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特許7043408耐摩耗性繊維スリーブ、そのための改良されたマルチフィラメントヤーン、およびその構成方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】耐摩耗性繊維スリーブ、そのための改良されたマルチフィラメントヤーン、およびその構成方法
(51)【国際特許分類】
   D03D 1/00 20060101AFI20220322BHJP
   D03D 15/587 20210101ALI20220322BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20220322BHJP
   D04B 1/22 20060101ALI20220322BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
D03D1/00 Z
D03D15/587
D03D15/47
D04B1/22
D02G3/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018537836
(86)(22)【出願日】2017-01-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-07
(86)【国際出願番号】 US2017014041
(87)【国際公開番号】W WO2017127488
(87)【国際公開日】2017-07-27
【審査請求日】2019-12-10
(31)【優先権主張番号】15/409,150
(32)【優先日】2017-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/280,923
(32)【優先日】2016-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503170721
【氏名又は名称】フェデラル-モーグル・パワートレイン・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL-MOGUL POWERTRAIN LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コスロシャヒ,アリ
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,ティアンキ
(72)【発明者】
【氏名】クラウザー,リー
(72)【発明者】
【氏名】リー,イー
(72)【発明者】
【氏名】メブバニ,リテーシュ
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】特許第5790652(JP,B2)
【文献】国際公開第2014/158694(WO,A1)
【文献】特開2016-091689(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102007023062(DE,A1)
【文献】米国特許第06003565(US,A)
【文献】特表2007-514068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
D04B1/00-1/28
21/00-21/20
D04C1/00-7/00
D04G1/00-5/00
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
F16L11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長部材を経路付けするとともに摩耗から保護するための繊維スリーブであって、
互いに絡み合わせた複数のヤーンを有する可撓性壁を備え、
前記複数のヤーンのうちの少なくともいくつかは、改良されたマルチフィラメントヤーンであり、
前記改良されたマルチフィラメントヤーンの各々は、非低融点フィラメントおよびヒートセットフィラメントと組み合わされた低融点フィラメントを含み、
前記低融点フィラメントは第1の融解温度を有し、
前記非低融点フィラメントは第2の融解温度を有し、
前記第2の融解温度は前記第1の融解温度よりも大きく、
前記低融点フィラメントと前記非低融点フィラメントと前記ヒートセットフィラメントとの間の相対摺動運動を防止するように、前記低融点フィラメントが前記非低融点フィラメントおよび前記ヒートセットフィラメントと接着されており、
前記壁は、対向端部の間で中心軸に略平行に延在する対向端縁を有し、
前記ヒートセットフィラメントは、前記対向端縁を互いに重なり合う関係となるように付勢している、繊維スリーブ。
【請求項2】
前記改良されたマルチフィラメントヤーンの各々における前記低融点フィラメントおよび前記非低融点フィラメントは、互いに撚り合わせられている、請求項1に記載の繊維スリーブ。
【請求項3】
前記改良されたマルチフィラメントヤーンの各々における前記低融点フィラメントおよび前記非低融点フィラメントは、互いに略平行に延在するように一緒に組み合わせられている、請求項1に記載の繊維スリーブ。
【請求項4】
前記改良されたマルチフィラメントヤーンの各々における前記低融点フィラメントおよび前記非低融点フィラメントは、互いに編み合わせられている、請求項1に記載の繊維スリーブ。
【請求項5】
前記改良されたマルチフィラメントヤーンの各々における前記低融点フィラメントおよび前記非低融点フィラメントは、互いに編組されている、請求項1に記載の繊維スリーブ。
【請求項6】
前記改良されたマルチフィラメントヤーンの各々における前記低融点フィラメントのうちの少なくともいくつかおよび前記非低融点フィラメントのうちの少なくともいくつかは、互いに撚り合わせられ、補強されている、請求項1に記載の繊維スリーブ。
【請求項7】
細長部材を経路付けするとともに摩耗から保護するための繊維スリーブの構成方法であって、
複数のヤーンを互いに絡み合わせるステップを含み、前記複数のヤーンのうちの少なくともいくつかは、低融点フィラメントと非低融点フィラメントとを含む改良されたマルチフィラメントヤーンであり、前記低融点フィラメントは第1の融解温度を有し、前記非低融点フィラメントは第2の融解温度を有し、前記第2の融解温度は前記第1の融解温度よりも大きく、前記方法はさらに、
前記低融点フィラメントと前記非低融点フィラメントとの間の相対摺動運動を防止するように、熱処理によって前記低融点フィラメントを前記非低融点フィラメントと接着するステップを含み、前記方法は、
対向端部の間で中心軸に略平行に延在する対向端縁を有する壁を形成するステップをさらに含み、前記対向端縁は、中心空洞を境界付けするように、互いに重なり合う関係となるように構成され、前記方法は、
前記対向端縁を互いに重なり合う関係となるように付勢するように、前記壁における前記改良されたマルチフィラメントヤーンにおけるフィラメントをヒートセットし、少なくとも1つのヒートセット可能なフィラメントを前記低融点フィラメントおよび前記非低融点フィラメントと結合するステップとをさらに含む、方法。
【請求項8】
前記改良されたマルチフィラメントヤーンの各々における前記低融点フィラメントと前記非低融点フィラメントとを、互いに撚り合わせられたものとして設けるステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記改良されたマルチフィラメントヤーンの各々における前記低融点フィラメントと前記非低融点フィラメントとを、互いに略平行な関係となるように一緒に組み合わせられたものとして設けるステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記改良されたマルチフィラメントヤーンの各々における前記低融点フィラメントと前記非低融点フィラメントとを、互いに編み合わせられたものとして設けるステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記改良されたマルチフィラメントヤーンの各々における前記低融点フィラメントと前記非低融点フィラメントとを、互いに編組されたものとして設けるステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記改良されたマルチフィラメントヤーンの各々における前記低融点フィラメントのうちの少なくともいくつかおよび前記非低融点フィラメントのうちの少なくともいくつかを、互いに撚り合わせられ、補強されたものとして設けるステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2016年1月20日に出願された米国仮出願第62/280,923号、および2017年1月18日に出願された米国実用出願第15/409,150号に基づく利益を主張し、これらの出願の内容全体を本明細書に引用により援用する。
【0002】
発明の背景
1.技術分野
本発明は、概して、細長部材を保護するための繊維スリーブに関し、より特定的には、耐摩耗性かつ可撓性の繊維スリーブ、およびその構成方法に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術
細長部材を保護用スリーブで覆うことによって、その内部に収容された細長部材に摩耗および汚れからの保護を提供することが知られている。公知のスリーブは、そのような摩耗および汚れからの保護を細長部材に提供するには効果的であり得るが、不都合なことに、摩耗および汚れの両方からの所望の保護を提供するためにより多くの量のヤーン材が必要であることから、典型的には比較的高い生地密度を有する。そのため、スリーブのコスト、大きさ、剛性、および重量が増すことになる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の概要
本発明の一局面は、内部に収容された細長部材を経路付けするとともに摩耗から保護するための、耐摩耗性かつ可撓性の繊維スリーブを提供する。スリーブは、対向端部間で長手方向軸に沿って長さ方向に延在する壁を有する。壁は、細長部材を内部に収容して保護する空洞を境界付けするように構成されている。壁は、少なくとも部分的に、改良されたマルチフィラメントヤーンで構成される。改良されたマルチフィラメントヤーンは、スリーブ壁の耐摩耗性を高める一方、提供される耐摩耗性の高さの割には壁の生地密度を比較的低いままとすることを可能にする。これにより、コストを削減し、スリーブの重量および外殻を低減させつつ、スリーブの可撓性を高めることもできる。改良されたマルチフィラメントヤーンは、複数の繊維および/またはフィラメントを含んでおり、以下ではそれらを便宜上フィラメントと称する(両者は長さによって区別可能であり、フィラメントは繊維よりも遥かに長い。また、フィラメントは、遥かに短い繊維とは対照的に、連続的で途切れない部材としてヤーンの全長にわたって延在し得る)。上記フィラメントのうちの少なくともいくつかは「低融点」フィラメントとして設けられ、上記フィラメントのうちの少なくともいくつかは「標準」フィラメント、「非低融点」フィラメントとして設けられる。「低融点」に関して、当業者ならば、低融点繊維が標準融解温度繊維よりも低い温度で少なくとも部分的に融解することを認識するであろう(標準フィラメントが融解可能な場合)。したがって、スリーブの製造時、スリーブの絡み合わせた繊維壁を形成した後、予め定められた熱処理を壁に施す。その結果、低融点フィラメントは少なくとも部分的に融解するが、標準融解温度フィラメントは全体または大部分が融解しないままである。少なくとも部分的に融解した低融点フィラメントは、マルチフィラメントヤーンのすべてのフィラメント(標準、非低融解温度フィラメントを含む)を互いに接着する接着剤として機能する。したがって、個々のフィラメントが互いに対して摺動するような関係で動くことが防止または抑制され、ひいてはマルチフィラメントヤーンの個々のフィラメント間の摩耗が低減される。これにより、スリーブ壁の摩耗による消耗への耐性が向上する。しかしながら、融解したフィラメントは互いに接着されるが、フィラメントおよびそれによって形成された壁は、依然として高い可撓性を有する。したがって、結果としてもたらされるスリーブを蛇行経路および角の周りに経路付けることが可能である。このように、スリーブ壁が使用中に大幅には摩耗しないため、その内部に収容された細長部材を摩耗および汚れの外因から最適に保護することができる。
【0005】
本発明の別の局面によれば、繊維スリーブは、織りスリーブ、編みスリーブ、または編組スリーブとして構成され得る。
【0006】
本発明の別の局面によれば、繊維スリーブは、周方向に閉じた管状の、継ぎ目のない壁を有して構成され得る。
【0007】
本発明の別の局面によれば、繊維スリーブは、周方向に開いた壁を有して構成され得る。壁は対向端部間で長さ方向に延在する対向端縁を有し、対向端縁は互いに重なり合う関係となるように構成され得る。
【0008】
本発明の別の局面によれば、対向端縁は、周方向に延在するヒートセットされたヤーンによって、互いに重なり合う関係となるように付勢され得る。
【0009】
本発明の別の局面によれば、改良されたマルチフィラメントヤーンにおける低融点フィラメントの含有量は約1%~90%である。
【0010】
本発明の別の局面によれば、改良されたマルチフィラメントヤーンは、1つの、または複数合わさったヤーンとして、約150デニール~20000デニールを有し得る。
【0011】
本発明の別の局面によれば、改良されたマルチフィラメントヤーンは、少なくとも1つまたは複数のヒートセット可能なフィラメントを含み得る。
【0012】
本発明の別の局面によれば、改良されたマルチフィラメントヤーンは、複数の低融点フィラメントと複数の標準融解フィラメントとを含み得る。個々のフィラメントは、互いに略平行に延在するように一緒に組み合わせられ得る。
【0013】
本発明の別の局面によれば、改良されたマルチフィラメントヤーンは、互いに撚り合わせられた少なくとも1つの低融点フィラメントと少なくとも1つの標準融解フィラメントとを含み得る。
【0014】
本発明の別の局面によれば、改良されたマルチフィラメントヤーンは、互いに編組された複数の低融点フィラメントと複数の標準融解フィラメントとを含み得る。
【0015】
本発明の別の局面によれば、改良されたマルチフィラメントヤーンは、互いにエア加工された複数の低融点フィラメントと複数の標準融解フィラメントとを含み得る。
【0016】
本発明の別の局面によれば、改良されたマルチフィラメントヤーンは、互いに撚り合わせられてテクスチャライズされた複数の低融点フィラメントと複数の標準融解フィラメントとを含み得る。
【0017】
本発明の別の局面によれば、内部に収容された細長部材を経路付けするとともに摩耗および汚れから保護するための耐摩耗性繊維スリーブの構成方法が提供される。この方法は、本発明の一局面に従って形成された改良されたマルチフィラメントヤーンを少なくとも部分的に用いて、対向端部間で長手方向軸に沿って長さ方向に延在する繊維壁を形成することを含む。改良されたマルチフィラメントヤーンは複数のフィラメントを含むものとして設けられ、上記複数のフィラメントのうちの少なくともいくつかは「低融点」フィラメントとして設けられ、上記複数のフィラメントのうちの少なくともいくつかは「標準」融解温度フィラメントとして設けられる(融解可能な場合)。上記方法は、スリーブの繊維壁を形成した後、低融点フィラメントは少なくとも部分的に融解するが、標準融解温度フィラメントの融解は回避または実質的に回避されるように、スリーブを熱処理することを含む。これにより、少なくとも部分的に融解した低融点フィラメントによって、改良されたマルチフィラメントヤーンにおけるすべてのフィラメントが互いに接着される。
【0018】
本発明の別の局面によれば、スリーブの構成方法は、スリーブの壁を織ること、編むこと、または編組することを含む。
【0019】
本発明の別の局面によれば、スリーブの構成方法は、上記壁を、周方向に連続的で閉じた管状の、継ぎ目のない壁として形成することを含み得る。
【0020】
本発明の別の局面によれば、スリーブの構成方法は、上記壁を、対向端部間で長さ方向に延在する対向端縁を有するとともに周方向に開いた壁として形成することを含み得る。対向端縁は、互いに重なり合う関係となるように構成され得る。
【0021】
本発明の別の局面によれば、スリーブの構成方法は、低融点フィラメントを融解するために用いられる熱処理の際に、周方向に延在するヤーンをヒートセットすることによって、対向端縁を互いに重なり合う関係となるように付勢することを含み得る。
【0022】
本発明の別の局面によれば、スリーブの構成方法は、改良されたマルチフィラメントヤーンに含有される少なくとも1つまたは複数のヒートセット可能なヤーンをヒートセットすることを含み得る。
【0023】
本発明の別の局面によれば、スリーブの構成方法は、1つの、または複数合わさったヤーンとして、約150デニール~20000デニールを有する改良されたマルチフィラメントヤーンを設けることを含み得る。
【0024】
本発明の別の局面によれば、スリーブの構成方法は、複数の低融点フィラメントと複数の標準融解フィラメントとを含む改良されたマルチフィラメントヤーンを設けることを含み得る。個々のフィラメントは、互いに略平行に延在するように一緒にくしをかけられ得る。
【0025】
本発明の別の局面によれば、スリーブの構成方法は、互いに撚り合わせられた少なくとも1つの低融点フィラメントと少なくとも1つの標準融解フィラメントとを含む改良されたマルチフィラメントヤーンを設けることを含み得る。
【0026】
本発明の別の局面によれば、スリーブの構成方法は、互いに編組された複数の低融点フィラメントと複数の標準融解フィラメントとを含む改良されたマルチフィラメントヤーンを設けることを含み得る。
【0027】
本発明の別の局面によれば、スリーブの構成方法は、互いにエア加工されて交絡された複数の低融点フィラメントと複数の標準融解フィラメントとを含む改良されたマルチフィラメントヤーンを設けることを含み得る。
【0028】
本発明の別の局面によれば、スリーブの構成方法は、互いに撚り合わせられてテクスチャライズされた複数の低融点フィラメントと複数の標準融解フィラメントとを含む改良されたマルチフィラメントヤーンを設けることを含み得る。
【0029】
本発明の別の局面によれば、改良されたマルチフィラメントヤーンの構成方法が提供される。この方法は、複数のフィラメントでマルチフィラメントヤーンを形成することを含む。上記複数のフィラメントのうちの少なくともいくつかは「低融点」フィラメントとして設けられ、上記複数のフィラメントのうちの少なくともいくつかは「標準」融解温度フィラメントとして設けられる(融解可能な場合)。低融点フィラメントは、第1の温度で少なくとも部分的に融解するものとして設けられ、標準融解温度フィラメントは、融解可能な場合には第2の融解温度で少なくとも部分的に融解するものとして設けられる。第1の温度は第2の温度よりも低い。
【0030】
本発明の別の局面によれば、改良されたマルチフィラメントヤーンの構成方法は、低融点フィラメントの含有量を約1wt%~90wt%とすることを含む。
【0031】
本発明の別の局面によれば、改良されたマルチフィラメントヤーンの構成方法は、1つの、または複数合わさったヤーンとして、約150デニール~20000デニールの改良されたマルチフィラメントを形成することを含む。
【0032】
本発明の別の局面によれば、改良されたマルチフィラメントヤーンの構成方法は、全体または大部分が標準融解温度フィラメントで構成された既存のマルチフィラメントを、全体または大部分が低融解温度フィラメントで構成された既存のマルチフィラメントと結合することを含む。
【0033】
本発明の別の局面によれば、標準融解温度フィラメントである既存のマルチフィラメントを、低融解温度フィラメントである既存のマルチフィラメントと結合する方法は、交絡、撚り合わせ、テクスチャライズ、補強、ケーブル撚り、または同様の処理を含み得る。
【0034】
本発明の別の局面によれば、改良されたマルチフィラメントヤーンの構成方法は、少なくとも1つのヒートセット可能なフィラメントを、低融点フィラメントおよび標準融解フィラメントと結合することを含み得る。
【0035】
本発明のこれらのならびに他の局面、特徴、および利点は、以下の現在好ましい実施形態および最良の形態の詳細な説明、添付された請求項、ならびに添付図面を考慮すると、容易に当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1A】本発明の局面に従って構成された繊維スリーブを、その内部に細長部材を収容して保護した状態で示す概略斜視図である。
図1B】本発明の局面に従って構成された繊維スリーブを、その内部に細長部材を収容して保護した状態で示す概略斜視図である。
図1C】本発明の局面に従って構成された繊維スリーブを、その内部に細長部材を収容して保護した状態で示す概略斜視図である。
図2A】本発明の他の局面に従って構成された繊維スリーブを、その内部に細長部材を収容して保護した状態で示す概略斜視図である。
図2B】本発明の他の局面に従って構成された繊維スリーブを、その内部に細長部材を収容して保護した状態で示す概略斜視図である。
図2C】本発明の他の局面に従って構成された繊維スリーブを、その内部に細長部材を収容して保護した状態で示す概略斜視図である。
図3A図1A図1Cおよび図2A図2Cのスリーブを構成するために少なくとも部分的に用いられる、改良されたマルチフィラメントヤーンの拡大部分概略図である。
図3B図1A図1Cおよび図2A図2Cのスリーブを構成するために少なくとも部分的に用いられる、改良されたマルチフィラメントヤーンの拡大部分概略図である。
図3C図1A図1Cおよび図2A図2Cのスリーブを構成するために少なくとも部分的に用いられる、改良されたマルチフィラメントヤーンの拡大部分概略図である。
図3D図1A図1Cおよび図2A図2Cのスリーブを構成するために少なくとも部分的に用いられる、改良されたマルチフィラメントヤーンの拡大部分概略図である。
図3E図1A図1Cおよび図2A図2Cのスリーブを構成するために少なくとも部分的に用いられる、改良されたマルチフィラメントヤーンの拡大部分概略図である。
図3F図1A図1Cおよび図2A図2Cのスリーブを構成するために少なくとも部分的に用いられる、改良されたマルチフィラメントヤーンの拡大部分概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
好ましい実施形態の詳細な説明
図面をより詳細に参照すると、図1A図1Cは、本発明のさまざまな局面に従って構成された繊維スリーブ(以下、スリーブ10と称する)を概略的に示したものである。図示のスリーブ10は、巻付可能な細長壁12を有する。この巻付可能な細長壁12は、細長部材14(例えば、ワイヤ、ワイヤハーネス、または管など)を経路付けし、摩耗ならびに汚れおよびごみなどの侵入に晒されることから細長部材14を保護するためのものである。細長壁12は、対向端部15、17間で長手方向中心軸20に沿って長さ方向に延在する対向端縁16、18を有する。端縁16、18は、細長部材14がスリーブ10の中心空洞22内に完全に包囲されるように、「タバコ巻き(cigarette wrapped)」の態様で互いに重なり合う関係となるように構成されている。空洞22は、中心軸20の全長に沿って容易にアクセス可能である。そのため、細長部材14を容易に空洞22内に径方向に入れることができるとともに、逆に使用の際などには、細長部材14を空洞22から容易に取除くことができる。必要に応じて、対向端縁16、18は、ヒートセットされ周方向に延在するヤーンによって、互いに重なり合う関係となるように付勢されてもよい。摩耗および汚れからの保護を細長部材14に提供するとともに壁12の耐摩耗性能を高めるために、壁12は少なくとも部分的に、織り処理(図1A)、編組処理(図1B)、または編み処理(図1C)のうちの1つにより、改良されたマルチフィラメントヤーン24を用いて構成される。(図3A図3Fはさまざまなタイプを示しており、それらの外観は、ヤーン24の形成に用いられる手法(例えば、交絡、撚り合わせ、テクスチャライズ、補強、ケーブル撚り、または同様の処理)に応じて異なり得ることを理解すべきである。)
適用例での必要に応じて、壁12は任意の好適なサイズ(長さ、幅、および直径を含む)を有して構成され得る。壁12がヒートセットされて自己巻付き型の管状構成を成す場合(一般的には外部からの力は加えられない)、端縁16、18は、好ましくは少なくともわずかに互いに重なり合って空洞22を完全に包囲することにより、空洞22内に収容された細長部材14の保護を高める。長さ方向の端縁16、18は、ヒートセットされたヤーン(例えば、ポリフェニレンスルファイド(PPS)またはポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリマー材料モノフィラメントであるヒートセット可能なモノフィラメント30)によって与えられる付勢に打ち勝つのに十分な力が外部から加えられると、互いから離れる方向に容易に展開され、空洞22を少なくとも部分的に開放および露出させる。したがって、組付けの際に細長部材14を容易に空洞22内に入れることができ、または、使用の際に細長部材14を容易に空洞22から取除くことができる。外部から加えられた力が解除されると、ヒートセットされたフィルモノフィラメントヤーン30によって与えられた付勢の下で、端縁16、18は自動的に、重なり合う自己巻付きの位置に戻る。
【0038】
改良されたマルチフィラメントヤーン24は複数のフィラメントを含む。上記複数のフィラメントのうちの少なくともいくつかは「低融点」フィラメント26として設けられ、上記複数のフィラメントのうちの少なくともいくつかは「標準」融解温度フィラメント28として設けられる。「低融点」に関して、標準融解温度フィラメント28が約260℃~280℃(一例であってこれに限定されない)で融解するのに対して(標準融解温度フィラメント28が融解可能な場合)、低融点フィラメント26は、より低い温度である約100℃~200℃(一例であってこれに限定されない)で少なくとも部分的に融解するということを、当業者ならば認識するであろう。このように、スリーブ10の繊維壁12が形成されると、低融点フィラメント26を少なくとも部分的に融解させるには十分な温度、かつ、標準フィラメント28の融解を回避するのに十分に低い温度で、スリーブ10が熱処理され得る。その結果、少なくとも部分的に融解した低融点フィラメント26は、改良されたマルチフィラメント24のすべてのフィラメント(標準融解温度フィラメント28を含む)を互いに接着する接着剤として機能する。したがって、個々のフィラメント26、28が互いに対して動くことが防止または抑制され、ひいては改良されたマルチフィラメント24の個々のフィラメント26、28間の摩擦および摩耗が低減される。これにより、スリーブ壁12の耐摩耗性が向上するとともに、個々のフィラメント26、28が外部からの研磨の原因によって分離および貫通されることが防止され、または他の方法で損傷することが防止される。さらに、標準フィラメント28が融解しない状態のままであるため、それらは十分な靭性および機能性を維持する。これにより、所望の保護を提供するために必要なヤーン材の量を最小限に抑え、ひいてはスリーブ10の大きさ、重量、および外殻を最小限に抑えつつ、壁12の保護遮蔽被覆率および耐摩耗性をさらに高めることができる。低融点フィラメント26および標準フィラメント28の種類のうちのいくつかの非限定的な例としては、それぞれ、低融点/ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)/PET、低融点/ノーメックス(Nomex、登録商標)、PP/ノーメックス、PET/ノーメックス、低融点/繊維ガラス、PP/繊維ガラス、ポリエチレン(PE)/繊維ガラスが挙げれられるが、これらに限定されない。低融点材料は、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのホモポリマー、またはコポリエステル、コポリアミドなどのコポリマーを含む如何なる所望の低融点ポリマー材料であってもよく、マルチフィラメントヤーン、または1成分含有マルチフィラメントヤーン、または2成分含有マルチフィラメントヤーンの形態であり得る。いくつかの他の標準フィラメント28は、熱硬化性繊維、鉱物繊維、または金属ヤーン、およびアクリル繊維、綿繊維、レーヨン繊維、ならびに、これらすべての繊維材料の難燃性(FR:fire retardant)タイプのものを例として含み得るが、それらに限定されない。なお、必要に応じて熱処理を行なうことによって、周方向に延在するヒートセット可能なヤーンであるモノフィラメント30をヒートセットしてもよい。それにより、1回の熱処理、ヒートセット処理で複数の機能を果たすことができる。
【0039】
例示的なスリーブの一実施形態では、改良されたマルチフィラメントヤーン24は、図1の巻付可能なスリーブ10における、約1250デニールの縦糸ヤーンとして設けられた。改良されたマルチフィラメントヤーン24は、約150デニールの低融点マルチフィラメントのフィラメント26と、約1100デニールの標準マルチフィラメントのフィラメント28とを組み合わせることによって形成された。2つのマルチフィラメントヤーン26、28を組み合わせた結果出来上がった改良されたマルチフィラメントヤーン24では、異なる材料である2つの異なるマルチフィラメントヤーン26、28の断面含有量が実質的に均一かつ一様である。スリーブ10はさらに、縦糸密度が約20エンド/インチ~30エンド/インチであり、横糸密度が直径約0.22mmのPETであるモノフィラメント30で約15ピック/インチ~25ピック/インチであるように構成されたが、一例であってこれに限定されない。壁12が形成されると、対向端縁16、18が互いに重なり合う関係となるように壁12が巻付けられ、好適な温度で1回の加熱処理で熱処理された。その結果、横糸モノフィラメント30がヒートセットされることにより、壁12が巻付いた形状に維持されるとともに、改良されたマルチフィラメント24内の低融点繊維26が融解することにより、改良されたマルチフィラメントヤーン24のすべてのフィラメント26、28同士が融解材料を介して接着された。壁を形成するために用いられる織りは、平織りパターンなどの如何なる所望の織りパターンであってもよい。しかしながら、本明細書では、例えばあや織り、バスケット織り、サテン、または綿繻子などの他の織りパターンも企図される。
【0040】
図2A図2Cでは、本発明の他の局面に従って構成された繊維スリーブ10′が示される。スリーブ10に関して上記で使用したのと同じ参照番号にプライム記号(′)を付して差別化した参照番号を使用して、同様の特徴を表わす。スリーブ10′はスリーブ10と類似している。しかしながら、開いた壁を有するのではなく、スリーブ10′の壁12′は周方向に連続的で継ぎ目がない。スリーブ10′の壁12′は、対向端部15′、17′間で延在する中心空洞22′を境界付けする「閉じた」壁と称されることもある。スリーブ10′は、スリーブ10に関して上述したのと同じ種類の構成、すなわち、織り(図2A)、編組(図2B)、編み(図2C)によって構成されてもよい。また、スリーブ10′は、改良されたマルチフィラメント24、およびオプションとして上述したような他のヤーン(例えば、標準融解温度マルチフィラメント、および/または、所望の任意の種類の材料のモノフィラメント)を含んで構成されてもよい。なお、本発明に従って構成される如何なるスリーブも、改良されたマルチフィラメントヤーン24で全体が構成されてもよいし、または、改良されたマルチフィラメントヤーン24と他の種類のヤーン(上述の標準融解温度マルチフィラメントおよびヒートセット可能なモノフィラメント30を含む)との組み合わせで構成されてもよい。さらに、改良されたマルチフィラメントヤーン24は、編組スリーブ構成の縦糸方向および横糸方向のうちのいずれかまたは両方、ならびに、必要に応じてS方向およびZ方向のうちの一方または両方に使用されてもよいことを理解すべきである。
【0041】
本発明の別の局面によれば、改良されたマルチフィラメントヤーン24の構成方法が提供される。この方法は、複数のフィラメントを有する改良されたマルチフィラメントヤーン24を形成することを含む。上記複数のフィラメントのうちの少なくともいくつかは「低融点」フィラメント26として設けられ、上記複数のフィラメントのうちの少なくともいくつかは、「標準」融解温度フィラメント28として設けられる。ただし、これは「標準」融解温度フィラメント28が融解可能な場合である。つまり、それらは、例えば鉱物タイプのヤーンの場合などのように本質的に融解不能な場合もある。なお、異なる種類のフィラメント26、28を別々に形成し、その後、例えば、本明細書で開示するさまざまな手法(例えば、図3A図3Eに示す手法)のうちの1つによって互いに結合することによって、改良されたマルチフィラメントヤーン24を形成してもよい。低融点フィラメント26は第1の融解温度を有するものとして設けられ、標準融解温度フィラメント28は第2の融解温度を有するものとして設けられる。第1の融解温度は、例えば約10℃~1000℃だけ第2の融解温度よりも低い。これにより、改良されたマルチフィラメントヤーン24がおよそ第1の融解温度である温度の熱源に晒されると、低融点フィラメント26は少なくとも部分的に融解するが、第2のフィラメント28は融解しないままである。改良されたマルチフィラメントヤーン24のうちの低融点フィラメント含有量は、約1wt%~90wt%である。改良されたマルチフィラメントヤーン24は、1つの、または複数合わさったヤーンとして、約150デニール~20000デニールを有するように形成される。改良されたマルチフィラメントヤーン24を構成する方法は、全体または大部分が標準融解温度フィラメント28からなる既存のモノフィラメントおよび/またはマルチフィラメントを、全体または大部分が低融解温度フィラメント26からなる既存のモノフィラメントまたはマルチフィラメントと結合することを含む。低融点マルチフィラメントを高融点マルチフィラメントと結合することによって改良されたマルチフィラメントヤーン24を形成するための結合処理は、以下を含み得る(改良されたマルチフィラメントヤーンの異なる実施形態は、共通の参照番号24に、異なる実施形態を表わすためのプライム記号(′、′′、′′′、′′′′)がそれぞれ付されたものによって識別される。ただし、上述のスリーブ10、10′を形成するためにいずれの実施形態を用いてもよい)。すなわち、交絡/テクスチャライズ(図3A図3C)、編組(図3D)、撚り合わせ(図3E)、補強/ケーブル撚り(図3F)、または同様の処理が例として含まれるが、これらに限定されない。
【0042】
上述の教示に鑑みて、本発明の多くの変更および変形が可能である。したがって、本発明は具体的に説明されたこと以外の態様で実践され得ること、および、本発明の範囲は許可可能な請求項によって規定されることが理解されるべきである。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F