(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】miR-21の子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜治療用薬の製造における応用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20220322BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220322BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220322BHJP
【FI】
A61K31/7105 ZNA
A61P15/00
C12N15/113 110Z
(21)【出願番号】P 2019572795
(86)(22)【出願日】2018-02-23
(86)【国際出願番号】 CN2018077040
(87)【国際公開番号】W WO2019071902
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】201710929803.9
(32)【優先日】2017-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519463950
【氏名又は名称】南京鼓楼医院
【氏名又は名称原語表記】NANJING DRUM TOWER HOSPITAL
【住所又は居所原語表記】321 Zhongshan Road, Gulou Nanjing, Jiangsu 210008, China
(74)【代理人】
【識別番号】100205936
【氏名又は名称】崔 海龍
(74)【代理人】
【識別番号】100132805
【氏名又は名称】河合 貴之
(72)【発明者】
【氏名】胡 ▲あ▼莉
(72)【発明者】
【氏名】周 艶
(72)【発明者】
【氏名】趙 光鋒
(72)【発明者】
【氏名】李 若天
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0107825(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106319031(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107519194(CN,A)
【文献】東京慈恵会医科大学 教育・研究年報2014年版,2014年,P.184-191
【文献】Reproductive Biomedicine Online ,2013年,Vol.27,P.515-529
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7105
A61P 15/00
C12N 15/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
子宮内膜上皮細胞線維化を抑制するための医薬品の製造におけるmiR-21の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物製薬分野に属し、miR-21の子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜治療用薬の製造における応用に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮内膜再生障害は、主に子宮腔癒着と薄い子宮内膜を含む。子宮腔癒着は、子宮内膜基底層の損傷および機能層の再生修復障害のため、子宮内膜線維化を形成することを特徴とする子宮壁間の癒着であり、子宮性不妊症の最も一般的な理由で、不妊症患者のうち、25-30%まで占めている。中国では、子宮腔手術、特に無痛妊娠中絶手術の増加に伴い、子宮腔癒着および子宮内膜線維化の発生率が明らかに上昇している。現在、主な治療法は、手術により癒着を分離し、子宮内避妊器具、球形嚢または生体材料を配置して、子宮の前壁と後壁とを阻隔することで、再癒着を防ぐ方法である。しかし,これらの治療法は,重度の子宮腔癒着に対して治療効果が低く、再癒着の発生率が62.5%で依然として高く、かつ再癒着しなくても子宮内膜線維化は相変わらず胚胎着床の深刻な障害となっている。薄い子宮内膜とは、患者が大量のエストロゲンで刺激された後、子宮内膜の厚さがまだ明らかに増加されていないことを指し、そのような子宮内膜が薄い子宮内膜と呼ばれている。現在、薄い子宮内膜の厚さの定義については、まだ広範囲にコンセンサスを取ってない(一般的に7mm未満と見なされる)。発病メカニズムが不明確であるため、子宮腔癒着和薄い子宮内膜に対する効果的な治療を深刻に妨げている。発明者は、研究において、大部分の薄い子宮内膜患者も子宮腔手術によって引き起こされ、ある程度の子宮内膜線維化が存在することを発見した。従って,子宮腔癒着と薄い子宮内膜を予測および治療するための有効な方法を見出すことが急務であった。
【0003】
miRNAは、長さが約18~25のヌクレオチドで、高度の種保護性を備えている内因性ノンコーディング小分子一本鎖RNAの一種である。miRNAは、塩基配列の作用メカニズムにより標的mRNAを分解するか、変換を抑制することにより、標的遺伝子の発現を調節することができる。miR-21は、染色体17q23.2の脆弱部位FRA17B上に位置する自律転写単位を有するmiRNAである。miR-21は、種々の腫瘍細胞における発現が著しく異常で、種々の癌抑制遺伝子の発現および上皮間葉転換(EMT)の調節に関与する。これは、miR-21が発癌性miRNAとして種々の腫瘍の発生と転移において重要な役割を果たしていることを示唆している。さらに、miR-21は、肝臓、腎臓、肺線維化における発現が著しく高い。これは、線維化を促進することを示唆している。しかし、miR-21が子宮腔癒着症候群に関連しているか否か、miR-21が子宮内膜線維化に影響を及ぼすか否かについて報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、miR-21の子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜治療用薬の製造における応用を提供することである。
【0005】
本発明の他の目的は、miR-21の子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜の診断用試薬の製造における応用を提供することである。
【0006】
本発明の目的は、以下の技術的解決策により達成される。
【0007】
miR-21の子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜治療用薬の製造における応用。
【0008】
miR-21の子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜による疾患治療用薬の製造における応用。
【0009】
前記子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜による疾患は、好ましくは子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜による子宮性不妊、反復流産、癒着胎盤および楔入胎盤である。
【0010】
miR-21の子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜診断用試薬の製造における応用。
【0011】
miR-21検出用試薬の子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜診断用試薬の製造における応用。
【0012】
前記miR-21検出用試薬は、好ましくはPCRおよびqPCRプライマ、Taqman探り針、ジゴキシンまたは蛍光色素標識探り針、miRNA発現プロファイルチップ、ディープ配列を含む。
【0013】
前記ジゴキシンまたは蛍光色素標識探り針の配列は、より好ましくは5’ucaacaucagucugauaagcua3’(配列番号1)である。
【0014】
子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜の治療におけるmiR-21の応用。
【0015】
miR-21の子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜による疾患の治療における応用。
前記子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜による疾患は、好ましくは子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜による子宮性不妊、反復流産、癒着胎盤及び楔入胎盤である。
【0016】
miR-21検出用試薬の子宮腔癒着および/または薄い子宮内膜の診断における応用。
【0017】
前記miR-21検出用試薬は、好ましくはPCRおよびqPCRプライマ、Taqman探り針、ジゴキシンまたは蛍光色素標識探り針、miRNA発現プロファイルチップ、ディープ配列を含む。本発明に係るmiR-21の配列は、5’uagcuuaucagacugauguuga3’(配列番号2)である。
【0018】
本発明に係る子宮腔癒着とは、子宮内膜基底層の損傷および機能層の再生修復障害のため、子宮内膜線維化を形成することを特徴とする子宮壁間の癒着を指す。
【0019】
本発明に係る薄い子宮内膜とは、子宮内膜の厚さがエストロゲン刺激により著しく増加することができず、一般的に7mm未満の厚さを有する子宮内膜を指す。
【発明の効果】
【0020】
子宮腔癒着患者は、子宮内膜上皮細胞および間質細胞におけるmiR-21の発現が著しく低下し、特に、上皮細胞における発現の減少が最も顕著であることを見出した。さらに、生体外に結果によると、miR-21が子宮内膜上皮細胞のEMTを逆転させることで線維化を抑制することを示している。したがって、miR-21は、子宮腔癒着の治療および診断において重要な役割を果たすことができ、子宮腔癒着の診断および治療用薬の製造、または子宮線維化に関連する他の疾患治療用薬の製造に使用することができる。発明者は、研究において、大部分の薄い子宮内膜患者も子宮腔手術によって引き起こされ、ある程度の子宮内膜線維化が存在することを発見した。miR-21は、子宮内膜上皮細胞のEMTを逆転させることで線維化を抑制することができるため、薄い子宮内膜、特に子宮腔手術による薄い子宮内膜の治療に使用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】原位置ハイブリッド形成法による子宮内膜組織におけるmiR-21の発現に対する分析である。A:miRNA陰性対照群、B:miRNA陽性発現対照群(miR-16)、C:正常人の子宮内膜におけるmiR-21の発現、D:子宮腔癒着患者の子宮内膜におけるmiR-21の発現
【
図2】細胞線維化関連遺伝子の発現に対するmiR-21の影響。A-Dは、順番にE-カドヘリン(E-cadherin)、線維化関連遺伝子FN1、α-SMAおよびI型コラーゲン(Collagen I)である。
【
図3】Np63による子宮内膜上皮細胞線維化に対するmiR-21の影響である。
図Aは、E-カドヘリンの免疫蛍光結果を示し、Bは、N-カドヘリン(N-cadherin)の免疫蛍光結果を示す。
【発明を実施するための最適な形態】
【0022】
(実施例1)正常人および重度子宮腔癒着患者の子宮内膜組織におけるmiR-21の発現
【0023】
1 材料、試薬、装置
【0024】
1.1 人の子宮内膜組織の供給源
正常な子宮内膜組織5例および子宮腔癒着症候群患者の子宮内膜組織5例を収集する。子宮内膜組織を採取するとき、超音波で卵胞の大きさを検出することで、子宮内膜組織の採取段階がすべて増殖晩期段階に統一することを確保する。参加者全員は、書面による同意書に署名し、南京鼓楼医院の倫理委員会により承認された。
【0025】
1.2 主な試薬
MicroRNA原位検出探り針HAS ProbeTM(彭済凱豊生物科技有限公司)、ハイブリダイゼーション用キット(彭済凱豊生物科技有限公司)、抗ジゴキシン抗体(Anti-Digoxigenin-AP,Roche)、NBT / BCIP顕色剤(彭済凱豊生物科技有限公司)、キシレン、エタノール、DEPC水、PBS、PFA、プロテイナーゼK、無水酢酸、ホルムアミド、TEA、SSC、MAB、およびツイーン(TWEEN)。
【0026】
1.3 主な機器
ハイブリダイゼーション装置(Thermobrite)、シェーカー、蛍光顕微鏡(Leica)
【0027】
1.4 主な方法
パラフィン切片原位置ハイブリッド形成法によりmiR-21の発現を検出する。キシレンでそれぞれ15分間ずつ2回処理し、勾配アルコール(100%エタノールで5分間、100%エタノールで5分間、95%エタノールで3分間、85%エタノールで3分間、70%エタノールで3分間、30%エタノールで3分間)で処理した後、DEPC処理水で3分間洗浄し、1xPBSで3分間洗浄する。続いて、4%PFAで氷上で10分間処理し、1xPBSで5分間ずつ2回洗浄する。室温で切片をプロテイナーゼKに15分間浸した後、1xPBSで2分間洗浄する。1×TEAシェーカーで10分間すすぎ、2xSSCで5分間処理する。乾燥後、1時間インキュベートしてプレハイブリダイゼーションを行った後、一晩ハイブリッドを行う。1xSSC(50%ホルムアミド+0.1%ツイーン20を含む)で15分間浸し、0.2xSSC(50%ホルムアミド+0.1%ツイーン20を含む)で10分間ずつ2回浸す。室温で1xMAB(0.1%ツイーン20を含む)で10分間ずつ2回処理する。ブロッキング緩衝液(Blocking buffer)で37℃で30分間ブロックした後、抗体(抗DIG抗体)を加えて4℃で一晩放置する。溶出後、NBT / BCIP顕色剤で処理して封入した後、顕微鏡で観察し、写真を撮影する。
【0028】
2 結果
重度子宮腔癒着患者の子宮内膜組織において、上皮細胞および間質細胞におけるmiR-21の発現はいずれも著しく減少した。そのうち、腺上皮細胞におけるmiR-21発現が最も著しく減少した(
図1)。
【0029】
(実施例2)子宮内膜上皮細胞の線維化に対するmiR-21の影響
【0030】
1 材料、試薬、装置
【0031】
1.1 主な試薬
コラゲナーゼ(Sigma)、ヒアルロニダーゼ(Sigma)、DNAase(Roche)、上皮細胞培養培地(Gibco)、血清(Gibco)、Tizol(Invitrogen)、逆転写酵素(Takara)、Qpcr酵素(Roche)。
【0032】
1.2 主な機器
細胞インキュベーター、シェーカー、qPCR機器(Roche)、PCR機器(ABI)
【0033】
1.3 主な方法
【0034】
1.3.1 原性子宮内膜細胞(primary endometrial epithelial cell)の分離と培養
子宮内膜組織を新しい60mm培養皿に入れ、組織を目に塊状が見えないように切り刻む。続いて調製された消化液を加え、叩いて均一に混合し、37℃のインキュベーターに5分間放置する。培養皿を取り出し、組織の消化状況を顕微鏡で観察する。DNAアーゼを4 mg / mLの濃度で加え、消化を5分間続ける。消化された後の組織を叩き、組織懸濁液を40μmのふるいに滴下する。ふるいに残る組織をきれいな35mm培養皿に移し、プロテアーゼとコラゲナーゼの混合物を2ml加え、十分に混合させた後、37℃のインキュベーターに5分間入れておく。消化された後の組織腺体が単一の腺体に分散されているか否かを顕微鏡で観察した後、上皮細胞培地に加えて消化を終了させる。続いて腺体を培養皿に入れて培養させる。
【0035】
1.3.2 RNAの抽出およびリアルタイム蛍光定量PCR
Trizol法により全RNAを抽出する。RNAを1 ug取って逆転写させてcDNAを得る。続いて、2倍容量のRNaseフリー水で希釈させた後、各サンプルに3つの複製ウェルを用いてSYBR Green法による蛍光定量PCR検出を行った。GAPDHを内部基準としたΔΔCT値を用いて異なる標的遺伝子の発現量を統計する。
【0036】
2 結果
子宮内膜上皮細胞にmiR-21を48時間トランスフェクションさせた後、E-カドヘリンのmRNAレベルは著しく増加したが、FN1、α-SMAおよびI型コラーゲン遺伝子の発現は著しく低下した。これは、細胞線維化を抑制することを示す。
【0037】
(実施例3) miR-21によるNp63誘発子宮内膜上皮細胞線維化の逆転
【0038】
1 材料、試薬、装置
【0039】
1.1 主な試薬
E-カドヘリン抗体(Abcam)、N-カドヘリン抗体(Abcam)、蛍光二次抗体(Jackson)、DAPI含有封入剤(Abcam)、PFA、抗体希釈液(Gibco)、メタノール、ツイーン、PBS。
【0040】
1.2 主な機器
蛍光顕微鏡(Leica)、シェーカー
【0041】
1.3 主な方法
細胞免疫蛍光法によりE-カドヘリンおよびN-カドヘリンの発現状況を検出する。子宮内膜上皮細胞のスライド後、Np63アデノウイルスを24時間感染させる。続いてMiR-21を48時間トランスフェクトさせた後、細胞搭載のスライドを取り出す。1xPBSで5分間ずつ3回洗浄した後、PFAで室温で15分間固定し、1xPBSで5分間ずつ3回洗浄する。予め冷却したメタノールで5分間処理し、1xPBSで5分間ずつ3回洗浄する。室温で、2%BSAで1時間ブロックした後、E-カドヘリンおよびN-カドヘリン抗体を加え、4℃で一晩放置する。次に、PBSTで5分間ずつ3回洗浄し、余計な一次抗体を十分に洗浄する。最後の洗浄後にスライドの表面の水を吸い取る。蛍光二次抗体を滴下し、暗闇の中でインキュベーターで37℃で混合物を30分間インキュベートする。PBSTで5分間ずつ3回洗浄し、最後の洗浄後にスライドの表面の水を吸い取る。クエンチング防止剤含有DAPI色素を滴下し、暗闇の中で蛍光顕微鏡で観察し、撮影する。
【0042】
2 結果
Np63は、E-カドヘリンの発現を著しく抑制し、かつN-カドヘリンの発現上昇を促進させる。しかし、miR-21は、E-カドヘリンの発現を促進し、かつ反転N-63誘発N-カドヘリンの発現上昇を逆転させる。これは、miR-21は線維化を逆転させる作用を有し、子宮腔癒着および薄い子宮内膜および/または子宮線維化による疾患の治療において応用でき、または子宮腔癒着、薄い子宮内膜および/または子宮線維化による疾患治療用薬の製造において応用できることを表明する。
【配列表】