 光源
13A フローセル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12