(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】路面状態分析装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20220323BHJP
G08G 1/13 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
G08G1/00 J
G08G1/13
(21)【出願番号】P 2017116886
(22)【出願日】2017-06-14
【審査請求日】2020-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】麻生 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】永井 利典
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-072926(JP,A)
【文献】特開2017-099607(JP,A)
【文献】特開2005-315675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00
G08G 1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある地点を通過した複数の車両の各々について、前記地点における車両上下方向振動の変位を表す振動データと、前記地点における前記車両の速度データと、前記車両の車重とサスペンション特性とを少なくとも含む車格データとを収集する収集部と、
前記収集部により収集された前記
振動データを所定の基準速度における最大振幅に変換する変換部と、
前記変換部による変換後の前記所定の基準速度における最大振幅の平均値を車格毎の平均最大振幅として求める平均化部と、
車格毎の前記平均値を前記地点における前記
振動データの代表データに加工する正規化部と
を備え、
前記正規化部は、前記平均化部により求められた前記車格毎の平均最大振幅と、当該車格に属する基準車両がある基準段差を前記所定の基準速度で通過した際の車両上下方向振動の最大振幅とに基づいて、前記地点における段差の車格別推定値を前記車格毎に求め、前記車格毎に求められた前記段差の車格別推定値の平均値を前記地点における段差の段差推定値として求めることを特徴とする路面状態分析装置。
【請求項2】
前記変換部は、前記収集部により収集された前記
振動データを有する前記車両の各々について、前記速度データが表す速度における前記振動データの車両上下方向振動の最大振幅を、所定の基準速度における最大振幅に変換するものである、請求項1に記載の路面状態分析装置。
【請求項3】
前記平均化部は、前記収集部により収集された前記車格データが表す車格の各々について、当該車格に属する前記車両の、前記変換部による変換後の前記所定の基準速度における最大振幅の平均値を車格毎の平均最大振幅として求めるものである、請求項1又は2に記載の路面状態分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面状態分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、車両を走行させたときの路面の凹凸状態を、その車両の位置情報および走行車線情報と共に路面情報として記憶する路面情報記憶部と、任意の車両からの要求により、前記路面情報記憶部に記憶された路面情報をその車両に送信する送信手段とを備えた道路情報提供装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ある地点を通過した車両に生じる車両上下方向振動の大きさは、車格によって異なる。車格の異なる複数の車両の振動データを単に収集しただけでは、その地点の路面状態の正確な把握は難しいと考えられる。
【0005】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、ある地点を通過した複数の車両の振動データから、車格を考慮して当該地点の路面状態を分析することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る路面状態分析装置は、ある地点を通過した複数の車両の各々について、前記地点における車両上下方向振動の変位を表す振動データと、前記地点における前記車両の速度データと、前記車両の車重とサスペンション特性とを少なくとも含む車格データとを収集する収集部と、前記収集部により収集された前記振動データを所定の基準速度における最大振幅に変換する変換部と、前記変換部による変換後の前記所定の基準速度における最大振幅の平均値を車格毎の平均最大振幅として求める平均化部と、車格毎の前記平均値を前記地点における前記振動データの代表データに加工する正規化部とを備え、前記正規化部は、前記平均化部により求められた前記車格毎の平均最大振幅と、当該車格に属する基準車両がある基準段差を前記所定の基準速度で通過した際の車両上下方向振動の最大振幅とに基づいて、前記地点における段差の車格別推定値を前記車格毎に求め、前記車格毎に求められた前記段差の車格別推定値の平均値を前記地点における段差の段差推定値として求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ある地点を通過した複数の車両の振動データから、車格を考慮して当該地点の路面状態を分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】振動の時間的変化を示す波形の説明図である。
【
図8】平均化及び正規化のイメージを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0010】
図1に示すように、路面状態分析システム1は、第1の車両2及び第2の車両3と、両車両とネットワーク4を通して通信可能な路面状態分析装置5とを備えている。
【0011】
[第1の車両]
図2に示すように、第1の車両2は、振動検出部21と速度センサ22と車両位置取得部23と車格データ記憶部24と送信部25とを備えている。
【0012】
振動検出部21は、第1の車両2の車両上下方向の振動を検出し、この振動による変位の時間的変化を表す振動データを生成する。この振動検出部の具体例として、サスペンションに加わる荷重を検出する荷重センサと、エアバッグ作動用の加速度センサとが挙げられる。
【0013】
図3に示すように、矢印Fの方向に進む第1の車両2が路面上のある地点Pを通過するとする。地点Pには、第1の隆起部61と第2の隆起部62とがある。第1の車両2から見て、第2の隆起部62は第1の隆起部61よりも前方にある。このような隆起部の一例として、スピードブレーカーが挙げられる。このスピードブレーカーは減速帯とも呼ばれる。
【0014】
地点Pを通過した際に振動検出部21により取得される振動データの例を
図4に示す。同図において、横軸は時間を表し、縦軸は変位を表す。第1の車両2が第1の隆起部61を通過すると、符号71に示す正のピークと、それに続く符号72に示す負のピークが生じる。続いて、第1の車両2が第2の隆起部62を通過すると、符号73に示す正のピークと、それに続く符号74に示す負のピークが生じる。このように、1つの隆起部を通過する場合、変位に関して正のピークと、それに続く負のピークが生じる。
【0015】
速度センサ22は、地点Pにおける第1の車両2の速度を検出し、その速度を表す速度データを生成する。
【0016】
車両位置取得部23は、振動データ及び速度データと関連付けて、第1の車両2の位置データを取得する。本実施形態において、車両位置取得部23は地点Pを表す位置データを取得する。この車両位置取得部の具体例として、GPS受信機が挙げられる。
【0017】
車格データ記憶部24には、第1の車両2の車格を表す車格データが記憶されている。車格とは車両の格である。例えば、小型車両、中型車両、大型車両という3つの車格を車重によって定め、各車両に格付けをすることができる。第1の車両2が小型車両という車格に格付けされる場合、車格データ記憶部24には「小型車両」という車格を表す車格データが記憶される。
【0018】
車格によって、同じ地点を通過した車両に生じる振動の大きさが異なる。例えば、車重が軽く、安価なサスペンションを備えた小型車両が路面上のある隆起部を通過したときは、軽量ゆえサスペンションに加わる荷重は小さいが、車両上下方向の振動(又はその振幅)は比較的大きい。これに対し、重量のある高価なサスペンションを備えた中型車両又は大型車両が同じ隆起部を通過したときは、サスペンションに加わる荷重は大きいが、車両上下方向の振動(又はその振幅)は比較的小さい。
【0019】
送信部25は、振動検出部21と速度センサ22と車両位置取得部23と車格データ記憶部24とに接続される。送信部25は、振動検出部21により得られた振動データと、速度センサ22により得られた速度データと、車両位置取得部23により取得された位置データと、車格データ記憶部24に記憶された車格データとを路面状態分析装置5に送る。
【0020】
[路面状態分析装置]
図5に示すように、路面状態分析装置5は、収集部51と変換部52と平均化部53と正規化部54と送信部55とを備えている。各部の機能は後述する。
【0021】
路面状態分析装置5は、そのハードウェア構成として、各部の機能を実行するように動作可能なプログラム及びデータを格納するメモリと、演算処理を行うプロセッサと、路面状態分析システム内の他の装置と通信するためのインタフェースとを備えている。なお、第1の車両2及び第2の車両3についても同様である。
【0022】
[第2の車両]
図6に示すように、第2の車両3に設けられている路面状態情報提供装置31は、路面状態分析装置5から送信されたデータを受信する受信部310を備えている。詳細は後述する。
【0023】
[路面状態分析装置が行う処理]
以下、路面状態分析装置5が行う処理を説明する。まず、収集部51は、第1の車両2内の送信部25から送信された第1の車両2の位置データと、該位置データが表す地点における第1の車両2の速度データ及び振動データと、第1の車両2の車格データとを受信する。収集部51は、第1の車両2及び第2の車両3のいずれでもない他の車両からも、各車両の位置データと該位置データが表す地点における速度データ及び振動データと各車両の車格データとを受信する。
【0024】
以下に述べる処理は、収集部51によりデータが収集された車両のうち、地点Pを表す位置データを有する車両について行われる。
【0025】
変換部52は、地点Pを通過した各車両について、当該車両の地点Pでの速度における車両上下方向振動の最大振幅(例えば、
図4の最大振幅A
max)を、所定の基準速度における最大振幅に変換する。所定の基準速度は、例えば時速40kmである。
【0026】
変換部による変換は、車両によって異なり得る地点Pにおける速度を考慮するためのものである。速度を考慮する一例として、波形の横軸は時間を同じにする変換をするから、低速領域で同じ段差を通過する波形の変換では、波形は基準速度との比に比例して大きく変換されると考える。なお、後述する平均化については、車速と比例のほか、車速の2乗に比例の関係も考慮する場合がある。
【0027】
次に、平均化部53は、車格データが表す車格毎に平均化を行う。例えば、先に述べたように、車格として小型車両、中型車両、大型車両という3つの車格が定められている場合、小型車両、中型車両、大型車両という3つの車格の各々において平均化を行う。
【0028】
平均化部53は、小型車両という車格に属する車両の、変換部52による変換後の前記所定の基準速度における最大振幅の平均値を、小型車両という車格の平均最大振幅として求める。平均化部53は、同様にして、中型車両という車格の平均最大振幅と、大型車両という車格の平均最大振幅とを求める。なお、標準偏差等の考慮で振幅が突出して大きいか又は小さいデータを排除した上で、平均最大振幅を求めることも可能である。
【0029】
平均化部53は、小型車両という車格に属する各車両の上記平均最大振幅を求めた後に、振動を表す波形の各々を個別に分析する場合に、波形全体を変換し、その変換後の最大振幅が平均最大振幅と等しくなるようにすることもできる。平均化部53は、中型車両という車格に属する各車両の振動を表す波形と、大型車両という車格に属する各車両の振動を表す波形とについても同様に変換することができる。さらには、車速を加味して、基準とする速度での最大振幅を求め、これらの最大振幅の平均値を求めることもできる。
【0030】
図7に、小型車両の平均化のイメージを示す。同図(a)~(c)はそれぞれ、車両の速度が低速の場合の波形、中程度の速度の場合の波形、高速の場合の波形を示している。
同図(d)~(f)はそれぞれ、同図(a)~(c)を、前記所定の基準速度に合わせて変換したものである。同図(d)~(f)から平均最大振幅が得られる。同図(g)~(i)はそれぞれ、同図(d)~(f)を、小型車両という車格の平均最大振幅に合わせて変換したものである。
【0031】
続いて、正規化部54は、平均化部53により求められた、小型車両という車格の平均最大振幅(Aとする)と、小型車両という車格に属する基準車両が前記所定の基準速度で、ある基準段差(段差高さの値をHとする)を通過した場合の最大振幅(Bとする)とに基づいて、地点Pにおける段差の推定値(h1とする)を以下のように求める。
h1=H*A/B
この推定値は、小型車両という車格について求められた、地点Pにおける段差の推定値である。
【0032】
同様にして、正規化部54は、平均化部53により求められた、中型車両という車格の平均最大振幅と、中型車両という車格に属する基準車両が前記所定の基準速度で前記基準段差を通過した場合の最大振幅とに基づいて、地点Pにおける段差の推定値h2を求める。この推定値は、中型車両という車格について求められた、地点Pにおける段差の推定値である。
【0033】
同様にして、正規化部54は、平均化部53により求められた、大型車両という車格の平均最大振幅と、大型車両という車格に属する基準車両が前記所定の基準速度で前記基準段差を通過した場合の最大振幅とに基づいて、地点Pにおける段差の推定値h3を求める。この推定値は、大型車両という車格について求められた、地点Pにおける段差の推定値である。
【0034】
ここで、小型車両という車格に属する基準車両は、小型車両という車格に属する任意の車両である。同様に、中型車両という車格に属する基準車両は、中型車両という車格に属する任意の車両である。また、大型車両という車格に属する基準車両は、大型車両という車格に属する任意の車両である。
【0035】
推定値h1、h2及びh3はいずれも、車格毎に求められた地点Pにおける段差の車格別推定値である。正規化部54は、推定値h1、h2及びh3の平均値haを、地点Pにおける段差の推定値として求める。この推定値haは、第1の車両2を含み、かつ第2の車両3を含まない複数の車両により得られたデータから求められたものである。この推定値haは、第1の車両2を含み、かつ第2の車両3を含まない複数の車両により得られたデータの代表データと呼ぶこともできる。
【0036】
送信部55は、正規化部54により求められた、地点Pにおける段差の推定値haを第2の車両3に送る。
【0037】
これまでに述べた平均化及び正規化のイメージを
図8に示す。
同図(a)~(c)は小型車両という車格に属する車両の、3つの波形の例である。
同図(d)~(f)は中型車両という車格に属する車両の、3つの波形の例である。
同図(g)~(i)は大型車両という車格に属する車両の、3つの波形の例である。
同図(j)は、同図(a)~(c)から得られる、平均化後の波形である。
同図(k)は、同図(d)~(f)から得られる、平均化後の波形である。
同図(l)は、同図(g)~(i)から得られる、平均化後の波形である。
同図(m)は、同図(j)~(l)から得られる、正規化後の波形である。
正規化は、小型車両という車格に関する同図(j)と、中型車両という車格に関する同図(k)と、大型車両という車格に関する同図(l)とを総合することである。具体的には、同図(j)から得られる小型車両の平均最大振幅に、同図(k)から得られる中型車両の平均最大振幅と、同図(l)から得られる大型車両の平均最大振幅とを合わせることを正規化と呼ぶことができる。あるいは、同図(j)から得られる小型車両の平均最大振幅と、同図(k)から得られる中型車両の平均最大振幅と、同図(l)から得られる大型車両の平均最大振幅とを足して3で割ることを正規化と呼ぶこともできる。
【0038】
[第2の車両が行う処理]
路面状態情報提供装置31内の受信部310は、路面状態分析装置5から送られた、地点Pにおける段差の推定値haを受信する。
【0039】
路面状態情報提供装置31はさらに、第2の車両3のドライバーに経路を案内するナビゲーション部320を備えている(
図6)。受信部310が受信した推定値h
aに基づいて、ナビゲーション部320は、第2の車両3のドライバーに、地点Pにおける段差の凹凸情報を伝える。
【0040】
上記のような路面状態分析システムによれば、ある地点を通過した複数の車両の振動データから、車格を考慮して当該地点の路面状態を分析することができる。その分析結果は、路面の凹凸を加味したカーナビゲーションシステムに活用することができる。
【0041】
前述した路面状態分析システムの機能的構成及び物理的構成は、前述の態様に限られるものではなく、例えば、各機能や物理資源を統合して実装したり、逆に、さらに分散して実装したりすることも可能である。
【0042】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 路面状態分析システム
2 第1の車両
21 振動検出部
22 速度センサ
23 車両位置取得部
24 車格データ記憶部
25 送信部
3 第2の車両
31 路面状態情報提供装置
310 受信部
320 ナビゲーション部
4 ネットワーク
5 路面状態分析装置
51 収集部
52 変換部
53 平均化部
54 正規化部
55 送信部