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特許7043291テーラードブランクプレス成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】テーラードブランクプレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20220322BHJP
   B21D 24/16 20060101ALI20220322BHJP
   B21D 28/00 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
B23K31/00 B
B21D24/16 Z
B21D28/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018031856
(22)【出願日】2018-02-26
(65)【公開番号】P2019147160
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000219233
【氏名又は名称】東プレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】平見 昌玄
(72)【発明者】
【氏名】藤川 稔
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057466(WO,A1)
【文献】特開2017-226901(JP,A)
【文献】特開2009-197253(JP,A)
【文献】特開2004-209497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00-11/36,31/00-33/00,37/00-37/08
B21D 22/00-28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの鋼板の側面どうしを突き合わせて溶接し、ブランク材を形成する溶接工程と、
前記ブランク材または加工したブランク材を、前記溶接した溶接線と交差して剪断する剪断工程と、
前記ブランク材または加工したブランク材の剪断加工部の、前記溶接した部分である溶接剪断部を通電加熱する通電加熱工程と、
を備え
前記通電加熱工程は、少なくとも一方が凸型形状電極である一対の電極にて前記溶接剪断部を挟持し、前記一対の電極間に電流を流し、
前記一対の凸型形状電極が前記溶接剪断部を挟持する力は、前記2つの鋼板が塑性変形する力よりも小さいこと
を特徴とするテーラードブランクプレス成形品の製造方法。
【請求項2】
2つの鋼板の側面どうしを突き合わせて溶接し、ブランク材を形成する溶接工程と、
前記ブランク材または加工したブランク材を、前記溶接した溶接線と交差して剪断する剪断工程と、
前記ブランク材または加工したブランク材の剪断加工部の、前記溶接した部分である溶接剪断部を通電加熱する通電加熱工程と、
を備え、
前記通電加熱工程は、一対の共に凸型形状電極にて前記溶接剪断部を挟持し、前記一対の電極間に電流を流し、
前記凸型形状電極の先端部は、曲面形状で曲率半径を持ち、
前記各凸型形状電極の先端部どうしを結ぶ線は、前記溶接剪断部と交差させ、
前記溶接剪断部に前記電流を集中させて流すこと
を特徴とするテーラードブランクプレス成形品の製造方法。
【請求項3】
前記ブランク材または加工したブランク材を剪断して得られた鋼板に対し、前記通電加熱工程の前または後に、スポット溶接するスポット溶接工程を更に備え、
前記スポット溶接工程は、前記通電加熱工程で使用する電極を用いて溶接すること
を特徴とする請求項1または2に記載のテーラードブランクプレス成形品の製造方法。
【請求項4】
前記通電加熱工程は、前記2つの鋼板の変態点よりも低い温度となるように、通電電流及び通電時間を設定すること
を特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のテーラードブランクプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーラードブランクプレス成形品の製造方法に係り、特に、遅れ破壊を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、2つの鋼板をテーラード溶接し、その後溶接ビード部を剪断加工すると、剪断加工部の溶接部分に金属の格子欠陥が発生することが有り、将来的に遅れ破壊が起こる可能性があった。図8は、剪断加工部の溶接部分に生じた遅れ破壊の様子を示す図である。このような遅れ破壊の発生を防止するためには、レーザ切断することが考えられるが、レーザ切断を用いる場合には設備の大型化、ランニングコストが増大する等の問題がある。
【0003】
また、特許文献1には、テーラード溶接により一体化した連結基板を加熱して、相対的に低温のプレス型を用いてプレス加工を行うことにより、成形不良を防止することが記載されている。しかし、特許文献1の方法を用いた場合でも、剪断加工部に発生する格子欠陥を除去することができず、遅れ破壊を防止することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-58082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来におけるテーラードブランクプレス成形品の製造方法では、溶接ビード部を剪断加工した際に、剪断加工部の溶接部分に生じる遅れ破壊を防止することが難しいという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、剪断加工部の溶接部分に生じる遅れ破壊を防止することが可能なテーラードブランクプレス成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本願発明に係るテーラードブランクプレス成形品の製造方法は、2つの鋼板の側面どうしを突き合わせて溶接し、ブランク材を形成する溶接工程と、前記ブランク材または加工したブランク材を、前記溶接した溶接線と交差して剪断する剪断工程と、前記ブランク材または加工したブランク材の剪断加工部の、前記溶接した部分である溶接剪断部を通電加熱する通電加熱工程と、を備え、前記通電加熱工程は、少なくとも一方が凸型形状電極である一対の電極にて前記溶接剪断部を挟持し、前記一対の電極間に電流を流し、前記一対の凸型形状電極が前記溶接剪断部を挟持する力は、前記2つの鋼板が塑性変形する力よりも小さいことを特徴とする。
また、2つの鋼板の側面どうしを突き合わせて溶接し、ブランク材を形成する溶接工程と、前記ブランク材または加工したブランク材を、前記溶接した溶接線と交差して剪断する剪断工程と、前記ブランク材または加工したブランク材の剪断加工部の、前記溶接した部分である溶接剪断部を通電加熱する通電加熱工程と、を備え、前記通電加熱工程は、一対の共に凸型形状電極にて前記溶接剪断部を挟持し、前記一対の電極間に電流を流し、前記凸型形状電極の先端部は、曲面形状で曲率半径を持ち、前記各凸型形状電極の先端部どうしを結ぶ線は、前記溶接剪断部と交差させ、前記溶接剪断部に前記電流を集中させて流すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、テーラード溶接して得られるブランク材、または加工したブランク材を剪断加工した後に、剪断加工部の溶接部分である溶接剪断部に電流を流して通電加熱するので、剪断溶接部に生じる格子欠陥を解消することができ、ひいては遅れ破壊の発生を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るテーラードブランクプレス成形品の製造方法の処理工程を示すフローチャートである。
図2図2は、2つの鋼板をテーラード溶接してブランク材を形成する様子を示す説明図である。
図3図3は、ブランク材をプレス加工して第1中間成形品を成形する様子を示す説明図である。
図4図4は、第1中間成形品を剪断加工して第2中間加工品を形成する様子を示す説明図である。
図5図5は、第2中間加工品の剪断加工部に存在する溶接部分を示す説明図である。
図6図6は、第2中間加工品の溶接部分の詳細を示す説明図であり、(a)は溶接剪断部を示し、(b)は一対の電極で第2中間加工品を挟持する様子を示す説明図である。
図7図7は、第2中間加工品の溶接部分と、電極により通電する位置の関係を示す説明図である。
図8図8は、溶接剪断部に生じた遅れ破壊を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るテーラードブランクプレス成形品の製造方法の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態では一例として、引っ張り応力が980MPa以上の金属材料である2種類の超高張力鋼板(超ハイテン材とも言う)をテーラード溶接して、自動車用車体部品であるピラー(フロントピラー、センターピラー等)を成形する例について説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係るテーラードブランクプレス成形品の製造方法の処理工程を示すフローチャートである。図1に示すように、この製造方法は、テーラード溶接工程S1(溶接工程)と、プレス成形工程S2と、剪断工程S3と、通電加熱工程S4と、スポット溶接工程S5からなる。
【0012】
テーラード溶接工程S1は、材質、板厚の少なくとも一方が異なる金属性の板材(鋼板)の側面どうしを突き合わせて溶接する。予め所望の形状に切断された超高張力鋼板の側面どうし、或いは、高張力鋼板と普通鋼板の側面どうしを突き合わせて、レーザ溶接工法やプラズマ溶接工法により、突き合わせ継ぎ手溶接を行う。これをテーラード溶接という。
【0013】
図2は、車両に搭載するピラーを成形する際のテーラード溶接工程の例を示す説明図である。図2(a)に示すように第1の鋼板11と第2の鋼板12を予め用意し、図2(b)に示す溶接線P1に沿って突き合わせ継ぎ手溶接を行う。その結果、2つの鋼板11、12が連結されたブランク材21が形成される。即ち、第1の鋼板11と第2の鋼板12は、材質及び板厚のうちの少なくとも一方が相違しており、これらをテーラード溶接することにより、第1、第2の鋼板11、12を一体化してブランク材21を形成する。なお、ここでは2枚の鋼板をテーラード溶接する例について示すが、3枚以上の鋼板をテーラード溶接することもある。
【0014】
プレス成形工程S2は、上述したテーラード溶接工程S1で形成されたブランク材21を、所望の形状にプレス加工する。図3は、プレス成形工程により車両のピラーを成形する例を示す説明図であり、図2(b)に示したブランク材21をプレス加工することにより、図3に示す如くのプレス成形後の鋼板(以下、「第1中間成形品21a」という)が成形される。溶接線P1は成形形状に従い、溶接線P2に示す様な形状に変化する。なお、本プレス成形工程S2は、ピラーを成形する為には必要であるが、本発明の効果に影響しない。
【0015】
剪断工程S3は、プレス成形工程S2でプレス成形された第1中間成形品21a(加工したブランク材)の不要部を剪断加工して除去し、所望の形状とする。また、必要に応じて穴あけ処理を実施することもある。図4は、剪断工程の例を示す説明図であり、図3に示した第1中間成形品21aを剪断加工して、剪断加工後の鋼板(以下、「第2中間加工品21b」という)を加工する。溶接線P2は、両端部が切断除去され溶接線P3となる。
【0016】
通電加熱工程S4は、剪断加工により得られた第2中間加工品21bの剪断加工部のうち、テーラード溶接された部分(以下、「溶接剪断部」という)に電流を流して通電加熱する。後述するように、溶接剪断部を通電加熱することにより、該溶接剪断部の格子欠陥を解消し、遅れ破壊の発生を防止する。
【0017】
通電加熱は、通電加熱工程S4の後に行うスポット溶接工程S5で使用する電極とその溶接設備を用いて実施することができる。例えば、車両のピラーを成形する場合には、通常は剪断加工により得られる第2中間加工品21bと他の部品との間で、スポット溶接を行う。通電加熱工程S4では、スポット溶接工程S5を実施する前に、剪断加工部の溶接剪断部をスポット溶接で使用する溶接電極(後述する図6(b)のR1、R2)で挟持し、各溶接電極間に所定時間だけ電流を流して通電加熱処理を実施する。通電する電流、通電時間、挟持する際の加圧力(挟持力)については後述する。
【0018】
図5は、第2中間加工品21bにおいて、通電加熱する部位を示す説明図である。第2中間加工品21bの溶接剪断部q1に溶接電極を接触させて通電加熱する。図6(a)は、溶接部分を示す平面図であり、図6(a)に示すように溶接線P3の幅である距離h1(例えば、2mm)、剪断面Q1から内側の距離h2(例えば、0.2mm)の領域を溶接剪断部q1とする。即ち、溶接剪断部q1は溶接線P3の端部に位置する。そして、図6(b)の側面図に示すように、溶接剪断部q1(板厚寸法(例えば、1.2mm)と距離h1で囲まれた範囲)の少なくとも一部を、2つの電極R1、R2(前述したスポット溶接で使用する電極)で、板の表裏方向より挟持し、各電極R1、R2間に電流を流す。この際、溶接電極R1の先端部と溶接電極R2の各先端部S1、S2を結ぶ線は、溶接剪断部q1を貫通する。こうすることにより、溶接剪断部q1を通電加熱することができる。
溶接剪断部q1の詳細を述べると、距離h1は前述の様に、溶接線の幅である。一般的には溶接ビード幅と呼ばれる。この距離h1は、材質、板厚、溶接条件等により適宜変更される。距離h2は剪断加工により格子欠陥が発生する帯域である。具体的には距離h2は、剪断面Q1より0.2mmであることが知られている。
【0019】
電極R1、R2は円筒形状で、先端は凸型の曲面形状とするのが良い。例えば、図6(b)に示すように、直径19mmの円筒形状で、先端部の曲率半径が150mmの電極を用いる。このような凸型形状の電極R1、R2を用いることにより、第2中間加工品21bの溶接剪断部q1を所望の力で挟持することができ、且つ、電流を集中的に流すことができる。ひいては通電加熱の効率を向上させ、より効果的に遅れ破壊の発生を防止することができる。但し、第2中間加工品21bが溶融、変態、赤熱するほど加熱する必要はないので、後述するように通電電流、通電時間が適切になるように制御する。即ち、鋼板の変態点よりも低い温度で加熱することが好ましい。なお、電極R1、R2は双方が凸型形状である必要はなく、少なくとも一方が凸型形状であればよい。
【0020】
そして、通電加熱工程S4が終了した後に、上述した電極R1、R2を用いてスポット溶接工程S5を実施する。スポット溶接は、周知の処理であるので詳細な説明を省略する。なお、通電加熱工程S4の前にスポット溶接工程S5を実施しても良い。
【0021】
[試験結果の説明]
上述したテーラード溶接工程S1及びプレス成形工程S2を実施し、更に、剪断工程S3において溶接線と交差するように鋼板を剪断加工すると、必然的にテーラード溶接したビードを剪断することになる。このため、剪断加工部に溶接剪断部が生じる。この溶接剪断部に格子欠陥が発生し、この格子欠陥が水素脆化を引き起こし、遅れ破壊が発生する虞がある。本実施形態では、剪断工程S3の後に通電加熱処理を実施しており、これにより格子欠陥を解消して遅れ破壊の発生を回避する。
【0022】
この遅れ破壊の分布域は、発明者らの鋭意検討により、上述した条件では図6(a)に示した距離h1が2mm、距離h2が0.2mmの領域であることが判明している。従って、この領域(上述した溶接剪断部q1)に電流を流してこの領域の鋼板を通電加熱し格子欠陥を解消する。この際、効率的に温度上昇させるために、通電加熱する際の電流を集中させるのがよい。
【0023】
以下、具体的な実験結果について説明する。第1の鋼板11(図1参照)として引っ張り応力980MPaの超高張力鋼板、第2の鋼板12として引っ張り応力1180MPaの超高張力鋼板を用意する。板厚は共に1.2mmである。第1の鋼板11と第2の鋼板12を、レーザ溶接機により突き合わせ溶接を行い、形成された鋼板(ブランク材)を試料とした。
【0024】
前記試料を、一般的に用いられるシャーリング切断機を用いて、溶接線(溶接ビード)に対して直交する方向(交差する方向)に剪断加工した(図4に示した剪断工程)。そして、剪断加工部の溶接部分である溶接剪断部(図6(a)、(b)に示す符号q1)に、各種の条件を適宜変更して通電加熱処理を実施した。その結果、表1に示す如くの試験結果が得られた。
【0025】
【表1】
【0026】
通電加熱の条件として、通電電流、通電時間、2つの電極による加圧力、電極形状、通電位置を変更して通電加熱処理を実施し、実施後の第2中間加工品21bに対して塩酸浸漬試験を実施した。塩酸浸漬試験では、試料をpH1.0の塩酸に浸漬し、96時間後に亀裂が発生しているか否かの検査を行った。
電極R1、R2は、量産性を考慮して市販のスポット溶接機の電極を用いた。「通電位置」は、図7に示すように、電極R1、R2が第2中間加工品21bに接触する点q2の、剪断面Q1からの距離h3を示している。例えば、通電位置が「0」とは点q2が剪断面Q1上であることを示している。
【0027】
検査の結果、表1に示す如くのデータが得られた。表1では、亀裂発生の有無を示す検査結果を「良好◎」、「良○」、「不良×」の3段階の評価で判定している。
条件1~10では、加圧力を2.9kN、電極形状をR150(曲率半径150mm)に固定し、通電電流を3~10kAの範囲、通電時間を100~300m秒の範囲で変化させて試験を行った。
【0028】
その結果、通電電流が5kAで、通電時間が100m秒のとき(条件5)に亀裂は発生せず試験結果が良好であった。また、通電電流を3kAに低下すると(条件1)亀裂が発生して判定は不良であり、通電時間を200~300m秒に増やすと(条件3、4)亀裂は発生せず判定は良好であった。
【0029】
更に、条件5に対して通電時間を160~200m秒に増やすと(条件6、7)、亀裂は発生しないが、鋼板に変態が発生した。また、通電電流を7~10kAに上昇した場合(条件8~10)においても同様に、亀裂は発生しないが鋼板に変態が生じた。即ち、通電電流を5kAで通電時間を100m秒とした場合、通電電流を3kAで通電時間を200~300m秒とすると好適な結果が得られることが判明した。
【0030】
上記のことから、通電電流と通電時間で決定する加熱量が不足すると、格子欠陥を完全に解消できず、遅れ破壊が発生することが理解される。また、加熱量が過多となり723℃に達すると、鋼板が赤熱し結晶構造が変化する、いわゆる変態が生じる。この場合には、遅れ破壊は発生しないが、表面が粗くなり外観品質の観点から判定は良好とはいえない。
【0031】
更に、2つの電極R1、R2の先端部をフラットな形状(平面形状)とし、通電電流を5kAに固定して通電時間を100~200m秒の範囲で変化させると(条件11~13)、いずれの場合についても亀裂が発生するという結果が得られた。その理由は、電極の先端形状がフラットであると電極と鋼板との接触面積が大きくなり、電流が集中せずに加熱する領域が広くなることによるものと考えられる。このため、格子欠陥を解消できなくなり、遅れ破壊が発生する可能性が高まる。この結果から、2つの電極R1、R2の先端形状を凸型形状、より好ましくは曲率半径150mmの曲面とすることにより、電流を集中させることができ、溶接部分のみを効果的に通電加熱することができ、ひいては遅れ破壊を防止できることが理解される。
【0032】
また、電極による加圧力を4.5kN、6.1kNに高めると(条件14、15)、亀裂は発生せず、判定は良好であった。この結果から、2つの電極R1、R2で鋼板を挟持する際には、電気的に接触していれば良く、加圧力は大きく影響しないことが判る。即ち、電流を流すために必要な最低限の加圧力があればよい。但し、電極による加圧力を上昇させ過ぎて鋼板に圧痕が残る程度(鋼板の材質が塑性変形する程度)とすると、電極と鋼板の接触面積が増加して電流の集中が抑えられ、通電加熱の効果が低下し、ひいては遅れ破壊が発生する可能性がある。従って、鋼板の材質が塑性変形しない程度の加圧力を上限とする必要がある。
【0033】
更に、電極を設置する位置(図7の距離h3)を、剪断面の端部から内側に2~8mmで変化させると(条件16~18)、h3=2mmのとき(条件16)には亀裂は発生しなかった。h3=4~8mmのとき(条件17、18)には亀裂が発生するという結果が得られた。
【0034】
電極R1、R2の設置位置が、剪断面Q1から離れると、格子欠陥が発生している部位を効果的に加熱することができない。このため、遅れ破壊の発生を防止できず、電極R1、R2の位置は、剪断面からの距離h3が0~2mmの範囲内とする必要があることが理解される。
なお、本試験にて、良好と判断した条件(条件3~5および条件14~16)の溶接剪断部を、光学顕微鏡で観察したところ、いずれも結晶組織の変化は確認できなかった。
【0035】
[効果の説明]
このようにして、本実施形態に係るテーラードブランクプレス成形品の製造方法では、以下に示す効果を達成できる。
(1)テーラード溶接された鋼板をプレス成形し、溶接部を剪断加工した鋼板の溶接剪断部分を通電加熱するので、剪断時に発生した格子欠陥を加熱により解消することができ、遅れ破壊の発生を防止することができる。即ち、剪断加工を実施すると、剪断加工部のうちテーラード溶接された部位である溶接剪断部にて格子欠陥が発生し、遅れ破壊が発生する可能性が高まるが、通電加熱工程を実施することにより、遅れ破壊の発生を防止することが可能となる。
【0036】
(2)通電加熱処理は、テーラードブランクプレス成形品を製造する過程で実施するスポット溶接工程S5で使用する電極R1、R2を用いて実施するので、通電加熱処理を実施するために特別な機器や部品を必要とせず、更に、鋼板の入れ替えなどの作業を必要としないので、極めて簡単な操作で通電加熱工程S4を実施することが可能となる。
【0037】
(3)通電加熱処理に使用する一対の電極の少なくとも一方の先端部を凸型形状としたので、鋼板と電極との接触面積を小さくすることができる。このため、鋼板に流れる電流密度を高めることができ、溶接剪断部q1に集中して電流を流して加熱することができる。このため、溶接剪断部に生じる格子欠陥をより確実に解消して、遅れ破壊の発生を防止することが可能となる。
【0038】
(4)通電加熱処理に使用する一対の電極R1、R2の、先端部どうしを結ぶ線は、溶接剪断部q1と交差するので、確実に溶接剪断部q1に電流を流して通電加熱することができ、遅れ破壊の発生を防止することができる。
【0039】
(5)電極による加圧力は、鋼板が塑性変形する力よりも低く設定するので、鋼板に圧痕が残る等により電極の接触面積が増大して電流密度が低下することを防止できる。
【0040】
(6)通電加熱による加熱温度は、鋼板の材質の結晶構造が変化する温度(例えば、723℃)以下に設定されるので、鋼板の加熱量が過多となって、いわゆる変態が発生することを防止できる。
【0041】
なお、上述した実施形態では、図1に示したようにテーラード溶接工程S1の後にプレス成形工程S2を実施し、通電加熱工程S4の後にスポット溶接工程S5を実施する例について説明したが、プレス成形工程S2、及びスポット溶接工程S5は必ずしも実施しなくても良い。即ち、本願発明は、テーラード溶接工程S1、剪断工程S3、及び通電加熱工程S4を実施することによりその効果を得ることができる。
【0042】
また、上述した実施形態では、通電加熱工程S4の後にスポット溶接工程S5を実施する例について説明したが、先にスポット溶接工程S5を実施し、その後、通電加熱工程S4を実施しても良い。
更に、通電加熱工程S4は、スポット溶接工程S5の電極とその設備を用いたが、専用の通電加熱設備にて行ってもよい。
【0043】
以上、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0044】
11 第1の鋼板
12 第2の鋼板
21 ブランク材
21a 第1中間成形品(加工したブランク材)
21b 第2中間加工品
P1、P2、P3 溶接線
q1 溶接剪断部
Q1 剪断面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8