IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ウラジーミル・エフゲニエビッチ・イワノフの特許一覧

<>
  • 特許-多ノズル噴流プロパルサ 図1
  • 特許-多ノズル噴流プロパルサ 図2
  • 特許-多ノズル噴流プロパルサ 図3
  • 特許-多ノズル噴流プロパルサ 図4
  • 特許-多ノズル噴流プロパルサ 図5
  • 特許-多ノズル噴流プロパルサ 図6
  • 特許-多ノズル噴流プロパルサ 図7
  • 特許-多ノズル噴流プロパルサ 図8
  • 特許-多ノズル噴流プロパルサ 図9
  • 特許-多ノズル噴流プロパルサ 図10
  • 特許-多ノズル噴流プロパルサ 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】多ノズル噴流プロパルサ
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/46 20060101AFI20220322BHJP
   B63H 11/08 20060101ALI20220322BHJP
   B63H 11/10 20060101ALI20220322BHJP
   B64C 15/14 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
B63H25/46
B63H11/08 A
B63H11/10
B64C15/14
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020570387
(86)(22)【出願日】2019-02-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 RU2019000106
(87)【国際公開番号】W WO2019172808
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-10-07
(31)【優先権主張番号】2018108167
(32)【優先日】2018-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】520341809
【氏名又は名称】ウラジーミル・エフゲニエビッチ・イワノフ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100117640
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 達己
(72)【発明者】
【氏名】ウラジーミル・エフゲニエビッチ・イワノフ
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0223915(US,A1)
【文献】カナダ国特許出願公開第02838700(CA,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0211511(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0360761(US,A1)
【文献】米国特許第02963543(US,A)
【文献】米国特許第05401195(US,A)
【文献】特開昭54-028426(JP,A)
【文献】特開2014-162473(JP,A)
【文献】特開2012-232736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/46
B63H 11/08
B63H 11/10
B63G 8/08
B64C 15/14
F42B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴流プロパルサであって、前記プロパルサが位置している環境の気体または液体を動作媒体として使用し、前記プロパルサ、8つのノズルと、前記ノズルを相互接続する複数のチャネルと、前記チャネル内の前記動作媒体の流れにおける圧力差としてのヘッドの大きさおよび方向を制御するために前記チャネル内に配置された圧力ユニットと、を備え、前記ノズルのそれぞれが、前記動作媒体の噴流の放出方向を制御するように、また、前記プロパルサから前記環境中への前記動作媒体の前記放出だけでなく前記環境から前記プロパルサ内への前記動作媒体の吸入を提供するように適合される、噴流プロパルサにおいて、前記複数のチャネルが、前記圧力ユニットが装備された8つの能動チャネルと、4つの中間チャネルと、中央チャネルとを含み、前記圧力ユニットを内部に含む前記8つの能動チャネルのそれぞれが、その一方の端部により前記ノズルのうちの1つに接続され、前記圧力ユニットを内部に含む全ての能動チャネルが、その他方の端部により互いに対で接続され、したがって前記能動チャネルの4つの分岐点を形成し、前記中間チャネルのそれぞれが、その一方の端部により前記能動チャネルのそれぞれの分岐点に接続され、前記4つの中間チャネルが、その他方の端部により互いに対で接続され、したがって前記中間チャネルの2つの分岐点を形成し、前記中央チャネルが、その端部により前記中間チャネルの前記2つの分岐点に接続されることを特徴とする、噴流プロパルサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、噴流プロパルサに関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]噴流プロパルサは、長年にわたって知られており、また、様々な輸送ビークルで使用されてきた。これらのプロパルサでは、環境中への気体または液体噴流の放出に対する応答として、推力が生じる。その場合、気体/液体は、一般的にプロパルサの動作媒体を意味する。生じる推力は、その方向に関して、噴流方向とは反対である。
【0003】
[0003]知られた噴流プロパルサの中で、それらが移動する(位置する)媒体の気体または液体を使用するプロパルサの群が、対象に選ばれ得る。それらのプロパルサは、吸入開口部を通じて、それらが位置する媒体から気体または液体を吸い込み、次いで、プロパルサのカナルおよび圧力ユニットを通過したこの気体または液体が、ノズル(または複数のノズル)を通じて元の媒体中へ噴流として放出される。得られる反動荷重は、プロパルサ推力である。例えば、外部の空気または水が、動作媒体として機能し得る。この種のプロパルサは、動作媒体が移動する流体チャネル内に圧力ユニットを備える。本プロパルサが属するのは、この部類のプロパルサである。
【発明の概要】
【0004】
[0004]一部の船舶および潜水艦で使用される水噴流プロパルサは、本発明の関係の遠い類似物である。そのような船舶の水噴流プロパルサでは、外部の水が動作媒体として使用される。それらのプロパルサに含まれる圧力ユニットは、吸入ユニットを通じて外部の水を吸い込むこと、および、ノズルを通じてそれらを放出し、それにより反応性推力を生成することを提供する。そのようなプロパルサにおけるノズルは、一般に偏向可能(回転可能)であり、そのことが、噴流放出方向を制御することを可能にし、したがってプロパルサの推力および推力モーメントの方向を制御すること(推力ベクトルを制御すること)ならびに船舶を旋回させることを可能にする。しかし、上記の水噴流プロパルサは、プロパルサの流体チャネル内の動作媒体流の反転を提供することができず、また、推力ベクトルおよび推力モーメントベクトルの方向をプロパルサ自体に関して全方向的に(全立体角範囲において)制御することを提供しない。
【0005】
[0005]より関係の近い類似物は、1975年4月3日に公開された英国特許出願GB1389532Aで開示されている前部操縦ユニットである。このユニットは、プロパルサチャネル内の動作媒体流の反転を提供し、かつ、半球によって制限された立体角範囲内でプロパルサ推力方向を変更することを-限られた有効性で-可能にする。この出願に記載された操縦ユニットの設計は、操縦ユニットの全てのノズルに対して統合される推力ベクトル方向を制御することを可能にすることを、この出願では開示されていない特異的な制御システムの修正により、潜在的に可能にする。しかし、この設計は、(そのために必要とされない)ユニットの推力モーメントの制御を達成することを可能にしない。
【0006】
[0006]
最も関係の近い類似物(原型)
本発明の最も関係の近い類似物(原型)は、2011年10月20日に公開された露国特許RU2431583および2016年3月15日に公開された加国特許CA2838700で開示されている、流れチャネルにより空間的な多ビームの星形に接続された8つのノズルを含むプロパルサである。本発明における特徴にある程度類似した(上記特許における最も関係の近いバージョンの)原型の特徴は、デフレクタが装備され、かつ、チャネル内の加圧ユニットを含むチャネルの系によって互いに接続された、8つのノズルである。原型、および本発明は、全立体角の範囲内で推力および推力モーメントベクトルを同時にまた独立して制御することを提供する。
【0007】
[0007]提案されるプロパルサは、原型と同様に、環境の気体または液体を動作媒体として使用する多ノズル(8ノズル)噴流プロパルサであり、かつ、原型のように、空間的に全方向的に(すなわち、全立体角範囲内で)推力(推力ベクトル)および推力モーメント(推力モーメントベクトル)を同時にまた独立に生成しかつ制御するように意図される。提案されるプロパルサは、放出された(吐出された)噴流のデフレクタを含むノズルを同様に使用し、ノズルは、流れチャネルの系を通じて互いに接続されている。
【0008】
[0008]本プロパルサの意図された用途、適用性、および必要性は、原型のそれらと同様であると考えられている。言い換えれば、本プロパルサは、3D媒体である液体媒体内(例えば、水塊中)または気体媒体内(例えば、空気中)を移動する輸送ビークルを艤装すること、並びに、任意の空間方向における(全立体角内の)推力および任意の空間方向における推力モーメント(プロパルサ自体に対して任意に離間された軸の回りでの回転力)を同時にまた独立に提供することを対象とする。潜水艦および飛行船が、そのようなビークルの非限定的な例である。
【0009】
[0009]プロパルサチャネルのそれぞれがその端部のうちの1つにより中央チャンバに接続される単純な空間的な星形(以下、単純星形と呼ばれる)として流体チャネルの系が構成される原型とは異なり、本プロパルサのチャネル系は、よりいくらか複雑であり、かつ、中央チャネルと、中央チャネルの端部のそれぞれに2つずつ接続された4つの中間チャネルと、中間チャネルの他方の端部に2つずつ接続された8つの能動(端部)チャネルと、を含む(以下、この構造は、複雑分岐星形と呼ばれる)。8つの能動チャネルのそれぞれは、そのもう一方の端部によりプロパルサの8つのノズルのうちの1つに接続され、かつ、制御可能な反転圧力ユニットを備える。
【0010】
[0010]本プロパルサが解決することが意図されている技術上の課題は、この種のプロパルサの動作有効性を高めることである。これは、本プロパルサの流体チャネル内の動作媒体流における流体力学的な(気体力学的な)エネルギー損失を低減することによって達成され、それには、複雑分岐星形の新規なチャネル系が貢献する。原型の単純星形の系は、この有効性を実現することができない。
【0011】
[0011]本発明によって提供される技術上の結果は、本プロパルサの流体チャネル内の動作媒体流における流体力学的な(気体力学的な)無駄なエネルギー損失を低減すること、および、それに起因してその有効性を高めることにある。有効性を高めることは、他の全ての条件が等しい原型と比較して、その効率の向上、動作出力、推力、および推力モーメントの増強で明らかになる。
【0012】
[0012]また、提案されるプロパルサ構造は、この種のプロパルサのための設計を多様化し、すなわち、噴流プロパルサの範囲を拡大する。
【0013】
[0013]
使用される用語の説明
慣例的な用語である「輸送ビークル」、「移送機構」、「運搬設備」は、本出願においては等価なものとして認識されかつ本明細書においてさらに使用される。
【0014】
[0014]環境(媒体)は、気体または液体で満たされた均質な空間であり、その中で運搬設備が存在しかつ/または移動する。
【0015】
[0015]「ノズル」という用語により本文においてさらに意味されるものは、空間に開口しておりかつそれを通じてプロパルサから空間内への動作媒体の放出が行われる、任意の装置またはユニットおよびプロパルサチャネルの端部である。
【0016】
[0016]「ノズルからの噴流放出の方向を制御するための装置」という用語によって意味されるものは、任意の慣例的な、また、それのために意図された、装置である。装置の非限定的な例は、制御可能なデフレクタ(制御可能かつ平行な板のセット)、あるいは偏向可能または曲げることが可能なエルボ、さらには噴流偏向のためのより複雑な多構成要素装置を含み得る。
【0017】
[0017]プロパルサの「チャネル」という用語によって意味されるものは、全体としてトンネルを形成しかつプロパルサの内側での動作媒体の流動を保証する、任意のユニット、またはいくつかのユニットの組合せである。
【0018】
[0018]「チャネル内の圧力ユニット」または「制御可能な圧力ユニット」という用語によって意味されるものは、単一の装置またはユニット、および装置またはユニットの系である。そのようなユニットは、(a)いくつかの電力アクチュエータを備え、(b)チャネル内の動作媒体流れにおいてこのユニットによって生成された圧力を制御することができ、かつ(c)圧力が生成される方向を反転させることが可能であると考えられている。
【0019】
[0019]本出願における「流体力学的抵抗」および「気体力学的抵抗」という用語は、実質的に亜音速の場合では本プロパルサによって行われるような開けた空間での気体の移動は軽液体の移動にかなり類似するという慣例的な前提により、一致した意味を有する。
【0020】
[0020]本出願において「プロパルサ推力ベクトル」および「プロパルサ合計推力ベクトル」という用語により意味されるものは、全てのプロパルサノズル推力ベクトルのベクトル和である。
【0021】
[0021]「ノズル推力ベクトル」という用語によって意味されるものは、ノズルから動作媒体の噴流を放出したときに生成され、かつ、噴流を放出する方向とは反対側に向けられる、推力(反動荷重)である。
【0022】
[0022]本出願において「プロパルサ推力モーメントベクトル」および「プロパルサ合計推力モーメントベクトル」という用語によって意味されるものは、ノズルによって生成され、かつ、プロパルサを空間的な軸の周りで、例えばロール軸、ピッチ軸、および垂直軸の周りで回転させることを意図する、推力モーメント(回転力)のベクトル和である。各ノズルは、ノズル推力ベクトルの方向が、プロパルサが位置する部分である輸送ビークルの質量中心点を通過しない場合はいつでも、非ゼロの推力モーメントを生成する。
【0023】
[0023]本出願において「ノズル推力モーメントベクトル」という用語によって意味されるものは、ノズル推力ベクトルにより質量中心からノズルの位置まで描かれた動径ベクトルのベクトル積(vectorial product)としてのこのベクトル単位の物理学および技術に共通の定義である。
【0024】
[0024]また、本出願の全体にわたって意味されるものは、プロパルサ動作の説明においてはプロパルサ構造要素に対する動作媒体の亜音速の移動が常に前提とされることである。プロパルサは、亜音速において動作するように意図されている。
【0025】
[0025]
本発明の本質の開示
本発明は、その動作のために環境の気体または液体を使用する多ノズル噴流プロパルサを特徴とする。プロパルサは、中心対称に配置されかつチャネルの系を通じて互いに接続された8つのノズルと、チャネル系内の動作媒体の流れにおける圧力の大きさおよび方向を制御するためのチャネル内の圧力ユニットと、を備える。また、ノズルのそれぞれは、環境中へ動作媒体の噴流を放出する方向を制御するように適合される。ノズルのそれぞれは、環境からプロパルサ内へ動作媒体を取り込むこと、および、プロパルサから環境中へ動作媒体を放出することの両方を-そのときのプロパルサの動作モードに応じて-行うことができる。
【0026】
[0026]プロパルサチャネルの系は、圧力ユニットを含む8つのチャネル(以下、能動チャネルと呼ばれる)と、4つの中間チャネルと、中央チャネルと、を含む。圧力ユニットを含む8つの能動チャネルのそれぞれは、その一方の端部により上述のノズルのうちの1つに接続される。圧力ユニットを含む全ての能動チャネルは、その他方の端部により2つずつ接続され、したがって能動チャネルの4つの結合接続部を形成する。結合接続部のそれぞれには、中間チャネルがその一方の端部によって接続される。4つの中間チャネルは、その他方の端部により2つずつ互いに接続され、したがって中間チャネルの2つの結合接続部を形成する。中央チャネルは、その2つの端部により中間チャネルの2つの結合接続部に接続される。
【0027】
[0027]提案されるプロパルサチャネルの構造は、プロパルサの全体的な(総)長さ、幅、および高さが等しくないあらゆる場合に対して、内部損失の最少化とプロパルサの最高の有効性とを保証する。原型と比較したときの本プロパルサの流れチャネルにおける内部損失の低減は、プロパルサの動作モードのうちのいくつかにおいてチャネルに沿った動作媒体流れのための経路を短縮することに主に起因し、それにより、流れにおける流体力学的な(気体力学的な)損失の低減がもたらされ、同様に、動作媒体流れの経路の矯正、すなわちプロパルサの動作モードのうちのいくつかにおいて動作媒体流れの合計転向角度を低減することにより、矯正もまた、動作媒体流れにおける流体力学的な(気体力学的な)損失の低減に貢献する。
【0028】
[0028]能動チャネル内の圧力ユニットは、制御可能に作られ、かつ、それぞれのチャネル内の動作媒体流れにおける圧力を両方向に-ノズルに向かう方向に、また同様にノズルからの方向に-おいて制御することを提供する。ノズルは、動作媒体噴流の吐出の方向の制御可能なデフレクタを備える。動作モードに応じて、ノズルは、プロパルサ内の動作媒体の噴流を吐出すること、および、動作媒体として使用される環境の気体または液体をノズルを通じてプロパルサ内に吸入することの両方を可能にする。
【0029】
[0029]プロパルサの動作時には、圧力ユニットの動作により、等量の動作媒体(気体または液体)が、1つまたはいくつかのノズルを通じて環境からプロパルサ内に取り込まれ、また、同じ量の動作媒体が、別のまたはいくつかの他のノズルを通じて元の環境中へ指向性噴流として吐出されることが、実現される。噴流吐出の速度(流量)は、プロパルサ圧力ユニットの動作によって画定されるが、各ノズルからの噴流の吐出方向は、それぞれのノズルの吐出方向の制御可能なデフレクタによって設定される。噴流の速度および方向は、それぞれのプロパルサノズルの推力の値および方向(吐出方向とは反対)を画定する。動作媒体噴流の吐出のために働く全てのノズルの力のベクトル和が、プロパルサの全推力および全推力モーメントを表わす。プロパルサノズル位置の空間的対称性、動作媒体の吸込みまたは吐出の両方のために働く各ノズルの動作上の融通性、および、各ノズルからの動作媒体噴流の吐出方向を制御することにより、プロパルサは、方向-全立体角範囲における-およびその値(プロパルサの使用目的次第で構造的に決定された最大値まで)が任意である推力および推力モーメントを同時に形成することが可能になる。プロパルサは、これらの推力パラメータの高速制御を提供することが可能であり、それにより、プロパルサが装備される運搬設備に対する高水準の可制御性がもたらされる。
【0030】
[0030]本出願において提案されるプロパルサ流路の新規な構成は、原型と比較して実質的に異なる、プロパルサチャネルに沿った動作媒体流れの分配および移動を提供し、これは、プロパルサにおける内部損失を低減し、かつ、提案されるプロパルサの効率および/または有効性を原型と対比して向上させることを保証する。所与の推力におけるプロパルサの有効性を増大させることは、エネルギーおよび燃料の消費を低下させる。プロパルサ駆動の所与の最大出力(topping power)において、それは、より大きなプロパルサ推力を保証する。これらのパラメータを改善することは、大きな実際上の意義を持つ。
【0031】
[0031]有効性の向上は、動作媒体がプロパルサ流れチャネルの系を通過するときに動作媒体の流れにおけるエネルギーの流体力学的な(気体力学的な)内部損失を低減することを通じて、達成される。その効果は、新規なチャネル構造の使用によって得られる。損失低減の全体の(まとめられた)効果は、提案されるプロパルサにおいて流体チャネルの「複雑星形」系を使用することからそれぞれもたらされる、いくつかの異なる損失低減効果の貢献を含む。提案される構成のチャネル系を使用することからもたらされるそれらの異なる損失低減の効果の特性は、後でより詳細に論じられる。
【0032】
[0032]原型(最も関係の近い従来技術)および提案されるプロパルサの相対的な有効性について説明する際、これら2つのプロパルサは、可能であれば、構造的に異なるチャネル系以外の関係する技術的なパラメータに関する限り、同一条件の下で比較される。これは、提案されるプロパルサと原型とを比較するときに、(a)寸法-プロパルサの全体的な長さ、幅、および高さ-を一致させること、(b)輸送ビークルの本体内でプロパルサによって占有される空間を一致させること(これは、実際には、チャネル開口部の特有の断面積の比較可能性のパラメータである)、(c)比較されるプロパルサに対する、完全に同一の圧力ユニット、ノズル、およびデフレクタの可用性、(d)原型および提案されるプロパルサの流体チャネルが、使用される構成に最大限の有効性を提供するように設計されること、が暗に含まれることを意味する。プロパルサは同様の機能性を有するので、原型および提案されるプロパルサの有効性は、同一の動作モードにおいて比較され得る。上記の比較条件は、適切な相関関係にとって必要かつ十分である。
【0033】
[0033]以下で論じられる全ての損失減少要因は、適切に比較され得る任意の「原型-提案されるプロパルサ」の対に対して起こる。提案されるプロパルサの(したがって、原型の)長さ、幅、および高さが互いに等しい(長さは、幅および高さに等しい)場合には、提案されるプロパルサおよび原型は、構造に関して互いに異ならず、互いに優る利点を有さないので、この場合を除いて、長さと幅と高さとの間の任意の比を有するプロパルサに対して、有効性のそれぞれの増大が期待される。その長さと幅と高さとの間に実質的な違いがあるこのタイプのプロパルサにおいて可能とされる最高の有効性を提供すること(これは、例えば、扁長楕円体でありかつ高さが扁平なプロパルサに対して考えられ得る)が、本発明の主目的のうちの1つである。この目的は、液体および気体環境において使用される扁長楕円体で平坦な本体構成を有する輸送ビークルを(この種のプロパルサを使用して)艤装することにとって需要があると考えられる。3軸の楕円体の形態(またはそれに近いもの)が、そのような本体の非限定的な例を提供する。
【0034】
[0034]相当な複雑さ、および計算量のために、本明細書は、かなり多くの(限りない数の)構成(比率)および本体サイズを考慮することを必要とするであろう完全かつ精密な算出を提供しない。原型に優る利点を提案されるプロパルサに与える、非限定的な例として以下で論じられる動作モードは、原型と対比して損失を低減することに関する厳密な考察を伴わずに、本プロパルサの実現可能性および実行可能性を説明するために提示される。プロパルサの動作についてさらに説明する場合、いくつかのコメントのみが-例えば、流れがどのようにして明らかにより短い経路を通って提案される装置の流れチャネルの系を通過するかを説明するために-なされる。そのような扱い方は、プロパルサだけを特許請求することから分かり、そのため、プロパルサの動作方法は、それに必要とされる最低限の範囲に対してのみ開示される。
【0035】
[0035]上述の動作媒体流れにおける損失の減少は、いくつかの様々な要因の作用の集合により、提案されるプロパルサにおいて達成され、それらの要因は、続く説明において示されるように、修正された流れチャネルの系を使用することからもたらされるものである。損失低減をもたらす要因は、プロパルサの特定の動作モードに応じて、全てが同時に作用するか、またはそれらの任意の組合せで存在し得る。
【0036】
[0036]原型と比較したときのプロパルサの性能の向上は、以下の要因によってもたらされる。
【0037】
[0037](A)提案されるプロパルサの動作モードのうちのいくつかでは、プロパルサの流れチャネル内の動作媒体の流れは、そのいくつかの動作モードにおける原型と比較してより短い経路を使用する。これは、原型における「単純星形」の代わりに「複雑分岐星形」チャネル構造を使用することによって達成される。さらに、動作媒体の流れは、プロパルサの中央チャネルを避けて、または中央チャネルおよびいくつかの(もしくは全ての)中間チャネルを避けて、移動する。これらのモード(レジーム)のいくつかの非限定的な例が、「プロパルサの動作」の節において詳細に後述される。同様のレジームにおける原型と比較して、動作媒体流れのためのそのようなより短い経路は、他の全ての状況が等しい(他の条件が等しい)より短いチャネルのより少ない流体力学的抵抗により、流れにおける流体力学的なエネルギー損失を低減し、それにより、原型と対比してプロパルサ有効性を強化することがもたらされる。この有効性の強化は、プロパルサにおける新規な流体チャネルの系の使用によって達成される。
【0038】
[0038](B)また、提案されるプロパルサは(より短い経路にわたって動作媒体が移動するレジームにおいて)、「矯正された」経路-機能的に類似した動作レジームにおける原型と比較してより小さい流れ転向角度の和(流れに対していくつかの曲がり角が存在する、より小さい全角度)-を提供する。そのような動作媒体の流れの「矯正された」経路は、他の条件が等しければ、その経路に関連する総流体力学的抵抗を減少させることにより、流れにおけるエネルギー損失を低減する。このことは、プロパルサ有効性の強化にもつながる。
【0039】
[0039](C)提案されるプロパルサの複数の動作レジームは、動作媒体の流れがプロパルサの中央チャネルおよび/または中間チャネルを横断することを想定している(それらのレジームのうちのいくつかは、非限定的な例として「プロパルサの動作」の節において詳細に後述される)。さらに、各中間チャネルは、それに接続された2つの端部チャネルの得られた流れを通す。提案されるプロパルサのチャネル系は、非限定的な例として2つの端部チャネルの内側断面積の和に等しい内側断面積(開口部)を有する中間チャネルを使用することを可能にする。そのような設計は、「2倍の」流れを合計内側断面積の1つのチャネルに通すことにより、プロパルサの中間チャネルにおける流体力学的抵抗の減少をもたらす。原型はチャネルの「単純星形」系を使用するので、この特徴は原型では実現不可能である。同様に、中間チャネルの各対からの合計流れは、提案されるプロパルサの中央チャネルを通って移動する。提案される設計は、中間チャネルの対の内側断面積の和に等しい内側断面積を有する中央チャネルを使用して、中央チャネルの区間における流体力学的損失の減少をもたらすことを可能にする。原型はチャネルの「単純星形」系を使用するので、この特徴もまた原型では実現不可能である。上記の作用の完全かつ精密な算出および計算もまた、かなりの量であるはずであり、その理由で、本開示では明記されない。
【0040】
[0040]上記で論じられた損失減少の要因(A)、(B)および(C)は、プロパルサの様々な動作レジームにおいてその価値を-単独でまたはそれらの任意の組合せで-示し得ることが、留意された。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】[0041]提案されるプロパルサを3つのビューで示す図である。
図2】[0042]本開示のプロパルサのメインビューを示す図である。
図3】[0043]輸送ビークルの本体内でのプロパルサの配置を示す図である。
図4】[0044]示された方向に推力を生成するためのプロパルサの動作レジームを示す図である。
図5】示された方向に推力を生成するためのプロパルサの動作レジームを示す図である。
図6】示された方向に推力を生成するためのプロパルサの動作レジームを示す図である。
図7】示された方向に推力を生成するためのプロパルサの動作レジームを示す図である。
図8】示された方向に推力を生成するためのプロパルサの動作レジームを示す図である。
図9】示された方向に推力を生成するためのプロパルサの動作レジームを示す図である。
図10】示された方向に推力を生成するためのプロパルサの動作レジームを示す図である。
図11】示された方向に推力を生成するためのプロパルサの動作レジームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
[0046]プロパルサの構造の説明
【0043】
[0047]図1は、3つのビューで示されたプロパルサの略図を提示する。プロパルサは、チャネル101、102、および103の系により互いに接続された8つのノズル104を備える。プロパルサが動作しているときに、環境(図示せず)からの気体または液体が、プロパルサのための消耗動作媒体としての役割を果たす。端チャネルまたは能動チャネルとさらに呼ばれる、ノズル104に接続された8つのチャネル103は、制御可能な可逆圧力ユニット106を備え、それらの可逆圧力ユニット106は、明確であるように、また、非限定的な例を提示するために、(気体のための)インペラまたは(液体のための)船舶プロペラとして示されており、圧力ユニットのそれぞれは、電力アクチュエータ109に接続されている。全てのプロパルサノズルは、ベクタリングユニット(デフレクタ)108を備え、それらのベクタリングユニット108は、明確であるように、また、非限定的な例を提示するために、偏向可能な管として示されている。ベクタリングユニットは、点線の管としていくつかの全開位置105に示されたノズル104からの噴流107の放出方向を制御する。圧力ユニット106における圧力方向を変更する(圧力を反転させる)ことにより、各ノズル104がプロパルサからの動作媒体噴流放出およびプロパルサ動作媒体として使用するための環境からプロパルサ内への気体または液体の吸入の両方を実現することが、可能になる。
【0044】
[0048]図1および2に示されるように、8つのノズル104は、仮想の平行6面体の頂点に位置する(非限定的な例)。図1のビューAによって示されるように、能動チャネル103は、ノズルに接続され、かつ、圧力ユニット106が備えられる。可逆的であるプロパルサの各圧力ユニット106は、圧力の大きさおよび方向の両方を制御することができる。点線105は、非限定的な例として、ノズル104から放出される噴流107のデフレクタ108が位置し得る全開位置を示す。
【0045】
[0049]能動チャネル103は、その他方の端部により中間チャネル102の第1の端部に対で接続されることが、図1から分かる。能動チャネルおよび中間チャネルが接続される箇所では、任意のチャネル間での消耗動作媒体(気体または液体)の遮るもののない流れが提供される。
【0046】
[0050]また、中間チャネル102は、その他方の端部により、中央チャネル101の2つの端部に接続される。中間チャネルおよび中央チャネルが接続される箇所では、任意のチャネル間での消耗動作媒体(気体または液体)の遮るもののない流れが提供される。
【0047】
[0051]図2は、本プロパルサのメインビューを示す。このビューは、星形の中心に中央チャネルが加えられた3次元的な(すなわち、1つの平面内に配置されない)星形を含む、チャネルの複雑な空間的構造をはっきりと示す。
【0048】
[0052]図3は、非限定的な例として、輸送ビークルの本体302内でのプロパルサ303の配置を提示し、この本体は、角が落とされた平行6面体のように見え、プロパルサは、本体内に配置されており、被制御ノズルは、本体の外側にある。
【0049】
[0053]原型と同様に、提案されるプロパルサは、高水準の輸送ビークル可制御性を独特に有し、かつ、全立体角範囲における推力および推力モーメントベクトルの高速応答制御を保証する。その際に、提案されたプロパルサチャネル接続の構造は、原型と比較して実質的により少ないプロパルサにおける内部損失を保証する。したがって、プロパルサの有効性および効率が高められる。
【0050】
[0054]説明されるプロパルサ構造は、3次元的な気体または液体の媒体中を移動する輸送ビークルでの使用に、具体的には-限定的でない例として-空気中または水中を移動する輸送ビークルでの使用に、最も好ましい。プロパルサは、限定的でない例として、輸送ビークルの本体内での使用に向けられる。そのような輸送ビークルの非限定的な例は、液体媒体用の潜水艦、および気体(空気)媒体用の飛行船であり得る。
【0051】
[0055]プロパルサユニット
【0052】
[0056]プロパルサノズル
【0053】
[0057]プロパルサノズル104の相互配置の実際的であるが非限定的な例は、プロパルサノズル104を仮想の平行6面体の角の近くに配置することである。そのような例は、より優れた確実性のために、本開示を示す全ての図面において使用される。
【0054】
[0058]プロパルサ被制御ノズルは、動作媒体噴流の放出方向の制御可能な変更を保証する。そのようなノズルの非限定的な例は、図1のビューAに示された、傾動可能な延長部を含むノズルである。
【0055】
[0059]圧力ユニット
【0056】
[0060]図1に示された圧力ユニット106は、圧力差を作り出すことにより、プロパルサ内の動作媒体の流動を提供する。非限定的な例として図1に示された空気(水)プロペラ106の場合、これは、プロペラ(水プロペラ)推力の値および方向の制御可能な変更を確実にするために、可変ピッチプロペラ羽根の使用により、また、羽根の負の迎え角(negative incidence)(ピッチ)の設定の可能性により、保証される。不変の羽根ピッチおよび相反する2つの方向での回転の可能性を有するプロペラ(水プロペラ)が、羽根の反転を保証する別の非限定的な例としての役割を果たし得る。
【0057】
[0061]ヘッドの反転を伴う圧力ユニットの1つまたは複数の非限定的な例は、一体的な圧力ユニットとして動作する2つ以上の上記の圧力ユニットの集合体である。
【0058】
[0062]圧力ユニット106は、図1中のユニット109に類似した、全ての図に従来通りに示されたいずれかの電力アクチュエータを有することが、本開示全体を通して理解される。そのような電力アクチュエータの非限定的な例は、プロペラ(水プロペラ)に接続された別体のモータ、または、プロペラ(水プロペラ)に接続されかつエネルギーの供給および圧力ユニットの動作を保証する動力伝達装置である。
【0059】
[0063]プロパルサ流体チャネル
【0060】
[0064]プロパルサ内の流体チャネルの系は、全てのプロパルサノズルを互いに接続するように、また、それらを通して動作媒体の流れを移動させることを保証するように、設計される。ノズルに直接接続されたチャネルは、圧力ユニットを備える。それらの相互接続において、プロパルサチャネルは、「中央チャネルを含む複雑な分岐の空間的な星形」を形成する。チャネルの構造(構成)は、例えば、図1に示される。図3は、非限定的な例として、輸送ビークルの本体内でのプロパルサチャネルの配置を示す。
【0061】
[0065]プロパルサの動作
【0062】
[0066]プロパルサの動作は、例えば液体または気体である動作媒体の噴流をノズルから放出することに対する反応として推力を生成する原理を応用する。
【0063】
[0067]提案されるプロパルサの顕著な動作特性は、プロパルサ自体に関連する全立体(空間的)角範囲において推力(全ノズルの総推力ベクトル)および推力モーメント(全ノズルの総推力モーメントベクトル)を制御することを保証する、プロパルサの能力である。
【0064】
[0068]推力および推力モーメントのそのような制御に関する能力をもたらすために、1つまたはいくつかのプロパルサノズルを通じて環境から気体または液体を吸入してそれを動作媒体として使用する可能性が、プロパルサにおいて実現される。それと同時に、プロパルサは、別のまたはいくつかの他のノズルから動作媒体の噴流を放出して特定のモーメントにおいて必要とされる総推力ベクトルおよび総推力モーメントベクトルを生成する可能性を保証する。
【0065】
[0069]各ノズルの-環境からの動作媒体の吸入のための、または元の環境中への動作媒体噴流の放出のための動作モードは、そのノズルに直接接続されたチャネル内の圧力ユニットの動作モードにより、また-それほどではないが-他のチャネル内の圧力ユニットの動作モードにより、主に決定される。
【0066】
[0070]全てのプロパルサノズルには、動作媒体噴流の放出方向を制御するユニットが装備されている。
【0067】
[0071]原形と比較して修正された、提案されるプロパルサのチャネルの構造(配置)は、プロパルサにおけるより少ない内部損失により、コンパルソリー(compulsory)の有効性を強化する。
【0068】
[0072]プロパルサの動作は、プロパルサのいくつかの動作モードがどのように実現されるかを示す非限定的な例により、以下に説明される。
【0069】
[0073]プロパルサの動作の一般原理が、図1を参照しながら説明される。プロパルサの動作中、気体または液体が、プロパルサの8つのノズル104の一部(1つまたは複数)を通じて環境からプロパルサ内に入り、プロパルサのチャネル101、102、103を通過し、次いで指向性噴流としてプロパルサの他のノズルを通じて元の環境中へ放出される。動作媒体の噴流の放出からもたらされる反力(reacting force)が、プロパルサの総推力およびプロパルサの総推力モーメント(回転力)を形成する。
【0070】
[0074]プロパルサ内への動作媒体の吸入、チャネルを通じた動作媒体の移動、および、ノズルを通じた動作媒体の放出は、プロパルサの8つの能動チャネル(8つのノズル104に直接隣接するチャネル)内の圧力ユニット106の動作に起因して行われる。
【0071】
[0075]ノズル104の「外部からの動作媒体の吸入のための」動作モードは、このノズルに隣接する能動チャネル内の圧力ユニット106のヘッドのそれぞれの向きを介して実現される。圧力ユニット106は、ノズル内の圧力の低下をもたらすヘッド(圧力差)を生成し、これが、環境からノズル内への気体または液体の吸入を保証する。結果として、環境からの気体または液体の吸入は、ノズルを通じて行われる。
【0072】
[0076]ノズル104の「噴流を放出するための」動作モードは、それぞれのノズル104に直接隣接するチャネル内の圧力ユニット106の働きを介して実現され、圧力ユニットは、ノズルに向かってヘッドを生成する。これが行われるときに、ノズル104からの噴流放出の方向を制御するデフレクタ108は、必要とされる噴流の放出方向を保証する。得られる反力は、その大きさが、噴流の強さに(すなわち、流量およびノズル速度に)直接関係し、その方向が、ノズルからの動作媒体の噴流の放出の方向とは反対であり、かつ、噴流の軸に沿ってノズルの本体に加えられる。全てのノズルの推力ベクトルは、ゼロから構造的に規定された特定の最大値までのその値によって、また-同じく構造的に規定された特定の立体角内での-その方向によって、異なり得る。
【0073】
[0077]プロパルサの動作の個々の瞬間において、プロパルサのノズル104のそれぞれは、プロパルサからの動作媒体の噴流の放出のために働くか、または、プロパルサ内への動作媒体の吸入のために働く(ノズルを通る流量がゼロ(よどみ点)の場合を除く)。これが行われるときに、個々の瞬間における特定のノズル104を通じた動作媒体の放出の強さまたは動作媒体の吸入の強さは、それぞれのノズルの能動チャネル103の圧力ユニット106により、ゼロから最大強さまでの広い範囲にわたって制御され得る。この範囲には、動作媒体がノズルに入って来るのでもなければノズルから出ていくのでもない、よどみ点が含まれる。
【0074】
[0078]動作媒体の放出のために働く全てのノズルに対する推力ベクトルは、ベクトル値を加算する既知の規則に従って合計されて、プロパルサの総推力ベクトルおよび総推力モーメントベクトルを形成する。
【0075】
[0079]図1における非限定的な例および他の図面に示された、仮想の平行6面体の角におけるプロパルサ全体に対するノズル104の配置は、任意の空間方向にすなわち全立体角の範囲内で推力ベクトルおよび推力モーメントベクトルを形成する可能性を、プロパルサに提供する。
【0076】
[0080]プロパルサの推力モーメントとは、実際には空間内で不規則に配向される仮想軸の周りでのプロパルサの回転力である。力モーメントを表わすベクトルの用語で言えば、既知の右手の法則に従って形成されるベクトルにより力モーメントが表わされる場合、プロパルサは、任意の方向にすなわち全立体角の範囲内で力モーメントを形成することを確実にする。
【0077】
[0081]一般に、動作時には各圧力ユニットが全てのプロパルサチャネル内の動作媒体の流れに影響を及ぼすので、プロパルサチャネルを通る動作媒体の移動は、かなり複雑な相互作用の複合体によって説明される。本開示において説明されるプロパルサの動作の例は、全ての(より低い値の)相互作用は言うまでもなく、プロパルサにおいて生じる主要かつ本質的な現象を「第一次近位において」概説する。このように提示するにあたって、プロパルサ動作に関する記述に記載された全ての説明は、その簡易化された特徴にもかかわらず、正確なままである。
【0078】
[0082]プロパルサの設計は、任意の方向における推力ベクトルおよび任意の方向における推力モーメントベクトルを任意の瞬間にまた同時に形成する可能性を提供する。それにより、全ての圧力ユニット106が完全に動作しているときに最大推力および最大推力モーメントの両方が形成されるので、必要な場合には利用可能な全電力容量を上記の2つのタスクのどちらかに対して使用することが可能になる。そのように実施する際に、利用可能な電力容量は、プロパルサおよび輸送ビークル全体の現在のタスクに適するように、推力を形成するタスクと推力モーメントを形成するタスクとによって共有されることが可能であり、また、共有されなければならない。一般に、瞬間ごとにプロパルサの動作モードを実現することは、常に、合理的にかつ最適な形でなされる2つの部分的なモードの重ね合わせ-推力の形成および推力モーメントを形成すること-である。
【0079】
[0083]プロパルサの動作時には、1つまたはいくつかのノズル104が動作媒体の放出を行う一方で別のまたはいくつかの他のノズル104がプロパルサ内への動作媒体の吸入を行うモードが、常に選択される。プロパルサの8つのノズルは、多数のそのような組合せを提供する。それらの組合せの中で、最も強力なものは、4つのノズルが動作媒体の吸入のために働く一方で、他の4つのノズルが動作媒体の放出のために働いて、現在必要とされる総推力と総推力モーメント(回転力)との組合せを形成するモードに関する組合せである。提案されるプロパルサのいかなるノズル104も、外部からの動作媒体の取得および外部への動作媒体の放出の両方に使用され得るので、必要とされる総推力ベクトルおよび推力モーメントベクトルを形成する多くの(実際には、無制限の数の)組合せが存在する。
【0080】
[0084]プロパルサの動作モードの例
【0081】
[0085]非限定的な例として図4に示されるのは、プロパルサの動作の最も一般的な(全てのプロパルサユニットが関係する)モードである。3重矢印401は、動作媒体として使用される周囲環境からの気体または液体のそれぞれのノズルを介した吸入を示す。これは、菱形付きの点線矢印407によって慣例的に示されている吸込みのために圧力ユニットが働くときにそれぞれのチャネル内に生成される希薄状態によってもたらされる。点線矢印402は、プロパルサチャネルを通る動作媒体の移動を示す。大きな目立つ矢印403は、この動作モードにおける総プロパルサ推力の「左側への」方向を示す。短くて太い矢印404は、それぞれのノズルの推力を示し、この推力は、矢印405によって示された方向におけるノズルからの動作媒体の噴流の放出に対する反応として現れる。矢印403が指す方向における推力は、プロパルサの4つの右側ノズルの推力404のベクトル和であり、それらの推力404は、方向および大きさの点で等しい。
【0082】
[0086]必要とされる推力は、ノズル408を通じた吸込み(矢印407によって示される)のために働く圧力ユニット、およびプロパルサのノズル409を通じた動作媒体の放出(矢印406によって示される)のために働く圧力ユニットの、示された動作モードに起因して形成され、圧力ユニットは、動作媒体の噴流の放出の方向405を定め、かつ、これらのノズルのそれぞれの推力404を形成する。
【0083】
[0087]プロパルサのこの動作モードは、非限定的な例として、輸送ビークルの直進運動を保証する。
【0084】
[0088]非限定的な例として図5に示されるのは、矢印502が指す方向における推力を形成する、プロパルサ動作モードである。プロパルサのノズル504および507は、矢印505および511によって指定された方向に動作流体の噴流を放出し、それにより、ノズルの推力509および503、ならびに矢印502によって示された方向における総推力が、形成される。プロパルサ内への動作媒体の吸入(吸込み)は、4つのノズル501(第2のノズル501は、図面では不可視である)および506を通じて行われる。点線矢印510は、プロパルサチャネルを通る動作媒体の流れを示し、菱形付きの点線矢印508は、それぞれの圧力ユニットにおけるヘッドの方向を示す。
【0085】
[0089]プロパルサのこの動作モードは、非限定的な例として、輸送ビークルの横進運動を保証する。
【0086】
[0090]図6は、非限定的な例として、矢印607によって示された方向に推力を形成することを示し、4つのノズル605(第2のノズル605は、図面では不可視である)および606が、周囲環境から動作媒体を吸い込むように働いており、ノズル601、603が、方向602に動作媒体噴流を放出するように働いている。点線矢印608は、このモードのためにプロパルサチャネルを通る動作媒体の経路(この場合、非常に短い)を示し、一方で、菱形付きの点線矢印609は、他の図面におけるものと同様に、プロパルサのそれぞれのチャネル内の圧力ユニットによって生成されたヘッドの方向を示す。各ノズルによって形成された推力604は、まとめられると、プロパルサの総推力607を提示する。
【0087】
[0091]プロパルサのこの動作モードは、非限定的な例として、輸送ビークルの下降運動を保証する。
【0088】
[0092]非限定的な例として図7に示されるのは、矢印703によって示された方向に推力が形成されるプロパルサ動作モードであり、ノズル701、702、711が、周囲環境から動作媒体を吸い込むように働いており、ノズル705、707、708および710が、矢印706、709、712、713によって指定された方向に動作媒体を放出するように働いている。矢印703によって示される方向における総推力は、4つのノズル705、707、708および710の推力ベクトル和として保証される。点線矢印は、このモードのためにプロパルサチャネルを通る動作媒体の経路を示し、一方で、菱形付きの点線矢印は、プロパルサチャネル内のそれぞれの圧力ユニットによって生成されたヘッドの方向を示す。
【0089】
[0093]プロパルサのこの動作モードは、非限定的な例として、輸送ビークルの前方上昇運動を保証する。
【0090】
[0094]図8は、非限定的な例として、円形矢印801によって示された方向に(プロパルサの偏揺れ軸の周りで反時計方向に)推力モーメント(回転力)を生成するプロパルサ動作モードを示す。このモードのための推力は、長い矢印803によって指定された方向に動作媒体の噴流を放出する2対のノズル804および805の総推力(短い矢印802および806)によって形成される。ノズルの推力ベクトル(矢印対802および803として示される)は、空間内で平行であり、かつ、互いに大きさが等しく、したがってゼロとは有意に異なるプロパルサの推力モーメントとともに、ゼロであるプロパルサの総推力を保証することが、理解される。
【0091】
[0095]プロパルサのこの動作モードは、非限定的な例として、輸送ビークルのその場旋回(on-the-spot turn)を提供する。
【0092】
[0096]非限定的な例として図9に示されるのは、矢印903および909によって画定された方向に動作媒体の噴流を放出ししたがって推力902および907を生成する2つのノズル908の動作に起因して円形矢印901の方向に(プロパルサの長手(ロール)軸の周りに)推力モーメントを提供する、プロパルサ動作モードである。2つのノズルは、矢印904によって示されるように周囲環境からプロパルサ内への動作媒体の吸入を提供する吸込みのために働く。ノズルの推力ベクトルは、空間内で平行であり、かつ、互いに大きさが等しく、したがって実質的にゼロとは異なるプロパルサの推力モーメントとともに、ゼロであるプロパルサの総推力を保証することが、理解される。菱形付きの点線矢印906は、プロパルサのこの動作モードにおける能動チャネルの圧力ユニットの動作方向を示す。他のチャネル、ノズル、および圧力ユニットは、示されたモードでは関わることなく、それらを通る動作媒体の移動は存在しない(ゼロの流れ)。
【0093】
[0097]プロパルサのこの動作モードは、非限定的な例として、輸送ビークルのローリングを提供するか、または外部作用によって生じるローリングの相殺を提供する。
【0094】
[0098]非限定的な例として図10に示されるのは、円形矢印1003および1004によって示される方向に2つの推力モーメントを形成することが同時に行われる、より複雑な動作モードである。
【0095】
[0099]この図面では、いくつかの(1014および1015などの)ベクトルが、それらをベクトル和としてはっきりと示す方法で示されている。これは、以下のことを意味する。別個のベクトル1014および1015によって示された、ノズル1012からの動作媒体の消費(消費の方向および規模)は、実際には(この図面に示されたモードでは)総合計消費であり、その規模および方向は、2重(合計)矢印「1014+1015」であるベクトル和によって提示されている。それらの部分的な消費のそれぞれが、それぞれの推力を生成する。これは、2つの推力ベクトル(矢印1010および1011)によって示され、これらの推力ベクトルは、ベクトル的に合計され、したがって、2重矢印「1010+1011」によって示された総合計ノズル推力を生成する。事実上、ノズルは、1つの(合計)噴流を確実に放出して、1つの(合計)推力を形成するはずである。1つのノズル(1012)のそのような合計消費およびそれぞれの合計推力の成分への分解は、この1つのノズルが(考察されているモードにおいて)他の2つのノズル(1001および1005)と協働して異なる2つの推力モーメントの形成を同時に(即座に)実現する方法をはっきりと示しかつさらに詳述するために、図10において明らかにされている。これが行われるときに、ノズル1001からの動作媒体噴流1002は、このノズルの推力1009を形成し、ノズル1005からの動作媒体噴流1006は、推力1013を形成する。そのようなベクトルの表現は、数学的にまた物理学的に、十分に正確である。
【0096】
[0100]そのような表現の範囲内で、偶力1011および1009(それぞれ、ノズル1012および1001)が、円形矢印1003の方向にプロパルサを旋回させようとする力モーメントを生成することが、図10から明らかである。上述の力ベクトル対が多方向において互いに平行であり、かつ、力が互いに等しい場合、それによって生成される合計推力は、ゼロに等しく、一方で、合計力モーメントは、かなりの値を有する。この場合、これらの力の(不変の方向における)同時性の変動は、生成されるモーメントの大きさをゼロから特定の最大値まで調整することを提供する。
【0097】
[0101]同じ動作手順は、消費対1015および1006に、また、ノズルからの動作媒体の言及された消費量の放出に対する応答として現れるそれぞれの力対1010および1013に、適用可能である。同様に、上記の力の対は、それらが多方向において平行でありかつ大きさが等しいのであれば、かなりの値の推力モーメントを形成し、かつ、合計推力を形成しない(それらの推力は無効になり、ゼロに等しい)。消費1015および1006を同時に調整する場合、円形矢印1004の方向における推力モーメント値を独立に変化させることが可能である。
【0098】
[0102]外部からプロパルサ内への動作媒体の吸入は、それぞれのノズル1007の隣に3重矢印1008によって示される。このモードにおいてプロパルサチャネルを通る動作媒体の移動の経路は、点線矢印1016によって示される。チャネルの圧力ユニットにおけるヘッドの方向は、菱形付きの点線矢印1017によって示される。
【0099】
[0103]プロパルサのこの動作モードは、非限定的な例として、外部作用によって生じるロールおよびトリムに関する同時の反作用を提供する。
【0100】
[0104]矢印1104によって示された方向における推力と矢印1105によって示された方向における推力モーメントとを同時に提供するプロパルサの動作モードが、図11により非限定的な例として示される。ノズル1101が、外部環境からプロパルサ内への動作媒体の吸入を実現する。点線矢印1103は、動作媒体の移動の経路を示し、菱形付きの点線矢印1102は、圧力ユニットの動作の方向を示す。ノズル1107、1110、および1113が、動作媒体の放出のために働き、必要とされる放出噴流方向1108、1111、および1114を形成する。これらのノズルは、それぞれの推力1106、1109、および1112を形成する。このモードでは、全体としてのプロパルサの推力の力のベクトル1104は、上記のノズル推力ベクトルのベクトル和であり、一方で、全体としてのプロパルサの推力モーメント(円形矢印1105によって示される)は、ノズルの力モーメント(図示せず)の(ベクトルの)和である。
【0101】
[0105]プロパルサのこの動作モードは、非限定的な例として、航空輸送ビークルの垂直離陸の状況において使用されてもよく、この場合、プロパルサは、上昇、速度の増加、および輸送ビークルを所定の航路に乗せることを、同時に実現する。
[形態1]噴流プロパルサであって、前記プロパルサが位置している環境の気体または液体を動作媒体として使用し、前記プロパルサが、8つのノズルと、前記ノズルを相互接続する複数のチャネルと、前記チャネル内の前記動作媒体の流れにおけるヘッドの大きさおよび方向を制御するために前記チャネル内に配置された圧力ユニットと、を備え、前記ノズルのそれぞれが、前記動作媒体の噴流の放出方向を制御するように、また、前記プロパルサから前記環境中への前記動作媒体の前記放出だけでなく前記環境から前記プロパルサ内への前記動作媒体の吸入を提供するように適合される、噴流プロパルサにおいて、前記複数のチャネルが、前記圧力ユニットが装備された8つの能動チャネルと、4つの中間チャネルと、中央チャネルとを含み、前記圧力ユニットを内部に含む前記8つの能動チャネルのそれぞれが、その一方の端部により前記ノズルのうちの1つに接続され、前記圧力ユニットを内部に含む全ての能動チャネルが、その他方の端部により互いに対で接続され、したがって前記能動チャネルの4つの分岐点を形成し、前記中間チャネルのうちの1つが、その一方の端部により前記能動チャネルの分岐点のそれぞれに接続され、前記4つの中間チャネルが、その他方の端部により互いに対で接続され、したがって前記中間チャネルの2つの分岐点を形成し、前記中央チャネルが、その端部により前記中間チャネルの前記2つの分岐点に接続されることを特徴とする、噴流プロパルサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11