(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】包帯巻き具
(51)【国際特許分類】
A61F 15/00 20060101AFI20220323BHJP
【FI】
A61F15/00 338
(21)【出願番号】P 2017176440
(22)【出願日】2017-09-14
【審査請求日】2020-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】307016180
【氏名又は名称】地方独立行政法人鳥取県産業技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【氏名又は名称】中西 康裕
(72)【発明者】
【氏名】木村 勝典
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】新見 浩司
(72)【発明者】
【氏名】庄川 久美子
(72)【発明者】
【氏名】渡部 朗子
(72)【発明者】
【氏名】松本 綾
(72)【発明者】
【氏名】増田 紳哉
【審査官】武井 健浩
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第02184026(GB,A)
【文献】米国特許第05065865(US,A)
【文献】特開2004-209194(JP,A)
【文献】国際公開第2010/044711(WO,A2)
【文献】中国実用新案第203953974(CN,U)
【文献】実開平05-078218(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/00-13/14
A61F 15/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
包帯を収容する包帯収容部と、
前記包帯収容部から包帯を引き出す張力を調整する張力調整部と、
前記包帯収容部の外側であって、前記張力調整部による張力調整が行われた前記包帯の出口の両側に設けられたローラーと、
を備える包帯巻き具であって、
前記出口両側の一方のローラーは、前記包帯の張力を保持しながら前記包帯を患部に巻き付けるためのものであり、
前記出口両側の他方のローラーは、前記一方のローラーの傾きを安定させるためのものであることを特徴とする包帯巻き具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性包帯の張力を一定にして巻き付けることができる包帯巻き具に関する。
【背景技術】
【0002】
四肢の静脈の血液が正常の速さで循環するにはポンプの役割をする筋肉の弛緩の助けが必要である。静脈には弁があり、筋肉が収縮することにより深部静脈が圧迫されて血液が中枢側に送られる。そして、筋肉が弛緩することにより末梢側の血液が吸い上げられる。これが筋肉のポンプの役割である。静脈の血流速度が遅くなると、血栓が生じる深部静脈血栓症(DVT、エコノミークラス症候群)を発症し易くなる。特に、重力に逆らった血流方向となる下肢は血栓を発症し易くなる。この血栓が剥がれて(遊離して)肺動脈で詰まる肺血栓塞栓症を併発する危険性がある。
【0003】
静脈の流れが遅くなる要因には種々ある。手術の麻酔患者は麻酔の作用で血管の拡張が誘発されて静脈の血流速度が遅くなる。長期間の臥床、下肢の手術後や骨折、歩行が困難な老人や障害者、乗り物の長時間乗車、災害時の避難生活およびじっと立尽くめの業種など、によって同じ体勢を続けて運動をしなかった場合に、筋肉のポンプが不足して血流速度が遅くなる。
【0004】
深部静脈血栓症の予防方法として、抗凝固薬を使用する方法があるが、出血した場合には血が止まりにくくなるというリスクがある。このリスクがない方法として、圧迫の方法がある。四肢を圧迫することで、血管が少し細くなって血流速度が速まる。この圧迫の方法として、特許文献1に開示されるような、下肢に巻いた装着具に機器から間欠的に空気を送入して、下肢の圧迫を行う間欠的空気圧迫法(空気圧ポンプ、IPC)がある。しかしながら、間欠的空気圧迫法はポンプの働きが有る為か、深部静脈血栓症存在下、深部静脈血栓症既往の疑いがある場合、静脈壁に付いている血栓をはがし、肺塞栓症を引き起こす危険性があるので、使用しないのが原則である。また、間欠的空気圧迫法は整形外科の牽引時には使用することができない。
【0005】
他の圧迫方法として、特許文献2に開示されるような、医療用弾性ストッキングがある。市販の圧迫ストッキングの圧迫力は20hPs(15mmHg)以下となっているので、医療用は市販よりも圧迫力が強い。また、医療用は静脈血やリンパ液を心臓方向へ流れやすくするために、足首の圧が一番強く、太ももに向かって圧が弱くなるよう作られている。しかしながら、医療用弾性ストッキングは寸法がS,M,Lサイズというような既製品の寸法であり、オーダーメイドではないので、寸法が合わない患者が多い。また、医療用弾性ストッキングはリンパ浮腫(むくみ)の予防にも使用されるが、リンパ浮腫が大きい患者や四肢が変形している患者には既製品では合わない。また、深部静脈血栓症の場合と浮腫の場合とでは圧迫力が異なるが、医療用弾性ストッキングは圧迫力の変更ができない。
【0006】
そこで、特許文献3に開示されるような、弾性包帯を四肢に巻き付ける方法が考えられた。弾性包帯はどのような下肢の形状でも使用可能であり、病状や四肢の状態に合わせて圧迫圧や範囲を調節できるという特徴がある。弾性ストッキングが履けない、サイズが合わない、あるいは皮膚障害などで中断した、下肢の手術や変形などの理由で、ストッキングを装着できないという場合でも弾性包帯を使用して四肢を圧迫することができる。この弾性包帯による圧迫は深部静脈血栓症の予防だけでなく、止血や浮腫のコントロール、下肢静脈瘤の治療やリンパ浮腫の治療にも使用されている。さらに、弾性包帯は「圧迫」のみならず、「創傷保護」としての弾性包帯や、「固定」として、骨折、脱臼、捻挫部位の固定と安静や、「保持・支持」としてずれやすいドレッシングや薬剤の保持、点滴のチューブやシーネなどの支持にも使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2001-514047号公報
【文献】特開2014-188116号公報
【文献】特表2015-526224号公報
【文献】特開2002-78731号公報
【文献】特開2001-137290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
弾性包帯は、所定範囲の圧力で患部に巻かなければならない。たとえば、深部静脈血栓症の予防であれば、26.7hPs~40hPs(20mmHg~30mmHg)の圧力でなければならない。毛細血管の圧力は、42.7hPsであるので、これ以上の圧力を弾性包帯で掛けると毛細血管が閉塞状態になり皮膚組織に血が通わなくなってしまうので、褥瘡を予防するにはこの数値以下にしなければならない。さらに、下肢への圧迫においては、静脈血やリンパ液を心臓方向へ流れやすくするために、足首の圧が一番強く、太ももに向かって圧が弱くなるよう巻かなければならない。たとえば、その比率は足首:ふくらはぎ:太ももが10:7:4である。
【0009】
弾性包帯は、主として看護師が巻くのであるが、所定の圧力で患部に巻くには、所定の張力で弾性包帯を引っ張り、且つ所定の巻き数にしなければならない。所定の巻き数にするのはさほど困難ではないが、所定の張力で弾性包帯を引っ張ることは非常に難しく、熟練が必要である。種々のテクニックを教授するも、現状としては看護師の感に頼ることになり、個人差が生じるという課題がある。また、幅の広い弾性包帯を巻くときは、弾性包帯側を母指(親指)と母指球に当てて引っ張るために、幅方向で張力が均一にならない。このように弾性包帯による圧力にばらつきがあるために、弾性包帯を解いて発赤などの異常がないかのチェックを頻繁に行わなければならない。
【0010】
特許文献4に伸長量の度合いを表すマークが形成された包帯が開示されているが、その包帯を使用しなければ本課題を解決することができない。なお、この包帯の市販を確認できない。
【0011】
また、特許文献5に包帯を巻き付ける自動包帯器が開示されているが、このような自動包帯器についても市販を確認することができず、また、この文献からはその使用方法や使用の効果について理解し難い。なお、特許文献5は、包帯の回転を指の押圧で調整することにより包帯の張力を調整するものであるようだが、直接包帯の張力を調整するものではなく、包帯とは異なる場所を指で抑える構成となっている。
【0012】
前述の圧迫圧26.7hPs~40hPsになるように弾性包帯を巻くには、使用する弾性包帯についての張力が圧迫圧26.7hPs~40hPsになるように張力の調整機能が必要となる。しかしながら、特許文献4や特許文献5にはこの張力の調整機能がないので所定の圧迫圧にすることは困難である。
【0013】
また、弾性包帯を包帯巻き具から一定の引張力で引っ張り出しても、まだ患部に巻き付いていない部分が緩む恐れがある。特に、最初の1巻きをするまでは、包帯Bの先端を他方の手で押さえていなければ包帯が患部から外れるので、包帯巻き具1Cを片手で一周させなければならず、まだ患部に巻き付いていない部分が緩むことが多い。
【0014】
そこで本発明は、張力の調整機能を備え、使用する包帯についての張力が所定の圧迫圧になるように包帯を患部に巻き付けることができる包帯巻き具を提供することを目的とする。また、包帯巻き具から繰り出された包帯が緩むのを低減する包帯巻き具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための研究として、本発明者は、弾性包帯の張力と弾性包帯による圧迫圧の実験を行った。この結果、
図1に示すように、弾性包帯の張力と圧迫圧に相関があることが分かった。また、本発明者は、弾性包帯の張力と伸びについての引張試験を行った。この結果、圧迫療法に適しているとされる圧迫圧26.7hPs~40hPs(20~30mmHg)の範囲では、張力に比例して伸びることがわかった。また、本発明者は引張のサイクル試験も行った。その結果、引張を繰り返しても弾性包帯の張力と伸びとの関係は変わらなかった。
【0016】
これらの結果から、本発明者は、弾性包帯を含め包帯を引き出す張力を適切に調整することで、最適な圧迫圧を実現することに想到した。よって、上記課題を解決するため、本発明の一つの態様に係る包帯巻き具は、包帯を収容する包帯収容部と、前記包帯収容部から包帯を引き出す張力を調整する張力調整部と、を備えることを特徴とする。
【0017】
張力を調整する張力調整部を設けることによって、
図1のように、最適な圧迫圧を実現することができ、熟練者でなくとも使用する包帯についての張力が所定の圧迫圧になるように包帯を患部に巻き付けることができる。
【0018】
また、本発明の包帯巻き具においては、前記張力調整部は、前記包帯収容部から前記包帯を引き出す引き出し経路に設けられ、摩擦力による抵抗を調整することにより行うことが好ましい。
摩擦力による抵抗を引き出し経路に設けることで、コンパクトで安価な張力調整部を得ることができる。
【0019】
また、本発明の包帯巻き具においては、前記包帯収容部は、前記包帯が収納され第1出口を有する内ケースと、前記内ケースを収納するとともに、第2出口を有する外ケースと、からなり、前記包帯を、前記第1出口から出て、前記内ケースと前記外ケース間の隙間を通り、前記第2出口から露出するように収容しており、前記張力調整部における摩擦力による抵抗は、前記包帯が引き出される時に、前記第1出口と前記第2出口間の経路で付与される摩擦力による抵抗であり、前記張力調整部における調整は、前記内ケースの回転による前記第1出口と前記第2出口間の経路の長さの変化による調整であることが好ましい。
二重のケースにし、ケース間の摩擦を利用することにより、よりコンパクトな構成で抵抗力の調節をすることができる。
【0020】
また、本発明の包帯巻き具においては、前記抵抗付与機構は、前記第1出口と前記第2出口間の経路の隙間は、前記第1出口に向かって徐々に狭くなっていることが好ましい。
【0021】
このような構成により、前記第1出口と前記第2出口間の経路の長さを長くするほど、隙間がより狭くなって大きな摩擦力となる。したがって、短い包帯の引き出し経路で大きな抵抗力の変化を得ることができる。
また、本発明の包帯巻き具においては、前記外ケースにおける前記第2出口の近傍に第1ローラーが設けられていることが好ましい。
患部に押し当てて転がりながら、包帯を巻き付けることができるため、張力を保持して巻き付けることができる。
また、本発明の包帯巻き具においては、前記抵抗付与機構は、前記引き出し口の前記第1ローラーとは逆側の位置に第2ローラーを設けることが好ましい。
【0022】
第2ローラーを患部に当接させながら巻くことで、第1ローラーの傾きを安定させることができる。また、第1保持ローラーから所定の張力で伸びて繰り出された包帯は、第2ローラーと患部に挟まれるので、伸びた状態を保持して所定の張力を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る発明者の実験結果である弾性包帯の張力と弾性包帯による圧迫圧の関係を示す折れ線グラフである。
【
図2】(A)は実施形態の包帯巻き具に弾性包帯が装着されている状態の試作品の撮像であり、(B)はその斜視図である。
【
図4】(A)は包帯巻き具の外蓋の
図3とは逆方向からの斜視図であり、(B)は包帯巻き具の右側面図である。
【
図5】(A)は
図4(B)のVA-VA断面図であり、(B)は
図4(B)のVB-VB断面図である。
【
図6】(A)は弾性包帯を包帯巻き具に挿入するときの右側面図であり、(B)は(A)の状態からダイヤルを回転させて張力を上げた状態の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態及び図面を参照にして本発明を実施するための形態を説明するが、以下に示す実施形態は、本発明をここに記載したものに限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。なお、この明細書における説明のために用いられた各図面においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせて表示しており、必ずしも実際の寸法に比例して表示されているものではない。
【0025】
[事前実験]
まず、
図1を用いて、包帯巻き具1を発明した経緯を説明する。本発明者は、今まで弾性包帯EBの張力と、弾性包帯EBによる圧迫圧との関係が不明であったことから、この点を明らかにするため、弾性包帯EBの張力と弾性包帯EBによる圧迫圧の実験を行った。
【0026】
具体的には、人体と同等な硬度を持つ樹脂の上に圧迫圧測定器(センサ部分にセットされたスポンジが圧迫された際に押し出される空気の圧力を測定する装置)を固定したものを用いて実験した。その結果、
図1に示すように、弾性包帯EBの張力と圧迫圧に相関があることが分かった。このことから、例えば、実験データから最小二乗法で近似式を得れば、所望する圧迫圧にするための弾性包帯EBの張力を求めることができる。また、逆に張力から圧迫圧を求めることもできる。そして、この実験結果より、本発明者は張力を調整する包帯巻き具1を発明すれば、所望する圧迫圧で一定に弾性包帯EBを巻くことができると考えた。
【0027】
圧迫療法に適しているとされる圧迫圧は、
図1において枠で示す26.7hPs~40hPs(20~30mmHg)とされている。従って、圧迫療法に適している弾性包帯EBの張力は、
図1から約6N~約13Nとなる。
【0028】
また、本発明者は弾性包帯EBの張力と伸びについての引張試験も行った。この結果、20Nを越えたところで急激に伸びていくが、圧迫療法に適している約6N~約13Nでは張力に比例して伸びることがわかった。
【0029】
また、発明者は引張のサイクル試験も行った。その結果、引張を繰り返しても弾性包帯EBの張力と伸びとの関係は変わらなかった。この実験結果により、包帯巻き具1で弾性包帯EBを再使用できることがわかった。
以上のような実験結果から、本発明者は、包帯巻き具を発明した。
【0030】
[実施形態]
次に、
図2~
図6を用いて、所望する圧迫圧で一定に弾性包帯EBを巻くことができる、実施形態の包帯巻き具1の構成を説明する。本実施形態の包帯巻き具1は、弾性包帯EBを収容する包帯収容部2と、この包帯収容部2から弾性包帯EBを引き出す張力を調整する張力調整部と、を備えて構成されている。より具体的には、包帯巻き具1は、張力調整部を兼ねる包帯収容部2と、第1ローラーR1と、第2ローラーR2と、ナットNからなる。
【0031】
この包帯収容部2は、内ケース3と、内蓋4と、外ケース5と、外蓋6と、コイルスプリングSと、E型止め輪Eからなる。
図6は、本発明の要部を記すために、内蓋4と外蓋6とナットNを透視した図である。
【0032】
内ケース3は、
図3、
図5(A)に示すように、射出成型で形成されたコップ形状の合成樹脂で円形の底壁31と円筒形の周壁32からなり、内部に弾性包帯EBを収容する。この周壁32には弾性包帯EBが引っ張り出されるスリット状の第1出口33が設けられている。そして、
図3に示すように周壁32の開口側には、内蓋4と係合するための4つの凹部34が、切り欠かれている。また、
図5(A)に示すように、内ケース3の底壁31の中央には外ケース2と結合するための金属の連結軸35が、外側に向かってインサートにより固着されている。この連結軸35には、E型止め輪(通称Cリング)Eが嵌入する溝351が、形成されている。
【0033】
内蓋4は、
図3に示すように、内ケース3を塞ぐ蓋であり、高さが低いシルクハットの形状をした合成樹脂である。この内蓋4は、内ケース3の周壁32に嵌入するシャーレ形状(浅いコップ形状)の嵌入部41と、嵌入部41の嵌入を途中で止める円盤形状の当接部42からなる。当接部42の外径は、内ケース3の周壁32の外径と同じ寸法である。また、この嵌入部41には、内ケース3の周壁32の凹部34と係合する凸部44が形成されている。また、嵌入部41の外蓋6側には、内蓋4を回転させるためのつまみ43が、形成されている。また、当接部42には、外蓋6に当接して回転を止めるための直角三角形の爪45が、複数外蓋6に向かって形成されている。
【0034】
外ケース5は、
図3、
図5(A)に示すように、射出成型で形成されたコップ形状の合成樹脂で円形の底壁51と円筒形の周壁52からなり、内部に内ケース3と内蓋4を収容する。この周壁52には、内ケース3の第1出口33から引っ張り出された弾性包帯EBが引っ張り出されるスリット状の第2出口53が設けられている。
【0035】
図6(A)は、内ケース3の第1出口33の位置が外ケース5の第2出口53の位置に合った内ケース3の回転位置を示す図である。この
図6(A)からもわかるよう、内ケース3の周壁32の外周32aと、外ケース5の周壁52の内周52aとの隙間Gが、左側と右側とで異なっている。具体的には、第2出口53からの
図6(A)で時計回り方向の約半周(左側)の隙間Gは、同心円で均一な嵌合隙間(R2-R1)となっている。一方、残りの約半周(右側)の隙間Gは、外ケース5の周壁52の内周52aの中心O2が内ケース3の外周32aの中心O1とΔLずれて半径R3=R2+ΔLとなり、第2出口53まで徐々に広くなっている。逆にいえば、内ケース3の周壁32の外周32aと外ケース5の周壁52の内周52aの隙間Gは、第2出口53から反時計方向に向かって奥に行くにしたがって約半周まで徐々に狭くなっている。
【0036】
また、
図3に示すように、外ケース5には、底壁51から第2出口53の両側に2つのアーム54が延在し、それぞれローラー軸55がインサートにより固着されている。この2本のローラー軸55は、周壁52の軸と平行に延在し、先端は雄ネジになっている。また、
図5(A)に示すように、外ケース5には、底壁51の中央に内ケース3の連結軸35が嵌入する軸孔56が設けられている。この軸孔56は、周壁52の筒の内側に凹んで形成されている。また、外ケース5には、外蓋6が係止する鍵状の係止片57が周壁52に延在して形成されている。
【0037】
外蓋6は、外ケース5に収容される内ケース3と内蓋4が抜けるのを防止する蓋であり、内蓋4のつまみ43が嵌入するつまみ孔61が開いたリング状の合成樹脂である。この外蓋6には、
図4(B)に示すように内ケース3と共に回転する内蓋4のつまみ43の位置を示すため、目盛62(
図4(B)の「1」〜「8」)が、印刷あるいは金型の彫刻で形成されている。
【0038】
なお、張力調整用として用いるこの目盛62は、略均等間隔で付けられている。これは、先に説明した本発明者が行った弾性包帯EBの張力と伸びについての引張試験の結果によるものである。つまり、この試験の結果、20Nを越えたところで急激に伸びていくが、圧迫療法に適している約6N~約13Nでは張力に比例して伸びることがわかり、この結果から張力調整用の目盛62を、略均等間隔で付けることとした。
【0039】
また、
図4(A)に示すように、外蓋6の内蓋4側には、内蓋4の回転方向で係合する直角三角形の爪63が複数形成されている。この外蓋6の外周は、外ケース5の底壁51の外周と略同じ形状である。また、外ケース5の底壁51と同様に、外蓋6は、中心から外側に向けて延在した2つのアーム64を備えている。このアーム64にはナットNが嵌入するナット孔65が設けられている。また、外蓋6は、時計回りに回転することで外ケース5の係止片57と嵌合する。この回転を可能にするために外蓋6の外周に切り欠き66が施されている。
【0040】
第1ローラーR1は、外ケース5のローラー軸55に嵌入する軸孔R111を有するパイプ状の合成樹脂の芯R11と、芯R11の円弧面を覆う弾性材の表皮R12、R22からなる。
【0041】
第2ローラーR2も、第1ローラーR1と同様であり、外ケース5のローラー軸55に嵌入する軸孔R211を有するパイプ状の合成樹脂の芯R21と、R21の円弧面を覆う弾性材の表皮R22からなる。
【0042】
この第1ローラーR1と第2ローラーR2の表皮R12、R22は、弾性包帯EBに対して滑りにくい弾性材からなる。また、この第1ローラーR1と第2ローラーR2の表皮R12、R22から外ケース5の底壁51の外周までの隙間は、いずれも同じであり、弾性包帯EBが通る寸法となっている。
【0043】
また、第1ローラーR1と第2ローラーR2は、同一形状であるが、この2つの内、内ケース3の外周32aと外ケース5の内周52aの隙間Gが第2出口53から奥に行くにしたがって徐々に狭くなっている側(
図6(A)で右側)にあるものが第1ローラーR1で、他方(
図6(A)で左側)が第2ローラーR2となる。
なお、雌ネジを有する2つのナットNは、外ケース5のローラー軸55に螺入して、第1ローラーR1と第2ローラーR2と外蓋6を保持する。
【0044】
次に
図3~
図6を用いて、包帯巻き具1の組立方法および弾性包帯EBの装着方法を説明する。使用者は、内ケース3の連結軸35にコイルスプリングSを嵌めた状態で、内ケース3を外ケース5に挿入して、外ケース5の軸孔56に内ケース3の連結軸35を嵌入させ、連結軸35の溝351にE型止め輪Eをその専用治具を用いて嵌入させる(ステップ1)。
【0045】
これにより、外ケース5に内ケース3が回動可能に軸支される。また、内ケース3がコイルスプリングSにより押圧され、内ケース3を所定以上の力で奥の方に押圧すれば、内ケース3は奥に摺動することになる。この摺動により、内蓋4の爪45と、外蓋6の爪63の係合を開放することができる。
次に使用者は、第1ローラーR1と第2ローラーR2を外ケース5のローラー軸55に嵌入させる(ステップ2)。
次に使用者は、
図6(A)に示すように、内ケース3の第1出口33が外ケース5の第2出口53と合うように、内ケース3を回転させる(ステップ3)。
【0046】
次に使用者は、
図6(A)において、包帯繰り出し時の回転が反時計方向となる向きにして、弾性包帯EBを第1出口33と第2出口53に通し、右側の第1ローラーR1と外ケース5の間に通して、弾性包帯EBを内ケース3に挿入する(ステップ4)。
次に使用者は、内蓋4の凸部44を内ケース3の凹部34に嵌合させることにより、内蓋4を内ケース3に嵌入させる(ステップ5)。
【0047】
次に使用者は、外蓋6の切り欠き66が外ケース5の係止片57に位置するように反時計方向に回転させた状態で内蓋4を押し下げながら、外蓋6を外ケース5に当てて時計方向に回転させ、外蓋6を外ケース5の係止片57に嵌入させる(ステップ6)。
次に使用者は、2つのナットNを外ケース5のローラー軸55に螺入させる(ステップ7)。
【0048】
このような状態で内蓋4の爪45と外蓋6の爪63の係合により、内蓋4は、時計方向への回転が阻止されることになる。また、反時計方向に関しては、内ケース3と内蓋4が両爪45、63の傾斜面の滑りによってコイルスプリングSの押圧に抗して自動的に奥に押し下げられることになる。従って、使用者がつまみ43を反時計方向に回すと、内蓋4と内ケース3が回転する。
【0049】
また、使用者が内蓋4のつまみ43をコイルスプリングSの押圧に抗して爪45の高さ以上押し下げると、内蓋4の爪45と外蓋6爪63の係合が外れるので、そのままつまみ43を時計方向に回転させると、内蓋4と内ケース3が時計方向へ回転することになる。
【0050】
次に
図6を用いて張力の調整方法を説明する。
図6(A)では、包帯巻き具1は、内ケース3の第1出口33が外ケース5の第2出口53と合っている初期状態となる。この時、内蓋4のつまみ43は、外蓋6の目盛62の「1」の位置にある。
【0051】
そして、使用者が所望する張力(所望する圧迫圧)にするために、つまみ43を反時計方向に回転させて
図6(B)の位置に移動させる。この時、この位置で内蓋4のつまみ43は、外蓋6の目盛62の「4」の位置にある(
図4(B))。
【0052】
図6(B)の第1出口33位置では弾性包帯EBが引き出される時に、弾性包帯EBは内ケース3の外周32aと外ケース5の内周52aの隙間で摩擦抵抗を受けて張力が大きくなる。この二重構造によって包帯巻き具1の張力調整部は、コンパクトな張力調整機構となっている。また、この隙間は奥にいくほど狭くなっているので、小さな回転角度で大きな張力の変化となる。したがって、包帯巻き具1の張力調整部は、コンパクトで広い範囲の張力調整が可能となる。
【0053】
なお、
図6(B)の状態からさらに張力を上げたいときは、使用者は、つまみ43を反時計方向に回転させればよく、逆に張力を下げたいときはつまみ43を押し下げながら時計方向に回転させればよい。
【0054】
次に
図4(B)、
図6(B)を用いて弾性包帯EBの使用状態ついて説明する。
図4(B)、
図6(B)は内蓋4のつまみ43が外蓋6の目盛62の「4」の位置にあって、弾性包帯EBを患部(ここでは大腿部)Fに巻き付けている状態を示す図である。
【0055】
本実施形態においては、つまみ43が目盛62の「4」の位置は、たとえば圧迫療法のために大腿部(F)に50%の重なりで弾性包帯EBが巻かれたときの圧迫圧が、使用者が所望する33.3hPs(25mmHg)になるような張力9Nで弾性包帯EBが引っ張り出される調整位置である。
【0056】
ところで、同じ目盛62の「4」の位置であっても弾性係数や摩擦力が異なる弾性包帯EBを使用すると、包帯巻き具1から引っ張り出される弾性包帯EBの張力が変化する。この時は所望する張力になるように目盛62の位置を調整する。また、同じ張力であっても、弾性包帯EBの重なり具合を変更すれば圧迫圧が変化する。この時は所望する圧迫圧を得る張力になるように目盛62の位置を調整する。
【0057】
また、本発明の包帯巻き具は、本実施形態で説明した弾性包帯EBに用いるものに限定されることはなく、一般的な包帯にも使用可能である。したがって、包帯の使用目的が異なるとき、たとえば創傷保護や捻挫部位の固定として使用されるときは圧迫圧を変更することがある。この時は所望する圧迫圧を得る張力になるように目盛62の位置を調整する。
このように、包帯巻き具1は状況に応じて張力を調整することができるので、所望する圧迫圧を得ることができる。
【0058】
図6(B)に示すように、内ケース3に収容された弾性包帯EBは、反時計方向で第1出口33に向かい、第1出口33でUターンして時計方向で第2出口53に向かう。そして、弾性包帯EBは、第2出口53でUターンして反時計方向で第1ローラーR1に向かい、第1ローラーR1でUターンして時計方向で第2ローラーR2に向かう。そして、使用者が、第1ローラーR1と第2ローラーR2を患部Fに当てながら包帯巻き具1を回転させることで弾性包帯EBが患部に巻かれていく。
【0059】
弾性材で滑りにくい表皮R12を備えた第1ローラーR1は、患部に押し当てて転がりながら、弾性包帯EBを巻き付けることができるため、弾性包帯EBの幅方向全体で張力を保持して巻き付けることができる。また、弾性材で滑りにくい表皮R22を備えた第2ローラーR2は、第2ローラーR2を患部に当接させながら巻くことで、第1ローラーR1の傾きを安定させることができる。また、第1保持ローラーR1から所定の張力で伸びて繰り出された弾性包帯EBは、第2ローラーR2と患部Fに挟まれるので、伸びた状態を保持して所定の張力を維持することができる。
【0060】
このようにして、本発明の包帯巻き具1は、張力を調整する張力調整部を設けることによって、最適な圧迫圧を実現することができ、熟練者でなくとも使用する弾性包帯EBについての張力が所定の圧迫圧になるように弾性包帯EBを患部に巻き付けることができる。
【0061】
本実施形態での張力調整部とは、第1出口33から第2出口53までの弾性包帯EBの長さを調節することができる機構であり、包帯収容部2である内ケース3と、内蓋4と、外ケース5と、外蓋6と、コイルスプリングSと、E型止め輪Eで構成される。つまり、本実施形態では、包帯収容部2が張力調整部を兼ねる構成となっている。しかしながら、包帯巻き具は、このよう構成に限定されるものではなく、例えば、包帯収容部2に接して張力調整部が取り付けられている構成でもよい。このような包帯巻き具の場合、包帯収容部から引き出された弾性包帯EBは、張力調整部によって引き出す張力が調整されることになる。
【0062】
次に弾性包帯EBを包帯巻き具1から取り出す方法について説明する。まず、使用者は、内蓋4のつまみ43を外蓋6の目盛62の「1」の位置にして、内ケース3の第1出口33を外ケース5の第2出口53に合わせる。次に、使用者は、2つのナットNを旋回させて外してから、外蓋6を反時計方向に回転させる。そして、使用者は、外蓋6を外ケース5の係止片57から解いて外し、最後に弾性包帯EBを内ケース3から取り出す。
【0063】
なお、上述の実施形態の第1ローラーR1と第2ローラーR2は同じ直径であったが、異なる直径でもよい。ローラーの直径を変更することで、患部の種々の直径に対応することができる。また、ローラーの位置を変更できるようにして、患部の種々の直径に対応することもできる。
【0064】
なお、本願は
図1の実験結果によって、包帯を引き出す張力を適切に調整すれば最適な圧迫圧を実現するということに想到したものであり、上述の実施形態の張力調整部に限定するものではない。本願は、包帯を収容する包帯収容部から弾性包帯を引き出す張力を調整する張力調整部を備えた包帯巻き具に適用することができる。調整可能な包帯への摩擦方法は上述の実施形態以外に種々考えられる。また、摩擦以外の方法でも、たとえば電動で包帯を繰り出す方法であれば、張力を調整することは可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 包帯巻き具
2 包帯収容部
3 内ケース
32a 外周
33 第1出口
4 内蓋
43 つまみ
45 爪(内蓋)
5 外ケース
52a 内周(外ケース)
53 第2出口
57 係止片
6 外蓋
62 目盛
63 爪(外蓋)
S コイルスプリング
R1 第1ローラー
R2 第2ローラー
N ナット
EB 弾性包帯
F 患部