(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】休廃業予測システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20220322BHJP
G06Q 10/04 20120101ALI20220322BHJP
【FI】
G06Q50/10
G06Q10/04
(21)【出願番号】P 2017249774
(22)【出願日】2017-12-26
【審査請求日】2020-10-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年9月11日に一般社団法人金融財政事情研究会発行の週刊金融財政事情 2017年9月11日号にて公開 平成29年9月21日に日本銀行の「再チャレンジ支援および事業承継支援に関する地域ワークショップ」にて公開 平成29年11月21日に日本銀行の「再チャレンジ支援および事業承継支援に関する地域ワークショップ」にて公開 平成29年12月20日に日本銀行の「ITを活用した金融の高度化に関するワークショップ(第3期)」第2回「データを活用した金融の高度化」にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】399009239
【氏名又は名称】株式会社帝国データバンク
(74)【代理人】
【識別番号】100096002
【氏名又は名称】奥田 弘之
(74)【代理人】
【識別番号】100091650
【氏名又は名称】奥田 規之
(72)【発明者】
【氏名】矢内 紘之
(72)【発明者】
【氏名】安江 直芳
【審査官】青柳 光代
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0149247(US,A1)
【文献】特開2003-216804(JP,A)
【文献】特開2019-061367(JP,A)
【文献】特開2013-080456(JP,A)
【文献】特開2007-048226(JP,A)
【文献】特開2002-140519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
G16H 10/00 - 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の企業に関する所定項目に係る情報を所定期間分登録しておく企業情報記憶部と、
休廃業した企業の特定情報及び休廃業時期を登録しておく休廃業情報記憶部と、
上記企業情報記憶部を参照し、各登録企業について、所定期間における所定項目の値を取得する手段と、
上記休廃業情報記憶部を参照し、各登録企業が所定期間内に休廃業しているか否かを確認する手段と、
各登録企業が所定期間内に休廃業しているか否かを目的変数とし、上記所定期間内における所定項目の値を説明変数とするロジスティック回帰分析を行うことにより、企業の休廃業予測のためのモデルを生成する手段と、
このモデルに、特定企業に係る所定期間内における所定項目の値を代入することにより、当該企業が所定期間内に休廃業に至る確率を算出する手段と、
この確率または確率に基づいて算出した他の値を出力する手段と
を備え、
上記説明変数として、各登録企業の代表者の年齢あるいは後継者の有無を示す値の少なくとも一方が含まれていることを特徴とする休廃業予測システム。
【請求項2】
上記企業情報記憶部に登録された情報は、所定の会員企業に対して閲覧可能となされており、
また、上記企業情報記憶部に登録された情報に対する各会員企業の端末からのアクセス数を登録企業毎に格納しておく記憶手段を備えており、
上記説明変数
として、所定期間内における上記アクセス数が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の休廃業予測システム。
【請求項3】
企業の休廃業に対してネガティブ
な影響を及ぼす事象として予め定義されたシグナル情報の発生事実と、企業の休廃業に対してポジティブな影響を及ぼす事象として予め定義されたシグナル情報の発生事実とを、各登録企業に関連付けて格納しておくシグナル情報記憶部を備え、
上記説明変数
として、各登録企業の所定期間内における
ネガティブなシグナル情報の件数
及びポジティブなシグナル情報の件数が含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載の休廃業予測システム。
【請求項4】
上記確率に基づいて算出した他の値が、特定企業が所定期間内に休廃業に至る確率を、年間平均休廃業発生率で除して平均からのリスク倍率を求めた後、これを複数の休廃業グレードと平均からのリスク倍率との対応関係が定義された換算表に当てはめることによって決定される休廃業グレードであることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の休廃業予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は休廃業予測システムに係り、特に、特定の企業が所定の期間内に休廃業する可能性を高精度で算出すると共に、算出結果を外部に出力する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、後継者難や代表者の高齢化を要因とする企業の休廃業が社会問題化しており、事業承継に対する関心が高まっている。休廃業による生産性のロスや技術・ノウハウの消失は、地域経済によってマイナス要因であり、地域経済の維持・拡大のためにも、事業承継支援は必要不可欠といえる。
【0003】
この事業承継支援を行政や金融機関がタイムリーに実行するためには、休廃業の可能性が高い企業を事前に把握していることが大前提となるが、主として資金繰りに窮して強制的に企業活動の継続がストップされる「倒産」と異なり、「休廃業」の場合には資産超過や黒字企業であっても後継者不在や人手不足等の理由で企業活動の停止に追い込まれるケースが多いため、その危険性を外部から窺い知るのは至難の業といえる。
【0004】
これまでも、企業の倒産確率を事前に予測するための技術は種々提案されているが、上記のように「倒産」と「休廃業」では活動停止に至る過程や理由に大きな差異があるため、従来技術を用いて特定企業が休廃業する可能性を高精度で予測することはできなかった。
例えば、以下の特許文献1では、企業のキャッシュ・フロー情報に基づいて企業を評価する技術が開示されているが、支払い能力に問題のない企業であっても休廃業に陥るケースが多いため、これを休廃業の予測にそのまま応用することはできない。
【文献】特開2013-080456
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、このような休廃業予測に纏わる現状に鑑みて案出されたものであり、特定の企業が所定期間内に休廃業する確率を、高精度で算出・提示する技術の実現を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載した休廃業予測システムは、複数の企業に関する所定項目に係る情報を所定期間分登録しておく企業情報記憶部と、休廃業した企業の特定情報及び休廃業時期を登録しておく休廃業情報記憶部と、上記企業情報記憶部を参照し、各登録企業について、所定期間(例えば現時点あるいは直近1年等)における所定項目の値を取得する手段と、上記休廃業情報記憶部を参照し、各登録企業が過去の所定期間内に休廃業しているか否かを確認する手段と、各登録企業が所定期間内に休廃業しているか否かを目的変数とし、上記所定期間内における所定項目の値を説明変数とするロジスティック回帰分析を行うことにより、企業の休廃業予測のためのモデルを生成する手段と、このモデルに、特定企業に係る所定期間(例えば、各登録企業に係る所定項目の値を取得する際の上記所定期間と同じ長さの期間)内における所定項目の値を代入することにより、当該企業が将来の所定期間(例えば、各登録企業が休廃業しているか否かを確認する際の上記所定期間と同じ長さの期間)内に休廃業に至る確率を算出する手段と、この確率または確率に基づいて算出した他の値を出力する手段を備えたことを特徴としている。
上記「出力」には、コンピュータのディスプレイに表示することや、プリンタで印刷すること、コンピュータの記憶装置に格納すること、ネットワークを介して他のコンピュータ等に送信することなどが広く含まれる。
【0007】
請求項2に記載した休廃業予測システムは、請求項1のシステムであって、上記説明変数が、企業の代表者属性、企業属性、規模、信用度、業況、取引関係を示す値の少なくとも一部よりなることを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載した休廃業予測システムは、請求項1または2のシステムであって、さらに、企業の休廃業に対してネガティブまたはポジティブな影響を及ぼす事象として予め定義されたシグナル情報の発生事実を、各企業に関連付けて格納しておくシグナル情報記憶部を備え、上記説明変数の一つが、各登録企業の所定期間内におけるシグナル情報の件数であることを特徴としている。
【0009】
請求項4に記載した休廃業予測システムは、請求項1~3のシステムであって、上記確率に基づいて算出した他の値が、特定企業が所定期間内に休廃業に至る確率を、年間平均休廃業発生率で除して平均からのリスク倍率を求めた後、これを複数の休廃業グレードと平均からのリスク倍率との対応関係が定義された換算表に当てはめることによって決定される休廃業グレードであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る休廃業予測システムの場合、各登録企業が実際に休廃業したか否かのデータに基づいて統計モデルが生成され、これに基づいて具体的な企業の休廃業確率が算出される仕組みを備えているため、資金的な余力を残したまま活動を停止する企業の休廃業を、事前に高精度で予測することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1のブロック図に示すように、この発明に係る休廃業予測システム10は、モデル生成部12と、休廃業情報記憶部14と、シグナル情報記憶部16と、企業情報記憶部18と、モデル記憶部20と、休廃業予測部22と、予測結果記憶部24を備えている。
【0012】
上記モデル生成部12及び休廃業予測部22は、コンピュータのCPUが、OS及び専用のアプリケーションプログラムに従って必要な処理を実行することにより実現される。
また、上記休廃業情報記憶部14、シグナル情報記憶部16、企業情報記憶部18、モデル記憶部20及び予測結果記憶部24は、同コンピュータの記憶装置内に設けられている。
【0013】
ただし、上記のハードウェア構成は一例であり、他のハードウェア構成によって本システム10を実現することも当然に可能である。
例えば、モデル生成部12と休廃業予測部22を別個のコンピュータ上で実現したり、あるいは各記憶部を独立したDBサーバ上に設けたりすることもできる。
【0014】
上記企業情報記憶部18には、信用調査会社によって作成された膨大な数の調査対象企業に関する調査報告情報が、年度毎に過去数十年分蓄積されている。
この調査報告情報は、各企業の基本情報(企業コード、商号、代表者、所在地、電話番号、企業URL、上場区分、設立年月日、資本金、事業内容、取引銀行、従業員数等)の他に、役員構成、株主構成、親子会社関係、過去の業績、今後の業績見通し、取引先(仕入先及び得意先)、財務諸表等を含む膨大なテキストデータであり、プリントアウトすると一企業/一年分で数十頁(A4版)にも及ぶものである。
【0015】
休廃業情報記憶部14には、企業情報記憶部18に格納された各企業の中で、現実に休廃業に至った企業を特定する情報(企業コード、休廃業年月日等)が格納されている。
ここで休廃業とは、企業活動停止が確認できた企業のなかで、倒産(任意整理、法的整理)に分類されないケースを指し、「休業」及び「廃業」の他に、「解散」をも含む概念である。
そして「倒産」とは、任意整理(銀行取引停止、内整理など)を除外し、会社更生法、民事再生法、破産法、特別清算による法的整理を対象としており、企業が債務の支払不能等、経済活動の継続困難な状態に陥る場合を指す。
これに対し「休業」及び「廃業」は、企業活動を停止している状態を指し(官公庁等に「廃業届」を提出して企業活動を終えるケースを含む)、資産が負債を上回る「資産超過」状態での事業停止を主に意味している。ただし、確認時点で当該企業の企業活動が停止していても、将来的な企業活動再開を否定するものではない。
また「解散」とは、主に商業登記等で解散を確認しているものを指す。
【0016】
休廃業情報記憶部14に格納された休廃業企業情報は、多数の調査員が個々の企業を定期的に訪問し、現状を実際に確認した結果に基づいて登録されるものであるため、高い精度と信頼性を有している。
【0017】
シグナル情報記憶部16には、企業の「休廃業」に対してポジティブまたはネガティブな影響を及ぼす事象の存在が、スポット的なシグナル情報として格納されている。
どのような事象がシグナル情報に該当するかは事前に定義されており、各調査員が自己の担当企業についてのシグナル情報を認知した時点で、企業コード及び日時に関連付けてシグナル情報記憶部16に格納する。
【0018】
例えば、「休廃業の噂」を調査員が聞き付けた場合には、当該企業の休廃業につながるネガティブな情報として、シグナル情報記憶部16に登録される。
あるいは、「特許取得」の事実を調査員が確認した場合には、当該企業の事業継続意思を示すポジティブな情報として、シグナル情報記憶部16に登録される。
【0019】
また、会員企業は企業情報記憶部18に格納された調査報告情報にアクセスし、特定の企業に係る信用情報を閲覧することが認められているが、他の企業から特定企業の調査報告情報にアクセスがあった時点で、シグナル情報記憶部16にその事実が自動的に登録される仕組みが設けられている。
【0020】
つぎに、
図2のフローチャートに従い、休廃業予測のためのモデル生成に関する処理手順を説明する。
まず、管理者甲の操作するクライアント端末26から送信されたモデル生成のリクエストを受信すると(S10)、モデル生成部12は、休廃業情報記憶部14を参照し、過去の所定期間(例えば直近1年間)に休廃業している企業を特定する(S11)。
【0021】
つぎにモデル生成部12は、企業情報記憶部18を参照し、各登録企業の所定期間における特定項目の情報を取得すると共に(S12)、シグナル情報記憶部16を参照し、各登録企業の所定期間におけるシグナル情報を取得する(S13)。
【0022】
以下はモデル生成部12によって抽出されるデータの一例を示すものであり、変数属性の「1.代表者属性」、「2.企業属性」、「3.規模」、「4.信用度」、「5.業況」、「6.取引関係」までが企業情報記憶部18から抽出されるデータであり、変数属性の「7.シグナル情報」がシグナル情報記憶部16から抽出されるデータである。
【0023】
負債が多額となり資金繰りに窮した企業が倒産を余儀なくされるのに対し、休廃業は当面の事業活動は可能であっても、将来の事業継続に困難を感じた企業が自発的に選択するケースが多いため、休廃業を予測する際に有効な説明変数やその有効度は倒産を予測する場合とは異なる。
詳細は後述するが、上記の各変数属性は休廃業との関連性を考慮して選定されたものであり、これらの属性に含まれる項目が、モデル生成に際しての説明変数となる。以下、個別に説明する。
【0024】
[1.代表者属性]
(1) 代表者年齢および後継者
調査報告情報中には、代表者の生年月日や後継者の有無が記載されており、各登録企業の代表者の生年月日に基づいて、現在の年齢が算出される。
代表者の死亡や引退に起因して企業の休廃業が生じるケースが多いため、代表者の年齢と後継者の状況はモデル生成の説明変数に適している。
【0025】
(2) 経営者タイプ
調査報告情報中には、代表者の就任経緯フラグとして、「業界経験」、「経営経験」、「得意分野」、「就任経緯」、「人物像」等が記載されているが、会社設立の経緯や代表者の経営手腕は企業の休廃業に大きな影響が生じると考えられるため、経営者タイプ内の幾つかの項目がモデル生成の説明変数として採用されている。
【0026】
[2.企業属性]
(3) 業種分類
企業の売上構成に基づいて、全1,300種類以上からなる業種分類が特定され、企業情報中に記載される。
企業が休廃業するか否かは、業種によっても異なった傾向がみられるため、これらの業種分類またはその上位概念としての区分がモデル生成の説明変数として採用されている。
【0027】
(4) 法人形態
企業情報中に記載された法人格コードに基づいて、「個人事業主」、「株式会社」、「有限会社」、「官公庁」、「その他法人」等のカテゴリが特定される。
【0028】
[3.企業規模]
(5) 従業員数、売上規模、資本金等
企業情報中に記載された数値情報に基づいて、各企業の規模を数値で表現する。
例えば、企業情報中に記載された従業員数Nをモデルに組み込む場合、以下の式に代入して対数変換した結果が、「従業員数」として採用される。
式:log(N+α)※αは微小な数値
【0029】
[4.信用度]
(6) 「評点」
調査報告情報中には、各企業の「業歴」、「資本構成」、「規模」、「損益」、「資金現況」、「経営者」、「企業活力」等の項目毎に評点が付けられており、これらの点数の組み合わせが「4.企業信用度」となる。
これらの評点は、経験と学識を備えた専門家によって付与されるものであり、企業の信用度を測る指標として十分機能し得るといえる。
【0030】
[5.業況]
調査報告情報で収集した売上、利益の経年情報を元に売上や利益の推移を算出し、「5.業況」として採用する。
(7) 売上およびその推移
(8) 利益およびその推移
これら(7)及び (8)については、調査報告情報中の「損益計算書」情報に基づき、特定される。
【0031】
[6.取引関係]
(9) 銀行取引状況
調査報告情報中の「借入状況」、「借入金合計推移」、「担保設定状況」、「主力行の変更」等から銀行との取引状況を特定する。例えば、「担保設定状況」に列記された担保の類型中、「保証協会」に◎が付与されている場合には、休廃業をするには保証協会との協議が必要となると見込まれることから、企業の休廃業を予測するに際し一つの大きなポイントとなる。
【0032】
(10) 取引先数
調査報告情報中の「主要取引先」に列記された取引先企業の数を算出することにより、取引先数が特定される。
【0033】
[7.シグナル情報]
(11) 調査報告情報へのアクセス数(直近2年間)
上記の通り、会員企業は企業情報記憶部18にアクセスし、特定の企業に係る調査報告情報を閲覧することが認められており、ある企業から他の企業の調査報告情報にアクセスがあった場合には、上記のようにシグナル情報記憶部16に記録が残される仕組みとなっている。
このため、シグナル情報記憶部16に記録された特定企業に対する直近2年間のアクセス数を集計することにより、この調査報告情報へのアクセス数が求められる。
【0034】
(12) 企業状況の変動に関する情報
これらについては、シグナル情報記憶部16に格納されたシグナル情報の中、上記(11)のアクセス数を除いたものを企業コード別に集計した後、日時順に整列させることによって算出される。
上記の通り、企業が休廃業するか否かについて高い関連性を有する事象が予めシグナル情報として定義されており、関連性や情報の入手時期を考慮して集計される。
【0035】
つぎにモデル生成部12は、企業情報記憶部18に登録された各企業が、所定の期間(例えば直近1年以内)に休廃業したか否か(1or0)を目的変数とし、上記に示した(1)~(12)の各項目の値を説明変数とするロジスティック回帰分析を行い、休廃業予測モデルを生成する(S14)。
【0036】
ここでロジスティック回帰分析とは、
図3の式1に示すように、各説明変数の値X
1~X
Nにβ
1~β
Nを乗じた積と、β
0(切片)の値を加算して「Z」の値を求め、これを同図の式2に代入することにより、ある事象の発生確率である「p」を求める統計的手法を指す。
また、モデルを生成するとは、β
0 (定数)と、β
1~β
N(回帰係数)の具体的な値を算出することを意味している。
【0037】
なお、上記のモデル生成に際し、Xの値が代表者の年齢や従業員数のような数値の場合には説明変数としてそのまま適用されるが、代表者の就任経緯や業種のように非数値のカテゴリカル変数の場合、ある変数(例えば就任経緯フラグの「創業者」や業種区分の「建設業」)をダミー変数とすることにより、各変数の数値が算出される。
【0038】
また、モデルの生成に際し、どの説明変数Xを採用するかは、各説明変数からステップワイズ法による変数の取捨選択を行って最終決定している。同時に、採用された各変数への重み付けであるβの値は、最尤法によって推定を行っている。
【0039】
最後にモデル生成部12は、算出したβ0~βNの値を、モデル記憶部20に格納する(S15)。
【0040】
つぎに、
図4のフローチャートに従い、特定企業の休廃業予測に関する処理手順を説明する。
まず、
図5(a)に示すように、ユーザ乙がクライアント端末28のディスプレイに表示された休廃業予測画面30上で企業コードを入力し、送信ボタン32をクリックすると、休廃業予測システム10に対して休廃業予測リクエストが送信される。
【0041】
これを受けた休廃業予測部22は(S20)、企業情報記憶部18を参照し、指定された企業に係る所定期間内における必要な情報(代表者年齢や後継者の有無等)を取得する(S21)。
同時に休廃業予測部22は、シグナル情報記憶部16を参照し、指定された企業の調査報告情報に対する直近2年間におけるアクセス数や、他のシグナル情報を取得する(S22)。
【0042】
つぎに休廃業予測部22は、モデル記憶部20からモデル(上記β0~βNの値)を取得する(S23)。
【0043】
つぎに休廃業予測部22は、取得した当該企業の各種情報をモデルに適用し、所定期間(例えば今後1年間)における休廃業確率を算出する(S24)。
具体的には、当該企業の各種情報を
図3に示した式1のX
1~X
Nに代入すると共に、それぞれをβ
1~β
Nの値と乗算し、各積とβ
0を加算することにより、まずはZの値を求める。
つぎに休廃業予測部22は、Zの値を
図3の式2に代入し、当該企業の休廃業確率pを算出する。
【0044】
なお、上記Zの値を求めるに際し、Xの値が代表者の年齢や従業員数のような数値の場合にはそのままβの値と乗算される。
これに対し、後継者の有無のように非数値のカテゴリカル変数の場合には、該当する変数についてXに「1」が、該当しない変数については「0」が代入され、対応するβの値と乗算される。
【0045】
つぎに休廃業予測部22は、算出結果をクライアント端末28に送信する(S25)。
この結果、
図5(b)に示すように、休廃業予測画面30上に当該企業の1年以内の休廃業確率(3.25%)と、休廃業グレード(G10)が表示される。
【0046】
ここで休廃業グレードとは、以下の式3で求めた平均からのリスク倍率を、
図6の換算表に当てはめることによって、G01~G10の範囲で特定されるものであり、G10に近づくにつれて休廃業のリスクが高まることを表している。
(式3)平均からのリスク倍率=p÷年間平均休廃業発生率
p:式2で求めた1年以内の休廃業確率
【0047】
最後に休廃業予測部22は、算出結果を予測結果記憶部24に格納する(S26)。
この結果、同一企業についての休廃業予測リクエストが他のユーザのクライアント端末28から送信された場合、休廃業予測部22はS21~S24のステップを省略し、予測結果記憶部24内に格納された前回の予測結果を参照することによって、迅速に休廃業予測結果を返信することが可能となる。
なお、上記のようにクライアント端末28からのリクエストを待つことなく、事前に主要な企業の休廃業確率を算出し、予測結果記憶部24に格納しておくことも当然に可能である。
【0048】
つぎに、
図7に基づき、このシステム10の実効性について検討する。
図7は、2015年以前の調査報告情報及びシグナル情報に基づいてモデルを生成すると共に、これに各企業の2015年以前の調査報告情報及びシグナル情報を適用して算出した、2016年度の休廃業予測結果を示すものである。
【0049】
まず
図7(a)は、左側縦軸に企業数を、右側縦軸に実際の休廃業発生率を、横軸にグレードG01~G10を設定したグラフであり、棒グラフが上記モデルに基づいて算出した各グレードの企業数を表しており、折れ線グラフが各グレードに分類された企業の中で、実際に2016年中に休廃業した企業の発生率を表している。
【0050】
図示の通り、休廃業リスクが最も低いものと推定されたG01に属する企業の休廃業発生率は、各グレード中最低の0.02%に止まるのに対し、休廃業リスクが最も高いものと推定されたG10に属する企業の休廃業発生率は最高の3.88%に及んでおり、折れ線グラフもG01からG10に向かって増加傾向を示していることから、本システム10による企業のグレード分けが実効性を備えていることが証明されている。
【0051】
図7(b)は、このモデルの精度を示すAR値と、判別率及び非判別率を示すテーブルである。
ここで「AR値」とは、信用スコアリングモデルの序列性能(悪い先をより悪く、良い先をより良く評価する能力)を評価する際に最も基本となる統計量であり、理想的なモデル(パーフェクトモデル)を1、良い先と悪い先を全く区別できないモデル(ランダムモデル)を0として、当該モデルがどの程度の能力を有しているのかを表すものである。
AR値は1に近いほどモデルの精度が高いことを示しており、図示した「0.65」は比較的良好な結果と評価することができる。
【0052】
また「判別率」とは、休廃業の可能性が高いと予測した企業が実際に休廃業した確率を意味しており、具体的にはG06~G10に分類された企業の中で休廃業したものの合計数を、全グレードにおける休廃業した企業の合計数で除することによって求められる。
これに対し「判別率」とは、休廃業の可能性が低いと予測した企業が実際に休廃業しなかった確率を意味しており、具体的にはG01~G05に分類された企業の中で休廃業しなかったものの合計数を、全グレードにおける休廃業数しなかった企業の合計数で除することによって求められる。
判別率及び非判別の何れも「75%」を越えており、比較的良好な結果が得られているといえる。
【0053】
図8は、上記と同様のモデルを用いて、2014年以前の調査報告情報及びシグナル情報を適用して算出した、2015年度の休廃業予測結果を示すものである。
また
図9は、上記と同様のモデルを用いて、2013年以前の調査報告情報及びシグナル情報を適用して算出した、2014年度の休廃業予測結果を示すものである。
【0054】
何れの場合も、判別率及び非判別率が「70%」を越える良好な結果が得られている。
このことから、モデル生成部12によって生成されたモデル式は、時間が経っても安定する(精度が担保される)ことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】この発明に係る休廃業予測システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】休廃業予測のためのモデル生成に関する処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】ロジスティック回帰分析に用いる数式を示す図である。
【
図4】特定企業の休廃業予測に関する処理手順を示すフローチャートである。
【
図6】平均からのリスク倍率と休廃業グレードとの対応関係を示す換算表である。
【
図7】2016年度の休廃業予測結果を示す図である。
【
図8】2015年度の休廃業予測結果を示す図である。
【
図9】2014年度の休廃業予測結果を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
10 休廃業予測システム
12 モデル生成部
14 休廃業情報記憶部
16 シグナル情報記憶部
18 企業情報記憶部
20 モデル記憶部
22 休廃業予測部
24 予測結果記憶部
26 管理者のクライアント端末
28 ユーザのクライアント端末
30 休廃業予測画面