(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】伸展アシスト装置
(51)【国際特許分類】
A61H 3/00 20060101AFI20220322BHJP
A61H 1/02 20060101ALI20220322BHJP
A63B 23/08 20060101ALI20220322BHJP
A63B 23/04 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
A61H3/00 B
A61H1/02 R
A63B23/08
A63B23/04
(21)【出願番号】P 2018558082
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2017046032
(87)【国際公開番号】W WO2018117243
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2016247877
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515087972
【氏名又は名称】株式会社イノフィス
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100135356
【氏名又は名称】若林 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-221139(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021103(WO,A1)
【文献】特開2006-320350(JP,A)
【文献】特開2010-110464(JP,A)
【文献】特開2006-087548(JP,A)
【文献】国際公開第2012/171000(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/00
A61H 1/02
A63B 23/08
A63B 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の大腿部の前部に係合される大腿部係合部と、
人工筋肉により構成され、作動されることで、前記大腿部係合部から前記使用者の大腿部に後方側への力を作用させて、前記使用者の大腿部を上体に対して後方側へ相対変位させる伸展力付与部と、
前記人工筋肉の端部に係止されるワイヤと、
回転軸が前記使用者の股関節に対応する第1軸に位置して前記ワイヤの一部が係止される第1プーリと、
回転軸が前記使用者の仙腸関節に対応する第2軸に位置して前記ワイヤの中間部をガイドする第2プーリと、
を備えた伸展アシスト装置。
【請求項2】
前記使用者の上体の前部に係合される上体係合部を備え、
前記伸展力付与部が作動されることで、前記上体係合部から前記使用者の上体に後方側への力が作用される請求項1記載の伸展アシスト装置。
【請求項3】
前記大腿部係合部は、前記使用者の大腿部の前面に沿って配置される腿パッドを含んで構成されており、
前記腿パッドにおける前記使用者の大腿部側には、前記腿パッドと前記使用者の大腿部との間隔を調節する調節パッドが取付けられている請求項1又は請求項2記載の伸展アシスト装置。
【請求項4】
前記使用者が直立姿勢で静止している状態で、前記伸展力付与部が前記使用者の大腿部を上体に対して後方側へ相対変位させる請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の伸展アシスト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸展アシスト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2007-7143号公報には、肢体の機能を維持、回復又は向上させるために用いられる下肢運動器具が開示されている。この下肢運動器具は、回転軸に傾動可能に固定された支持アームと、当該支持アームの先端に支持された足パッドと、を含んで構成されている。そして、使用者の足が足パッドを押圧して、支持アームが傾動されることで、使用者の下肢のトレーニングを行うことが可能となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、正常な歩行を実現するためにトレーニングを行う場合、関節の可動域を広げることが重要である。
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、関節の可動をアシストすることができる伸展アシスト装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の伸展アシスト装置は、使用者の大腿部の前部に係合される大腿部係合部と、作動されることで、前記大腿部係合部から前記使用者の大腿部に後方側への力を作用させて、前記使用者の大腿部を上体に対して後方側へ相対変位させる伸展力付与部と、を備えている。
【0006】
請求項1記載の伸展アシスト装置によれば、使用者が当該伸展アシスト装置を装着した状態において、伸展力付与部が作動されると、大腿部係合部から使用者の大腿部に後方側への力が作用する。これにより、使用者の大腿部が上体に対して後方側へ相対変位される。すなわち、使用者の大腿部が股関節回りに傾倒されて、腸腰筋が伸展される。このように、請求項1記載の伸展アシスト装置では、股関節の可動域を広げることができる。
【0007】
請求項2記載の伸展アシスト装置は、請求項1記載の伸展アシスト装置において、前記使用者の上体の前部に係合される上体係合部を備え、前記伸展力付与部が作動されることで、前記上体係合部から前記使用者の上体に後方側への力が作用される。
【0008】
請求項2記載の伸展アシスト装置によれば、伸展力付与部が作動されると、上体係合部から使用者の上体に後方側への力が作用する。これにより、使用者の上体が大腿部に対して後方側へ相対変位される。その結果、腸腰筋がより一層伸展されて、股関節の可動域をより一層広げることができる。
【0009】
請求項3記載の伸展アシスト装置は、請求項1又は請求項2記載の伸展アシスト装置において、前記大腿部係合部は、前記使用者の大腿部の前面に沿って配置される腿パッドを含んで構成されており、前記腿パッドにおける前記使用者の大腿部側には、前記腿パッドと前記使用者の大腿部との間隔を調節する調節パッドが取付けられている。
【0010】
請求項3記載の伸展アシスト装置によれば、調節パッドの厚みを調節することにより、伸展力付与部の作動時における股関節の可動角度(使用者の大腿部の上体に対する相対角度)を調節することができる。
【0011】
請求項4記載の伸展アシスト装置は、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の伸展アシスト装置において、前記使用者が直立姿勢で静止している状態で、前記伸展力付与部が前記使用者の大腿部を上体に対して後方側へ相対変位させる。
【0012】
請求項4記載の伸展アシスト装置によれば、使用者が直立姿勢で静止している状態で、伸展力付与部が使用者の大腿部を上体に対して後方側へ相対変位させる。このように、請求項4記載の伸展アシスト装置によれば、使用者の周辺に大きなスペースが取れない場合においても、股関節の可動域を広げるトレーニングを行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る伸展アシスト装置は、関節の可動をアシストすることができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】第1実施形態の伸展アシスト装置を斜め前方側から見た斜視図である。
【
図1B】第1実施形態の伸展アシスト装置を側方側から見た側面図である。
【
図2B】空気供給制御装置を模式的に示す模式図である。
【
図3】(A)は人工筋肉を示す側面図であり、(B)は(A)に示された人工筋肉を構成する弾性チューブ及びメッシュスリーブを模式的に示す模式図である。
【
図4】使用者が伸展アシスト装置を装着した状態で、かつ、アクチュエータが作動された状態を示す側面図である。
【
図5】使用者が伸展アシスト装置を装着した状態で、かつ、アクチュエータが作動された状態を示す
図4に対応する側面図である。
【
図6】(A)~(C)は、それぞれ厚みの異なる調節パッドを示す斜視図である。
【
図7】調節パッドが取付けられていない伸展アシスト装置を使用者が装着した状態で、かつ、アクチュエータが作動される前の状態を示す側面図である。
【
図8】調節パッドが取付けられた伸展アシスト装置を使用者が装着した状態で、かつ、アクチュエータが作動される前の状態を示す
図7に対応する側面図である。
【
図9】第2実施形態の伸展アシスト装置を斜め前方側から見た斜視図である。
【
図10】(A)は第1実施形態の伸展アシスト装置を使用する前の使用者を模式的に示した側面図であり、(B)は第1実施形態の伸展アシスト装置を使用した後の使用者を模式的に示した側面図である。
【
図11】(A)は第1実施形態の伸展アシスト装置を使用する前の使用者を模式的に示した側面図であり、(B)は第1実施形態の伸展アシスト装置を使用した後の使用者を模式的に示した側面図である。
【
図12】(A)は第1実施形態の伸展アシスト装置を使用する前の使用者が正座した状態を示す側面図であり、(B)は第1実施形態の伸展アシスト装置を使用した後の使用者が正座した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1A~
図3を用いて本発明の第1実施形態に係る伸展アシスト装置について説明する。なお、伸展アシスト装置を装着している状態でかつ直立した状態の使用者から見た前後方向前方側を矢印FRで示し、右側及び左側をそれぞれ矢印RH及び矢印LHで示し、上下方向上側を矢印UPで示す。また、以下の説明で、単に前後、左右、上下の方向を示す場合は、伸展アシスト装置を装着している状態でかつ直立した状態の使用者から見た前後、左右、上下を示すものとする。
【0016】
図1A及び
図1Bに示されるように、伸展アシスト装置10は、使用者の腰部の側方側に配置される左右一対のベース部12と、ベース部12に取付けられていると共に使用者の腰部に装着される腰部ベルト14と、を備えている。また、伸展アシスト装置10は、使用者の大腿部に沿って配置されると共にベース部12に傾動可能に取付けられた大腿部係合部としての大腿アーム16と、使用者の上体に沿って配置されると共にベース部12に傾動可能に取付けられ上体係合部の一部を構成する上体側フレーム18と、を備えている。さらに、伸展アシスト装置10は、上体側フレーム18内に配置された伸展力付与部としての人工筋肉20と、人工筋肉20への空気の供給等を制御する空気供給制御装置60(
図2B参照)と、を備えている。
【0017】
ベース部12は、板状に形成された外側プレート22及び内側プレート24と、を含んで構成されている。外側プレート22と内側プレート24とは、側面視で(右側又は左側から見て)ほぼ同一の形状に形成されている。また、外側プレート22と内側プレート24とは、複数の接続ピン26等を介して接続されている。これにより、外側プレート22及び内側プレート24とは、左右方向に所定の間隔を空けてかつ互いに平行に配置されている。
【0018】
また、外側プレート22と内側プレート24との間には、第1プーリ28、第2プーリ30及びガイドプーリ31が回転可能に設けられている。
図1A、
図1B及び
図2Aに示されるように、第1プーリ28は、外側プレート22及び内側プレート24の下部側に左右方向を回転軸方向として取付けられている。この第1プーリ28の回転軸は、使用者の股関節に対応する第1軸C1とされている。また、第1プーリ28は、後述するワイヤ48の一部が係止されるワイヤ係止部28Aと、後述する大腿アーム16が取付けられる大腿アーム取付部28Bと、を備えている。ここで、第1プーリ28が一方側へ回転されて(左側面視で反時計回り方向へ回転されて)、第1プーリ28が外側プレート22及び内側プレート24等に固定された被当接部27(
図2A参照)に当接することで、当該第1プーリ28の一方側への回転が規制されるようになっている。その結果、第1プーリ28の大腿アーム取付部28Bに取付けられた大腿アーム16の後方側へ傾動が制限されるようになっている。
【0019】
第2プーリ30は、外側プレート22及び内側プレート24の上部側かつ第1プーリ28の後方側に左右方向を回転軸方向として取付けられている。この第2プーリ30の回転軸は、使用者の仙腸関節に対応する第2軸C2とされている。また、第2プーリ30の外周部には、後述するワイヤ48の長手方向の中間部をガイドするためのガイド溝30Aが形成されている。さらに第2プーリ30は、後方側に向けて延出されていると共に、後述する上体側フレーム18が取付けられる上体側フレーム取付部30Bを備えている。
【0020】
なお、ガイドプーリ31は、第1プーリ28と第2プーリ30との間の設けられることで、後述するワイヤ48の長手方向の中間部をガイドしている。
【0021】
腰部ベルト14は、使用者の上方側から見て前方側が開放された略C字状に形成されることにより使用者の腰部の後方側及び側方側に沿って配置される幅広パッド14Aを備えている。また、腰部ベルト14は、幅広パッド14Aの左右方向の両端部からそれぞれ延出された前方延出部14Bを備えている。そして、幅広パッド14A及び一対の前方延出部14Bによって形成される環状の部分の周長が使用者の腰部回りの長さに調節された状態で、一方の前方延出部14Bが他方の前方延出部14Bに係止されることで、腰部ベルト14が使用者の腰部に装着されるようになっている。
【0022】
大腿アーム16は、使用者の大腿部に沿って延びるアーム本体32と、アーム本体32に取付けられる腿パッド34と、を含んで構成されている。アーム本体32は、板状の部材に曲げ加工等が施されることによって形成されており、このアーム本体32は、使用者の大腿部の側方側に配置される側方側延在部32Aと、側方側延在部32Aの下端側から使用者の大腿部の前方側に向けて延びる前方側延在部32Bと、を備えている。
図1Bに示されるように、側方側延在部32Aは、下方側に向かうにつれて前方側に傾斜されており、この側方側延在部32Aの上端部が、第1プーリ28の大腿アーム取付部28Bにヒンジ36を介して取付けられることで、大腿アーム16がベース部12に対して第1軸C1を傾動(回動)軸として傾動可能に取付けられるようになっている。なお、本実施形態では、ヒンジ36が左右方向に回動可能に構成されていることにより、大腿アーム16がベース部12に対して左右方向にも傾動可能になっている。
【0023】
腿パッド34は、使用者の大腿部の前方側の面に沿う湾曲形状とされており、この腿パッド34は、アーム本体32の前方側延在部32Bに取付けられている。また、腿パッド34は、アーム本体32に対して左右方向を軸方向として所定の角度だけ回動可能とされている。これにより、腿パッド34と使用者の大腿部の前方側の面との接触状態を所望の接触状態にすることができる。
【0024】
図1A及び
図1Bに示されるように、上体側フレーム18は、正面視で(使用者の正面側から見て)下方側が開放された略U字状(V字状)に形成されている。この上体側フレーム18は、左右方向に間隔を空けて配置されていると共に内部に人工筋肉20が配置される人工筋肉収容部38A(
図1B参照)を有する一対の人工筋肉取付部38と、一対の人工筋肉取付部38の上方側の部位を左右方向に繋ぐ接続部40と、を有して構成されている。一対の人工筋肉取付部38は、正面視で上方側から下方側に向かうにつれて使用者の右側及び左側にそれぞれ傾斜されている。また、一対の人工筋肉取付部38には、使用者の上体に装着される上体装着ベルト42が取付けられる上体装着ベルト取付部38Bが設けられている。上体係合部の他の一部を構成する上体装着ベルト42は、使用者の右肩に装着される右側装着ベルト42Rと、使用者の左肩に装着される左側装着ベルト42Lと、を含んで構成されており、右側装着ベルト42R及び左側装着ベルト42Lの長さはそれぞれ調整可能とされている。
【0025】
また、一対の人工筋肉取付部38の下端部は、第2プーリ30の上体側フレーム取付部30Bに固定されている。これにより、上体側フレーム18が、ベース部12に対して第2軸C2を傾動(回動)軸として傾動可能になっている。
【0026】
図3(A)及び(B)に示されるように、人工筋肉20は、所謂McKibben型の人工筋肉である。この人工筋肉20の長手方向一方側の端部は、上体側フレーム18の人工筋肉取付部38(
図1B参照)の上端部に係止されるフレーム係止部20Aとされており、人工筋肉20の長手方向他方側の端部は、後述するワイヤ48(
図1B参照)が係止されるワイヤ係止部20Bとされている。人工筋肉20の細部の構成について詳述すると、
図3(B)に示されるように、この人工筋肉20は、ゴム等の弾性材料を用いて管状に形成された弾性チューブ44と、弾性チューブ44を覆うカバー部材としての筒状のメッシュスリーブ46と、を含んで構成されている。
【0027】
弾性チューブ44は、内部にガス(空気)が供給される空間を有しており、この弾性チューブ44は、フレーム係止部20Aとワイヤ係止部20Bとの間に配置されている。この弾性チューブ44の内部には、後述する電磁弁62(
図2B参照)を介して空気が供給されるようになっている。
【0028】
メッシュスリーブ46は、例えば伸縮性の小さい高張力繊維等の線材が織り上げられること等により形成されている。
図3(A)に示されるように、メッシュスリーブ46の長さ(軸)方向の両端部は、フレーム係止部20A及びワイヤ係止部20Bにそれぞれ固定されている。
【0029】
そして、メッシュスリーブ46内に配置された弾性チューブ44(
図3(B)参照)内に空気が供給されて、弾性チューブ44が膨張すると、メッシュスリーブ46の長さ方向と直交する方向(矢印B方向)への寸法が増加すると共に、当該メッシュスリーブ46の長さ方向(矢印A1及び矢印A2方向)への寸法が減少する。これにより、人工筋肉20の長さが短くなって(人工筋肉20が収縮して)、当該人工筋肉20のワイヤ係止部20Bに係止されたワイヤ48(
図1B参照)が引張られるようになっている。
【0030】
図1A及び
図1Bに示されるように、本実施形態では、以上説明した人工筋肉20が、右側の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部及び左側の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部にそれぞれ2個ずつ設けられている。また、各々の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部に配置された人工筋肉20の弾性チューブ44には、それぞれ左右独立して空気が供給されるようになっている。
【0031】
図1Bに示されるように、左側の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部に配置された人工筋肉20のワイヤ係止部20Bに係止されたワイヤ48は、左側の人工筋肉取付部38の下端側から導出されており、さらに、このワイヤ48の他端部は、左側の大腿アーム16が取付けられた第1プーリ28のワイヤ係止部28Aに係止されている。なお、図示は省略するが、右側の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部に配置された人工筋肉20のワイヤ係止部20Bに係止されたワイヤ48は、右側の人工筋肉取付部38の下端側から導出されており、さらに、このワイヤ48の他端部は、右側の大腿アーム16が取付けられた第1プーリ28のワイヤ係止部28Aに係止されている。
【0032】
図2Bに示されるように、空気供給制御装置60は、右側の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部に設けられた人工筋肉20及び左側の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部に設けられた人工筋肉20に空気を供給させる、又は供給された空気を排出させるための一対の電磁弁62を備えている。また空気供給制御装置60は、一対の電磁弁62をそれぞれ作動させる第1スイッチ64A、第2スイッチ64B及び第3スイッチ64Cを有する操作部64を備えている。そして、本実施形態では、第1スイッチ64Aを押すことで、一方の電磁弁62が作動されて左側の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部に設けられた人工筋肉20内に空気が供給されるようになっている。なお、第1スイッチ64Aを離すことで、左側の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部に設けられた人工筋肉20内に供給された空気が排出されるようになっている。また、第2スイッチ64Bを押すことで、他方の電磁弁62が作動されて右側の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部に設けられた人工筋肉20内に空気が供給されるようになっている。なお、第2スイッチ64Bを離すことで、右側の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部に設けられた人工筋肉20内に供給された空気が排出されるようになっている。さらに、第3スイッチ64Cを押すことで、両方の電磁弁62が作動されて左右の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部に設けられた人工筋肉20(全ての人工筋肉20)内に空気が供給されるようになっている。なお、第3スイッチ64Cを離すことで、左右の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部に設けられた人工筋肉20内に供給された空気が排出されるようになっている。
【0033】
(本実施形態の作用並びに効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0034】
図4に示されるように、本実施形態では、腰部ベルト14、上体装着ベルト42及び大腿アーム16が使用者Pの腰部P1、上体P2及び大腿部P3にそれぞれ装着される(係合される)ことで、伸展アシスト装置10が使用者Pに装着される。
【0035】
そして、使用者Pが起立姿勢でかつ静止している状態で、操作部64の第1スイッチ64A(
図2B参照)が押されて、図示しないガス供給部(コンプレッサやタンク)から一方の電磁弁62(
図2B参照)を介して左側の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部に配置された人工筋肉20の弾性チューブ44に空気が供給されると、人工筋肉20が収縮する。これにより、人工筋肉20のワイヤ係止部20Bに係止されたワイヤ48が引張られ、ワイヤ48が接続された第1プーリ28が一方側へ回転される(左側面視で反時計回り方向へ回転される)。その結果、第1プーリ28の大腿アーム取付部28Bに取付けられた左側の大腿アーム16が後方側へ傾動されて、当該大腿アーム16の腿パッド34が、使用者Pの左側の大腿部P3を後方側へ押圧する(使用者Pの左側の大腿部P3へ後方側への力F1が作用する)。これにより、使用者Pの大腿部P3が上体P2に対して後方側へ相対変位される。すなわち、使用者Pの大腿部P3が股関節回りに角度θ(本実施形態では、θ=7°)ほど傾倒される。その結果、腸腰筋が伸展されると共に骨盤に対する腰椎や股関節のアライメントが調節されて整うことにより、股関節の可動域を広げることができる。特に、本実施形態では、使用者Pが日常の生活では動かさない位置まで使用者Pの大腿部P3が上体P2に対して後方側へ相対変位される(腸腰筋が過伸展する)ようになっている。なお、操作部64の第2スイッチ64B(
図2B参照)が押されて、右側の人工筋肉取付部38の人工筋肉収容部38Aの内部に配置された人工筋肉20の弾性チューブ44に空気が供給された場合についても同様に、使用者Pの左側の大腿部P3が股関節回りに角度θ(本実施形態では、θ=7°)ほど傾倒される。その結果、腸腰筋を伸展させることができると共に、股関節の可動域を広げることができる。ここで、本実施形態では、左右の人工筋肉20を独立して作動させることができることにより、左右どちらか一方の股関節や膝関節に外科的な問題がある場合においても、本伸展アシスト装置10を使用することができる。また、本伸展アシスト装置10では、使用者Pの周辺に大きなスペースが取れない場合においても、股関節の可動域を広げるトレーニングを行うことができる。
【0036】
また、本実施形態では、人工筋肉20が収縮すると、使用者Pの上体P2が上体側フレーム18及び上体装着ベルト42を介して後方側へ引張られる(使用者Pの上体P2へ後方側への力F2が作用する)。これにより、使用者Pの上体P2が大腿部P3に対して後方側へ相対変位される。その結果、腸腰筋がより一層伸展されて、股関節の可動域をより一層広げることができる。
【0037】
なお、使用者Pの大腿部P3の上体P2に対する相対変位量(使用者Pの大腿部P3の傾動角度θ)は、第1プーリ28の被当接部27(
図2A参照)への当接位置を調節することで、適宜調節すればよい。例えば、第1プーリ28が図示しない被当接部27(
図2A参照)に当接するまでの回転角度を増加させることにより、
図5に示されるように、使用者Pの大腿部P3の傾動角度θ(この図の例では、θ=14°)を増加させてもよい。
【0038】
(調節パッドを用いた構成)
以上説明した伸展アシスト装置10では、第1プーリ28の被当接部27(
図2A参照)への当接位置を調節することで、使用者Pの大腿部P3の上体P2に対する傾動角度θを調節した。しかしながら、伸展アシスト装置10が用いられるトレーニングジムや医療現場においては、体格や年齢が異なる使用者Pが共通の伸展アシスト装置10を用いることできることが望ましい。そこで、以下に説明する調節パッド50を用いることで、共通の伸展アシスト装置10を用いてトレーニングや医療行為を行えるようにした。
【0039】
図6(A)~(C)に示されるように、調節パッド50は、腿パッド34と使用者Pの大腿部P3(
図4等参照)の間隔を調節するために用いられ、この調節パッド50は、フレキシブルに曲げ変易させ得ることが可能な素材(ウレタン等)を用いて板状に形成されている。一例として、本実施形態では、厚みBの異なる3種類の調節パッド50が用いられており、
図6(A)に示された調節パッド50の厚みB1は15mmとされ、
図6(B)に示された調節パッド50の厚みB2は30mmとされ、
図6(C)に示された調節パッド50の厚みB3は45mmとされている。そして、調節パッド50は、取付ベルト51を介して腿パッド34における使用者Pの大腿部P3側の面に沿って取付けられている。なお、厚みBの異なる複数の調節パッド50を重ねた状態で、当該複数の調節パッド50を腿パッド34に取付けてもよい。
【0040】
図7には、調節パッド50が腿パッド34に固定されていない伸展アシスト装置10が使用者に装着された状態で、かつ人工筋肉20が収縮される前の状態の側面図が示されている。また、
図8には、調節パッド50が腿パッド34に固定された伸展アシスト装置10が使用者に装着された状態で、かつ人工筋肉20が収縮される前の状態の側面図が示されている。これらの図に示されるように、調節パッド50を用いることで、人工筋肉20が収縮される前の状態における使用者Pの大腿部P3の上体P2に対するイニシャル角度θiを増加させることができる。その結果、腿パッド34に固定する調節パッド50の厚みBを調節することにより、人工筋肉20の収縮時における使用者Pの大腿部P3の上体P2に対する傾動角度θ(
図4、
図5参照)を調節することができる。また、左右どちらか一方の股関節や膝関節に外科的な問題がある場合においては、左右の調節パッド50の厚みBを異ならせても良いし、左右どちらか一方のみに調節パッド50を用いてもよい。さらに、アーム本体32を取り外すことによって上記問題に対応させてもよい。
【0041】
なお、以上説明した伸展アシスト装置10は、使用者が当該伸展アシスト装置10を装着した状態において歩行すること等が可能とされている。しかしながら、
図9に示された第2実施形態に係る設置型(固定型)の伸展アシスト装置52に本発明を適用してもよい。この伸展アシスト装置52は、使用者の手によって把持される左右一対の把持部54を有すると共に床面に固定されるフレーム部56を備えている。また、フレーム部56には、作動されることで使用者の大腿部を上体に対して後方側へ相対変位させる伸展力付与部としての大腿部押圧部58が取付けられている。この大腿部押圧部58は、フレーム部56に対して上下方向への位置が調節可能となっている。なお、大腿部押圧部58において前述の伸展アシスト装置10と対応する部分については、当該伸展アシスト装置10と対応する部分と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0042】
(伸展アシスト装置10を使用することによる効果の確認結果)
次に、
図10~
図12を用いて、伸展アシスト装置10を使用することによって使用者Pにもたらされる効果について説明する。
【0043】
図10(A)には、所謂ハイヒール型と呼ばれる形状に背中が湾曲された60歳の女性の使用者Pの模式図が示されており、
図10(B)には、伸展アシスト装置10を使用した後の使用者Pを示す模式図が示されている。これらの図に示されるように、伸展アシスト装置10の使用後においては、使用者Pの背中の湾曲が改善されていることがわかる。
【0044】
また、
図11(A)には、所謂スウェイバック型と呼ばれる形状に背中から腰に掛けて湾曲された55歳の男性の使用者Pの模式図が示されており、
図11(B)には、伸展アシスト装置10を使用した後の使用者Pを示す模式図が示されている。これらの図に示されるように、伸展アシスト装置10の使用後においては、使用者Pの背中から腰に掛けての湾曲が改善されていることがわかる。
【0045】
さらに、
図12(A)には、伸展アシスト装置10を使用する前の使用者Pが膝を折り曲げた状態で着座している状態を示す模式図が示されている。
図12(B)には、伸展アシスト装置10を使用した後の使用者Pが膝を折り曲げた状態で着座している状態を示す模式図が示されている。これらの図に示されるように、伸展アシスト装置10の使用前においては、使用者Pは臀部P4を踵P5に当接させた状態で着座することが困難であったのに対して、伸展アシスト装置10の使用後においては、使用者Pは臀部P4を踵P5に当接させた状態で着座することが可能となっている。なお、これらの図に示された使用者Pは、
図10(A)及び(B)に示された使用者Pと同じ人物である。
【0046】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において上記以外にも種々変形して実施することが可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
10 伸展アシスト装置
16 大腿アーム(大腿部係合部)
18 上体側フレーム(上体係合部)
20 人工筋肉(伸展力付与部)
34 腿パッド
42 上体装着ベルト(上体係合部)
50 調節パッド
52 伸展アシスト装置
P 使用者
P2 上体
P3 大腿部