(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】検出器、及び走査装置
(51)【国際特許分類】
H01L 27/146 20060101AFI20220322BHJP
G01T 1/161 20060101ALI20220322BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20220322BHJP
H01L 27/144 20060101ALI20220322BHJP
H01L 31/107 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
H01L27/146 D
G01T1/161 C
G01T1/20 E
G01T1/20 G
H01L27/144 K
H01L31/10 B
(21)【出願番号】P 2017525003
(86)(22)【出願日】2015-10-26
(86)【国際出願番号】 CN2015092833
(87)【国際公開番号】W WO2016074560
(87)【国際公開日】2016-05-19
【審査請求日】2017-06-27
【審判番号】
【審判請求日】2020-03-11
(31)【優先権主張番号】201410648328.4
(32)【優先日】2014-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515207606
【氏名又は名称】ライカン テクノロジー カンパニー リミテッド (スー チョウ)
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シエ,チングオ
(72)【発明者】
【氏名】ジュー,ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ニウ,ミン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,リューヤオ
【合議体】
【審判長】辻本 泰隆
【審判官】小田 浩
【審判官】小川 将之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/189188(WO,A1)
【文献】特開2014-2145(JP,A)
【文献】特表2008-510129(JP,A)
【文献】国際公開第2013/115975(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2001/0040219(US,A1)
【文献】特開平4-2042484(JP,A)
【文献】特表2010-527021(JP,A)
【文献】特開2014-2145(JP,A)
【文献】特開2013-89919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/146
G01T 1/161
G01T 1/20
H01L 27/144
H01L 31/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンチレーション結晶と、
電子システムと、
光電変換器と、を備え、
前記光電変換器は、i×j個のシリコン光電子増倍管を水平面で接合することによって形成されるシリコン光電子増倍管アレイを備え、
iは、前記水平面の長さ方向のシリコン光電子増倍管の数を示し、jは、前記水平面の幅方向のシリコン光電子増倍管の数を示し、iとjは、共に2以上の整数であり、
1つのシリコン光電子増倍管の検出領域は、1×1mm
2~6×6mm
2であり、シリコン光電子増倍管のマイクロピクセルユニットの面積は、25×25μm
2~100×100μm
2の範囲であり、
前記シリコン光電子増倍管アレイに結合された導光体を更に含み、
前記導光体は、光ファイバ、一般的な無機ガラス又は有機ガラスを含み、前記導光体はP個の層を含み、Pは、2~4の範囲であり、前記導光体の層の総厚は、0.1mm~50mmであり、
前記シンチレーション結晶、導光体及び前記シリコン光電子増倍管アレイが、この順序で、光結合剤によって結合されており、
1つのγ光子堆積イベントに応答して、前記光電変換器が電気パルス信号のk個の経路を生成し、kは4以上の整数であり、
前記電気パルス信号の経路の個数kは、前記シリコン光電子増倍管の数に相当し、
前記電子システムは、前記電気パルス信号のk個の経路を処理して、γ光子のエネルギ、位置及び時間に関する情報を取得し、
前記電子システムは、前記電気パルス信号のk個の経路を前処理して電子チャネルの数を減少させ、電子パルス信号のm個の経路を取得し、mは、4以上、k以下であり、
前記電子システムは、前記m個の電気パルス信号に基づいて、位置アルゴリズムを使用して前記γ光子の堆積位置を算出する、検出器。
【請求項2】
前記導光体の形状は、円錐、円柱、直方体、立方体又は角錐台状の多面体である請求項1に記載の検出器。
【請求項3】
前記シンチレーション結晶は、単結晶ストリップを含むアレイ結晶、非フルカットアレイ結晶、ノンカット連続結晶、又は連続結晶とアレイとを含む多層結晶である請求項1記載の検出器。
【請求項4】
前記電子システムは、時間アルゴリズムを用いて前記m個の電気パルス信号に基づいて前記γ光子の堆積時間を算出し、前記時間アルゴリズムは、前記m個の電気パルス信号の合計又は加重和を算出することと、前記合計された電気パルス信号の時間情報を前記γ光子の堆積時間として抽出することとを含む請求項1または2に記載の検出器。
【請求項5】
ラックと、
前記ラックに搭載された検出装置と、を備え、前記検出装置は、検出器を備え、前記検出器は、請求項1から4の何れか1項に記載の光電変換器を備える走査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2014年11月14日に中華人民共和国専利局に提出された中国特許出願第201410648328.4号、発明の名称、「光電変換器、検出器、及び走査装置」の優先権を主張し、この文献は、その全体が参考として本願に援用される。
【0002】
本開示は、核医学イメージングの技術分野に関し、特に、光電変換器、光電変換器を含む検出器、及び検出器を含む走査装置に関する。
【背景技術】
【0003】
陽電子放出断層撮影(Positron Emission Tomography:以下、PET)検出器は、PET撮像装置の主要装置であり、PET検出器は、主にγ線がPETシステムに堆積したときの位置、時間、エネルギに関する情報を取得するために用いられる。PET検出器の性能は、PET撮像システム全体の性能を直接決定する。システムのイメージング性能を向上させるためには、使用される陽電子放出断層撮影検出器は、高い空間分解能、良好な時間分解能、良好なエネルギ分解能及び高い計数率等を有することが期待される。
【0004】
PET検出器の光電変換器は、前方シンチレーション結晶から出力されたシンチレーション光子を対応する電気パルスに変換し、この電気パルスを乗算及び増幅することにより、電子システムによって処理できるようにする。従来のPET検出器では、光電変換デバイスは、通常、光電子増倍管、アバランシェフォトダイオード及び位置敏感型光電子増倍管を採用している。
【0005】
光電子増倍管では、通常、シンチレーション光子を光電面によって光電子に変換し、光電子を複数のダイノードで乗算し、最後に電気パルス信号をアノードから出力する。光電子増倍管の利得は、通常、約106である。光電子増倍管は、高利得、低雑音、迅速な時間応答という利点を有しているため、光電子増倍管は、臨床PET光電変換デバイスの大部分に使用されている。光電子増倍管の体積は一般に大きく、このため、PET検出器の空間分解能及びPETシステム構造の設計の自由度が制限されることがある。光電子増倍管は、磁場内で正常に動作することができないため、PET/MRIデュアルモードイメージングシステムにおける光電変換デバイスとして機能することが困難である。
【0006】
アバランシェフォトダイオードでは、光電陰極によってシンチレーション光子が光電子に変換され、フォトダイオードのアバランシェ効果によって、光電子が増幅され、電気パルス信号が得られる。アバランシェフォトダイオードは、磁場内で正常に動作し、これは、PET/MRIデュアルモードイメージングシステムにおいて使用できる可能性を示している。アバランシェフォトダイオードは体積が小さく、より高い空間分解能を有するPET検出器を設計するために使用することができる。既に、アバランシェフォトダイオードによって、より高い空間分解能を必要とする小動物用のPETが設計されている(Melanie Bergeron, Jules Cadorette, Jean-Francois Beaudoin, Martin D. Lepage, Ghislain Robert, Vitali Selivanov, Marc-Andre Tetrault, Nicolas Viscogliosi, Jeffrey P. Norenberg, Rejean Fontaine, and Roger Lecomte, "Performance Evaluation of the LabPET APD-Based Digital PET Scanner," IEEE TRANSACTIONS ON NUCLEAR SCIENCE, VOL. 56, NO. 1, FEBRUARY 2009)。しかしながら、アバランシェフォトダイオードは、利得が約104と不十分であり、雑音が大きく、このため、PET検出器の性能に影響を及ぼす。
【0007】
位置敏感型光電子増倍管は、光電子増倍管の全ての利点を有し、高い空間分解能を達成することができる。ある研究グループは、位置敏感型光電子増倍管によって、より高い空間分解能を必要とする小動物用のPETを既に開発し、良好なシステム性能を達成している(Qingguo Xie, Yuanbao Chen, Jun Zhu, Jingjing Liu, Xi Wang, Xin Chen, Ming Niu, Zhongyi Wu, Daoming Xi, Luyao Wang, Peng Xiao, Chin-Tu Chen, Chien-Min Kao "Implementation of LYSO-PSPMT Block Detector with an All-Digital DAQ System," in IEEE Transactions on Nuclear Science, pp.1487-1494, 2013)。しかしながら、位置敏感型光電子増倍管の価格は高く、この結果、PETシステムのコストが上昇する。
【0008】
近年、低コストのシリコン光電子増倍管が注目を集めている。シリコン光電子増倍管は、ガイガーモードで動作するアバランシェフォトダイオードマイクロピクセルユニットアレイを含み、光電子増倍管に匹敵する106の利得を有する。更に、シリコン光電子増倍管は、雑音が少なく、体積が小さく、磁場による影響を受けず、良好な時間性能を有し、大量生産によって低価格となり、PET検出器を構成するために使用できるよう適応化できる(Qingguo Xie, Robert G. Wagner, Gary Drake, Patrick DeLurgio, Yun Dong, Chin-Tu Chen, Chien-Min Kao, "Performance Evaluation of Multi-Pixel Photon Counters for PET Imaging," in Conference Record of the 2007 IEEE Nuclear Science Symposium, vol. 2, pp.969-974, 2007)。光電変換デバイスであるシリコン光電子増倍管は、従来の体積の大きな光電子増倍管と比較して、体積が小さく、配置構造がコンパクトであり、空間分解能の高いPET検出器を構成することができ、最終的に全体のPETシステムの空間分解能を向上させる。また、シリコン光電子増倍管は、体積が小さく、複数の検出器構造を構築するのに便利であり、相互作用位置(Depth of Interaction:DOI)検出能力を有するPET検出器の構築に適するため、大体積の光電子増倍管と比較して、PETシステム構造を構築するための柔軟性が大幅に改善される。シリコン光電子増倍管は、良好な時間性能を有し、これを用いてTime-of-Flight(TOF)能力を有するPET検出器を構築することができ、これにより、PET画像の品質が改善される。シリコン光電子増倍管は利得が高く、動作過程で磁場の影響を受けないため、PET/MRIソリューション中のコア光電変換デバイスに最適である。光電子増倍管、特に位置敏感型光電子増倍管のコストは常に高いが、シリコン光電子増倍管の価格は、大量生産によって安くでき、PETシステムのコストを大幅に削減することができる。
【0009】
シリコン光電子増倍管は、光電子増倍管に匹敵する利得を有すると共に、アバランシェフォトダイオードの利点である小さな体積、磁場に対する不感受性、及び良好な時間性能を有する。シリコン光電子増倍管は、光電子増倍管とアバランシェフォトダイオードの両方の利点を有する。シリコン光電子増倍管を陽電子放出断層撮影装置の光電変換デバイスとして使用し、良好な位置分解能が得られれば、シリコン光電子増倍管に基づいて、より高い空間分解能、DOI及びTOFの能力、PET/MRIへの適用性を有する低コストな陽電子放出断層撮影検出器を設計及び構築することができる。
【0010】
したがって、従来の技術における検出器の欠陥を克服するために、シリコン光電子増倍管を含む新しい光電変換器を実現することが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明の目的は、空間分解能が高い光電変換器、この光電変換器を備えた検出器、及びこの検出器を備えた走査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、より高い空間分解能を有する光電変換器を提供することである。光電変換器は、シリコン光電子増倍管アレイを含み、シリコン光電子増倍管は、i×j個のシリコン光電子増倍管を水平面で接合して形成され、ここで、iは、シリコン光電子増倍管の水平面における長さ方向の数を示し、jは、シリコン光電子増倍管の水平面における幅方向の数を示し、iとjは、共に2以上の整数である。
【0013】
本発明の他の目的は、光電変換器を含む検出器を提供することである。検出器は、シンチレーション結晶、電子システム及び光電変換器を含み、シンチレーション結晶、導光体及びシリコン光電子増倍管アレイは、この順序で、光結合剤(optical coupling agent)によって結合される。
【0014】
本発明の他の目的は、検出器を含む走査装置を提供することである。走査装置は、検出装置とラックとを含み、検出装置はラックに取り付けられ、検出装置は検出器を含む。
【0015】
上述した技術的ソリューションからわかるように、本開示では、シリコン光電子増倍管を用いた光電検出ソリューションを採用する。シリコン光電子増倍管は、体積が小さく、コンパクトな配置構造を有しており、適切な大きさのシリコン光電子増倍管を適切な形状の導光体と協働させることにより、シンチレーション結晶の光子を導光体内に拡散させ、豊富な空間情報を使用して高い空間分解能のPET検出器を構築でき、これによって最終的にPETシステム全体の空間分解能が向上する。更に、シリコン光電子増倍管を用いて、PET/MRIに適用可能なDOI及びTOFの能力を有するPET検出器を低コストで構築できる。
【0016】
本開示は、従来技術と比較して、以下の有益な効果を有する。
【0017】
1.体積が大きい光電子増倍管を用いた従来のソリューションと比較して、シリコン光電子増倍管を用いた光電検出システムソリューションでは、シリコン光電子増倍管の体積が小さく、配置構造がコンパクトであり、適切なサイズを有する適切な数のシリコン光電子増倍管を、適切な形状を有する光ガイドと協働させることができ、生来的に空間分解能が高いPET検出器を構築することができ、最終的にPETシステム全体の空間分解能を向上させることができる。
【0018】
2.シリコン光電子増倍管は、光電子増倍管に匹敵する利得(106)を有し、雑音は、許容可能なレベルである。従来の光電変換器であるアバランシェフォトダイオードは、利得が104であり、雑音が大きいため、アバランシェフォトダイオードを含むPET検出器は、性能が低い。
【0019】
3.シリコン光電子増倍管は体積が小さく、複数の検出器構造を構築するのに便利であり、DOI検出能力を有するPET検出器を構築するのに適しているため、体積が大きい光電子倍増管を用いる場合に比べて、PET検出器構造を構築する際の柔軟性が大幅に向上する。
【0020】
4.シリコン光電子増倍管は、時間性能が良好であり、TOF能力を有するPET検出器を構築するために使用でき、これによってPET画像の品質を改善することができる。
【0021】
5.従来のPET検出器で一般的に用いられている光電子増倍管は、磁場内で正常に動作することができず、したがって、PET/MRIデュアルモードイメージングシステムを研究開発する際に、光電変換器を選択することが困難であった。シリコン光電子増倍管は、利得が高く、動作過程で磁場の影響を受けず、したがって、シリコン光電子増倍管は、PET/MRIソリューションにおけるコア光電変換デバイスとしての最適な選択肢となる。
【0022】
6.光電子増倍管、特に位置敏感型光電子増倍管は、複雑な製造プロセスのために、常に高コストである。シリコン光電子増倍管は、大量生産することで低コストになり、これにより、PETシステムを構築するためのコストを大幅に低減することができる。
【0023】
7.3種類の電子前処理回路により、シリコン光電子増倍管に基づいて構築されたPET検出器のチャネル数を効果的に低減できるのみでなく、γ光子堆積の位置、エネルギ、時間に関する情報も失われず、シリコン光電子増倍管に基づいて構築されたPET検出器を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本開示の第1の実施形態による光電変換器の概略立体図である。
【
図2】本開示の第2の実施形態による光電変換器の概略立体図である。
【
図3】本開示の第3の実施形態による光電変換器の概略立体図である。
【
図4】本開示によるレジスタネットワークによる4個のシリコン光電子増倍管信号から最終的に4個の重み付け信号経路がどのように形成されるかを示す概略図である。
【
図5】本開示による、より簡単な抵抗ネットワークによって、シリコン光電子増倍管信号の16チャネルから最終的に重み付け信号の4個の経路がどのように形成されるかを示す概略図である。
【
図6】シリコン光電子増倍管のカソード信号及びアノード信号を同時に取得することによって、16個のシリコン光電子増倍管信号から最終的に重み付けされた信号の8つの経路がどのように形成されるかを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
シリコン光電子増倍管は、光電子増倍管に匹敵する利得を有すると共に、アバランシェフォトダイオードの特徴である小さな体積、磁場に対する不感受性、良好な時間性能、及び大量生産された場合の低価格といった利点を有する。シリコン光電子増倍管は、光電子増倍管とアバランシェフォトダイオードの両方の利点を有する。この利点を十分に利用し、対応する導光体を設計することによって、シンチレーション結晶の光子を導光体内で拡散させることができる。このような豊富な空間分布情報と、後段の電子設計及び位置読み取りアルゴリズムとを組み合わせることにより、γ光子の体積位置情報を正確に取得することができ、したがって、PET検出器の空間分解能は、シリコン光電子増倍管のサイズ制限を超えることができる。
【0026】
以上の分析に基づき、本開示は、空間分解能がより高く、DOI及びTOFの能力を有し、PET/MRIに適用され、コストが低い光電変換器、光電変換器を含む検出器、及び検出器を含む走査装置を提供する。
【0027】
走査装置は、検出装置とラックとを含み、検出装置は、ラックに取り付けられ、検出装置は検出器を含む。
【0028】
検出器は、シンチレーション結晶、電子システム及び光電変換器を含む。光電変換器は、シリコン光電子増倍管アレイと、シリコン光電子増倍管アレイに結合された導光体とを含む。シンチレーション結晶、導光体及びシリコン光電子増倍管アレイは、この順序で、光結合剤によって、結合される。シリコン光電子増倍管は、体積が小さく、複数の検出器構造を構築するのに便利であり、DOI検出能力を有するPET検出器を構築するのに適しているため、体積が大きい光電子倍増管と比べて、PET検出器構造を構築する際の柔軟性が向上する。シリコン光電子増倍管は、時間性能が良好であり、TOF能力を有するPET検出器を構築するために使用でき、これによってPET画像の品質が改善される。
【0029】
シリコン光電子増倍管アレイは、i×j個のシリコン光電子増倍管を水平面で接合することによって形成され、ここで、iとjは、共に2以上の整数である。シンチレーション結晶、導光体及びシリコン光電子増倍管アレイは、この順序で、光結合剤によって、結合されている。シンチレーション結晶からのシンチレーション光子は、導光体を通過する際に拡散し、導光体に結合されたシリコン光電子増倍管によって受光された光子の分布に基づいて、位置アルゴリズムと組み合わせて、シンチレーション結晶内のγ光子の堆積位置を正確に取得することができる。体積の大きな光電子増倍管を用いた従来のソリューションと比較して、シリコン光電子増倍管を用いた光電子増倍管では、シリコン光電子増倍管は、体積が小さく、価格が安く、コンパクトな構造を有するため、シリコン光電子増倍管を用いてPET検出器を構築した場合、検出器の空間解像度が改善され、最終的に、システムの画像品質を向上させることができる。更に、シリコン光電子増倍管は、光電子増倍管に匹敵する利得(106)を有し、雑音は、許容可能なレベルである。従来の光電変換器であるアバランシェフォトダイオードは、利得が104であり、雑音が大きいため、アバランシェフォトダイオードを含むPET検出器の性能は低かった。
【0030】
図1に示すように、検出器は、γ光子をシンチレーション光子に変換するシンチレーション結晶1と、シンチレーション光子を電気パルス信号に変換する光電変換器2と、電気パルス信号に基づいてγ光子堆積の位置、エネルギ及び時間信号を算出する電子システム3とを含む。光電変換器2は、導光体4と、導光体4に結合されたシリコン光電子増倍管5とを備え、シンチレーション結晶1、導光体4、シリコン光電子増倍管5は、この順序で、光結合剤によって、結合されている。光結合剤は光学接着剤であってもよい。
【0031】
導光体は、光ファイバ、フルカット透明素子、非フルカット透明素子又は連続透明素子である。透明素子は、一般的な無機ガラス、有機ガラス又はシンチレーション結晶から形成される。
【0032】
シンチレーション結晶は、単結晶ストリップを含むアレイ結晶、非フルカットアレイ結晶、ノンカット連続結晶、又は連続結晶とアレイ結晶とを含む多層結晶を含む。
【0033】
シンチレーション結晶は、無機シンチレーション結晶であり、ゲルマン酸ビスマス、ケイ酸ルテチウム、臭化ランタン、ケイ酸ルテチウム、ケイ酸イットリウム、フッ化バリウム、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化セシウム等から形成される。
【0034】
従来の技術では、異なる製造業者によって製造されているシリコン光電子倍増管は、シリコン光電子増倍管(silicon photomultiplier:SiPM)、マルチピクセルフォトカウンタ(multi-pixel photo counter:MPPC)、ガイガーモードアバランシェフォトダイオード(Geiger-mode avalanche photodiode:G-APD)、デジタルシリコン光電子増倍管(digital silicon photomultiplier:dSiPM)を含む異なる名称で呼ばれている。これらは、名称が異なるが、実際には、全てが本開示におけるシリコン光電子増倍管を指し、同じ原理及び機能を有する。本開示では、これらをまとめてシリコン光電子増倍管と呼び、本開示の保護範囲は、名称の相違によって変更されるものではない。すなわち、名称の相違によって、その製品が本発明の概念とは異なる発明概念に属するとは考えられない。本開示で開示するシリコン光電子増倍管の実際の保護範囲は、従来技術において異なる製造業者によって異なる名称を付されたシリコン光電子増倍管に関連する製品を含む。
【0035】
1つのシリコン光電子増倍管の検出領域は、1×1mm2~6×6mm2であり、マイクロピクセルユニットの面積は、25×25μm2~100×100μm2の範囲である。
【0036】
導光体の形状は、円錐、円柱、直方体、立方体、角錐台状多面体であってもよく、実際には、ここに詳細に列挙していない他の形状であってもよい。導光体は、光ファイバ、フルカット透明素子、非フルカット透明素子、連続透明素子又は他の透明素子を含み、透明素子は、一般的な無機ガラス、有機ガラス及びシンチレーション結晶から形成される。導光体は、P層を含み、Pは0~4の範囲である。導光体の層の総厚は、0.1mmから50mmの範囲である。
図1及び
図2は、導光体の層の数mが1であり、導光体が連続透明素子である場合のみを示している。
【0037】
光電変換器は、i×j個のシリコン光電子増倍管を水平面で接合することによって形成されたシリコン光電子増倍管アレイを含み、2以上の整数であるiは、水平面の長さ方向のシリコン光電子増倍管の数であり、2以上の整数であるjは、水平面の幅方向のシリコン光電子増倍管の数である。1つのγ光子堆積イベントに応答して、光電変換器は、電気パルス信号のk個の経路を生成し、kは、4以上の整数である。電子システムは、電気パルス信号のk個の経路を処理して、γ光子のエネルギ、位置及び時間に関する情報を取得する。γ光子の位置、エネルギ及び時間に関する情報を取得するために電気信号を処理するように構成された電子システムは、電気パルス信号のk個の経路を前処理せず、電気パルス信号のk個の経路を1個毎に直接読み取り、最尤推定法と人工ニューラルネットワーク測位アルゴリズムを用いてγ光子の堆積位置を算出する。
【0038】
γ光子の位置、エネルギ及び時間に関する情報を取得するために電気信号を処理するように構成された電子システムは、電気パルス信号のk個の経路を前処理することによって電子チャネルの数を減らすことができる。前処理回路には、Anger回路、離散比例カウンタ(discretized proportional counter:DPC)回路、及びクロスワイヤ回路が含まれる。電気パルス信号のk個の経路を前処理することによって、電気パルス信号の経路は、m個となり、mは4以上でk以下の整数である。
図4から
図6は、それぞれ、Anger回路、DPC回路及びクロスワイヤ回路を示している。上述した3種類の電子前処理回路により、シリコン光電子増倍管に基づいて構築されたPET検出器のチャネル数を効果的に低減できるのみでなく、γ光子の堆積の位置、エネルギ、時間に関する情報が失われず、シリコン光電子増倍管に基づいて構築されたPET検出器を容易に実現することができる。
【0039】
電子システムは、位置アルゴリズムを使用して、m個の電気パルス信号に基づいてγ光子の堆積位置を算出する。位置アルゴリズムは、重心法(centroid method)、Anger-Logic法、最尤推定法及び人工ニューラルネットワーク測位アルゴリズムを含む。
【0040】
電子システムは、時間アルゴリズムを使用して、m個の電気パルス信号に基づいてγ光子の堆積時間を算出することができる。時間アルゴリズムとは、m個の電気パルス信号の合計又は加重和を算出して総電気パルス信号を取得し、γ光子の堆積時間として総電気パルス信号の時間情報を抽出するアルゴリズムである。
【0041】
時間計算アルゴリズムは、CFD(Constant Fraction Drimination)法、LED(Leading Edge Discrimination)法、MVT(Multi-Voltage Threshold)法、RTS(Regular-Time Sampling)法を含む。
【0042】
以下、本開示の実施形態を示す図面を参照して、本開示の実施形態における技術的ソリューションを詳細に説明する。ここに開示する実施形態は、本開示の実施形態の全てではなく一部に過ぎないことは明らかである。本開示の実施形態に基づいて当業者が創造的な作業なしで想到できる他の実施形態は、本開示の保護範囲に含まれる。
【0043】
第1の実施形態
図1に示すように、検出器は、シンチレーション結晶1と、光電変換器2と、電子システム3とを含む。シンチレーション結晶1は、水平面上で同じサイズの12×12のシンチレーション結晶ストリップを接合することによって形成される。シンチレーション結晶1の底面は導光体4の上面に直接結合されている。シリコン光電子増倍管アレイ5は、同じサイズの4×4シリコン光電子増倍管を含む。導光体は、1層のみからなり、直方体の形状を有し、厚さは13mmであり、ガラス製である。電子システム3では、まず、チャネル数を16から4に減らすためのDPC回路を採用し、Anger-Logicアルゴリズムを用いてγ光子の堆積位置を求める。γ光子の堆積時間に関する情報を取得する方法は、DPC回路から出力された4個の信号の経路の合計を計算することと、γ光子の堆積時間として合計信号の時間を抽出することを含む。
【0044】
第2の実施形態
図2に示すように、検出器は、シンチレーション結晶1、光電変換器2及び電子システム3を含む。シンチレーション結晶1は、水平面上で同じサイズの12×12のシンチレーション結晶ストリップを接合することによって形成される。シンチレーション結晶1の底面は、導光体4の上面に直接結合されている。シリコン光電子増倍管アレイ5は、同じサイズの4×4シリコン光電子増倍管を含む。導光体は、1層のみで構成され、角錐台状の六面体形状を有し、すなわち、上面及び下面が正方形であり、4個の側面が台形であり、厚さが13mmであり、上面及び下面の面積が異なる。電子システム3では、まず、クロスワイヤ回路を用いてチャネル数を16から8に減らし、次に、最尤推定法を用いてγ光子の堆積位置を求める。γ光子の堆積時間に関する情報を取得する方法は、クロスワイヤ回路から一方向に出力された4個の信号の経路の合計を算出することと、γ光子の堆積時間として合計信号の時間を抽出することを含む。
【0045】
第3の実施形態
図3に示すように、シリコン光電子増倍管に基づく位置検出型PET検出器は、シンチレーション結晶1と、光電変換器2と、電子システム3とを含む。シンチレーション結晶1は、水平面上で同じサイズの12×12のシンチレーション結晶ストリップを接合することによって形成される。シンチレーション結晶1の底面は導光体4の上面に直接結合されている。シリコン光電子増倍管アレイ5は、同じサイズの4×4シリコン光電子増倍管を含む。導光体は、1つの層のみで形成され、角錐台状の十面体形状、すなわち直方体と六面体を有し(直方体と六面体とが連続する導光体)、上面及び下面が正方形であり、8個の側面のうち、4個の側面が矩形であり、4個の側面が台形であり、厚さが13mmであり、上面及び下面の面積が異なる。電子システム3では、まず、クロスワイヤ回路を用いてチャネル数を16から8に減らし、次に、最尤推定法を用いてγ光子の堆積位置を求める。γ光子の堆積時間に関する情報を取得する方法は、クロスワイヤ回路から一方向に出力された4個の信号の経路の合計を算出することと、γ光子の堆積時間として合計信号の時間を抽出することを含む。
【0046】
図4は、Anger回路の概略図である。
図4は、抵抗ネットワークによって、シリコン光電子増倍管信号の4個のチャネルから、最終的に4個の重み付けされた信号の経路をどのように構成するかを示している。具体的には、信号の各チャネルを各方向の異なる抵抗比で重み付けした後、重心法を用いてシリコン光電子増倍管信号を生成する位置を算出する。
図4に示す原理に基づき、創造的な作業なしで、16又は64チャネルの信号から最終的に4個の重み付け信号の経路を構成することもできる。
【0047】
図5は、DPC回路の概略図を示している。
図5には、より単純な抵抗ネットワークによって、シリコン光電子増倍管信号の16チャネルから、最終的に4個の重み付けされた信号の経路をどのように構成するかを示している。このように、この回路では、各経路内の異なる位置のシリコン光電子増倍管信号に異なる加重値が適用され、Anger-Logicアルゴリズムを使用して位置が生成される。回路内の抵抗は概略的なものに過ぎないことは明らかである。
図5に示す原理に基づき、創造的な作業なしで、抵抗の一部又は抵抗の数を変更するだけでシリコン光電子増倍管チャネル信号のx×y経路から最終的に4個の重み付けされた信号の経路を構成でき、ここで、xとyは、いずれも2以上の整数である。
【0048】
図6は、クロスワイヤ回路の概略図である。
図6には、シリコン光電子増倍管のカソード信号とアノード信号を同時に取得することによって、16個のシリコン光電子増倍管信号から重み付け信号の8つの経路が最終的にどのように形成されるかが示されている。この図から明らかなように、この回路によって、x×y個のシリコン光電子増倍管信号の経路をx+y個の信号の経路に削減することができ、ここで、xとyは2以上の整数である。次に、最尤推定法又は人工ニューラルネットワークアルゴリズムを用いて位置を生成する。
図6に示す原理は、創造的な作業なしで、他のx×y個のシリコン光電子増倍管の経路の場合に適用でき、ここで、xとyは2以上の整数である。
【0049】
本発明は、従来技術と比較して、以下の効果を有する。
【0050】
1.体積が大きい光電子増倍管を用いた従来のソリューションと比較して、シリコン光電子増倍管を用いた光電検出システムソリューションでは、シリコン光電子増倍管の体積が小さく、配置構造がコンパクトであり、適切なサイズを有する適切な数のシリコン光電子増倍管を、適切な形状を有する光ガイドと協働させることができ、生来的に空間分解能が高いPET検出器を構築することができ、最終的にPETシステム全体の空間分解能を向上させることができる。
【0051】
2.シリコン光電子増倍管は、光電子増倍管に匹敵する利得(106)を有し、雑音は、許容可能なレベルである。従来の光電変換器であるアバランシェフォトダイオードは、利得が104であり、雑音が大きいため、アバランシェフォトダイオードを含むPET検出器は、性能が低い。
【0052】
3.シリコン光電子増倍管は体積が小さく、複数の検出器構造を構築するのに便利であり、DOI検出能力を有するPET検出器を構築するのに適しているため、体積が大きい光電子倍増管を用いる場合に比べて、PET検出器構造を構築する際の柔軟性が大幅に向上する。
【0053】
4.シリコン光電子増倍管は、時間性能が良好であり、TOF能力を有するPET検出器を構築するために使用でき、これによってPET画像の品質を改善することができる。
【0054】
5.従来のPET検出器で一般的に用いられている光電子増倍管は、磁場内で正常に動作することができず、したがって、PET/MRIデュアルモードイメージングシステムを研究開発する際に、光電変換器を選択することが困難であった。シリコン光電子増倍管は、利得が高く、動作過程で磁場の影響を受けず、したがって、シリコン光電子増倍管は、PET/MRIソリューションにおけるコア光電変換デバイスとしての最適な選択肢となる。
【0055】
6.光電子増倍管は、複雑な製造プロセスのために、常に高コストである。シリコン光電子増倍管は、大量生産することで低コストになり、これにより、PETシステムを構築するためのコストを大幅に低減することができる。
【0056】
7.3種類の電子前処理回路により、シリコン光電子増倍管に基づいて構築されたPET検出器のチャネル数を効果的に低減できるのみでなく、γ光子堆積の位置、エネルギ、時間に関する情報も失われず、シリコン光電子増倍管に基づいて構築されたPET検出器を容易に実現することができる。