(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】新しい鉄基複合粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/14 20220101AFI20220322BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220322BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20220322BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20220322BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20220322BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20220322BHJP
【FI】
B22F1/14 450
B22F1/00 V
F16D69/02 B
C09K3/14 520L
C09K3/14 520G
B22F5/00 G
C22C38/00 304
(21)【出願番号】P 2018536092
(86)(22)【出願日】2016-09-29
(86)【国際出願番号】 US2016054364
(87)【国際公開番号】W WO2017059026
(87)【国際公開日】2017-04-06
【審査請求日】2019-09-27
(32)【優先日】2015-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509020295
【氏名又は名称】ホガナス アクチボラグ (パブル)
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フゥ、ボ
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-212226(JP,A)
【文献】特開2014-101994(JP,A)
【文献】米国特許第06833018(US,B1)
【文献】米国特許第05486229(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0285300(US,A1)
【文献】特開2008-025018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/14
B22F 1/00
F16D 69/02
C09K 3/14
B22F 5/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキパッドの摩擦材料の作製のための粉末の使用であって、該粉末は、複数の複合粒子を含
み、
前記複合粒子は、炭素含有量が0.2重量%未満であるフェライト系の鉄または鉄基の多孔質構造粒子からなり、
前記多孔質構造粒子は、その空孔および空洞に分布した少なくとも1つの粒子状摩擦調整材を有し、さらに少なくとも1つの粒子状安定化密封材を有し、
前記粒子状摩擦調整材および前記粒子状安定化密封材は遊離形態であることを特徴とする、粉末
の使用。
【請求項2】
前記粒子状摩擦調整材の含有量が、前記粉末の0.1~10重量%である、請求項1に記載された粉末
の使用。
【請求項3】
前記粉末は、100%が20メッシュ(850μm)未満、90%が635メッシュ(20μm)超である粒径分布を有する、請求項1または請求項2に記載された粉末
の使用。
【請求項4】
前記粉末は、見掛け密度が1.2~2.5g/cm
3である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された粉末
の使用。
【請求項5】
前記粉末は、1~30m
2/gの比表面積を有する、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された粉末
の使用。
【請求項6】
前記複合粒子のフェライト含有量が85重量%~97重量%である、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された粉末
の使用。
【請求項7】
前記粒子状摩擦調整材が
-黒鉛、コークス、石炭、活性炭、カーボンブラック
-タルク、雲母、蛍石
-二硫化モリブデン(MoS
2)、六方晶窒化ホウ素(h-BN)、硫化マンガン(MnS)、硫化アンチモン(SbS
3またはSb
2S
5)
の群から選択される、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された粉末
の使用。
【請求項8】
前記摩擦調整材が、黒鉛、タルク、MoS
2、h-BN、MnSおよびSbS
3から選択される、請求項7に記載された粉末
の使用。
【請求項9】
前記粒子状安定化密封材が、前記粉末の0.1~5重量%である、請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載された粉末
の使用。
【請求項10】
前記粒子状安定化密封材が、
-粘土鉱物
-セメント
-酸化カルシウム(CaO)および水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)
-水ガラス
の群から選択される、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載された粉末
の使用。
【請求項11】
前記粒子状安定化密封材が、ベントナイト、カオリン、ポルトランドセメント、酸化カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、およびケイ酸リチウムから選択される、請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載された粉末
の使用。
【請求項12】
粉末を製造する方法であって、
該粉末は、複数の複合粒子を含み、前記複合粒子は、炭素含有量が0.2重量%未満であるフェライト系の鉄または鉄基の多孔質構造粒子からなり、前記多孔質構造粒子は、その空孔および空洞に分布した少なくとも1つの粒子状摩擦調整材を有し、さらに少なくとも1つの粒子状安定化密封材を有し、前記粒子状摩擦調整材および前記粒子状安定化密封材は遊離形態である、前記粉末を製造する方法において、該方法が、
a)フェライト系の鉄または鉄基の多孔質粉末を提供するステップであって、該多孔質粉末の粒径は、850μm未満であり、粉末粒子の少なくとも90%が45μm超であり、見掛け密度が1~2g/cm
3を有する、前記多孔質粉末を提供するステップと、
摩擦調整材を提供するステップであって、該摩擦調整材が、
-黒鉛、コークス、石炭、活性炭、カーボンブラック
-タルク、雲母、蛍石
-二硫化モリブデン(MoS
2)、六方晶窒化ホウ素(h-BN)、硫化マンガン(MnS)、硫化アンチモン(SbS
3またはSb
2S
5)
から選択される、前記摩擦調整材を提供するステップと、
b)前記鉄または鉄基の多孔質粉末を、前記粉末の0.1~10重量%の前記摩擦調整材と1~30分間混合するステップと、
c)安定化密封材を提供するステップであって、該安定化密封材が、
-粘土鉱物
-セメント
-酸化カルシウム(CaO)および水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)
-水ガラス
から選択される、前記安定化密封材を提供するステップと、
d)前記安定化密封材を、前記粉末の0.1~5重量%をステップbで得られた混合物と1~30分間混合するステップと、
g)得られた粉末を回収するステップとを
含み、
ステップcはステップaの前に実行されてもよく、またはステップbの前に実行されてもよい、前記粉末を製造する方法。
【請求項13】
前記粉末を製造する方法が、ステップdの後に
e)前記粉末の0.5~10重量%の水を加え、1~30分間混合するステップと、
f)ステップeで得られた混合物に、50~150℃での乾燥工程を行うステップと
を更に含む、請求項12に記載された方法。
【請求項14】
前記粒子状安定化密封材が、ベントナイト、カオリン、ポルトランドセメント、酸化カルシウム、ケイ酸ナトリウムケイ酸、カリウムおよびケイ酸リチウムから選択される、請求項12又は請求項13に記載された方法。
【請求項15】
粉末を含有するブレーキパッド
であって、該粉末は、複数の複合粒子を含み、前記複合粒子は、炭素含有量が0.2重量%未満であるフェライト系の鉄または鉄基の多孔質構造粒子からなり、前記多孔質構造粒子は、その空孔および空洞に分布した少なくとも1つの粒子状摩擦調整材を有し、さらに少なくとも1つの粒子状安定化密封材を有し、前記粒子状摩擦調整材および前記粒子状安定化密封材は遊離形態である、ブレーキパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の具体例は、新しい鉄基複合粉末、および摩擦材料の製造におけるこの粉末の使用に関するものである。この複合粉末は、ブレーキパッド製造などの摩擦材料形成における機能性材料としての使用に特に適しており、そのような摩擦材料製造に使用される銅または銅基の材料に置き換えることが可能である。
【背景技術】
【0002】
鉄粉末または鉄基粉末は、多くの用途および技術分野で使用されている。加圧されて成形体を形成する能力を有する粉末粒子は、プレスおよび焼結金属部品の製造に利用される。その化学反応性は、様々な化学プロセスで利用されている。鉄粉末または鉄基粉末は、手動式金属アーク電極のコーティングまたはブレーキパッドなどの様々な摩擦材料のコーティングにおける添加材として使用することもできる。
【0003】
ブレーキパッド、特に輸送車両用のブレーキパッドの摩擦材料は、多くの要求を満たさなければならず、異なる環境、湿った状態及び乾燥した状態、高温及び低温、高熱負荷においても十分に機能しなければならない。ブレーキパッドの摩擦材料は、独立してまたは他の物質と組み合わされて重要な役割を果たす多数の粉末物質を含有するが、正確に定義または定量化することは必ずしも可能ではない。そのため、ブレーキパッド用摩擦材料の開発は、依然として試行に基づいており、時には専門技術として特徴付けられる。
【0004】
摩擦材料によく使用される物質の1つは銅粉末である。とりわけ銅粉末は、制動中の熱放散に優れ高温環境での安定した摩擦の役割を果たす。
【0005】
しかしながら、銅の使用は、環境上および健康上の懸念からブレーキパッドに制限されている。ブレーキパッド製造から銅が排除されると、ブレーキパッドの使用中の熱損失またはパッドおよび/またはロータの過剰摩耗のような問題を解決することが大きな課題になる。適切な代替を捜すために試みが行われきたが限定的な成功しか得られていない。例えば、鉄粉末が銅の代替として使用されたが、ブレーキパッドに配合される非常に一般的な物質である黒鉛が摩擦熱によって拡散してセメンタイト含有相を形成するので、ブレーキパッドの使用中に硬く磨耗しやすい粒子が形成されることが発生した。セメンタイト含有相は、銅に近い硬さを有する軟質相であるフェライト相を有する元の鉄粉末と比較して硬い相である。そのような硬質相は、不安定な摩擦およびパッドおよび/またはロータの大きい摩耗を引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、ブレーキパッド内の銅粉末に置き換えるための適切な代替物を見出す必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、複数の複合粒子を含有する粉末を開示するものである。この複合粒子は、鉄または鉄基の多孔質構造粒子からなり、多孔質構造粒子の空孔および空洞に分布する少なくとも1つの粒子状摩擦調整材を有し、この複合粒子が、少なくとも1つの安定化密封材をさらに含有することを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の観点は、第1の観点による粉末を製造する方法を開示し、本発明の第3の観点は、この粉末の使用を開示する。本発明の第4の観点は、この粉末を含有するブレーキパッドを開示する。
【0009】
本発明の様々な観点の特定の具体例を以下の実施形態のリストに示す。
【0010】
1.複数の複合粒子を含む粉末。複合粒子は、フェライト系の鉄または鉄基の多孔質構造粒子からなり、この多孔質構造粒子の空孔および空洞に分布した少なくとも1つの粒子状摩擦調整材を有し、さらに少なくとも1つの粒子状安定化密封材を有し、粒子状摩擦調整材および粒子状安定化密封材は遊離形態であることを特徴とする。
【0011】
2.摩擦調整材の含有量が粉末の0.1~10重量%、好ましくは1~8重量%、最も好ましくは2~6重量%である、実施形態1に記載の粉末。
【0012】
3.以下の粒径分布を有する、実施形態1または2に記載の粉末。すなわち、100%が20メッシュ(850μm)未満であり、90%が635メッシュ(20μm)を超える。好ましくは、100%が40メッシュ(425μm)未満であり、90%が325メッシュ(44μm)を超える。最も好ましくは100%が60メッシュ(250μm)未満であり、90%が325メッシュ(44μm)を超える。
【0013】
4.ADが1.2~2.5g/cm3である、実施形態1~3のいずれかに記載の粉末。
【0014】
5. 1~30m2/g、好ましくは2~20m2/gのSSAを有する、実施形態1~4のいずれかに記載の粉末。
【0015】
6.フェライト含有量が85重量%~97重量%、好ましくは89重量%~97重量%である、実施形態1~5のいずれかに記載の粉末。
【0016】
7.粒子状摩擦調整材が以下の群から選択される、実施形態1~6のいずれかに記載の粉末。
-黒鉛、コークス、石炭、活性炭、カーボンブラックなどの炭素含有材料
-タルク、雲母、蛍石などの鉱物
-二硫化モリブデン(MoS2)、六方晶窒化ホウ素(h-BN)、硫化マンガン(MnS)、硫化アンチモン(SbS3またはSb2S5)などの他の無機材料
【0017】
8.摩擦調整材が黒鉛、タルク、MoS2、h-BN、MnSおよびSbS3から選択される、実施形態7に記載の粉末
【0018】
9.粒子状安定化密封材が、粉末の0.1~5重量%、好ましくは1~3重量%である、実施形態1~8のいずれかに記載の粉末。
【0019】
10.粒子状安定化密封材が、以下の群から選択される、実施形態1~9のいずれかに記載の粉末。
-ベントナイトおよびカオリンなどの粘土鉱物
-ポルトランドセメントなどのセメント
-酸化カルシウム(CaO)および水酸化カルシウム(Ca(OH)2)
-ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムまたはケイ酸リチウムなどの水ガラス。
【0020】
11.粒子状安定化密封材が、ベントナイト、カオリン、ポルトランドセメント、酸化カルシウム、ケイ酸ナトリウムから選択される、実施形態10に記載の粉末。
【0021】
12.以下のステップを含む、実施形態1~11のいずれかの粉末を製造する方法。
a)フェライト系の鉄または鉄基の多孔質粉末を提供するステップ。多孔質粉末の粒径は、850μm未満、好ましくは425μm未満であり、粒子の少なくとも90%が45μm超、好ましくは粒子の90%が75μm超であり、見掛け密度(AD)が1~2g/cm3、好ましくは1.2~1.8g/cm3を有する。
下記の群から選択される摩擦調整材を提供するステップ。
-黒鉛、コークス、石炭、活性炭、カーボンブラックなどの炭素含有材料
-タルク、雲母、蛍石などの鉱物
-二硫化モリブデン(MoS2)、六方晶窒化ホウ素(h-BN)、硫化マンガン(MnS)、硫化アンチモン(SbS3またはSb2S5)などの他の無機材料
b)鉄または鉄基の粉末を、粉末の0.1~10重量%、好ましくは1~8重量%、最も好ましくは2~6重量%の摩擦調整材と1~30分間混合するステップ。
c)下記の群から選択される安定化密封材を提供するステップ。
-ベントナイトおよびカオリンなどの粘土鉱物
-ポルトランドセメントなどのセメント
-酸化カルシウム(CaO)および水酸化カルシウム(Ca(OH)2)
-ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムまたはケイ酸リチウムなどの水ガラス。
d)安定化密封材を、粉末の0.1~5重量%、好ましくは1~3重量%をステップbで得られた混合物と1~30分間混合するステップ。
e)任意で、粉末の0.5~10重量%、好ましくは1~5重量%の水を加え、1~30分間混合するステップ。
f)ステップeで得られた混合物に、50~150℃、好ましくは75~125℃での乾燥工程を行うステップ。
g)得られた粉末を回収するステップ。
ステップcはステップaの前に実行されてもよく、またはステップbの前に実行されてもよい。
【0022】
13.摩擦性能を向上させ、熱損失(熱フェード)を防止する部材を作製するための実施形態1~11のいずれかの粉末の使用。
【0023】
14.ブレーキパッドの摩擦材料の作製のための実施形態13の粉末使用。
【0024】
15.実施形態1~11のいずれかの粉末を含有するブレーキパッド。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一具体例による粉末複合粒子を含有するブレーキパッドおよび参照ブレーキパッドの動力計試験の結果。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態による粉末の準備および使用される原料
鉄粉末または鉄基粉末
鉄粉末または鉄基粉末の粒子は、様々な製造技術によって製造され、完成した粉末粒子に様々な特性を付与できる。鉄粉末または鉄基粉末の最終使用に応じて、特定の特性が要求される。
【0027】
確立された方法である水アトマイジング法は、鉄溶湯(意図的に添加する合金化元素を有する又は有さない)の流れが、高圧水噴流を溶湯流れに衝突させることによって微細粒子に分割するものであり、通常は限られた気孔率を有する不規則な高密度粒子が得られる。その粉末は、高密度を有するグリーン体への圧縮に適している。次工程の焼結プロセスにより、収縮が小さい高密度の焼結部品が得られる。粉末の収縮が大きすぎると、部品の寸法精度に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0028】
他のプロセス、例えば水素ガスH2による鉄酸化物の化学還元、または炭素含有材料による酸化鉄の化学還元(炭素含有材料は還元ガスとしての一酸化炭素COを形成する)によれば、異なる特性を有する粉末粒子が得られる。例えば、CO還元プロセスにより、多孔質スポンジ鉄ケーキが作られる。この多孔質スポンジ鉄ケーキを砕くと、内部に空孔を有する不規則で多孔質の粒子となる。成型部品の製造に使用される場合、圧縮後の粉末は、アトマイジング鉄粉末と比較して、グリーン強度は大きいがグリーン密度が小さいグリーン体になる。
【0029】
水素ガスH2により鉄酸化物を化学還元した鉄粉末または鉄基粉末は、アトマイジング鉄粉末やCO還元鉄粉末と比較して、気孔率が大きく不規則な形状を有し比表面積が大きい。気孔率が大きく不規則な粒子を含む粉末は、より球形の形状を有する粉末と比較して、見掛け密度ADが小さい。
【0030】
本発明の複合粉末に含まれる鉄粉末または鉄基粉末の粒子は、不規則性が大きく気孔率の大きくフェライト組織を有し、開気孔率が大きい。炭素含有量は0.2重量%未満である。本明細書において、フェライト組織、フェライト金属相は、鉄粉末または鉄基粉末のフェライト量が、光学的ミクロ組織検査およびマイクロビッカース硬さ試験(ISO6507-1:2005)で測定して、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、最も好ましくは少なくとも97重量%であることを意味する。
【0031】
開気孔率の大きい不規則かつ多孔質の構造は、2.0g/cm3未満、例えば、1~2.0g/cm3、好ましくは1.2~1.8/cm3の低いAD、および粒径分布に対して大きい比表面積SSA、すなわちISO9277:2010に従ってBET法により測定して0.15~1m2/g、好ましくは0.2~0.8m2/gから明らかである。粒径分布は、100%の粒子が20メッシュ(850μm)未満、好ましくは40メッシュ(425μm)未満の粒径を有し、粒子の少なくとも90%が325メッシュ(45μm)超の粒径、好ましくは200メッシュ(75μm)超の粒径を有するように選択される(ASTM E11に従って測定)。これに関して、複合体の特性に影響を及ぼすのは、本発明による複合体に使用される鉄粉末または鉄基粉末の粒子の特定の特性であることを強調することが重要である。したがって、上記の鉄粉末または鉄基粉末と同様の鉄粉末または鉄基粉末粒子特性を提供する他の技術は、本発明による複合材に使用することが可能であると理解されるべきである。
【0032】
本発明の特定の実施形態において、鉄粉末粒子は、最終複合粒子に所定の特性を与えるために、銅、ニッケル、モリブデン、クロム、シリコン、亜鉛およびアルミニウムなどの合金元素を含有する。この合金元素は、鉄粉末に対して予め合金化されていてもよい、すなわち、アトマイジング前に溶融状態の鉄粉末に添加されてもよい。または、鉄粉末に拡散結合されてもよい、すなわち熱プロセスにより鉄粉末の表面に結合させてもよい。あるいは、合金元素は、結合材を用いて鉄粉の表面に付着させることができる。合金元素の量は、50重量%未満でなければならない。
【0033】
摩擦調整材
少なくとも1種の粒子状摩擦調整材が鉄粉末または鉄基粉末の粒子と組み合わされる。すなわち、従来の混合プロセスによって摩擦調整材の粒子が鉄粉末または鉄系粉末の空孔および空洞内に位置付けられる。この混合プロセスは、リボンミキサー、パドルミキサー、高せん断ミキサー、V型混合器、ダブルコーン型混合器およびドラム型混合器などの標準的な混合手順で行うことができる。混合時間は、使用される混合器の種類および摩擦調整材の量に応じて1~30分である。
【0034】
摩擦調整材の量は0.1~10重量%、好ましくは1~8重量%、より好ましくは2~6重量%である。
【0035】
本発明の複合粉末に含まれる摩擦調整材の役割は、鉄粉の摩擦特性を銅粉の対応する特性と一致するように調整することである。
【0036】
摩擦調整材は、以下の群から選択される。
-黒鉛、コークス、石炭、活性炭、カーボンブラックなどの炭素含有材料
-タルク、マイカ、フッ化カルシウムなどのミネラル
-二硫化モリブデン(MoS2)、六方晶窒化ホウ素(h-BN)、硫化マンガン(MnS)、硫化アンチモン(SbS3またはSb2S5)などの他の無機材料。
【0037】
好ましい摩擦調整材は、黒鉛、タルク、MoS2、h-BN、MnSおよびSbS3の群から選択される。
【0038】
摩擦調整材の粒径は、混合によって粒子を鉄粉末または鉄基粉末の粒子の気孔および空洞に入れることができるように選択される。したがって、ISO 13320:2009(レーザー回折法)に従って測定された粒径は、8μm未満のX50、20μm未満のX95、好ましくは5μm未満のX50、15μm未満のX95である。より好ましくは3μm未満のX50、10μm未満のX95である。
【0039】
安定化密封材
摩擦調整材が鉄粉末または鉄基粉末の粒子と組み合わされた第1の混合プロセスの後、安定化および密封材として作用する少なくとも1種の粒子状粉末材料を鉄粉末または鉄基粉末/摩擦調整材の組み合わせに加える第2の混合プロセスが行われる。第2の混合プロセスは、安定化密封材が、摩擦調整材の表面の少なくとも一部に接触して覆うように行われる。
【0040】
第2の混合プロセスは、リボンミキサー、パドルミキサー、高せん断ミキサー、V型混合器、ダブルコーン型混合器およびドラム型混合器などの標準的な混合手順で行うことができる。混合時間は、使用される混合器の種類および安定化密封材の量に応じて1~30分である。安定化密封材の量は0.1~5重量%、好ましくは1~3重量%である。
【0041】
安定化密封材は、本発明において2つの役割を果たす。この物質は、摩擦調整材を鉄粉末および鉄基粉末の内部に保持することを確実にしなければならない。また、安定化密封材は、例えば摩擦調整材に含まれる黒鉛の形態及び/又は摩擦調整材として使用される黒鉛の形態の炭素が、ブレーキパッドの使用中に本発明の複合粉末に含まれる鉄と反応してセメンタイト含有相を形成することを防止しなければならない。したがって、安定化密封材は、鉄マトリックスへの炭素の拡散を防止して、鉄粉末が、当初のフェライト相または摩擦中のオーステナイト形成温度より高い温度にさらされたときのオーステナイト相を維持できるようにしている。
【0042】
安定化密封材は、以下の群から選択される。
ベントナイトおよびカオリンなどの粘土鉱物
ポルトランドセメントなどのセメント
酸化カルシウム(CaO)および水酸化カルシウム(Ca(OH)2)
ナトリウム、カリウムまたはリチウムシリケートなどの水ガラス。
【0043】
安定化密封材は、ベントナイト、カオリン、ポルトランドセメント、酸化カルシウム、およびケイ酸ナトリウムからなる群から選択されることが好ましい。
【0044】
安定化密封材の粒径は、粒子が鉄粉末または鉄基粉末粒子の表面上に容易に分布し、さらに摩擦調整材を鉄粉末または鉄基粉末粒子の気孔および空洞に保持させることができるように選択される。したがって、ISO 13320:2009に従って測定された粒径は、8μm未満のX50、20μm未満のX95であり、好ましくは5μm未満のX50、15μm未満のX95である。より好ましくは3μm未満のX50、10μm未満のX95である。
【0045】
本発明による複合粉末粒子をさらに安定化させるために、第2の混合プロセスの後に、得られた複合粒子を含む粉末を湿式混合プロセスに供する、さらなる製造工程を適用することができる。この湿式混合プロセスは、リボンミキサー、パドルミキサー、高せん断ミキサー、V型混合器、ダブルコーン型混合器およびドラム型混合器などの標準的な混合手順で、水道水または脱イオン水などの水を添加することによって行うことができる。混合時間は、使用される混合器の種類および水の量に応じて1~30分である。水の量は0.5~10重量%、好ましくは1~5重量%である。湿式混合の後、複合粉末粒子は、50℃~150℃、好ましくは75℃~125℃で乾燥させる。
【0046】
この湿式および乾燥プロセスにより、安定化密封材が鉄粉末または鉄基粉末粒子の表面上に均一に分布して結合することを確実にするという安定化密封材の役割がさらに強化される。本発明による方法の一実施形態では、フェライト組織の鉄または鉄基粒子を摩擦調整材および安定化密封材と同時に、すなわち1つの混合プロセスで混合する。
【0047】
本発明の具体例による粉末の特徴
本発明による粉末は、鉄または鉄基の構造粒子の空孔および空洞に分布した少なくとも1種の粒子状摩擦調整材を有する複数の複合粒子を含有することを特徴とする。鉄または鉄基の構造粒子は、少なくとも1種の粒子状安定化密封材をさらに含む。鉄または鉄基の構造粒子は、フェライト相または、オーステナイト化温度を超える温度ではオーステナイト相である。摩擦調整材の含有量は、粉末の0.1~10重量%、好ましくは1~8重量%、最も好ましくは2~6重量%である。安定化密封材の量は、粉末の0.1~5重量%、好ましくは1~3重量%である。複合粒子のフェライト量は85~97重量%、好ましくは89~97重量%である。
【0048】
摩擦調整材および安定化密封材はいずれも遊離形態である。すなわち、これらは鉄および鉄基の粉末と化学的に結合しておらず、鉄または鉄基の粉末粒子から超音波水洗浄および/または溶媒洗浄などの物理的分離方法により分離できる。摩擦調整材および安定化密封材は、鉄または鉄基の粉末粒子のマトリックスに埋め込まれていないで、鉄または鉄基の粉末粒子の表面に存在するか、または凝集力で結合されている。
【0049】
さらに、本発明による具体例によれば、粉末の粒度分布は、100%が20メッシュ(850μm)未満、90%が635メッシュ(20μm)超であり、好ましくは100%が40メッシュ(425μm)未満、90%が325メッシュ(44μm)超であり、最も好ましくは100%が60メッシュ(250μm)未満、90%が325メッシュ(44μm)超である。
一具体例では、粉末のADは1.2~2.5g/cm3である。
他の具体例では、粉末は、1~30m2/g、好ましくは2~20m2/gの比表面積を有することができる。
【実施例】
【0050】
見掛け密度ADは、金属粉末および粉末冶金製品のMPIF標準試験方法に従って測定した(No.03:2012)。比表面積SSAは、ISO 9277:2010 BET法に従って測定した。X50およびX95は、ISO 13320:2009レーザー回折法に従って測定した。粒径は、金属粉末および粉末冶金製品のMPIF標準試験方法に従って測定した(No.02:2012)。硬さは、金属粉末および粉末冶金製品のMPIF標準試験方法に従って測定した(No.43:2012)。強度は、金属粉末および粉末冶金製品のMPIF標準試験方法に従って測定した(No.41:2012)。
【0051】
実施例1
粉末複合粒子の作製
98%を超える鉄含有量を有する1000gの多孔質水素(hfe)還元鉄粉末をパドルミキサー中で50gの黒鉛と10分間混合した。この第1の混合工程の後、30gの粘土鉱物であるベントナイトをミキサーに添加し、さらに6分間混合した。その後25mlの水を混合中に混合機に噴霧し、5分間混合を続けた。この湿式混合後、粉末複合粒子を60℃で2時間乾燥させる。
【0052】
下記の表1に、使用した鉄粉、黒鉛および粘土の特性を示す。
【表1】
【0053】
以下の表2に、使用した鉄粉末、中間生成物、最終複合粉末(1)の特性を示す。
【表2】
【0054】
表2から分かるように、使用した鉄粉と最終複合粉末との間の粒径分布に有意な変化はない。微細添加物の添加により自由に流動することができない中間生成物と比較して、複合粒子は、鉄粒子の表面上に安定化密封材がうまく被覆され、鉄粒子の内部に摩擦調整材調製を湿式および乾式プロセスによって密封していることを示している。流動が良好であることにより、粉体の取り扱い及び摩擦材料の製造が容易にもなる。ADの変化は小さく、粉末複合粒子がその粒子形態を維持していることを示す。しかしながら、摩擦調整材及び安定化密封材の添加のために、最終複合粉末のSSAは、鉄粉末に比べて大幅に増加している。改善された流動性、ADおよび粒度分布がほぼ同じであること、およびSSAの増加は、複合粉末が摩擦調整材および安定化密封材により良好に構成されたことの証拠であった。
【0055】
実施例2
第2の複合粉末複合粉末(2)を、実施例1に記載の手順に従って作製したが、相違点は、摩擦調整材として50gの黒鉛に替えて、40gの同じ種類の黒鉛および10gの六方晶系窒化ホウ素を使用した。表3に、六方晶窒化ホウ素の特性を示す。
【0056】
【0057】
中間生成物および最終複合粉末、複合粉末(2)の特性を測定し、表4による測定結果を示す。
【表4】
【0058】
表4から分かるように、使用した鉄粉と最終複合粉末との間の粒径分布に有意な変化はない。微細添加物の添加により自由に流動することができない中間生成物と比較して、複合粒子は、鉄粒子の表面上に安定化密封材がうまく被覆され、鉄粒子の内部に摩擦調整材を湿式および乾式プロセスによって密封していることを示している。流動が良好であることにより、粉体の取り扱い及び摩擦材料の製造が容易にもなる。ADの変化は小さく、粉末複合粒子がその粒子形態を維持していることを示す。しかしながら、摩擦調整材及び安定化密封材の添加のために、最終複合粉末のSSAは、鉄粉末に比べて大幅に増加している。改善された流動性、ADおよび粒度分布がほぼ同じであること、およびSSAの増加は、複合粉末が摩擦調整材および安定化密封材により良好に構成されたことの証拠であった。
【0059】
実施例3
第3の複合粉末複合粉末(3)を、実施例1に記載の手順に従って作製したが、相違点は、摩擦調整材として黒鉛50gの代わりに、硫化マンガン(MnS)70g及び雲母30gを使用した。表5に、硫化マンガンおよび雲母の特性を示す。
【0060】
【0061】
中間生成物および最終複合粉末、複合粉末(3)の特性を測定し、表6による測定結果を示す。
【表6】
【0062】
表6から分かるように、使用した鉄粉と最終複合粉末との間の粒径分布に有意な変化はない。微細添加物の添加により自由に流動することができない中間生成物と比較して、複合粒子は、鉄粒子の表面上に安定化密封材がうまく被覆され、鉄粒子の内部に摩擦調整材を湿式および乾式プロセスによって密封していることを示している。流動が良好であることにより、粉体の取り扱い及び摩擦材料の製造が容易にもなる。ADの変化は小さく、粉末複合粒子がその粒子形態を維持していることを示す。しかしながら、摩擦調整材及び安定化密封材の添加のために、最終複合粉末のSSAは、鉄粉末に比べて大幅に増加している。改善された流動性、ADおよび粒度分布がほぼ同じであること、およびSSAの増加は、複合粉末が摩擦調整材および安定化密封材により良好に構成されたことの証拠であった。
【0063】
実施例4
複合粉末の相安定性評価
実施例1および実施例2で得られた複合粉末1および複合粉末2を用いて、黒鉛添加あり及びなしの鉄粉末と比較して、高温でのフェライト相安定性を評価した。圧縮潤滑材として1重量%のアクラワックス(Acrawax)Cと混合した後、粉末混合物を、金属粉末および粉末冶金製品のMPIF標準試験方法(No.41 2012)に従って6.5g/cm3で抗折強度(TRS)試験片に圧縮した。圧縮された試料は、次に100%窒素雰囲気中でそれぞれ900℃および1120℃で30分間加熱した。加熱後、試料を室温まで冷却し、金属粉末および粉末冶金製品のMPIF標準試験方法No.43:2012に基づく硬さ、および金属粉末および粉末冶金製品の標準試験方法MPIFNo.41:2012に基づく強さを測定した。結果を表7に示す。
【0064】
【0065】
表7から分かるように、複合粉末は黒鉛添加のない鉄粉末と同程度の硬さおよび強さを有していた。これは、多量の黒鉛を含み900℃および1120℃で熱処理しても、複合粉末は依然としてフェライト相を良好に維持していることを示す。しかし、0.8%の黒鉛添加鉄粉については、添加黒鉛からの炭素の拡散によりセメンタイト含有相を形成するため、複合粉末よりもはるかに硬く、非常に大きい強さを示した。この試験により、本発明の複合粉末は、1120℃までの温度に加熱されたときに構造用鉄粉が安定なフェライト相またはオーステナイト相を有するという証拠が提供された。
【0066】
実施例5
摩擦材量の作製および試験
摩擦試験として典型的な非アスベスト有機(NAO)ブレーキパッド配合を選択した。この配合物は、基準摩擦材料として、以下の表8に記載された様々な粉末材料、結合材、潤滑材、研磨材、充填材などとともに8重量%の銅粉末を含む。銅粉末を複合粉末1、複合粉末2にそれぞれ同重量で完全に置換したことを除き、試験材料の作製に用いたものと同じ粉末材料を試験材料の作製に使用した。複合粉末1および複合粉末2は、それぞれ実施例1および実施例2から作製されたものである。他の粉末材料は、黒鉛、二硫化アンチモン、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸アルミニウム、マグネタイト、マイカ、チタン酸カリウム、ゴム、アラミド繊維、バライトが含まれる。
【0067】
【0068】
銅粉末および複合粉末を含むすべての粉末材料を指定量に従って正確に秤量し、直立混合機に投入して15分間混合した。各混合物について合計2kgの混合材料を作製した。この混合物は、実物大の動力計でフォード・クラウン・ビクトリア(1999年)試験アセンブリに適合するブレーキパッド型に装入した。成形したブレーキパッド試料を175℃で15分間ホットプレスし、その後180℃の炉で4時間硬化させた。
【0069】
摩擦試験
作製されたブレーキパッド試料は、SAE J2430手順を使用してシングルエンド慣性型ブレーキ動力計で試験した。試験には、OEM(原機製造方式)級の鋳鉄製のディスクロータおよびキャリパーを使用した。実物大の動力計の試験結果に基づき、BEEP(ブレーキ有効性評価手順)を用いて摩擦性能を評価した。BEEPの評価結果を表9に示す。
【0070】
【0071】
表9から明らかなように、試験された全てのブレーキパッドが試験に合格した。 また、本発明による複合粒子を含むブレーキパッドは、高温性能などのいくつかの観点に関して参照ブレーキパッドの性能をさらに上回ることに留意することができる。
【0072】
SAE J2430実物大の動力計の試験では、ブレーキパッド試料の耐熱性も評価した。ブレーキパッド試料の摩擦面下に熱電対を埋め込んだ。ブレーキパッドは、ブレーキアセンブリを冷却しないで、毎時120kmの速度で繰り返し停止させ、温度が開始時50℃から試験終了時に325℃に上昇するようにした。
図1に熱フェードテストの結果を示す。本発明による複合粒子を含有するブレーキパッドは、参照材料をさらに上回る良好な熱フェード抵抗性を有することは明らかである。
【0073】
摩耗試験
SAE J2430実物大動力計試験では、試験完了後のブレーキパッドおよびディスク摩耗も評価した。ブレーキパッド試料およびディスクロータの厚さおよび重量は、試験の前後で正確に測定された。表10は、試験した各ブレーキパッド試料の摩耗の結果を示す。
【0074】
【0075】
参照パッドと比較して、複合体含有ブレーキパッドは、機内(インボード)パッドおよび機外(アウトボード)パッドの両パッドにおいて、厚さ減少では同様のパッド摩耗を示すが、重量損失がはるかに少なく、ディスクロータにおいては摩耗が少ない。