(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】カチオン性脂質としての化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 217/28 20060101AFI20220322BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20220322BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20220322BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20220322BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220322BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220322BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220322BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220322BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220322BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
C07C217/28 CSP
A61K47/18 ZNA
A61K9/51
A61K9/127
A61K31/7088
A61K31/713
A61P43/00 105
A61P1/16
A61P11/00
A61P13/12
(21)【出願番号】P 2018542621
(86)(22)【出願日】2017-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2017034878
(87)【国際公開番号】W WO2018062233
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2016188681
(32)【優先日】2016-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001029
【氏名又は名称】協和キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】細江 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】藪内 隼人
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/108397(WO,A1)
【文献】特表2013-533223(JP,A)
【文献】特表2013-531634(JP,A)
【文献】特開平09-255638(JP,A)
【文献】ANTIPINA, Maria N. et al.,Investigation of the protonation state of novel cationic lipids designed for gene transfection,The Journal of Physical Chemistry B,2007年,111(49),pp.13845-13850
【文献】KIM, Ju Hee et al.,A new dioleate compound from Callistemon lanceolatus,Bulletin of the Korean Chemical Society,2012年,33(1),pp.344-346
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
[式中、R
1およびR
2は同一または異なって、水素原子またはC1-C3アルキルであり、
A
1およびA
2は同一または異なって、直鎖
状のC8-C20アルキレンもしくはC8-C20アルケニレンであり、
M
1およびM
2は同一または異なって、-C=C-、-OC(O)-、-C(O)O-
、および-OC(O)O-からなる群から選ばれ
、 B
1およびB
2は同一または異なって、直鎖
状のC1-C16アルキルもしくはC2-C16アルケニルである]で表わされる化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
【請求項2】
R
1およびR
2は同一または異なって、水素原子またはメチルである、請求項1に記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
【請求項3】
A
1およびA
2は同一または異なって、直鎖
状のC8-C12アルキレンもしくはC10-C14アルケニレンである、請求項1または2に記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
【請求項4】
M
1およびM
2は同一または異なって、-C=C-、-OC(O)-および-C(O)O-からなる群から選ばれる、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
【請求項5】
B
1およびB
2は同一または異なって、直鎖
状のC2-C9アルキルもしくはC3-C9アルケニルである、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
【請求項6】
B
1-M
1-A
1およびB
2-M
2-A
2は同一または異なって、(Z)-テトラデカ-9-エニル、(Z)-ヘキサデカ-9-エニル、(Z)-オクタデカ-9-エニル、(E)-オクタデカ-9-エニル、(Z)-オクタデカ-11-エニル、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニル、(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエニル、(Z)-イコサ-11-エニル、(11Z,14Z)-イコサ-11,14-ジエニルおよび(Z)-ドコサ-13-エニルからなる群から選ばれる、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
【請求項7】
B
1-M
1-A
1およびB
2-M
2-A
2は同一または異なって、(Z)-ヘキサデカ-9-エニル、(Z)-オクタデカ-9-エニル、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニルおよび(11Z,14Z)-イコサ-11,14-ジエニルからなる群から選ばれる、請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
【請求項8】
B
1-M
1-A
1およびB
2-M
2-A
2は同一または異なって、下記構造
【化2】
[式中、nは1~4の整数である]からなる群から選ばれる、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
【請求項9】
B
1-M
1-A
1およびB
2-M
2-A
2は同一である、請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩、および核酸を含有する、組成物。
【請求項11】
核酸が、RNA干渉(RNAi)を利用した標的遺伝子の発現抑制作用を有する核酸である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
標的遺伝子が、腫瘍に関連する遺伝子である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
標的遺伝子が、肝臓、肺、腎臓または脾臓において発現する遺伝子である、請求項11または12に記載の組成物。
【請求項14】
請求項10~13のいずれか1項に記載の組成物を含有する、医薬。
【請求項15】
請求項13に記載の組成物を含有する、肝臓、肺、腎臓または脾臓に関連する疾患の治療剤。
【請求項16】
請求項10~13のいずれか1項に記載の組成物を用いて、核酸を細胞内に導入する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン性脂質としての新規化合物および該新規化合物を含有する組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン性脂質は、一つまたは複数の炭化水素基を含む脂質親和性領域と、少なくとも一つのプラスに帯電した極性ヘッドグループを含む親水性領域を有する両親媒性分子である。カチオン性脂質と核酸等の巨大分子が、総荷電としてプラスに帯電する複合体を形成することにより、核酸等の巨大分子が細胞の原形質膜を通過して細胞質に入りやすくなるため、カチオン性脂質は有用である。インビトロおよびインビボにおいて行うことのできるこのプロセスは、トランスフェクションとして知られている。
【0003】
特許文献1~4は、インビボにて核酸を細胞内に送達するために、および疾患の治療に好適な核酸-脂質粒子組成物に使用するために有用であるカチオン性脂質および該カチオン性脂質を含む脂質粒子を開示している。
特許文献1には、例えば、
【化1】
2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソラン(2,2-dilinoleyl-4-(2-dimethylaminoethyl)-[1,3]-dioxolane; DLin-KC2-DMA)等、特許文献2には、例えば、
【化2】
(6Z,9Z,28Z,31Z)-ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル 4-(ジメチルアミノ)ブタノアート((6Z,9Z,28Z,31Z)-heptatriaconta-6,9,28,31-tetraen-19-yl 4-(dimethylamino)butanoate; DLin-MC3-DMA)等、特許文献3には、例えば、
【化3】
N,N-ジメチル-N-(2-((9Z, 12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニルオキシ)-1-(((9Z, 12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニルオキシ)メチル)エチル)アミン(N,N-dimethyl-N-(2-((9Z, 12Z)-octadeca-9,12-dienyloxy)-1-(((9Z,12Z)-octadeca-9,12-dienyloxy)methyl)ethyl)amine)等、特許文献4には、例えば、
【化4】
2-(ジメチル)-3-[{(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イル}オキシ]-2-([{(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イル}オキシ]メチル)プロパン-1-オール(2-(dimethylamino)-3-(((9Z,12Z)-octadeca-9,12-dien-1-yl)oxy)-2-((((9Z,12Z)-octadeca-9,12-dien-1-yl)oxy)methyl)propan-1-ol)等のカチオン性脂質が開示されている。
【0004】
また、非特許文献1には、カチオン性脂質の脂肪鎖の一部に生分解性基を入れることにより、インビボでの核酸の細胞への送達能はそのままに、肝臓での毒性を軽減できることが開示され、例えば、
【化5】
ジ[(Z)-ノナ-2-エン-1-イル] 9-{[4-(ジメチルアミノ)ブタノイル]オキシ}ヘプタデカンジオアート(Di[(Z)-non-2-en-1-yl] 9-{[4-(dimethylamino)butanoyl]oxy} heptadecanedioate)等のカチオン性脂質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2010/042877号
【文献】国際公開第2010/054401号
【文献】国際公開第2009/129385号
【文献】国際公開第2011/149733号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Molecular Therapy [モレキュラー・セラピー], 2013年, 第21巻, p.1570-1578.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、例えば、細胞内等に核酸を導入することを容易にするカチオン性脂質としての新規化合物および該新規化合物を含有する組成物等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の(1)~(29)に関する。
(1) 式(I)
【化6】
[式中、R
1およびR
2は同一または異なって、水素原子またはC1-C3アルキルであり、
A
1およびA
2は同一または異なって、直鎖状または分岐状のC8-C20アルキレンもしくはC8-C20アルケニレンであり、
M
1およびM
2は同一または異なって、-C=C-、-OC(O)-、-C(O)O-、-SC(O)-、-C(O)S-、-OC(S)-、-C(S)O-、-SS-、-C(R
5)=N-、-N=C(R
5)-、-C(R
5)=N-O-、-O-N=C(R
5)-、-N(R
5)C(O)-、-C(O)N(R
5)-、-N(R
5)C(S)-、-C(S)N(R
5)-、-N(R
5)C(O)N(R
6)-、-N(R
5)C(O)O-、-OC(O)N(R
5)-および-OC(O)O-からなる群から選ばれ、
R
5およびR
6は同一または異なって、水素原子またはC1-C3アルキルであり、
B
1およびB
2は同一または異なって、直鎖状または分岐状のC1-C16アルキルもしくはC2-C16アルケニルである]で表わされる化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
(2) R
1およびR
2は同一または異なって、水素原子またはメチルである、前記(1)に記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
(3) A
1およびA
2は同一または異なって、直鎖状または分岐状のC8-C12アルキレンもしくはC10-C14アルケニレンである、前記(1)または(2)に記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
(4) M
1およびM
2は同一または異なって、-C=C-、-OC(O)-および-C(O)O-からなる群から選ばれる、前記(1)~(3)のいずれかに記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
(5) B
1およびB
2は同一または異なって、直鎖状または分岐状のC2-C9アルキルもしくはC3-C9アルケニルである、前記(1)~(4)のいずれかに記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
(6) B
1-M
1-A
1およびB
2-M
2-A
2は同一または異なって、(Z)-テトラデカ-9-エニル、(Z)-ヘキサデカ-9-エニル、(Z)-オクタデカ-9-エニル、(E)-オクタデカ-9-エニル、(Z)-オクタデカ-11-エニル、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニル、(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエニル、(Z)-イコサ-11-エニル、(11Z,14Z)-イコサ-11,14-ジエニルおよび(Z)-ドコサ-13-エニルからなる群から選ばれる、前記(1)~(5)のいずれかに記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
(7) B
1-M
1-A
1およびB
2-M
2-A
2は同一または異なって、(Z)-ヘキサデカ-9-エニル、(Z)-オクタデカ-9-エニル、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニルおよび(11Z,14Z)-イコサ-11,14-ジエニルからなる群から選ばれる、前記(1)~(6)のいずれかに記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
(8) B
1-M
1-A
1およびB
2-M
2-A
2は同一または異なって、下記構造
【化7】
[式中、nは1~4の整数である]からなる群から選ばれる、前記(1)~(5)のいずれかに記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
(9) B
1-M
1-A
1およびB
2-M
2-A
2は同一である、前記(1)~(8)のいずれかに記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
(10) カチオン性脂質である、前記(1)~(9)のいずれかに記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩。
(11) 前記(1)~(10)のいずれかに記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩および核酸を含有する、組成物。
(12) 化合物、またはその製薬上許容し得る塩と核酸とが複合体を形成しているか、または中性脂質および/または高分子をさらに含有し、化合物、またはその製薬上許容し得る塩と中性脂質および/または高分子と核酸とが複合体を形成している、前記(11)に記載の組成物。
(13) 脂質膜を含有し、複合体が脂質膜により封入されている、前記(12)に記載の組成物。
(14) 核酸が、RNA干渉(RNAi)を利用した標的遺伝子の発現抑制作用を有する核酸である、前記(11)~(13)のいずれかに記載の組成物。
(15) 標的遺伝子が、腫瘍に関連する遺伝子である、(14)に記載の組成物。
(16) 標的遺伝子が、肝臓、肺、腎臓または脾臓において発現する遺伝子である、前記(14)または(15)に記載の組成物。
(17) 前記(11)~(16)のいずれかに記載の組成物を用いて、核酸を細胞内に導入する方法。
(18) 細胞が、哺乳動物の肝臓、肺、腎臓または脾臓にある細胞である、前記(17)に記載の方法。
(19) 組成物を静脈内投与して、核酸を細胞内に導入する、前記(17)または(18)に記載の方法。
(20) 前記(11)~(16)のいずれかに記載の組成物を哺乳動物に投与する工程を含む、疾患の治療方法。
(21) 組成物を静脈内投与する、前記(20)に記載の方法。
(22) 疾患が肝臓、肺、腎臓または脾臓に関連する疾患である、前記(20)または(21)に記載の方法。
(23) 前記(1)~(10)のいずれかに記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩および核酸を含有する、医薬。
(24) 前記(11)~(16)のいずれかに記載の組成物を含む、医薬。
(25) 静脈内投与用である、前記(23)または(24)に記載の医薬。
(26) 肝臓、肺、腎臓または脾臓に関連する疾患に用いるための、前記(23)~(25)のいずれかに記載の医薬。
(27) 前記(1)~(10)のいずれかに記載の化合物、またはその製薬上許容し得る塩および核酸を含有する、肝臓、肺、腎臓または脾臓に関連する疾患の治療剤。
(28) 前記(11)~(16)のいずれかに記載の組成物を含む、肝臓、肺、腎臓または脾臓に関連する疾患の治療剤。
(29) 静脈内投与用である、前記(27)または(28)に記載の治療剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、例えば、細胞内等に核酸を導入することを容易にするカチオン性脂質としての新規化合物および該新規化合物を含有する組成物等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例7、8および比較例1、2で得られた製剤(化合物2、3、AおよびBのそれぞれを用いた製剤)を、それぞれマウスにsiRNA 0.3mg/kgと0.03mg/kg相当量投与してから48時間後の血漿中Factor VIIタンパクの濃度を示す。縦軸は生理食塩水投与群を1とした場合の血漿中Factor VIIタンパクの濃度の相対値を示す。横軸は化合物番号を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の化合物は、
式(I)
【化8】
[式中、R
1およびR
2は同一または異なって、水素原子またはC1-C3アルキルであり、
A
1およびA
2は同一または異なって、直鎖状または分岐状のC8-C20アルキレンもしくはC8-C20アルケニレンであり、
M
1およびM
2は同一または異なって、-C=C-、-OC(O)-、-C(O)O-、-SC(O)-、-C(O)S-、-OC(S)-、-C(S)O-、-SS-、-C(R
5)=N-、-N=C(R
5)-、-C(R
5)=N-O-、-O-N=C(R
5)-、-N(R
5)C(O)-、-C(O)N(R
5)-、-N(R
5)C(S)-、-C(S)N(R
5)-、-N(R
5)C(O)N(R
6)-、-N(R
5)C(O)O-、-OC(O)N(R
5)-および-OC(O)O-からなる群から選ばれ、
R
5およびR
6は同一または異なって、水素原子またはC1-C3アルキルであり、
B
1およびB
2は同一または異なって、直鎖状または分岐状のC1-C16アルキルもしくはC2-C16アルケニルである]で表わされる化合物である。
式(I)で表される化合物は、二つの炭化水素基を含む脂質親和性領域と、一つのプラスに帯電し得る極性ヘッドグループを含む親水性領域を有し、カチオン性脂質としての性質を有する。
【0012】
以下、式(I)で表される化合物を化合物(I)ということもある。他の式番号の化合物についても同様である。
【0013】
C1-C3アルキルとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル等が挙げられる。
【0014】
直鎖状または分岐状のC8-C20アルキレンとしては、例えば、オクチレン、ノニレン、デシレン、ウンデシレン、トリデシレン、テトラデシレン、2,6,10-トリメチルウンデシレン、ペンタデシレン、3,7,11-トリメチルドデシレン、ヘキサデシレン、ヘプタデシレン、オクタデシレン、ノナデシレン、2,6,10,14-テトラメチルペンタデシレン、3,7,11,15-テトラメチルヘキサデシレン等が挙げられる。
直鎖状または分岐状のC8-C20アルキレンとしての記載において、2,6,10-トリメチルウンデシレンを例にして説明すると、置換基の置換位置を示す2,6,10-は、-A1-O-または-A2-O-として、酸素原子に結合するA1およびA2における炭素原子を1位とする。
【0015】
直鎖状または分岐状のC8-C20アルケニレンとしては、直鎖状または分岐状のC8-C20アルキレンにおいて1以上の二重結合を含む基であればよく、例えば、(Z)-テトラデカ-9-エニレン、(Z)-ヘキサデカ-9-エニレン、(Z)-オクタデカ-6-エニレン、(Z)-オクタデカ-9-エニレン、(E)-オクタデカ-9-エニレン、(Z)-オクタデカ-11-エニレン、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニレン、(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエニレン等が挙げられる。
直鎖状または分岐状のC8-C20アルケニレンとしての記載において、(Z)-テトラデカ-9-エニレンを例にして説明すると、二重結合の位置を示す-9-は、-A1-O-または-A2-O-として、酸素原子に結合するA1およびA2における炭素原子を1位とする。
【0016】
直鎖状または分岐状のC1-C16アルキルとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert-ブチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、3,7,11-トリメチルドデシル、ヘキサデシル等が挙げられる。
直鎖状または分岐状のC1-C16アルキルとしての記載において、3,7,11-トリメチルドデシルを例にして説明すると、置換基の置換位置を示す3,7,11-は、M1およびM2に結合するB1およびB2における炭素原子を1位とする。
【0017】
直鎖状または分岐状のC2-C16のアルケニルとしては、直鎖状または分岐状のC1-C16アルキルにおける直鎖状または分岐状のC2-C16アルキルにおいて1以上の二重結合を含む基であればよく、例えば、(Z)-ブタ-2-エン、(Z)-ペンタ-2-エン、(Z)-ヘキサ-2-エン、(Z)-ヘプタ-2-エン、(Z)-オクタ-2-エン、(Z)-ノナ-2-エン、(Z)-ノナ-3-エン、(E)-ノナ-2-エン、ノナ-8-エン、(Z)-ドデカ-2-エン、(Z)-ドデカ-2-エン、(Z)-トリデカ-2-エン等が挙げられる。
直鎖状または分岐状のC2-C16のアルケニルとしての記載において、(Z)-ブタ-2-エンを例にして説明すると、置換基の置換位置を示す-2-は、M1およびM2に結合するB1およびB2における炭素原子を1位とする。
【0018】
本発明においては、直鎖状または分岐状のC8-C20アルケニレンの二重結合にメチレンビラジカルが形式的に付加したシクロプロパン環を有する基も、C8-C20直鎖状または分岐状のアルケニレンに包含される。さらに、直鎖状または分岐状のC2-C16アルケニル、M1およびM2が-C=C-(二重結合)の場合も同様である。
(Z)-ノナ-2-エンを例にして説明すると、シクロプロパン環を有する以下の基も、本発明における直鎖または分岐状のC8-C20アルケニレンに包含される。
【0019】
【0020】
R1およびR2は同一または異なって、水素原子またはC1-C3アルキルである。
R1およびR2は同一または異なって、好ましくは水素原子、メチル、エチル、プロピルであり、より好ましくは水素原子、メチルである。
(R1,R2)の組み合わせとしては、好ましくは(水素原子,水素原子)、(水素原子,メチル)、(メチル,メチル)であり、より好ましくは(水素原子,メチル)、(メチル,メチル)である。
【0021】
A1およびA2は同一または異なって、直鎖状または分岐状のC8-C20アルキレンもしくはC8-C20アルケニレンである。
A1およびA2は同一または異なって、アルキレンである場合、好ましくは直鎖状のC8-C20アルキレンであり、より好ましくは直鎖状のC8-C12アルキレンである。
A1およびA2は同一または異なって、好ましくはオクチレン、ノニレン、ウンデシレン、トリデシレン、ペンタデシレンであり、より好ましくはオクチレン、ノニレン、ウンデシレンである。
A1およびA2は同一または異なって、アルケニレンである場合、好ましくは直鎖状のC8-C20アルケニレンであり、より好ましくは直鎖状のC10-C14アルケニレンである。
A1およびA2は同一または異なって、好ましくは(Z)-ウンデカ-9-エニレン、(Z)-トリデカ-11-エニレン、(Z)-テトラデカ-9-エニレン、(Z)-ヘキサデカ-9-エニレン、(Z)-オクタデカ-9-エニレン、(Z)-オクタデカ-11-エニレン、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニレンである。
A1およびA2は同一であることが好ましい。
【0022】
M1およびM2は同一または異なって、-C=C-、-OC(O)-、-C(O)O-、-SC(O)-、-C(O)S-、-OC(S)-、-C(S)O-、-SS-、-C(R5)=N-、-N=C(R5)-、-C(R5)=N-O-、-O-N=C(R5)-、-N(R5)C(O)-、-C(O)N(R5)-、-N(R5)C(S)-、-C(S)N(R5)-、-N(R5)C(O)N(R6)-、-N(R5)C(O)O-、-OC(O)N(R5)-および-OC(O)O-である。
M1およびM2は同一または異なって、好ましくは-C=C-、-OC(O)-、-C(O)O-、-C(O)(NR5)-、-N(R5)C(O)-、-N(R5)C(O)-、-N(R5)C(O)N(R6)-、-N(R5)C(O)O-、-OC(O)N(R5)-、-OC(O)O-であり、より好ましくは-C=C-、-OC(O)-、-C(O)O-である。
M1およびM2の各構造の結合については、-OC(O)-を例にして説明すると、B1-OC(O)-A1という構造であることを意味する。
M1およびM2は同一であることが好ましい。
【0023】
M1およびM2におけるR5およびR6は、同一または異なって、水素原子またはC1-C3アルキルである。
R5およびR6は、同一または異なって、好ましくは水素原子、メチル、エチル、プロピルであり、より好ましくは水素原子、メチルであり、さらに好ましくは水素原子である。
【0024】
B1およびB2は同一または異なって、直鎖状または分岐状のC1-C16アルキルもしくはC2-C16アルケニルである。
B1およびB2は同一または異なって、アルキルである場合、好ましくは直鎖状のC1-C16アルキルであり、より好ましくは直鎖状のC2-C9アルキルである。
B1およびB2は同一または異なって、好ましくはペンチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシルである。
B1およびB2は同一または異なって、アルケニルである場合、好ましくは直鎖状のC2-C16アルケニルであり、より好ましくは直鎖状のC3-C9アルケニルである。
B1およびB2は同一または異なって、好ましくは(Z)-ヘプタ-2-エン、(Z)-オクタ-2-エン、(Z)-ノナ-2-エン、(Z)-ノナ-3-エン、ノナ-8-エン、(Z)-ドデカ-2-エン、(Z)-トリデカ-2-エンである。
B1およびB2は同一であることが好ましい。
【0025】
B1-M1-A1およびB2-M2-A2は同一または異なって、B1およびB2、M1およびM2、A1およびA2としては、各基について説明した構造からの組み合わせであってよい。
B1-M1-A1およびB2-M2-A2は同一であることが好ましい。
B1-M1-A1およびB2-M2-A2は同一または異なって、好ましくは(Z)-テトラデカ-9-エニル、(Z)-ヘキサデカ-9-エニル、(Z)-オクタデカ-9-エニル、(E)-オクタデカ-9-エニル、(Z)-オクタデカ-11-エニル、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニル、(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエニル、(Z)-イコサ-11-エニル、(11Z,14Z)-イコサ-11,14-ジエニルおよび(Z)-ドコサ-13-エニルからなる群から選ばれ、より好ましくは(Z)-ヘキサデカ-9-エニル、(Z)-オクタデカ-9-エニル、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニルおよび(11Z,14Z)-イコサ-11,14-ジエニルからなる群から選ばれる。
【0026】
B1-M1-A1およびB2-M2-A2は同一または異なって、好ましくは以下の構造(1)~(5)であり、より好ましくは同一に以下の構造(1)~(5)であり、さらに好ましくは同一に以下の構造(1)および(4)である。
【0027】
【0028】
本発明の化合物の製造法について説明する。なお、以下に示す製造法において、定義した基が該製造法の条件下で変化するかまたは該製造法を実施するのに不適切な場合、有機合成化学で常用される保護基の導入および除去方法[例えば、プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス第3版(Protective Groups in Organic Synthesis, third edition)、グリーン(T.W.Greene)著、John Wiley&Sons Inc.(1999年)等に記載の方法]等を用いることにより、目的化合物を製造することができる。また、必要に応じて置換基導入等の反応工程の順序を変えることもできる。
【0029】
製造法1
化合物(I)のうち、R1およびR2が共に水素原子である化合物(Ia)、およびR1およびR2が同一である化合物(Ib)は以下の方法によって製造することができる。
【0030】
【0031】
(式中、A1、A2、B1、B2、M1およびM2はそれぞれ前記と同義であり、X1およびX2は同一または異なって、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロメタンスルホニルオキシ、メタンスルホニルオキシ、ベンゼンスルホニルオキシ、p-トルエンスルホニルオキシ等の脱離基を表し、R3は水素原子、メチルまたはエチルであり、R4は水素原子またはメチルであるか、またはR3とR4は隣接する炭素原子と一緒になってシクロプロピル環を形成する(ただし、R3が水素原子またはエチルであるとき、R4はメチルでない))
【0032】
工程1および工程2
化合物(IIa)は、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールと化合物(IIIa)を、無溶媒でまたは溶媒中、1~10当量の塩基の存在下、室温と200℃の間の温度で、5分間~100時間反応させることにより製造することができる。さらに、化合物(Ia)は、化合物(IIa)と化合物(IIIb)を、無溶媒でまたは溶媒中、1~10当量の塩基の存在下、室温と200℃の間の温度で、5分間~100時間反応させることにより製造することができる。
【0033】
溶媒としては、例えばジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、ピリジン等が挙げられ、これらは単独でまたは混合して用いることができる。
【0034】
塩基としては、例えばナトリウムメトキシド、カリウム tert-ブトキシド、水素化ナトリウム、リチウムジイソプロピルアミド、ヘキサメチルジシラザンリチウム、ヘキサメチルジシラザンナトリウム、n-ブチルリチウム等が挙げられる。
【0035】
化合物(IIIa)および化合物(IIIb)は、市販品としてまたは公知の方法(例えば、「第5版実験化学講座13 有機化合物の合成I」、第5版、p.374、丸善(2005年))もしくはそれに準じた方法で得ることもできる。
【0036】
B1-M1-A1およびB2-M2-A2が同一の場合の化合物(Ia)は、工程1において、2当量以上の化合物(IIIa)を用いることで得ることができる。
【0037】
2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールは市販品として得ることができる。
【0038】
工程3
化合物(Ib)は、化合物(Ia)を2~20当量の化合物(IV)と、溶媒中、好ましくは1当量~大過剰量の還元剤および必要により好ましくは1~10当量の酸の存在下、-20℃と150℃の間の温度で、5分間~72時間反応させることにより製造することができる。
【0039】
溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、tert-ブチルアルコール、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、トルエン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、水等が挙げられ、これらは単独でまたは混合して用いられる。
【0040】
還元剤としては、例えばトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
酸としては、例えば塩酸、酢酸等が挙げられる。
【0042】
化合物(IV)は、市販品として得ることができる。
【0043】
製造法2
化合物(I)のうち、R1およびR2が異なる化合物(Ic)および(Id)は以下の方法によって製造することができる。
【0044】
【0045】
(式中、A1、A2、B1、B2、M1、M2、R1、R3、R4およびX1はそれぞれ前記と同義であり、PGは保護基を表わす。)
【0046】
工程4
化合物(IIb)は、化合物(Ia)を有機合成化学で常用される保護基[例えば、プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス第3版(Protective Groups in Organic Synthesis, third edition)、グリーン(T.W.Greene)著、John Wiley&Sons Inc.(1999年)等に記載の保護基]で保護することで製造することができる。
【0047】
工程5
化合物(IIc)は、化合物(IIb)と化合物(IIIc)を、無溶媒でまたは溶媒中、1~10当量の塩基の存在下、-20℃と150℃の間の温度で、5分間~72時間反応させることにより製造することができる。
【0048】
溶媒としては、例えばジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、ピリジン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられ、これらは単独でまたは混合して用いることができる。
【0049】
塩基としては、例えばナトリウムメトキシド、カリウム tert-ブトキシド、水素化ナトリウム、リチウムジイソプロピルアミド、ヘキサメチルジシラザンリチウム、ヘキサメチルジシラザンナトリウム、n-ブチルリチウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0050】
化合物(IIIc)は、市販品として得ることができる。
【0051】
工程6
化合物(Ic)は、化合物(IIc)の保護基PGを適切な方法で除去することによって得られる。保護基の除去方法としては、有機合成化学で常用される保護基の除去方法[例えば、プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス第3版(Protective Groups in Organic Synthesis, third edition)、グリーン(T.W.Greene)著、John Wiley&Sons Inc.(1999年)等に記載の除去方法]を用いることができ、これにより目的とする化合物を製造することができる。
【0052】
工程7
化合物(Id)は、化合物(Ic)を1~10当量の化合物(IV)と、溶媒中、好ましくは1当量~大過剰量の還元剤および必要により好ましくは1~10当量の酸の存在下、-20℃と150℃の間の温度で、5分間~72時間反応させることにより製造することができる。
【0053】
溶媒、還元剤、酸としては、それぞれ工程3で例示したものが挙げられる。
【0054】
製造法3
化合物(I)のうち、M1およびM2がそれぞれ-OC(O)-である化合物(Ic’)および(Id’)は以下の方法によっても製造することができる。
【0055】
【0056】
(式中、A1、A2、B1、B2、R1、R3、R4およびPGはそれぞれ前記と同義であり、B3およびB4は直鎖状または分岐状のC1-C16アルキルまたはC2-C16アルケニルである。)
【0057】
工程8
化合物(IId)は、化合物(IIc’)と酸化剤を溶媒中、-20℃と150℃の間の温度で、5分間~72時間反応させることにより製造することができる。
【0058】
酸化剤としては、オゾン、四酸化オスミウム/過ヨウ素酸ナトリウム、四酸化オスミウム/四酢酸鉛等が挙げられる。
【0059】
溶媒としては、工程3で例示したものが挙げられる。
【0060】
化合物(IIc’)は製造法2に記載の方法で製造することができる。
【0061】
工程9
化合物(IIe)は、化合物(IId)と酸化剤を、溶媒中-20℃と150℃の間の温度で、5分間~72時間反応させることにより製造することができる。
【0062】
酸化剤としては、ジョーンズ試薬、二クロム酸ピリジニウム、四酸化ルテニウム、亜塩素酸ナトリウム等が挙げられる。
【0063】
溶媒としては、tert-ブチルアルコール、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、トルエン、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、水等が挙げられ、これらは単独でまたは混合して用いることができる。
【0064】
工程10および工程11
化合物(IIf)は化合物(IIe)と化合物(Va)を、無溶媒でまたは溶媒中、1~10当量の縮合剤と1~10当量の塩基の存在下、室温と200℃の間の温度で、5分間~100時間反応させることにより製造することができる。さらに、化合物(IIc’’)は、化合物(IIf)と化合物(Vb)を、無溶媒でまたは溶媒中、1~10当量の縮合剤と1~10当量の塩基の存在下、室温と200℃の間の温度で、5分間~100時間反応させることにより製造することができる。
【0065】
溶媒としては、例えばジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、トルエン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ピリジン等が挙げられ、これらは単独でまたは混合して用いることができる。
【0066】
縮合剤としては、例えば塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2- イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドn水和物、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N',-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩等が挙げられる。
【0067】
塩基としては例えば炭酸カリウム、炭酸セシウム、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルモルホリン、ピリジン等が挙げられる。
【0068】
化合物(Va)および化合物(Vb)は市販品として得ることができる。
【0069】
B3およびB4が同一の場合の化合物(IIc’’)は、工程10において、2当量以上の化合物(Va)を用いることで得ることができる。
【0070】
工程12
化合物(Ic’)は、化合物(IIc’’)の保護基PGを適切な方法で除去することによって得られる。保護基の除去方法としては、有機合成化学で常用される保護基の除去方法[例えば、プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス第3版(Protective Groups in Organic Synthesis, third edition)、グリーン(T.W.Greene)著、John Wiley&Sons Inc.(1999年)等に記載の除去方法]を用いることができ、これにより目的とする化合物を製造することができる。
【0071】
工程13
化合物(Id’)は、化合物(Ic’)を1~10当量の化合物(IV)と、溶媒中、好ましくは1当量~大過剰量の還元剤および必要により好ましくは1~10当量の酸の存在下、-20℃と150℃の間の温度で、5分間~72時間反応させることにより製造することができる。
【0072】
溶媒、酸としては、それぞれ工程3で例示したものが挙げられる。
【0073】
なお、化合物(I)のうち、前記化合物(Ia)~(Id)以外の化合物は、目的とする化合物の構造に適した原料や試薬等を採用することにより、上記の製造法に準じて、あるいは有機合成化学で常用される一般的な製造方法を適用することによって製造することができる。
【0074】
上記各製造法における中間体および目的化合物は、有機合成化学で常用される分離精製法、例えば、ろ過、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、再結晶、各種クロマトグラフィー等に付して単離精製することができる。また、中間体においては特に精製することなく次の反応に供することも可能である。
【0075】
本発明の化合物において、構造中の窒素原子上の孤立電子対に水素イオンが配位してもよく、その場合には、製薬上許容し得る陰イオン(前記と同義)と製薬上許容し得る塩を形成していてもよく、本発明の化合物には、該窒素原子上の孤立電子対に水素イオンが配位したカチオン性脂質も包含される。
【0076】
本発明において、製薬上許容し得る陰イオンとしては、例えば塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン等の無機イオン、酢酸イオン、シュウ酸イオン、マレイン酸イオン、フマル酸イオン、クエン酸イオン、安息香酸イオン、メタンスルホン酸イオン等の有機酸イオン等が挙げられる。
【0077】
本発明の化合物の中には、幾何異性体、光学異性体等の立体異性体、互変異性体等が存在し得るものもあるが、本発明の化合物は、これらを含め、全ての可能な異性体およびそれらの混合物を包含する。
【0078】
本発明の化合物中の各原子の一部またはすべては、それぞれ対応する同位体原子で置き換わっていてもよく、化合物(I)は、これら同位体原子で置き換わった化合物も包含する。例えば、化合物(I)中の水素原子の一部またはすべては、原子量2の水素原子(重水素原子)であってもよい。
【0079】
本発明の化合物中の各原子の一部またはすべてが、それぞれ対応する同位体原子で置き換わった化合物は、市販のビルディングブロックを用いて、上記各製造法と同様な方法で製造することができる。また、化合物(I)中の水素原子の一部またはすべてが重水素原子で置き換わった化合物は、例えば、イリジウム錯体を触媒として用い、重水を重水素源として用いてアルコール、カルボン酸等を重水素化する方法[ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティ(J.Am.Chem.Soc.), Vol.124,No.10,2092(2002)参照]等を用いて合成することもできる。
【0080】
本発明の化合物の具体例を表1に示す。ただし、本発明の化合物はこれらに限定されるものではない。
【0081】
【0082】
本発明で用いられる核酸としては、例えばヌクレオチドおよび/またはヌクレオチドと同等の機能を有する分子が重合した分子であれば、いかなる分子であってもよく、例えばリボヌクレオチドの重合体であるリボ核酸(RNA)、デオキシリボヌクレオチドの重合体であるデオキシリボ核酸(DNA)、RNAとDNAとからなるキメラ核酸、およびこれらの核酸の少なくとも一つのヌクレオチドが該ヌクレオチドと同等の機能を有する分子で置換されたヌクレオチド重合体等が挙げられる。また、ヌクレオチドおよび/またはヌクレオチドと同等の機能を有する分子が重合した分子の構造を少なくとも一部に含む誘導体も、本発明の核酸に含まれる。なお、本発明において、ウラシルUと、チミンTとは、それぞれ読み替えることができる。
【0083】
ヌクレオチドと同等の機能を有する分子としては、例えばヌクレオチド誘導体等が挙げられる。
【0084】
ヌクレオチド誘導体としては、例えばヌクレオチドに修飾を施した分子であればいかなる分子であってもよいが、例えばRNAまたはDNAと比較して、ヌクレアーゼ耐性を向上させるかもしくはその他の分解因子から安定化させるため、相補鎖核酸とのアフィニティーをあげるため、細胞透過性をあげるため、または可視化させるために、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドに修飾を施した分子等が好適に用いられる。
【0085】
ヌクレオチド誘導体としては、例えば糖部修飾ヌクレオチド、リン酸ジエステル結合修飾ヌクレオチド、塩基修飾ヌクレオチド等が挙げられる。
【0086】
糖部修飾ヌクレオチドとしては、例えばヌクレオチドの糖の化学構造の一部あるいは全てに対し、任意の置換基で修飾もしくは置換したもの、または任意の原子で置換したものであればいかなるものでもよいが、2’-修飾ヌクレオチドが好ましく用いられる。
【0087】
糖部修飾ヌクレオチドにおける修飾基としては、例えば、2’-シアノ、2’-アルキル、2’-置換アルキル、2’-アルケニル、2’-置換アルケニル、2’-ハロゲン、2’-O-シアノ、2’-O-アルキル、2’-O-置換アルキル、2’-O-アルケニル、2’-O-置換アルケニル、2’-S-アルキル、2’-S-置換アルキル、2’-S-アルケニル、2’-S-置換アルケニル、2’-アミノ、2’-NH-アルキル、2’-NH-置換アルキル、2’-NH-アルケニル、2’-NH-置換アルケニル、2’-SO-アルキル、2’-SO-置換アルキル、2’-カルボキシ、2’-CO-アルキル、2’-CO-置換アルキル、2’-Se-アルキル、2’-Se-置換アルキル、2’-SiH2-アルキル、2’-SiH2-置換アルキル、2’-ONO2、2’-NO2、2’-N3、2’-アミノ酸残基(アミノ酸のカルボン酸から水酸基が除去されたもの)、2’-O-アミノ酸残基(前記アミノ酸残基と同義)等が挙げられる。
【0088】
糖部修飾ヌクレオチドとしては、糖部に架橋構造を導入することにより2つの環状構造を有する架橋構造型人工核酸(Bridged Nucleic Acid)(BNA)があげられ、具体的には、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレンを介して架橋したロックト人工核酸(Locked Nucleic Acid)(LNA) [“テトラヘドロンレターズ(Tetrahedron Letters)”, Volume 38, Issue 50, 1997, Pages 8735-8738、および“テトラヘドロン (Tetrahedron)”, Volume 54, Issue 14, 1998, Pages 3607-3630]、エチレン架橋構造型人工核酸(Ethylene bridged nucleic acid)(ENA)[“ヌクレイックアシッドリサーチ(Nucleic Acid Research)”, 32, e175(2004)]等があげられる。
【0089】
さらに糖部修飾ヌクレオチドとして、ペプチド核酸(PNA)[Acc. Chem. Res., 32, 624(1999)]、オキシペプチド核酸(OPNA)[J. Am. Chem. Soc., 123, 4653(2001)]、ペプチドリボ核酸(PRNA)[J. Am. Chem. Soc., 122, 6900(2000)]等も挙げられる。
【0090】
糖部修飾ヌクレオチドにおける修飾基として、2’-シアノ、2’-ハロゲン、2’-O-シアノ、2’-アルキル、2’-置換アルキル、2’-O-アルキル、2’-O-置換アルキル、2’-O-アルケニル、2’-O-置換アルケニル、2’-Se-アルキル、2’-Se-置換アルキル等が好ましく、2’-シアノ、2’-フルオロ、2’-クロロ、2’-ブロモ、2’-トリフルオロメチル、2’-O-メチル、2’-O-エチル、2’-O-イソプロピル、2’-O-トリフルオロメチル、2'-O-[2-(メトキシ)エチル]、2'-O-(3-アミノプロピル)、2'-O-[2-(N,N-ジメチルアミノオキシ)エチル]、2'-O-[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]、2'-O-{2-[2-(N,N-ジメチルアミノ)エトキシ]エチル}、2'-O-[2-(メチルアミノ)-2-オキソエチル]、2’-Se-メチル等がより好ましく、2’-O-メチル、2’-O-エチル、2’-フルオロ等がさらに好ましく、2’-O-メチルおよび2’-O-エチルが最も好ましい。
【0091】
また、糖部修飾ヌクレオチドにおける修飾基は、その大きさから好ましい範囲を定義することもでき、フルオロの大きさから-O-ブチルの大きさに相当するものが好ましく、-O-メチルの大きさから-O-エチルの大きさに相当するものがより好ましい。
【0092】
糖部修飾ヌクレオチドにおける修飾基におけるアルキルとしては、炭素数1~6のアルキルが挙げられ、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等の炭素数1~6のアルキルである。
【0093】
糖部修飾ヌクレオチドにおける修飾基におけるアルケニルとしては、炭素数3~6のアルケニルが挙げられ、例えばアリル、1-プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル等が挙げられる。
【0094】
糖部修飾ヌクレオチドにおける修飾基におけるハロゲンとしては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0095】
アミノ酸残基におけるアミノ酸としては、例えば脂肪族アミノ酸(具体的には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等)、ヒドロキシアミノ酸(具体的には、セリン、トレオニン等)、酸性アミノ酸(具体的には、アスパラギン酸、グルタミン酸等)、酸性アミノ酸アミド(具体的には、アスパラギン、グルタミン等)、塩基性アミノ酸(具体的には、リジン、ヒドロキシリジン、アルギニン、オルニチン等)、含硫アミノ酸(具体的には、システイン、シスチン、メチオニン等)、イミノ酸(具体的には、プロリン、4-ヒドロキシプロリン等)等が挙げられる。
【0096】
糖部修飾ヌクレオチドにおける修飾基における置換アルキルおよび置換アルケニルにおける置換基としては、例えば、ハロゲン(前記と同義)、ヒドロキシ、スルファニル、アミノ、オキソ、-O-アルキル(該-O-アルキルのアルキル部分は前記炭素数1~6のアルキルと同義)、-S-アルキル(該-S-アルキルのアルキル部分は前記炭素数1~6のアルキルと同義)、-NH-アルキル(該-NH-アルキルのアルキル部分は前記炭素数1~6のアルキルと同義)、ジアルキルアミノオキシ(該ジアルキルアミノオキシの2つのアルキル部分は同一または異なって前記炭素数1~6のアルキルと同義)、ジアルキルアミノ(該ジアルキルアミノの2つのアルキル部分は同一または異なって前記炭素数1~6のアルキルと同義)、ジアルキルアミノアルキルオキシ(該ジアルキルアミノアルキルオキシの2つのアルキル部分は同一または異なって前記炭素数1~6のアルキルと同義であり、アルキレン部分は前記アルキルから水素原子が1つ除かれたものを意味する)等が挙げられ、置換数は好ましくは1~3である。
【0097】
リン酸ジエステル結合修飾ヌクレオチドとしては、ヌクレオチドのリン酸ジエステル結合の化学構造の一部あるいは全てに対し、任意の置換基で修飾もしくは置換したもの、または任意の原子で置換したものであればいかなるものでもよく、例えば、リン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に置換されたヌクレオチド、リン酸ジエステル結合がホスホロジチオエート結合に置換されたヌクレオチド、リン酸ジエステル結合がアルキルホスホネート結合に置換されたヌクレオチド、リン酸ジエステル結合がホスホロアミデート結合に置換されたヌクレオチド等が挙げられる。
【0098】
塩基修飾ヌクレオチドとしては、ヌクレオチドの塩基の化学構造の一部あるいは全てに対し、任意の置換基で修飾もしくは置換したもの、または任意の原子で置換したものであればいかなるものでもよく、例えば、塩基内の酸素原子が硫黄原子で置換されたもの、水素原子が炭素数1~6のアルキル基で置換されたもの、メチル基が水素原子もしくは炭素数2~6のアルキル基で置換されたもの、アミノ基が炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルカノイル基等の保護基で保護されたもの等が挙げられる。
【0099】
さらに、ヌクレオチド誘導体として、ヌクレオチドまたは糖部、リン酸ジエステル結合もしくは塩基の少なくとも一つが修飾されたヌクレオチド誘導体に脂質、リン脂質、フェナジン、フォレート、フェナントリジン、アントラキノン、アクリジン、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、色素等、別の化学物質を付加したものも挙げられ、具体的には、5’-ポリアミン付加ヌクレオチド誘導体、コレステロール付加ヌクレオチド誘導体、ステロイド付加ヌクレオチド誘導体、胆汁酸付加ヌクレオチド誘導体、ビタミン付加ヌクレオチド誘導体、緑色蛍光色素(Cy3)付加ヌクレオチド誘導体、赤色蛍光色素(Cy5)付加ヌクレオチド誘導体、フルオロセイン(6-FAM)付加ヌクレオチド誘導体、およびビオチン付加ヌクレオチド誘導体等が挙げられる。
【0100】
また、本発明で用いられる核酸においては、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体が、該核酸内の他のヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体とアルキレン構造、ペプチド構造、ヌクレオチド構造、エーテル構造、エステル構造、およびこれらの少なくとも一つを組み合わせた構造等の架橋構造を形成してもよい。
【0101】
本発明で用いられる核酸としては、好ましくは標的遺伝子の発現を抑制する核酸が挙げられ、より好ましくはRNA干渉(RNAi)を利用した標的遺伝子の発現抑制作用を有する核酸が挙げられる。
【0102】
本発明における標的遺伝子としては、mRNAを産生して発現する遺伝子であれば特に限定されないが、例えば、腫瘍または炎症に関連する遺伝子が好ましく、例えば血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、以下VEGFと略す)、血管内皮増殖因子受容体(vascular endothelial growth factor receptor、以下VEGFRと略す)、線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子受容体、血小板由来増殖因子、血小板由来増殖因子受容体、肝細胞増殖因子、肝細胞増殖因子受容体、クルッペル様因子(Kruppel-like factor、以下KLFと略す)、エクスプレスドシーケンスタグ(Ets)転写因子、核因子、低酸素誘導因子、細胞周期関連因子、染色体複製関連因子、染色体修復関連因子、微小管関連因子、増殖シグナル経路関連因子、増殖関連転写因子、アポトーシス関連因子等のタンパク質をコードする遺伝子等が挙げられ、具体的にはVEGF遺伝子、VEGFR遺伝子、線維芽細胞増殖因子遺伝子、線維芽細胞増殖因子受容体遺伝子、血小板由来増殖因子遺伝子、血小板由来増殖因子受容体遺伝子、肝細胞増殖因子遺伝子、肝細胞増殖因子受容体遺伝子、KLF遺伝子、Ets転写因子遺伝子、核因子遺伝子、低酸素誘導因子遺伝子、細胞周期関連因子遺伝子、染色体複製関連因子遺伝子、染色体修復関連因子遺伝子、微小管関連因子遺伝子(例えば、CKAP5遺伝子等)、増殖シグナル経路関連因子遺伝子(例えば、KRAS遺伝子等)、増殖関連転写因子遺伝子、アポトーシス関連因子(例えば、BCL-2遺伝子等)等が挙げられる。
【0103】
また、本発明における標的遺伝子としては、例えば、肝臓、肺、腎臓または脾臓において発現する遺伝子が好ましく、例えば前記の腫瘍または炎症に関連する遺伝子、B型肝炎ウイルスゲノム、C型肝炎ウイルスゲノム、アポリポタンパク質(APO)、ヒドロキシメチルグルタリル(HMG)CoA還元酵素、ケキシン 9 型セリンプロテアーゼ(PCSK9)、第12因子、グルカゴン受容体、グルココルチコイド受容体、ロイコトリエン受容体、トロンボキサンA2受容体、ヒスタミンH1受容体、炭酸脱水酵素、アンギオテンシン変換酵素、レニン、p53、チロシンホスファターゼ(PTP)、ナトリウム依存性グルコース輸送担体、腫瘍壊死因子、インターロイキン、ヘプシジン、トランスサイレン、アンチトロンビン、プロテインC、マトリプターゼ酵素(例えば、TMPRSS6遺伝子等)等のタンパク質をコードする遺伝子等が挙げられる。
【0104】
標的遺伝子の発現を抑制する核酸としては、例えば蛋白質等をコードする遺伝子(標的遺伝子)のmRNAの一部の塩基配列に対して相補的な塩基配列を含み、かつ標的遺伝子の発現を抑制する核酸であれば、例えばsiRNA(short interference RNA)、miRNA(micro RNA)等の二本鎖核酸、shRNA(short hairpin RNA)、アンチセンス核酸、リボザイム等の一本鎖核酸等、いずれの核酸を用いてもよいが、二本鎖核酸が好ましい。
【0105】
標的遺伝子のmRNAの一部の塩基配列に対して相補的な塩基配列を含む核酸をアンチセンス核酸といい、アンチセンス核酸の塩基配列に対して相補的な塩基配列を含む核酸をセンス鎖核酸ともいう。センス鎖核酸は、標的遺伝子の一部の塩基配列からなる核酸そのもの等、アンチセンス核酸と対合して二重鎖形成部ができる核酸をいう。
【0106】
二本鎖核酸とは、二本の鎖が対合し二重鎖形成部を有する核酸をいう。二重鎖形成部とは、二本鎖核酸を構成するヌクレオチドまたはその誘導体が塩基対を構成して二重鎖を形成している部分をいう。二重鎖形成部を構成する塩基対は、通常15~27塩基対であり、15~25塩基対が好ましく、15~23塩基対がより好ましく、15~21塩基対がさらに好ましく、15~19塩基対が特に好ましい。
【0107】
二重鎖形成部のアンチセンス核酸としては、例えば標的遺伝子のmRNAの一部配列からなる核酸、または該核酸において1~3塩基、好ましくは1~2塩基、より好ましくは1塩基が置換、欠失もしくは付加され、かつ標的蛋白質の発現抑制活性を有する核酸が好適に用いられる。二本鎖核酸を構成する一本鎖の核酸は、通常15~30塩基(ヌクレオシド)の連なりからなるが、15~29塩基が好ましく、15~27塩基がより好ましく、15~25塩基がさらに好ましく、17~23塩基が特に好ましく、19~21塩基が最も好ましい。
【0108】
二本鎖核酸を構成するアンチセンス鎖、センス鎖のいずれか一方、または両方の核酸は、二重鎖形成部に続く3’側または5’側に二重鎖を形成しない追加の核酸を有してもよい。この二重鎖を形成しない部分を突出部(オーバーハング)ともいう。
【0109】
突出部を有する二本鎖核酸としては、例えば少なくとも一方の鎖の3’末端または5’末端に1~4塩基、通常は1~3塩基からなる突出部を有するものが用いられるが、2塩基からなる突出部を有するものが好ましく用いられ、dTdTまたはUUからなる突出部を有するものがより好ましく用いられる。突出部は、アンチセンス鎖のみ、センス鎖のみ、およびアンチセンス鎖とセンス鎖の両方に有することができるが、アンチセンス鎖とセンス鎖の両方に突出部を有する二本鎖核酸が好ましく用いられる。
【0110】
また、二重鎖形成部に続いて標的遺伝子のmRNAの塩基配列と一部または全てが一致する配列、または、二重鎖形成部に続いて標的遺伝子のmRNAの相補鎖の塩基配列と一部または全てが一致する配列を用いてもよい。さらに、標的遺伝子の発現を抑制する核酸としては、例えばDicer等のリボヌクレアーゼの作用により前記の二本鎖核酸を生成する核酸分子(国際公開第2005/089287号)や、3’末端や5’末端の突出部を有していない二本鎖核酸等を用いることもできる。
【0111】
また、前記の二本鎖核酸がsiRNAである場合、好ましくはアンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って少なくとも1~17番目の塩基(ヌクレオシド)の配列が、標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列であり、より好ましくは、該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1~19番目の塩基の配列が、標的遺伝子のmRNAの連続する19塩基の配列と相補的な塩基の配列であるか、1~21番目の塩基の配列が、標的遺伝子のmRNAの連続する21塩基の配列と相補的な塩基の配列であるか、1~25番目の塩基の配列が、標的遺伝子のmRNAの連続する25塩基の配列と相補的な塩基の配列である。
【0112】
さらに、本発明で用いられる核酸がsiRNAである場合、好ましくは該核酸中の糖の10~70%、より好ましくは15~60%、さらに好ましくは20~50%が、2’位において修飾基で置換されたリボースである。本発明における2’位において修飾基で置換されたリボースとは、リボースの2’位の水酸基が修飾基に置換されているものを意味し、リボースの2’位の水酸基と立体配置が同じであっても異なっていてもよいが、好ましくはリボースの2’位の水酸基と立体配置が同じである。2’位において修飾基で置換されたリボースにおける修飾基としては、糖部修飾ヌクレオチドにおける2’-修飾ヌクレオチドにおける修飾基の定義で例示したものおよび水素原子が挙げられ、2’-シアノ、2’-ハロゲン、2’-O-シアノ、2’-アルキル、2’-置換アルキル、2’-O-アルキル、2’-O-置換アルキル、2’-O-アルケニル、2’-O-置換アルケニル、2’-Se-アルキル、2’-Se-置換アルキル等が好ましく、2’-シアノ、2’-フルオロ、2’-クロロ、2’-ブロモ、2’-トリフルオロメチル、2’-O-メチル、2’-O-エチル、2’-O-イソプロピル、2’-O-トリフルオロメチル、2'-O-[2-(メトキシ)エチル]、2'-O-(3-アミノプロピル)、2'-O-[2-(N,N-ジメチル)アミノオキシ]エチル、2'-O-[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]、2'-O-{2-[2-(N,N-ジメチルアミノ)エトキシ]エチル}、2'-O-[2-(メチルアミノ)-2-オキソエチル]、2’-Se-メチル、水素原子等がより好ましく、2’-O-メチル、2’-O-エチル、2’-フルオロ、水素原子等がさらに好ましく、2’-O-メチルおよび2’-フルオロが最も好ましい。
【0113】
本発明で用いられる核酸は、核酸の構造中のリン酸部、エステル部等に含まれる酸素原子等が、例えば硫黄原子等の他の原子に置換された誘導体を包含する。
【0114】
また、アンチセンス鎖およびセンス鎖の5’末端の塩基に結合する糖は、それぞれ5’位の水酸基が、リン酸基もしくは前記の修飾基、または生体内の核酸分解酵素等でリン酸基もしくは前記の修飾基に変換される基によって修飾されていてもよい。
【0115】
また、アンチセンス鎖およびセンス鎖の3’末端の塩基に結合する糖は、それぞれ3’位の水酸基が、リン酸基もしくは前記の修飾基、または生体内の核酸分解酵素等でリン酸基もしくは前記の修飾基に変換される基によって修飾されていてもよい。
【0116】
一本鎖の核酸としては、例えば標的遺伝子の連続する15~27塩基(ヌクレオシド)、好ましくは15~25塩基、より好ましくは15~23塩基、さらに好ましくは15~21塩基、特に好ましくは15~19塩基からなる配列の相補配列からなる核酸、または該核酸において1~3塩基、好ましくは1~2塩基、より好ましくは1塩基が置換、欠失もしくは付加され、かつ標的蛋白質の発現抑制活性を有する核酸であればいずれでもよい。該一本鎖の核酸は、15~30塩基(ヌクレオシド)の連なりからなることが好ましく、より好ましくは15~27塩基、さらに好ましくは15~25塩基、特に好ましくは15~23塩基の一本鎖核酸が好適に用いられる。
【0117】
一本鎖核酸として、上記の二本鎖核酸を構成するアンチセンス鎖およびセンス鎖を、スペーサー配列(スペーサーオリゴヌクレオチド)を介して連結したものを用いてもよい。スペーサーオリゴヌクレオチドとしては6~12塩基の一本鎖核酸分子が好ましく、その5’末端側の配列は2個のUであるのが好ましい。スペーサーオリゴヌクレオチドの例として、UUCAAGAGAの配列からなる核酸が挙げられる。スペーサーオリゴヌクレオチドによってつながれるアンチセンス鎖およびセンス鎖の順番はどちらが5’側になってもよい。該一本鎖核酸としては、例えばステムループ構造によって二重鎖形成部を有するshRNA等の一本鎖核酸であることが好ましい。shRNA等の一本鎖核酸は、通常50~70塩基長である。
【0118】
リボヌクレアーゼ等の作用により、上記の一本鎖核酸または二本鎖核酸を生成するように設計した、70塩基長以下、好ましくは50塩基長以下、さらに好ましくは30塩基長以下の核酸を用いてもよい。
【0119】
なお、本発明で用いられる核酸は、既知のRNAまたはDNA合成法、およびRNAまたはDNA修飾法を用いて製造することができる。
【0120】
本発明の組成物は、本発明の化合物、またはその製薬上許容し得る塩および核酸を含有する組成物であり、例えば本発明の化合物、またはその製薬上許容し得る塩と核酸との複合体であってよい。
本発明の組成物は、本発明の化合物、またはその製薬上許容し得る塩と、中性脂質および/または高分子と、核酸とを含有する組成物であり、例えば、本発明の化合物、またはその製薬上許容し得る塩と、中性脂質および/または高分子と、核酸との複合体であってよい。
本発明の組成物は、脂質膜を含有し、複合体が脂質膜により封入されていてもよい。
脂質膜は、脂質一重膜(脂質1分子膜)でも脂質二重膜(脂質2分子膜)であってもよい。脂質膜に、本発明の化合物、またはその製薬上許容し得る塩、中性脂質および/または高分子を含有していてもよい。
また、複合体および/または脂質膜に、本発明の化合物、またはその製薬上許容し得る塩であるカチオン性脂質以外のカチオン性脂質を含有していてもよい。
以下、本発明の化合物、またはその製薬上許容し得る塩を単に、「本発明のカチオン性脂質」と記載する場合がある。
【0121】
また、本発明の組成物としては、例えば本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質と核酸との複合体、または本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質と、中性脂質および/または高分子と、核酸との複合体、ならびに該複合体を封入する脂質膜を含有し、該脂質膜に本発明のカチオン性脂質を含有する組成物等も挙げられる。この場合の脂質膜も、脂質一重膜(脂質1分子膜)でも脂質二重膜(脂質2分子膜)であってもよい。また、該脂質膜に、本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質、中性脂質および/または高分子を含有していてもよい。
【0122】
本発明の組成物において、本発明のカチオン性脂質と核酸との複合体を含有する組成物、本発明のカチオン性脂質と核酸との複合体および該複合体を封入する脂質膜を含有し、該脂質膜に本発明のカチオン性脂質を含有する組成物、ならびに本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質と核酸との複合体および該複合体を封入する脂質膜を含有し、該脂質膜に本発明のカチオン性脂質を含有する組成物が好ましく、本発明のカチオン性脂質と核酸との複合体および該複合体を封入する脂質膜を含有し、該脂質膜に本発明のカチオン性脂質を含有する組成物がより好ましい。いずれの組成物においても脂質膜に、中性脂質および/または高分子を含有していてもよい。また、複合体および/または脂質膜に、本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質を含有していてもよい。
【0123】
複合体の形態としては、例えば核酸と脂質一重(一分子)層からなる膜(逆ミセル)との複合体、核酸とリポソームとの複合体、核酸とミセルとの複合体等が挙げられ、好ましくは核酸と脂質一重層からなる膜との複合体または核酸とリポソームとの複合体が挙げられる。
【0124】
複合体および該複合体を封入する脂質膜を含有する組成物としては、例えば該複合体および該複合体を脂質二重膜で封入するリポソーム等が挙げられる。
【0125】
なお、本発明の組成物には、本発明のカチオン性脂質を一種または複数種を使用してよく、また本発明の組成物には、本発明のカチオン性脂質に加え、本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質の一種または複数種を混合してもよい。
【0126】
本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質としては、例えば、特開昭61-161246号公報(米国特許5049386号明細書)中で開示される、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、N-(2,3-ジ-(9-(Z)-オクタデセノイルオキシ))-プロパ-1-イル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTAP)等、国際公開第91/16024号および国際公開第97/019675号中で開示される、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシプロピル)]-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチル臭化アンモニウム(DORIE)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキシアミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)等、国際公開第2005/121348号中で開示される、DLinDMA等、国際公開第2009/086558号中で開示される、DLin-K-DMA、国際公開第2011/136368号中で開示される、(3R,4R)-3,4-ビス((Z)-ヘキサデカ-9-エニルオキシ)-1-メチルピロリジン、N-メチル-N,N-ビス(2-((Z)-オクタデカ-6-エニルオキシ)エチル)アミン等が挙げられ、好ましくはDOTMA、DOTAP、DORIE、DOSPA、1,2-ジリノレイルオキシ- N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノメチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-DMA)等の2つの非置換アルキル基を有する3級アミン部位または3つの非置換アルキル基を有する4級アンモニウム部位を有するカチオン性脂質が挙げられ、より好ましくは、該3級アミン部位を有するカチオン性脂質が挙げられる。該3級アミン部位および該4級アンモニウム部位の非置換アルキル基はメチル基であることがより好ましい。
なお、本発明の組成物は、核酸に加え、核酸と化学的に近似した化合物も含有することもできる。
【0127】
本発明の組成物は、公知の製造方法またはそれに準じて製造することができ、いかなる製造方法で製造されたものであってよい。例えば、組成物の1つであるリポソームを含有する組成物の製造には、公知のリポソームの調製方法が適用できる。公知のリポソームの調製方法としては、例えばバンガム(Bangham)らのリポソーム調製法[“ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.)”,1965年,第13巻,p.238-252参照]、エタノール注入法[“ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー(J.Cell Biol.)”,1975年,第66巻,p.621-634参照]、フレンチプレス法[“エフイービーエス・レターズ(FEBS Lett.)”,1979年,第99巻,p.210-214参照]、凍結融解法[“アーカイブス・オブ・バイオケミストリー・アンド・バイオフィジックス(Arch.Biochem.Biophys.)”,1981年,第212巻,p.186-194参照]、逆相蒸発法[“プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)”,1978年,第75巻, p.4194-4198参照]またはpH勾配法(例えば特許第2572554号公報、特許第2659136号公報等参照)等が挙げられる。リポソームの製造の際にリポソームを分散させる溶液としては、例えば水、酸、アルカリ、種々の緩衝液、生理食塩水またはアミノ酸輸液等を用いることができる。また、リポソームの製造の際には、例えばクエン酸、アスコルビン酸、システインまたはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等の抗酸化剤、例えばグリセリン、ブドウ糖または塩化ナトリウム等の等張化剤等の添加も可能である。また、例えば、本発明のカチオン性脂質、または本発明のカチオン性脂質と本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質との混合物等を例えばエタノール等の有機溶媒に溶解し、溶媒を留去した後、生理食塩水等を添加、振とう攪拌し、リポソームを形成させることによってもリポソームを製造することができる。
【0128】
また、本発明の組成物は、例えば、本発明のカチオン性脂質、または本発明のカチオン性脂質と本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質との混合物をクロロホルムに予め溶解し、次いで核酸の水溶液とメタノールを加えて混合してカチオン性脂質/核酸の複合体を形成させ、さらにクロロホルム層を取り出し、これにポリエチレングリコール化リン脂質と中性の脂質と水を加えて油中水型(W/O)エマルジョンを形成し、逆相蒸発法で処理して製造する方法(特表2002-508765号公報参照)や、核酸を、酸性の電解質水溶液に溶解し、例えば、本発明のカチオン性脂質、または本発明のカチオン性脂質と本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質との混合物(エタノール中)を加え、エタノール濃度を20v/v%まで下げて前記核酸内包リポソームを調製し、サイジングろ過し、透析によって、過剰のエタノールを除去した後、試料をさらにpHを上げて透析して組成物表面に付着した核酸を除去して製造する方法(特表2002-501511号公報およびバイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ(Biochimica et Biophysica Acta),2001年,第1510巻,p.152-166参照)等によって製造することができる。
【0129】
本発明の組成物のうち、本発明のカチオン性脂質と核酸との複合体、または本発明のカチオン性脂質と、中性脂質および/または高分子と、核酸との複合体、ならびに該複合体を封入した脂質二重膜を含有するリポソームを含有する組成物は、例えば、国際公開第02/28367号および国際公開第2006/080118号等に記載の製造方法に従って製造することができる。
【0130】
国際公開第02/28367号および国際公開第2006/080118号等に記載の製造方法に従って本発明の組成物を製造する場合には、本発明のカチオン性脂質、核酸、中性脂質および/または高分子、ならびに本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質から適宜選択した成分を用いて複合体を製造し、水または0~40%エタノール水溶液中に、該複合体を溶解させずに分散させ(A液)、別途、複合体を封入する脂質膜成分を、例えばエタノール水溶液中に溶解させ(B液)、等量または体積比1:1~7:3のA液とB液を混合し、さらに適宜に水を加えることで本発明の組成物を得ることができる。A液およびB液中のカチオン性脂質としては、一種または複数種の本発明のカチオン性脂質または本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質を使用してよく、また本発明のカチオン性脂質と本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質を組み合わせて混合して使用してもよい。
【0131】
本発明において、本発明のカチオン性脂質と核酸との複合体、または本発明のカチオン性脂質と、中性脂質および/または高分子と、核酸との複合体、ならびに該複合体を封入した脂質膜を含有する組成物、本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質と核酸との複合体、または本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質と、中性脂質および/または高分子と、核酸との複合体、ならびに該複合体を封入する脂質膜を含有し、該脂質膜に本発明のカチオン性脂質を含有する組成物等の製造中および製造後に、複合体中の核酸と脂質膜中のカチオン性脂質との静電相互作用や、複合体中のカチオン性脂質と脂質膜中のカチオン性脂質との融合によって、複合体および膜の構造が変位したものも、本発明の組成物に包含される。
【0132】
国際公開第02/28367号および国際公開第2006/080118号等に記載の製造方法に従って、核酸、好ましくは二本鎖核酸と、本発明のカチオン性脂質および/または本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質を含有するリポソームとの複合体を製造し、水または0~40%エタノール水溶液中に、該複合体を溶解させずに分散させ(A液)、別途、本発明のカチオン性脂質および/または本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質を、エタノール水溶液中に溶解させ(B液)、等量または体積比1:1~7:3のA液とB液を混合すること、または、さらに適宜に水を加えることでも、本発明のカチオン性脂質および核酸を含有する組成物を得ることができる。本製法により得られる組成物は、好ましくはカチオン性脂質と核酸との複合体および該複合体を封入する脂質膜を含有する組成物であるか、カチオン性脂質と核酸を含有する脂質一重層からなる膜(逆ミセル)との複合体および該複合体を封入する脂質膜を含有する組成物である。これらの場合の脂質膜は、脂質一重膜(脂質1分子膜)でも脂質二重膜(脂質2分子膜)であってもよい。
【0133】
また、本開示の該核酸と該リポソームとの複合体中のリポソームは、予め大きさを、平均粒子径10nm~400nm、より好ましくは20nm~110nm、さらに好ましくは30nm~80nmに調節したリポソームが好ましい。複合体および/または脂質膜に、中性脂質および/または高分子を含有していてもよい。また、A液は、リポソームと核酸との複合体を形成させることができれば、エタノール濃度は、20~70%であってもよい。
【0134】
また、等量のA液とB液を混合する代わりに、A液とB液を混合後に複合体が溶解せず、かつB液中のカチオン性脂質が溶解しないエタノール濃度となる比率で混ぜてもよい。好ましくは複合体が溶解せず、B液中のカチオン性脂質が溶解せず、かつエタノール濃度が30~60%のエタノール水溶液になるような比でA液とB液を混合することに代えてもよく、あるいはA液とB液を混合後に複合体が溶解しないようなエタノール濃度になるような比でA液とB液を混合し、さらに水を加えることで、B液中のカチオン性脂質が溶解しなくなるエタノール濃度にすることにしてもよい。
【0135】
本開示の該A液中での核酸とリポソームとの複合体は、A液とB液を混合し、さらに適宜に水を加えた後には、カチオン性脂質を含有する脂質一重層からなる膜(逆ミセル)と核酸との複合体に形態が変化している。本開示の製造方法で得られる該核酸と該カチオン性脂質を含有する組成物は、好ましくはカチオン性脂質と核酸との複合体および該複合体を封入する脂質膜を含有する組成物であり、または、カチオン性脂質を含有する脂質一重層からなる膜(逆ミセル)と核酸との複合体および該複合体を封入する脂質膜を含有し、該脂質膜にカチオン性脂質を含有する組成物であり、その製造性(収率および/または均一性)は優れている。
【0136】
本発明の組成物において、複合体中の本発明のカチオン性脂質の分子の総数は、該核酸のリン原子の数に対して0.5~4倍であるのが好ましく、1.5~3.5倍であるのがより好ましく、2~3倍であるのがさらに好ましい。また、該複合体中の本発明のカチオン性脂質および本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質の分子の総数は、該核酸のリン原子の数に対して0.5~4倍であるのが好ましく、1.5~3.5倍であるのがより好ましく、2~3倍であるのがさらに好ましい。
【0137】
本発明の組成物において、複合体および該複合体を封入する脂質膜を含有する組成物中の本発明のカチオン性脂質の分子の総数は、該核酸のリン原子の数に対して1~10倍であるのが好ましく、2.5~9倍であるのがより好ましく、3.5~8倍であるのがさらに好ましい。また、該組成物中の本発明のカチオン性脂質および本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質の分子の総数は、該核酸のリン原子の数に対して1~10倍であるのが好ましく、2.5~9倍であるのがより好ましく、3.5~8倍であるのがさらに好ましい。
【0138】
中性脂質としては、単純脂質、複合脂質または誘導脂質のいかなるものであってもよく、例えばリン脂質、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、スフィンゴイドまたはステロール等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0139】
本発明の組成物において中性脂質を含有する場合には、中性脂質の分子の総数は、本発明のカチオン性脂質および本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質の分子の総数に対して0.1~2倍であるのが好ましく、0.2~1.5倍であるのがより好ましく、0.3~1.2倍であるのがさらに好ましい。本発明の組成物は、いずれも中性脂質を、複合体に含有してもよく、複合体を封入する脂質膜に含有していてもよく、少なくとも複合体を封入する脂質膜に含有していることがより好ましく、複合体および該複合体を封入する脂質膜のどちらにも含有していることがさらに好ましい。
【0140】
中性脂質におけるリン脂質としては、例えばホスファチジルコリン(具体的には大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン(EPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)等)、ホスファチジルエタノールアミン(具体的にはジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジミリストイルホスホエタノールアミン(DMPE)、16-0-モノメチルPE、16-0-ジメチルPE、18-1-トランスPE、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(POPE)、1 -ステアロイル-2-オレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(SOPE)等)、グリセロリン脂質(具体的にはホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、パルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)、リゾホスファチジルコリン等)、スフィンゴリン脂質(具体的にはスフィンゴミエリン、セラミドホスホエタノールアミン、セラミドホスホグリセロール、セラミドホスホグリセロリン酸等)、グリセロホスホノ脂質、スフィンゴホスホノ脂質、天然レシチン(具体的には卵黄レシチン、大豆レシチン等)または水素添加リン脂質(具体的には水素添加大豆ホスファチジルコリン等)等の天然または合成のリン脂質が挙げられる。
【0141】
中性脂質におけるグリセロ糖脂質としては、例えばスルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリドまたはグリコシルジグリセリド等が挙げられる。
【0142】
中性脂質におけるスフィンゴ糖脂質としては、例えばガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシドまたはガングリオシド等が挙げられる。
【0143】
中性脂質におけるスフィンゴイドとしては、例えばスフィンガン、イコサスフィンガン、スフィンゴシンまたはそれらの誘導体等が挙げられる。誘導体としては、例えばスフィンガン、イコサスフィンガンまたはスフィンゴシン等の-NH2を-NHCO(CH2)xCH3(式中、xは0~18の整数であり、中でも6、12または18が好ましい)に変換したもの等が挙げられる。
【0144】
中性脂質におけるステロールとしては、例えばコレステロール、ジヒドロコレステロール、ラノステロール、β-シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール、エルゴカステロール、フコステロールまたは3β-[N-(N',N'-ジメチルアミノエチル)カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)等が挙げられる。
【0145】
高分子としては、例えばタンパク質、アルブミン、デキストラン、ポリフェクト(polyfect)、キトサン、デキストラン硫酸、例えばポリ-L-リジン、ポリエチレンイミン、ポリアスパラギン酸、スチレンマレイン酸共重合体、イソプロピルアクリルアミド-アクリルピロリドン共重合体、ポリエチレングリコール修飾デンドリマー、ポリ乳酸、ポリ乳酸ポリグリコール酸またはポリエチレングリコール化ポリ乳酸等の高分子またはそれらの塩の1以上からなるミセル等が挙げられる。
【0146】
ここで、高分子の塩は、例えば金属塩、アンモニウム塩、酸付加塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等を包含する。金属塩としては、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩または亜鉛塩等が挙げられる。アンモニウム塩としては、例えばアンモニウムまたはテトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩またはリン酸塩等の無機酸塩、および酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩またはクエン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。有機アミン付加塩としては、例えばモルホリンまたはピペリジン等の付加塩が挙げられる。アミノ酸付加塩としては、例えばグリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸またはリジン等の付加塩が挙げられる。
【0147】
また、本発明の組成物はいずれも、例えば糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1以上の物質の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体、または界面活性剤等を含有することが好ましく、複合体に含有していてもよく、複合体を封入する脂質膜に含有していてもよく、複合体および該複合体を封入する脂質膜ともに含有していることがより好ましい。
【0148】
本発明の組成物が、糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1以上の物質の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体を含有する場合には、糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1以上の物質の脂質誘導体および脂肪酸誘導体の分子の総数は、本発明のカチオン性脂質および本発明のカチオン性脂質以外のカチオン性脂質の分子の総数に対して0.01~0.3倍であるのが好ましく、0.02~0.25倍であるのがより好ましく、0.03~0.15倍であるのがさらに好ましい。
【0149】
糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1以上の物質の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体、または界面活性剤としては、好ましくは、糖脂質、または水溶性高分子の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体が挙げられ、より好ましくは、水溶性高分子の脂質誘導体または脂肪酸誘導体が挙げられる。糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1以上の物質の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体、または界面活性剤は、分子の一部が組成物の他の構成成分と例えば疎水性親和力、静電的相互作用等で結合する性質をもち、他の部分が組成物の製造時の溶媒と例えば親水性親和力、静電的相互作用等で結合する性質をもつ、2面性をもつ物質であるのが好ましい。
【0150】
糖、ペプチドまたは核酸の脂質誘導体または脂肪酸誘導体としては、例えばショ糖、ソルビトール、乳糖等の糖、例えばカゼイン由来ペプチド、卵白由来ペプチド、大豆由来ペプチド、グルタチオン等のペプチド、または例えばDNA、RNA、プラスミド、siRNA、ODN等の核酸と、前記組成物の定義の中で挙げた中性脂質もしくは本発明のカチオン性脂質または例えばステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸等の脂肪酸とが結合してなるもの等が挙げられる。
【0151】
また、糖の脂質誘導体または脂肪酸誘導体としては、例えば前記組成物の定義の中で挙げたグリセロ糖脂質またはスフィンゴ糖脂質等も含まれる。
【0152】
水溶性高分子の脂質誘導体または脂肪酸誘導体としては、例えばポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、オリゴ糖、デキストリン、水溶性セルロース、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリグリセリン、キトサン、ポリビニルピロリドン、ポリアスパラギン酸アミド、ポリ-L-リジン、マンナン、プルラン、オリゴグリセロール等またはそれらの誘導体と、前記組成物の定義の中で挙げた中性脂質もしくは本発明のカチオン性脂質、または例えばステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸またはラウリン酸等の脂肪酸とが結合してなるもの、それらの塩等が挙げられ、より好ましくは、ポリエチレングリコールまたはポリグリセリン等の脂質誘導体または脂肪酸誘導体およびそれらの塩が挙げられ、さらに好ましくは、ポリエチレングリコールの脂質誘導体または脂肪酸誘導体およびそれらの塩が挙げられる。
【0153】
ポリエチレングリコールの脂質誘導体または脂肪酸誘導体としては、例えばポリエチレングリコール化脂質[具体的にはポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミン(より具体的には1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](PEG-DSPE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](PEG-DMPE)等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、クレモフォアイーエル(CREMOPHOR EL)等]、ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル類(具体的にはモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等)またはポリエチレングリコール脂肪酸エステル類等が挙げられ、より好ましくは、ポリエチレングリコール化脂質が挙げられる。
【0154】
ポリグリセリンの脂質誘導体または脂肪酸誘導体としては、例えばポリグリセリン化脂質(具体的にはポリグリセリン-ホスファチジルエタノールアミン等)またはポリグリセリン脂肪酸エステル類等が挙げられ、より好ましくは、ポリグリセリン化脂質が挙げられる。
【0155】
界面活性剤としては、例えばモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(具体的にはポリソルベート80等)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(具体的にはプルロニックF68等)、ソルビタン脂肪酸エステル(具体的にはソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート等)、ポリオキシエチレン誘導体(具体的にはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレンラウリルアルコール等)、グリセリン脂肪酸エステルまたはポリエチレングリコールアルキルエーテル等が挙げられ、好ましくは、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステルまたはポリエチレングリコールアルキルエーテル等が挙げられる。
【0156】
また、本発明の組成物中の複合体および脂質膜には、例えば水溶性高分子等による表面改質も任意に行うことができる[ラジック(D.D.Lasic)、マーティン(F.Martin)編,“ステルス・リポソームズ(Stealth Liposomes)”(米国),シーアールシー・プレス・インク(CRC Press Inc),1995年,p.93-102参照]。表面改質に使用し得る水溶性高分子としては、例えばポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、オリゴ糖、デキストリン、水溶性セルロース、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリグリセリン、キトサン、ポリビニルピロリドン、ポリアスパラギン酸アミド、ポリ-L-リジン、マンナン、プルラン、オリゴグリセロール等が挙げられ、好ましくはデキストラン、プルラン、マンナン、アミロペクチンまたはヒドロキシエチルデンプン等が挙げられる。また、表面改質には、糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1以上の物質の脂質誘導体または脂肪酸誘導体(前記と同義)等を用いることができる。該表面改質は、本発明の組成物中の複合体および脂質膜に糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1以上の物質の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体、または界面活性剤を含有させる方法の1つである。
【0157】
また、標的化リガンドを、本発明の組成物の脂質成分の極性ヘッド残基に共有結合することにより本発明の組成物の表面に直接結合させることも任意に行うことができる(国際公開第2006/116107号参照)。
【0158】
本発明の組成物中の複合体または複合体を封入する脂質膜の平均粒子径は、所望により自由に選択できるが、下記する平均粒子径とするのが好ましい。平均粒子径を調節する方法としては、例えばエクストルージョン法、大きな多重膜リポソーム(MLV)等を機械的に粉砕(具体的にはマントンゴウリン、マイクロフルイダイザー等を使用)する方法[ミュラー(R.H.Muller)、ベニタ(S.Benita)、ボーム(B.Bohm)編著,“エマルジョン・アンド・ナノサスペンジョンズ・フォー・ザ・フォーミュレーション・オブ・ポアリー・ソラブル・ドラッグズ(Emulsion and Nanosuspensions for the Formulation of Poorly Soluble Drugs)”,ドイツ,サイエンティフィック・パブリッシャーズ・スチュットガルト(Scientific Publishers Stuttgart),1998年,p.267-294参照]等が挙げられる。
【0159】
本発明の組成物中の複合体の大きさは、平均粒子径が約5nm~200nmであるのが好ましく、約20nm~150nmであるのがより好ましく、約30nm~100nmであるのがさらに好ましい。
【0160】
本発明の組成物(複合体を封入する脂質膜)の大きさは、平均粒子径が約10nm~300nmであるのが好ましく、約30nm~200nmであるのがより好ましく、約50nm~150nmであるのがさらに好ましい。
【0161】
本発明の組成物中の複合体または複合体を封入する脂質膜の平均粒子径は、例えば動的光散乱法で測定することができる。
【0162】
本発明の組成物を、哺乳動物の細胞に導入することで、本発明の組成物中の核酸を細胞内に導入することができる。
【0163】
本発明の組成物の哺乳動物の細胞への導入は、インビボにおいて行うことのできる公知のトランスフェクションの手順に従って行えばよい。例えば、本発明の組成物を、人を含む哺乳動物に静脈内投与することで、例えば腫瘍または炎症の生じた臓器または部位へ送達され、送達臓器または部位の細胞内に本発明の組成物中の核酸を導入することができる。腫瘍または炎症の生じた臓器または部位としては、特に限定されないが、例えば胃、大腸、肝臓、肺、脾臓、膵臓、腎臓、膀胱、皮膚、血管、眼球等が挙げられる。また、本発明の組成物を、人を含む哺乳動物に静脈内投与することで、例えば肝臓、肺、脾臓および/または腎臓へ送達され、送達臓器または部位の細胞内に本発明の組成物中の核酸を導入することができる。肝臓、肺、脾臓および/または腎臓の細胞は、正常細胞、腫瘍もしくは炎症に関連した細胞またはその他の疾患に関連した細胞のいずれでもよい。
【0164】
本発明の組成物中の核酸が、RNA干渉(RNAi)を利用した標的遺伝子の発現抑制作用を有する核酸であれば、インビボで哺乳動物の細胞内に、標的遺伝子の発現を抑制する該核酸等を導入することができ、標的遺伝子の発現の抑制ができる。投与対象は、人であることが好ましい。
【0165】
本発明における標的遺伝子が、例えば肝臓、肺、腎臓または脾臓において発現する遺伝子であれば、本発明の組成物を、肝臓、肺、腎臓または脾臓に関連する疾患の治療剤または予防剤として使用することができる。即ち、本発明は、上記説明した本発明の組成物を哺乳動物に投与する肝臓、肺、腎臓または脾臓に関連する疾患の治療方法も提供する。投与対象は、人であることが好ましく、肝臓、肺、腎臓または脾臓に関連する疾患に罹患している人がより好ましい。
【0166】
本発明の組成物は、肝臓、肺、腎臓または脾臓に関連する疾患の治療剤または予防剤に関するインビボの薬効評価モデルにおいて、標的遺伝子を抑制することの有効性を検証するためのツールとして使用することもできる。
【0167】
本発明の組成物は、例えば血液成分等の生体成分(例えば血液、消化管等)中での前記核酸の安定化、副作用の低減または標的遺伝子の発現部位を含む組織または臓器への薬剤集積性の増大等を目的とする製剤としても使用できる。
【0168】
本発明の組成物を、医薬品の肝臓、肺、腎臓または脾臓に関連する疾患等の治療剤または予防剤として使用する場合、投与経路としては、治療に際し最も効果的な投与経路を使用するのが望ましく、例えば口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内または静脈内等の非経口投与または経口投与を挙げることができ、好ましくは静脈内投与または筋肉内投与を挙げることができ、より好ましくは静脈内投与が挙げられる。
【0169】
投与量は、投与対象の病状や年齢、投与経路等によって異なるが、例えば核酸に換算した1日投与量が約0.1μg~1000mgとなるように投与すればよい。
【0170】
静脈内投与または筋肉内投与に適当な製剤としては、例えば注射剤が挙げられ、上述の方法により調製した組成物の分散液をそのまま例えば注射剤等の形態として用いることも可能であるが、該分散液から例えば濾過、遠心分離等によって溶媒を除去して使用することも、該分散液を凍結乾燥して使用する、および/または例えばマンニトール、ラクトース、トレハロース、マルトースもしくはグリシン等の賦形剤を加えた分散液を凍結乾燥して使用することもできる。
【0171】
注射剤の場合、前記の組成物の分散液または前記の溶媒を除去または凍結乾燥した組成物に、例えば水、酸、アルカリ、種々の緩衝液、生理食塩水またはアミノ酸輸液等を混合して注射剤を調製することが好ましい。また、例えばクエン酸、アスコルビン酸、システインもしくはEDTA等の抗酸化剤またはグリセリン、ブドウ糖もしくは塩化ナトリウム等の等張化剤等を添加して注射剤を調製することも可能である。また、例えばグリセリン等の凍結保存剤を加えて凍結保存することもできる。
【0172】
次に、実施例、および試験例により、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例および試験例に限定されるものではない。
なお、実施例に示されたプロトン核磁気共鳴スペクトル(1H NMR)は、400MHzで測定されたものであり、化合物および測定条件によっては交換性プロトンが明瞭には観測されないことがある。なお、シグナルの多重度の表記としては通常用いられるものを用いている。
【実施例1】
【0173】
2-メチル-1,3-ビス((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ)プロパン-2-アミン (化合物1)
2-アミノ-2-メチルプロパン-1,3-ジオール (東京化成工業社製, 0.300 g, 4.76 mmol)をテトラヒドロフラン (3 mL)に溶解させ、水素化ナトリウム (油性60%, 0.171 g, 7.13 mmol)を室温で加えた。発泡が収まった後、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニル メタンスルホナート (Nu-Chek Prep,Inc社製, 2.458 g, 7.13 mmol)を加え、加熱環流下2時間撹拌した。反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過した。ろ液を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=100/0~90/10)で精製することで、化合物1 (0.280 g, 収率16%)を得た。
ESI-MS m/z: 602 (M + H)+; 1H-NMR (CDCl3) δ:0.89 (t, J = 7.0 Hz, 6H), 1.03 (s, 3H), 1.24-1.38 (m, 32H), 1.49-1.58 (m, 4H), 2.05 (q, J = 6.8 Hz, 8H), 2.77 (t, J = 6.7 Hz, 4H), 3.20 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 3.24 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 3.41 (t, J= 6.6 Hz, 4H), 5.29-5.44 (m, 8H).
【実施例2】
【0174】
N,N,2-トリメチル-1,3-ビス((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ)プロパン-2-アミン (化合物2)
化合物1 (0.240 g, 0.399 mmol)を1,2-ジクロロエタン (1 mL)とメタノール (1 mL)の混合溶媒に溶解させ、ホルムアルデヒド (和光純薬工業社製, 37%水溶液, 0.144 mL, 1.99 mmol)、ナトリウムトリアセトキシボロヒドリド (東京化成工業社製, 0.211 g, 0.997 mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。反応混合物に水を加え、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウムで洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥後ろ過した。ろ液を減圧濃縮し、得られた残渣をNHシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=99/1~80/20)で精製することにより、化合物2 (0.191 g, 収率76%)を得た。
ESI-MS m/z: 630(M + H)+; 1H-NMR (CDCl3) δ: 0.89 (t, J = 7.0 Hz, 6H), 0.95 (s, 3H), 1.26-1.39 (m, 32H), 1.53-1.58 (m, 4H), 2.05 (q, J = 6.9 Hz, 8H), 2.31 (s, 6H), 2.77 (t, J = 6.3 Hz, 4H), 3.33-3.42 (m, 8H), 5.27-5.43 (m, 8H).
【0175】
参考例1
N-メチル-N-(2-メチル-1,3-ビス((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ)プロパン-2-イル)-2-ニトロベンゼンスルホンアミド(化合物IIc-1)
工程1
実施例1で得られる化合物1 (0.500 g, 0.831 mmol)をジクロロメタン (3 mL)に溶解させ、氷冷下トリエチルアミン (和光純薬工業社製, 2.55 mL, 18.3 mmol)および2-ニトロベンゼン-1-スルホニル クロリド (Sigma-Aldrich社製, 0.368 g, 1.66 mmol)加え、室温に戻した後1時間撹拌した。反応混合物に水を加え、ヘキサンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過した。ろ液を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=99/1~85/15)で精製することで、N-(2-メチル-1,3-ビス((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ)プロパン-2-イル)-2-ニトロベンゼンスルホンアミド (0.400 g, 収率61%)を得た。
ESI-MS m/z: 787(M + H)+
工程2
工程1で得られたN-(2-メチル-1,3-ビス((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ)プロパン-2-イル)-2-ニトロベンゼンスルホンアミド (0.200 g, 0.274 mmol)をテトラヒドロフラン (3 mL)に溶解させ、炭酸セシウム (和光純薬工業社製, 0.248 g, 0.726 mmol)およびヨウ化メチル (東京化成工業社製, 0.048 mL, 0.762 mmol)を加え、マイクロ波反応装置を用いて70℃で1時間攪拌した。反応混合物に水を加え、ヘキサンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過した。ろ液を減圧濃縮し、粗生成物として化合物IIc-1 (0.200 g, 収率91%)を得た。
ESI-MS m/z: 801(M + H)+
【実施例3】
【0176】
N,2-ジメチル-1,3-ビス((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ)プロパン-2-アミン (化合物3)
参考例1で得られたN-メチル- N-(2-メチル-1,3-ビス((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ)プロパン-2-イル)-2-ニトロベンゼンスルホンアミド (0.200 g, 0.250 mmol)をアセトニトリル (2 mL)に溶解させ、1-ドデカンチオール (東京化成工業社製, 0.149 mL, 0.624 mmol)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン (ナカライテスク社製, 0.0940 mL, 0.624 mmol)を加え、80℃で1時間撹拌した。反応混合物に水を加え、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。得られた残渣をNHシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=90/10~75/25)で精製することにより、化合物3 (0.070 g, 収率46%)を得た。
ESI-MS m/z: 616(M + H)+; 1H-NMR (CDCl3) δ: 0.89 (t, J = 6.8 Hz, 6H), 1.02 (s, 3H), 1.25-1.40 (m, 32H), 1.50-1.59 (m, 4H), 2.05 (q, J = 6.8 Hz, 8H), 2.32 (s, 3H), 2.77 (t, J = 6.3 Hz, 4H), 3.26 (s, 4H), 3.40 (t, J = 6.6 Hz, 4H), 5.28-5.43 (m, 8H).
【0177】
参考例2
N-エチル-2-メチル-1,3-ビス((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ)プロパン-2-アミン(化合物IIc-2)
参考例1と同様の方法で、工程2で用いたヨウ化メチルの代わりにヨウ化エチル (ナカライテスク社製)を用い、化合物IIc-2 (0.100 g, 通し収率32%)を得た。
ESI-MS m/z: 815(M + H)+
【実施例4】
【0178】
N-エチル-2-メチル-1,3-ビス((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ)プロパン-2-アミン (化合物4)
実施例3と同様の方法で、参考例1の化合物IIc-1の代わりに参考例2の化合物IIc-2を用いることで、化合物4 (0.045 g, 収率58%)を得た。
ESI-MS m/z: 630(M + H)+; 1H-NMR (CDCl3) δ: 0.89 (t, J = 7.0 Hz, 6H), 1.04 (s, 3H), 1.08 (t, J= 6.8 Hz, 3H), 1.24-1.40 (m, 32H), 1.48-1.57 (m, 4H), 2.05 (q, J = 6.8 Hz, 8H), 2.59 (q, J = 6.8 Hz, 2H), 2.77 (t, J = 6.3 Hz, 4H), 3.26 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 3.29 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 3.40 (t, J= 6.6 Hz, 4H), 5.28-5.44 (m, 8H).
【0179】
参考例3
11,11'-((2-メチル-2-((N-メチル-2-ニトロフェニル)スルホンアミド)プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ))ジウンデカン酸(化合物IIe-1)
工程1
参考例1で得られた化合物IIc-1 (1.80g, 2.09 mmol)をテトラヒドロフラン (8 mL)に溶解させ、四酸化オスミウム (和光純薬工業社製, マイクロカプセル化試薬10Wt%, 0.106 g, 0.0420 mmol)、N-メチルモルホリン-N-オキシド (ナカライテスク社製, 1.10 g, 9.40 mmol)、水 (2 mL)を加え、室温で終夜撹拌した。テトラオールへの反応の進行を確認した後、過ヨウ素酸ナトリウム (ナカライテスク社製, 2.24 g, 10.5 mmol)の水溶液 (2 mL)を加え、室温で3時間撹拌した。反応混合物に水を加え、水層をクロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=80/20~50/50)で精製することにより、N-メチル-N-(2-メチル-1,3-ビス((11-オキソウンデシル)オキシ)プロパン-2-イル)-2-ニトロベンゼンスルホンアミド (1.00 g, 収率75%)を得た。
ESI-MS m/z: 640(M + H)+
工程2
工程1で得られたN-メチル-N-(2-メチル-1,3-ビス((11-オキソウンデシル)オキシ)プロパン-2-イル)-2-ニトロベンゼンスルホンアミド (1.30g, 2.03 mmol)をアセトン (15 mL)に溶解させ、氷冷下Jones reagent (Sigma-Aldrich製, 三酸化クロム2 mol/L, 2.03 mL, 4.06 mmol)を加えて、室温で5分撹拌した。過剰量のJones reagentを2-プロパノール にてクエンチした後、反応で生じた固形物をろ過で除いた。ろ液に10%クエン酸水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後ろ過した。得られた残渣を減圧濃縮することで、粗生成物として化合物IIe-1 (1.30 g, 収率95%)を得た。
ESI-MS m/z: 671(M - H)-
【0180】
参考例4
ジ((Z)-ノネ-2-エン-1-イル) 11,11'-((2-メチル-2-((N-メチル-2-ニトロフェニル)スルホンアミド)プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ))ジウンデカノアート (化合物IIc’’-1)
参考例3で得られた11,11'-((2-メチル-2-((N-メチル-2-ニトロフェニル)スルホンアミド)プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ))ジウンデカン酸 (0.170 g, 0.253mmol)をジクロロメタン (3 mL)に溶解させ、(Z)-ノネ-2-エン-1-オール (東京化成工業社製, 0.169 mL, 1.01 mmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩 (0.194 g, 1.01 mmol), N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(0.0620 g, 0.505 mmol)を順に加え、室温で1時間撹拌した。反応混合物に水を加え、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=95/5~70/30)で精製することにより、化合物IIc’’-1 (0.188 g, 収率49%)を得た。
ESI-MS m/z: 921(M + H)+;
【実施例5】
【0181】
ジ((Z)-ノネ-2-エン-1-イル) 11,11'-((2-メチル-2-(メチルアミノ)プロパン-1,3-ジル)ビス(オキシ))ジウンデカノアート (化合物5)
実施例3と同様の方法で、N-メチル- N-(2-メチル-1,3-ビス((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ)プロパン-2-イル)-2-ニトロベンゼンスルホンアミドの代わりに参考例4で得られたジ((Z)-ノネ-2-エン-1-イル) 11,11'-((2-メチル-2-((N-メチル-2-ニトロフェニル)スルホンアミド)プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ))ジウンデカノアートを用いることで、化合物5 (0.057 g, 収率63%)を得た。
ESI-MS m/z: 736(M + H)+; 1H-NMR (CDCl3) δ: 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 6H), 1.02 (s, 3H), 1.24-1.40 (m, 42H), 1.50-1.66 (m, 14H), 2.06-2.13 (m, 4H), 2.30 (t, J = 7.2 Hz, 4H), 2.32 (s, 3H), 4.62 (d, J = 6.6 Hz, 4H), 5.48-5.56 (m, 2H), 5.60-5.68 (m, 2H).
【0182】
参考例5
ジノニル11,11'-((2-メチル-2-((N-メチル-2-ニトロフェニル)スルホンアミド)プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ))ジウンデカノアート(化合物IIc’’-2)
参考例3と同様の方法で、(Z)-ノネ-2-エン-1-オールの代わりに1-ノネノール (東京化成工業社製)を用い、化合物IIc’’-2 (0.090 g, 収率39%)を得た。
ESI-MS m/z: 925(M + H)+
【実施例6】
【0183】
ジノニル 11,11'-((2-メチル-2-(メチルアミノ)プロパン-1,3-ジル)ビス(オキシ))ジウンデカノアート (化合物6)
実施例5と同様の方法で、参考例4で得られる化合物IIc’’-1の代わりに参考例5で得られる化合物IIc’’-2を用い、化合物6 (0.051 g, 収率73%)を得た。
ESI-MS m/z: 740(M + H)+; 1H-NMR (CDCl3) δ: 0.88 (t, J = 7.0 Hz, 6H), 1.02 (s, 3H), 1.23-1.36 (m, 48H), 1.50-1.69 (m, 12H), 2.29 (t, J = 7.5 Hz, 4H), 2.31 (s, 3H), 3.26 (s, 4H), 3.40 (t, J = 6.7 Hz, 4H), 4.05 (t, J = 6.8 Hz, 4H).
【実施例7】
【0184】
実施例2で得られた化合物2を用いて、以下のように組成物を調製した。用いた核酸は、センス鎖[5'- CCCUGUCUUGGUUUCAAUUAA -3'(塩基に結合する糖は全てリボース):配列番号1]と、アンチセンス鎖[5'- AAUUGAAACCAAGACAGGGUG-3'(塩基に結合する糖は全てリボース。5’末端はリン酸基で修飾されている。):配列番号2]からなる、血液凝固第7因子(Blood Coagulation Factor VII、以下f7と表す)遺伝子の発現を抑制する抗f7 siRNAであり、ジーンデザイン社から入手した(以下f7 siRNAという)。核酸は蒸留水で24 mg/mLに調製して用いた。
化合物2/PEG-DMPE Na(日油社製)=57.3/5.52 mmol/Lとなるように、各試料を秤量し、塩酸およびエタノールを含有する水溶液に懸濁させ、vortex攪拌ミキサーで攪拌および、加温を繰り返して均一な懸濁液を得た。この懸濁液を室温下で、0.05 μmのポリカーボネートメンブランフィルター(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製、型番:800308)に通し、化合物2/PEG-DMPE Naの粒子(リポソーム)の分散液を得た。粒子径測定装置で得られたリポソームの平均粒子径を測定し、30 nmから100 nmの範囲内であることを確認した。得られたリポソームの分散液と、f7 siRNA溶液を、リポソームの分散液:f7 siRNA-1溶液=3:1の割合で混合し、さらに3倍量の蒸留水を加えて混合することで化合物2/PEG-DMPE Na/ f7 siRNA-1複合体の分散液を調製した。
一方、化合物2/PEG-DMPE Na(日油社製)/DSPC(日油社製)/コレステロール(日油社製)= 8.947/0.147/5.981/14.355 mmol/Lとなるように、各試料を秤量しエタノールに溶解させ、脂質膜構成成分の溶液を調製した。
得られた脂質膜構成成分の溶液を、得られた化合物2/PEG-DMPE Na/ f7 siRNA複合体の分散液と、1:1の割合で混合し、さらに数倍量の蒸留水を混合し、粗製剤を得た。
得られた粗製剤はアミコンウルトラ(Millipore社製)を用いて濃縮後、生理食塩水で希釈し、0.2 μmのフィルター(東洋濾紙社製)を用いてクリーンベンチ内でろ過した。得られた組成物のsiRNA濃度を測定し、投与濃度にあわせて生理食塩水を用いて希釈することで、製剤(化合物2およびf7 siRNAを含有する組成物)を得た。
【実施例8】
【0185】
実施例3で得られた化合物3を用いて、実施例7と同様にして製剤(化合物3およびf7 siRNAを含有する組成物)を得た。
【0186】
比較例1
化合物2を、特許文献3記載の方法で合成したN,N-ジメチル-N-(2-((9Z, 12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニルオキシ)-1 -(((9Z, 12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニルオキシ)メチル)エチル)アミン (化合物A)にした以外、実施例7と同様の方法で製剤を調製した。
【0187】
比較例2
化合物2を、特許文献4記載の方法で合成した2-(ジメチル)-3-[{(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イル}オキシ]-2-([{(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イル}オキシ]メチル)プロパン-1-オール (化合物B)にした以外、実施例7と同様の方法で製剤を調製した。
【0188】
化合物AおよびBの構造を下記表3に示す。
【0189】
【0190】
実施例7、8と比較例1、2で得られた製剤(組成物)の平均粒子径を粒子径測定装置で測定し、その結果を表3に示した。
【0191】
【0192】
試験例1
実施例7、8および比較例1、2得られた各製剤(化合物2、3、AおよびBのそれぞれと、f7 siRNAを含有する組成物)について、それぞれ以下の方法によりインビボ薬効評価試験を実施した。なお、各製剤は、試験に合わせて生理食塩水で希釈して用いた。
マウス(Balb/c、日本クレアより入手)を馴化飼育後、各製剤を、siRNA濃度で0.03、および/または0.3mg/kgでマウスに静脈内投与した。投与から48時間後に採血し、採取した血液を微量高速冷却遠心機(TOMY MX305:トミー精工社製)を用いて8000rpm、8分間、4℃で遠心分離した。BIOPHEN VII kit(ANIARA社製 cat#: A221304)を用いて、製品の説明書に記載された方法に従い、標準液および、血漿サンプル中の吸光度をARVO(405nm)で測定した。得られた吸光度から検量線を作成し、血漿中のFactor VIIタンパク濃度を算出した。なお例数は各群3匹とした。
算出された血漿中のFactor VIIタンパク濃度の結果を、
図1に示す。
【0193】
図1から明らかなように、実施例7および8で得られた各製剤(化合物2、3のそれぞれと、f7 siRNAを含有する組成物)を投与することによって、Factor VII遺伝子の発現が強く抑制された。また、実施例7、8で得られた各製剤は比較例1、2で得られた製剤(化合物A、Bのそれぞれと、f7 siRNAを含有する組成物)よりもFactor VII遺伝子の発現を強く抑制した。
よって、本発明の組成物は、核酸を細胞内等に導入することができ、本発明の化合物は、インビボで細胞内に核酸を送達することを容易にすることが明らかとなった。
【実施例9】
【0194】
実施例5で得られた化合物5を用いて、以下のように組成物を調製した。用いた核酸は、センス鎖[5'-rGrCrCrArGrArCrUrUrUrGrUrUrGrGrArUrUrUrGrA -3'(rが付された塩基に結合する糖はリボースである)]と、アンチセンス鎖[5'-rArAmArUmCrCmArAmCrAmArAmGrUmCrUmGrGmCmUmU-3' (r、mが付された塩基に結合する糖は、それぞれリボース、2’位の水酸基がメトキシ基で置換されているリボースである)]からなる、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシル基転移酵素(Hypoxanthine-guanine phosphoribosyltransferase 1、以下HPRT1と表す)遺伝子の発現を抑制する抗HPRT1 siRNAであり、ジーンデザイン社から入手した(以下HPRT1 siRNAという)。核酸は蒸留水で24 mg/mLに調製して用いた。
化合物5/PEG-DMPE Na(日油社製)=57.3/5.52 (すべての数値単位はmmol/Lである)となるように、各試料を秤量し、塩酸およびエタノールを含有する水溶液に懸濁させ、vortex攪拌ミキサーで攪拌および、加温を繰り返して均一な懸濁液を得た。この懸濁液を室温下で、0.05 μmのポリカーボネートメンブランフィルター (GEヘルスケア・ジャパン社製)に通し、化合物5/PEG-DMPE Naの粒子(リポソーム)の分散液を得た。粒子径測定装置(マルバーン社製、Zetasizer Nano ZS)で得られたリポソームの平均粒子径を測定し、30 nmから100 nmの範囲内であることを確認した。得られたリポソームの分散液と、HPRT1 siRNA溶液を、リポソームの分散液: HPRT1 siRNA溶液=3:1の割合で混合し、さらに29倍量の蒸留水を加えて混合することで化合物5/PEG-DMPE Na/ HPRT1 siRNA複合体の分散液を調製した。
一方、化合物5/PEG-DMPE Na(日油社製) /コレステロール(日油社製)= 8.947/0.147/20.336(すべての数値単位はmmol/Lである)となるように、各試料を秤量しエタノールに溶解させ、脂質膜構成成分の溶液を調製した。
得られた脂質膜構成成分の溶液に4倍量のエタノールを追加し、脂質膜構成成分の溶液と、化合物5/PEG-DMPE Na/ HPRT1 siRNA複合体の分散液とが、2:3の割合になるように混合し、さらに数倍量の蒸留水と混合し、粗製剤を得た。
得られた粗製剤はアミコンウルトラ(ミリポア社製)を用いて濃縮後、生理食塩水で希釈し、0.2 μmのフィルター(東洋濾紙社製)を用いてクリーンベンチ内でろ過した。得られた組成物のsiRNA濃度を測定し、生理食塩水を用いて適切な濃度に希釈することで 、製剤 (化合物5およびHPRT1 siRNAを含有する組成物)を得た。
【実施例10】
【0195】
実施例6で得られた化合物6を用いて、実施例9と同様にして製剤(化合物6およびHPRT1 siRNAを含有する組成物)を得た。
【0196】
実施例9および実施例10で得られた製剤(組成物)の平均粒子径を粒子径測定装置で測定し、その結果を表4に示した。
【0197】
【0198】
試験例2:製剤のヒト肺線維芽細胞株におけるインビトロ活性評価試験
実施例9および実施例10で得られた製剤の活性を調べるため、以下に記載の方法で評価した。
ヒト肺線維芽細胞株Nomal Human Lung Fibroblasts(ロンザ社製、 CC-2512)を、15%ウシ胎仔血清(FBS)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(サーモフィッシャー社製)を含むDMEM培地(サーモフィッシャー社製)中、4000細胞数/100μL/ウェルで播種し、37℃、5%CO2条件下で22~24時間培養した。その後、実施例9および10で調製した各種製剤をsiRNA濃度として添加後濃度が5nMまたは25nMとなるように濃度を調製し、100μLを細胞に添加した。また陰性対照として、上記15%FBSおよび1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むDMEM培地 100μLを細胞に添加した。
各種製剤を処理した細胞を37℃の5%CO2インキュベーター内で24時間培養し、氷冷したPBSで洗浄し、TaqMan Fast Cells-to-CT kit (サーモフィッシャー社製、4399003)を用い、添付の使用説明書に従いtotal RNAを回収、cDNAを作製した。
得られたcDNAをPCR反応の鋳型に用い、アプライドバイオシステム クオントスタジオ 12K フレックス(Applied Biosystems QuantStudio 12K Flex)、TaqMan Fast Universal PCR Master Mix(2X)(アプライドバイオシステムズ社製、4352042)およびTaqMan probe (TaqMan(登録商標) Gene Expression Assays、HPRT1 : Hs02800695_m1、PPIA : Hs04194521_s1)によりHPRT1遺伝子および構成的発現遺伝子であるPPIA(peptidylprolyl isomerase A)遺伝子に特異的なPCR増幅をそれぞれ行い、mRNA量の定量を行った。PCR反応の条件はTaqMan Fast Universal PCR Master Mix(2X)添付の使用説明書に従った。検体のmRNA量は、PPIAのmRNA量に対するHPRT1のmRNA量を算出し、陰性対照処理群における当該値を1としたときの相対的な割合として算出した。HPRT1のmRNA量についての結果を表5に示す。
【0199】
【0200】
表5から明らかなように、実施例9および10で得られた各製剤を細胞に添加することによって、HPRT1遺伝子の発現が強く抑制された。
よって、本発明の組成物は、核酸を細胞内等に導入することができ、本発明の化合物は、インビトロで細胞内に核酸を送達することを容易にすることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0201】
本発明の化合物、またはその製薬上許容し得る塩や組成物は、哺乳動物等に投与することにより、核酸を細胞内等に容易に導入することができる点で、例えば、医薬としての産業上の利用可能性を有する。
【配列表フリーテキスト】
【0202】
配列番号1は、血液凝固第7因子のsiRNAセンス鎖を示す。
配列番号2は、血液凝固第7因子のsiRNAアンチセンス鎖を示す。
配列番号3は、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシル基転移酵素1のsiRNAセンス鎖を示す。
配列番号4は、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシル基転移酵素1のsiRNAアンチセンス鎖を示す。
【配列表】