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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】プラズマ照射装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20220323BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20220323BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
H05H1/46 B
H01L21/302 101D
H01L21/302 104H
B01J19/08 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018098769
(22)【出願日】2018-05-23
(65)【公開番号】P2019204661
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100186679
【弁理士】
【氏名又は名称】矢田 歩
(74)【代理人】
【識別番号】100214226
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博文
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 力
(72)【発明者】
【氏名】森元 峯夫
(72)【発明者】
【氏名】坂本 雄一
【審査官】冨士 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-203904(JP,A)
【文献】特開2009-146837(JP,A)
【文献】特開2008-130904(JP,A)
【文献】特開2017-224669(JP,A)
【文献】特開2008-181710(JP,A)
【文献】特開2003-086398(JP,A)
【文献】特開2002-280197(JP,A)
【文献】特開平11-162958(JP,A)
【文献】特開平11-102799(JP,A)
【文献】特開平10-074733(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0005140(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00-12/02
14/00-19/32
H01L 21/302
21/3065
21/461
H05H 1/00-1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物にマイクロ波表面波プラズマを照射するプラズマ照射装置であって、
前記プラズマ照射装置は、
処理対象物を収容する反応室と、
少なくとも一部が前記反応室に露出するように設けられた誘電体部と、
前記反応室に供給される前記マイクロ波表面波プラズマ化する気体の供給量を制御する供給量制御手段と、
前記マイクロ波表面波プラズマを生成させるために前記誘電体部に供給されるマイクロ波を発生させるマイクロ波発生手段と、
前記誘電体部から前記処理対象物側に離間した位置に磁力線を発生させる磁力発生手段と、を備え
前記磁力発生手段は、前記誘電体部から前記処理対象物に向かう方向で見て、前記誘電体部から前記磁力線の形成される領域の中央までの距離が前記マイクロ波の波長の1/3以上となるように設けられていることを特徴とするプラズマ照射装置。
【請求項2】
前記処理対象物が、少なくとも前記誘電体部と反対側になる前記磁力線の形成された領域外に配置できることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ照射装置。
【請求項3】
前記処理対象物が、少なくとも前記磁力線の形成された領域内に配置できることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラズマ照射装置。
【請求項4】
前記マイクロ波発生手段が、パルス的なマイクロ波を発生させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプラズマ照射装置。
【請求項5】
前記磁力発生手段が永久磁石であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプラズマ照射装置。
【請求項6】
前記磁力発生手段が電磁石であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプラズマ照射装置。
【請求項7】
前記プラズマ照射装置は、前記処理対象物の温度を所定の温度範囲内に保つ温度制御手段を備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のプラズマ照射装置。
【請求項8】
前記温度制御手段は、
前記処理対象物を配置する配置部と、
少なくとも前記配置部の前記処理対象物と接触する部分の温度を制御する温調手段と、を備えることを特徴とする請求項7に記載のプラズマ照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマ照射装置及びプラズマ照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマを照射する処理対象物へのダメージを低減するために、処理対象物を配置する領域とプラズマが発生する領域との間にシールドメッシュを設け、プラズマ中の電子、正負のイオン、ラジカル(電気的に中性な原子や分子)等のうち、処理対象物に対するダメージが少ない電気的に中性なものだけを処理対象物に照射する構成が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
なお、電気的に中性なものには、電気的に中性なラジカル以外に、電気的に中性な励起状態にある原子や分子、電離も励起も生じていない中性の原子や分子も含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-348898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シールドメッシュが電子やイオンに作用する距離はデバイ長で与えられ、デバイ長はプラズマの密度が高くなるほど短くなる。
【0006】
一方、処理効率を高めるためにプラズマを高密度化すると、それに応じてデバイ長が短くなるため、シールドメッシュによって選択的にプラズマ中の電気的に中性なものだけを通過させるには、シールドメッシュの孔のサイズを極めて小さいものとする必要が生じる。
【0007】
しかしながら、シールドメッシュの孔のサイズを小さくすることは、プラズマ中の電気的に中性なものがシールドメッシュを通過するのを妨げることになる。
【0008】
一方、処理対象物に対する反応性を高めるためには、逆に、プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てが処理対象物に照射されることが好ましい場合もある。
【0009】
しかしながら、シールドメッシュでプラズマ中の電気的に中性なものだけを選択的に処理対象物に照射する構成としていると、処理対象物にプラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを照射したいときに、シールドメッシュを取外す手間が発生する。
【0010】
したがって、高密度なプラズマを発生させた場合でも、効率よくプラズマ中の電気的に中性なものだけを処理対象物に照射できるとともに、逆に、プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを処理対象物に照射したいときにシールドメッシュを取外す手間が発生しないプラズマ照射装置の実現が望まれる。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高密度なプラズマを発生させた場合でも、効率よくプラズマ中の電気的に中性なものだけを処理対象物に照射できるとともに、逆に、プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを処理対象物に照射したいときにシールドメッシュを取外す手間が発生しないプラズマ照射装置及びプラズマ照射方法を提供することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、以下の構成によって把握される。
(1)本発明のプラズマ照射装置は、処理対象物にマイクロ波表面波プラズマを照射するプラズマ照射装置であって、前記プラズマ照射装置は、処理対象物を収容する反応室と、少なくとも一部が前記反応室に露出するように設けられた誘電体部と、前記反応室に供給される前記マイクロ波表面波プラズマ化する気体の供給量を制御する供給量制御手段と、前記マイクロ波表面波プラズマを生成させるために前記誘電体部に供給されるマイクロ波を発生させるマイクロ波発生手段と、前記誘電体部から前記処理対象物側に離間した位置に磁力線を発生させる磁力発生手段と、を備える。
【0013】
(2)上記(1)の構成において、前記磁力発生手段は、前記誘電体部から前記処理対象物に向かう方向で見て、前記誘電体部から前記磁力線の形成される領域の中央までの距離が前記マイクロ波の波長の1/3以上となるように設けられている。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)の構成において、前記処理対象物が、少なくとも前記誘電体部と反対側になる前記磁力線の形成された領域外に配置できる。
【0015】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つの構成において、前記処理対象物が、少なくとも前記磁力線の形成された領域内に配置できる。
【0016】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つの構成において、前記マイクロ波発生手段が、パルス的なマイクロ波を発生させる。
【0017】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1つの構成において、前記磁力発生手段が永久磁石である。
【0018】
(7)上記(1)から(5)のいずれか1つの構成において、前記磁力発生手段が電磁石である。
【0019】
(8)上記(1)から(7)のいずれか1つの構成において、前記プラズマ照射装置は、前記処理対象物の温度を所定の温度範囲内に保つ温度制御手段を備える。
【0020】
(9)上記(8)の構成において、前記温度制御手段は、前記処理対象物を配置する配置部と、少なくとも前記配置部の前記処理対象物と接触する部分の温度を制御する温調手段と、を備える。
【0021】
(10)本発明のプラズマ照射方法は、処理対象物にマイクロ波表面波プラズマを照射するプラズマ照射方法であって、磁力線を形成した領域を通過した後の前記マイクロ波表面波プラズマを前記処理対象物に照射する。
【0022】
(11)本発明のプラズマ照射方法は、処理対象物にマイクロ波表面波プラズマを照射するプラズマ照射方法であって、磁力線を形成した領域内に配置された前記処理対象物に対して前記マイクロ波表面波プラズマを照射する。
【0023】
(12)上記(10)又は(11)の構成において、前記処理対象物が所定の温度範囲に保たれた状態で前記マイクロ波表面波プラズマの照射が行われる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高密度なプラズマを発生させた場合でも、効率よくプラズマ中の電気的に中性なものだけを処理対象物に照射できるとともに、逆に、プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを処理対象物に照射したいときにシールドメッシュを取外す手間が発生しないプラズマ照射装置及びプラズマ照射方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る第1実施形態のプラズマ照射装置を説明するための図である。
図2】本発明に係る第2実施形態のプラズマ照射装置を説明するための図である。
図3】本発明に係る第3実施形態のプラズマ照射装置を説明するための図である。
図4】本発明に係る第3実施形態の磁力発生手段を説明するための図である。
図5】本発明に係る第4実施形態のプラズマ照射装置を説明するための図である。
図6】本発明に係る第5実施形態のプラズマ照射装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。
なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ符号又は番号を付している。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る第1実施形態のプラズマ照射装置1を説明するための図である。
図1に示すように、プラズマ照射装置1は、マイクロ波表面波プラズマを照射する処理対象物Oを収容する反応室2を形成する筐体10と、筐体10に取り付けられ、少なくとも一部が反応室2に露出するように設けられた誘電体部W(例えば、石英やセラミック等の誘電体材料で形成された窓)と、マイクロ波表面波プラズマを生成させるために誘電体部Wに供給されるマイクロ波を発生させるマイクロ波発生手段20と、マイクロ波発生手段20が発生させたマイクロ波を誘電体部Wに導く導波管21と、を備えている。
【0028】
なお、図示を省略しているが、筐体10の一部には開口部が設けられ、プラズマ照射装置1は、その筐体10の開口部を閉塞可能に設けられた開閉可能な扉を備えており、扉を開けることで外部から反応室2内にアクセスできるとともに、扉を閉めることで反応室2内を真空状態まで減圧可能に開口部を密閉することができるようになっている。
【0029】
また、プラズマ照射装置1は、図示しないマイクロ波表面波プラズマ化される気体を貯蔵する貯蔵部(例えば、タンク又はボンベ)から反応室2内に気体を供給可能に設けられた供給配管30と、供給配管30上に設けられ、反応室2内に供給されるマイクロ波表面波プラズマ化させる気体の供給量を制御する供給量制御手段31(例えば、マスフローコントローラ)と、供給量制御手段31より反応室2側の供給配管30上に設けられた電磁弁32と、を備えている。
【0030】
なお、図示を省略しているが、プラズマ照射装置1は、供給量制御手段31より貯蔵部側となる位置に設けられた電磁弁V1と、その電磁弁V1と供給量制御手段31の間の位置で、供給配管30に接続されたパージ用の気体を供給するための供給配管Pと、この供給配管P上に設けられた電磁弁V2と、を備えている。
【0031】
したがって、電磁弁V1を閉にして電磁弁V2を開にすることで供給配管30にパージ用の気体を供給することが可能になっている。
例えば、パージ用の気体としては、ヘリウム、アルゴン等の希ガスや反応性の低い窒素等が用いられる。
【0032】
ただし、マイクロ波表面波プラズマ化したい気体がパージ用の気体と同じである場合には、このパージ用の気体をプロセスガスとして用いるようにしてもよい。
この場合には、供給量制御手段31としてのマスフローコントローラが対象とする気体と気体の種類が異なることになる場合があるが、その場合でもコンバージョンファクタを基にして制御流量を補正すればよいだけである。
【0033】
さらに、プラズマ照射装置1は、配管40を通じて反応室2内に接続され、反応室2内の圧力を測定する圧力計41と、反応室2内の気体を排出可能に設けられた排気管50と、排気管50上に設けられ、反応室2内の気体を吸引する真空ポンプ51(例えば、メカニカルブースターポンプ)と、真空ポンプ51と反応室2の間の排気管50上に設けられた排気制御弁52と、を備えている。
【0034】
そして、反応室2内の圧力が設定された圧力となるように圧力計41による反応室2内の圧力の測定結果に基づいて排気制御弁52が制御される。
例えば、高密度なマイクロ波表面波プラズマを安定して発生させるためには、反応室2内の圧力が低いほうが有利であり、排気制御弁52による反応室2内の圧力制御で、少なくとも反応室2内が10分の1気圧以下とされるのがよく、100分の1気圧以下とされるのがより好ましく、1000分の1気圧以下とされるのが更に好ましく、本実施形態では、10000分の1気圧程度である約10Paにしている。
【0035】
また、プラズマ照射装置1は、誘電体部Wから処理対象物O側に離間した位置に磁力線MLを発生させる磁力発生手段MGと、処理対象物Oを配置する配置部60であって、処理対象物Oの配置される配置面の反対側の面に設けられた棒状部61を有する配置部60と、反応室2の底面となる筐体10の内面に設けられ、配置部60の棒状部61を保持する保持部11と、を備えている。
【0036】
なお、本実施形態では、反応室2の上面から底面側に離間した反応室2の対向する側面(図1の左右側面)となる筐体10の対向する内側面の位置に反応室2内に突出し、磁力発生手段MGを受ける受部12を設けるようにして、磁力発生手段MGが誘電体部Wから処理対象物O側に離間した位置に磁力線MLを発生させることができるようにしている。
【0037】
しかしながら、磁力発生手段MGが誘電体部Wから処理対象物O側に離間した位置に磁力線MLを発生させることができるように設けられていればよいので、このような態様に限定される必要はなく、例えば、反応室2の底面となる筐体10の内面に脚部が設置され、同様の位置に磁力発生手段MGを配置できるスペンサーのような態様であってもよい。
【0038】
マイクロ波発生手段20は、本実施形態では、周波数2.45GHz(波長約12cm)のマイクロ波を発生させるマグネトロンを用いているが、発生させるマイクロ波は、これに限定される必要はなく、例えば、通信目的以外で使用できるISMバンドの5GHz、24.1GHz、915MHz、40.6MHz、27.1MHz及び13.56MHz等であってもよい。
【0039】
導波管21は、マイクロ波の反射率が高い金属(例えば、ステンレス等)で形成され、一端にマイクロ波発生手段20が発生させたマイクロ波を受け入れる受入口21Aを有するとともに、誘電体部Wに対応する位置に誘電体部Wに向けてマイクロ波を出力する放射口21Bを有している。
【0040】
この放射口21Bから誘電体部Wに向けて放射されたマイクロ波は誘電体部Wを通じて反応室2内に供給され、誘電体部Wの反応室2内に露出した表面に表面波が形成され、この表面波のカットオフ角周波数で決まる密度以上の高密度プラズマ(高密度なマイクロ波表面波プラズマ)が生成される。
なお、マイクロ波表面波プラズマは、電子密度が高いので照射されたマイクロ波はマイクロ波表面波プラズマの表面で反射されて内部には入らないがマイクロ波表面波プラズマの表面に沿う形で伝搬される。
【0041】
そして、マイクロ波表面波プラズマの密度を高めることで処理対象物Oに対する処理効率を向上することができるが、マイクロ波表面波プラズマの密度を高めるために、マイクロ波電力を多くすると、誘電体部Wのところで発生する発熱も大きくなり、結果として、反応室2内の温度が上昇する。
【0042】
そこで、マイクロ波発生手段20が、パルス的なマイクロ波を発生させるものとして、マイクロ波電力のピーク値を高めつつ、平均的なマイクロ波電力を下げるようにし、誘電体部Wのところで発生する発熱が大きくなるのを抑えつつ、マイクロ波表面波プラズマの密度を高めることが好ましい。
【0043】
なお、パルス的なマイクロ波とは、周期的なマイクロ波電力(マイクロ波強度)の強弱を伴うものを意味し、必ずしも、周期的にマイクロ波電力(マイクロ波強度)がゼロになるものに限定されるものではない。
【0044】
しかしながら、マイクロ波電力(マイクロ波強度)がゼロの状態とマイクロ波電力(マイクロ波強度)がピーク値の状態とが周期的に繰り返されるだけの場合が構成上シンプルな構成で済むため好ましい。
【0045】
例えば、マイクロ波発生手段20が、マイクロ波電力(マイクロ波強度)をほぼ一定にしたパルス的なマイクロ波でないマイクロ波を発生させる場合に、プラズマ密度が1012/cm以上1014/cm以下であったとすれば、平均なマイクロ波電力を同様にしても、マイクロ波発生手段20が、パルス的なマイクロ波を発生させる場合、マイクロ波電力(マイクロ波強度)のピーク値を高くできるため、更に、高いプラズマ密度(例えば、1014/cmより高いプラズマ密度)を得ることができる。
【0046】
なお、マイクロ波表面波プラズマは、他のプラズマ(例えば、高周波プラズマや直流放電プラズマ等)と比較すれば、電子温度が低く(例えば、電子温度が1eV以下)、他のプラズマのように、高い電子温度(例えば、10eV以上)とするためにエネルギーが消費されるプラズマと異なり、エネルギーロスが少ないという利点がある。
また、マイクロ波表面波プラズマは、プラズマ自身の摂氏での温度が熱プラズマと呼ばれるものに比べ大幅に低い(ほぼ常温)という特徴もある。
さらに、マイクロ波表面波プラズマは、上記のような高密度なプラズマを均一に、例えば、0.5m以上の大面積の範囲に生成することができ、電磁界による処理対象物Oへのダメージもない。
【0047】
磁力発生手段MGは、離間して対向するように配置された一対の永久磁石を備え、一対の永久磁石は、一方の永久磁石(図1左側の永久磁石)のN極と、他方の永久磁石(図1右側の永久磁石)のS極と、が向かい合うように配置されている。
【0048】
そして、一方の永久磁石(図1左側の永久磁石)のN極と他方の永久磁石(図1右側の永久磁石)のS極の間には、磁力線MLが形成されている。
なお、磁力線自体は、一方の永久磁石のN極とS極の間、他方の永久磁石のN極とS極の間にも形成されるが、それらについては図示を省略している。
【0049】
また、本実施形態では、一方の永久磁石及び他方の永久磁石が、反応室2内の紙面方向の奥側の端から手前側の端まで存在する幅を有したものを用いている。
ただし、必ずしも、1つの永久磁石で反応室2内の紙面方向の奥側の端から手前側の端までカバーする必要はなく、一方の永久磁石に対応する部分、及び、他方の永久磁石に対応する部分を、それぞれ複数の永久磁石を並べるようにして、反応室2内の紙面方向の奥側の端から手前側の端までをカバーするようにしてもよく、この場合、隣接する永久磁石が接触している必要はなく、多少の隙間を介して並べられていてもよい。
【0050】
そして、本実施形態では、保持部11に保持される配置部60の棒状部61の位置を変えることで、処理対象物Oが誘電体部Wと反対側になる磁力線MLの形成された領域外に配置された状態(図1参照)と、処理対象物Oが磁力線MLの形成された領域内に配置された状態と、が選択できるようになっている。
【0051】
次に、上記のような構成を有するプラズマ照射装置1を用いて処理対象物Oにマイクロ波表面波プラズマを照射するプラズマ照射方法について説明しながら、より詳細に、プラズマ照射装置1についての説明を行う。
【0052】
例えば、処理対象物Oが半導体ウエハにレジスト膜が形成されたものであって、そのレジスト膜を除去するために、マイクロ波表面波プラズマを照射する場合、レジスト膜が高温になると部分的にレジスト爆発が発生する場合がある。
【0053】
なお、半導体ウエハにレジスト膜を除去するアッシングのような場合には、マイクロ波表面波プラズマ化するための気体に酸素又は水素を好適に用いることができる。
つまり、半導体ウエハにレジスト膜を除去するアッシングのような場合には、マイクロ波表面波酸素プラズマ、又は、マイクロ波表面波水素プラズマを生成し、それを処理対象物Oであるレジスト膜の設けられた半導体ウエハに照射するようにすればよい。
【0054】
そして、マイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを照射すると、レジスト膜が電子により帯電し、加速度的にイオン等がレジスト膜に引き寄せられ、高速でレジスト膜に衝突することになる。
【0055】
ここで、電子の速度は速いものの、質量が小さいためレジスト膜に衝突してもレジスト膜の温度上昇は小さいが、イオン(正負の荷電を帯びた原子や分子等)は質量が大きいため、高速でレジスト膜に衝突すると、レジスト膜の温度を上昇させることになる。
【0056】
なお、中性の原子や分子は、上記のような加速が起きないため、イオン(正負の荷電を帯びた原子や分子等)がレジスト膜に衝突する場合に比べ、レジスト膜の温度上昇が起り難い。
【0057】
このため、処理対象物Oが半導体ウエハにレジスト膜が形成されたものであり、そのレジスト膜を除去するアッシングのような場合には、処理対象物Oに対してマイクロ波表面波プラズマ中の電気的に中性のものを照射し、電子やイオン等の電気的に中性でないものの照射を避けるようにするのが好ましい。
【0058】
そこで、図1に示すように、処理対象物Oが誘電体部Wと反対側になる磁力線MLの形成された領域外に配置された状態(図1参照)として、磁力線MLを形成した領域を通過した後のマイクロ波表面波プラズマを処理対象物Oに照射する。
【0059】
そうすると、マイクロ波表面波プラズマ中の電子やイオンは、磁力線MLの形成された領域でトラップされ、磁力線MLの形成された領域でトラップされないマイクロ波表面波プラズマ中の電気的に中性のものだけが主に磁力線MLの形成された領域を通過するため、誘電体部Wと反対側になる磁力線MLの形成された領域外に配置された処理対象物Oには、マイクロ波表面波プラズマ中の電気的に中性のものだけが主に照射されることになり、処理対象物Oにダメージを与えない良好な処理が行える。
【0060】
一方、処理対象物Oによっては熱的な問題がないようなものもある。
例えば、処理対象物Oが塗装等を行う前の金属板等であって、塗料等の濡れ性を改善するために、その金属板の表面を改質するためにマイクロ波表面波プラズマを照射する場合には、熱的な問題はない。
【0061】
なお、この場合には、金属板の表面が酸化することを避けるために、還元雰囲気での処理になっていることが好ましく、マイクロ波表面波プラズマ化するための気体に水素を好適に用いることができる。
つまり、金属板の表面改質処理を行うような場合には、マイクロ波表面波水素プラズマを生成し、それを処理対象物Oである金属板に照射するようにすればよい。
【0062】
そして、処理対象物Oが塗装等を行う前の金属板等の場合、熱的な問題がなく、処理速度が速いことが好ましいので、先に説明したように、処理対象物Oが磁力線MLの形成された領域内に配置された状態として、磁力線MLを形成した領域内に配置された処理対象物Oに対してマイクロ波表面波プラズマを照射する。
【0063】
そうすると、処理対象物Oには、マイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てが照射されることになるため、短時間で表面改質処理を完了させることができる。
【0064】
ところで、磁力線MLの形成された領域が、誘電体部Wに近づきすぎると、生成されたマイクロ波表面波プラズマが誘電体部W周辺の筐体10に接触し、消失する等してマイクロ波表面波プラズマの生成状態が不安定になる可能性もある。
【0065】
そこで、先に、磁力発生手段MGが、誘電体部Wから処理対象物O側に離間した位置に磁力線MLを発生させるように設けられると説明したが、より詳細には、磁力発生手段MGは、誘電体部Wから処理対象物Oに向かう方向(図1の矢印Xの方向)で見て、誘電体部Wから磁力線MLの形成される領域の中央(図1の磁力線ML(C)参照)までの距離Dがマイクロ波の波長の1/3以上となるように設けられていることが好ましい。
【0066】
例えば、本実施形態では、マイクロ波の波長が約12cmであることから、磁力線MLの形成される領域の中央(図1の磁力線ML(C)参照)までの距離Dが約4cm以上となるように、磁力発生手段MGが設置されていることが好ましい。
【0067】
なお、誘電体部Wから処理対象物Oに向かう方向(図1の矢印Xの方向)で見て、誘電体部Wから磁力線MLの形成される領域の中央(図1の磁力線ML(C)参照)は、同方向で見たときの磁力発生手段MGが備える一対の永久磁石の中央の位置同士を結ぶ線とほぼ同じ位置に現れると考えられる。
【0068】
そして、上記の構成によれば、従来のシールドメッシュのような物理的な障害物を反応室2内に設置することなく、反応室2内にマイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てが存在する領域と、マイクロ波表面波プラズマ中の電気的に中性のものだけが主に存在する領域と、を作り出すことができる。
【0069】
また、マイクロ波表面波プラズマが高密度であっても、シールドメッシュのようにシールドメッシュの孔のサイズを極めて小さいものとして、マイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン等の電気的に中性でないものをトラップする構成ではないため、マイクロ波表面波プラズマ中の電気的に中性のものが処理対象物O側に向かうのを阻害することもない。
【0070】
したがって、高密度なプラズマを発生させた場合でも、効率よくプラズマ中の電気的に中性なものだけを処理対象物Oに照射できるとともに、逆に、プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを処理対象物Oに照射したいときにシールドメッシュを取外す手間が発生しないプラズマ照射装置1になっている。
【0071】
(第2実施形態)
次に本発明に係る第2実施形態のプラズマ照射装置1について説明する。
図2は本発明に係る第2実施形態のプラズマ照射装置1を説明するための図である。
【0072】
第2実施形態のプラズマ照射装置1においても多くの点が第1実施形態のプラズマ照射装置1と同様であるため、以下では、主に第1実施形態と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する場合がある。
【0073】
第1実施形態では、図1を参照して説明したように、反応室2の底面となる筐体10の内面に設けられ、配置部60の棒状部61を保持する保持部11を設けるようにしていた。
【0074】
そして、保持部11に保持される配置部60の棒状部61の位置を変えることで、処理対象物Oが誘電体部Wと反対側になる磁力線MLの形成された領域外に配置された状態(図1参照)と、処理対象物Oが磁力線MLの形成された領域内に配置された状態と、が選択できるようにしていた。
【0075】
一方、第2実施形態では、図2に示すように、反応室2の底面となる筐体10の内面に、配置部60の棒状部61を固定するものとしている。
そして、代わりに、反応室2の対向する側面(図2の左右側面)となる筐体10の対向する内側面に対して設けられる、磁力発生手段MGを受ける受部12の設置位置が、誘電体部Wから処理対象物Oに向かう方向(図1の矢印Xの方向)に沿って、両矢印で示す範囲で変更可能になっている。
【0076】
なお、図2では、最も反応室2内の底面側となる受部12の設置位置を点線で示し、そのときの磁力発生手段MGの図示を省略しているが、受部12の設置位置の変更に伴って、磁力発生手段MGの位置も当然、変化する。
【0077】
したがって、第2実施形態においても、受部12の設置位置を変更することで、処理対象物Oが誘電体部Wと反対側になる磁力線MLの形成された領域外に配置された状態(図2参照)と、処理対象物Oが磁力線MLの形成された領域内に配置された状態と、が選択できるようになっており、第1実施形態で説明したのと同様の処理対象物Oに対するマイクロ波表面波プラズマの照射が可能になっている。
【0078】
また、この第2実施形態においても、従来のシールドメッシュのような物理的な障害物を反応室2内に設置することなく、反応室2内にマイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てが存在する領域と、マイクロ波表面波プラズマ中の電気的に中性のものだけが主に存在する領域と、を作り出すことができ、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0079】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る第3実施形態のプラズマ照射装置1について説明する。
図3は本発明に係る第3実施形態のプラズマ照射装置1を説明するための図であり、図4は本発明に係る第3実施形態の磁力発生手段MGを説明するための図である。
【0080】
第3実施形態のプラズマ照射装置1においても多くの点が第1実施形態のプラズマ照射装置1と同様であるため、以下では、主に第1実施形態と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する場合がある。
【0081】
図1を参照して説明したように、第1実施形態では、離間して対向するように配置された一対の永久磁石を備えるものとしていた。
しかし、第3実施形態では、離間して対向するように配置された一対の永久磁石に代えて、磁力発生手段MGが、離間して対向するように配置された一対の電磁石を備えるものとしている。
【0082】
具体的には、銅等の導電材料で形成された線材を、図4に示すように、長方形状に巻回したコイルに電流を流すことで1つの電磁石を形成し、そのような電磁石を離間して対向するように一対配置するものとしている。
【0083】
なお、コイルの一端(図4の左側)に電源の+極を接続し、コイルの他端(図4の右側)に電源の-極を接続すると、コイルに対して図4の手前側が電磁石のN極となり、図4の奥側が電磁石のS極となる。
【0084】
ただし、電磁石の場合には、コイルの一端(図4の左側)に電源の-極を接続し、コイルの他端(図4の右側)に電源の+極を接続すれば、N極とS極を逆転することができるので巻き方向によらず、電源の繋ぎ込みの態様でN極とS極を決めることができるため、コイルの巻き方向は特に限定されるものではなく、図3に示すように、一方の電磁石(図3左側の電磁石)のN極と、他方の電磁石(図3右側の電磁石)のS極と、が向かい合うように電源の繋ぎ込みが選択されていればよい。
【0085】
そして、一対の電磁石(一対のコイル)に電流を流せば、図3に示すように、一対の電磁石の間に磁力線MLが形成されるため、処理対象物Oが誘電体部Wと反対側になる磁力線MLの形成された領域外に配置された状態(図3参照)とされていれば、処理対象物Oにマイクロ波表面波プラズマ中の電気的に中性のものだけを主に照射することができる。
【0086】
一方、第3実施形態の場合には、図3に示すように、処理対象物Oを、誘電体部Wと反対側になる、一対の電磁石に電流を流したときに磁力線MLの形成される領域外に位置させたまま、一対の電磁石に流す電流を停止すると、磁力線MLがなくなるので、その状態で、マイクロ波表面波プラズマを照射すれば、処理対象物Oには、マイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを照射することができる。
【0087】
このため、第3実施形態の構成によれば、一対の電磁石(一対のコイル)に接続された電源をON、OFFするだけで、処理対象物Oに対してマイクロ波表面波プラズマ中の電気的に中性のものだけを主に照射するのか、マイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを照射するのかを選択することができる。
【0088】
したがって、図3では、第1実施形態と同様に、保持部11に保持される配置部60の棒状部61の位置を変えることで、処理対象物Oの位置を変えられるようになっているが、第2実施形態のように、反応室2の底面となる筐体10の内面に、配置部60の棒状部61を固定するものとしても、一対の電磁石に電流を流したときに磁力線MLの形成される領域外に処理対象物Oが位置するようになっていれば、処理対象物Oに対してマイクロ波表面波プラズマ中の電気的に中性のものだけを主に照射することも、マイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを照射することもできる。
【0089】
一方、磁力線MLの形成される領域では、マイクロ波表面波プラズマ中の電子やイオンがトラップされるため、処理対象物Oにマイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを照射する場合には処理効率の高い領域となる。
【0090】
このため、第3実施形態のように、電源のON、OFFで処理対象物Oにマイクロ波表面波プラズマ中の電気的に中性のものだけを主に照射する場合と、マイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを照射する場合と、が選択できる構成であっても、処理対象物Oを磁力線MLの形成される領域内に位置させることができるようにしておく方が好ましい。
【0091】
そして、この第3実施形態においても、従来のシールドメッシュのような物理的な障害物を反応室2内に設置することなく、反応室2内にマイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てが存在する領域と、マイクロ波表面波プラズマ中の電気的に中性のものだけが主に存在する領域と、を作り出すことができ、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0092】
なお、コイルの形状維持を目的として、コイルの中央に心材を設けるようにしてもよい。
この場合には、心材に電磁石の影響を受けて磁化しない(磁化し難い)材料、例えば、セラミックやガラス等で形成することが好ましい。
【0093】
また、上記では、一対の電磁石(コイル)を用いているが、一方の電磁石に対応する部分を複数の電磁石で形成し、同様に、他方の電磁石に対応する部分を複数の電磁石で形成するようにしてもよく、この点は、先に永久磁石の場合で説明したのと同様である。
【0094】
(第4実施形態)
次に、本発明に係る第4実施形態のプラズマ照射装置1について説明する。
図5は、本発明に係る第4実施形態のプラズマ照射装置1を説明するための図である。
【0095】
マイクロ波表面波プラズマは、第1実施形態で説明したように、誘電体部Wのところでの発熱や処理対象物Oに電子やイオンを照射するときに発生する処理対象物Oに対する直接的な発熱を伴うものの、それによる処理対象物Oの温度上昇は、熱プラズマと呼ばれるものと比較すれば、圧倒的に小さい。
【0096】
しかも、上述したように、処理対象物Oに対してマイクロ波表面波プラズマ中の電気的に中性のものだけを主に照射するようにすれば、処理対象物Oに対する直接的な発熱を大幅に低減できるため、より一層、低温での処理対象物Oに対するプラズマ処理が可能となる。
【0097】
しかしながら、処理対象物Oに対する処理内容によっては、更に、処理対象物Oを低温に保ちたい場合があり、そのような場合に対応したプラズマ照射装置1について第4実施形態で説明する。
【0098】
例えば、具体的な処理内容の一例としては、処理対象物Oを無水塩化マグネシウム等の無水ハロゲン化マグネシウムとして、その処理対象物Oにマイクロ波表面波プラズマ化するための気体に水素を用いてマイクロ波表面波水素プラズマを照射し、水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を得る処理があげられる。
【0099】
この場合、マイクロ波表面波水素プラズマによって、以下の式1に示すような還元処理が処理対象物Oである無水塩化マグネシウム(MgCl)に施されて、水素化マグネシウム(MgH)が生成されることになる。
MgCl + H ⇔ MgH + Cl・・・・・(1)
【0100】
しかし、水素化マグネシウム(MgH)がマグネシウム(Mg)と水素(H)に分解(式2参照)する温度が100℃前後であるため、処理対象物O自体の温度を低温に保ちつつ、マイクロ波表面波水素プラズマによる還元処理を行うことが望まれる。
MgH ⇒ Mg + H・・・・・・・・・・・・・(2)
【0101】
そこで、第4実施形態のプラズマ照射装置1では、図5を参照して、これから説明するように、処理対象物Oの温度を所定の温度範囲内(本例では、100℃未満の温度範囲内)に保つ温度制御手段TCを備えるものとしている。
【0102】
図5を見るとわかるように、第4実施形態のプラズマ照射装置1は、図3に示した第3実施形態のプラズマ照射装置1と多くの点が同じであるため、以下では、主に第3実施形態と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する場合がある。
【0103】
図5に示すように、第4実施形態のプラズマ照射装置1では、温度制御手段TCが、処理対象物Oを配置する配置部60と、少なくとも配置部60の処理対象物Oと接触する部分(配置部60の上側の表面SF)の温度を制御する温調手段62と、を備えるものになっている。
【0104】
温調手段62は、温調媒体(本例では、100℃未満の温度に制御された水又は気体等)を配置部60の処理対象物Oと接触する部分(配置部60の上側の表面SF)の近くを通るように配置部60内に設けられた温調媒体流路と、その温調媒体流路に温度が制御された温調媒体を循環させる循環装置(図示せず)と、配置部60から戻ってきた温調媒体の温度を設定される温度に調節する温調装置(図示せず)と、を備えている。
【0105】
例えば、循環装置(図示せず)はポンプ等であり、温調装置(図示せず)は熱交換機等である。
ただし、温調媒体が空気であって外気を矢印で示すように流すだけでよい場合には、温調媒体流路の上流に外気を供給するためのポンプが接続され、温調媒体流路の下流を大気開放すればよいため、温調装置は不要である。
【0106】
そして、還元反応は、処理対象物Oである無水塩化マグネシウム(MgCl)の表面積が大きいほど効率的に進むため、処理対象物Oである無水塩化マグネシウム(MgCl)を、図5に示すように、微粒化した状態(例えば、マイクロ粒子又はナノ粒子の状態)にして配置部60に配置し、電子によって電荷がチャージされて静電反発で散乱しないようにするために、磁力線MLを形成した領域を通過した後のマイクロ波表面波水素プラズマを処理対象物Oに照射する。
【0107】
本実施形態では、処理対象物Oが100℃を超える温度にならないように、配置部60の処理対象物Oと接触する部分(配置部60の上側の表面SF)の温度が保たれているので、処理対象物Oが所定の温度範囲(100℃未満の温度範囲)に保たれた状態でマイクロ波表面波水素プラズマの照射が行われることになる。
【0108】
一方、還元反応の効率面で見れば、マイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを照射する方が望ましく、この場合に、微粒化状態の無水塩化マグネシウム(MgCl)が電子によって電荷がチャージされ静電反発で散乱しないようにするために、配置部60の少なくとも処理対象物Oと接触する部分(配置部60の上側の表面SF)をアースして、磁力線MLを形成しない状態として処理対象物Oである無水塩化マグネシウム(MgCl)にマイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを照射することも可能である。
【0109】
なお、このときにも、処理対象物Oが100℃を超える温度にならないように、配置部60の処理対象物Oと接触する部分(配置部60の上側の表面SF)の温度が保たれているので、処理対象物Oが所定の温度範囲(100℃未満の温度範囲)に保たれた状態でマイクロ波表面波水素プラズマの照射が行われることになる。
【0110】
さらに、マイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを照射する場合には、処理対象物Oである微粒化状態の無水塩化マグネシウム(MgCl)が磁力線MLを形成した領域内に配置されている方が効率がよいと考えられるため、配置部60の設計を処理対象物Oと接触する部分(配置部60の上側の表面SF)が磁力線MLを形成した領域内に位置するようにしてもよい。
【0111】
なお、本実施形態では、プラズマ照射装置1を用いて、処理対象物Oを無水塩化マグネシウム等の無水ハロゲン化マグネシウムとして、その処理対象物Oにマイクロ波表面波プラズマ化するための気体に水素を用いてマイクロ波表面波水素プラズマを照射し、水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を得るマグネシウム生成物の製造方法を例にして説明したが、低温処理が求められるものがこれに限定されるものではない。
【0112】
例えば、処理対象物Oを無水塩化マグネシウム等の無水ハロゲン化マグネシウムとして、その処理対象物Oにマイクロ波表面波プラズマ化するための気体に水素(H)と窒素(N)の混合気体を用いてマイクロ波表面波水素窒素プラズマを照射すれば、生成物として窒化マグネシウム(Mg)を製造することができる。
【0113】
この場合も、処理対象物Oが所定の温度範囲(所定の低温である温度範囲)に保たれた状態でマイクロ波表面波水素プラズマの照射が行われることが好ましい。
【0114】
(第5実施形態)
次に、本発明に係る第5実施形態のプラズマ照射装置1について説明する。
図6は、本発明に係る第5実施形態のプラズマ照射装置1を説明するための図である。
【0115】
第5実施形態のプラズマ照射装置1は、例えば、第4実施形態で説明した処理対象物Oを無水塩化マグネシウム等の無水ハロゲン化マグネシウムとして、その処理対象物Oにマイクロ波表面波プラズマ化するための気体に水素を用いてマイクロ波表面波水素プラズマを照射し、水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を得る処理を効率化するための構成が加わったものになっている。
【0116】
そのために、図6に示すように、配置部60が駆動ローラR1と従動ローラR2の間に橋渡しされたベルトで形成されており、処理対象物Oである無水塩化マグネシウム等の無水ハロゲン化マグネシウムを供給する原料供給部70から配置部60上に供給された処理対象物Oが、順次、マイクロ波表面波水素プラズマの照射される位置に運搬されていくようになっている。
【0117】
そして、マイクロ波表面波水素プラズマによって還元処理された後の水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物は、更に、回収室3側に運搬されていき、回収室3内に蓄積される。
【0118】
この回収室3は、開閉扉3Aで反応室2と連通可能になっており、水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物が一定量蓄積されるまでは、開閉扉3Aが開いた状態に制御され、ベルトで形成された配置部60の終端側から落下する水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を受け入れるようになっている。
なお、開閉扉3Aの直上の位置には、ベルトで形成された配置部60の表面に接触するように設けられ、自重で落下しなかった水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を回収室3に落下させるための刷毛Hも設けられている。
【0119】
そして、一定量の水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物が蓄積されると、開閉扉3Aが閉じて、回収室3内を大気圧の状態まで昇圧するための気体が供給されるように気体供給路の電磁弁V3が開の状態になる。
なお、この気体供給路から供給される気体は、露点の低い気体が供給される。
【0120】
このように、回収室3内の圧力が大気圧の状態にされた後、回収室3に設けられた取出し作業用の取出扉3Bを開けて、蓄積した水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物が回収される。
【0121】
水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を回収した後には、再び、取出扉3Bを閉めて、回収室3内の圧力を反応室2と同じ圧力にした後、先ほどと、同様に、開閉扉3Aが開いた状態となる。
【0122】
このために、回収室3には、途中に排気制御弁53が設けられ、排気管50に合流する排気管53Aが繋がっている。
なお、図示を省略しているが、プラズマ照射装置1は、回収室3内の圧力を測定する圧力計を備えており、その圧力計の測定結果が反応室2内の圧力とほぼ同じ圧力になるように排気制御弁53が制御される。
【0123】
一方、原料供給部70側にも予備室4が設けられており、予備室4内には、原料供給部70に処理対象物Oである無水塩化マグネシウム等の無水ハロゲン化マグネシウムを供給する予備原料供給部71が設けられている。
【0124】
そして、予備原料供給部71と原料供給部70の間の位置には、予備室4と反応室2とを仕切る仕切扉4Aが設けられており、この仕切扉4Aが開くことで、予備室4と反応室2とが連通した状態となり、予備原料供給部71から原料供給部70に処理対象物Oである無水塩化マグネシウム等の無水ハロゲン化マグネシウムを供給することができるようになっている。
【0125】
また、予備室4には、予備室4内を大気圧の状態まで昇圧するための気体が供給されるように気体供給路が接続されており、仕切扉4Aを閉じた状態で、その気体供給路の電磁弁V4を開の状態とすることで予備室4内を大気圧の状態にすることができる。
なお、この気体供給路から供給される気体は、露点の低い気体が供給される。
【0126】
このように予備室4を大気圧の状態とした後、予備原料供給部71に処理対象物Oである無水塩化マグネシウム等の無水ハロゲン化マグネシウムを供給する作業のために予備室4に設けられた供給作業扉4Bを開けて、予備原料供給部71に処理対象物Oである無水塩化マグネシウム等の無水ハロゲン化マグネシウムを新たに供給することができるようになっている。
【0127】
なお、予備室4には、途中に排気制御弁54が設けられ、排気管50に合流する排気管54Aが繋がっているので、予備原料供給部71に処理対象物Oである無水塩化マグネシウム等の無水ハロゲン化マグネシウムを供給する作業を終えて、供給作業扉4Bを閉めた後、再び、排気制御弁54の制御によって、予備室4内の圧力が反応室2と同じ圧力にされる。
そのために、プラズマ照射装置1は、予備室4内の圧力を測定する圧力計も備えており、予備室4内の圧力が反応室2内の圧力とほぼ同じ圧力になるように、排気制御弁54が制御される。
【0128】
そして、本実施形態でも、プラズマ照射装置1は、処理対象物Oを配置する配置部60と、少なくとも配置部60の処理対象物Oと接触する部分の温度を制御する温調手段62と、を備えた温度制御手段TCを備えるものになっている。
【0129】
具体的には、温調手段62は、ベルトで形成された配置部60の裏面(処理対象物Oが配置される面の反対側の面)に接触するように設けられ、熱伝導率の高い材料で形成された温調媒体(本例では、100℃未満の温度に制御された水又は気体等)を内包する温調媒体収容部62Aと、その温調媒体収容部62Aに設けられた供給口INから温調媒体を供給し、排出口OUTから温調媒体を排出させるように温調媒体を循環させる循環装置(図示せず)と、排出口OUTから排出された温調媒体の温度を設定される温度に調節する温調装置(図示せず)と、を備えている。
【0130】
なお、本実施形態でも、循環装置(図示せず)はポンプ等であり、温調装置(図示せず)は熱交換機等である。
ただし、先ほどと同様に、温調媒体が空気であって外気をそのまま利用できる場合には、供給口INに外気を供給するためのポンプが接続され、排出口OUTが大気開放となるようにすればよく、この場合、温調装置は不要である。
【0131】
したがって、本実施形態でも、処理対象物Oが100℃を超える温度にならないように、配置部60の処理対象物Oと接触する部分の温度が保たれているので、処理対象物Oが所定の温度範囲(100℃未満の温度範囲)に保たれた状態でマイクロ波表面波水素プラズマの照射が行われることになる。
【0132】
そして、本実施形態によれば、反応室2を大気開放の状態にせず、処理対象物Oである無水塩化マグネシウム等の無水ハロゲン化マグネシウムの供給と、還元処理後の水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物の回収が行えるため、連続稼働が可能であり、水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を得る処理の効率化ができる。
【0133】
なお、処理対象物Oは、無水塩化マグネシウム等の無水ハロゲン化マグネシウムに限定される必要はなく、原料となる処理対象物Oを還元処理して処理対象物Oと異なる物質を生成するための用いられる原料となる材料であればよい。
【0134】
以上、具体的な実施形態に基づいて、本発明について説明してきたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されるものではない。
上記第3実施形態で、少し触れたように、磁力線MLの形成される領域では、マイクロ波表面波プラズマ中の電子やイオンがトラップされるため、処理対象物Oにマイクロ波表面波プラズマ中の電子、イオン、ラジカル等の全てを照射する場合には処理効率の高い領域となる。
【0135】
したがって、このような領域で処理対象物Oを処理することを他の目的として、処理対象物Oが、少なくとも磁力線MLの形成された領域内に配置できるものとした構成であってもよい。
【0136】
また、上記第4実施形態では、マイクロ波表面波プラズマ化するための気体に水素(H)を用い、マイクロ波表面波水素プラズマを照射して還元処理を行う場合について示したが、マイクロ波表面波プラズマ化するための気体にメタン(CH)を用いたマイクロ波表面波メタンプラズマを照射しても、同様の還元処理が行えると考えられるため、還元処理に用いる気体は水素(H)に限定されるものではない。
【0137】
ただし、酸素(O)が存在すると、還元反応が良好に進まないおそれがあり、また、希ガス(He、Ar等)で還元反応を促進することも困難であることから、還元処理を行う場合、マイクロ波表面波プラズマ化するための気体には、希ガス以外で酸素原子を含まない還元雰囲気を形成することが可能な反応性ガスを用いるのが好ましい。
【0138】
なお、還元処理を行う場合であっても、希ガスを混合することでマイクロ波表面波プラズマの点灯状態を安定化させることができるため、還元反応が低下しない範囲で希ガスを混合するようにしてもよい。
【0139】
さらに、第5実施形態で触れたように、原料となる処理対象物Oを還元処理して処理対象物Oと異なる物質を生成することは、マグネシウムを含む原料を、その原料と異なる物質にする場合に限定されるものではない。
【0140】
一方、マイクロ波表面波プラズマ化するための気体は、マイクロ波表面波プラズマを処理対象物Oに照射して、どのような処理を行いたいのかで選択すればよいため、特段、限定されるものではなく、マイクロ波表面波プラズマ化するための気体として希ガス(HeやAr等)が用いられる場合も、当然ある。
【0141】
このように、本発明は、具体的な実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良を施したものも本発明の技術的範囲に含まれるものであり、そのことは、当業者にとって特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0142】
1 プラズマ照射装置
2 反応室
3 回収室
3A 開閉扉
3B 取出扉
4 予備室
4A 仕切扉
4B 供給作業扉
10 筐体
11 保持部
12 受部
20 マイクロ波発生手段
21 導波管
21A 受入口
21B 放射口
30 供給配管
31 供給量制御手段
32 電磁弁
40 配管
41 圧力計
50、53A、54A 排気管
51 真空ポンプ
52、53、54 排気制御弁
60 配置部
61 棒状部
62 温調手段
62A 温調媒体収容部
70 原料供給部
71 予備原料供給部
H 刷毛
IN 供給口
OUT 排出口
MG 磁力発生手段
ML 磁力線
P 供給配管
R1 駆動ローラ
R2 従動ローラ
SF 表面
TC 温度制御手段
V1、V2、V3、V4 電磁弁
W 誘電体部
O 処理対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6