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  • 特許-腐食生成物の除去方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】腐食生成物の除去方法
(51)【国際特許分類】
   C25F 1/06 20060101AFI20220322BHJP
   C25F 7/00 20060101ALI20220322BHJP
   C23G 1/08 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
C25F1/06 A
C25F7/00 K
C23G1/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020044428
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021143412
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2020-12-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年度土木学会西部支部研究発表会講演概要集(令和2年2月20日)第91-92頁に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518126144
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sマシナリー
(73)【特許権者】
【識別番号】592242822
【氏名又は名称】三井住友建設鉄構エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000211891
【氏名又は名称】株式会社ナカボーテック
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】貝沼 重信
(72)【発明者】
【氏名】石原 修二
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 伸人
(72)【発明者】
【氏名】井上 大地
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-040403(JP,A)
【文献】特開2017-043828(JP,A)
【文献】特開平02-277785(JP,A)
【文献】特開平01-262970(JP,A)
【文献】特開2010-169196(JP,A)
【文献】特開2017-148711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00- 5/06
C25F 1/00- 1/18
C23F 13/00-13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を構成する鋼板の表面に付着した腐食生成物を除去する方法であって、
前記鋼板における前記腐食生成物が発生している面に不溶性電極を対向配置し、前記鋼板と前記不溶性電極との間に前記鋼板が使用されてきた環境や前記腐食生成物の状態、経過年数に応じた電解質溶液を予め含浸させた繊維シートを介在させ、前記鋼板と前記不溶性電極との間に電流を印加させて前記腐食生成物を還元することで前記腐食生成物に体積収縮を生じさせると共に、還元化腐食生成物を構成する第1処理工程と、
前記体積収縮により前記還元化腐食生成物の表面に生じたひびを介して前記鋼板の素地を酸化させて新たな腐食生成物を得ることで前記還元化腐食生成物と前記鋼板の素地との密着性を低減させると共に、前記還元化腐食生成物の表面に生じたひびを介して前記新たな腐食生成物を前記表面に析出させて前記繊維シートに浸透させる第2処理工程と、を有し、
前記第2処理工程後に前記繊維シートを除去することで前記還元化腐食生成物を剥離除去することを特徴とする腐食生成物の除去方法。
【請求項2】
前記繊維シートは、架橋型アクリレート繊維であることを特徴とする請求項に記載の腐食生成物の除去方法。
【請求項3】
前記鋼板と前記不溶性電極との間には、前記繊維シートに替えて、前記電解質溶液を保持可能なゲルシートを介在させたことを特徴とする請求項1に記載の腐食生成物の除去方法。
【請求項4】
前記不溶性電極は、貴金属またはその酸化物を被覆したチタンにより構成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の腐食生成物の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食生成物の除去に係り、特に、耐候性鋼板などに生じた強固に素地に付着した腐食生成物を除去するのに好適な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外構造物の構成材料等として用いられることが多い耐候性鋼は、自ら生成する緻密な腐食生成物により、大気雰囲気において無塗装での使用が可能な鋼材である。しかし、塩化物などの存在下では、保護性の高いさびが形成され難く、想定した腐食速度以上で著しく腐食が進行するケースも確認されている。このため近年では、耐候性鋼の表面に塗装を施して使用される例も増えている。
【0003】
しかし大気暴露下で使用中の耐候性鋼に新たに塗装を施す場合、塗膜の剥離などの早期劣化を抑制すると共に十分な耐久性を得るためには、素地表面に存在する腐食生成物を完全に除去した上で施工する必要がある。しかし、耐候性鋼の腐食生成物である、いわゆる保護性さびの層は、強固に鋼素地に付着していることが多い。このため、腐食生成物の除去に要する時間は、一般鋼材における腐食生成物の除去よりもはるかに長くかかるうえ、処理後の鋼素地表面には、特に凹部を中心に腐食生成物が残存してしまうという事が一般的である。
【0004】
こうした耐候性鋼の腐食生成物を除去する方法は、機械的除去の他、ブラスト法によるもの、あるいはウォーターブラスト法によるものなど、種々提案されている。例えば特許文献1に開示されている方法は、回転研削工具を用いる機械的方法であり、モース硬度9を超える硬質粒子を任意の割合で研削盤面に充填することにより、強固に固着する腐食生成物を削り取るというものである。
【0005】
また、特許文献2に開示されている方法は、ウォーターブラスト法の変形であり、高圧水を噴射して腐食生成物を除去する際、噴射する水に脈動を与えることで、水圧を極端に高める事無く、腐食生成物の剥離性を向上させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-307701号公報
【文献】特開2010-247058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
確かに、上記特許文献に開示されているような方法によれば、耐候性鋼であっても、表面の腐食生成物を除去することができるようになると考えられる。しかし、特許文献1に開示されているものは、除去方法が研削盤による削り取りであるため、孔状、あるいは溝状の凹部に存在する腐食生成物を除去する事は難しいといった問題がある。また、特許文献2に開示されているものは、ウォーターブラスト法の変形であるため、処理に使用する水の回収や、廃水処理など、付帯作業に起因した負担が大きくなると考えられる。
【0008】
そこで本発明では、上記問題を解決し、ピットや溝などの凹部に生じている腐食生成物も容易に除去することができ、付帯作業による負担も少ない腐食生成物の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る腐食生成物の除去方法は、構造物を構成する鋼板の表面に付着した腐食生成物を除去する方法であって、前記腐食生成物を還元することで前記腐食生成物に体積収縮を生じさせると共に、還元化腐食生成物を構成する第1処理工程と、前記体積収縮により前記還元化腐食生成物の表面に生じたひびを介して前記鋼板の素地を酸化させて新たな腐食生成物を得ることで前記還元化腐食生成物と前記鋼板の素地との密着性を低減させる第2処理工程と、を有し、前記第2処理工程後に前記還元化腐食生成物を剥離除去することを特徴とする。
【0010】
また、上記のような特徴を有する腐食生成物の除去方法において前記第1処理工程は、前記鋼板における前記腐食生成物発生面に不溶性電極を対向配置し、前記鋼板と前記不溶性電極との間に電解質溶液を介在させ、前記鋼板と前記不溶性電極との間に電流を印加するようにすると良い。このような特徴を有することによれば、腐食生成物を確実に還元することができる。
【0011】
また、上記のような特徴を有する腐食生成物の除去方法では、前記鋼板と前記不溶性電極との間には繊維シートを介在させ、前記電解質溶液は、前記繊維シートに含浸させるようにすると良い。このような特徴を有する事によれば、鋼板と不溶性電極との間に電解質溶液を保持することが可能となる。
【0012】
また、上記のような特徴を有する腐食生成物の除去方法において前記繊維シートは、架橋型アクリレート繊維とすることが望ましい。このような特徴を有する事によれば、繊維シートによる電解質溶液の保水性と耐久性を確保することができる。
【0013】
さらに、上記のような特徴を有する腐食生成物の除去方法において前記不溶性電極は、チタンにより構成することが望ましい。このような特徴を有する事によれば、不溶性電極の耐久性を確保することができる。
【発明の効果】
【0014】
上記のような特徴を有する腐食生成物の除去方法によれば、ピットや溝などの凹部に生じている腐食生成物も容易に除去することができる。また、腐食生成物の除去を実施するために要する付帯作業による負担も少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】発明に係る腐食生成物の除去方法を実施するための装置構成を示す図である。
図2】鋼板の表面に腐食生成物が付着している様子を示す図である。
図3】鋼板の表面に付着した腐食生成物が還元された様子を示す図である。
図4】還元された腐食生成物と鋼板との間に新たな腐食生成物層が形成された様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の腐食生成物の除去方法に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
[腐食生成物を除去するための装置構成]
まず、図1を参照して、本発明に係る腐食生成物の除去方法を実施するための装置構成について説明する。なお、図1に示す装置構成は、本発明を実施するために好適な装置構成の一例であり、同様な作用を担う事のできる構成であれば、本発明を実施するにあたり、装置構成を限定するものではない。
【0017】
腐食生成物30(図2参照)が表面に付着した鋼板10における腐食生成物付着面には、不溶性電極12が対向配置されている。また、腐食生成物付着面と不溶性電極12との間には、繊維シート14が配置されている。さらに、鋼板10の腐食生成物付着面には、参照電極16が設置される。
【0018】
鋼板10と不溶性電極12はそれぞれ、陰極(対極)と陽極(作用極)とを構成し、陽極である不溶性電極12と陰極である鋼板10を電気的に接続する事で、それぞれを対とする電気化学反応を生じさせる事を可能とする。このような配置構成とされる鋼板10と不溶性電極12、及び参照電極16は、電源18としてポテンショ/ガルバノスタット(Potentiostat/Galvanostat)を使用する場合、それぞれWE(Working Electrode)ポート、CE(Counter Electrode)ポート、及びRE(Reference Electrode)ポートに接続され、電極として作用することとなる。
【0019】
図1に示す実施形態では、鋼板10は耐候性鋼とし、不溶性電極12はチタンにより構成している。また、参照電極16は、銀-塩化銀電極により構成している。さらに、繊維シート14には、架橋型アクリレート繊維を採用し、塩化ナトリウム水溶液を電解液として含浸させている。ここで、電解液には塩化ナトリウム水溶液以外にも、中性溶液としては硫酸カリウムや硫酸ナトリウムなどの水溶液、アルカリ性溶液として水酸化カルシウムや水酸化リチウムの水溶液など、導電性を有する多くの溶液が使用できるが、使用環境や腐食生成物30の状態によって使い分ける必要がある。また、水溶液濃度も同様に、使用環境や腐食生成物30の状態によって適した数値とする。
【0020】
ここで、上記説明では、不溶性電極12について、その構成素材をチタンとしていたが、炭素や白金、あるいはこれらを主性分とした固体材料、その他、チタンの表面に貴金属酸化物を被覆したものなどを採用する事もできる。
【0021】
また、繊維シート14については、耐久性、及び保水性を考慮して架橋型アクリレート繊維を例に挙げているが、布や紙、編織物、及び不織布など繊維素材が平面上に構成されると共に、繊維素材中に親水性官能基を有する繊維が含まれるものであれば良い。親水性官能基を有する繊維としては、レーヨンや綿、ビニロン、ナイロン、羊毛、アクリレートなどを挙げることができる。
【0022】
また、図1では、三電極測定により実施する場合の例として、参照電極16を含む構成を示したが、参照電極16を含まない二電極測定によっても実施することができる。その場合、電源18には直流安定化電源を使用する。
【0023】
[腐食生成物の除去方法]
図2で鋼板10を構成する耐候性鋼の表面に付着する腐食生成物30は、使用される環境やさび層が形成されてからの経過年数によっていくつかの結晶構造をとるが、概ねオキシ水酸化鉄(FeOOH)により構成されている。
【0024】
[第1処理工程]
上記のような構成の腐食生成物30に対して上述した不溶性電極12と参照電極16を配置し、鋼板10を陰極、不溶性電極12を陽極としてポテンショ/ガルバノスタット(以下、P/Gスタット)または直流安定化電源に接続し、鋼板10と不溶性電極12との間に電流を印加する。電流の印加は、参照電極16による検知により、不溶性電極12が鋼板10に比べて卑な電極となるように外部電源であるP/Gスタットまたは直流安定化電源を接続する。鋼板10の電位が鋼の自然電位と防食電位の間となるよう電流値を設定する。具体的には、銀-塩化銀電極基準で-0.6~-0.7Vとなれば良い。
【0025】
このような条件で鋼板10と不溶性電極12との間に電位差を与える事で両者の間に電流が印加され、不溶性電極12側では[化1]に示すような電気化学反応が生じ、鋼板10側では[化2]に示すような電気化学反応が生じる。
【化1】

【化2】
【0026】
このような反応により、鋼板10の表面に生じていた腐食生成物30を構成するオキシ水酸化鉄(FeOOH)は、いわゆる黒さびであるマグネタイト(Fe3O4)32に変化する。この反応により、腐食生成物30には体積収縮が生じ、図3に示すように、還元反応後のマグネタイト32には微細なひび割れが生ずることとなる。
【0027】
[第2処理工程]
腐食生成物30を構成するFeOOHが完全にFe3O4へと還元されると、反応場が無くなり、電極上の電気抵抗が増大する。このような反応により、陰極側、すなわち鋼板10側では防食性能が低下し、素地表面で局部的な腐食電池が形成される。すなわち、Fe3O4とFeとの間で局部電池が形成される。この作用により、鋼板10の素地表面で腐食が発生し、新たな腐食生成物34が生成される(図4参照)。
【0028】
このとき、密に接していたマグネタイト32と素地との間に、新たな腐食生成物34が形成されるため、素地に対するマグネタイト32の密着性が低下する。これにより、マグネタイト32の剥離除去性が向上し、鋼板10の表面から剥離させることができる。
【0029】
新たな腐食生成物34の一部は、マグネタイト32の微細な割れを介してマグネタイト32の表面に析出し、繊維シート14に浸透する。このとき、マグネタイト32と繊維シート14の間に付着力が生じ、繊維シート14を除去する際に、マグネタイト32も同時に取り除かれる。したがって、この方法を用いることにより、耐候性鋼表面に強固に付着する腐食生成物30を特別な力を要さずに、取り除くことが可能となる。
【0030】
マグネタイト32が除去された鋼板10の表面には、新たな腐食生成物34の一部が残る場合があるが、従来の素地調整方法で容易に除去が可能である。これにより、鋼板10の表面に塗装を施したとしても、塗膜の剥離などの早期劣化を抑制することができ、十分な耐久性を得ることができる。
【0031】
[効果]
上記のようにして腐食生成物30を除去することによれば、ピットや溝などの凹部に生じている腐食生成物30も容易に除去することができ、強固に鋼素地に付着した腐食生成物30の除去にかかる労力を大幅に低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
上記実施形態では、鋼板と不溶性電極との間に塩化ナトリウム水溶液を保持させるために、繊維シート14を介在させる旨記載した。しかしながら、電解液を保持する事ができれば、塩化ナトリウムの成分を含むゲルシートなどであっても良い。
【符号の説明】
【0033】
10………鋼板、12………不溶性電極、14………繊維シート、16………参照電極、30………腐食生成物、32………マグネタイト、34………新たな腐食生成物。
図1
図2
図3
図4