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特許7043418マルチサイト不均一系触媒、その調製方法、及びそれを用いてポリオレフィンを得るプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】マルチサイト不均一系触媒、その調製方法、及びそれを用いてポリオレフィンを得るプロセス
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/653 20060101AFI20220322BHJP
   C08F 4/654 20060101ALI20220322BHJP
   C08F 4/656 20060101ALI20220322BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
C08F4/653
C08F4/654
C08F4/656
C08F10/00 510
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018556477
(86)(22)【出願日】2016-05-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 BR2016050113
(87)【国際公開番号】W WO2017185149
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2019-03-12
(31)【優先権主張番号】BR1020160093783
(32)【優先日】2016-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BR
(73)【特許権者】
【識別番号】512059800
【氏名又は名称】ブラスケム ソシエダッド アノニマ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】フィッシュ アドリアーノ ジラルディ
(72)【発明者】
【氏名】カルドーゾ マイラ ノエリ
(72)【発明者】
【氏名】ブランビッラ ロドリゴ
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-038806(JP,A)
【文献】特開平05-214024(JP,A)
【文献】特開平06-192317(JP,A)
【文献】特開昭57-117507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/60-4/70
C08F 10/00-10/14
C08F 110/00-110/14
C08F 210/00-210/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン重合及びオレフィンとアルファ-オレフィンの共重合の反応に適した、マルチサイト不均一系触媒であって、(i)担体、その活性成分としての(ii)チタンオキソポリマー、及び(iii)還元剤を含み、該担体が塩化マグネシウムであり、該チタンオキソポリマーが、オリゴマー構造、及び下記式(1)で与えられる化学式を有する有機金属化学化合物であることを特徴とする、マルチサイト不均一系触媒。

(Rapa(O-Ti-O)nb(Rbq (1)

(式中、(O-Ti-O)はn単位で形成されるオリゴマーのモノマー単位であり;Ra,bは同じ又は異なる置換基であって、ハロゲン又は線状、分岐、若しくは環状、更には芳香鎖のアルコキシ基であってよく;Ma,bはTiであり、ここで置換基の個数p及びqは対応するTiの配位数を満たさなければならない)
【請求項2】
チタンオキソポリマーが担体に含侵又は沈殿技術によって組み込まれたチタンオキソポリマーであることを特徴とする、請求項1記載のマルチサイト不均一系触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマルチサイト不均一系触媒を調製する方法であって、チタンオキソポリマーが担体に含侵若しくは沈殿によって組み込まれることを含むこと、又はゾルーゲル経路によってオキソポリマーを合成することを特徴とする、方法。
【請求項4】
チタンオキソポリマーが非加水分解ゾルーゲル経路で合成されることを特徴とする、請求項3に記載のマルチサイト不均一系触媒を調製する方法。
【請求項5】
チタンオキソポリマーが、塩化チタン(IV)とチタンテトラアルコキシド(IV)の化学反応を通じて生成し、ルイス酸によって触媒されることを特徴とする、請求項3又は4に記載のマルチサイト不均一系触媒を調製する方法。
【請求項6】
チタンオキソポリマーの合成反応が、下記式2a及び2bに従う試薬の化学量論比に従って進行することを特徴とする、請求項3から5のいずれか1項に記載のマルチサイト不均一系触媒を調製する方法。

CT:TAT=(1.5から3):1 (2a)
TAT:CT=(1.5から3):1 (2b)
(式中:CTは塩化チタン(IV)を、TATはチタンテトラアルコキシド(IV)を示す)
【請求項7】
チタンオキソポリマーが、ルイス酸に触媒され、温度90℃から150℃、全反応時間2時間から12時間、撹拌を提供する閉鎖反応装置中で、塩化チタン(IV)及びチタンテトラアルコキシド(IV)の化学反応によって生成することを特徴とする、請求項3からのいずれか1項に記載のマルチサイト不均一系触媒を調製する方法。
【請求項8】
担体が塩化マグネシウムであり、物理的(か焼又は粉砕)又は化学的(表面修飾剤との反応又は溶解及び再沈殿)方法によって処置されることを特徴とする、請求項3から7のいずれか1項に記載のマルチサイト不均一系触媒を調製する方法。
【請求項9】
ポリオレフィンを得る方法であって、請求項1又は2に記載のマルチサイト不均一系触媒の存在下での、オレフィン重合反応及び/又はオレフィンとアルファ-オレフィン共重合反応を含むことを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項9に記載のポリオレフィンを得るための方法であって、マルチサイト不均一系触媒を、その他の触媒タイプ及びオレフィンを重合すること及びオレフィンとアルファ-オレフィンを共重合することができる化合物と組み合わせて用いることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、オレフィン重合反応及び/又はオレフィンとアルファ-オレフィンの共重合反応のための適切な触媒の調製のためのチタンベースオキソポリマーの合成及び使用に関連する。本発明は更に、チタンベースオキソポリマーから生成される触媒の合成、及びそれを用いるオレフィン重合反応及び/又は共重合反応を開示する。
【0002】
(技術水準についての記述)
いくつかの化学化合物はオレフィン重合反応及びオレフィンとアルファ-オレフィンの共重合反応を触媒することが可能である。これらの異なる化合物をより良く区別するため、それらは次のように分類される:(i)チーグラー・ナッタ触媒、(ii)フィリップス触媒、(iii)メタロセン触媒、及び(iv)ポストメタロセン触媒。別の可能な分類は、触媒に存在する活性部位のタイプ及び性質の多様性を参照し、シングルサイト触媒及びマルチサイト触媒を含む。更に、オレフィン重合及びオレフィンとアルファ-オレフィンの共重合に用いられる触媒は、それらの、重合反応媒体中における溶解性に応じて分類され、均一系触媒は媒体に溶解可能であり、不均一系触媒は重合媒体中で不溶性である。触媒のタイプ及びそれらのオレフィン重合における使用についてのより詳細な記述は、B. Krentsel, Y. V. Kissin, V. J. Kleiner 及び L. L. Stotskaya, Polymers and Copolymers of Higher Alpha-olefins, Cincinnat: Hanser, 1997に見いだされる。
適切な触媒は、オレフィンとアルファ-オレフィンの共重合同様、オレフィンを高い生産性で重合し、例えば筒状のフィルム及びドラムのような、ポリオレフィンが典型的に適用される異なる製品を製造するため適切な平均モル質量及びモル質量分布のポリマーがもたらされるようでなければならない。
【0003】
国際特許出願第093930/2013号は、懸濁技術プラント(suspension technology plants)における使用のためのチーグラー・ナッタ触媒の合成における外部ジアルキルジアルコキシシランドナーの使用に関連する。本出願の出願人は、この化合物の使用が、前記外部ドナーの不存在下で同様に合成された触媒に比較して、より大きい平均モル質量及びより狭いモル質量分布を有する触媒を生成することを宣言する。同様に国際特許出願第092453/2013号は、異なるチーグラー・ナッタ触媒を、塩素化アルカン及びアルコキシシランのような修飾化合物の使用と一緒に組合せると、直接重合反応容器に添加した場合、ポリマーのモル質量分布が管理され、したがって差別化された特性を有するものが生産されうることを開示している。米国特許第8,557,931号は、差別化された特性を有するポリマーが、細孔形態の適切な特徴を伴う塩化マグネシウム担体から合成されるチーグラー・ナッタ触媒を用いる懸濁プロセスを通じて得られることを開示している。この特許に従うと、前記触媒は、筒状フィルムを製造するためのポリエチレンを生産することが可能であり、該フィルムは、バブル安定性及びゲル含有量の低減とともに処理され、それらの機械的及び光学的特性を最大化する。懸濁重合プロセスにおける触媒性能の観点から、特許文献PI8803596-4、PI9002290-4、US5.292.837及びUS5.648.309は、ポリマー粉の見かけ密度及びそれらの平均サイズは、触媒合成、とりわけ、塩化マグネシウム担体の合成から、適切に管理することができることを開示している。国際特許出願第069400/2012号は、粒子状で平均直径が1μmのマグネシウムエトキシレート先駆体の塩素化からの塩素化マグネシウム担体の合成が、高い寸法安定性を有する吹込み成形品のためのポリエチレンを生産することができる触媒をもたらすことを記載している。
【0004】
一般に、技術水準を記載した文献に例示されているように、エチレンを重合及び/又は共重合することができる触媒を生成するため、チーグラー・ナッタ触媒の合成において異なる方法を用いることができ、それによって差別化された特性を有するポリマーが生成する。レビューにおいて言及した文献に従うと、例えば、改質剤(modifier)、外部ドナーの使用又は一定の細孔形態、例えば平均直径、を有する担体の使用により生成されるポリマーの特性について、優れた性能を有する触媒を生成することができる。
オリゴマー分子構造を示す有機金属化合物は、技術水準において、オレフィンを重合及び/又はオレフィンとアルファ-オレフィンを共重合することができる化学化合物として開示されていない。更に、これらの化合物は、触媒を修飾するために用いられていない。このことは、この類の化合物を産業的に魅力あるものとしている。従って、オリゴマー分子構造を有する有機金属化学化合物から生成される新しい触媒を評価し、特徴づけることは、高生産性及び向上した特徴を有するポリマーを得るため、オレフィン重合及び共重合の反応を触媒するための最も有望な代替物を提供するにあたり、極めて重要である。
【0005】
(発明の目的)
本発明の目的は、マルチサイト不均一系触媒を提供することであり、その処方は、向上した特徴を有するポリオレフィンを生成するためのチタンベースオキソポリマーを含み、その特性は意図する適用に従って有利に調節することができる。本発明において記述されるオキソポリマーはチタンベース有機金属化合物であって、オリゴマー構造を有するものである。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、オリゴマー分子構造を有するチタンベース有機金属化学化合物であって、オレフィンを重合し及びオレフィンとアルファ-オレフィンを共重合することができる触媒を調製するために適切なものに関する。より具体的には、前記化合物は、チタンオキソポリマーと呼ばれ、オレフィン重合及び/又はオレフィンとアルファ-オレフィンの共重合のためのマルチサイト不均一系触媒を生成するために用いられる。
チタンオキソポリマーを表す化学式は、下記式(1)で与えられる:

(Rapa(O-Ti-O)nb(Rbq (1)

式中、(O-Ti-O)はn単位で形成されるオリゴマーのモノマー単位であり;Ra,bは、互いに同じ又は異なる置換基であって、ハロゲン又は直鎖、分岐、環状、又は芳香族鎖のアルコキシ基であってよく;Ma,bは、互いに同じ又異なり、周期表の第4、第5又は第6族遷移金属、あるいは第14族の半金属であってよい。条件として、置換基の個数p及びqは、対応するMの配位数を満たさなければならない。
本発明において、式(1)で表されるチタンオキソポリマーは、文献を通じてよく知られている技術である、非加水ゾルーゲル経路で合成することが可能である。この技術の例は、ゾルーゲル合成に基づくものの中でも、オリゴマー構造を有する有機金属化合物、特にチタンオキソポリマーを合成するため、文献(C. J. Brinker and G. H. Scherer, “Sol-gel Science”, New York: Academic Press, 2010)から入手可能である。
【0007】
本発明に記載される有機金属オリゴマー化合物は、オレフィン重合反応及び/又はオレフィンとアルファ-オレフィンの共重合反応を触媒することが可能であり、その先駆試薬であるモノマーの同等の体積よりも2から100倍大きな分子体積を有する。
触媒合成中、チタンオキソポリマーの不均一系担体への取り込みは、例えば、含侵又沈殿のような文献公知技術を用いて行うことができる(R. L. Augustine, Heterogeneous Catalysis for the Synthetic Chemist, New York: Marcel Dekker, 1995; J. W. Geus 及び J. A. R. van Veen, “Preparation of Supported Catalysts”, in Catalysis, J. A. Moulijn, P. W. N. M. van Leeuwen 及び R. A. van Santen, Eds., Amsterdam, Elsevier, 1993, pp. 342-360; F. Schuth, M. Hesse 及び K. K. Unger, “Precipitation and Coprecipitation em Handbook of Heterogeneous Catalysis”, vol. 1, G. Ertl, H. Knozinger, F. Schuth 及び J. Weitkamp, Eds., Weinheim, Wiley-VCH, 2008, 及び G. Rothenberg, Catalysis, Weinheim: Wiley-VCH, 2008)。
【図面の簡単な説明】
【0008】
(図面の簡単な説明)
図1】実施例2で試験されたCHOT115触媒とブランク触媒の比較。
図2】実施例3で行われたパイロットプラントにおける試験の運転パラメーター。ppC2は反応容器中のエチレンの部分圧力であり、H2/C2は反応容器ドーム中の水素のエチレンに対するモル比、及びC4/C2は、反応容器ドーム中の1-ブタン(コモノマーとして用いられる)のエチレンに対するモル比である。
図3】実施例3で試験されたCHOT115触媒及びCHInd触媒により生産されたポリマーのIF及び密度領域
図4】実施例3に従い、パイロットプラント中の試験反応容器の異なる条件におけるCHOT115及びCHIndの触媒生産性
図5】実施例3においてCHOT115及びCHIndによって生産されたポリマーの平均モル質量。(a)Mw及び(b)Mz。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(発明の詳細な説明)
本発明は、チタンオキソポリマーと呼ばれる有機金属化学化合物に関連し、該化合物は、オリゴマー分子構造を有し、オレフィン重合反応及び/又はオレフィンとアルファ-オレフィンの共重合反応を触媒する能力を有する。チタンオキソポリマーは、マルチサイト不均一系触媒を生成するために用いられ、含侵又は沈殿によってそこに組み込まれる。
【0010】
チタンオキソポリマー合成
チタンオキソポリマー合成は、この結果を達成するため文献中で広く知られた技術の中でも、非加水分解ゾルーゲル経路を介して行なわれる。非加水分解ゾルーゲル経路(L. Bourget, R. J. P. Corriou, D. Leclereq, P. H. Mutin 及び A. Vioux, “Non-hydrolytic Sol-gel Routes to Silica”, Journal Non-crystaline Solids, vol. 242, pp. 81-92, 1998)においては、チタンオキソポリマーは、塩化チタン(IV)とチタンテトラアルコキシド(titanium tetralkoxide)(IV)の化学反応によって、例えば、塩化第二鉄(III)、塩化アルミニウム又は塩化マグネシウムのようなルイス酸で触媒することによって生成することができる。
反応は温度約90-150℃で行われるが、用いられるルイス酸によって、試薬が完全に転換することを確実にするため、下げたり上げたりすることができる。
全反応時間は、約2-12時間である。
反応は、好ましくは、撹拌下の閉鎖反応容器中並びに加熱及び冷却に適したシステム中で行われなければならない。試薬及び生成物の両方が湿気及び酸素に対して敏感であることから、それらは不活性雰囲気中で取り扱われるべきである。
反応生成物、すなわちチタンオキソポリマーは、副生成物の一部及び転換しなかった試薬同様、反応溶媒中の溶液状で得られる。好ましい実施形態においては、チタンオキソポリマーの精製を含む工程は行われない。しかしながら、最終溶液は濃縮又は希釈することができる。
重合は、式(2)のスキームに従って重縮合反応によって行われることから、重合度は試薬の化学量論比によって管理される。

x+Py → Px+y +L
x∈{1,2,.....∞};y∈{1,2,.....∞} (2)

式中、Px及びPyは、重合度がそれぞれx及びyのポリマー鎖を示し、Lは低いモル質量の副生成物である。
【0011】
先述に従って、チタンオキソポリマーの合成反応は、重合触媒を生成することを目的として、式(3)に示される化学量論比に従い進めることができる。

CT:TAT=(1,5-3):1 (3a)
TAT:CT=(1,5-3):1 (3b)

式中、CTは、塩化チタン先駆体(IV)を、TATはチタンテトラアルコキシド(titanium tetralkoxide)(IV)を示す。
チタンオリゴポリマーの平均分子サイズは、重合度による。異なるサイズのチタンオキソポリマーを用いて生成された触媒は、触媒生産性及び生成するポリオレフィンの特性の両方において、異なる性能を示す。実施例1に示される結果は、試薬のモル比が、チタンオキソポリマーから生成された触媒の性能にもたらす影響について詳細に示している。
【0012】
アルコキシド基は、ただ一つのアルキル基又は以下の基の組合わせによってさえ置き換えられてよい:例えば、メチル、エチル、プロピル、2-プロピル、ブチル、2-ブチル、2, 2-ジメチルエチル、 2-エチルヘキシル。アルキル基の選択は、(i)それが反応生成物に与える溶解性、及び(ii)主としてポリマーの望ましい性質の観点から、合成されたチタンオキソポリマーを用いて生成された触媒に与える性能、に依る。
ルイス酸のタイプ及びこのゾル-ゲル反応で用いられる量が、文献(L. Bourget, R. J. P. Corriou, D. Leclereq, P. H. Mutin e A. Vioux, “Non-hydrolytic Sol-gel Routes to Silica”, Journal Non-crystaline Solids, vol. 242, pp. 81-92, 1998)に示唆されるように、反応時間に影響を与える。適切なルイス酸の選択は、反応時間及びそれらの商業的入手可能性に依る。一般に、ゾルーゲル反応中で用いられるルイス酸の量は、用いられる塩化チタン及びチタンテトラアルコキシド(titanium tetralkoxide)の質量の和に対して約0.2質量%である。
反応媒体は、好ましくは、有機脂肪族溶媒である。しかしながら、適切な溶媒の選択は、試薬の反応性、試薬の溶解性、ゾルーゲル反応の生成物及び副生成物、揮発性、精製及びリサイクル、並びに商業的入手可能性に依る。
【0013】
典型的なチタンオキソポリマー合成の方法は以下のとおりである。
(i)閉鎖反応容器中、撹拌下で、全ての試薬、塩化チタン(IV)又はチタンテトラアルコキシド(titanium tetralkoxide )(IV)を溶媒中で溶解する。好ましくは、チタンテトラアルコキシド(titanium tetralkoxide)と溶媒としてヘキサンを用いる。
(ii)工程(i)で得られた混合物に、ルイス酸を全て加える。好ましくは、塩化アルミニウムをルイス酸として用いる。
(iii)ゆっくり、第2試薬、塩化チタン(IV)又はチタンテトラアルコキシド(titanium tetralkoxide )(IV)を、工程(ii)の混合物に添加する。この成分の添加速度は、反応媒体の温度が20-50℃の間、好ましくは40℃未満となるよう管理されるような速度でなければならない。好ましくは、塩化チタン(IV)をこの工程で添加する。
(iv)工程(iii)の混合物により形成される反応媒体の温度を、90-150℃、好ましくは120℃に上げる。
(v)(iv)から得られた反応媒体を、2-12時間、好ましくは4時間、撹拌したままにする。
(vi)(v)で確立した時間の経過後、室温で冷却し、得られた状態でチタンオキソポリマーの溶液を貯蔵する。
【0014】
触媒調製
合成されたチタンオキソポリマーを、マルチサイト不均一系触媒を調製するために用いる。これらの触媒は、オレフィンを重合及び/又はオレフィンとアルファ-オレフィンを共重合することができる。
不均一系触媒は主として2つの部分から成る:(i)担体及び(ii)触媒複合体。担体は触媒複合体を保持する特有の機能を有する一方、後者は重合反応を誘発する。
本発明において、チタンオキソポリマーの担体への組み込みは、(i)チタンオキソポリマー溶液からそれらの用いることができる細孔容積への含侵、又は(ii)チタンオキソポリマーの用いることができる担体表面での沈殿によって行うことができる。本発明において、沈殿が技術的観点から好ましい。
【0015】
塩化マグネシウム及びシリカクロリドはオレフィン重合触媒の担体として用いられる典型的な材料である。しかしながら、有機又は無機両方のその他の材料の使用は、広く研究され、文献を通じて広く知られている(例えば、J. C. Chadwick, T. Garoff 及び J. R. Severn, “Traditional Heterogeneous Catalyst” in Tailor-made Polymers, J. R. Severn and J. C. Chadwick, Eds., Weinheim, Wiley-VCH, 2008が挙げられる)。本発明において、塩化マグネシウムが好ましい。
一般に、また材料に関わりなく、担体は、その表面が活性サイトを受け入れるのに適応するよう、物理的又は化学的に処置される必要がある。物理的処置としては、例えば、か焼及び粉砕が挙げられる。一方、化学的処置としては、担体と表面修飾剤の間での反応、又は担体の溶解及び再沈殿さえ挙げられる(Y. Kissin, Alkene Polymerization Reaction with Transition Metal Catalysts, Amsterdam: Elsevier, 2008, pp. 277-284; 及び J. C. Chadwick, T. Garoff 及び J. R. Severn, “Traditional Heterogeneous Catalyst” in Tailor-made Polymers, J. R. Severn 及び J. C. Chadwick, Eds., Weinheim, Wiley-VCH, 2008)。
【0016】
典型的な触媒調製の方法は、好ましくは塩化マグネシウムを担体として用い、それらの中のチタンオキソポリマーを固定化する工程を含み、以下に列記するとおりである。
(i)ボールミル中で、担体を、所望により内部ドナーの存在下で粉砕する。好ましくは、担体を2-12時間、好ましくは4時間、室温で粉砕する。ザウター平均粒径は、1-50μm、好ましくは8-12μmのオーダーであるべきである。
(ii)工程(i)の粉砕後、処置した担体を貯蔵する。
(iii)撹拌容器に溶媒体積を添加し、続いて工程(ii)で処置し、貯蔵した担体を添加する。このように形成された懸濁液を、温度2-10℃の間、好ましくは5℃で維持する。
(iv)ゆっくり塩化チタンを工程(iii)で形成された懸濁液に添加する。添加中の懸濁液の温度は、必要に応じて冷却を行うことで、2-10℃、好ましくは5℃に維持すべきである。
この工程を、処置した塩化マグネシウムが所望の量の塩化チタンを吸収するよう繰り返してよい。
(v)工程(iv)で得られた固体を濾過し、真空下で乾燥する。このように、得られた固体は、プレ触媒と呼ばれ、それが得られたように貯蔵することができる。
(vi)一定量の溶媒を撹拌容器に添加する。
(vii)工程(v)のプレ触媒を、工程(vi)の溶媒に添加し、得られた懸濁液を撹拌し続ける。
(viii)還元剤をすべて工程(vii)の懸濁液に添加し、撹拌したままにする。
(ix)撹拌下で、溶媒中のチタンオキソポリマーを、工程(viii)で得られた懸濁液に添加する。チタンオキソポリマー溶液の添加速度は、同溶液中でかたまりが形成されることを避ける又は容器の壁に溶着することを避けるような速度でなければならない。必要に応じて、チタンオキソポリマー溶液は希釈することができる。
(x)工程(ix)で得られた懸濁液の温度を、40-100℃、好ましくは60℃に上げ、1-10時間、好ましくは2時間、撹拌したままにする。
(xi)工程(x)に記載された撹拌時間の後、懸濁液の温度を下げ、マルチサイト不均一系触媒として用いるため、それが得られたように貯蔵する。
【0017】
本発明のチタンオキソポリマーベースのマルチサイト不均一系触媒は、オレフィン重合反応及び/又はオレフィンとアルファ-オレフィンの共重合反応において成功裏に用いることができる。
本発明に従った触媒の生産性及び該触媒を用いて得られるポリマーの特性は、特に平均モル質量において優れている。チタンオキソポリマーでを用いて生成された不均一系触媒は、平均モル質量の調節剤として用いられた場合、水素に対して低減された反応性を有する。
更に、オレフィンを重合又はオレフィンとアルファ-オレフィンを共重合することができる他のタイプの触媒化合物との組合せは、モル質量分布及び/又は化学組成分布を正確に調節したポリマーの生成を可能とする。したがって、適用に対して特定の特性を有するポリマーを、本発明に記載の有機金属化合物を用いることによって生成することができる。
実施例はその生成にチタンオキソポリマーを用いて合成された触媒の重合能力、及び生成したポリマーの差別化された特性をその用途とともに強調するため記載される。
【実施例
【0018】
(実施例)
触媒処方におけるチタンオキソポリマーの使用についてのいくつかの実験が以下に提供される。これらの実験データは、本発明のスコープ及び範囲を如何なる方法によっても限定するものと考えられることなく示す。本発明の適用性を強調するため、実施例1及び2は、実験室スケールで行われた試験を参照する。一方、実施例3は、パイロットプラントスケールでのエチレンと1-ブテンの共重合における、チタンオキソポリマーを用いた合成触媒の使用を示す。
【0019】
(実施例1)
本実施例において、チタンオキソポリマーはCT:TAT=1:1.5及びCT:TAT=1:3のモル比で合成され、各生成したチタンオキソポリマーは、マルチサイト不均一系ポリマーを生成するために用いられた。また、触媒はエチレンを重合するために用いられ、生成したポリエチレン触媒の性能が分析された。以下に記載の方法がCT:TAT=1:1.5のモル比のチタンオキソポリマーを合成するために用いられた。
(i)撹拌された閉鎖容器中で、3.168gの塩化チタン(IV)を約20mLのn-オクタンPAに溶解した。
(ii)0.1gの塩化第二鉄(III)を工程(i)に添加した。
(iii)8.454gのチタンテトラブトキシドを工程(ii)の混合物に、約0.7g/分の速度で添加し、この工程中の反応媒体の温度を40℃未満に維持した。
(iv)工程(iii)の混合物によって形成された反応媒体の温度を90-150℃、好ましくは120℃に上げた。
(v)工程(iv)からもたらされた反応媒体を120℃で240分撹拌した。
(vi)工程(v)で確立した時間の後、得られた混合物を室温で冷却し、得られたように貯蔵した。
【0020】
上述の方法を、(i)(工程(i)で用いる)塩化チタン(IV)の質量を1.980gに、及び(ii)(工程(iii)で用いる)チタンテトラブトキシド(iv)の質量を10.567gに変えて繰り返した。修正した方法から得られたチタンオキソポリマーはモル比がCT:TAT=1:3であった。参考まで、TC:TAT=1:1.5及びCT:TAT=1:3の比で合成されたチタンオキソポリマーは、それぞれOT115及びOT130と名付けられた。
下記記載のとおり触媒の調製を行った。チタンオキソポリマー、OT115及びOT130の両方が、結果を比較し、性能の証拠を得る目的で用いられた。
(i)ボールミル中で、20gの塩化マグネシウムを室温(25℃)、不活性雰囲気(窒素)下で粉砕した。
(ii)工程(i)の粉砕後、処置した塩化マグネシウムを貯蔵した。
(iii)700mLのn-ヘキサンを機械撹拌機を備えたガラス容器に添加し、その後、先に貯蔵した塩化マグネシウムを添加した。懸濁液の温度を、恒温浴を用いて5℃に維持した。
(iv)20gの塩化チタンを、工程(iii)の懸濁液にゆっくり添加した。添加中の温度は5℃に維持した。
(v)工程(iv)で得られた固体を濾過し、真空下で2時間乾燥した。固体生成物は、プレ触媒と呼ばれ、それが得られたように不活性雰囲気下で貯蔵された。
(vi)40mLのn-ヘキサンを撹拌された容器に添加した。
(vii)1gのプレ触媒を工程(vi)の溶媒に添加し、得られた懸濁液を撹拌し続けた。
(viii)トリエチルアルミニウム(TEA)を還元剤として工程(vii)の懸濁液に添加し、これを20分間撹拌したままにした。用いたAl/Tiのモル比は1.05であり、Tiはプレ触媒中に含侵されたと考えられる。
(ix)撹拌下で、0.21mLのチタンオキソポリマー溶液(OT115又はOT130)を工程(viii)で得られた懸濁液に添加した。添加速度は、10μl/分である。
(x)工程(v)で得られた懸濁液の温度を60℃に上げ、懸濁液を2時間撹拌したままにした。
(xi)工程(x)に記載の撹拌時間の後、懸濁液の温度を室温(25℃)に下げ、マルチサイト不均一系触媒として用いるため、得られたようにそれを貯蔵した。
【0021】
上述の方法を、工程(ix)で用いたチタンオキソポリマー溶液(OT115又はOT1130)のタイプを変えて繰り返した。参考まで、OT115が用いられた場合、最終的な触媒はCHOT115と参照され、OT130が用いられた場合、最終的な触媒は、CHO130と参照される。
不均一系触媒CHOT115及びCHOT130を、エチレン重合中、表1に従って同じ反応条件で試験した。重合は、0.3Lの鉄反応容器中、セミバッチシステムで、恒温浴で温度を管理し、連続的に反応容器に添加されるエチレンの流速によって全体の圧力を管理して行った。
【0022】

【0023】
反応は、水素とコモノマーの不存在のもとで行われた。
ヘキサンをモレキュラーシーブ3A及び13Xで事前処置した。
不均一系触媒の重合実験からもたらされるポリマーは、触媒生産性(式(4))の計算のためその質量を決定する前、及び特徴づけを行う前に、室温で24時間乾燥した。得られた乾燥ポリマーを、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定されるそのモル質量分布で特徴づけした。
式中:pは生産性(gpol/gcat)、mはポリマーの質量(g)、[Ti]は重合中のTiのモル濃度、Vは反応媒体の体積(L)、及びfTiは触媒中のTiの質量分率(無次元)である。
【0024】
得られた結果(表2を参照)は、触媒CHOT115がCHOT130よりも高い触媒生産性を有することを強調している。触媒CHOT115によって得られたポリマーの平均モル質量Mn、Mw及びMzもまた、より高い。Mw/Mn及びMz/Mnの値で評価されるモル質量分布の振幅は、CHOT130によって得られたポリマーのそれと比較した場合、減少している。これらの結果は、明らかに、最終的な触媒の性能及びこの触媒によって生成したポリマーの特性を、代替的なオキソポリマー合成、この場合はCT:TATのモル比を通じて管理する可能性を強調している。
【0025】

【0026】
(実施例2)
この実施例において、CHOT115触媒によって生成したポリマーの平均分子量(Mn、Mw及びMz)を、ブランクテストとなるよう、チタニウムオキソポリマーOT115に組み込まないこと以外は前述と同じ方法で生成した触媒から得られたそれらと比較する。図1の結果に示されるように、CHOT115によって得られたポリマーは、平均分子量が、ブランク触媒によって生成した対応するポリマーのそれよりも高いことを示す。この結果は、沈殿によって触媒に組み込まれたチタンオキソポリマーが、生成するポリマーの特性の決定及び又は管理に関係することを強調する。
【0027】
(実施例3)
この実施例において、触媒CHOT115の方法は、22kgの触媒が得られように行われ、これはエチレンスラリー中の重合プロセスにおいて試験された(50kg/hのPEADの生産能力)。この試験の目的は、パイロットスケールでチタンオキソポリマーを用いて合成されたマルチサイト不均一系触媒の性能を評価すること、及び工業プロセスにおけるその採用可能性についての証拠を探すことである。評価は、エチレンスラリー中での工業的重合プロセスで既に用いられているある触媒(参考までCHIndとして参照される)と比較することによって行われた。CHInd合成経路は、文書No.PI8803596-4中に記載されている。
図2は、2つの試験された触媒(CHOT115及びCHInd)のためのパイロットスケールでの試験を通じて用いられた反応パラメータを表す。
図3は、先に図2に記載された各重合条件で得られたポリマーのメルトフローインデックス(FI)及び密度を表す。表されるように、CHOT115触媒によって生成したポリマーは、CHIndによって得られた対応するコポリマーよりも高いFIを、密度0.96-0.98g/cm3の領域で有する。図3に示された結果はまた、CHOT115触媒が高及び中密度ポリエチレン(0.98-0.93g/cm3)を生成することができることを証明する。図4は、CHOT115触媒の平均触媒生産性は、CHInd触媒のそれと同様であることを強調している。CHOT115の平均生産性は1.5tpol/kgcatであった一方、CHInd触媒の平均生産性は1.8tpol/kgcatであった。
試験の異なる反応条件においてCHOT115及びCHInd触媒により生成されるポリマーの平均モル質量Mw及びMz図5に表す。表されるように、それぞれの触媒によって生成されたポリマーは、モル質量分布において異なっている。特に、チタンオキソポリマーを含有するCHOT115触媒は、試験されたほとんどの重合条件において、対応するCHInd触媒によって得られたポリマーよりも、高い平均分子量Mw及びMzを有するポリマーを生成する。
【0028】
実施例1から3に従って、マルチサイト不均一系触媒の合成におけるチタンオキソポリマーの使用により、最終的な触媒が、主に相対的なモル質量分布において差別化された特性を有するエチレンポリマーを生成することができるようになる。チタンオキソポリマーを触媒中で使用することにより、ポリマーの平均モル質量をモル質量分布の振幅同様調節することが可能である。実施例3は、少なくとも、円筒状ドラム、ドラム、ボトル、チューブ及びフィルムのような製品の製造に該ポリマーを適用するため適切に調節された特性を有する高密度ポリエチレンを生成するために、触媒が産業的に適用可能であることを、明らかに示している。
図1
図2
図3
図4
図5