(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】梁とその施工方法
(51)【国際特許分類】
E04C 3/26 20060101AFI20220322BHJP
E04B 1/22 20060101ALI20220322BHJP
E04C 5/08 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
E04C3/26
E04B1/22
E04C5/08
(21)【出願番号】P 2018084847
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】小坂 英之
(72)【発明者】
【氏名】小林 亘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-115402(JP,U)
【文献】特開平03-096554(JP,A)
【文献】特開昭61-045042(JP,A)
【文献】特開平03-093929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/26
E04B 1/22
E04C 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さ方向寸法より幅方向寸法が大きい第1の部分と、前記第1の部分の下方または側方で前記第1の部分と一体化され、前記第1の部分より幅方向寸法が小さい第2の部分と、を有し、
前記第1の部分は上端主筋及び下端主筋と
、前記上端主筋
及び前記下端主
筋を覆うコンクリートと、を有
し、
前記第2の部分は、前記下端主筋の下方、または前記上端主筋及び前記下端主筋の側方で且つ前記上端主筋より前記下端主筋に近い高さ位置を前記上端主筋及び下端主筋と同じ方向に延びるPC鋼材と、前記PC鋼材を覆うコンクリートと、を有する梁。
【請求項2】
前記第2の部分は前記第1の部分の下方で前記第1の部分と一体化され、
前記第1の部分の下方且つ前記第2の部分の側方に設けられた窓枠を有する、請求項
1に記載の梁。
【請求項3】
前記第2の部分の下面は、前記窓枠に近接する側面から反対側の側面に向けて上り勾配となっている、請求項
2に記載の梁。
【請求項4】
前記第1の部分は互いに隣接する柱の間を一方の柱から他方の柱まで延びており、前記第2の部分は各々の柱の手前で終端している、請求項
1から
3のいずれか1項に記載の梁。
【請求項5】
前記第2の部分は幅方向に分割されている、請求項
1から
4のいずれか1項に記載の梁。
【請求項6】
前記PC鋼材は略水平方向に延びており、前記PC鋼材の高さ方向の平均位置は前記第2の部分の高さ方向における略中央部にある、請求項
1から
5のいずれか1項に記載の梁。
【請求項7】
コンクリートと、前記コンクリートに埋め込まれ予め緊張されたPC鋼材と、を有するプレキャスト梁を所定の位置に配置することと、
鉄筋とコンクリートを有し、高さ方向寸法より幅方向寸法が大きい現場施工梁を、前記プレキャスト梁の上方または側方に前記プレキャスト梁と一体に設けることと、を有する梁の施工方法。
【請求項8】
前記PC鋼材は略水平方向に延びており、前記PC鋼材の高さ方向の平均位置は前記プレキャスト梁の高さ方向における略中央部にある、請求項
7に記載の梁の施工方法。
【請求項9】
コンクリートと、前記コンクリートに埋め込まれたシースと、前記シースに挿入されたPC鋼材と、を有するプレキャスト梁を所定の位置に配置することと、
鉄筋とコンクリートを有し、高さ方向寸法より幅方向寸法が大きい現場施工梁を、前記プレキャスト梁の上方または側方に前記プレキャスト梁と一体に設けることと、
前記現場施工梁が施工された後に前記PC鋼材を緊張させることと、を有する梁の施工方法。
【請求項10】
前記現場施工梁の前記プレキャスト梁と対向する下面に、前記プレキャスト梁の上部を収容する凹部が形成される、請求項
7から
9のいずれか1項に記載の梁の施工方法。
【請求項11】
前記プレキャスト梁は幅方向に分割されている、請求項
7から1
0のいずれか1項に記載の梁の施工方法。
【請求項12】
前記プレキャスト梁の上面にコッターが形成されている、請求項
7から1
1のいずれか1項に記載の梁の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は梁とその施工方法に関し、特に扁平梁とその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅のバルコニーなど掃出し窓が設けられる建物では、窓の高さと梁せいが階高を決定するため、梁せいを抑制する必要性が高い。このため、梁せいを抑制する目的で梁せいより幅が大きい扁平梁が用いられることがある。一方、鉄筋コンクリート造の梁は、コンクリート部分に自重などの長期荷重による過大なたわみないし引張応力が生じないように設計する必要がある。特に扁平梁ではたわみが過大となりやすいことから、PC鋼材でコンクリート部分に圧縮応力を掛けたプレストレス梁が用いられることがある。特許文献1には、集合住宅にプレストレス梁を用いることが開示されている。特許文献2には、PC鋼材が扁平梁の中央部、すなわち上端主筋と下端主筋の間に設けられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-226348号公報
【文献】特開2008-7954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PC鋼材によるコンクリート部分の引張応力の抑制効果を高めるためには、PC鋼材を梁の下部に設けたり、PC鋼材にライズ(梁の中央が最下点となるようにPC鋼材を湾曲させる方法)を設けたりすることが望ましい。しかし、扁平梁は高さ方向の余裕が少ないため、PC鋼材をこのように配置することが困難な場合がある。
【0005】
本発明は、扁平梁のコンクリート部分の引張応力を抑制することが容易な梁とその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の梁は、高さ方向寸法より幅方向寸法が大きい第1の部分と、第1の部分の下方または側方で第1の部分と一体化され、第1の部分より幅方向寸法が小さい第2の部分と、を有している。第1の部分は上端主筋及び下端主筋と、上端主筋及び下端主筋を覆うコンクリートと、を有し、第2の部分は、下端主筋の下方、または上端主筋及び下端主筋の側方で且つ上端主筋より下端主筋に近い高さ位置を上端主筋及び下端主筋と同じ方向に延びるPC鋼材と、PC鋼材を覆うコンクリートと、を有する。
【0007】
本発明の一態様に係る梁の施工方法は、コンクリートと、コンクリートに埋め込まれ予め緊張されたPC鋼材と、を有するプレキャスト梁を所定の位置に配置することと、鉄筋とコンクリートを有し、高さ方向寸法より幅方向寸法が大きい現場施工梁を、プレキャスト梁の上方または側方にプレキャスト梁と一体に設けることと、を有する。
【0008】
本発明の他の態様に係る梁の施工方法は、コンクリートと、コンクリートに埋め込まれたシースと、シースに挿入されたPC鋼材と、を有するプレキャスト梁を所定の位置に配置することと、鉄筋とコンクリートを有し、高さ方向寸法より幅方向寸法が大きい現場施工梁を、プレキャスト梁の上方または側方にプレキャスト梁と一体に設けることと、現場施工梁が施工された後にPC鋼材を緊張させることと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の梁によれば、PC鋼材は下端主筋の下方、または上端主筋及び下端主筋の側方で且つ上端主筋より下端主筋に近い高さ位置に設けられる。PC鋼材は上端主筋と下端主筋との間の狭隘な空間ではなくその外側に設けられるため、PC鋼材の配置自由度が増し、コンクリートの引張応力を効果的に抑制することができる。また、本発明の梁の施工方法によれば、現場施工梁がプレキャスト梁の上方または側方に配置されるため(すなわち、プレキャスト梁が現場施工梁の下方または側方に配置されるため)、PC鋼材の配置自由度が増し、現場施工梁の引張応力を効果的に抑制することができる。
【0010】
従って、本発明によれば扁平梁のコンクリート部分の引張応力を抑制することが容易な梁とその施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る梁の幅方向と平行な面の断面図である。
【
図2】
図1に示す梁の長手方向と平行な面の断面図である。
【
図3】従来の扁平梁における課題を説明する図である。
【
図9】プレキャスト梁の変形例を示す斜視図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る梁の断面図である。
【
図11】本発明の第3の実施形態に係る梁の断面図である。
【
図12】本発明の第4の実施形態に係る梁の断面図である。
【
図13】本発明の第5の実施形態に係る梁の断面図である。
【
図14】本発明の第6の実施形態に係る梁の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して、本発明の梁とその施工方法をいくつかの実施形態によって説明する。
図1、2は集合住宅のバルコニーの近傍の構造を示す概念図であり、
図1はバルコニー(梁)の幅方向と平行な面における断面図、
図2はバルコニーの長手方向(梁のスパンと平行な方向)と平行な面における断面図である。以下の説明及び図面で、長さ方向Xはバルコニーの長手方向ないし梁の延びる方向を、幅方向Yはバルコニーないし梁の幅方向を、高さ方向Zは鉛直方向を意味する。長さ方向Xと幅方向Yは水平方向と平行である。本実施形態の梁は鉄筋コンクリート造であるが、本発明は、鉄骨鉄筋コンクリート造などコンクリートを構造要素として備えるあらゆる梁に適用することができる。
【0013】
鉄筋コンクリート造の梁1は建物の室内とバルコニーを仕切る位置に設けられ、鉄筋コンクリート造の床スラブ2を支持している。上階の梁1と下階の梁1001との間には、窓5を支持する窓枠6と、窓枠6を支持する床スラブ2からの立上り部7と、が設けられている。立上り部7は床スラブ2から立設する腰壁であってもいい。梁1は高さ方向寸法(梁せい)H3より幅方向寸法W3が大きい第1の部分3と、第1の部分3の幅方向寸法W3より幅方向寸法W4が小さい第2の部分4とから構成されている。つまり、第1の部分3は高さ方向寸法H3より幅方向寸法W3が大きい扁平梁である。
【0014】
第1の部分3は長さ方向Xに延びる上端主筋8及び下端主筋9と、上端主筋8及び下端主筋9と直交する向きで上端主筋8及び下端主筋9を取り囲むフープ筋10(せん断補強筋)と、上端主筋8、下端主筋9及びフープ筋10を覆うコンクリート11と、を有している。第1の部分3は互いに隣接する柱C1、C2の間を一方の柱C1から他方の柱C2まで延びている。第2の部分4は第1の部分3の下方で第1の部分3と一体化されている。第2の部分4は第1の部分3の幅方向Yのほぼ中央に設けられているが、その位置は特に限定されず、幅方向Yの中央位置から幅方向Yのいずれかの方向にずれていてもよい。窓枠6は第1の部分3の下方で且つ第2の部分4の側方に設けられている。窓枠6は第1の部分3の下面に取り付けられているが、第2の部分4の側面に取り付けられてもよい。いずれの取付け方でも窓枠6が第2の部分4の側方に配置されるため、第2の部分4が階高hに影響を与えることがない。立上り部7は第1の部分3の上面に設けられており、立上り部7には端部が第1の部分3に達するU字型やJ形の差筋等の補強筋12が埋め込まれている。
【0015】
第2の部分4には、下端主筋9の下方を上端主筋8及び下端主筋9と同じ方向(長さ方向X)に延びる複数本のPC鋼材13が埋め込まれている。PC鋼材13は図示の例では1段設けられているが、黒丸で示すように複数段設けられていてもよい。
図2(a)に示すPC鋼材13は直線状に延びているが、
図2(c)に示すように、PC鋼材13にライズが設けられてもよい。複数本のPC鋼材13の径は同一であるが、異なる径のPC鋼材13を設けてもよい。例えば、複数段のPC鋼材13を設ける場合に、段によってPC鋼材13の径を異ならせてもよい。第2の部分4は、PC鋼材13を緊張させた(引張力を与えた)状態でコンクリート14を打設し、固化した後緊張力を解放することによって製造される。このため、第2の部分4のコンクリート14にはPC鋼材13による圧縮応力が生じている。第2の部分4は、長いPC鋼材を用いて長いプレキャスト梁を作成し、それを所定の長さで切断することによって製造することもできる。第2の部分4にはPC鋼材13と直交する方向にPC鋼材13を取り囲むU字型の補強筋15が配置されている。第2の部分4を第1の部分3に対して定着させるため、補強筋15の両端部分は第1の部分3に埋め込まれている。
【0016】
図2(b)には、第2の部分4がないときの第1の部分3の長期荷重による曲げモーメントMを模式的に示している。第1の部分3の中央で曲げモーメントMが最大となっており、この位置で第1の部分3の下面に最大の引張応力が生じている。これに対し本実施形態では、第1の部分3の下面が第2の部分4からの圧縮力を受けるため、第1の部分3の下側部分の引張応力が減少し、場合によっては圧縮応力に変化する。別の言い方をすれば、最大の引張応力を負担する部分を、予め圧縮力が与えられた第2の部分4とすることができる。このため、長期荷重によって梁1の下側部分の中央部に生じる引張応力を抑制することができる。第2の部分4は、
図2(a)において概ね曲げモーメントが+となる範囲に設けられればよく、図示の例では、Lを梁1のスパンとしたときに、柱C1,C2間の中央位置を中心とした両側L/4の範囲に設けられている。第2の部分4はさらに両側の柱C1,C2の近くまで設けることもできるが、両側の柱C1,C2の手前で終端することが望ましい。換言すれば、第2の部分4と柱との間にはギャップが設けられていることが好ましい。これは第1の部分3の長さ方向Xにおける端部付近では圧縮応力が生じるため、第2の部分4を設ける必要がないのと、第2の部分4を柱C1,C2まで延ばすと、梁1と柱C1,C2の設計が複雑化するためである。また、ギャップを設けることで地震時に第2の部分4を損傷させないことができる。本実施形態では柱C1,C2と窓枠6の間に袖壁15が設けられているため、第2の部分4は袖壁15の手前で終端することが望ましい。
【0017】
PC鋼材13は第2の部分4の高さ方向Zにおける略中央部を延びている。第2の部分4は現場で製造することも可能ではあるが、通常は、工場等で上述の方法に従い事前に製造されるプレキャスト梁である。従って、もしPC鋼材13が第2の部分4の下部領域に設けられると、PC鋼材13が設けられた下側部分に圧縮応力が、その反対側の上側部分に引張応力が生じ、第2の部分4が上側に反る(むくり)可能性が生じる。PC鋼材13が第2の部分4の上部領域に設けられると、第2の部分4は逆に下側に反る可能性が生じる。むくりが生じると第1の部分3と第2の部分4との密着性が悪化し施工不良に繋がる可能性がある。PC鋼材13は第2の部分4の高さ方向Zにおける略中央部に設けているため、このような現象が生じにくく、第2の部分4はほぼ平坦な形状を維持する。略中央部とは第2の部分4の高さをH4としたときに、第2の部分4の高さ方向中央位置を中心とする両側(H4)/8程度の範囲である。PC鋼材13の位置はむくりが抑制されれば第2の部分4の高さ方向Zにおける中央部に限定されず、中央部に対し多少上下方向にずれていてもよい。PC鋼材13は例えば、第2の部分4の高さ方向中央位置を中心とする両側(H4)/4程度の範囲に設けられてもよい。また、PC鋼材13が複数段設けられる場合は、すべてのPC鋼材13の高さ方向位置の平均(すべてのPC鋼材13の重心位置)が第2の部分4の高さ方向中央位置を中心とする両側(H4)/4程度の範囲、好ましくは第2の部分4の高さ方向Zにおける略中央部(第2の部分4の高さ方向中央位置を中心とする両側(H4)/8程度の範囲)にあればよい。
【0018】
第1の部分3は従来の扁平梁と同等であることから、本実施形態の梁1は従来の扁平梁に第2の部分4を付加した構成とみることもできる。扁平梁は梁せいが梁幅に対して小さく、その内部にPC鋼材13を設置するのが困難な場合がある。
図3(a)に示すように、PC鋼材13は扁平梁103の下側部分に生じる引張応力を緩和するために設けられるため、扁平梁103の下側部分(破線参照)に設けるのが効果的である。しかしこの領域には下端主筋9やフープ筋10が配置されており、特に梁せいが小さい場合、PC鋼材13を設置するスペースを確保することが困難となる場合がある。また、PC鋼材13にライズを設ける場合、
図3(b)の破線に示すように、梁1の長さ方向Xの中央付近が最下点となるようにその形状を設定するのが一般的であるが、同様の理由から困難となる場合が多い。このため、従来はPC鋼材13がなくても扁平梁103の下側部分に大きな引張応力が生じないよう、扁平梁103のスパンを、プレストレスなしで成立するスパンの上限である6~7m程度に制限する必要があった。本実施形態ではPC鋼材13の設置スペースに大きな制限がないため、より大きなスパンの梁1が可能となる。
【0019】
また、扁平梁は梁せいが小さく水平耐力が見込みにくいため、長期荷重のみに対して設計することがある。その場合、梁せいが制限されることから、長期荷重の曲げモーメントに対しては梁幅を拡幅して対応することが考えられる。しかし、この方法は梁せいを増加する場合と比較して効果が限られ(断面2次モーメントは梁せいの3乗に比例し、梁幅の1乗に比例する)、しかも梁幅が柱幅を上回って扁平梁が床スラブまで達すると、床スラブに存在する避難ハッチ、雨樋などとの干渉が生じる可能性がある。本実施形態は第2の部分4を付加したことによって長期荷重に対する設計が容易になるため、このような問題も生じにくくなる。
【0020】
次に、本実施形態の梁1の施工方法について
図4~8を参照して説明する。以下の説明では、上述の方法によって予め長さ方向Xの圧縮応力が与えられた梁をプレキャスト梁21といい、プレキャスト梁21の上に現場施工される梁を現場施工梁22という。本実施形態ではプレキャスト梁21は第2の部分4に一致し、現場施工梁22は第1の部分3に一致している。まず、
図4に示すように、プレキャスト梁21を所定の位置に配置する。具体的には、従来の方法によって、施工済みの下階の梁1001に支保工23を設け、その上にプレキャスト梁21(4)を設置する。
図5にプレキャスト梁21(4)の斜視図を示す。プレキャスト梁21(4)には予張力が掛けられたPC鋼材13が埋め込まれており(図示せず)、プレキャスト梁21(4)の上面からは補強筋15が上方に突き出している。次に、
図6に示すように、プレキャスト梁21(4)の側方及び斜め上方に現場施工梁22用及び床スラブ2用の型枠24を設ける。そして、プレキャスト梁21(4)の上方に上端主筋8と下端主筋9とフープ筋10と上階の立上り部7の補強筋12とを配筋し、さらに図示は省略するが床スラブ2の配筋を行う。次に、
図7に示すように、コンクリート11を打設して現場施工梁22(3)と床スラブ2を形成する。プレキャスト梁21(4)の上方に現場施工梁22(3)を施工することによって第1の部分3と第2の部分4が一体化した梁1が形成される。
図5等に示すように、プレキャスト梁21(4)の上面にはコッター25(凹部)が形成されており、現場施工梁22(3)のコンクリート11がコッター25に流入することで、プレキャスト梁21(4)と現場施工梁22(3)の一体性が向上する。その後、
図8に示すように、上階の立上り部7を施工する。
【0021】
このように、本実施形態では梁1をプレキャスト梁21(4)と現場施工梁22(3)に分割しており、梁1全体をプレキャスト梁とする必要がない。梁1全体をプレキャスト梁とすると梁1の重量が増加し、揚重機の高能力化、追加設置、プレキャスト梁の運搬費の増加など施工コストの増加を招く場合がある。特に、タワークレーンなど大型の揚重機が使用されないことがある中低層の建物では大きなコスト増加を招く可能性がある。本実施形態ではこのような問題が生じにくく、特に中低層の建物でメリットが大きい。
【0022】
図9に示すように、プレキャスト梁21(4)は幅方向Yに分割されてもよい。例えば、プレキャスト梁21(4)は、長さ3m、梁せい100mm×梁幅240mmの場合約174kgとなる。これは作業員が運搬するには困難な重量であり、別途クレーン等を必要とするなど、施工コストへの影響が生じることがある。プレキャスト梁21(4)を梁せい100mm×梁幅80mmの部材26に3分割すれば各部材26の重量は58kgとなり、作業員による取り扱いが容易となる。この場合、分割した各部材26にPC鋼材13を設置するとともに(図示せず)、上面から突き出す補強筋15(一部のみ図示)と、コッター25とを設けることが望ましい。なお、分割した各部材26は
図9に示すように互いに隣接して設けてもよいが、幅方向Yに間隔をおいて設けてもよい。
【0023】
以下、本発明の他の実施形態について説明する。以下の説明では主に第1の実施形態と異なる点について説明する。説明を省略した点については第1の実施形態と同様である。
【0024】
図10は本発明の第2の実施形態に係る梁101の断面図を示している。本実施形態の梁101は第1の実施形態の梁1と同じ構成を有しているが、施工方法が第1の実施形態と異なる。プレキャスト梁121は第1の部分3の下端主筋9を含んでおり、現場施工梁122は第1の実施形態の現場施工梁22より範囲が縮小されている。本実施形態では、PC鋼材13が相対的にプレキャスト梁121の下方に位置するため、むくりが生じやすくなる。しかしプレキャスト梁121の上部に配置される下端主筋9がプレキャスト梁121の上向きの反りを抑制し、むくりが生じにくくなる。施工方法はほぼ第1の実施形態と同じである。下端主筋9が埋め込まれたプレキャスト梁121を設置後、プレキャスト梁121の上方に上端主筋8とフープ筋10と補強筋12を配筋し、その後コンクリート11を打設する。フープ筋10は一部のみをプレキャスト梁121に設け、プレキャスト梁121の上方に突き出すようにしておく。その後、プレキャスト梁121の上方に突き出したフープ筋10を残部のフープ筋10と継手で連結することで一体化したフープ筋10を形成することができる。フープ筋10の一部がプレキャスト梁121に埋め込まれているため、プレキャスト梁121と現場施工梁122の接合力が高められる効果も期待される。本実施形態はプレキャスト部材の範囲が拡大することから、高層建物に好適に適用できる。高層建物では大型の揚重機が用いられることが多いため、プレキャスト部材の重量増加は大きな問題とならない。また、高層建築では同一のプレキャスト部材を大量に使用することが多いため、生産性の面からも有利となる。
【0025】
図11は本発明の第3の実施形態に係る梁201の断面図を示している。本実施形態では第2の部分204の下面204aは、窓枠6に隣接する側面205から反対側の側面206に向けて上り勾配となっている。第1の部分3は第1の実施形態と同様である。第2の部分204は第1の部分3の下面3aに配置されるため、集合住宅のバルコニー等に設置する場合、室内からの視界を悪化させる可能性がある。第2の部分4の下面204aにこのような傾斜面を設けることで視界の悪化が抑制される。図示の例ではPC鋼材13が第2の部分4の下面3aと平行に設けられているが、第2の部分4の上面204bと平行に設けられてもよい。また、むくりを防止するため、追加のPC鋼材213を(例えば図中の黒丸で示す位置に)設けてもよい。なお、本実施形態では室内からの視界の悪化を押えるため、第2の部分204を室内側に、すなわち第2の部分204の幅方向中心線が第1の部分3の幅方向中心線より窓枠6側となる位置に設けることもできる。
【0026】
図12(a)は本発明の第4の実施形態に係る梁301の断面図を示している。第2の部分304は第1の部分303の下端主筋9のかぶり部305に食い込むように設けられている。すなわち、第1の部分303の第2の部分304と対向する下面に、第2の部分304の上部を収容する凹部306が形成されている。これによって第1の部分303の納まりが改善されるとともに第1の部分303と第2の部分304の密着性が向上する。コッター25は他の実施形態でも必須の構成ではないが、本実施形態ではコッター25を省略することもできる。第2の部分304の食い込み長さ、すなわち第1の部分303と第2の部分304の高さ方向Zの重複長さSは例えば20~30mm程度とすることができる。
図12(b)のように2つの第2の部分304a,304bを設けてもよい。立上り部7は第1の部分303のほぼ中央に設けられ、2つの第2の部分304a,304bが立上り部7の両側に位置している。
【0027】
図13は本発明の第5の実施形態に係る梁401の断面図を示している。第2の部分404は第1の部分403のY方向側方に設けられ、第1の部分403のY方向側方で第1の部分403と一体化されている。PC鋼材13は上端主筋8及び下端主筋9のY方向側方に設けられて、上端主筋8及び下端主筋9と同じ方向(長さ方向X)に延びている。第2の部分404は第1の部分403の幅方向Y片側だけに設けることもできるが、第1の部分403の引張応力を幅方向Yにおいてできるだけ均等に低減するため、第1の部分403の幅方向Y両側に設けることが望ましい。PC鋼材13と直交する方向にPC鋼材13を取り囲むU字型の補強筋415が配置されており、補強筋415の先端は第1の部分403に埋め込まれている。第2の部分404はできるだけ第1の部分403の側面の下側に設けられることが望ましく、PC鋼材13は上端主筋8より下端主筋9に近い高さ位置に設けられることが望ましい。本実施形態では第2の部分404がプレキャスト梁421となり、第1の部分403が現場施工梁422となる。従って、まず第2の部分404である2つのプレキャスト梁421を設置し、その後それらの側方(それらの間)に第1の部分403である現場施工梁422を施工する。図示は省略するが、室外側の第2の部分404(
図13において左側の第2の部分404)の下面を第3の実施形態と同様、室内側から離れる方向に上向き勾配とすることで視界の悪化を抑制することができる。
【0028】
図14は本発明の第6の実施形態に係る梁501の断面図を示している。本実施形態では他の実施形態と異なり、PC鋼材13の緊張が第1の部分503のコンクリート打設後に行われる。すなわち、本実施形態ではポストテンション型のプレキャスト梁が用いられる。第2の部分504にはPC鋼材13を通すためのシース505が埋め込まれており、シース505の両端には、PC鋼材13にプリストレスを導入するための定着具506が設けられている。第1の部分503は上述の各実施形態の第1の部分3,303,403のいずれの形状も取ることができる。第2の部分504は上述の各実施形態の第2の部分4、204,304,404のいずれの形状も取ることができる。ただし、本実施形態ではシース505は第2の部分504の高さ方向Zにおける略中央部を延びている必要はない。これは、第2の部分504を設置した時点でPC鋼材13が緊張されておらず、第2の部分504にむくりが生じないためである。
【0029】
本実施形態では、まずシース505にPC鋼材13が挿入された第2の部分504をプリストレスが導入されていない状態で設置し、その後上述と同様の手順で第1の部分503を施工する。プリストレスの導入は第1の部分503のコンクリートの打設後に行う。片方の定着具506を保持しながら反対側の定着部506をジャッキ等で引っ張ることによってPC鋼材13を緊張させることができる。その後定着具506で緊張力を保持した状態でシース505にモルタルを注入する。
【0030】
本発明では第2の部分に一般的なコンクリートを用いているが、超高強度コンクリート(引張強度及びヤング係数が高く、圧縮強度が例えば100N/mm2を超えるコンクリート)を用いることもできる。超高強度コンクリートを用いることで長期荷重での損傷ないしひび割れの発生がさらに生じにくくなり、またはPC鋼材の量を減らすことができる。また、繊維補強コンクリートを用いることでも同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0031】
1,101,291,301,401,501 梁
2 床スラブ
3,303,403,503 第1の部分
4,204,304,404,504 第2の部分
6 窓枠
8 上端主筋
9 下端主筋
13 PC鋼材
11,14 コンクリート
21,121 プレキャスト梁
22,122 現場施工梁
25 コッター
306 凹部
505 シース
C1,C2 柱
H3 第1の部分の高さ方向寸法(梁せい)
H4 第2の部分の高さ方向寸法(梁せい)
L 梁のスパン
W3 第1の部分の幅方向寸法
W4 第2の部分の幅方向寸法
X 長さ方向
Y 幅方向
Z 高さ方向