(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】可変ノズルターボチャージャ
(51)【国際特許分類】
F02B 37/24 20060101AFI20220323BHJP
F01D 17/16 20060101ALI20220323BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20220323BHJP
F01D 11/00 20060101ALI20220323BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
F02B37/24
F01D17/16 A
F01D17/16 F
F01D25/00 M
F01D11/00
F16J15/16 B
(21)【出願番号】P 2017173694
(22)【出願日】2017-09-11
【審査請求日】2020-08-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】大蘆 嘉郎
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-014843(JP,U)
【文献】実開昭62-098702(JP,U)
【文献】実開昭61-192521(JP,U)
【文献】特開2015-194092(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052231(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/24
F01D 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンスクロール部の排気をタービンに導入するスクロール流路を画定するノズルリングと、前記スクロール流路に配置された可変ノズルと、前記可変ノズルの回転軸であるノズル軸と、を備え、前記ノズル軸が前記ノズルリングに設けられたノズル軸孔に挿通された、可変ノズルターボチャージャにおいて、
前記ノズル軸孔は、前記ノズル軸を軸支する部分である軸支孔部と、前記ノズル軸孔のうち前記スクロール流路の側の端部に配置されて、前記軸支孔部よりも径の大きい大径孔部と、前記軸支孔部および前記大径孔部の境界部分で前記ノズル軸孔の軸方向に対向する段差部と、を有し、
前記ノズル軸には、前記ノズル軸の径方向で外側に鍔状に突出して前記可変ノズルに隣接した鍔部が設けられ、
前記大径孔部は、
その径が前記顎部の径よりも大きく、かつ、前記可変ノズルの長手方向の長さよりも短く、前記鍔部のみを収納し、
前記大径孔部に収容された前記鍔部によって、前記大径孔部の内周面および前記内周面に対向する前記鍔部の外周面の隙間と、前記段差部の面およびその面に対向する前記鍔部の端面の隙間と、を非接触でシールするラビリンスシール構造が形成されていることを特徴とする可変ノズルターボチャージャ。
【請求項2】
前記鍔部は、前記スクロール流路にはみ出さないように、前記大径孔部に収容されている請求項1記載の可変ノズルターボチャージャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可変ノズルターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの排気のエネルギを利用して吸気を過給するターボチャージャとして、可変ノズルターボチャージャが知られている(例えば特許文献1参照)。具体的には、特許文献1には、タービンスクロール部の排気をタービンに導入するスクロール流路を画定するノズルリングと、このスクロール流路に配置された可変ノズル(ノズルベーン)と、この可変ノズルの回転軸であるノズル軸と、を備える可変ノズルターボチャージャ(可変容量型過給機)が開示されている。なお、この可変ノズルのノズル軸は、ノズルリングに設けられたノズル軸孔に挿通されており、このノズル軸孔によって回転可能に軸支されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような可変ノズルターボチャージャにおいて、ノズル軸孔の径はノズル軸の径よりも大きいので、ノズル軸孔の内周面と、この内周面に対向するノズル軸の外周面との間には隙間が存在する。このため、スクロール流路の排気の一部が、この隙間にリークする可能性がある。この場合、タービンに流入する排気流量が減少するので、可変ノズルターボチャージャのタービン効率が低下してしまう。
【0005】
本発明は、上記のことを鑑みてなされたものであり、その目的は、タービン効率を向上させることができる可変ノズルターボチャージャを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明に係る可変ノズルターボチャージャは、タービンスクロール部の排気をタービンに導入するスクロール流路を画定するノズルリングと、前記スクロール流路に配置された可変ノズルと、前記可変ノズルの回転軸であるノズル軸と、を備え、前記ノズル軸が前記ノズルリングに設けられたノズル軸孔に挿通された、可変ノズルターボチャージャにおいて、前記ノズル軸孔は、前記ノズル軸を軸支する部分である軸支孔部と、前記ノズル軸孔のうち前記スクロール流路の側の端部に配置されて、前記軸支孔部よりも径の大きい大径孔部と、前記軸支孔部および前記大径孔部の境界部分で前記ノズル軸孔の軸方向に対向する段差部と、を有し、前記ノズル軸には、前記ノズル軸の径方向で外側に鍔状に突出して前記可変ノズルに隣接した鍔部が設けられ、前記大径孔部は、前記大径孔部の径が前記顎部の径よりも大きく、かつ、前記可変ノズルの長手方向の長さよりも短く、前記鍔部のみを収納し、前記大径孔部に収容された前記鍔部によって、前記大径孔部の内周面および前記内周面に対向する前記鍔部の外周面の隙間と、前記段差部の面およびその面に対向する前記鍔部の端面の隙間と、を非接触でシールするラビリンスシール構造が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ノズルリングの大径孔部に収容された鍔部によって、スクロール流路の排気がノズル軸孔の軸支孔部の内周面とこの内周面に対向するノズル軸の外周面との隙間にリークすることを抑制することができる。したがって、タービン効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る可変ノズルターボチャージャの構成を模式的に示す模式的断面図である。
【
図2】
図2(a)~
図2(c)は実施形態に係る可変ノズルユニットを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に係る可変ノズルターボチャージャ1について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面に関しては、構成が分かり易いように模式的に図示されており、図面上の各部位の寸法比は必ずしも実物とは一致しない。
図1は、本実施形態に係る可変ノズルターボチャージャ1の構成を模式的に示す模式的断面図である。なお、
図1は、可変ノズルターボチャージャ1のうちターボ軸線6(これは後述するターボ軸4の軸線である)よりも一方の側が模式的に断面図示されている。また、
図1には、参考用としてX-Y-Zの直交座標が設けられている。このY軸はターボ軸線6に平行な軸である。
【0010】
可変ノズルターボチャージャ1は、排気管や吸気管等の配管を介して、車両のエンジンに接続されている。このエンジンの一例として、本実施形態では、ディーゼルエンジンを用いている。可変ノズルターボチャージャ1は、タービン2と、コンプレッサ3と、ターボ軸4と、ターボ軸受5と、タービンハウジング7と、コンプレッサハウジング8と、軸受ハウジング9と、可変ノズルユニット20とを備えている。
【0011】
タービン2及びコンプレッサ3は、ターボ軸4によって接続されている。タービン2は、複数枚のタービン翼を有するタービン翼車によって構成されている。コンプレッサ3は、複数枚のコンプレッサ翼を有するコンプレッサ翼車によって構成されている。ターボ軸受5は、ターボ軸4を軸支する軸受であり、軸受ハウジング9に収容されている。
【0012】
タービンハウジング7は、その内部にタービン2を収容している。コンプレッサハウジング8は、その内部にコンプレッサ3を収容している。タービンハウジング7には、タービンスクロール部10及び排気出口11が設けられている。コンプレッサハウジング8には、吸気入口12及びコンプレッサスクロール部13が設けられている。エンジンから排出された排気(E)は、タービンスクロール部10に流入し、次いで、タービン2に当接し、その後、排気出口11から排出される。コンプレッサハウジング8の吸気入口12には、可変ノズルターボチャージャ1よりも上流側の吸気(A)が流入する。
【0013】
タービン2は、タービンスクロール部10から流入した排気のエネルギを受けて、ターボ軸線6を回転中心として回転する。タービン2が回転すると、ターボ軸4を介してタービン2に接続されたコンプレッサ3も回転する。コンプレッサ3が回転することにより、コンプレッサ3は吸気を過給する。この過給された吸気はコンプレッサスクロール部13から排出されてエンジンに供給される。このようにして可変ノズルターボチャージャ1は、排気のエネルギを利用して吸気を過給している。
【0014】
続いて、可変ノズルユニット20について説明する。
図2(a)は、可変ノズルターボチャージャ1の可変ノズルユニット20の一部を拡大して模式的に示す模式的拡大断面図である。
図1及び
図2(a)を参照して、可変ノズルユニット20は、一対のノズルリング(第1ノズルリング21及び第2ノズルリング22)と、可変ノズル30と、ノズル軸40と、可変ノズル駆動機構80と、を備えている。
【0015】
第1ノズルリング21及び第2ノズルリング22は、それぞれ、ターボ軸線6を中心軸とするリング状の部材によって構成されている。具体的には、第1ノズルリング21及び第2ノズルリング22は、タービン2の周囲を囲むようなリング状の部材によって構成されている。
【0016】
第1ノズルリング21の第2ノズルリング22に対向する対向面と、第2ノズルリング22の第1ノズルリング21に対向する対向面との間には、スクロール流路23が画定されている。このスクロール流路23は、タービンスクロール部10の排気をタービン2に導入するための内部排気流路である。
【0017】
可変ノズル30は、タービンスクロール部10に配置されている。なお、
図1や
図2には、1個の可変ノズル30のみが図示されているが、実際には、可変ノズルユニット20は複数個の可変ノズル30を備えている。具体的には、可変ノズル30は、隣接する可変ノズル30との間に所定間隔を有しつつ、ターボ軸線6を中心軸として円周状に複数個、配置されている。
【0018】
ノズル軸40は、可変ノズル30の回転軸である。なお、
図2(a)には、ノズル軸40の軸線であるノズル軸線41が図示されている。各々の可変ノズル30は、ノズル軸線41を回転中心として回転する。なお、本実施形態に係るノズル軸線41は、X-Y-Zの直交座標のY軸に平行な軸線となっている。
【0019】
図1を参照して、可変ノズル駆動機構80は、可変ノズル30を回転させるための回転駆動機構である(なお、
図1において、可変ノズル駆動機構80の各構成部材の図示は省略されている)。可変ノズル駆動機構80は、軸受ハウジング9に設けられた可変ノズル駆動室14に配置されている。可変ノズル駆動機構80は、ノズル軸40のスクロール流路23の側とは反対側の端部(Y方向側の端部)に接続されており、ノズル軸40を回転させることで、可変ノズル30を回転させる。なお、この可変ノズル駆動機構80は、例えば特許文献1に例示されているような公知の可変ノズルターボチャージャに用いられている、公知の可変ノズル駆動機構を適用することができるので、この詳細な構成の説明は省略する。
【0020】
可変ノズル駆動機構80によって各々の可変ノズル30が回転することで、互いに隣接する可変ノズル30同士の間隔(この間隔は、一般に、ベーン間隔と称されている)が変化する。このベーン間隔が狭くなった場合、スクロール流路23の排気が絞られるので、スクロール流路23を通過してタービン2に流入する排気流速が増大する。この結果、タービン2の回転速度を増大させることができる。このように、可変ノズルターボチャージャ1は、可変ノズル30の回転角度を調整することで、タービン2の回転数を調整することができる。
【0021】
図2(b)は、
図2(a)の可変ノズルユニット20のうち第1ノズルリング21及び第2ノズルリング22を抜粋した模式的拡大断面図である。
図2(c)は、
図2(a)の可変ノズルユニット20のうち、可変ノズル30及びノズル軸40を抜粋した模式的拡大断面図である。
図2(a)及び
図2(c)に示すように、ノズル軸40には、ノズル軸40の径方向で外側に鍔状に突出した鍔部50が設けられている。すなわち、本実施形態に係るノズル軸40は、ノズル軸線41に沿って一様な外径を有する軸本体部42と、この軸本体部42よりも径の大きい鍔部50とを有している。
【0022】
具体的には、本実施形態に係る鍔部50は、軸本体部42の可変ノズル30が配置されている箇所よりもY方向側の箇所に設けられており、軸本体部42の周方向にリング状に形成されている。また、鍔部50は、後述するノズル軸孔60の大径孔部62の径よりも小径であり、この大径孔部62に収容されている。
【0023】
図2(b)に示すように、第1ノズルリング21には、ノズル軸孔60が設けられている。本実施形態に係るノズル軸孔60は、ノズル軸線41の方向(Y軸に沿った方向)に
貫通した貫通孔によって構成されている。前述したノズル軸40は、このノズル軸孔60に挿通されている。
【0024】
具体的には、ノズル軸孔60は、ノズル軸40を回転可能に軸支する軸支孔部61と、この軸支孔部61よりも径の大きい大径孔部62と、を有している。大径孔部62は、ノズル軸孔60のうちスクロール流路23の側の端部(ノズル軸孔60の-Y方向側の端部)に設けられている。軸支孔部61は、大径孔部62のY方向側の端部に接続されている。これにより、ノズル軸孔60は、大径孔部62と軸支孔部61との境界部分に段差部63を有している。
【0025】
軸支孔部61の径は、ノズル軸40の軸本体部42の径よりも僅かに大きく設定されている。これにより、ノズル軸40が回転する場合には、ノズル軸40の軸本体部42の外周面43が軸支孔部61の内周面64に摺動しながら回転する。
【0026】
大径孔部62の径は、鍔部50の外径よりも大きく設定されている。そして、鍔部50は、スクロール流路23にはみ出さないように、大径孔部62に収容されている。具体的には、本実施形態に係る鍔部50の厚み(ノズル軸線41の方向の長さ)は、大径孔部62の厚み以下に設定されており、これにより、鍔部50の-Y方向側の端面はスクロール流路23にはみ出さないように(換言すると、第1ノズルリング21の-Y方向側の端面よりも-Y方向側に突出しないように)設定されている。
【0027】
そして、この大径孔部62に収容された鍔部50によって、ノズル軸孔60の軸支孔部61の内周面64とこの内周面64に対向するノズル軸40の外周面43との隙間をシールするシール構造が形成されている。
【0028】
具体的には、本実施形態に係る大径孔部62の内周面65と鍔部50の外周面51との隙間、及び、段差部63(大径孔部62の-Y方向側の面)と鍔部50のY方向側の端面52との隙間(以下、これらの隙間を「大径孔部-鍔部間の隙間」と称する)は、スクロール流路23の排気がこの大径孔部-鍔部間の隙間を通過し難いように、微小に設定されている。これにより、スクロール流路23の排気がこの大径孔部-鍔部間の隙間を通過しようとする場合、大きな流路抵抗が生じることになる。このため、この大径孔部-鍔部間の隙間によるラビリンス効果によって、スクロール流路23の排気が、この大径孔部-鍔部間の隙間を通過して、ノズル軸孔60の軸支孔部61の内周面64と内周面64に対向するノズル軸40の軸本体部42の外周面43との隙間にリークすることが抑制されている。
【0029】
すなわち、本実施形態によれば、大径孔部62に収容された鍔部50によって、ラビリンスシール構造が形成されており、これにより、スクロール流路23の排気がノズル軸孔60の軸支孔部61の内周面64と内周面64に対向するノズル軸40の外周面43との隙間にリークすることが抑制されている。
【0030】
なお、
図2(a)及び
図2(c)に示すように、本実施形態に係るノズル軸40の軸本体部42は、可変ノズル30よりもさらに-Y方向側に突出した構造になっている。このため、
図2(b)に示すように、本実施形態に係る第2ノズルリング22には、軸本体部42の可変ノズル30よりも-Y方向側に突出した部位が挿入されるノズル軸孔70が形成されている。仮に、軸本体部42が可変ノズル30よりも-Y方向側に突出した部位を有さない構造の場合には、第2ノズルリング22のノズル軸孔70は不要である。
【0031】
続いて、本実施形態の作用効果について説明する。まず、比較例として、鍔部50及び大径孔部62を有していない可変ノズルターボチャージャを想定する。この比較例に係る
可変ノズルターボチャージャの場合、スクロール流路の排気の一部が、ノズル軸孔の軸支孔部の内周面とこの内周面に対向するノズル軸の外周面との隙間にリークする可能性がある。この場合、このリークした排気の分だけ、タービンに流入する排気流量が減少するので、比較例に係る可変ノズルターボチャージャのタービン効率は低下してしまう。具体的には比較例の場合、特に低速域におけるタービン効率が低下してしまう。
【0032】
これに対して、本実施形態に係る可変ノズルターボチャージャ1によれば、大径孔部62に収容された鍔部50によって、スクロール流路23の排気がノズル軸孔60の軸支孔部61の内周面64と内周面64に対向するノズル軸40の外周面43との隙間にリークすることを抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、タービン効率を向上させることができる。特に、低速域におけるタービン効率を向上させることができる。
【0033】
また、鍔部50が、スクロール流路23にはみ出さないように大径孔部62に収容されているので、スクロール流路23にはみ出した鍔部50によってスクロール流路23の排気の流動が阻害されることも抑制されている。これにより、タービン効率を効果的に向上させることができる。
【0034】
以上本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 可変ノズルターボチャージャ
2 タービン
3 コンプレッサ
10 タービンスクロール部
20 可変ノズルユニット
21 第1ノズルリング
22 第2ノズルリング
23 スクロール流路
30 可変ノズル
40 ノズル軸
42 軸本体部
43 外周面
50 鍔部
60 ノズル軸孔
61 軸支孔部
62 大径孔部
63 段差部
64 内周面